説明

通信システム及び通信方法

【課題】幹線の末端側で分岐する支線に接続された子機モデムに対しても十分な通信速度を確保することができる、インターホン線を利用した通信システムを提供する。
【解決手段】通信システムは、インターホン線よりなる幹線6と、この幹線6の中途部からそれぞれ分岐するインターホン線よりなる複数本の支線7,7…とを有する通信網5と、幹線6の始端に接続された親機モデム8と、各支線7の終端に接続された複数の子機モデム9と、支線7の幹線6に対する分岐点近傍に設けられ、通信信号に対するインピーダンスを増大させるインピーダンスアッパー10と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インターホン線を信号伝送路として通信を行う通信システム及びその通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、高層マンション等の集合建築物においては、不審者の侵入を防止するため、共通玄関に設けられた共通ドアホンと、各住戸内に設置された住戸ドアホンとの間で音声等による通話を行うためのインターホンシステムが構築されている。
このインターホンシステムは、共用部分を縦方向に沿って延設されたインターホン線よりなる幹線と、この幹線から各階でそれぞれ分岐して各住戸に至るインターホン線よりなる複数本の支線とを有する通信網を備えており、共通ドアホンを幹線の始端に接続し、住戸ドアホンを各支線の終端に接続した構成になっている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−151384号公報(図17)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のインターホンシステムは、通常、共通玄関と各住戸との間の通話に特化した独立した通信システムになっているが、このインターホンシステムの通信網は、幹線から分岐する各支線がすべての住戸に通じているため、当該集合建築物をIP化するための通信網として利用することができる。
すなわち、IP通信が可能な親機モデムを幹線の始端に接続し、この親機モデムとインターホン線を介した双方向通信が可能な子機モデムを各支線の終端に接続すれば、インターホンシステムの通信網を利用した集合建築物のIP化が可能になる。
【0005】
しかしながら、集合建築物における既設のインターホン線よりなる通信網は、幹線と支線とが単純に直接接続されているので、親機モデムから近い支線は通信信号が伝わり易いが、親機モデムから遠い支線ほど分岐数が多くなるために伝送ロスが増大する。
このため、親機モデムから最も遠い支線(幹線の末端側から分岐する支線)ほど子機モデムにおける通信速度が低下し、特に集合建築物における最上階の住戸では、所望の通信速度を保証できないという可能性がある。
【0006】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑み、幹線の末端側で分岐する支線に接続された子機モデムに対しても十分な通信速度を確保することができる、インターホン線を利用した通信システム等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の通信システム(請求項1)は、インターホン線を信号伝送路として通信を行う通信システムであって、前記インターホン線よりなる幹線と、この幹線の中途部からそれぞれ分岐する前記インターホン線よりなる複数本の支線とを有する通信網と、前記幹線の始端に接続された親機モデムと、前記各支線の終端に接続された複数の子機モデムと、前記支線の前記幹線に対する分岐点近傍に設けられ、通信信号に対するインピーダンスを増大させるインピーダンスアッパーと、を備えていることを特徴とする。
【0008】
本発明の通信システムによれば、支線の幹線に対する分岐点近傍に、通信信号に対するインピーダンスを増大させるインピーダンスアッパーが設けられているので、通信信号が支線に必要以上に流入しなくなり、幹線の末端側で分岐する支線に対しても通信速度を増大させることができる。
このため、例えば、既設のインターホン線を利用して集合建築物をIP化する場合において、親機モデムから最も遠い住戸についても所望の通信速度を保証することができる。
【0009】
本発明の通信システムにおいて、前記各支線の長さはほぼ一定である場合に特に効果的である(請求項2)。
