説明

通電加熱方法及び通電加熱装置

【課題】 被加熱材に通電して当該被加熱材を加熱するに際し、当該被加熱材が過加熱となることを従来よりも確実に防止する。
【解決手段】 鋼板1の過加熱懸念部が過加熱になるときに当該過加熱懸念部に流れる電流である過加熱制限電流IMAXを算出し、当該過加熱懸念部が過加熱になると判定すると、過加熱懸念部が通電ロール14を通過してから溶融金属浴17に浸入するまでの間、鋼板1に過加熱制限電流IMAXが流れるようにする。したがって、鋼板1の過加熱懸念部が過加熱になると判断したときには、過加熱懸念部が過加熱になる温度を上限値として出来るだけ高い温度で鋼板1を加熱することができ、鋼板1の温度が高すぎて鋼板1が破断したり、鋼板1の温度が低すぎて鋼板1に対して施しためっきが剥離したりすることを、従来よりも確実に防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通電加熱方法及び通電加熱装置に関し、特に、導電性の被加熱材に電流を流して、当該被加熱材を加熱するために用いて好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、先行する鋼板の尾端と、それに続く後行する鋼板の先端とを溶接して、断面積が異なる鋼鈑を連続して通電加熱することが行われている。このように断面積が異なる鋼板を連続して通電加熱する場合には、それらの鋼板に流す電流を適切に調節しないと、鋼板の過加熱や加熱不足をきたす。このように鋼板が過加熱になると、先行する鋼板の尾端と後行する鋼板の先端との溶接部が溶断すること等により、鋼板が破断してしまう虞がある。一方、鋼板の加熱が不足すると、鋼板に施しためっきが剥離してしまう虞がある。
【0003】
そこで、特許文献1では、先行する鋼板に通電する電流の設定値を、後行する鋼板に通電する電流の設定値に切り替えるタイミングを調整するようにしている。具体的に説明すると、まず、相手材に対して設定された電流が自材に流れた場合の自材の電流密度を、先行する鋼板と後行する鋼板との夫々について計算し、それらの比率で加熱長を案分することにより、どの位置で電流の設定値を切り替えればよいのかを算出するようにしている。このように、特許文献1に記載の技術では、電流の設定値の切り替えを調節することによって、先行する鋼板に流れる電流と、後行する鋼板に流れる電流とを調節するようにしている。
【0004】
【特許文献1】特開2006−342404号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述した特許文献1に記載の技術では、先行する鋼板と後行する鋼板とが接触している部分や、鋼板の断面積が変化している部分を考慮していない。このため、先行する鋼板と後行する鋼板との溶接部や、ノッチング等によって他の箇所よりも断面積が小さくなっている部分といった過加熱が懸念される部分が過加熱になってしまう虞があった。
このように従来の技術では、鋼板等の導電性の被加熱材に通電して当該被加熱材を加熱すると、当該被加熱材が過加熱となる虞があるという問題点があった。
【0006】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、被加熱材に通電して当該被加熱材を加熱するに際し、当該被加熱材が過加熱となることを従来よりも確実に防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の通電加熱方法は、導電性の被加熱材を目標温度にするために当該被加熱材に流す電流として設定される所要電流を計算する所要電流算出ステップと、前記被加熱材のうち過加熱になることが懸念される過加熱懸念部を特定する過加熱懸念部特定ステップと、前記過加熱懸念部が過加熱となる電流密度と、前記過加熱懸念部の断面積とに基づく過加熱制限電流を算出する過加熱制限電流算出ステップと、前記過加熱懸念部が過加熱になるか否かを判定する過加熱判定ステップと、前記被加熱材に流す電流を調整する電流調整ステップとを有し、前記過加熱判定ステップは、前記過加熱制限電流算出ステップにより算出された過加熱制限電流が前記被加熱材に流れるとしたときの、前記過加熱懸念部の温度よりも、前記所要電流算出ステップにより算出された所要電流が前記被加熱材に流れるとしたときの、前記過加熱懸念部の温度の方が大きくなる場合に、前記過加熱懸念部が過加熱になると判定し、前記電流調整ステップは、前記過加熱判定ステップにより、前記過加熱懸念部が過加熱になると判定されると、前記被加熱材に流す電流を前記所要電流よりも低減させることを特徴とする。
また、本発明のその他の通電加熱方法は、互いに連結された、先行する導電性の被加熱材と後行する導電性の被加熱材に電流を流して、前記被加熱材を加熱する通電加熱方法であって、前記先行する被加熱材を目標温度にするために前記被加熱材に流す電流として設定される第1の所要電流と、前記後行する被加熱材を目標温度にするために前記被加熱材に流す電流として設定される第2の所要電流とを計算する所要電流算出ステップと、前記被加熱材に流す電流の設定を前記第1の所要電流から前記第2の所要電流に切り替える位置である電流設定切替位置を算出する電流設定切替位置算出ステップと、前記先行する被加熱材及び前記後行する被加熱材のうち、過加熱になることが懸念される過加熱懸念部を特定する過加熱懸念部特定ステップと、前記過加熱懸念部が過加熱となる電流密度と、前記過加熱懸念部の断面積とに基づく過加熱制限電流を算出する過加熱制限電流算出ステップと、前記過加熱懸念部が過加熱になるか否かを判定する過加熱判定ステップと、前記被加熱材に流す電流を調整する電流調整ステップとを有し、前記過加熱判定ステップは、前記先行する被加熱材と前記後行する被加熱材との連結部が加熱されている間、前記過加熱制限電流算出ステップにより算出された過加熱制限電流が前記被加熱材に流れるとしたときの、前記過加熱懸念部の温度よりも、当該連結部が、前記電流設定切替位置を通過するまでは前記第1の所要電流が前記被加熱材に流れ、当該連結部が、前記電流設定切替位置を通過してからは前記第2の所要電流が当該被加熱材に流れるとしたときの、前記過加熱懸念部の温度の方が大きくなる場合に、前記過加熱懸念部が過加熱になると判定し、前記電流調整ステップは、前記過加熱判定ステップにより、前記過加熱懸念部が過加熱になると判定されると、前記被加熱材に流す電流を前記所要電流よりも低減させることを特徴とする。
【0008】
本発明の通電加熱装置は、導電性の被加熱材を目標温度にするために当該被加熱材に流す電流として設定される所要電流を計算する所要電流算出手段と、前記被加熱材のうち過加熱になることが懸念される過加熱懸念部を特定する過加熱懸念部特定手段と、前記過加熱懸念部が過加熱となる電流密度と、前記過加熱懸念部の断面積とに基づく過加熱制限電流を算出する過加熱制限電流算出手段と、前記過加熱懸念部が過加熱になるか否かを判定する過加熱判定手段と、前記被加熱材に流す電流を調整する指示を、前記被加熱材に流す電流を制御する電流制御装置に対して行う電流調整指示手段とを有し、前記過加熱判定手段は、前記過加熱制限電流算出手段により算出された過加熱制限電流が前記被加熱材に流れるとしたときの、前記過加熱懸念部の温度よりも、前記所要電流算出手段により算出された所要電流が前記被加熱材に流れるとしたときの、前記過加熱懸念部の温度の方が大きくなる場合に、前記過加熱懸念部が過加熱になると判定し、前記電流調整指示手段は、前記過加熱判定手段により、前記過加熱懸念部が過加熱になると判定されると、前記被加熱材に流す電流を前記所要電流よりも低減させることを、前記電流制御装置に対して指示することを特徴とする。
