説明

透明電極、透明電極の製造方法及び有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】本発明の目的は、高温、高湿度環境下における環境試験後でも高い導電性と透明性を有しかつ良好な平滑性を併せ持ち、安定性(全光線透過率、表面抵抗、表面粗さ(Ra、Ry))の優れた透明電極、該透明電極の製造方法、及び該透明電極を用いた発光均一性に優れた有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することにある。
【解決手段】透明基材上に導電性繊維、導電性高分子、及び水系溶剤に均一に分散可能なバインダー樹脂を有することを特徴とする透明電極。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明電極、透明電極の製造方法及び該透明電極を有する有機エレクトロルミネッセンス素子に関し、液晶表示素子、有機発光素子、無機電界発光素子、太陽電池、電磁波シールド、電子ペーパー、タッチパネル等の各種分野において好適に用いることができる、透明電極、透明電極の製造方法及び該透明電極を有する有機エレクトロルミネッセンス素子(以後有機EL素子ともいう)に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、薄型TV需要の高まりに伴い、液晶・プラズマ・有機エレクトロルミネッセンス・フィールドエミッション等、各種方式のディスプレイ技術が開発されている。これら表示方式の異なる何れのディスプレイにおいても、透明電極は必須の構成技術となっている。また、テレビ以外でも、タッチパネルや携帯電話、電子ペーパー、各種太陽電池、各種エレクトロルミネッセンス調光素子においても、透明電極は欠くことのできない技術要素となっている。
【0003】
従来透明電極は、ガラスや透明なプラスチックフィルム等の透明基材上に、インジウム−スズの複合酸化物(ITO)膜を真空蒸着法やスパッタリング法で製膜したITO透明電極が主に使用されてきた。しかし、ITOに用いられているインジウムはレアメタルであり、且つ価格の高騰により、脱インジウムが望まれている。また、ディスプレイの大画面化、生産性向上に伴い、フレキシブル基板を用いたロール to ロールが所望されている。
【0004】
導電性繊維を用いる技術が開示されており、導電性繊維の一部を透明樹脂膜でフレキシブル基板に固定し、かつ導電性繊維の一部を透明樹脂膜表面に突起させて電極を形成することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、このような構成の電極は、表面に導電性繊維が突起した部分にしか導電性がないため、表面に導電性繊維が突起しており、電極表面の平滑性が求められる技術用途には適用できないという課題を有していた。
【0005】
また、透明基板上に塗布された銀ナノワイヤ上にポリウレタンをオーバーコートし、電極表面が平滑な透明電極が提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかし、この透明電極上に塗布型有機EL素子を積層すると、面発光性及び発光寿命が悪く、面均一性の向上という課題を有していた。
【0006】
ITO透明電極において、その表面の平均粗さ(Ra)が、2nm以下であることが開示されている(例えば、特許文献3参照)。また、有機エレクトロルミネッセンス素子に用いられるITO透明導電膜表面の平均表面粗さ(Ra)が、1.2nm以下であることが提案されている(例えば、特許文献4参照)。上記特許文献1〜3のように透明電極表面に突起が存在する電極を用いて有機エレクトロルミネッセンス素子を作製すると、陽極と陰極の短絡等のように、突起を起点にショートするという問題がある。また、突起間は透明樹脂が存在し、面電極としての機能が得られないという課題を有していた。
【0007】
また、生産性に優れた透明電極として、π共役系高分子に代表される導電性高分子材料を適当な溶媒に溶解または分散した塗液を用いて、塗布や印刷によって透明電極を形成する方法も提案されている(例えば、特許文献5参照)。しかし、真空成膜法によるITO等の金属酸化物透明電極に較べると、導電性が低くかつ透明性にも劣り、高導電性と高透過率・透明性とを両立させるという課題を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−519712号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2007/0074316号明細書
【特許文献3】特開2005−050730号公報
【特許文献4】特開2003−335552号公報
【特許文献5】特開平6−273964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、本発明の目的は、高温、高湿度環境下における環境試験後でも高い導電性と透明性を有しかつ良好な平滑性を併せ持ち、安定性(全光線透過率、表面抵抗、表面粗さ(Ra、Ry))の優れた透明電極、該透明電極の製造方法、及び該透明電極を用いた発光均一性に優れた有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
【0011】
1.透明基材上に、導電性繊維、導電性高分子、及びバインダー樹脂を有する透明導電層を有してなる透明電極において、
該バインダー樹脂が水系溶剤に均一に分散可能なバインダー樹脂であることを特徴とする透明電極。
【0012】
2.前記導電性繊維、導電性高分子、及び水系溶剤に均一に分散可能なバインダー樹脂を透明基材上の透明導電層に含有することを特徴とする前記1に記載の透明電極。
【0013】
3.前記導電性繊維を透明基材上の第一の透明導電層に含有し、前記導電性高分子及び水系溶剤に均一分散可能なバインダー樹脂を該第一の透明導電層上の第二の透明導電層に含有することを特徴とする前記1に記載の透明電極。
【0014】
4.前記導電性繊維が銀ナノワイヤであることを特徴とする前記1〜3のいずれか1項に記載の透明電極。
【0015】
5.前記水系溶剤に均一に分散可能なバインダー樹脂がアクリル系樹脂およびウレタン系樹脂から選択される少なくとも1種であることを特徴とする前記1〜4のいずれか1項に記載の透明電極。
【0016】
6.透明基材上に、導電性繊維、導電性高分子、及びバインダー樹脂を有する透明導電層を有してなる透明電極の製造方法において、
該バインダー樹脂が水系溶剤に均一に分散可能なバインダー樹脂であることを特徴とする透明電極の製造方法。
【0017】
7.前記導電性繊維、導電性高分子、及び水系溶剤に均一に分散可能なバインダー樹脂を含有する水系分散物を、透明基材上に塗布することにより透明導電層を形成することを特徴とする前記6に記載の透明電極の製造方法。
【0018】
8.前記導電性繊維を含む第一の透明導電層を透明基材上に塗布する工程と、
該第一の透明導電層上に前記導電性高分子と水系溶剤に均一分散可能なバインダー樹脂を 含む水系分散液を塗布することにより第二の透明導電層を形成する工程と、
を有することを特徴とする前記6に記載の透明電極の製造方法。
【0019】
9.前記導電性繊維が銀ナノワイヤであることを特徴とする前記6〜8のいずれか1項に記載の透明電極の製造方法。
【0020】
10.前記水系溶剤に均一に分散可能なバインダー樹脂がアクリル系樹脂およびウレタン系樹脂から選択される少なくとも1種であることを特徴とする前記6〜9のいずれか1項に記載の透明電極の製造方法。
【0021】
11.前記1〜5のいずれか1項に記載の透明電極を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、高温、高湿度環境下における環境試験後でも高い導電性と透明性を有しかつ良好な平滑性を併せ持ち、安定性(全光線透過率、表面抵抗、表面粗さ(Ra、Ry))の優れた透明電極、該透明電極の製造方法、及び該透明電極を用いた発光均一性に優れた有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の透明電極の構造模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態について説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0025】
本発明は、透明基材上に、導電性繊維、導電性高分子、及びバインダー樹脂を有する透明導電層を有する透明電極において、該バインダー樹脂が水系溶剤に均一に分散可能なバインダー樹脂であることを特徴とする。
【0026】
