説明

透明導電性フィルムの製造方法

【課題】結晶化時間を短縮化することができる透明導電性フィルムの製造方法を提供すること。
【解決手段】透明なフィルム基材の少なくとも一方の面に、透明導電層を有する透明導電性フィルムの製法方法であって、前記透明はフィルム基材上に、4価金属元素の酸化物の割合が3〜35重量%以下のインジウム系複合酸化物をスパッタリングにて堆積させる工程(A1)と、酸化インジウムまたは前記4価金属元素の酸化物の割合が0を超え6重量%以下であって、工程(A1)で用いたインジウム系複合酸化物よりも、前記4価金属元素の酸化物の割合が小さいインジウム系複合酸化物をスパッタリングにて堆積させる工程(A2)を順次に施すことを含む、インジウム系複合酸化物の非晶質層を形成する工程(A)、および、前記非晶質層を加熱することにより結晶化させて、インジウム系複合酸化物の結晶質の透明導電層を形成する工程(B)を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光線領域に於いて透明性を有し、かつフィルム基材上に透明導電層を有する透明導電性フィルムの製造方法に関する。本発明の製造方法により得られる透明導電性フィルムは、液晶ディスプレイ、エレクトロルミネッセンスディスプレイなどのディスプレイ方式やタッチパネルなどに於ける透明電極のほか、透明物品の帯電防止や電磁波遮断などのために用いられる。タッチパネルには、位置検出の方法により光学方式、超音波方式、静電容量方式、抵抗膜方式などがある。本発明の製造方法により得られる透明導電性フィルムは、静電容量方式、特に、投影型静電容量方式タッチパネルへの適用が好適である。
【背景技術】
【0002】
従来、透明導電性フィルムとしては、ガラス上に酸化インジウムにより透明導電層を形成した、いわゆる導電性ガラスがよく知られているが、基材がガラスであるために可撓性、加工性に劣り、用途によっては使用できない場合がある。
【0003】
このため、近年では、可撓性、加工性に加えて、耐衝撃性に優れ、軽量である等の利点から、ポリエチレンテレフタレートフィルムをはじめとする各種のプラスチックフィルムを基材として、酸化インジウムにより透明導電層を形成した透明導電性フィルムが使用されている。
【0004】
また上記の透明導電層は、低抵抗、高透過率、高耐久性などの要求に応えるため、前記透明導電層は結晶化させて用いる場合が多い。その結晶化手段としては、フィルム基材に非晶質の透明導電層を形成した後に、加熱等により、非晶質の透明導電層を結晶化させる方法が一般的である。しかし、このような透明導電性フィルムは、フィルム基材の耐熱性にもよるが、通常は、結晶化に際して200℃以上に基材を加熱することは困難である。このため、透明導電層をガラス上に形成して高温加熱により結晶化させる場合よりも、フィルム基材を用いた透明導電性フィルムでは、透明導電層の結晶化に必要な時間が長いという問題があった。
【0005】
上記結晶化時間の問題とともに、高温高湿下での信頼性を満足させるために、フィルム基材上に2層堆積構造の透明導電層を設けることが提案されている。例えば、フィルム基材側から酸化スズの割合の小さいインジウム・スズ複合酸化物を堆積した後に、この上に酸化スズの割合の大きいインジウム・スズ複合酸化物を堆積することが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−244771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1によれば、透明導電層を1層で形成した場合に比べて結晶化時間はある程度は短縮される。しかし、透明導電層の結晶化時間は、さらなる短縮化が望まれている。
【0008】
上記のとおり、透明導電性フィルムは、タッチパネルやディスプレイの透明電極として使用される。タッチパネルとしては、マルチタッチ入力やジェスチャー入力が可能であり、スマートフォンへ搭載されることなどから、投影型静電容量方式のタッチパネルが急速に普及している。この投影型静電容量方式タッチパネルでは、透明導電層にパターニング処理が施された一対の透明導電性フィルムが対向配置されており、透明導電性フィルムに電流を流し、上下の透明導電層間の静電容量(あるいは、電圧の振幅や周波数等)を計測するような構造となっている。投影型静電容量方式タッチパネルでは、上側の透明導電性フィルムに指等を接近させると、上下の透明導電層間の静電容量が変化することにより、その接近部分の位置が検知される。投影型静電容量方式タッチパネルでは、センサの感度・分解能が向上する観点から、低抵抗(例えば、表面抵抗が150Ω/□程度)の透明導電層を用いることが望まれている。即ち、比抵抗の低下が望まれている。しかし、フィルム基材を用いた透明導電性フィルムでは、基材としてガラスを用いたものよりも透明導電層の結晶化のための加熱温度の上限値が低いため、透明導電性フィルムにおける結晶化した透明導電層の比抵抗は、基材としてガラスを用いたものよりも高くなるという問題があった。上記特許文献1では、結晶化時間の短縮に加えて、高温高湿下での信頼性を改善できることが開示されているが、特許文献1では、透明導電層の比抵抗を低下することはできなかった。
【0009】
本発明は、結晶化時間を短縮化することができる、結晶質膜からなる透明導電層を有する透明導電性フィルムの製法方法を提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明は、結晶化時間を短縮化することができ、かつ比抵抗を低下することができる結晶質膜からなる透明導電層を有する透明導電性フィルムの製法方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者等は、前記従来の問題点を解決すべく、下記透明導電性フィルムの製造方法により上記目的を達成できることを見出して、本発明を完成させるに至った。
【0012】
即ち、本発明は、透明なフィルム基材の少なくとも一方の面に、透明導電層を有する透明導電性フィルムの製法方法であって、
前記透明はフィルム基材上に、
{4価金属元素の酸化物/(4価金属元素の酸化物+酸化インジウム)}×100(%)で表される4価金属元素の酸化物の割合が3〜35重量%以下の4価金属元素の酸化物を含有するインジウム系複合酸化物をスパッタリングにて堆積させる工程(A1)と、
