送液装置及び送液制御方法
【課題】電解質を有する流体を流路中に送液する送液装置において、流体を一定量だけ分割して送液できるようにする。
【解決手段】電極13に電圧を印加することにより、流路10中の弁部11を疎水性から親水性に変化させて流体Fを送液し、電圧の印加を停止することにより、弁部11を疎水性に変化させて通気部14から外気を弁部11に導入して流体Fを一定量だけ分割する。
【解決手段】電極13に電圧を印加することにより、流路10中の弁部11を疎水性から親水性に変化させて流体Fを送液し、電圧の印加を停止することにより、弁部11を疎水性に変化させて通気部14から外気を弁部11に導入して流体Fを一定量だけ分割する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は送液装置に関し、特に流体を一定量だけ分割して送液することができる送液装置及び該送液装置における送液制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、化学、光学、臨床、バイオ技術等の分野において、化学実験や化学操作等を微細化するため、基板上に微細な溝やくぼみ等の流路が形成されたチップ(マイクロチップ)上に、混合、化学反応、分離、検出等、一連の工程を集積化させたμ−TAS(マイクロタス)、Lab−on−a−Chip(ラボオンチップ)等と呼ばれる化学・分析システムの開発が進められており、このように微細化された化学・分析システムでは、試料や廃液の量の削減、分析時間の大幅な短縮と効率化、省スペース、携帯性等、様々な利点が期待されている。
【0003】
しかしながら上記のように微細化された化学・分析システムでは、微細な流路中に流体を送液する必要があり、従来より使用されている、ポンプ等の外力を利用する一般的な送液装置では、流路が細くなるほど界面張力等の影響が大きくなり、流れる流体の抵抗が大きくなってしまうので、流体を流すためには大きな圧力が必要となり、この圧力により微細な流路を破損させてしまう虞があるため、流路の構造を強固なものにする必要があった。また大きな圧力を生じさせるためには、消費電力も大きくなってしまう問題があった。
【0004】
そこで、近年では微細な流路中に流体を送液するために、エレクトロウェッティング(Electrowetting:以下、EW)という現象を利用した送液装置が提案されている(特許文献1)。EWは、図12の左図に示す如く、電極E上に直接電解質水溶液が接しているときに、この液体と電極間に電圧を印加することにより、図12の右図に示す如く、液体の固液界面近傍に電極が陽電極である場合には負のイオンが、陰電極である場合には正のイオンが集まり、イオン同士が反発することによって、液体の界面張力を低下させる。すなわち左図の状態での液体と電極との接触角度θが、右図に示すように液体の界面張力が低下することによりθよりも小さい値の接触角度θ’になり、電極上の液体のいわゆる濡れ性が向上する。
【0005】
また、右図のように液面の界面張力が低下した状態から、電圧の印加をやめることで、左図に示す如く、界面近傍に集まっていたイオンが拡散して表面張力が回復することにより、前記濡れ性が低下する。
【0006】
なお上記EWの現象は、電極と電解質水溶液とが直接接触せずに、図13に示す如く、誘電膜を介している場合でも生じる。これは誘電膜が、図13に示す如く、電界が与えられることにより電極が陽電極である場合には電極側が陰極、電解質水溶液側が陽極に分極し、電極が陰電極である場合には電極側が陽極、電解質水溶液側が陰極に分極するので、誘電膜と電解質水溶液との界面でも上記電極と電解質水溶液との界面と同様のEWの現象が生じるからである。
【0007】
上記送液装置は、電極が埋め込まれ内面が疎水性の流路において、電極に電圧を印加することで上記EWの現象により流路内に流体を導いている。
【0008】
一方、上記EWの現象をインクジェットのプリンタヘッドに使用したものとして、疎水性膜で取り囲まれたノズルの先端部にノズルの出口側に進行する電場を形成して、インクの表面張力を変化させることによってインクから所定体積を有する液滴を分離して、静電気によりノズルからインクを吐出させるものがある(特許文献2)。
【特許文献1】特開2005−199231号公報
【特許文献2】特開2004−216899号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら上記のような送液装置では、電圧の印加を停止することにより流路内の流体の移動を停止することはできるものの、流路入口に隣接したいわゆる液溜から流路出口までの流路内に連続して流体が充填されてしまっている。このため、例えば上記送液装置をインクジェットプリンタのプリンタヘッドに利用する場合等には、例えば印刷用の用紙等の浸透性又は親水性を有する基材を前記流路出口に接触させたときに、流体つまりインクは、基材がインクを吸収できなくなるまで、又は液溜内のインクがなくなるまで基材に転移し続けることになる。これはいわば万年筆のような状態である。
【0010】
この場合、基材へのインクの転移を中断させるためには、万年筆を用紙から離すのと同様に、流体出口を基材から離せばよいが、微細なパターンを描く際にこのような動作をさせると例えば用紙の移動方向の微細なズレ等によってパターンの品質を損ねてしまう虞がある。
【0011】
一方、特許文献2に記載のプリンタヘッドでは、インクの表面張力を変化させることのみで液滴を分離するため、流路内で完全に液滴を分割することは困難である。
【0012】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、流路中で一定量の流体を完全に分割することができる送液装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の送液装置は、電解質を有する流体を流路中に送液する送液装置であって、
前記流路の内壁面の少なくとも一部は、該流路の入口から出口までの全体に亘って、少なくとも一つの送液を遮断する疎水性を有する弁部を除いて親水性を有し、
前記弁部に、前記流体の表面張力を減少させるための電極と、前記流体を切断するため外気を導入する通気部が設けられていることを特徴とするものである。
【0014】
本発明の送液装置は、前記電極が、正負の二極を有し、
該正負の二極の一方の電極が、前記疎水性の弁部に臨設されていることが好ましい。
【0015】
この場合、前記正負の二極の電極が、前記流体の流れ方向に前後して配置されていることが好ましい。
【0016】
また本発明の送液装置は、前記電極と前記流路とを、誘電膜によって隔てることができる。
【0017】
また本発明の送液装置は、前記出口の外縁部が疎水性を有することが好ましい。
【0018】
また本発明の送液装置は、前記流路の出口区間の内壁及び前記出口の外縁部が疎水性を有するものであり、
前記出口区間及び前記外縁部のうち前記出口に隣接する周縁部に、前記流体の表面張力を減少させるための第二の電極が設けられていることが好ましい。
【0019】
また本発明の送液装置は、前記出口を有する流路出口部が、装置本体から突出していることが好ましい。
【0020】
この場合、前記流路出口部が、弾性部材で形成されていることが好ましい。
【0021】
なお流路出口部は、流路が変形しなければ、例えば流路の出口付近のみ等、一部を弾性部材で形成してもよいし、全部を弾性部材で形成してもよい。
【0022】
また、前記流路出口部が前記流体の流れ方向に弾性を有するものであってもよい。
【0023】
また本発明の送液装置は、前記流体を、機能性粒子を分散させた液体とすることができる。
【0024】
本発明の送液制御方法は、上記送液装置において、
前記電極に電圧を印加することにより、前記流路中の前記弁部を疎水性から親水性に変化させて前記流体を送液し、電圧の印加を停止することにより、前記弁部を疎水性に変化させて前記通気部から外気を該弁部に導入して前記流体を一定量だけ分割することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、流路の内壁面の少なくとも一部は、流路の入口から出口までの全体に亘って、少なくとも一つの送液を遮断する疎水性を有する弁部を除いて親水性を有し、弁部に、流体の表面張力を減少させるための電極と、流体を切断するため外気を導入する通気部が設けられているので、電極に電圧を印加することにより、弁部を疎水性から親水性に変化させて流体を送液し、電圧の印加を停止することにより、弁部を疎水性に変化させて通気部から外気を弁部に導入して流体の送液を停止することができ、流路中の弁部において弁部に導入した外気により流路中の流体を分割することができる。
【0026】
このように流路中で流体を分割、つまり切ることができるので、流路の容積を調整することで、任意の量の流体を分割して送液することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明にかかる一実施形態の送液装置1について、図面を参照して詳細に説明する。図1(a)は本実施形態の送液装置1の概略構成図、図1(b)は(a)の弁部拡大図、図2は図1の送液装置1の動作の説明図である。
