説明

送信装置

【課題】変調信号の周波数の切り替えに対応して増幅器の電源電圧を最適化可能な送信装置を提供することを目的とする。
【解決手段】送信装置は、送信データを変調した第1変調信号に基づいて第1エンベロープ信号を抽出する第1エンベロープ抽出部と、該送信データを該第1変調信号よりも高い周波数で変調した第2変調信号に基づいて第2エンベロープ信号を抽出する第2エンベロープ抽出部と、該第1または第2変調信号を増幅する増幅部と、該第1または第2のエンベロープ信号に基づいて、該増幅部に供給する電源電圧を出力する電源生成部と、該第1または第2変調信号のいずれか一方を該増幅部に増幅させると共に、対応する該第1または第2エンベロープ信号のいずれか一方に基づいて該電源生成部に電源電圧を出力させる制御部とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンベロープトラッキングにより増幅器の電源を制御する送信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信に用いられる通信装置は、無線信号を送信するための送信装置を有する。送信装置は送信対象の変調信号を増幅器により増幅する。送信装置は増幅器により増幅した変調信号をアンテナで無線送信する。
【0003】
例えばQPSK(Quadrature Phase Shift Keying)などの変調方式において、変調信号の振幅は時間的に変化する。無線通信の信頼性向上のため、増幅器の増幅率は、入力される変調信号の振幅に関わらず一定であることが望ましい。増幅器の増幅率を安定させるため、増幅器の電源電圧値は入力される変調信号の最大振幅に対応して設定する。
【0004】
変調信号の最大振幅に対応して増幅器の電源電圧を設定した場合、変調信号の振幅が小さい場合であっても増幅器の電源電圧は大きいままである。増幅器の電源電圧値に対し、増幅器に入力される変調信号の振幅が小さすぎる場合、増幅器の電力損失は大きくなる。
【0005】
増幅器に入力される変調信号の振幅に応じて増幅器の電源電圧値を変えることにより、増幅器の電力損失を小さくすることが出来る。変調信号の周波数よりも低い周波数で変調振幅の変化に追従して増幅器の電源電圧を変化させる手法をエンベロープトラッキングという。送信装置の通信速度に応じたいくつかのエンベロープトラッキングに関する技術が開示されている。
【0006】
特許文献1における送信装置は、ベースバンド処理部から出力される変調信号に基づいてエンベロープ信号を抽出する、エンベロープトラッキング方式に関する技術を開示する。抽出されたエンベロープ信号は、増幅器の電源を生成するDDC(DC DC Convertor)の出力電圧制御端子に入力される。DDCがエンベロープ信号の振幅変化に応答する必要があるため、本方式は応答速度が低くてもよいGSM(Global System for Mobile Communications)方式など数100kHzの比較的低速な通信方式に適している。
【0007】
特許文献2における送信装置は、変調されたRF(Radio Frequency)信号からエンベロープ信号を抽出する、エンベロープトラッキングに関する技術を開示する。特許文献2における送信装置では、RF信号の平均電力を検波し、検波信号と送信するRF信号との差分を抽出することでエンベロープ信号を生成する。
【0008】
特許文献2におけるエンベロープトラッキング方式では、検波したRF信号の平均電力に基づいて増幅器に印加する基準電源電圧をDDCにより生成すると共に、検波信号と送信するRF信号との差分を基準電源電圧に重畳させる。基準電源電圧の制御は増幅器を含む閉ループ制御となる。閉ループは平均電力を抽出するためのLPF(Low Pass Filter)を有する。LPFの帯域は変調信号の周波数に応じて最適化する。本方式においてDDCはLPFにより抽出された平均電力に追従すればよい。このため本方式はLTE(Long Term Evolution)など数10MHzの高速通信方式に対応可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平06−77740号公報