その理由は、各支線の長さがほぼ一定である場合には、幹線との分岐点において発生する進行波と反射波の合成波である一定周波数の定在波が生じ、特定周波数での通信が阻害され易くなるが、本発明のインピーダンスアッパーによってかかる定在波による影響をも有効に低減できるようになるからである。
【0010】
また、本発明の通信システムにおいて、前記インピーダンスアッパーが前記支線と前記幹線との分岐点から1m以内である位置に配置されていることが好ましい(請求項3)。
その理由は、インピーダンスアッパーによる支線に対する通信信号の通過抑制効果は分岐点から近いほど高くなるが、その分岐点からの距離が1mを超えると、当該通過抑制効果が大幅に低減し、インピーダンスアッパーを設ける意義がなくなるからである。
【0011】
更に、本発明の通信システムにおいて、前記親機モデムと前記子機モデムとの間の通信方式がOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)である場合に特に効果的である(請求項4)。
その理由は、特にOFDM方式の場合、上記定在波の影響で特定周波数の通信速度が大幅に低下して実質的に通信不能となる恐れがあるが、インピーダンスアッパーによって定在波の影響を低減することによって、かかる通信不能を未然に防止できるからである。
【0012】
本発明の通信方法(請求項5)は、インターホン線よりなる幹線の始端に接続された親機モデムと、この幹線の中途部からそれぞれ分岐する前記インターホン線よりなる複数本の支線の終端に接続された各子機モデムとの間で行う通信方法であって、前記支線の前記幹線に対する分岐点近傍にインピーダンスアッパーを設けることにより、前記幹線の末端側で分岐する前記支線に接続された前記子機モデムの通信速度を向上させることを特徴とする。
【0013】
本発明の通信方法によれば、各支線のうちで、幹線の最も末端側で分岐するものを除いた当該支線の幹線に対する分岐点近傍に、通信信号に対するインピーダンスを増大させるインピーダンスアッパーを設けることにより、幹線の末端側に接続された子機モデムの通信速度を向上させるようにしたので、例えば、既設のインターホン線を利用して集合建築物をIP化する場合において、親機モデムから最も遠い住戸についても所望の通信速度を保証することができる。
【発明の効果】
【0014】
以上の通り、本発明によれば、インターホン線を利用した通信システムにおいて、幹線の末端側で分岐する支線に接続された子機モデムに対しても十分な通信速度を確保できるので、親機モデムから最も遠い住戸についても所望の通信速度を保証することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る通信システムの配線構造図である。
【図2】各階の子機モデムにおける通信速度の一例を示すグラフである。
【図3】上記通信システムの右半分を示す拡大図である。
【図4】第1実施形態に係るインピーダンスアッパーの斜視図である。
【図5】第2実施形態に係るインピーダンスアッパーの斜視図である。
【図6】第3実施形態に係るインピーダンスアッパーの斜視図である。
【図7】第4実施形態に係るインピーダンスアッパーの平面図である。
【図8】第5実施形態に係るインピーダンスアッパーの平面図であり、コアが開いた状態を示す。
【図9】第5実施形態に係るインピーダンスアッパーの平面図であり、コアが閉じた状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
〔システムの全体構成〕
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る通信システムの配線構造図である。
本実施形態の通信システム1は、例えば高層マンション、高層ホテル又はオフィスビル等の集合建築物1、すなわち、1つの建屋で各階に単一又は複数の住戸2を有する複数階の集合建築物1を対象として構築されており、当該建築物1に敷設された既設のインターホン線を信号伝送路として通信を行う通信システムである。
【0017】
図1に示す集合建築物1は、n階建て(n=10階以上)であり、当該集合建築物1の総合玄関である玄関部3と、この玄関部3に通じる縦方向の共用部4とを備えている。集合建築物1の各階には、一対の前記住戸2,2が左右対称状に配置されている。
