説明

透明導電性フィルム及びその製造方法

【課題】
従来多数の太陽電池セルをモジュール化して実用化していた太陽光発電に変えて、多数のセルを用意することなく一気にモジュール化した太陽電池を実現することを可能とする光電極モジュールとして利用可能な透明導電性フィルム、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】
少なくとも、高分子樹脂よりなる透明基材フィルムと、前記透明基材フィルムの表面に第1導電性物質をグリッド状に積層してなる第1導電層と、前記透明基材フィルム表面の前記第1導電層及び前記第1導電層が積層されていない部分の表面に第2導電性物質を積層してなる第2導電層と、をこの順に積層してなる透明導電性フィルムであって、前記第2導電性物質の電気抵抗値よりも前記第1導電性物質の電気抵抗値の方が低く、前記透明導電性フィルムの全光線透過率が30%以上であり、かつ抵抗値が30Ω/□以下である、透明導電性フィルムである、透明導電性フィルムとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は透明導電性フィルム及びその製造方法に関するものであり、具体的には容易に太陽電池のモジュールを得ることを可能とする透明導電性フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化に対する関心が急速に広まっている昨今において、日常生活に必要な電力をクリーンに得る手段としての太陽光発電に注目が集まっている。この太陽光発電には太陽電池を用いるが、この太陽電池は太陽光のみがあれば作動するので燃料が不要であり、かつ無尽蔵なクリーンエネルギーとしてより一層優れたものの開発・実用化が強く望まれている。
【0003】
この太陽光発電に用いる太陽電池では、従来透明導電性ガラスが用いられている。この透明導電性ガラスは太陽光を透過しかつ電気をも通す、という性質を兼ね備えたものであるため、この性質を利用して太陽電池の透明電極として用いられているのである。
【0004】
この太陽電池の研究・開発が進むにつれ、より一層の普及のために取扱の容易性、薄型・軽量化を望む市場の強い意向もあり、基材として用いる透明導電性ガラスの基材を、何らかの衝撃が少し加わってしまっただけでも容易に割れてしまいやすいためその取扱には細心の注意が必要であるガラスから、簡単には破損しないことにより、はるかに取扱性に優れたものと言える透明樹脂フィルムに置き換えたもの、いわゆる透明導電性フィルムを用いることが多くなってきている。
【0005】
この太陽電池に関し簡単に説明すると、太陽電池の種類は使用される半導体材料によって、現在主にシリコン系、化合物半導体系、有機半導体系、色素増感型、などに分類される。中でもシリコン系は比較的古くから開発されており現在でも主流であるが、変換効率の向上には限界がある、資源枯渇が懸念されている、という課題が存在している。また化合物半導体系太陽電池は高変換効率が大いに期待できるが、材料コストが高いという課題が存在している。そして有機半導体系太陽電池は、開発当初こそ低コスト材料として有望視されていたが、変換効率向上の目処が立たず、その開発は停滞気味である。
【0006】
このような状況にあって、最近では色素増感型太陽電池の開発に注目が集まっている。これは色素増感型太陽電池がその他の種類の太陽電池に比して、その素子構造が簡単で、かつ特段の製造設備がなくとも製造出来る可能性があるにもかかわらず、その変換効率を簡単に高めることが大いに期待されたからであり、実際すでに実用化されているアモルファスシリコン太陽電池に匹敵する程に、小面積であっても高変換効率が得られたことは大いに注目を集める存在となっている。
【0007】
この色素増感型太陽電池の基本的な構造と動作原理は次の通りである。まず負極として、透明導電膜を付けた基板にチタニア粒子をペースト状にして塗布しこれを焼結しチタニア層としたものを用いる。チタニア層は多数の空孔を有するが、この空孔内面にルテニウムビピリジル錯体を担持すると、色素はチタニア表面に担持される。一方正極としては例えば基板上の透明導電性膜に白金をスパッタリングしたもの等を用いる。そして両極間に電解液を充填するが、この電解液としてはアセトニトリル系の溶媒を用い、これに溶質としてヨウ素とヨウ素イオンを溶解する。
【0008】
このような構成を有する色素増感型太陽電池は次のようにして動作する。即ち負極に光を照射するとチタニア層に担持された色素が光を吸収し、電子を放出することで電気が発生する。次いで放出された電子はチタニア層を介して負極を伝わり、やがて対極たる正極に至り、そこから電解液中に放出される。そして放出された電子は三ヨウ化物イオンを還元することによりこれをヨウ化物イオンとし、還元されたヨウ化物イオンは色素上で再び酸化される。この工程を繰り返すことにより電気が流れるようになる。
【0009】
そしてこのように動作する太陽電池の最小の基本単位を「セル」といい、このセルを多数直列又は並列に接続することによって、実際に使うのに便利な電圧を取り出せるようにパッケージに収めたものを「モジュール」と言う。そして実際の太陽光発電は複数のモジュールを直列あるいは並列に配列し、架台に設置することにより実行されるのである。
【0010】
このような太陽電池を実際に利用するには、まず大量のセルをモジュールとしての発電効率を高められるように互いを接続する必要があり、また多数のモジュールを建築物の屋上や野外の架台に広く展開、設置して用いる必要があるが、大量のセルを効率的にモジュール化する工程は複雑であり、またかようなモジュールを多数設置することも重量に関する点が問題となってしまう。
【0011】
そこで太陽電池において用いられる透明電極の基板に透明高分子樹脂フィルムを用いることで、重量に関する問題を少しでも回避し、かつガラスではなくフィルムを用いることで取扱性を少しでも良いものとすることで、大量のセルをモジュール化することが少しでも容易になるように検討されてきているが、そのような考え方は例えば特許文献1や特許文献2に開示された発明として示されるようになった。
【0012】
【特許文献1】特開2006−244954号公報
【特許文献2】特開2004−296669号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記した特許文献1には、セル同士の配線接続構造を簡略化して安価に太陽電池となるモジュールを製造可能にしたセルの配線構造及びその構造を用いたモジュールに関する発明が開示されている。この発明によれば、セルの境界領域を介して隣接したセル同士の配線接続を、セル境界領域の外で行うので、セル間の配線接続構造を両セルが配置された基材上に設けることができ、かつそれ故に簡単にモジュールを構成できる、とされている。
【0014】
しかしこの発明であってもセル単位において色素増感型太陽電池を構成する電解質の封止は個々に確実に行う必要があり、また電解質の漏洩を防ぐためにセル単位で隔壁を設ける必要があり、さらにはかような隔壁を備えたセルを多数揃えなければならないが、それら全てのセルにおける隔壁からの電解質の漏洩を確実に防止しなければならない、等の点を考慮すれば、その構成は一見従来に比して簡潔になったとはいえ、まだ実用的な簡便さには至っていないというべきである。
【0015】
また特許文献2には、抵抗値が十分に低く、電解液による腐食の問題もなく、光電変換効率の向上に有効な電極とすることができる色素増感型太陽電池用電極に関する発明が開示されている。この発明によれば、基材フィルムの表面に透明導電膜を設け、さらに基材フィルムと透明導電膜との間に、透明導電膜よりも抵抗値の低い補助電極を設けた構成とすることでこれを用いた太陽電池の光電変換効率向上に有効なものとすることができる、とされている。
【0016】
この発明においては補助電極を設けることで低抵抗化を実現することを特徴としており、さらに光線透過率との関係で補助電極を単純にメッシュ化すれば好適である旨の記載がなされている。そしてこのように補助電極を設けると低抵抗化を実現することが可能であるかのようにも思われるが、実際に補助電極を単純にメッシュ化しただけでは理論的には可能であったはずの集電効果は容易には得られない。実際には、補助電極上で集電しても電極まで有効に電子を運べず、電子ドロップと呼ばれる現象が生じ、即ち透明導電膜よりも補助電極の抵抗値が低いように両者の素材を選定しても、電流は意図したものとは逆の方向に流れている現象を確認することが出来る。つまり理論的には透明導電膜から補助電極に電流が流れ補助電極から外部へと出力されるのがこの発明にかかる電極において想定された動作なのであるが、補助電極を単純にメッシュとしただけであれば、一度は補助電極に流れた電流が迅速にかつ十分に外部へと出力されない場合には、結局補助電極に滞留してしまった電流が再び透明導電膜へと逆流してしまう現象が生じるのである。そのため、この発明に開示されたように補助電極を単純にメッシュとしただけでは太陽電池として確実に効率よく動作させることは困難であるものと予想される。そしてこのような現象を特許文献2に開示された発明において防止するためには、理論的には補助電極のメッシュ化をやめて補助電極を面として設定すれば可能となるはずであるが、そうすると光線透過率の点で問題が生じる、という指摘を解消できず、結局この特許文献2における発明であっても効率的な太陽電池セルを実現することが困難であると言わざるを得ない。