【0028】
本実施形態の送液装置1は、図1(a)に示す如く、電解質を有する流体Fを流路10中に送液するものであり、流路10は、入口10aから後述の弁部11までの内壁面12a及び弁部11から出口10bまでの内壁面12bすなわち入口10aから出口10bまでの弁部11を除く内壁面12が親水性を有している。流路10は毛管現象が起こる程度の微細な径又は断面積を有するものであり、流路10の断面形状は、溝状であっても円や多角形等の管状であってもよい。また流路10は弁部11を除く内壁面12の少なくとも一部が入口10aから出口10bまで連続して親水性を有していれば、例えば内壁面12全体を親水性にしてもよいし、底面のみ等、一面のみを親水性にしてもよい。
【0029】
弁部11(図中斜線)は、内壁面12aと内壁面12bの間隙部分であって、流路10中の送液を遮断するものであり、流路10中に少なくとも1つ設けられ、図1(b)に示す如く、一部の流路10区間の内壁面を全て疎水性にすることによって構成されている。また弁部11の流路10区間すなわち流れ方向の寸法(以下、ギャップという)は、流路10の形状によって決定される。
【0030】
弁部11には、流体Fの表面張力を減少させるための電極13が設けられている。電極13は例えば金やカーボン等で構成された正負二極からなり、この二極は、図1(a)に示す如く、流体Fの流れ方向に前後して配置され、本実施形態では正極13aが疎水性の弁部11に臨設され、弁部11よりも流路10の入口10a側の内壁面12aの下側に負極13bが配置されている。ここで「正極13aが疎水性の弁部11に臨設され」とは、正極13aが必ずしも弁部11(斜線部分)の全面積を覆うことを意味せず、正極13aが弁部11の少なくとも内壁面12aから内壁面12bに向かう方向の全長に亘って存在することを意味する。
【0031】
つまり弁部11は、図1(b)に示す如く、流路10において親水性の内壁面12aと内壁面12bとの間隙に臨む正極13aの表面に疎水性の被膜を施すことにより形成することができる。このとき疎水性の被膜は疎水性誘電膜とすることができる。なお正極13aの表面全体に疎水性の被膜を施しても良い。そしてこの電極13は、電極13に接続されているスイッチをON又はOFFすることにより、電極13に電圧を印加したり、電圧の印加を停止したりすることができる。
【0032】
さらに弁部11には、流体Fを切断するため外気を導入する通気部14が設けられている。通気部14は、図1(a)、(b)に示す如く、弁部11の流路10区間内と連通する空気孔を有する溝や管で形成され、弁部11に確実に外気を導入するために、図1(a)に示す如く、弁部11の両側から外気を導入すべく弁部11に2つ設けられている。また通気部14は、弁部11のギャップよりも大きな径で形成されている。なお弁部11に外気が導入できれば、ギャップと同じ径であっても、小さい径であってもよい。また通気部14は、流路10中を流体Fが流れるときに、空気孔に流体Fが流れ込まないように、空気孔の径は流路10の径よりも小さく、かつ、内面は疎水性を有している。
【0033】
このようにして本実施形態の送液装置1は構成されている。そして次にこの送液装置1の動作について説明する。
【0034】
送液装置1は、図2(a)に示す如く、先ずスイッチをOFFにした状態すなわち電極13に電圧を印加しない状態で、流路10の入口10aから流体Fを導入する。すると入口10aから入った流体Fは、親水性の内壁面12aを有する流路10中を毛管現象によって自律的に円滑に伝わって、弁部11の手前で停止する。
【0035】
そこで図2(b)に示す如く、スイッチをON、すなわち電極13に電圧を印加し、[背景]の項で説明したEWの現象(図12、図13参照)によって弁部11を疎水性から親水性に変化させる。すると流体Fは親水性の弁部11を通過し、親水性の内壁面12bを有する流路10内に流れ込んで毛管現象によってそのまま流路10の出口10bにまで進む。
【0036】
次に図2(c)に示す如く、スイッチをOFF、すなわち電圧の印加を停止することにより弁体11を親水性から疎水性に回復させる。すると流体Fは弁体11の手前で移動が停止し、通気部14から弁部11に外気が導入されて、この外気によって流体Fが完全に分割される。言い換えると流路10中で連続した流体Fを弁部11で切ることができる。
【0037】
このように流路10中で流体Fを切ることができるので、流路10の容積を調整することで、任意の量の流体Fを分割して送液することが可能となる。また内壁面が親水性である流路10においては、流体Fは流路10中を毛管現象によって自律的に進むので、送液装置1では流体を移動させるための外部からの圧力や熱、電場等の力を必要としない。また弁部11においても殆ど電流が流れないため、弁部11で消費する電力は非常に小さい。よって送液装置1は省エネルギー性に優れている。
【0038】
さらに送液装置1では、電解質を含む流体であれば特に制約条件がないため、様々な機能性液体を送液することができる。
【0039】
なお本実施形態の送液装置1では、電極13を上記のように流体Fの流れ方向に前後して配置したが、本発明はこれに限られるものではない。ここで図3に別の実施形態の送液装置1’の概略構成図を示す。本実施形態の送液装置1’では、図3(a)に示す如く、弁部11において正極13aと負極13bとを流体Fの流れ方向に対して並列に配置する。このとき正極13a及び負極13bは、図3(b)に示す如く、疎水性誘電膜で構成された弁部11に少なくとも一部が接するように配設される。
【0040】
この送液装置1’では、電極13に電圧が印加されると、図3(b)に示す如く、正極13aと接している部分の弁部11と流体Fとの界面近傍に負のイオンが集まり、負極13bと接している部分の弁部11と流体Fとの界面近傍に正のイオンが集まって、それぞれの部分においてEWの現象が生じることにより疎水性が親水性となり流体Fが通過する。
【0041】
次に上述した送液装置1を利用したインクジェットプリンタのプリンタヘッド2について説明する。図4は本実施形態のプリンタヘッド2の動作の説明図である。なお図4において弁部11に設けられた電極13やスイッチ等は図示を省略し、送液装置1と同様の箇所は同符号で示して説明を省略する。また便宜上、流体の流れ方向の上流側を上方、下流側を下方として説明する。
【0042】
本実施形態のプリンタヘッド2は、上述した実施形態の送液装置1の流路10の入口10aに、上方から下方に向かうにつれて開口径が小さくなる略円錐状のインク溜20の排出口を連結して構成されている。なおこのときインク溜20には流体Fとして電解質を含む水溶性のインクが充填されている。
【0043】
まずインク溜20に充填されたインクiは、図4(a)に示す如く、インク溜20から入口10aを通って流路10a中に導入される。そして送液装置1と同様に親水性の流路10中を毛管現象によって自律的に円滑に伝わって、弁部11の手前で停止する。ここで図示しない電極13に電圧を印加することによって弁部11を疎水性から親水性に変化させると、インクiは、図4(b)に示す如く、親水性の弁部11を通過し、毛管現象によってそのまま流路10の出口10b側の親水性の流路10に流れ込む。
【0044】
次に電圧の印加を停止することにより弁体11を親水性から疎水性に回復させる。すると図4(c)に示す如く、インクiは弁体11の手前で移動が停止し、通気部14から弁部11に外気が導入されて、この外気によって流体Fが分割される。このとき流路10の出口10bから染み出したインクiに紙3を接触させると、インクiは紙3に流れ込み、弁部11以降のインクiを紙3に転移することができる。
【0045】
このように上記プリンタヘッド2では、EWの現象を使用しているため、電解質を有する流体であれば水性液体のインクiを使用することができるので、インクiが転移した印刷物がその用途を終了して破棄されるときには、油性液体と比較して環境への負荷を小さく抑えることができる。
【0046】
また上記実施形態の送液装置1と同様に、流路10中でインクiを切ることができるので、流路10の容積を調整することで、任意の量のインクiを分割して送液することが可能となる。従って紙3に任意の量のインクiを転移させることができる。
【0047】
一方、上記のようにEWの現象を印刷機器に利用するためには、例えば「印刷画像の綺麗さ」に関係する「液体の移動量」として0.3秒で5〜20plの性能を目標とし、「印刷速度」に対応する「液体の移動速度」として液体を0.3秒で滴下可能であることを目標としてもよい。液体の移動速度は、流路の形状により異なるが、流路長さを短くすることにより液体が滴下されるまでの応答時間を短縮することができる。また流路の親水性をより良くすることにより流速を早くすることもできる。そして本願発明者は、上記性能を満たす印刷機器用の送液装置としての印字装置4を提案した。ここで図5に印字装置4の(a)分解斜視図、(b)正面図、(c)主要部A拡大上面図を示す。