なお、図1の例では、2つの住戸2,2が各階に左右一対配置された場合を例示しているが、各階に配置する住戸2の数はこれに限定されるものではなく、単一の住戸2が各階に配置されたものでもよいし、3つ以上の住戸2,2…が各階に配置されたものであってもよい。
【0018】
本実施形態の集合建築物1は、既設のインターホン線よりなる通信網5を内部に有している。この通信網5は、玄関部3から共用部4に沿って縦方向に延びるインターホン線(一対の被覆電線)である1本の幹線6と、この幹線6の中途部から各階でそれぞれ分岐するインターホン線よりなる複数本の支線7,7…とからなる。
各支線7は、集合建築物1の各階の横方向に沿ってそれぞれ敷設されている。各支線7の始端は幹線6の中途部に直接接続され、各支線7の終端は各階の住戸2,2の内部まで到達している。
【0019】
なお、以下において、k階(k=1,2,……n)に敷設された支線7を、「k階支線」と略記することがある。
本実施形態の通信システムは、集合建築物1に敷設された既設のインターホン線よりなる上記通信網5と、その幹線6の始端に接続された親機モデム8と、その各支線7の終端に接続された複数の子機モデム9と、n階支線(最上階nの支線)7を除いた、1階から(n−1)階の各支線7に設けられたインピーダンスアッパー10とを備えている。
【0020】
親機モデム8と子機モデム9は、既設の上記通信網5を利用して集合建築物1の内部にIP通信が可能なLAN(Local Area Network)を構築するためのものであり、親機モデム8は集合建築物1の玄関部3に新設され、子機モデム9は各住戸2にそれぞれ新設されたものである。
これらの通信モデム8,9は、同種のモデム8,9との間でインターホン線を介したローカル信号での通信が可能であり、かつ、後述のドアホン13,18やパソコン17等の端末機器とLANケーブルを介して通信が可能である。
【0021】
また、上記通信モデム8,9では、モデム間でインターホン線を通じて送受信されるローカル信号の伝送方式として、多数のサブキャリアを周波数軸上で直交多重したOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)方式が採用されている。例えば4MHzから34MHzの帯域にOFDM変調することで通信を行う。
【0022】
各通信モデム8,9のうち、玄関部3に設けられた親機モデム8のポートには、LANケーブルを介してレイヤ2スイッチ12が接続されている。また、親機モデム8には、共通ドアホン13とカメラ14が接続されている。レイヤ2スイッチ12には、光ファイバ等を通じて外部ネットワーク15と繋がっている。
【0023】
従って、本実施形態の親機モデム8は、共通ドアホン13とカメラ14からの出力信号を、ローカル信号に変換してインターホン線(幹線6)に伝送可能であるとともに、レイヤ2スイッチ12からの信号を、ローカル信号に変換してインターホン線(幹線6)に伝送可能である。
【0024】
一方、各住戸2に設けられた子機モデム9のポートには、LANケーブルを介してパソコン16等の端末機器が接続されている。また、子機モデム9には、モニタ付きの住戸内部ホン17が接続されている。
従って、本実施形態の子機モデム9は、住戸内部ホン17の出力信号を、ローカル信号に変換してインターホン線(支線7)に伝送可能であるとともに、パソコン16からの信号を、ローカル信号に変換してインターホン線(支線7)に伝送可能である。
【0025】
上記構成の通信システムにおいて、例えば、各住戸2のユーザが外部ネットワーク15に信号送信する場合、パソコン16や住戸内部ホン17等の端末機器から出力されたイーサネット信号が、子機モデム9でローカル信号に変調されて支線7に注入される。
そして、このローカル信号は、支線7→幹線6→親機モデム9→レイヤ2スイッチ12を経て、外部ネットワーク15に伝送される。なお、ユーザが外部ネットワーク15から信号受信する場合は、上記信号送信の場合と反対の経路を辿る。
【0026】
〔インピーダンスアッパーの技術的効果(その1)〕
図1に示すように、本実施形態の通信システムに利用する既設のインターホン線よりなる通信網5には分岐が多い。
従って、幹線6に接続された1台の親機モデム8で各支線7に接続された複数の子機モデム9と通信を行うと、分岐数が多い支線7ほどローカル信号が到達し難く、通信不能ないし通信困難な住戸2が生じ得るという問題があり、階数や住戸数が多い集合建築物1ではこの問題が特に顕著化することになる。
【0027】
