説明

透湿度評価装置および透湿度評価方法

【課題】高い防湿性を有する耐湿保護膜を対象とした透湿度測定の正確性と簡便性の改善を図ること。
【解決手段】アルカリ金属薄膜10に対して光源11から光を照射し、アルカリ金属薄膜10を透過した光を受光部12で受ける。また、湿度提供部15が提供する水蒸気が被測定対象の薄膜を通過したならば、その水蒸気がアルカリ金属薄膜10に接触するように構成する。アルカリ金属薄膜10に水蒸気が接触し、アルカリ金属薄膜10が水酸化するとその光透過率が変化するので、受光部12による受光強度の変化を受光強度変化計測部13によって測定することで、透湿度算出部14は測定された受光強度の変化量から透湿度を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐湿性保護膜などの薄膜の透湿度を評価し、測定する透湿度評価装置および透湿度評価方法に関し、特に透湿度の測定感度の向上と装置構成および測定操作の簡便化に関わり、高い防湿性を有する耐湿性保護膜の透湿度測定の正確性および簡便性の改善を目指すものである。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子を用いたディスプレイは、従来の液晶ディスプレイに比べ、コントラストが高く色が鮮やかなこと、視野角が広いこと、自らが発光し、バックライトが不要であるため薄型軽量化が可能であることなどの様々な特徴があり、次世代のディスプレイとして注目されている。
【0003】
特に自発光という特徴は、柔軟性のある高分子フィルム上に有機EL素子を形成することにより、曲げたり丸めたりすることが可能なフレキシブルディスプレイの実現を可能にする技術として大きな注目を集めている。
【0004】
ところで、有機EL素子を構成する発光層や電極材料としては、水分に対する反応性が非常に高いものが使用されているため、ごく微量であっても水分が素子の内部に入り込んでしまうとこれらの材料が水分と反応して劣化してしまい、その部分が発光しなくなってしまう。
【0005】
ガラスや金属の板は、水分の透過を遮断する能力が非常に高いため、平板型のディスプレイにおいてはガラス板や金属板を組み合わせて有機EL素子を封止することにより水分との反応を抑制することが可能であるが、フレキシブルディスプレイにおいてはガラス板等は柔軟性が無いため使用できない。一方、高分子フィルムは水蒸気透過性が高く水分の遮断能力に欠けているので、薄膜で柔軟性があり、なおかつ水蒸気透過率が低い耐湿保護膜を高分子フィルム表面や有機EL素子表面に形成して水蒸気の透過を防止する必要がある。
【0006】
耐湿保護膜として種々の無機および有機材料が検討されているが、ディスプレイのフレキシブル性を維持するためには防湿保護膜の膜厚を非常に薄くする必要があり、その水蒸気透過度も従来の防湿膜を遥かに下回る10−4〜10−5g/m/day程度である必要があるといわれている。
【0007】
このため、有機ELフレキシブルディスプレイに用いる防湿保護膜の開発や生産管理には、非常に高感度な水蒸気透過度測定装置が必要である。
【0008】
しかし、従来の標準的な水蒸気透過度測定方法であるカップ法(非特許文献1参照。)やモコン法(非特許文献2参照。)では、検出限界がそれぞれ1g/m/day、10−2g/m/dayであり有機ELディスプレイ用耐湿保護膜の水蒸気透湿度測定に用いるには感度が明らかに不足している。
【0009】
さらに現状において最も感度の高いモコン法は測定装置が非常に高価であるために分析コストが高いという問題もあり、高感度で簡便な水蒸気透過度測定方法が求められている。
【0010】
この問題に関する解決方法として、例えばガラス基板上に形成した有機EL素子上に評価しようとする耐湿保護膜を形成し、高温多湿雰囲気下での有機EL素子の劣化状況を観察する方法(非特許文献3参照。)や、基板上に形成したカルシウム薄膜上に耐湿保護膜を形成し、カルシウム薄膜が水分と反応して変色していく様子を観察する方法、あるいはカルシウム薄膜の両端に端子を設け、薄膜の電気抵抗変化から水分量を求める方法(非特許文献4参照。)などが開発されている。
【0011】
【非特許文献1】JIS Z 0208
【非特許文献2】JIS K 7129B