【特許文献2】特表2009−525684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
送信装置を複数の異なる周波数の変調信号の送信に対応させる場合を考える。かかる送信装置に特許文献1のエンベロープトラッキング方式を採用した場合、DDCを高周波のエンベロープ信号に対応させる必要が生じる。DDCは高周波に対応するほど変換効率が下がるため、送信装置全体の消費電力効率低下の原因となる。一方、特許文献2のエンベロープトラッキング方式を採用した場合、LPFの帯域を高周波の変調信号に応じて最適化する必要がある。そうすると低速通信方式での動作時にLPFの帯域が広すぎるため、雑音成分がLPFを通過しやすくなる。この結果DDCが出力する基準電源電圧値が不安定となる。
【0011】
本発明の一実施例では、変調信号の周波数の切り替えに対応して増幅器の電源電圧を最適化可能な送信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、送信装置は、送信データを変調した第1変調信号に基づいて第1エンベロープ信号を抽出する第1エンベロープ抽出部と、該送信データを該第1変調信号よりも高い周波数で変調した第2変調信号に基づいて第2エンベロープ信号を抽出する第2エンベロープ抽出部と、該第1または第2変調信号を増幅する増幅部と、該第1または第2のエンベロープ信号に基づいて、該増幅部に供給する電源電圧を出力する電源生成部と、該第1または第2変調信号のいずれか一方を該増幅部に増幅させると共に、対応する該第1または第2エンベロープ信号のいずれか一方に基づいて該電源生成部に電源電圧を出力させる制御部とを有する。
【発明の効果】
【0013】
実施形態によれば、変調信号の周波数の切り替えに対応して増幅器の電源電圧を最適化可能な送信装置を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施例にかかる送信装置のブロック図である。
【図2】第1のエンベロープ抽出部の詳細ブロック図である。
【図3】第2のエンベロープ抽出部の詳細ブロック図である。
【図4】制御部の制御フロー図である。
【図5】制御部の制御テーブル図である。
【図6】制御部が出力する制御信号のタイミングチャート図である。
【図7】無線通信装置の実装ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本実施の形態について説明する。なお、各実施形態における構成の組み合わせも本発明の実施形態に含まれる。
【0016】
図1は本実施例にかかる送信装置1のブロック図である。送信装置1は携帯端末の無線モデムから出力される、I/Qマッピングされたデジタル信号を受信する。送信装置1はI/Qマッピングされたデジタル信号であるI/Q信号を選択された通信方式および周波数に変調する。送信装置1は変調したI/Q信号を搬送波にミキシングする。送信装置1はミキシングしたI/Q信号をパワーアンプにより増幅する。送信装置1は増幅したI/Q信号をRF信号としてアンテナから送出する。
【0017】
送信装置1はRF(Radio Frequency)処理部2、第2エンベロープ抽出部3、PA(Power Amplifier)4、スイッチ5、DDC(DC−to−DC Converter)6、スイッチ7、コンデンサ8、9を有する。
【0018】
RF処理部2は無線送信するI/Q信号を通信方式に応じて変調すると共に、変調信号の周波数を無線送信する周波数に変換する。RF処理部2は制御部11、第1エンベロープ抽出部12、デジタル処理部13、マルチモードモデム14、周波数コンバータ15、ポートスイッチ16を有する。
【0019】
制御部11は、通信方式を選択する選択信号50に応じて、送信装置1の動作を切り替える制御信号を出力する。制御部11は送信する複数の制御信号の送信タイミングを最適化することにより、1つの通信方式から他の通信方式へ正確に切り替える。通信方式のサーチは携帯端末における図示しないベースバンド処理部により行われる。ベースバンド処理部はサーチ結果に基づいて選択信号を制御部11に送信する。
【0020】
