説明

透明導電膜形成用塗布液、透明導電膜の形成方法及び透明電極

【課題】安定な透明導電膜形成用塗布液、電気抵抗の低い透明導電膜の形成方法、及び透明電極の提供。
【解決手段】インジウム、スズ、アンチモン、アルミニウム、及び亜鉛から選ばれた1種類以上の金属を含む微粒子が分散されている塗布液において、微粒子の表面に吸着する分散剤として、総炭素数6〜20の脂肪酸及び/又は脂肪酸エステルを用いる。この塗布液を基材に塗布後、乾燥及び焼成して透明導電膜を得る。この透明導電膜から透明電極を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電膜形成用塗布液、透明導電膜の形成方法及び透明電極に関し、特に、透明導電膜の金属成分となる金属を含む微粒子が分散されている分散液である透明導電膜形成用塗布液、この塗布液を用いた透明導電膜の形成方法、及びこの方法で形成された透明導電膜からなる透明電極に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイ(LCD)やプラズマディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ用の電極として、ITO(インジウム・スズ酸化物)、ATO(アンチモン・スズ酸化物)等の金属酸化物からなる透明導電膜が用いられている。この透明導電膜の形成方法としては、蒸発法、イオンプレーティング法、スパッタリング法等があり、これらの方法で、基材上に前記の金属酸化物を成膜することにより透明電極を形成している。一般的には、ITO膜をスパッタリング法により形成している。
【0003】
また、上記の透明導電膜の成膜方法以外に、ITO、ATO等の酸化物微粒子を含んでなる塗布液を基板上に塗布し、乾燥後、焼成することにより透明導電膜を形成する方法が知られている(例えば、特許文献1及び2参照)。しかしながら、前記酸化物微粒子を含んでなる塗布液により形成した透明導電膜は、その透過率は高いが電気抵抗も高くなるという問題があった。
【0004】
一方、Ag(銀)の超微粒子等の金属微粒子を使用して、透明基材上に低温で透明導電膜を形成して、より電気抵抗の低い透明導電膜を形成する方法が知られている(例えば、特許文献3参照)。この方法ではAg超微粒子を用いることにより電気抵抗の低い膜を得ることは可能であるが、得られる膜は十分な透過率を有していないという問題があった。
【0005】
上記の問題を解消するために、インジウム、スズ、アンチモン、アルミニウム、及び亜鉛の金属の微粒子を含んでなる塗布液を基材に塗布後、これら金属が酸化しない雰囲気中で焼成し、次いで、酸化性ガス雰囲気中で焼成することによりこれらの金属を酸化させて透明導電膜を形成する方法が知られている(例えば、特許文献4及び5参照)。
【特許文献1】特開平07−242842号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2003−249131号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2001−176339号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開2005−183054号公報(特許請求の範囲)
【特許文献5】特開2005−243249号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、上記従来技術における透明導電膜を形成するための塗布液中に含まれる微粒子の表面には分散剤が吸着しており、この分散剤により、微粒子が塗布液中で安定に分散している。これらの塗布液により透明導電膜を形成する際には、基材上に塗布液を塗布して得られた塗膜の熱処理を行う。この熱処理により、吸着している分散剤が熱分解して、微粒子表面から脱離・消失し、その後に微粒子同士の焼結が進行し、導電性が発現する。しかしながら、特許文献4や特許文献5に開示されている透明導電膜形成用の塗布液を用いて透明導電膜を形成する場合、所定の温度で加熱処理を行っても、金属が酸化しない雰囲気中で焼成するため、微粒子表面に吸着している分散剤の脱離や熱分解が促進されず、微粒子同士の焼結の進行が不十分であるため、結果として、得られる透明導電膜の電気抵抗が高くなることがあるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題点について、発明者らが鋭意検討を行った結果、微粒子表面に吸着させる分散剤を脂肪酸及び/又は脂肪酸エステルとし、さらに該脂肪酸及び/又は脂肪酸エステルの総炭素数(C)をC6以上C20以下の範囲とすれば、得られる微粒子は塗布液中で安定に分散すると共に、低温(好ましくは、300℃以下)の焼成でも分散剤の脱離や熱分解が促進され、その結果、微粒子同士の焼結が十分に進行し、得られる透明導電膜の電気抵抗が低くなることを見出した。本発明は、このような知見に基づきなされたものである。
