説明

透光性ボード材

【課題】 低密度、軽量でかつ高い曲げ破壊荷重を有しながらも、その曲げ破壊荷重を超えて力を加えられても容易に折れたり、割れたりすることのない透光性ボード材を提供すること。さらに、透過した光が適度に拡散して柔らかい光となるボード材を提供すること。
【解決手段】 熱接着性繊維を20〜100質量%含み、1〜30mmの厚さ、0.03〜0.3g/cmの見かけ密度、および構成する繊維の平均繊度が0.5〜20dtexであり、45°拡散性が50%以上であり、断面を厚さ方向に沿って3等分した各々の領域における繊維接着率がそれぞれ85%以下であり、かつ各領域における繊維接着率の最大値に対する最小値の割合が80%以上であり、少なくとも一方向における曲げ破壊荷重が2N以上であり、2倍変位荷重が曲げ破壊荷重の1/10以上であることを特徴とする不織繊維構造を有する透光性ボード材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、住宅または体育館やプール等公共の建築物の窓や屋根など、または照明や看板などのランプシェードなどに用いられる光透過性のあるボード材に関するものであり、更に詳しくは、透過した光が適度に拡散して柔らかい光を得ることができ、かつボード材として低密度で軽量性に優れ、かつ高い曲げ破壊荷重を有しながらも、その曲げ破壊荷重を超えて力を加えられても容易に折れたり、破損することのないボード材に関する。
【背景技術】
【0002】
住宅または公共の建築物等の屋根や壁には、光を室内に取り入れるためにガラス製の窓を取り付けるのが一般的であるが、ガラス窓はその透明性によって採光性にはとても優れているが、強い衝撃によって割れやすく、割れた破片が飛散して室内にいる人に危害がおよぶ危険性がある。
【0003】
こうした危険性を低減するため、アクリル樹脂等の光透過性に優れた樹脂製のボードを窓として用いることがある。しかし、割れた破片はガラス程に鋭利ではなく危険性を低減させることができるが、耐衝撃性はあまり高くなく、やはり衝撃を与えられた場合には割れてしまうことがある。また、見かけ密度が大きく厚さのあるボードであると重くなってしまい、軽量性とりわけ施工時の取り扱い性の面で課題がある。
【0004】
また、ガラス繊維や炭素繊維、合成繊維などを樹脂内部に混入複合した繊維強化プラスチックを用いて、機械的強度および耐衝撃性に優れた採光窓を用いることもある。特許文献1には、光を散乱させる強化材5〜50重量%混入した透光性の合成樹脂からなる窓本体の表面に、機能層を有するシート材を積層固定し、周縁部に枠材を固着し、強化材により、光を散乱させるようにした散乱光採光窓が提案されている。しかしながらこの発明においては、機械的強度および耐衝撃性の向上は図られているが、依然として軽量性に課題が残されている。
【0005】
また、特許文献2にはグラスファイバー層、グラスファイバー層を被覆する合成樹脂の防塵フィルム層、および織布層が積層してなることを特徴とする透光性吸音装置が提案されている。この発明の透光性吸音装置によれば、透光性と吸音性を兼備え、透光性膜屋根を取付けたアリーナ等の施設において、明るさと音響条件を同時に満足できるものとされている。しかしながら、グラスファイバー層を構成する繊維は、繊維同士が接着あるいは融着などされておらず、機械的強度が低いという課題がある。機械強度を補おうとすると、ガラスや樹脂などのボードと併せて使用することとなり、前述した耐衝撃性や軽量性への課題が解決されないこととなる。また、機械強度を補わずに使用した場合、軽量ではあるが曲げ破壊荷重が低く施工時の取り扱いが困難になるという課題がある。さらに、この透光性吸音装置を立てた状態で施工し、長年使用した場合、グラスファイバー層の繊維同士がしっかりと固定されていないために、重力によって袋内部で変形が起こり、グラスファイバー層が下側に寄ってしまい、本来の要求性能を発揮しなくなるという問題もある。
【0006】
また、特許文献3には繊維を用いて目の粗い立体構造に形成した基布の両面又は片面に透光性フィルムを張り合わせてなる透光性断熱材が提案されている。この発明の透光性断熱材は、立体構造に形成されているために採光性に優れ、かつ断熱性も兼ね備えたものである。また、繊維に剛性の高い繊維を用いることで、軽量かつ機械強度に優れた透光性断熱材が得られるとある。しかしながら、透光性を確保するために目の粗い立体構造にするため、太陽の直射光がそのまま透過してしまい、室内にいる人に苦痛を与えるなどの問題がある。
【0007】
また、採光窓として古来より一般的に用いられているものに障子が挙げられる。現在の住宅等においても、窓の室内側に障子を設置して直射光を拡散させたり、室外からの目隠しとして使用されている。障子紙としては、パルプ等天然繊維を原料とした紙製のものに加えて、合成繊維を主体としたものなど、種々の破れにくい障子紙が用いられているが、厚さが小さく、木枠などの支持体が必要であるために施工性が限定的であり、さらに断熱性もあまり高くはない。
【0008】
【特許文献1】特開平05−187175号公報
【特許文献2】特開平06−057836号公報
【特許文献3】特開平10−34778号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は特殊な薬剤等を使用することなく、低密度、軽量でかつ高い曲げ破壊荷重を有しながらも、その曲げ破壊荷重を超えて力を加えられても容易に折れたり、割れたりすることのない透光性ボード材を提供することにある。さらに、透過した光が適度に拡散して柔らかい光となるボード材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討を重ねた結果、本発明に至った。
すなわち本発明は、熱接着性繊維を20〜100質量%含む不織繊維構造体を有するボード材であって、1〜30mmの厚さ、および0.03〜0.3g/cmの見かけ密度、および構成する繊維の平均繊度が0.5〜20dtexであり、該ボード材の一方の面に対して垂直に入射し、反対面へ透過する光に対し、反対面の法線とのなす角が0°における透過光強度に対しての、反対面の法線とのなす角が45°における透過光強度の比率が50%以上であるとともに、断面を厚さ方向に沿って3等分した際に、3等分した各々の領域における繊維接着率がそれぞれ85%以下であり、かつ各領域における繊維接着率の最大値に対する最小値の割合が80%以上であり、少なくとも一方向における曲げ破壊荷重が2N以上であるとともに、曲げ荷重と変位の相関関係において、曲げ破壊荷重を示す変位の2倍の変位においても曲げ破壊荷重の1/10以上であることを特徴とする透光性ボード材である。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、低密度、軽量で高い曲げ破壊荷重を有するとともに、加えられた荷重に対して湾曲・変形することによりその荷重を吸収し、たとえ強い衝撃を加えられても簡単に折れたり、割れたりすることのない透光性ボード材であり、かつ透過した光が適度に拡散して柔らかい光となる透光性ボード材を安価に提供することができる。
