説明

透明導電性膜積層体の製造方法

【課題】 高温での加熱処理や大掛かりな設備を必要とせずに、プラスチック基板上に電気伝導性に優れた透明導電性膜を形成する方法を提供する。
【解決手段】 透明導電性膜積層体の製造方法は、a)基材上に、ポリアミド酸溶液を塗布・乾燥し、ポリアミド酸層を形成する工程、b)銀イオンをポリアミド酸層に付着させる工程、c)銀イオンを還元して金属銀を析出させる工程、d)湿式めっき法により、金属銀を触媒核として、前記ポリアミド酸層の表面に酸化亜鉛を含む透明導電性膜を形成する工程、e)透明導電性膜が形成されたポリアミド酸層を加熱してイミド化する工程、および、f)前記ポリイミド樹脂層を前記基材から剥離する工程、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電性膜積層体の製造方法に関し、詳しくは、各種の電子部品において電極や回路配線などの用途で用いられる透明導電性膜積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基板上に透明導電性膜を積層してなる透明導電性膜積層体は、例えば液晶パネル、タッチパネル、エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイなどに用いられている。従来、透明導電性膜としては、錫添加酸化インジウム(ITO)が最も用いられており、ガラス基板上にスパッタリング、CVD、蒸着等の方法でITO膜を形成して透明導電性膜積層体が作製されている。
【0003】
透明導電性膜積層体には、薄く、軽量で、成形加工性に優れる基板を用いることが求められており、プラスチック基板に透明導電性膜を積層したものの開発が進められている。しかし、スパッタリング等の方法でITO膜を基板上に形成するためには、真空装置や加熱装置、ガス供給装置などの大掛かりな設備が必要である。
【0004】
そこで、特許文献1では、硝酸亜鉛とジメチルアミンボランを用いた湿式めっき法(化学析出法)により非導電性基板上に酸化亜鉛皮膜を形成する方法が提案されている。また、特許文献2では、特許文献1と同様の湿式めっき法を利用して真空成膜装置を使用せずに低コストで大面積のガラス基板に電気配線を形成する方法が提案されている。
【0005】
しかし、特許文献1の湿式めっき法では、十分な電気伝導性を有する酸化亜鉛皮膜が得られにくいという欠点があった。その欠点を改善するため、特許文献3では、酸化亜鉛皮膜を形成した後に500℃の高温で加熱処理(焼結)を施すことによって、良好な電気伝導性と透明性を兼ね備えた酸化亜鉛皮膜を得ることが提案されている。しかし、特許文献3では、耐熱性のガラス基板を用いる透明導電性膜積層体を対象としており、プラスチック基板を用いる透明導電性膜積層体への適用可能性は確認されていない。プラスチック基板を用いる場合には、基板の温度をあまり高くすることができないため、特許文献3の技術をそのまま適用することは困難である。このように、プラスチックを使用する透明導電性膜積層体において、高温での加熱処理を極力避けて電気伝導性に優れた酸化亜鉛皮膜を形成する技術は未だ提案されていない。
【0006】
また、透明導電性膜積層体では、プラスチック基板と透明導電性膜との密着性が高いことも重要である。特許文献2では、湿式めっき法で得られる酸化亜鉛皮膜の表面に凹凸が形成されることによって酸化亜鉛皮膜とその上層のめっき皮膜との密着性が高まることが記載されているが、酸化亜鉛皮膜と基板との密着性については考慮されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−278437号公報
【特許文献2】特開2001−32086号公報
【特許文献3】特開2001−11642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、高温での加熱処理や大掛かりな設備を必要とせずに、フレキシブルなプラスチック基板上に電気伝導性に優れた透明導電性膜を形成する方法を提供することであり、さらに、透明導電性膜とプラスチック基板との密着信頼性に優れた透明導電性膜積層体を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の透明導電性膜積層体の製造方法は、ポリイミド樹脂層の上に透明導電性膜を積層形成してなる透明導電性膜積層体の製造方法であって、
a)基材上に、ポリアミド酸溶液を塗布して乾燥させ、ポリアミド酸層を形成する工程、
b)前記ポリアミド酸層に銀イオンを含有する溶液を含浸させることによって銀イオンを前記ポリアミド酸層に付着させる工程、
c)前記ポリアミド酸層に付着した銀イオンを還元して金属銀を析出させる工程、
d)前記ポリアミド酸層に、還元剤、硝酸イオンおよび亜鉛イオンを含有するめっき液を接触させ、前記金属銀を触媒核として、前記ポリアミド酸層の表面に酸化亜鉛を含む透明導電性膜を形成する工程、
e)前記透明導電性膜が形成されたポリアミド酸層を加熱してイミド化しポリイミド樹脂層を形成する工程、および、
工程f)前記ポリイミド樹脂層を前記基材から剥離する工程、
を備えている。
【0010】
本発明の透明導電性膜積層体の製造方法において、前記工程c)の後、工程d)の前に、工程g)前記ポリアミド酸層を酸処理して残留した銀イオンを除去する工程、を含むことが好ましい。
【0011】
本発明の透明導電性膜積層体の製造方法において、前記工程c)では、湿式還元法または光還元法により金属銀を析出させることが好ましい。また、前記工程c)でフォトマスクを用いて光還元を行うことにより金属銀を所定のパターンで析出させ、該パターンに基づき前記工程d)で透明導電性膜をパターン状に形成することが好ましい。
【0012】
本発明の透明導電性膜積層体の製造方法は、前記工程a)では、前記基材上に5〜50μmの範囲内の厚さでポリアミド酸層を形成することが好ましい。この場合、前記工程a)では、前記基材上に異なる種類のポリアミド酸からなる2層以上のポリアミド酸層を積層形成することによって、前記工程e)において少なくとも前記金属銀が析出している側に、熱可塑性のポリイミド樹脂層を形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の透明導電性膜積層体の製造方法によれば、キャスト法によってポリアミド酸層を形成するとともにダイレクトメタライゼーション法と湿式めっき法を組み合わせることによって、大掛かりな設備や高温での焼結工程を必要とせずに、ポリイミド樹脂層上に電気伝導性に優れた酸化亜鉛皮膜を形成することができる。すなわち、任意の基材上にポリイミド樹脂の前駆体であるポリアミド酸を塗布してポリアミド酸層を形成した後、そこに銀イオンを付着させ、これを還元して触媒核とし、湿式めっき法によって酸化亜鉛皮膜を形成することによって、緻密で電気伝導性に優れた透明導電性膜を形成できる。また、このようにして得られた透明導電性膜積層体は、適度なフレキシビリティーを持ち、ポリイミド樹脂層と酸化亜鉛皮膜との密着性が高いものである。従って、本発明方法によって得られる透明導電性膜積層体を使用して配線や電極を形成した電子部品に、高い信頼性を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施の形態の透明導電性膜積層体の製造工程を示す工程図である。
【図2】銀イオンを還元する工程の別の工程例を示す工程図である。
【図3】積層形成されたポリイミド樹脂層の構成例を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。本発明の透明導電性膜積層体の製造方法は、以下の工程a〜fを備えており、さらに必要に応じ、工程g等の任意の工程を備えることができる。本発明の製造方法で製造される透明導電性膜積層体は、ポリイミド樹脂層の上に、透明導電性膜を積層形成してなるものである。透明導電性膜は、必要に応じてパターン形成してもよい。