酸化インジウムまたは前記4価金属元素の酸化物の割合が0を超え6重量%以下であって、工程(A1)で用いたインジウム系複合酸化物よりも、前記4価金属元素の酸化物の割合が小さいインジウム系複合酸化物をスパッタリングにて堆積させる工程(A2)を順次に施すことを含む、非晶質の透明導電層を形成する工程(A)、
および、前記非晶質の透明導電層を加熱することにより結晶化させて、結晶質の透明導電層を形成する熱処理工程(B)を有することを特徴とする透明導電性フィルムの製造方法、に関する。
【0013】
前記透明導電性フィルムの製造方法において、熱処理工程(B)は60分間未満であることが好ましい。
【0014】
前記透明導電性フィルムの製造方法において、前記工程(A2)の酸化インジウムまたはインジウム系複合酸化物における4価金属元素の酸化物の割合と、前記工程(A1)のインジウム系複合酸化物における4価金属元素の酸化物の割合との差が、3重量%以上であることが好ましい。
【0015】
前記透明導電性フィルムの製造方法において、前記工程(A2)で形成する堆積層の厚みが、前記工程(A1)で形成する堆積層の厚みよりも小さいことが好ましい。前記工程(A2)で形成する堆積層の厚みと前記工程(A1)で形成する堆積層の厚みの差は1nm以上であることが好ましい。
【0016】
前記透明導電性フィルムの製造方法において、前記工程(A2)で形成する堆積層の厚みが1〜17nmであり、前記工程(A1)で形成する堆積層の厚みが9〜34nmであることが好ましい。
【0017】
前記透明導電性フィルムの製造方法において、前記堆積工程(A)で得られる非晶質の透明導電層の全体の厚みが、35nm以下であることが好ましい。
【0018】
前記透明導電性フィルムの製造方法において、前記堆積工程(A)で得られる非晶質層透明導電層の全体の厚みに対する、前記工程(A2)で形成する堆積層の厚みの割合が1〜45%であることが好ましい。
【0019】
前記透明導電性フィルムの製造方法において、インジウム系複合酸化物としてはインジウム・スズ複合酸化物、4価金属元素の酸化物としてはスズ酸化物を用いることができる。
【0020】
前記透明導電性フィルムの製造方法において、前記透明導電層は、フィルム基材に設けられたアンダーコート層を介して形成することができる。
【発明の効果】
【0021】
上記特許文献1等に示されるように、2層堆積構造の透明導電層では、従来、フィルム基材側から酸化スズの割合の小さいインジウム・スズ複合酸化物、次いで酸化スズの割合の大きいインジウム・スズ複合酸化物が堆積して設けられており、かかる2層堆積構造の透明導電層によって、1層の透明導電層に比して結晶化時間をある程度は短縮できる。一方、本発明では、従来とは逆に、フィルム基材の側から、4価金属元素の酸化物(例えば、酸化スズ)の割合の大きいインジウム系複合酸化物(例えば、インジウム・スズ複合酸化物)、次いで、酸化インジウムまたは4価金属元素の酸化物の割合の小さいインジウム系複合酸化物を、順次に堆積した透明導電層を設けることで、上記従来の2層堆積構造の構成に比べて、結晶化時間をより短縮化している。
【0022】
通常、透明導電層にはインジウム系複合酸化物が用いられる。酸化インジウムに4価金属元素の酸化物を含有させることにより、加熱などによって酸化インジウムの結晶を形成する際に、3価のインジウムと4価の金属元素との間で置換が起こり、結晶質膜において、余った電子がキャリアになることを利用するためである。従って、インジウム系複合酸化物において、4価金属元素の酸化物の含有量を増加させた場合には、電流を運ぶキャリアが増加するため比抵抗が低下する。
【0023】
一方、酸化インジウムの結晶化にとって、4価金属元素の酸化物の含有量の増加は結晶化を阻害する不純物を増加させることになるため、同じ加熱温度における結晶化では、4価金属元素の酸化物の含有量が多いほど結晶化時間は長くなる。また酸化インジウムの結晶化は、より低エネルギーで結晶核を形成できれば、結晶化時間が短縮すると考えられる。即ち、前記結晶化において、結晶核の形成に必要なエネルギーの確保が律速になると考えられる。
【0024】
またフィルム基材上に堆積された酸化インジウムは、フィルム基材からの発生ガスの影響を受けるため、フィルム基材から遠い位置(最表面側)に積層するほど欠陥が少なく結晶化し易いと推定される。
【0025】
以上から、本発明では、フィルム基材の側に、透明導電層を形成するにあたり、4価金属元素の酸化物の割合の大きいインジウム系複合酸化物を堆積させ、次いで、酸化インジウムまたは4価金属元素の酸化物の割合の小さいインジウム系複合酸化物を堆積させることで、表面側で、4価金属元素等の不純物の割合が少なく、結晶化しやすいもの位置させており、かかる構造を採用することにより、非晶質の透明導電体の結晶化時間を短縮化できたものと推定される。
【0026】
以上のように、本発明の結晶化時間の短縮による効果は、インジウム系複合酸化物の透明導電層を有する透明導電性フィルムにおいて、結晶化し易い位置に結晶化し易いものを堆積させる配置をし、結晶化しにくい非晶質の透明導電体の結晶成長を促すことで、発現していると考えられる。
【0027】
上記のように、透明導電層に係る酸化インジウムに含有させる4価金属元素の酸化物の割合を増加させた場合には、電流を運ぶキャリアが増加するため比抵抗が低下する。このため、結晶化時間の短縮のために4価金属元素の酸化物の割合を低下させることと、比抵抗を低下させることとは二律背反するため両立することは困難と考えられていたが、本発明では、結晶化時間の短縮と比抵抗の低下を両立することができる。本発明の透明導電性フィルムの製造方法では、透明導電層における表面側に、酸化インジウムまたは4価金属元素の酸化物の含有量が小さいインジウム系複合酸化物を堆積させている。このように、堆積層の表面側には、4価金属元素の酸化物を含有せず、またはその含有量が小さいために、却って、結晶化の促進によって4価金属元素の置換率が向上して、比抵抗を低下することができたものと推察される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の一形態に係る透明導電性フィルムを示す断面模式図である。
【図2A】本発明の実施の一形態に係る透明導電性フィルムを示す断面模式図である。
【図2B】本発明の実施の一形態に係る透明導電性フィルムを示す断面模式図である。
【図3】本発明の実施の一形態に係る透明導電性フィルムを示す断面模式図である。
【図4】本発明の実施の一形態に係る透明導電性フィルムを示す断面模式図である。