また、本発明のその他の通電加熱装置は、互いに連結された、先行する導電性の被加熱材と後行する導電性の被加熱材に流す電流を制御する電流制御装置に指示する通電加熱装置であって、前記先行する被加熱材を目標温度にするために前記被加熱材に流す電流として設定される第1の所要電流と、前記後行する被加熱材を目標温度にするために前記被加熱材に流す電流として設定される第2の所要電流とを計算する所要電流算出手段と、前記被加熱材に流す電流の設定を前記第1の所要電流から前記第2の所要電流に切り替える位置である電流設定切替位置を算出する電流設定切替位置算出手段と、前記先行する被加熱材及び前記後行する被加熱材のうち、過加熱になることが懸念される過加熱懸念部を特定する過加熱懸念部特定手段と、前記過加熱懸念部が過加熱となる電流密度と、前記過加熱懸念部の断面積とに基づく過加熱制限電流を算出する過加熱制限電流算出手段と、前記過加熱懸念部が過加熱になるか否かを判定する過加熱判定手段と、前記被加熱材に流す電流を調整する指示を、前記被加熱材に流す電流を制御する電流制御装置に対して行う電流調整指示手段とを有し、前記過加熱判定手段は、前記先行する被加熱材と前記後行する被加熱材との連結部が加熱されている間、前記過加熱制限電流算出手段により算出された過加熱制限電流が前記被加熱材に流れるとしたときの、前記過加熱懸念部の温度よりも、当該連結部が、前記電流設定切替位置を通過するまでは前記第1の所要電流が前記被加熱材に流れ、当該連結部が、前記電流設定切替位置を通過してからは前記第2の所要電流が当該被加熱材に流れるとしたときの、前記過加熱懸念部の温度の方が大きくなる場合に前記過加熱懸念部が過加熱になると判定し、前記電流調整指示手段は、前記過加熱判定手段により、前記過加熱懸念部が過加熱になると判定されると、前記被加熱材に流す電流を前記所要電流よりも低減させることを、前記電流制御装置に対して指示することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、導電性の被加熱材の過加熱懸念部を特定し、特定した過加熱懸念部が過加熱になる場合には、当該被加熱材に流す電流を低減させる。したがって、前記過加熱懸念部の温度を考慮して前記被加熱材に流す電流を調整することができる。よって、被加熱材に通電して当該被加熱材を加熱するに際し、当該被加熱材が過加熱となることを従来よりも確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態を説明する。尚、本実施形態では、比抵抗や断面積が異なる鋼板を連続して溶融めっきするために当該鋼板に対して予熱する際の当該鋼板への通電量を調整する場合を例に挙げて説明する。
図1は、URTH(Ultra Rapid Transformed type Heater)設備の構成の一例を示す図である。
図1において、URTH設備10は、通電加熱装置11と、電流制御装置12と、加熱トランス13と、通電ロール14と、ターンダウンロール15と、シンクロール16と、溶融金属浴17が入っているポット18と、導電部材19とを有する。
【0011】
通電加熱装置11は、鋼板1に流す電流を電流制御装置12に指示するためのものであり、例えば、電流制御装置12等の外部装置とのインタフェースを備えたパーソナルコンピュータを用いることにより実現される。
電流制御装置12は、通電加熱装置11からの指示に基づいて、加熱トランス13(1次巻線)に交流電力を供給するためのものであり、例えば、インバータやコンバータを用いることにより実現される。
【0012】
加熱トランス13は、いわゆるリングトランスであり、鉄心と、当該鉄心に巻き回された1次巻線とを有している。本実施形態では、1次巻線に複数のタップが設けられている。電流制御装置12からの交流電力の出力先を、前記複数のタップの何れかに切り替えることにより、加熱トランス13の1次巻線の巻数を異ならせることができる。
通電ロール14は、ラインの上流側から搬送された鋼板1に通電するためのロールであり、加熱トランス13の2次側の電極の1つになる。通電ロール14を通った鋼板1は、ラインの下流側へ水平方向に搬送される。このようにしてラインの下流側へ水平方向に搬送される鋼板1は、加熱トランス13が備える鉄心の中空部内を通るようにしている。尚、通電ロール14は導電性の材料で形成されているものである。
【0013】
ターンダウンロール15は、通電ロール14から水平方向に搬送された鋼板1の搬送方向をポット18の方向(斜め下方)に変更するロールである。
シンクロール16は、溶融金属浴17に浸され、めっきが施された鋼板1の搬送方向を上方に変更するためのロールである。ここで、溶融金属浴17は、例えば、溶融亜鉛浴や溶融亜鉛系合金浴であり、加熱トランス13の2次側の電極の1つになる。
導電部材19は、その一端が通電ロール14に接続され、その他端が溶融金属浴17に浸されている。
【0014】
図1に示すように、本実施形態では、通電ロール14と、通電ロール14及び溶融金属浴17の間にある鋼板1と、溶融金属浴17と、導電部材19とにより、加熱トランス13の2次回路(2次巻線)が形成されるようにしている。この加熱トランス13の2次巻線の巻数は1ターンである。一方、本実施形態では、加熱トランス13が有する1次巻線のタップを切り替えることにより、1次巻線の巻数が50ターンから100ターンまでの何れかの巻数になるようにしている。このように、1次巻線の巻数を2次巻線の巻数よりも格段に多くすることにより、加熱トランス13が有する1次巻線に供給する交流電力が小さくても、2次巻線(通電ロール14と溶融金属浴17との間にある鋼板1)に大きな電流を流すようにすることができる。
【0015】
以上のように本実施形態では、加熱トランス13によって、通電ロール14から溶融金属浴17の間にある鋼板1に電流を流すことにより、鋼板1を加熱するようにしている。また、本実施形態では、先行する鋼板の尾端と後行する鋼板の先端とを溶接により連結して、当該先行する鋼板と後行する鋼板とを連続して搬送するようにしている。これにより、比抵抗や断面積等が異なる複数の鋼板を連続して搬送・加熱することができる。
尚、以下の説明では、通電ロール14と溶融金属浴17との間に、比抵抗や断面積等が異なる鋼板が最大で2つ存在する場合(すなわち、先行する鋼板と後行する鋼板との溶接部が最大で1つ存在する場合)を例に挙げて説明する。また、以下の説明では、先行する鋼板を必要に応じて先行材と称し、後行する鋼板を必要に応じて後行材と称する。
【0016】
図2は、通電加熱装置11の機能的な構成の一例を示す図である。図2に示す各機能ブロックは、例えば、通電加熱装置11が備えるCPUが、ROMやHDD等に記憶されたプログラムを、RAMを用いて実行したり、ROMやHDDが、データを記憶したり、インタフェースが、外部装置と通信したりすること等により実現することができる。
【0017】
図2において、通電加熱装置11は、操業情報取得部21と、所要電流算出部22と、材料特性テーブル記憶部23と、電流設定変更位置算出部24と、過加熱制限電流算出部25と、過加熱判定部26と、電流調整部27とを有している。
【0018】
(操業情報取得部21)
操業情報取得部21は、通電加熱装置11等のコンピュータを統括して管理する上位コンピュータや、通電加熱装置11が備えるユーザインタフェース等から、鋼板1の操業に関する種々の操業情報を取得するものである。具体的に説明すると、操業情報取得部21は、マップや、ラインの速度や、通電ロール14よりも手前(通電ロール14よりもラインの上流側)の所定位置にある鋼板1の温度や、鋼鈑1の搬送状況等を、上位コンピュータ等から取得する。ここで、マップとは、鋼板1の加熱計画を示す情報であり、例えば、どのような鋼板1をどのような順番でどの程度加熱するのかを示す情報である。例えば、加熱対象の鋼板1の種類(鋼種)・厚み・幅・長さ・断面積・ノッチャー位置(ノッチャーによりノッチングされている位置)・ノッチャー量(ノッチャーによりノッチングされている量)・目標温度等の情報が、マップに含まれる。
【0019】
(所要電流算出部22、材料特性テーブル記憶部23)
所要電流算出部22は、操業情報取得部21により取得された操業情報(マップ)に基づいて、加熱対象となる鋼板1(鋼種)を特定する。このとき、加熱対象の鋼板1として先行材と後行材とが存在する場合には、先行材及び後行材の鋼板1(鋼種)を夫々特定する。また、所要電流算出部22は、操業情報取得部21により取得された操業情報(マップ)に基づいて、加熱対象となる鋼板1の目標温度を特定する。
【0020】
そして、所要電流算出部22は、特定した鋼板1を、特定した目標温度にするために、当該特定した鋼板1に流す所要電流を計算する。以下に、この所要電流の計算方法の一例を説明する。
まず、所要電流算出部22は、特定した鋼板1及び目標温度に対応する材料特性係数Kを、材料特性テーブル記憶部23に記憶されている材料特性テーブルから読み出す。
図3は、材料特性テーブルの一例を概念的に示す図である。