【0016】
工程a)基材上に、ポリアミド酸溶液を塗布して乾燥させ、ポリアミド酸層を形成する工程:
<基材>
本発明で用いられる基材は、ポリイミド樹脂層の形成をキャスト法によって行う際に、ポリアミド酸溶液が塗布される対象となり、ポリアミド酸溶液を展延する際の支持体として機能する。
【0017】
基材は、ポリアミド酸をイミド化する際の加熱に耐え得るものであれば、その材質は問われない。この場合、基材の材質としては、例えば金属、合成樹脂、ガラス、セラミックスなどを挙げることができる。金属としては、例えば、銅箔、ステンレス箔、鉄箔、ニッケル箔、ベリリウム箔、アルミニウム箔、亜鉛箔、インジウム箔、銀箔、金箔、スズ箔、ジルコニウム箔、タンタル箔、チタン箔、鉛箔、マグネシウム箔、マンガン箔及びこれらの合金箔が挙げられる。この中でも、特に銅箔又は銅合金は、ポリアミド酸溶液の塗布工程、乾燥・熱処理工程及び剥離工程における操作性のバランスがよいので好ましい。また、合成樹脂としては、例えば、ポリイミドフィルム、ポリアミドフィルム、ポリエチレンナフタレート、ポリベンゾオキサゾール、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリアリレート、シロキサン樹脂などを挙げることができる。この場合、剛性面を考慮すると、基材の厚みは、5μm〜50μmの範囲内とすることが可能であり、7〜35μmの範囲内とすることが好ましく、10〜25μmの範囲内とすることがより好ましい。そのような基材としては、例えばカットシート状、ロール状のもの、又はエンドレスベルト状などの形状で使用できる。生産性を得るためには、ロール状又はエンドレスベルト状の形態とし、連続生産可能な形式とすることが効率的である。
【0018】
また、基材からポリイミド樹脂層を剥離する場合、ポリイミド樹脂層の剥離性を良好なものにするため、ポリイミド樹脂層と接する面側の基材の表面粗度Rzは1.0μm以下が好ましく、0.3〜0.8μmの範囲内がより好ましい。このような範囲のものを使用することで、剥離後におけるポリイミド樹脂層の外観を良好にすることができる。なお、表面粗度RzはJIS B 0601に準じて測定される。また、基材とポリイミド樹脂層との剥離性を高めるために、基材の表面を離型剤等で処理しておくことができる。
【0019】
<ポリアミド酸/ポリイミド樹脂>
本発明で使用するポリアミド酸は、ポリイミド樹脂の前駆体であるため、まずポリイミド樹脂について説明する。本発明におけるポリイミド樹脂としては、例えばポリイミド、ポリアミドイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリイミドエステル、ポリエーテルイミド、ポリシロキサンイミド等の構造中にイミド基を有するポリマーからなる耐熱性樹脂を挙げることができる。本発明では、透明または無色を呈するポリイミド樹脂として、分子内、分子間の電荷移動(CT)錯体を形成しにくいもの、例えば嵩高い立体構造の置換基を有する芳香族ポリイミド樹脂、脂環式ポリイミド樹脂、フッ素系ポリイミド樹脂、ケイ素系ポリイミド樹脂等を用いることが好ましい。これらのポリイミド樹脂は、ジアミンと、酸無水物とを反応させて製造される。従って、ジアミンと酸無水物を説明することによりポリイミド樹脂の具体例が理解される。
【0020】
上記の嵩高い立体構造の置換基としては、例えばフルオレン骨格やアダマンタン骨格などが挙げられる。このような嵩高い立体構造の置換基は、芳香族ポリイミド樹脂における無水物の残基又はジアミンの残基のいずれか一方に置換しているか、あるいは無水物の残基及びジアミンの残基の両方に置換していてもよい。嵩高い立体構造の置換基を有するジアミンとしては、例えば9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレンなどを挙げることができる。
【0021】
脂環式ポリイミド樹脂とは、脂環式酸無水物および脂環式ジアミンを重合して形成される樹脂である。また、脂環式ポリイミド樹脂は、芳香族ポリイミド樹脂を水素化することによっても得られる。
【0022】
フッ素系ポリイミド樹脂は、例えばアルキル基、フェニル基等の炭素に結合する一価元素をフッ素、ペルフルオロアルキル基、ペルフルオロアリール基、ペルフルオロアルコキシ基、ペルフルオロフェノキシ基等に置換した酸無水物および/またはジアミンを重合して形成される樹脂である。フッ素原子は、一価元素全部もしくは一部が置換したものいずれも用いることができるが、50%以上の一価元素がフッ素原子に置換したものが好ましい。
【0023】
ケイ素系ポリイミド樹脂とは、ケイ素系ジアミンと酸無水物を重合してから得られる樹脂である。
【0024】
このような透明ポリイミド樹脂は、例えば10μmの厚さにおいて、波長400nmでの光透過率が80%以上であり、可視光平均透過率が90%以上であることが好ましい。
【0025】
上記ポリイミド樹脂の中でも、特に透明性に優れたフッ素系ポリイミド樹脂が好ましい。フッ素系ポリイミド樹脂としては、一般式(1)で現される構造単位を有するポリイミド樹脂を用いることができる。ここで、一般式(1)中、Arは式(2)、式(3)または式(4)で表される4価の芳香族基を示し、Arは式(5)、式(6)、式(7)または式(8)で表される2価の芳香族基を示し、pは構成単位の繰り返し数を意味する。
【0026】
【化1】

【0027】
また、Rは、独立にフッ素原子またはパーフルオロアルキル基を示し、Yは下記構造式で表される2価の基を示し、Rはパーフルオロアルキレン基を示し、nは1〜19の数を意味する。
【0028】
【化2】

【0029】
上記一般式(1)において、Arはジアミンの残基ということができ、Arは酸無水物の残基ということができるので、好ましいフッ素系ポリイミド樹脂を、ジアミンと、酸無水物若しくはこれと同等に利用可能なテトラカルボン酸、酸塩化物、エステル化物等(以下、「酸無水物等」と記す)とを挙げて説明する。しかし、フッ素系ポリイミド樹脂は、ここで説明するジアミンと酸無水物等とから得られるものに限定されることはない。
【0030】
ジアミンとしては、分子内のアミノ基を除くアルキル基、フェニル環等の炭素に結合するすべての1価元素をフッ素またはパーフルオロアルキル基としたものであれば、どのようなものでもよく、例えば、3,4,5,6,−テトラフルオロ−1,2−フェニレンジアミン、2,4,5,6−テトラフルオロ−1,3−フェニレンジアミン、2,3,5,6−テトラフルオロ−1,4−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノオクタフルオロビフェニル、ビス(2,3,5,6−テトラフルオロ−4−アミノフェニル)エーテル、ビス(2,3,5,6−テトラフルオロ−4−アミノフェニル)スルフォン、ヘキサフルオロ−2,2’−ビストリフルオロメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル等を挙げることができる。
【0031】
酸無水物等としては、例えば、1,4−ジフルオロピロメリット酸、1−トリフルオロメチル−4−フルオロピロメリット酸、1,4−ジ(トリフルオロメチル)ピロメリット酸、1,4−ジ(ペンタフルオロエチル)ピロメリット酸、ヘキサフルオロ−3,3’,4,4’−ビスフェニルテトラカルボン酸、ヘキサフルオロ−3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシトリフルオロフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,3−ビス(3,4’−ジカルボキシトリフルオロフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシトリフルオロフェノキシ)テトラフルオロベンゼン、ヘキサフルオロ−3,3’,4,4’−オキシビスフタル酸等が挙げられる。
