説明

通信装置、通信システム、及び通信方法

【課題】異なる通信システム間における無線通信を可能として、コストの低減、利便性及びメンテナンス性の向上を図ることができるとともに拡張性を高めることができる通信装置、通信システム、及び通信方法を提供する。
【解決手段】通信装置としてのフィールド機器は、OSI参照モデルの物理層L1とデータリンク層L2とが共通する第1,第2無線通信規格(例えば、WirelessHART(登録商標)とISA100)に準拠した第1,2無線ネットワークを介した無線通信が可能であって、第1無線ネットワークにおける経路制御を行うネットワーク層L11と、第2無線ネットワークにおける経路制御を行うネットワーク層L21と、データリンク層L2に設けられ、物理層L1で受信されたデータの識別結果に基づいて、データをネットワーク層L11,L21の何れに渡すかを制御する識別制御部DCとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線により通信を行う通信装置、通信システム、及び通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、プラントや工場等においては、高度な自動操業を実現すべく、フィールド機器と呼ばれる現場機器(測定器、操作器)と、これらの管理及び制御を行う管理装置とが通信手段を介して接続された分散制御システム(DCS:Distributed Control System)が構築されている。このような分散制御システムの基礎をなす通信システムは、有線によって通信を行うものが殆どであったが、近年においてはISA100やWirelessHART(登録商標)等の産業用無線通信規格に準拠した無線通信を行うものも実現されている。
【0003】
上記のISA100は、国際計測制御学会(ISA:International Society of Automation)で策定されたインダストリアル・オートメーション用無線通信規格である。これに対し、上記のWirelessHART(登録商標)は、米国のHART(Highway Addressable Remote Transducer)通信協会によって提唱された無線通信規格である。
【0004】
ここで、プラント等に構築される通信システムは、1つの無線通信規格に統一されることが多い。これは、無線通信規格が異なる通信システム間では、基本的に通信を行うことができないからである。このため、あるプラントではISA100に準拠した通信システムが構築され、他のプラントではWirelessHART(登録商標)に準拠した通信システムが構築されるといった具合になる。無線通信規格の異なる通信システムが1つのプラントに構築される場合もあるが、かかる場合には各々の通信システムは別個のシステムとして存在することになる。
【0005】
以下の特許文献1,2には、産業用無線通信規格に準拠した無線通信を行う通信システムに関する技術では無いが、異なる通信プロトコルが用いられるネットワーク間の通信を可能にする技術が開示されている。具体的には、DSTM(Dual Stack Transition Mechanism:デュアルスタック転換メカニズム)技術を用いて、IPv4プロトコルが用いられるネットワークとIPv6プロトコルが用いられるネットワークとの接続を可能にする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2006−520548号公報
【特許文献2】特開2009−21921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述したISA100及びWirelessHART(登録商標)は、OSI参照モデルの物理層及びデータリンク層がIEEE802.15.4なる無線通信規格に準拠しており、多くの共通点を有する。例えば、同じ周波数帯域(2.4GHz帯)を使用して無線通信を行う、無線通信に使用するチャンネルの数及び周波数が同じである等である。しかしながら、これらの共通点を有するにも拘わらず、ISA100に準拠した通信システム及びWirelessHART(登録商標)に準拠した通信システムは、互いに通信を行うことができないため別個独立に構築されることとなる。
【0008】
