説明

送りネジ式手動ステージ

【課題】送りネジ式手動ステージ用の簡易で機能的なストッパ機能を有し、小型の手動ステージでありながら摺動の精度が高く、摺動部品の任意の位置でハンドルの回転を簡易に固定できる送りネジ式手動ステージを提供する。
【解決手段】ハンドル4の回転操作部6と、環状のクランプ部材9と、クランプ部材9の内側の雌ネジ孔12aと係合する雄ネジ部11と、第1第1ブロック5aに係止して雄ネジ棒7のハンドル方向への移動を拘束する係止部13とを備え、クランプ部材9の雌ネジ孔12aが雄ネジ部11から離間するようにハンドル4の回転操作部6を回転させ、クランプ部材9を第1第1ブロック5aに圧着させて雄ネジ棒7の回転を拘束し、摺動部品2を固定部品3に対して任意の位置で固定させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送りネジ式手動ステージに係り、特に、精密機器が取付けられる摺動部品に設けられた雌ネジ筒と、土台に接続される固定部品に固定されたブロックを貫通する雄ネジ棒とが係合され、ハンドル操作により雄ネジ棒を回転させて固定部品に対して摺動部品を摺動させ、取り付けられた精密機器の位置調整を行う送りネジ式手動ステージに関する。
【背景技術】
【0002】
精密機器の位置調整を行う手動ステージには、その駆動機構により、主としてラックアンドピニオン式手動ステージ、及び送りネジ式手動ステージがあり、それぞれ固定部品に対して摺動部品を駆動して摺動させ、取り付けられた精密機器の位置調整を行う機構を有する。また、所望の位置で摺動部品の摺動を固定させ、取り付けられた精密機器の位置設定を行うストッパ機構を有する。
【0003】
特許文献1の図2を参照してラックアンドピニオン式手動ステージの駆動機構を説明する。ラックアンドピニオンによる駆動機構は、摺動部品に固定されたラック(特許文献1図2符号13)と、ハンドルと回転軸が共通するように接続されて固定部品により支持されたピニオンギア(同符号14)とが係合され、ハンドル(同符号9)を回転するとピニオンギアが連動して回転してラック上を移動し、摺動部品が固定部品に対して摺動する駆動機構である。すなわち、ハンドルは、摺動部品の摺動方向に対して交差する方向に取り付けられる。このラックアンドピニオン式による手動ステージは、後述するアリ溝式ステージという摺動機構と組み合わされ、ハンドル1回転により約18mm移動し、素早く大きい動きが必要な場合に適した駆動機構である。
【0004】
特許文献1の図22を参照して送りネジ式手動ステージの駆動機構を説明する。送りネジ式による駆動機構は、精密機器が取付けられる摺動部品の裏面に接続される雌ネジ筒(特許文献1図22符号306)と、土台に接続される固定部品に固定されたブロックを貫通する雄ネジ棒(同符号307)とが係合され、ハンドル(同符号309)の操作により雄ネジ棒を回転させて固定部品に対して摺動部品を摺動させる摺動機構である。すなわち、ハンドルは、摺動部品の摺動方向と同じ方向に取り付けられる。この送りネジ式による手動ステージは、後述するアリ溝式ステージという摺動機構と組み合わされ、ハンドル1回転により約4.2mm移動し、耐荷重性が要求され微細な調整が必要な場合に適した駆動機構である。
【0005】
特許文献2の図1を参照してアリ溝による摺動機構を説明する。ラックアンドピニオン式手動ステージ、及び送りネジ式手動ステージでは、固定部品に対して摺動部品を滑らかに摺動させる摺動機構としてアリ溝式手動ステージを用いられるのが一般的である。アリ溝式手動ステージとは、台形状に窪んだアリ溝(特許文献1図1符号3)を有する固定部品と、台形状に突出したアリ(同符号2)を有する摺動部品が嵌合され、摺動部品が固定部品に対して滑らかに摺動する手動ステージである。
【0006】
特許文献2の図3を参照してアリ溝手動ステージにおいて所望の位置で摺動部品の摺動を固定させ、取り付けられた精密機器の位置設定を行うストッパ機構を説明する。固定部品の側面には摺動固定ネジ(特許文献2図3符号10)が取付けられ、固定部品のアリ溝の側部に逆三角形の突出部(同符号31)が形成されるように溝部32が設けられる。そして、摺動固定ネジの先端部である摺動固定ネジ先端部を溝部から突出部に突き当てて突出部を内側に傾斜させて固定部品のアリ溝と嵌合する摺動部品のアリを押さえ込ませ、固定部品に対する摺動部品の位置を固定する。