図3に示すように、本実施形態では、材料特性テーブル記憶部23は、材料特性テーブルを鋼種毎に記憶している。尚、図3では、2つの鋼種A、Bのみを示しているが、実際には、材料特性テーブル記憶部23は、多数の鋼種についての材料特定テーブルを記憶している。
【0021】
図3において、昇温量は、加熱トランス13による加熱による鋼板1の温度上昇の量を示す。所要電流算出部22は、特定した鋼板1に基づいて、材料特性テーブル記憶部23に記憶されている複数の材料特性テーブルの中から、特定した鋼板1に対応する材料特性テーブルを選択する。そして、所要電流算出部22は、特定した目標温度から、操業情報取得部21により取得された操業情報(通電ロール14よりも手前の所定位置にある鋼板1の温度)を減算して昇温量ΔTを求め、求めた昇温量ΔTに対応付けられている材料特性係数Kを、選択した材料特性テーブルから読み出す。
ここで、材料特性係数Kは、以下の(1)式で表されるものであり、予めオフラインで求められるものである。
【0022】
【数1】

【0023】
(1)式において、ΔT[℃]は、前記昇温量であり、ρ[μΩ・cm]は、対象となる鋼種の固有抵抗(比抵抗)であり、C[kcal/kg・℃]は、対象となる鋼種の比熱であり、L[m]は、加熱長である。ここで、加熱長Lは、通電ロール14と鋼板1とが接触している領域の中心位置αから、鋼板1の溶融金属浴17の浸入位置βまでのライン(鋼板1)の長さである(図1を参照)。
【0024】
ここでは、先行材が鋼種Aであり、後行材が鋼種Bであり、昇温量ΔTがΔT4である(先行材及び後行材の目標温度が同じである)とする。そうすると、所要電流算出部22は、先行材の材料特性係数KとしてKAΔ4を、後行材の材料特性係数KとしてKBΔ4を、夫々材料特性テーブルから読み出すことになる。
次に、所要電流算出部22は、先行材(後行材)を目標温度にするために鋼板1に流す所要電流の、先行材(後行材)における電流密度J1(J2)[A/mm2]を、以下の(2)式((3)式)に従って算出する。
【0025】
【数2】

【0026】
(2)式、(3)式に示すように、材料特性係数Kは、ある材料の電流密度Jと、ラインの速度V[mpm]とを関連付ける係数である。
次に、所要電流算出部22は、先行材(後行材)を目標温度にするために鋼板1に流す所要電流I1(I2)を、以下の(4)式((5)式)に従って算出する。
1=J1×S1 ・・・(4)
2=J2×S2 ・・・(5)
(4)式((5)式)において、J1(J2)は、(2)式((3)式)に従って算出した電流密度J1(J2)であり、S1(S2)は、先行材の断面積S1(後行材の断面積S2)である。尚、先行材の断面積S1、後行材の断面積S2の情報は、操業情報取得部21により取得された操業情報(マップ)に含まれている。
【0027】
尚、昇温量ΔTが材料特性テーブルに登録されていない場合、所要電流算出部22は、その未登録の昇温量ΔTに対応する材料特性係数Kを、例えば次のようにして求めることができる。すなわち、所要電流算出部22は、未登録の昇温量ΔTよりも大きな直近の昇温量と、未登録の昇温量ΔTよりも小さな直近の昇温量と、それら2つの昇温量に対応付けられている材料特性係数Kとを用いて線形補間を行う。そして、所要電流算出部22は、線形補間を行った結果から、未登録の昇温量ΔTに対応する材料特性係数Kを求める。尚、補間する方法は、このような方法に限定されるものではない。
また、ここでは、材料特性テーブルを用いて材料特性係数Kを求めるようにしたが、例えば(1)式を使って材料特性係数Kを直接計算して求めてもよい。
【0028】
以上のように加熱対象の鋼板1として先行材と後行材とがある(溶接部がある)場合には、先行材及び後行材の夫々に対する2つの所要電流I1、I2を求めることになる(ただし、所要電流I1、I2が同じになることもある)。一方、加熱対象の鋼板1が1つだけである(溶接部がない)場合には、当該鋼板1を目標温度にするために当該鋼板1に流す所要電流Iを1つだけ算出することになる(例えば(4)式及び(5)式の何れか一方のみを算出することになる)。
【0029】
(電流設定変更位置算出部24)
電流設定変更位置算出部24は、加熱対象の鋼板1として先行材と後行材とが存在する場合に、鋼板1に流す電流を、先行材を目標温度にするために鋼板1に流す所要電流I1から、後行材を目標温度にするために当該後行材に流す所要電流I2に変更する位置を算出する。尚、以下の説明では、この位置を、必要に応じて電流設定切替位置と称する。
図4は、電流設定切替位置の一例を説明する図である。
図4に示すように、本実施形態では、電流設定切替位置Lcは、通電ロール14と鋼板1とが接触している領域の中心位置αからの距離である。そして、本実施形態では、電流設定変更位置算出部24は、特許文献1に記載の技術と同様に、以下の(6)〜(8)式に従って、電流設定切替位置Lc[m]を算出する。
【0030】
【数3】

【0031】
(6)〜(8)式において、L[m]は、加熱長である。また、tは、先行材1a及び後行材1bの目標温度の範囲を調整するための補正係数であって、当該目標温度の上下限に合わせて予め適宜される補正係数である。また、J1(J2)[A/mm2]は、先行材1a(後行材1b)を目標温度にするために鋼板1に流す所要電流I1(I2)の先行材1a(後行材1b)における電流密度であり、S1(S2)[mm2]は、先行材1a(後行材1b)の断面積である。
【0032】
(6)〜(8)式に示すように、本実施形態では、先行材1aの目標温度と後行材1bの目標温度は変わらない(すなわち、ラインの速度Vが同一であれば、先行材1a及び後行材1bを目標温度にするために流す所要電流の電流密度は変わらない)という前提のもと、相手材に対して設定された所要電流が自材に流れた場合の自材の電流密度を、先行材と後行材との夫々について計算し、それらの比率で加熱長Lを案分することにより、どの位置で電流の設定値を切り替えればよいのかを算出するようにしている。
【0033】
(過加熱制限電流算出部25)
過加熱制限電流算出部25は、加熱対象の鋼板1のうち過加熱が懸念される領域が過加熱となるときに、当該領域に流れる電流IMAXを算出する。尚、以下の説明では、加熱対象の鋼板1のうち過加熱が懸念される領域を、必要に応じて過加熱懸念部と称する。また、過加熱懸念部が過加熱となるときに、当該過加熱懸念部に流れる電流を、必要に応じて過加熱制限電流IMAXと称する。
【0034】
本実施形態では、先行材と後行材との溶接部と、当該溶接部以外の部分であってノッチング等により他の部分よりも断面積が小さくなっている部分とを過加熱懸念部として特定するようにしている。
図5は、ノッチングされていない場合の先行材及び後行材の過加熱懸念部の一例を示す図であり、図6は、ノッチングされている場合の先行材及び後行材の過加熱懸念部の一例を示す図である。図5(a)及び図6(a)は、先行材1a及び後行材1bを上方(図1のZ方向)から見た図である。また、図5(b)は、図5(a)の位置Xにおける板幅方向の様子を示す図であり、図6(b)〜図6(d)は、夫々図6(a)の位置X1、X2、X3における板幅方向の様子を示す図である。そして、図5(b)、図6(c)に示す斜線部は、先行材1aと後行材1bとが接触している領域を示す。また、図6(b)、図6(d)に示す斜線部は、ノッチングにより他の部分よりも断面積が小さくなっている領域を示す。尚、図5(a)及び図6(a)に示す、左から右の方向に向かう矢印は、先行材1a及び後行材1bの搬送方向を示す。
【0035】
過加熱制限電流算出部25は、操業情報取得部21により取得された操業情報(マップ)に基づいて、加熱対象の鋼板1における過加熱懸念部を特定する。このときに特定する過加熱懸念部は、1つであっても複数であってもよい。本実施形態では、図5、図6において、斜線で示す領域が過加熱懸念部として特定される。以下に、このようにして特定した過加熱懸念部における過加熱制限電流IMAXの算出方法の一例を説明する。
【0036】
まず、先行材1aと後行材1bとの溶接部を過加熱懸念部とした場合の過加熱制限電流IMAXの算出方法の一例を説明する。
先行材と後行材との溶接部は、先行材1aの尾端と後行材1bの先端とが接触している領域(図5(b)及び図6(c)において斜線で示す領域)である。過加熱制限電流算出部25は、この領域の断面積St1´[mm2]を、以下の(9)式に従って算出する。尚、以下の説明では、必要に応じてこの断面積を、接触断面積St1´と称する。
