説明

透過モードのイオン/イオン解離のための方法および装置

生体分子を分析するための方法および装置について説明する。本方法は、一方の種のイオン化分子を線形イオントラップに注入および貯蔵するステップと、第2の種類の反対極性のイオン化分子を注入し、貯蔵された第1の種を第2の種が透過するステップとを含む。結果として生じた反応生成物は、残りの電荷値を考慮して質量分析器によって分析され得る。ある側面において、線形イオントラップは、反応容積として使用されてもよく、イオン化された種は、実質的に共線的にトラップの軸に沿って注入されてもよい。質量分析は、質量選択的軸方向射出または質量分析計によって実行されてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は、2006年12月1日に出願された、米国仮出願第60/872,356号(これは、参考として本明細書に援用される)の利益を主張する。
【0002】
本出願は、分子、より具体的には生体分子を分析する装置および方法に関する。
【背景技術】
【0003】
電子捕獲解離(ECD)および電子移動解離(ETD)は、生体分子、具体的には、タンパク質およびペプチドを分析する構造解析ツールとして用いられている。両解離方法は、ペプチド骨格結合の広範に及ぶ開裂を示すが、例えば、リン酸化およびグリコシル化から生じる翻訳後修飾(PTM)を保持する。ECDおよびETDの両方における主に構造情報の豊富な解離チャネルは、多くの場合、補足的なc型およびz型フラグメントイオンをもたらすが、一方、衝突誘起解離または赤外多光子解離等の従来のイオン活性化方法は、b型およびy型フラグメントイオンをもたらす。後者の解離方法は、多くの場合、PTMを開裂する傾向により、修飾部位を同定するのが困難である。
【0004】
効率的なECDは、一形態の質量分析、つまりフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析において主に実装されるが、電気力学的イオントラップにおけるECDの実装について説明するいくつかの実験が報告されている。イオン/イオン反応を介した電子移動により生じるETDは、4重極3次元イオントラップおよび線形イオントラップ(LIT)を含む電気力学的イオントラップにおいて容易にもたらされる。そのイオン容量が大きく、また、注入イオンの捕獲効率が高いことから、LITは、3次元イオントラップに勝る利点を有する。LIT内においてイオン/イオン電子移動解離反応をもたらすいくつかの方式は、既知であり、この場合、両極性のイオンは、図1に示すように、軸方向からLITに生成および注入可能である。これは、どちらのイオン極性の貯蔵も伴わず、反対の極性のイオンがLITに連続的に入る際にその間で発生する反応に依存する(方法A)。イオンの相対速度が高くなると、本モードにおけるイオン/イオン反応の可能性は低くなると予測される。
【0005】
別の方法(方法B)は、低速度を提供すると予測される反対電荷のイオンの相互貯蔵を用いる。しかしながら、本方法は、LITの封じ込めレンズへの無線周波数(RF)電圧の印加、または4重極配列への不平衡RF電圧の印加を必要とする。
【0006】
LITにおいて実行されるイオン/イオン電子移動解離反応は、相互貯蔵モードを用いている。以前の研究によると、エレクトロスプレーイオン化(ESI)および大気サンプリンググロー放電イオン化(ASGDI)源を使用することによって、LITにおけるイオン/イオン陽子移動反応のための陽イオン透過/陰イオン貯蔵モードの使用が論証されている。しかしながら、イオン/イオン電子移動反応がもたらされなかったと考えられる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
イオントラップを動作する方法であって、イオントラップのチャンバー内にイオントラッピング容積を形成するステップと、第1のイオン集団をイオントラッピング容積に注入して、第1の集団が、トラッピング容積に貯蔵されるステップと、第2の荷電イオン集団をイオントラップに透過させて、第1および第2のイオン集団の物理的な重なりが発生するステップと、を含む方法が開示される。
【0008】
ある側面において、分子を分析するための装置であって、第1のイオン集団を受け入れおよび貯蔵し、第2のイオン集団を受け入れおよび透過させるように構成される線形イオントラップ(LIT)と、質量分析器とを備え、第1のイオン集団または第2のイオン集団のうちの1つは、質量分析器によって分析される装置が開示される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】線形イオントラップ(LIT)においてイオン/イオン電子移動解離反応をもたらすための2つの既知の方法を示し、(A)は、両極性のイオンの通過、(B)は、両極性のイオンの相互貯蔵を示す。
【図2】線形イオントラップ(LIT)においてイオン/イオン電子移動解離反応をもたらすための2つの方法を示し、(A)は、陽イオン貯蔵/陰イオン透過、(B)は、陽イオン透過/陰イオン貯蔵を示す。
【図3】(A)は、2重ナノESI/APCI源を有するQ TRAP質量分析計の簡略図であり、(B)は、第1の方法を使用するイオン/イオン電子移動反応実験のための異なるステップ(第1のステップ=頂部、最終ステップ=底部)における装置軸に沿った典型的な電位である。
【図4】(A)は、実験的2重ナノESI/APCI源を有するQ TRAP質量分析計の簡略図であり、(B)は、第2の方法を使用するイオン/イオン電子移動反応実験のための異なるステップにおける装置軸に沿った典型的な電位である。