【0008】
すなわち、本発明の透明導電膜形成用塗布液、透明導電膜の形成方法及び透明電極は以下の点を特徴とする。
【0009】
(1)透明導電膜形成用塗布液は、インジウム、スズ、アンチモン、アルミニウム、及び亜鉛から選ばれた1種類以上の金属を含む微粒子が分散されている透明導電膜形成用の塗布液であって、該微粒子の表面に吸着する分散剤が、総炭素数6〜20の脂肪酸、総炭素数6〜20の脂肪酸エステル、又は該脂肪酸と該脂肪酸エステルとの組み合わせ物であることを特徴とする。
【0010】
前記金属を含む微粒子には、前記金属の1種類以上からなる金属の微粒子、これら金属の2種以上からなる合金の微粒子、これら金属の1種類以上の酸化物の微粒子、及びこれら微粒子の混合物が含まれるものとする。前記混合物には、金属の微粒子同士の混合物、合金の微粒子同士の混合物、金属酸化物同士の混合物、及びこれら金属、合金及び金属酸化物の微粒子の2種類以上の混合物が含まれるものとする。
【0011】
また、前記分散剤において、総炭素数が6未満であると微粒子の分散性が悪くなり、また、総炭素数が20を超えると焼成時に分散剤の熱分解性が悪くなる。
【0012】
(2)透明導電膜の形成方法は、前記の透明導電膜形成用塗布液を基材に塗布し、乾燥及び焼成することを特徴とする。
【0013】
(3)前記焼成を、真空雰囲気、不活性ガス雰囲気、還元性ガス雰囲気、及び酸化性ガス雰囲気から選ばれる雰囲気中で行うことを特徴とする。
【0014】
(4)前記焼成を、最初に真空雰囲気、不活性ガス雰囲気、及び還元性ガス雰囲気から選ばれる雰囲気中で行い、次いで酸化性ガス雰囲気中で行うことを特徴とする。
【0015】
(5)前記塗布が、インクジェット印刷により行われることを特徴とする。
【0016】
(6)透明電極は、前記の方法により形成した透明導電膜からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、低温での焼成であっても、微粒子表面に吸着する分散剤の脱離・消失及び熱分解が促進され、その結果、微粒子同士の焼結が十分に進行するため、電気抵抗の低い透明導電膜が得られると共に、この透明導電膜からなる優れた透明電極を提供することができるという効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の透明導電膜形成用塗布液は、インジウム、スズ、アンチモン、アルミニウム、及び亜鉛から選ばれる1種類以上の金属を、金属自体として、合金として、酸化物として、又はこれらの任意の混合物として含んでなる微粒子が溶媒中に分散されてなるものである。この酸化物としては、例えばインジウム、スズ、アンチモン、アルミニウム、及び亜鉛から選ばれた1種類以上の金属を含む酸化物、及びこれらの金属酸化物の混合物を挙げることができる。2種以上の金属を含む酸化物には、例えばドーピングした金属酸化物として、SnドープIn(ITO)、SbドープSnO(ATO)、ZnドープIn(IZO)及びAlドープZnO(AZO)等から選ばれた金属酸化物、及びこれらの金属酸化物の混合物を挙げることがきる。
【0019】
これらの微粒子には、塗布液中で安定に分散するため、その表面に分散剤が吸着しており、この分散剤は、総炭素数6〜20の脂肪酸及び/又は脂肪酸エステルであることが好ましい。また、前記脂肪酸、脂肪酸エステルは、飽和脂肪酸、飽和脂肪酸エステルであってもよいし、不飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸エステルであってもよい。また、エステルとしては、炭素数1〜6の低級アルキルエステル(このアルキル基は、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、及びヘキシル基から選ばれる)、好ましくは炭素数1〜3のアルキルエステルを用いることができ、脂肪酸エステルの総炭素数が6〜20になるようにアルキル基を選べば良い。
