説明

透明石鹸

【課題】本発明の解決すべき課題は、脂肪酸石鹸系石鹸において、エタノールを用いることなく、透明化を図ることにある。
【解決手段】
脂肪酸のナトリウム/カリウム塩を19〜30質量%と、
ポリオール及び/または糖を50〜60質量%と、
を含み、実質的に他のアニオン系界面活性剤及びエタノールを含まないことを特徴とする透明石鹸。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は透明石鹸、特に脂肪酸石鹸を主成分とする透明石鹸の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
透明石鹸は高級感を与え、商品価値が高いところから、特に洗顔用石鹸などに用いられている。
ところで、従来の透明石鹸は、脂肪酸石鹸を基剤とし、ショ糖、グリセリン、ソルビトール、プロピレングリコールなどの糖類またはポリオール類を透明化剤として使用し、枠ねり法あるいは機械ねり法により製造しているのが通例である。
【0003】
このようにして製造された透明石鹸の透明化の構造的メカニズムは、可視光線に対して光学的に不連続な大きさである不透明石鹸の繊維状微結晶群が、主として繊維軸に対して直角に分断されて、それが可視光線の波長以下に微細化されて石鹸が透明化しているものと考えられる。
【0004】
しかしながら、透明石鹸の製造時には、前記脂肪酸とともにポリオールあるいは糖等をエタノール水溶液で溶解する必要があり、製造直後の石鹸には大量のエタノールが残存する。このため、石鹸を数十日にわたり乾燥させ、エタノールの抜去を行う必要があった(特許文献1)。
【0005】
一方、エタノールを使用せずに透明石鹸を製造する試みが多々なされている。
たとえば特許文献2には、高級脂肪酸塩と共にアシルアミノ酸塩を配合した透明石鹸が開示されている。
これらは、エタノールを用いることなく透明石鹸を製造することが可能であり、製造工程の簡略化、製造期間の大幅な短縮が図られる。
しかしながら、いずれも組成の複雑化は避けられず、また高価な原料を用いる必要があり、ノンエタノールで透明な脂肪酸系石鹸を作ることが望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−202835
【特許文献2】特開平10−147800
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記従来技術に鑑みなされたものであり、その解決すべき課題は脂肪酸石鹸において、エタノールを用いることなく、透明化を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、脂肪酸石鹸と共存する保湿剤の検討を進めた結果、脂肪酸石鹸と多価アルコールないし糖を特定の割合とすると、エタノール及び他の界面活性剤を用いなくても優れた透明石鹸が得られることを見いだし、本発明を完成するにいたった。
【0009】
すなわち本発明にかかる透明石鹸は、脂肪酸のナトリウム及び/又はカリウム塩からなる脂肪酸石鹸部を20〜30質量%と、糖・ポリオール部を50〜60質量%と、を含み、他のアニオン系界面活性剤及びエタノールを実質的に含まないことを特徴とする。
また、前記透明石鹸において、脂肪酸塩が21〜25質量%であり、かつ脂肪酸の対イオンがNaであることが好適である。
また、前記透明石鹸において、脂肪酸塩が25〜29質量%であり、かつ脂肪酸の対イオンがモル比でNa/K=80/20〜90/10であることが好適である。
以下、本発明の構成について詳述する。
【0010】
[脂肪酸石鹸部]
本発明の石鹸で使用される、脂肪酸ナトリウムまたは脂肪酸のナトリウム/カリウムの混合塩における脂肪酸としては、炭素原子数が好ましくは8〜20、より好ましくは12〜18の、飽和または不飽和の脂肪酸であり、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。具体例としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、イソステアリン酸等や、それらの混合物である牛脂脂肪酸、ヤシ油脂肪酸、パーム核油脂肪酸等が挙げられる。
【0011】
脂肪酸ナトリウムの具体例としては、ラウリン酸ナトリウム、ミリスチン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、イソステアリン酸ナトリウム、牛脂脂肪酸ナトリウム、ヤシ油脂肪酸ナトリウム、パーム核油脂肪酸ナトリウム等が挙げられ、これらは単独で使用してもよいし、2つ以上を混合して使用してもよい。上記の脂肪酸ナトリウムの中でも、ラウリン酸ナトリウム、ミリスチン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、イソステアリン酸ナトリウムが好適に使用できる。
【0012】
脂肪酸のナトリウム/カリウムの混合塩の具体例としては、ラウリン酸ナトリウム/カリウム、ミリスチン酸ナトリウム/カリウム、パルミチン酸ナトリウム/カリウム、ステアリン酸ナトリウム/カリウム、オレイン酸ナトリウム/カリウム、イソステアリン酸ナトリウム/カリウム、牛脂脂肪酸ナトリウム/カリウム、ヤシ油脂肪酸ナトリウム/カリウム、パーム核油脂肪酸ナトリウム/カリウム等が挙げられ、これらは単独で使用してもよいし、2つ以上を混合して使用してもよい。上記の脂肪酸のナトリウム/カリウムの混合塩の中でも、ラウリン酸ナトリウム/カリウム、ミリスチン酸ナトリウム/カリウム、パルミチン酸ナトリウム/カリウム、ステアリン酸ナトリウム/カリウム、オレイン酸ナトリウム/カリウム、イソステアリン酸ナトリウム/カリウムが好適に使用できる。
【0013】