【図5】3重プロトン化ペプチドKGAILKGAILR[M+3H]3+がQ2LITにトラップされる一方で、アゾベンゼンラジカル陰イオンをペプチドに80ミリ秒間通過させる透過モードのイオン/イオン電子移動反応の第1の方法を使用する実験的質量スペクトルデータを示す。
【図6】アゾベンゼンラジカル陰イオンがQ2LITにトラップされる一方で、3重プロトン化KGAILKGAILR[M+3H]3+がQ2に80ミリ秒間透過させる透過モードのイオン/イオン電子移動反応の第2の方法を使用する実験的質量スペクトルデータを示し、イオン/イオン電子移動反応から生じる生成イオンならびに残留親イオンは、Q3LITにおいて回収された。
【図7】アゾベンゼンラジカル陰イオンのイオン強度の依存度を、Q2LITの注入q値の関数として示し、陰イオン注入時間は15ミリ秒であり、Ql 4重極は、アゾベンゼンラジカル陰イオンを通過させるように設定された。
【図8】Q2LITにトラップされる3重プロトン化KGAILKGAILRの集団に陰イオンを80ミリ秒間通過させた後の、イオン/イオン反応生成物および残留親イオンのイオン強度の依存度を、アゾベンゼンラジカル陰イオンの注入q値の関数として示し、曲線1は%残留親イオン、曲線2は%全イオン/イオン、曲線3は%全ETDである。
【図9】Q0およびQ2のDC電位差によって示されるように、陰イオン注入エネルギーの関数として、%全イオン/イオン寄与の依存度を示し、3重プロトン化KGAILKGAILRの集団の貯蔵に使用されたQ2を、アゾベンゼンラジカル陰イオンが透過した80ミリ秒の間に、0.65の陰イオンq値を使用した。
【図10】3重プロトン化ホスホペプチドTRDIpYETDYYRKがQ2LITにトラップされる一方で、アゾベンゼンラジカル陰イオンをホスホペプチドに100ミリ秒間通過させる透過モードのイオン/イオン電子移動反応の第1の方法から得られた実験的質量スペクトルデータを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
詳細な説明
例示的実施形態は、図面を参照することによってさらに理解され得るが、これらの実施形態は、本質を制限することを意図しない。以下の説明において、多数の具体的な詳細は、本発明を完全に理解するために記載されるが、これらの具体的な詳細の一部または全部を含まずに実践されてもよい。他の事例において、周知の過程動作については、説明を不必要に曖昧にしないように詳細に説明されていない。
【0011】
化学的現象学は、電気力学的イオントラップにおける一方の極性のイオンを貯蔵し、反対極性のイオンをイオントラップに透過させ、反対電荷のイオン集団が空間的に重なるようにすることによって研究可能である。いくつかの透過モードのイオン/イオン反応方法について説明されており、電子移動を伴うものもあれば、他の種類の反応を伴うものもある。
【0012】
ある側面において、線形イオントラップにおいて検体陽イオンを貯蔵させ、試薬陰イオンを陽イオンに透過させるか、または試薬陰イオンを貯蔵し、検体陽イオンを透過させることを伴う電子移動解離(ETD)をもたらすための2つの関連方法について説明する。つまり、本方法は、一方のイオン極性を貯蔵し、反対の極性のイオンを線形イオントラップに進入させることを伴う。本明細書に開示される方法および装置において、線形イオントラップは、イオン/イオン反応が用いられたイオントラップに直列に配置される。ハイブリッド3連4重極/線形イオントラップ(LIT)器具と合わせたパルス型2重イオン源手法が使用される。2つの手法は、ETD生成物の正体および相対存在量に関し、類似の結果をもたらすと考えられる。また、2つの方法は、同じ反応時間において同等程度のイオン/イオン反応をもたらし得る。同じ時間における前駆イオンから生成イオンへの変換は、既知の相互イオン極性貯蔵実験により観測されるものと類似している。しかしながら、透過モード方法は、反対電荷のイオンの同時貯蔵を必要としない。
【0013】
第1の方法において、正電荷のイオンは、加圧型線形イオントラップ(LIT)に貯蔵されるが、電子移動試薬陰イオンは、機器を透過する。第2の方法は、線形イオントラップにおける電子移動試薬陰イオンの貯蔵を含むが、多重にプロトン化された検体イオンは、機器を透過する。LITが陰イオン貯蔵モードで動作するため、後者の方法は、外部機器において、ETD生成物の収集および質量分析を使用してもよい。
【0014】
透過モードETD反応は、検体および電子移動試薬イオンを交互に生成してLITに注入する2重ナノESI/APCI源によって促進される。LITの一端への注入に適した検体および試薬イオンを提供するためのイオン源の他の組み合わせを使用してもよい。2つの方法のイオン/イオン反応の程度は、各方法を最適条件下で行なう場合に類似し得る。類似のイオン/イオン反応時間を使用してもよく、その結果は、効率およびスペクトルの情報量の両方に関し、既知の相互貯蔵モードを使用して得られた結果と同等であり得る。透過モードETD方法では、両方のイオン極性の相互貯蔵を可能にするために措置を講じる必要がない。
【0015】
別の側面において、第2の方法(つまり、試薬陰イオンを貯蔵し、検体陽イオンを透過させる方法)を、リンクした走査ビーム型方法と併用して使用してもよい。透過モードETD方法は、イオン/イオン反応を使用してペプチドイオン構造を調査する際に、よりパラメトリックな選択肢を提供する。本方法は、本明細書においてハイブリット3連4重極/LIT装置を使用して説明されるが、4重極衝突セルを用いる任意の種類の器具を使用することも可能である。「透過モード」方法は、LITの封じ込めレンズに対するRFの重ね合わせを必要としなくてもよい。