【0017】
さらにこの特許文献2における電極を用いた太陽電池をセルとし、これを集積してモジュールとするならば、単純なメッシュ構造である以上、効率的な電流を発生させることはより一層困難となってしまうことが想像され、結果効率のよいモジュールを得られないことが予想される。
【0018】
また視点を変えてこの発明にかかる太陽電池用電極を用いて一気にモジュール化することを検討しようにも、この特許文献2においてはそのような視点は全く欠落しており、仮に強引にそのように用いたとしても、前述した逆流現象に関する問題は何ら解決することができず、結局モジュール化する事に関しての記載も示唆も全く開示されておらず、また逆流現象に関する記載も示唆も全く開示されていないため、特許文献2に記載された内容からモジュール化した太陽電池用の透明電極に想到することは大変困難であると断ぜざるを得ない。
【0019】
本発明はこのような問題点に鑑みて為されたものであり、その目的は従来多数の太陽電池セルをモジュール化して実用化していた太陽光発電に変えて、多数のセルを用意することなく一気にモジュール化した太陽電池を実現することを可能とする光電極モジュールとして利用可能な透明導電性フィルム、及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決するため、本願発明の請求項1に記載の発明は、少なくとも、高分子樹脂よりなる透明基材フィルムと、前記透明基材フィルムの表面に第1導電性物質をグリッド状に積層してなる第1導電層と、前記透明基材フィルム表面の前記第1導電層及び前記第1導電層が積層されていない部分の表面に第2導電性物質を積層してなる第2導電層と、をこの順に積層してなる透明導電性フィルムであって、前記第2導電性物質の電気抵抗値よりも前記第1導電性物質の電気抵抗値の方が低く、前記透明導電性フィルムの全光線透過率が30%以上であり、かつ抵抗値が30Ω/□以下である、透明導電性フィルムであること、を特徴とする。
【0021】
本願発明の請求項2に記載の発明は、少なくとも、高分子樹脂よりなる透明基材フィルムと、前記透明基材フィルムの表面に第2導電性物質を積層してなる第2導電層と、前記第2導電層の表面に第1導電性物質をグリッド状に積層してなる第1導電層と、をこの順に積層してなる透明導電性フィルムであって、前記第2導電性物質の電気抵抗値よりも前記第1導電性物質の電気抵抗値の方が低く、前記透明導電性フィルムの全光線透過率が30%以上であり、かつ抵抗値が30Ω/□以下である、透明導電性フィルムであること、を特徴とする。
【0022】
本願発明の請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の透明導電性フィルムであって、前記第1導電性物質が形成するグリッド線が、前記第2導電性物質より生じる電子を集積するための集電グリッドと、前記集電グリッドに集積された前記電子をさらに集積して前記透明導電性フィルムに接続された外部端子へと放出するためのモジュールグリッドと、の2種類よりなり、かつ前記集電グリッドの電気抵抗値よりも前記モジュールグリッドの電気抵抗値の方が低い、透明導電性フィルムであること、を特徴とする。
【0023】
本願発明の請求項4に記載の発明は、請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の透明導電性フィルムであって、前記第1導電性物質がニッケル、チタン、アルミニウム、プラチナ、イリジウム、タンタル、タングステン、モリブデン、ニオブ、クロム、ステンレス鋼、金、銀、銅、アルミニウム、インジウム、又はスズの何れか、またはこれらの何れか若しくは複数を用いた合金である、透明導電性フィルムであること、を特徴とする。
【0024】
本願発明の請求項5に記載の発明は、請求項1ないし請求項4の何れか1項に記載の透明導電性フィルムであって、前記第2導電性物質が、スズ−酸化インジウム(ITO)、酸化亜鉛、アルミニウムがドーピングされた酸化亜鉛(AZO)、ガリウムがドーピングされた酸化亜鉛(GZO)、酸化ニオブ、酸化チタン、又は酸化スズの何れか若しくは複数である、透明導電性フィルムであること、を特徴とする。
【0025】
本願発明の請求項6に記載の発明は、請求項1ないし請求項5の何れか1項に記載の透明導電性フィルムであって、前記透明導電性フィルムの最表面に特定機能を備えた特定機能層が積層されてなる、透明導電性フィルムであること、を特徴とする。
【0026】
本願発明の請求項7に記載の発明は、請求項1ないし請求項6の何れか1項に記載の透明導電性フィルムであって、前記第1導電層の表面に、酸化防止層が積層されてなる、透明導電性フィルムであること、を特徴とする。
【0027】
本願発明の請求項8に記載の発明は、高分子樹脂よりなる透明基材フィルムの表面に、水溶性塗料による水溶性塗料層を前記透明基材フィルム表面の所望の箇所に積層する水溶性塗料層積層工程と、前記水溶性塗料層積層工程を終えた、前記水溶性塗料層を積層した部分及び積層していない部分の両方の表面に対して一律に、第1導電性物質を積層してなる第1導電層積層工程と、前記第1導電層積層工程を経て得られた積層体を水洗してなる水洗工程と、前記水洗工程を経て得られた積層体の表面全体に対し、第2導電性物質を積層してなる第2導電層積層工程と、をこの順に実行してなる透明導電性フィルムの製造方法であって、前記水洗工程を経て得られた積層体が、前記透明基材フィルムの表面に前記第1導電性物質が第1導電層としてグリッド状に残存してなり、前記第2導電性物質の電気抵抗値よりも前記第1導電性物質の電気抵抗値の方が低く、前記製造方法により得られる透明導電性フィルムの全光線透過率が30%以上であり、かつ抵抗値が30Ω/□以下である、透明導電性フィルムの製造方法であること、を特徴とする。
【0028】
本願発明の請求項9記載の発明は、高分子樹脂よりなる透明基材フィルムの表面に、第2導電性物質を積層してなる第2導電層積層工程と、水溶性塗料による水溶性塗料層を、前記第2導電層積層工程により形成された第2導電層の表面の所望の箇所に積層する水溶性塗料層積層工程と、前記水溶性塗料層積層工程を終えた、前記水溶性塗料層を積層した部分及び積層していない部分の両方の表面に対して一律に、第1導電性物質を積層してなる第1導電層積層工程と、前記第1導電層積層工程を経て得られた積層体を水洗してなる水洗工程と、をこの順に実行してなる透明導電性フィルムの製造方法であって、前記水洗工程を経て得られた積層体が、前記透明基材フィルムの表面に前記第1導電性物質が第1導電層としてグリッド状に残存してなり、前記第2導電性物質の電気抵抗値よりも前記第1導電性物質の電気抵抗値の方が低く、前記製造方法により得られる透明導電性フィルムの全光線透過率が30%以上であり、かつ抵抗値が30Ω/□以下である、透明導電性フィルムの製造方法であること、を特徴とする。
【0029】
本願発明の請求項10に記載の発明は、請求項8又は請求項9に記載の透明導電性フィルムの製造方法であって、前記第1導電性物質が形成するグリッド線が、前記第2導電性物質より生じる電子を集積するための集電グリッドと、前記集電グリッドに集積された前記電子をさらに集積して前記透明導電性フィルムに接続された外部端子へと放出するためのモジュールグリッドと、の2種類よりなり、かつ前記集電グリッドの電気抵抗値よりも前記モジュールグリッドの電気抵抗値の方が低い、透明導電性フィルムの製造方法であること、を特徴とする。
【0030】
本願発明の請求項11に記載の発明は、請求項8ないし請求項10の何れか1項に記載の透明導電性フィルムの製造方法であって、前記第1導電性物質がニッケル、チタン、アルミニウム、プラチナ、イリジウム、タンタル、タングステン、モリブデン、ニオブ、クロム、ステンレス鋼、金、銀、銅、アルミニウム、インジウム、又はスズの何れか、またはこれらの何れか若しくは複数を用いた合金である、透明導電性フィルムの製造方法であること、を特徴とする。
【0031】
本願発明の請求項12に記載の発明は、請求項8ないし請求項11の何れか1項に記載の透明導電性フィルムの製造方法であって、前記第2導電性物質が、スズ−酸化インジウム(ITO)、酸化亜鉛、アルミニウムがドーピングされた酸化亜鉛(AZO)、ガリウムがドーピングされた酸化亜鉛(GZO)、酸化ニオブ、酸化チタン、又は酸化スズの何れか若しくは複数である、透明導電性フィルムの製造方法であること、を特徴とする。
【0032】
本願発明の請求項13に記載の発明は、請求項8ないし請求項12の何れか1項に記載の透明導電性フィルムの製造方法であって、前記透明導電性フィルムの最表面に特定機能を備えた特定機能層が積層されてなる特定機能層積層工程が実行されてなる、透明導電性フィルムの製造方法であること、を特徴とする。
