説明

速固化性土壌混和物

【課題】土壌にポリマーエマルジョンを含む土壌固化剤を混合、分散して得られたスラリー状の改質土壌の固化速度を大幅に速めることにある。
【解決手段】含水比30%以上の土壌にポリマーエマルジョンを含む土壌固化剤を混合、分散し、さらに乾燥おからを混合、分散してなる速固化性土壌混和物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、簡易舗装や法面保護などに用いられる速固化性土壌混和物に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、先に特開2006−37446号公報において、簡易舗装法として、含水比30%以上の土壌に、ポリマーエマルジョンを含む土壌固化剤を混合、分散してなるスラリー状の改質土壌を路面に敷設し、固化させる簡易舗装方法を提案している。
【0003】
また、同じく特開2006−37445号公報において、同様の改質土壌を法面に敷設し、固化させる法面保護施工法を提案している。
これら先行発明において用いられる改質土壌では、上記土壌固化剤として、アクリル系コポリマーエマルジョンと酵素とセメントを含む水性組成物を用いることで、固化後の改質土壌の機械的強度が高く、車輛の走行に耐える舗装が可能であり、強固な法面の保護が可能であるなどの効果を奏するものである。
【0004】
ところが、これら先行発明では、スラリー状の改質土壌の見掛けの固化に要する時間が3〜5日程度であり、この間に激しい降雨があると、未固化であるので、敷設した改質土壌が流出する恐れがあった。
【特許文献1】特開2006−37446号公報
【特許文献2】特開2006−37445号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
よって、この発明における課題は、土壌にポリマーエマルジョンを含む土壌固化剤を混合、分散して得られたスラリー状の改質土壌の固化速度を大幅に速めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決するため、
請求項1にかかる発明は、含水比30%以上の土壌にポリマーエマルジョンを含む土壌固化剤を混合、分散し、さらに乾燥おからを混合、分散してなる速固化性土壌混和物である。
【0007】
請求項2にかかる発明は、乾燥おからの添加量が、土壌1mに対して5〜150kgである請求項1記載の速固化性土壌混和物である。
【0008】
請求項3にかかる発明は、含水比30%以上の土壌にポリマーエマルジョンを含む土壌固化剤を混合、分散し、さらに乾燥おからと木炭粉を混合、分散してなる速固化性土壌混和物である。
【0009】
請求項4にかかる発明は、乾燥おからの添加量が、土壌1mに対して5〜150kgで、木炭粉の添加量が土壌1mに対して5〜200kgである請求項3記載の速固化性土壌混和物。
請求項5にかかる発明は、乾燥おからと木炭粉との添加量比が、重量比で1:0.05〜20である請求項3または4記載の速固化性土壌混和物である。
【0010】
請求項6にかかる発明は、請求項1ないし5のいずれかに記載の速固化性土壌混和物を用いた簡易舗装路である。
請求項7にかかる発明は、請求項1ないし5のいずれかに記載の速固化性土壌混和物を用いた法面保護施工物である。
【発明の効果】
【0011】
本発明にあっては、土壌に土壌固化剤を混合、分散した後のスラリー状の混和物中に存在する水分を乾燥おからが吸水し、土壌固化剤による結着力が急速に発現し、急速に固化が進行する。このため、固化速度が早く、固化に要する日数を大幅に短縮することができる。
【0012】
また、乾燥おからと木炭粉を併用するものでは、木炭粉が同様にスラリー状混和物中の水分を吸水する作用を有すると同時に固化後の土壌混和物の内部に存在する空隙の一部に入り込み、空隙を実密化して、固化後の土壌混和物の機械的強度を高めるものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の速固化性土壌混和物の第1の例は、含水比30%以上の水分量の多い土壌、例えば粘土などに対して、ポリマーエマルジョンを含む土壌固化剤を混合、分散し、さらに乾燥おからを混合、分散してなるものである。
土壌としては、この土壌混和物を敷設する施工現場やこの付近から採取したものや施工現場以外から搬入した土壌が用いられる。
【0014】
土壌固化剤としては、ポリマーエマルジョンを主成分として含有する樹脂分20〜60wt%の水性組成物を水で希釈した樹脂分4〜10wt%の水溶液が用いられる。
ポリマーエマルジョンとしては、アクリル系、酢酸ビニル系、エチレン−酢酸ビニル共重合体系、スチレン−ブタジエンゴム系などの各種ポリマーエマルジョンが用いられる。
【0015】
この土壌固化剤として、なかでも米国特許明細書第6695545号に開示されたアクリル系コポリマーエマルジョンと酵素とセメントを含む水性組成物を水で希釈した土壌固化剤が、固化後の改質土壌の強度が高く、固化性も良好であることから、特に好ましい。
この水性組成物をなすアクリル系コポリマーエマルジョンは、アクリル酸ブチルと酢酸ビニルと2−ピロペニル酸とからなる共重合体エマルジョンである。この水性組成物は、例えば、アメリカ、カルフォルニア州、ニューポートビーチにあるG.M.ボストン社から、商品名「PX−300」として販売されている。