【0016】
使用した実験材料は、メタノールおよび氷酢酸(ニュージャージー州、フィリップスバーグのMallinckrodt社)、入手したままの状態で使用したアゾベンゼン(ミズーリ州、セントルイスのSigma−Aldrich社)、SynPep社(カリフォルニア州、ダブリン)によって合成されたペプチドKGAILKGAILR、ホスホペプチドTRDIpYETDYYRK(カリフォルニア州、サンノゼのAnaSpec社)であり、さらに精製せずに使用した。ペプチド溶液は、正のナノESIのために48/48/2(容積/容積/容積)のメタノール/水/酢酸溶液中において10μMまで溶解した。
【0017】
図3に概略的に示すように、実験的2重ナノESI/APCI(大気圧化学イオン化)源を備えるプロトタイプ版のQ TRAP質量分析計(Applied Biosystems社/カナダ、オンタリオ州、コンコルドのMDS SCIEX社)を使用して、実験を実行した。電子機器は、Daetalyst3.10ソフトウェアによって制御され、ソフトウェアの研究版は、MDS SCIEX社によって提供された。
【0018】
イオン経路は、3連4重極質量分析計の経路に基づき、最終の4重極ロッド配列は、従来のRF/DC質量フィルタとして、または質量選択的軸方向射出(MSAE)を含むLITとして動作するように構成された。Q TRAPは、650kHzの駆動RF周波数で動作した。2つのイオン源は、多様な種類のイオン化陽イオンまたは陰イオンを機器に注入するように、機器の一端に配置された。イオンは、単一に荷電されていても多重に荷電されていてもよく、電荷のセンスは、2つのイオン源について同一または異なってもよい。
【0019】
イオンは、カーテンガスおよび差動排気領域を通って4重極イオンガイド(Q0)へ移動する。Q0チャンバーおよび分析器チャンバーは、差動排気開口であるIQ1によって分離された。分析器チャンバーは、3つの円形ロッド4重極配列、つまり、分析4重極Q1、衝突セル4重極(Q2)、および分析4重極(Q3)を直列に含んだ。4重極の各々の長さは127mmであり、フィールド半径は4.17mmであった。Q1RF/DC4重極の前部に位置する短いRFのみのBrubakerレンズ(ST)は、Q1駆動RF電源に容量的に結合された。衝突セル(Q2)は、線形イオントラップ(LIT)として使用され、その両端にIQ2およびIQ3レンズを含む。高精度弁を介して窒素ガスをQ2に導入し、1次衝突ガスとして使用した。IQ2およびIQ3の伝導度と、ターボ分子ポンプの既知のポンプ速度とからQ2内のガス圧力を計算した。Q2は、陽イオンおよび陰イオンのIQ2およびIQ3のDC電位をそれぞれ上昇/低下させることによってLITとしての役割を果たす。
【0020】
Q3の4重極は、円形金被覆セラミックロッドにより構築された。Q3の下流において、2つの追加のレンズが存在し、第1のレンズは、メッシュ被覆の直径8mmの口径を有し、第2のレンズは、開放型の8mmの口径を有する。これらのレンズは、図3において、それぞれ「出口レンズ」および「偏向器」と呼ばれる。一般的に、偏向器は、約200Vに保持され、Q3LITからイオン検出器であるETP社(オーストラリア、シドニー)の離散ダイノード電子倍増管へイオンを抽出するために、出口レンズに誘引されるようにする。検出器は、パルス計数モードで動作し、入口は、陽イオン検出では−6kV、陰イオン検出では+4kVに変動した。Q3に印加された補助RF電圧は、分析走査中、質量/電荷(m/z)に比例して傾斜した。Q3LIT内にトラップされたイオンは、380kHzの信号によって共鳴的に励起され、質量選択的に軸方向に射出された。
【0021】
Q2およびQ3の4重極配列は、LITとして構成され、かつ1MHzのRF駆動で動作するが、Q0およびQlの4重極配列は、650kHzのRF駆動で動作する。
【0022】
ある例において、第1の透過モードのイオン/イオン電子移動方法(つまり、検体陽イオンを貯蔵し、試薬陰イオンを透過させる方法)に関する走査順序は、Q2への陽イオン注入(15ミリ秒)、Q2LITへの陰イオン注入(80ミリ秒)、およびイオン/イオン反応の生成イオンの、質量分析のための質量分析器Q3への移動(50ミリ秒)を含む。図3は、過程におけるステップについて、システムの対象のイオン光学要素に印加される電圧をまとめる。縦座標は、距離を表し(正しい寸法比ではない)、点線は、グラフの上に図示される対応のイオン光学要素に整合している。横座標は、一連の電圧軸であり、ここで、実験順序の第1のステップは、頂部に表され、最終ステップは、底部に表される。電圧は、数値で示され、曲線は、装置軸に沿った電圧の変化を装置の物理的な面に概略的に関連付けることを意図する。
【0023】
透過モードのイオン/イオン電子移動反応実験の本例において、ナノESIワイヤに連結される正の高電圧電源をパルスして、検体イオンを生成した。検体イオンは、RF/DCモードで動作するQ1によって隔離され、約1〜8ミリトールの圧力でQ2LITに軸方向に注入された。これらのイオンは、30ミリ秒間、Q2において動力学的に冷却され、その間の時間、ナノESIワイヤエミッタに対する高電圧を停止した。冷却ステップ後、負極性で動作したAPCIワイヤに連結される電源をトリガして、電子移動試薬陰イオンを生成した。試薬陰イオンは、運動エネルギーが比較的低い(Q2DCオフセットは、およそ5Vであり、Q0DCオフセットに誘引される)Q2LITに入る前に、RF/DCモードで動作するQ1によって隔離された。また、Q2LITの閉じ込めレンズ(つまり、IQ2およびIQ3)に印加されたDC電位は、Q2LIT DCオフセットに反発する約1Vの値に調整された。電位における1Vの差異は、軸方向寸法において、冷却された検体イオンをトラップするのに十分高いものである。