このように、複数の通信システムを構築する場合には、各々の通信システムを構成する機器をそれぞれ用意する必要があることから、通信システムを利用するユーザにとっては、初期費用が多くなりコスト面での負担が大きくなるという問題がある。また、複数の通信システムを構築する場合には、通信システム毎に異なるツールを用いて保守・管理を行う必要があるため、利便性及びメンテナンス性の低下が引き起こされるとともに、保守・管理に要するコストが増大するという問題がある。更には、このような複数の通信システムが存在すると、拡張性が低下するという問題もある。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、異なる通信システム間における無線通信を可能として、コストの低減、利便性及びメンテナンス性の向上を図ることができるとともに拡張性を高めることができる通信装置、通信システム、及び通信方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の通信装置は、OSI参照モデルの物理層(L1)とデータリンク層(L2)とが共通する第1,第2無線通信規格に準拠した第1,2無線ネットワーク(N11、N21)を介した無線通信が可能な通信装置(11c、11d、21c、21d、30)であって、前記第1無線ネットワークにおける経路制御を行う第1経路制御手段(L11)と、前記第2無線ネットワークにおける経路制御を行う第2経路制御手段(L21)と、前記データリンク層に設けられ、前記物理層で受信されたデータの識別結果に基づいて、該データを前記第1,第2経路制御手段の何れに渡すかを制御する識別制御手段(DC)とを備えることを特徴としている。
この発明によると、データリンク層に設けられた識別制御手段によって物理層で受信されたデータが識別され、その識別結果に基づいて第1無線ネットワークにおける経路制御を行う第1経路制御手段と、第2無線ネットワークにおける経路制御を行う第2経路制御手段との何れか一方にデータが渡される。
また、本発明の通信装置は、前記識別制御手段が、前記第1経路制御手段からデータが渡された場合には、前記第1無線ネットワークを介して送信すべきデータである旨を示す第1識別情報を付加し、前記第2経路制御手段からデータが渡された場合には、前記第2無線ネットワークを介して送信すべきデータである旨を示す第2識別情報を付加することを特徴としている。
また、本発明の通信装置は、前記第1経路制御手段で行われる経路制御に従って前記第1無線ネットワークにおけるデータの転送制御を行う第1転送制御手段(L12)と、前記第2経路制御手段で行われる経路制御に従って前記第2無線ネットワークにおけるデータの経路制御を行う第2転送制御手段(L22)とを備えることを特徴としている。
また、本発明の通信装置は、前記第1,第2経路制御手段が、OSI参照モデルのネットワーク層に設けられ、前記第1,第2転送制御手段が、OSI参照モデルのトランスポート層に設けられることを特徴としている。
本発明の通信システムは、OSI参照モデルの物理層(L1)とデータリンク層(L2)とが共通する第1,第2無線通信規格に準拠した第1,2無線ネットワーク(N11、N21)と、該第1,2無線ネットワークを介した無線通信が可能な通信装置(11a〜11d、21a〜21d、30)とを備える通信システム(CS)であって、前記通信装置の少なくとも1つは、前記第1無線ネットワークにおける経路制御を行う第1経路制御手段(L11)と、前記第2無線ネットワークにおける経路制御を行う第2経路制御手段(L21)と、前記データリンク層に設けられ、前記物理層で受信されたデータの識別結果に基づいて、該データを前記第1,第2経路制御手段の何れに渡すかを制御する識別制御手段(DC)とを備えることを特徴としている。
本発明の通信方法は、OSI参照モデルの物理層(L1)とデータリンク層(L2)とが共通する第1,第2無線通信規格に準拠した第1,2無線ネットワーク(N11、N21)を介して無線通信を行う通信方法であって、受信したデータの識別結果に基づいて、前記第1無線ネットワークにおける経路制御と前記第2無線ネットワークにおける経路制御との何れか一方を行う第1ステップと、送信すべきデータに対し、前記第1無線ネットワークを介して送信すべきデータである旨を示す第1識別情報と前記第2無線ネットワークを介して送信すべきデータである旨を示す第2識別情報との何れか一方を付加する第2ステップとを有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、データリンク層に設けられた識別制御手段が、物理層で受信されたデータを識別し、その識別結果に基づいて第1無線ネットワークにおける経路制御を行う第1経路制御手段と、第2無線ネットワークにおける経路制御を行う第2経路制御手段との何れか一方にデータを渡すようにしている。このため、異なる通信システム間における無線通信が可能となり、コストの低減、利便性及びメンテナンス性の向上を図ることができるとともに拡張性を高めることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施形態による通信システムの全体構成を示す図である。
【図2】本発明の第1実施形態による通信システムで用いられる無線通信規格のOSI参照モデルを示す図である。
【図3】本発明の第1実施形態による通信システムにおける物理層のフレームフォーマットの一部を示す図である。
【図4】本発明の第1実施形態による通信システムにおけるデータリンク層のフレームフォーマットの一部を示す図である。