【0020】
この分散剤は、総炭素数6〜20の脂肪酸及び/又は脂肪酸エステルであれば特に制限されない。脂肪酸としては、例えば、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、パルミトイル酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、バクセン酸、エレステアリン酸、ノナデカン酸、イコサン酸等が挙げられる。脂肪酸エステルとしては、例えば、ペンタン酸メチル、ペンタン酸エチル、ヘキサン酸メチル、ヘキサン酸エチル、ヘプタン酸メチル、ヘプタン酸エチル、オクタン酸メチル、オクタン酸エチル、ノナン酸メチル、ノナン酸エチル、デカン酸メチル、デカン酸エチル、ウンデカン酸メチル、ウンデカン酸エチル、ドデカン酸メチル、ドデカン酸エチル、トリデカン酸メチル、トリデカン酸エチル、テトラデカン酸メチル、テトラデカン酸エチル、テトラデカン酸イソプロピル、ペンタデカン酸メチル、ペンタデカン酸エチル、ヘキサデカン酸メチル、ヘキサデカン酸エチル、パルミトイル酸メチル、パルミトイル酸エチル、ヘプタデカン酸メチル、ヘプタデカン酸エチル、オクタデカン酸メチル、オクタデカン酸エチル、オレイン酸メチル、オレイン酸エチル、リノール酸メチル、リノレン酸メチル、バクセン酸メチル、エレステアリン酸メチル、ノナデカン酸メチル等が挙げられる。
【0021】
分散剤が、総炭素数6未満の脂肪酸及び/又は脂肪酸エステルであると、塗布液中での金属、合金、金属酸化物、及びこれらの混合物の微粒子の分散が不安定となるため、塗布液中の微粒子が沈降することがあり、その結果、良好な透明導電膜を得ることができない。一方、分散剤が、総炭素数20より大きい脂肪酸及び/又は脂肪酸エステルであると、300℃以下の焼成では、分散剤の熱分解が不十分となり、分散剤又は分散剤起源の炭素質の物質が残留することがある。このため、得られる透明導電膜の電気抵抗は高くなり、また、透明性も低くなってしまう。
【0022】
本発明で使用される微粒子の作製方法は、特に制限されず、例えば、ガス中蒸発法であっても、湿式還元法、有機金属化合物の高温雰囲気へのスプレーによる熱還元法等であってもよい。
【0023】
上記作製方法のうちのガス中蒸発法を代表例として説明すれば、この方法は、ガス雰囲気中で且つ溶剤の蒸気の共存する気相中で金属、合金又は金属酸化物を蒸発させ、蒸発した金属等を均一な微粒子に凝縮させて溶剤中に分散せしめ、分散液を得る方法である(例えば、特許第2561537号公報参照)。このガス中蒸発法により、粒径50nm以下の粒度の揃った微粒子を作製することが可能である。この微粒子を原料として、各種用途に適したようにするためには、最終工程で有機溶媒置換を行えばよい。また、この微粒子の分散安定性を増すためには、所定の工程で分散剤を添加すればよい。これにより、微粒子が個々に独立して均一に分散され、且つ、流動性のある状態が保持されるようになる。
【0024】
前記ガス中蒸発法における有機溶媒としては、使用する金属、合金、金属酸化物等の種類によって適宜選択すればよく、例えば、次のようなものがある。メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、デカノール、シクロヘキサノール、及びテルピネオール等のアルコール類、エチレングリコール、及びプロピレングリコール等のグリコール類、アセトン、エチルケトン、メチルエチルケトン、及びジエチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、及び酢酸ベンジル等のエステル類、メトキシエタノール、及びエトキシエタノール等のエーテルアルコール類、ジオキサン、及びテトラヒドロフラン等のエーテル類、N,N−ジメチルホルムアミド等の酸アミド類、ベンゼン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン、及びドデシルベンゼン等の芳香族炭化水素類、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、オクタデカン、ノナデカン、エイコサン、及びトリメチルペンタン等の長鎖アルカン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、及びデカリン等の環状アルカン等のような常温で液体のものを適宜選択して使用することができる。この有機溶媒中には水も含まれるものとする。
