説明

逆止弁

【課題】弁が開く際の応答性の向上を図った逆止弁を提供する。
【解決手段】一方の領域(O)内の圧力の他方の領域(K)内の圧力に対する差圧が大きくなると弁が開いて流体を逃し、他方の領域(K)内の圧力が一方の領域(O)内の圧力より高くなっても弁は閉じたままの状態を維持する逆止弁において、逆止弁に対向する位置に設けられた対向面に接触するリップ31を備え、該リップ31は先端に向かうにつれて他方の領域(K)側に撓んだ状態で前記対向面に接触するように構成されると共に、リップ表面には、前記対向面に接触し得る全領域にわたって梨地加工が施されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逆止弁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
油圧機器などの各種装置においては、オイルなどの流体の逆流を防いで一方向にだけ流体を流す逆止弁が用いられる場合がある。例えば、ショックアブソーバーにおいては、油圧を確保すると同時にオイルシールにおける潤滑確保のために、オイルシールに逆止弁(チェックリップとも呼ばれる)が設けられている。
【0003】
この逆止弁は、一方の領域内の圧力が高くなると弁が開いて流体を逃す一方で、他方の領域内の圧力が高くなっても、他方の領域側から一方の領域側に流体が流れてしまわないように、弁が閉じたままの状態を維持できるように構成されている。
【0004】
従来例に係る逆止弁について、図5及び図6を参照して説明する。図5は従来例に係る逆止弁の模式的断面図である。図6は従来例に係る逆止弁の使用状態を示す模式的断面図である。
【0005】
この従来例に係る逆止弁100は、弁体として機能するリップ101を備えている。このリップ101は、一方の領域(O)側から他方の領域(K)側に伸び、かつ逆止弁100に対向する位置に設けられた部材200の表面(対向面201)に接触するように構成されている。また、このリップ101は、図6に示すように、先端に向かうにつれて他方の領域(K)側に撓んだ状態で、対向面201に面接触するように構成されている。なお、この従来例においては、一方の領域(O)にオイルが密封されている。
【0006】
そして、一方の領域(O)内の圧力が高くなって、一方の領域(O)内の圧力における他方の領域(K)内の圧力に対する差圧が大きくなると、リップ101は更に撓むように変形し(図6中、点線で示すリップ101a参照)、弁が開く。これにより、オイルの一部が他方の領域(K)に逃げて、上記の差圧が小さくなると、リップ101が元の状態に戻って弁が閉じられる。一方、他方の領域(K)内の圧力が高くなっても、リップ101の対向面201に対する密着力がより高くなるだけで、弁は閉じたままの状態が維持される。
【0007】
以上のように構成される逆止弁100においては、所望の圧力で確実に弁が開くことが要求される。そのため、リップ101の開閉の応答性を高めるために、リップ101の肉厚を薄くしてリップ101の剛性を低くする対策が採られることがある。しかしながら、この場合には、リップ101の剛性が低い故に、リップ101の表面が対向面201に対して貼り付き易くなり、リップ101の挙動が不安定になってしまうことがある。また、リップ101の剛性を低くしすぎると、他方の領域(K)内の圧力が高くなった場合に、リップ101が一方の領域(O)側に反転してしまうおそれがある。
【0008】
他の対策として、リップの表面に突起や溝を形成することで、リップの接触面積を低減させることもあるが、従来例では、逆流防止のために面接触させる部分を確保する構成を採用しており、リップの貼り付きに対する対策としては未だ課題を残している。
【0009】
自動車にはショックアブソーバーが用いられているが、乗り心地をより良くするために、より低圧で逆止弁の弁が開くようにさせることが求められており、上記のような問題が顕著になっている。
【0010】
関連する技術としては、特許文献1〜3に開示されたものがある。
【特許文献1】特開平11−108101号公報
【特許文献2】特開平11−210803号公報
【特許文献3】実開平5−3739号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、弁が開く際の応答性の向上を図った逆止弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
【0013】
すなわち、本発明の逆止弁は、
一方の領域内の圧力における他方の領域内の圧力に対する差圧が大きくなると弁が開いて流体を逃し、他方の領域内の圧力が一方の領域内の圧力より高くなっても弁は閉じたままの状態を維持する逆止弁において、