【0048】
印字装置4は、図5(a)に示す如く、まずガラス基板51上に金(Au)電極51aをスパッタし、正負の電極51a−1、51a−2を、それぞれ流体Fの流れ方向に前後して狭い間隔を隔てて配置した。
【0049】
そしてAu電極51aがスパッタされたガラス基板51の上全面を誘電体であるシリコーンゴム52で50μm被膜して、その上に正負の電極51a−1、51a−2部分を覆う疎水性誘電膜として旭硝子社製のサイトップ(登録商標)53を5μm被膜し、さらにその上に流路60の親水性の内壁面として3μmのアルミニウム(Al)54をスパッタした。このときアルミニウム54と正負の電極51a−1、51a−2とはシリコーンゴム52及びサイトップ(登録商標)53で隔てられているため電気的な導通はなく、電流が流れないので、アルミニウム54は電気的な機能を持たない。
【0050】
またシリコーンゴム52とサイトップ(登録商標)53の二層によって誘電膜が形成されるが、この誘電膜は表面に多くの電荷が誘導されるとEWによる効果が大きくなるため、誘電膜は誘電率の大きい材料で形成することが好ましい。同時に、誘導される電荷量が多くなる条件、すなわち高い電圧で機能できるように、絶縁耐圧が高い材料で形成することが好ましい。
【0051】
またアルミニウム54には、図5(c)に示す如く、正の電極51a−1の上になる一部に流体の流れ方向の幅が150μmのギャップ54aを形成した。このギャップ54aには、アルミニウム54の下に位置する疎水性誘電膜のサイトップ(登録商標)53が臨むため、流路60の内壁面は親水性の区間つまりアルミニウム54と疎水性の区間つまりサイトップ(登録商標)53とが存在し、この疎水性の区間が弁部61となる。そして以上をまとめてガラス基板チップ5とする。
【0052】
次にシリコーンゴムの一種であるポリジメチルシロキサン(PDMS)基板55について説明する。PDMS基板55は、図5(a)に示したように、流路60と弁部61に外気を導入する通気部64としての空気抜き経路とが溝状に形成された疎水性のシートである。そして、図5(a)では図示の都合上PDMS基板55を上下面逆に記載しているが、図5(b)に示す如く、PDMS基板55の溝状の流路60が形成されている面をガラス基板チップ5に密着されることにより印字装置4としての流路60を形成した。
【0053】
なお空気抜き経路の幅は、流体の逆流を防ぐために流路60の幅よりも小さく形成し、流路60の溝と空気抜き経路の溝とが交差する箇所が、上述の弁部61上に位置するようにした。なお流路60の入口60aには容量を大きくしたインク溜60’を連結して形成した。以上のように印字装置4を形成した。
【0054】
そしてこの印字装置4の流路60中を送液する電解質を有する流体は、0.1M塩化カリウム(KCl)水溶液とし、この水溶液を吸収する基材としてはインクジェット用紙を使用した。
【0055】
上記のように構成した印字装置4は、正負の電極51a−1、51a−2に電圧を印加及び該印加を停止することにより、上記実施形態のプリンタヘッド2と同様の動作をする。
【0056】
そして流路60の幅wを25.5μm、高さhを2.7μm、入口60aから出口60bまでの長さLを300μmとして、正負の電極51a−1、51a−2に電圧を印加した状態すなわち流路60の内壁面を親水性として流路60に上記水溶液を流す実験を行った。この結果、毛管現象によって21plの上記水溶液を送液することができた。このとき送液に要した時間は0.12秒であった。
【0057】
また上記と同様に流路60の内壁面を親水性にし、毛管現象によって49nlの黒色水溶性染料を加えた液体を、出口60bからインクジェット用紙に転移させる実験を行った。この結果、φ950μmのドットで前記液体をインクジェット用紙に転移させることができた。
【0058】
また弁部61により流路60中で水溶液を所定量に分割し、紙に転移させる実験を行った。この結果、弁部61により分割された水溶液つまり弁部61より下流側に流路容積である6nlの水溶液を紙に転移させることができた。このときの印加電圧は200V、電流はμm以下であった。
【0059】
これにより印字装置4において、目標とする性能を満たし、かつ弁部61によって流路60中で一定量の流体を完全に分割して出口60bから排出できることが確認できた。
【0060】
次に図6に別の実施形態の印字装置を示す。なお本実施形態の印字装置は、上述した実施形態のプリンタヘッド又は印字装置4と略同様の構成であるため、同じ箇所は同符号で示して説明を省略し、異なる箇所についてのみ説明する。
【0061】
上述した実施形態のプリンタヘッド2又は印字装置4においては、インクジェット用紙等の紙3を、流路10、60の出口10b、60bに接触させて、インクiを紙3に転移させるときに、紙3と接触する出口10b、60bの外縁部が親水性を有する場合には、この外縁部がインクiで濡れてしまい、弁部11、61にて一定量に分割されたインクiを、正確な量だけ紙3に転移させるのは困難である。
【0062】
そこで本実施形態の印字装置は、図6に示す如く、上述した実施形態のプリンタヘッド2又は印字装置4の紙3と接触する出口10b、60bの外縁部7を疎水性誘電膜で被覆している。こうすることにより外縁部7はインクiを弾くのでインクiで濡れることが略なくなり、弁部11、61にて一定量に分割されたインクiを正確な量で確実に紙3に転移させることができる。
【0063】
次に図7に別の実施形態の印字装置、図8に第二の電極9の斜視図の一例を示す。なお本実施形態の印字装置も、上述した実施形態のプリンタヘッド又は印字装置4と略同様の構成であるため、同じ箇所は同符号で示して説明を省略し、異なる箇所についてのみ説明する。
【0064】
上述した実施形態のプリンタヘッド2又は印字装置4においては、インクジェット用紙等の紙3を、流路10、60の出口10b、60bに接触させて、インクiを紙3に転移させるときに、流路10、60内で一定量に分割されたインクiが紙3に全て転移せずに出口10b、60b付近に残ってしまう場合がある。このインクiが残る可能性のある区間を出口区間と呼ぶが、出口区間の長さは、インクiの粘度や表面張力、流路10、60の大きさや親水性、紙3の濡れ性等の因子により変動する。
【0065】
そこで本実施形態の印字装置は、図7に示す如く、弁部11、61よりも出口10b,60b側の親水性を有する一定区間Bを除いて出口10b、60bに隣接する流路10、60の出口区間の内壁8a、及び出口10b、60bの外縁部8を疎水性誘電膜で被覆して、出口区間の内壁8a及び外縁部8のうち出口10b、60bに隣接する周縁部8bに、インクiの表面張力を減少させるための弁部11、61に設けられた電極13、51a−1、2とは別に、正負の二極からなる第二の電極9a、9bを設けている。
【0066】
第二の電極9a、9bは、例えば図8の左図に示す如く、インクiの流れ方向に沿って2つに分割された角柱状に構成され、一方を正の電極9a−1、他方を負の電極9b−1とすることができる。また図8の右図に示す如く、インクiの流れ方向に沿って2つに分割された円柱状に構成され、一方を正の電極9a−2、他方を負の電極9b−2とすることもできる。
【0067】
上記のように構成された印字装置では、図7においてインクiが出口区間を通過するときには電極9a、9bに電圧を印加して、電極9a、9bと接している出口区間の内壁8a及び周縁部8bを親水性にしておき、図示しない紙等の吸収性の被転移基材を出口10b、60bに接触させることにより、弁部11、61で一定量に分割されたインクiを被転移基材に転移させる。このとき出口10b、60b付近の流路10、60内にインクiが残留している場合には、前記電圧の印加を停止して内壁8a及び周縁部8bを親水性から疎水性に変化させる。
【0068】
これにより残留していたインクiは濡れ性の差によって被転移基材に転移するので、流路10、60内で一定量に分割されたインクiを被転移基材に完全に転移させることができる。なおことのき周縁部8bを除いた外縁部8は、常に疎水性を有しているので、上記実施形態と同様に、外縁部8がインクiを弾きインクiで濡れることが略ないため、弁部11、61にて一定量に分割されたインクiを正確な量で確実に被転移基材に転移させることができる。
【0069】
次に図9に別の実施形態のプリンタヘッドの概略模式図を示す。なお本実施形態のプリンタヘッドは、上述した実施形態のプリンタヘッドと略同様の構成であるため、同じ箇所は同符号で示して説明を省略し、異なる箇所についてのみ説明する。
【0070】
本実施形態のプリンタヘッド2’は、図9(a)に示す如く、出口10bを有する流路出口部10’が、印刷装置100本体から突出している。具体的には、例えばプリンタヘッド2’本体の上端外周面に鍔部21を設け、この鍔部21の下端面が、開口を有する印刷装置100本体の支持板100aに当接することにより、印刷装置100がプリンタヘッド2’を支持するように構成することができる。このときプリンタヘッド2’内部のインク溜20に、印刷装置100に設けられ、インクiを供給するインク供給路20aが接続される。