【0012】
本発明のボード材は不織繊維構造体を有しており、繊維どうしが三次元的に絡み合い、かつ絡合点の一部は熱接着性繊維の融着によって接着された構造である。ボード材に当てられた光は、構造体を構成する繊維に当たることとなり、繊維の表面での光の反射および繊維内部への光の透過が起こる。この現象が繰り返し行われることとなるため、ボード材内部を透過した光は拡散されて、柔らかい光とすることができる。さらに、繊維どうしが融着によって固定されているので、長時間使用した場合でも、繊維が偏ったりして変形などを起こさず、要求する性能を発揮することができる。
【0013】
また、本発明のボード材の内部には、繊維間に連続した小さな空隙が存在している。これにより、本発明のボード材は高い通気性と吸音性、優れた断熱性を有している。さらに、本発明の所定の厚さ、見かけ密度を有する不織繊維構造とすることで、ボード材内部を通過できる空気の量を多くし、高い通気性を得ることができたり、ボード材内部の空気の体積を大きくし、高い断熱性を得ることができたり、また、構造体内の繊維の本数を多くし、繊維表面での音の振動減衰の効果を高めて、高い吸音性を得ることもできる。
【0014】
本発明の不織繊維構造体を有するボード材は、低密度、軽量でかつ高い曲げ破壊荷重を有しながらも、その曲げ破壊荷重を超えて力を加えられても容易に折れたり、割れたりすることのない透光性ボード材である。該ボード材を住宅または体育館やプール等公共の建築物の窓や屋根などに設置した場合、ボード材を透過した光は適度に拡散され、建物内に柔らかい光を採り入れることができる。また、照明や看板などのランプシェードなどとして用いれば、光源からの光が直接照らされることなく、また光源の輪郭をぼかすこともできる。また、本発明のボード材は、その厚みや高い曲げ強度または軽量性により、立てた状態であっても自立性を有し、例えばボード材の片側のみを手で持ち、そのまま持ち上げたときなどでも、自重で折れてしまうことなく持ち運ぶことができ、施工性にも優れている。さらには、不織繊維構造体を構成する熱接着性繊維は熱可塑性であるため、容易に熱成型が可能で有り、例えば平らな面のみでなく曲がった面に対しても形を合わせることができる。また、繊維製のボード材であるため、特別な工具等は用いずに、市販のカッターなどで容易に切断可能で有り、施工現場での寸法調整なども行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のボード材は、熱接着性繊維を20〜100質量%含む不織繊維構造体を有するボード材であって、1〜30mmの厚さ、および0.03〜0.3g/cmの見かけ密度、および構成する繊維の平均繊度が0.5〜20dtexであり、該ボード材の一方の面に対して垂直に入射し、反対面へ透過する光に対し、反対面の法線とのなす角が0°における透過光強度に対しての、反対面の法線とのなす角が45°における透過光強度の比率が50%以上であるとともに、断面を厚さ方向に沿って3等分した際に、3等分した各々の領域における繊維接着率がそれぞれ85%以下であり、かつ各領域における繊維接着率の最大値に対する最小値の割合が80%以上であり、少なくとも一方向における曲げ破壊荷重が2N以上であるとともに、曲げ荷重と変位の相関関係において、曲げ破壊荷重を示す変位の2倍の変位においても曲げ破壊荷重の1/10以上であることを特徴とする透光性ボード材である。
【0016】
このような不織繊維構造体は、湿熱接着性繊維を原料繊維として用いたウェブに、飽和水蒸気または過熱水蒸気を作用させることで、各々の繊維同士を該接着性樹脂の乾燥時における融点以下の温度にて、湿熱接着させることで得ることができ、目的とする曲げ挙動と軽量性、形態保持性を実現できるのである。
【0017】
湿熱接着性繊維は、少なくとも湿熱接着性樹脂で構成されている。湿熱接着性樹脂は、高温水蒸気によって容易に実現可能な温度において、流動又は容易に変形して接着機能を発現可能であればよい。具体的には、熱水(例えば、80〜120℃、特に95〜100℃)で軟化して自己接着又は他の繊維に接着可能な熱可塑性樹脂、例えば、セルロース系樹脂(メチルセルロースなどのC1-3アルキルセルロース、ヒドロキシメチルセルロースなどのヒドロキシC1-3アルキルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどのカルボキシC1-3アルキルセルロース又はその塩など)、ポリアルキレングリコール樹脂(ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイドなどのポリC2-4アルキレンオキサイドなど)、ポリビニル系樹脂(ポリビニルピロリドン、ポリビニルエーテル、ビニルアルコール系重合体、ポリビニルアセタールなど)、アクリル系共重合体およびその塩[(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミドなどのアクリル系単量体で構成された単位を含む共重合体又はそのアルカリ金属塩など]、変性ビニル系共重合体(イソブチレン、スチレン、エチレン、ビニルエーテルなどのビニル系単量体と、無水マレイン酸などの不飽和カルボン酸又はその無水物との共重合体又はその塩など)、親水性の置換基を導入したポリマー(スルホン酸基やカルボキシル基、ヒドロキシル基などを導入したポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン又はその塩など)、脂肪族ポリエステル系樹脂(ポリ乳酸系樹脂など)などが挙げられる。さらに、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、共重合ポリエステル樹脂、ポリアミド系樹脂、共重合ポリアミド樹脂、ポリウレタン系樹脂、熱可塑性エラストマー又はゴム(スチレン系エラストマーなど)などのうち、熱水(高温水蒸気)の温度で軟化して接着機能を発現可能な樹脂も含まれる。
