説明

送受信モジュール故障分離自己診断システム

【課題】近くでほかのレーダが運用していても正確に故障の有無を判定可能な送受信モジュール故障分離自己診断システムを提供することを目的とする。
【解決手段】試験信号を時間経過とともに周波数が変化するように変調し、評価式と閾値との関係から送受信モジュールの故障を診断する。評価式に入力する値を測定する評価ポイントは、複数設けられる。評価ポイントは任意のタイミング又は位相において設定される。評価式による判定は、複数回行われてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェイズドアレイレーダの送受信モジュールの故障を診断する送受信モジュール故障分離自己診断システムに関する。
【背景技術】
【0002】
フェイズドアレイレーダは複数の送受信モジュールを配置してアレイを構成し、各送受信モジュールの移相を調整することによりビームの方向を変化させる。
【0003】
このフェイズドアレイレーダの各送受信モジュールの故障を診断する自己診断システムが提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3)。これらの自己診断システムは、例えば送信側の装置の検査をするときは試験信号を送信し、これをモニタ用のアンテナによって受信して故障の有無を判定する。
【0004】
しかし、従来の自己診断システムは、近くでほかのレーダが同じ周波数帯を使用して運用していると試験信号とほかのレーダの信号とが干渉を起こす。この干渉のため、受信信号のレベルが低下する場合があり、送受信モジュールが故障していなくても故障と判定される場合があるという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2002−520891号公報
【特許文献2】特開平6−310929号公報
【特許文献3】特開平2−236462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、近くでほかのレーダが運用していても正確に故障の有無を判定可能な送受信モジュール故障分離自己診断システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、時間経過とともに周波数が変化するように周波数変調された試験信号を生成する励振器と、試験信号を分配する分配器と、分配された試験信号を増幅するとともに位相を変化させて送信する複数の送受信モジュールと、送受信モジュールから送信された試験信号を受信するモニタ用空中線と、モニタ用空中線によって受信した試験信号の周波数を変換する周波数変換器と、周波数変換された試験信号をディジタルデータに変換するA/D変換器と、試験信号の複数の判定ポイントにおいて評価式の値と閾値とを比較することによって送受信モジュールが故障しているかを判定する故障診断処理部と、故障診断処理判定部の指示に従って検査する送受信モジュールのON/OFFを制御する走査制御部と、を備える送受信モジュール故障分離自己診断システムを提供する。
【発明の効果】
【0008】
近くでレーダが運用されていても精度よく送受信モジュールの故障の判定を行うことができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】第1の実施形態の自己診断システムの送信側故障診断装置を表したブロック図である。
【図2】故障診断処理部の構成を示すブロック図である。
【図3】第1の実施形態の自己診断システムの受信側故障診断装置を表したブロック図である。
【図4】自己診断システムの動作を表すフローチャートである。
【図5】自己診断システムの故障判定処理の処理内容を示すフローチャートである。
【図6】試験信号と判定ポイントを示した図である。
【図7】判定ポイントの他の例を示した図である。
【図8】第2の実施形態の自己診断システムを表したブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の一実施形態に係る送受信モジュール故障分離自己診断システム(以下、自己診断システムと呼ぶ。)を、図面を参照して詳細に説明する。
【0011】
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態の自己診断システムの送信側故障診断装置を表したブロック図である。図1に示すように自己診断システムの送信側故障診断装置は、試験信号を生成する励振器101と、励振器101が生成した試験信号を各送受信モジュール103に分配する電力分配器102と、分配された試験信号を増幅し、位相をずらしてアンテナ103Aから送信するn(nは2以上の整数)基の送受信モジュール103とを備える。
【0012】