第1エンベロープ抽出部12は送信データを変調した変調信号に基づいてエンベロープ成分を抽出する。第1エンベロープ抽出部12は抽出したエンベロープ成分の振幅に基づいて、DDCが出力する電源電圧値を調整するためのエンベロープ信号を出力する。第1エンベロープ抽出部12の出力は、制御信号51の設定値に応じて有効になる。第1エンベロープ抽出部12への電源供給は、制御信号51の設定値に応じて有効にしても良い。動作不要な場合に第1エンベロープ抽出部12への電源供給を停止することにより、消費電力を削減することが出来る。第1エンベロープ抽出部12についての詳細は後述する。
【0021】
デジタル処理部13は受信したI/Q信号をIチャネルおよびQチャネルに分離する。
【0022】
マルチモードモデム14は制御部11から送信される制御信号56に基づいて選択された通信方式および搬送波周波数に応じて、I/Q信号を変調する。マルチモードモデム14は制御信号56に基づいて切り替えたデジタルフィルタの帯域幅に応じて、I/Q信号を処理する。マルチモードモデム14は、デジタルフィルタ処理されたI/Q信号を第1エンベロープ抽出部12に出力する。マルチモードモデム14はデジタルフィルタ処理されたI/Q信号をD/A(Digital/Analog)変換する。
【0023】
周波数コンバータ15はアナログ信号に変換されたI/Q信号をRF送信用の搬送波周波数帯域に周波数変換する。搬送波周波数帯域は、周波数コンバータ15において、変調信号が入力される入力端子に対応する周波数帯域である。周波数コンバータ15は周波数変換した変調信号をポートスイッチ16に出力する。
【0024】
ポートスイッチ16は選択された通信方式および搬送波周波数に応じて変調信号の接続先である増幅部を決定する。ポートスイッチ16は決定した接続先に対応して出力先を切り替える。ポートスイッチ16の出力先の切り替えは、制御部11から出力される制御信号に基づいて行っても良い。
【0025】
第2エンベロープ抽出部3は第1エンベロープ抽出部12により処理される変調信号よりも高周波の変調信号に基づいてエンベロープ信号を抽出する。DDC6が出力する電源電圧の値は、抽出したエンベロープ信号に基づいて調整される。第2エンベロープ抽出部3はエンベロープ生成部17、ポートスイッチ18を有する。第2エンベロープ抽出部3の動作は制御信号51に応じて有効になる。エンベロープ生成部17への電源供給は、制御信号51の設定値に応じて有効にしても良い。動作不要な場合にエンベロープ生成部17への電源供給を停止することにより、消費電力を削減することが出来る。
【0026】
エンベロープ生成部17はポートスイッチ18から入力された変調信号の振幅と、変調信号をPA4で増幅し一定の割合で減衰させた波形振幅との大小関係に基づいて、DDC6から出力される電源電圧値の調整に用いるエンベロープ信号を出力する。エンベロープ生成部17についての詳細は後述する。
【0027】
ポートスイッチ18はポートスイッチ16の出力とPA4の入力とを接続する。ポートスイッチ18はPA4への変調信号の入力に応じて、エンベロープ生成部17へ変調信号を出力する。ポートスイッチ18の出力先の切り替えは、制御部11から出力される制御信号51に基づいて行っても良い。
【0028】
PA4はRF処理部2から受信した変調信号を増幅する増幅部である。PA4は複数の増幅器19、20、複数のCUP(Coupler)21、22を有する。PA4は制御部11から送信される制御信号55の設定値に応じて、DDC6から出力される電源電圧を印加する増幅器を切り替える。
【0029】
増幅器19の出力はCUP21に入力される。増幅器20の出力はCUP22に入力される。増幅器19、20はそれぞれ、第2エンベロープ抽出部3から受信した搬送波を増幅する。増幅器19、20はそれぞれ電気的特性が異なる。例えば増幅器19は数100MHzの低周波帯域用であり、増幅器20は数GHzの高周波帯域用としてもよい。増幅器19、20は増幅信号をCUP21、22へ出力する。CUP21、22は増幅器19、20から受信した増幅信号の一部を第2エンベロープ抽出部3にフィードバックする方向性結合器の一種である。フィードバックされた増幅信号の一部は、エンベロープ生成部17に入力される。なお、本実施例においてPA4は2つの増幅器および2つのCUPを有するが、3つ以上の増幅器およびCUPを有しても良い。