【0033】
本願発明の請求項14に記載の発明は、請求項8ないし請求項13の何れか1項に記載の透明導電性フィルムの製造方法であって、前記第1導電層の表面に、酸化防止層が積層されてなる酸化防止層積層工程が実行されてなる、透明導電性フィルムの製造方法であること、を特徴とする。
【0034】
本願発明の請求項15に記載の発明は、請求項1ないし請求項7の何れか1項に記載の透明導電性フィルム、若しくは請求項8ないし請求項14の何れか1項に記載の透明導電性フィルムの製造方法により得られた透明導電性フィルム、をその透明電極として用いてなる太陽電池であること、を特徴とする。
【0035】
本願発明の請求項16に記載の発明は、請求項1ないし請求項7の何れか1項に記載の透明導電性フィルム、若しくは請求項8ないし請求項14の何れか1項に記載の透明導電性フィルムの製造方法により得られた透明導電性フィルム、を用いてなる光電極であること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0036】
以上のように、本願発明に係る透明導電性フィルムであれば、従来の透明基材フィルムの表面に透明導電層を積層してなる透明導電性フィルムに対し、透明基材フィルムと透明導電層との間に透明導電層よりも導電性の良い導電物質をグリッド状に挟み込んでいる構成としているので、従来の透明導電性フィルムよりも導電性が良好である。またグリッドの形状についても単純に略均一のグリッドを等間隔で設けたものではなく、2種類のグリッドを設けたことにより略均一にグリッドを設けた場合に生じる電子の逆流現象を本願発明においては防止出来る確率が飛躍的に高まるので導電性を向上させることが容易に可能となる。また本願発明に係る透明導電性フィルムであると、従来であればセルを一つづつ製造し、かつセルから電解液が漏出しないようにし、その上でそれらを効率よく接続してモジュールとしなければいわゆる太陽光発電を行える太陽電池とすることが出来なかったのに対し、本願発明にかかる透明導電性フィルムを太陽電池の透明電極とすれば、本願発明に係る透明導電性フィルム単体を用いるだけで従来の太陽電池モジュールを得ることが出来るようになり、その結果従来であれば複雑であったセル間の配線が全く不要となる、等、非常に容易にかつ簡潔に太陽電池モジュールを一気に得ることが可能となる。さらにそれのみならず、複数の太陽電池モジュールを接続して得られるモジュールの集合体であるモジュール(太陽電池アレイとも呼ばれる。)ですら一気に得られるようになる。
【0037】
さらに本願発明に係る透明導電性フィルムの製造方法によれば、透明基材フィルムの表面に水溶性塗料による水溶性塗料層を部分的に積層した後に水溶性塗料が積層されている部分とそうでない部分とに第1導電性物質を積層し、次いでこれを水洗し、その後表面全体に対し第2導電性物質を積層する、という方法で透明導電性フィルムを得られるので、得られた透明導電性フィルムは上述したような効果を得るのみならず、製造工程そのものに関しても大変簡潔なものとなり、その結果簡易な機構で高速に、かつ低コストでロール・ツー・ロールによるロール連続生産が可能となる。即ち生産性が非常に良好なものとなせる。またそもそも基材として用いるのが従来はガラスであったため取扱いに際しては非常に慎重に対処せねばならず、なおかつ割れやすい、破損しやすい、という問題があったところ、本願発明においては透明基材フィルムを用いるため、前述したような連続生産が大変容易に可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、本願発明の実施の形態について説明する。尚、ここで示す実施の形態はあくまでも一例であって、必ずしもこの実施の形態に限定されるものではない。
(実施の形態1)
本願発明に係る透明導電性フィルム及びその製造方法につき、第1の実施の形態として説明する。
【0039】
本実施の形態に係る透明導電性フィルムは、少なくとも、高分子樹脂よりなる透明基材フィルムと、透明基材フィルムの表面に第1導電性物質をグリッド状に積層してなる第1導電層と、透明基材フィルム表面の第1導電層及び第1導電層が積層されていない部分の表面に第2導電性物質を積層してなる第2導電層と、をこの順に積層してなる構成を有する。また本実施の形態にかかる透明導電性フィルムでは、第2導電性物質の電気抵抗値よりも第1導電性物質の電気抵抗値の方が低く、また透明導電性フィルムの全光線透過率が30%以上であり、かつ抵抗値が30Ω/□以下であるものとする。
【0040】
以下それぞれにつき順次説明をする。
まず基材となる高分子樹脂よりなる透明基材フィルムは、当然透明度に優れるものであればよく、例えばポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリメチルメタアクリレートフィルム、等の樹脂フィルムを用いるとよく、本実施の形態においてはPENフィルムを用いることとする。またその厚みは、本実施の形態に係る透明導電性フィルムを用いる装置等において必要とされる透明導電性フィルムの厚みに応じた厚みであればよく、又は後述するように太陽電池モジュールの透明電極として用いるのに応じた厚みであればよく、例えば太陽電池の透明電極として用いる場合であれば、透明基材フィルムの厚みは100μm以上200μm以下程度であると好ましいものとすることができる。
【0041】
次にこの高分子樹脂よりなる透明基材フィルムの表面にグリッド状に積層されてなる第1導電性物質及びこの第1導電性物質による第1導電層につき説明する。
尚、本願発明においてグリッド又はグリッド状と記しているものは、例えば格子状のように線が直交した形状であるメッシュ状であったり、あたかも櫛の歯のように並行線が引かれたストライプ状であったりすることが考えられるが、その形状については自在に考えて構わない。
【0042】
この第1導電層は透明基材フィルムの表面に積層されているが、その表面全般にわたり均一に積層されているのではなく、略平面視グリッド状に積層されてなることを特徴としている。そしてこのグリッドの略平面視における形状としては種々考えられるが、本実施の形態では、図1又は図2に示すように、一見して細いグリッド線である集電グリッドと、太いグリッド線であるモジュールグリッドと、2種類のグリッド線であるものとする。これら2種類のグリッドそのものの説明に関しては後述する。
【0043】
また集電グリッドを構成するグリッド線の略平面視における太さについて考察すると グリッド線を形成する第1導電性物質は基本的に光線を透過しないものであることが考えられるが、その場合、本実施の形態に係る透明導電性フィルムにおいて第1導電性物質の存在が光線透過性を低下させる要因となり得るため、略平面視におけるその総面積は小さい方が好ましい。一方、総面積を小さくするということは即ちグリッド状に形成された第1導電層を構成する一本一本のグリッド線の略平面視における幅が狭くなる、即ち一本一本それぞれのグリッド線そのものが細くなることを意味し、これが細くなることは即ち導電性を低下させる要因となり得る。
【0044】
一方で、本実施の形態に係る透明導電性フィルムでは、通常これを用いる場面、例えば太陽電池の透明電極として用いる場合や、照明に用いる場合などを種々想定しても、経験則的におおむね太陽電池に用いられるセルの全光線透過率は最低30%以上であることが望まれているとされており、よって本実施の形態に係る透明導電性フィルムでも全光線透過率が30%以上であることとしているので、全光線透過率が30%以上となるように第1導電層のグリッド線の太さを決めれば良い。またより一層効率を望むのであれば全光線透過率を50%以上とするとなお一層好ましいものとできる。そして実際には全光線透過率が設定された値、若しくは目的に応じた好適な値を満たすように、集電グリッドを構成するグリッド線の設計を行えばよい。
【0045】
またモジュールグリッドを構成するグリッド線の太さについては、所望の太さとすればよい。これは、例えば図1に見られるように、個々のセルを集合させてなる一つのモジュールをさらに複数設置することで本実施の形態に係る太陽電池モジュールたる透明導電性フィルムが得られるのであるが、太陽電池モジュールの大きさや数などは発電量やそもそものフィルムの大きさ等、諸般の望まれる状況に応じて設定、設計されるものであって、モジュール同士の間を第1導電層によるモジュールグリッドで接続する、というように考えることで本実施の形態に係る透明導電性フィルムが得られるものであるからである。ちなみに、上述した複数のモジュールよりなる一単位としての太陽電池モジュールが複数接続されてなる太陽電池アレイを考えた場合、複数の太陽電池モジュールを製造しその後それらを接続して太陽電池アレイとする(=個々のセルを製造してその後にそれらを接続する。)、と言うことも考えられ、また、初めから複数の太陽電池アレイとなせるように、基材フィルム表面に第1導電層による数種類の太さのグリッドを設けて略平面視で仮想的な太陽電池グリッドを形成した後に第2導電層を設けてこれを仮想太陽電池アレイとする、と考えることも可能であり(=基材フィルムにグリッドを設けることにより、略平面視で仮想的な、セル集合体としてのグリッドを一気に形成する。)、それに応じたモジュールグリッドや、さらにはアレイグリッドとでも称せられる、モジュールグリッドよりもさらに太いグリッド線を考え、又は設計しても良いが、ここではこれ以上の詳細な説明は省略する。