本発明においては、特に、水系溶剤に均一に分散可能なバインダー樹脂を透明電極に含有させることで、高温、高湿度環境下における環境試験後でも高い導電性と透明性を有しかつ良好な平滑性を併せ持ち、安定性(全光線透過率、表面抵抗、表面粗さ(Ra、Ry))の優れた透明電極、及び該透明電極を用いた発光均一性に優れた有機エレクトロルミネッセンス素子が得られる。
【0027】
本発明を更に詳しく説明する。
【0028】
〔透明基材〕
本発明において、「透明」とは、JIS K 7361−1(ISO 13468−1に対応)の「プラスチック−透明材料の全光線透過率の試験方法」に準拠した方法で測定した可視光波長領域における全光線透過率が60%以上であることをいう。
【0029】
本発明の透明電極に用いられる透明基材としては、高い光透過性を有していればそれ以外に特に制限はない。例えば、基材としての硬度に優れ、またその表面への導電層の形成のし易さ等の点で、ガラス基板、樹脂基板、樹脂フィルムなどの基材が好適に挙げられるが、軽量性と柔軟性の観点から透明樹脂フィルムを用いることが好ましい。
【0030】
本発明で透明基材として好ましく用いることができる透明樹脂フィルムには特に制限はなく、その材料、形状、構造、厚み等については公知のものの中から適宜選択することができる。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、変性ポリエステル等のポリエステル系樹脂フィルム、ポリエチレン(PE)樹脂フィルム、ポリプロピレン(PP)樹脂フィルム、ポリスチレン樹脂フィルム、環状オレフィン系樹脂等のポリオレフィン類樹脂フィルム、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のビニル系樹脂フィルム、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂フィルム、ポリサルホン(PSF)樹脂フィルム、ポリエーテルサルホン(PES)樹脂フィルム、ポリカーボネート(PC)樹脂フィルム、ポリアミド樹脂フィルム、ポリイミド樹脂フィルム、アクリル樹脂フィルム、トリアセチルセルロース(TAC)樹脂フィルム等を挙げることができるが、可視域の波長(380〜780nm)における透過率が80%以上である樹脂フィルムであれば、本発明に係る透明基材の透明樹脂フィルムに好ましく適用することができる。中でも透明性、耐熱性、取り扱いやすさ、強度及びコストの点から、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、二軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリエーテルサルホンフィルム、ポリカーボネートフィルムであることが好ましく、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、二軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルムであることがより好ましい。
【0031】
本発明に用いられる透明基材には、塗布液の濡れ性や接着性を確保するために、表面処理を施すことや易接着層を設けることができる。表面処理や易接着層については従来公知の技術を使用できる。例えば、表面処理としては、コロナ放電処理、火炎処理、紫外線処理、高周波処理、グロー放電処理、活性プラズマ処理、レーザー処理等の表面活性化処理を挙げることができる。また、易接着層としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ビニル系共重合体、ブタジエン系共重合体、アクリル系共重合体、ビニリデン系共重合体、エポキシ系共重合体等を挙げることができる。透明樹脂フィルムが二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムである場合は、フィルムに隣接する易接着層の屈折率を1.57〜1.63とすることで、フィルム基材と易接着層との界面反射を低減して透過率を向上させることができるのでより好ましい。屈折率を調整する方法としては、酸化スズゾルや酸化セリウムゾル等の比較的屈折率の高い酸化物ゾルとバインダー樹脂との比率を適宜調整して塗設することで実施できる。易接着層は単層でもよいが、接着性を向上させるためには2層以上の構成にしてもよい。また、透明基材にはバリアコート層が予め形成されていてもよいし、透明導電層を転写する反対側にはハードコート層が予め形成されていてもよい。
【0032】
〔透明電極〕
本発明の透明電極の構造模式図を図1に示す。図1は、本発明の代表的な透明電極の構造模式図であって、透明基材51上に透明導電層31を有し、該透明導電層は導電性繊維11と導電性材料21を含み構成される。本発明において、その他の構成には特に制限はない。
【0033】
尚、透明基材には前述のように表面処理を施したり、目的に応じて各種の機能性層を設けることができる。
【0034】
本発明の透明電極においては、全光線透過率が60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、80%以上であることが特に好ましい。全光透過率は、分光光度計等を用いた公知の方法に従って測定することができる。また、本発明の透明電極における透明導電層の電気抵抗値としては、表面抵抗率として1000Ω/□以下であることが好ましく、100Ω/□以下であることがより好ましい。さらには、電流駆動型オプトエレクトロニクスデバイスに適用するためには、50Ω/□以下であることが好ましく、10Ω/□以下であることが特に好ましい。10Ω/□以下であると各種オプトエレクトロニクスデバイスにおいて、透明電極として機能することができて好ましい。前記表面抵抗率は、例えば、JIS K 7194:1994(導電性プラスチックの4探針法による抵抗率試験方法)などに準拠して測定することができ、また市販の表面抵抗率計を用いて簡便に測定することができる。
【0035】
本発明の透明電極の厚みには特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、一般的に10μm以下であることが好ましく、厚みが薄くなるほど透明性や柔軟性が向上するためより好ましい。
【0036】
〔透明導電層〕
本発明の態様としては、導電性繊維が金属ナノワイヤおよびカーボンナノチューブの群から選ばれる少なくとも1種であること、導電性材料が導電性高分子及び導電性金属酸化物微粒子の群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0037】
本発明に係る透明導電層は、導電性繊維と導電性材料の他に透明なバインダー材料や添加剤を含んでいてもよい。透明なバインダー材料としては、塗布液を形成できる透明な樹脂であれば特に制限はなく、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アクリルウレタン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、セルロース系樹脂、ブチラール系樹脂等を単独あるいは複数併用して用いることができる。
【0038】
本発明に係る透明導電層の厚さは、使用する導電性繊維や導電性材料の形状や含有量によって異なるが、大凡の目安として、導電性繊維の平均直径以上500nm以下が好ましい。後述の加圧方法などにより、本発明に係る透明導電層の厚さを薄くすると、厚さ方向の導電性繊維のネットワーク形成を密にすることができるため好ましい。
【0039】
〔表面の平滑性〕
本発明において、透明導電層の表面の平滑性を表すRyとRaは、Ry=最大高さ(表面の山頂部と谷底部との高低差)とRa=算術平均粗さを意味し、JIS B601(1994)に規定される表面粗さに準ずる値である。本発明の透明電極は、透明導電層の表面の平滑性がRy≦50nm、また、併せて透明導電層の表面の平滑性はRa≦5nmであることが好ましい。本発明においてRyやRaの測定には、市販の原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscopy:AFM)を用いることができ、例えば、以下の方法で測定できる。
【0040】
AFMとして、セイコーインスツルメンツ社製SPI3800Nプローブステーション及びSPA400多機能型ユニットを使用し、約1cm角の大きさに切り取った試料を、ピエゾスキャナー上の水平な試料台上にセットし、カンチレバーを試料表面にアプローチし、原子間力が働く領域に達したところで、XY方向にスキャンし、その際の試料の凹凸をZ方向のピエゾの変位で捉える。ピエゾスキャナーは、XY20μm、Z2μmが走査可能なものを使用する。カンチレバーは、セイコーインスツルメンツ社製シリコンカンチレバーSI−DF20で、共振周波数120〜150kHz、バネ定数12〜20N/mのものを用い、DFMモード(Dynamic Force Mode)で測定する。測定領域80×80μmを、走査周波数1Hzで測定する。