【0018】
これらの湿熱接着性樹脂は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。湿熱接着性樹脂は、通常、親水性高分子又は水溶性樹脂で構成される。これらの湿熱接着性樹脂のうち、エチレン−ビニルアルコール共重合体などのビニルアルコール系重合体、ポリ乳酸などのポリ乳酸系樹脂、(メタ)アクリルアミド単位を含む(メタ)アクリル系共重合体、特に、エチレンやプロピレンなどのα−C2-10オレフィン単位を含むビニルアルコール系重合体、特に、エチレン−ビニルアルコール系共重合体が好ましい。
【0019】
ここで、湿熱接着性繊維あるいは湿熱接着性成分として好ましく用いられるエチレンビニルアルコール系共重合体として、ポリビニルアルコールにエチレン単位が5〜60モル%共重合されたものが用いられる。特にエチレン単位が30〜50モル%共重合されたものが、不織繊維構造体の加工性を確保する上で好ましい。エチレン単位が所定量共重合されることにより、湿熱接着性を有するが、熱水溶解性はないという特異な性質が得られる。エチレン単位の含有量が5モル%未満の場合、エチレン−ビニルアルコール系共重合体が、低温の水で容易に膨潤・ゲル化してしまい、水に一度濡れると形態が変わってしまう場合がある。また、60モル%を超えると吸湿性が低下し、湿熱による繊維融着が発現しにくくなる場合がある。
【0020】
エチレン−ビニルアルコール系共重合体の粘度平均重合度は、必要に応じて選択できるが、例えば、200〜2500、好ましくは300〜2000、さらに好ましくは400〜1500である。重合度がこの範囲にあると、紡糸性と湿熱接着性とのバランスに優れる。また、ビニルアルコール部分は90モル%以上のケン化度を有するものが好ましい。
【0021】
これらの樹脂からなる湿熱接着性繊維の断面形状は、特に限定はなく、一般的な中実断面形状である丸断面や異型断面形状に限らず、中空断面形状等、種々の断面形状とすることができる。さらには、他の重合体との複合繊維であってもよく、その複合形態においては、湿熱接着性樹脂が繊維表面において、その一部あるいは全部が長さ方向に連続して存在するものであれば特に限定はない。例えば、芯鞘型、海島型、サイドバイサイド型、多層貼合型、ランダム複合、放射状貼合型等を挙げることができる。あるいは他の繊維形成性重合体からなる繊維に湿熱接着性を有する樹脂をコートした繊維でもよい。繊維の接着性の均一性を確保する上では、その中でも芯鞘型が好ましい。
【0022】
複合繊維の場合、湿熱接着性樹脂同士を組み合わせてもよいが、非湿熱接着性樹脂と組み合わせてもよい。非湿熱接着性樹脂としては、非水溶性又は疎水性樹脂、例えば、ポリオレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリウレタン系樹脂、熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。これらの非湿熱接着性樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0023】
これらの非湿熱接着性樹脂のうち、耐熱性及び寸法安定性の点から、融点が湿熱接着性樹脂(特にエチレン−ビニルアルコール系共重合体)よりも高い樹脂、例えば、ポリプロピレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、特に、耐熱性や繊維形成性などのバランスに優れる点から、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂が好ましい。
【0024】
ポリエステル系樹脂としてはテレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、フタル酸、α,β−(4−カルボフェノキシ)エタン、4,4−ジカルボキシジフェニル、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、アゼライン酸、アジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のジオールからなる繊維形成性のポリエステルを挙げることができ、構成単位の80モル%以上がエチレンテレフタレート単位であることが好ましい。
【0025】
ポリアミド系樹脂としては、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド10、ポリアミド12、ポリアミド6−12などの脂肪族ポリアミドおよびその共重合体、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジアミンとから合成された半芳香族ポリアミドなどが好ましい。これらのポリアミド系樹脂にも、共重合可能な他の単位が含まれていてもよい。
【0026】
また、他の繊維形成性重合体との複合繊維の場合は、複合繊維全体の重量に対する湿熱接着性樹脂の割合が90質量%を超えると、他の樹脂が繊維の形態を保持できなくなり、複合繊維そのものの強度を充分に確保することが困難となる。また、逆に湿熱接着性樹脂の割合が10質量%未満であると、湿熱接着性樹脂の量が少ないためにこの樹脂層が繊維形態を保持できなくなり、長さ方向に連続した樹脂層を保持することが極めて困難になるばかりか、この比率では充分な繊維接着強度を確保することができなくなる。これは、湿熱接着性樹脂を繊維にコートする場合においても同様である。
【0027】
本発明の不織繊維構造体を構成する繊維の平均繊度は、0.5〜20dtexであり、好ましくは1〜10dtex、さらに好ましくは2〜8dtexである。平均繊度が0.5未満であると、繊維どうしの接着が弱くなり、構造体としての強度が弱くなってしまう。また、後述するカード法によるウェブの形成工程の生産性が低下してしまう。平均繊度が20dtexを超えると、構造体内部の密度の均一性が保てなくなり、透過光の拡散性も低下してしまう。
【0028】
次に、このような湿熱接着性繊維あるいは湿熱接着性樹脂を一成分とする複合繊維をウェブ化し、繊維固定して目的のボード材とするのであるが、ウェブ形成に関しては、スパンボンド法、メルトブロー法のような直接法を用いてもよいし、ステープル繊維を用いてカード法、エアレイ法などの乾式法を用いてウェブを形成してもよい。ステープル繊維ウェブとしては、ランダムウェブ、セミランダムウェブ、パラレルウェブ、クロスラップウェブ等が好ましく用いられる。
