説明

透明導電膜形成用インク及び透明導電膜

【課題】インクジェットプリンタを用いた塗布法によって良好なパターン形状を形成できる透明導電膜形成用インクを提供する。
【解決手段】本発明の透明導電膜形成用インクは、透明導電性粒子と、分散剤と、表面改質剤と、溶媒とを含み、前記溶媒の含有量は、前記インク全体の重量に対して、55〜85重量%であり、前記溶媒は、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、ジエチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル及びジプロピレングリコールメチルエーテルアセテートからなる群から選らばれる少なくとも一種であり、表面張力を23mN/m〜27mN/m、固形分濃度を15重量%〜45重量%でることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック基板、ガラス基板、フィルム基板などの非吸収面に塗布することにより透明導電膜を形成可能な透明導電膜形成用インク及びそれを用いて形成された透明導電膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、透明導電膜や透明導電性インクの材料として、酸化スズ粒子、アンチモン含有酸化スズ粒子(ATO)、スズ含有酸化インジウム粒子(ITO)、アルミニウム含有酸化亜鉛粒子(AZO)、ガリウム含有酸化亜鉛粒子(GZO)などが知られている。中でも、酸化インジウムにスズを含有させたスズ含有酸化インジウム粒子は、可視光に対する高い透光性と、高い導電性から、静電防止や電磁波遮蔽が要求されるオフィスオートメーション(OA)機器の陰極線管(CRT)のパネル表面や液晶ディスプレイ(LCD)の表面などに塗布して使用されている。さらに、スズ含有酸化インジウム粒子を含む塗布液(インク)を塗布して作製された透明導電膜は、タッチパネルなどの、より高い透光性と導電性が要求される分野への応用が期待されている。
【0003】
また、現在、主に用いられている透明導電膜の成膜方法は、真空蒸着法やスパッタリング法などの物理的方法であるが、成膜する基板の大型化に伴い、製造装置が大掛かりとなり、コストが高くなってしまうという問題が生じている。
【0004】
そこで、コストの面及び簡便であるという点から、塗布法による透明導電膜の成膜が検討されている。例えば、ITO微粒子を含有するシリカゾル液を用いて、ガラスなどの基板上にスピンコーティング、スプレーコーティング、ディップコーティングなどの方法で塗布・乾燥・焼成してITO透明導電膜を形成する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
最近では、特に、インクジェットプリンタを用いた塗布法により成膜する方法についての研究が盛んになってきている。それは、インクジェットプリンタを用いた成膜方法を用いると、直接、基板上に透明導電膜をパターンニングでき、パターンニングのためのエッチング処理工程を省くことができるという利点があるためである。
【0006】
しかし、インクジェットプリンタ用透明導電性インクには、プリンタヘッドに対応した最適なインクの粘度に調整されているとともに、インクの分散安定性の確保が要求される。通常、インクジェットプリンタに用いる顔料インクは、粘度調整剤を添加することによって粘度を最適な範囲に調整している。しかし、この方法をインクジェットプリンタ用透明導電性インクに適用させようとすると、粘度調整剤の添加による着色、導電性の低下、透過率の低下などが生じるという問題がある。このため、インクジェットプリンタ用透明導電性インクの改良が種々行われている。
【0007】
例えば、特許文献2には、アセチルアセトンインジウム、有機錫化合物、セルロース誘導体、アルキルフェノール及び/又はアルケニルフェノール、二塩基酸エステル及び/又は酢酸ベンジル、ジエチレングリコール誘導体を含む塗布液を調製し、アセチルアセトンインジウムと有機錫化合物との含有量、及びセルロース誘導体の含有量を最適化することによって、インクジェットプリンタ用透明導電性インクに要求される透明導電性粒子の分散安定性、ノズル詰まり、塗布液の粘度などの問題を解決でき、インクジェット印刷に適した透明導電膜形成用塗布液が得られることが開示されている。
【0008】
また、特許文献3には、導電性酸化物微粒子、無機バインダー、溶媒を含む塗布液を調製し、導電性酸化物微粒子の平均粒径、無機バインダーの平均重量分子量、及び溶媒の種類や含有量を最適化することによって、インクジェットプリンタ用透明導電性インクに要求される透明導電性粒子の分散安定性、ノズル詰まり、塗布液の粘度などの問題を解決でき、インクジェット印刷に適した透明導電膜形成用塗布液が得られることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平2−312136号公報