【図5】本発明の実施の一形態に係る透明導電性フィルムを用いた、投影型静電容量方式タッチパネルのセンサ部の一例を示す断面模式図である。
【図6】本発明の実施の一形態に係る透明導電性フィルムを用いた、投影型静電容量方式タッチパネルのセンサ部の一例を示す断面模式図である。
【図7】本発明の実施の一形態に係る透明導電性フィルムを用いた積層体を示す断面模式図である。
【図8】本発明の実施の一形態に係る透明導電性フィルムを用いた、抵抗膜方式タッチパネルの一例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の実施の形態について、図を参照しながら以下に説明する。但し、説明に不要な部分は省略し、また説明を容易にする為に拡大又は縮小等して図示した部分がある。
【0030】
図1乃至図3は、本実施の形態に係る透明導電性フィルム(A)の一例を示す断面模式図であり、いずれの透明導電性フィルム(A)も、透明なフィルム基材(1)の一方の面に、少なくも2層が堆積した透明導電層(2)が形成されている。堆積層は、いずれも酸化インジウムまたはインジウム系複合酸化物である。なお、透明導電層(2)は、少なくとも2層の堆積層を有するものであり、3層以上を堆積することができる。各図では透明導電層(2)に係る堆積層を明示しているが、これは、工程(A1)、工程(A2)等の堆積工程により堆積される層に係る。なお、図1乃至図3では、透明なフィルム基材(1)の一方の面にのみ、透明導電層(2)が設けられているが、フィルム基材(1)の他の面においても堆積層を設けることができる。他の面においても堆積層は、1層であってもよく、2層以上であってもよく、2層以上の堆積層は透明導電層(2)と同様の構成にすることができる。
【0031】
図1の透明導電性フィルム(A)は、透明導電層(2)が、工程(A1)および工程(A2)の堆積工程で形成された場合であり、2層の堆積層を有する。工程(A1)により、{4価金属元素の酸化物/(4価金属元素の酸化物+酸化インジウム)}×100(%)で表される4価金属元素の酸化物の割合が3〜35重量%のインジウム系複合酸化物をスパッタリングにて、堆積させる。次いで、工程(A2)では、工程(A1)で形成した堆積層上に、酸化インジウムまたは前記4価金属元素の酸化物の割合が0を超え6重量%以下であって、工程(A1)で用いたインジウム系複合酸化物よりも、前記4価金属元素の酸化物の割合が小さいインジウム系複合酸化物をスパッタリングにて堆積させる。工程(A1)では堆積層(22)が、工程(A2)では堆積層(A1)が形成される。
【0032】
図2Aの透明導電性フィルム(A)は、透明導電層(2)が、前記工程(A1)および工程(A2)を施す前に、フィルム基材(1)に他の堆積工程(A3)が施された場合であり、3層の堆積層を有する場合である。即ち、図2Aの透明導電性フィルム(A)では、他の堆積工程(A3)により堆積層(23)、次いで、工程(A1)により堆積層(22)、次いで工程(A2)により堆積層(A1)が形成される。
【0033】
また、図3では、図1において、透明導電層(2)が、フィルム基材(1)の側からアンダーコート層(3)を介して形成されている場合である。なお、図2の態様においても、図3と同様のアンダーコート層(3)を設けることができる。
【0034】
図4は、図1の透明導電性フィルム(A)が、フィルム基材(1)の一方の面において透明導電層(2)を有し、他方の面に透明な粘着剤層(4)を有する構造になっている場合である。なお、図4では、図1の透明導電性フィルム(A)を適用して透明導電層を形成した場合を示しているが、図2乃至図3、またはこれらを組み合わせた透明導電性フィルム(A)を適用することができる。
【0035】
図5、図6は、透明導電性フィルム(A)を用いた、投影型静電容量方式タッチパネルのセンサ部の一例を示す断面模式図である。図5、図6では、図1に示す透明導電性フィルム(A)を用いた場合が例示されているが図2、図3、またはこれらを組み合わせた透明導電性フィルム(A)を適用することができる。図5、図6では、図1に示す透明導電性フィルム(A)が、粘着剤層(4)を介して対向配置された構造である。図5では、透明導電性フィルム(A)のフィルム基材(1)同士が粘着剤層(4)を介して貼り合わされている。図6では、一方の、透明導電性フィルム(A)のフィルム基材(1)に他方の透明導電性フィルム(A)の透明導電層(2)を介して貼り合わされている。図5、図6において、透明導電層(2)(堆積層(21)及び(22))はパターニング処理が施されている。図5、図6において、透明導電性フィルム(A)の配置は上下いずれの方向に構成されても構わない。図6、図7に示すタッチパネルのセンサ部分は、透明導電層(2)に指等を近づけたとき、上側と下側の静電容量の値が変化し、それに起因する電気信号変化を計測することでon状態となり、指等を離した時に元のoff状態に戻る、透明スイッチ基体として機能する。
【0036】
図7では、図4に示す、透明導電性フィルム(A)に設けた粘着剤層(4)に、透明な基体フィルム(5)が1層積層されている場合である。透明な基体フィルム(5)は、粘着剤層(4)を介して2層以上積層されていてもよい。また、図7では、基体フィルム(5)の外表面にハードコート層(樹脂層)6が設けられている場合である。なお、図7では、図1の透明導電性フィルム(A)を適用して透明導電層を形成した場合を示しているが、図2、図3、またはこれらを組み合わせた透明導電性フィルム(A)を適用することができる。図7の透明導電性フィルム(A)を有する積層体は、通常、抵抗膜方式のタッチパネルに適用できるが、図5、図6の投影型静電容量方式タッチパネルのセンサ部を形成することができる。
【0037】
図8は、抵抗膜方式のタッチパネルを概略的に示す断面模式図である。同図に示すように、タッチパネルは、前記の透明導電性フィルム(A)と、下側基板A´とがスペーサーsを介して対向配置された構造である。
【0038】
下側基板A´は、他の透明基体(1´)上に他の透明導電層(2)´が積層された構成である。但し、本発明はこれに限定されず、例えば透明導電性フィルム(A)を下側基板(A´)として使用することも可能である。他の透明基体(1´)の構成材料としては、基本的には、ガラス板や、基体フィルム(5)と同様のものを用いることができる。また、その厚み等についても基体フィルム(5)と同様にすることができる。他の透明導電層(2´)の構成材料としては、基本的には各種の透明導電性材料を用いることができ、また、透明導電層(2)と同様の構成とすることができる。