【図5】本発明の第1実施形態による通信装置としてのフィールド機器の基本構成を説明するための図である。
【図6】本発明の第1実施形態による通信装置としてのフィールド機器の要部構成を説明するための図である。
【図7】本発明の第2実施形態による通信装置の要部構成を示すブロック図である。
【図8】本発明の実施形態の効果を具体的に説明するための図である。
【図9】本発明の実施形態の効果を具体的に説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施形態による通信装置、通信システム、及び通信方法について詳細に説明する。
【0014】
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の第1実施形態による通信システムの全体構成を示す図である。図1に示す通り、本実施形態の通信システムCSは、異なる無線通信規格に準拠した2つの通信システムCS1,CS2を備える。本実施形態では、通信システムCS1がWirelessHART(登録商標)(第1無線通信規格)に準拠した無線通信を行う通信システムであり、通信システムCS2がISA100(第2無線通信規格)に準拠した無線通信を行う通信システムであるとする。尚、図1においては、理解を容易にするために、通信システムCS1を実線で図示し、通信システムCS2を破線で図示している。
【0015】
通信システムCS1は、フィールド機器11a〜11d、ゲートウェイ装置12、システムマネージャ13、及び通信ホスト14を備えており、無線ネットワークN11(第1無線ネットワーク)及び通信ネットワークN12を介した通信が可能である。通信システムCS2も通信システムCS1と同様の構成であり、フィールド機器21a〜21d、ゲートウェイ装置22、システムマネージャ23、及び通信ホスト24を備えており、無線ネットワークN21(第2無線ネットワーク)及び通信ネットワークN22を介した通信が可能である。尚、図1では通信システムCS1,CS2が4つのフィールド機器11a〜11d,21a〜21dをそれぞれ備える例を図示しているが、通信システムCS1,CS2が備えるフィールド機器の数は任意である。
【0016】
フィールド機器11a〜11dは、例えば流量計や温度センサ等のセンサ機器、流量制御弁や開閉弁等のバルブ機器、ファンやモータ等のアクチュエータ機器等のプラントや工場に設置される機器であり、WirelessHART(登録商標)に準拠した無線通信を行う。ここで、フィールド機器11a〜11dのうち、フィールド機器11c,11dは、WirelessHART(登録商標)のみならず、ISA100に準拠した無線通信も可能な機器(以下、デュアルスタック機器という)である。
【0017】
これらフィールド機器11a〜11dの動作は、例えばシステムマネージャ13や通信ホスト14からゲートウェイ装置12を介して送信されてくる制御データに基づいて制御される。また、フィールド機器11a〜11dで得られた測定データは、例えばゲートウェイ装置12を介して通信ホスト14に収集される。尚、フィールド機器11c,11dの詳細については後述する。
【0018】
ゲートウェイ装置12は、無線ネットワークN11と通信ネットワークN12とを接続し、例えばフィールド機器11a〜11dとシステムマネージャ13等との間で送受信される各種データの中継を行う装置である。尚、ゲートウェイ装置12は、無線アクセスポイントの機能も兼ねており、WirelessHART(登録商標)に準拠した無線通信を行う。
【0019】
システムマネージャ13は、無線ネットワークN11及び通信ネットワークN12を管理する。例えば、システムマネージャ13は、フィールド機器11a〜11d(更には、フィールド機器21c,21d)及びゲートウェイ装置12に制御信号を送信することにより、フィールド機器11a〜11d(フィールド機器21c,21d)とゲートウェイ装置12との間に無線経路を確立させる。加えて、システムマネージャ13は、新たなフィールド機器を無線ネットワークN11に参入させるか否かの参入処理等も行う。尚、このシステムマネージャ13は、無線ネットワークN11等の管理を行うものであるため、ネットワークマネージャとも呼ばれる。
【0020】
また、通信ホスト14は、ゲートウェイ装置12を介してフィールド機器11a〜11d(フィールド機器21c,21d)との間で通信を行う。具体的に、通信ホスト14は、無線ネットワークN11に接続されているフィールド機器11a〜11d(フィールド機器21c,21d)の制御(例えば、弁の開閉等の制御)、及び無線ネットワークN11に接続されているフィールド機器11a〜11d(フィールド機器21c,21d)で測定される測定データの収集等を行う。
【0021】