【0029】
このような繊維ウェブを製造する際、必要に応じて他の繊維を混合してもよいが、この場合、湿熱接着性繊維の混率は、20質量%以上であり、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上である。湿熱接着性繊維の割合が多いほど、ボード材としての機械強度を高くすることが容易になる。この繊維が20質量%未満になると、充分な機械強度を確保することができなくなるばかりか、不織繊維構造体としての取扱性を保持することさえも困難になる。
【0030】
混合する繊維としては、特に限定はないが、ポリエステル、ポリアミドあるいはポリオレフィン等からなる熱可塑性繊維や、木綿、羊毛、絹、麻などの天然繊維、トリアセテート繊維などのアセテート繊維など半合成繊維、レーヨン、ポリノジック、キュプラ、リヨセルなど再生繊維、炭素繊維、ガラス繊維、金属繊維など無機繊維などが使用できる。
【0031】
さらに、本発明の不織繊維構造体は慣用の添加剤、例えば、安定剤(銅化合物などの熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤など)、抗菌剤、消臭剤、香料、着色剤(染顔料など)、充填剤、帯電防止剤、難燃剤、可塑剤、潤滑剤、結晶化速度遅延剤などを含有していてもよい。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの添加剤は、繊維表面に担持されていてもよく、繊維中に含まれていてもよい。
【0032】
これら構成繊維は、各々その接点で接着しているのであるが、できるだけ少ない接点数で大きな曲げ破壊荷重を発現するためには、この接着点が構造体表面から中央、そして反対側の表面に至るまで、厚さ方向に沿って均一に分布していることが好ましい。接着点が表面あるいは中央に集中してしまうと、充分な曲げ破壊荷重を確保することが困難であるばかりでなく、接着点の少ない所の形態安定性が不足する可能性が高くなる場合がある。 従って、本発明のボード材を得るための不織繊維構造体においては、該構造体断面を厚さ方向に沿って3等分した際に、3等分した各々の領域における繊維接着率がそれぞれ85%以下であり、かつ各領域における繊維接着率の最大値に対する最小値の割合が80%以上であることが好ましい。この繊維接着率は、より好ましくは5〜60%であり、さらに好ましくは10〜35%である。また接着率の最大値に対する最小値の割合は、90%以上であることがより好ましく、さらに好ましくは95%以上である。なお、本発明にいう繊維接着率は後述する方法により測定する。
【0033】
本発明では曲げ挙動をあらわすため、JIS K7017「繊維強化プラスチック−曲げ特性の求め方」に準じ、サンプルを徐々に曲げたときに生ずるサンプルの反発力を測定した場合における最大荷重を曲げ破壊荷重としてあらわした。すなわち、この曲げ破壊荷重が大きいほど硬い構造体であるということができる。また、測定対象となる構造体が破壊するまでの曲げ量(変位)が大きいほどよく曲がる構造体であるといえる。本発明のボード材は、少なくとも一方向における曲げ破壊荷重が2N以上であり、好ましくは5N以上であり、さらに好ましくは10N以上である。この曲げ破壊荷重が2Nに満たない場合、ボード材として使用したときに自重で簡単に折れてしまうため、ボード材としての体をなさなくなってしまうため好ましくない。
【0034】
本発明のボード材において、測定サンプル固有の曲げ破壊荷重に到達すると、その後は徐々に荷重が低くなる。すなわち、上に凸の放物線状のカーブを描く相関を示す。本発明のボード材は、曲げ破壊荷重を超えて、さらに曲げようとした場合においても、急激な応力降下を生じることなく、いわゆる「粘り」を有することも特徴の一つである。かかる「粘り」をあらわす指標として、本発明者らは、曲げ破壊荷重の変位を超えた状態において残っている曲げ荷重を用いた。すなわち、本発明のボード材は、曲げ破壊荷重を示す変位の2倍の変位まで曲げた時の荷重(以下、「2倍変位荷重」と表現することがある)が、曲げ破壊荷重の1/10以上であり、好ましくは3/10以上、より好ましくは5/10以上である。
【0035】
本発明では、透過光の拡散性を表すため、ボード材の一方の面に対して垂直に入射した光が、反対面へ透過する際の、反対面の法線とのなす角が0°における透過光強度に対しての、反対面の法線とのなす角が45°における透過光強度の比率を透過光の拡散性(以下、「45°拡散性」と表現することがある)として表した。本発明のボード材は、45°拡散性が50%以上であり、好ましくは55%以上であり、さらに好ましくは60%以上である。45°拡散性が50%未満であると、例えば建築物の窓に使用した場合、採光された光が十分に拡散されず、窓際と室内の隅との明るさに差が出ることで、室内の隅ではその照度よりも暗く感じることがある。また、照明などのランプシェードとして使用した場合は、光源の光が直接見えたり、光源の輪郭がはっきりと見えるようになり、間接照明のような柔らかい光を得ることが困難となる。
【0036】
本発明のボード材は不織繊維構造体を有しており、ボード材に当てられた光は、構造体を構成する繊維表面での光の反射および繊維内部への光の透過を繰り返し、ボード材の反対面へと透過し拡散された光となる。したがって、ボード材を透過した光は十分に拡散され、明るく柔らかい光を採光することができる。このような観点から本発明のボード材に用いる不織繊維構造体は、0.03〜0.3g/cmの見かけ密度を有するものであり、好ましくは、0.05〜0.25g/cmであり、さらに好ましくは0.10〜0.2g/cmである。見かけ密度が0.03g/cm未満の場合には、軽量性を有するものの、透過光の充分な拡散性が得られないほか、曲げ強度を確保することが難しくなる。見かけ密度が0.3g/cmを超えると、硬さは充分確保できるものの、光透過性のあるボード材とは言い難くなってしまう。
【0037】
また、本発明のボード材に用いる不織繊維構造体の厚さは1〜30mmの範囲にあることが好ましく、より好ましくは5〜25mmであり、さらに好ましくは10〜20mmである。厚さが1mm未満の場合は、曲げ強度を確保することが難しく、また厚さが30mmを超えると、光の透過性が低くなるばかりでなく、ウェブが厚すぎて、飽和水蒸気または過熱水蒸気が充分にウェブ内部へ入り込めず、厚さ方向に均一な構造とすることが困難になる場合がある。
【0038】