t1´=Min(T1,T2)×[Min(W1,W2)−γ2] ・・・(9)
【0037】
(9)式において、T1[mm]は、先行材1aの厚みであり、T2[mm]は、後行材1bの厚みであり、W1[mm]は、先行材1aの幅であり、W2[mm]は、後行材1bの幅である。そして、Min(T1,T2)は、先行材1aの厚みT1と後行材1bの厚みT2とのうち小さい方を選択することを示し、Min(W1,W2)は、先行材1aの幅W1と後行材1bの幅W2とのうち小さい方を選択することを示す。
【0038】
また、γ2[mm]は、先行材1aと後行材1bとの溶接部におけるノッチャー量を表す。本実施形態では、図6(a)及び図6(c)に示すように、先行材1aと後行材1bのうち幅が狭い方(図6では後行材1b)の両側面からノッチングにより削られた領域の最深部までの板幅方向における最短距離を加算した値(=(γ2/2)+(γ2/2))をノッチャー量γ2としている。
また、図5に示すように、先行材1aと後行材1bとの溶接部がノッチングされていない場合には、(9)式におけるノッチャー量γ2は0(ゼロ)になる。また、(9)式における各パラメータは、操業情報取得部21により取得される操業情報(マップ)から特定される情報である。
【0039】
以上のようにして接触断面積St1´を算出すると、過加熱制限電流算出部25は、過加熱懸念部である溶接部が過加熱となるときの昇温量ΔTに対応する材料特性係数Kを、材料特性テーブル記憶部23に記憶されている材料特性テーブルから取得する。尚、昇温量ΔTが材料特性テーブルに登録されていない場合、過加熱制限電流算出部25は、前述したような線形補間等を行って、昇温量ΔTに対応する材料特性係数Kを求める。また、例えば(1)式を使って材料特性係数Kを直接計算して求めてもよい。
ここでは、過加熱懸念部である溶接部が過加熱となるときの昇温量ΔTがΔT7である(先行材及び後行材が過加熱になるときの温度が同じである)とする。そうすると、過加熱制限電流算出部25は、先行材1aの材料特性係数KとしてKAΔ7を、後行材1bの材料特性係数KとしてKBΔ7を、夫々材料特性テーブルから読み出すことになる。
【0040】
次に、過加熱制限電流算出部25は、過加熱懸念部である溶接部が過加熱となるときに先行材1a(後行材1b)の過加熱懸念部に流れる電流の電流密度JAMAX(JBMAX)を、以下の(10)式((11)式)に従って算出する。
【0041】
【数4】

【0042】
(10)式、(11)式において、V[mpm]は、ラインの速度であり、KAΔ7、KBΔ7は、前述したようにして材料特性テーブルから読み出した材料特性係数Kである。
次に、過加熱制限電流算出部25は、過加熱懸念部である溶接部が過加熱となるときに先行材1a(後行材1b)の過加熱懸念部に流れる電流IAMAX(IBMAX)を、以下の(12)式((13)式)に従って算出する。
AMAX=JAMAX×St1´ ・・・(12)
BMAX=JBMAX×St1´ ・・・(13)
(12)式、(13)式において、JAMAX、JBMAXは、(10)式、(11)式に従って算出した電流密度であり、St1´は、(9)式に従って算出した接触断面積である。
最後に、過加熱制限電流算出部25は、(12)式、(13)式に従って算出した電流IAMAX、IBMAXのうち、小さい方の電流を過加熱制限電流IMAXとして採用する。
【0043】
次に、先行材1aと後行材1bとの溶接部以外の部分であって、ノッチングにより他の部分よりも断面積が小さくなっている部分を過加熱懸念部とした場合の過加熱制限電流IMAXの算出方法の一例を説明する。
まず、過加熱制限電流算出部25は、加熱対象となっている先行材1a(後行材1b)の"断面積が小さくなっている部分(過加熱懸念部)"の断面積St2´(St3´)[mm2]を、以下の(14)式((15)式)に従って算出する。
t2´=T1×(W1−γ1) ・・・(14)
t3´=T2×(W2−γ1) ・・・(15)
【0044】
(14)式において、T1[mm]は、先行材1aの厚みであり、W1[mm]は、先行材1aの幅である。また、(15)式において、T2[mm]は、後行材1bの厚みであり、W2[mm]は、後行材1bの幅である。更に、γ1[mm]は、ノッチャー量を表す。本実施形態では、図6(a)、図6(b)、図6(d)に示すように、先行材1a(後行材1b)の両側面からノッチングにより削られた領域の最深部までの板幅方向における最短距離を加算した値(=(γ1/2)+(γ1/2))をノッチャー量γ1としている。
尚、(14)式、(15)式における各パラメータは、操業情報取得部21により取得される操業情報(マップ)から特定される情報である。
【0045】
以上のようにして接触断面積St2´、St3´を算出すると、過加熱制限電流算出部25は、加熱対象となっている先行材1a(後行材1b)の"断面積が小さくなっている部分(過加熱懸念部)"が過加熱となるときの昇温量ΔTに対応する材料特性係数Kを、材料特性テーブル記憶部23に記憶されている材料特性テーブルから取得する。尚、昇温量ΔTが材料特性テーブルに登録されていない場合、過加熱制限電流算出部25は、前述したような線形補間等を行って、昇温量ΔTに対応する材料特性係数Kを求める。
ここでは、前述したのと同様に、加熱対象となっている先行材1a(後行材1b)の"断面積が小さくなっている部分(過加熱懸念部)"が過加熱となるときの昇温量ΔTがΔT7であるとする。そうすると、先行材1aの断面積が小さくなっている部分を過加熱懸念部としている場合、過加熱制限電流算出部25は、先行材1aの材料特性係数KとしてKAΔ7を材料特性テーブルから読み出すことになる。一方、後行材1bの断面積が小さくなっている部分を過加熱懸念部としている場合、過加熱制限電流算出部25は、後行材1bの材料特性係数KとしてKBΔ7を材料特性テーブルから読み出すことになる。尚、前述したように、例えば(1)式を使って材料特性係数Kを直接計算して求めてもよい。
【0046】
次に、過加熱制限電流算出部25は、加熱対象となっている先行材1a(後行材1b)の"断面積が小さくなっている部分(過加熱懸念部)"が過加熱となるときに先行材1a(後行材1b)の過加熱懸念部に流れる電流の電流密度JAMAX(JBMAX)[A/mm2]を、前述した(10)式((11)式)に従って算出する。
次に、過加熱制限電流算出部25は、加熱対象となっている先行材1a(後行材1b)の"断面積が小さくなっている部分(過加熱懸念部)"が過加熱となるときに先行材1a(後行材1b)の過加熱懸念部に流れる電流ICMAX(IDMAX)[A]を、以下の(16)式((17)式)に従って算出する。
CMAX=JAMAX×St2´ ・・・(16)
DMAX=JBMAX×St3´ ・・・(17)
(16)式、(17)式において、JAMAX、JBMAXは、(10)式、(11)式に従って算出した電流密度であり、St2´、St3´は、(14)式、(15)式に従って算出した断面積である。
以上のように、先行材1aの断面積が小さくなっている部分を過加熱懸念部とした場合、過加熱制限電流算出部25は、(16)式に従って算出した電流ICMAXを過加熱制限電流IMAXとして採用する。一方、後行材1bの断面積が小さくなっている部分を過加熱懸念部としている場合、過加熱制限電流算出部25は、(17)式に従って算出した電流IDMAXを過加熱制限電流IMAXとして採用する。
【0047】
以上のようにして過加熱制限電流IMAXとして採用された電流が1つである場合、過加熱制限電流算出部25は、その電流を過加熱判定部26に出力する。
一方、過加熱制限電流IMAXとして複数の電流が採用された場合、過加熱制限電流算出部25は、それら過加熱制限電流IMAXの中で最も小さい電流を過加熱判定部26に出力する。例えば、操業情報取得部21により取得された操業情報(マップ等)に基づいて、図6(a)に示すように3箇所X1、X2、X3の過加熱懸念部が特定された場合には、3つの過加熱制限電流IMAXが採用されることになる。この場合、過加熱制限電流算出部25は、3つの過加熱制限電流IMAXの中で最も小さい電流を過加熱判定部26に出力する。
尚、ノッチング以外の理由により他の部分よりも断面積が小さくなっている部分を過加熱懸念部とした場合には、当該過加熱懸念部が過加熱になるときに当該過加熱懸念部に流れる電流の電流密度Jを(10)式、(11)式のようにして算出し、当該電流密度Jに当該過加熱懸念部の断面積を乗算して過加熱制限電流IMAXを算出する。