【0039】
スペーサーsとしては絶縁性のものであれば特に限定されず、従来公知の種々のものを採用することができる。スペーサーsの製造方法、サイズ、配置位置、数量についても特に限定されない。また、スペーサーsの形状としては、略球形のものや多角形状のもの等、従来公知の形状を採用することができる。
【0040】
図8に示すタッチパネルは、透明導電性フィルム(A)側より、入力ペン等にてスペーサーsの弾性力に抗して押圧打点したとき、透明導電層(2)、透明導電層(2´)同士が接触して電気的にon状態となり、前記押圧を解除すると元のoff状態に戻る、透明スイッチ基体として機能する。
【0041】
前記フィルム基材(1)としては、特に制限されないが、透明性を有する各種のプラスチックフィルムが用いられる。例えば、その材料として、ポリエステル系樹脂、アセテート系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂等が挙げられる。これらの中で特に好ましいのは、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリオレフィン系樹脂である。
【0042】
前記フィルム基材(1)の厚みは、2〜200μmの範囲内であることが好ましく、2〜120μmの範囲内であることがより好ましく、さらには2〜100μmであることが好ましい。フィルム基材(1)の厚みが2μm未満であると、フィルム基材(1)の機械的強度が不足し、このフィルム基材(1)をロール状にして透明導電層(2)や、その他、アンダーコート層(3)及び粘着剤層(4)を連続的に形成する操作が困難になる場合がある。
【0043】
前記フィルム基材(1)には、表面に予めスパッタリング、コロナ放電、火炎、紫外線照射、電子線照射、化成、酸化などのエッチング処理や下塗り処理を施して、この上に設けられる透明導電層(2)またはアンダーコート層(3)の前記フィルム基材(1)に対する密着性を向上させるようにしてもよい。また、透明導電層(2)またはアンダーコート層(3)を設ける前に、必要に応じて溶剤洗浄や超音波洗浄などにより除塵、清浄化してもよい。
【0044】
フィルム基材(1)の透明導電層(2)を形成する側の面の算術平均粗さRaは、1.0nm以下であることが好ましく、0.7nm以下であることがより好ましく、0.6nm以下であることがさらに好ましく、0.5nm以下であることが特に好ましい。フィルム基材(1)の表面粗さを小さくすることによって、透明導電層(2)を比較的短時間の加熱で結晶化できるとともに、結晶化後の透明導電層(2)を低抵抗とすることができる。透明基材表面の算術平均粗さRaの下限値は特に制限されないが、基材をロール状に巻き取る際の巻取り性付与の観点から、0.1nm以上であることが好ましく、0.2nm以上であることがより好ましい。なお、算術平均粗さRaは、原子間力顕微鏡(AFM、Digital Instruments社 Nonoscope IV)を用いて測定される。
【0045】
一般に、有機高分子成型物からなるフィルムは、生産性やハンドリング性の観点から、フィルム中にフィラー等を含有しているため、表面の算術平均粗さRaは数nm以上であることが多い。フィルム基材(1)の表面粗さを前記範囲とする観点からは、フィルム基材(1)の透明導電層(2)が形成される側の面に、アンダーコート層(3)が形成されていることが好ましい。フィルム基材(1)表面にアンダーコート層(3)が形成されることにより、フィルム基材(1)の表面凹凸が緩和され、表面粗さを小さくすることができる。
【0046】
4価金属元素の酸化物の含有量が大きいインジウム系複合酸化物の堆積層は、結晶化し難いが、上記のように、所定の表面粗さを有するフィルム基材(1)を用いた場合には、工程(1)より、4価金属元素の酸化物の含有量が大きい非晶質の堆積層(22)を形成した場合においても、比較的短時間の熱処理で完全結晶化することができる。
【0047】
図3に示すアンダーコート層(3)は、無機物、有機物または無機物と有機物との混合物により形成することができる。無機材料としては、例えば、無機物として、SiO(x=1〜2)、MgF2、A123などが好ましく用いられる。また有機物としてはアクリル樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、シロキサン系ポリマーなどの有機物があげられる。特に、有機物としては、メラミン樹脂とアルキド樹脂と有機シラン縮合物の混合物からなる熱硬化型樹脂を使用するのが望ましい。
【0048】
アンダーコート層(3)は、上記の材料を用いて、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーテフィング法等のドライプロセスとして、またはウェット法(塗工法)などにより形成できる。アンダーコート層(3)は1層でもよく、2層以上の複数層とすることもできる。アンダーコート層(3)の厚み(複数層の場合は各層の厚み)は、通常、1〜300nm程度であるのがよい。
【0049】
フィルム基材(1)には、堆積工程(A)により、スパッタリング法にて、酸化インジウムまたはインジウム系複合酸化物を用いて、少なくとも2層の堆積層からなる非晶質層を形成し、次いで、熱処理工程(B)により、当該非晶質層を加熱処理により結晶化させて、結晶質の透明導電層(2)を形成する。堆積工程(A)において、堆積層を形成するための材料としては、スパッタリング法に応じて、適宜選択されるが、通常は、酸化インジウムと4価金属元素の酸化物との焼結体材料が好ましく用いられる。また、反応性スパッタリング法の堆積層の形成法では、金属インジウムと金属スズとを用い、両金属を酸化させながら堆積層を形成することもできる。
【0050】
前記4価金属元素としては、例えば、スズ、セリウム、ハフニウム、ジルコニウム、チタン等が挙げられる。これらの4価金属元素の酸化物としては、酸化スズ、酸化セリウム、酸化ハフニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン等が挙げられる。前記4価金属元素としては、スズが好適に用いられる。4価金属元素の酸化物としてはスズ酸化物が好適であり、インジウム系複合酸化物としてはインジウム・スズ複合酸化物が好適である。
【0051】
