説明

透明な制御対象板用振動・騒音低減デバイス及び透明窓用振動・騒音低減装置

【課題】新規な透明パネル用振動・騒音低減デバイス及び透明窓用振動・騒音低減装置を提供する。
【解決手段】透明パネル用振動・騒音低減デバイスは、透明圧電フィルム(1)の両面に電極として透明導電膜(2)を設け、両電極に電気回路(3)を接続して構成した。透明窓用振動・騒音低減装置は、2層の透明パネルを有する窓の騒音源に近い側の透明パネルの前記騒音源と反対側に、前記透明圧電フィルムの両面に電極として透明導電膜を設けたものを設け、その電極に電気回路を接続して構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窓ガラスなどの透明なパネルの主として透過音を低減するためのデバイス及びそのデバイスを用いた透明窓用振動・騒音低減装置に関する。
【背景技術】
【0002】
建物においても、鉄道車両又は航空機などにおいても、その外壁などの構造体の部分における遮音性能はかなり高くなっているが、窓における遮音性能はまだ不十分であるため、窓から室内に透過する騒音が室内全体の騒音レベルの低下を妨げている。従って、室内全体の騒音レベルを下げるには、窓の透過音量を減らす必要がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、窓には、通常、透視を可能にするため、透明なガラス板又はプラスチック板(以下、透明パネルという。)が用いられている。従って、従来は、窓の透視性を損なわずに透明パネルの振動・騒音を低減させる材料又は装置を設けることはできないため、窓に内外2層のガラス板を設けるとともに、その板厚を増すことにより、振動・騒音の低減を図る質量則による方法に頼るほかなかった。鉄道車両や航空機の窓からの透過音を低減する方法としては、2層ガラス間の空気層を増大することなどにより、共鳴透過周波数(コインシデンス周波数)を低減させ、高周波域の透過損失を向上させる方法が提案されている。従って、透明パネルの板厚と空気層の厚みの増大で、窓全体の厚みが大きくなる傾向があった。しかし、窓の厚さには自ずと制約があるのでは、遮音・防音効果にも限界があった。
【0004】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものあり、解決しようとする第一の課題は、透明パネルなどの透明な制御対象板の厚みを増やす必要なしに、かつ、透視性を損なわずに振動・騒音を低減できる透明な制御対象板用振動・騒音低減デバイスを提供することにある。
【0005】
また、第二の課題は、上記振動・騒音低減デバイスを用いて、透明な窓に有効な振動・騒音低減効果を得ることができる透明窓用振動・騒音低減装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記第一の課題を解決するため、本発明に係る透明な制御対象板用振動・騒音低減デバイスは、透明圧電フィルムの両面に電極として透明導電膜を設けてなる透明電極付きの透明圧電フィルムと、前記両電極に接続された電気回路とを有することを特徴としている(請求項1)。
【0007】
本発明に係る透明な制御対象板用振動・騒音低減デバイスは、透明圧電フィルムの両面に、電極として透明導電膜を片面に設けたガラス板又はプラスチック板を、前記透明導電膜が設けられた面において貼り付けてなる透明電極付きの透明圧電フィルムと、前記両電極に接続された電気回路とを有する構成とすることもできる(請求項2)。
【0008】
上記第二の課題を解決するため、本発明に係る透明窓用振動・騒音低減装置は、透明な平板状制御対象物としての2層の透明ガラス板又はプラスチック板を有する窓の音源又は振動源に近い側の前記透明ガラス板又はプラスチック板の前記音源又は振動源と反対側の面に、請求項1又は2に記載の振動・騒音低減デバイスの透明電極付きの透明圧電フィルムを設け、その透明電極付きの透明圧電フィルムの両電極に電気回路を接続して構成されている(請求項3)。
【0009】
上記第二の課題を解決するための本発明に係る透明窓用振動・騒音低減装置は、透明な平板状制御対象物としての2層の透明ガラス板又はプラスチック板を有する窓の両透明ガラス板又はプラスチック板の間に、請求項1又は2に記載の振動・騒音低減デバイスの透明電極付きの透明圧電フィルムを設け、その透明電極付きの透明圧電フィルムの両電極に電気回路を接続して構成されてもよい(請求項4)。
