説明

造形物用スラリー組成物、造形物の造形方法及び造形物用スラリー組成物を用いた各種材料、その使用方法

【課題】金型を用いないでも造形物を得ることができる造形が容易な造形用スラリー組成物及び造形物の造形方法を提供する。また従来のコーティング材料、補修材料又は接着剤の問題点を解決することが可能な各種材料とその使用方法を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂粉末と、結合剤と水分とを混練してなる造形物用スラリー組成物及び造形物の造形方法。また造形スラリー組成物をコーティング材料として用いたもの、補修材料として用いたもの又は接着剤として用いたものとその使用方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造形物用スラリー組成物、造形物の造形方法及び造形物用スラリー組成物を用いた各種材料とその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、樹脂粉末を用いて複雑な形状の造形物を得る場合、原材料であるペレット粉砕した樹脂粉末を加熱し、金型に流し込む射出成形法が多く用いられ、複合材料を得る場合にも金型を用いた射出成形法で行われている(非特許文献1)。
近年、樹脂製品の高性能・多機能化、製造工程の簡略化、低コスト化を目的として、射出溶着法などでの成形加工時、インテークマニホールドやランプなどの自動車用機能部品の表面に樹脂層を形成することも検討されている(例えば、非特許文献2)。
【0003】
また樹脂製の自動車用部品などを、熱可塑性樹脂層を重ねて形成する方法で製造することも知られている(例えば特許文献1)。特許文献1には、熱可塑性樹脂の積層を、コーティング法、キャスト法、プレス法、押出法、射出成形法、インフレーション法などで行っている。また熱可塑性樹脂粉末を用いて水回り部の補修を行いたいが、取り扱いが難しいという技術的な問題がある。このため、ステンレス製の浴槽とその周囲との隙間や、ステンレス製の流し台の間の隙間など、水回り部における水漏れを防ぐ補修材料として、シリコンゴムが一般に用いられている。
【0004】
そして、接着剤を用いて金属部材同士を接着する方法は、金属部材の接触面の一部を溶かして接合する熱溶着接合方法の超音波溶着やレーザー溶着、摩擦溶着などに比べ、接合が簡便に行える利点がある。しかし、接着剤には使用時の取り扱いに問題があったり、耐熱性、耐久性、接着力などに問題があるものもある。また熱硬化性樹脂(例えばエポキシ樹脂等)を接着剤として用いた場合、接着後、金属部材同士を剥がそうとしたときに、人体へ悪影響を与える有機溶剤(例えばアセトン等)を使用しなければならない欠点がある。そこで接着後の利便性を向上させた、熱剥離性接着剤が開発されている(特許文献2など)。この熱剥離性接着剤は、接着した接着部に熱を与えることによって、有機溶剤を用いず、金属部材同士を剥がすことを容易としたものである。
【非特許文献1】▲丘▼ 建輝,黒木 悠,坪井 淳,泉 和男,「ナイロン6の射出溶着強度に及ぼす成形条件の影響」,第54回 高分子討論会予稿集、2005,Vol.54, No.2,p5438
【非特許文献2】柴田 信一、他:「バガス繊維による複合材料の射出成形体の曲げ弾性率について」,日本機械学会論文集C編,2005年,71(707),p2420〜2425
【特許文献1】特開2005−305834
【特許文献2】特開2004−217760号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の射出成形法は、造形物を大量生産する場合には有効であるが、意匠性の高い造形物や小ロットの造形物を造形するには不向きである。すなわち、樹脂粉末を加熱して金型に流し込む射出成形方法で造形物を造形する場合、造形物の形状を金型などに加工する必要があるため、型費用が高くなる欠点がある。このため、金型を用いないでも造形物を得ることができる造形が容易な造形用スラリー組成物及び造形物の造形方法が必要とされている。