【0032】
上記各種のポリイミド樹脂を製造する場合、ジアミンと酸無水物等との反応は、有機溶媒中で行わせることが好ましい。このような有機溶媒としては特に限定されないが、具体的には、例えばジメチルスルフォキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ヘキサメチルホスホルムアミド、フェノール、クレゾール、γ−ブチロラクトン等が挙げられ、これらは単独で又は混合して用いることができる。また、このような有機溶媒の使用量としては特に制限されるものではないが、重合反応よって得られるポリイミド樹脂の前駆体であるポリアミド酸(ポリアミック酸)溶液の濃度が、5〜30重量%程度の範囲内になるように調整して用いることが好ましい。
【0033】
合成されたポリアミド酸は溶液として使用される。通常、反応溶媒溶液として使用することが有利であるが、必要により濃縮、希釈又は他の有機溶媒に置換することができる。また、ポリアミド酸は一般に溶媒可溶性に優れるので、有利に使用される。
【0034】
基材上にポリイミド樹脂層を形成するには、ポリアミド酸溶液を基材の上に直接塗布した後に乾燥すればよい。ポリアミド酸溶液を基材に塗布する方法は特に制限されず、例えばコンマ、ダイ、ナイフ、リップ等のコーターにて塗布することが可能である。
【0035】
ポリアミド酸層は、後に行われる工程である銀イオンを含有する溶液の含浸と、さらにその後の金属銀の析出に直接関与するので、乾燥においては、ポリアミド酸の脱水閉環の進行によるイミド化を完結させないように温度を制御する。乾燥させる方法としては、特に制限されず、例えば、60〜200℃の範囲内の温度条件で1〜60分の範囲内の時間をかけて乾燥を行うことがよいが、好ましくは、60〜150℃の範囲内の温度条件で乾燥を行うことがよい。ポリアミド酸の状態を残すことは、銀イオンを含有する水溶液を含浸させるために必要である。乾燥後のポリアミド酸層はポリアミド酸の構造の一部がイミド化していても差し支えないが、イミド化率は50%以下、より好ましくは20%以下としてポリアミド酸の構造を50%以上残すことが好ましい。なお、ポリアミド酸のイミド化率は、フーリエ変換赤外分光光度計(市販品:日本分光製FT/IR620)を用い、透過法にてポリイミド薄膜の赤外線吸収スペクトルを測定することによって、1,000cm−1のベンゼン環炭素水素結合を基準とし、1,710cm−1のイミド基由来の吸光度から算出される。
【0036】
透明導電性膜積層体のポリイミド樹脂層は、単層のポリイミド樹脂層から形成されるものでも、複数層からなるものでもよい。ポリイミド樹脂層を複数層とする場合、異なる構成成分からなるポリアミド酸の層の上に他のポリアミド酸を順次塗布して形成することができる。ポリアミド酸の層が3層以上からなる場合、同一の構成のポリアミド酸を2回以上使用してもよい。
【0037】
透明導電性膜積層体のポリイミド樹脂層が単一層のポリイミド樹脂で構成される場合には、低熱膨張性のポリイミド樹脂が好適に利用できる。具体的には、線熱膨張係数(CTE)が1×10−6〜30×10−6(1/K)の範囲内、好ましくは1×10−6 〜25×10−6(1/K)の範囲内、より好ましくは15×10−6〜25×10−6(1/K)の範囲内である低熱膨張性のポリイミド樹脂である。このようなポリイミド樹脂を用いると、透明導電性膜積層体としての反りを抑制できるので有利である。しかし、上記線熱膨張係数を超えるポリイミド樹脂も使用可能であり、その場合には透明導電性膜との密着性を向上させることができる。
【0038】
ポリアミド酸層を複数層とする場合、少なくとも、金属銀析出層(後述)に接するポリイミド樹脂層が熱可塑性のポリイミド樹脂層となるようにポリアミド酸層を形成することが好ましい。熱可塑性のポリイミド樹脂を用いることで、金属銀析出層との密着性を向上させることができる。このような熱可塑性のポリイミド樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が350℃以下であるものが好ましく、200〜320℃がより好ましい。
【0039】
キャスト法を採用してポリアミド酸を塗布する本発明方法では、ポリアミド酸層の厚みを自由に調節することが可能である。ポリアミド酸層の厚み(乾燥後)は、ポリイミド樹脂層を基材から剥離した後に十分な自己支持性が保てるように、例えば5〜50μmの範囲内とすることが好ましく、10〜30μmの範囲内とすることがより好ましい。
【0040】
ポリアミド酸層を上記厚みに形成することによって、銀イオン含浸工程(後述)において銀イオンの含浸量を十分に確保できる。その結果、金属銀析出工程(後述)における銀析出層を、導通が可能な膜状に形成することも可能となる。
【0041】
透明ポリイミド樹脂層を形成するためのポリアミド酸溶液としては、市販品も好適に使用可能であり、例えばフッ素系のポリアミド酸溶液としては、ルクスビア(NTT AT社製)等が挙げられる。
【0042】
工程b)ポリアミド酸層に銀イオンを含有する溶液を含浸させることによって、銀イオンをポリアミド酸層に付着させる工程:
本発明方法では、銀イオンをポリアミド酸層に付着させる。ここでは、銀イオンがイオン交換反応によってポリアミド酸のカルボキシル基に結合して銀錯体を形成する。本発明において、多くの金属イオンの中から、特に銀イオンを用いる理由は、銀イオンを還元して得られる金属銀を触媒核として得られる酸化亜鉛皮膜が、焼結を施さなくとも電気伝導性に優れるものとなることにある。すなわち、金属銀を触媒核として形成される酸化亜鉛皮膜は、ZnとOとが化学量論的に等しくない状態にあるため、高い電気伝導性を備えることができるものと考えられる。一方、銀以外の金属、例えばパラジウム、鉄、コバルト、ニッケル等を触媒核として形成される酸化亜鉛膜は、ZnとOとが化学量論的に等しい状態にあるため、電気伝導性に乏しい傾向になると考えられる。また、銀イオンは、還元されやすく、紫外線を用いる光還元法でも効率良く金属銀を析出することができる。また、金属銀は波長400nm付近での光吸収がないことから、透明性という観点で、光学的に有利に利用可能となる。
【0043】
銀イオンを含有する溶液としては、例えば、硝酸銀水溶液、塩化銀水溶液、臭化銀水溶液、ヨウ化銀水溶液、酢酸銀水溶液などの銀化合物の水溶液が挙げられるが、銀化合物の水に対する溶解性の観点から、硝酸銀水溶液、酢酸銀水溶液が好ましい。
【0044】
工程bで用いる銀イオン含有溶液中には、銀化合物を1〜1000mMの範囲内で含有することが好ましく、5〜300mMの範囲内で含有することがより好ましい。銀化合物の濃度が1mM未満では、銀イオンをポリアミド酸層中に含浸させるための時間がかかり過ぎるので好ましくなく、1000mM超では、銀化合物の水への溶解が困難になる。
【0045】
銀イオン溶液は、銀化合物のほかに、例えば緩衝液などのpH調整を目的とする成分を含有することができる。
【0046】
含浸方法は、ポリアミド酸層の表面に銀イオン溶液が接触することができる方法であれば、特に限定されず、公知の方法を利用することができる。例えば、浸漬法、スプレー法、刷毛塗りあるいは印刷法等を用いることができる。含浸の温度は0〜100℃、好ましくは20〜40℃付近の常温でよい。また、含浸時間は、浸漬法を適用する場合、例えば30秒〜1時間が好ましく、1分〜30分がより好ましい。浸漬時間が30秒より短い場合には、ポリアミド酸層への銀イオンの含浸が不十分になって、酸化亜鉛の薄膜を均一に形成することが困難となり、また、後述するアンカー効果が十分に得られない。一方、浸漬時間が1時間を越えても、銀イオンのポリアミド酸層への含浸の程度は、ほぼ横ばいになっていく傾向になる。
【0047】