具体的には、玄関部3の親機モデム8から離れた階数が大きい住戸2では、親機モデム8と子機モデム9との間の伝送距離が長く、かつ、その間の支線7の分岐数も多くなることから、ローカル信号の減衰量が多くなって通信速度も低下する。
例えば、図1に示す既設の通信網5において、幹線6の最も末端側で分岐するn階支線7(最上階nの支線7)に至るまでの間に、仮に支線7の分岐が6個あるとし、かつ、1つの分岐による信号減衰が1/2であると仮定すると、最上階nの支線7での信号レベルは、1/2の6乗=1/128にまで低下することになる。
【0028】
このため、特にこのような幹線6の末端側においては、ローカル信号を子機モデム9によって抽出するのが困難になったり、子機モデム9からの通信信号を親機モデム8が抽出できなかったりする場合がある。
そこで、本実施形態では、n階支線7以外の支線7(1階から(n−1)階までの支線7)の幹線6に対する分岐点近傍に、モデム8,9が使用するローカル信号に対するインピーダンスを増大させる前記インピーダンスアッパー10を設けることにより、より上階の、典型的には最上階nの支線7における通信速度を有効に確保するようにした。
【0029】
図2は、最上階n以外の支線7にインピーダンスアッパー10を設けた場合の、各階の子機モデム9における通信速度の一例を示すグラフである。なお、図2において、破線はインピーダンスアッパー10を設けない場合を示し、実線がインピーダンスアッパー10を設けた場合を示している。
図2の破線に示すように、インピーダンスアッパー10を設けない場合には、階数が上がるに従って子機モデム9での通信速度が順次低下する。
【0030】
これに対して、図2の実線に示すように、1階から(n−1)階の支線7にインピーダンスアッパー10を設けた場合には、低い階の支線に不必要にローカル信号が流入しなくなるので、最上階nや高い階の子機モデム9では通信速度が向上する。
このように、本実施形態の通信システムによれば、1階から(n−1)階の各支線7に対してはインピーダンスアッパー10によってローカル信号を必要以上に流入させないようにし、より上階、典型的には最上階nの支線7に対する通信速度を増大させるようにしたので、例えば、既設のインターホン線を利用して集合建築物1をIP化する場合に、親機モデム8から最も遠い住戸2についても所望の通信速度を保証することができる。
【0031】
なお、上記の例では、1階から(n−1)階の支線7にインピーダンスアッパー10を設けたが、所望の通信速度が確保できる範囲であれば、1階から(n−1)階の支線7全てにインピーダンスアッパー10を設ける必要はない。例えば1階から(n−2)階の支線7にインピーダンスアッパー10を設けるようにしてもよい。
また、例えば、親機モデム8に近い支線7ほど、フェライトコアに対するターン数を大きくする等により、各支線7のインピーダンスアッパー10によるインピーダンスの増加程度を調節するようにすれば、各階での通信速度をほぼ均一化することができる。さらに、このようにインピーダンスアッパー10によるインピーダンスは各階で同一にする必要はなく、異ならせることによって各階での通信速度を調整するようにしてもよい。
【0032】
〔インピーダンスアッパーの技術的効果(その2)〕
図3は、本実施形態の通信システムの右半分を示す拡大図である。
図3に示すように、本実施形態の通信網5では、各支線7の長さD1が各階でほぼ同じ長さになっているが、かかる配線構造の通信網5は、各支線7の根元部分にインピーダンスアッパー10を設ける本実施形態の場合に特に有効である。
【0033】
すなわち、幹線6と支線7の分岐点Pでは、ローカル信号の進行波w1と反射波w2とによって定在波が生じるが、各支線7の長さD1が一定である場合には、その分岐点Pに生じる定在波の周波数がほぼ一定になり、特定周波数での通信が阻害され易くなる。
この点、本実施形態では、最上階n以外の各支線7にインピーダンスアッパー10を設けているので、各階の分岐点Pにおける上記定在波の発生を抑制でき、当該定在波による通信阻害を防止することができる。
【0034】
なお、図3において、各階のインピーダンスアッパー10は、支線7と幹線6との分岐点Pからの距離D2が、1m以内である位置に配置されていることが好ましく、また、その距離D2が30cm以内である位置に配置することがより好ましい。