一方、本発明のボード材に用いる不織繊維構造体の目付は、厚さと見かけ密度によって規定されるが、好ましくは100〜9000g/mであり、さらに好ましくは500〜3000g/mである。目付が100g/m未満の場合は、やはり、透過光の充分な拡散性が得られないほか、曲げ強度を確保することが難しく、また、目付が9000g/mを越えると、これも、繊維の本数が多すぎて、光の透過性が低くなるほか、ウェブが厚すぎて、飽和水蒸気または過熱水蒸気が充分にウェブ内部へ入り込めず、厚さ方向に均一な構造とすることが困難になる場合がある。
【0039】
さらに、例えば、本発明のボード材を採光窓として使用する際、ボード材の有する通気性により、窓を開けずに室内の換気を行うことができる。また、通気性が不要で、フィルムを貼るようなケースの場合、本発明のボード材の有する通気性によりフィルム内の空気が反対側に抜けることによるフィルム貼付後のフィルムの浮き、剥がれを回避できるというメリットがある。また、貼り付けたフィルムの粘着剤が表面の構成繊維に貼り付くとともに、繊維空隙に楔の如く入り込むことで強固な接着を実現できるというメリットもある。
この通気性については、フラジール形法による通気度で0.1cm/cm/秒以上であることが好ましく、さらに好ましくは1〜250cm/cm/秒であり、最も好ましくは5〜200cm/cm/秒である。通気度が0.1cm/cm/秒未満の場合は、空気が構造体を通過するために外部から圧力を加える必要が生じ、自然な空気の出入が行えないため好ましくない。一方、通気度が250cm/cm/秒を超えると、通気性が高くなるが、構造体内の繊維空隙が大きくなりすぎ、充分な曲げ破壊荷重を確保できなくなるケースが生ずるため好ましくない。
【0040】
次に、本発明のボード材に用いる不織繊維構造体の製造法について説明する。
すでに述べた方法により形成された繊維ウェブは、ベルトコンベアにより次工程へ送られ、次いで飽和蒸気または過熱蒸気(高圧スチーム)流に晒されることで、不織繊維構造体が得られる。ここで使用するベルトコンベアは、基本的には加工に用いる繊維ウェブをその形態を乱すことなく運搬できるものであれば特に限定はないが、エンドレスコンベアが好適に用いられる。もちろん一般的な単独のベルトコンベアであってもよいし、必要に応じてもう一台のベルトコンベアを用意し、両コンベアの間にウェブを挟むようにして運搬する方法でもよい。このようにすることでウェブを処理する際に、処理に用いる水、蒸気あるいはコンベアの振動などの外力により運搬してきたウェブの形態が変形するのを抑えるのである。また、処理後の構造体の見かけ密度や厚さをこのベルトの間隔を調整することにより制御することも可能になる。
【0041】
ウェブに蒸気を供給するための蒸気噴射装置は、一方のコンベア内に装着され、コンベアネットを通してウェブに蒸気を供給する。反対側のコンベアには、サクションボックスを装着してもよい。この場合には、ウェブを通過した過剰の蒸気を吸引排出することができる。さらには、ウェブの表と裏を一度に蒸気処理してしまうために、蒸気噴射装置を設置してあったコンベアの下流側にサクションボックスを装着し、反対側のコンベア内に蒸気噴射装置を設置してもよい。下流部の蒸気噴射装置とサクションボックスがない場合、構造体の表と裏を蒸気処理したければ、一度処理した構造体の表裏を反転させて再度処理装置内を通過させることで代用できる。
【0042】
コンベアに用いるエンドレスベルトは、ウェブの運搬や蒸気処理の妨げにならなければ、特に限定されるものではない。ただし、蒸気処理をした場合、その条件により構造体表面にベルトの表面形状が転写される場合が生ずるので、場合に応じて適宜選択する。特に、表面の平坦な構造体を得たい場合は、メッシュの細かいネットを使用すればよい。この場合、90メッシュ程度が上限である。これ以上のメッシュの細かなものは、通気性が低く、蒸気が通過し難くなり好ましくない。また、ベルト材質は、蒸気処理に対する耐熱性等の観点より、金属、耐熱処理したポリエステル、ポリフェニレンサルファイド、あるいはポリアリレートや全芳香族系ポリエステル等の耐熱性樹脂よりなるメッシュベルトが好ましく用いられる。
【0043】
次に、このウェブはコンベアにより運搬され、ノズルから噴出される高速蒸気流の中を通過する際、吹き付けられた過熱蒸気により繊維同士の3次元的接着が行なわれる。
この蒸気は、気流であるため被処理体であるウェブ中の繊維を(水流絡合処理や、ニードルパンチ処理の様に)大きく移動させることなく、ウェブ内部へ進入する。このウェブ中への蒸気流の進入作用および湿熱作用によって、蒸気流がウェブ内に存在する各繊維の表面を湿熱状態で効率的に覆い、均一な熱接着が可能になると考えられる。また、この処理は高速気流下で極めて短時間に行われるため、蒸気の繊維表面への熱伝導は速いが、繊維内部への熱伝導はさほど速くなく、そのため蒸気の圧力や熱により、処理されるウェブ自体の厚さが損われるような変形も起こりにくい。その結果、ウェブを潰すことなく、表面および厚さ方向における接着の程度が概ね均一になるように湿熱接着される。
このとき、ウェブを挟んでノズルと反対側のエンドレスベルトの裏側をステンレス板等にし、蒸気が通過できない構造とすれば、被処理体であるウェブを通過した蒸気がここで反射するので、蒸気の保温効果によってより強固に接着される。逆に軽度の接着が必要な場合には、サクションボックスを配置し、余分な水蒸気を室外へ排出してもよい。
【0044】
水蒸気を噴射するためのノズルは、所定のオリフィスが幅方向に連続的に並んだプレートやダイスを用い、これを供給されるウェブの幅方向に沿ってオリフィスが並ぶように配置すればよい。この時、オリフィス列は1列以上あればよく、複数列が並行した配列であってもよい。もちろん、一列のオリフィス列を有するノズルダイを複数台並列に設置しても構わない。
例えば、プレートにオリフィスを開けたタイプのノズルを使用する場合、プレートの厚さは、0.5〜1.0mm程度のものが主に用いられる。この場合には、オリフィスの径やピッチに関しては、目的とする繊維固定ができる条件であれば特に制限はないが、通常、直径0.05〜2.0mmのものを使用するケースが多く、好ましくは0.1〜1.0mm、より好ましくは0.2〜0.5mmである。一方、オリフィスのピッチについては、通常0.5〜3.0mmで使用するケースが多いが、好ましくは1.0〜2.5mm、より好ましくは1.0〜1.5mmである。