【0071】
これにより出口10bが平坦面に位置するときよりも、インクiを転移させる紙3と出口10bとを確実に接触させることができる。なお流路出口部10’の先端外周を、図9(a)に示す如く、斜めに切り取って先鋭形状とすることにより出口10bが紙3にくい込むような効果を持たせることができる。
【0072】
また上記流路出口部10’は、例えばゴム等の弾性部材で形成してもよい。このとき流路出口部10’は、流路10が変形しなければ、例えば流路10の出口10b付近のみ、つまり一部を弾性部材で形成してもよいし、全部を弾性部材で形成してもよい。こうすることにより流路出口部10’は柔軟に変形可能となるので、出口10bと紙3とがより接触し易くなる。
【0073】
また上記流路出口部10’は、出口10bがインクiの流れ方向に弾性を有するものであってもよい。具体的には、例えば図9(b)に示す如く、プリンタヘッド2’本体の下側外周面に第二の鍔部22を設け、この第二の鍔部22の上端面と支持板100aの下端面との間にばね部材2aを配設することができる。このときインク供給路20aは弾性を有するパイプ等で形成する。これにより流路出口部10’を紙3に圧着させることができるので、出口10bと紙3とをより確実に接触させることができる。
【0074】
また例えば図9(c)に示す如く、上記ばね部材2aの代わりにゴム等の弾性部材2bを配設してもよい。この場合、弾性部材2bが通気部14による通気を阻害しないように、弾性部材2bを多孔性を有するものとしたり、通気経路をもつ形状にしたりする。例えば図9(c)に示す如く、弾性部材2bの内面と通気部14の開口との間に、外気と通じる間隙を設けてもよい。
【0075】
次に上述した実施形態のプリンタヘッド2、2’の印刷装置への実装例について説明する。ここで図10にプリンタヘッド2、2’を実装した印刷装置のイメージ斜視図、図11に図10の印刷装置の正面図を示す。
【0076】
図10、図11の印刷装置100では、複数のプリンタヘッド2、2’の流路出口を回転自在に配置された転写ドラム101の全面上に配設し、転写ドラム101の下方から基材103を支持する回転体102によってプリンタヘッド2、2’と基材103は相対速度ゼロで一定時間接するようにされている。そしてプリンタヘッド2、2’の流路出口は図11に示す如く、基材103に接しながら一定速度で回転する。このとき各プリンタヘッド2、2’の電極へ電圧を印加したり停止したりすることによって、図10の左図や右図に示す如く、印刷パターンを制御する。
【0077】
なお本実施形態では複数のプリンタヘッド2、2’を転写ドラム101に配設したが、例えば平面上の転写体に配設してもよい。この場合プリンタヘッド2、2’の流路出口は、一定時間基材103 と接触した状態を保った後に退避して、基材103が搬送され、必要ならば再度この工程が繰り返される。
【0078】
また上記実施形態では、プリンタヘッド2、2’を面状に配設したが、例えばラインインクジェットプリンタのように、基材103の幅方向全体に対応するように、複数のプリンタヘッド2、2’の流路出口を線状に配置してもよい。この場合、プリンタヘッド2、2’と基材103とは、プリンタヘッド2、2’の配列方向と直交する方向に相対移動し、一回の相対移動で基材102全体を走査可能とする。なお転移量を増やすために2回以上走査してもよい。
【0079】
また例えばシリアルインクジェットプリンタにように、数mm〜数十mmの長さで複数のプリンタヘッド2、2’の流路出口を線状に配置してもよい。この場合、プリンタヘッド2、2’と基材103とは、プリンタヘッド2、2’の配列方向と直交する方向に相対移動し、一回の相対移動で基材103の一部しか走査できないので、走査毎に、プリンタヘッド2、2’を基材103に対して未走査位置まで移動させて次回の走査をさせる。
【0080】
なお流路中に送液する流体を、機能性粒子を分散させた液体とした場合には、例えば上記と同様にして、DNAチップ、プロテインチップ、細胞チップ等に使用するパターニング装置に適用することができる。なおこの液体を水性液体とすることにより、機能性材料をパターニングしたデバイスが、その用途を終了して破棄される際、溶媒が蒸発する場合にはその途中の工程においても、油性液体と比較して環境への負荷を小さく抑えることができる。
【0081】
なお上述した全ての実施形態は、電極として正負の二極からなる二電極系を採用しているが、正極一流体間の電位差及び負極一流体間の電位差を把握して最適な電圧制御を行うため、作用電極、対向電極及び参照電極を用いた三電極系を採用することもできる。この場合、例えば弁部に臨設する電極として作用電極、他方の電極として対向電極、さらに流体に接触する任意の位置に参照電極を配置すること等が考えられる。
【0082】
本発明の送液装置及び該送液装置における送液制御方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】(a)送液装置の概略構成図、(b)弁部拡大図
【図2】送液装置の動作の説明図
【図3】別の実施形態の送液装置の概略構成図
【図4】プリンタヘッドの動作の説明図
【図5】印字装置の(a)分解斜視図、(b)正面図、(c)主要部A拡大上面図
【図6】別の実施形態の印字装置
【図7】さらに別の実施形態の印字装置
【図8】第二の電極の斜視図の一例
【図9】別の実施形態のプリンタヘッドの概略模式図
【図10】プリンタヘッドを実装した印刷装置のイメージ斜視図
【図11】図10の印刷装置の正面図
【図12】エレクトロウェッティング現象の説明図(その1)
【図13】エレクトロウェッティング現象の説明図(その2)
【符号の説明】
【0084】
1、1’ 送液装置
10、60 流路
10a、60a 入口(流路入口)
10b、60b 出口(流路出口)
11、61 弁部(疎水性)
12a、12b 内壁面(親水性)
13、51a 電極
13a、51a−1 正の電極
13b、51a−2 負の電極
14、64 通気部
2、2’ プリンタヘッド
20、60’ インク溜
3 紙(被転写基材)
4 印字装置
F 流体
i インク
【技術分野】
【0001】
本発明は送液装置に関し、特に流体を一定量だけ分割して送液することができる送液装置及び該送液装置における送液制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、化学、光学、臨床、バイオ技術等の分野において、化学実験や化学操作等を微細化するため、基板上に微細な溝やくぼみ等の流路が形成されたチップ(マイクロチップ)上に、混合、化学反応、分離、検出等、一連の工程を集積化させたμ−TAS(マイクロタス)、Lab−on−a−Chip(ラボオンチップ)等と呼ばれる化学・分析システムの開発が進められており、このように微細化された化学・分析システムでは、試料や廃液の量の削減、分析時間の大幅な短縮と効率化、省スペース、携帯性等、様々な利点が期待されている。
【0003】
しかしながら上記のように微細化された化学・分析システムでは、微細な流路中に流体を送液する必要があり、従来より使用されている、ポンプ等の外力を利用する一般的な送液装置では、流路が細くなるほど界面張力等の影響が大きくなり、流れる流体の抵抗が大きくなってしまうので、流体を流すためには大きな圧力が必要となり、この圧力により微細な流路を破損させてしまう虞があるため、流路の構造を強固なものにする必要があった。また大きな圧力を生じさせるためには、消費電力も大きくなってしまう問題があった。
【0004】
そこで、近年では微細な流路中に流体を送液するために、エレクトロウェッティング(Electrowetting:以下、EW)という現象を利用した送液装置が提案されている(特許文献1)。EWは、図12の左図に示す如く、電極E上に直接電解質水溶液が接しているときに、この液体と電極間に電圧を印加することにより、図12の右図に示す如く、液体の固液界面近傍に電極が陽電極である場合には負のイオンが、陰電極である場合には正のイオンが集まり、イオン同士が反発することによって、液体の界面張力を低下させる。すなわち左図の状態での液体と電極との接触角度θが、右図に示すように液体の界面張力が低下することによりθよりも小さい値の接触角度θ’になり、電極上の液体のいわゆる濡れ性が向上する。
【0005】
また、右図のように液面の界面張力が低下した状態から、電圧の印加をやめることで、左図に示す如く、界面近傍に集まっていたイオンが拡散して表面張力が回復することにより、前記濡れ性が低下する。
【0006】