通信システムCS2に設けられるフィールド機器21a〜21d、ゲートウェイ装置22、システムマネージャ23、及び通信ホスト24は、通信システムCS1に設けられるフィールド機器11a〜11d、ゲートウェイ装置12、システムマネージャ13、及び通信ホスト14とそれぞれ同様の機能を有する。但し、フィールド機器21a〜21dのうち、フィールド機器21c,21dは、ISA100のみならず、WirelessHART(登録商標)に準拠した無線通信も可能なデュアルスタック機器である。
【0022】
尚、システムマネージャ23は、フィールド機器21a〜21d(更には、フィールド機器11c,11d)とゲートウェイ装置22との間に無線経路を確立させる処理等を行う。また、通信ホスト24は、無線ネットワークN21に接続されているフィールド機器21a〜21d(フィールド機器11c,11d)の制御、及び無線ネットワークN21に接続されているフィールド機器21a〜21d(フィールド機器11c,11d)で測定される測定データの収集等を行う。
【0023】
このように、本実施形態において、無線ネットワークN11に接続可能なフィールド機器11c,11dは無線ネットワークN21にも接続可能であり、また、無線ネットワークN21に接続可能なフィールド機器21c,21dは無線ネットワークN11にも接続可能である。このようなフィールド機器11a,11d,21c,21dを設けるのは、異なる通信システムCS1,CS2間における無線通信を可能として、通信システムCSのコストの低減、利便性及びメンテナンス性の向上を図るとともに拡張性を高めるためである。
【0024】
ここで、通信システムCS1が準拠する無線通信規格であるWirelessHART(登録商標)と通信システムCS2が準拠する無線通信規格であるISA100とを比較する。図2は、本発明の第1実施形態による通信システムで用いられる無線通信規格のOSI参照モデルを示す図である。図2に示す通り、通信システムCS1が準拠する無線通信規格であるWirelessHART(登録商標)のOSI参照モデルM1及び通信システムCS2が準拠する無線通信規格であるISA100のOSI参照モデルM2は共に、物理層、データリンク層、ネットワーク層、トランスポート層、及びアプリケーション層からなる。
【0025】
これらOSI参照モデルM1,M2の物理層及びデータリンク層は、以下に示す共通点を有する。
(1)物理層
・IEEE802.15.4に準拠する
・2.4GHzの周波数帯域を使用する
・16チャンネルを使用し、各チャンネルの周波数が同じである
(2)データリンク層
・EUI64アドレスを使用する
・チャンネルホッピング方式をサポートする
・メディアアクセス方式としてTDMA(Time Division Multiple Access:時分割多元接続)を使用する
【0026】
上記の通り、WirelessHART(登録商標)及びISA100のOSI参照モデルは、物理層及びデータリンク層がIEEE802.15.4なる無線通信規格に準拠しており、多くの共通点を有する。このため、物理層のフレームフォーマット及びデータリンク層のフレームフォーマットは、通信システムCS1,CS2の各々においてほぼ同じである。
【0027】
図3は、本発明の第1実施形態による通信システムにおける物理層のフレームフォーマットの一部を示す図である。通信システムCS1,CS2における物理層のフレームフォーマットは、PPDU(Physical Layer Protocol Data Unit)で構成される。このPPDUは、図3に示す通り、5オクテットのSHR(Synchronize Header)、1オクテットのPHR(Physical Layer Header)、及びPSDU(Physical Layer Service Data Unit)を有する点において、通信システムCS1,CS2間で共通する。
【0028】
図4は、本発明の第1実施形態による通信システムにおけるデータリンク層のフレームフォーマットの一部を示す図である。通信システムCS1,CS2におけるデータリンク層のフレームフォーマットはDLPDU(Data-Link Layer Protocol Data Unit)で構成される。このDLPDUは、図4に示す通り、MHR(MAC Header)、DLSDU(Data-Link Layer Service Data Unit)、及び2オクテットのMFR(MAC Footer(Frame Check Sequence)を有する点において、通信システムCS1,CS2間で共通する。
【0029】
ここで、図4に示す通り、DLPDUに含まれるMHRは、2オクテットのフレームコントロール(Frame Control)を含んでおり、このフレームコントロールの12,13ビット目には、フレームバージョン(Frame Version)が割り当てられている。このフレームバージョンの値は、WirelessHART(登録商標)の場合には「0b00」となり、ISA100の場合には「0b01」となる。本実施形態は、このフレームバージョンの値の違いに着目し、フレームバージョンに設定されている値に応じた適切な処理を行い、或いはフレームバージョンに適切な値を設定することによって、通信システムCS1,CS2間におけるデータ(パケット)の授受を可能としている。尚、記号「0b」が付された数値(2桁の数値)は、二進数表記であることを意味する。
