説明

透析用剤収納容器

【課題】溶解装置に接続する部分をセット(使用)直前まで覆い隠して菌や汚れが付着することを確実に防止することができ、使用時には透析用剤が滞ることなく流出し、使用後の容積を容易に減らすことができる袋式の透析用剤収納容器を提供しようとする。
【解決手段】可撓性シート材からなる筒状の胴部2の上端開口を封止し、下端開口に近い胴部の内部に可撓性シート材からなる底部3を設け、該底部と胴部と上記上端の封止部2aとにより囲まれた空間を透析用剤収納空部6とし、底部の下方に位置する胴部の下端開口を封止して底部の外側の面を胴部の下端部分8で覆い隠し、前記底部には、透析用剤収納空部内に収納した透析用剤の通過を阻止するが空気の通過を許容する大きさの孔を開設した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工透析に用いる透析液の調製に使用される粉末状或いは顆粒状とした固体透析用剤などの透析用剤を収納する袋状の容器に関する。
【背景技術】
【0002】
透析用剤には、液体型と固体型の2種類の型がある。液体型の透析用剤は、その大部分が水で占められており、重量と容量が大きくなるため、透析医療従事者への運搬作業の負荷が大きく、保管スペースも大きくなってしまう。そのため、近年、透析液を使用する際に、自動溶解装置に投入して、水に溶解させて透析液を調製する固体型の透析用剤(以下、固体透析用剤という)が急速に普及している。この固体透析用剤を収納する容器は、現在、袋式とボトル式がある。
【特許文献1】特開2001−340447号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、ボトル式の透析用剤収納容器は、自動溶解装置にセットすれば、全自動で透析液の調製が可能となり、数量違いや異物混入の危険性は袋式に比べて低い。しかし、ボトル式の透析用剤収納容器は、袋式の透析用剤収納容器に比べて剛性の高い材料で構成されているので、使用後空になっても、つぶして容量を小さくし難く、ゴミとして処分する際に嵩張るという問題がある。
【0004】
これに対し、袋式の透析用剤収納容器は扁平に潰すことができるので、嵩張らず廃棄処分が容易である。そして、図7および図8に示すように、袋式の透析用剤収納容器51の胴部52内で底部53を山折りにして該底部53の外側面を胴部52で覆い隠し、底部53には透析用剤の通過を阻止するが空気の通過を許容する大きさの孔54を開設して、汚れ付着の防止、袋の開封の容易性を高めることが考えられる。
【0005】
しかし、図9に示すように、この袋式の透析用剤収納容器51では、胴部52内で底部53を山折り状態としその下端部53aを胴部52に溶着しているので、透析用剤の量が減少すると胴部52と底部53との間にポケット部55が形成され、このポケット部55内に透析用剤が残留し易い。
【0006】
また、図10に示すように、製袋時に、胴部52内で底部53が山折り状態となるように重ね合わせて底部53の下端部53aと胴部52とを溶着する構造であるので、複数の袋式透析用剤収納容器51の製造時において、胴部52となる2枚のシート部材62の間に底部53となる山折りしたシート部材63を配置した後、底部53となるシート部材63同士の溶着を防止するため、山折りしたシート部材63の内側に溶着阻止板56を挿入しなければならず、このために底部53が汚れる虞がある。
【0007】
さらに、底部53が山折り状態であるので、底部53に開封を容易にする孔54を開設した場合にも、底部53が開封箇所以外のところで裂け易い。
【0008】