その理由は、インピーダンスアッパー10による支線7に対するローカル信号の通過抑制効果は分岐点Pから近いほど高くなるが、その分岐点Pからの距離が1mを超えると、当該通過抑制効果が大幅に低減し、インピーダンスアッパー10を設ける意義がなくなるからである。
【0035】
また、距離D2が30cm以内の範囲が好ましいのは、次の理由による。
すなわち、既設の通信網5では、支線7と幹線6との分岐点Pが住戸外部ホン19の近傍に位置することが多く、支線7にインピーダンスアッパー10を実際に後付けする作業を行う場合には、既設の住戸外部ホン19を取り外した開口部からその取り付け作業を行うことになるが、かかるインピーダンスアッパー10の後付け施工を行う際に、住戸外部ホン19の開口部から30cm以内であれば、当該施工を行い易いからである。
【0036】
〔インピーダンスアッパーの構成例〕
次に、前記インピーダンスアッパー10の構成例について説明する。
〔第1実施形態〕
図4は、第1実施形態に係るインピーダンスアッパー10の斜視図である。
図4に示すように、このインピーダンスアッパー10は、磁性材料であるフェライトよりなるリング状のコア(フェライトコア)10cに対して、インターホン線を構成する2つの電線(被覆電線)L1,L2を図示のように巻き付けて構成されている。
【0037】
この場合、2つの電線L1,L2のうち、一方の電線L1がコア10cの外側から内側に1回巻き付けられ、他方の電線L2がコア10cの内部をそのまま通過している。
かかる簡素な巻き構造のインピーダンスアッパー10であっても、コア10c内部に同方向の磁束φを生じさせディファレンシャルモードである通信信号を減衰できる。
なお、実際の施工の際には、子機モデム9や住戸外部ホン19の取り付け用の壁孔から電線L1,L2を外部に引き出し、この引き出した電線L1,L2にコア10cを取り付けることになる。
【0038】
もっとも、フェライトコアは二分割構造のものであってもよい。二分割構造のコアを使用した場合には、既設の電線L1,L2を取り外したり切断したりしなくても、当該コアを電線L1,L2に取り付けることができる。
【0039】
〔第2実施形態〕
図5は、第2実施形態に係るインピーダンスアッパー10の斜視図である。
この形態に係るインピーダンスアッパー10では、リング状のコア10cを2つの電線L1,L2と並行に配置し、コア10c内で2つの電線L1,L2を交差させている。このような構造を採用することでも、コア10c内部に同方向の磁束φを生じさせディファレンシャルモードである通信信号を減衰させることができる。さらに、この構造は電線L1,L2の長さに余裕がない場合でも採用することができ、インピーダンスアッパー10の取り付けが容易となる。
【0040】
〔第3実施形態〕
図6は、第3実施形態に係るインピーダンスアッパー10の斜視図である。
コア10cは第1実施形態の場合と同様であるが、インターホン線の2つの電線L1,L2のうち一方L1がコア10cの外側から内側に複数回巻き付けられ、他方L2がコア10cの内側から外側に複数回巻き付けられている。巻き数はともに同じである。
この場合、2つの電線L1,L2が共に同じ回数の巻き付けであるから、電線L1,L2の長さのバランスをとることができ、インピーダンスアッパー10の取り付けが容易であるという利点がある。
【0041】
図6に示すインピーダンスアッパー10は、電源電流(交流)に対しては送電に支障となるインピーダンスとならず、存在しないのとほぼ同じである。
一方、ローカル信号の電流が、例えば図示の矢印のように2つの電線L1,L2を往路・復路として流れようとすると、コア10c内に生じる磁束φの向きは2つの電線L1,L2とも同一となり、大きなインピーダンスを生じる。従って、ローカル信号の信号通過は、このインピーダンスアッパー10により抑制される。また、複数回の巻き付けによって抑制効果を高めることができる。
【0042】
〔第4実施形態〕
図7は、第4実施形態に係るインピーダンスアッパー10の平面図である。
図7に示すように、このインピーダンスアッパー10は、1つの部品として構造的に独立させたもので、絶縁物からなる基台10d上に、コア10cと、これに対して第3実施形態(図6)と同様の要領で巻かれた2つの電線10a,10bと、各電線の端部が接続され、外線接続が可能な端子台10eとを備えている。
【0043】
図7に示すコア10cは円筒状であるが、リング状であってもよい。