【0016】
土壌と土壌固化剤との混合割合は、土壌の種類、その水分量、施工時の天候などの要素に基づいて決められるが、通常土壌1m当たり、土壌固化剤の固形分として3〜10kg程度とされる。
土壌と土壌固化剤との混合は、具体的には、上記土壌固化剤の原液を水で5〜10倍に希釈した水溶液を土壌にスプレーなどの散布方法により散布し、バックホー、耕耘機、ドラムミキサなどで混合する方法などが採用される。
【0017】
かくして、スラリー状の土壌混和物が得られるが、ついでこのものに乾燥おからを添加して撹拌、混合する。
乾燥おからは、豆腐製造に発生するおからを乾燥し、粉砕してなるもので、水分量が0〜100wt%、平均粒径が50〜2000μmのものである。
この乾燥おからの添加量は、初めの土壌1mに対して5〜150kgの範囲とされ、5kg未満では吸水能力が不足し固化速度向上が得られず、150kgを越えると強度低下が懸念されることとなる。
【0018】
乾燥おからのスラリー状土壌混和物への添加は、スラリー状土壌混和物表面に均一に手作業や篩を用いて散布するなどの方法が適宜採用できる。乾燥おから添加後の混合、撹拌は、ドラムミキサなどを用いて行われるが、撹拌開始後急速に固化が始まるので、強力な撹拌機能を有するもので、素速く行うことが好ましい。
この混合、撹拌によりスラリー状土壌混和物は、数分以内に固化を始め、団子状の塊状物の速固化性土壌混和物となる。
【0019】
本発明の速固化性土壌混和物の第2の例は、含水比30%以上の水分量の多い土壌、例えば粘土などに対して、ポリマーエマルジョンを含む土壌固化剤を混合、分散し、さらに乾燥おからと木炭粉を混合、分散してなるものである。
すなわち、先の第1の例において、スラリー状の土壌混和物に乾燥おからともに木炭粉を添加するものである。
【0020】
この例での乾燥おからは、先の例のものと同じでよく、その添加量も同様である。また、木炭粉は、通常の木炭、竹炭などを粉砕して得られた平均粒径1〜5000μmのものが用いられる。木炭粉の添加量は、初めの土壌1mに対して5〜200kgの範囲とされ、5kg未満では強度向上効果が低い状況となり、200kgを越えると木炭粉の土壌中での分散が不均一となって、強度向上効果が期待できなくなる。
【0021】
また、乾燥おからと木炭粉との添加量の割合を調整することで、固化速度と固化後の強度を使用目的に応じて変化させることができる。通常、好ましい比率は、重量比で乾燥おから1に対して木炭粉0.05〜20とされ、木炭粉が0.05未満では木炭粉の効果が見られず強度向上が見られなくなり、20を越えると乾燥おからの効果が見られなく、吸水能力が不足し固化速度向上の効果が得られにくくなる。
【0022】
木炭粉の添加順序は、乾燥おからと同時でもよく、乾燥おからを添加撹拌後に添加してもよく、さらには木炭粉を先に添加、撹拌しておいてから乾燥おからを添加することもできる。添加方法は、乾燥おからの場合と同じでよい。
【0023】
乾燥おからと木炭粉の添加後の混合、撹拌は、ドラムミキサなどを用いて行われるが、このものでも撹拌開始後急速に固化が始まるので、強力な撹拌機能を有するもので、素速く行うことが好ましい。
この混合、撹拌によりスラリー状土壌混和物は、数分以内に固化を始め、団子状の塊状物の速固化性土壌混和物となる。
【0024】
このような速固化性土壌混和物にあっては、乾燥おからまたは乾燥おからと木炭粉を添加することによって、スラリー状土壌混和物が急速に固化し、後述する実験例からも明らかなように、実質的に実用に供し得る強度が発現する日数が、乾燥おからまたは乾燥おからと木炭を添加しないものに比べて、1/ 10〜1/2 に短縮される。
【0025】
このため、この速固化性土壌混和物を用いて舗装をする場合、施工後数日で車輛走行が可能となる。また、法面に敷設するものでは、単に敷設し、敷き均しだけでよく、数日後には強固な保護施工物が得られる。
【0026】
本発明の簡易舗装路は、上述の速固化性土壌混和物を用いたものである。
図1は、この簡易舗装路の例を示すもので、図1において、符号1は、地盤を示す。この地盤1は、簡易舗装路の基礎となるもので、施工現場の地盤をブルトーザなどにより平坦に均したものである。
【0027】
この地盤1上には遮水材2が敷設されている。この遮水材2は、地盤1からの水を遮断してこの上に敷設される速固化性土壌混和物にまで水が浸透することを防止する機能を有するものであって、この遮水機能は、速固化性土壌混和物が固化するに要する24〜72時間持続するものであれば、十分である。
【0028】
この遮水材2としては、不透水性材料であれば、いかなるものでもよく、各種プラスチックフィルム、プラスチックシートなどの他に遮水機能が一時的である板紙、段ボール紙、古板紙、古段ボール紙などの紙類が用いられる。遮水材2として紙類を用いた場合には、これがやがて腐食して消滅するので、環境保全上好ましいものとなる。
この遮水材2は、施工範囲全体の地盤1に隙間なく敷設することが必要である。
【0029】
この遮水材2上には、速固化性土壌混和物が敷き均され敷設されている。この速固化性土壌混和物は、ロードローラーなどを用いてこれを転圧することで舗装層3となっている。この転圧により簡易舗装は完了し、舗装層3の固化が進行する。この舗装層3は、その圧縮強度が0.5〜8MPaと高く、その厚さを5〜10cmとすることで、車両の軽度の通行に十分耐えるものとなる。