本発明は上記した事情に鑑みなされたもので、その目的は、溶解装置に接続する部分をセット(使用)直前まで覆い隠して菌や汚れが付着することを確実に防止することができ、使用時には透析用剤が滞ることなく流出し、使用後の容積を容易に減らすことができる袋式の透析用剤収納容器を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するために提案されたものであり、請求項1に記載のものは、可撓性シート材からなる筒状の胴部の上端開口を封止し、下端開口に近い胴部の内部に可撓性シート材からなる底部を設け、該底部と胴部と上記上端の封止部とにより囲まれた空間を透析用剤収納空部とし、底部の下方に位置する胴部の下端開口を封止して底部の外側の面を覆い隠し、
前記底部を谷折りにし、該底部が開封箇所へ向けて傾斜するように構成したことを特徴とする。
なお、谷折りとは、底部の最も深い中央部分が胴部の下端開口側に突出した状態となるように折り曲げることを意味する。
【0010】
請求項2に記載のものは、谷折りした前記底部の上縁部を袋の上部に配置して、前記胴部と2重の袋構成にしたことを特徴とする請求項1に記載の透析用剤収納容器である。
【0011】
請求項3に記載のものは、前記底部の谷折りの折り目に、透析用剤の通過を阻止するが空気の通過を許容する大きさの孔を開設したことを特徴とする請求項1または2に記載の透析用剤収納容器である。
【0012】
請求項4に記載のものは、前記孔は、複数個を所定の間隔を空けて開設したミシン目状の孔から構成したことを特徴とする請求項3に記載の透析用剤収納容器である。
【0013】
請求項5に記載のものは、前記孔は、複数個を角千鳥型に配置した孔から構成したことを特徴とする請求項3に記載の透析用剤収納容器である。
【0014】
請求項6に記載のものは、下端の封止部と底部との間で胴部の下端部分を切除可能とし、切除した状態で底部の外側の面が胴部の下端開口内に露出するようにしたことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の透析用剤収納容器である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、以下のような優れた効果を奏する。
請求項1に記載の発明によれば、可撓性シート材からなる筒状の胴部の上端開口を封止し、下端開口に近い胴部の内部に可撓性シート材からなる底部を設け、該底部と胴部と上記上端の封止部とにより囲まれた空間を透析用剤収納空部とし、底部の下方に位置する胴部の下端開口を封止して底部の外側の面を覆い隠したので、この封止状態では、底部に空気が通る孔が開口していても、内部の透析用剤が湿るなどの不都合は生じない。そして、下端の封止部と底部との間で胴部の下端部分を切除するなどして封止を解くと、底部の外側の面が下端開口内に露出し、この状態で溶解装置にセットして底部をカッターで切るなどして開口すると、内部の透析用剤を溶解装置に投入することができる。
【0016】
この様に、溶解装置への接続部分である底部は使用時まで封止されて覆い隠された状態を維持しているので、確実に清潔な状態を維持することができる。したがって、溶解装置に投入する際に、容器に付着したゴミや菌が溶解装置に混入する不都合をなくすことができ、また、溶解装置にセットした状態で底部を破って透析用剤を落下するので発塵を抑制することができる。
【0017】
さらに、底部を谷折りにし、該底部が開封箇所へ向けて傾斜するように構成したので、底部が山折りである場合のように胴部と底部との間に透析用剤が残留することなく、使用時には透析用剤が袋内に滞ることなく流出する。
【0018】
請求項2に記載の発明によれば、谷折りした底部の上縁部を袋の上部に配置して、胴部と2重の袋構成にしたので、袋の口の封止と底部の溶着とを同時に行うことができ、製造が容易である。
【0019】
請求項3に記載の発明によれば、底部の谷折りの折り目に、透析用剤の通過を阻止するが空気の通過を許容する大きさの孔を開設したので、溶解装置に接続した状態では底部の孔を通して外部の空気が容器内に確実に入り、これにより容器内が負圧になることを防止でき、これにより透析用剤が底部の破断口から円滑に流出することができる。なお、底部の孔は透析用剤を通さないので、孔から透析用剤がこぼれ出て周囲を汚すなどの不都合は生じない。そして、投入が終了して空になった使用済みの容器は押し潰すなどして容易に減容でき、廃棄処理の容易化を図ることができる。