【特許文献2】特開2006−28431号公報
【特許文献3】特開2006−114396号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このように、透明導電性インクを用いたインクジェット印刷により、透明導電膜を形成することができる。しかし、従来の透明導電性インクでは、インクジェット印刷後の基板上でのパターン配線の断面形状などの特性が必ずしも満足できるものではなく、より良好なパターン形状を有する透明導電膜の形成にはこれらの特性のさらなる向上が必要となる。特に、図1に示すように、インクを滴下し、乾燥して、透明導電膜を形成するときに、中央部より周辺部のほうが、膜厚が大きくなってしまうコーヒーステイン現象を生ずることが多く、平坦性の良い配線パターンを得ることが難しい。
【0011】
本発明は上記課題を解決したものであり、特にインクジェットプリンタを用いた塗布法によって良好なパターン形状を形成できる透明導電膜形成用インクを提供するものであり、さらに本発明の透明導電膜形成用インクを用いることにより、良好な導電性と透明性を兼ね備えた透明導電膜を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の透明導電膜形成用インクは、透明導電性粒子と、分散剤と、表面改質剤と、溶媒とを含む透明導電膜形成用インクであって、前記溶媒の含有量は、前記インク全体の重量に対して、55〜85重量%であり、前記溶媒は、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、ジエチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル及びジプロピレングリコールメチルエーテルアセテートからなる群から選らばれる少なくとも一種であり、表面張力が23mN/m〜27mN/mであり、固形分濃度が15重量%〜45重量%であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の透明導電膜は、上記本発明の透明導電膜形成用インクを用いて形成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の透明導電膜形成用インクは、インクジェットプリンタを用いた塗布法によって良好なパターン形状を形成できる。また、本発明の透明導電膜は、本発明の透明導電膜形成用インクを用いて形成しているので、良好なパターン形状を有すると共に、良好な導電性と透明性を兼ね備えているので、電子ペーパー、フラットパネルディスプレイ(FPD)、太陽電池などの透明電極に応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】従来技術による透明導電膜を説明した図である。
【図2】本発明による透明導電膜を説明した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、インクジェットプリンタ用透明導電性インクに要求される透明導電性粒子の分散安定性、粘度を満たしつつ、表面張力を23mN/m〜27mN/m、固形分濃度を15重量%〜45重量%になるようにインク組成を調製することによって、良好な透明導電膜を形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
(実施形態1)
先ず、本発明の透明導電膜形成用インクを説明する。
【0018】
本発明の透明導電膜形成用インクは、透明導電性粒子と、分散剤と、表面改質剤と、溶媒とを含む。上記溶媒の含有量は、上記インク全体の重量に対して、55〜85重量%である。また、上記溶媒は、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、ジエチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル及びジプロピレングリコールメチルエーテルアセテートからなる群から選らばれる少なくとも一種である。また、本発明の透明導電膜形成用インクは表面張力を23mN/m〜27mN/m、固形分濃度を15重量%〜45重量%である。
【0019】
上記組成とすることにより、インクジェットプリンタ用の透明導電膜形成用インクに要求される分散安定性、粘度を満たしつつ、インクジェットプリンタを用いて塗布しても良好なパターン形状を形成できる。
【0020】