堆積工程(A)の堆積に係るスパッタリング法は、DC電源を用いた標準的なマグネトロンスパッタ法だけでなく、RFスパッタ法、RF+DCスパッタ法、パルススパッタ法、デュアルマグネトロンスパッタ法などの種々のスパッタ法を採用できる。
【0052】
上記堆積工程(A)では、工程(A1)および工程(A2)より、堆積層を形成する。工程(A1)および工程(A2)では、上記堆積層の形成成材料である酸化インジウムと4価金属元素の酸化物との割合(または金属インジウムと4価金属との割合)を選択する。工程(A1)では、フィルム基材(1)に、{4価金属元素の酸化物/(4価金属元素の酸化物+酸化インジウム)}×100(%)で表される4価金属元素の酸化物の割合が3〜35重量%のインジウム系複合酸化物をスパッタリングにて堆積して、堆積層(22)を形成する。次いで、工程(2)により、当該堆積層(22)に、酸化インジウムまたは前記4価金属元素の酸化物の割合が0を超え6重量%以下であって、工程(A1)で用いたインジウム系複合酸化物よりも、前記4価金属元素の酸化物の割合が小さいインジウム系複合酸化物をスパッタリングにて堆積して、堆積層(21)を形成する。これにより、工程(A)で形成された非結質層の表面の側に、酸化インジウムまたは4価金属元素の酸化物の含有量が小さいインジウム系複合酸化物の堆積層を形成する。
【0053】
前記工程(A1)で用いる、インジウム系複合酸化物の4価金属元素の酸化物の割合は3〜35重量%であり、さらには3〜25重量%、さらには5〜25重量%、さらには7〜25重量%、さらには8〜25重量%であるのが好ましい。
【0054】
前記工程(A2)では、酸化インジウムまたは前記4価金属元素の酸化物の割合が0を超え6重量%以下のインジウム系複合酸化物が用いられる。前記4価金属元素の酸化物の割合は0を超え5重量%以下のインジウム系複合酸化物であるのが好ましい。但し、工程(A2)で用いるインジウム系複合酸化物の前記4価金属元素の酸化物の割合は、工程(A1)で用いたインジウム系複合酸化物よりも小さくなるように制御される。前記工程(A2)により形成される、表面側の堆積層(21)の4価金属元素の酸化物の含有量を前記割合とすることは、低温かつ短時間の熱処理により結晶化を促進させるうえで好ましい。上記堆積層(21)の4価金属元素の酸化物の割合が6重量%を超えると、結晶化のための熱処理工程(B)に時間がかかる。
【0055】
前記工程(A2)で用いる酸化インジウムまたはインジウム系複合酸化物における4価金属元素の酸化物の割合と、前記工程(A1)のインジウム系複合酸化物における4価金属元素の酸化物の割合との差は、3重量%以上であるのが比抵抗の低下及び結晶化時間の短縮の観点から好ましく、さらには前記割合の差は、3〜35重量%であるのが好ましく、さらには3〜25重量%、さらには5〜25重量%であるのが好ましい。
【0056】
前記工程(A2)で形成される堆積層(21)の厚みは、透明導電性フィルムの屈曲性を高く維持する観点から、1〜17nmであり、1〜12nmであるのが好ましく、さらには1〜6nmであるのが好ましい。また、前記工程(A1)で形成される堆積層(22)の厚みは、通常、9〜34nmであり、9〜29nmであるのが好ましく、さらには9〜24nmであるのが好ましい。
【0057】
上記堆積層(21)と堆積層(22)の各厚みは、それぞれ、上記範囲を採用できるが、比抵抗を低下させるには、堆積層(21)の厚みが、前記堆積層(22)の厚みよりも小さくなるように、上記堆積層(21)と堆積層(22)を形成することが好ましい。前記堆積層(21)の厚みと前記堆積層(22)の厚みの差は、比抵抗を低下させる観点からは1nm以上であるのが好ましく、さらには1〜33nmであるのが好ましく、さらには1〜20nmであるのが好ましい。
【0058】
前記堆積工程(A)による、非晶質層の形成工程は、上記工程(A1)および工程(A2)を含むが、図2Aに示すように、前記工程(A1)により堆積層(22)を形成する前に堆積層(23)を形成する工程を施すことができる。堆積層(23)は酸化インジウムまたはインジウム系複合酸化物をスパッタリングにて堆積させることにより形成される。堆積層(23)における、インジウム系複合酸化物の4価金属元素の酸化物の割合は、特に制限されず、0を超え35重量%以下の範囲から選択することができるが、結晶化時間の短縮の観点から、前記堆積層(21)と同様に、4価金属元素の酸化物の割合は0を超え6重量%以下であるのが好ましく、さらには0を超え5重量%以下であるのが好ましい。また、堆積層(23)の厚みは、通常、1〜17nmであり、1〜12nmであるのが好ましく、さらには1〜6nmであるのが好ましい。なお、図2Aでは、堆積層(23)は、フィルム基材(1)の側から、1層が設けられているが、前記堆積層(21)および前記堆積層(22)とは別に複数形成することができる。
【0059】
なお、前記堆積工程(A)による、非晶質層の形成工程では、非結晶質層の表面に、前記堆積層(21)を設けることが好ましいが、前記堆積層(21)にはその表面側に、さらに本発明に影響を及ぼさない層を設けることもできる。例えば、堆積層(21)への酸素供給が妨げられない程度であれば、非晶質層の最表面に極薄の堆積層(20)を設けることを許容することができる。
【0060】
図2Bに示すように、工程(A2)により形成された堆積層(21)を形成した後に堆積層(20)を形成する工程を施すことができる。堆積層(20)の厚さは、前記工程(A)により形成される非晶質層の最表面から厚み5nm以下で設けるのが好ましい。この場合には、堆積層(20)は、上記のとおり、堆積層(21)への酸素供給が妨げられない程度に設けることができるものであり、その厚みは、3nm以下であるのが好ましく、さらには1nmであるのが好ましい。なお、堆積層(20)は、特に制限されないが、酸化インジウムまたは4価金属元素の酸化物の割合が0を超え35重量%以下のインジウム系複合酸化物を用いることができる。
【0061】
前記堆積工程(A)で形成される非晶質層は、前記のとおり、前記堆積層(21)および前記堆積層(22)を有するものであるが、前記非晶質層の全体厚みは、35nm以下にすることが高透過率を具備させる観点から好ましく、さらには30nm以下であるのが好ましい。
【0062】
また前記非晶質層の全体の厚みに対する、前記堆積層(21)の厚みの割合が1〜45%であるように設計することが、比抵抗を小さくするうえで好ましい。前記堆積層(21)の厚みの割合は1〜30%であることが好ましく、さらには1〜20%であることが好ましい。
【0063】