【0025】
ガス中蒸発法において、金属、合金、金属酸化物の微粒子を分散する有機溶媒としては、上記のような溶媒を使用できるが、好ましくは、デカリンや、トルエン、キシレン、ベンゼン及びテトラデカン等のような無極性溶媒、アセトン及びエチルケトン等のようなケトン類、メタノール、エタノール、プロパノール及びブタノール等のようなアルコール類である。
【0026】
前記有機溶媒は、単独で用いても、混合溶媒の形で用いてもよい。例えば、長鎖アルカンの混合物であるミネラルスピリットであってもよい。
【0027】
前記溶媒の使用量は、使用する金属、合金、金属酸化物等の微粒子の種類、用途に応じて、塗布しやすく、かつ所望の膜厚を得ることができるように適宜設定すればよい。例えば、微粒子1〜70wt%の濃度になるように、溶媒を使用すればよく、この微粒子濃度は、分散液製造後でも溶媒による希釈や溶媒の減圧留去による濃縮等により随時調整可能である。
【0028】
本発明の透明導電膜形成用塗布液を塗布する基材は、透明基材であれば特に制限されず、例えば、ガラス基材や、アクリル樹脂基材、ポリイミド樹脂基材、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等の低温焼成が可能な有機樹脂材料からなる基材であってもよいし、有機系カラーフィルターのような有機物の膜が成膜された基材であってもよい。これらを単独で又は貼り合わせて基材として用いることができる。この基材の形状としては、特に制限されず、例えば、平板、立体物、フィルム等であってもよい。なお、これらの基材は、本発明の塗布液を塗布する前に、純水や超音波等を用いて洗浄することが好ましい。
【0029】
本発明の塗布液の、基材への塗布方法としては、例えば、スピンコート法、スプレー法、浸漬法、ロールコート法、スクリーン印刷法、コンタクトプリント法、スリットコート法、インクジェット法(インクジェット印刷法)等が挙げられる。塗布は、所望の膜厚を得ることができれば、一度塗りでも重ね塗りでもよい。
【0030】
本発明の塗布液の基材への塗布方法としては、上記の塗布方法のなかでも、インクジェット印刷法がより好ましい。このインクジェット印刷法は、塗布する基材の必要な領域に必要な量だけ塗布することが可能であるため、結果として、材料の利用効率が高くなり好ましい。インクジェット印刷法ではまた、基材全面に塗布し、形成された塗膜を焼成して透明導電膜を得た後、エッチング等の処理により、基材中の透明導電膜の不要な箇所を除去する方法と比較すると、透明導電膜を形成する工程の簡略化が可能であり、また、エッチング等の工程で発生する廃液の問題を解消することができる。
【0031】
本発明における透明導電膜形成用塗布液は、前記の微粒子が溶媒中に分散してなるものであり、この溶媒の種類は特に限定されないが、塗布法としてインクジェット印刷法を用いる場合には、インクジェット印刷用のインク液を調製する際に、ヘッド材料(表面コート材を含む)との相性(例えば、ヘッド材料を腐食、溶解等しないという物性を有すること)や、ヘッド内での金属微粒子の凝集、粒子詰まりを考慮して、適切な溶媒を選定する必要がある。そのためには、デカヒドロナフタレン、テトラヒドロナフタレン、オクチルベンゼン、ドデシルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカンを好ましく使用することができる。これらの溶媒の沸点は180℃以上であるために、インクジェット印刷法による塗布の際に発生させる微小の液滴が吐出される前に乾くことがなく、液滴を滴下するためのノズルの目詰まり等を起こしにくいという利点がある。
【0032】
本発明の透明導電膜の形成方法では、前記の塗布液を基材に塗布した後、真空雰囲気、不活性ガス雰囲気、還元性ガス雰囲気、及び酸化性ガス雰囲気から選ばれた雰囲気中で300℃以下で焼成を行う。
【0033】
前記真空雰囲気としては、例えば、1×10−2Pa〜1×10Pa、好ましくは1×10−1Pa〜1×10Paの圧力下の雰囲気であり、温度180〜300℃で行うことができる。
【0034】
前記不活性ガス雰囲気としては、例えば、希ガス、二酸化炭素及び窒素からなる雰囲気であることが好ましい。この不活性ガス雰囲気中での焼成温度は、180〜300℃であることが好ましい。