表面張力が23mN/m未満となると、インク乾燥後の塗膜の膜厚は、周縁部より中央部のほうが大きくなってしまい、27mN/mより大きくなると、中央部より周縁部のほうが大きくなってしまうため平坦な膜を形成できない。固形分濃度が15重量%未満であると、膜厚を大きくすることができず、また、単位塗布面積あたりの溶媒量が多くなり、乾燥時にインクの対流が生じ、コーヒーステイン現象が起きやすくなる。一方、固形分濃度が45重量%より大きくなると、塗膜表面にクラックが生じてしまう。
【0021】
上記溶媒は、粘度調整機能と濡れ性調節機能を有する溶媒であるが、上記溶媒(第1溶媒)にさらに別の粘度調整機能を有する溶媒(第2溶媒)として他の(ポリ)アルキレングリコール誘導体を加えてもよい。これにより、インクジェット印刷後の塗布膜の断面形状や膜厚がさらに良好な透明導電膜を形成できる。
【0022】
上記溶媒を用いる場合、上記第1溶媒の含有量は、上記溶媒の全体の重量に対して、10〜100重量%とし、上記第2溶媒の含有量は、上記溶媒の全体の重量に対して、0〜90重量%とすればよい。
【0023】
上記第2溶媒の(ポリ)アルキレングリコール誘導体は、引火点が70〜120℃の範囲、沸点が170〜250℃の範囲にあるものが好ましい。インクジェットプリンタ用インクとして、ノズル詰まりを防止するために、170℃以上の高沸点の溶媒であることが好ましく、また、滴下後の乾燥しやすさを考慮に入れて、沸点が250℃以下であることが好ましい。
【0024】
また、上記(ポリ)アルキレングリコール誘導体は、(ポリ)アルキレングリコールのモノアルキルエーテルモノアルキルエステル化合物、ジアルキルエーテル化合物及びジアルキルエステル化合物の中から選ばれる少なくとも一種を用いることができる。
【0025】
より具体的には、上記(ポリ)アルキレングリコール誘導体は、エチレングリコールモノアルキルエーテルモノアルキルエステル、ジエチレングリコールモノアルキルエーテルモノアルキルエステル、トリエチレングリコールモノアルキルエーテルモノアルキルエステル、プロピレングリコールモノアルキルエーテルモノアルキルエステル、ジプロピレングリコールモノアルキルエーテルモノアルキルエステル、トリプロピレングリコールモノアルキルエーテルモノアルキルエステル、エチレングリコールジアルキルエーテル、ジエチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ジプロピレングリコールジアルキルエーテル、エチレングリコールジアルキルエステル、及びプロピレングリコールジアルキルエステルからなる群から選ばれる少なくとも一種を用いることができる。
【0026】
上記透明導電性粒子としては、透明性と導電性を兼ね備えた粒子であればよく、特に限定されず、例えば、導電性金属酸化物粒子や導電性窒化物粒子などを用いることができる。上記導電性金属酸化物粒子としては、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化カドミウムなどの金属酸化物粒子が挙げられる。また、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛及び酸化カドミウムからなる群から選ばれる1種類以上の金属酸化物を主成分として、さらにスズ、アンチモン、アルミニウム、ガリウムがドープされた導電性金属酸化物粒子、例えば、スズ含有酸化インジウム粒子(ITO)、アンチモン含有酸化スズ粒子(ATO)、アルミニウム含有酸化亜鉛粒子(AZO)、ガリウム含有酸化亜鉛粒子(GZO)、ITOをアルミニウム置換した導電性金属酸化物粒子などが挙げられる。中でも、透明性、導電性及び化学特性に優れている点から、ITOが特に好ましい。ここで、主成分とは、導電性金属酸化物粒子において、結晶母体となる金属酸化物のことである。
【0027】
上記透明導電性粒子の一次粒子径は5〜150nmであることが好ましい。一次粒子径が5nm未満であると、結晶性のよい粒子を得ることが難しい傾向があり、一方、150nmよりも一次粒子径が大きいと、透明性が低下してしまう傾向がある。本発明において、一次粒子径とは、透過型電子顕微鏡(TEM)を用い、粒界で区切られた個々の粒子の粒子径を観察・測定した後、少なくとも20個の粒子の粒子径を平均した平均粒子径をいう。
【0028】
