説明

透明着色品

【課題】携帯電話の透視窓等において、携帯電話の外装色との調和のある色付けが可能で、しかも、色シフト性を有して携帯電話等の意匠性を向上させることができる透明着色品を提供すること。
【解決手段】透明基材12の裏面に、干渉多層膜14、光吸収薄膜16及び保護薄膜18を、順次接して形成した透明着色品。干渉多層膜14は、それぞれ誘電体材料で形成された高屈折率膜14aと低屈折率膜14bとの組薄膜を積層して色シフト性着色機能を有する。また、光吸収薄膜16は、金属材料で形成して光透過率調節機能を有する。さらに、保護薄膜18は、光吸収薄膜16の酸化防止乃至耐擦傷性付与の機能を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話における透視窓等に好適な透明着色品に関する。ここでは、透明着色品として、携帯電話における透視窓を例に採り説明する。
【背景技術】
【0002】
蓋付き携帯電話は、蓋閉の状態で、蓋に形成された透視窓を介して、日付・電波・電池状態さらには着信情報等の基本情報を、ディスプレー画面(通常、EL画面)の点灯時に確認することができるタイプが普及しつつある。
【0003】
そして、そのような透視窓には、従来、透明基材の裏面に金属薄膜を蒸着して、光透過率を設定値に調節したグレー系のものが殆どであった。
【0004】
他方、携帯電話の外装はカラフルなものになってきている。
【0005】
このため、透視窓の色と、携帯電話の本体色(外装色)との調和(ハーモニー)を採ることが困難で、意匠性に制限があった。
【0006】
本発明の特許性に影響を与えるものではないが、特許文献1において、下記構成の色シフト性多層干渉膜(干渉多層膜)が提案されている(特許請求の範囲)。なお、当該色シフト性多層干渉膜は、薄片として塗料やインクのような液体媒体中に分散され、次いで対象物や紙に適用されて、入射光の角度のシフトや見る角度のシフトによる色の変動を達成することができる(要約)。
【0007】
「色シフト性多層干渉膜であって、
第一吸収層;
第一吸収層上の第1誘電層;
第一誘電層上の反射層;
反射層上の、前記第1誘電層と同一の材料からなる第2誘電層;及び
第2誘電層上の、前記第1吸収層と同一の材料からなる第2吸収層:
を含んでおり、
前記第1及び第2誘電層が、約1.65以上の屈折率、及び入射光又は見ることの角度の変化としての色シフトを提供する設計波長での光学的厚さを有していることを特徴とする色シフト性多層干渉膜。」
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2002−530712号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記にかんがみて、携帯電話の透視窓等において、携帯電話の外装色との調和のある色付けが可能で、しかも、色シフト性を有して携帯電話等の意匠性を向上させることができる透明着色品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題(問題点)を解決するために、鋭意開発に努力をした結果、下記構成の透明着色品に想到した。
【0011】
透明基材の裏面に、
2種類以上の誘電体材料で形成された組薄膜を積層させて色シフト性の着色機能を有する干渉多層膜、及び、
光吸収性を有する金属材料により形成され、光透過率調節機能を有する光吸収薄膜、
が順次接して形成されてなることを特徴とする。
【0012】
上記構成により、透明着色品には、干渉多層膜で色シフト(玉虫色)機能が付与され、さらに、光吸収薄膜で光透過率調節機能が付与される。これにより、意匠性に富む着色が可能となり、本発明の透明着色品は、携帯電話の透視窓等に適用して、意匠性を向上させることができる。
【0013】
なお、上記組薄膜は、3〜4種類の組み合わせでもよいが、通常、高屈折率膜と低屈折率膜との2種類からなるものとする。干渉多層膜の膜設計・成膜が容易となる。
【0014】
上記構成の透明着色品において、光吸収薄膜の外側面に接して透明な保護薄膜を形成することが望ましい。金属材料で形成されている光吸収薄膜の酸化防止および耐擦傷性付与のためである。保護薄膜は、シリコーン樹脂系のものとしてもよいが、生産性の見地から、干渉多層膜の組薄膜を形成するのと同一装置で成膜可能な蒸着膜で形成することが望ましい。
【0015】
上記各構成の透明着色品において、前記透明基材が光透過率80%以上で、前記高屈折率膜の屈折率(n)が1.8以上、前記低屈折率膜のnが1.6以下とすることが望ましい。
【0016】