【0035】
還元性ガス雰囲気としては、例えば、一酸化炭素及び低級アルコール等のガスを含んでいる雰囲気、水素ガス及び活性水素ガス雰囲気から選ばれる少なくとも1種の雰囲気であることが好ましい。この還元性ガス雰囲気中での焼成温度は、180〜300℃であることが好ましい。
【0036】
また、上記酸化性ガス雰囲気としては、大気(空気)、酸素ガス、酸素原子含有ガス、水蒸気、又は水蒸気含有ガス等のガスを含んでいる雰囲気から選ばれる少なくとも1種の雰囲気であることが好ましい。この酸化性ガス雰囲気中での焼成温度は、180〜300℃であることが好ましい。
【0037】
本発明によれば、前記の塗布液を基材に塗布した後、前記真空雰囲気、不活性ガス雰囲気、及び還元性ガス雰囲気から選ばれる雰囲気中で300℃以下で焼成を行い、次いで酸化性ガス雰囲気中で300℃以下で焼成を行うことがより好ましい。この場合、特に、前記真空雰囲気、不活性ガス雰囲気及び還元性ガス雰囲気中での焼成温度が300℃を超えると、得られる透明導電膜の導電性が低下することがある。この理由はまだ明らかではないが、前記真空雰囲気、不活性ガス雰囲気及び還元性ガス雰囲気中に不純物として微量に含まれる酸素の存在によって、後述するような、金属の状態を介しての微粒子同士の燒結が妨げられるためであると推定される。以下、これらの焼成工程について説明する。
【0038】
本発明によれば、前記塗布液により形成した塗膜を、まず、真空雰囲気、不活性ガス雰囲気、及び還元性ガス雰囲気から選ばれる雰囲気中で300℃以下の焼成を行う。微粒子が金属及び/又は合金からなる場合、前記の雰囲気中で焼成を行うことにより金属、合金の微粒子の酸化を抑制しながら、微粒子表面に吸着する分散剤を熱分解させることができる。また、微粒子が酸化物である場合には、前記雰囲気で焼成することにより、微粒子表面が還元されて薄い金属の表面層が形成されると同時に、微粒子表面に吸着する分散剤を熱分解させることができる。このため、微粒子同士の焼結が金属の状態を介して進行するので、より焼結が進行しやすくなる。さらに、微粒子表面に吸着している分散剤が総炭素数6〜20の脂肪酸及び/又は脂肪酸エステルであるため、焼成の行われる雰囲気が真空雰囲気、不活性ガス雰囲気、及び還元性ガス雰囲気であっても、分散剤の熱分解は容易に進行する。なお、真空雰囲気、不活性ガス雰囲気、還元性ガス雰囲気での焼成は、これらの雰囲気から選ばれる1種類のみで行ってもよいが、真空雰囲気での焼成後に、さらに、不活性ガス雰囲気や還元性ガス雰囲気で行ってもよいし、真空引きを行いながら、不活性ガスや還元性ガスを導入して焼成を行ってもよい。
【0039】
真空雰囲気、不活性ガス雰囲気、還元ガス雰囲気中で300℃以下の焼成を行った後、さらに、酸化性ガス雰囲気中で300℃以下の焼成を行う。この酸化性ガス雰囲気での焼成により、膜中の金属成分や合金成分が酸化するため、最終的に金属酸化物膜が得られ、膜の透明化を図ることができる。
【0040】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に詳細に説明する。
【実施例1】
【0041】
ヘリウムガス圧力5×10−3Paの条件下で高周波誘導加熱を用いるガス中蒸発法によりSnを6重量%含むIn−Sn合金微粒子を作製する際に、生成過程のIn−Sn合金微粒子にオレイン酸メチル(C19の脂肪酸エステル)とドデカン酸メチル(C13の脂肪酸エステル)との7:1(容量比)の蒸気を接触させた後、冷却捕集して、平均粒子径4nmのIn−Sn合金の微粒子が独立した状態で分散している分散液を調製した。この分散液1容量に対してアセトンを5容量加え、撹拌した後、静置した。極性のアセトンの作用により液中の微粒子は沈降した。2時間静置後、上澄みを除去し、再び最初と同じ量のアセトンを加え撹拌し、静置した。2時間静置後、上澄みを除去した。残った沈降物にデカヒドロナフタレンを添加した後、蒸留によりアセトンを留去し、平均粒径4nmのIn−Sn合金微粒子の分散液である塗布液を得た。
【0042】
この塗布液を、インクジェット装置により、ガラス基材上に塗布し、塗布膜を作製した。この塗布膜を230℃で10分間、圧力8Paの真空雰囲気中で焼成した。次いで、真空焼成後の膜を、230℃で60分間、大気(空気)雰囲気中で焼成した。
【0043】