【0006】
一方射出溶着法などにより、成形加工時に樹脂層を被コーティング部材の表面に形成するには、予め成形した成形体を金型の中に挿入し、射出成形するという高度な技術が必要となる問題や射出設備が高価であるという問題もある。また水回り部における隙間からの水漏れを防ぐ補修材料としてシリコンゴムを用いた場合には、シリコンゴムが樹脂物に比べて軟質であるため、水漏れを防ぐことができても、隙間に充填したシリコンゴムの見た目が悪いという問題があった。このため、高価な設備を用いず、被コーティング部材の表面に容易に樹脂層を形成するコーティング方法、補修する隙間を容易に塞ぐことができ、補修部の見た目が良い補修方法及びそれに用いるコーティング材料、補修材料が望まれている。
【0007】
また特許文献1に記載の熱剥離性接着剤は、比重が軽い膨張性微小球を配合しているため、微小球の混和安定性が悪いという問題があった。その他、発泡剤として水を含有した接着剤も提案されているが、発泡効果を用いているため、接着力が不十分であるという問題もあった。そこで熱可塑性樹脂粉末の混和安定性に優れ、金属部材同士を十分な接着力で接着することができ、かつ取り扱いが容易なスラリー状接着剤及びその使用方法が必要とされている。
【0008】
本発明は、金型を用いないでも造形物を得ることができる造形が容易な造形用スラリー組成物及び造形物の造形方法を提供することを第1の目的とする。また従来のコーティング材料、補修材料又は接着剤の問題点を解決することが可能な各種材料とその使用方法を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討した結果、ゲル化能を有し、かつ成形体の形状保持機能に優れる造形物用スラリー組成物を用い、所定の形状に造形した後、熱可塑性樹脂粉末の融点以下の温度で焼成することで上記第1の課題を解決できることを見出した。このゲル化能を有し、かつ形状保持機能に優れる造形物用スラリー組成物を各種材料として用いることが上記第2の課題に対して有効であることを見出した。
【0010】
本発明は、以下のとおりである。
1.熱可塑性樹脂粉末と、結合剤と水分とを混練してなることを特徴とする造形物用スラリー組成物。
2.上記1.に記載のスラリー組成物に、さらに金属粉末、セラミックス粉末、炭素粉末、顔料、植物繊維等の機能材料を分散させてなることを特徴とする造形物用スラリー組成物。
【0011】
3.上記1.又は2.に記載のスラリー組成物を用い、所定の形状に成形した後、焼成することを特徴とする造形物の造形方法。
4.上記3.に記載の造形物の造形方法において、自由成形又は非金属製の型で成形することを特徴とする造形物の造形方法。
5.上記3.に記載の造形物の造形方法において、型を用い、押出又は射出成形することを特徴とする造形物の造形方法。
【0012】
6.上記3.に記載の造形物の造形方法において、糸、ひも、条、板、シート状に一次成形し、さらにそれに形状を与えたり、型で打ち抜いたり、張り合わせて二次成形することを特徴とする造形物の造形方法。
7.上記3.に記載の造形物の造形方法において、スラリー組成物に予め水分を含浸させた熱可塑性樹脂粉末を用いることを特徴とする造形物の造形方法。
【0013】
8.上記1.に記載のものをコーティング材料として用いたことを特徴とするコーティング材料用スラリー組成物。
9.上記8.に記載のスラリー組成物を被コーティング部材の表面に塗布した後、加圧しつつ加熱し、熱可塑性樹脂粉末同士が結合剤で結合された樹脂層を表面に形成することを特徴とするコーティング方法。
【0014】
10.上記9.に記載のコーティング方法を用い、前記被コーティング部材の表面に樹脂層を積層するに際し、前記被コーティング部材の表面に第1層を形成し、次いで該第1層の表面に第2層を形成することを特徴とするコーティング方法。
11.上記1.に記載の造形物用スラリー組成物を補修材料として用いたことを特徴とする補修材料用スラリー組成物。
【0015】