【0048】
(過加熱判定部26)
過加熱判定部26は、所要電流算出部22により算出された所要電流Iが加熱対象の鋼板1に流れたときの"当該鋼板1の過加熱懸念部の温度"よりも、過加熱制限電流算出部25から出力された過加熱制限電流IMAXが加熱対象の鋼板1に流れたときの"当該鋼板1の過加熱懸念部の温度"の方が大きいか否かを判定する。
本実施形態では、過加熱判定部26は、先行材1aと後行材1bの溶接部が過加熱懸念部に含まれている場合、この判定の一例として、以下の(18)式を満たすか否かを判定するようにしている。
【0049】
MAX2×L>I12×(Lc−a)+I22×(L−Lc+a) ・・・(18)
【0050】
(18)式において、IMAX[A]は、過加熱制限電流算出部25から出力された過加熱制限電流である。L[m]は、加熱長である。Lc[m]は、電流設定変更位置算出部24により算出された電流設定切替位置である。I1、I2[A]は、所要電流算出部22により算出された所要電流である。a[m]は、先行材1aと後行材1bの溶接部からノッチングにより削られた領域の最深部までの長手方向における最短距離である(図6(a)を参照)。この距離aの正負は、先行材1aと後行材1bの溶接部を原点とし、先行材1aの方向を負の方向、後行材1bの方向を正の方向として決定される(図6(a)を参照)。
【0051】
(18)式の左辺は、先行材1aと後行材1bの溶接部が、通電ロール14を通過してから、溶融金属浴17に浸入するまでの間、過加熱制限電流IMAXが鋼板1に流れるとしたときに過加熱懸念部が受ける電力量(熱量)に対応する。一方、(18)式の右辺の第1項は、先行材1aと後行材1bの溶接部が、通電ロール14を通過してから、電流設定切替位置Lcを通過するまでの間、所要電流I1が過加熱懸念部に流れるとしたときに過加熱懸念部が受ける電力量(熱量)に対応する。また、(18)式の右辺の第2項は、先行材1aと後行材1bの溶接部が、電流設定切替位置Lcを通過してから、溶融金属浴17に浸入するまでの間、所要電流I2が過加熱懸念部に流れるとしたときに過加熱懸念部が受ける電力量(熱量)に対応する。
【0052】
ここで、(18)式は、以下のようにして求められるものである。
過加熱懸念部が加熱されている間に過加熱懸念部に投入される電力量Wが、過加熱懸念部が過加熱になるときに過加熱懸念部に投入される電力量WMAXを超えないようにする必要がある。そして、過加熱懸念部が加熱されている間に過加熱懸念部に投入される電力量Wは、先行材1aに対する設定で過加熱懸念部が受ける電力量Wfと、後行材1bに対する設定で過加熱懸念部が受ける電力量Wbとの和となる。したがって、以下の(19)式を考える。
MAX=W=Wf+Wb ・・・(19)
【0053】
ここで、加熱時間をt、先行材1aに対して設定される所要電流をI1((4)式を参照)、後行材1bに対して設定される所要電流をI2((5)式を参照)、過加熱制限電流をIMAX((12)式、(13)式を参照)とする。また、過加熱懸念部が過加熱になる時の先行材1a及び後行材1bの過加熱懸念部における平均抵抗をRMAXとする。また、先行材1aに対する設定で加熱した時の先行材1a及び後行材1bの平均抵抗をRf、先行材1aに対する設定での加熱時間をtfとする。また、後行材1bに対する設定で加熱した時の先行材1a及び後行材1bの平均抵抗をRb、後行材1bに対する設定での加熱時間をtbとする。そうすると、以下の(20)式が成り立つ。
MAX2×RMAX×t=I12×Rf×tf+I22×Rb×tb ・・・(20)
【0054】
そして、加熱時間tと、加熱長L及びラインの速度Vとの関係は(21)式のように表されるから、(20)式を(22)式のように変形できる。
t=L/V ・・・(21)
MAX2×RMAX×L=I12×Rf×Lc+I22×Rb×Lb ・・・(22)
(22)式において、Lcは、先行材1aに対する設定での加熱長(すなわち、通電ロール14と鋼板1とが接触している領域の中心位置αから電流設定切替位置Lcまでの長さ)である(図4を参照)。また、Lbは、後行材1bに対する設定での加熱長(すなわち、電流設定切替位置Lcから鋼板1の溶融金属浴17の浸入位置βまでの距離)である(図4を参照)。
そして、(6)式より、以下の(23)式が成り立つ。
12×Lc≒I22×Lb ・・・(23)
そうすると、(22)式を以下の(24)式のように変形できる。
MAX2×RMAX×L=(I12×Lc)×(Rf+Rb) ・・・(24)
【0055】
更に、過加熱懸念部が過加熱になる時の先行材1a及び後行材1bの過加熱懸念部における平均抵抗RMAXは、以下の(25)式で表される。
MAX≒(Rf+Rb)/2 ・・・(25)
そして、(25)式を(24)式に代入すると、以下の(26)式が成り立つ。
MAX2×L=(I12×Lc)×2 ・・・(26)
そして、(23)式を用いて(26)式を変形すると、以下の(27)式が得られる。
MAX2×L=I12×Lc+I22×Lb ・・・(27)
ここで、後行材1bに対する設定での加熱長Lbは、以下の(28)式で表されるから、(27)式を(29)式のように変形できる。
b=L−Lc ・・・(28)
MAX2×L=I12×Lc+I22×(L−Lc) ・・・(29)
したがって、以下の(30)式を満たさなければ、過加熱懸念部は過加熱となる。
MAX2×L>I12×Lc+I22×(L−Lc) ・・・(30)
そして、(30)式に対し、距離a(図6を参照)を考慮することにより、(18)式が得られる。
【0056】
一方、先行材1aと後行材1bの溶接部が加熱部(通電ロール14と溶融金属浴17との間)にない場合、過加熱判定部26は、この判定の一例として、以下の(31)式を満たすか否かを判定するようにしている。
MAX×L>I2×L ・・・(31)
(31)式において、IMAX[A]は、過加熱制限電流算出部25から出力された過加熱制限電流である。L[m]は、加熱長である。I[A]は、所要電流算出部22により算出された所要電流である。
すなわち、先行材1aと後行材1bの溶接部が加熱部にない場合、過加熱判定部26は、過加熱制限電流算出部25から出力された過加熱制限電流IMAXが、所要電流算出部22により算出された所要電流Iよりも大きいか否かを判定する。
【0057】
(電流調整部27)
電流調整部27は、過加熱判定部26により、過加熱懸念部が過加熱になる((18)式又は(31)式を満たさない)と判定されると、当該過加熱懸念部が通電ロール14を通過してから、溶融金属浴17に浸入するまでの間、鋼板1に流れる電流が過加熱制限電流IMAXになるように、加熱トランス13の1次巻線に供給する電力を調整することを、電流制御装置12に指示する。
【0058】
一方、過加熱判定部26により、過加熱懸念部が過加熱にならない((18)式又は(31)式を満たす)と判定されると、電流調整部27は、鋼板1に流れる電流が、所要電流算出部22で算出された所要電流になるように、加熱トランス13の1次巻線に供給する電力を調整することを、電流制御装置12に指示する。
具体的に電流調整部27は、加熱対象の鋼板1が複数あり、先行材と後行材とが存在する場合には、先行材と後行材との溶接部が電流設定変更位置算出部24で算出された電流設定切替位置Lcになるまでは、鋼板1に流れる電流が、(4)式で算出された所要電流I1になるように、加熱トランス13の1次巻線に供給する電力を調整すると共に、先行材と後行材との溶接部が電流設定切替位置Lcになると、鋼板1に流れる電流が、(5)式で算出された所要電流I2になるように、加熱トランス13の1次巻線に供給する電力を調整することを、電流制御装置12に指示する。
【0059】
これに対し、加熱対象の鋼板1が1つである場合、電流調整部27は、次のような指示を電流制御装置12に対して行う。加熱対象の鋼板1に溶接部がない場合には、全区間にわたって、鋼板1に流れる電流が、所要電流算出部22で算出された所要電流Iになるように、加熱トランス13の1次巻線に供給する電力を調整することを、電流制御装置12に指示する。一方、加熱対象の鋼板1に溶接部がある場合には、当該溶接部が電流設定変更位置算出部24で算出された電流設定切替位置Lcになるまでは、鋼板1に流れる電流が、(4)式で算出された所要電流I1になるように、加熱トランス13の1次巻線に供給する電力を調整すると共に、当該溶接部が電流設定切替位置Lcになると、鋼板1に流れる電流が、(5)式で算出された所要電流I2になるように、加熱トランス13の1次巻線に供給する電力を調整することを、電流制御装置12に指示する。