【0041】
本発明において、Ryの値は40nm以下であることがより好ましく、30nm以下であることがさらに好ましい。同様に、Raの値は3nm以下であることがより好ましく、1nm以下であることがさらに好ましい。
【0042】
〔導電性繊維〕
本発明に係る導電性繊維とは、導電性を有し、かつその長さが直径(太さ)に比べて十分に長い形状を持つものである。本発明に係る導電性繊維は、透明導電層内において導電性繊維が互いに接触し合うことにより3次元的な導電ネットワークを形成し補助電極として機能すると考えられる。従って、導電性繊維が長い方が導電ネットワーク形成に有利であるため好ましい。一方で、導電性繊維が長くなると導電性繊維が絡み合って凝集体を生じ、光学特性を劣化させる場合がある。導電ネットワーク形成や凝集体生成には、導電性繊維の剛性や直径等も影響するため、使用する導電性繊維に応じて最適な平均アスペクト比(アスペクト=長さ/直径)のものを使用することが好ましい。大凡の目安として、平均アスペクト比は、10〜10,000であるものが好ましい。
【0043】
形状としては中空チューブ状、ワイヤ状、ファイバー状のもの等があり、例えば、金属でコーティングした有機繊維や無機繊維、導電性金属酸化物繊維、金属ナノワイヤ、炭素繊維、カーボンナノチューブ等がある。本発明においては、透明性の観点から太さが300nm以下の導電性繊維であることが好ましく、併せて導電性も満足するために、導電性繊維は金属ナノワイヤ及びカーボンナノチューブの群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。さらには、コスト(原材料費、製造費)と性能(導電性、透明性、可撓性)の観点から、銀ナノワイヤを最も好ましく用いることができる。
【0044】
本発明において上記導電性繊維の長さや直径、アスペクト比の平均値は、十分な数の導電性繊維について電子顕微鏡写真を撮影し、個々の導電性繊維像の計測値の算術平均から求めることができる。導電性繊維の長さは、本来直線状に伸ばした状態で測定すべきであるが、現実には屈曲している場合が多いため、電子顕微鏡写真から画像解析装置を用いてナノワイヤの投影径及び投影面積を算出し、円柱体を仮定して算出する(長さ=投影面積/投影径)こともできる。また、長さや直径の相対標準偏差は、測定値の標準偏差を平均値で除した値に100を乗じた値で表す。計測対象の導電性繊維のサンプル数は、少なくとも100個以上が好ましく、300個以上がより好ましい。
【0045】
相対標準偏差[%]=測定値の標準偏差/平均値×100
〔金属ナノワイヤ〕
一般に、金属ナノワイヤとは、金属元素を主要な構成要素とする線状構造体のことをいう。特に、本発明における金属ナノワイヤとは、原子スケールからnmサイズの直径を有する線状構造体を意味する。
【0046】
本発明に係る導電性繊維に適用される金属ナノワイヤとしては、1つの金属ナノワイヤで長い導電パスを形成するために、平均長さが3μm以上であることが好ましく、さらには3〜500μmが好ましく、特に、3〜300μmであることが好ましい。併せて、長さの相対標準偏差は40%以下であることが好ましい。また、平均直径は、透明性の観点からは小さいことが好ましく、一方で、導電性の観点からは大きい方が好ましい。本発明においては、金属ナノワイヤの平均直径として10〜300nmが好ましく、30〜200nmであることがより好ましい。併せて、直径の相対標準偏差は20%以下であることが好ましい。
【0047】
本発明に係る金属ナノワイヤの金属組成としては特に制限はなく、貴金属元素や卑金属元素の1種または複数の金属から構成することができるが、貴金属(例えば、金、白金、銀、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、オスミウム等)及び鉄、コバルト、銅、錫からなる群に属する少なくとも1種の金属を含むことが好ましく、導電性の観点から少なくとも銀を含むことがより好ましい。また、導電性と安定性(金属ナノワイヤの硫化や酸化耐性、及びマグレーション耐性)を両立するために、銀と、銀を除く貴金属に属する少なくとも1種の金属を含むことも好ましい。本発明に係る金属ナノワイヤが2種類以上の金属元素を含む場合には、例えば、金属ナノワイヤの表面と内部で金属組成が異なっていてもよいし、金属ナノワイヤ全体が同一の金属組成を有していてもよい。
【0048】
本発明において金属ナノワイヤの製造手段には特に制限はなく、例えば、液相法や気相法等の公知の手段を用いることができる。また、具体的な製造方法にも特に制限はなく、公知の製造方法を用いることができる。例えば、Agナノワイヤの製造方法としては、Adv.Mater.,2002,14,833〜837;Chem.Mater.,2002,14,4736〜4745等、Auナノワイヤの製造方法としては特開2006−233252号公報等、Cuナノワイヤの製造方法としては特開2002−266007号公報等、Coナノワイヤの製造方法としては特開2004−149871号公報等を参考にすることができる。特に、上述した、Adv.Mater.及びChem.Mater.で報告されたAgナノワイヤの製造方法は、水系で簡便にAgナノワイヤを製造することができ、また銀の導電率は金属中で最大であることから、本発明に係る金属ナノワイヤの製造方法として好ましく適用することができる。
【0049】
〔カーボンナノチューブ〕
カーボンナノチューブは、厚さ数原子層のグラファイト状炭素原子面(グラフェンシート)が筒形に巻かれた形状からなる炭素系繊維材料であり、その周壁の構成数から単層ナノチューブ(SWNT)と多層ナノチューブ(MWNT)とに大別され、また、グラフェンシートの構造の違いからカイラル(らせん)型、ジグザグ型、アームチェア型に分けられ、各種のものが知られている。
【0050】
本発明に係る導電性繊維に適用されるカーボンナノチューブとしては、いずれのタイプのカーボンナノチューブも用いることができ、また、これらの種々のカーボンナノチューブを複数混合して用いてもよいが、導電性に優れた単層カーボンナノチューブであることが好ましく、さらには金属性のアームチェア型単層カーボンナノチューブであることがより好ましい。
【0051】
本発明に係るカーボンナノチューブの形状としては、1つのカーボンナノチューブで長い導電パスを形成するために、アスペクト比(=長さ/直径)が大きい、すなわち細くて長い単層カーボンナノチューブであることが好ましい。例えば、アスペクト比が102以上、好ましくは103以上のカーボンナノチューブが挙げられる。カーボンナノチューブの平均長さは、3μm以上であることが好ましく、さらには3〜500μmが好ましく、特に、3〜300μmであることが好ましい。併せて、長さの相対標準偏差は40%以下であることが好ましい。また、平均直径は100nmより小さいことが好ましく、1〜50nmが好ましく、1〜30nmであることがより好ましい。併せて、直径の相対標準偏差は20%以下であることが好ましい。
【0052】
本発明で使用されるカーボンナノチューブの製造方法は特に限定されるものではなく、二酸化炭素の接触水素還元、アーク放電法、レーザー蒸発法、CVD法、気相成長法、一酸化炭素を高温高圧化で鉄触媒と共に反応させて気相で成長させるHiPco法等の公知の手段を用いることができる。また、副生成物や触媒金属等の残留物を除去するために、洗浄法、遠心分離法、ろ過法、酸化法、クロマトグラフ法等の種々の精製法によって、より高純度化されたカーボンナノチューブの方が、各種機能を十分に発現できることから好ましい。
【0053】
〔導電性材料〕
本発明において導電性材料とは、製膜した状態において透明性を有し、かつ均一な導電性を有する膜を形成できる材料である。このような導電性材料として、例えば、導電性高分子や導電性金属酸化物微粒子、金属微粒子、金属でコーティングした有機微粒子や無機微粒子等がある。本発明においては、透明性と導電性の観点から、導電性材料は導電性高分子や導電性金属酸化物ナノ粒子の群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。導電性高分子が特に好ましい。
【0054】
〔導電性高分子〕