【0030】
次に、通信システムCS1,CS2に設けられるデュアルスタック機器としてのフィールド機器11c,11d,21c,21dを詳細に説明する。図5は、本発明の第1実施形態による通信装置としてのフィールド機器の基本構成を説明するための図である。図5に示す通り、フィールド機器11c,11d,21c,21dは、物理層L1、データリンク層L2、第1上位層L10、及び第2上位層L20を備える。
【0031】
物理層L1は、図2を用いて説明した通り、通信システムCS1が準拠する無線通信規格であるWirelessHART(登録商標)のOSI参照モデルM1の物理層と、通信システムCS2が準拠する無線通信規格であるISA100のOSI参照モデルM2の物理層とに共通する物理層の機能を実現する構成である。また、データリンク層L2は、同OSI参照モデルM1,M2のデータリンク層に共通するデータリンク層の機能を実現する構成である。
【0032】
ここで、データリンク層L2には識別制御部DC(識別制御手段)が設けれている。この識別制御部DCは、物理層L1で受信されたデータに含まれるフレームバージョン(図4参照)を識別し、この識別結果に基づいて受信したデータを第1上位層L10と第2上位層L20との何れに渡すかを制御する。具体的に、フレームバージョンの値が「0b00」である場合には受信したデータを第1上位層L10に渡し、フレームバージョンの値が「0b01」である場合には、受信したデータを第2上位層L20に渡す。つまり、識別制御部DCは、無線ネットワークN11を介して受信したデータを第1上位層L10に渡し、無線ネットワークN21を介して受信したデータを第2上位層L20に渡す。
【0033】
また、この識別制御部DCは、第1上位層L10からデータが渡された場合には、そのデータのフレームバージョンの値を「0b00」(第1識別情報)に設定し、第2上位層L20からデータが渡された場合には、そのデータのフレームバージョンの値を「0b01」(第2識別情報)に設定する。つまり、識別制御部DCは、第1上位層L10からのデータに対しては無線ネットワークN11を介して送信すべきデータである旨を示す情報を付加し、第2上位層L20からのデータに対しては無線ネットワークN21を介して送信すべきデータである旨を示す情報を付加する。
【0034】
第1上位層L10は、通信システムCS1が準拠する無線通信規格であるWirelessHART(登録商標)のOSI参照モデルM1(図2参照)におけるデータリンク層の上位に位置する層の機能を実現する構成である。また、第2上位層L20は、通信システムCS2が準拠する無線通信規格であるISA100のOSI参照モデルM2(図2参照)におけるデータリンク層の上位に位置する層の機能を実現する構成である。このように、フィールド機器11c,11d,21c,21dは、無線ネットワークN11を介した通信を可能とする機能(物理層L1、データリンク層L2、及び第1上位層L10)と、無線ネットワークN21を介した通信を可能とする機能(物理層L1、データリンク層L2、及び第2上位層L20)とを有するデュアルスタック構成である。
【0035】
図6は、本発明の第1実施形態による通信装置としてのフィールド機器の要部構成を説明するための図であって、(a)はフィールド機器11c,11dの要部構成を示す図であり、(b)はフィールド機器21c,21dの要部構成を示す図である。図6(a)に示す通り、フィールド機器11c,11dは、図5に示す物理層L1及びデータリンク層L2と、第1上位層L10としてのネットワーク層L11(第1経路制御手段)、トランスポート層L12、及びアプリケーション層L13と、第2上位層L20としてのネットワーク層L21(第2経路制御手段)とを備える。
【0036】
このように、フィールド機器11c,11dは、無線ネットワークN11における経路制御を行う機能を実現するネットワーク層L11に加えて、無線ネットワークN21における経路制御を行う機能を実現するネットワーク層L21を備えている。このため、フィールド機器11c,11dは、通信システムCS1におけるシステムマネージャ13及び通信システムCS2におけるシステムマネージャ23並びに隣接するフィールド機器から無線ネットワークN11,N21の構成情報を取得してルーティングテーブルTB11,TB12をそれぞれ作成し、これらルーティングテーブルTB11,TB12に従ったデータ(パケット)の中継・転送が可能である。
【0037】