【0046】
ここで、例えば後述の実施例のようにして得られる本実施の形態に係る透明導電性フィルムにおいて、第1導電性物質として種々の物質を用いた場合の全光線透過率と変換効率との相関関係について、得られた結果の一部を次の表に示す。




【0047】
【表1】

【0048】
この場合、最終的に積層される種々の物質により、本実施の形態にかかる透明導電性フィルムの全光線透過率が決せられるが、本実施の形態においては透明基材フィルムの面積と第1導電性物質により遮蔽されない部分の面積、即ち第1導電性物質が積層されていない部分の総面積との関係より、第1導電性物質による第1導電層の形状を決することとする。
【0049】
当然、上記は略平面視による観点から考察しているが、第1導電性物質による導電性、即ち電気抵抗値は第1導電性層の略側面視における高さも関係してくる。即ちこの電気抵抗値とは第1導電性層の断面積そのものに関わるからである。また同時に第1導電性層の略側面視の高さを高くしすぎると、本実施の形態にかかる透明導電性フィルムの厚みにも影響を与えるため、この点も併せて検討しなければならない。
【0050】
そこで検討をした結果、本実施の形態では第1導電層の厚みは50nm以上200nm以下であることが好適であること、さらには50nm以上120nm以下であるとより一層好適であることが判った。50nm以下であると導電性が不十分なものとなってしまい、また200nm以上となってしまうと透明導電性フィルムそのものの厚みに好ましからざる影響を及ぼしてしまう可能性が高くなるからであり、さらにはグリッド自体が容易にクラックを生じてしまう、後述するように第2導電層を構成する第2導電性物質をこの表面に積層する際に必要以上に大量の第2導電性物質を用いる必要が生じてしまう、電気抵抗値の安定性に欠けてしまう、等の問題が発生しやすくなってしまうからであり、さらには120nm以下となるようにすると上述の問題発生をより一層確実に防止することが可能となる。
【0051】
このように積層される第1導電性物質は、本実施の形態に係る透明導電性フィルムにおいて導電性を発揮するための重要な部位であり、当然導電性に優れた物質を用いる必要があるが、この第1導電性物質は後述の第2導電性物質よりも導電性に優れた、換言するならば電気抵抗値が低い物質でなければならず、そのためには例えばニッケル、チタン、アルミニウム、プラチナ、イリジウム、タンタル、タングステン、モリブデン、ニオブ、クロム、ステンレス鋼、金、銀、銅、アルミニウム、インジウム、又はスズの何れか、又はこれらの何れか若しくは複数を用いた合金であると良く、本実施の形態ではニッケルとチタンとの合金を用いてなるものとする。また、金、銀、銅、アルミニウム、インジウム、又はスズについては確かに一般的に太陽電池において電解液として用いられるヨウ素溶液に溶解してしまう可能性はあるが、昨今その電解液として新たに用いられはじめている非ヨウ素電解液を用いた場合であれば、金、銀、銅、アルミニウム、インジウム、又はスズの何れかであっても利用することが可能であり、また実施に利用することも考えられるが、ここではこれ以上の詳述は省略する。尚、第1導電性物質の導電性に関して前述のように条件付ける理由については後述する。また上記説明における電気抵抗値とは特定の区間における抵抗値であり、本実施の形態では、例えばグリッド同士が交差する点と、隣の交差点との間における抵抗値を想定して表現しているものであり、以下においても同様であることをここで断っておく。
【0052】
このように、透明基材フィルムの表面に第1導電層がグリッド状に積層された状態で、さらにその表面全体、即ち第1導電層のさらに表面のみならず、第1導電層が積層されていない透明基材フィルムの直接表面に対し、本実施の形態に係る透明導電性フィルムではさらに第2導電層が積層されているが、ここでこの第2導電層及びこの層を形成する第2導電性物質につき説明する。
【0053】
この第2導電性物質は当然導電性を有しているものであるが、これは前述した第1導電性物質とは異なる物質が用いられ、なおかつ第1導電性物質の電気抵抗値と第2導電性物質の電気抵抗値とを比べると第1導電性物質の電気抵抗値の方が低く、即ち第2導電性物質よりも第1導電性物質の方が導電性が良好である、という条件を満たす物質であることが必要である。この理由については後述する。
【0054】
そしてこのような条件を満足する物質として、例えば第1導電性物質に前述したような物質を用いた場合、それに対して第2導電性物質としては、スズ−酸化インジウム(ITO)、酸化亜鉛、アルミニウムがドーピングされた酸化亜鉛(AZO)、ガリウムがドーピングされた酸化亜鉛(GZO)、酸化ニオブ、酸化チタン、又は酸化スズの何れか若しくは複数を用いることが好適であり、本実施の形態に係る透明導電性フィルムではITOを用いてなるものとする。
【0055】
尚、略側面視において第2導電層の表面は可能であれば略均等であることが望ましい。つまり第1導電層により生じた凹凸を埋めるかのごとく第2導電層が設けられ、その結果、第2導電層の表面が均等となればよいが、これは単純に、第2導電層のどの部分の厚みを取り上げても均等な厚みであることとすれば、第2導電層の積層作業が非常に手間のかかる作業となってしまい作業効率の観点から好ましくないこと、また後述するように、本実施の形態に係る透明導電性フィルムの最表面にさらに何らかの積層を行う場合、その表面が均等である方が積層しやすいこと、等の理由より、その表面が均等であることが好ましい、ということである。しかし必ずしも略均等でなくともよく、即ち前記凹凸に沿った形で第2導電層が積層され、その結果最表面も前記凹凸に沿った形状となったとしても特段問題を有するものではないことを断っておく。
【0056】
この第2導電層の厚みは、50nm以上500nm以下であることが好ましく、50nm以上300nm以下であるとより好ましい。尚この厚みとは、透明基材フィルムの最表面からの厚みを指している。50nm以下であると導電性が十分でなく、500nm以上であると得られる透明導電性フィルムの厚みが必要以上に増してしまうからである。そして第2導電層を構成する物質によっては300nm以下としても問題はない。
【0057】
以上のような物質によって本実施の形態に係る透明導電性フィルムが構成されているが、使用する態様によってはその表面にさらに何らかの特定機能を有する層を積層してあっても構わない。例えば常に外気に曝されるような利用方法であれば耐候性を備えた層や耐傷性を備えた層を積層すればよいし、またその他の状況にあってはガスバリア性を備えた層を積層することも考えられるが、この点については状況に応じて臨機応変に設計すればよく、ここではこれ以上の詳述を略する。
【0058】
さらに、第1導電層と第2導電層とが接することにより、それらの物質の選択、組み合わせによっては第2導電層の存在が故に第1導電層が酸化してしまい、その結果第1導電層の導電性が低下、悪化してしまうことも考えられるが、予めそのような現象が生じることを防止するために、酸化防止をしたい第1導電層を直接オーバーコートするように酸化防止層を積層してあっても構わない。この際、酸化防止層として好適なものは、例えば酸化チタン等であるが、重要なことはこの酸化防止層が存在することにより第1導電層と第2導電層との間における導電性が悪化、もしくは酸化防止層が絶縁層として作用しないことである。
【0059】
ちなみに、この酸化防止層は第1導電層の表面に設けられていればよいが、実際の積層作業では第1導電層の表面のみに積層することは細かな作業となるため、透明基材フィルム表面及び第1導電層表面全体にわたり積層することとしても構わない。
【0060】
尚、以上は酸化防止層を別途設けることについて説明したが、第1導電層と第2導電層との選択の組み合わせを工夫することにより第2導電層を第1導電層の酸化防止層として積極的に機能させることも考えられる。つまり第2導電層を設けることで第1導電層が外気と接触しないこととなり、即ち大気中の酸素と接することがなくなるので、結果的にそもそも第2導電層は第1導電層の酸化を防止する機能を発揮する層であるとも言えるのであり、よって初めから第2導電層が第1導電層の酸化防止層として作用するように積極的に第2導電性物質を選択しても構わないが、ここではこれ以上の詳細な説明は省略することとする。
【0061】
本実施の形態に係る透明導電性フィルムは以上の通りであるが、次にこの透明導電性フィルムの製造方法につき説明をする。
【0062】