なお上記EWの現象は、電極と電解質水溶液とが直接接触せずに、図13に示す如く、誘電膜を介している場合でも生じる。これは誘電膜が、図13に示す如く、電界が与えられることにより電極が陽電極である場合には電極側が陰極、電解質水溶液側が陽極に分極し、電極が陰電極である場合には電極側が陽極、電解質水溶液側が陰極に分極するので、誘電膜と電解質水溶液との界面でも上記電極と電解質水溶液との界面と同様のEWの現象が生じるからである。
【0007】
上記送液装置は、電極が埋め込まれ内面が疎水性の流路において、電極に電圧を印加することで上記EWの現象により流路内に流体を導いている。
【0008】
一方、上記EWの現象をインクジェットのプリンタヘッドに使用したものとして、疎水性膜で取り囲まれたノズルの先端部にノズルの出口側に進行する電場を形成して、インクの表面張力を変化させることによってインクから所定体積を有する液滴を分離して、静電気によりノズルからインクを吐出させるものがある(特許文献2)。
【特許文献1】特開2005−199231号公報
【特許文献2】特開2004−216899号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら上記のような送液装置では、電圧の印加を停止することにより流路内の流体の移動を停止することはできるものの、流路入口に隣接したいわゆる液溜から流路出口までの流路内に連続して流体が充填されてしまっている。このため、例えば上記送液装置をインクジェットプリンタのプリンタヘッドに利用する場合等には、例えば印刷用の用紙等の浸透性又は親水性を有する基材を前記流路出口に接触させたときに、流体つまりインクは、基材がインクを吸収できなくなるまで、又は液溜内のインクがなくなるまで基材に転移し続けることになる。これはいわば万年筆のような状態である。
【0010】
この場合、基材へのインクの転移を中断させるためには、万年筆を用紙から離すのと同様に、流体出口を基材から離せばよいが、微細なパターンを描く際にこのような動作をさせると例えば用紙の移動方向の微細なズレ等によってパターンの品質を損ねてしまう虞がある。
【0011】
一方、特許文献2に記載のプリンタヘッドでは、インクの表面張力を変化させることのみで液滴を分離するため、流路内で完全に液滴を分割することは困難である。
【0012】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、流路中で一定量の流体を完全に分割することができる送液装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の送液装置は、電解質を有する流体を流路中に送液する送液装置であって、
前記流路の内壁面の少なくとも一部は、該流路の入口から出口までの全体に亘って、少なくとも一つの送液を遮断する疎水性を有する弁部を除いて親水性を有し、
前記弁部に、前記流体の表面張力を減少させるための電極と、前記流体を切断するため外気を導入する通気部が設けられていることを特徴とするものである。
【0014】
本発明の送液装置は、前記電極が、正負の二極を有し、
該正負の二極の一方の電極が、前記疎水性の弁部に臨設されていることが好ましい。
【0015】
この場合、前記正負の二極の電極が、前記流体の流れ方向に前後して配置されていることが好ましい。
【0016】
また本発明の送液装置は、前記電極と前記流路とを、誘電膜によって隔てることができる。
【0017】
また本発明の送液装置は、前記出口の外縁部が疎水性を有することが好ましい。
【0018】
また本発明の送液装置は、前記流路の出口区間の内壁及び前記出口の外縁部が疎水性を有するものであり、
前記出口区間及び前記外縁部のうち前記出口に隣接する周縁部に、前記流体の表面張力を減少させるための第二の電極が設けられていることが好ましい。
【0019】
また本発明の送液装置は、前記出口を有する流路出口部が、装置本体から突出していることが好ましい。
【0020】
この場合、前記流路出口部が、弾性部材で形成されていることが好ましい。
【0021】
なお流路出口部は、流路が変形しなければ、例えば流路の出口付近のみ等、一部を弾性部材で形成してもよいし、全部を弾性部材で形成してもよい。
【0022】
また、前記流路出口部が前記流体の流れ方向に弾性を有するものであってもよい。
【0023】
また本発明の送液装置は、前記流体を、機能性粒子を分散させた液体とすることができる。
【0024】
本発明の送液制御方法は、上記送液装置において、
前記電極に電圧を印加することにより、前記流路中の前記弁部を疎水性から親水性に変化させて前記流体を送液し、電圧の印加を停止することにより、前記弁部を疎水性に変化させて前記通気部から外気を該弁部に導入して前記流体を一定量だけ分割することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、流路の内壁面の少なくとも一部は、流路の入口から出口までの全体に亘って、少なくとも一つの送液を遮断する疎水性を有する弁部を除いて親水性を有し、弁部に、流体の表面張力を減少させるための電極と、流体を切断するため外気を導入する通気部が設けられているので、電極に電圧を印加することにより、弁部を疎水性から親水性に変化させて流体を送液し、電圧の印加を停止することにより、弁部を疎水性に変化させて通気部から外気を弁部に導入して流体の送液を停止することができ、流路中の弁部において弁部に導入した外気により流路中の流体を分割することができる。
【0026】
このように流路中で流体を分割、つまり切ることができるので、流路の容積を調整することで、任意の量の流体を分割して送液することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明にかかる一実施形態の送液装置1について、図面を参照して詳細に説明する。図1(a)は本実施形態の送液装置1の概略構成図、図1(b)は(a)の弁部拡大図、図2は図1の送液装置1の動作の説明図である。
【0028】
本実施形態の送液装置1は、図1(a)に示す如く、電解質を有する流体Fを流路10中に送液するものであり、流路10は、入口10aから後述の弁部11までの内壁面12a及び弁部11から出口10bまでの内壁面12bすなわち入口10aから出口10bまでの弁部11を除く内壁面12が親水性を有している。流路10は毛管現象が起こる程度の微細な径又は断面積を有するものであり、流路10の断面形状は、溝状であっても円や多角形等の管状であってもよい。また流路10は弁部11を除く内壁面12の少なくとも一部が入口10aから出口10bまで連続して親水性を有していれば、例えば内壁面12全体を親水性にしてもよいし、底面のみ等、一面のみを親水性にしてもよい。
【0029】
弁部11(図中斜線)は、内壁面12aと内壁面12bの間隙部分であって、流路10中の送液を遮断するものであり、流路10中に少なくとも1つ設けられ、図1(b)に示す如く、一部の流路10区間の内壁面を全て疎水性にすることによって構成されている。また弁部11の流路10区間すなわち流れ方向の寸法(以下、ギャップという)は、流路10の形状によって決定される。
【0030】
弁部11には、流体Fの表面張力を減少させるための電極13が設けられている。電極13は例えば金やカーボン等で構成された正負二極からなり、この二極は、図1(a)に示す如く、流体Fの流れ方向に前後して配置され、本実施形態では正極13aが疎水性の弁部11に臨設され、弁部11よりも流路10の入口10a側の内壁面12aの下側に負極13bが配置されている。ここで「正極13aが疎水性の弁部11に臨設され」とは、正極13aが必ずしも弁部11(斜線部分)の全面積を覆うことを意味せず、正極13aが弁部11の少なくとも内壁面12aから内壁面12bに向かう方向の全長に亘って存在することを意味する。
【0031】
つまり弁部11は、図1(b)に示す如く、流路10において親水性の内壁面12aと内壁面12bとの間隙に臨む正極13aの表面に疎水性の被膜を施すことにより形成することができる。このとき疎水性の被膜は疎水性誘電膜とすることができる。なお正極13aの表面全体に疎水性の被膜を施しても良い。そしてこの電極13は、電極13に接続されているスイッチをON又はOFFすることにより、電極13に電圧を印加したり、電圧の印加を停止したりすることができる。
【0032】
さらに弁部11には、流体Fを切断するため外気を導入する通気部14が設けられている。通気部14は、図1(a)、(b)に示す如く、弁部11の流路10区間内と連通する空気孔を有する溝や管で形成され、弁部11に確実に外気を導入するために、図1(a)に示す如く、弁部11の両側から外気を導入すべく弁部11に2つ設けられている。また通気部14は、弁部11のギャップよりも大きな径で形成されている。なお弁部11に外気が導入できれば、ギャップと同じ径であっても、小さい径であってもよい。また通気部14は、流路10中を流体Fが流れるときに、空気孔に流体Fが流れ込まないように、空気孔の径は流路10の径よりも小さく、かつ、内面は疎水性を有している。
【0033】
このようにして本実施形態の送液装置1は構成されている。そして次にこの送液装置1の動作について説明する。
【0034】