このインピーダンスアッパー10は、インターホン線上の所望の箇所に設けられ、端子台10eにインターホン線が接続される。このように予め単一部品として完成したインピーダンスアッパー10を用いれば、例えば、現場でインターホン線をコア10cに巻き付ける作業が困難な場合でも、インピーダンスアッパー10の取り付け工事が容易になる。また、部品としての量産により、製造コストを下げることができる。
【0044】
なお、2つの電線10a,10bの被覆電線の太さは、このインピーダンスアッパー10を設置する箇所のインターホン線の太さに合わせて用意する必要がある。
【0045】
〔第5実施形態〕
図8及び図9は、第5実施形態に係るコア10cが二分割でかつ円筒型であるインピーダンスアッパー10を示す図である。このうち、図8は開いた状態を示し、図9は閉じた状態を示す。
この場合、左方から来た一方の電線L1は外側から内側へ入って、1回巻いて右方へ出て行く形となっている。また、他方の電線L2は、内側から外側へ出て再度内側を通って右方へ出て行く形となっている。
【0046】
図示のように、コア10c内にある3本の電線には同じ方向へ電流が流れ、コア10c内の磁束は同じ方向に生じる。従って、大きなインピーダンスを生じ、ローカル信号の電流通過が抑制される。
かかる二分割構造のコア10cの場合、インターホン線のケーブルを途中の中央部で引き裂いて2本の被覆電線L1,L2の状態とし、これら2本の電線L1,L2をそれぞれコア10cに巻き付けることでインピーダンスアッパー10を構成できる。
【0047】
〔その他の変形例〕
今回開示した各実施形態は本発明の例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は、上記実施形態ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲とその構成と均等な意味及び範囲内での全ての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0048】
1:集合建築物 2:住戸 3:玄関部 4:共用部 5:通信網
6:幹線 7:支線 8:親機モデム 9:子機モデム
10:インピーダンスアッパー
12:レイヤ2スイッチ 13:共通ドアホン 14:カメラ
15:外部ネットワーク 16:パソコン 17:住戸内部ホン
18:住戸外部ホン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インターホン線を信号伝送路として通信を行う通信システムであって、
前記インターホン線よりなる幹線と、この幹線の中途部からそれぞれ分岐する前記インターホン線よりなる複数本の支線とを有する通信網と、
前記幹線の始端に接続された親機モデムと、
前記各支線の終端に接続された複数の子機モデムと、
前記支線の前記幹線に対する分岐点近傍に設けられ、通信信号に対するインピーダンスを増大させるインピーダンスアッパーと、
を備えていることを特徴とする通信システム。
【請求項2】
前記各支線の長さがほぼ一定である請求項1に記載の通信システム。
【請求項3】
前記インピーダンスアッパーが前記支線と前記幹線との分岐点から1m以内である位置に配置されている請求項1又は2に記載の通信システム。
【請求項4】
前記親機モデムと前記子機モデムとの間の通信方式がOFDMである請求項1〜3のいずれか1項に記載の通信システム。
【請求項5】
インターホン線よりなる幹線の始端に接続された親機モデムと、この幹線の中途部からそれぞれ分岐する前記インターホン線よりなる複数本の支線の終端に接続された各子機モデムとの間で行う通信方法であって、
前記各支線のうちで、前記支線の前記幹線に対する分岐点近傍にインピーダンスアッパーを設けることにより、前記幹線の末端側で分岐する前記支線に接続された前記子機モデムの通信速度を向上させることを特徴とする通信方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−226277(P2010−226277A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−69452(P2009−69452)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.イーサネット
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】