なお、遮水材2は、地盤1が乾燥した土壌からなるものであれば、省略することができる。
【0030】
本発明の法面保護施工物は、上述の速固化性土壌混和物を用いたものである。
図2は、この法面保護施工物の一例を示すものである。図2において、符号11は法面を示す。この法面11は、道路建設、土地造成等に伴って形成されたものである。
【0031】
この法面11上には、速固化性土壌混和物が敷き均され、敷設されて厚さ5〜10cmの壁状の法面保護施工物12となっている。速固化性土壌混和物の敷き均しは、未固化の速固化性土壌混和物を団子状物とし、この団子状物を多数法面11上に置き、これを大型の平板状のコテを用いて上から押圧する方法などで行われる。
【0032】
このような法面保護工では、従来のコンクリートを打設する方法やコンクリートブロックを敷設する方法に比較して、材料費が安価であり、施工も簡単であり、法面保護施工物12の強度も十分であって、在来工法に比較して多くのメリットがある。また、速固化性土壌混和物に植物の種子を混入しておけば、法面11の植生が行える。
さらに、法面11上に速固化性土壌混和物を敷設する際には、速固化性土壌混和物がかなり固まった状態となっているので、自己保形性を示し、先行発明のように透水性布帛からなる布製型枠などを用いなくともよい。
【0033】
以下、実験例を示す。
土壌として、含水比90%の秋田赤土を用い、土壌固化剤として「PX−300」を用いた。乾燥おからには、含水量0%、平均粒径50μmのものを土壌1mに対して40〜50kg用い、木炭粉には、平均粒径10μmのものを土壌1mに対して10〜20kg用いた。「PX−300」の使用量は、原液(固形分54.5%)で土壌1mに対して20リットルと一定にした。
【0034】
秋田赤土に対して、「PX−300」を添加し、撹拌、混合したのち、乾燥おからと木炭粉をさらに添加して、撹拌、混合し、得られた混和物を円筒状の型枠に充填し、固化させた。混和物は、乾燥おからまた木炭粉の添加量を変化させて、以下の5種を作成した。
1)秋田赤土+「PX−300」
2)秋田赤土+「PX−300」+乾燥おから50kg
3)秋田赤土+「PX−300」+乾燥おから40kg+木炭粉10kg
4)秋田赤土+「PX−300」+乾燥おから50kg+木炭粉10kg
5)秋田赤土+「PX−300」+乾燥おから50kg+木炭粉20kg
【0035】
これら5種の混和物の表面硬度を山中式土壌硬度計で計測し、放置日数(材令)による表面硬度の変化を調べた。
山中式土壌硬度計は、先端が円錐状の貫入針を一定の押圧力で試料表面に圧入し、貫入針の貫入深さから表面硬度(kg/cm)を求めるもので、土壌工学分野では周知の試験器である。
【0036】
得られた結果を図3に示す。図3のグラフ中、「PX]とは「PX−300」を、「DO」は乾燥おからを、「CP」は木炭粉を示す。
図3のグラフから、乾燥おから単独または乾燥おからと木炭粉を併用して添加することで、短い材令で高い表面硬度が得られ、これから固化が速やかに進行していることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の簡易舗装路の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の法面保護施工物の一例を示す概略断面図である。
【図3】実験例の結果を示す図表である。
【符号の説明】
【0038】
1・・・地盤、2・・・遮水材、3・・・舗装層、11・・・法面、12・・・法面保護施工物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含水比30%以上の土壌にポリマーエマルジョンを含む土壌固化剤を混合、分散し、さらに乾燥おからを混合、分散してなる速固化性土壌混和物。
【請求項2】
乾燥おからの添加量が、土壌1mに対して5〜150kgである請求項1記載の速固化性土壌混和物。
【請求項3】
含水比30%以上の土壌にポリマーエマルジョンを含む土壌固化剤を混合、分散し、さらに乾燥おからと木炭粉を混合、分散してなる速固化性土壌混和物。
【請求項4】
乾燥おからの添加量が、土壌1mに対して5〜150kgで、木炭粉の添加量が土壌1mに対して5〜200kgである請求項3記載の速固化性土壌混和物。
【請求項5】
乾燥おからと木炭粉との添加量比が、重量比で1:0.05〜20である請求項4記載の速固化性土壌混和物。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の速固化性土壌混和物を用いた簡易舗装路。
【請求項7】
請求項1ないし5のいずれかに記載の速固化性土壌混和物を用いた法面保護施工物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−7633(P2008−7633A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−179472(P2006−179472)
【出願日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(000217686)電源開発株式会社 (207)
【Fターム(参考)】