また、図6(b)に示す通り、フィールド機器21c,21dは、図5に示す物理層L1及びデータリンク層L2と、第1上位層L10としてのネットワーク層L11(第1経路制御手段)と、第2上位層L20としてのネットワーク層L21(第2経路制御手段)、トランスポート層L22、及びアプリケーション層L23とを備える。このように、フィールド機器21c,21dは、無線ネットワークN21における経路制御を行う機能を実現するネットワーク層L21に加えて、無線ネットワークN11における経路制御を行う機能を実現するネットワーク層L11を備えている。
【0038】
このため、フィールド機器21c,21dは、通信システムCS1におけるシステムマネージャ13及び通信システムCS2におけるシステムマネージャ23並びに隣接するフィールド機器から無線ネットワークN11,N21の構成情報を取得してルーティングテーブルTB21,TB22をそれぞれ作成し、これらルーティングテーブルTB21,TB22に従ったデータ(パケット)の中継・転送が可能である。
【0039】
上記構成において、まずゲートウェイ装置12からフィールド機器11dに向けたデータが出力された場合を考える。ゲートウェイ装置12から出力されたデータは、無線ネットワークN11を介してフィールド機器11dに送信され、フィールド機器11dの物理層L1(図6(a)参照)で受信されてデータリンク層L2に渡される。データがデータリンク層L2に渡されると、そのデータに含まれるフレームバージョン(図4参照)が識別制御部DCで識別される。ゲートウェイ装置12から出力されたデータは、フレームバージョンの値が「0b00」に設定されているため、物理層L1からのデータは識別制御部DCによって第1上位層L10をなすネットワーク層L11に渡され、例えばネットワーク層L11の経路制御による転送処理等の処理が行われる(第1ステップ)。
【0040】
次に、ゲートウェイ装置22からフィールド機器11dに向けたデータが出力された場合を考える。ゲートウェイ装置22から出力されたデータは、無線ネットワークN21を介してフィールド機器11dに送信され、フィールド機器11dの物理層L1で受信される。物理層L1で受信されたデータは、ゲートウェイ装置12からのデータを受信した場合と同様にデータリンク層L2に渡され、そのデータに含まれるフレームバージョンが識別制御部DCで識別される。ゲートウェイ装置22から出力されたデータは、フレームバージョンの値が「0b01」に設定されているため、物理層L1からのデータは識別制御部DCによって第2上位層L20をなすネットワーク層L21に渡され、例えばネットワーク層L21の経路制御による転送処理等の処理が行われる(第1ステップ)。
【0041】
次いで、フィールド機器11dによってデータの送信処理(例えば、受信したデータの転送処理)が行われる場合を考える。この場合には、送信すべきデータが第1上位層L10をなすネットワーク層L11又は第2上位層L20をなすネットワーク層L21からデータリンク層L2に渡される。第1上位層L10をなすネットワーク層L11からデータが渡された場合には、そのデータのフレームバージョンの値を「0b00」に設定して物理層L1に渡す処理が識別制御部DCによって行われる(第2ステップ)。これに対し、第2上位層L20をなすネットワーク層L21からデータが渡された場合には、そのデータのフレームバージョンの値を「0b01」に設定して物理層L1に渡す処理が識別制御部DCによって行われる(第2ステップ)。
【0042】
フレームバーションの値が「0b00」に設定されたデータは、無線ネットワークN11を介して送信先のフィールド機器(或いは、ゲートウェイ装置12)に送信される。これに対し、フレームバーションの値が「0b01」に設定されたデータは、無線ネットワークN21を介して送信先のフィールド機器(或いは、ゲートウェイ装置22)に送信される。尚、以上説明したフィールド機器11dと同様の動作が、フィールド機器11c,21c,21dでも行われる。
【0043】
以上の通り、本実施形態では、WirelessHART(登録商標)及びISA100に共通する物理層L1及びデータリンク層L2に加えて、WirelessHART(登録商標)及びISA100の双方おけるネットワーク層L11,L21をサポートしている。また、受信したデータに含まれるフレームバージョンに応じて、受信したデータをネットワーク層L11,L21の何れに渡すかを制御している。
【0044】
これにより、無線ネットワークN11,N21のルーティングテーブルの作成及びルーティングテーブルを用いたデータ(パケット)の転送ができるようになり、仮に自機宛ではないデータ(パケット)を受信したとしても、無線ネットワークN11或いは無線ネットワークN21を介した経路制御を正しく行うことができ、通信システムCS1,CS2間におけるデータの授受が可能となる。その結果として、通信システムCS1,CS2で用いられる機器やメンテナンスのためのツールを共通化することができ、コストの低減、利便性及びメンテナンス性の向上を図ることができるとともに拡張性を高めることができる。また、通信経路が冗長化されるため、信頼性が高まるとともに通信範囲が広がる。