上記分散剤としては、上記透明導電性粒子を分散させる効果の大きい粒子吸着部位として塩基性官能基と酸性官能基を有する櫛型コポリマーを用いることが好ましい。上記櫛型コポリマーとしては、例えば、“Solspers20000”、“Solspers24000”、“Solspers26000”、“Solspers27000”、“Solspers28000”、“Solspers32500”、“Solspers32550”、“Solspers35100”、“Solspers37500”、“Solspers41090”、“Solspers56000”(以上、日本ルーブリゾール社製)、“Disperbyk‐160”、“Disperbyk‐161”、“Disperbyk‐162”、“Disperbyk‐162”、“Disperbyk‐163”、“Disperbyk‐166”、“Disperbyk‐170”、“Disperbyk‐181”、“Disperbyk‐182”、“Disperbyk‐183”、“Disperbyk‐184”、“Disperbyk‐190”、“Disperbyk‐2155”、“Disperbyk‐2163”、“Disperbyk‐2164”(以上、ビックケミー社製)などを用いることができる。
【0029】
上記表面改質剤としては、例えば、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ポリエステル変性メチルアルキルポリシロキサン、アラルキル変性ポリメチルアルキルシロキサン、ポリエーテル変性ポリメチルアルキルシロキサン、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、フッ素変性ポリマー、ポリエステル変性水酸基含有ポリジメチルシロキサン、ポリエーテルエステル変性水酸基含有ポリジメチルシロキサン、アクリル系共重合物、ポリエーテル変性アクリル基を有するポリジメチルシロキサン、シリコン変性ポリアクリルからなる群から選ばれる少なくとも一種を用いることができる。表面改質剤を用いることにより、表面張力を23mN/m〜27mN/mに設定できる。
【0030】
本発明の透明導電膜形成用インクは、上記透明導電性粒子と、上記分散剤と、上記表面改質剤と、上記溶媒とを混合して、透明導電性粒子を溶媒中に分散させることにより作製できる。透明導電性粒子を溶媒中に分散させる方法は特に限定されず、例えば、ボールミル、サンドミル、ピコミル、ペイントコンディショナーなどのメディアを介在させた機械的分散処理を行ってもよく、また、超音波分散機、ホモジナイザー、ディスパー、ジェットミルなどを使用した分散処理を行ってもよい。
【0031】
また、上記透明導電性粒子の分散平均粒子径は、150nm以下であることが好ましい。分散平均粒子径が150nmを超えると、ヘイズが高くなり、透明性が低下する傾向があるからである。本発明では、分散平均粒子径とは、レーザードップラー方式の粒度分布計N4PLUS(ベックマンコールター社製)で測定したときの一次粒子及び二次粒子を含む分散粒子の平均粒子径をいう。
【0032】
本発明の透明導電膜形成用インクの固形分含有量は、15〜45重量%の範囲である。ここで、固形分含有量とは、インク中の溶媒成分を取り除いたときに残る成分の含有量のことである。固形分含有量が15重量%未満であると、透明導電膜を形成したときに、充分な膜厚を得ることができず、また、45重量%を超えると、インクの粘度が高くなってしまい、インクジェット印刷などの塗布に適さないインクとなってしまう。
【0033】
また、固形分中の透明導電性粒子の含有量は、70〜98重量%の範囲であることが好ましい。透明導電性粒子の固形分中の含有量が70重量%未満であると、透明導電性粒子以外の固形物による導電性の阻害が大きくなる傾向があるからである。
【0034】
また、透明導電膜形成用インク中の表面改質剤の添加量は、0.001〜0.5重量%の範囲であることが好ましく、さらには0.01〜0.1重量%の範囲であることがより好ましい。添加量が0.001重量%未満であると、表面改質剤としての機能が充分に発揮されず、一方、0.5重量%を超えると、表面改質剤が導電性を阻害する傾向があるからである。
【0035】
本発明の透明導電膜形成用インクをインクジェットプリンタ用インクとして使用するためには、インクの特性をインクジェットプリンタのヘッドに合わせた仕様にしなければならない。特に、インクの粘度は1.5〜20mPa・sの範囲内であることが好ましく、さらには、5〜15mPa・sの範囲内であることがより好ましく、8〜14mPa・sの範囲内であることが特に好ましい。インク特性がこの範囲内であると、吐出安定性が得られ、インクジェットプリンタ用インクとして最適となる。
【0036】
(実施形態2)
次に、本発明の透明導電膜について説明する。
【0037】