含浸後、ポリアミド酸層を乾燥する。乾燥方法は、特に限定されず、例えば自然乾燥、エアガンによる吹きつけ乾燥、あるいはオーブンによる乾燥等を用いることができる。乾燥条件は、10〜150℃で5秒〜60分間、好ましくは25〜150℃で10秒〜30分間、更に好ましくは30〜120℃で、1分〜10分間である。
【0048】
工程c)前記ポリアミド酸層に付着した銀イオンを還元して金属銀を析出させる工程:
銀イオンを還元処理する方法は、特に限定されないが、湿式還元法または光還元法を利用することが有利である。他の還元方法としては、水素による加熱還元などの気相還元が挙げられるが、電気特性及び安全性の観点から好ましくない。気相還元を利用した場合、銀イオンはポリアミド酸層の表層部に拡散することが抑制され、ポリアミド酸層の内部で拡散しながら還元が進行し、その結果、ポリアミド酸層の内部で銀ナノコンポジットが形成されるので、透明導電性膜積層体の電気特性が低下する懸念がある。
【0049】
湿式還元法は、銀イオンが含浸したポリアミド酸層(銀イオン含有ポリアミド酸層)を、還元剤を含有する溶液(還元剤溶液)中に浸漬することにより、銀イオンを還元する方法である。この湿式還元法では、銀イオン含有ポリアミド酸層の内部に存在する銀イオンが、その場所で還元されて金属として析出してしまうことを抑制しながら、ポリアミド酸層の表層部で優勢的に金属銀の析出を行わせることができる効果的な方法である。また、湿式還元法では、金属銀の析出のムラが少なく、短時間で均一な金属銀析出層を形成することが可能である。
【0050】
なお、本発明方法では、ポリアミド酸の溶液を塗布することによってポリアミド酸層を形成するため、銀イオン含有ポリアミド酸層の厚みを十分に確保することが容易である。
【0051】
湿式還元法における還元剤としては、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、ジメチルアミンボラン、トリメチルアミンボラン等のボラン系化合物が好ましく挙げられ、ポリアミド酸の耐薬品性の観点から、ジメチルアミンボラン、トリメチルアミンボラン等のアミンボラン化合物がより好ましい。これらのホウ素化合物は水溶液にして用いることが好ましいが、例えば次亜燐酸ナトリウム、ホルマリン、ヒドラジン類等の溶液(還元剤溶液)にして用いることもできる。還元剤溶液中のホウ素化合物の濃度は、例えば0.001〜0.5mol/Lの範囲内が好ましく、0.003〜0.1mol/Lの範囲内がより好ましい。還元剤溶液中のホウ素化合物の濃度が0.001mol/L未満では、ポリアミド酸層の表面での金属銀の析出が不十分となることがあり、0.5mol/Lを超えると銀イオンの還元速度が早くなるために、還元して析出した金属銀が連続した又はアイランド状の薄膜の状態になり、酸化亜鉛皮膜の光透過性を低下させる傾向になる。
【0052】
また、湿式還元処理では、銀イオン含有のポリアミド酸層を、10〜90℃の範囲内、好ましくは30〜70℃の範囲内の温度の還元剤溶液中に、20秒〜30分、好ましくは30秒〜20分、更に好ましくは1分〜10分の時間で浸漬する。浸漬によって、銀イオン含有ポリアミド酸層中の銀イオンが還元剤の作用で還元されて、銀イオン含有ポリアミド酸層の表層部で金属銀が粒子状に析出する。ポリアミド酸層の表層部に析出した金属銀は、樹脂の光透過率に影響を及ぼすことがあるので、還元の終点は、ポリアミド酸層の光透過率が還元処理前と比較して、80%以上を保つ状態となるように金属銀の微粒子の析出を制御することが好ましい。還元の終点におけるポリアミド酸層中に残留する銀イオンは、後述する酸処理によって除去することができる。残留銀イオンの除去の見極めとしては、例えば、銀イオン含有ポリアミド酸層(あるいは、ポリアミド酸層)の断面を、エネルギー分散型X線(EDX)分析装置を用いて測定し、残留する銀イオンの原子重量%を読み取ることによって確認できる。
【0053】
銀イオンを還元処理する方法として、光還元法を用いる場合には、銀イオン含有のポリアミド酸層に水素供給源となる水、アルコール又はアルコール水溶液などを塗布した後、紫外線を例えば50〜250J/cm程度、好ましくは100〜200J/cm程度の紫外線照射量で照射することがよい。光還元法では、ポリアミド酸層の表面だけでなく、内部に存在する銀イオンについても十分に還元することが可能である点で有利である。この紫外線照射による光還元の際に、所定のパターンに形成されたフォトマスクを用いることによって、金属銀を所定のパターンで析出させることができる。その結果、後述する工程dで透明導電性膜を所定のパターン状に形成することが可能になり、フォトリソグラフィーとエッチングによるパターニングのプロセスを省略し、工程数を削減できる。
【0054】
なお、工程cで銀イオンの還元処理を行う前に、予め銀イオン含有のポリアミド酸層の上に、レジストを所定のパターンで形成しておくことも可能である。この手法は、湿式還元法にも光還元法にも適用できる。レジストパターンの形成は、例えばフォトリソグラフィーとエッチングの組み合わせなど、公知の方法が適用でき、特に限定されない。なお、レジストパターンの形成は、工程bの次に行うことが好ましいが、工程bの前(工程aの後)に行うこともできる。
【0055】
工程d)ポリアミド酸層に、還元剤、硝酸イオンおよび亜鉛イオンを含有するめっき液を接触させ、金属銀を触媒核として、ポリアミド酸層の表面に酸化亜鉛を含む透明導電性膜を形成する工程:
この工程dにおける還元処理には、湿式還元法を利用することが有利である。湿式還元法は、還元剤、硝酸イオンおよび亜鉛イオンを含有するめっき液を使用することを除いて、工程cと同様に行うことができる。
【0056】
還元剤としては、酸化亜鉛を析出させる水溶性の化合物であれば特に制限されないが、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、ジメチルアミンボラン、トリメチルアミンボラン等のボラン系化合物が好ましく挙げられ、ポリアミド酸の耐薬品性の観点から、ジメチルアミンボラン、トリメチルアミンボラン等のアミンボラン化合物がより好ましい。これらのホウ素化合物は水溶液にして用いることが好ましいが、例えば次亜燐酸ナトリウム、ホルマリン、ヒドラジン類等の溶液(還元剤溶液)にして用いることもできる。めっき液中における還元剤としてのホウ素化合物の濃度は、例えば0.001〜0.5mol/Lの範囲内が好ましく、0.001〜0.1mol/Lの範囲内がより好ましい。めっき液中のホウ素化合物の濃度が0.001mol/L未満では、酸化亜鉛の薄膜形成が不十分になることがあり、0.5mol/Lを超えるとホウ素化合物の作用で、ポリアミド酸が溶解してしまうことがある。
【0057】
硝酸イオンおよび亜鉛イオンは、どのような化合物由来のものでもよいが、亜鉛イオン源となる化合物としては、水溶性亜鉛塩を用いればよく、その具体例として、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、酢酸亜鉛、リン酸亜鉛、ピロリン酸亜鉛、炭酸亜鉛等を挙げることができる。また、硝酸イオン源としては、硝酸、水溶性硝酸塩等を用いることができ、硝酸塩の具体例として、硝酸亜鉛、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸リチウム、硝酸尿素等を挙げることができる。亜鉛イオン源となる化合物及び硝酸イオン源となる化合物は、それぞれ、単独又は二種以上混合して用いることができる。このなかでも、特に硝酸亜鉛を用いることが最も効率的である。硝酸亜鉛は水溶液にして用いるが、前述のボラン系化合物の還元剤との混合溶液にして用いることが好ましい。めっき液中における硝酸亜鉛の濃度は、例えば0.01〜0.5mol/Lの範囲内が好ましく、0.01〜0.2mol/Lの範囲内がより好ましく、0.05〜0.15mol/Lの範囲内が望ましい。めっき液中の硝酸亜鉛の濃度が0.01mol/L未満では、酸化亜鉛の析出が不十分になることがあり、0.5mol/Lを超えると酸化亜鉛の水への溶解が困難になることに加えて、めっき液の安定性が低下して沈殿が生成し易くなることがある。また、めっき液は、pH4〜9程度、特にpH6.5程度とすることが好ましい。