電流制御装置12は、以上のような電流調整部27からの指示に従って、加熱トランス13の1次巻線に電力を供給する。これにより、鋼板1の過加熱懸念部が過加熱になると判断したときには、過加熱懸念部が過加熱になる温度を上限値として出来るだけ高い温度で鋼板1を加熱することができ、鋼板1の温度が高すぎて鋼板1が破断したり、鋼板1の温度が低すぎて鋼板1に対して施しためっきが剥離したりすることを、従来よりも確実に防止することができる。
【0060】
次に、図7のフローチャートを参照しながら、通電加熱装置11の処理の一例を説明する。
まず、ステップS1において、操業情報取得部21は、過加熱判定部26からの情報に基づいて、過加熱懸念部と過加熱制限電流IMAXとが記憶されているか否かを判定する。この判定の結果、過加熱懸念部と過加熱制限電流IMAXとが記憶されている場合には、鋼板1に流れる電流が過加熱制限電流IMAXになるようにする必要があるので、後述するステップS11に進む。
【0061】
一方、過加熱懸念部と過加熱制限電流IMAXとが記憶されていない場合には、過加熱懸念部が過加熱であるかどうかを調査する必要があるので、ステップS2に進む。ステップS2に進むと、所要電流算出部22は、加熱対象となる鋼板1を特定し、特定した鋼板1を目標温度にするための所要電流を算出する。前述したように加熱対象となる鋼板1として先行材と後行材とが存在する場合、所要電流算出部22は、先行材に対する所要電流I1と、後行材に対する所要電流I2とを夫々算出する((4)式、(5)式を参照)。一方、加熱対象となる鋼板1が1つだけ存在する場合、所要電流算出部22は、その鋼板1に対する所要電流Iを(1つだけ)算出する。
【0062】
次に、ステップS3において、電流設定変更位置算出部24は、加熱対象の鋼板1として先行材と後行材とが存在する場合に、電流設定切替位置Lcを算出する((6)式)を参照)。加熱対象の鋼板1として先行材と後行材とが存在しない場合には、ステップS3の処理は行われずにステップS4に進む。
次に、ステップS4において、過加熱制限電流算出部25は、加熱対象の鋼板1の過加熱懸念部を特定し、特定した過加熱懸念部の断面積を算出する。過加熱懸念部が、先行材1aと後行材1bとの溶接部である場合、過加熱制限電流算出部25は、接触断面積St1´を算出する((9)式を参照)。一方、過加熱懸念部が、先行材1aと後行材1bとの溶接部以外の部分であって、ノッチングにより他の部分よりも断面積が小さくなっている部分である場合、過加熱制限電流算出部25は、その部分の断面積St2´、St3´)を算出する((14)式、(15)式を参照)。
【0063】
次に、ステップS5において、過加熱制限電流算出部25は、過加熱制限電流IAMAX、IBMAX、ICMAX、IDMAXを算出する。過加熱懸念部が、先行材1aと後行材1bとの溶接部である場合、過加熱制限電流算出部25は、(12)式、(13)式に従って、過加熱制限電流IAMAX、IBMAXを算出し、それらのうち小さい方を、当該溶接部の過加熱制限電流として選択する。一方、過加熱懸念部が、先行材1aと後行材1bとの溶接部以外の部分であって、ノッチングにより他の部分よりも断面積が小さくなっている部分である場合、過加熱制限電流算出部25は、(16)式、(17)式に従って、当該部分の過加熱制限電流ICMAX、IDMAXを算出する。
【0064】
次に、ステップS6において、過加熱制限電流算出部25は、ステップS4で特定された過加熱懸念部が複数あるか否かを判定する。この判定の結果、過加熱懸念部が複数ある場合には、ステップS7に進む。ステップS7に進むと、過加熱制限電流算出部25は、複数の過加熱懸念部のうち、過加熱制限電流が最も小さい値となる過加熱懸念部と、当該最も小さい値となる過加熱制限電流とを選択する。そして、ステップS8に進む。
一方、過加熱懸念部が1つである場合には、ステップS7を省略してステップS8に進む。
【0065】
ステップS8に進むと、過加熱判定部26は、過加熱懸念部が過加熱になるか否かを判定する。
具体的に、ステップS4で特定された過加熱懸念部に溶接部が含まれている場合、過加熱判定部26は、ステップS8で判定対象となる過加熱懸念部について(18)式を満足するか否かを判定する。
一方、ステップS4で特定された過加熱懸念部に溶接部が含まれていない場合、過加熱判定部26は、次の処理を行う。すなわち、URTH設備10内に搬送されている鋼板1に溶接部がなく、当該鋼板1の定常部(何らかの理由で他よりも断面積が小さくなっている部分)が過加熱懸念部となっている場合、過加熱判定部26は、ステップS8で判定対象となる過加熱懸念部について(31)式を満足するか否かを判定する。一方、URTH設備10内に搬送されている鋼板1に溶接部があるが、当該溶接部は過加熱懸念部ではなく、当該溶接部の前後でノッチングにより他の部分よりも断面積が小さくなっている領域が過加熱懸念部となっている場合、過加熱判定部26は、ステップS8で判定対象となる過加熱懸念部について(18)式を満足するか否かを判定する。
尚、ステップS4で特定された過加熱懸念部が複数ある場合、このステップS8で判定対象となる過加熱懸念部は、ステップS6で選択された(過加熱制限電流が最も小さい値となる)過加熱懸念部となる。
【0066】
この判定の結果、(18)式又は(31)式を満足せず、過加熱懸念部が過加熱になる場合には、ステップS9に進む。ステップS9に進むと、過加熱判定部26は、過加熱懸念部と過加熱制限電流IMAXとを例えばRAMに一時的に記憶する。
具体的に、ステップS4で特定された過加熱懸念部が複数ある場合、過加熱制限電流算出部25は、ステップS7で選択した過加熱懸念部及び過加熱制限電流(過加熱制限電流が最も小さい値となる過加熱懸念部と、当該最も小さい値となる過加熱制限電流)を記憶する。
一方、ステップS4で特定された過加熱懸念部が1つである場合、過加熱制限電流算出部25は、当該過加熱懸念部と、当該過加熱懸念部に対してステップS5で計算された過加熱制限電流とを記憶する。
そして、ステップS10に進んで、その他の処理が行われた後、ステップS1に戻る。
一方、ステップS8において、(18)式又は(31)式を満足し、過加熱懸念部が過加熱にならない場合には、ステップS9を省略してステップS10に進み、その他の処理が行われた後、ステップS1に戻る。
【0067】
前述したように、ステップS1において、過加熱懸念部と過加熱制限電流IMAXとが記憶されていると判定されると、ステップS11に進む。ステップS11に進むと、電流調整部27は、操業情報取得部21から取得された操業情報(鋼鈑1の搬送状況)に基づいて、ステップS1で記憶されていると判定された過加熱懸念部が、通電ロール14を通過するか否かを判定する。
この判定の結果、ステップS1で記憶されていると判定された過加熱懸念部が、通電ロール14を通過していない場合には、加熱トランス13により加熱されている鋼板1に流れる電流を、ステップS1で記憶されていると判定された過加熱制限電流IMAXにする必要がないので、ステップS12〜S14を省略してステップS10に進み、その他の処理が行われた後、ステップS1に戻る。
【0068】
一方、ステップS1で記憶されていると判定された過加熱懸念部が、通電ロール14を通過する場合には、ステップS12に進む。ステップS12に進むと、電流調整部27は、加熱トランス13により加熱されている鋼板1に流れる電流が、ステップS1で記憶されていると判定された過加熱制限電流IMAXになるように、加熱トランス13の1次巻線に供給する電力を調整することを、電流制御装置12に指示する。これにより、電流制御装置12は、鋼板1に流れる電流が過加熱制限電流IMAXになるように、加熱トランス13の1次巻線に供給する電力を調整する。
【0069】
次に、ステップS13において、電流調整部27は、操業情報取得部21から取得された操業情報(鋼鈑1の搬送状況)に基づいて、ステップS1で記憶されていると判定された過加熱懸念部が、溶融金属浴17に浸入するまで待機する。