【0030】
スイッチ5は選択された通信方式に応じてアンテナから無線送信する前のフィルタリング処理を切り替える。スイッチ5の複数の出力はそれぞれ異なる複数のフィルタに接続される。接続先のフィルタのフィルタ特性は搬送波の周波数帯域に応じて最適化する。搬送波の周波数帯域は通信方式に応じて周波数コンバータ15により設定される。制御部11は通信方式に応じて値を設定した制御信号53をスイッチ5に出力する。スイッチ5は制御部11から受信した制御信号53の設定値に応じて、接続先のフィルタを切り替える。
【0031】
DDC6はPA4に電源を供給する電源生成部である。DDC6は第1エンベロープ抽出部12または第2エンベロープ抽出部3から出力されるエンベロープ信号に応じて電源電圧値を変化させる。DDC6の動作周波数は第1エンベロープ抽出部12または第2エンベロープ抽出部3から出力されるエンベロープ信号のいずれか周波数が高いほうを考慮して設定する。DDC6は入力されるエンベロープ信号の変化に合わせて出力電圧値を変化させる。
【0032】
なお、DDC6に入力されるエンベロープ信号は、DDC6の入力部にスイッチを設け、2つのエンベロープ信号のいずれかを制御部11からの制御信号で選択してもよい。
【0033】
スイッチ7は制御部11から出力される制御信号54の設定値に応じてコンデンサ8またはコンデンサ9をPA4の電源供給ラインに接続する。PA4は制御信号55の設定値に応じて、増幅器19または増幅器20を電源供給ラインに接続する。増幅器19、20はそれぞれ消費電力や増幅率などの電気的特性が異なる。増幅器が安定して動作するために最適なコンデンサの容量値は増幅器の電気的特性によって異なる。選択した増幅器の電気的特性に応じて最適なコンデンサを接続することにより、制御部11は増幅器を安定して動作させることが出来る。
【0034】
増幅器に供給される電源電圧を安定させるためのコンデンサは、バイパスコンデンサと呼ばれる。エンベロープトラッキングによるPA4の電源電圧調整において、バイパスコンデンサはエンベロープ信号周波数におけるフィルタとして機能する。よって、理想的にはバイパスコンデンサを実装しないのが望ましい。しかしながらバイパスコンデンサが無ければ増幅器に供給される電源電圧が不安定となるため、増幅器の動作が不安定になる。
【0035】
増幅器のバイパスコンデンサの容量値は、増幅器の電源供給ラインをハイインピーダンスにすると共に、電源供給ラインを伝播する電源電圧の変動周波数の2倍高調波を低インピーダンスにするように選択する。すなわち増幅器のバイパスコンデンサの最適値は、増幅器の電気的特性とDDC6に入力されるエンベロープ信号の周波数により決定する。
【0036】
例えばエンベロープ信号をGSM方式における変調信号から抽出している場合、数百kHzでハイインピーダンスとなる1000pF程度の容量値とする。これに対しエンベロープ信号をLTE方式における変調信号から抽出している場合、バイパスコンデンサの容量値が1000pFのままだとエンベロープ信号がフィルタリングされる。そのためバイパスコンデンサの容量値は、数10MHzでハイインピーダンスとなる100pF程度に低くする必要がある。前述の通り、通信方式に応じて電源供給ラインに接続するコンデンサをスイッチ7で切り替えることにより、選択中の通信方式に最適なコンデンサ容量値を設定することが出来る。
【0037】
バイパスコンデンサはPA4の内部に実装しても良い。バイパスコンデンサをPA4に近づけて実装することにより、電源供給ラインに寄生するインダクタンス成分やキャパシタンス成分の影響を小さくすることが出来る。
【0038】
コンデンサ10はエンベロープ生成部17から出力される信号の直流成分をカットし、交流成分のみをPA4の電源供給ラインに流入させる。PA4にはDDC6から供給される直流電源電圧にコンデンサ10を通過した交流電圧成分が合成されて供給される。
【0039】