【0020】
請求項4に記載の発明によれば、底部の孔が、複数個を所定の間隔を空けて開設したミシン目状の孔から構成されているので、底部を破断する場合に、ミシン目に沿って破断し易くなる。したがって、底部を開口するカッターの切れが多少低下していても、確実に開口することができる。
【0021】
請求項5に記載の発明によれば、底部の孔が、複数個を角千鳥型に配置した孔から構成されるので、底部が他方向に破断し易くなり、溶解装置にセットして底部をカッターにより一層容易且つ確実に破断することができる。
【0022】
請求項6に記載の発明によれば、下端の封止部と底部との間で胴部の下端部分を切除可能とし、切除した状態で底部の外側の面が胴部の下端開口内に露出するようにしたので、溶解装置にセットする際に簡単な操作で底部を露出させることができ、取り扱いが容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の最良の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1(a)は袋式透析用剤収納容器の一実施形態の正面図、(b)は側面図である。図2(a)は本実施形態の袋式透析用剤収納容器における胴部の下端部分を切除している状態の正面図、(b)は側面図、(c)は部分拡大側断面図、(d)は底面図である。図3は底部の孔(並列型)の拡大平面図、図4は底部の孔(角千鳥型)の拡大平面図である。
【0024】
袋式の透析用剤収納容器1は、可撓性シート材からなる筒状の胴部2と、この胴部2内の下部に設けた可撓性シート材製の底部3とから概略構成され、胴部2内で底部3を谷折りにし、該底部3が開封箇所へ向けて傾斜するように構成される。
【0025】
可撓性シート材としては、例えば、ポリエステルのラミネートフィルム材やポリエチレンフィルムなど可撓性のある合成樹脂シート材(フィルム材)を使用することができ、胴部2には底部3よりも高い強度のものを用い、底部3にはカッターで破断し易いように胴部2よりも弱いものを用いると好適である。なお、図面に示す実施形態では、胴部2には、厚さ10〜50μmのポリエステルフィルムと、厚さ10〜50μmの酸化ケイ素蒸着ポリエステルフィルムと、厚さ50〜100μmのポリエチレンフィルムとを積層したラミネートフィルムを使用し、底部3には、厚さ10〜100μmのポリエチレンフィルムを使用している。
【0026】
本実施形態では、2枚の可撓性シート材を重ね合わせ、その左右側縁の封止部2c,2cを溶着(あるいは融着)して断面略笹葉形或いは略舟形の筒状の胴部2を形成し、両可撓性シート材の上端縁の封止部2aを溶着(あるいは融着)することで胴部2の上端開口を封止している。
【0027】
また、胴部2の内側に側断面が椀状或いはポケット状に彎曲した谷折りのシート材を配置して底部3とし、底部3の下方部分の正面視が略テーパーシュート形となるように底部3のシート材の両側下部を胴部2の2枚のシート材とともに下部中央へ向けて斜めに溶着(あるいは融着)して封止部2d,2dを形成している。そして、胴部2の上端の封止部2aと底部3と胴部2とによって囲まれた空間を透析用剤収納空部6とし、底部3の下方に位置する胴部2の下端開口を溶着(あるいは融着)するなどして封止部2bを形成し、これにより底部3の外側の面を胴部2の下端部分で覆い隠してゴミや雑菌の付着を防止できるように構成している。
【0028】