送液装置1は、図2(a)に示す如く、先ずスイッチをOFFにした状態すなわち電極13に電圧を印加しない状態で、流路10の入口10aから流体Fを導入する。すると入口10aから入った流体Fは、親水性の内壁面12aを有する流路10中を毛管現象によって自律的に円滑に伝わって、弁部11の手前で停止する。
【0035】
そこで図2(b)に示す如く、スイッチをON、すなわち電極13に電圧を印加し、[背景]の項で説明したEWの現象(図12、図13参照)によって弁部11を疎水性から親水性に変化させる。すると流体Fは親水性の弁部11を通過し、親水性の内壁面12bを有する流路10内に流れ込んで毛管現象によってそのまま流路10の出口10bにまで進む。
【0036】
次に図2(c)に示す如く、スイッチをOFF、すなわち電圧の印加を停止することにより弁体11を親水性から疎水性に回復させる。すると流体Fは弁体11の手前で移動が停止し、通気部14から弁部11に外気が導入されて、この外気によって流体Fが完全に分割される。言い換えると流路10中で連続した流体Fを弁部11で切ることができる。
【0037】
このように流路10中で流体Fを切ることができるので、流路10の容積を調整することで、任意の量の流体Fを分割して送液することが可能となる。また内壁面が親水性である流路10においては、流体Fは流路10中を毛管現象によって自律的に進むので、送液装置1では流体を移動させるための外部からの圧力や熱、電場等の力を必要としない。また弁部11においても殆ど電流が流れないため、弁部11で消費する電力は非常に小さい。よって送液装置1は省エネルギー性に優れている。
【0038】
さらに送液装置1では、電解質を含む流体であれば特に制約条件がないため、様々な機能性液体を送液することができる。
【0039】
なお本実施形態の送液装置1では、電極13を上記のように流体Fの流れ方向に前後して配置したが、本発明はこれに限られるものではない。ここで図3に別の実施形態の送液装置1’の概略構成図を示す。本実施形態の送液装置1’では、図3(a)に示す如く、弁部11において正極13aと負極13bとを流体Fの流れ方向に対して並列に配置する。このとき正極13a及び負極13bは、図3(b)に示す如く、疎水性誘電膜で構成された弁部11に少なくとも一部が接するように配設される。
【0040】
この送液装置1’では、電極13に電圧が印加されると、図3(b)に示す如く、正極13aと接している部分の弁部11と流体Fとの界面近傍に負のイオンが集まり、負極13bと接している部分の弁部11と流体Fとの界面近傍に正のイオンが集まって、それぞれの部分においてEWの現象が生じることにより疎水性が親水性となり流体Fが通過する。
【0041】
次に上述した送液装置1を利用したインクジェットプリンタのプリンタヘッド2について説明する。図4は本実施形態のプリンタヘッド2の動作の説明図である。なお図4において弁部11に設けられた電極13やスイッチ等は図示を省略し、送液装置1と同様の箇所は同符号で示して説明を省略する。また便宜上、流体の流れ方向の上流側を上方、下流側を下方として説明する。
【0042】
本実施形態のプリンタヘッド2は、上述した実施形態の送液装置1の流路10の入口10aに、上方から下方に向かうにつれて開口径が小さくなる略円錐状のインク溜20の排出口を連結して構成されている。なおこのときインク溜20には流体Fとして電解質を含む水溶性のインクが充填されている。
【0043】
まずインク溜20に充填されたインクiは、図4(a)に示す如く、インク溜20から入口10aを通って流路10a中に導入される。そして送液装置1と同様に親水性の流路10中を毛管現象によって自律的に円滑に伝わって、弁部11の手前で停止する。ここで図示しない電極13に電圧を印加することによって弁部11を疎水性から親水性に変化させると、インクiは、図4(b)に示す如く、親水性の弁部11を通過し、毛管現象によってそのまま流路10の出口10b側の親水性の流路10に流れ込む。
【0044】
次に電圧の印加を停止することにより弁体11を親水性から疎水性に回復させる。すると図4(c)に示す如く、インクiは弁体11の手前で移動が停止し、通気部14から弁部11に外気が導入されて、この外気によって流体Fが分割される。このとき流路10の出口10bから染み出したインクiに紙3を接触させると、インクiは紙3に流れ込み、弁部11以降のインクiを紙3に転移することができる。
【0045】
このように上記プリンタヘッド2では、EWの現象を使用しているため、電解質を有する流体であれば水性液体のインクiを使用することができるので、インクiが転移した印刷物がその用途を終了して破棄されるときには、油性液体と比較して環境への負荷を小さく抑えることができる。
【0046】
また上記実施形態の送液装置1と同様に、流路10中でインクiを切ることができるので、流路10の容積を調整することで、任意の量のインクiを分割して送液することが可能となる。従って紙3に任意の量のインクiを転移させることができる。
【0047】
一方、上記のようにEWの現象を印刷機器に利用するためには、例えば「印刷画像の綺麗さ」に関係する「液体の移動量」として0.3秒で5〜20plの性能を目標とし、「印刷速度」に対応する「液体の移動速度」として液体を0.3秒で滴下可能であることを目標としてもよい。液体の移動速度は、流路の形状により異なるが、流路長さを短くすることにより液体が滴下されるまでの応答時間を短縮することができる。また流路の親水性をより良くすることにより流速を早くすることもできる。そして本願発明者は、上記性能を満たす印刷機器用の送液装置としての印字装置4を提案した。ここで図5に印字装置4の(a)分解斜視図、(b)正面図、(c)主要部A拡大上面図を示す。
【0048】
印字装置4は、図5(a)に示す如く、まずガラス基板51上に金(Au)電極51aをスパッタし、正負の電極51a−1、51a−2を、それぞれ流体Fの流れ方向に前後して狭い間隔を隔てて配置した。
【0049】
そしてAu電極51aがスパッタされたガラス基板51の上全面を誘電体であるシリコーンゴム52で50μm被膜して、その上に正負の電極51a−1、51a−2部分を覆う疎水性誘電膜として旭硝子社製のサイトップ(登録商標)53を5μm被膜し、さらにその上に流路60の親水性の内壁面として3μmのアルミニウム(Al)54をスパッタした。このときアルミニウム54と正負の電極51a−1、51a−2とはシリコーンゴム52及びサイトップ(登録商標)53で隔てられているため電気的な導通はなく、電流が流れないので、アルミニウム54は電気的な機能を持たない。
【0050】
またシリコーンゴム52とサイトップ(登録商標)53の二層によって誘電膜が形成されるが、この誘電膜は表面に多くの電荷が誘導されるとEWによる効果が大きくなるため、誘電膜は誘電率の大きい材料で形成することが好ましい。同時に、誘導される電荷量が多くなる条件、すなわち高い電圧で機能できるように、絶縁耐圧が高い材料で形成することが好ましい。
【0051】
またアルミニウム54には、図5(c)に示す如く、正の電極51a−1の上になる一部に流体の流れ方向の幅が150μmのギャップ54aを形成した。このギャップ54aには、アルミニウム54の下に位置する疎水性誘電膜のサイトップ(登録商標)53が臨むため、流路60の内壁面は親水性の区間つまりアルミニウム54と疎水性の区間つまりサイトップ(登録商標)53とが存在し、この疎水性の区間が弁部61となる。そして以上をまとめてガラス基板チップ5とする。
【0052】
次にシリコーンゴムの一種であるポリジメチルシロキサン(PDMS)基板55について説明する。PDMS基板55は、図5(a)に示したように、流路60と弁部61に外気を導入する通気部64としての空気抜き経路とが溝状に形成された疎水性のシートである。そして、図5(a)では図示の都合上PDMS基板55を上下面逆に記載しているが、図5(b)に示す如く、PDMS基板55の溝状の流路60が形成されている面をガラス基板チップ5に密着されることにより印字装置4としての流路60を形成した。
【0053】
なお空気抜き経路の幅は、流体の逆流を防ぐために流路60の幅よりも小さく形成し、流路60の溝と空気抜き経路の溝とが交差する箇所が、上述の弁部61上に位置するようにした。なお流路60の入口60aには容量を大きくしたインク溜60’を連結して形成した。以上のように印字装置4を形成した。
【0054】
そしてこの印字装置4の流路60中を送液する電解質を有する流体は、0.1M塩化カリウム(KCl)水溶液とし、この水溶液を吸収する基材としてはインクジェット用紙を使用した。
【0055】
上記のように構成した印字装置4は、正負の電極51a−1、51a−2に電圧を印加及び該印加を停止することにより、上記実施形態のプリンタヘッド2と同様の動作をする。
【0056】