以上の通り送信装置1は、通信方式に応じて制御部11から出力される制御信号の設定値を変えることにより、DDC6の出力電圧値を決定するエンベロープ信号を最適化する。これにより、通信方式の切り替えに対応して増幅器に供給する電源電圧の値を最適化することが出来る。
【0040】
図2は第1エンベロープ抽出部12の詳細ブロック図である。前述の通り第1エンベロープ抽出部12は、GSMなどの低周波の通信方式選択時において、DDC6の出力電圧を調整するためのエンベロープ信号を抽出する。第1エンベロープ抽出部12は加算部30、DAC(Digital Analog Convertor)31、LPF(Low Path Filter)32、遅延補正部33を有する。
【0041】
加算部30はマルチモードモデム14から出力されたI/Q信号を合成する。加算部30は加算結果をデジタル信号として出力する。DAC31は加算部30から受信したデジタル信号をアナログ信号に変換する。DAC31は変換したアナログ信号を出力する。LPF32はDAC31から受信したアナログ信号の搬送波である高周波成分を除去する。高周波成分を除去することにより、第1エンベロープ抽出部12は高周波成分を除去する前のアナログ信号の包絡線を得ることが出来る。LPF32は高周波成分を除去した後のアナログ信号をエンベロープ信号として出力する。遅延補正部33はPA4に入力される変調信号とDDC6からPA4に供給される電源電圧が同期するように、第1エンベロープ抽出部12による処理遅延を補正する。遅延補正部33は遅延補正したエンベロープ信号を出力する。
【0042】
図3はエンベロープ生成部17の詳細ブロック図である。前述の通りエンベロープ生成部17は、高周波の通信方式選択時において、DDC6の出力電圧を調整するためのエンベロープ信号を抽出する。エンベロープ生成部17はDET(Detector)40、エラーアンプ41、LPF42、HPF(High Path Filter)43、ATT(Attenetor)44を有する。なお本実施例において、PA4は増幅器19およびCUP21の動作が有効になるように設定されているものとする。
【0043】
DET40はポートスイッチ18から出力された変調信号を振幅検波する。DET40は振幅検波した検波信号をエラーアンプ41へ出力する。
【0044】
増幅器19はポートスイッチ18から出力された変調信号を一定の利得で増幅する。増幅器19は増幅した変調信号を出力する。CUP21は増幅された変調信号のうち一定の比率の変調信号を分岐させて出力する。ATT44はCUP21から受信した変調信号を一定の減衰率で減衰させる。ATT44は減衰させた変調信号をエラーアンプ41へ出力する。
【0045】
エラーアンプ41はDET40から受信した検波信号の振幅とATT44から受信した変調信号の振幅とを比較する比較部である。エラーアンプ41は比較結果に応じた電圧波形を出力する。
【0046】
LPF42は電圧波形の高周波成分を除去した低周波成分をエンベロープ信号として出力する。DDC6はLPF42から出力されたエンベロープ信号に応じて電源電圧を出力する。DDC6から出力された電源電圧は電源供給ラインを通ってPA4に供給される。
【0047】
HPF43は電圧波形の低周波成分をカットし、高周波信号を出力する。コンデンサ10はHPF43から出力された高周波信号の直流成分をカットする。コンデンサ10の端子の一方は、DDC6からPA4に接続された電源供給ラインに接続されている。コンデンサ10により直流成分をカットされた高周波信号電圧はDDC6から出力される電源電圧に重畳される。
【0048】
以上の通りDDC6からPA4に供給される電源電圧は、一定の直流電圧と、当該一定の直流電圧を超える振幅を有する交流電圧との和となる。よってPA4に供給される電源電圧値はPA4に入力される変調信号の振幅変化に応じた値となる。また、一定の直流電圧を超える振幅の交流電圧にのみ追従させることにより、DDC6の応答速度が遅くても、PA4に供給する電源電圧値を変調信号の振幅変化に追従させることが出来る。
【0049】