本実施の形態に係る透明導電性フィルムの製造方法の概略は次の通りである。即ち、高分子樹脂よりなる透明基材フィルムの表面に、水溶性塗料による水溶性塗料層を前記透明基材フィルム表面の所望の箇所に積層する水溶性塗料層積層工程と、前記水溶性塗料層積層工程を終えた前記基材フィルムの前記水溶性塗料層を積層した部分及び積層していない部分の両方の表面に対して一律に、第1導電性物質を積層してなる第1導電層積層工程と、前記第1導電層積層工程を経て得られた積層体を水洗してなる水洗工程と、前記水洗工程を経て得られた積層体の表面全体に対し、第2導電性物質を積層してなる第2導電層積層工程と、よりなる。以下、それぞれの工程につき順次説明する。
【0063】
まず本フィルムの製造方法において用いる高分子樹脂よりなる透明基材フィルムであるが、これは目的にかなったものを随時選択して用いればよく、例えば前述したとおりのものを用いればよい。またこの際の基材フィルムの厚みは本実施の形態により得られる透明導電性フィルムを用いる目的に応じて定めればよいが、余りにも薄いと塗料層、蒸着層、等を積層していく時に、積層時の熱が原因でフィルム自体に歪みが生じてしまう可能性があり、また厚すぎるとフィルム自体に可撓性に欠け、生産性に劣る、という問題が生じるので、これらの点には注意すべきである。尚、本実施の形態においては100μmの厚みを有するPENフィルムを用いることとする。
【0064】
そしてまず最初にこのPENフィルム表面に、水溶性塗料による水溶性塗料層を前記透明基材フィルム表面の所望の箇所に積層する水溶性塗料層積層工程を行う。
【0065】
ここで用いる水溶性塗料とは、例えばポリビニルアルコール(PVA)、エチルビニルアルコール(EVOH)、又はでんぷん、等を原材料とする塗料であって、前述の透明プラスチックフィルム表面に積層しやすいものであり、かつある程度の層間密着力が確保されるものであることが好ましい。ある程度の層間密着力とは、後述するように水洗工程を実施する際まで基材となる透明プラスチックフィルムと好適に密着していなければならず、かつ水洗工程により水溶性塗料を水に溶解させる際には美麗に溶解してしまわなければならない、という程度の密着力であればよい。
【0066】
この際塗布する水溶性塗料が形成する水溶性塗料層の厚みは、0.3μm以上5μm以下であることが好ましい。5μm以上であると水洗しても充分に溶解しきらず、水洗工程に大量の水を消費してしまい、また加工工程において所望箇所の金属蒸着層の剥離が美麗に生じず、また0.3μm未満であると水洗工程後であっても金属の残りが生じてしまう、水洗工程に入る前に剥離が生じてしまう、等の問題が生じるので好ましくない。尚、水溶性塗料層の積層方法は、例えばグラビアコーティング法、フレキソ印刷法、又はシルクスクリーン印刷法、等の公知の手法であってよく、本実施の形態ではシルクスクリーン法であるものとする。
【0067】
さらにこの際塗布する水溶性塗料の形状、換言すれば透明基材フィルムの表面に水溶性塗料を塗布する箇所は、最終的に得られる本実施の形態に係る透明導電性フィルムにおける第1導電層に該当する箇所以外の部分に塗布すればよい。つまり、水溶性塗料が塗布されていない部分をまとめて観察するとグリッド状となる必要があり、このグリッド状を構成する水溶性塗料が塗布されていない部分は即ち後述する第1導電層が位置する場所に該当するのである。
【0068】
この際、本実施の形態に係る透明導電性フィルムの製造方法における水溶性塗料が塗布されていない部分、即ちグリッドに相当する部分の各グリッドの幅については前述した通りのグリッド幅に応じた幅とすればよい。
【0069】
以上のようにして水溶性塗料層積層工程を終えると、次に水溶性塗料層積層工程を終えた透明基材フィルムの表面であって、水溶性塗料層を積層した部分及び積層していない部分の両方に対して一律に、第1導電性物質を積層してなる第1導電層積層工程を実行する。
【0070】
この工程で積層する第1導電層を構成する第1導電性物質は先に述べた通り金属又は金属酸化物であることが好ましく、またその他の条件についても前述したとおりである。そしてこの第1導電性物質の積層方法は公知なものであってよく、例えばスパッタリング法や真空蒸着法、イオンプレーティング法などの様々な手法を利用することが考えられる。そして本実施の形態ではスパッタリング法によることとするが、やはりこれもこの手法に限定されるものではない。またここで形成される第1導電層の厚み等については、やはり前述の通りとすればよい。
【0071】
次に、第1導電層積層工程が終了したら、ここで得られた積層体を水洗する水洗工程を実行する。具体的な水洗の手法は本実施の形態においては特に限定するものではないが、水洗工程を実行することにより透明基材フィルムの表面に積層された物質が無分別に剥離、脱落することがあっては問題である。そこで、例えば超音波洗浄や温水高圧スプレーシャワーを用いれば、透明基材フィルムの表面に直接積層されている第1導電層を不用意に剥離、脱落させることなく水洗を実行することが出来るので好適である。そしてこの水洗工程を実行することにより、水溶性樹脂が溶融し、その結果水溶性樹脂の表面に積層されていた第1導電層が全て除去され、一方透明基材フィルムの表面に直接積層されている第1導電層はそのまま残存することとなり、その結果、透明基材フィルムの表面に第1導電層がグリッド状に積層された状態となるのである。
【0072】
尚水洗工程が完了したらこれを乾燥させる乾燥工程を実行するとよい。この乾燥させる方法については特段限定するものではないが、早く乾燥させるために、そして同時に透明基材フィルムの表面に直接積層されている第1導電層の不用意な剥離、脱落を防ぐために、例えば高圧圧搾空気流を用いると、そのような事態の発生を防ぐことが可能となるので好適である。
【0073】
以上説明した水洗工程で最も重要なことは第1導電層の不用意な剥離、脱落を防止することであり、この目的にかなう手法であれば前述した手法以外のものであっても構わないことをここで断っておく。
【0074】
水洗工程を終えると、次にその表面に、第2導電性物質を全面的に積層する第2導電層積層工程を実行する。この工程においては、透明基材フィルムの直接の表面のみならず、透明基材フィルムの表面にグリッド状に積層されている第1導電層の表面に対して、第2導電性物質を積層することにより第2導電層を形成する。ここで積層される第2導電性物質は前述の通りであり、第1導電性物質と第2導電性物質との関係についても前述の通りである。
【0075】
そして第2導電性物質を積層する手法については従来公知の手法であってよく、例えば真空蒸着法やスパッタリング法等であればよいが、本実施の形態ではスパッタリング法により積層されてなるものとするがこの手法に限定するものではない。またこの層の厚みについても、その用いる材質により目的を達することが出来るだけの厚みを、適宜選択決定すればよい。
【0076】
以上の各工程を経て、本実施の形態に係る透明導電性フィルムが得られ、また得られる透明導電性フィルムそのものについてはすでに説明した通りの性質を有しているが、この得られた透明導電性フィルムを用いる場面に応じて、その最表面に対しさらにガスバリア層やハードコート層等の特定機能を有する層を従来公知の手法により積層しても構わないことを断っておく。
【0077】
このように、本実施の形態に係る透明導電性フィルムの製造方法によれば、透明基材フィルムの表面に対し、特定パターンにより水溶性樹脂を塗布し、次いでその表面に第1導電性物質を積層し、次いで水洗し、次いでその表面に第2導電性物質を積層する、という工程を順次行うだけでよいので、単純な構成のロール・ツー・ロール法によりこの工程を実現することが容易に可能となる。またこの製造方法により得られる透明導電性フィルムの電気抵抗値も、例えば水溶性塗料の塗布形状を調整することによって第1導電層を構成するグリッドの略平面視における幅などを調整すれば容易に設定可能となる。
【0078】
尚、第1導電層と第2導電層とがその構造上隣接しているので、それが故に第1導電層が酸化してしまい、その結果導電性が悪化する可能性は全くないとは言えないが、もしこれらの層の組み合わせによって第1導電層の導電性が悪化する可能性が有る場合、第1導電層を直接オーバーコートするように酸化防止層を積層するための酸化防止層積層工程を実行することが考えられる。
【0079】
具体的には、水洗工程が終了後、第2導電層積層工程を実行する前に、酸化防止層を第1導電層の表面に積層する酸化防止層積層工程を実行すればよい。この工程は、第1導電層の表面のみに対して行っても良いが、作業工程の煩雑さ、又は容易さを考慮するならば、第1導電層の表面に積層すると同時に、第1導電層が積層されていない透明基材フィルムの表面に積層するようにしても構わない。
【0080】
この酸化防止層の積層に関しては必要に応じて設計すればよく、例えば第1導電層と第2導電層との組み合わせによってはむしろ第2導電層に対し積極的に酸化防止の機能を与えることも考えられるが、ここではこれ以上の詳細な説明は省略する。
【0081】
以上、本実施の形態に係る透明導電性フィルム及びその製造方法につき簡単に説明をしたが、最後に第1導電層と第2導電層との関係につき簡単に説明をしておく。