さらに、胴部2内において、谷折りした底部2の上縁部3aを袋の上部、すなわち、胴部2の上端の封止部2aに配置して、胴部2と2重の袋構成とし、胴部2の上端の封止部2aを溶着(あるいは融着)する際に、胴部2の上端よりも突出させた底部2の上縁部3aを胴部2の上端と同時に止着している。これにより、袋の口の封止と底部3の溶着(あるいは融着)とを同時に行うことができるばかりでなく、内側となる底部2の上縁部3a同士をも確実に止着でき、透析用剤収納容器1の製造を容易且つ確実に行うことができる。上端の封止部2aには、該透析用剤収納容器1を溶解装置に吊り下げるための吊り下げ穴(図示せず)が開口される。なお、本実施形態の袋式の透析用剤収納容器1の製造手順の詳細については後述する。
【0029】
そして、使用する時、即ち、溶解装置に投入する時に、下端の封止部2bと底部3との間で胴部2の下端部分8を略水平方向に切り裂いて切除可能とし、切除した状態で底部3の外側の面が下端開口内に露出するように構成されている。
【0030】
底部3には、左右の封止部2dを結ぶ方向に沿って、図2(d)において破線で示すような複数の孔4が開設されているが、開設方向はこれに限定されない。この底部に開設する孔4は、透析用剤収納空部6内に収納した透析用剤10の通過を阻止するが空気の通過を許容する大きさの小孔であればどのようなものでもよい。また、孔4の配置に関しても、例えば図3に示すように、複数個を所定の間隔HPを空けて開設したミシン目状の孔4…とし、このミシン目の孔4…を所定の間隔LPで複数列平行に配置してもよい。この様に、ミシン目状に複数の孔4…を開設すると、このミシン目の部分が線状の脆弱部となり、この脆弱部から破断し易くなり、切れ味の低下したカッターであっても確実に破断する。また、孔4は、ミシン目状に複数本平行に配置するものに限らず、前記間隔HPと間隔LPとを同じ寸法に設定して格子状に配置してもよいし、図4に示すように、縦方向のミシン目の孔4…の間隔pと横方向のミシン目の孔4…の間隔pとを同じ寸法に設定すると共に、これらミシン目の孔4と45度の角度で交差する傾斜線同士の交差点上に孔4を開設して複数個を配置した角千鳥型にしてもよい。
【0031】
そして、これらの孔4…は、容易に溶解することが求められる透析用剤10の粒径からして、開孔径が30〜200μmであって、開孔率が0.1〜2.5%であることが望ましい。これは透析用剤10が顆粒の場合であっても200μm以上であると孔4を通過してしまい、30μm以下であると空気の通りが不十分になるからである。また、開孔率が0.1%以下の場合にも空気の通りが不十分になり、2.5%を超えると製造が困難である。
【0032】
なお、開孔率は、図4に示す角千鳥型の場合には、157×D2÷p2で表すことができる。
【0033】
また、孔4を開設する範囲は、底部3の全域でもよいし、或いは一部でもよいが、複数の孔4を開設した範囲は単なる通気域として機能するだけではなく前記脆弱部としても機能するので、少なくとも溶解装置のカッターに対応した底部中央部分に配置することが望ましい。
【0034】
本実施形態の袋式の透析剤収納容器1では、胴部2内の底部3が谷折り状態であるので、底部3に開封を容易にする孔4を開設した場合に、底部3が開封箇所以外のところで裂けるのを防止することができる。
【0035】
袋式透析用剤収納容器1内に収納する透析用剤10は、溶解時における化学反応を防止するためにA剤とB剤との2種類に分けて提供される。A剤はブドウ糖、塩化ナトリウム、塩化マグネシウムなどの成分を含んだ薬剤であり、B剤は炭酸水素ナトリウムを主成分とする薬剤である。そして、透析液を調製するには、例えばA剤を2682.0g、B剤を661.6g使用する。そこで、本実施例に示す実施形態では、透析用剤収納容器1を、透析液の調整に必要な使用量を収納可能な容量に設定している。例えば、A剤用の透析用剤収納容器1の容量を約3リットル(幅約23cm、高さ約40cm)、B剤用の透析用剤収納容器1の容量を約1リットル(幅約13cm、高さ約23cm)に設定し、透析用剤収納容器1を見ただけで識別できるようにしてある。
【0036】
次に、図5を用いて、本実施形態の透析用剤収納容器1の製造手順を説明する。図5は本実施形態の透析用剤収納容器の製造過程の説明図である。