【非特許文献3】S. K. Park et at, Electrochemical and Solid-State Letter, 8 H21-H23 (2005)
【非特許文献4】R. Paetzold et at, Proceeding of SPIE Vol.5214 P73-P82 (2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、有機EL素子上に保護膜を形成する方法は、保護膜の有機ELディスプレイに対する適用性の評価には利用できるが、発光層や陰極など有機EL素子を構成する様々な材料が水分と反応するため、定量的な水蒸気透過量の評価を行なうことは困難である。
【0013】
また、カルシウム薄膜の変色を観察する測定方法は、複雑な画像処理を行なうためにカメラやコンピュータ、さらに解析のためのソフトウェアなどが必要となり、装置が複雑になるという問題がある。
【0014】
さらに、カルシウム薄膜の電気抵抗変化から水分量を求める方法では、水分量と電気抵抗変化が比例する範囲が狭いので、例えば水分量が多くある程度カルシウムの化学反応が進むと電気的には断線状態となり、水蒸気透過量の測定が不可能となる。そのため、測定前にある程度の精度で保護膜の水蒸気透過度を予測してカルシウム薄膜の条件を設定する必要が生じ、測定の簡便性が大きく損なわれるという問題があった。
【0015】
本発明は、前述した従来の課題を解決するためになされたものであり、高い防湿性を有する耐湿保護膜を対象とした透湿度測定の正確性と簡便性の改善を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、本発明にかかる透湿度評価装置は、評価対象である薄膜の透湿度を評価する透湿度評価装置であって、水蒸気との化学反応によって光に対する透過性が変化する光透過部材と、前記光透過部材に対して光を照射する光源と、前記光透過部材を透過した光の強度を検知する光強度検知手段と、所定の湿度を供給する湿度供給手段と、前記湿度供給手段が供給する水蒸気を前記評価対象である薄膜を介して前記光透過部材に接触させ、当該水蒸気と前記光透過部材との化学反応によって生じる光強度測定手段による測定結果の変化量を計測する変化量計測手段と、を備えたことを特徴とする。
【0017】
また、本発明にかかる透湿度評価装置では、前記光透過部材は、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属によって形成されることを特徴とする。
【0018】
また、本発明にかかる透湿度評価装置では、光を透過し、水蒸気を遮断する基板の一方の面上に前記光透過部材の薄膜を形成し、該光透過部材の薄膜の上に前記評価対象である薄膜を形成したことを特徴とする。
【0019】
また、本発明にかかる透湿度評価装置では、光を透過し、水蒸気を遮断する基板の一方の面上に前記光透過部材の薄膜を形成し、前記基板の他方の面上に前記光強度検知手段として機能する光電変換素子を設けたことを特徴とする。
【0020】
また、本発明にかかる透湿度評価装置では、乾燥したガスが流れるガス流路が形成されるとともに外部に対する開口部を有する乾燥容器をさらに備え、前記評価対象である薄膜は前記開口部を覆って設置されるとともに前記開口部の外側から前記湿度供給手段によって水蒸気を供給され、前記乾燥容器内のガス流路上において前記開口部に対して下流側に前記光透過部材を設置したことを特徴とする。
【0021】
また、本発明にかかる透湿度評価装置では、前記光強度検知手段は太陽電池であり、光透過部材を透過した光の強度を該太陽電池の短絡電流値として出力することを特徴とする。
【0022】
また、本発明にかかる透湿度評価装置では、前記光透過部材としてCaを用いることを特徴とする。
【0023】
また、本発明にかかる透湿度評価方法は、評価対象である薄膜の透湿度を評価する透湿度評価方法であって、水蒸気との化学反応によって光に対する透過性が変化する光透過部材に対して光を照射する照射工程と、前記光透過部材を透過した光の強度を検知する光強度検知工程と、前記光透過部材に対し、前記評価対象である薄膜を介して水蒸気を接触させる水蒸気接触工程と、前記水蒸気と前記光透過部材との化学反応によって生じる光強度測定手段による測定結果の変化量を計測する変化量計測工程と、を含んだことを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば透湿度評価装置および透湿度評価方法は、水蒸気との化学反応によって光に対する透過性が変化する光透過部材に対し、評価対象である薄膜を介して水蒸気を接触させ、水蒸気と光透過部材との化学反応によって生じる光透過性の変化量から透湿度を評価するので、高い防湿性を有する耐湿保護膜を対象とした透湿度測定の正確性と簡便性の改善することができるという効果を奏する。
