説明

造水システム

【課題】膜蒸留による造水システムであって、簡易な構造からなる簡易な設備で、煩雑な操作も必要とせずに海水等から淡水を回収でき、かつ運転コストも低い造水システムを提供する。
【解決手段】外皮が疎水性多孔質膜からなり内部が気密系である蒸発部、及び前記蒸発部と通気可能に連結する凝結部からなり、前記蒸発部を処理水に浸漬し、前記凝結部を、前記処理水より低温に冷却して、前記処理水中の水が、前記蒸発部に水蒸気として放出され、前記凝結部において凝結され水として回収されることを特徴とする造水システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海水等の処理水から膜蒸留により淡水を取り出す造水システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生活に必要な水資源を確保する必要性から、海水、使用済みの生活排水、ヒ素などの人体に毒性のある成分を含む井戸水等から、利用可能な状態の水(淡水)を分離回収するための造水技術が検討されている。
【0003】
海水等から塩分や有毒成分等を含まない淡水を分離回収する造水技術は、水から発生させた水蒸気を冷却し凝結して回収する蒸発法と、水を通すが塩分等を通さない逆浸透膜に浸透圧以上の高圧をかけて濾過して水を分離回収する逆浸透法に大きく分類される。蒸発法としては、フラッシュ法、効用缶法等とともに、海水等を加熱して、塩分は透過しないが水蒸気は透過する疎水性多孔質膜の一方の面に接触させ、膜を透過してくる水蒸気を他方の面から回収する膜蒸留法が知られている。
【0004】
逆浸透法は、熱が不要であり大面積の膜を収納したモジュールの利用で比較的小さな設備規模で済む利点があるが、高圧ポンプの設置費用とそれを運転する電力および膜の洗浄などのメンテナンス費用が問題点として指摘されている。一方、蒸発法では蒸気を発生させるための大容量の設備と熱源が必要である点が問題として指摘されている。
【0005】
膜蒸留法は、逆浸透法と同様、疎水性多孔質膜をモジュール化することでコンパクトにすることが可能であり、蒸発法の問題として指摘されている設備の大型化の問題は緩和されている。さらに、他の蒸発法に比して比較的低温の水、例えば80℃以下の水を処理できるので、熱源の問題もクリアしやすく、太陽光の利用による運転コストの低減も容易である。
【0006】
そこで、その検討が盛んに行われており、例えば、特許文献1では、「特に海水または黒みを帯びた水または工程水から脱塩水を生じさせる目的である液体を膜蒸留で浄化する方法」が記載されている。又、特許文献2では、熱源として太陽光を利用した膜蒸留による海水淡水化装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2003−519001号公報(請求項1)
【特許文献2】特開平9−1143号公報(請求項1、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、これらの先行技術文献に記載の造水装置、造水システムでは、疎水性濾過膜を含む蒸発部とともに冷却手段を有する凝結部が設けられ、さらに、淡水の生成速度(透過流束)を向上させるための処理水の加熱手段等を設ける必要がある。近年、途上国等において、設置が簡単、安価であって、設置後の操作や保守も容易な造水システムが求められているが、前記の造水装置、造水システムは、装置の複雑さの点で又その運転に煩雑な操作を要する場合もある点でこれらの要望を満たすものではなかった。
【0009】
本発明は、膜蒸留による造水システムであって、簡易な構造からなる簡易な設備で、煩雑な操作も必要とせずに海水等から淡水を回収でき、かつ運転コストも低い造水システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは以上のような問題点を鑑み鋭意努力をした結果、以下に述べる構成により、処理水の加熱手段を特に設ける必要もなく、又、簡易な設備で、煩雑な操作も必要とせず運転コストも低い造水システムが得られることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
請求項1に記載の発明は、
外皮が疎水性多孔質膜からなり内部が気密系である蒸発部、及び前記蒸発部と通気可能に連結する凝結部からなり、
前記蒸発部を処理水に浸漬し、
前記凝結部を、前記処理水より低温に冷却して、
前記処理水中の水が、前記蒸発部に水蒸気として放出され、前記凝結部において凝結され水として回収されることを特徴とする造水システムである。
【0012】
この発明の造水システムを構成する蒸発部は、内部が気密系で、外皮が疎水性多孔質膜からなり、処理水、例えば海水に浸漬されている。処理水中の水は、水蒸気として、疎水性多孔質膜を透過し、蒸発部の内面である蒸発面から気密系内に放出される。従って、疎水性多孔質膜としては、水蒸気は透過するが、塩分や不純物等を含む水は透過しないように、疎水性の材質からなり、かつ水を透過しない範囲で、水蒸気の透過量が大きくなるような孔径、気孔率の範囲のものが用いられる。
【0013】
蒸発部と凝結部は通気可能に連結されている。その結果、気密系内に放出された水蒸気は、拡散又は送気手段等により、凝結部に送られる。したがって、この連結は送気される内腔が容易にひしゃげてつぶれない強度を保つ必要があるが、好ましくは通路の長手方向にはフレキシブルに曲がる柔軟な配管を通して行われる。
【0014】