12.上記11.に記載のスラリー組成物を補修する隙間に充填した後、加圧しつつ加熱し、熱可塑性樹脂粉末同士が結合剤で結合された樹脂物と前記隙間の周囲部材とを固着することを特徴とする補修方法。
13.上記1.に記載の造形物用スラリー組成物を接着剤として用いたことを特徴とするスラリー状接着剤。
【0016】
14.上記13.に記載のスラリー状接着剤を金属部材の間に塗布し、加圧しつつ加熱した後、冷却し、金属部材同士を接着することを特徴とするスラリー状接着剤の使用方法。
15.上記14.に記載の使用方法で金属部材同士を接着した後、接着部を加熱し、その状態で金属部材同士を引き離すこと特徴とするスラリー状接着剤の使用方法。
【発明の効果】
【0017】
上記1.及び2.に記載の造形物用スラリー組成物は、ゲル化能を有し、かつ成形体の形状保持機能に優れる。この造形物用スラリー組成物を用いた上記3.〜7.に記載の造形物の造形方法によれば、型を用いない自由成形又は非金属製の形を用い、所定の形状に造形した後、スラリー組成物を構成する熱可塑性樹脂粉末の融点以下の温度で焼成することで、結合剤によって熱可塑性樹脂粉末同士を結合することができる。このため、意匠性の高い造形物や小ロットの造形物を容易にかつ安価に造形することができる。
【0018】
上記8.〜10.に記載の発明によれば、高価な設備を用いず、例えば焼成炉内で被コーティング部材と一緒にスラリー組成物を加圧しつつ熱可塑性樹脂粉末の融点以下の温度で加熱することによって、被コーティング部材の表面に樹脂層を容易に形成することができる。
上記11.及び12.に記載の発明によれば、高価な設備を用いず、補修現場においてアイロンなどの加熱したこてを用い、補修する隙間に充填したスラリー組成物を加圧しつつ熱可塑性樹脂粉末の融点以下の温度で加熱し、可塑性樹脂粉末同士が結合剤で結合された樹脂物と補修する隙間の周囲部材とを固着することができる。このため、補修する隙間を容易に塞ぐことができ、この樹脂物はシリコンゴムなどに比べ、硬質であるから、補修部の見た目が良い。
【0019】
上記13.に記載の発明によれば、熱可塑性樹脂粉末の混和安定性に優れ、金属部材同士を十分な接着力で接着することができ、かつ取り扱いが容易な接着剤を提供することができる。上記14.に記載の発明によれば、加圧しつつ熱可塑性樹脂粉末の融点以下の温度に加熱することによって、金属部材同士を容易にかつ十分な接着力で接着することができ、しかも上記15.に記載の発明によれば、有機溶剤を用いず、熱可塑性樹脂粉末の融点以下の温度に加熱することによって、接合部材同士を容易にかつ確実に引き離すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の造形物用スラリー組成物は、造形物の主原料である熱可塑性樹脂粉末と、熱可塑性樹脂粉末の融点以下の温度(好適には150℃以下の温度)で焼成することによって、熱可塑性樹脂粉末同士を結合するバインダー効果を果たすでんぷん、ポリビニルアルコールなどの結合剤と水分とからなる。
【0021】
上記のように限定する理由は、次のとおりである。
(1)熱可塑性樹脂粉末:
本発明では、所望の形状に成形した後、熱可塑性樹脂粉末の融点以下の温度で焼成することで、造形物を造形するため、主原料として熱可塑性樹脂粉末を用いる。このような樹脂粉末としては、PE(ポリエチレン樹脂)、POM(ポリアセタール樹脂)、生分解性樹脂などの粉末を用いることができる。ここで、PE(ポリエチレン樹脂)、POM(ポリアセタール樹脂)などの合成樹脂粉末は入手が容易であるから好適である。
【0022】
熱可塑性樹脂粉末の粒径には特別な制限はなく、造形する造形物に応じて適宜決めることができる。樹脂粉末の平均粒径が10μmからサブミクロンの粉末が取り扱いが容易であり、成形体の形状保持機能に優れるので好ましい。
(2)でんぷん、ポリビニルアルコールなどの結合剤:
でんぷんは糊、ポリビニルアルコールは水溶液とし、粘性を調整した後、前記熱可塑性樹脂粉末に添加しつつ混練するのが好適である。
【0023】
(A)でんぷん糊:
糊の原料となるでんぷんを水とともに練り、場合によっては加熱して作製したでんぷん糊を用いるのが好適である。でんぷん糊中の水分量は、熱可塑性樹脂粉末と混練する際、でんぷん糊が熱可塑性樹脂粉末中に均一に分布するように、その粘性を調整し、造形が容易なスラリーとする。その際、以下で説明するポリビニルアルコールの場合と同様、結合剤の均一混合と、ゲル化能(焼成することによって熱可塑性樹脂粉末同士を結合する能力をいう)の両者を同時に満たすことができるように、でんぷん糊中の水分含有量は0.5〜40wt%好ましくは2〜20wt%としておくのが適当である。
【0024】
(B)ポリビニルアルコールの水溶液:
ポリビニルアルコールとしては、分子量5000〜500000好ましくは10000以上であって、鹸化度90%以上好ましくは95%以上のものを用いる。上記範囲外の分子量及び鹸化度のポリビルニアルコールは、ゲル化能が弱いので、本発明の効果を十分発揮することができない。その水溶液濃度は0.5〜40wt%好ましくは2〜20wt%としておくのが適当である。水溶液濃度が40wt%を超えると、溶液粘度が極めて高くなり、熱可塑性樹脂粉末との均一混練が困難となる。一方、水溶液濃度が0.5wt%未満であると、ゲル化能が弱くなる。
【0025】
ゲル化能を有する結合剤(バインダー)としては、熱可塑性樹脂粉末の融点以下の温度で焼成することで、熱可塑性樹脂粉末同士を結合することができる高粘性物質も使用可能である。
(3)熱可塑性樹脂粉末と上記した結合剤との混合割合:
本発明のスラリー組成物中、結合剤の含有量が過少となった場合には、ゲル化能が弱くなり、一方、それが過多となった場合には、造形が難しくなる。そこで、でんぷん糊(ヤマト株式会社製 T−220)を用いる場合、重量比ででんぷん糊:熱可塑性樹脂粉末=1:4〜5:1の範囲、より好ましくは1:3〜3:1の範囲とする。また濃度が8wt%であるポリビニルアルコールの水溶液の場合、重量比でポリビニルアルコールの水溶液:熱可塑性樹脂粉末=1:4〜5:1の範囲、より好ましくは1:3〜3:1の範囲とする。このような範囲とすることで、形状保持機能に優れると共に、ゲル化能を十分発揮することができる造形が容易なスラリー組成物とすることができる。
【0026】
以上説明した本発明のスラリー組成物は、熱可塑性樹脂粉末と、所定量のでんぷん糊又はポリビニルアルコールの水溶液、もしくは結合剤と水との混合物を混練・脱泡して得ることができる。
その際、上記のスラリー組成物には、必要に応じて、この種のスラリー組成物に添加される慣用成分、例えば界面活性剤、可塑剤、油脂、有機溶剤、水、着色顔料、体質顔料、密着性付与剤、消泡剤、濡れ剤、粘性調整剤、粘着性付与剤等を添加してもよい。
【0027】
また、機能材料を均一に分散させてなる造形物を造形する場合には、混合物を混練するに際し、さらに金属粉末、セラミックス粉末(酸化チタン等の光触媒等)、炭素粉末、顔料、植物繊維(茶葉、木粉等)等の機能材料を徐々に添加し、機能材料が均一に分散させてなるスラリー組成物を作製すればよい。勿論、金型を用いれば、所定の形状の造形物を容易にかつ安価に大量生産することが可能となる。
【0028】
また型を用い、押出又は射出成形することによって所定の形状の造形物を、糸、ひも、条、板、シート状に一次成形し、さらにそれに形状を与えたり、型で打ち抜いたり、張り合わせて二次成形することで多様な形状の造形物を容易にかつ安価に造形可能である。
また熱可塑性樹脂粉末の粒度を変えることで多孔質な造形物を造形したり、あるいはスラリー組成物に予め水分を含浸させた熱可塑性樹脂粉末を用いることで、発泡した造形物を容易にかつ安価に造形することもできる。
【0029】
以下に、上述した本発明にかかる造形物用スラリー組成物を用いた実施例1〜10を記す。
【実施例1】
【0030】
熱可塑性樹脂粉末として、粉体粒度(メインピーク)100μmのPE(ポリエチレン)粉末(旭化成サンファイン製 SH−810)を用い、このPE粉と、でんぷん糊(ヤマト株式会社製 T−220)とを、重量比でPE粉:でんぷん糊=5:8で混練し、スラリー組成物とした。