【0007】
一方、送りネジ式手動ステージには、「押しねじ型」と称される駆動機構及び摺動機構を用いた簡易手動ステージがある。この送りネジ式手動ステージは、小型であり摺動部品が摺動する範囲も狭いため一般的な手動ステージに用いられるアリ溝式摺動機構は採用されず、「押しねじ型」と称される簡易な駆動機構により位置調整を行う。そのため摺動部品の摺動自体の精度が低く、一般的な手動ステージに用いられるような精密な位置決めには適さない。すなわち、機能性や精度のレベルを落とした手動ステージといえる。
【0008】
図10に、上述した従来の「押しねじ型」による送りネジ式手動ステージの実施例を示す。押しねじ型送りネジ式手動ステージ600は、精密機器(図示せず)が精密機器取付孔106を介して取付けられる摺動部品102が、土台(図示せず)が土台取付孔117に固定される固定部品103に対して押しねじ122という駆動機構により駆動する。すなわち、固定部品103の両端にはそれぞれ第1ブロック105a、及び第2ブロック105bが取り付けられ、第1ブロック105aと第2ブロック105bの間には2本の丸棒121が摺動部品102を貫通して架け渡され、ハンドルの104と反対側の丸棒121にはバネ124が設けられている。そして、摺動部品102は押しねじ122が接触している。
【0009】
「押しねじ型」による送りネジ式手動ステージ600の駆動方法を説明する。ハンドル104を時計回りに回転すると押しねじ122が第1ブロック105aに係合して摺動部品102を図中の矢印(Y)の方向に押しだすように移動させる。一方、ハンドル104を反時計回りに回転すると、第1ブロック105aに係合する押しねじ122が摺動部品102を引き込み、摺動部品102はバネ124に押されて図中の矢印(Y)と反対方向に戻される。このように、ハンドル104の回転により摺動部品102が固定部品103に対して摺動する。
【0010】
また、図10に、送りネジ式手動ステージ600におけるストッパ機構の実施例を示す。送りネジ式手動ステージ600は、ハンドル104の回転操作により摺動部品102を摺動させるが、摺動部品102を任意の位置で固定させる必要がある。しかし、送りネジ式手動ステージ600は小型であるため、一般的な手動ステージに用いられる、摺動部品102を任意の位置で固定させる機構を組み込むことは難しい。そこで、図10に示すように、第2ブロック105bの中央を貫通して第2ブロック105bに係合するクランプボルト123を設け、このクランプボルト123を押すことで摺動部品102の矢印(Y)方向の移動を止める。このストッパ機構により、摺動部品102は、ハンドル104を回転させても移動が拘束される。
【0011】
さらに、特許文献3には、手動ステージの使い勝手を改善した多機能送りネジ式アリ溝ステージが開示されている。この多機能送りネジ式アリ溝ステージは、両端部にハンドルとの連結部を有する雄ネジ棒と、固定部品の両側にそれぞれ設けられ、雄ネジ棒を回転自在に保持する第1支持台及び第2支持台と、連結部を介して雄ネジ棒と着脱自在に連結して雄ネジ棒を回転させるハンドルと、を備え、摺動部品は、固定部品と接続する雌ネジ筒が移動して第1支持台及び第2支持台に当接するまで移動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第4606501号
【特許文献2】特許第4505535号
【特許文献3】特許第4512166号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
送りネジ式手動ステージにおいても、摺動部品を固定部品に対して任意の位置で固定するストッパ機能は必須の機能である。しかし、アリ溝式の摺動機構に対して用いられる上述した一般的なストッパ機構は、摺動固定ネジを締め込むための工具を必要とし、固定部品の左右のアリ溝に摺動固定ネジを締め込むという複雑な操作を要し、簡易で機能的なストッパ機能とはいえないという問題がある。
【0014】
特に、送りネジ式手動ステージについて、従来の「押しねじ型」の送りネジ式手動ステージに代替するような小型ながらより高い機能性や精度を保有する手動ステージが望まれているが、その簡易性に見合った適切なストッパ機能がないという問題がある。