【0025】
また、本発明よれば、光透過部材としてアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属、特に好適にはCa(カルシウム)を使用することで、水蒸気に対する反応性が良好で、精度の高い透湿度評価を実現することができるという効果を奏する。
【0026】
また、本発明によれば、基板上に光透過部材の薄膜を形成し、その上に評価対象である薄膜を形成することで、簡易な構成で正確性の高い透湿度評価を実現することができる。
【0027】
また、本発明によれば、基板の一方の面上に光透過部材の薄膜を形成し、基板の他方の面上に光電変換素子を形成することで、簡易な構成で光透過部材を透過した光量を測定することができる。
【0028】
また、本発明によれば、乾燥したガスが流れるガス流路を形成した乾燥容器内に光透過部材を設置し、乾燥容器の開口部を評価対象である薄膜で覆って水蒸気を供給することで、評価対象である薄膜を容易に交換可能とし、簡便性の高い透湿度評価装置を得ることができるという効果を奏する。
【0029】
また、本発明によれば、光強度検知手段として太陽電池を用い、光透過部材を透過した光の強度を該太陽電池の短絡電流値として出力することで簡易な構成で精度よく対象薄膜の透湿度を評価することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下に添付図面を参照して、この発明に係る透湿度評価装置および透湿度評価方法の好適な実施例について詳細に説明する。
【実施例】
【0031】
まず、図1を参照し、本発明の概念と基本構成について説明する。同図に示した構成では、アルカリ金属薄膜10(なお、ここではアルカリ金属を例としているが、アルカリ土類金属であってもよく、またその他にも水蒸気との化学反応によって光に対する透過性が変化する物質であれば任意の物質を使用することができる。)、に対して光源11から光を照射し、アルカリ金属薄膜10を透過した光を受光部12で受けている。
【0032】
また、湿度提供部15が提供する水蒸気が被測定対象の薄膜を通過したならば、その水蒸気がアルカリ金属薄膜10に接触するように構成している。
【0033】
アルカリ金属薄膜10に水蒸気が接触し、アルカリ金属薄膜10が水酸化するとその光透過率が変化するので、受光部12による受光強度の変化を受光強度変化計測部13によって測定することで、透湿度算出部14は測定された受光強度の変化量から透湿度を算出することができる。
【0034】
このアルカリ金属(あるいはアルカリ土類金属など)の水酸化による透過率変化について、図2に示した模式図を参照してさらに説明する。
【0035】
同図に示した光源21は、光を照射する任意の素子もしくは装置であり、絞り板22は光源21からの光をアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の金属薄膜24の部分のみに照射するための手段である。また薄膜24は透湿度測定対象の薄膜であり、基板25は透明で水蒸気を透過しない素材を用いている。
【0036】
さらに、基板25を挟んで光源21の反対側に光電変換可能な検出器26を設け、この検出器26と電流値あるいは電圧値を示すメーター27とを配線28で接続している。
【0037】
一定の湿度および温度を維持できる容器内にこの透湿度測定装置の絞り板22から検出器26までを積層した部分(以下測定部と称す)を設置すると、透湿度測定対象物である薄膜23における水蒸気の透過が始まる。この水蒸気が金属薄膜24に到達すると、水蒸気と金属とが反応して水酸化物が生成する。
X + nHO → X(OH) + n/2H ・・・(1)
ここでnは金属Xの水酸化物における価数を示す。この反応により、元来銀色などの金属色を呈していた金属薄膜24が変色する。一例を挙げるとリチウムでは銀色から黒褐色を経て半透明の白色、ナトリウムでは銀色から半透明の白色、カルシウムでは銀色から透明などの変色が発生する。