本発明に係る導電性材料に適用される導電性高分子としては、例えば、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリチエニレンビニレン、ポリアズレン、ポリイソチアナフテン、ポリカルバゾール、ポリアセチレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアセン、ポリフェニルアセチレン、ポリジアセチレン及びポリナフタレンの各誘導体からなる群より選ばれる化合物等を挙げることができる。
【0055】
本発明に係る導電性材料は、1種類の導電性高分子を単独に含有してもよいし、2種類以上の導電性高分子を組み合わせて含有してもよいが、導電性及び透明性の観点から、下記一般式(I)または一般式(II)で示される繰り返し単位を有するポリアニリンまたはその誘導体や、下記一般式(III)で示される繰り返し単位を有するポリピロール誘導体、または下記一般式(IV)で示される繰り返し単位を有するポリチオフェン誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含むことがより好ましい。
【0056】
【化1】

【0057】
なお、上記一般式(III)及び一般式(IV)において、Rは主として線状有機置換基であり、アルキル基、アルコキシ基、アリル基又はこれらの基の組み合わせが好ましいが、可溶性導電性高分子としての性質を失わなければよく、さらにこれらにスルホネート基、エステル基、アミド基などが結合しても、組み合わされてもよい。なお、nは整数である。
【0058】
本発明に係る導電性高分子には、導電性をより高めるためにドーピング処理を施すことができる。導電性高分子に対するドーパントとしては、例えば、炭素数が6〜30の炭化水素基を有するスルホン酸(以下、長鎖スルホン酸ともいう。)あるいはその重合体(例えば、ポリスチレンスルホン酸)、ハロゲン原子、ルイス酸、プロトン酸、遷移金属ハロゲン化物、遷移金属化合物、アルカリ金属、アルカリ土類金属、MClO(M=Li、Na)、R(R=CH、C、C)、またはR(R=CH、C、C)からなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。なかでも、上記長鎖スルホン酸が好ましい。
【0059】
また、導電性高分子に対するドーパントは、水素化フラーレン、水酸化フラーレン、スルホン酸化フラーレンなどのフラーレン類に導入されていてもよい。透明導電膜において、上記ドーパントは、導電性高分子100質量部に対して、0.001質量部以上含まれていることが好ましい。さらには、0.5質量部以上含まれていることがより好ましい。
【0060】
尚、本発明の導電性材料は、長鎖スルホン酸、長鎖スルホン酸の重合体(例えば、ポリスチレンスルホン酸)、ハロゲン、ルイス酸、プロトン酸、遷移金属ハロゲン化物、遷移金属化合物、アルカリ金属、アルカリ土類金属、MClO、R、およびRからなる群から選ばれる少なくとも1種のドーパントと、フラーレン類との双方を含んでいてもよい。
【0061】
本発明に係る導電性高分子として、特表2001−511581号公報や特開2004−99640号公報、特開2007−165199号公報などに開示される金属によって改質された導電性高分子を用いることもできる。
【0062】
本発明に係る導電性高分子を含む導電性材料には、水溶性有機化合物を含有してもよい。水溶性有機化合物の中で、導電性高分子材料に添加することによって導電性を向上させる効果を有する化合物が知られており、2nd.ドーパント(或いは増感剤)と称される場合がある。本発明の導電性材料で用いることができる2nd.ドーパントには特に制限はなく、公知のものの中から適宜選択することができ、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)やジエチレングリコール、その他酸素含有化合物が好適に挙げられる。
【0063】
本発明に係る導電性高分子を含む導電性材料においては、導電性高分子100質量部に対する上記2nd.ドーパントの含有量は、0.001質量部以上が好ましく、0.01〜50質量部がより好ましく、0.01〜10質量部が特に好ましい。
【0064】
本発明に係る導電性高分子を含む導電性材料は、成膜性や膜強度を確保するために、導電性高分子の他に透明な樹脂成分や添加剤を含んでいてもよい。透明な樹脂成分としては、導電性高分子と相溶又は混合分散可能であれば特に制限されず、熱硬化性樹脂であってもよいし、熱可塑性樹脂であってもよい。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等のポリイミド系樹脂、ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド12、ポリアミド11等のポリアミド樹脂、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー、ポリクロロトリフルオロエチレン等のフッ素樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルブチラール、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル等のビニル樹脂、エポキシ樹脂、キシレン樹脂、アラミド樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリウレア系樹脂、メラミン樹脂、フェノール系樹脂、ポリエーテル、アクリル系樹脂及びこれらの共重合体等が挙げられる。
【0065】
導電性材料には、導電性を改善するためにポリアニオンを用いても良い。本発明で用いられるポリアニオンは、高分子カルボン酸、高分子スルホン酸及びこれらの塩の各誘導体からなる群より選ばれる化合物等を挙げることができ、好ましくは高分子スルホン酸及びその塩である。ポリアニオンは単独に含有してもよいし、2種類以上を組み合わせて含有してもよい。また、ポリアニオンは、カルボン酸、スルホン酸を有する構造単位と酸残基を有していないモノマー、例えばアクリレート、メタクリレート及びスチレン等と共重合体を形成してもよい。
【0066】
高分子カルボン酸、高分子スルホン酸及びこれらの塩の具体例としては、例えばポリアクリル酸、ポリメタクリル酸またはポリマレイン酸、高分子スルホン酸、ポリスチレンスルホン酸及びポリビニルスルホン酸及びこれらの塩であり、好ましくは、ポリスチレンスルホン酸及びその塩である。
【0067】
〔水系溶剤に均一分散可能なバインダー樹脂〕
本発明は、透明基材上に、導電性繊維、導電性高分子、及びバインダー樹脂を有する透明導電層を有する透明電極において、該バインダー樹脂が水系溶剤に均一に分散可能なバインダー樹脂であることを特徴とする。
【0068】
本発明に係る水系溶剤に均一分散可能なバインダー樹脂とは、水系溶剤に均一分散可能なものであり、本発明において、「水系溶剤に均一分散可能」とは、水系溶剤中に凝集せずにバインダー樹脂からなるコロイド粒子が分散している状況であることを意味する。コロイド粒子の大きさは一般的に0.001〜1μm(1〜1000μm)程度である。
【0069】
上記のコロイド粒子については、光散乱光度計により測定することができる。
【0070】
また、上記水系溶剤とは、純水(蒸留水、脱イオン水を含む)のみならず酸、アルカリ、塩などを含む水溶液、含水の有機溶媒、さらには親水性の有機溶媒など溶媒であることを意味し、純水(蒸留水、脱イオン水を含む)、メタノール、エタノール等のアルコール系溶媒、水とアルコールの混合溶媒等が挙げられる。
【0071】
本発明に係る水系溶剤に均一分散可能なバインダー樹脂としては透明であることが好ましい。
【0072】
本発明の水系溶剤に均一分散可能なバインダーとしては、フィルムを形成する媒体であれば、特に限定はない。水系溶剤に均一分散可能なバインダーとしては、例えば:アクリル系樹脂エマルジョン、水性ウレタン樹脂等が挙げられる。アクリル系樹脂エマルジョンは、酢酸ビニル、アクリル酸、アクリル酸−スチレンの重合体、或いはその他のモノマーとの共重合体からなる。また、酸部分がリチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム塩とつい塩を形成したアニオン性、窒素原子を有するモノマーとの共重合体からなり、窒素原子が塩酸塩等を形成したカチオン性があるが、好ましくはアニオン性である。
【0073】
水性ウレタン樹脂としては、水分散型ウレタン樹脂、アイオノマー型水性ウレタン樹脂(アニオン性)等がある。水分散型ウレタン樹脂には、ポリエーテル系ウレタン樹脂、ポリエステル系ウレタン樹脂があり、好ましくはポリエステル系ウレタン樹脂である。
【0074】
アイオノマー型水性ウレタン樹脂には、ポリエステル系ウレタン樹脂、ポリエーテル系ウレタ樹脂、ポリカーボネート系ウレタン樹脂等があり、好ましくはポリエステル系ウレタン樹脂、ポリエーテル系ウレタ樹脂である。