【0015】
本願の目的は、かかる課題を解決し、送りネジ式手動ステージ用の簡易で機能的なストッパ機能を有し、小型の手動ステージでありながら摺動の精度が高く、摺動部品の任意の位置でハンドルの回転を簡易に固定できる送りネジ式手動ステージを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため、本発明に係る送りネジ式手動ステージは、精密機器が取付けられる摺動部品に設けられた雌ネジ筒と、土台に接続される固定部品に固定されたブロックを貫通する雄ネジ棒とが係合され、雄ネジ棒に連結されたハンドルを回転させて固定部品に対して摺動部品を摺動させ、取り付けられた精密機器の位置調整を行う送りネジ式手動ステージにおいて、ハンドルは、ハンドルの回転操作を行う回転操作部と、ブロックと回転操作部の間に挿入される環状のクランプ部材と、クランプ部材の内側の雌ネジ孔と係合する雄ネジ部と、ブロックに係止して雄ネジ棒のハンドル方向への移動を拘束する係止部と、を備え、クランプ部材の雌ネジ孔が雄ネジ部から離間するようにハンドルの回転操作部を回転させ、クランプ部材をブロックに圧着させて雄ネジ棒の回転を拘束し、摺動部品を固定部品に対して任意の位置で固定させることを特徴とする。
【0017】
上記構成により、送りネジ式手動ステージは、摺動部品を固定部品に対して摺動させる駆動機構と、摺動部品を固定部品に対して任意の位置で固定させるストッパ機構とを共にハンドルに持たせることができる。つまり、送りネジ式手動ステージの摺動部品を駆動させる機能と固定させる機能とを同じ軸周りのハンドル回転操作により連続的に行うことができる。すなわち、ハンドルの回転操作部を雄ネジ部に対してクランプ部材の雌ネジ孔が離間するように回転させ、クランプ部材とブロックとを圧着させてクランプ部材の回転を拘束し、摺動部品を固定部品に対して任意の位置で固定させることができ、送りネジ式手動ステージ用の簡易で機能的なストッパ機能が実現する。また、このストッパ機構を小型の手動ステージに採用することで、摺動の精度が高く、摺動部品の任意の位置でハンドルの回転を簡易に固定する送りネジ式手動ステージとすることができる。
【0018】
また、送りネジ式手動ステージは、ハンドルの回転操作部と雄ネジ部とが一体の部品であり、回転操作部には止めネジ孔が設けられ、雄ネジ部は内側に雌ネジ孔を有して雄ネジ棒に連結するハンドル側雄ネジ棒に係合し、止めネジ孔にハンドル側雄ネジ棒の回転を止める止めネジを締め込むことで、ハンドルの回転操作部の回転と雄ネジ棒の回転とを連動させることが好ましい。これにより、ハンドルの回転を固定したり、その固定を解除したりすることが容易にでき、これらの操作は作業者がハンドルを持ちながら工具を用いることなく操作することができる。
【0019】
また、送りネジ式手動ステージは、ブロックとクランプ部材との間には第1のワッシャが挿入され、ブロックのハンドル側端面と、ハンドルの回転操作部のブロック側端面との間隔が、クランプ部材の厚みと第1のワッシャの厚みとの合計の厚みにクリアランスが付加された間隔に設定されることが好ましい。これにより、ブロックとクランプ部材との間の摩擦やこじれによりハンドルが滑らかに回転しなくなるのを防止することができる。また、第1のワッシャ周りにクリアランスを設けることでハンドルの回転操作部の回転と雄ネジ棒の回転とを滑らかに連動させることができる。
【0020】
また、送りネジ式手動ステージは、クランプ部材とハンドルの回転操作部との間には第2のワッシャが挿入され、ブロックのハンドル側端面と、ハンドルの回転操作部のブロック側端面との間隔が、クランプ部材の厚みと第1のワッシャの厚みと第2のワッシャの厚みとの合計の厚みにクリアランスが付加された間隔に設定されることが好ましい。これにより、クランプ部材と回転操作部との間の摩擦やこじれによりハンドルが滑らかに回転しなくなるのを防止することができる。また、第2のワッシャ周りにクリアランスを設けることで、クランプ部材とブロックとを圧着させてクランプ部材の回転を拘束する際に、第1のワッシャ周りのクリアランスを吸収して十分に固定することができる。
【0021】