【0082】
従来、透明導電性フィルムにおいては透明基材フィルムの表面にITOなどの透明導電性物質を積層することにより構成されており、例えば透明導電性フィルムの周囲に銀ペースト等のような導電性物質を塗布し、そこを介して電気を流している。
【0083】
この場合ITOを面として捉えると、広範囲の中で電子が流れることになり、また流れ着いた電子を取り出す最初の部分の面積も大きいため、電子が素早く移動することができず、その結果電子のスムーズな移動がなかなか実現できず、即ち導電性を向上させることに限界があった。
【0084】
そこで、より高速に電子を移動させる、即ち導電性を向上させるために、基材フィルムとITOとの間に、ITOよりも導電性の良い、即ち電子を高速にかつスムーズに移動させることのできる物質をグリッド状に配する工夫が考えられ、即ちこの構造が本実施の形態に係る透明導電性フィルムにおいて用いられているのである。
【0085】
つまり、ITO等による第2導電層と、ニッケル・チタン合金等による第1導電層と、を用いる本実施の形態に係る透明導電性フィルムにおいて、基本的には透明基材フィルムの表面に第2導電層が積層されているが、略側面視において部分的に第1導電層が挟み込まれている、という構成となっている。
【0086】
このように構成することによる電子の流れを車の流れに例えるならば、第2導電層部分は一般道路であって、第1導電層部分は高速道路、と言うことが出来る。つまり透明導電性フィルムに入った電子のうちまず第2導電層部分に入り流れ始めるが、その流れは第1導電層部分に吸収され、第1導電層部分に吸収された電子はより高速に移動をするのである。
【0087】
これは第1導電層の方が第2導電層に比べて導電性が良好だからであり、この導電性が良好であるとは電子の移動がより高速に行われるということであるので、透明導電性フィルムに入った電子を全体的に見渡すと、第1導電層部分からどんどんと外部に流出していることになる。
【0088】
つまり見方を変えると、第1導電層部分からどんどん電子が流れ出すので、第1導電層部分には回りの第2導電層部分に存在する電子をどんどん吸収することになり、結果としてこの透明導電性フィルムの導電性が良好なものとなるのである。
【0089】
ここで第1導電層部分と第2導電層部分との存在割合につき検討すると、前述した状況のみを考えると第1導電層部分を増やすことで一見全体の導電性が向上するかのように思われるが、第1導電層を増加させる一方であると、結局透明基材フィルムの表面に第1導電層を全面的に積層することとなり、導電性の差を利用した構造、即ち第1導電層部分に電流を集積し、それを外部端子に放出していく、ということが出来なくなるので、結局意味のないこととなってしまう。つまり要所要所にあたかも排水溝であるかのように作用する第1導電層が存在することで本実施の形態における効果が発揮されるのに、第1導電層全て平面であるとそのような作用を発揮することが出来なくなる。また通常第1導電層を構成する第1導電性物質は透明でない、又は光線透過率が良好でない物質であることが多く、そのような物質を増加させると、結局本来必要な全光線透過率が低下することとなり、結局透明導電性フィルムとしての機能を発揮できなくなる。
【0090】
つまり透明導電性フィルム全体としての導電性を追求するならば第1導電層を増加させればよいが、それは同時に透明導電性フィルムの全光線透過率を低下させることとなり、一方、全光線透過率をある程度維持するためには第1導電層の増加にもある程度の限界が存在することとなる。
【0091】
そこで、従来の透明導電性フィルムでは第1導電層をグリッド状とすることでこれらの並立をはかろうとしていたことより、本願発明では以上説明した通り、これをグリッド状とすることによってより一層簡潔に導電性と全光線透過率とを良好なものとできるようにしたものであり、本実施の形態に係る透明導電性フィルムの第1導電性物質及び第2導電性物質はこれを実現できる物質であり、また第1導電層及び第2導電層はこれを実現できる形状で構成されているのである。
【0092】
さらに第1導電層であるグリッドにつき説明すると、本実施の形態ではこのグリッドは集電グリッドとモジュールグリッドとの2種類が存在しているが、それぞれの役割は異なるものである。
【0093】
まず本実施の形態にかかる透明導電性フィルムを透明電極とした太陽電池とし、透明導電性フィルムにおけるグリッドで四方を囲まれた部分の略平面視をセルと見なすと(以下「仮想セル」とも言う。)、通常のモジュールでは第1導電層部分は従来の太陽電池におけるセルの周囲を形成する封止部分、第1導電層が存在しない部分はセルの内部領域、と言うことが出来るが、この仮想セル領域内で生じた電子は仮想セル周囲のグリッドに到達すると、そのグリッド部分から外部へと電子が流れ出ていくことは上述した通りである。
【0094】
しかし、単に全てのグリッドが見かけ上略同一の幅である、断面積が略同一である、とするならば、上述した例えで表現すると、電子が渋滞を起す可能性が十分にある。つまり周囲のグリッドで電子が滞留してしまうと、行き場を失った電子が再び透明導電膜へと逆流することが起こりうる。
【0095】
そこで本実施の形態に係る透明導電性フィルムでは、グリッドを2種類としたのである。つまり、単純に表現するならば太いグリッドと細いグリッドを設けたのであるが、これらは、即ち本当に透明導電性フィルムに接続された外部の端子へと電子を次々と断続的に流出させるためのグリッドとして太いグリッドであるモジュールグリッドとして、またそのモジュールグリッドへ電子を集積させるためのグリッドとして細いグリッドである集電グリッドとして、それぞれ設けたのである。これも道路の流れで例えるならば、仮想セル領域内で生じた電子は、まず一般道路から幹線高速道路へと流れを誘導するためのバイパス道路ともいうべき集電グリッドに流れ出し、集電グリッドに流れ出した電子は、一般道路とバイパス道路とを経て幹線高速道路というべきモジュールグリッドへと流れだし、モジュールグリッドへと流れ出した電子は、外部端子へと流れていくのである。尚、グリッドの設け方によっては、仮想セルが直接モジュールグリッドに接続することもあり得るが、何ら問題は生じない。
【0096】
ここで仮想セルをもう一度よく見ると、その周囲に位置するグリッドとして、全てが集電グリッドである場合もあり、また全てがモジュールグリッドである場合も考えられるが、いずれにせよ集電グリッドは必ずモジュールグリッドに接続するようにしておけば、前述したような集電グリッドにいつまでも電子が滞留してしまいそれが仮想セル領域内に逆流するという現象が生じることを防ぐことができるのであり、また仮に仮想セルとモジュールグリッドが直接接している場合はなおのこと電子の逆流は生じない、といえる。このように2種類のグリッドを設けることで、より一層確実に本実施の形態に係る透明導電性フィルムの外部へと電子を流出させることができ、即ち電気抵抗値の低い透明導電性フィルムとすることが出来るのである。
【0097】
以上説明した製造方法により本実施の形態に係る透明導電性フィルムが得られるのであるが、この透明導電性フィルムは、例えば有機エレクトロルミネッセンスや無機エレクトロルミネッセンスの光電極として利用することも考えられ、また係る透明導電性フィルムの表面にチタニア層を設け、その対面には正極として例えばチタン箔に白金をスパッタリングした蒸着フィルムを設け、それらを両極とし、またそれらの間に電解液を充填すると同時に一つのパッケージとすることで、これが太陽電池モジュールとして動作させることが出来るようになる。このようにして本実施の形態に係る透明導電性フィルムを太陽電池モジュールに用いることで、従来であれば、電解液が漏洩しないように確実に密封した個々の太陽電池セルを、それぞれ配線により接続することでモジュールとしていた太陽電池モジュールに対し、単一の導電性フィルムを用いた透明電極とすることで、従来では必要であった複雑なセルの配置及びそれらの配線といった作業を要することなく、一気に太陽電池モジュールを得ることが出来るようになるのである。
【0098】
(実施の形態2)
以上説明した実施の形態1においては、透明基材フィルム/第1導電層/第2導電層、という構成が基本であったが、第1導電層の厚みによっては第2導電層がそれを十分に覆うことが出来ない場合が生じることが考えられる。つまり好適な導電性を得るに必要な第1導電層の厚みがありすぎる場合では、第2導電層がそれを覆うためには当然第1導電層の厚み以上に積層しなければならないが、第2導電層が厚すぎることで今度は光線透過性が低下する、という現象が発生してしまう可能性が高くなる、ということである。
【0099】
そこで、そのような現象に対処した透明導電性フィルムにつき、第2の実施の形態として以下説明する。
【0100】
基本的に本実施の形態に係る透明導電性フィルムを構成する各部材については第1の実施の形態に係る透明導電性フィルムと同一であるので、その詳細な説明は省略する。
【0101】