本発明の透明導電膜は、実施形態1で説明した本発明の透明導電膜形成用インクを用いて形成する。具体的には、上記透明導電膜形成用インクを、基板上の一方の主面に塗布することにより透明導電膜を形成する。塗布方法は、例えば、ロールコート、ダイコート、エアナイフコート、ブレードコート、スピンコート、リバースコート、グラビアコートなどの塗工法、又はグラビア印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷などの印刷法などを用いることができる。特に、上記透明導電膜形成用インクをインクジェットプリンタにより基板に塗布することにより、透明導電膜を形成することが好ましい。インクジェットプリンタを用いることにより、直接、基板上に透明導電膜をパターンニングでき、パターンニングのためのエッチング処理工程を省くことができるからである。
【0038】
上記基板としては、特に限定されない。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル類、ポリオレフィン類、セルローストリアセテート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルフオン、アラミド、芳香族ポリアミドなどの材料からなる、フィルム又はシートを用いることができる。基板の厚さは、通常3〜300μmである。また、基板は、ガラス板のような硬質の基板であってもよく、フレキシブルであってもよい。
【0039】
塗布された透明導電膜の乾燥は、常温常圧乾燥に限らず、加熱乾燥、減圧乾燥、減圧加熱乾燥など、基板に悪影響を与えない限り、加熱や減圧などの処理を行ってもよい。乾燥工程は、透明導電膜の透明性や平坦性に影響を与えるため、重要な工程であるが、溶媒によって乾燥挙動が異なるため、溶媒の種類によって、適宜、乾燥方法を決定することが好ましい。
【0040】
上記乾燥後の透明導電膜をさらに焼成することでさらに高い導電性を付与できる。これは、焼成することによって導電性を阻害する有機物を除去でき、透明導電性粒子同士の接触抵抗が低くなるためであると考えられる。最終的には、前述の分散剤、表面改質剤及び溶媒は除去する必要があり、そのためには、200℃以上、好ましくは、300℃以上の加熱処理をすることが望ましい。加熱方法は特に限定されず、高温槽や電気炉などを用いる従来の加熱方法でもよいが、基板が熱に弱い場合には、基板に熱が伝わらないように電磁波加熱やランプ加熱によって透明導電膜のみを加熱する方法を用いることが好ましい。
【0041】
上記方法によって形成された本発明の透明導電膜の最終的な厚さを50〜2000nmとすれば、図2に示すように、良好な導電性と透明性を兼ね備え、かつ、良好なパターン形状を有する透明導電膜を得ることができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例に基いて本発明を詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0043】
(実施例1)
一次粒子径が30nmのITO粒子2.53gと、ビックケミー社製の分散剤“Disperbyk‐163”0.3gと、マツモトファインケミカル社製のバインダー“オルガチックスTC−401”0.15g、ビックケミー社製の表面改質剤“BYK−370”(ポリエステル変性水酸基含有ポリジメチルシロキサン)0.02gと、溶媒として2−メチル−2,4−ペンタンジオール11.4gとジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート5.6gとを混合し、ジルコニアビースを用いて、ペイントコンディショナーにより、分散処理を施して、実施例1の透明導電膜形成用インク(固形分濃度:15重量%)を調製した。
【0044】
(実施例2)
表面改質剤として、ビックケミー社製の表面改質剤“BYK−315”(ポリエステル変性ポリアルキルシロキサン)0.02gを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2の透明導電膜形成用インク(固形分濃度:15重量%)を調製した。
【0045】
(実施例3)
表面改質剤として、ビックケミー社製の“BYK−306”(ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン)0.02gを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例3の透明導電膜形成用インク(固形分濃度:15重量%)を調製した。
【0046】
(実施例4)
一次粒子径が30nmのITO粒子5.23gと、ビックケミー社製の分散剤“Disperbyk‐163”0.6gと、溶媒として2−メチル−2,4−ペンタンジオール7.6gとジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート6.4gとを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例4の透明導電膜形成用インク(固形分濃度:30重量%)を調製した。