図4は制御部11の制御フロー図である。制御部11は通信方式の切替を指示する選択信号50を受信する(ステップS10)。選択信号50は例えばInter−RAT Handover時におけるRF処理部2の制御信号である。図4の処理は制御部11などに記憶された制御プログラムに記載されている。制御部11は制御プログラムを実行することにより、図4の制御を実現する。
【0050】
選択信号50を受信した制御部11は、選択信号50の設定値に基づいて制御テーブル90を参照する(ステップS11)。制御テーブル90は制御部11に実装されたメモリ領域に記憶しても良いし、制御部11の外部メモリに記憶しても良い。
【0051】
制御部11は制御テーブル90の参照により、通信方式および変調信号の周波数に応じた制御信号51、53、54、55、56の設定値を取得する。制御部11は取得した制御信号を後述する適切なタイミングで送信装置1の各部に出力する(ステップS12)。
【0052】
制御信号を適切なタイミングで送信装置1の各部に送信し、各部の切り替え処理が完了後、制御部11はRF処理部2の変調信号出力をイネーブル状態にする(ステップS13)。適切なタイミングで各部の切り替え処理を実行後に変調信号出力をイネーブル状態にすることにより、選択された通信方式およびバンド帯域に応じて、制御部11は送信装置1の増幅器に供給する電源電圧の値を最適化することが出来る。
【0053】
図5は制御部11が選択信号を受信した場合に制御信号の設定値を決定するために参照する制御テーブル90である。制御テーブル90において、列70、71は選択信号50に設定された通信方式およびバンド帯域である。列70は選択可能な通信方式がGSM、WCDMA(Wideband Code Division Multiple Access)、LTEの3種であることを示す。列71のバンド帯域において、LB(Low Band)は各通信方式における低周波帯域、HB(High Band)は各通信方式における高周波帯域を示す。具体的なバンド帯域は通信方式ごとに異なってよい。通信方式とバンド帯域の組み合わせから、バンド帯域の周波数を特定することが出来る。
【0054】
制御テーブル90において、列72から76は、選択信号50に基づいて参照される制御信号51、53、54、55、56の設定値である。本実施例において制御部11は、列70の通信方式および列71のバンド帯域の組み合わせから1つを選択するように説明しているが、選択肢を制御テーブル90の内容に限定するものではない。
【0055】
制御テーブル90において、行77から82は、それぞれの通信方式およびバンド帯域に対応する、制御信号51、53、54、55、56の設定値である。例えば行77は、制御部11が通信方式としてGSMを選択し、バンド帯域としてLBを選択した場合の各制御信号の設定値である。行77は制御信号51として‘A1’、制御信号53として‘A2’、制御信号54として‘A3’、制御信号55として‘A4’、制御信号56として‘A5’が割り当てられることを示す。他の行78から行82も行77と同様なので、その説明を省略する。
【0056】
以上の通り制御部11は、受信した選択信号50に含まれる通信方式およびバンド帯域の情報に基づいて制御テーブル90を参照する。制御テーブル90を参照することにより制御部11は、送信装置1の各部に送信する各制御信号の設定値を確定することが出来る。
【0057】
図6は制御部11が出力する制御信号のタイミングチャート図である。図6の各波形に付与された数字は、図1の送信装置1に記載された各制御信号の参照符号に対応している。また各波形のレベル変化は、1つの方式に対応する制御信号の設定値から、他の方式に対応する制御信号の設定値へ変化したことを示す。
【0058】
制御部11は選択信号50を受信する。制御部11は選択信号50の設定値に応じて、通信方式および変調信号のバンド経路を決定する。制御部11は決定した変調信号のバンド経路に応じて制御信号51を出力する。制御信号51は第1エンベロープ抽出部12または第2エンベロープ抽出部3のいずれかの動作を有効にする信号である。
【0059】
制御部11はDDC6の電源をオンにする制御信号52を送信する。DDC6はアイドリング状態であっても電力を消費する。制御部11は通信方式が決定していない時のDDC6の電源をオフにすることにより、送信装置1の消費電力を削減することが出来る。