オリフィスの径が0.05mmより小さい場合には、ノズルの加工精度が低くなり、加工が困難になるという設備的な問題点と、目詰まりを起こしやすくなるという運転上の問題点が生じるため好ましくない。逆に、2.0mmを超える場合には、充分な水蒸気噴射力を得ることが難しくなってしまうため好ましくない。一方、ピッチが0.5mm未満の場合は、ノズル孔が密になりすぎるため、ノズルそのものの強度が低下してしまい好ましくない。一方で、ピッチが3mmを超えるような場合には、蒸気がウェブに充分当らなくなるケースが出てくるため、充分なウェブ強度を確保しにくい場合がある。
【0045】
また、繊維接着に使用する蒸気についても、目的とする繊維固定が実現できれば特に限定はなく、使用する繊維の材質や形態により設定すればよいが、圧力0.1MPa〜2.0MPaの蒸気を用いることが好ましく、より好ましくは0.2〜1.5MPaであり、さらに好ましくは0.3〜1.0MPaである。例えば、蒸気の圧力が高すぎたり、強すぎる場合には、ウェブを形成する繊維が動いてしまい、地合の乱れを生じたり、繊維が溶融しすぎて部分的に繊維形状を保持できなくなるという問題を生ずる可能性がある。
また、圧力が弱すぎる場合は、繊維の融着に必要な熱量を被処理物に与えることができなくなったり、水蒸気がウェブを貫通できず、厚さ方向に繊維融着斑を生ずる等の問題が発生したり、ノズルからの蒸気の均一噴出の制御が困難になる等の不具合が発生しやすくなる。
【0046】
必要であれば、コンベアベルトに所定の凹凸柄や文字や絵等を付与しておき、これらを転写させることで得られる製品に意匠性を付与することも可能である。
また、他の資材と積層したり、成型加工により希望の形態とすることも可能である。
【0047】
このようにして繊維ウェブの繊維を部分的に湿熱接着した後、構造体に水分が残留する場合があるので、必要に応じてウェブを乾燥しなければならない。乾燥に関しては、乾燥用加熱体に接触した構造体表面が、乾燥後にフィルム化せずに繊維形態を維持していることが必要であり、これが達成できるのであれば特に方法は問わない。従って、従来から不織布の乾燥に使用されるシリンダー乾燥機やテンターのような大掛かりな乾燥設備を使用しても構わないが、残留している水分は微量であるケースが多く、比較的軽度な乾燥手段により乾燥可能なレベルである際には、遠赤外線照射、マイクロ波照射、あるいは電子線照射等の非接触法や熱風を吹きつける方法等が好ましい。
【0048】
また、このようにして製造した本発明のボード材を、例えば建築材として用いるような場合には、難燃性が必要とされる場合がある。このような場合には常法の通り、難燃剤を添加することで難燃性を確保できる。難燃剤としては、ハロゲン系、リン酸系、ホウ酸やホウ砂やケイ酸などの無機鉱物系、水酸化アルミや酸化マグネシウムなどの金属酸化物系が使用できる。これらの難燃剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。難燃化の方法としては、通常のディップ−ニップ加工と同様にして、本発明の不織繊維構造体に、難燃剤の水溶液やエマルジョンを含浸あるいは噴霧した後に乾燥させる方法、あるいは繊維紡糸時に二軸押出機等で難燃剤を混練した樹脂を押出して紡糸し、この糸を用いて不織布化するという製法を使用できる。
【0049】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例における各物性値は、以下の方法により測定した。
【0050】
(1)エチレン−ビニルアルコール系共重合体のメルトインデックス(MI)
JIS K6760に準じ、190℃、21.2N荷重の条件下、メルトインデクサー
を用いて測定した。
【0051】
(2)目付(g/m
JIS L1913に準じて測定した。
【0052】
(3)厚さ(mm)、見かけ密度(g/cm
JIS L1913に準じて厚さを測定し、この値と(2)の方法で測定した目付とか
ら見かけ密度を算出した。
【0053】
(4)通気度(cm/cm/秒)
JIS L1096に準じ、フラジール形法にて測定した。
【0054】
(5)曲げ破壊荷重(N)
JIS K7017に記載の方法のうちA法(3点曲げ法)に準じて測定した。このとき、測定サンプルは30mm幅×200mm長のものを用い、支点間距離160mm、試験速度10mm/分にて測定を行った。本発明では、この測定結果チャートにおける最大荷重を曲げ破壊荷重とした。なお、曲げ荷重測定は、MD方向およびCD方向について行った。ここで、MD方向とは、測定サンプルの長辺に対しウェブ流れ方向(MD)が平行となるよう測定サンプルを採取して測定した状態をいい、一方、CD方向とは、測定サンプルの長辺に対しウェブ幅方向(CD)が平行となるよう測定サンプルを採取し、測定した状態をいう。
【0055】
(6)2倍変位荷重(N)
(5)における曲げ破壊荷重の測定において、曲げ破壊荷重を示す変位を超え、さらにその変位の2倍の変位まで曲げつづけたときの荷重を2倍変位荷重とした。
【0056】
(7)繊維接着率
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、構造体断面を100倍に拡大した写真を撮影した。撮影した構造体の厚さ方向における断面写真を厚さ方向に三等分し、三等分した各領域(表面、内部(中央)、裏面)において、そこに見出せる繊維切断面(繊維端面)の数に対して繊維同士が接着している切断面の数の割合を求めた。各領域に見出せる全繊維断面数のうち、2本以上の繊維が接着した状態の断面の数の占める割合を以下の式に基づいて百分率で表わした。なお、繊維同士が接触する部分には、融着することなく単に接触している部分と、融着により接着している部分とがある。但し、顕微鏡撮影のために繊維集合体を切断することにより、繊維集合体の切断面においては、各繊維が有する応力によって、単に接触している繊維同士は分離する。従って、断面写真において、接触している繊維同士は、接着していると判断できる。
繊維接着率(%)=(2本以上接着した繊維の断面数)/(全繊維断面数)×100
但し、各写真について、断面の見える繊維は全て計数し、繊維断面数100以下の場合は、観察する写真を追加して全繊維断面数が100を超えるようにした。なお、三等分した各領域についてそれぞれ繊維接着率を求め、その最大値と最小値との割合から厚さ方向における均一性を算出した。
【0057】
(8)45°拡散性(透過光の拡散性)
ゴニオメーター(村上色彩技術研究所製、GP200)を用いて、サンプルの一方の面に対して垂直に入射し、反対面へ透過する光に対し、反対面の法線とのなす角が0°における透過光強度に対しての、反対面の法線とのなす角が45°における透過光強度の比率を測定した。