本発明の石鹸における、脂肪酸ナトリウムまたは脂肪酸のナトリウム/カリウムの混合塩の含有量は、20〜30質量%、特に21〜27質量%であることが好ましい。この含有量が20質量%未満であると、透明性が低下したり、凝固点が低くなるため、長期保存すると表面が溶融して、商品価値を損なうおそれがある。逆に、30質量%を超えると、やはり透明性が低下したり、使用後につっぱり感が生じるおそれがある。
このように、本発明において、エタノールを用いずに、脂肪酸の金属塩と糖・ポリオールのみで石鹸の透明化を図る場合、極めて狭い領域でのみ可能であることが理解される。
【0014】
また、脂肪酸のナトリウム/カリウムの混合塩においては、その塩を構成するナトリウムとカリウムとのモル比(ナトリウム/カリウム比)が、100/0(即ち、脂肪酸ナトリウム)〜70/30、特に90/10〜80/20であることが好ましい。このナトリウム/カリウム比が70/30を超えてカリウムの割合が多くなると、凝固点が低くなるため、長期保存すると表面が溶融して、商品価値を損なうおそれがある。また、硬度が低下したり、使用時の溶け減りが大きくなったり、高温多湿の条件下で発汗が生じたり、使用途中に表面が白濁化するおそれがある。
【0015】
[糖・ポリオール部]
本発明において好適に用いられる糖・ポリオールとしては、マルチトール、ソルビトール、グリセリン、1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、砂糖、ピロリドンカルボン酸、ピロリドンカルボン酸ナトリウム、ヒアルロン酸、ポリオキシエチレンアルキルグルコシドエーテル等が例示され、組成物中50〜60質量%配合することが好適である。
特に、透明性とともに良好な使用性を得るため、糖・ポリオール部中、糖及び糖アルコールと、ポリオールの比は、40〜60:60〜40であることが好ましい。
【0016】
本発明において、前記脂肪酸石鹸部及び糖・ポリオール部以外は基本的に水と少量の添加剤である。この添加剤としては、上記した作用を損なわない範囲内で、次のような成分を任意に配合することができる。この任意成分としては、トリクロロカルバニリド、ヒノキチオール等の殺菌剤;油分;香料;色素;エデト酸3ナトリウム2水和物等のキレート剤;紫外線吸収剤;酸化防止剤;グリチルリチン酸ジカリウム、オオバコエキス、レシチン、サポニン、アロエ、オオバク、カミツレ等の天然抽出物;非イオン性、カチオン性あるいはアニオン性の水溶性高分子;乳酸エステル等の使用性向上剤等である。
【0017】
また、本発明にかかる洗浄組成物にキレート剤を用いる場合には、ヒドロキシエタンジホスホン酸及びその塩が好適に例示され、さらに好ましくは、ヒドロキシエタンジホスホン酸である。配合量としては、0.001〜1.0質量%であり、さらに好ましくは0.1〜0.5質量%である。ヒドロキシエタンジホスホン酸及びその塩の配合量が0.001質量%より少ない場合は、キレート効果が不十分となり、経時で黄変等の不都合を生じ、1.0質量%より多いと皮膚への刺激が強くなり、好ましくない。
【0018】
本発明の石鹸の製造方法については、上記した各成分の混合物に枠練り法、機械練り法等の一般的な方法を適用することができる。
また、本発明の石鹸は、基本的に透明であるが、顔料等の配合により透明性が低下したものも含まれる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように本発明にかかる石鹸によれば、脂肪酸石鹸部と糖・ポリオール部を特定割合で配合することにより、エタノールないし他のアニオン界面活性剤を配合することなく、透明石鹸を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
本発明者らは脂肪酸石鹸系透明石鹸の泡立ち性改善を検討するため、次のような基本処方を用いて検討を行った。なお、配合量は質量%で示す。
【0021】
まず、本発明者らは、下記石鹸部、糖・糖・ポリオール部、およびその他からなる基本処方の石鹸を用いて透明石鹸の製造を試みた。
【0022】
基本処方
脂肪酸石鹸部 25.0%
ラウリン酸 20部
ミリスチン酸 55部
ステアリン酸 20部
イソステアリン酸 5部
各表記載の水酸化ナトリウム:水酸化カリウム(モル比)で中和
【0023】
糖・ポリオール部 55.0%
ソルビトール 7部
ショ糖 33部
1,3−BG 14.0部
オキシプロピレン(7)グリセリルエーテル 14.0部
PEG1500 2.0部
濃グリセリン 30.0部
【0024】
その他 20.0%
キレート剤 0.1部
イオン交換水 18.9部
【0025】
なお、以下の試験において、起泡力は、ミキサー法泡立て機を用いて測定した。すなわち石鹸濃度1%水溶液(人口硬水70ppm、温度25℃)を作成し、20秒間攪拌後の泡の高さを測定する。
【0026】
また、摩擦溶解度は、JISK−3304に準じて測定した。すなわち、40℃に調整した水道水で濡らしたフィルム面上に一定重量の試料片(断面15mm×20mm)を載せ、このフィルムを回転し10分間摩擦溶解させる。摩擦溶解前後の重量より、次式により一定面積当たりの摩擦溶解度を求めた。
摩擦溶解度(%)=(前重量−後重量)×100/3
【0027】
また、硬度は、レオメーター(不動工業社製)にて石鹸表面より深度10mmまで針を圧入した際の最大応力にて示した。
【0028】
他の評価は、定法による。
【0029】
まず、本発明者らは、前記基本処方の脂肪酸石鹸部、糖・ポリオール部及びその他(水及び添加物)の比率を調整し、透明化領域の検証を行った。
結果を表1〜3に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
【表3】