【0075】
市販品として、ボンコートAN−155−E、ボンコートAC−501、ボンコートAN−200、ボンコートR−3380−E(アクリル系樹脂エマルジョン(アニオン性))、ボンディック1940NE(水分散型ポリウレタン樹脂、ポリエーテル系ウレタン樹脂)、ボンディック2210、ボンディック2220(水分散型ポリウレタン樹脂、ポリエステル系ウレタン樹脂)、ハイドラン140SF、ハイドランAP−40(F)、ハイドランAP−40N(アイオノマー型水性ウレタン樹脂、ポリエステル系ウレタン樹脂)、ハイドランHW−312B、ハイドランWLS−201(アイオノマー型水性ウレタン樹脂、ポリエーテル系ウレタン樹脂)(すべてDIC社製)を用いることができる。上記水系溶剤に均一分散可能なバインダーは1種でも複数種でも使用することができる。
【0076】
本発明の水系溶剤に均一分散可能なバインダーの使用量としては、導電性高分子に対して1〜200質量%が好ましく、より好ましくは5〜100質量である。
【0077】
〔製造方法〕
本発明の透明電極の製造方法において、透明基材上に導電性繊維からなる補助電極と導電性材料を含む透明導電層を形成する方法に特に制限はないが、生産性の改善、平滑性や均一性などの電極品質の向上、環境負荷軽減の観点から、透明導電層の形成には塗布法や印刷法などの液相成膜法を用いることが好ましい。塗布法としては、ロールコート法、バーコート法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、キャスティング法、ダイコート法、ブレードコート法、バーコート法、グラビアコート法、カーテンコート法、スプレーコート法、ドクターコート法などを用いることができる。印刷法としては、凸版(活版)印刷法、孔版(スクリーン)印刷法、平版(オフセット)印刷法、凹版(グラビア)印刷法、スプレー印刷法、インクジェット印刷法などを用いることができる。なお、必要に応じて、密着性・塗工性を向上させるための予備処理として、離型性基材表面にコロナ放電処理、プラズマ放電処理などの物理的表面処理を施すことができる。
【0078】
本発明の透明電極の製造方法において、平滑な離型性基材の離型面上に、導電性繊維と導電性材料を含む透明導電層を形成した後、該透明導電層を透明基材上に転写することにより透明電極を形成する方法を用いることが好ましい。この方法を用いることにより、透明電極の透明導電層表面を簡便にかつ安定に高平滑化することができる。
【0079】
本発明の透明電極の製造方法で用いられる離型性基板としては、樹脂基板や樹脂フィルムなどが好適に挙げられる。該樹脂には特に制限はなく、公知のものの中から適宜選択することができ、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂などの合成樹脂の単層あるいは複数層からなる基板やフィルムが好適に用いられる。更にガラス基板や金属基板を用いることもできる。また、離型性基板の表面(離型面)には、必要に応じてシリコーン樹脂やフッ素樹脂、ワックスなどの離型剤を塗布して表面処理を施してもよい。
【0080】
離型性基板表面は、透明導電層を転写した後の表面の平滑性に影響を与えるため、高平滑であることが望ましく、具体的にはRy≦50nmであることが好ましく、Ry≦40nmであることがより好ましく、Ry≦30nmであることが更に好ましい。また、Ra≦5nmであることが好ましく、Ra≦3nmであることがより好ましく、Ra≦1nmであることが更に好ましい。
【0081】
透明基材上に、導電性繊維と導電性材料を含む平滑性に優れた透明導電層を形成する具体的な方法として、例えば次のようなプロセスを挙げることができる。
【0082】
離型性基板の離型面上に、導電性繊維の分散液を塗布(または印刷)・乾燥して導電性繊維からなる導電ネットワーク構造を形成する。次いで、該導電性繊維のネットワーク構造上に導電性材料の分散液を塗布(または印刷)し、基板表面上の導電性繊維のネットワーク構造の隙間に導電性材料を含浸させ、導電性繊維と導電性材料を含む透明導電層を形成する。次いで、該透明導電層または別の透明基材上に接着層を塗設して両者を貼合する。接着層を硬化させた後、離型性基板を剥離することによって透明導電層を透明基材に転写する。
【0083】
このプロセスによれば、導電性材料層内に導電性繊維のネットワーク構造が3次元的に配置されるため、導電性繊維と導電性材料の接触面積が増えて導電性繊維の補助電極機能を十分に活用することができ、導電性に優れた透明導電層を形成することができる。
【0084】
上記のプロセスにおいて、導電性繊維を塗布・乾燥した後、カレンダー処理や熱処理を施し導電性繊維間の密着性を高めることや、プラズマ処理を施し導電性繊維間の接触抵抗を低減することは、導電性繊維のネットワーク構造の導電性を向上させる方法として有効である。また、上記プロセスにおいて、離型性基板の離型面は、予めコロナ放電(プラズマ)などにより親水化処理していてもよい。
【0085】
上記プロセスにおいて、接着層は離型性基板側に設けても良いし、透明基材側に設けても良い。接着層に用いられる接着剤としては、可視領域で透明で転写能を有する材料であれば特に限定されない。透明であれば、硬化型樹脂でも良いし、熱可塑性樹脂でも良い。
【0086】
硬化型樹脂として、熱硬化型樹脂、紫外線硬化型樹脂、電子線硬化型樹脂などが挙げられるが、これらの硬化型樹脂のうちでは、樹脂硬化のための設備が簡易で作業性に優れることから、紫外線硬化型樹脂を用いることが好ましい。紫外線硬化型樹脂とは紫外線照射により架橋反応等を経て硬化する樹脂で、エチレン性不飽和二重結合を有するモノマーを含む成分が好ましく用いられる。例えば、アクリルウレタン系樹脂、ポリエステルアクリレート系樹脂、エポキシアクリレート系樹脂、ポリオールアクリレート系樹脂等が挙げられる。本発明では、バインダーとしてアクリル系、アクリルウレタン系の紫外線硬化型樹脂を主成分とすることが好ましい。
【0087】
アクリルウレタン系樹脂は、一般にポリエステルポリオールにイソシアネートモノマー、またはプレポリマーを反応させて得られた生成物にさらに2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(以下アクリレートにはメタクリレートを包含するものとしてアクリレートのみを表示する)、2−ヒドロキシプロピルアクリレート等の水酸基を有するアクリレート系のモノマーを反応させることによって容易に得ることができる。例えば、特開昭59−151110号に記載のものを用いることができる。例えば、ユニディック17−806(大日本インキ(株)製)100部とコロネートL(日本ポリウレタン(株)製)1部との混合物等が好ましく用いられる。
【0088】
紫外線硬化型ポリエステルアクリレート系樹脂としては、一般にポリエステルポリオールに2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシアクリレート系のモノマーを反応させると容易に形成されるものを挙げることができ、特開昭59−151112号に記載のものを用いることができる。
【0089】
紫外線硬化型エポキシアクリレート系樹脂の具体例としては、エポキシアクリレートをオリゴマーとし、これに反応性希釈剤、光反応開始剤を添加し、反応させて生成するものを挙げることができ、特開平1−105738号に記載のものを用いることができる。
【0090】
紫外線硬化型ポリオールアクリレート系樹脂の具体例としては、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールペンタアクリレート等を挙げることができる。
【0091】
樹脂モノマーとしては、例えば、不飽和二重結合が一つのモノマーとして、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、ベンジルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、酢酸ビニル、スチレン等の一般的なモノマーを挙げることができる。また不飽和二重結合を二つ以上持つモノマーとして、エチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、ジビニルベンゼン、1,4−シクロヘキサンジアクリレート、1,4−シクロヘキシルジメチルアジアクリレート、前出のトリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリルエステル等を挙げることができる。
【0092】