逆止弁に対向する位置に設けられた対向面に接触するリップを備え、
該リップは先端に向かうにつれて他方の領域側に撓んだ状態で前記対向面に接触するように構成されると共に、リップ表面には、前記対向面に接触し得る全領域にわたって梨地加工が施されていることを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、リップにおける対向面に接触し得る全領域にわたって梨地加工が施されているので、リップが対向面に対して貼り付いてしまうことを抑制できる。従って、リップの剛性を低く設定したとしても、弁が開く際の応答性を高くすることができる。
【0015】
また、リップの表面に梨地加工を施すと、リップの表面には凹凸が形成されるが、個々の凹部は独立的に形成される。従って、リップにおける対向面に対して接触する面に梨地加工を施しても、一方の領域から他方の領域に連通する部分が形成される訳ではないので、一方の領域と他方の領域とを遮断した状態を確保できる。つまり、逆流防止に影響はない。
【0016】
ここで、前記梨地加工により得られる凹凸の高低差が0.5μm以上500μm以下に設定されるとよい。
【0017】
また、本発明の逆止弁は、
一方の領域内の圧力における他方の領域内の圧力に対する差圧が大きくなると弁が開いて流体を逃し、他方の領域内の圧力が一方の領域内の圧力より高くなっても弁は閉じたままの状態を維持する逆止弁において、
逆止弁に対向する位置に設けられた対向面に接触するリップを備え、
該リップは先端に向かうにつれて他方の領域側に撓んだ状態で前記対向面に接触するように構成されると共に、リップ表面には、前記対向面に接触し得る全領域にわたって格子状(格子の形状は、正方形に限らず、長方形や菱形でも良い。また、本発明においては、格子の形状には、円形など四角形以外のものも含まれる)の凸部が設けられていることを特徴とする。
【0018】
本発明によれば、リップにおける対向面に接触し得る全領域にわたって格子状の凸部が設けられているので、リップが対向面に対して貼り付いてしまうことを抑制できる。従って、リップの剛性を低く設定したとしても、弁が開く際の応答性を高くすることができる。
【0019】
また、個々の格子(凸部によって囲まれる凹んだ部分)は独立している。従って、リップにおける対向面に対して接触する面に格子状の凸部が設けられても、一方の領域から他方の領域に連通する部分が形成される訳ではないので、一方の領域と他方の領域とを遮断した状態を確保できる。つまり、逆流防止に影響はない。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明によれば、弁が開く際の応答性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための最良の形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0022】
本実施例においては、オイルシールに逆止弁が適用される場合を例にして説明する。
【0023】
(実施例1)
図1及び図2を参照して、本発明の実施例1に係る逆止弁について説明する。図1は本発明の実施例に係る逆止弁の使用状態を示す模式的断面図である。図2は本発明の実施例1に係る逆止弁の模式的断面図である。
【0024】
<逆止弁を具備するオイルシールが適用されたショックアブソーバー>
特に、図1を参照して、逆止弁を具備するオイルシールが適用されたショックアブソーバーについて説明する。
【0025】
本実施例に係るオイルシール10は、ショックアブソーバー80に適用されるものである。ショックアブソーバー80は、往復運動を行うピストン50と、略円筒状のケース60と、ケース60の内部に固定され、ピストン50の移動を案内するガイド部材70とを備えている。そして、ケース60の端部にオイルシール10が固定され、オイルが密封された領域(一方の領域(O))を形成している。
【0026】
以上のように構成されるショックアブソーバー80によれば、ピストン50の端部(または当該端部に固定された不図示の部材)が衝撃を受けると、ピストン50が密封領域側
に移動し、油圧(オイルが密封された領域内の内部圧力)によって衝撃を吸収することができる。
【0027】
<オイルシール>
特に、図1を参照して、オイルシール10について更に詳しく説明する。本実施例に係るオイルシール10は、オイルの漏れを防止する機能(オイルシール本来の機能)と、逆止弁の機能とを具備している。そして、本実施例に係るオイルシール10は、補強環20と、補強環20の内周側に一体成形されるゴム状弾性体製のシール本体30とを備えている。