【0060】
DDC6の電源をオンにする制御信号52を送信して一定時間経過後、制御部11はスイッチ5に対し、接続先のアンテナを切り替える制御信号53を送信する。DDC6は電源をオンにしてから駆動可能状態になるまでに、スイッチ5の切替動作完了よりも長い時間を要するためである。例えばスイッチ5の切替動作完了に5μs要するのに対し、DDC6は駆動可能になるのに10μs要するとする。この場合、制御部11は制御信号52を送信して5μs以上経過後に、制御信号53を送信するように設定する。
【0061】
制御部11はスイッチ7に対し、接続先のコンデンサを切り替える制御信号54を送信する。DDC6からの電源供給が開始される前にコンデンサを電源供給ラインに接続することにより、電源供給前にコンデンサを充電する。電源供給前にコンデンサを充電することにより、DDC6からの電源供給開始時にコンデンサに電流が流れ込み、電源電圧が急激に低下するのを防止することが出来る。
【0062】
制御部11はPA4に対し、動作を有効にする増幅器を切り替える制御信号55を送信する。増幅器は無入力信号状態であってもアイドリング電流が流れるため、増幅信号送出の直前に起動する。起動後制御部11はPA4の出力イネーブルを解除する。
【0063】
制御部11はマルチモードモデム14に対し、通信方式に応じたモデム処理の設定を行う制御信号56を送信する。マルチモードモデム14の設定が完了すると、RF処理部2はI/Q信号の変調処理を開始する。RF処理部2が変調信号を出力するときには変調信号を増幅し送信するPA4およびPA4へ電源供給するDDC6のスタンバイが完了している。よって送信装置1は切り替え動作後すぐに安定した状態で、変調信号を増幅および送信することが出来る。
【0064】
図7は無線通信装置64の実装ブロック図である。無線通信装置64は送信装置1、電源61、アンテナスイッチ62、アンテナ63、フィルタ65、66を有する。図7において、図1の送信装置1のブロック図と同一部材には同一番号を付し、その説明を省略する。
【0065】
送信装置1において、RF処理部2はCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)プロセスにより実装される。エンベロープ生成部17およびポートスイッチ18もCMOSプロセスにより実装可能である。よってRF処理部2、エンベロープ生成部17、およびポートスイッチ18は同じCMOSプロセスで電源制御モジュール60とすることが出来る。電源制御モジュール60はPA4に変調信号を出力すると共に、PA4の電源電圧を生成するDDC6の出力電圧値を調整するエンベロープ信号を出力する。第1エンベロープ抽出部12および第2エンベロープ抽出部3を単一のモジュールとして集積化することにより、無線通信装置64を小型化することが出来る。
【0066】
PA4は一般にGaAsプロセスで実装されるため、電源制御モジュール60とは別チップとなる。またDDC6は消費電力が大きく発熱量も大きいため、電源制御モジュール60と同一チップにすることは困難である。異なるエンベロープ抽出方式を同一モジュール化すると共にDDC6を共有することにより、無線通信装置64はバンド帯域の異なる複数の通信方式に対応させてPA4に供給する電力を最適化すると共に、装置の小型化を実現することが出来る。
【0067】
電源61はDDC6に電源を供給する。携帯型の無線通信装置の場合、電源61は一般にバッテリーである。
【0068】
フィルタ65、66はPA4から出力された変調信号のバンド帯域に合わせて、不要な高調波成分などをフィルタリング処理する。本実施例においてフィルタはLTEのラインのみに挿入されているが、GSMのラインにも挿入してよい。
【0069】
アンテナスイッチ62はフィルタリング処理された変調信号を選択し、アンテナ63に送信する。アンテナ63はアンテナスイッチから受信した変調信号を他の装置に送信する。
【0070】
以上の通り無線通信装置64は、バンド帯域の異なる複数の通信方式に対応させてPA4に供給する電力を最適化すると共に、装置の小型化を実現することが出来る。