【0038】
金属薄膜24の一方の面から光源21を用いて光を照射し、金属薄膜24の反対側で光電変換可能な検出器26を用いて透過光の光量を計測すると、この金属薄膜24の変色に伴い透過光量も変化する。そこで、予め薄膜が完全に水蒸気と反応した場合の透過光量を測定しておけば、金属薄膜24の水蒸気との反応進行度および反応の完了を検知することが出来る。したがって、一定温度、一定湿度の容器内に透湿度測定装置の計測部を設置してから金属24と水蒸気との反応が完了するまでの時間についても計測が可能である。
【0039】
一方、この金属薄膜24と水蒸気との反応が完了した時点までに透湿度測定対象物の薄膜23を透過した水蒸気の量は、式(1)に示した化学反応式により、金属Xの量に比例することが分かる。
【0040】
そこで、予め金属薄膜の膜厚と面積を計測しておけば反応完了までに透湿度測定対象の薄膜を透過した水蒸気の量を計算することができ、これらの反応完了までの所要時間と水蒸気透過量から、測定対象の薄膜に関する水蒸気透過率が求められる。
【0041】
つづいて、透湿度測定装置の具体的な構成例について説明する。本発明にかかる透湿度測定装置は、光を照射するための光源と、測定対象薄膜を透過した水蒸気とアルカリ金属(あるいはアルカリ土類金属)との反応状況を計測する計測部と、計測部で計測した値を表示するための表示部と、計測部周囲の温度および湿度を一定に調整する恒温恒湿槽等の容器を組み合わせて構成する。
【0042】
測定方法としては、まず、水蒸気を透過しない透明な基板上に金属薄膜を真空プロセス等によって形成し、金属薄膜の面積と厚さを測定しておく。次に、透明基板の金属薄膜を形成した面を測定対象物の薄膜により、金属薄膜が完全に覆われるように被覆する。
【0043】
被覆方法は、スピンコートやドクターブレード等の湿式法でも、蒸着やスパッタ等の真空プロセスでも構わないが、湿式法では溶媒や原料が水分を含まないように注意を払う必要がある。
【0044】
つぎに金属や測定対象物を成膜した基板の上に、基板上の金属膜のある部分にのみ光が照射されるように絞り穴の付いた絞り板を載せて計測部を構成する。検出器は光透過量を電気に変換できるものであれば何でも良く、太陽電池、CCDやCMOSなどの撮像素子、フォトダイオード、フォトトランジスタ、CdSなどの受光素子などが考えられる。金属薄膜の下部全体の光透過量を計測する必要があるため、小さな素子の場合は複数個を平面上に並べて検出器とすることが望ましい。
【0045】
この計測部に絞り板側から光源により光を照射すると、透過光が存在する場合には検出器において端子間の電流、電圧、あるいは抵抗等の変化が起こる。この変化を電流計、電圧計、抵抗計等検出器の出力に見合った表示部と電気配線により接続して透過光の量を計測する。
【0046】
これらの検出器の中で太陽電池は面積の大きいものが容易に得られること、短絡電流を計測値として用いるのであれば、比較的単純な電流計で表示ができることなどの利点があり、本発明の透湿度測定装置用検出器として特に優れている。
【0047】
上記の計測部を一定の温度および一定の湿度に保った容器に設置すると、容器内の水蒸気が測定対象物の薄膜を透過して金属薄膜に到達し、金属と反応して水酸化物を形成する。そして時間経過と共に金属の割合が減り、水酸化物の割合が増加するため、光の透過量が徐々に変化する。その後、金属が全て水酸化物に変化すると、光の透過量は一定の値になる。
【0048】
予め金属が全て水酸化物になった場合の光透過量を実験的に求めておけば、測定開始からその光透過量になるまでの時間を計測することで、測定対象物の薄膜をある時間で透過した水蒸気の量を求めることが出来る。
【0049】
この金属としては水蒸気との反応性の高いアルカリ金属やアルカリ土類金属を用いることが出来るが、水蒸気との反応前後での透過光量の差が大きいほうが測定が容易であり測定精度も高め易いという点から、水酸化物薄膜の透明性が高いCa金属が特に好ましい。
【0050】
つぎに、本実施例にかかる透湿度評価装置を用いて行なった評価結果の具体的な例について説明する。
【0051】