スパッタ堆積に用いられるスパッタターゲットは、非晶質層の各堆積層に応じて、酸化インジウムまたはインジウム系複合酸化物が選択される。またインジウム系複合酸化物は、4価金属元素の酸化物の含有量が制御される。このようなターゲットを用いたスパッタ堆積は、高真空に排気したスパッタ装置内に、不活性ガスであるアルゴンガスを導入して行う。スパッタターゲットとして、インジウムまたはインジウム・4価金属(例えばインジウム−スズ)のメタルターゲットを用いる場合には、アルゴンガスとともに酸素ガス等の酸化剤を導入して、反応性スパッタ堆積を行う。また、酸化インジウムまたはインジウム系複合酸化物の酸化物ターゲットが用いられる場合であっても、アルゴンガスに加えて酸素ガス等を導入してもよい。
【0064】
堆積雰囲気中の水分子の存在は、堆積中に発生するダングリングボンドを終結させ、酸化インジウムまたはインジウム系複合酸化物の結晶成長を妨げるため、堆積雰囲気中の水の分圧は小さいことが好ましい。堆積時の水の分圧は、アルゴンガスの分圧に対して0.1%以下であることが好ましく、0.07%以下であることがより好ましい。また、堆積時の水の分圧は、2×10−4Pa以下であることが好ましく、1.5×10−4Pa以下であることがより好ましく、1×10−4Pa以下であることが好ましい。堆積時の水分圧を上記範囲とするためには、堆積開始前にスパッタ装置内を、水の分圧が上記範囲となるように2×10−4Pa以下、好ましくは1.5×10−4Pa以下、より好ましくは1×10−4Pa以下となるまで排気して、装置内の水分や基材から発生する有機ガスなどの不純物を取り除いた雰囲気とすることが好ましい。
【0065】
スパッタ堆積時の基材温度は、100℃を超えることが好ましい。基材温度を100℃よりも高くすることにより、4価金属の原子含有量が大きいインジウム系複合酸化物の膜であっても、後述する熱処理工程(B)におけるインジウム系複合酸化物の膜の結晶化が促進され易くなり、さらには、低抵抗の結晶性の透明導電層(2)が得られる。このように、非晶質の透明導電層(2)を加熱して結晶化した際に、低抵抗膜の結晶性の透明導電層(2)とする観点からは、基材温度は120℃以上であることがより好ましく、130℃以上であることがさらに好ましく、140℃以上であることが特に好ましい。また、基材への熱的ダメージを抑制する観点からは、基材温度は200°以下が好ましく、180℃以下がより好ましく、170℃以下がさらに好ましく、160℃以下が特に好ましい。
【0066】
なお、本明細書において、「基材温度」とは、スパッタ堆積時の基材の下地の設定温度である。例えば、ロールスパッタ装置により連続的にスパッタ堆積を行う場合の基材温度とは、スパッタ堆積が行われるキャンロールの温度である。また、枚葉式(バッチ式)でスパッタ堆積を行う場合の基材温度とは、基材を載置するための基材ホルダーの温度である。
【0067】
本発明の透明導電性フィルムの製造方法では、堆積工程(A)により形成した非晶質の透明導電層(2)を、熱処理工程(B)において45分間以内で加熱することにより結晶化させて、インジウム系複合酸化物の結晶質の透明導電層(2)を形成する。熱処理工程(B)の方法は、公知の方法に準じて、例えば、赤外線ヒーター、熱風循環式オーブン等の加熱方式を用いて行うことができる。その際、熱処理温度は、フィルム基材に許容される温度として、150℃以下の温度とされるが、本発明ではこのような低温で短時間の熱処理にて十分に結晶化させることが可能である。具体的には、150℃で45分間以内の熱処理を施すことにより、良好な結晶質層を形成することができる。
【0068】
熱処理工程(B)における加熱温度は、120℃〜150℃であることが好ましく、125℃〜150℃であることがより好ましく、130℃〜150℃であることがさらに好ましい。また、加熱時間は、好ましくは60分間未満であり、さらに好ましくは45分間以下を満足することができ、結晶化時間の短縮化を図ることができる。加熱温度および加熱時間を適宜に選択することにより、生産性や品質面での悪化を伴うことなく、完全結晶化した膜に転化できる。なお、非晶質の透明導電層(2)を完全結晶化する観点において、加熱時間は30分以上であることが好ましい。
【0069】
なお、透明導電性フィルムを投影型静電容量方式のタッチパネルや、マトリックス型の抵抗膜方式タッチパネル等に用いる場合、透明導電層(2)が所定形状(例えば短冊状)にパターン化される場合があるが、熱処理により酸化インジウムまたはインジウム系複合酸化物の膜が結晶化されると、酸によるエッチング加工が難しくなる。一方、熱処理前の非晶質の酸化インジウムまたはインジウム系複合酸化物の膜は容易にエッチング加工が可能である。そのため、エッチングにより透明導電層(2)をパターン化する場合は、堆積工程(A)により非晶質の透明導電層(2)を形成した後、熱処理工程(B)の前にエッチング加工を行うことが好ましい。
【0070】
前記フィルム基材(1)の他方の面には、透明な粘着剤層(4)を設けることができる。透明な粘着剤層(4)としては、透明性を有するものであれば特に制限なく使用できる。具体的には、例えば、アクリル系ポリマー、シリコーン系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリビニルエーテル、酢酸ビニル/塩化ビニルコポリマー、変性ポリオレフィン、エポキシ系、フッ素系、天然ゴム、合成ゴム等のゴム系などのポリマーをベースポリマーとするものを適宜に選択して用いることができる。特に、光学的透明性に優れ、適度な濡れ性、凝集性及び接着性等の粘着特性を示し、耐候性や耐熱性等にも優れるという点からは、アクリル系粘着剤が好ましく用いられる。
【0071】
この粘着剤層(4)は、そのクッション効果により、フィルム基材(1)の一方の面に設けられた透明導電層(2)の耐擦傷性やタッチパネル用としての打点特性、いわゆるペン入力耐久性および面圧耐久性を向上させる機能を有する。この機能をより良く発揮させる観点から、粘着剤層(4)の弾性係数を1〜100N/cmの範囲、厚みを1μm以上、通常5〜100μmの範囲に設定するのが望ましい。
【0072】
また、粘着剤層(4)の厚みが1μm未満となると、そのクッション効果が期待できないため、透明導電層(2)の耐擦傷性やタッチパネル用としてのペン入力耐久性および面圧耐久性を向上させることが困難になる傾向がある。その一方、厚くしすぎると、透明性を損なったり、粘着剤層(4)の形成や、貼り合わせ作業性、更にコストの面でも好結果を得にくい。