また、送りネジ式手動ステージは、クランプ部材の雌ネジ孔が雄ネジ部に接近するようにハンドルの回転操作部を回転させることで、クランプ部材とブロックとの圧着を解除させ、雄ネジ棒をハンドルの回転操作に連動させて回転させて固定部品に対して摺動部品を摺動させることが好ましい。これにより、ロックが掛かった状態の送りネジ式手動ステージに対して、回転操作部を逆方向に回転させるだけで容易に摺動部品のロックを解除することができる。このように、送りネジ式手動ステージの摺動部品を固定する機能と固定を解除する機能とを同じ軸周りのハンドル回転操作により簡易に行うことができる。
【0022】
また、送りネジ式手動ステージは、クランプ部材内側に設けられた雌ネジと、雌ネジに係合する雄ネジ部の雄ネジとが、共に左ネジであることが好ましい。これにより、回転操作部を時計回りに回転させると摺動部品の移動がロックされ、回転操作部を反時計回りに回転させると摺動部品のロックが解除され、通常のネジの操作方法と一致し、操作に違和感を生じないようにすることができる。
【0023】
また、送りネジ式手動ステージは、雄ネジ棒が、固定部品の両端のブロックをそれぞれ貫通し、両端に回転操作部とクランプ部材と雄ネジ部と係止部とを有するハンドルに接続し、いずれの側からもハンドルの回転操作により雄ネジ棒の回転が固定されることが好ましい。これにより、ハンドルを両側に設けることができ、それぞれのハンドルによりいずれの側からも摺動部品を固定部品に対して摺動させ、摺動部品を固定部品に対して任意の位置で固定させ、送りネジ式手動ステージの操作性が向上する。
【0024】
また、送りネジ式手動ステージは、係止部とブロックとの間には第3のワッシャが設けられることが好ましい。これにより、雄ネジ棒が回転する際に、係止部と対向するブロックの壁と間にワッシャを挟むことで係止部を滑らかに回転させることができる。
【0025】
さらに、送りネジ式手動ステージは、電動機の回転操作により雄ネジ棒を回転させ、固定部品に対して摺動部品を摺動させることが好ましい。これにより、簡易な構成部品を追加することで送りネジ式手動ステージを電動で操作することができる。
【発明の効果】
【0026】
以上のように、本発明に係る送りネジ式手動ステージによれば、送りネジ式手動ステージ用の簡易で機能的なストッパ機能を有し、小型の手動ステージでありながら摺動の精度が高く、摺動部品の任意の位置でハンドルの回転を簡易に固定できる送りネジ式手動ステージを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る送りネジ式手動ステージの1つの実施形態の概略構成を示す斜視図である。
【図2】図1に示す送りネジ式手動ステージの正面図、背面図、左側面図、右側面図、平面図及び底面図である。
【図3】図1に示す送りネジ式手動ステージの長手方向の断面図である。
【図4】ハンドルの回転を固定する機構を示す一部断面図を含む側面図である。
【図5】XY方向に摺動する送りネジ式手動ステージの正面図、背面図、左側面図、右側面図、平面図及び底面図である。
【図6】Z方向に摺動する機構の送りネジ式手動ステージの正面図、左側面図、右側面図、及び平面図である。
【図7】他の実施例として、雄ネジ棒がブロックにより保護されたタイプの送りネジ式手動ステージを示す正面図、背面図、左側面図、右側面図、平面図及び底面図である。
【図8】他の実施例として、摺動距離の短いタイプの多機能送りネジ式アリ溝ステージを示す正面図、背面図、左側面図、右側面図、平面図及び底面図である。
【図9】他の実施例として、摺動距離の長いタイプの多機能送りネジ式アリ溝ステージを示す正面図、背面図、左側面図、右側面図、平面図及び底面図である。
【図10】押しねじ式による送りネジ式手動ステージの実施例を示す平面図である。
【図11】電動機によりハンドルの回転制御を行うシステムを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、図面を用いて本発明に係る送りネジ式手動ステージの実施形態につき、詳細に説明する。図1に、本発明に係る送りネジ式手動ステージ1の1つの実施形態の概略構成を斜視図で示す。また、図2に、図1に示す送りネジ式手動ステージ1の左側面図(図2(a))、平面図(図2(b))、右側面図(図2(c))、底面図(図2(d))、正面図(図2(e))、及び背面図(図2(f))を示す。さらに、図3(a)に、図2(b)のC−C断面図を示し、図3(b)に、雄ネジ棒7に連結するハンドル4の内部構成を側面図で示す。