【0024】
イオン/イオン電子移動解離の反応時間は、陰イオンのQ2LITへの注入時間によって判断され得る。既定の陰イオン透過時間後、イオン/イオン電子移動反応により生じる正電荷の生成イオンならびに残留前駆イオンは、Q2からQ3に移動し、380kHzの周波数における補助RF信号を使用して、質量選択的軸方向射出(MSAE)を受ける前に、約50ミリ秒間冷却された。
【0025】
ETD試薬陰イオンがQ2に貯蔵される一方で、多重にプロトン化されたペプチドまたはタンパク質がQ2を透過し、正電荷の生成物がQ3において収集される第2の方法の典型的な走査機能について図4に示す。本実験における陰イオンおよび陽イオンの形成の順番は、第1の方法で使用した順番とは逆である。第2の方法の場合、反応LIT(Q2)は、陰イオン貯蔵モードで使用され、Q3は、陽イオンLITとして動作して、ETD生成物および未反応前駆体を蓄積する。これは、対象のETD生成物が反応LIT(Q2)に蓄積する第1の方法とは異なる。本明細書で示されるスペクトルは、典型的には、20〜50の個々の走査の平均である。
【0026】
つまり、第2の方法は、透過イオンに関連するイオン/イオン反応生成物の質量分析に割り当てられる機器を有する。この装置の機能は、反応LIT(Q2)に隣接するLIT(Q3)によって果たされる。しかしながら、飛行時間型質量分析計、ORBITRAP質量分析計(マサチューセッツ州、ウォルサムのThermo Fisher Scientific, Inc.により入手可能)、4重極質量フィルタ、イオンサイクロトロン共鳴質量分析計、またはその同等物を使用してもよい。
【0027】
透過モードのイオン/イオン電子移動反応の両方法の動作は、3重プロトン化モデルペプチドKGAILKGAILRを検体陽イオンとして使用し、アゾベンゼンラジカル陰イオンをETD試薬として使用する実験例において示される。両極性のイオンは、交互に生成されて、2重ナノESI/APCI源によってQ2に注入された。図5は、第1の方法を使用して、3重プロトン化ペプチドKGAILKGAILR[M+3H]3+をQ2に貯蔵する一方で、アゾベンゼンラジカル陰イオンをQ2LITに80ミリ秒間通過させることにより生じるイオン/イオン電子移動反応後の質量スペクトルを示す。
【0028】
アゾベンゼン陰イオンの注入q値(トラッピングの振幅、RF振幅、RF周波数、イオンの質量対電荷比、および4重極配列の内接半径に関連する無次元パラメータ)は、約0.65であり、Q2の両端部レンズに印加されるDCトラッピング電圧は、Q2DCオフセットに対して1Vであった。
【0029】
RF周波数および内接半径は一定であったが、RF振幅は可変であり、イオンのq値を変更するために使用され得る。背景ガス圧力は、約8ミリトールであった。
【0030】
この透過モードのイオン/イオンETD反応により生じるETDフラグメントイオンの正体および相対存在量は、3次元イオントラップにおいて、および相互貯蔵モードで構成される線形イオントラップにおいて報告されるものと類似している。c型およびz型フラグメントイオンおよび中性側鎖損失の他に、いくつかのzラジカル酸素添加付加物(z*)およびその解離生成物(z*−HO)が観測された。後者のイオンは、酸素添加付加物を介して形成される。
【0031】
アゾベンゼンラジカル陰イオンをQ2に貯蔵する一方で、3重プロトン化ペプチドKGAILKGAILR[M+3H]3+をQ2LITに80ミリ秒間通過させることを伴う第2の方法を使用して、同一の反応物で収集されたデータについて図7に示す。検体イオンの通過中のアゾベンゼン陰イオンの反応q値は、約0.46であり、陰イオンのためにQ2の両端部レンズに印加されたDCトラッピング電圧は、Q2 DCオフセットに対して1Vであった。背景ガス圧力は、約8ミリトールであった。イオン/イオン電子移動反応により生じる生成イオンならびに残留親イオンは、Q2を透過してQ3において収集され、これは、LITモードで動作した。
【0032】
図5および図6のデータの収集に使用される条件下において、親イオンの生成イオンへの同等の変換が観測され、ETD生成物の正体および存在量は、2つの方法について類似していた。
【0033】
類似の考慮が、2つの方法の条件を最適化するために適用されてもよい。考慮される要因には、イオン/イオン反応時間にQ2において使用されるRFレベル、透過イオンの運動エネルギー、Q2の両側のトラッピングレンズに使用されるDCレベル、およびQ2圧力が含まれてもよい。透過モードのイオン/イオン反応を表す第1の方法に重点を置いて、これらの要点について本明細書に説明する。検体イオン、つまり、KGAILKGAILR[M+3H]3+は、最初に、最高イオン収集効率を達成するように選択されたq値(0.20〜0.50)で、Q2LITに注入された。検体イオンは、約30ミリ秒間、動力学的に冷却され、Q2DCオフセットに対して1VのDCを両方の端部レンズに印加することによってQ2においてトラップされた。次のステップは、アゾベンゼン陰イオンのQ2への注入であり、これにより、トラップされた検体イオンの集団とのイオン/イオン反応がもたらされた。イオン/イオン電子移動反応時間中にLITのロッドに印加された駆動RF振幅のレベルは、アゾベンゼン陰イオンおよびペプチド陽イオンの両方のq値に関連することから、検体イオンを貯蔵する一方で陰イオンを透過して陽イオン/陰イオンの重なりにおける最大値が判断可能であるようにするのに適した条件が判断される。