このスラリー組成物を樹脂製の型(おもちゃを形取った型)に、押し込み成形した後、成形体を型から取りだし、焼成炉の中に移動させ、145℃の温度で1時間焼成することにより、ポリエチレン製の造形物(寸法:高さ=70mm、幅=45mm、奥行き=20mm)を得た。焼成して得た造形物は、その高さ方向中央部に握力50kgの大人の人手で力一杯握りしめて力を加えた場合でも、形崩れすることがなく、熱可塑性樹脂粉末同士が十分な強度で結合されていることがわかった。また上記スラリー組成物は、人手で容易に型内に充填することができ、型から成形体を取り出す際に形崩れすることもなく、その後、焼成炉の中に移動する取り扱い過程においても形崩れが生じなかった。
【実施例2】
【0031】
実施例1と同じスラリー組成物を用い、太さが2mmの紐状の成形体を作成し、145℃の温度で1時間焼成することにより、造形物を得た。紐状の成形体は、注射器のピストンを挿入する基部を容器とし、基部内にスラリー組成物を人手で押し込み、次いで注射針を付けずに、ピストンを注射器の基部に装着した後、人手で押すことで押し出し成形し、さらに任意に曲げ加工して造形した。
【0032】
焼成して得た紐状の造形物は、その直径方向に握力50kgの大人の人の指間で挟圧して力を加えた場合でも、形崩れすることがなく、熱可塑性樹脂粉末同士が十分な強度で結合されていることがわかった。また上記スラリー組成物は、人手で容易に注射器の基部内に充填することができ、しかも注射器のピストンを人手で押すことで注射針を付ける内径2mmの先端部から容易に押し出し成形することができ、その後、この紐状の成形体を曲げ加工する際に形崩れすることもなく、焼成炉の中に移動する取り扱い過程においても形崩れが生じなかった。
【実施例3】
【0033】
実施例1と同じスラリー組成物を用い、厚さが2mmの板状の成形体を作成し、2次加工として板状の成形体に打ち抜き型(お菓子のクッキーを作る際に用いる薄い金属板で囲った型)を人手で押しつけて打ち抜き加工し、145℃の温度で1時間焼成することにより、造形物を得た(図1(a)〜(c)参照)。焼成して得た板状の造形物は、その厚さ方向に握力50kgの大人の人の指間で挟圧して力を加えた場合でも、形崩れすることがなく、熱可塑性樹脂粉末同士が十分な強度で結合されていることがわかった。また上記スラリー組成物は、定盤状に所定量載せた状態で、人手で木製の麺棒により容易に板状に引き延ばすことができ、その後、この板状の成形体を2次加工する取り扱い過程や焼成炉の中に移動する取り扱い過程においても形崩れが生じなかった。
【実施例4】
【0034】
実施例1と同じスラリー組成物を用い、樹脂製の型を用いて押し出し成形し、厚さが2mm、幅が20mmの帯状の成形体を作成し、2次加工としてこの成形体にねじり加工を施した後、145℃の温度で1時間焼成することにより、造形物を得た(図1(d)参照)。焼成して得た帯状の造形物は、その幅方向に握力50kgの大人の人の指間で挟圧して力を加えた場合でも、形崩れすることがなく、熱可塑性樹脂粉末同士が十分な強度で結合されていることがわかった。また、上記スラリー組成物は、樹脂製の型を用いて容易に押し出し成形することができ、その後、この成形体を2次加工する取り扱い過程や焼成炉の中に移動する取り扱い過程においても形崩れが生じなかった。
【実施例5】
【0035】
実施例1と同じスラリー組成物を用い、最大径又は中央部太さが20〜30mmの塊状に成形した後、この成形体を145℃の温度で1時間焼成することにより、造形物を得た(図1(e)、(f)参照)。焼成して得た塊状の造形物は、その最大径部又は中央部を握力50kgの大人の人手で力一杯握りしめた場合でも、形崩れすることがなく、熱可塑性樹脂粉末同士が十分な強度で結合されていることがわかった。また上記スラリー組成物は、人手で容易に成形することができ、その後、この成形体を焼成炉の中に移動する取り扱い過程においても形崩れが生じなかった。
【実施例6】
【0036】