これらの中で、バインダーの主成分として、1,4−シクロヘキサンジアクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパン(メタ)アクリレート、トリメチロールエタン(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,2,3−シクロヘキサンテトラメタクリレート、ポリウレタンポリアクリレート、ポリエステルポリアクリレートから選択されるアクリル系の活性線硬化樹脂が好ましい。
【0093】
これら紫外線硬化型樹脂の光反応開始剤としては、具体的には、ベンゾイン及びその誘導体、アセトフェノン、ベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、ミヒラーズケトン、α−アミロキシムエステル、チオキサントン等及びこれらの誘導体を挙げることができる。光増感剤と共に使用してもよい。上記光反応開始剤も光増感剤として使用できる。また、エポキシアクリレート系の光反応開始剤の使用の際、n−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルホスフィン等の増感剤を用いることができる。紫外線硬化型樹脂組成物に用いられる光反応開始剤また光増感剤は該組成物100質量部に対して0.1〜15質量部であり、好ましくは1〜10質量部である。
【0094】
透明導電層を形成した離型性基板と透明基材とを接着(貼合)し、紫外線等を照射して接着剤を硬化した後に離型性基板を剥離することにより、透明導電層を透明基材側に転写することができる。ここで、接着方法は特に限定されることなく、シートプレス、ロールプレス等により行うことができるが、ロールプレス機を用いて行うことが好ましい。ロールプレスは、ロールとロールの間に接着すべきフィルムを挟んで圧着し、ロールを回転させる方法である。ロールプレスは均一に圧力がかけられ、シートプレスよりも生産性が良く好適に用いることができる。
【0095】
〔パターニング方法〕
本発明に係る透明導電層はパターニングすることができる。パターニングの方法やプロセスには特に制限はなく、公知の手法を適宜適用することができる。例えば、離型面上にパターニングされた透明導電層を形成した後、透明基材上に転写することによってパターニングされた透明電極を形成する方法を用いることができ、具体的には、以下のような方法を好ましく用いることができる。
i)離型性基板上に印刷法を用いて本発明に係る透明導電層をパターン様に直接形成する方法
ii)離型性基板上に本発明に係る透明導電層を一様に形成した後、一般的なフォトリソプロセスを用いてパターニングする方法
iii)例えば紫外線硬化型樹脂を含む導電性材料を使用して本発明に係る透明導電層を一様に形成した後、フォトリソプロセス様にパターニングする方法
iv)離型性基板上に予めフォトレジストで形成したネガパターン上に本発明に係る透明導電層を一様に形成し、リフトオフ法を用いてパターニングする方法
上記のいずれの方法においても、離型性基板上でパターニングした透明導電層を透明基材上に転写することにより、パターニングされた本発明の透明電極を形成することができる。
【0096】
〔好ましい用途〕
本発明の透明電極は高い導電性と透明性を併せ持ち、液晶表示素子、有機発光素子、無機電界発光素子、電子ペーパー、有機太陽電池、無機太陽電池等の各種オプトエレクトロニクスデバイスや、電磁波シールド、タッチパネル等の分野において好適に用いることができる。その中でも、透明電極表面の平滑性が厳しく求められる有機エレクトロルミネッセンス素子の透明電極として特に好ましく用いることができる。
【実施例】
【0097】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
【0098】
[銀ナノワイヤの作製]
非特許文献2に記載の方法を参考に、下記の方法で銀ナノワイヤを作製した。
【0099】
(核形成工程)
反応容器内で170℃に保持したエチレングリコール(EG)液1000mlを攪拌しながら、硝酸銀のEG溶液(硝酸銀濃度:1.5×10−4モル/L)100mlを一定の流量で10秒間で添加した。その後、170℃で10分間熟成を施し、銀の核粒子を形成した。熟成終了後の反応液は、銀ナノ粒子の表面プラズモン吸収に由来した黄色を呈しており、銀イオンが還元されて、銀ナノ粒子が形成されたことが確認された。
【0100】
(粒子成長工程)
上記の熟成を終了した核粒子を含む反応液を攪拌しながら170℃に保持し、硝酸銀のEG溶液(硝酸銀濃度:1.0×10−1モル/L)1000mlと、PVP K30(分子量5万;ISP社製)のEG溶液(PVP濃度換算:5.0×10−1モル/L)1000mlを、ダブルジェット法を用いて一定の流量で100分間で添加した。粒子成長工程において20分毎に反応液を採取して電子顕微鏡で確認したところ、核形成工程で形成された銀ナノ粒子が時間経過に伴って、主にナノワイヤの長軸方向に成長しており、粒子成長工程における新たな核粒子の生成は認められなかった。
【0101】
(水洗工程)
粒子成長工程終了後、反応液を室温まで冷却した後、フィルターを用いて濾過し、濾別された銀ナノワイヤをエタノール中に再分散した。フィルターによる銀ナノワイヤの濾過とエタノール中への再分散を5回繰り返し、最終的に銀ナノワイヤの水分散液を調製して、銀ナノワイヤを作製した。
【0102】
得られた分散液を微量採取し、電子顕微鏡で確認したところ、平均直径85nm、平均長さ7.4μmの銀ナノワイヤが形成されたことが確認できた。
【0103】
実施例1
〔透明電極TC−101の作製;本発明〕
作製した銀ナノワイヤの水分散液を易接着加工を施した厚さ100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム支持体上に、銀ナノワイヤの目付け量が0.05g/mとなるように、銀ナノワイヤの分散液をスピンコーターを用いて塗布し乾燥した。続いて、銀ナノワイヤの塗布層にカレンダー処理を施した後、公知のフォトリソグラフィー法により電極パターン幅10mmのストライプ状透明パターン電極TCF−1を作製した。
【0104】
次いで、導電性高分子としての、PEDOT:PSS(ポリスチレンスルホン酸)=1:2.5の分散液であるBaytron PH510(H.C.Starck社製、固形分濃度1.3%)(P−1という。)に、水系溶剤に均一分散可能なバインダー樹脂であるボンコートAN−155E(大日本インキ社製、固形分濃度55%)を導電性高分子の固形分に対して10質量%となるように添加したものを、乾燥膜厚が300nmとなるようにスピンコーターにて塗布、乾燥し、透明電極TC−101を作製した。
【0105】
〔透明電極TC−102の作製;本発明〕
透明電極TC−101の作製において、水系溶剤に均一分散可能なバインダー樹脂であるボンコートAN−155E(大日本インキ社製、固形分濃度55%)を、水系溶剤に均一分散可能なバインダー樹脂であるボンディック1940NE(大日本インキ社製、固形分濃度50%)に置き換えた以外は同様の操作を行い、透明電極TC−102を作製した。
【0106】
〔透明電極TC−103の作製;本発明〕
透明電極TC−101の作製において、水系溶剤に均一分散可能なバインダー樹脂であるボンコートAN−155E(大日本インキ社製、固形分濃度55%)を、水系溶剤に均一分散可能なバインダー樹脂であるボンディック2210(大日本インキ社製、固形分濃度40%)に置き換えた以外は同様の操作を行い、透明電極TC−103を作製した。
【0107】
〔透明電極TC−104の作製;本発明〕
透明電極TC−101の作製において、水系溶剤に均一分散可能なバインダー樹脂であるボンコートAN−155E(大日本インキ社製、固形分濃度55%)を、水系溶剤に均一分散可能なバインダー樹脂であるハイドランAP−40(F)(大日本インキ社製、固形分濃度22%)に置き換えた以外は同様の操作を行い、透明電極TC−104を作製した。
【0108】
〔透明電極TC−105の作製;本発明〕
透明電極TC−101の作製において、銀ナノワイヤー分散液にカルボキシメチルセルロース(信越化学工業社製)を銀質量あたり25%添加し、さらにアルデヒド系架橋剤グリオキザールをカルボキシメチルセルロースの質量あたり10%添加した後、硫酸及びアンモニアを添加しpHを7.3に調整した銀ナノワイヤー分散液を用いた以外は同様の操作を行い、透明電極TC−105を作製した。
【0109】
〔透明電極TC−106の作製;本発明〕
透明電極TC−101の作製において、銀ナノワイヤー分散液にカルボキシメチルセルロース(信越化学工業社製)を銀質量あたり5%添加し、さらに熱硬化性樹脂含有PEDOT Denatron G−2001A(ナガセケムテックス社製)を固形分として20%添加した銀ナノワイヤー分散液を用いた以外は同様の操作を行い、透明電極TC−106を作製した。