【0047】
(実施例5)
一次粒子径が30nmのITO粒子7.93gと、ビックケミー社製の分散剤“Disperbyk‐163”0.9gと、溶媒として2−メチル−2,4−ペンタンジオール2.2gとジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート8.8gとを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例5の透明導電膜形成用インク(固形分濃度:45重量%)を調製した。
【0048】
(比較例1)
表面改質剤として、ビックケミー社製の表面改質剤“BYK−377”(ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン)0.02gを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1の透明導電膜形成用インク(固形分濃度:15重量%)を調製した。
【0049】
(比較例2)
表面改質剤を添加しないこと以外は、実施例1と同様にして、透明導電膜形成用インク(固形分濃度:15重量%)を調製した。
【0050】
(比較例3)
一次粒子径が30nmのITO粒子1.63gと、ビックケミー社製の分散剤“Disperbyk‐163”0.2gと、溶媒として2−メチル−2,4−ペンタンジオール12.6gとジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート5.4gとを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例3の透明導電膜形成用インク(固形分濃度:10重量%)を調製した。
【0051】
(比較例4)
一次粒子径が30nmのITO粒子8.83gと、ビックケミー社製の分散剤“Disperbyk‐163”1.0gと、溶媒として2−メチル−2,4−ペンタンジオール2.0gとジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート8.0gとを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例4の透明導電膜形成用インク(固形分濃度:50重量%)を調製した。
【0052】
〔透明導電膜形成用インクの特性評価〕
実施例1〜5、及び比較例1〜4の透明導電膜形成用インクについて、下記のとおり、分散安定性、粘度、表面張力、固形分濃度、吐出特性及び接触角を測定・評価し、その測定結果を表1に示した。
【0053】
<分散安定性>
各インクの分散安定性の評価として、調製したインクを24日間静置して、沈降物がないものをA、沈降物が見られるものをBと評価した。
【0054】
<粘度>
R100型粘度計(東機産業社製)を用い、25℃、コーンの回転数20rpmの条件により、粘度を測定した。
【0055】
<表面張力>
全自動平衡式エレクトロ表面張力計“ESB−V”(協和科学社製)を用い、インクの温度を25℃にして、表面張力を測定した。
【0056】
<吐出特性>
ソルベントインク用のインクジェットプリンタに、インクを充填し、吐出評価を行なった。吐出できたものをA、吐出できなかったものをBと評価した。
【0057】
<接触角>
UV−オゾン洗浄装置“OC−2506”(岩崎電機社製)を用いて、無アルカリガラス基板の片方の主面に、空気中で5分間、UVオゾン処理を施した。その後、10分以内に上記UVオゾン処理した側のガラス基板上に、滴下量75plのインクを滴下し、その滴下径から、接触角を算出した。滴下径d(cm)と液滴体積(滴下量)V(cm)と接触角θ(°)の関係は下記の式で表される。この式に、滴下径と液滴体積の値を代入して、接触角θ(0°<θ≦90°)を求めることができる。
V={πdsinθ(2+cosθ)}/{24(1+cosθ)
〔透明導電膜形成及び膜特性評価〕
実施例1〜5、及び比較例1〜4の透明導電膜形成用インクを用いて、下記のとおり、透明導電膜を形成し、エッジ形状及び膜平坦性を測定・評価し、その結果を表1に示した。
【0058】
<透明導電膜形成>
先ず、基板として、縦50mm、横50mmの無アルカリガラス基板を準備した。その基板上に、着弾径の20%が重なるようなピッチで、約10plのインクを滴下し、上記ガラス基板上の横方向に、254μm間隔で、10本の35mmのラインを形成した。その後、25℃で乾燥後、大気雰囲気中で30分間、250℃の加熱処理を施すことにより、ライン形状の透明導電膜を形成した。