上記構成の透明着色品において、前記透明基材を有機ガラスで形成し、前記高屈折率膜をZrO、Al、TiO、Ta、Cr及びITO(Indium Tin oxide)のいずれか1種又は2種で形成し、前記低屈折率膜及び前記保護薄膜をSiO、SiO又はそれらの複合酸化物で形成し、また、前記光吸収薄膜をCr、In、Ni、Fe、Ti、SnおよびAlのいずれかで形成する構成とすることが望ましい。
【0017】
さらに、干渉多層膜において、高屈折率膜をZrOで、前記低屈折率膜をSiOでそれぞれ形成した繰返し多層膜とすることが望ましい。当該干渉多層膜は、可視光域(380〜780nm)で透明膜となる。
【0018】
また、透明基材は、ポリアクリル(メタクリル)樹脂、ポリカーボネート、PET、又はそれらの積層体で形成することが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の透明着色品を適用可能な透視窓を有する蓋体を備えた携帯電話の斜視図である。
【図2】図1の2−2線部位断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0021】
各構成について詳細に説明する。
【0022】
本実施形態の基本構成は、透明基材12の裏面に、干渉多層膜14、光吸収薄膜16及び保護薄膜18を、順次接して形成したものである。以下、各構成要素について、説明する。
【0023】
(1)透明基材12:
透明基材は、1)有機透明基材でも、2)無機透明基材でもよい。通常、軽量化、成形性、加工性等の見地から下記有機透明基材を使用する。透明基材は、光透過率(可視平均)が80%以上、望ましくは85%以上、さらに望ましくは90%以上のものを使用する。なお、有機透明基材の材料名の後の数値は、光透過率および屈折率(20℃)である。また、透明基材の形態は、板材や成形品に限らず、可撓性を有するフィルムやシートであってもよい。透明基材の肉厚は、50μm〜10mmとする。
【0024】
<有機透明基材>
ポリメチルメタクリレート(PMMA):92%、1.49、
スチレンアクリロニトリル(SAN):90%、1.57、
ポリカーボネート(PC):89%、1.58、
ポリスチレン(PS):88%、1.59
ポリエチレンテレフタレート(PET):90%、1.52
【0025】
(2)干渉多層膜14:
干渉多層膜は、2種類以上の誘電体材料で形成された組薄膜を積層させて色シフト性の着色機能を有するものである。
【0026】
通常、高屈折率膜14aと低屈折率膜14bの組薄膜として、該組薄膜を積層させて、干渉多層膜が、色シフト性の着色機能を有するように光学膜厚設計したものとする。そして、図例の如く、高屈折率膜14aを透明基材12に接するように形成するが、低屈折率膜14bを透明基材12に接するように形成してもよい。
【0027】
上記組薄膜の繰り返し数は、1でもよいが、2〜4が望ましい。組薄膜の繰り返し数が4を超えると、干渉多層膜(蒸着膜)が割れ易くなる。
【0028】
繰り返し数が1では色シフト性を出し難く、逆に、繰り返し数が多いと、干渉多層膜14の膜厚が厚くなり、所要の光透過率を確保し難くなる。
【0029】
また、各膜厚は、干渉多層膜に要求される色調により異なり、50〜150nmの範囲から適宜設定する。通常、光学膜厚:λ/4になるように設定する。適宜、λ/2、λ/8とすることもできる。
【0030】
例えば、高屈折率膜/低屈折率膜=ZrO(n:1.96)/SiO(n:1.46)、の組み合わせとする場合において、色調をλ(中心波長)=450nmのブルー系とするとき、λ/4=112.5nmとなる。すると、ZrOの膜厚:112.5nm/1.96=57.398、SiOの膜厚:112.5nm/1.46=77.0548nmとなる。
【0031】
上記高・低屈折率膜を形成する誘電体材料としては、下記のものを好適に使用可能である。表1に各誘電体材料の成膜真空度、加熱温度及び屈折率を示す。
【0032】
1)高屈折率膜誘電体材料
ジルコニア(ZrO)、アルミナ(Al)、チタニア(TiO)、五酸化二タンタル(Ta)、三酸化二クロム(Cr)又はITO(Indium Tin oxide)
【0033】
2)低屈折率膜誘電体材料
二酸化ケイ素(SiO)、一酸化ケイ素(SiO)又はそれらの複合酸化物
なお、高屈折率膜誘電体材料の内で、高屈折率のもの(例えばZrO)と低屈折率のもの(Al)とを組合わせて組薄膜とすることも可能である。
【0034】
この干渉多層膜は、通常、低温成膜可能な真空蒸着で形成するが、透明基材が耐熱性を有する場合、スパッタリング、イオンプレーティングでもよい。
【0035】
真空蒸着の場合、例えば、成膜開始真空度:0.9mPa、電子ビーム蒸発、成膜時基材温度:60±30℃で行なう。
【0036】
【表1】