【0010】
上記第二の課題を解決するための本発明に係る透明窓用振動・騒音低減装置は、さらに、各透明ガラス板又はプラスチック板と透明電極付きの透明圧電フィルムとの間にエアバッグを設けて、前記透明電極付きの透明圧電フィルムを固定した構成としてもよい(請求項5)。
【0011】
上記2層の透明ガラス板又はプラスチック板を有する窓は、鉄道車両又は航空機などの窓であることが望ましい(請求項6)。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、透明な制御対象板用振動・騒音低減デバイスは、透明圧電フィルムの両面に電極として透明導電膜を設け、両電極に電気回路を接続してなるので、透視可能であり、振動又は騒音により機械的エネルギーが加わると、圧電フィルムにより電気エネルギーに変換され、その電気エネルギーは透明導電膜を経て電気回路に与えられ、その電気回路の抵抗により熱エネルギーとして散逸される。従って、この振動・騒音低減デバイスを窓ガラスなどの透明な平面状制御対象物に貼り付け又は近傍に設けることにより、制御対象物の振動・騒音の透過量を低減することができる。
【0013】
請求項2の発明によれば、振動・騒音低減デバイスは、透明圧電フィルムの両面に、片面に電極として透明導電膜を設けたガラス板又はプラスチック板を、前記透明導電膜が設けられた面において貼り付け、両ガラス板又はプラスチック板の電極に電気回路を接続した構成であるので、透視可能であり、振動又は騒音により機械的エネルギーが加わると、圧電フィルムにより電気エネルギーに変換され、その電気エネルギーは透明導電膜を経て電気回路に与えられ、その電気回路の抵抗により熱エネルギーとして散逸される。従って、この振動・騒音低減デバイスを透明な平面状制御対象物に貼り付け又は近傍に設けることにより、制御対象物の振動・騒音の透過量を低減することができる。
【0014】
請求項3の発明によれば、透明窓用振動・騒音低減装置は、2層の透明ガラス板又はプラスチック板を有する窓の音源又は振動源に近い側の前記透明ガラス板又はプラスチック板の前記音源又は振動源と反対側の面に、上記振動・騒音低減デバイスの透明電極付きの透明圧電フィルムを設け、その透明電極付きの透明圧電フィルムの両電極に電気回路を接続してなるので、いずれの振動・騒音低減デバイスも機械的エネルギーから電気エネルギーへの変換及びさらに熱エネルギーに変換して散逸するので、2層の透明ガラス板又はプラスチック板を有する窓の透視性を損なうことなく、かつ、窓の厚さを増大することなく、振動・騒音の低減効果を発揮することができる。
【0015】
請求項4の発明によれば、透明窓用振動・騒音低減装置は、2層の透明ガラス板又はプラスチック板を有する窓の両透明ガラス板又はプラスチック板の間に、上記振動・騒音低減デバイスの透明電極付きの透明圧電フィルムを設け、その透明電極付きの透明圧電フィルムの両電極に電気回路を接続してなるので、通常の透明な複層ガラスからなる窓の中に振動・騒音低減デバイスの透明電極付きの透明圧電フィルムを設置するだけで、透明な窓の振動・騒音低減効果が容易に得られる。また、透明電極付きの透明圧電フィルムが、窓の透明ガラス板又はプラスチック板の間において自由振動が可能な状態に設けられた場合は、より大きな減衰効果が得られる。
【0016】
請求項5の発明によれば、請求項4の透明窓用振動・騒音低減装置において、各透明ガラス板又はプラスチック板と透明電極付きの透明圧電フィルムとの間にエアバッグを設けて、前記透明圧電フィルムを固定したので、エアバックの圧力により前記透明圧電フィルムの面全体が一定の状態に保持される。
【0017】
請求項6の発明によれば、鉄道車両又は航空機などの窓であるので、最も良くその効果が発揮される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
続いて、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
図1は本発明に係る振動・騒音低減デバイスの一例を示す断面図、図2は本発明に係る振動・騒音低減デバイスの他の例を示す断面図、図3は、振動・騒音低減デバイスを用いて構成された透明窓用振動・騒音低減装置の二例を示す概念図、図4は、振動・騒音低減デバイスを用いて構成された車両窓用振動・騒音低減装置の他の三例を示す概念図である。