そして、ステップS1で記憶されていると判定された過加熱懸念部が、溶融金属浴17に浸入すると、ステップS14に進む。ステップS14に進むと、電流調整部27は、加熱トランス13により加熱されている鋼板1に流れる電流が過加熱制限電流IMAXになるようにすることを解除することを、電流制御装置12に指示する。このとき、電流調整部27は、例えば、鋼板1の現在の搬送状況と、ステップS3で算出された電流設定切替位置Lcとに基づいて、設定すべき所要電流を特定し、特定した所要電流が当該鋼板1に流れるように、加熱トランス13の1次巻線に供給する電力を調整することを電流制御装置12に指示する。これにより、電流制御装置12は、通常通り、加熱対象の鋼板1が目標温度になるように、加熱トランス13の1次巻線に電力を供給する。そして、ステップS10に進み、その他の処理が行われる。
【0070】
図8は、先行材1aと後行材1bとの溶接部にノッチングがされていない鋼板1が溶融金属浴17に浸入するときの温度(浴浸入温度)と時間との関係の一例を示す図である。また、図9は、先行材1aと後行材1bとの溶接部の片側に10[mm]のノッチングが行われた鋼板1が溶融金属浴17に浸入するときの温度(浴浸入温度)と時間との関係の一例を示す図である。
【0071】
図8(a)、図9(a)は、本実施形態のようにせずに鋼板1を加熱した場合(鋼板1に流れる電流を過加熱制限電流IMAXにすることを行わない場合)の結果の一例を示す図である。一方、図8(b)、図9(b)は、本実施形態のようにして鋼板1を加熱した場合(鋼板1に流れる電流を過加熱制限電流IMAXにすることを行った場合)の結果の一例を示す図である。
また、図8、図9は、以下の表に示すような、同種の先行材1a及び後行材1bの溶接部を過加熱懸念部とし、その過加熱懸念部が過加熱となる温度を700[℃]と想定して、コンピュータシミュレーションを行った結果を示すものである。
【0072】
【表1】

【0073】
図8(a)及び図9(a)に示すように、本実施形態のようにせずに鋼板1を加熱すると、過加熱懸念部である溶接部の温度が、当該溶接部が過加熱になる温度(=700[℃])を大きく超えてしまい、当該溶接部が溶断してしまう虞がある。
これに対し、本実施形態では、過加熱懸念部が通電ロール14を通過してから、溶融金属浴17に浸入するまでの間、鋼板1に流れる電流が過加熱制限電流IMAXになるように、加熱トランス13の1次巻線に供給する電力を調整する。したがって、図8(b)及び図9(b)に示すように、過加熱懸念部である溶接部が通電ロール14を通過してから溶融金属浴17に浸入するまでの間、浴浸入温度は少しずつ低下し、溶接部の温度は、当該溶接部が過加熱になる温度(=700[℃])を超えない範囲で出来るだけ高い温度となる。
【0074】
以上のように本実施形態では、鋼板1の過加熱懸念部が過加熱になるときに当該過加熱懸念部に流れる電流である過加熱制限電流IMAXを算出し、当該過加熱懸念部が過加熱になると判定すると、過加熱懸念部が通電ロール14を通過してから溶融金属浴17に浸入するまでの間、鋼板1に過加熱制限電流IMAXが流れるようにした。したがって、鋼板1の過加熱懸念部が過加熱になると判断したときには、過加熱懸念部が過加熱になる温度を上限値として出来るだけ高い温度で鋼板1を加熱することができ、鋼板1の温度が高すぎて鋼板1が破断したり、鋼板1の温度が低すぎて鋼板1に対して施しためっきが剥離したりすることを、従来よりも確実に防止することができる。
【0075】
尚、本実施形態では、過加熱懸念部が過加熱になると判定すると、通電ロール14を通過してから溶融金属浴17に浸入するまでの間、鋼板1に流れる電流を過加熱制限電流IMAXに調整するようにしたが、電流を調整する区間(期間)は、このような区間(期間)に限定されるものではない。すなわち、本実施形態では、溶融めっきを施すために鋼板1に対して予熱する場合を例に挙げて説明したが、その他の方法で導電体性の被加熱材を加熱する場合には、当該被加熱材を加熱している間、当該被加熱材に流れる電流を調整することになる。
【0076】
また、例えば(18)式又は(31)式の左辺の値と右辺の値との差に応じて、過加熱懸念部が、どの程度過加熱になるかを見積もり、過加熱懸念部が、少ししか過加熱にならないと判断した場合((18)式又は(31)式の左辺の値と右辺の値との差が閾値以内であると判断した場合)には、電流を調整する区間(期間)を、前述した区間(期間)よりも短くしてもよい。
【0077】
更に、鋼板1に流れる電流を過加熱制限電流IMAXに調整するようにすれば、過加熱懸念部が過加熱になる温度を上限値として出来るだけ高い温度で鋼板1を加熱することができるので好ましいが、それまでに鋼板1に流れている電流(所要電流)を低減させるようにしていれば、必ずしも鋼板1に流れる電流を過加熱制限電流IMAXに調整する必要はない。
また、電流設定切替位置Lcを算出する方法は、(6)式に示したものに限定されない。例えば、所要電流I1の2乗と所要電流I2の2乗の比率で加熱長Lを案分して電流設定切替位置Lcを算出してもよい。
また、断面積が他よりも小さくなっている部分を過加熱懸念部としていれば、過加熱懸念部は前述したものに限定されない。
【0078】
尚、以上説明した本発明の実施形態は、コンピュータがプログラムを実行することによって実現することができる。また、プログラムをコンピュータに供給するための手段、例えばかかるプログラムを記録したCD−ROM等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体、又はかかるプログラムを伝送する伝送媒体も本発明の実施の形態として適用することができる。また、前記プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体などのプログラムプロダクトも本発明の実施の形態として適用することができる。前記のプログラム、コンピュータ読み取り可能な記録媒体、伝送媒体及びプログラムプロダクトは、本発明の範疇に含まれる。
また、本発明の実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の実施形態を示し、URTH設備の構成の一例を示す図である。
【図2】本発明の実施形態を示し、通電加熱装置の機能的な構成の一例を示す図である。
【図3】本発明の実施形態を示し、材料特性テーブルの一例を概念的に示す図である。
【図4】本発明の実施形態を示し、電流設定切替位置の一例を説明する図である。
【図5】本発明の実施形態を示し、ノッチングされていない場合の先行材及び後行材の過加熱懸念部の一例を示す図である。
【図6】本発明の実施形態を示し、ノッチングされている場合の先行材及び後行材の過加熱懸念部の一例を示す図である。
【図7】本発明の実施形態を示し、通電加熱装置11の処理の一例を説明するフローチャートである。
【図8】本発明の実施形態を示し、先行材と後行材との溶接部にノッチングがされていない鋼板が溶融金属浴に浸入するときの温度(浴浸入温度)と時間との関係の一例を示す図である。
【図9】本発明の実施形態を示し、先行材と後行材との溶接部の片側に10[mm]のノッチングが行われた鋼板が溶融金属浴に浸入するときの温度(浴浸入温度)と時間との関係の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0080】
1 鋼板
10 URTH設備
11 通電加熱装置
12 電流制御装置
13 加熱トランス
14 通電ロール
15 ターンダウンロール
16 シンクロール
17 溶融金属浴
18 ポット
19 導電部材
21 操業情報取得部
22 所要電流算出部
23 材料特性テーブル記憶部
24 電流設定変更位置算出部
25 過加熱制限電流算出部
26 過加熱判定部
27 電流調整部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性の被加熱材を目標温度にするために当該被加熱材に流す電流として設定される所要電流を計算する所要電流算出ステップと、
前記被加熱材のうち過加熱になることが懸念される過加熱懸念部を特定する過加熱懸念部特定ステップと、
前記過加熱懸念部が過加熱となる電流密度と、前記過加熱懸念部の断面積とに基づく過加熱制限電流を算出する過加熱制限電流算出ステップと、
前記過加熱懸念部が過加熱になるか否かを判定する過加熱判定ステップと、