得られた膜の膜厚は240nmであり、表面抵抗230Ω/□(比抵抗5.5×10−3Ω・cm)であった。また、得られた膜の、波長550nmの透過率は95%を示した。
【実施例2】
【0044】
ヘリウムガス圧力5×10−3Paの条件下で高周波誘導加熱を用いるガス中蒸発法によりSnを6重量%含むIn−Sn合金微粒子を作製する際に、生成過程のIn−Sn合金微粒子にオレイン酸メチル(C19の脂肪酸エステル)の蒸気を接触させた後、冷却捕集して、平均粒子径4nmのIn−Sn合金の微粒子が独立した状態で分散している液を調製した。この液1容量に対してアセトンを5容量加え、撹拌した後、静置した。極性のアセトンの作用により液中の微粒子は沈降した。2時間静置後、上澄みを除去し、再び最初と同じ量のアセトンを加え撹拌し、静置した。2時間静置後、上澄みを除去した。残った沈降物にデカヒドロナフタレンを添加した後、蒸留によりアセトンを留去し、平均粒径4nmのIn−Sn合金微粒子の分散液である塗布液を得た。
【0045】
この塗布液を、インクジェット装置により、ガラス基材上に塗布し、塗布膜を作製した。この塗布膜を230℃で10分間、圧力8Paの真空雰囲気で焼成した。次いで、真空焼成後の膜を、230℃で60分間、大気(空気)雰囲気で焼成した。
【0046】
得られた膜の膜厚は290nmであり、表面抵抗480Ω/□(比抵抗1.4×10−2Ω・cm)であった。また、得られた膜の、波長550nmの透過率は95%を示した。
【実施例3】
【0047】
ヘリウムガス圧力5×10−3Paの条件下で高周波誘導加熱を用いるガス中蒸発法によりSnを6重量%含むIn−Sn合金微粒子を作製する際に、生成過程のIn−Sn合金微粒子にオレイン酸エチル(C20の脂肪酸エステル)の蒸気を接触させた後、冷却捕集して、平均粒子径4nmのIn−Sn合金の微粒子が独立した状態で分散している液を調製した。この液1容量に対してアセトンを5容量加え、撹拌した後、静置した。極性のアセトンの作用により液中の微粒子は沈降した。2時間静置後、上澄みを除去し、再び最初と同じ量のアセトンを加え撹拌し、静置した。2時間静置後、上澄みを除去した。残った沈降物にデカヒドロナフタレンを添加した後、蒸留によりアセトンを留去し、平均粒径4nmのIn−Sn合金微粒子の分散液である塗布液を得た。
【0048】
この塗布液を、インクジェット装置により、ガラス基材上に塗布し、塗布膜を作製した。この塗布膜を230℃で10分間、圧力8Paの真空雰囲気で焼成した。次いで、真空焼成後の膜を、230℃で60分間、大気(空気)雰囲気で焼成した。
【0049】
得られた膜の膜厚は200nmであり、表面抵抗500Ω/□(比抵抗1.0×10−2Ω・cm)であった。また、得られた膜の、波長550nmの透過率は95%を示した。
【実施例4】
【0050】
ヘリウムガス圧力5×10−3Paの条件下で高周波誘導加熱を用いるガス中蒸発法によりSnを6重量%含むIn−Sn合金微粒子を作製する際に、生成過程のIn−Sn合金微粒子にペンタン酸メチル(C6の脂肪酸エステル)の蒸気を接触させた後、冷却捕集して、平均粒子径4nmのIn−Sn合金の微粒子が独立した状態で分散している液を調製した。この液1容量に対してアセトンを5容量加え、撹拌した後、静置した。極性のアセトンの作用により液中の微粒子は沈降した。2時間静置後、上澄みを除去し、再び最初と同じ量のアセトンを加え撹拌し、静置した。2時間静置後、上澄みを除去した。残った沈降物にデカヒドロナフタレンを添加した後、蒸留によりアセトンを留去し、平均粒径4nmのIn−Sn合金微粒子の分散液である塗布液を得た。
【0051】
この塗布液を、インクジェット装置により、ガラス基材上に塗布し、塗布膜を作製した。この塗布膜を230℃で10分間、圧力8Paの真空雰囲気で焼成した。次いで、真空焼成後の膜を、230℃で60分間、大気(空気)雰囲気で焼成した。
【0052】
得られた膜の膜厚は210nmであり、表面抵抗300Ω/□(比抵抗6.3×10−3Ω・cm)であった。また、得られた膜の、波長550nmの透過率は95%を示した。
(比較例1)
【0053】