【実施例1】
【0058】
湿熱性接着性繊維として、芯成分がポリエチレンテレフタレート、鞘成分がエチレンビニルアルコール系共重合体(エチレン含有量44モル%、ケン化度98.4モル%、芯鞘比=50/50)である芯鞘型複合ステープル繊維(クラレ社製、「ソフィスタ」、3.3dtex、51mm長、捲縮数21個/インチ、捲縮率13.5%)を準備した。
上記芯鞘型複合ステープル繊維を用いて、カード法により目付約300g/mのカードウェブを作製した。
このカードウェブを、50メッシュ、幅500mmのステンレス製エンドレス金網を装備したベルトコンベアに移送した。なお、該ベルトコンベアの金網の上部には同じ金網が装備されており、それぞれが同じ速度で同方向に回転し、これら両金網の間隔を任意に調整可能なベルトコンベアを使用した。
次いで、ベルトコンベアに備えられた蒸気噴射装置へカードウェブを導入し、該装置から0.4MPaの過熱蒸気をカードウェブに対し垂直に噴出して蒸気処理を施し、本発明に用いる不織繊維構造体を得た。該蒸気噴射装置は、一方のコンベア内に、コンベアネットを介して過熱蒸気をウェブに向かって吹き付けるようにノズルが設置され、もう一方のコンベアにサクション装置が設置されていた。また、この噴射装置のウェブ進行方向下流側には、ノズルとサクション装置の配置が逆転した組合せである噴射装置がもう一つ設置されていた。
なお、水蒸気噴射ノズルの孔径は0.3mmであり、該ノズルがコンベア幅方向に沿って1mmピッチで1列に並べられたものを使用した。加工速度は3m/分であり、ノズルとサクション側のコンベアベルトとの距離は1.5mmとした。
得られた不織繊維構造体は、ボード状の形態を有し、一般的な不織布に比べ非常に硬く、曲げ荷重ピークを超えても破壊せず、極端な荷重の低下もなかった。また、繊維接着率の厚さ方向における均一性は高く、45°拡散性も良好であった。結果を表1に示す。
【実施例2】
【0059】
実施例1で使用した繊維を用いて、カード法により目付約300g/mのカードウェブとし、ノズルとサクション側のコンベアベルトとの距離を8mmとしたこと以外は、実施例1と同様にして不織繊維構造体を得た。結果を表1に示す。
得られた不織繊維構造体もボード状の形態を有しており、実施例1の構造体に比べ、若干柔らかいものの同様の曲げ挙動を示した。また、45°拡散性は実施例1の構造体に比べ良好であった。
【実施例3】
【0060】
実施例1で使用した繊維を用いて、カード法により目付約750g/mのカードウェブとし、ノズルとサクション側のコンベアベルトとの距離を3mmとしたこと以外は、実施例1と同様にして不織繊維構造体を得た。結果を表1に示す。
実施例3で得られた不織繊維構造体もボード状の形態を有しており、実施例2の不織繊維構造体に比べ非常に硬いが、曲げ荷重ピークを超えても破壊せず、極端な荷重の低下もなかった。また、45°拡散性も良好であった。
【実施例4】
【0061】
実施例1で使用した繊維を用いて、カード法により目付約750g/mのカードウェブとし、ノズルとサクション側のコンベアベルトとの距離を6mmとしたこと以外は、実施例1と同様にして不織繊維構造体を得た。結果を表1に示す。
得られた不織繊維構造体は、実施例1の不織繊維構造体と同様な曲げ挙動であった。また、45°拡散性も良好であった。
【実施例5】
【0062】
湿熱性接着性繊維として、芯成分がポリエチレンテレフタレート、鞘成分がエチレンビニルアルコール系共重合体(エチレン含有量44モル%、ケン化度98.4モル%、芯鞘比=50/50)である芯鞘型複合ステープル繊維(クラレ社製、「ソフィスタ」、1.7dtex、51mm長、捲縮数21個/インチ、捲縮率13.5%)を用いて、カード法により目付約730g/mのカードウェブを作製し、ノズルとサクション側のコンベアベルトとの距離を6.5mmとしたこと以外は、実施例1と同様にして不織繊維構造体を得た。結果を表1に示す。
得られた不織繊維構造体は、実施例1の不織繊維構造体と同様、曲げ荷重ピークを超えても破壊せず、極端な荷重の低下もなかった。また、繊維接着率の厚さ方向における均一性も高く、45°拡散性も良好であった。
【実施例6】
【0063】
湿熱性接着性繊維として、芯成分がポリエチレンテレフタレート、鞘成分がエチレンビニルアルコール系共重合体(エチレン含有量44モル%、ケン化度98.4モル%、芯鞘比=50/50)である芯鞘型複合ステープル繊維(クラレ社製、「ソフィスタ」、5.5dtex、51mm長、捲縮数21個/インチ、捲縮率13.5%)を用いて、カード法により目付約730g/mのカードウェブを作製し、ノズルとサクション側のコンベアベルトとの距離を6.5mmとしたこと以外は、実施例1と同様にして不織繊維構造体を得た。結果を表1に示す。
得られた不織繊維構造体は、実施例1の不織繊維構造体と同様、曲げ荷重ピークを超えても破壊せず、極端な荷重の低下もなかった。また、繊維接着率の厚さ方向における均一性も高く、45°拡散性も良好であった。
【実施例7】
【0064】
実施例1で使用した繊維を用いて、カード法により目付約2000g/mのカードウェブとし、ノズルとサクション側のコンベアベルトとの距離を25mmとしたこと以外は、実施例1と同様にして不織繊維構造体を得た。結果を表1に示す。
実施例7で得られた不織繊維構造体もボード状の形態を有しており、実施例1の不織繊維構造体に比べ非常に硬いが、曲げ荷重ピークを超えても破壊せず、極端な荷重の低下もなかった。また、繊維接着率の厚さ方向における均一性は、実施例1の不織繊維構造体に比べ若干低かったが、85.8%と高い均一性を有していた。また、45°拡散性も良好であった。
【0065】
比較例1
実施例1で使用した繊維を用いて、カード法により目付約125g/mのカードウェブとし、ノズルとサクション側のコンベアベルトとの距離を0.6mmとしたこと以外は、実施例1と同様にして不織繊維構造体を得た。結果を表1に示す。
この不織繊維構造体は、厚さが小さいために非常に柔らかく、いわゆる自立性のあるボード状にはならなかった。また、透過させた光は十分に拡散せず、45°拡散性も低かった。
【0066】
比較例2
実施例1で使用した繊維を用いて、カード法により目付約4000g/mのカードウェブとし、ノズルとサクション側のコンベアベルトとの距離を40mmとしたこと以外は、実施例1と同様にして不織繊維構造体を得た。結果を表1に示す。