【0034】
図7は、アゾベンゼンラジカル陰イオンのQ2透過の、陰イオンq値への依存度を示す。データは、m/z182アゾベンゼン陰イオンを、一連の駆動RF振幅において、約8ミリトール(N)に加圧されたQ2線形トラップに進入させることによって得られた。陰イオンは、停止電圧をIQ3に入力することによってQ2にトラップされ、次に、Q3に移動した。次に、m/z182イオンの信号強度を、MSAEを介して測定した。線形イオントラップの形状により、注入されたイオンは、機器のゼロ磁場中心線に近接して入る。
【0035】
透過RFのみの4重極のイオン受け入れに関する以前の研究によると、低注入q値であっても、非常に高い半径方向の封じ込め効率が提案される。したがって、アゾベンゼン陰イオンのイオン存在量は、高RF振幅の領域がサンプルされない限り、注入q値の範囲にわたって極めて一定であり得る。陰イオン透過は、0.10から0.65のq値の範囲にわたってほぼ一定であることがわかる。
【0036】
アゾベンゼンラジカル陰イオンq値の、陽イオンの貯蔵に対する影響についても調査し、比較的低いq値のアゾベンゼンを使用することによって、Q2に貯蔵される高質量対電荷比の陽イオンの損失がもたらされ得るかについて判断した。3重に荷電されたイオンおよび2重に荷電されたイオンの両方のKGAILKGAILRイオンは、アゾベンゼンのq値の0.10〜1.0(データは図示せず)の範囲にわたって10%未満の存在量偏差でQ2に貯蔵され得る。図7のデータおよび説明された結果によると、イオン/イオン反応実験の陰イオンおよび陽イオンを収容する間に広範囲のRF振幅を使用可能であることが提案される。また、イオン/イオン反応速度は、反対電荷のイオン集団間の重なりの程度にも依存する。この重なりは、イオンのトラッピングウェルの深度を判断し得るため、RF振幅の影響を受け、イオントラップの中心におけるイオン密度に影響を及ぼし得る。
【0037】
駆動RF振幅の、イオン/イオン電子移動反応速度に対する影響について評価するために、検体イオンの充填時間は、12ミリ秒の一定値に設定され、陰イオンの注入時間は80ミリ秒に設定され、RF駆動電圧のみを変動させた。一連の実験において、検体イオンのトラッピング電圧は、1V(IQ2−RO2=1VおよびIQ3−RO2=1V)に設定される一方で、5V(RO2−RO0=5V)の比較的低い運動エネルギーでアゾベンゼン陰イオンをQ2に通過させた。
【0038】
図8において、残りの残留前駆イオンの割合(曲線1)、イオン/イオン反応生成物によって表される全イオン信号の割合(%Total Ion/ion、曲線2)、ならびにETDに起因する全イオン信号の割合の和(%Total ETD、曲線3)が記録され、アゾベンゼンラジカル陰イオンの注入q値の関数としてグラフ化された。イオン存在量は、全イオン/イオン生成物の存在量と残留親イオンの存在量との和に正規化された。曲線2の横座標値は、例えば、
【0039】
【数1】

から判断され、
曲線3の横座標値は、
【0040】
【数2】

から判断された。
【0041】
2つの曲線間の差異は、イオン/イオンプロトン移動および解離生成物をもたらし得ない任意の電子移動からの寄与を反映し得る。後者の2つのチャネルの相対的寄与は、相当な程度のイオン/イオン反応が観測される範囲にわたる陰イオンq値に敏感であるとは考えられない。イオン/イオン反応について、73±10%(つまり、%全ETD/(%Total Ion/ion)×100)は、反応対の認識されたETD生成物(つまり、ETDから生じる既知のcイオン、zイオン、および側鎖損失)の形成をもたらす。図9に示す結果によると、2つのイオン集団を可能な限りLITの中心線に集中させて、重なり、ひいてはイオン/イオン反応速度を最大化することが提案される。本例において、陰イオン透過の減少をもたらさない最高陰イオンq値(図8参照)において、少なくとも最高速度が観測される。
【0042】
第2の方法(検体陽イオンを貯蔵し、試薬陰イオンを透過させる方法)は、3重プロトン化ペプチドを貯蔵する一方で、アゾベンゼンラジカル陰イオンをLITに連続的に通過させることによって、最初に、比較的低い圧力(3×10−5トール)のQ3LITにおいて実行された。イオン/イオン反応から生じる生成イオン信号は低かった。Q2LITおよびQ3LIT間の差異は、背景圧力であり、これにより、圧力が、制御されるパラメータであることが提案され得る。
【0043】
イオン/イオン反応実験は、アゾベンゼン分子陰イオンの0.65のq値において、窒素の1〜10ミリトールの到達可能圧力領域にわたって、Q2において実行された。%イオン/イオン反応(または%ETD)における大幅な変動は、観測されなかった(データは図示されない)。これにより、%イオン/イオン反応が水平域に到達する圧力が、1ミリトール未満であること(または、Q3LITにおいて比較的低い透過モードのイオン/イオン反応速度をもたらす何らかの未確認要因が存在すること)が提案される。Q2LITにおける既知の相互貯蔵モードのイオン/イオン反応速度は、概して、Q3LITよりも少なくとも一桁大きい。ゆえに、2つのLITにおける反応速度の差異は、透過モード方法に限定され得ない。
【0044】
%全イオン/イオンに対する陰イオン注入エネルギーの影響について、Q0およびQ2間のDCオフセット差異によって定義されるように、図9に示す。かなり広範な最大値が、3Vおよび10V間で観測され、これは、単一荷電陰イオンの3〜10eVに相当する。要因の組み合わせが、観測された挙動に寄与すると考えられる。これらは、例えば、エネルギー依存性の陰イオンQ2透過、イオンの相対速度へのイオン/イオン反応速度の依存度、および反対電荷のイオンの重複に対する任意の相対並進エネルギーの影響を含んでもよい。