【0058】
湿式還元処理では、金属銀が析出したポリアミド酸層を、10〜80℃の範囲内、好ましくは50〜70℃の範囲内の温度の前記めっき液中に、10分〜200分間、好ましくは20〜150分間の時間をかけて浸漬する。浸漬によって、めっき液中の硝酸イオンが還元剤の作用で還元されて亜硝酸イオンに変化し、この際に生成した水酸化物イオンによってポリアミド酸層表面のpHが上昇する結果、触媒核である金属銀の表面に水酸化亜鉛の薄膜が形成される。この水酸化亜鉛は、容易に脱水して酸化亜鉛(ZnO)に変化するため、ポリアミド酸層の表面の金属銀が析出した領域に酸化亜鉛を含む透明導電性膜が析出する。以上の反応は、次の(1)〜(5)の化学反応式により表すことができる。
【0059】
Zn(NO → Zn+2NO…(1)
(CH)NHBH+HO → BO+(CHNH+7H+6e…(2)
NO+HO+2e → NO+2OH…(3)
Zn2++2OH → Zn(OH)…(4)
Zn(OH) → ZnO+HO…(5)
【0060】
酸化亜鉛を含む透明導電性膜の膜厚は、特に限定されるものではないが、0.005μm以上が好ましく、0.01〜2μmがより好ましく、0.1〜1μmとすることが望ましい。
【0061】
工程e)透明導電性膜が形成されたポリアミド酸層を加熱してイミド化しポリイミド樹脂層を形成する工程:
イミド化の方法は、特に制限されず、例えば、80〜400℃の範囲内の温度条件で1〜60分間の範囲内の時間加熱するといった熱処理が好適に採用される。イミド化の温度は、従来技術(特許文献3)における酸化亜鉛皮膜の加熱処理の温度よりも十分に低く設定することができる。工程eのイミド化は、工程dの後に行うことが好ましい。工程eのイミド化を工程dの前に行うと、金属銀が樹脂層に完全に埋包された状態になり、触媒核としての機能を十分に発揮できず、酸化亜鉛皮膜の形成が不十分になるので好ましくない。別の観点から、工程eのイミド化を工程dの後に行うことによって、形成された硝酸亜鉛皮膜への加熱が同時に行われるため、硝酸亜鉛皮膜の電気伝導性を更に向上させることができるので、工程eのイミド化は、工程dの後に行うことが好ましい。
【0062】
工程f)ポリイミド樹脂層を基材から剥離する工程:
この工程fでは、透明導電性膜が形成されたポリイミド樹脂層を基材から剥離することによって、透明導電性膜積層体としての透明導電性膜形成ポリイミドフィルムを得ることができる。
【0063】
本発明の透明導電性膜の製造方法は、上記工程a〜工程fに加えて、以下の工程g、工程hを含むことができる。
【0064】
工程g)工程cの後で、前記ポリアミド酸層を酸処理して残留した銀イオンを除去する工程:
工程cの銀イオンの湿式還元処理の後で、還元されない銀イオンがポリアミド酸層に残存することがあるため、これを除去することが好ましい。この工程gは、工程cの後、工程dの前に行うことが好ましい。銀イオンの除去は、酸の水溶液に浸漬して行うことがよく、例えば希塩酸水溶液、希硫酸水溶液、酢酸水溶液、シュウ酸水溶液などの酸水溶液で処理することにより除去することができる。
【0065】
金属イオンを除去するための浸漬処理の条件として、濃度が1〜15重量%の範囲内、好ましくは5〜10重量%の範囲内で、温度20〜50℃の範囲内の酸の水溶液に、2〜10分間の範囲内の時間で浸漬させることが好ましい。
【0066】
工程h)工程dの後で、酸化亜鉛を含む透明導電性膜をパターン形成する工程:
パターンの形成は、例えばフォトリソグラフィーとエッチングの組み合わせなど、公知の方法により行うことができ、特に限定されない。この工程hは、工程dの後または工程eの後に行うことができる。なお、工程cで光還元を採用し、フォトマスクを用いて金属銀の析出をパターン形成する場合には、この工程hは必要ない。
【0067】
以上のようにして、ポリイミドフィルム上に、透明導電性膜を備えた透明導電性膜積層体を製造することができる。この透明導電性膜積層体は、波長400nmでの光透過率が50%以上、好ましくは60%以上であり、波長550nmでの光透過率が60%以上、好ましくは70%以上であり、波長780nmでの光透過率が70%以上であり、波長380〜780nmにおける可視光平均透過率が65%以上、好ましくは70%以上である。
【0068】
次に、図1〜図4を参照しながら、本発明の透明導電性膜の製造方法の好ましい実施の形態について説明する。なお、以下の実施の形態における各工程の条件等は、上記の工程a〜工程hで説明した内容に基づき実施できる。
【0069】
図1(A)〜図1(F)は、一実施の形態にかかる透明導電性膜積層体の製造方法の概要を示す工程図である。まず、図1(A)に示したように、基材1を準備する。本実施の形態では、基材1は、ポリアミド酸溶液を塗布する際の支持体としての機能を主目的に使用するものであって、最終的に透明導電性膜積層体30と分離するものである。次に、基材1の表面に、ポリアミド酸溶液を塗布し、乾燥させて、図1(B)に示したようにポリアミド酸層3を形成する。ここで、ポリアミド酸層3の厚みは、例えば5〜50μmの範囲内に形成することが好ましい。
【0070】
次に、図1(C)に示したように、ポリアミド酸層3に銀イオンを付着させる。次に、湿式還元処理によって銀イオンを還元し、図1(D)に示したように、銀粒子5を析出させる。なお、図2(A)に示したように、ポリアミド酸層3に付着した銀イオンに紫外線7を照射して還元処理を行うこともできる。この場合、フォトマスク9を用いることによって、図2(B)に示したように、所定のパターンで銀粒子5を析出させることも可能である。また、この段階でポリアミド酸層に対して酸処理を行い、余剰の銀イオンを除去(工程g)することもできる。
【0071】
次に、ポリアミド酸層3の表面に析出した銀粒子5を触媒核として、ホウ素系の還元剤と硝酸亜鉛とを含有する混合液を用い、湿式めっき法によって図1(E)に示したように酸化亜鉛皮膜11を形成する。次に、酸化亜鉛皮膜11が形成されたポリアミド酸層3を加熱することにより、ポリアミド酸を閉環・イミド化させてポリイミド樹脂層13を形成した後、図1(F)に示したように基材1から剥離する。
【0072】
以上のようにして、ポリイミド樹脂層(ポリイミドフィルム)13と、酸化亜鉛皮膜11とを有するフレキシブルな透明導電性膜積層体30を得ることができる。なお、必要に応じて酸化亜鉛皮膜11はパターニングされていてもよい。
【0073】
また、本実施の形態では、ポリアミド酸溶液の塗布と乾燥を繰り返し、ポリアミド酸層3が多層となるように形成することが好ましい。例えば、図3に示したように、イミド化が完了した段階で、熱可塑性のポリイミド樹脂層13a、非熱可塑性のポリイミド樹脂層13bおよび熱可塑性のポリイミド樹脂層13cが積層された多層構造とすることができる。この場合、少なくとも、銀粒子5が析出した側のポリイミド樹脂層(例えば符号13c)を熱可塑性のポリイミド樹脂とすることによって、大きなアンカー効果が得られ、酸化亜鉛皮膜11との密着性が強くなるので好ましい。このように、ポリイミド樹脂13を積層構造とすることによって、透明導電性膜積層体の反りの発生を防止し、さらに酸化亜鉛皮膜11とポリイミド樹脂層13との密着性を高め、導電性膜の剥離を防止することができる。
【0074】
本実施の形態では、キャスト法によって基材1上に形成されたポリアミド酸層3に対して銀イオンを接触させてイオン交換反応を生じさせ、ポリアミド酸のカルボキシル基に銀イオンを結合させておく。そのため、銀イオンが豊富な状態で還元処理を行うことが可能であり、金属銀の析出量が多く、銀粒子5を緻密に(例えば膜状に)形成することができる。そして、この銀粒子5を触媒核として湿式めっき法によって酸化亜鉛皮膜11を形成することにより、銀粒子5のアンカー効果によって酸化亜鉛皮膜11とポリイミド樹脂層13との密着性が高くなる。また、膜状の銀粒子5を触媒核とすることで酸化亜鉛皮膜の導電性が増大し、電気伝導性に優れた透明導電性膜30を形成することができる。