【符号の説明】
【0071】
1 送信装置
2 RF処理部
3 第2エンベロープ抽出部
4 PA
5、7 スイッチ
6 DDC
8、9、10 コンデンサ
11 制御部
12 第1エンベロープ抽出部
13 デジタル処理部
14 マルチモードモデム
15 周波数コンバータ
16 ポートスイッチ
17 エンベロープ生成部
18 ポートスイッチ
19、20 増幅器
21、22 CUP
30 加算部
31 DAC
32 LPF
33 遅延補正部
40 DET
41 エラーアンプ
43 HPF
44 ATT
60 電源制御モジュール
61 電源
62 アンテナスイッチ
63 アンテナ
64 無線通信装置
65、66 フィルタ
90 制御テーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信データを変調した第1変調信号に基づいて第1エンベロープ信号を抽出する第1エンベロープ抽出部と、
該送信データを該第1変調信号よりも高い周波数で変調した第2変調信号に基づいて第2エンベロープ信号を抽出する第2エンベロープ抽出部と、
該第1または第2変調信号を増幅する増幅部と、
該第1または第2のエンベロープ信号に基づいて、該増幅部に供給する電源電圧を出力する電源生成部と、
該第1または第2変調信号のいずれか一方を該増幅部に増幅させると共に、対応する該第1または第2エンベロープ信号のいずれか一方に基づいて該電源生成部に電源電圧を出力させる制御部と
を有することを特徴とする送信装置。
【請求項2】
該第1エンベロープ抽出部は、該第1変調信号の高周波成分を除去した該第1エンベロープ信号を出力する第1ローパスフィルタを有し、
該第2エンベロープ抽出部は、該第2変調信号の振幅と、該変調信号を該増幅部で増幅し一定の割合で減衰させた波形振幅との大小関係に応じた電圧波形を出力する比較部と、該電圧波形の高周波成分を除去した該第2エンベロープ信号を出力する第2ローパスフィルタと、該電圧波形の低周波成分を除去した波形を該電源生成部が出力する電源電圧に重畳するハイパスフィルタとを有する
ことを特徴とする、請求項1に記載の送信装置。
【請求項3】
該増幅部は、電気的特性の異なる複数の増幅器と、それぞれの該増幅器に対応する、容量の異なる複数のバイパスコンデンサを有し、
該第1または第2変調信号の周波数に応じて、該電源生成部に接続する該増幅器および該バイパスコンデンサを切り替えることを特徴とする、請求項1または2に記載の送信装置。
【請求項4】
該増幅部は、該制御部が出力する制御信号に応じて該増幅器と該電源生成部との接続を切り替え、
該電源生成部に入力する該第1または第2のエンベロープ信号を切り替え、該バイパスコンデンサの接続を切り替えた後に、該増幅器との接続を切り替える
ことを特徴とする、請求項3に記載の送信装置。
【請求項5】
信号を増幅する増幅部に、送信データを変調した第1変調信号または該第1変調信号よりも高い周波数で該送信データを変調した第2変調信号のいずれか一方を出力すると共に、該増幅部の電源電圧を生成する電源生成部の出力電圧値を調整するエンベロープ信号を出力する電源制御モジュールであって、
該第1変調信号に基づいて第1エンベロープ信号を該電源生成部に出力する第1エンベロープ抽出部と、
該第2変調信号に基づいて第2エンベロープ信号を該電源生成部に出力する第2エンベロープ抽出部と、
該増幅部に出力する該第1または第2変調信号のいずれか一方に対応する、該第1または第2エンベロープ信号に基づいて、該電源生成部に電源電圧を出力させる制御部と
を有することを特徴とする電源制御モジュール。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−175286(P2012−175286A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33844(P2011−33844)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.GSM
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】