【0045】
図示されるデータは、陰イオンのエネルギー依存性の透過(データは図示されない)を定性的に追跡する。3eVの値よりも低い1.0eVにおける%全イオン/イオンは、例えば、1.0eVにおける陰イオン透過効率の低下によって説明され得る。しかしながら、より高いエネルギー、例えば、12eV以上において、%全イオン/イオン値は、観測された陰イオン透過よりも急速に下降する。イオン/イオン重複の減少は、より高い陰イオン注入エネルギーにおいて観測されたイオン/イオン反応の程度の減少に対する寄与要因として排除不可能であるが、イオン/イオン反応の断面の減少が、反応物の相対速度が増加する際に予測され得る。
【0046】
Q2に入るイオンは、多数の衝突を受け、陰イオン運動エネルギーの主要画分が、Q2の通過中に損失することが予測され得る。しかしながら、Q2におけるイオン反応物の相対的速度の分布は、陰イオン注入エネルギーとの何らかの相関を示すと予測され得る。図9に示す結果は、第1の方法を実行するための3〜10eVの注入エネルギーを使用する経験的支持を提供し得る。
【0047】
LITにおける透過モードETDの実行に影響を及ぼし得る別のパラメータは、アゾベンゼン陰イオンの透過時間中に、Q2LITの端部レンズ(IQ2およびIQ3)に印加される検体イオンのトラッピング電位であり得る。トラッピング電位は、動力学的に冷却された検体イオンならびにイオン/イオン電子移動反応から生じる生成イオンをトラップするのに十分大きい電位であるべきである。しかしながら、比較的高い電位がこれらのレンズ要素に印加されると、陰イオンの透過に不要な光学影響がもたらされ得る。陰イオン透過時間中に端部レンズに印加される電位の最適値は、本例において、RO2DCオフセットに対して0.5Vから2Vの間であった。
【0048】
表1は、本装置によりQ2において第1の方法を使用して、イオン/イオンETD反応をもたらすのに適切な条件を表す動作条件組を概説する。
【0049】
【表1】

開裂がペプチド骨格に沿って発生する傾向があることから、修飾された残留物の位置に関する情報が保持されるため、ETDは、リン酸化の部位等の翻訳後修飾の部位を同定するためのツールとして使用され得る。透過モードETD方法では、少なくとも最初に、相対並進エネルギーが大きいため、透過モードETD方法は、相互貯蔵モードのETD実験とは異なる。より高い相対並進エネルギーの一部が、イオン/イオン反応生成物の内部モードに結合される場合、透過モードおよび相互貯蔵モードのETD方法が、解離挙動に差異をもたらし得ることが可能であり得る。しかしながら、これは、特定の実験的装置およびパラメータのKGAILKGAILRイオンでは観測されなかった。しかしながら、他の検体イオンでは、透過モードおよび相互貯蔵モードのETD間の任意の差異が、翻訳後修飾種について観測されるかについて判断することが重要であり得る。
【0050】
図10は、第1の方法の透過モードにおいて実行されたETDのホスホペプチドに対する適用により生じるデータを示す。スペクトルは、3重プロトン化TRDIpYETDYYRKをQ2LITに貯蔵し、貯蔵されたイオンにアゾベンゼン陰イオンを100ミリ秒間通過させることによって得られた。アゾベンゼン陰イオンからの電子移動は、2つのチロシン間の結合を除く残留物内結合からc型および/またはz型フラグメントと、アルギニン側鎖損失からフラグメントとをもたらした。いくつかの酸素添加付加物およびその解離生成物(HOの損失)は、ETDフラグメントからのzラジカルについて、および+1荷電種について観測された。リン酸基の位置は、対応する未修飾ペプチドよりも高い80質量単位であるチロシン(c−c)に対するc型フラグメントイオンN末端およびチロシン(z−z)に対するz型フラグメントイオンC末端によって示される。bイオンからのリン酸基の損失が観測され、これは、加圧Q2LITへの陽イオン注入過程中の衝突誘起解離に起因し得る。リン酸塩の損失の証拠は、ETDから生じると予測される解離生成物から明白にならないと考えられる。したがって、透過モードETD方法は、ホスホペプチドの相互貯蔵モードETDを介して得られる情報と同等の構造情報を提供し得る。
【0051】
さらに別の側面において、タンパク質のトリプシン消化物によって得られる混合物等の、多重にプロトン化されたイオンの混合物は、イオントラップに蓄積および貯蔵可能である。次に、貯蔵されたイオンは、負電荷の電子移動試薬の集団を貯蔵する第2のイオントラップを通って、質量選択的軸方向射出(MSAE)を介して軸方向に放出可能である。電子移動解離からの生成物および未反応前駆イオンを含む第2のイオントラップを透過する正電荷のイオンは、飛行時間型質量分析計等の別の質量分析器に送られることが可能である。本方法は、陽イオンの最初の混合物がパルス型イオン源から生じる際に、イオンを効率的に使用してもよい。第1のイオントラップが充填される時間にイオンが形成される場合、第1のイオントラップに貯蔵される実質的に全てのイオンは、新しいイオン集団が次のイオン化によって形成される前に構造解析を受けることが可能である。
【0052】
さらに別の側面において、検体イオンが透過種である透過モードのイオン/イオン反応は、いわゆる「リンク走査」手法をもたらし、これは、混合物のスクリーニング目的に有用であり得る。
【0053】