ヘリウムガス圧力5×10−3Paの条件下で高周波誘導加熱を用いるガス中蒸発法によりSnを6重量%含むIn−Sn合金微粒子を作製する際に、生成過程のIn−Sn合金微粒子にブタン酸メチル(C5の脂肪酸エステル)の蒸気を接触させた後、冷却捕集して、平均粒子径4nmのIn−Sn合金の微粒子が独立した状態で分散している液を調製した。この液1容量に対してアセトンを5容量加え、撹拌した後、静置した。極性のアセトンの作用により液中の微粒子は沈降した。2時間静置後、上澄みを除去し、再び最初と同じ量のアセトンを加え撹拌し、静置した。2時間静置後、上澄みを除去した。残った沈降物にデカヒドロナフタレンを添加した後、蒸留によりアセトンを留去し、平均粒径4nmのIn−Sn合金微粒子の分散液を得た。しかしながら、この分散液中の微粒子の分散は不安定であり、数時間後に沈降が発生し、透明導電膜形成用の塗布液としての使用に耐えなかった。
(比較例2)
【0054】
ヘリウムガス圧力5×10−3Paの条件下で高周波誘導加熱を用いるガス中蒸発法によりSnを6重量%含むIn−Sn合金微粒子を作製する際に、生成過程のIn−Sn合金微粒子にドコサン酸メチル(C23の脂肪酸エステル)の蒸気を接触させた後、冷却捕集して、平均粒子径4nmのIn−Sn合金の微粒子が独立した状態で分散している液を調製した。この液1容量に対してアセトンを5容量加え、撹拌した後、静置した。極性のアセトンの作用により液中の微粒子は沈降した。2時間静置後、上澄みを除去し、再び最初と同じ量のアセトンを加え撹拌し、静置した。2時間静置後、上澄みを除去した。残った沈降物にデカヒドロナフタレンを添加した後、蒸留によりアセトンを留去し、平均粒径4nmのIn−Sn合金微粒子の分散液である塗布液を得た。
【0055】
この塗布液を、インクジェット装置により、ガラス基材上に塗布し、塗布膜を作製した。この塗布膜を300℃で10分間、圧力8Paの真空雰囲気で焼成した。次いで、真空焼成後の膜を、300℃で60分間、大気雰囲気で焼成した。
【0056】
得られた膜の膜厚は210nmであり、表面抵抗3×10Ω/□(比抵抗6.3Ω・cm)であり、導電性に劣っていた。また、得られた膜の、波長550nmの透過率は55%と低い値を示した。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明によれば、低い焼成温度であっても、微粒子表面に吸着する分散剤の脱離及び熱分解が促進され、その結果、微粒子同士の焼結が十分に進行するため、電気抵抗の低い、かつ透明性に優れた透明導電膜が提供できると共に、この透明導電膜からなる電気抵抗の低い、かつ透明性に優れた透明電極を提供することができるので、液晶ディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ用の電極等の電子工業等の技術分野で利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インジウム、スズ、アンチモン、アルミニウム、及び亜鉛から選ばれた1種類以上の金属を含む微粒子が分散されている透明導電膜形成用の塗布液であって、該微粒子の表面に吸着する分散剤が、総炭素数6〜20の脂肪酸、総炭素数6〜20の脂肪酸エステル、又は該脂肪酸と該脂肪酸エステルとの組み合わせ物であることを特徴とする透明導電膜形成用塗布液。
【請求項2】
請求項1に記載の透明導電膜形成用塗布液を基材に塗布し、乾燥及び焼成して透明導電膜を形成することを特徴とする透明導電膜の形成方法。
【請求項3】
前記焼成を、真空雰囲気、不活性ガス雰囲気、還元性ガス雰囲気、及び酸化性ガス雰囲気から選ばれた雰囲気中で行うことを特徴とする請求項2に記載の透明導電膜の形成方法。
【請求項4】
前記焼成を、最初に真空雰囲気、不活性ガス雰囲気、及び還元性ガス雰囲気から選ばれた雰囲気中で行い、次いで酸化性ガス雰囲気中で行うことを特徴とする請求項2又は3に記載の透明導電膜の形成方法。
【請求項5】
前記塗布が、インクジェット印刷により行われることを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1項に記載の透明導電膜の形成方法。
【請求項6】
請求項2乃至5のいずれか1項に記載の方法により形成した透明導電膜からなることを特徴とする透明電極。

【公開番号】特開2008−258050(P2008−258050A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−100245(P2007−100245)
【出願日】平成19年4月6日(2007.4.6)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】