【0028】
補強環20は、その外周端部付近が、ケース60の端部に設けられた内向きフランジ部61とガイド部材70との間に挟みこまれた状態で固定される。
【0029】
シール本体30は、ピストン50の表面に対して摺動自在に接触してオイルの漏れを防止するメインリップ32と、ピストン50の表面に対して摺動自在に接触して、外部から
埃などの異物が内部に侵入することを防止するダストリップ33とを備えている。なお、メインリップ32の外周には、メインリップ32の先端をピストン50の表面に押し付けるためのスプリング34が嵌め込まれている。
【0030】
そして、本実施例においては、シール本体30に、逆止弁の弁体としての機能を発揮するリップ31が設けられている。このリップ31によって、ケース60の内部において、上述したオイルが密封された領域である一方の領域(O)と他方の領域(K)とを隔てている。
【0031】
<逆止弁>
図1及び図2を参照して、逆止弁(の弁体)として機能するリップ31について、更に詳細に説明する。
【0032】
リップ31は、先端に向かうにつれて、一方の領域(O)側から他方の領域(K)側に向かって傾斜するように構成されている。そして、ショックアブソーバー80に組み込まれた状態においては、このリップ31は、逆止弁(の弁体)として機能するリップ31に対向する位置に設けられた対向面72(ガイド部材70の端面)に接触する。このとき、リップ31は、先端に向かうにつれて他方の領域(K)側に撓んだ状態で対向面72に接触するように構成されている。
【0033】
そして、リップ31における一方の領域(O)側の表面には、リップ先端31aからリップの根本付近に至る領域に、梨地加工が施されることで形成された多数の微小な凹凸35が設けられている。これにより、リップ31における対向面72に接触し得る全領域にわたって、梨地加工により得られた微小な凹凸35が設けられていることになる。なお、凹凸35の高低差は、0.5μm以上500μm以下に設定すると良く、5μm以上40μm以下に設定すれば、より好適である。
【0034】
以上のように構成されるリップ31によれば、一方の領域(O)内の圧力が高くなって、一方の領域(O)内の圧力における他方の領域(K)内の圧力に対する差圧が大きくなると、リップ31は更に撓むように変形する。これにより、リップ31が対向面72から離れて、リップ31と対向面72との間に隙間ができる。つまり、弁が開く。そのため、オイルの一部が他方の領域(K)に逃げる。そして、上記の差圧が小さくなると、リップ31が元の状態に戻って弁が閉じられる。一方、他方の領域(K)内の圧力が高くなっても、リップ31の対向面72に対する密着力がより高くなるだけで、弁は閉じたままの状態が維持される。
【0035】
なお、他方の領域(K)に逃げたオイルは、ガイド部材70に設けられた連通路71から、ピストン50の図1中上部側に戻される。
【0036】
<本実施例の優れた点>
以上のように、本実施例に係る逆止弁によれば、リップ31における対向面72に接触し得る全領域にわたって梨地加工が施されているので(多数の微小な凹凸35が形成されるので)、リップ31が対向面72に対して貼り付いてしまうことを抑制できる。これにより、リップ31の剛性を低く設定したとしても、弁が開く際の応答性を高くすることができる。
【0037】
従って、他方の領域(K)内の圧力によってリップ31が一方の領域(O)側に反転してしまわない程度に、肉厚を薄くするなどにより、リップ31の剛性を可及的に低く設定することが可能となる。これにより、弁が開く圧力を低い値に設定しても、リップ31の反転を防止しつつ、弁が開く際の応答性を高くすることができる。
【0038】
また、リップ31の表面に梨地加工を施すと、リップ31の表面には凹凸35が形成されるが、個々の凹部は独立的に形成される。従って、リップ31における対向面72に対して接触する面に梨地加工を施しても、一方の領域(O)から他方の領域(K)に連通する部分が形成される訳ではないので、一方の領域(O)と他方の領域(K)とを遮断した状態を確保できる。つまり、逆流防止に影響はない。
【0039】
(実施例2)
図3及び図4には、本発明の実施例2が示されている。上記実施例1では、リップの表面に梨地加工を施すことで、リップ表面に多数の微小な凹凸を設ける構成を示した。本実施例においては、リップの表面に格子状の凸部を設ける場合の構成を示す。その他の構成および作用については実施例1と同一なので、同一の構成部分については、適宜、その説明は省略する。