【0110】
〔透明電極TC−107〜112の作製;本発明〕
透明電極TC−101〜106の作製において、導電性高分子PEDOT:PSS(ポリスチレンスルホン酸)=1:2.5の分散液であるBaytron PH510(H.C.Starck社製、固形分濃度1.3%)を、ポリアニリンM(ティーエーケミカル社製、固形分濃度6.0%)に置き換えた以外は同様の操作を行い、透明電極TC−107〜112を作製した。
【0111】
〔透明電極TC−113、TC−114の作製;比較例〕
透明電極TC−101、TC−107の作製において、水系溶剤に均一分散可能なバインダー樹脂であるボンコートAN−155E(大日本インキ社製、固形分濃度55%)を添加しない以外は同様の操作を行い、透明電極TC−113、TC−114を作製した。
【0112】
〔透明電極TC−115の作製;比較例〕
透明電極TC−101の作製において、水系溶剤に均一分散可能なバインダー樹脂であるボンコートAN−155E(大日本インキ社製、固形分濃度55%)を30%ポリウレタン樹脂MEK溶液であるバイロンUR−3220(東洋紡社製)に置き換えた以外は同様の操作を行い、透明電極TC−115を作製した。
【0113】
《評価》
以上のように作製した透明電極TC−101〜TC−115に対して、以下の方法にて全光線透過率、表面抵抗率、表面平滑性(Ra、Ry)を求めた。また、透明電極の経時安定性を評価するため、80℃90%RHの環境下で3日間置く強制劣化試験後の透明電極試料の全光線透過率、表面抵抗率、表面粗さ(Ra、Ry)評価を行った。
【0114】
[全光線透過率]
JIS K 7361−1:1997に準拠して、スガ試験機(株)製のヘイズメーターHGM−2Bを用いて測定した。
【0115】
[表面抵抗]
JIS K 7194:1994に準拠して、三菱化学社製ロレスターGP(MCP−T610型)を用いて、測定した。
【0116】
[表面粗さ(Ra、Ry)]
表面粗さは、AFM(セイコーインスツルメンツ社製SPI3800Nプローブステーション及びSPA400多機能型ユニット)を使用し、約1cm角の大きさに切り取った試料を用いて前記の方法で(JIS B601(1994)に規定される表面粗さに準ずる。)測定した。
【0117】
結果を表1に示す。
【0118】
【表1】

【0119】
表1中、
(導電性高分子):
P−1:Baytron PH510(ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(ドーパントとしてポリスチレンスルホン酸を含有)、H.C.Starck社製、固形分濃度1.3%)
P−2:ポリアニリンM(ポリアニリン、ティーエーケミカル社製、固形分濃度6.0%)
(水系溶剤に均一分散可能なバインダー樹脂):
ボンコートAN−155E:アクリル系樹脂エマルジョン(アニオン性)(大日本インキ社製、固形分濃度55%)
ボンディック1940NE:水分散型ポリウレタン樹脂、ポリエーテル系ウレタン樹脂(大日本インキ社製、固形分濃度50%)
ボンディック2210:水分散型ポリウレタン樹脂、ポリエステル系ウレタン樹脂(大日本インキ社製、固形分濃度40%)
ハイドランAP−40(F):アイオノマー型水性ウレタン樹脂、ポリエステル系ウレタン樹脂(大日本インキ社製、固形分濃度22%)
(水系溶剤に均一分散不可能なバインダー樹脂):
バイロンUR−3220(30%ポリウレタン樹脂MEK溶液、東洋紡績社製)(水系溶剤に均一分散不可能なバインダー樹脂)
表1に示した結果から、本発明の場合には、透明電極の経時安定性(全光線透過率、表面抵抗率、表面平滑性(Ra、Ry))に優れることがわかる。
【0120】
銀ナノワイヤー上に導電性ポリマーのみ、或いは水系溶剤に均一分散可能なバインダー樹脂のみ、を塗布した透明電極TC−113〜TC−115は80℃90%RHの環境下3日間置いた後の表面抵抗及び表面平滑性が悪く、本発明の透明電極TC−101〜112の表面抵抗及び表面平滑性の方が安定していることが明らかとなった。
【0121】
実施例2
〔透明電極TC−201の作製;本発明〕
作製した銀ナノワイヤ分散液に導電性高分子として、固形分濃度が13%になるまでロータリーエバポレーターで濃縮したPEDOT:PSS(ポリスチレンスルホン酸)=1:2.5の分散液であるBaytron PH510(H.C.Starck社製、固形分濃度13%)を銀重量の10倍加え、更に水系溶剤に均一分散可能なバインダー樹脂であるボンコートAN−155E(大日本インキ社製、固形分濃度55%)を導電性高分子の固形分に対して10質量%となるように添加した。この分散液を易接着加工を施した厚さ100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム支持体上に、乾燥膜厚が300nmとなるようにスピンコーターにて塗布し、乾燥した。
〈金属ナノワイヤ除去剤BF−1の作製〉
エチレンジアミン4酢酸第2鉄アンモニウム 60g
エチレンジアミン4酢酸 2g
メタ重亜硫酸ナトリウム 15g
チオ硫酸アンモニウム 70g
マレイン酸 5g
純水で1Lに仕上げ、硫酸またはアンモニア水でpHを5.5に調整し金属ナノワイヤ除去剤BF−1を作製した。
【0122】
続いて、銀ナノワイヤの塗布層にカレンダー処理を施した後、グラビア塗布機Kプリンティングプルーファー(松尾産業株式会社製)に、10mmのストライプ状パターンと逆の印刷パターンを形成した版を取り付け、作製した金属ナノワイヤ除去剤BF−1の粘度をCMC(カルボキシメチルセルロース、シグマアルドリッチ社製)で適宜調整し、銀ナノワイヤ塗布層の上に塗布膜厚30μmとなるよう印刷回数を調整してグラビア印刷を行った。印刷後1分間放置し、次いで流水による水洗処理を行い、透明電極TC−201を作製した。
【0123】
〔透明電極TC−202の作製;本発明〕
透明電極TC−201の作製において、水系溶剤に均一分散可能なバインダー樹脂であるボンコートAN−155E(大日本インキ社製、固形分濃度55%)をボンディック1940NE(大日本インキ社製、固形分濃度50%)に置き換えた以外は同様の操作を行い、透明電極TC−202を作製した。
【0124】
〔透明電極TC−203の作製;本発明〕
透明電極TC−201の作製において、水系溶剤に均一分散可能なバインダー樹脂であるボンコートAN−155E(大日本インキ社製、固形分濃度55%)をボンディック2210(大日本インキ社製、固形分濃度40%)に置き換えた以外は同様の操作を行い、透明電極TC−203を作製した。
【0125】
〔透明電極TC−204の作製;本発明〕
透明電極TC−201の作製において、水系溶剤に均一分散可能なバインダー樹脂であるボンコートAN−155E(大日本インキ社製、固形分濃度55%)をハイドランAP−40(F)(大日本インキ社製、固形分濃度22%)に置き換えた以外は同様の操作を行い、透明電極TC−204を作製した。
【0126】
〔透明電極TC−205の作製;本発明〕
透明電極TC−201の作製において、銀ナノワイヤー分散液にカルボキシメチルセルロース(信越化学工業社製)を銀質量あたり25%添加し、さらにアルデヒド系架橋剤グリオキザールをカルボキシメチルセルロースの質量あたり10%添加した後、硫酸及びアンモニアを添加しpHを7.3に調整した銀ナノワイヤー分散液を用いた以外は同様の操作を行い、透明電極TC−205を作製した。
【0127】
〔透明電極TC−206の作製;本発明〕
透明電極TC−201の作製において、銀ナノワイヤー分散液にカルボキシメチルセルロース(信越化学工業社製)を銀質量あたり5%添加し、さらに熱硬化性樹脂含有PEDOT Denatron G−2001A(ナガセケムテックス社製)を固形分として20%添加した銀ナノワイヤー分散液を用いた以外は同様の操作を行い、透明電極TC−206を作製した。
【0128】
〔透明電極TC−207〜212の作製;本発明〕
透明電極TC−201〜206の作製において、PEDOT:PSS(ポリスチレンスルホン酸)=1:2.5の分散液であるBaytron PH510(H.C.Starck社製、固形分濃度1.3%)をポリアニリンM(ティーエーケミカル社製、固形分濃度6.0%)に置き換えた以外は同様の操作を行い、透明電極TC−207〜212を作製した。
【0129】
〔透明電極TC−213、TC−214の作製;比較例〕
透明電極TC−201、TC−207の作製において、水系溶剤に均一分散可能なバインダー樹脂であるボンコートAN−155E(大日本インキ社製、固形分濃度55%)を添加しない以外は同様の操作を行い、透明電極TC−213、TC−214を作製した。
【0130】
