説明

送液ポンプ

【課題】プランジャシールの劣化が進行しにくい構造を有する送液ポンプを提供する。
【解決手段】プランジャ3は前面側に円筒形状に突起した突起部10aを備えている。突起部10aの基端部10dは一定の曲率を有する凹状の湾曲形状になっている。ポンプヘッド8のプランジャシール10の装着部分には、プランジャシール10の突起部10aが嵌め込まれるシール挿入部8dが円筒形状の窪みとして設けられている。シール挿入部8dの開口縁部分8fは、プランジャシール10の突起部10aの基端部10dと同じ曲率を有する凸状の湾曲形状になっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプヘッド内でプランジャを摺動させて吸入口からの液の吸入と吐出口からの液の吐出を繰り返すことにより送液を行なう送液ポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的なプランジャ方式の送液ポンプについて図2(A)を用いて説明する。
ポンプボディ2の先端にポンプヘッド18が洗浄チャンバ12を挟んで装着されている。ポンプヘッド18内にはポンプ室18aが設けられており、ポンプ室18a内にプランジャ3が挿入されている。プランジャ3の基端部はポンプボディ2内に収容されたクロスヘッド4に保持されている。
【0003】
クロスヘッド4はカム機構(図示は省略)によって一方向(図において左右方向)に往復駆動され、クロスヘッド4の往復駆動に伴なってプランジャ3の先端部がポンプヘッド18内のポンプ室8a内で一直線上を摺動する。プランジャ3の先端部がポンプヘッド18内のポンプ室8a内で一直線上を摺動することにより、ポンプ室18a内への吸入口18bからの液の吸入と吐出口18cからの液の吐出が連続的に行なわれて送液が行なわれる。
【0004】
ポンプ室18aのプランジャ3が挿入されている部分に、ポンプ室18aの内壁とプランジャ3の外周との間の隙間からの液漏れを防止するプランジャシール20が装着されている。プランジャシール20は樹脂で形成され中央部に貫通孔を有するリング状の部材であり、ポンプ室18aのプランジャ3挿入部分においてその貫通孔を貫通するプランジャ3を摺動可能に保持している。このように、プランジャ方式の送液ポンプでは、樹脂製のシール部材をポンプ室のプランジャ挿入部分に装着することは一般的である(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
プランジャシール20の装着部分を図2(B)に示す。プランジャシール20は、ポンプ室18a側の面(前面)に円筒形状の突起部20aを備え、その突起部20aがポンプヘッド18のポンプボディ2側の面に窪みとして設けられたシール挿入部18dに嵌め込まれている。プランジャシール20のポンプボディ2側の面(背面)側にバックアップリング11が配置されており、バックアップリング11が洗浄チャンバ12の壁面によってポンプヘッド18側へ付勢され、これによって、プランジャシール20のフランジ状周縁部20cがポンプヘッド18とバックアップリング11により挟持されている。
【0006】
なお、図2(B)の例では、プランジャシール20の突起部20aは前面側が開口した開口溝20bを有し、ポンプ室18aからの圧力を利用してプランジャ3の保持力やポンプヘッド18の壁面との密着力を向上させてシール性能を高める構造となっている。開口溝20bはプランジャ3を周方向に取り囲むリング状の空洞である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−254686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した送液ポンプにおいては、プランジャシール20のフランジ状周縁部20cがポンプヘッド18とバックアップリング11により挟持されるため、バックアップリング11からプランジャシール20に加わる応力を逃がす構造を設ける必要があった。そのため、従来では、図2(B)の例のように、ポンプヘッド18のシール挿入部18dの開口縁部分18fをテーパ形状にするとともに、これに対応するプランジャシール20の突起部20aの基端部20bも開口縁部分18fのテーパ形状に対応したテーパ形状にし、突起部20aの基端部20bのテーパ形状を開口縁部分18fのテーパ形状よりも小さい面で形成して、両テーパ形状面の間にプランジャシール20が応力によって変形するための隙間を形成する方法が採られることがあった。
【0009】
しかし、このような構造にすると、テーパ形状の角部がプランジャシール20の表面に常に接触し、プランジャシール20を固定するための応力がこの部分に集中し、他の部分よりも劣化が進行しやすくなっていることがわかった。プランジャシール20が劣化してポンプ室18aのプランジャ3の挿入部分のシール性能が低下すると、ポンプ室18aからポンプボディ2側への液漏れが発生し、高精度な送液が不可能となる。
【0010】