図3は、透湿度評価装置内で用いた計測部の構成を説明する断面図である。5cm角、厚さ0.5mmのガラス基板31の上に、Ca薄膜32を直径4cmの円形に成膜した。直径4cmの穴が開いたメタルマスクを基板上に載せ、Ca金属を原料とした抵抗加熱による真空蒸着法により成膜を行なった。蒸着時間を調節することにより、Ca薄膜32の膜厚は250nmとした。
【0052】
その上に測定対象物としてエポキシ樹脂層33を厚さ50μmになるように、エポキシ樹脂系ワニスをスピンコートにより基板全体に塗布した。ワニスは予め減圧脱泡することにより含まれている水分を除去し、スピンコートも乾燥空気中で行なった。
【0053】
この積層体を長辺10cm、短辺5cmのポリシリコン太陽電池34上に、エポキシ樹脂被覆面が上になるように設置した。さらにエポキシ樹脂被覆面の上に、中央に直径4cmの穴が開いた10cm四方の絞り板35を乗せて計測部を構成した。
【0054】
このようにして作成した計測部44を図4に示す様に、上面にガラス窓を有する恒温恒湿槽42のガラス窓の真下の位置に設置した上で、太陽電池の出力端子に導線45の一端を接続し、導線45の他端は恒温恒湿槽外に設置した電流計46と接続した。
【0055】
また、恒温恒湿槽42上面のガラス窓43の上から、100Wの人工太陽照明灯41により擬似太陽光を計測部44に向けて照射して測定を行なった。なお、恒温恒湿槽内は、20℃、60%RHに設定した上で、太陽電池短絡電流の計時変化を測定した。この結果図5の(a)に示したように短絡電流の変化が見られた。
【0056】
一方、Ca金属が水蒸気と完全に反応した場合の短絡電流を確認するために、図3に示した計測部からエポキシ樹脂層33を除き、Ca薄膜32が直接恒温恒湿槽内の外気に接するようにした計測部を作成し、同一条件により短絡電流の経時変化を測定した。この測定結果を図5の(b)に示す。
【0057】
また、Caが水蒸気と反応し終えて略一定となった状態での短絡電流値Isc[max]により規格化した短絡電流を縦軸に、Isc[max]が測定されるまでの経過時間により規格化した経過時間を横軸にして、図5の(a),(b)に示した計測値を表示しなおしたグラフを図6(a),(b)に示す。
【0058】
規格化した図6においては、エポキシ樹脂層の有無に関わらずほぼ同様の経時変化を示しており、Caと水蒸気との反応機構は樹脂層の影響をほとんど受けないことを示している。
【0059】
直径4cm、厚さ250nmのCa膜は、1.22×10−5molに相当し、Cal原子が水2分子と反応して水酸化物が生成するため、全てのCa膜が反応するためには4.37×10−4gの水蒸気が必要になる。
【0060】
計測対象物が薄膜であるため膜中における面内方向での水蒸気拡散は無視できると考えると、水蒸気の透過領域の面積は4πcmとなり、Caと水蒸気との反応が完了するまでの時間は図5から7185秒と求められる。従って、エポキシ樹脂層の透湿度は4.2g/m/dayと求められる。
【0061】
つづいて、本実施例にかかる透湿度評価装置を用いて行なった他の評価結果の具体的な例について説明する。図3に示した透湿度計測部における厚さ50μmのエポキシ樹脂層の上にプラズマCVD法でシランと窒素ガスを原料として基板温度150℃でSi薄膜を厚さ200nm成膜し、計測対象物をエポキシ樹脂とSiの2層構造とした。
【0062】
この透湿度計測部を用いて上述と同様の条件で短絡電流の経時変化を測定したところ、図7に示した結果が得られた。また、Caが水蒸気と反応し終えた状態で短絡電流Isc[max]により規格化した短絡電流を縦軸に、Isc[max]が測定されるまでの経過時間により規格化した経過時間を横軸にして図6に示した計測値を表示しなおしたグラフを図6に(c)として併せて示す。
【0063】
図6のグラフから明らかなように、図6(a)、(b)に示した短絡電流変化と図6(c)に示した短絡電流変化とは反応挙動が非常に近似しており、Caと水蒸気の反応は共に同様なメカニズムによる反応が起こっていると考えられる。
【0064】
従って、計測対象物を透過した水蒸気量ついても同様に、4.37×10−4gとみなされる。この水蒸気が透過するために要した時間は図7から44.56日と求められ、これらの値からエポキシ樹脂−Si複合膜の透湿度は7.8×10−3g/m/dayと求められる。
【0065】