【0037】
本実施形態の透析用剤収納容器1の製造は、胴部2となる2枚の横長な長方形状の可撓性シート材32,32を重ね合わせるとともに、これら2枚の可撓性シート材32,32の間に、下部に折り目33aが位置するように谷折りした底部3となる可撓性シート材33を配置し、底部3となる可撓性シート材33の上端を僅か(例えば約1センチ)だけ可撓性シート材32,32の上端よりも上方に突出させる。谷折り状態のシート材33の縦長さSは、胴部2となる2枚のシート材32,32の縦長さTよりも短く設定されている。したがって、胴部2となる2枚のシート材32,32の間に底部3となるシート部材33を配置する際には、上端部同士が重なり合うように配置されるので、下部には底部3となるシート部材33が存在せず、胴部2となる2枚のシート材32,32のみが存することになる。
【0038】
このように3枚のシート部材32,33,32を重ね合わせた状態で、製造しようとする袋幅に合わせて袋の左右側縁の封止部2c,2cを溶着(あるいは融着)して断面略笹葉形或いは略舟形の筒状の胴部2を形成するが、その際、底部3の下方部分の正面視が略テーパーシュート形となるように底部3のシート材63の両側下部を胴部2の2枚のシート材32,32とともに下部中央へ向けて斜めに溶着(あるいは融着)して封止部2d,2dを形成する。この両側下部の封止部2d,2dにおいて、胴部2の2枚のシート材32,32のみしか存在しない部分は袋の両側縁部に沿って溶着(あるいは融着)される。
【0039】
そして、胴部2となる2枚のシート材32,32の上端縁の封止部2aを封止することにより胴部2の上端開口を封止するが、その際、底部2の上縁部3aを袋の上部、すなわち、胴部2の上端の封止部2aに配置して、胴部2と2重の袋構成としているので、胴部2の上端の封止部2aを溶着(あるいは融着)すると底部2の上縁部3aが同時に溶着(あるいは融着)され、しかも底部2の上縁部3aが少し胴部2の上端から突出しているので底部2の上縁部3aが確実に加熱されて確実に密着する。したがって、本実施形態の透析用剤収納容器1の製造が容易且つ確実になる。
【0040】
胴部2の上端の封止部2aと底部3と胴部2とによって囲まれた空間が透析用剤収納空部6となり、底部3の下方に位置する胴部2の下端開口を溶着(あるいは融着)するなどして封止部2bを形成し、これにより底部3の外側の面を胴部2の下端部分で覆い隠し、これにより、底部3に対してゴミや雑菌の付着を防止できるように構成している。そして、胴部2の内側には、透析用剤充填状態で側断面が椀状或いはポケット状に彎曲する底部3が形成されている。
【0041】
最後に、各袋体毎に切断すれば、本実施形態の袋式の透析用剤収納容器1が完成される。なお、胴部2の上端開口を封止する工程は、実際には、透析用剤収納空部6内に透析用剤10を所定量充填した後である。
【0042】
このように胴部2内に谷折り底部3が配置され、胴部2の上端の封止部2aを溶着(あるいは融着)すると底部2の上縁部3aが同時に溶着(あるいは融着)するので、従来のように溶着阻止板を挿入する必要がない。したがって、底部3は汚れず清潔に保たれる。
【0043】
次に、本実施形態の透析用剤収納容器1の使用方法および作用を図2および図6を用いて説明する。図6(a)は透析用剤の流出状態の拡大側断面図、(b)は透析用剤が少なくなった状態の透析用剤収納容器の側面図である。
【0044】
工場を出荷する状態では透析用剤収納空部6内に所定量の透析用剤10が収納され、胴部2の下端開口が封止されて底部3の下面が胴部2の下端部分8によって覆い隠されている。この状態で病院まで搬送され、保管される。そして、使用される時、即ち、溶解装置に透析用剤10を投入する場合には、図2に示すように、先ず、胴部2の下端の封止部2bと底部3との間で胴部2の下端部分8を切除する。この時、鋏やカッターなどの工具を使用してもよいが、胴部2の側縁の封止部2cに不図示の三角形の切り込みノッチを予め形成しておくと、作業者が手作業でこのノッチから引き裂いて胴部2の下端部分8を簡単に切除することができる。この様にして胴部2の下端部分8を切除すると、胴部2の下端を開いて折れ曲がった底部3を展開してその外側を下端開口内に露出させることができ、また、底部3は充填されている透析用剤の自重により皺などが延ばされて椀形に張る。