そこで本発明は、プランジャシールの劣化が進行しにくい構造を有する送液ポンプを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の送液ポンプは、ポンプボディと、ポンプボディの先端部に装着され、液体を吸入するための液入口、液入口から吸入された液を貯留するためのポンプ室及びポンプ室内の液を吐出するための液出口を備えたポンプヘッドと、ポンプボディの先端部を貫通してポンプ室内に先端側が挿入されてポンプ室内で摺動するプランジャと、ポンプヘッドのポンプボディ側の面に、プランジャの外形よりも大きい内径をもってポンプ室に通じる円筒形状の窪みとして設けられたシール挿入部と、ポンプヘッド側の面にシール挿入部に嵌め込まれる円筒形状の突起部を有し、ポンプボディとポンプヘッドの間においてプランジャを摺動可能に保持してポンプ室のプランジャの挿入部分を封止するリング形状のプランジャシールと、を備え、ポンプヘッドのシール挿入部の開口縁部分はその断面形状が凸状の湾曲形状を有するとともに、プランジャシールの突起部の基端部はシール挿入部の開口縁部分に対応した凹状の湾曲形状を有し、開口縁部分と突起部の基端部とが互いに当接しているものである。
【0012】
シール挿入部の開口縁部分と突起部の基端部の両湾曲形状は円弧形状であることが好ましい。そうすれば、プランジャシールにかかる応力が最も均一に分散され、プランジャシールのさらなる長寿命化を図ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明にかかる送液ポンプでは、ポンプヘッドのシール挿入部の開口縁部分は凸状の湾曲形状を有するとともに、プランジャシールの突起部の基端部もシール挿入部の開口縁部分に対応した凹状の湾曲形状を有し、開口縁部分と突起部の基端部とが互いに当接しているので、プランジャシールの表面において応力が集中する部分がなくなり、プランジャシールの劣化の進行を遅らせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】送液ポンプの一実施例を示す図であり、(A)はポンプボディの先端側部分の断面図、(B)は(A)のポンプ室近傍を拡大して示す断面図である。
【図2】従来の送液ポンプの一実施例を示す図であり、(A)はポンプボディの先端側部分の断面図、(B)は(A)のポンプ室近傍を拡大して示す断面図である。
【図3】プランジャシールの断面における応力部分のシミュレーション結果を示す図であり、(A)は従来構造、(B)は図1の実施例の構造におけるものである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
送液ポンプの一実施例の構造を図1(A)を用いて説明する。
この実施例の送液ポンプは、ポンプボディ2の先端に洗浄チャンバ12を挟んでポンプヘッド8が装着されている。ポンプボディ2内にはクロスヘッド4が移動可能に収容されている。クロスヘッド4はバネなどの弾性体6によって常にポンプヘッド8から遠ざかる方向(図において右方向)へ押されており、クロスヘッド4の基端部側に設けられたカム(図示は省略)の周面に追従する。クロスヘッド4は回転するカムの周面を追従することによりポンプボディ2内でポンプヘッド8へ近付く方向と遠ざかる方向(図において左右方向)へ往復動する。
【0016】
プランジャ3の基端部はクロスヘッド4の先端に保持されている。プランジャ3の先端部は洗浄チャンバ12を貫通してポンプヘッド8の内部に設けられたポンプ室8aに挿入されている。プランジャ3の先端部はクロスヘッド4の往復動によりポンプ室8aの壁面に沿って摺動する。ポンプヘッド8はポンプ室8aに液を吸入するための液入口流路8bとポンプ室8aから液を押し出すための液出口流路8cを備えている。液入口流路8b上及び液出口流路8c上にはそれぞれ逆流を防止するためのチェック弁9a,9bが設けられている。
【0017】
ポンプヘッド8のポンプ室8aのプランジャ3挿入部分にプランジャシール10が装着されている。プランジャシール10及びその装着部分についての詳細は後述するが、プランジャシールは、ポンプヘッド2のポンプボディ2側の面に凹部として設けられたシール挿入部にシール挿入部に嵌め込まれる円筒形状の突起部を有し、ポンプボディ2とポンプヘッド8の間においてプランジャ3を摺動可能に保持してポンプ室8aのプランジャの挿入部分を封止している。ポンプヘッド8のシール挿入部の開口縁部分はその断面形状が凸状の湾曲形状を有するとともに、プランジャシール10の突起部の基端部はシール挿入部の開口縁部分に対応した凹状の湾曲形状を有し、開口縁部分と突起部の基端部とが互いに当接している。
【0018】
プランジャシール10のポンプボディ2側にバックアップリング11が挿入されている。バックアップリング11は洗浄チャンバ12の壁面によりポンプヘッド8側へ付勢されており、これによってプランジャシール10のフランジ状周縁部がポンプヘッド8とバックアップリング11により挟持されている。
【0019】
洗浄チャンバ12は洗浄液を流通させる流路と貫通するプランジャ3の外周面をその洗浄液によって洗浄する空間を内部に備えている。洗浄チャンバ12の内部空間のプランジャ3挿入部には、洗浄液の漏れを防止するためにプランジャ3の外周面を摺動可能に保持する洗浄シール16が設けられている。洗浄シール16の背面はポンプボディ2の壁面により支持されている。
【0020】
この送液ポンプでは、プランジャ3がポンプ室8aから遠ざかる方向(図において右方向)へ駆動されることにより、ポンプ室8a内が減圧されてチェック弁9bが閉じてチェック弁9aが開き、液入口流路8bからポンプ室8a内に液が吸入される。逆に、プランジャ3がポンプ室8a内へ挿入される方向(図において左方向)へ駆動されることにより、ポンプ室8a内が加圧されてチェック弁9aが閉じてチェック弁9bが開き、ポンプ室8aから液出口流路8cへ液が押し出される。この動作を繰り返すことにより送液が行なわれる。