また、上記の計算ではCa薄膜が全て水蒸気と反応し終えるまでの時間を用いて湿度の計算を行なったが、計測対象膜が透明でなおかつピンホールなどの局所的な欠陥からの水蒸気透過がなければ図6に示したように規格化した短絡電流の時間変化は計測対象膜の有無に関わらず同様な挙動を示すことから、Ca膜が半透明の状態になるまでの経過時間から透湿度を推算することも可能である。
【0066】
具体的に説明すると、計測対象膜を成膜せずCa薄膜が露出した測定系において、規格化した短絡電流が0.2になるまでの規格化放置時間は0.63となる。また、Caが完全に反応した時の電流値は24.7mAであった。
【0067】
これに対し、図7に示した測定結果に関してCaが完全に反応した際の短絡電流はCaが露出した系での測定値と同じ24.7mAであると仮定して短絡電流を規格化すると、規格化短絡電流が0.2となる電流値4.94mAには測定開始から24.7日後に到達する。
【0068】
この放置時間がCa露出状態での測定結果と同様に規格化した値の0.63に相当すると仮定すると、図7に示した計測系においてCaが完全に反応するために必要な経過時間は39.2日と計算される。
【0069】
この値は、図7に示した実測値44.56日に対して12%少ない値であるが、透湿度の概算を求める上では充分な精度を持つ値とみなせる。このような計算を行なうことにより、測定精度は低下するものの、測定時間を短縮することが可能となる。
【0070】
さらに図7に示した例では最初の10日間程度はほとんど短絡電流が流れない状態が継続しているが、これはCaの膜厚が厚く、膜表面から厚さ方向に一部分のみしか水分と反応していない状態が続いているためであり、Ca薄膜の膜厚をさらに薄くすればこの短絡電流が流れ始めるまでの時間が短くなり測定時間もさらに短縮されると考えられる。
【0071】
上述してきたように本発明にかかる透湿度評価装置および透湿度評価方法は、水蒸気との化学反応によって光に対する透過性が変化する光透過部材(たとえばアルカリ金属やアルカリ土類金属の薄膜)に対し、評価対象である薄膜を介して水蒸気を接触させ、水蒸気と光透過部材との化学反応によって生じる光透過性の変化量から透湿度を評価するので、高い防湿性を有する耐湿保護膜を対象とした透湿度測定の正確性と簡便性を改善することができる。
【0072】
なお、本実施例に示した電池構造や装置構成はあくまで一例であり、本発明はこれに限定されることなく適宜構造および構成を変更して実施することが出来るものである。
【0073】
例えば、本実施例では、アルカリ金属薄膜上に測定対象の薄膜を成膜した計測部を使用する場合を例に説明を行なったが、本発明の適用はこれに限定されるものではなく、アルカリ金属基板に接する水蒸気が全て測定対象の薄膜を経由すればよい。
【0074】
図8は、他の装置構成例を説明する説明図である。同図に示した構成では、透湿度測定装置は、除湿機51(あるいはガスボンベであってもよい)と送風機52(あるいは減圧器であってもよい)によって容器内にガス流路53を形成し、容器の開口部54を耐湿性保護膜で覆うと共に、開口部54の外側に恒温恒湿槽55を設けている。そして、アルカリ金属薄膜57をガス流路41内に、開口部54に対して下流側となるように設置し、光源56から出射され、アルカリ金属薄膜57を透過した光を受光素子58によって受光して、演算装置59が受光強度変化から透湿度を算出している。
【0075】
この構成を採用した場合であっても、既に述べたものと同様の効果、すなわち簡易な構成で測定対象の薄膜の透湿度を高精度に測定する、という効果を得ることが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0076】
以上のように、本発明に係る透湿度評価装置および透湿度評価方法は、耐湿保護膜の透湿度測定に有用であり、特に防湿性の高い耐湿保護膜の透湿度測定における測定の簡便化と高精度化に適している。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の概念と基本構成について説明する説明図である。
【図2】アルカリ金属の水酸化による透過率変化について説明する説明図である。
【図3】透湿度評価装置内で用いた計測部の構成を説明する断面図である。
【図4】計測部を恒温恒湿槽内部に設置する場合の装置構成を説明する説明図である。
【図5】太陽電池短絡電流の計時変化を説明する説明図である(その1)。