【0029】
本実施形態での送りネジ式手動ステージ1は、摺動部品2、固定部品3、第1ブロック5a,5b、及びハンドル4から構成される。摺動部品2には精密機器取付孔20が設けられて図示しない精密機器が取付けられる。また、図1に示すように、固定部品3には土台固定用孔27が設けられて図示しない土台が接続される。また、図1及び図2(e),(f)に示すように、第1ブロック5a,5bは固定部品3の両側にブロック締結具29によりそれぞれ固定される。また、摺動部品2の裏面には雌ネジが切られた雌ネジ筒8が取り付けられ、雌ネジ筒8には雄ネジが切られた雄ネジ棒7が係合する。この雄ネジ棒7の一端は、第1ブロック5aを貫通してハンドル4に連結する。また、この雄ネジ棒7の他端は、図3(a)に示すように第2ブロック5bにより回転が許容されて上下左右に支持される。
【0030】
図1に示すように、ハンドル4の回転により摺動部品2は、第1ブロック5a及び第2ブロック5bの間を摺動する。固定部品3の側面には目盛板26が取り付けられ、対向する摺動部品2の側面には矢印28が取り付けられ、固定部品3に対する摺動部品2の移動量が目視により算定できる。そして、ハンドル4の回転操作により雄ネジ棒7を回転させ、雄ネジ棒7に係合する雌ネジ筒8を移動させる。これにより固定部品3に対して摺動部品2が摺動し、取り付けられた精密機器の位置調整が行われる。この雌ネジ筒8及び雄ネジ棒7には、それぞれ右ネジが切られているため、ハンドル4を時計回りに回転させることで摺動部品2は図1中“X”の方向に移動し、ハンドル4を反時計回りに回転させることで摺動部品2は図1中“X”と反対の方向に移動する。
【0031】
図3(b)にハンドル4の内部構成を示す。ハンドル4は、雄ネジ棒7に連結される係止部13、軸部10、及びハンドル側雄ネジ棒14と、一体となる雄ネジ部11及び回転操作部6とから構成される。そして、ハンドル側雄ネジ棒14が雄ネジ部11内周の雌ネジ孔12bに係合し、全体としてハンドル4を形成する。また、第1ブロック5aと回転操作部6の間において内周に雌ネジ孔12aを有する環状のクランプ部材9が挿入される。係止部13は、第1ブロック5aの内部において軸部10の外周に設けられた突起であり、第1ブロック5a内に挿入された第3ワッシャ16cに係止して雄ネジ棒7がハンドル4の方向へ移動するのを拘束する。軸部10は、雄ネジ棒7とハンドル側雄ネジ棒14とを接続するネジが切られてない丸棒の部分である。回転操作部6は、ハンドル4の回転操作を行うツマミの部分である。雄ネジ部11は、回転操作部6と一体となった部品であり、外周に雄ネジが切られ、内周の雌ネジ孔12bに雌ネジが切られている。外周に切られた雄ネジは、クランプ部材9の内面に設けられた雌ネジ孔12aに係合する。
【0032】
ハンドル4の回転操作部6には止めネジ孔25が設けられ、止めネジ孔25にハンドル側雄ネジ棒14の回転を止める止めネジを締め込むことで、雄ネジ棒7に連結される係止部13、軸部10、及びハンドル側雄ネジ棒14は、一体となった回転操作部6と雄ネジ部11と連動して回転する。すなわち、ハンドル4の回転操作部6を回転すると雄ネジ棒7が連動して回転する。
【0033】
第1ブロック5aとクランプ部材9との間には第1ワッシャ16aが挿入される。また、クランプ部材9とハンドル4の回転操作部6との間には第2ワッシャ16bが挿入される。そして、このとき、第1ブロック5aのハンドル4側端面と、ハンドル4の回転操作部6の第1ブロック5a側端面との間隔は、クランプ部材9の厚みと第1ワッシャ16aの厚みと第2ワッシャ16b厚みの合計の厚みにクリアランス(α)が付加された間隔に設定される。なお、第2ワッシャ16bが挿入されない場合には、第1ブロック5aのハンドル4側端面と、ハンドル4の回転操作部6のブロック6a側端面との間隔は、クランプ部材9の厚みと第1ワッシャ16aの厚みとの合計の厚みにクリアランス(α)が付加された間隔に設定される。
【0034】