【実施例】
【0073】
以下、本発明に関し実施例を用いて詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。また、各例中、部は特記がない限りいずれも重量基準である。
【0074】
(算術平均粗さ)
原子間力顕微鏡(AFM Digital Instruments社 Nanscope IV」)を用いて測定した。
【0075】
実施例1
厚みが23μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(以下、PETフィルムという)からなるフィルム基材の一方の面に、アンダーコート層として、メラミン樹脂:アルキド樹脂:有機シラン縮合物の重量比2:2:1の熱硬化型樹脂を厚みが30nmとなるように形成した。アンダーコート層表面の算術平均粗さRaは、0.5nmであった。
【0076】
このアンダーコート層上に、アルゴンガス80体積%と酸素ガス20体積%とからなる0.4Paの雰囲気中で、酸化インジウム90%−酸化スズ10%の焼結体材料を用いた反応性スパッタリング法により、厚みが20nmのインジウム・スズ複合酸化物からなる堆積層を形成した。堆積に際しては、スパッタ装置内を堆積時の水の分圧が、8.0×10−5Paとなるまで排気した後、アルゴンガスおよび酸素ガスを導入し、基材温度140℃、水分圧が8.0×10−5Paの雰囲気にて堆積を行った。この時の水の分圧は、アルゴンガスの分圧に対して0.05%であった。この堆積層が、工程(A1)で形成した、図1の堆積層(22)に対応する。
【0077】
また、上記の堆積層(22)上に、さらに酸化インジウムの焼結体材料を用いた反応性スパッタリング法により、厚みが5nmのインジウム・スズ複合酸化物からなる堆積層を形成した。堆積に際しては、スパッタ装置内を堆積時の水の分圧が、8.0×10−5Paとなるまで排気した後、アルゴンガスおよび酸素ガスを導入し、基材温度140℃、水分圧が8.0×10−5Paの雰囲気にて堆積を行った。この時の水の分圧は、アルゴンガスの分圧に対して0.05%であった。この堆積層が、工程(A2)で形成した、図1の堆積層(21)に対応する。
【0078】
このように堆積層(22)および堆積層(21)を有する非晶質の透明導電層を有する透明導電性フィルムを作製した。次いで、当該透明導電性フィルムを、熱風循環式オーブンにて140℃での熱処理を施して上記透明導電層を結晶化させた。
【0079】
実施例2〜7、9〜13
実施例1において、工程(A1)による堆積層(22)の形成および工程(A2)による堆積層(21)の形成に用いた、酸化インジウム−酸化スズの焼結体材料における酸化スズの割合、各層の厚みを表1に示すように変えたこと以外は実施例1と同様にして、透明導電性フィルムを作製した。また実施例1と同様にして透明導電層を結晶化させた。なお、表1中の酸化スズの割合は、各層形成において、スパッタターゲットに用いた酸化インジウムまたはインジウム・スズ複合酸化物における酸化スズの割合である。酸化スズの割合が「0%」は、酸化インジウムを用いた場合である。また堆積層の厚みは、結晶化前の厚みである。酸化スズの割合、堆積層の厚みは、結晶化後においても同様の値と考えられる。
【0080】
実施例8
実施例1と同様にして、フィルム基材の一方の面にアンダーコート層を形成した。このアンダーコート層上に、アルゴンガス80体積%と酸素ガス20体積%とからなる0.4Paの雰囲気中で、酸化インジウム97%−酸化スズ3%の焼結体材料を用いた反応性スパッタリング法により、厚みが3nmのインジウム・スズ複合酸化物からなる堆積層を形成した。堆積に際しては、スパッタ装置内を堆積時の水の分圧が、8.0×10−5Paとなるまで排気した後、アルゴンガスおよび酸素ガスを導入し、基材温度140℃、水分圧が8.0×10−5Paの雰囲気にて堆積を行った。この時の水の分圧は、アルゴンガスの分圧に対して0.05%であった。この堆積層が、その他の工程で形成した図2Aの堆積層(23)に対応する。
【0081】
また、上記堆積層(23)上に、さらに酸化インジウム90%−酸化スズ10%の焼結体材料を用いた反応性スパッタリング法により、厚みが19nmのインジウム・スズ複合酸化物からなる堆積層を形成した。堆積に際しては、スパッタ装置内を堆積時の水の分圧が、8.0×10−5Paとなるまで排気した後、アルゴンガスおよび酸素ガスを導入し、基材温度140℃、水分圧が8.0×10−5Paの雰囲気にて堆積を行った。この時の水の分圧は、アルゴンガスの分圧に対して0.05%であった。この堆積層が、図2Aの堆積層(22)に対応する。
【0082】
また、上記堆積層(22)上に、さらに酸化インジウム97%−酸化スズ3%の焼結体材料を用いた反応性スパッタリング法により、厚みが3nmのインジウム・スズ複合酸化物からなる堆積層を形成した。堆積に際しては、スパッタ装置内を堆積時の水の分圧が、8.0×10−5Paとなるまで排気した後、アルゴンガスおよび酸素ガスを導入し、基材温度140℃、水分圧が8.0×10−5Paの雰囲気にて堆積を行った。この時の水の分圧は、アルゴンガスの分圧に対して0.05%であった。この堆積層が、図2Aの堆積層(21)に対応する。
【0083】
このように堆積層(23)、堆積層(22)および堆積層(21)の非晶質の堆積層を有する透明導電層を形成して透明導電性フィルムを作製した。次いで、当該透明導電性フィルムを、熱風循環式オーブンにて140℃での熱処理を施して上記透明導電層を結晶化させた。
【0084】
比較例1
実施例1と同様にして、フィルム基材の一方の面にアンダーコート層を形成した。このアンダーコート層上に、アルゴンガス80体積%と酸素ガス20体積%とからなる0.4Paの雰囲気中で、酸化インジウム90%−酸化スズ10%の焼結体材料を用いた反応性スパッタリング法により、厚みが25nmのインジウム・スズ複合酸化物からなる非晶質の透明導電層を形成した。次いで、次いで、当該透明導電性フィルムを、熱風循環式オーブンにて150℃での熱処理を施して上記透明導電層を結晶化させた。
【0085】
比較例2〜5
実施例1において、工程(A1)による堆積層(22)の形成および工程(A2)による堆積層(21)の形成に用いた酸化インジウム−酸化スズの焼結体材料における酸化スズの割合、各層の厚みを表1に示すように変えたこと以外は実施例1と同様にして、非晶質の透明導電性フィルムを作製した。また実施例1と同様にして透明導電層を結晶化させた。結晶化時間を表1に示す。