【図6】太陽電池短絡電流の計時変化を説明する説明図である(その2)。
【図7】太陽電池短絡電流の計時変化を説明する説明図である(その3)。
【図8】乾燥した空気を流すガス流路を設け、流路の開口部を覆う形で測定対象である膜を形成し、流路の中に金属薄膜を設置する方式の装置構成図である。
【符号の説明】
【0078】
10 アルカリ金属薄膜
11,21,56 光源
12 受光部
13 受光強度変化計測部
14 透湿度算出部
15 湿度提供部
22,35 絞り板
23 測定対象薄膜
24 金属薄膜
25 基板
26 検出器
27 メーター
28 配線
31 ガラス基板
32 Ca薄膜
33 エポキシ樹脂層
34 太陽電池
41 人工太陽照明灯
42,55 恒温恒湿槽
43 ガラス窓
44 計測部
45 導線
46 電流計
51 除湿機
52 送風機
53 ガス流路
54 開口部
57 アルカリ金属薄膜
58 受光素子
59 演算装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
評価対象である薄膜の透湿度を評価する透湿度評価装置であって、
水蒸気との化学反応によって光に対する透過性が変化する光透過部材と、
前記光透過部材に対して光を照射する光源と、
前記光透過部材を透過した光の強度を検知する光強度検知手段と、
所定の湿度を供給する湿度供給手段と、
前記湿度供給手段が供給する水蒸気を前記評価対象である薄膜を介して前記光透過部材に接触させ、当該水蒸気と前記光透過部材との化学反応によって生じる光強度測定手段による測定結果の変化量を計測する変化量計測手段と、
を備えたことを特徴とする透湿度評価装置。
【請求項2】
前記光透過部材は、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属によって形成されることを特徴とする請求項1に記載の透湿度評価装置。
【請求項3】
光を透過し、水蒸気を遮断する基板の一方の面上に前記光透過部材の薄膜を形成し、該光透過部材の薄膜の上に前記評価対象である薄膜を形成したことを特徴とする請求項1または2に記載の透湿度評価装置。
【請求項4】
光を透過し、水蒸気を遮断する基板の一方の面上に前記光透過部材の薄膜を形成し、前記基板の他方の面上に前記光強度検知手段として機能する光電変換素子を設けたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の透湿度評価装置。
【請求項5】
乾燥したガスが流れるガス流路が形成されるとともに外部に対する開口部を有する乾燥容器をさらに備え、前記評価対象である薄膜は前記開口部を覆って設置されるとともに前記開口部の外側から前記湿度供給手段によって水蒸気を供給され、前記乾燥容器内のガス流路上において前記開口部に対して下流側に前記光透過部材を設置したことを特徴とする請求項1,2,4のいずれか一つに記載の透湿度評価装置。
【請求項6】
前記光強度検知手段は太陽電池であり、光透過部材を透過した光の強度を該太陽電池の短絡電流値として出力することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の透湿度評価装置。
【請求項7】
前記光透過部材としてCaを用いることを特徴とする請求項2〜6のいずれか一つに記載の透湿度評価装置。
【請求項8】
評価対象である薄膜の透湿度を評価する透湿度評価方法であって、
水蒸気との化学反応によって光に対する透過性が変化する光透過部材に対して光を照射する照射工程と、
前記光透過部材を透過した光の強度を検知する光強度検知工程と、
前記光透過部材に対し、前記評価対象である薄膜を介して水蒸気を接触させる水蒸気接触工程と、
前記水蒸気と前記光透過部材との化学反応によって生じる光強度測定手段による測定結果の変化量を計測する変化量計測工程と、
を含んだことを特徴とする透湿度評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−286702(P2008−286702A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−133176(P2007−133176)
【出願日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】