【0075】
以上のように、本発明の透明導電性膜積層体の製造方法によれば、酸化亜鉛を含む透明導電性被膜とポリイミド樹脂層との密着性に優れ、かつ、電気抵抗が少なく優れた導電性を有するフレキシブルな透明導電性膜積層体を製造できる。このようにして得られる透明導電性膜積層体は、例えば液晶表示装置(LCD)、プラズマディスプレイパネル装置(PDP)、有機エレクトロルミネッセンス表示装置(有機EL)、エレクトロクロミック表示装置、電気泳動表示装置などの各種表示装置に使用できる。特に、本発明方法は、銀イオンの還元と湿式めっきにより透明導電性膜の形成が可能であるため、高温による酸化亜鉛皮膜の焼結が不要であり、かつ、スパッタリングやCVDなどの工程も不要であるため真空装置などの大掛かりな設備を用いずに、大面積の基板上に透明導電性膜を低コストで製造できる。従って、本発明方法は、大面積化が進みつつある各種の表示装置の製造過程で利用価値が高いものである。
【実施例】
【0076】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0077】
(1)光透過率
光透過率は、紫外・可視分光分析(UV-vis;日本分光社製、商品名V-550)を用いて測定した。
【0078】
(2)表面抵抗および電気抵抗率
JIS K7194に準拠し、三菱化学社製:4端子4探針法を用いて表面抵抗を測定し、膜厚から抵抗率を換算して求めた。
【0079】
合成例1
500mlのセパラブルフラスコの中において、撹拌しながら15.2gの2,2−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル(TFMB)(47.6mmol)を170gのN,N‐ジメチルアセトアミド(DMAc)に溶解させた。次に、その溶液に窒素気流中で14.8gの4,4’−オキシジフタル酸無水物(ODPA)(47.6mmol)を加え、室温で4時間攪拌を続けて重合反応を行い、無色の粘調なポリアミド酸溶液Sを得た。得られたポリアミド酸溶液の粘度は、E型粘度計(ブルックフィールド社製 DV-II +Pro CP型)により測定した結果、3251cP(25℃)であった。また、分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)(東ソー株式会社製 HLC-8220GPC)により測定し、Mw=163,900であった。
【0080】
得られたポリアミド酸溶液Sを、ステンレス基材の上に塗布し、125℃で3分間乾燥した後、更に160℃で2分、190℃で30分、200℃で30分、220℃で3分、280℃、320℃、360℃で各1分ずつ段階的な熱処理を行い、イミド化を完結させ、ステンレス基材に積層されたポリイミドフィルムを得た。このポリイミドフィルムをステンレス基材から剥離し、10μmの厚みのポリイミドフィルムPを得た。このフィルムの400nmでの光透過率は95%、可視光平均透過率は96%であった。
【0081】
合成例2
500mlのセパラブルフラスコの中において、撹拌しながら31.7gの9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン(BAFL)(90.1mmol)を240gのN,N‐ジメチルアセトアミド(DMAc)に溶解させた。次に、その溶液に窒素気流中で28.3gの4,4’−オキシジフタル酸無水物(ODPA)(90.1mmol)を加え、室温で4時間攪拌を続けて重合反応を行い、無色の粘調なポリアミド酸溶液Sを得た。得られたポリアミド酸溶液の粘度は、E型粘度計(ブルックフィールド社製 DV-II +Pro CP型)により測定した結果、4,5000cP(25℃)であった。また、分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)(東ソー社製 HLC-8220GPC)により測定し、Mw=243,000であった。
【0082】
得られたポリアミド酸溶液Sを、ステンレス基材の上に塗布し、125℃で3分間乾燥した後、更に160℃で2分、190℃で30分、200℃で30分、220℃で3分、280℃、320℃、360℃で各1分ずつ段階的な熱処理を行い、イミド化を完結させ、ステンレス基材に積層されたポリイミドフィルムを得た。このポリイミドフィルムをステンレス基材から剥離し、10μmの厚みのポリイミドフィルムPを得た。このフィルムの400nmでの光透過率は90%、可視光平均透過率は92%であった。
【0083】
実施例1
合成例1で得られたポリアミド酸溶液S1をバーコーター(テスター産業株式会社製 PI-1210自動塗工装置)を用いて、ステンレス基材上に塗布した後、125℃で3分間乾燥して、厚さ20μmのポリアミド酸層を形成した。このポリアミド酸層を0.1Mの硝酸銀水溶液に10分間浸漬し、イオン交換反応によりポリアミド酸層に銀イオンを吸着させた。
【0084】
上記の銀イオンを吸着させたポリアミド酸層の表面に水を塗布し、石英ガラスを介して低圧水銀ランプより紫外線を10分照射することで、銀イオンを還元し、ポリアミド酸層の表層部に銀析出層を形成した。このとき照射した紫外線量は160J/cmであった。照射終了後、10重量%の酢酸水溶液に120分間浸漬し、ポリアミド酸層中に残存している銀イオンを除去した。ここで、析出した銀の量は、220mg/mであった。上記のポリアミド酸層を0.05Mの硝酸亜鉛水溶液および0.05Mのジメチルアミンボラン水溶液の混合溶液に50℃で120分間浸漬し、水洗後、125℃で3分間乾燥させることにより、ポリアミド酸層の表層部に50nm厚みの酸化亜鉛薄膜を形成した。形成した酸化亜鉛配線の電気抵抗率は、1.90×10Ω/□であった。
【0085】
得られた酸化亜鉛薄膜形成後のポリアミド酸層を、160℃で2分、190℃で30分、200℃で30分、220℃で3分、280℃、320℃、360℃で各1分ずつ段階的な熱処理を行ってイミド化を完結し、透明導電性基板を作製した。上記透明導電性基板における酸化亜鉛薄膜側の表面に、ドライフィルムレジスト(旭化成株式会社製 サンフォートAQ、10μm厚さ)を温度110℃にてラミネートし、フォトマスクを介して紫外線露光し、0.5重量%の炭酸ナトリウム水溶液にて現像して50μm{配線幅/配線間隔(L/S)=25μm/25μm}のレジストパターンを形成した。形成した配線スペース部の酸化亜鉛薄膜をエッチングで除去し、続くポリイミド樹脂層をエッチング除去した後、レジストを除去することで、透明導電性回路配線基板を作製した。なお、この積層体の酸化亜鉛薄膜の電気抵抗率は、1.88×10−2Ω/□であった。また、酸化亜鉛薄膜の可視光平均透過率は、70%であった。次に、ポリイミド樹脂層をステンレス基材から剥離することによって、透明導電性回路配線フィルムを作製した。
【0086】
実施例2
実施例1と同様にして、合成例1のポリアミド酸溶液S1をステンレス基材上に塗布、乾燥して厚さ20μmのポリアミド酸層を形成した後、硝酸銀水溶液に浸漬し、イオン交換反応により銀イオンを吸着させた。
【0087】
得られたポリアミド酸層を、0.2Mのジメチルアミンボラン水溶液に30℃で5分間浸漬することで、銀イオンを還元し、ポリアミド酸層の表層部に銀析出層を形成した。還元終了後、10重量%の酢酸水溶液に120分間浸漬し、ポリアミド酸層中に残存している銀イオンを除去した。ここで、析出した銀の量は、490mg/mであった。
【0088】
次に、上記のポリアミド酸層を、実施例1と同様にして、硝酸亜鉛及びジメチルアミンボラン水溶液の混合溶液による処理並びに乾燥によって、ポリアミド酸層の表層部に50nm厚みの酸化亜鉛配線を形成した。形成した酸化亜鉛配線の電気抵抗率は、0.50×10Ω/□であった。