図4に、ハンドル4の回転を固定し、また固定を解除する機構を示す。図4(a)は、ハンドル4の側面図及びD−D底面図であり、雄ネジ棒7、第1ブロック5a、第1ワッシャ16a、クランプ部材9、第2ワッシャ16b、及び回転操作部6が順番に示されている。図4(b)には、摺動部品2を固定部品3に対して任意の位置で固定させるために、雄ネジ棒7の回転を固定させるロック機構を施す場合を示す。図4(b)は、ロック機構の説明のため、第1ブロック5a及びクランプ部材9については断面図で示す。図4(b)のE−E断面に示すように、回転操作部6を時計回りに回転させる。クランプ部材9内側の雌ネジ孔12aの雌ネジと、この雌ネジに係合する雄ネジ部11の雄ネジとは共に左ネジが切られている。従って、回転操作部6を時計回りに回転させると、図中符号“Z”で示すように、雄ネジ部11とクランプ部材9の雌ネジ孔12aとが離間するように移動する。
【0035】
しかし、係止部13が第1ブロック5a内に挿入された第3ワッシャ16cに係止し、雄ネジ棒7がハンドル4の方向へ移動するのを拘束する。従って、雄ネジ部11に張力が導入され、クランプ部材9にその張力の反力として圧縮力が発生する。この圧縮力により、クランプ部材9は第1ワッシャ16aを介して第1ブロック5aに密着するように移動し、第2ワッシャ16b周りにクリアランス(α)を持ちながら回転操作部6から離間するように移動する。この結果、クランプ部材9と第1ブロック5aとは圧着されて圧着面に摩擦力が発生する。この摩擦力により、クランプ部材9及び雄ネジ部11の回転が拘束され、雄ネジ棒7の回転が固定される。
【0036】
固定された雄ネジ棒7の回転を開放させる解除機構を施す場合を説明する。ハンドル4の回転操作部6を雄ネジ部11に対してクランプ部材9の雌ネジ孔12aが接近するように反時計回りに回転させることでクランプ部材9と第1ブロック5aとの圧着が解除され、ハンドル4の操作により雄ネジ棒7を回転させて固定部品3に対して摺動部品2を摺動させる。この操作により、クランプ部材9と第1ブロック5aとはワッシャ16a周りにクリアランスが生じるように離間する。この結果、クランプ部材9面と第1ブロック5a面の摩擦力は消滅する。この摩擦力の消滅により、ハンドル4の回転操作部6の回転により雄ネジ棒7が連動して回転する。
【0037】
このように、図4(b)に示す雄ネジ棒7の回転を固定させるロック機構を施す場合には、第2ワッシャ16b周りに生じたクリアランスは、図4(c)に示す解除機構を施す場合には、第1ワッシャ16a周りに移動する。このように、第1ブロック5aのハンドル4側端面と、ハンドル4の回転操作部6の第1ブロック5a側端面との間隔を、クランプ部材9の厚みと第1ワッシャ16aの厚みと第2ワッシャ16b厚みの合計の厚みにクリアランスが付加された間隔に設定することで、ロック機構及び解除機構の動作を滑らかにすることができる。
【0038】
雄ネジ棒7は、固定部品3の両端の第1ブロック5a,5bをそれぞれ貫通し、両端に回転操作部6とクランプ部材9と雄ネジ部11と係止部13とを有するハンドル4に接続し、いずれの側からもハンドル4の回転操作により雄ネジ棒7の回転が固定される。
【0039】
さらに、送りネジ式手動ステージ1は,電動機の回転操作により雄ネジ棒7を回転させ、固定部品に対して摺動部品を摺動させることが好ましい。これにより、簡易な構成部品を追加することで送りネジ式手動ステージを電動で操作することができる。これにより、ハンドル4を両側に設けることができ、それぞれのハンドル4によりいずれの側からも摺動部品2を固定部品3に対して摺動させ、摺動部品2を固定部品3に対して任意の位置で固定させ、送りネジ式手動ステージの操作性が向上する。
【0040】
電動機がカプラを介してハンドル4の回転操作部6の端部に連結され、電動機の回転操作により雄ネジ棒7を回転させ、固定部品3に対して摺動部品2を摺動させる。これにより、簡易な構成部品を追加することで送りネジ式手動ステージを電動で操作することができる。
【0041】
図5に、XY方向に摺動する送りネジ式手動ステージ100を、左側面図(図5(a))、平面図(図5(b))、右側面図(図5(c))、底面図(図5(d))、正面図(図5(e))、背面図(図5(f))、及び側面図(図5(g))で示す。このように、本発明に係る送りネジ式手動ステージ100は、図2に示す1方向に摺動する送りネジ式手動ステージ1だけではなく、XY方向に摺動する送りネジ式手動ステージ100にも採用できる。この場合、2つのハンドル204a,204bにより、それぞれX方向またはY方向のロック機構及び解除機構を行うことができる。