【0045】
〔第2実施形態〕
図7は、本発明の第2実施形態による通信装置の要部構成を示すブロック図である。尚、本実施形態の通信システムの全体構成は、第1実施形態と同様である。図7に示す通り、本実施形態の通信装置としてのフィールド機器は、図5に示す物理層L1及びデータリンク層L2と、第1上位層L10としてのネットワーク層L11(第1経路制御手段)、トランスポート層L12(第1転送制御手段)、及びアプリケーション層L13と、第2上位層L20としてのネットワーク層L21(第2経路制御手段)、トランスポート層L22(第2転送制御手段)、及びアプリケーション層L23とを備える。
【0046】
つまり、本実施形態のフィールド機器は、通信システムCS1が準拠する無線通信規格であるWirelessHART(登録商標)のOSI参照モデルM1(図2参照)の全ての層と、通信システムCS2が準拠する無線通信規格であるISA100のOSI参照モデルM2(図2参照)の全ての層とを備える構成である。このため、本実施形態のフィールド機器においても、無線ネットワークN11のルーティングテーブルTB31がネットワーク層L11によって作成されるとともに、無線ネットワークN21のルーティングテーブルTB32がネットワーク層L21によって作成され、これらルーティングテーブルを用いたデータ(パケット)の転送が可能である。
【0047】
また、本実施形態のフィールド機器は、ネットワーク層L11で行われる経路制御に従って無線ネットワークN11におけるデータの転送制御を行うトランスポート層L12と、ネットワーク層L21で行われる経路制御に従って無線ネットワークN21におけるデータの転送制御を行うトランスポート層L22とを備えている。このため、無線ネットワークN11,N21に跨ったデータ(パケット)の経路制御のみならず、無線ネットワークN11,N21間における通信が可能になる。尚、本実施形態のフィールド機器は、例えば無線ネットワークN11と無線ネットワークN21とのゲーウェイとして用いることもできる。
【0048】
次に、以上説明した第1,第2実施形態の効果について具体的に説明する。図8,9は、本発明の実施形態の効果を具体的に説明するための図である。尚、これら図8,図9においては、図1に示す構成に相当する構成については同じ符号を付してある。まず、図8(a)に示す通り、通信システムCS1ではフィールド機器11a,11b及びゲートウェイ装置12が近接して配置されており、通信システムCS2ではフィールド機器21bがゲートウェイ装置22から離間して配置されている場合を考える。かかる配置の場合には、通信システムCS1では無線ネットワークN11を介した無線通信を行うことができるが、通信システムCS2では無線ネットワークN21を介した無線通信を行うことができない。
【0049】
次に、図8(b)に示す通り、通信システムCS1ではフィールド機器11bがゲートウェイ装置12から離間して配置されており、通信システムCS2ではフィールド機器21a,21b及びゲートウェイ装置22が近接して配置されている場合を考える。かかる配置の場合には、通信システムCS1では無線ネットワークN11を介した無線通信を行うことができないが、通信システムCS2では無線ネットワークN21を介した無線通信通信を行うことができる。
【0050】
図8(a)に示す配置がなされている場合において、通信システムCS1を構成するフィールド機器11aに代えてデュアルスタック機器であるフィールド機器30(例えば、図1に示すフィルド機器11c,11d,21c,21d)を設置すると図9に示す構成にすることができる。また、図8(b)に示す配置がなされている場合において、通信システムCS2を構成するフィールド機器21aに代えてデュアルスタック機器であるフィールド機器30を設置することによっても図9に示す構成にすることができる。
【0051】
図9に示す通り、フィールド機器30は、無線ネットワークN11,N21を介した無線通信が可能であるため、通信システムCS1をなすフィールド機器11bとゲートウェイ装置12との間、及び通信システムCS2をなすフィールド機器21bとゲートウェイ装置22との間において、いわば中継器として機能する。このため、図8(a)に示す通り、フィールド機器21bとゲートウェイ装置22とが離間して配置されている場合、或いは、図8(b)に示す通り、フィールド機器11bとゲートウェイ装置12とが離間して配置されている場合の何れの場合であっても、無線通信ネットワークN11,N12を介した無線通信が可能になる。
【0052】