【0089】
得られた酸化亜鉛配線形成後のポリアミド酸層を、実施例1と同様の方法で、熱処理してイミド化を完結し、透明導電性積層体を作製した。なお、この積層体の酸化亜鉛薄膜の電気抵抗率は、0.48×10−2Ω/□であった。また、形成した酸化亜鉛薄膜の可視光平均透過率は、62%であった。
【0090】
上記積層体を、実施例1と同様の方法でパターニングした後、ポリイミド樹脂層をステンレス基材から剥離することによって、透明導電性回路配線フィルムを作製した。
【0091】
実施例3
実施例1におけるポリアミド酸溶液S1の代わりに、合成例2で得られたポリアミド酸溶液S2を使用した以外は、実施例1と同様にして、透明導電性積層体および透明導電性回路配線フィルムを作製した。なお、析出した銀の量は、222mg/mであった。また、イミド化前の酸化亜鉛薄膜の電気抵抗率は、1.90×10Ω/□であり、イミド化後の酸化亜鉛薄膜の電気抵抗率は、1.89×10−2Ω/□であった。また、酸化亜鉛薄膜の可視光平均透過率は、70%であった。
【0092】
実施例4
実施例2におけるポリアミド酸溶液S1の代わりに、合成例2で得られたポリアミド酸溶液S2を使用した以外は、実施例2と同様にして、透明導電性積層体および透明導電性回路配線フィルムを作製した。なお、析出した銀の量は、492mg/mであった。また、イミド化前の酸化亜鉛薄膜の電気抵抗率は、0.50×10Ω/□であり、イミド化後の酸化亜鉛薄膜の電気抵抗率は、0.49×10−2Ω/□であった。また、酸化亜鉛薄膜の可視光平均透過率は、72%であった。
【0093】
実施例5
実施例1と同様にして、合成例1のポリアミド酸溶液S1をステンレス基材上に塗布、乾燥して厚さ20μmのポリアミド酸層を形成した後、硝酸銀水溶液に浸漬し、イオン交換反応により銀イオンを吸着させた。
【0094】
得られたポリアミド酸層の表面に水を塗布し、フォトマスク(パターン形状;配線幅/配線間隔(L/S)=25μm/25μm)を介して低圧水銀ランプより紫外線を10分間照射することで、銀イオンを還元し、ポリアミド酸層の表層部にパターン化された銀析出層を形成した。このとき照射した紫外線量は160J/cmであった。照射終了後、10重量%の酢酸水溶液に120分間浸漬し、紫外線非照射部分を含むポリアミド酸層中に残存している銀イオンを除去した。ここで、析出した銀の量は、210mg/mであった。
【0095】
次に、上記のポリアミド酸層を、実施例1と同様にして、硝酸亜鉛及びジメチルアミンボラン水溶液の混合溶液による処理並びに乾燥によって、ポリアミド酸層の表層部にパターン化された50nm厚みの酸化亜鉛配線を形成した。形成した酸化亜鉛配線の電気抵抗率は、1.92×10Ω/□であった。
【0096】
得られた酸化亜鉛配線形成後のポリアミド酸層を、実施例1と同様の方法で、熱処理してイミド化を完結し、透明導電性回路配線積層体を作製した。なお、この積層体の酸化亜鉛配線の電気抵抗率は、1.90×10−2Ω/□であった。また、酸化亜鉛薄膜の可視光平均透過率は、72%であった。
【0097】
上記積層体におけるポリイミド樹脂層をステンレス基材から剥離することによって、透明導電性回路配線フィルムを作製した。
【0098】
実施例6
実施例5におけるポリアミド酸溶液S1の代わりに、合成例2で得られたポリアミド酸溶液S2を使用した以外は、実施例5と同様にして、透明導電性回路配線積層体および透明導電性回路配線フィルムを作製した。なお、イミド化前の酸化亜鉛薄膜の電気抵抗率は、1.92×10Ω/□であり、イミド化後の酸化亜鉛薄膜の電気抵抗率は、1.90×10−2Ω/□であった。また、酸化亜鉛薄膜の可視光平均透過率は、72%であった。ここで、析出した銀の量は、212mg/mであった。
【0099】
実施例7
スピンコーターを用いて、合成例1で得られたポリアミド酸溶液S1をステンレス基材上に塗布した後、130℃で20分間乾燥して、厚さ1μmのポリアミド酸層を形成した。このポリアミド酸層の上に合成例2で得られたポリアミド酸溶液Sを厚さ10μmになるように塗布した後、130℃で20分間乾燥し、更に、このポリアミド酸層の上に合成例1で得られたポリアミド酸溶液Sを厚さ1μmになるように塗布した後、130℃で20分間乾燥して、合計厚みが12μmの3層ポリアミド酸層を形成した。このポリアミド酸層を、実施例1と同様に処理して、ポリアミド酸層に銀イオンを吸着させた。
【0100】
上記のポリアミド酸層を、実施例1と同様にして、紫外線照射による銀イオンの還元処理の後、硝酸亜鉛及びジメチルアミンボラン水溶液の混合溶液による処理並びに乾燥によって、ポリアミド酸層の表層部に50nm厚みの酸化亜鉛配線を形成した。形成した酸化亜鉛配線の電気抵抗率は、1.80×10Ω/□であった。ここで、析出した銀の量は、241mg/mであった。
【0101】
得られた酸化亜鉛薄膜形成後のポリアミド酸層を、実施例1と同様の方法で、熱処理してイミド化を完結し、透明導電性積層体を作製した。なお、この積層体の酸化亜鉛薄膜の電気抵抗率は、1.80×10−2Ω/□であった。また、酸化亜鉛薄膜の可視光平均透過率は、67%であった。
【0102】
上記積層体を、実施例1と同様の方法でパターニングした後、ポリイミド樹脂層をステンレス基材から剥離することによって、透明導電性回路配線フィルムを作製した。
【0103】
実施例8
実施例7と同様にして、ステンレス基材上に合計厚みが12μmの3層ポリアミド酸層を形成した。このポリアミド酸層を、実施例1と同様に処理して、ポリアミド酸層に銀イオンを吸着させた。
【0104】
得られたポリアミド酸層の表面に水を塗布し、フォトマスク(パターン形状;配線幅/配線間隔(L/S)=25μm/25μm)を介して低圧水銀ランプより紫外線を10分間照射することで、銀イオンを還元し、ポリアミド酸層の表層部にパターン化された銀析出層を形成した。このとき照射した紫外線量は160J/cmであった。照射終了後、10重量%の酢酸水溶液に120分間浸漬し、紫外線非照射部分を含むポリアミド酸層中に残存している銀イオンを除去した。ここで、析出した銀の量は、230mg/mであった。
【0105】
次に、上記のポリアミド酸層を、実施例1と同様にして、硝酸亜鉛及びジメチルアミンボラン水溶液の混合溶液による処理並びに乾燥によって、ポリアミド酸層の表層部にパターン化された50nm厚みの酸化亜鉛配線を形成した。形成した酸化亜鉛配線の電気抵抗率は、1.87×10Ω/□であった。
【0106】
得られた酸化亜鉛配線形成後のポリアミド酸層を、実施例1と同様の方法で、熱処理してイミド化を完結し、透明導電性回路配線積層体を作製した。なお、この積層体の酸化亜鉛配線の電気抵抗率は、1.85×10−2Ω/□であった。また、酸化亜鉛薄膜の可視光平均透過率は、69%であった。
【0107】
上記積層体におけるポリイミド樹脂層をステンレス基材から剥離することによって、透明導電性回路配線フィルムを作製した。
【0108】
実施例9
実施例7と同様にして、ステンレス基材上に合計厚みが12μmの3層ポリアミド酸層を形成した。このポリアミド酸層を、実施例1と同様に処理して、ポリアミド酸層に銀イオンを吸着させた。
【0109】
得られたポリアミド酸層を、0.2Mのジメチルアミンボラン水溶液に30℃で5分間浸漬することで、銀イオンを還元し、ポリアミド酸層の表層部に銀析出層を形成した。還元終了後、10重量%の酢酸水溶液に120分間浸漬し、ポリアミド酸層中に残存している銀イオンを除去した。ここで、析出した銀の量は、498mg/mであった。
【0110】
次に、上記のポリアミド酸層を、実施例1と同様にして、硝酸亜鉛及びジメチルアミンボラン水溶液の混合溶液による処理並びに乾燥によって、ポリアミド酸層の表層部に50nm厚みの酸化亜鉛配線を形成した。形成した酸化亜鉛配線の電気抵抗率は、0.45×10Ω/□であった。