自己診断システムはさらに、送受信モジュール103が送信した試験信号を受信するアンテナであるモニタ用空中線104と、受信した試験信号の周波数を中間周波数に変換する周波数変換器105と、周波数が変換された試験信号をディジタル信号に変換するA/D変換器106と、ディジタル信号に変換された試験信号を入力して故障の有無を診断する故障診断処理部107と、診断結果を表示する表示処理部109と、診断する送受信モジュールをONにし、その他の送受信モジュールをOFFにする走査制御部108と、を備える。
【0013】
図2は、故障診断処理部107の構成を示すブロック図である。図2に示すように、故障診断処理部107は、A/D変換器106からの入力を受け入れるインターフェースである入出力インターフェース1071と、演算処理を行うCPU1072と、記憶装置であるROM1073及びRAM1074と、CPU1072からの出力信号を表示処理部109に出力する入出力インターフェース1075と、を備える。CPU1072からの制御信号は走査制御部108に対しても出力される。
【0014】
図3は、自己診断システムの受信側故障診断装置を表したブロック図である。図3に示すように自己診断システムの受信側故障診断装置は、試験信号を生成する励振器101と、励振器101が生成した試験信号を送信するアンテナであるモニタ用空中線104と、試験信号を受信して増幅するn基の送受信モジュール103と、送受信モジュール103が増幅した信号を合成する電力合成器110と、電力合成器110が合成した試験信号の周波数を中間周波数に変換する周波数変換器105と、周波数が変換された試験信号をディジタル信号に変換するA/D変換器106と、ディジタル信号に変換された試験信号を入力して故障の有無を診断する故障診断処理部107と、診断結果を表示する表示処理部109と、診断する送受信モジュールをONにし、その他の送受信モジュールをOFFにする走査制御部108と、を備える。
【0015】
図4は自己診断システムの動作を表すフローチャートである。図4に示すように、ステップ401において、自己診断システムは励振器101から試験信号を出力する。ステップ402において、自己診断システムは故障を診断する送受信モジュール103を一つ選択し、走査制御部108によって選択された送受信モジュールをONにし、その他の送受信モジュールをOFFにする。
【0016】
ステップ403において、自己診断システムは故障診断処理部107によって故障の判定処理を行う。ステップ404において、自己診断システムは全ての送受信モジュールについて故障の判定をしたかを判定する。自己診断システムは全ての送受信モジュールを判定したときはステップ405に進み、全ての送受信モジュールを判定していない時はステップ402に戻る。ステップ405において、自己診断システムは判定結果を出力して処理を終了する。
【0017】
図5は、自己診断システムの故障判定処理の処理内容を示すフローチャートである。図5に示すように、ステップ501において、自己診断システムは後述する判定ポイントを選択する。
【0018】
ステップ502において、自己診断システムは判定ポイントにおいて評価式の値が閾値以下かを判定する。自己診断システムは、評価式の値が閾値以下であった場合、ステップ505に進んで正常と判定し、閾値より大きい場合ステップ503に進む。
【0019】
ステップ503において、自己診断システムは試験信号の後述する判定ポイントを全て判定したかを判定する。自己診断システムは、全ての判定ポイントを判定したときはステップ504に進んで異常と判定し、全て判定していない時はステップ501に戻る。
【0020】
ステップ506において、自己診断システムは判定結果を記憶装置に格納し、処理を終了する。ここで、自己診断システムは判定ポイントのうち一つでも正常値である場合、その送受信モジュール103は正常であると判定する。
【0021】
図6は、試験信号と判定ポイントを示した図である。図6において、横軸は時間、縦軸は振幅を表す。点線で示したグラフ602は試験信号を表し、実線で示したグラフ601は絶対値を表す。3つの黒点603は故障を判定するタイミングである判定ポイントである。図6に示すように、励振器101は試験信号の周波数を時間経過とともに高くなるように周波数変調する。励振器101は試験信号の周波数を時間経過とともに低くなるように周波数変調してもよい。このように時間経過とともに周波数が変化するように周波数変調することをチャープ変調するという。
【0022】
ここで、チャープ変調する必要性について述べる。近くで同じ周波数を用いてほかのレーダが運用している場合、周波数変調していない波形、例えばsin波を用いると、他のレーダから放出される電波と干渉した場合、一つの判定ポイントのレベルがゼロとなるとほかの判定ポイントのレベルもゼロになる確率が高い。このため、送受信モジュールが故障していなくても、故障と判定される確率が高くなる。
【0023】