実施例1と同じスラリー組成物に、機能材料として、平均粒径28μmのアルミニウム粉末(東洋アルミニウム製)を分散させておき、実施例1〜5と同様にして成形した後、焼成して当該形状の造形物を得た。焼成して得た当該形状の造形物は、アルミニウム粉末が均一に分散していると共に、上記の実施例1〜5で得た造形物と同様、熱可塑性樹脂粉末同士が十分な強度で結合されていた。
【実施例7】
【0037】
でんぷん糊に代えてポリビニルアルコールの水溶液を結合剤として用い、それ以外は実施例1〜6と同様にして成形した後、焼成して当該形状の造形物を得た。焼成して得た当該形状の造形物は、上記の実施例1〜6で得た造形物と同様、熱可塑性樹脂粉末同士が十分な強度で結合されていた。
【実施例8】
【0038】
PE粉末に代えてPOM(ポリアセタール樹脂・旭ケミカルズ製 テナック−C7520)のペレットを、粉砕器によって300μm以下に粉末化したPOM粉末を用い、それ以外は実施例1〜7と同様にして成形した後、焼成して当該形状の造形物を得た。焼成して得た当該形状の造形物は、上記の実施例1〜6で得た造形物と同様、熱可塑性樹脂粉末同士が十分な強度で結合されていた。
【実施例9】
【0039】
PE粉末に代えて生分解性樹脂(セルグリーン・ダイセル化学工業製 PHB05)のペレットを粉砕器によって300μm以下に粉末化した樹脂粉末を用い、それ以外は実施例1〜7と同様にして造形物を造形した。焼成して得た当該形状の造形物は、上記の実施例1〜7で得た造形物と同様、熱可塑性樹脂粉末同士が十分な強度で結合されていた。
【実施例10】
【0040】
微細な気泡を多数含む造形物を造形するに際し、熱可塑性樹脂粉末として、水中に24時間浸漬させてあらかじめ粉末中に水分を十分に含浸させたものを用い、それ以外は実施例1〜9と同様にして成形した後、焼成して当該形状の造形物を得た。焼成して得た当該形状の造形物は、微細な気泡を多数含むとともに上記の実施例1〜9で得た造形物と同様、熱可塑性樹脂粉末同士が十分な強度で結合されていた。
【0041】
次いで、上記した造形物用スラリー組成物をコーティング材料として用いた場合について、実施例11、12に記す。
【実施例11】
【0042】
熱可塑性樹脂粉末として、PE粉末(粉体粒度(メインピーク)100μmのポリエチレン樹脂粉:旭化成サンファイン製 SH−810)を、結合材として、でんぷん糊(ヤマト株式会社製 T−220)を用い、重量比でPE粉末:でんぷん糊=5:4で混練してコーティング材料用スラリー組成物を作製した。次いでステンレス製の被コーティング部材2上に1層からなる樹脂層を以下の手順で形成した(図2参照)。
【0043】
(1)先ず、スラリー塗布工程において、図2(a)に示すように、被コーティング部材2のコーティング面3上にスラリー組成物1を均一に塗布する。
(2)次いで樹脂粉末塗布工程において、図2(b)に示すように、スラリー組成物1の表面上にPE粉末1Aを均一に塗布する。
ただし、場合によってはスラリー組成物1をコーティング面3上に供給した後、スラリー組成物1の表面にPE粉末を均一に塗布し、その後、被コーティング部材2と押し付け部材5によってスラリー組成物1を挟み、コーティング面3上におけるスラリー組成物1の厚みを均一にしてもよい。
【0044】
(3)その後、焼成工程では、図2(c)に示すように、押し付け部材5で上方からスラリー組成物1を加圧しつつ保持し、焼成炉の中で、145℃の温度で1時間焼成した。その間に樹脂層6が形成される。
(4)最後に、焼成工程終了後、押し付け部材5を取り外す。図2(d)に示すように、コーティング面3に1層からなる樹脂層6が形成され、これによって被コーティング部材2がコーティングされる。
【0045】
この樹脂層6の厚みを測定した結果、その厚さは約1.4mmであり、また樹脂層6とステンレス製の被コーティング部材2との間の固着の程度は、プラスチック製の打撃部を有するハンマーで叩いて調べた。その結果、プラスチック製の打撃部で叩いた程度の衝撃力では、樹脂層6が被コーティング部材2から剥離することはなく、コーティングが良好であった。なお、押し付け部材5には表面が平滑な所定の重さのステンレス鋼板を用いたので、光沢のあるコーティング層6の表面を得ることができた。