【0111】
得られた酸化亜鉛配線形成後のポリアミド酸層を、実施例1と同様の方法で、熱処理してイミド化を完結し、透明導電性積層体を作製した。なお、この積層体の酸化亜鉛薄膜の電気抵抗率は、0.45×10−2Ω/□であった。また、形成した酸化亜鉛薄膜の可視光平均透過率は、60%であった。
【0112】
上記積層体を、実施例1と同様の方法でパターニングした後、ポリイミド樹脂層をステンレス基材から剥離することによって、透明導電性回路配線フィルムを作製した。
【0113】
以上の実施例1〜9の概要を表1および表2に総括して掲載した。
【0114】
【表1】

【0115】
【表2】

【0116】
表1および表2より、銀イオンの還元をホウ素系還元剤による湿式還元法で行った実施例2、4、9では、金属銀の析出量が多く、特に、イミド化後の酸化亜鉛皮膜の電気抵抗率が十分に低く、優れた導電性を有していることが確認された。一方、銀イオンの還元を紫外線による光還元法で行った実施例1、3、5〜8では、湿式還元法に比べて酸化亜鉛皮膜の電気抵抗率は若干高めであったが、実用上、十分な導電性を有していた。以上のような高い導電性は、還元析出した金属銀粒子が触媒核となることによって酸化亜鉛皮膜の導電性が高められた結果であると考えられた。
【0117】
また、実施例1〜9で得られた透明導電性回路配線フィルムは、キャスト法によって形成したポリアミド酸層の表面に銀イオンを吸着させる工程で、多くの銀イオンがポリアミド酸層中に取り込まれた結果、アンカー効果によってポリイミド樹脂層と酸化亜鉛皮膜との密着性にも優れていた。
【0118】
また、銀イオンの還元を紫外線による光還元法で行った実施例1、3、5〜8では、透過率が高くなる傾向がみられ、高い透明性が要求される液晶表示装置の透明電極などの用途に適していることが確認された。
【0119】
比較例1
5Nの水酸化カリウム水溶液の中に、ポリイミドフィルム(東レ・デュポン株式会社製、商品名:カプトンEN、100mm×100mm×25μm厚)を50℃、10分間浸漬した。その後、浸漬したポリイミドフィルムをイオン交換水で充分水洗し、1重量%濃度の塩酸水溶液(25℃)に30秒浸漬した後、さらにイオン交換水で充分水洗し、圧縮空気を吹き付けて乾燥することで、1.4μm厚みのアルカリ処理層を形成した。このアルカリ処理層を0.1Mの硝酸銀水溶液に10分間浸漬して銀イオンを吸着させた後、実施例1と同様にして、紫外線照射によるパラジウムイオンの還元処理及び硝酸亜鉛水溶液による処理により、アルカリ処理層の表層部に50nm厚みの酸化亜鉛薄膜を形成した。形成した酸化亜鉛配線の電気抵抗率は、3.10×10Ω/□であった。
【0120】
得られた酸化亜鉛薄膜形成後のフィルムを、160℃で2分、190℃で30分、200℃で30分、220℃で3分、280℃、320℃、360℃で各1分ずつ段階的な熱処理を行ってイミド化を完結した。酸化亜鉛薄膜の電気抵抗率は、950Ω/□であった。
【0121】
比較例2
実施例1において0.1Mの硝酸銀水溶液に10分間浸漬したことに代えて、0.1Mの酢酸パラジウム水溶液に10分間浸漬したこと以外は、実施例1と同様にして、ポリアミド酸層の表層部に50nm厚みの酸化亜鉛薄膜を形成した。形成した酸化亜鉛配線の電気抵抗率は、1.10×10Ω/□であった。
【0122】
得られた酸化亜鉛薄膜形成後のポリアミド酸層を、160℃で2分、190℃で30分、200℃で30分、220℃で3分、280℃、320℃、360℃で各1分ずつ段階的な熱処理を行ってイミド化を完結した。酸化亜鉛薄膜の電気抵抗率は、620Ω/□であった。
【0123】
比較例3
実施例1と同様にして、合成例1のポリアミド酸溶液S1をステンレス基材上に塗布、乾燥して厚さ20μmのポリアミド酸層を形成した後、硝酸銀水溶液に浸漬し、イオン交換反応により銀イオンを吸着させ、紫外線照射による銀イオンの還元処理を行うことで、ポリアミド酸層の表層部に銀析出層を形成した。ポリアミド酸層中に残存している銀イオンを除去後、125℃で3分間乾燥した後、更に160℃で2分、190℃で30分、200℃で30分、220℃で3分、280℃、320℃、360℃で各1分ずつ段階的な熱処理を行い、イミド化を完結した。上記のポリイミドを0.05Mの硝酸亜鉛水溶液および0.05Mのジメチルアミンボラン水溶液の混合溶液に50℃で120分間浸漬し、水洗後、130℃で5分間乾燥させることにより、ポリイミドの表層部に50nm厚みの不連続の酸化亜鉛薄膜を形成した。形成した酸化亜鉛配線の電気抵抗率は、5.90×10Ω/□であった。
【0124】
ポリイミドフィルムのアルカリ処理によってポリアミド酸層を形成した比較例1、ポリアミド酸層にパラジウムイオンを付着させた比較例2、イミド化後の湿式めっきによって酸化亜鉛薄膜を形成した比較例3では、いずれも実施例1〜9に比べて電気抵抗率が高く、導電性の点で劣っていた。
【0125】
以上、本発明の実施の形態を述べたが、本発明は上記実施の形態に制約されることはなく、種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0126】
1…基材、3…ポリアミド酸層、5…銀粒子、11…酸化亜鉛皮膜、13…ポリイミド樹脂層、30…透明導電性膜積層体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド樹脂層の上に透明導電性膜を積層形成してなる透明導電性膜積層体の製造方法であって、
a)基材上に、ポリアミド酸溶液を塗布して乾燥させ、ポリアミド酸層を形成する工程、
b)前記ポリアミド酸層に銀イオンを含有する溶液を含浸させることによって銀イオンを前記ポリアミド酸層に付着させる工程、
c)前記ポリアミド酸層に付着した銀イオンを還元して金属銀を析出させる工程、
d)前記ポリアミド酸層に、還元剤、硝酸イオンおよび亜鉛イオンを含有するめっき液を接触させ、前記金属銀を触媒核として、前記ポリアミド酸層の表面に酸化亜鉛を含む透明導電性膜を形成する工程、
e)前記透明導電性膜が形成されたポリアミド酸層を加熱してイミド化しポリイミド樹脂層を形成する工程、および、
工程f)前記ポリイミド樹脂層を前記基材から剥離する工程、
を備えることを特徴とする透明導電性膜積層体の製造方法。
【請求項2】
前記工程c)の後、工程d)の前に、工程g)前記ポリアミド酸層を酸処理して残留した銀イオンを除去する工程、を含む請求項1に記載の透明導電性膜積層体の製造方法。
【請求項3】
前記工程c)では、湿式還元法または光還元法により金属銀を析出させる請求項1または請求項2に記載の透明導電性膜積層体の製造方法。
【請求項4】
前記工程c)でフォトマスクを用いて光還元を行うことにより金属銀を所定のパターンで析出させ、該パターンに基づき前記工程d)で透明導電性膜をパターン状に形成する請求項3に記載の透明導電性膜積層体の製造方法。
【請求項5】
前記工程a)では、前記基材上に5〜50μmの範囲内の厚さでポリアミド酸層を形成する請求項1から請求項4に記載の透明導電性膜積層体の製造方法。
【請求項6】
前記工程a)では、前記基材上に異なる種類のポリアミド酸からなる2層以上のポリアミド酸層を積層形成することによって、前記工程e)において少なくとも前記金属銀が析出している側に、熱可塑性のポリイミド樹脂層を形成する請求項5に記載の透明導電性膜積層体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−11493(P2011−11493A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−158804(P2009−158804)
【出願日】平成21年7月3日(2009.7.3)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】