【0042】
図6に、Z方向に摺動する機構の送りネジ式手動ステージ200を、正面図(図6(a))、平面図(図6(b))、左側面図(図6(c))、及び右側面図(図6(d))
で示す。このように、本発明に係る送りネジ式手動ステージ200は、図5に示すXY方向に摺動する送りネジ式手動ステージ100などだけではなく、Z方向に摺動する送りネジ式手動ステージにも採用できる。この場合、送りネジ式手動ステージ200自体をZ方向に自立できるようにするため第1ブロック205aを第2ブロック205bと異なる形にする。
【0043】
図7に、他の実施例として、雄ネジ棒がブロックにより保護されたタイプの送りネジ式手動ステージ300を、左側面図(図7(a))、平面図(図7(b))、右側面図(図7(c))、底面図(図7(d))、正面図(図7(e))、及び背面図(図7(f))で示す。この実施例では、第1ブロック305aは雄ネジ棒307を内蔵して保護する形状であり、第1ブロック305bは平板である。
【0044】
図8に、他の実施例として、摺動距離の短いタイプの多機能送りネジ式アリ溝ステージ400を、左側面図(図8(a))、平面図(図8(b))、右側面図(図8(c))、底面図(図8(d))、正面図(図8(e))、及び背面図(図8(f))で示す。このように、本発明に係るロック機構及び解除機構は、多機能送りネジ式アリ溝ステージ400のハンドル304にも適用できる。
【0045】
図9に、他の実施例として、摺動距離の長いタイプの多機能送りネジ式アリ溝ステージ500を、左側面図(図9(a))、平面図(図9(b))、右側面図(図9(c))、底面図(図9(d))、正面図(図9(e))、及び背面図(図9(f))で示す。このように、本発明に係るロック機構及び解除機構は、多機能送りネジ式アリ溝ステージ500のハンドル404にも適用できる。
【0046】
図11に、電動機によりハンドルの回転制御を行うシステムを示す。第1ブロック405aに第1ワッシャ416aを介してクランプ部材409が接続し、クランプ部材409に第2ワッシャ416bを介して回転操作部406が接続する。さらに、回転操作部406には、カプラ31により電動機32及び制御装置33が連結される。すなわち、電動機32がカプラを31介して回転操作部406の端部に連結され、電動機32の回転操作により雄ネジ棒7を回転させ、固定部品3に対して摺動部品2を摺動させる。このように、簡易な構成部品を追加することで送りネジ式手動ステージを電動で操作することができる。
【符号の説明】
【0047】
1,100,200,300,400,500 送りネジ式手動ステージ、2,102 摺動部品、3,103 固定部品、4,104,204a,204b,304,404 ハンドル、5,105 ブロック、5a,105a,205a,305a,405a 第1ブロック、5b,105b,205b,305b 第2ブロック、6,406 回転操作部、7,307 雄ネジ棒、8 雌ネジ筒、9,409 クランプ部材、10 軸部、11 雄ネジ部、12,12a,12b 雌ネジ孔、13 係止部、14 ハンドル側雄ネジ棒、15,16 ワッシャ、16a,416a 第1ワッシャ、16b,416b 第2ワッシャ、16c 第3ワッシャ、17,117 土台取付孔、18 ストッパ孔、19 雌ネジ部、20,120 精密機器取付孔、600 押しねじ型送りネジ式手動ステージ、25 止めネジ孔、26 目盛板、27 土台固定用孔、28 矢印、29 ブロック締結具、30 先端部、31 カプラ、32 電動機、33 制御装置、121 丸棒、122 押しねじ、123 クランプボルト、124 バネ付き丸棒。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
精密機器が取付けられる摺動部品に設けられた雌ネジ筒と、土台に接続される固定部品に固定されたブロックを貫通する雄ネジ棒とが係合され、雄ネジ棒に連結されたハンドルを回転させて固定部品に対して摺動部品を摺動させ、取り付けられた精密機器の位置調整を行う送りネジ式手動ステージにおいて、
ハンドルは、ハンドルの回転操作を行う回転操作部と、ブロックと回転操作部の間に挿入される環状のクランプ部材と、クランプ部材の内側の雌ネジ孔と係合する雄ネジ部と、ブロックに係止して雄ネジ棒のハンドル方向への移動を拘束する係止部と、を備え、