【0037】
(3)光吸収薄膜16:
光吸収薄膜16は、光吸収性を有する金属材料により形成され、光透過率調節機能を有するものである。
【0038】
光吸収性を有する金属材料としては、表2に示すものを好適に使用できる。表2に、各金属材料の成膜真空度、加熱温度および屈折率を示す。
【0039】
【表2】

【0040】
そして、この光吸収薄膜の厚さは、金属材料および設計の光透過率により異なる。例えば、光吸収薄膜をCrで形成する場合、透明着色品の設計光透過率10%の場合、10nmとする。表3にCrの各波長における屈折率および吸収係数を示す。
【0041】
【表3】

【0042】
この光吸収薄膜の成膜も、上記干渉多層膜と同様にして行なう。
【0043】
(4)保護薄膜18:
光吸収薄膜16を形成する光吸収性金属が、硬度が高くて耐擦傷性が十分であり、酸化され難い場合は必然的ではない。しかし、耐擦傷性が不十分であったり、耐酸化性が不十分であったりする場合(設計光透過率が変わる。)は、必然的である。
【0044】
保護薄膜18の膜厚は、保護作用を奏する範囲で可及的に薄い方が望ましく、SiO膜の場合、5〜15nmとする。
【0045】
以上、携帯電話の透視窓用の成形品を例に採り説明したが、本発明の透明着色品は、携帯電話と同様、EL点灯ディスプレー画面を有する各種電子製品や、さらには、店舗のショウウィンド等への適用も期待できる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例に基づいて、さらに具体的に説明する。
【0047】
携帯電話の透視窓用のPMMA成形品(22mm×46mm×1mmt)(プラスチック基材)の裏面に、表4に示す膜厚設計仕様で、干渉多層膜(4層)、光吸収薄膜(単層)および保護薄膜を、前記表1・2の条件で真空蒸着を行なって、順次形成した。
【0048】
【表4】

【0049】
こうして製造した成形品(透明着色品)は、色シフト性を有するブルー系色調が付与され、ブルー系着色の携帯電話に組み込んだところ、全体がブルー系色調で統一された意匠性の高い製品が得られた。
【0050】
そして、携帯電話のディスプレー画面(ELパネル)が点灯時には、文字が透視窓を介して透視できるが、消灯時(常態時)には、透視窓はブルー系着色が観察できるのみで内部は透視不可であった。
【符号の説明】
【0051】
12 透明基材
14 干渉多層膜
16 光吸収薄膜
18 保護薄膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材の裏面に、
2種類以上の誘電体材料で形成された組薄膜を積層させて色シフト性の着色機能を有する干渉多層膜、及び、
光吸収性を有する金属材料により形成され、光透過率調節機能を有する光吸収薄膜、
が順次接して形成されてなることを特徴とする透明着色品。
【請求項2】
前記組薄膜が、高屈折率膜と低屈折率膜との2種類からなるものであることを特徴とする請求項1記載の透明着色品。
【請求項3】
さらに、前記光吸収薄膜の外側面に接して透明な保護薄膜が形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の透明着色品。
【請求項4】
前記透明基材が光透過率80%以上で、前記高屈折率膜の屈折率(n)が1.8以上、前記低屈折率膜のnが1.6以下であることを特徴とする請求項2又は3記載の透明着色品。
【請求項5】
前記高屈折率膜がZrO、Al、TiO、Ta、Cr及びITO(Indium Tin oxide)のいずれか1種又は2種で形成され、前記低屈折率膜及び前記保護薄膜がSiO、SiO又はそれらの複合酸化物で形成され、また、前記光吸収薄膜がCr、In、Ni、Fe、Ti、SnおよびAlのいずれかで形成されていることを特徴とする請求項4記載の透明着色品。
【請求項6】
前記干渉多層膜は、高屈折率膜がZrOで、前記低屈折率膜がSiOでそれぞれ形成された繰返し多層膜であることを特徴とする請求項5記載の透明着色品。
【請求項7】
前記透明基材が、ポリアクリル(メタクリル)樹脂、ポリカーボネート、PETからなる単層体、又は、それらの積層体であることを特徴とする請求項1〜6いずれか一記載の透明着色品。
【請求項8】
前記干渉多層膜、光吸収薄膜および保護薄膜が、いずれも電子ビーム蒸発を使用する真空蒸着により形成されたものであることを特徴とする請求項3〜7いずれか一記載の透明着色品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−191338(P2011−191338A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−55028(P2010−55028)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(596167055)株式会社エツミ光学 (5)
【Fターム(参考)】