前記被加熱材に流す電流を調整する電流調整ステップとを有し、
前記過加熱判定ステップは、前記過加熱制限電流算出ステップにより算出された過加熱制限電流が前記被加熱材に流れるとしたときの、前記過加熱懸念部の温度よりも、前記所要電流算出ステップにより算出された所要電流が前記被加熱材に流れるとしたときの、前記過加熱懸念部の温度の方が大きくなる場合に、前記過加熱懸念部が過加熱になると判定し、
前記電流調整ステップは、前記過加熱判定ステップにより、前記過加熱懸念部が過加熱になると判定されると、前記被加熱材に流す電流を前記所要電流よりも低減させることを特徴とする通電加熱方法。
【請求項2】
互いに連結された、先行する導電性の被加熱材と後行する導電性の被加熱材に電流を流して、前記被加熱材を加熱する通電加熱方法であって、
前記先行する被加熱材を目標温度にするために前記被加熱材に流す電流として設定される第1の所要電流と、前記後行する被加熱材を目標温度にするために前記被加熱材に流す電流として設定される第2の所要電流とを計算する所要電流算出ステップと、
前記被加熱材に流す電流の設定を前記第1の所要電流から前記第2の所要電流に切り替える位置である電流設定切替位置を算出する電流設定切替位置算出ステップと、
前記先行する被加熱材及び前記後行する被加熱材のうち、過加熱になることが懸念される過加熱懸念部を特定する過加熱懸念部特定ステップと、
前記過加熱懸念部が過加熱となる電流密度と、前記過加熱懸念部の断面積とに基づく過加熱制限電流を算出する過加熱制限電流算出ステップと、
前記過加熱懸念部が過加熱になるか否かを判定する過加熱判定ステップと、
前記被加熱材に流す電流を調整する電流調整ステップとを有し、
前記過加熱判定ステップは、前記先行する被加熱材と前記後行する被加熱材との連結部が加熱されている間、前記過加熱制限電流算出ステップにより算出された過加熱制限電流が前記被加熱材に流れるとしたときの、前記過加熱懸念部の温度よりも、当該連結部が、前記電流設定切替位置を通過するまでは前記第1の所要電流が前記被加熱材に流れ、当該連結部が、前記電流設定切替位置を通過してからは前記第2の所要電流が当該被加熱材に流れるとしたときの、前記過加熱懸念部の温度の方が大きくなる場合に、前記過加熱懸念部が過加熱になると判定し、
前記電流調整ステップは、前記過加熱判定ステップにより、前記過加熱懸念部が過加熱になると判定されると、前記被加熱材に流す電流を前記所要電流よりも低減させることを特徴とする通電加熱方法。
【請求項3】
前記電流設定切替位置算出ステップは、下記(A)式に従って、前記電流設定切替位置を算出し、
前記過加熱判定ステップは、下記(B)式を満足しない場合に、前記過加熱懸念部が過加熱であると判定することを特徴とする請求項2に記載の通電加熱方法。
c=L×(1−t)×(J2×S2/S12/[(1−t)×(J2×S2/S12+(1+t)×(J1×S1/S22] ・・・(A)
MAX2×L>I12×(Lc−a)+I22×(L−Lc+a) ・・・(B)
前記(A)式において、Lcは、前記電流設定切替位置[m]、tは、補正係数、J2は、前記第2の所要電流の前記後行する被加熱材における電流密度[A/mm2]、S2は前記後行する被加熱材の断面積[mm2]、S1は前記先行する被加熱材の断面積[mm2]、J1は、前記第1の所要電流の前記先行する被加熱材における電流密度[A/mm2]であり、
前記(B)式において、IMAXは、前記過加熱制限電流[A]、Lは、前記被加熱材の加熱長[m]、I1は、前記第1の所要電流[A]、Lcは、前記電流設定切替位置[m]aは、前記連結部から当該連結部以外の前記過加熱懸念部までの距離[m]、I2は、前記第2の所要電流[A]である。
【請求項4】
前記過加熱懸念部特定ステップは、前記先行する被加熱材と前記後行する被加熱材とが接触している部分を、前記過加熱懸念部として特定し、
前記過加熱制限電流算出ステップは、前記先行する被加熱材と前記後行する被加熱材とが接触している部分が過加熱となる電流密度と、前記先行する被加熱材と前記後行する被加熱材とが接触している部分の断面積とに基づく過加熱制限電流を算出することを特徴とする請求項2又は3に記載の通電加熱方法。
【請求項5】
前記電流調整ステップは、前記被加熱材に流す電流を前記過加熱制限電流に調整することを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の通電加熱方法。
【請求項6】
前記電流調整ステップは、前記被加熱材の過加熱懸念部が加熱されている間、前記被加熱材に流す電流を低減させることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の通電加熱方法。
【請求項7】
導電性の被加熱材を目標温度にするために当該被加熱材に流す電流として設定される所要電流を計算する所要電流算出手段と、
前記被加熱材のうち過加熱になることが懸念される過加熱懸念部を特定する過加熱懸念部特定手段と、
前記過加熱懸念部が過加熱となる電流密度と、前記過加熱懸念部の断面積とに基づく過加熱制限電流を算出する過加熱制限電流算出手段と、
前記過加熱懸念部が過加熱になるか否かを判定する過加熱判定手段と、
前記被加熱材に流す電流を調整する指示を、前記被加熱材に流す電流を制御する電流制御装置に対して行う電流調整指示手段とを有し、
前記過加熱判定手段は、前記過加熱制限電流算出手段により算出された過加熱制限電流が前記被加熱材に流れるとしたときの、前記過加熱懸念部の温度よりも、前記所要電流算出手段により算出された所要電流が前記被加熱材に流れるとしたときの、前記過加熱懸念部の温度の方が大きくなる場合に、前記過加熱懸念部が過加熱になると判定し、
前記電流調整指示手段は、前記過加熱判定手段により、前記過加熱懸念部が過加熱になると判定されると、前記被加熱材に流す電流を前記所要電流よりも低減させることを、前記電流制御装置に対して指示することを特徴とする通電加熱装置。
【請求項8】
互いに連結された、先行する導電性の被加熱材と後行する導電性の被加熱材に電流を流すことを、当該被加熱材に流す電流を制御する電流制御装置に指示する通電加熱装置であって、
前記先行する被加熱材を目標温度にするために前記被加熱材に流す電流として設定される第1の所要電流と、前記後行する被加熱材を目標温度にするために前記被加熱材に流す電流として設定される第2の所要電流とを計算する所要電流算出手段と、
前記被加熱材に流す電流の設定を前記第1の所要電流から前記第2の所要電流に切り替える位置である電流設定切替位置を算出する電流設定切替位置算出手段と、
前記先行する被加熱材及び前記後行する被加熱材のうち、過加熱になることが懸念される過加熱懸念部を特定する過加熱懸念部特定手段と、
前記過加熱懸念部が過加熱となる電流密度と、前記過加熱懸念部の断面積とに基づく過加熱制限電流を算出する過加熱制限電流算出手段と、
前記過加熱懸念部が過加熱になるか否かを判定する過加熱判定手段と、
前記被加熱材に流す電流を調整する指示を、前記被加熱材に流す電流を制御する電流制御装置に対して行う電流調整指示手段とを有し、
前記過加熱判定手段は、前記先行する被加熱材と前記後行する被加熱材との連結部が加熱されている間、前記過加熱制限電流算出手段により算出された過加熱制限電流が前記被加熱材に流れるとしたときの、前記過加熱懸念部の温度よりも、当該連結部が、前記電流設定切替位置を通過するまでは前記第1の所要電流が前記被加熱材に流れ、当該連結部が、前記電流設定切替位置を通過してからは前記第2の所要電流が当該被加熱材に流れるとしたときの、前記過加熱懸念部の温度の方が大きくなる場合に前記過加熱懸念部が過加熱になると判定し、
前記電流調整指示手段は、前記過加熱判定手段により、前記過加熱懸念部が過加熱になると判定されると、前記被加熱材に流す電流を前記所要電流よりも低減させることを、前記電流制御装置に対して指示することを特徴とする通電加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−44923(P2010−44923A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−207386(P2008−207386)
【出願日】平成20年8月11日(2008.8.11)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】