クランプ部材の雌ネジ孔が雄ネジ部から離間するようにハンドルの回転操作部を回転させ、クランプ部材をブロックに圧着させて雄ネジ棒の回転を拘束し、摺動部品を固定部品に対して任意の位置で固定させることを特徴とする送りネジ式手動ステージ。
【請求項2】
請求項1に記載の送りネジ式手動ステージであって、ハンドルの回転操作部と雄ネジ部とは一体の部品であり、回転操作部には止めネジ孔が設けられ、雄ネジ部は内側に雌ネジ孔を有して雄ネジ棒に連結するハンドル側雄ネジ棒に係合し、止めネジ孔にハンドル側雄ネジ棒の回転を止める止めネジを締め込むことで、ハンドルの回転操作部の回転と雄ネジ棒の回転とを連動させることを特徴とする送りネジ式手動ステージ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の送りネジ式手動ステージであって、ブロックとクランプ部材との間には第1のワッシャが挿入され、ブロックのハンドル側端面と、ハンドルの回転操作部のブロック側端面との間隔は、クランプ部材の厚みと第1のワッシャの厚みとの合計の厚みにクリアランスが付加された間隔に設定されることを特徴とする送りネジ式手動ステージ。
【請求項4】
請求項3に記載の送りネジ式手動ステージであって、クランプ部材とハンドルの回転操作部との間には第2のワッシャが挿入され、ブロックのハンドル側端面と、ハンドルの回転操作部のブロック側端面との間隔は、クランプ部材の厚みと第1のワッシャの厚みと第2のワッシャの厚みとの合計の厚みにクリアランスが付加された間隔に設定されることを特徴とする送りネジ式手動ステージ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の送りネジ式手動ステージであって、クランプ部材の雌ネジ孔が雄ネジ部に接近するようにハンドルの回転操作部を回転させることで、クランプ部材とブロックとの圧着を解除させ、雄ネジ棒をハンドルの回転操作に連動させて回転させて固定部品に対して摺動部品を摺動させることを特徴とする送りネジ式手動ステージ。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の送りネジ式手動ステージであって、クランプ部材内側に設けられた雌ネジと、雌ネジに係合する雄ネジ部の雄ネジとは、共に左ネジであることを特徴とする送りネジ式手動ステージ。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の送りネジ式手動ステージであって、雄ネジ棒は、固定部品の両端のブロックをそれぞれ貫通し、両端に回転操作部とクランプ部材と雄ネジ部と係止部とを有するハンドルに接続し、いずれの側からもハンドルの回転操作により雄ネジ棒の回転が固定されることを特徴とする送りネジ式手動ステージ。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の送りネジ式手動ステージであって、係止部とブロックとの間には第3のワッシャが設けられることを特徴とする送りネジ式手動ステージ。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の送りネジ式手動ステージであって、電動機がカプラを介してハンドルの回転操作部の端部に連結され、電動機の回転操作により雄ネジ棒を回転させ、固定部品に対して摺動部品を摺動させることを特徴とする送りネジ式手動ステージ。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図2】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−211821(P2012−211821A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77552(P2011−77552)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【特許番号】特許第4890652号(P4890652)
【特許公報発行日】平成24年3月7日(2012.3.7)
【出願人】(506177268)株式会社ミラック光学 (14)
【Fターム(参考)】