【実施例12】
【0046】
ステンレス製の被コーティング部材2のコーティング面3上に2層からなる樹脂層7を形成した(図3参照)。その際、先ず、実施例1のようにして、PE粉末同士を結合剤で結合した樹脂層を形成し第1層7Aとし、次いで第1層7Aのコーティング面3上に、POM粉末同士を結合剤で結合した樹脂層を同様にして形成した。これが第2層7Bである。
【0047】
なお、第2層7Bのコーティング材料としては、重量比でPOM粉末:でんぷん糊=5:4で混練して作製したものを用いた。図3中、1Bは、塗布したPOM粉末を示す。
その結果、2層からなる樹脂層7の厚みは、実施例1の場合に比べて、厚くすることができた。またプラスチック製の打撃部で叩いた程度の衝撃力では、樹脂層が剥離することはなく、コーティングが良好であった。
【実施例13】
【0048】
ステンレス製の流し台に隙間があったので、その箇所の補修を、重量比でPE粉末:でんぷん糊=5:4で混練したスラリー組成物を用い行った。なお、図4(a)は、ステンレス製の流し台の側面8で形成される補修する隙間に、上記スラリー組成物10を充填する充填工程が終了した状態を示した。また図4(b)は、加熱したこて11をこて移動方向12に向かって移動させ、スラリー組成物10をこて11で加圧しつつ加熱して補修を行っている補修工程を示した。補修後の部分には、可塑性樹脂粉末同士が結合剤で結合された樹脂物9が形成される。樹脂物9は、シリコンゴムなどに比べ、硬質であるから見た目が良く、ステンレス製の流し台の側面8と樹脂物9とが固着され、一体となっていたので、補修後の部分から水漏れが生じることはなかった。
【0049】
最後に、上記した造形物用スラリー組成物を接着剤として用いた場合につき、実施例14〜15に記す。
【実施例14】
【0050】
熱可塑性樹脂粉末としてPE粉末:粉体粒度(メインピーク)100μmのポリエチレン樹脂粉(旭化成サンファイン製 SH−810)を、結合剤として、でんぷん糊(ヤマト株式会社製 T−220)を用い、重量比でPE粉末:でんぷん糊=5:4で混練してスラリー状接着剤を作製した。次いでスラリー状接着剤を矩形状アルミニウム板の間に塗布した後、加圧保持した状態で炉中で145℃の温度で1時間加熱した。その後、炉中から取り出し、矩形状アルミニウム板の間の剪断力を試験機で測定した。
【0051】
矩形状アルミニウム板の間の剪断力は、図5に示すように、アルミニウム板13同士の接着部14に剪断力が作用するよう、アルミニウム板13の一方を他方に対してずらせて測定した。図5中、接着剤の塗布範囲はアルミニウム板13同士が重なっている20mm×20mmの範囲でかつスラリー状接着剤の塗布厚さは0.1mmとした。用いたアルミニウム板13の厚みは2.45mmとした。
【0052】
その結果、上記PE粉末を主成分とするスラリー状接着剤の場合、単位接着面積当たりの剪断力が0.9557N/mmで良好であった。また上記スラリー状接着剤を用い、同じ条件でアルミニウム板同士を接着した後、アルミニウム板同士を引き離す試験を行った。その際、外部から接着部を180℃の温度に加熱したため、有機溶剤を用いず、上記剪断力以下でアルミニウム板同士を容易に引き離すことができた。
【実施例15】
【0053】
実施例14の加熱方法をアイロンで加圧しつつ、145℃で15分間加熱した以外は同様にしてアルミニウム板同士を接着した。その後、上記実施例と同様にしてアルミニウム板間の剪断力を測定した。その結果、実施例14の場合と同じ単位接着面積当たりの剪断力が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明にかかる造形物用スラリー組成物を用いて造形した造形物形状を示す斜視図である。
【図2】本発明にかかるコーティング方法の各工程を説明する斜視図である。
【図3】本発明にかかるコーティング方法によって得られる2層からなる樹脂層を示す斜視図である。