【0086】
(評価)
実施例および比較例で得られた透明導電性フィルムについて下記の評価を行なった。結果を表1に示す。
【0087】
<各層の厚み>
フィルム基材の厚みは、ミツトヨ製マイクロゲージ式厚み計にて測定を行った。アンダーコート層、堆積層の厚みは、大塚電子(株)製の瞬間マルチ測光システムであるMCPD2000(商品名)を用い、干渉スペクトルよりの波形を基礎に算出した。
【0088】
<結晶化時間>
各例において、非晶質の透明導電層が結晶化するまでの時間(分間)を測定した。非晶質の透明導電層の結晶化は、熱風循環式オーブンにより140℃の加熱を行い、下記の「抵抗値の変化(低下)の完了確認」と「エッチング試験」により判定した。
「抵抗値の変化(低下)の完了確認」:熱風循環式オーブンにて140℃で加熱し、30分間毎に表面抵抗値を測定した。結晶化に伴い表面抵抗値が低下し、完了すると表面抵抗値が一定となるため、表面抵抗値が一定となる時間で結晶化時間の確認を行った。
「エッチング試験」:透明導電層を5重量%濃度の塩酸に15分間浸漬し、15mm離間した2点間の抵抗値(Ω)をテスター(カスタム社製,製品名「デジタルテスタ(M−04)」,測定限界値2MΩ)にて測定し、透明導電層が結晶化しているか否かの判定を行った。抵抗値が検出された場合、透明導電層が結晶化していると判定した。
【0089】
<表面抵抗>
4端子法を用いて、各透明導電性フィルムの透明導電層の表面抵抗(Ω/□)を測定した。
【0090】
<比抵抗>
蛍光X線分析装置(リガク社製)にて、透明導電層の膜厚を測定し、前記表面抵抗と膜厚から比抵抗を算出した。
【0091】
【表1】

【0092】
実施例は比較例に比べて結晶化時間が短いことが認められる。また、実施例において、堆積層(21)の厚みを、堆積層(22)の厚みよりも薄くなるように制御することで、表面抵抗値、比抵抗を小さくすることができることが認められる。
【符号の説明】
【0093】
1 フィルム基材
2 透明導電層
3 アンダーコート層
4 粘着剤層
5 基体フィルム
6 樹脂層(ハードコート層)
A 透明導電性フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明なフィルム基材の少なくとも一方の面に、透明導電層を有する透明導電性フィルムの製法方法であって、
前記透明はフィルム基材上に、
{4価金属元素の酸化物/(4価金属元素の酸化物+酸化インジウム)}×100(%)で表される4価金属元素の酸化物の割合が3〜35重量%の4価金属元素の酸化物を含有するインジウム系複合酸化物をスパッタリングにて堆積させる工程(A1)と、
酸化インジウムまたは前記4価金属元素の酸化物の割合が0を超え6重量%以下であって、工程(A1)で用いたインジウム系複合酸化物よりも、前記4価金属元素の酸化物の割合が小さいインジウム系複合酸化物をスパッタリングにて堆積させる工程(A2)を順次に施すことを含む、非晶質の透明導電層を形成する堆積工程(A)、
および、前記非晶質の透明導電層を加熱することにより結晶化させて、結晶質の透明導電層を形成する熱処理工程(B)を有することを特徴とする透明導電性フィルムの製造方法。
【請求項2】
熱処理工程(B)が60分間未満であることを特徴とする請求項1記載の透明導電性フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記工程(A2)の酸化インジウムまたはインジウム系複合酸化物における4価金属元素の酸化物の割合と、前記工程(A1)のインジウム系複合酸化物における4価金属元素の酸化物の割合との差が、3重量%以上であることを特徴とする請求項1または2記載の透明導電性フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記工程(A2)で形成する堆積層の厚みが、前記工程(A1)で形成する堆積層の厚みよりも小さいことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の透明導電性フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記工程(A2)で形成する堆積層の厚みと前記工程(A1)で形成する堆積層の厚みの差が1nm以上であることを特徴とする請求項4記載の透明導電性フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記工程(A2)で形成する堆積層の厚みが1〜17nmであり、
前記工程(A1)で形成する堆積層の厚みが9〜34nmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の透明導電性フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記堆積工程(A)で得られる非晶質層の全体の厚みが、35nm以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の透明導電性フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記堆積工程(A)で得られる非晶質層の全体の厚みに対する、前記工程(A2)で形成する堆積層の厚みの割合が1〜45%であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の透明導電性フィルムの製造方法。
【請求項9】
インジウム系複合酸化物がインジウム・スズ複合酸化物であり、4価金属元素の酸化物がスズ酸化物であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の透明導電性フィルムの製造方法。
【請求項10】
前記透明導電層は、フィルム基材に設けられたアンダーコート層を介して形成することを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の透明導電性フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−112031(P2012−112031A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137002(P2011−137002)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】