【0019】
図1に示された透明な制御対象板用振動・騒音低減デバイスA1は、透明圧電フィルム1の両面に電極として透明導電膜2を設けて、透明電極付きの透明圧電フィルム(以下、透明電極付き圧電フイルムという。)TPPF1を形成し、その透明導電膜2に電気回路3を接続して構成されている。
【0020】
透明圧電フィルム1には、主としてポリフッ化ビニリデン・フィルム(PVDF)が用いられるが、そのほか、フッ素系のPVDF系共重合体、P(VDF/TrFE)(ダイキン工業製)、シアン系のP(VDCN/VAC)(三菱化学製)などを用いることができる。圧電フィルムのうち、機械エネルギーから電気エネルギーへの変換効率が最も高いのは、PVDFフィルムである。
【0021】
また、透明導電膜2は、酸化スズ(TO)、酸化インジウム(IO)、酸化インジウム・スズ(ITO)及び酸化インジウム亜鉛(IZO)やエチレンジオキシチオフェン(PEDT)などの高分子膜のいずれかを用いて生膜したものであり、透明性と導電性を兼備している。透明導電膜2を透明圧電フィルム1に設ける方法には、透明圧電フィルム1に直接生膜する方法と、樹脂フィルムに透明導電膜2を部分的に生膜し、その導電性フィルムを透明導電膜2の存在しない部分において透明接着剤で透明圧電フィルム1に貼り付ける方法のいずれを用いても良い。
【0022】
圧電フィルムが変形した際に発生する電荷を取り出すためには、その表面に導電材料を貼り付ける必要がある。従来はアルミを蒸着させて電極としたため、電極付き圧電フィルムとなったときには、透明でなくなっていた。本発明者は、透明圧電フィルムの電極としてITOなどを蒸着し、透明な電極付き圧電フィルムTPPF1を考案した。
【0023】
上記酸化材料を用いて透明圧電フィルム1又は樹脂フィルムに透明導電膜2を生膜する方法には、真空蒸着法、スパッタ法(とくにDCマグネトロンスパッタ法)、イオンプレーティング法などを用いることができる。
【0024】
透明電極付き圧電フィルムTPPF1に電気回路3を接続すると、透明電極フィルムが持つ圧電特性により、各種の機能を持たせることが可能である。例えば、電気回路3が信号発生機能とアンプ機能を有し、電気を供給する場合、透明電極付き圧電フィルムは圧電特性により与えられた電気信号に従い伸縮を行い、アクチュエータやスピーカとなる。また、透明電極付き圧電フィルムが振動・騒音エネルギーを受け振動した場合は、電気エネルギーを出力するエネルギー変換器として使用することができる。
【0025】
透明電極付き圧電フィルムに接続される電気回路3内の抵抗器により電気エネルギーを熱として散逸させることにより、透明電極付き圧電フィルムに印加される振動・騒音エネルギーの一部を低減することができる。電気回路3には、透明電極付き圧電フィルムが有する静電容量とインダクタンス回路、負性静電容量、自励振動回路のいずれでも適用可能である。
【0026】
透明圧電フィルム1の耐熱温度と透明導電膜2の結晶化温度の関係で、先の実施例のように、透明圧電フィルムに直接に透明導電膜を生膜することができない場合には、図2に示すような構造の透明電極付き圧電フィルムTPPF2とすることができる。すなわち、図2において、4はガラス板又はプラスチック板であり、その片面に電極として透明導電膜2が設けてある。そして、そのガラス板又はプラスチック板4を、透明導電膜2が設けられた面において透明圧電フィルム1の両面に透明接着剤5により貼り付けてある。透明接着剤をストライプ状又は格子状に塗布して、透明圧電フィルム1と透明導電膜2の間の導電性が確保されている。両側のガラス板又はプラスチック板4の透明導電膜2に電気回路3を接続することにより、透明な平板状制御対象物用振動・騒音低減デバイスが構成されている。
【0027】
図3は、上記の透明な平板状制御対象物用振動・騒音低減デバイス、すなわち、透明電極付き圧電フィルムTPPF1(又はTPPF2。以下、同じ。)に電気回路3を結合したものを用いて、透明パネルが一重の場合に適用するための透明窓用振動・騒音低減装置を構成した例を示す。同図(a)は、透明パネルPに直接に透明電極付き圧電フィルムTPPF1を添設した例であり、同図(b)は、透明パネルPと透明電極付き圧電フィルムTPPF1との間に空気層Sを設けた例である。(b)においては、入射する音響又は振動による透明パネルPの振動が空間Sにより遮断され、直接に透明電極付き圧電フィルムTPPF1に伝搬されないので、透明電極付き圧電フィルムの透過音は一層低減される。