そして流路60の幅wを25.5μm、高さhを2.7μm、入口60aから出口60bまでの長さLを300μmとして、正負の電極51a−1、51a−2に電圧を印加した状態すなわち流路60の内壁面を親水性として流路60に上記水溶液を流す実験を行った。この結果、毛管現象によって21plの上記水溶液を送液することができた。このとき送液に要した時間は0.12秒であった。
【0057】
また上記と同様に流路60の内壁面を親水性にし、毛管現象によって49nlの黒色水溶性染料を加えた液体を、出口60bからインクジェット用紙に転移させる実験を行った。この結果、φ950μmのドットで前記液体をインクジェット用紙に転移させることができた。
【0058】
また弁部61により流路60中で水溶液を所定量に分割し、紙に転移させる実験を行った。この結果、弁部61により分割された水溶液つまり弁部61より下流側に流路容積である6nlの水溶液を紙に転移させることができた。このときの印加電圧は200V、電流はμm以下であった。
【0059】
これにより印字装置4において、目標とする性能を満たし、かつ弁部61によって流路60中で一定量の流体を完全に分割して出口60bから排出できることが確認できた。
【0060】
次に図6に別の実施形態の印字装置を示す。なお本実施形態の印字装置は、上述した実施形態のプリンタヘッド又は印字装置4と略同様の構成であるため、同じ箇所は同符号で示して説明を省略し、異なる箇所についてのみ説明する。
【0061】
上述した実施形態のプリンタヘッド2又は印字装置4においては、インクジェット用紙等の紙3を、流路10、60の出口10b、60bに接触させて、インクiを紙3に転移させるときに、紙3と接触する出口10b、60bの外縁部が親水性を有する場合には、この外縁部がインクiで濡れてしまい、弁部11、61にて一定量に分割されたインクiを、正確な量だけ紙3に転移させるのは困難である。
【0062】
そこで本実施形態の印字装置は、図6に示す如く、上述した実施形態のプリンタヘッド2又は印字装置4の紙3と接触する出口10b、60bの外縁部7を疎水性誘電膜で被覆している。こうすることにより外縁部7はインクiを弾くのでインクiで濡れることが略なくなり、弁部11、61にて一定量に分割されたインクiを正確な量で確実に紙3に転移させることができる。
【0063】
次に図7に別の実施形態の印字装置、図8に第二の電極9の斜視図の一例を示す。なお本実施形態の印字装置も、上述した実施形態のプリンタヘッド又は印字装置4と略同様の構成であるため、同じ箇所は同符号で示して説明を省略し、異なる箇所についてのみ説明する。
【0064】
上述した実施形態のプリンタヘッド2又は印字装置4においては、インクジェット用紙等の紙3を、流路10、60の出口10b、60bに接触させて、インクiを紙3に転移させるときに、流路10、60内で一定量に分割されたインクiが紙3に全て転移せずに出口10b、60b付近に残ってしまう場合がある。このインクiが残る可能性のある区間を出口区間と呼ぶが、出口区間の長さは、インクiの粘度や表面張力、流路10、60の大きさや親水性、紙3の濡れ性等の因子により変動する。
【0065】
そこで本実施形態の印字装置は、図7に示す如く、弁部11、61よりも出口10b,60b側の親水性を有する一定区間Bを除いて出口10b、60bに隣接する流路10、60の出口区間の内壁8a、及び出口10b、60bの外縁部8を疎水性誘電膜で被覆して、出口区間の内壁8a及び外縁部8のうち出口10b、60bに隣接する周縁部8bに、インクiの表面張力を減少させるための弁部11、61に設けられた電極13、51a−1、2とは別に、正負の二極からなる第二の電極9a、9bを設けている。
【0066】
第二の電極9a、9bは、例えば図8の左図に示す如く、インクiの流れ方向に沿って2つに分割された角柱状に構成され、一方を正の電極9a−1、他方を負の電極9b−1とすることができる。また図8の右図に示す如く、インクiの流れ方向に沿って2つに分割された円柱状に構成され、一方を正の電極9a−2、他方を負の電極9b−2とすることもできる。
【0067】
上記のように構成された印字装置では、図7においてインクiが出口区間を通過するときには電極9a、9bに電圧を印加して、電極9a、9bと接している出口区間の内壁8a及び周縁部8bを親水性にしておき、図示しない紙等の吸収性の被転移基材を出口10b、60bに接触させることにより、弁部11、61で一定量に分割されたインクiを被転移基材に転移させる。このとき出口10b、60b付近の流路10、60内にインクiが残留している場合には、前記電圧の印加を停止して内壁8a及び周縁部8bを親水性から疎水性に変化させる。
【0068】
これにより残留していたインクiは濡れ性の差によって被転移基材に転移するので、流路10、60内で一定量に分割されたインクiを被転移基材に完全に転移させることができる。なおことのき周縁部8bを除いた外縁部8は、常に疎水性を有しているので、上記実施形態と同様に、外縁部8がインクiを弾きインクiで濡れることが略ないため、弁部11、61にて一定量に分割されたインクiを正確な量で確実に被転移基材に転移させることができる。
【0069】
次に図9に別の実施形態のプリンタヘッドの概略模式図を示す。なお本実施形態のプリンタヘッドは、上述した実施形態のプリンタヘッドと略同様の構成であるため、同じ箇所は同符号で示して説明を省略し、異なる箇所についてのみ説明する。
【0070】
本実施形態のプリンタヘッド2’は、図9(a)に示す如く、出口10bを有する流路出口部10’が、印刷装置100本体から突出している。具体的には、例えばプリンタヘッド2’本体の上端外周面に鍔部21を設け、この鍔部21の下端面が、開口を有する印刷装置100本体の支持板100aに当接することにより、印刷装置100がプリンタヘッド2’を支持するように構成することができる。このときプリンタヘッド2’内部のインク溜20に、印刷装置100に設けられ、インクiを供給するインク供給路20aが接続される。
【0071】
これにより出口10bが平坦面に位置するときよりも、インクiを転移させる紙3と出口10bとを確実に接触させることができる。なお流路出口部10’の先端外周を、図9(a)に示す如く、斜めに切り取って先鋭形状とすることにより出口10bが紙3にくい込むような効果を持たせることができる。
【0072】
また上記流路出口部10’は、例えばゴム等の弾性部材で形成してもよい。このとき流路出口部10’は、流路10が変形しなければ、例えば流路10の出口10b付近のみ、つまり一部を弾性部材で形成してもよいし、全部を弾性部材で形成してもよい。こうすることにより流路出口部10’は柔軟に変形可能となるので、出口10bと紙3とがより接触し易くなる。
【0073】
また上記流路出口部10’は、出口10bがインクiの流れ方向に弾性を有するものであってもよい。具体的には、例えば図9(b)に示す如く、プリンタヘッド2’本体の下側外周面に第二の鍔部22を設け、この第二の鍔部22の上端面と支持板100aの下端面との間にばね部材2aを配設することができる。このときインク供給路20aは弾性を有するパイプ等で形成する。これにより流路出口部10’を紙3に圧着させることができるので、出口10bと紙3とをより確実に接触させることができる。
【0074】
また例えば図9(c)に示す如く、上記ばね部材2aの代わりにゴム等の弾性部材2bを配設してもよい。この場合、弾性部材2bが通気部14による通気を阻害しないように、弾性部材2bを多孔性を有するものとしたり、通気経路をもつ形状にしたりする。例えば図9(c)に示す如く、弾性部材2bの内面と通気部14の開口との間に、外気と通じる間隙を設けてもよい。
【0075】
次に上述した実施形態のプリンタヘッド2、2’の印刷装置への実装例について説明する。ここで図10にプリンタヘッド2、2’を実装した印刷装置のイメージ斜視図、図11に図10の印刷装置の正面図を示す。
【0076】
図10、図11の印刷装置100では、複数のプリンタヘッド2、2’の流路出口を回転自在に配置された転写ドラム101の全面上に配設し、転写ドラム101の下方から基材103を支持する回転体102によってプリンタヘッド2、2’と基材103は相対速度ゼロで一定時間接するようにされている。そしてプリンタヘッド2、2’の流路出口は図11に示す如く、基材103に接しながら一定速度で回転する。このとき各プリンタヘッド2、2’の電極へ電圧を印加したり停止したりすることによって、図10の左図や右図に示す如く、印刷パターンを制御する。
【0077】
なお本実施形態では複数のプリンタヘッド2、2’を転写ドラム101に配設したが、例えば平面上の転写体に配設してもよい。この場合プリンタヘッド2、2’の流路出口は、一定時間基材103 と接触した状態を保った後に退避して、基材103が搬送され、必要ならば再度この工程が繰り返される。
【0078】
また上記実施形態では、プリンタヘッド2、2’を面状に配設したが、例えばラインインクジェットプリンタのように、基材103の幅方向全体に対応するように、複数のプリンタヘッド2、2’の流路出口を線状に配置してもよい。この場合、プリンタヘッド2、2’と基材103とは、プリンタヘッド2、2’の配列方向と直交する方向に相対移動し、一回の相対移動で基材102全体を走査可能とする。なお転移量を増やすために2回以上走査してもよい。