【0045】
底部3を露出させたならば、この透析用剤収納容器1を上端の封止部2aに開口した穴内に溶解装置のハンガーを挿通して吊り下げることにより溶解装置にセットする。そして、吊り下げられた透析用剤収納容器1はハンガーの移動により溶解槽の上方の投入位置まで搬送される。この投入位置では、図6(b)に示すように、この溶解槽の上部に設けられているカッター12が底部3の下面に下方から当接して底部3を破断する。なお、底部3は胴部2に比較して強度が低く、しかも複数の孔4が開設されているために裂け易い。このため、カッター12を底部3に当接して押圧するだけで容易に破断する。そして、底部3が破断したならば、その後カッター12をさらに上昇してから下降する。すると、破断した底部3の破断片が下方に彎曲してカッター12の周囲に口が開き、透析用剤収納空部6内の透析用剤10が開いた口から落下し始める。この様にして、内部の透析用剤10が流出し始めると透析用剤収納空部6内の気圧が低下する。すると、底部3には複数の孔4が開設されているので、これらの孔4を通して外部の空気が透析用剤収納空部6内に流入し、内部の気圧を大気圧に戻そうとする。したがって、透析用剤収納空部6内の気圧と外部の大気圧とのバランスが保たれる。加えて、底部3を谷折りにし、該底部3が開封箇所へ向けて傾斜するように構成しているので、胴部と底部との間に透析用剤が残留することなく、これらにより透析用剤収納空部6内の透析用剤が口から滞ることなく円滑に流出し、溶解槽内に投入される。
【0046】
そして、図6(b)に示すように、透析用剤が少なくなるにつれて透析用剤収納容器1は次第に側面幅を減少していき、すべての透析用剤が落下して空になると、ハンガーに吊り下げられた空の透析用剤収納容器1が取り外し位置に搬送される。この様にして、使用済みとなった透析用剤収納容器1は潰れて扁平な袋体となり、容積が最小限近くまで減少する。したがって、廃棄する場合に搬送などが容易である。
【0047】
このようにして、A剤をA剤用の溶解槽へ投入して9L(リットル)のA原液を調製し、B剤をB剤用の溶解槽へ投入して11.34LのB原液を調整する。そして、A原液:B原液:水=1:1.26:32.74の比率で混合すれば、315Lの透析液を調製することができる。
【0048】
なお、上記実施形態では、A剤をブドウ糖、塩化ナトリウム、塩化マグネシウムなどの成分を含んだ薬剤とし、B剤を炭酸水素ナトリウムを主成分とする薬剤としたが、本発明はこの組み合わせに限定されず、水等の液体に溶解したものを混合して所定の透析液を調製でき、運搬・保管時には分けておくことが好ましい薬剤の組み合わせであれば、どのような組み合わせであってもよい。
【0049】
また、本発明は、上記した透析用剤の容量や割合に限定されず、透析液の調製に必要な透析用剤の使用量に応じて透析用剤収納容器の寸法や収納容量を適宜設定することが好ましい。
【0050】
さらに、上記実施形態においては、胴部2の下端を溶着することにより封止したが、粘着テープで貼り合せるなどして封止してもよい。
【0051】