しかし、チャープ変調した場合、一つの判定ポイントにおいてレベルがゼロであっても位相が時間経過によって変化するため、他の判定ポイントではゼロとなる確率は極めて低くなる。このため、送受信モジュールが故障と誤判定される確率が低くなる。
【0024】
自己診断システムが、ある送受信モジュールが故障していると判定した場合、試験信号のパルス幅を変更して再度故障判定処理を行うように構成してもよい。パルス幅を変更して故障判定処理をやり直す処理は、複数回にすることも可能である。やり直す処理の回数を増やすほど判定精度が高くなる。
【0025】
次に判定ポイント603について説明する。図6に示した判定ポイント603は、試験信号の立ち上がりからの時間間隔がt1、t2、t3と等しくなっているが、この時間間隔は任意に変化させることができる。判定ポイントの数を増やすと判定精度は上がるが処理時間がかかるようになる。このため、判定ポイントの数は3以上5以下が望ましい。
【0026】
図7は、判定ポイントの他の例を示した図である。図7においては、判定ポイントを、試験信号の位相が180°、0°、180°となるタイミング、すなわち等しい位相のずれを有するタイミングに設定してある。試験信号はチャープ変調されているため、位相が180°、0°、180°となるタイミングに設定しても干渉によって振幅値が低下する確率が低くなる。判定ポイントの位相は任意に定めることが可能である。
【0027】
次に、評価式について説明する。評価式は例えば以下の(1)の式ようにすることができる。
【0028】
|L−L|>δ ・・・ (1)
ここで、Lは実測の振幅であり、LはROM1073に格納されている基準の振幅である。基準の振幅は、例えば事前に電波暗室などにおいて実測して求めることができる。δは閾値である。(1)を満たす場合には電波干渉があることとなる。
【0029】
また、評価式は以下の(2)式のようにすることができる。
【0030】
|θ−θ|>δ ・・・ (2)
θはRAM1074に格納されたI値とQ値とから求めた判定ポイントの位相の実測値である。θはROM1073に格納されている判定ポイントにおける基準の位相である。基準の位相は、例えば事前に電波暗室などにおいて実測して求めることができる。δは閾値である。(2)を満たす場合には電波干渉があることとなる。
【0031】
さらに、評価式は以下の(3)式のようにすることができる。判定ポイントを、例えば試験信号の位相が180°(1ポイント目)、180°(3ポイント目)のように、等しい位相を有するように設定する。
【0032】
|θ3ポイント目の実測値−θ1ポイント目の実測値|>δ ・・・ (3)
ここで、θ1ポイント目の実測値、θ3ポイント目の実測値、はそれぞれの判定ポイントにおいて、RAM1074に格納されたI値とQ値とから求めた位相の実測値である。
【0033】
電波干渉がない場合には以下の(4)式のようになるはずである。
【0034】
|θ3ポイント目の実測値−θ1ポイント目の実測値|=0° ・・・ (4)
よって、(3)を満たす場合には電波干渉があることとなる。ここで、自己診断システムは電波干渉がある場合を送受信モジュールは正常あるいは判定エラーとすることにより、誤って送受信モジュールが故障していると判定されることを回避できる。
【0035】
以上述べたように、本実施形態の自己診断システムは、試験信号をチャープ変調し、評価式と閾値との関係から送受信モジュールの故障を診断する。このため、近くでレーダが運用されていても精度よく送受信モジュールの故障の判定を行うことができるという効果がある。
【0036】
(第2の実施形態)
図8は、本実施形態の自己診断システムを表したブロック図である。図8に示すように自己診断システムは、試験信号を生成する励振器101と、励振器101が生成した試験信号を各送受信モジュール103に分配する電力分配器102と、分配された試験信号を増幅し、位相をずらしてアンテナ103Aから送信するn(nは2以上の整数)基の送受信モジュール103とを備える。
【0037】
送受信モジュール103はアンテナ103Aの前段に試験信号を分岐させる方向性結合器1031を備える。方向性結合器1031の一方の出力はアンテナ103Aに接続され、他方の出力は試験信号を合成するモニタ系電力合成器111に接続される。
【0038】
自己診断システムはさらに、モニタ系電力合成器111から入力した試験信号の周波数を中間周波数に変換する周波数変換器105と、周波数が変換された試験信号をディジタル信号に変換するA/D変換器106と、ディジタル信号に変換された試験信号を入力して故障の有無を診断する故障診断処理部107と、診断結果を表示する表示処理部109と、診断する送受信モジュールをONにし、その他の送受信モジュールをOFFにする走査制御部108と、を備える。
【0039】
本実施形態は、処理フローは第1の実施形態と同じである。
【0040】