〔透明電極TC−215の作製;比較例〕
透明電極TC−201の作製において、水系溶剤に均一分散可能なバインダー樹脂であるボンコートAN−155E(大日本インキ社製、固形分濃度55%)を30%ポリウレタン樹脂MEK溶液であるバイロンUR−3220(東洋紡社製)に置き換えた以外は同様の操作を行い、透明電極TC−215を作製した。
【0131】
《評価》
以上のように作製した透明電極TC−201〜TC−215に対して、実施例1記載の方法にて、全光線透過率、表面抵抗率、表面平滑性(Ra、Ry)を求めた。また、透明電極の安定性を評価するため、80℃90%RHの環境下で3日間置く強制劣化試験後の透明電極試料の全光線透過率、表面抵抗率、表面平滑性(Ra、Ry)、についても求めた。
【0132】
結果を表2に示す。
【0133】
【表2】

【0134】
表2から、本発明の場合には、透明電極の経時安定性(全光線透過率、表面抵抗率、表面平滑性(Ra、Ry))に優れることがわかる。
【0135】
銀ナノワイヤー上に導電性ポリマーのみ、或いは水系溶剤に均一分散可能なバインダー樹脂のみ、を塗布した透明電極TC−213〜TC−215は80℃90%RHの環境下3日間置いた後の表面抵抗及び表面平滑性が悪く、本発明の透明電極TC−201〜TC−212の表面抵抗及び表面平滑性の方が安定していることが明らかとなった。
【0136】
実施例3
[有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)の作製]
作製した透明電極TC−101〜115を第一電極(アノード電極)に用いて、以下の手順でそれぞれ有機EL素子OEL−301〜315を作製した。
〈正孔輸送層の形成〉
第1電極上に、1,2−ジクロロエタン中に1質量%となるように正孔輸送材料の4,4′−ビス〔N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ〕ビフェニル(NPD)を溶解させた正孔輸送層形成用塗布液をスピンコート装置で塗布した後、80℃、60分間乾燥して、厚さ40nmの正孔輸送層を形成した。
〈発光層の形成〉
正孔輸送層が形成された各フィルム上に、ホスト材のポリビニルカルバゾール(PVK)に対して、赤ドーパント材BtpIr(acac)が1質量%、緑ドーパント材Ir(ppy)が2質量%、青ドーパント材FIr(pic)が3質量%にそれぞれなるように混合し、PVKと3種ドーパントの全固形分濃度が1質量%となるように1,2−ジクロロエタン中に溶解させた発光層形成用塗布液をスピンコート装置で塗布した後、100℃、10分間乾燥して、厚さ60nmの発光層を形成した。
【0137】
【化2】

【0138】
〈電子輸送層の形成〉
形成した発光層上に、電子輸送層形成用材料としてLiFを5×10−4Paの真空下にて蒸着し、厚さ0.5nmの電子輸送層を形成した。
〈第2電極の形成〉
形成した電子輸送層の上に、第2電極形成用材料としてAlを5×10−4Paの真空下にて蒸着し、厚さ100nmの第2電極を形成した。
〈封止膜の形成〉
形成した電子輸送層の上に、ポリエチレンテレフタレートを基材とし、Alを厚さ300nmで蒸着した可撓性封止部材を使用した。第1電極及び第2電極の外部取り出し端子が形成出来る様に端部を除き第2電極の周囲に接着剤を塗り、可撓性封止部材を貼合した後、熱処理で接着剤を硬化させた。
【0139】
[発光均一性(発光輝度ムラ)]
KEITHLEY製ソースメジャーユニット2400型を用いて、直流電圧を有機EL素子に印加し、23±3℃、55±3%RHの環境下で、発光させた。200cd/mで発光させた有機EL素子OEL−301〜OEL−315について、50倍の顕微鏡で各々の発光均一性を観察した。また、有機EL素子OEL−301〜OEL−315をオーブンにて80℃60%RH30分加熱したのち、再び前記23±3℃、55±3%RHの環境下で1時間以上調湿した後、同様に発光均一性を観察した。
【0140】
発光均一性の評価基準
◎:EL素子全体が均一に発光している
○:EL素子全体がほぼ均一に発光している
△:EL素子の発光にややムラが認められる
×:EL素子の発光に明らかなムラが認められる
上記評価結果を表3に示す。
【0141】
【表3】

【0142】
表3から、有機EL素子OEL−313〜OEL−315は80℃60%RH30分の加熱(強制劣化)後、発光均一性が著しく劣化するのに対し、本発明有機EL素子OEL−301〜OEL−312の発光均一性は加熱後でも安定していることが明らかとなった。
【0143】
実施例4
[有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)の作製]
作製した透明電極TC−201〜215を第一電極に用いて、実施例3の手順と同様な方法で有機EL素子OEL−401〜415を作製した。
【0144】
評価結果を表4に示す。
【0145】
【表4】

【0146】
表4から、有機EL素子OEL−413〜OEL−415は80℃60%RH30分の加熱後、発光均一性が著しく劣化するのに対し、本発明有機EL素子OEL−401〜OEL−412の発光均一性は加熱後でも安定していることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0147】
11 導電性繊維
21 導電性材料
31 透明導電層3
41 透明樹脂
51 透明基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材上に、導電性繊維、導電性高分子、及びバインダー樹脂を有する透明導電層を有してなる透明電極において、
該バインダー樹脂が水系溶剤に均一に分散可能なバインダー樹脂であることを特徴とする透明電極。
【請求項2】
前記導電性繊維、導電性高分子、及び水系溶剤に均一に分散可能なバインダー樹脂を透明基材上の透明導電層に含有することを特徴とする請求項1に記載の透明電極。
【請求項3】
前記導電性繊維を透明基材上の第一の透明導電層に含有し、前記導電性高分子及び水系溶剤に均一分散可能なバインダー樹脂を該第一の透明導電層上の第二の透明導電層に含有することを特徴とする請求項1に記載の透明電極。
【請求項4】
前記導電性繊維が銀ナノワイヤであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の透明電極。
【請求項5】
前記水系溶剤に均一に分散可能なバインダー樹脂がアクリル系樹脂およびウレタン系樹脂から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の透明電極。
【請求項6】
透明基材上に、導電性繊維、導電性高分子、及びバインダー樹脂を有する透明導電層を有してなる透明電極の製造方法において、
該バインダー樹脂が水系溶剤に均一に分散可能なバインダー樹脂であることを特徴とする透明電極の製造方法。
【請求項7】
前記導電性繊維、導電性高分子、及び水系溶剤に均一に分散可能なバインダー樹脂を含有する水系分散物を、透明基材上に塗布することにより透明導電層を形成することを特徴とする請求項6に記載の透明電極の製造方法。
【請求項8】
前記導電性繊維を含む第一の透明導電層を透明基材上に塗布する工程と、
該第一の透明導電層上に前記導電性高分子と水系溶剤に均一分散可能なバインダー樹脂を 含む水系分散液を塗布することにより第二の透明導電層を形成する工程と、
を有することを特徴とする請求項6に記載の透明電極の製造方法。
【請求項9】
前記導電性繊維が銀ナノワイヤであることを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載の透明電極の製造方法。
【請求項10】
前記水系溶剤に均一に分散可能なバインダー樹脂がアクリル系樹脂およびウレタン系樹脂から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項6〜9のいずれか1項に記載の透明電極の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の透明電極を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
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【公開番号】特開2010−244746(P2010−244746A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−89857(P2009−89857)
【出願日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】