例えば、いわゆる「親イオン走査」は、共通フラグメントをもたらすように反応する前駆イオンを同定するものである。親イオン走査は、透過イオンが対象の多重にプロトン化された種である透過モードETD方法に関連して実装可能である。タンデム質量分析計の第2の質量分析器が、対象の残留物に関連するc型イオンの質量対電荷比のイオンを通過させるように設定される場合、N末端における特定の残留物を有する任意のペプチドを同定することが可能であり得る。このように、タンデム質量分析計の第1の質量分析器を走査し、対象の種々のペプチド陽イオンを、貯蔵された電子移動試薬陰イオンを含有するイオントラップに質量依存様式で透過させることによって、特定のcフラグメントをもたらすように解離する前駆イオンのスペクトルが記録可能である。
【0054】
さらなる側面において、検体イオンの電荷の反転は、多重に荷電された試薬イオンをイオントラップに貯蔵し、検体イオンを透過させることによって、透過モードのイオン/イオン方法において達成可能である。いくつかの単一プロトン化検体イオンは、例えば、多重に荷電された脱プロトン化試薬種との多重プロトン移動反応を受けて、陰イオンを形成してもよい。このような検体イオンは、貯蔵された陰の試薬イオンとともにトラップされてもよく、その後、質量分析されることが可能である。
【0055】
さらに別の側面において、第1の極性イオンは、上述のように、LITに軸方向に導入されてもよく、第2の極性のイオンは半径方向に導入されてもよい。本配置において、時間順のイオン注入は必要とされない。つまり、両極性のイオンは、LITに同時に進入することが可能である(例えば、試薬イオンは、側面から連続的に入り、LITQ2に貯蔵されることが可能であり、一方、検体イオンは、連続的にLITを透過する)。不断の検体透過は、タンデム質量分析と併用するインライン液体クロマトグラフィー等の過程に適切であり得る。代替的に、イオン源のうちの1つ以上は、時間順であり得る。
【0056】
多種多様の他の透過モードのイオン/イオン反応実験も実行可能であり、電子移動を伴うものもあれば、他の種類の反応を伴うものもある。例えば、
1)タンパク質のトリプシン消化物によって得られる混合物等の、多重にプロトン化されたイオンの混合物は、イオントラップに蓄積および貯蔵可能である。次に、貯蔵されたイオンは、負電荷の電子移動試薬の集団を貯蔵する第2のイオントラップを通って、質量選択的軸方向射出を介して軸方向に放出可能である。電子移動解離からの生成物および未反応前駆イオンを含む第2のイオントラップを透過する正電荷のイオンは、飛行時間型質量分析計等の別の質量分析器に送られることが可能である。本実験は、陽イオンの最初の混合物がパルス型イオン源から生じる際に、イオンを効率的に使用してもよい。第1のイオントラップが充填される時間にイオンが形成される場合、第1のイオントラップに貯蔵される実質的に全てのイオンは、新しいイオン集団が次のイオン化によって形成される前に構造解析を受け得る;
2)検体イオンが透過種である透過モードのイオン/イオン反応は、いわゆる「リンク走査」実験に適用可能であり、これは、混合物のスクリーニング目的に有用であることが示されている。例えば、いわゆる「親イオン走査」は、共通フラグメントをもたらすように反応する全ての前駆イオンを観測するものである。親イオン走査は、透過イオンが対象の多重にプロトン化された種である透過モードETD実験で実装可能である。N末端における特定の残留物を有する任意のペプチドを同定することに関心がある場合、タンデム質量分析計の第2の質量分析器が、対象の残留物にのみ関連するc型イオンの質量対電荷比のイオンを通過させるように設定可能である。このように、タンデム質量分析計の第1の質量分析器を走査し、対象の種々のペプチド陽イオンを、貯蔵された電子移動試薬陰イオンを含有するイオントラップに質量依存様式で透過させることによって、特定のcフラグメントをもたらすように解離する前駆イオンのスペクトルは記録可能である;
3)検体イオンの電荷の反転は、多重に荷電された試薬イオンをイオントラップに貯蔵し、検体イオンを透過させることによって、透過モードのイオン/イオン方法において達成可能である。例えば、いくつかの単一プロトン化検体イオンは、多重に荷電された脱プロトン化試薬種との多重プロトン移動反応を受けて、陰イオンを形成することが可能である。このような検体イオンは、貯蔵された陰の試薬イオンとともにトラップされてもよく、その後、質量分析されることが可能である。
【0057】
本発明のほんの数例について上に詳細に説明したが、当業者は、本発明の新規の教示および利点から実質的に逸脱することなく多くの修正が可能であることを容易に理解するだろう。したがって、このような多くの修正は、以下の請求項において定義されるように、本発明の範囲内に含まれると意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオントラップを動作する方法であって、該方法は、
該イオントラップのチャンバー内にイオントラッピング容積を形成するステップと、
第1のイオン集団を該イオントラッピング容積に注入して、該第1の集団が、該トラッピング容積に貯蔵されるステップと、
第2の荷電イオン集団を、該イオントラップに透過させて、該第1および該第2のイオン集団の物理的な重なりが発生するステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記第1のイオン集団は、多重に荷電された陽イオンを含み、前記第2のイオン集団は、単一荷電陰イオンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
多数の正電荷を帯びる前記第1のイオン集団は、ペプチド、タンパク質、オリゴヌクレオチド、オリゴ糖、および合成ポリマーから成る群から選択される物質を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