以上述べたように、本実施形態の自己診断システムは、送受信モジュール103に方向性結合器1031を設け、試験信号を空間結合せずラインによって送受信モジュールから取り出して判定する。このため、さらに精度よく送受信モジュールの故障の判定を行うことができるという効果がある。
【符号の説明】
【0041】
101:励振器、
102:電力分配器、
103:送受信モジュール、
104:モニタ用空中線、
105:周波数変換器、
106:A/D変換器、
107:故障診断処理部、
108:走査制御部、
109:表示処理部、
110:電力合成器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
時間経過とともに周波数が変化するように周波数変調された試験信号を生成する励振器と、
前記試験信号を分配する電力分配器と、
分配された前記試験信号を増幅するとともに位相を変化させて送信する複数の送受信モジュールと、
前記送受信モジュールから送信された前記試験信号を受信するモニタ用空中線と、
前記モニタ用空中線によって受信した前記試験信号の周波数を変換する周波数変換器と、
周波数変換された前記試験信号をディジタルデータに変換するA/D変換器と、
前記試験信号の複数の判定ポイントにおいて評価式の値と閾値とを比較することによって前記送受信モジュールが故障しているかを判定する故障診断処理部と、
前記故障診断処理部の指示に従って検査する送受信モジュールのON/OFFを制御する走査制御部と、
を備える送受信モジュール故障分離自己診断システム。
【請求項2】
時間経過とともに周波数が変化するように周波数変調された試験信号を生成する励振器と、
前記試験信号を送信するモニタ用空中線と、
前記試験信号を受信して増幅する複数の送受信モジュールと、
前記送受信モジュールの出力を合成する電力合成器と、
前記電力合成器から出力された前記試験信号の周波数を変換する周波数変換器と、
周波数変換された前記試験信号をディジタルデータに変換するA/D変換器と、
前記試験信号の複数の判定ポイントにおいて評価式の値と閾値とを比較することによって前記送受信モジュールが故障しているかを判定する故障診断処理部と、
前記故障診断処理部の指示に従って検査する送受信モジュールのON/OFFを制御する走査制御部と、
を備える送受信モジュール故障分離自己診断システム。
【請求項3】
時間経過とともに周波数が変化するように周波数変調された試験信号を生成する励振器と、
前記試験信号を分配する電力分配器と、
分配された前記試験信号を増幅するとともに位相を変化させて送信するとともに方向性結合器によって分岐された前記試験信号を出力する複数の送受信モジュールと、
前記送受信モジュールからの出力を合成するモニタ系電力合成器と、
前記モニタ系電力合成器から出力された前記試験信号の周波数を変換する周波数変換器と、
周波数変換された前記試験信号をディジタルデータに変換するA/D変換器と、
前記試験信号の複数の判定ポイントにおいて評価式の値と閾値とを比較することによって前記送受信モジュールが故障しているかを判定する故障診断処理部と、
前記故障診断処理部の指示に従って検査する送受信モジュールのON/OFFを制御する走査制御部と、
を備える送受信モジュール故障分離自己診断システム。
【請求項4】
前記判定ポイントは、等しい時間間隔又は等しい位相のずれによって選ばれる請求項1乃至3のいずれか1項に記載の送受信モジュール故障分離自己診断システム。
【請求項5】
前記評価式が、判定ポイントにおける実測の振幅と基準の振幅との差である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の送受信モジュール故障分離自己診断システム。
【請求項6】
前記評価式が、判定ポイントにおける実測の位相と基準の位相との差である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の送受信モジュール故障分離自己診断システム。
【請求項7】
前記評価式が、等しい位相のずれを有する複数の判定ポイントのうち後続する判定ポイントと前記後続する判定ポイントの直前の判定ポイントの実測の位相のずれの差である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の送受信モジュール故障分離自己診断システム。
【請求項8】
前記故障診断処理部は、前記送受信モジュールが故障しているかの判定を一つの前記送受信モジュールにつき複数回行う請求項1乃至3のいずれか1項に記載の送受信モジュール故障分離自己診断システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−230413(P2010−230413A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−76839(P2009−76839)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】