基本的に本願発明に係る透明導電性フィルムでは、先に例えて説明したように、要すれば第2導電層で集められた電子を、第1導電層が高速で運搬する、という構成であるので、これらの2つの層が接していればこの効果を得ることが出来る。そこで第2導電層の表面に第1導電層をグリッド状に形成すれば、本実施の形態となす事が出来る。
【0102】
但しこの場合、この処理だけで終了すれば第1導電層が露出した状態となり、第1導電層が容易にかつ強く痛んでしまうことが考えられるので、本実施の形態では、そのさらに表面に何らの積層を施すことが好ましいと考える。即ち、耐擦傷性を備えた透明な物質を積層する、等の処理である。
【0103】
かような積層処理を施すことで、最表面に位置する層が第1導電層を保護することとなり、さらにその最表面に位置する層が何らかの特定機能を備えたものであれば、本願発明に係る透明導電性フィルムに、さらにその機能、例えば耐擦傷性、耐候性、等の機能が備わることとなるので好適であると言える。尚、かような最表面に位置する層の積層方法については特段制限するものではなく、積層物に応じた従来公知の手法で積層されるものであって構わない。
その他、個々に係る詳細な説明は第1の実施の形態と同様であるのでここではその説明を省略する。
【実施例】
【0104】
以下、本発明に係る積層体につき、さらに実施例により説明する。
(実施例1)
(a)
まずはじめに、ITO上の電子ドロップの影響が小さい場合を検討する。
一般的に、色素増感型太陽電池(DSC)における変換効率の評価サイズは5mm四方であり、この場合変換効率は10%を記録している。これよりITO上での電子ドロップの影響が小さく、無視出来るものと考えられる。従って、単純に仮想セルを5mm四方の大きさとし、それを集積したモジュールを色素増感型太陽電池モジュールとし、これを構築することを考える。(図1又は図2参照。)
【0105】
ここで、基材フィルムとして厚みが100μmであるPENフィルム(帝人株式会社製:製品名「テオネックスQ65」)、第1導電層として厚みが80nmのNi7.5Ti(Niに対して7.5wt%のTiが混合されたニッケル・チタン合金)、第2導電層として厚みが120nmであるITO、を用い、基本構成をPEN/Ni7.5Ti/ITOであるものとする。
【0106】
ここで適切な理想グリッド形状を算出する。
ρg:グリッド比抵抗65E−6Ω・cm
lg:グリッド間距離(隣接するグリッド同士の交差点の間の距離)
rg:グリッド間抵抗(隣接するグリッド同士の交差点の間の抵抗)
Sg:グリッド断面積
RITO:仮想セルにおけるITO面抵抗
とした場合において
(rg=ρg×lg/Sg)<RITO
を満足させると理想グリッド形状が判明する。
【0107】
そしてその結果グリッド幅(略平面視における幅)は簡略化して1.0mm、隣接するグリッド同士の交差点の間の距離は5.0mmとなる。
【0108】
(b)
次にITO上の電子ドロップ上の電子ドロップの影響が大きい場合を検討する。
(b−1)
この検討においてまずITOの抵抗が問題にならないグリッド間隔を検討する。
DSCの基本サイズを1cm四方とした場合において、ITO表面で光励起した電子をグリッドまでドロップさせずに伝達するのに必要なグリッド間抵抗よりグリッド間隔を算出する。但し基本構成は先の場合と同様、PEN/Ni7.5Ti/ITOであるものとする(各層の厚みも同様である)。
【0109】
r:グリッド間抵抗
ρITO:ITO比抵抗5E−4Ω・cm
lg:グリッド間距離(隣接するグリッド間の距離)
SITO:ITO断面積
とした場合において
r=ρITO×(lg/2)/SITO
を満足させるものを検討する。
【0110】
「ケースb1−1」グリッド間抵抗の最大値を3Ω以下とした場合のlgは1.4mmである。
「ケースb1−2」グリッド間抵抗の最大値を5Ω以下とした場合のlgは2.4mmである。
「ケースb1−3」グリッド間抵抗の最大値を10Ω以下とした場合のlgは4.8mmである。
【0111】
(b−2) 次に第1導電層であるグリッドの電気抵抗が問題にならないグリッド幅を検討する。
これはグリッドによる集電効果を向上させるために、各グリッドの電気抵抗値がITO膜抵抗よりも小さくなる必要があるからである。電極間距離に応じて、必要なグリッド幅を算出する。積層構成についてはここでも前記同様であるものとする。
【0112】
RITO:ITO抵抗
ρITO:ITO比抵抗5E−4Ω・cm
L:電極間の距離
SITO:ITO断面積
とした場合において
RITO=ρITO×(L/SITO)とする。
また
rg:グリッド抵抗
ρg:グリッド比抵抗65E−6Ω・cm
L:電極間の距離
Sg:グリッド断面積
w:グリッド幅
とした場合において
rg=ρg×(L/Sg)とする。
【0113】
「ケースb2−1」DSC1cm四方とした場合の必要なグリッド幅は
w>1.9mmとなるので、ここではw=2.0mmとする。
「ケースb2−2」DSC3cm四方とした場合の必要なグリッド幅は
w>5.7mmとなるので、ここではw=5.8mmとする。
【0114】
ここでケースb2−2について言及すると、発明者のシミュレートによる変換効率に有効なグリッド幅の上限は3mmである。つまりこれを超えると全体の透光率に問題が生じることが経験的に判明しているからである。即ち上記ケース2の場合、理論的にはグリッド幅は最低でも5.8mm必要となるが、実際の上限を遙かに超えているから、結果としてDSCを3cm四方とすることは出来ないといえる。
【0115】
(b−3)
b−1及びb−2の各ケースを統合して検討することにより、グリッド集電効果を確実に向上させるための値を算出する。
【0116】
「ケースb3−1」DSC1cm四方であって、グリッドの幅が2.0mmであり、間隔が1.4mmである場合、シミュレートを行った結果全光線透過率は34%、面抵抗は11Ω/□となる。
「ケースb3−2」DSC1cm四方であって、グリッドの幅が2.0mmであり、間隔が2.4mmである場合、シミュレートを行った結果全光線透過率は45%、面抵抗は14Ω/□となる。
「ケースb3−3」DSC1cm四方であって、グリッドの幅が2.0mmであり、間隔が4.8mmである場合、シミュレートを行った結果全光線透過率は59%、面抵抗は18Ω/□となる。
【0117】
(b−4)
次に仮想モジュール化による理想グリッド形状の検討をする。
前述(b3−3)のグリッド形状を更にモジュール化して大面積化をはかる。
モジュールの大きさは仮に8cm四方以内に収まるものを想定する。
より具体的には、1cm×6cmの仮想セルを設定し、これを連続して設置することにより仮想セルをあたかもモジュールグリッドを介して接続されてなるかのように配置することを考える。また仮想セルの内部には、外部端子に電子を放出するためのモジュールグリッドへとITOから生じた電子を放出するための集電グリッドを設けることとする。
これは、ケースb3−3を基に計算された大きさであり、即ち、グリッド間隔が4.8mm、グリッド幅が2.0mmであるので、DSCを9枚並べると、端から端までの長さが59.2mmとなることより、簡略化して60mm=6cmの長さの仮想セルを設定したものである。
【0118】
「ケース1」(図1参照)
集電グリッドを電極方向に設置することを考える。
単位DSCは1cm×6cmであるものとする。
・ 仮想セルは1cm×6cmである。
ITOの厚みは120nmである。
RITO:ITO抵抗=43Ω/□である。
・ Ni7.5Tiによる集電グリッドの厚みは80nmである。
これをストライプ形状に設けた場合 L/S=2.0/4.8mmである。
尚、光線透過率=59%、面抵抗は18Ω/□、となる。
次に上記単位DSCの周囲をモジュールグリッドで包囲することを考える。
・ Rline=ρg×l(w×t)<RITO
65E−6×6/(w×800E−8)<43
w>1.13cm
となるので、単位DSCの周囲は簡略化して1.2cm幅のモジュールグリッドで包囲すると、集電効率の高い太陽電池モジュールとすることが出来ることが判る。
【0119】
「ケース2」(図2照)
集電グリッドを電極方向に垂直に設置することを考える。
単位DSCは1cm×6cmであるものとする。
・ 仮想セルは1cm×6cmである。
ITOの厚みは120nmである。
RITO:ITO抵抗=43Ω/□である。
・ Ni7.5Tiによる集電グリッドの厚みは80nmである。
これをストライプ形状に設けた場合 L/S=2.0/4.8mmである。
尚、光線透過率=59%、面抵抗は18Ω/□、となる。
次に上記単位DSCの周囲をモジュールグリッドで包囲することを考える。
・ Rline=ρg×l(w×t)<RITO
65E−6×6/(w×800E−8)<43
w>1.13cm
となるので、単位DSCの周囲は簡略化して1.2cm幅のモジュールグリッドで包囲すると、集電効率の高い太陽電池モジュールとすることが出来ることが判る。
【0120】