【0040】
図3及び図4は本発明の実施例2に係る逆止弁の模式的断面図である。なお、図3に示す逆止弁(リップ)と図4に示す逆止弁(リップ)は、格子形状のみが異なっている。
【0041】
本実施例に係るリップ31においても、基本的な構成は、上記実施例1に示したリップと同じである。本実施例に係るリップ31においては、その一方の領域(O)側の表面には、リップ先端31aからリップの根本付近に至る領域に、格子状の凸部36,37が設けられている点のみが実施例1の場合とは異なる。これにより、本実施例においては、リップ31における対向面72に接触し得る全領域にわたって、格子状の凸部36または格子状の凸部37が設けられている。
【0042】
なお、図3に示す例の場合には、凸部36の格子形状が正方形であるのに対して、図4に示す例の場合には凸部37の格子形状が菱形である。このように、格子形状は適宜の形状を採用し得る。また、凸部36,37の高さや一つの格子の面積などについては、使用環境(油圧,オイルの種類(粘度)など)に応じて適宜設定すればよい。
【0043】
以上のように、本実施例においても、リップ31における対向面72に接触し得る全領域にわたって格子状の凸部36,37が設けられているので、リップ31が対向面72に対して貼り付いてしまうことを抑制できる。従って、上記実施例1の場合と同様の作用効果を発揮する。
【0044】
また、個々の格子(凸部によって囲まれる凹んだ部分)は独立している。従って、リップ31における対向面72に対して接触する面に格子状の凸部36,37が設けられても、一方の領域(O)から他方の領域(K)に連通する部分が形成される訳ではないので、一方の領域(O)と他方の領域(K)とを遮断した状態を確保できる。つまり、本実施例においても、逆流防止に影響はない。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】図1は本発明の実施例に係る逆止弁の使用状態を示す模式的断面図である。
【図2】図2は本発明の実施例1に係る逆止弁の模式的断面図である。
【図3】図3は本発明の実施例2に係る逆止弁の模式的断面図である。
【図4】図4は本発明の実施例2に係る逆止弁の模式的断面図である。
【図5】図5は従来例に係る逆止弁の模式的断面図である。
【図6】図6は従来例に係る逆止弁の使用状態を示す模式的断面図である。
【符号の説明】
【0046】
10 オイルシール
20 補強環
30 シール本体
31 リップ
31a リップ先端
32 メインリップ
33 ダストリップ
34 スプリング
35 凹凸
36,37 格子状の凸部
50 ピストン
60 ケース
61 内向きフランジ部
70 ガイド部材
71 連通路
72 対向面
80 ショックアブソーバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の領域内の圧力における他方の領域内の圧力に対する差圧が大きくなると弁が開いて流体を逃し、他方の領域内の圧力が一方の領域内の圧力より高くなっても弁は閉じたままの状態を維持する逆止弁において、
逆止弁に対向する位置に設けられた対向面に接触するリップを備え、
該リップは先端に向かうにつれて他方の領域側に撓んだ状態で前記対向面に接触するように構成されると共に、リップ表面には、前記対向面に接触し得る全領域にわたって梨地加工が施されていることを特徴とする逆止弁。
【請求項2】
前記梨地加工により得られる凹凸の高低差が0.5μm以上500μm以下に設定されることを特徴とする請求項1に記載の逆止弁。
【請求項3】
一方の領域内の圧力における他方の領域内の圧力に対する差圧が大きくなると弁が開いて流体を逃し、他方の領域内の圧力が一方の領域内の圧力より高くなっても弁は閉じたままの状態を維持する逆止弁において、
逆止弁に対向する位置に設けられた対向面に接触するリップを備え、
該リップは先端に向かうにつれて他方の領域側に撓んだ状態で前記対向面に接触するように構成されると共に、リップ表面には、前記対向面に接触し得る全領域にわたって格子状の凸部が設けられていることを特徴とする逆止弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−144763(P2009−144763A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−320588(P2007−320588)
【出願日】平成19年12月12日(2007.12.12)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】