実施例1の不織繊維構造体に比べて非常に硬い不織繊維構造体が得られ、曲げ荷重ピークを超えても破壊せず、極端な荷重の低下もなかった。しかし、厚さが大きすぎるために光が構造体を透過することができず、45°拡散性を測定することはできなかった。
【0067】
比較例3
実施例1で使用した繊維を用いて、カード法により目付約100g/mのカードウェブとし、ノズルとサクション側のコンベアベルトとの距離を4mmとしたこと以外は、実施例1と同様にして不織繊維構造体を得た。結果を表1に示す。
この不織繊維構造体は、見かけ密度が小さいために非常に柔らかく、いわゆる自立性のあるボード状にはならなかった。また、透過させた光は十分に拡散せず、45°拡散性も低かった。
【0068】
比較例4
実施例1で使用した湿熱接着性繊維を10質量%、ポリエチレンテレフタレート繊維(
3dtex、51mm長)を90質量%用いて、カード法により目付約500g/mのカードウェブとし、ノズルとサクション側のコンベアベルトとの距離を8mmとしたこと以外は、実施例1と同様にして不織繊維構造体を得た。結果を表1に示す。
この不織繊維構造体は、極めて柔らかく、自重で曲がってしまい2倍変位荷重を測定することはできなかった。また、45°拡散性は63.2%であった。
【0069】
比較例5
メタクリル樹脂押出板(クラレ社製、「コモグラス」、艶あり、乳白色、オパール、厚さ4mm)について、曲げ破壊荷重を測定したところ、160Nであった。このメタクリル樹脂押出板は、曲げ荷重ピークを示した時の変位を超えたところで割れてしまい、2倍変位荷重は0Nであった。また、見かけ密度を測定したところ、1.19g/cm3であり、目付は4950g/mであり、実施例1から7の不織繊維構造体と比べ非常に重いものであった。また、45°拡散性は64.4%であった。
【0070】
比較例6
メタクリル樹脂押出板(クラレ社製、「コモグラス」、マット調、骨白色、ホワイト、厚さ4mm)について、曲げ破壊荷重を測定したところ、160Nであった。このメタクリル樹脂押出板は、曲げ荷重ピークを示した時の変位を超えたところで割れてしまい、2倍変位荷重は0Nであった。また、見かけ密度を測定したところ、1.19g/cmであり、目付は4950g/mであり、実施例1から7の不織繊維構造体と比べ非常に重いものであった。また、45°拡散性は68.6%であった。
【0071】
比較例7
障子紙(アサヒペン社製、「上撰障子紙」、無地)について、曲げ破壊荷重を測定したところ、サンプルが柔らかすぎて荷重ピークを得ることができず、曲げ破壊荷重および2倍変位荷重を測定することはできなかった。また、厚さを測定したところ、0.12mmであった。また、45°拡散性も40.6%であり、透過光は十分に拡散していなかった。
【0072】
【表1】

【0073】
上記の結果から明らかなように、本発明の不織繊維構造体を有するボード材は、低密度、軽量で、かつ高い曲げ破壊荷重を有しながらも、その曲げ破壊荷重を超えて力を加えられても容易に折れたり、割れたりすることのないボード材であることができる。また、ボード材を透過した光は適度に拡散して柔らかい光を得ることができることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、住宅または体育館やプール、病院、学校、公民館等公共の建築物の窓や屋根、壁材、天井材、床材、衝立、ドア、雨戸、シャッター、屏風など、または照明や看板などの電器製品のランプシェードなどに用いられる光透過性のあるボード材に利用できるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱接着性繊維を20〜100質量%含む不織繊維構造体を有するボード材であって、下記(1)〜(4)を満足することを特徴とする透光性ボード材。
(1)1〜30mmの厚さ、および0.03〜0.3g/cmの見かけ密度、および構成する繊維の平均繊度が0.5〜20dtexであり、
(2)一方の面に対して垂直に入射し、反対面へ透過する光に対し、反対面の法線とのなす角が0°における透過光強度に対しての、反対面の法線とのなす角が45°における透過光強度の比率が50%以上であり、
(3)断面を厚さ方向に沿って3等分した際に、3等分した各々の領域における繊維接
着率がそれぞれ85%以下であり、かつ各領域における繊維接着率の最大値に対する最小値の割合が80%以上であり、
(4)少なくとも一方向における曲げ破壊荷重が2N以上であるともに、曲げ荷重と変位の相関関係において、曲げ破壊荷重を示す変位の2倍の変位においても曲げ破壊荷重の1/10以上である。
【請求項2】
該熱接着性繊維が湿熱接着性繊維である請求項1に記載のボード材。
【請求項3】
該湿熱接着性繊維が、エチレン単位の含有量が5〜60モル%であるエチレン−ビニルアルコール系共重合体からなる請求項1または2に記載のボード材。
【請求項4】
該湿熱接着性繊維が、エチレン単位の含有量が5〜60モル%であるエチレン−ビニルアルコール系共重合体と、これとは異なる繊維形成性重合体とからなり、各々の成分の質量比が90/10〜10/90であり、なおかつ該エチレン−ビニルアルコール系共重合体が繊維表面の一部を長さ方向に連続して占めることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のボード材。
【請求項5】
該湿熱接着性繊維が、芯鞘型複合繊維であり、鞘成分がエチレン−ビニルアルコール系共重合体からなり、芯成分が繊維形成性重合体からなり、かつ該繊維形成性重合体がポリエステルである請求項4に記載のボード材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のボード材で構成された採光窓。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のボード材で構成された透光性断熱材。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のボード材で構成された透光性吸音材。

【公開番号】特開2010−196224(P2010−196224A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−45806(P2009−45806)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(307046545)クラレクラフレックス株式会社 (50)
【Fターム(参考)】