そして、前記容器は、合成樹脂フィルム材を使用して底部を構成したが、本発明における底部はこれに限定されるものではなく、可撓性シート材からなり、胴部内で底部を谷折りにし、該底部が開封箇所へ向けて傾斜するように構成されていればどのような素材でもよい。この底部に開設する孔についても透析用剤収納空部内に収納した透析用剤の通過を阻止するが空気の通過を許容する大きさの孔を有すればどのようなものでもよいし、孔も後加工で穿孔したものに限らず、素材に備わった孔でよい。例えば、不織布(フィルター状、和紙風、タイベックシート状などを含む)でもよいし、ゴアテックスのようにフィルムを延伸して裂け目を設けたものなどでもよい。このような素材により底部を構成すると、孔は小さくてもその開孔率が大きくなり、透析用剤容器として好適である。そして、これらの素材を用いた底部に、前記実施形態に挙げた孔を別途開設してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】(a)は袋式透析用剤収納容器の一実施形態の正面図、(b)は側面図である。
【図2】(a)は本実施形態の袋式透析用剤収納容器における胴部の下端部分を切除した状態の正面図、(b)は側面図、(c)は部分拡大側断面図、(d)は底面図である。
【図3】複数の孔をミシン目状に開設した底部の拡大平面図である。
【図4】複数の孔を角千鳥型に配置した底部の拡大平面図である。
【図5】本実施形態の袋式透析用剤収納容器の製造過程の説明図である。
【図6】(a)は透析用剤の流出状態の拡大側断面図、(b)は透析用剤が少なくなった状態の透析用剤収納容器の側面図である。
【図7】(a)は従来の袋式透析用剤収納容器の正面図、(b)は側面図である。
【図8】(a)は従来の袋式透析用剤収納容器における胴部の下端部分を切除した状態の正面図、(b)は側面図、(c)は底面図である。
【図9】(a)透析用剤が少なくなった状態の従来の透析用剤収納容器の正面図、(b)は側面図、(c)はポケット部に透析用剤が残留している状態の拡大側断面図である。
【図10】従来の袋式透析用剤収納容器の製造過程の説明図である。
【符号の説明】
【0053】
1 透析用剤収納容器
2 胴部
2a 上端の封止部
2b 下端の封止部
2c 側縁の封止部
3 底部
4 孔
6 透析用剤収納空部
8 胴部の下端部分
10 透析用剤
12 カッター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性シート材からなる筒状の胴部の上端開口を封止し、下端開口に近い胴部の内部に可撓性シート材からなる底部を設け、該底部と胴部と上記上端の封止部とにより囲まれた空間を透析用剤収納空部とし、底部の下方に位置する胴部の下端開口を封止して底部の外側の面を覆い隠し、
前記胴部内で前記底部を谷折りにし、該底部が開封箇所へ向けて傾斜するように構成したことを特徴とする透析用剤収納容器。
【請求項2】
谷折りにした前記底部の上縁部を袋の上部に配置して、前記胴部と2重の袋構成にしたことを特徴とする請求項1に記載の透析用剤収納容器。
【請求項3】
前記底部の谷折りの折り目に、透析用剤の通過を阻止するが空気の通過を許容する大きさの孔を開設したことを特徴とする請求項1または2に記載の透析用剤収納容器。
【請求項4】
前記孔は、複数個を所定の間隔を空けて開設したミシン目状の孔から構成したことを特徴とする請求項3に記載の透析用剤収納容器。
【請求項5】
前記孔は、複数個を角千鳥型に配置した孔から構成したことを特徴とする請求項3に記載の透析用剤収納容器。
【請求項6】
下端の封止部と底部との間で胴部の下端部分を切除可能とし、切除した状態で底部の外側の面が胴部の下端開口内に露出するようにしたことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の透析用剤収納容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−313089(P2007−313089A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−146779(P2006−146779)
【出願日】平成18年5月26日(2006.5.26)
【出願人】(000226242)日機装株式会社 (383)
【Fターム(参考)】