エレクトロスプレーイオン化により、多数の正電荷を帯びる前記第1のイオン集団を生成するステップをさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記第1のイオン集団は、多重に荷電された陰イオンを含み、前記第2のイオン集団は、単一荷電陽イオンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記第1のイオン集団は、単一荷電陰イオンを含み、前記第2のイオン集団は、多重に荷電された陽イオンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記第1のイオン集団は、多重に荷電された陽イオンを含み、前記第2のイオン集団は、多重に荷電された陰イオンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記第1のイオン集団は、多重に荷電された陰イオンを含み、前記第2のイオン集団は、多重に荷電された陽イオンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記第2のイオン集団が前記第1のイオン集団に重なる時間の後に、該第1のイオン集団は、質量対電荷依存様式で外部検出器に射出される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記第2のイオン集団が前記第1のイオン集団に重なる時間の後に、該第1のイオン集団は、前記イオントラップに隣接する質量分析器に入ることが可能になる、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記質量分析器は、イオントラップ、飛行時間型質量分析計、ORBITRAP質量分析計、4重極質量フィルタ、またはイオンサイクロトロン共鳴質量分析計のうちのいずれか1つである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
質量分析器は、イオン源および前記イオントラップ間に配置され、特定の質量対電荷比のイオンが該イオントラップに入ることを選択するように構成される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記質量分析器は、4重極質量フィルタである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記イオントラップの前記チャンバーに蓄積される前記第1または第2のイオン集団のうちの1つの質量スペクトルを得るステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記第1のイオン集団または前記第2のイオン集団のうちの少なくとも1つは、動力学的に冷却される、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
分子を分析するための装置であって、該装置は、
第1のイオン集団を受け入れおよび貯蔵し、
第2のイオン集団を受け入れおよび透過させるように構成される線形イオントラップ(LIT)と、
質量分析器と、
を備え、
該第1の集団または該第2の集団のうちの1つは、該質量分析器によって分析される、
装置。
【請求項17】
前記第1または第2のイオン集団のうちの前記少なくとも1つは、静電イオン(ESI)発生器によって生成される、請求項16に記載の装置。
【請求項18】
前記第1または第2のイオン集団のうちの少なくとも1つは、APCI(大気圧化学イオン化)発生器によって生成される、請求項16に記載の装置。
【請求項19】
前記第1または第2のイオン集団のうちの少なくとも1つは、サンプリンググロー放電イオン化(ASGDI)源によって生成される、請求項16に記載の装置。
【請求項20】
前記質量分析器は、質量選択的軸方向射出(MSAE)モードにおいて動作するLITをさらに備える、請求項16に記載の装置。
【請求項21】
前記質量分析器は、イオントラップ、飛行時間型質量分析計、ORBITRAP質量分析計、4重極質量フィルタ、またはイオンサイクロトロン共鳴質量分析計のうちのいずれか1つである、請求項16に記載の装置。
【請求項22】
前記第1のイオン集団および前記第2のイオン集団は、前記LITに実質的に軸方向に導入される、請求項16に記載の装置。
【請求項23】
前記第1のイオン集団は、前記LITに半径方向に導入され、前記第2のイオン集団は、前記LITに軸方向に導入される、請求項16に記載の装置。
【請求項24】
前記第1および第2のイオン集団は、同時に導入される、請求項23に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2010−511861(P2010−511861A)
【公表日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−539335(P2009−539335)
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【国際出願番号】PCT/US2007/024613
【国際公開番号】WO2008/069959
【国際公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(598063203)パーデュー・リサーチ・ファウンデーション (59)
【氏名又は名称原語表記】PURDUE RESEARCH FOUNDATION
【Fターム(参考)】