【0033】
上記表1〜3及びさらに詳細な検討により、脂肪酸石鹸部は19〜30質量部、特に好ましくは19〜27質量部、また糖・ポリオール部は50〜60質量部で良好な透明性が得られることが明らかとなった。
さらに本発明者らは、Na/Kを100/0とし、同様に透明化領域の検証を行った。
【0034】
【表4】

【0035】
表4に示すように、中和を水酸化ナトリウムのみで行った場合には、凝固点が上昇するが、透明性に関してはNa/K=80:20の場合と同様の傾向が認められた。
したがって、脂肪酸石鹸が20〜25質量%であると凝固点が低下する傾向にあるので、Na単独での中和が好ましく、25から27質量%ではKを10〜20%、Naを90〜80%で中和することが好ましい。
【0036】
また、本発明者らは糖・ポリオール部の組成について検討を行った。
結果を次の表5〜7に示す。
【0037】
【表5】

【0038】
【表6】

【0039】
【表7】

【0040】
前記表5〜7より明らかなように、糖・ポリオール部は石鹸の透明化に強く寄与する一方、凝固点、硬度等にも影響を与えることが理解される。したがって、石鹸の硬度により糖・ポリオール部の選択を行うことで、凝固点調整、硬度調整を行うことができる。
【0041】
特に、糖・ポリオール部中、糖及び糖アルコールを40〜60質量%、ポリオールを60〜40質量%とすると、透明性はもとより、起泡力等の使用性にも優れた透明石鹸を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪酸のナトリウム/カリウム塩を19〜30質量%と、
ポリオール及び/または糖を50〜60質量%と、
を含み、実質的に他のアニオン系界面活性剤及びエタノールを含まないことを特徴とする透明石鹸。
【請求項2】
請求項1記載の透明石鹸において、脂肪酸塩が19〜25質量%であり、かつ脂肪酸の対イオンがNaであることを特徴とする透明石鹸。
【請求項3】
請求項1記載の透明石鹸において、脂肪酸塩が25〜29質量%であり、かつ脂肪酸の対イオンがモル比でNa/K=80/20〜90/10であることを特徴とする透明石鹸。



【公開番号】特開2012−184340(P2012−184340A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−48773(P2011−48773)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(593170702)株式会社ピーアンドピーエフ (27)
【Fターム(参考)】