【0079】
また例えばシリアルインクジェットプリンタにように、数mm〜数十mmの長さで複数のプリンタヘッド2、2’の流路出口を線状に配置してもよい。この場合、プリンタヘッド2、2’と基材103とは、プリンタヘッド2、2’の配列方向と直交する方向に相対移動し、一回の相対移動で基材103の一部しか走査できないので、走査毎に、プリンタヘッド2、2’を基材103に対して未走査位置まで移動させて次回の走査をさせる。
【0080】
なお流路中に送液する流体を、機能性粒子を分散させた液体とした場合には、例えば上記と同様にして、DNAチップ、プロテインチップ、細胞チップ等に使用するパターニング装置に適用することができる。なおこの液体を水性液体とすることにより、機能性材料をパターニングしたデバイスが、その用途を終了して破棄される際、溶媒が蒸発する場合にはその途中の工程においても、油性液体と比較して環境への負荷を小さく抑えることができる。
【0081】
なお上述した全ての実施形態は、電極として正負の二極からなる二電極系を採用しているが、正極一流体間の電位差及び負極一流体間の電位差を把握して最適な電圧制御を行うため、作用電極、対向電極及び参照電極を用いた三電極系を採用することもできる。この場合、例えば弁部に臨設する電極として作用電極、他方の電極として対向電極、さらに流体に接触する任意の位置に参照電極を配置すること等が考えられる。
【0082】
本発明の送液装置及び該送液装置における送液制御方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】(a)送液装置の概略構成図、(b)弁部拡大図
【図2】送液装置の動作の説明図
【図3】別の実施形態の送液装置の概略構成図
【図4】プリンタヘッドの動作の説明図
【図5】印字装置の(a)分解斜視図、(b)正面図、(c)主要部A拡大上面図
【図6】別の実施形態の印字装置
【図7】さらに別の実施形態の印字装置
【図8】第二の電極の斜視図の一例
【図9】別の実施形態のプリンタヘッドの概略模式図
【図10】プリンタヘッドを実装した印刷装置のイメージ斜視図
【図11】図10の印刷装置の正面図
【図12】エレクトロウェッティング現象の説明図(その1)
【図13】エレクトロウェッティング現象の説明図(その2)
【符号の説明】
【0084】
1、1’ 送液装置
10、60 流路
10a、60a 入口(流路入口)
10b、60b 出口(流路出口)
11、61 弁部(疎水性)
12a、12b 内壁面(親水性)
13、51a 電極
13a、51a−1 正の電極
13b、51a−2 負の電極
14、64 通気部
2、2’ プリンタヘッド
20、60’ インク溜
3 紙(被転写基材)
4 印字装置
F 流体
i インク
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質を有する流体を流路中に送液する送液装置であって、
前記流路の内壁面の少なくとも一部は、該流路の入口から出口までの全体に亘って、少なくとも一つの送液を遮断する疎水性を有する弁部を除いて親水性を有し、
前記弁部に、前記流体の表面張力を減少させるための電極と、前記流体を切断するため外気を導入する通気部が設けられていることを特徴とする送液装置。
【請求項2】
前記電極が、正負の二極を有し、
該正負の二極の一方の電極が、前記疎水性の弁部に臨設されていることを特徴とする請求項1に記載の送液装置。
【請求項3】
前記正負の二極の電極が、前記流体の流れ方向に前後して配置されていることを特徴とする請求項2に記載の送液装置。
【請求項4】
前記電極と前記流路とが、誘電膜によって隔てられていることを特徴とする請求項1から3いずれか1項に記載の送液装置。
【請求項5】
前記出口の外縁部が疎水性を有することを特徴とする請求項1から4いずれか1項に記載の送液装置。
【請求項6】
前記流路の出口区間の内壁及び前記出口の外縁部が疎水性を有するものであり、
前記出口区間及び前記外縁部のうち前記出口に隣接する周縁部に、前記流体の表面張力を減少させるための第二の電極が設けられていることを特徴とする請求項1から4いずれか1項に記載の送液装置。
【請求項7】
前記出口を有する流路出口部が、装置本体から突出していることを特徴とする請求項1から6いずれか1項に記載の送液装置。
【請求項8】
前記流路出口部が、弾性部材で形成されていることを特徴とする請求項7に記載の送液装置。
【請求項9】
前記流路出口部が、前記流体の流れ方向に弾性を有するものであることを特徴とする請求項7に記載の送液装置。
【請求項10】
前記流体が、機能性粒子を分散させた液体であることを特徴とする請求項1から9いずれか1項に記載の送液装置。
【請求項11】
請求項1から10いずれか1項に記載の送液装置において、
前記電極に電圧を印加することにより、前記流路中の前記弁部を疎水性から親水性に変化させて前記流体を送液し、電圧の印加を停止することにより、前記弁部を疎水性に変化させて前記通気部から外気を該弁部に導入して前記流体を一定量だけ分割することを特徴とする送液制御方法。
【請求項1】
電解質を有する流体を流路中に送液する送液装置であって、
前記流路の内壁面の少なくとも一部は、該流路の入口から出口までの全体に亘って、少なくとも一つの送液を遮断する疎水性を有する弁部を除いて親水性を有し、
前記弁部に、前記流体の表面張力を減少させるための電極と、前記流体を切断するため外気を導入する通気部が設けられていることを特徴とする送液装置。
【請求項2】
前記電極が、正負の二極を有し、
該正負の二極の一方の電極が、前記疎水性の弁部に臨設されていることを特徴とする請求項1に記載の送液装置。
【請求項3】
前記正負の二極の電極が、前記流体の流れ方向に前後して配置されていることを特徴とする請求項2に記載の送液装置。
【請求項4】
前記電極と前記流路とが、誘電膜によって隔てられていることを特徴とする請求項1から3いずれか1項に記載の送液装置。
【請求項5】
前記出口の外縁部が疎水性を有することを特徴とする請求項1から4いずれか1項に記載の送液装置。
【請求項6】
前記流路の出口区間の内壁及び前記出口の外縁部が疎水性を有するものであり、
前記出口区間及び前記外縁部のうち前記出口に隣接する周縁部に、前記流体の表面張力を減少させるための第二の電極が設けられていることを特徴とする請求項1から4いずれか1項に記載の送液装置。
【請求項7】
前記出口を有する流路出口部が、装置本体から突出していることを特徴とする請求項1から6いずれか1項に記載の送液装置。
【請求項8】
前記流路出口部が、弾性部材で形成されていることを特徴とする請求項7に記載の送液装置。
【請求項9】
前記流路出口部が、前記流体の流れ方向に弾性を有するものであることを特徴とする請求項7に記載の送液装置。
【請求項10】
前記流体が、機能性粒子を分散させた液体であることを特徴とする請求項1から9いずれか1項に記載の送液装置。
【請求項11】
請求項1から10いずれか1項に記載の送液装置において、
前記電極に電圧を印加することにより、前記流路中の前記弁部を疎水性から親水性に変化させて前記流体を送液し、電圧の印加を停止することにより、前記弁部を疎水性に変化させて前記通気部から外気を該弁部に導入して前記流体を一定量だけ分割することを特徴とする送液制御方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−66464(P2009−66464A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−234230(P2007−234230)
【出願日】平成19年9月10日(2007.9.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度 独立行政法人科学技術振興機構、研究成果実用化検討(FS)に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000250502)理想科学工業株式会社 (1,191)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月10日(2007.9.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度 独立行政法人科学技術振興機構、研究成果実用化検討(FS)に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000250502)理想科学工業株式会社 (1,191)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【Fターム(参考)】
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