【0059】
<断面形状>
ザイゴ社製の3次元表面構造解析顕微鏡“NewView5030”によって、形成したライン形状透明導電膜の断面形状を観察した。具体的には、断面形状を観察して、一番大きい膜厚を一番小さい膜厚で割った値が2以下である場合をA、2を超える場合をBとした。
【0060】
<表面性>
ニコン社製の測定顕微鏡“MM−60”によって、形成したライン形状透明導電膜を観察し、透明導電膜表面にクラックの発生が確認できない場合をA、クラックの発生が確認できる場合をBと評価した。
【0061】
【表1】

【0062】
表1から、表面張力が23mN/m〜27mN/m、固形分濃度が15重量%〜45重量%の範囲内にある実施例1〜5のインクを用いて形成した透明導電膜は、断面形状、及び表面性のいずれも問題のないことが分かる。
【0063】
一方、表面張力が23mN/m〜27mN/mの範囲外である比較例1、2のインクを用いて形成したライン形状の透明導電膜は、コーヒーステイン現象が起きて、断面形状が劣っていることが分かる。
【0064】
また、固形分濃度が15重量%より小さい比較例3のインクを用いて形成したライン形状の透明導電膜は、断面形状が劣っていることが分かる。固形分濃度が45重量%を超える比較例4のインクを用いて形成したライン形状の透明導電膜は、表面にクラックが発生し、表面性が劣っていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
インクジェットプリンタによる塗布に適している本発明の透明導電膜形成用インクを用いれば、フォトリソグラフィーによるパターンニング処理を施さずに、直接、基板にパターン印刷することができ、複雑なパターン形成が必要なフラットパネルディスプレイ(FPD)や電子ペーパーなどの表示素子の透明電極、太陽電池の透明電極、帯電防止膜などに用いる透明導電膜を簡易に形成することができる。
【符号の説明】
【0066】
11、21 透明導電膜断面
12、22 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明導電性粒子と、分散剤と、表面改質剤と、溶媒とを含む透明導電膜形成用インクであって、
前記溶媒の含有量は、前記インク全体の重量に対して、55〜85重量%であり、
前記溶媒は、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、ジエチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル及びジプロピレングリコールメチルエーテルアセテートからなる群から選ばれる少なくとも一種であり、
表面張力が23mN/m〜27mN/mであり、
固形分濃度が15重量%〜45重量%であることを特徴とする透明導電膜形成用インク。
【請求項2】
前記透明導電性粒子が、導電性金属酸化物粒子であり、前記導電性金属酸化物粒子が、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛及び酸化カドミウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属酸化物粒子である請求項1に記載の透明導電膜形成用インク。
【請求項3】
前記導電性金属酸化物粒子が、さらにスズ、アンチモン、アルミニウム及びガリウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素でドープされている請求項1に記載の透明導電膜形成用インク。
【請求項4】
前記分散剤が、粒子吸着部位として塩基性官能基と酸性官能基を有する櫛型コポリマーからなる請求項1〜3のいずれか1項に記載の透明導電膜形成用インク。
【請求項5】
インクジェットプリンタ用インクとして使用される請求項1〜4のいずれか1項に記載の透明導電膜形成用インク。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の透明導電膜形成用インクを用いて形成されたことを特徴とする透明導電膜。
【請求項7】
前記透明導電膜形成用インクが、インクジェットプリンタによって基板に塗布されて形成された請求項5に記載の透明導電膜。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−225287(P2010−225287A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−67802(P2009−67802)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】