【0021】
図1(B)及び(C)を用いてプランジャシール10の装着部分について説明する。
プランジャシール10は例えばポリエチレン樹脂などの弾性材料からなる。プランジャシール10はプランジャ3を貫通させるための貫通孔10eを備えてプランジャ3を摺動可能に保持する。プランジャ3は前面側に円筒形状に突起した突起部10aを備えている。突起部10aの基端部10dは一定の曲率を有する形状になっている。
【0022】
突起部10aはポンプ室8a側が開口した開口溝10aを備えている。開口溝10aはポンプ室8aの内壁とプランジャ3の外周との間から漏れてきた液を貯留するとともに、ポンプ室8aの圧力上昇をシール性能の向上に利用するために設けられている。
【0023】
ポンプヘッド8のプランジャシール10の装着部分には、プランジャシール10の突起部10aが嵌め込まれるシール挿入部8dが円筒形状の窪みとして設けられている。シール挿入部8dの開口縁部分8fは、その断面形状が凸状の湾曲形状であり、この実施例ではその好ましい例として円弧状であり、プランジャシール10の突起部10aの基端部10dと同じ曲率を有する形状になっている。
【0024】
プランジャシール10は、突起部10aがシール挿入部8dに嵌め込まれるとともに、フランジ状周縁部10cがシール挿入部8dの周囲の面8eとバックアップリング11によって挟持されて固定されている。このとき、プランジャシール10の突起部10aの外周面がシール挿入部8dの内周面に密着し、突起部10aの基端部10dがシール挿入部8dの開口縁部分8fと同じ形状の凹状の湾曲形状として、この実施例では開口縁部分8fと同じ曲率をもつ円弧状となっているので、基端部10dが開口縁部8fに密着し、さらに周縁部10cの前面がシール挿入部8dの周囲の面8eに密着する。シール挿入部8dの開口縁部分8fと突起部10aの基端部10dが同一の曲率をもつ角のない形状であるため、バックアップリング11によるプランジャシール10への応力がプランジャシール10の表面の特定部分に集中することがなく、プランジャシール10の劣化の進行が抑制される。
【0025】
図3はプランジャシール断面における応力分布のシミュレーション結果を示す図であり、(A)は従来構造、(B)は実施例の構造におけるものである。
このシミュレーション結果によれば、(A)の従来構造では、ポンプヘッドの壁面に接するプランジャシールの面のうちテーパ形状の角に当接している部分にかかる応力が最大となり、テーパ形状の角に当接する2箇所の部分の間の部分にかかる応力が最小となっている。この応力の集中により、プランジャシールに局部的な変形が生じ、プランジャシールの寿命に影響を与える。これに対し、(B)の実施例の構造ではポンプヘッドの壁面に接するプランジャシールの面の全体においてほぼ均一に応力がかかり、特定部分への応力の集中が生じておらず、(A)に見られるような局部的な変形は生じず、プランジャシールの長寿命化が図れる。
【符号の説明】
【0026】
2 ポンプボディ
3 プランジャ
4 クロスヘッド
6 弾性体
8 ポンプヘッド
8a ポンプ室
8b 液入口流路
8c 液出口流路
9a,9b チェック弁
10 プランジャシール
11 バックアップリング
12 洗浄チャンバ
16 洗浄シール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプボディと、
前記ポンプボディの先端部に装着され、液体を吸入するための液入口、前記液入口から吸入された液を貯留するためのポンプ室及び前記ポンプ室内の液を吐出するための液出口を備えたポンプヘッドと、
前記ポンプボディの先端部を貫通して前記ポンプ室内に先端側が挿入されて前記ポンプ室内で摺動するプランジャと、
前記ポンプヘッドの前記ポンプボディ側の面に、前記プランジャの外形よりも大きい内径をもって前記ポンプ室に通じる円筒形状の窪みとして設けられたシール挿入部と、
前記ポンプヘッド側の面に前記シール挿入部に嵌め込まれる円筒形状の突起部を有し、前記ポンプボディと前記ポンプヘッドの間において前記プランジャを摺動可能に保持して前記ポンプ室の前記プランジャの挿入部分を封止するリング形状のプランジャシールと、を備え、
前記ポンプヘッドの前記シール挿入部の開口縁部分はその断面形状が凸状の湾曲形状を有するとともに、前記プランジャシールの前記突起部の基端部は前記シール挿入部の開口縁部分に対応した凹状の湾曲形状を有し、前記開口縁部分と前記突起部の基端部とが互いに当接している送液ポンプ。
【請求項2】
前記両湾曲形状は円弧形状である請求項1に記載の送液ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−233455(P2012−233455A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−104216(P2011−104216)
【出願日】平成23年5月9日(2011.5.9)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】