【図4】本発明にかかる補修方法の工程を説明する斜視図である。
【図5】接着剤を用いて接着した接着部の剪断力を測定する試験方法の説明図である。
【符号の説明】
【0055】
W 造形物
1 スラリー組成物(コーティング材料)
1A、1B 塗布した樹脂粉末
2 被コーティング部材(金属部材)
3 コーティング面
4 非コーティング面
5 押し付け部材
6、7 樹脂層
7A 第1層
7B 第2層
8 ステンレス製の流し台の側面
9 樹脂物
10 スラリー組成物(補修材料)
11 こて
12 こて移動方向
13 金属部材
14 接着部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂粉末と、結合剤と水分とを混練してなることを特徴とする造形物用スラリー組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のスラリー組成物に、さらに金属粉末、セラミックス粉末、炭素粉末、顔料、植物繊維等の機能材料を分散させてなることを特徴とする造形物用スラリー組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のスラリー組成物を用い、所定の形状に成形した後、焼成することを特徴とする造形物の造形方法。
【請求項4】
請求項3に記載の造形物の造形方法において、自由成形又は非金属製の型で成形することを特徴とする造形物の造形方法。
【請求項5】
請求項3に記載の造形物の造形方法において、型を用い、押出又は射出成形することを特徴とする造形物の造形方法。
【請求項6】
請求項3に記載の造形物の造形方法において、糸、ひも、条、板、シート状に一次成形し、さらにそれに形状を与えたり、型で打ち抜いたり、張り合わせて二次成形することを特徴とする造形物の造形方法。
【請求項7】
請求項3に記載の造形物の造形方法において、予め水分を含浸させた熱可塑性樹脂粉末を用いることを特徴とする造形物の造形方法。
【請求項8】
請求項1に記載のものをコーティング材料として用いたことを特徴とするコーティング材料用スラリー組成物。
【請求項9】
請求項8に記載のスラリー組成物を被コーティング部材の表面に塗布した後、加圧しつつ加熱し、熱可塑性樹脂粉末同士が結合剤で結合された樹脂層を表面に形成することを特徴とするコーティング方法。
【請求項10】
請求項9に記載のコーティング方法を用い、前記被コーティング部材の表面に樹脂層を積層するに際し、前記被コーティング部材の表面に第1層を形成し、次いで該第1層の表面に第2層を形成することを特徴とするコーティング方法。
【請求項11】
請求項1に記載の造形物用スラリー組成物を補修材料として用いたことを特徴とする補修材料用スラリー組成物。
【請求項12】
請求項11に記載のスラリー組成物を補修する隙間に充填した後、加圧しつつ加熱し、熱可塑性樹脂粉末同士が結合剤で結合された樹脂物と前記隙間の周囲部材とを固着することを特徴とする補修方法。
【請求項13】
請求項1に記載の造形物用スラリー組成物を接着剤として用いたことを特徴とするスラリー状接着剤。
【請求項14】
請求項13に記載のスラリー状接着剤を金属部材の間に塗布し、加圧しつつ加熱した後、冷却し、金属部材同士を接着することを特徴とするスラリー状接着剤の使用方法。
【請求項15】
請求項14に記載の使用方法で金属部材同士を接着した後、接着部を加熱し、その状態で金属部材同士を引き離すこと特徴とするスラリー状接着剤の使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−13732(P2008−13732A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−189219(P2006−189219)
【出願日】平成18年7月10日(2006.7.10)
【出願人】(502035483)
【出願人】(502037018)
【出願人】(502034903)株式会社スズキプレシオン (13)
【Fターム(参考)】