以上の考察に従って実際に太陽電池モジュール用の電極となし、これを用いて仮想太陽電池モジュールを形成することが出来るので、その結果、従来に比して非常に簡潔かつ容易に、大幅なコストダウンを伴って太陽電池モジュールを得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】本願発明にかかる実施の形態の一例である。
【図2】本願発明にかかるその他の実施の形態の例である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、
高分子樹脂よりなる透明基材フィルムと、
前記透明基材フィルムの表面に第1導電性物質をグリッド状に積層してなる第1導電層と、
前記透明基材フィルム表面の前記第1導電層及び前記第1導電層が積層されていない部分の表面に第2導電性物質を積層してなる第2導電層と、
をこの順に積層してなる透明導電性フィルムであって、
前記第2導電性物質の電気抵抗値よりも前記第1導電性物質の電気抵抗値の方が低く、
前記透明導電性フィルムの全光線透過率が30%以上であり、かつ抵抗値が30Ω/□以下であること、
を特徴とする、透明導電性フィルム。
【請求項2】
少なくとも、
高分子樹脂よりなる透明基材フィルムと、
前記透明基材フィルムの表面に第2導電性物質を積層してなる第2導電層と、
前記第2導電層の表面に第1導電性物質をグリッド状に積層してなる第1導電層と、
をこの順に積層してなる透明導電性フィルムであって、
前記第2導電性物質の電気抵抗値よりも前記第1導電性物質の電気抵抗値の方が低く、
前記透明導電性フィルムの全光線透過率が30%以上であり、かつ抵抗値が30Ω/□以下であること、
を特徴とする、透明導電性フィルム。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の透明導電性フィルムであって、
前記第1導電性物質が形成するグリッド線が、
前記第2導電性物質より生じる電子を集積するための集電グリッドと、
前記集電グリッドに集積された前記電子をさらに集積して前記透明導電性フィルムに接続された外部端子へと放出するためのモジュールグリッドと、
の2種類よりなり、
かつ前記集電グリッドの略平面視幅よりも前記モジュールグリッドの略平面視幅の方が広いこと、
を特徴とする、透明導電性フィルム。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の透明導電性フィルムであって、
前記第1導電性物質がニッケル、チタン、アルミニウム、プラチナ、イリジウム、タンタル、タングステン、モリブデン、ニオブ、クロム、ステンレス鋼、金、銀、銅、アルミニウム、インジウム、又はスズの何れか、またはこれらの何れか若しくは複数を用いた合金であること、
を特徴とする、透明導電性フィルム。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4の何れか1項に記載の透明導電性フィルムであって、
前記第2導電性物質が、スズ−酸化インジウム(ITO)、酸化亜鉛、アルミニウムがドーピングされた酸化亜鉛(AZO)、ガリウムがドーピングされた酸化亜鉛(GZO)、酸化ニオブ、酸化チタン、又は酸化スズの何れか若しくは複数であること、
を特徴とする、透明導電性フィルム。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5の何れか1項に記載の透明導電性フィルムであって、
前記透明導電性フィルムの最表面に特定機能を備えた特定機能層が積層されてなること、
を特徴とする、透明導電性フィルム。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6の何れか1項に記載の透明導電性フィルムであって、
前記第1導電層の表面に、酸化防止層が積層されてなること、
を特徴とする、透明導電性フィルム。
【請求項8】
高分子樹脂よりなる透明基材フィルムの表面に、
水溶性塗料による水溶性塗料層を前記透明基材フィルム表面の所望の箇所に積層する水溶性塗料層積層工程と、
前記水溶性塗料層積層工程を終えた、前記水溶性塗料層を積層した部分及び積層していない部分の両方の表面に対して一律に、第1導電性物質を積層してなる第1導電層積層工程と、
前記第1導電層積層工程を経て得られた積層体を水洗してなる水洗工程と、
前記水洗工程を経て得られた積層体の表面全体に対し、第2導電性物質を積層してなる第2導電層積層工程と、
をこの順に実行してなる透明導電性フィルムの製造方法であって、
前記水洗工程を経て得られた積層体が、前記透明基材フィルムの表面に前記第1導電性物質が第1導電層としてグリッド状に残存してなり、
前記第2導電性物質の電気抵抗値よりも前記第1導電性物質の電気抵抗値の方が低く、
前記製造方法により得られる透明導電性フィルムの全光線透過率が30%以上であり、かつ抵抗値が30Ω/□以下であること、
を特徴とする、透明導電性フィルムの製造方法。
【請求項9】
高分子樹脂よりなる透明基材フィルムの表面に、
第2導電性物質を積層してなる第2導電層積層工程と、
水溶性塗料による水溶性塗料層を、前記第2導電層積層工程により形成された第2導電層の表面の所望の箇所に積層する水溶性塗料層積層工程と、
前記水溶性塗料層積層工程を終えた、前記水溶性塗料層を積層した部分及び積層していない部分の両方の表面に対して一律に、第1導電性物質を積層してなる第1導電層積層工程と、
前記第1導電層積層工程を経て得られた積層体を水洗してなる水洗工程と、
をこの順に実行してなる透明導電性フィルムの製造方法であって、
前記水洗工程を経て得られた積層体が、前記透明基材フィルムの表面に前記第1導電性物質が第1導電層としてグリッド状に残存してなり、
前記第2導電性物質の電気抵抗値よりも前記第1導電性物質の電気抵抗値の方が低く、
前記製造方法により得られる透明導電性フィルムの全光線透過率が30%以上であり、かつ抵抗値が30/□以下であること、
を特徴とする、透明導電性フィルムの製造方法。
【請求項10】
請求項8又は請求項9に記載の透明導電性フィルムの製造方法であって、
前記第1導電性物質が形成するグリッド線が、
前記第2導電性物質より生じる電子を集積するための集電グリッドと、
前記集電グリッドに集積された前記電子をさらに集積して前記透明導電性フィルムに接続された外部端子へと放出するためのモジュールグリッドと、
の2種類よりなり、
かつ前記集電グリッドの略平面視幅よりも前記モジュールグリッドの略平面視幅の方が広いこと、
を特徴とする、透明導電性フィルムの製造方法。
【請求項11】
請求項8ないし請求項10の何れか1項に記載の透明導電性フィルムの製造方法であって、
前記第1導電性物質がニッケル、チタン、アルミニウム、プラチナ、イリジウム、タンタル、タングステン、モリブデン、ニオブ、クロム、ステンレス鋼、金、銀、銅、アルミニウム、インジウム、又はスズの何れか、またはこれらの何れか若しくは複数を用いた合金であること、
を特徴とする、透明導電性フィルムの製造方法。
【請求項12】
請求項8ないし請求項11の何れか1項に記載の透明導電性フィルムの製造方法であって、
前記第2導電性物質が、スズ−酸化インジウム(ITO)、酸化亜鉛、アルミニウムがドーピングされた酸化亜鉛(AZO)、ガリウムがドーピングされた酸化亜鉛(GZO)、酸化ニオブ、酸化チタン、又は酸化スズの何れか若しくは複数であること、
を特徴とする、透明導電性フィルムの製造方法。
【請求項13】
請求項8ないし請求項12の何れか1項に記載の透明導電性フィルムの製造方法であって、
前記透明導電性フィルムの最表面に特定機能を備えた特定機能層が積層されてなる特定機能層積層工程が実行されてなること、
を特徴とする、透明導電性フィルムの製造方法。
【請求項14】
請求項8ないし請求項13の何れか1項に記載の透明導電性フィルムの製造方法であって、
前記第1導電層の表面に、酸化防止層が積層されてなる酸化防止層積層工程が実行されてなること、
を特徴とする、透明導電性フィルムの製造方法。
【請求項15】
請求項1ないし請求項7の何れか1項に記載の透明導電性フィルム、若しくは請求項8ないし請求項14の何れか1項に記載の透明導電性フィルムの製造方法により得られた透明導電性フィルム、をその透明電極として用いてなること、
を特徴とする、太陽電池。
【請求項16】
請求項1ないし請求項7の何れか1項に記載の透明導電性フィルム、若しくは請求項8ないし請求項14の何れか1項に記載の透明導電性フィルムの製造方法により得られた透明導電性フィルム、を用いてなること、
を特徴とする、光電極。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−277233(P2008−277233A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−188074(P2007−188074)
【出願日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【出願人】(000235783)尾池工業株式会社 (97)
【Fターム(参考)】