以上、本発明の実施形態による通信装置、通信システム、及び通信方法について説明したが、本発明は上述した実施形態に制限されることなく、本発明の範囲内で自由に変更が可能である。例えば、上記実施形態では、通信システムCS1がWirelessHART(登録商標)に準拠した無線通信を行う通信システムであり、通信システムCS2がISA100に準拠した無線通信を行う通信システムである場合を例に挙げて説明した。しかしながら、本発明は、OSI参照モデルの物理層とデータリンク層とが共通する複数の無線通信規格に準拠した通信装置及び通信システムに適用が可能である
【0053】
また、上記実施形態では、通信システムCS1をなすゲートウェイ装置12、システムマネージャ13、及び通信ホスト14、並びに、通信システムCS2をなすゲートウェイ装置22、システムマネージャ23、及び通信ホスト24がそれぞれ別々の装置として実現されている例について説明した。しかしながら、これらのうちの任意の2つ以上の装置を1つの装置として実現することも可能である。更に、上記実施形態では、通信装置がフィールド機器である場合を例に挙げて説明したが、本発明の通信装置は、フィールド機器に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0054】
11c,11d フィールド機器
21c,21d フィールド機器
30 フィールド機器
CS 通信システム
DC 識別制御部
L1 物理層
L2 データリンク層
L11,L21 ネットワーク層
L12,L22 トランスポート層
N11,N21 無線ネットワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
OSI参照モデルの物理層とデータリンク層とが共通する第1,第2無線通信規格に準拠した第1,2無線ネットワークを介した無線通信が可能な通信装置であって、
前記第1無線ネットワークにおける経路制御を行う第1経路制御手段と、
前記第2無線ネットワークにおける経路制御を行う第2経路制御手段と、
前記データリンク層に設けられ、前記物理層で受信されたデータの識別結果に基づいて、該データを前記第1,第2経路制御手段の何れに渡すかを制御する識別制御手段と
を備えることを特徴とする通信装置。
【請求項2】
前記識別制御手段は、前記第1経路制御手段からデータが渡された場合には、前記第1無線ネットワークを介して送信すべきデータである旨を示す第1識別情報を付加し、
前記第2経路制御手段からデータが渡された場合には、前記第2無線ネットワークを介して送信すべきデータである旨を示す第2識別情報を付加する
ことを特徴とする請求項1記載の通信装置。
【請求項3】
前記第1経路制御手段で行われる経路制御に従って前記第1無線ネットワークにおけるデータの転送制御を行う第1転送制御手段と、
前記第2経路制御手段で行われる経路制御に従って前記第2無線ネットワークにおけるデータの経路制御を行う第2転送制御手段と
を備えることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の通信装置。
【請求項4】
前記第1,第2経路制御手段は、OSI参照モデルのネットワーク層に設けられ、
前記第1,第2転送制御手段は、OSI参照モデルのトランスポート層に設けられる
ことを特徴とする請求項3記載の通信装置。
【請求項5】
OSI参照モデルの物理層とデータリンク層とが共通する第1,第2無線通信規格に準拠した第1,2無線ネットワークと、該第1,2無線ネットワークを介した無線通信が可能な通信装置とを備える通信システムであって、
前記通信装置の少なくとも1つは、前記第1無線ネットワークにおける経路制御を行う第1経路制御手段と、
前記第2無線ネットワークにおける経路制御を行う第2経路制御手段と、
前記データリンク層に設けられ、前記物理層で受信されたデータの識別結果に基づいて、該データを前記第1,第2経路制御手段の何れに渡すかを制御する識別制御手段と
を備えることを特徴とする通信システム。
【請求項6】
OSI参照モデルの物理層とデータリンク層とが共通する第1,第2無線通信規格に準拠した第1,2無線ネットワークを介して無線通信を行う通信方法であって、
受信したデータの識別結果に基づいて、前記第1無線ネットワークにおける経路制御と前記第2無線ネットワークにおける経路制御との何れか一方を行う第1ステップと、
送信すべきデータに対し、前記第1無線ネットワークを介して送信すべきデータである旨を示す第1識別情報と前記第2無線ネットワークを介して送信すべきデータである旨を示す第2識別情報との何れか一方を付加する第2ステップと
を有することを特徴とする通信方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−21402(P2013−21402A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−150997(P2011−150997)
【出願日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】