【0028】
図4は、透明な平板状制御対象物として、内外2層の透明ガラス板又はプラスチック板などの透明パネルP1,P2を有する窓が、鉄道車両、航空機の窓である場合に、透明電極付き圧電フィルムTPPF1を用いて振動・騒音低減効果が得られるように構成した透明窓用振動・騒音低減装置の各例を示す。
【0029】
図4(a)は、車外側の透明パネルP2の内面に透明電極付き圧電フィルムTPPF1を貼り付けた場合の例を示し、同図(b)は、パネルP1,P2の中間に透明電極付き圧電フィルムTPPF1を取り付けた場合の例を示し、同図(c)は窓の内外の透明パネル1,P2の中間に透明電極付き圧電フィルムTPPF1を設け、各透明パネルと透明電極付き圧電フィルムTPPF1との間にエアバッグABを設けて、そのフィルムを固定した例を示している。(b)の場合は、その内外両側に空間があるので、振動・騒音の減衰率が高いが、鉄道車両や航空機の振動等により圧電フィルムTPPF1の固定状態が影響を受ける場合がある。しかし、(c)はエアバッグABにより圧電フィルムTPPF1が固定されているので、このような影響を受けることがない。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る振動・騒音低減デバイスの一例を示す断面図。
【図2】本発明に係る振動・騒音低減デバイスの他の例を示す断面図。
【図3】振動・騒音低減デバイスを用いて構成された本発明に係る透明窓用振動・騒音低減装置の3つの例を示す断面図。
【図4】振動・騒音低減デバイスを用いて構成された車両窓用振動・騒音低減装置の三例を示す概念図。
【符号の説明】
【0031】
TPPF1,TPPF2 透明電極付き圧電フイルム
1 透明圧電フィルム
2 透明導電膜
3 電気回路
4 樹脂フィルム
5 透明接着剤
P1,P2 透明パネル(透明ガラス板、透明プラスチック板)
AB エアバッグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明圧電フィルムの両面に電極として透明導電膜を設けてなる透明電極付きの透明圧電フィルムと、前記両電極に接続された電気回路とを有することを特徴とする透明な平板状制御対象物用振動・騒音低減デバイス。
【請求項2】
透明圧電フィルムの両面に、電極として透明導電膜を片面に設けたガラス板又はプラスチック板を、前記透明導電膜が設けられた面において貼り付けてなる透明電極付きの透明圧電フィルムと、前記両電極に接続された電気回路とを有することを特徴とする透明な平板状制御対象物用振動・騒音低減デバイス。
【請求項3】
透明な平板状制御対象物としての2層の透明ガラス板又はプラスチック板を有する窓の音源又は振動源に近い側の前記透明ガラス板又はプラスチック板の前記音源又は振動源と反対側の面に、請求項1又は2に記載の振動・騒音低減デバイスの透明電極付きの透明圧電フィルムを設け、その透明電極付きの透明圧電フィルムの両電極に電気回路を接続してなる透明窓用振動・騒音低減装置。
【請求項4】
透明な平板状制御対象物としての2層の透明ガラス板又はプラスチック板を有する窓の両透明ガラス板又はプラスチック板の間に、請求項1又は2に記載の振動・騒音低減デバイスの透明電極付きの透明圧電フィルムを設け、その透明電極付きの透明圧電フィルムの両電極に電気回路を接続してなる透明窓用振動・騒音低減装置。
【請求項5】
各透明ガラス板又はプラスチック板と透明電極付きの透明圧電フィルムとの間にエアバッグを設けて、前記透明電極付きの透明圧電フィルムを固定したことを特徴とする請求項4に記載の透明窓用振動・騒音低減装置。
【請求項6】
2層の透明ガラス板又はプラスチック板を有する窓は、鉄道車両又は航空機などの窓であることを特徴とする請求項3,4又は5に記載の透明窓用振動・騒音低減装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−41110(P2007−41110A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−222662(P2005−222662)
【出願日】平成17年8月1日(2005.8.1)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】