凝結部は、処理水より低温となるように冷却されている。凝結部に送られた水蒸気は、この冷却により凝結され水となり、凝結部に蓄積する。凝結部に蓄積された水は、適時排出され、淡水として回収される。
【0015】
請求項2に記載の発明は、前記蒸発部内の気体を、前記凝結部に送気する送気手段が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の造水システムである。蒸発部内の気体を、送気手段により凝結部に送気すると、水蒸気の凝結部への移動速度が向上し、より多量の回収水が得られる。又、送気手段により蒸発部内の気体が排気されるので、蒸発部内が減圧となり、疎水性多孔質膜を透過する水蒸気の量が増大し、この点からも淡水の回収速度が向上するので好ましい。
【0016】
請求項3に記載の発明は、前記凝結部が気密系であり、前記送気手段が、前記凝結部に設けられた排気ポンプであることを特徴とする請求項2に記載の造水システムである。前記の送気手段は、特に限定されず、送気ポンプ、例えば真空ポンプ等として一般に使用されているポンプを用いることも可能である。しかし、凝結部を気密系とし、従って、蒸発部、凝結部、両者の連結部分を全て含めて一つの気密系とし、凝結部に設けられた排気ポンプにより排気する場合も、蒸発部内の気体が凝結部内に吸引、送気される。従って、凝結部を気密系にして排気ポンプを設ける場合も、凝結部に送気する送気手段が設けられている場合に該当する。
【0017】
蒸発部に放出された水蒸気は高温の蒸発部と低温の凝結部の間の温度差(=蒸気圧の差による気圧差)によって凝結部に自然に拡散移動する。しかし、本発明のように細く分岐した気相の移動には気相内の酸素や窒素等(水蒸気以外の気体)が拡散を妨げる。この排気ポンプの主な機能は、気相内の空気の脱気によってこの妨げを無くすることにある。そのため、起動時に十分脱気したあとは排気する必要はなく厳密な真空状態とする必要もない。むしろ排気ポンプにより気相の水蒸気が排出され、凝結水の回収量を低下させる場合もあるので、起動時及び外部の大気から気相内に漏れ入ってきた空気を再度除去する以外は、停止する方が好ましい。
【0018】
以上の理由から、凝結部に設けられる排気ポンプとしては、簡易なポンプを利用しやすい。従って、設備をより簡易なものとすることができるので好ましい。
【0019】
請求項4に記載の発明は、前記処理水が海水であり、前記凝結部が海水により冷却されることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の造水システムである。このシステムでのより好ましい場合は、蒸発部は、海面又は海面に近い表層にある海水に浸漬され、凝結部は、海水の深層に設けられる場合である。海水の深層は、海面より温度が低く、他の冷却手段を特に設けなくても凝結部を深層に設けるのみで水蒸気の凝結のための冷却が可能である。なお、蒸発部における処理水を太陽熱等の手段により加熱する場合は、海面の海水温度は、蒸発部における処理水より低くなるので、海面又は海面に近い表層に凝結部を設けてもよい。
【0020】
請求項5に記載の発明は、前記疎水性多孔質膜が中空糸であり、前記蒸発部が複数の中空糸からなることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の造水システムである。
【0021】
疎水性多孔質膜を中空糸とし、蒸発部を複数の中空糸により構成することにより、蒸発面の面積を大きくできるので好ましい。又、複数の中空糸は、発熱するシートや太陽熱加熱装置の一表面上に近接して並べることが容易であり、処理水の加熱を簡易に行いやすい点でも好ましい。又、中空糸は柔軟であり取り扱いが容易な点でも好ましい。
【0022】
疎水性多孔質膜を中空糸とする場合、中空糸の内部が水蒸気が放出される気密系となる。従って、各中空糸の一端は閉鎖されている。好ましくは、複数の中空糸の内部気密系が、太いパイプに通気可能に接続し、前記太いパイプを介して凝結部と通気可能に連結している。
【0023】
請求項6に記載の発明は、さらに空気を遮断しかつ熱を発生するシートを有し、前記複数の中空糸が、前記シートの一表面上に配置されていることを特徴とする請求項5に記載の造水システムである。複数の中空糸は、シートの一表面上に近接して並べることが容易である。この造水システムは、空気を遮断するとともに処理水の加熱手段として熱を発生するシートを使用し、このシートの一表面上に複数の中空糸を並べて、好ましくは一列に並べて配置した態様である。
【0024】
請求項5に記載の造水システム等において、中空糸状多孔質膜を海水面に浮かべると、内部が中空である中空糸状多孔質膜は水に比べて軽いため、その一部は水面より出て空気と接する。すると、水より流入しやすい空気が中空糸状多孔質膜の内腔に流れ込み海水中から蒸気を集めることが困難になる。そこで、空気を遮断する発熱シートを、海水面に浮かべた中空糸状多孔質膜の上に被せ、この発熱シートの下部に空気が入らないようにすると、このシートにより中空糸状多孔質膜が水面上の空気に触れることが防がれ、中空糸状多孔質膜の表面の全てが水と触れる状態が維持される。さらに、水から発生する蒸気が水面の上の大気中に逃げることを防ぐことが出来る。
【0025】
このとき、該シートは上から降り注ぐ太陽光がシートの下の水に出来る限り届くようにすることが好ましいので、太陽光に含まれる波長の光の透過性が高い透明な材質であることが望ましくさらに取り扱いの簡便さから柔軟であることが望ましい。
【0026】
この点から空気を遮断するシートの材質としては、ソフトコンタクトレンズ等に利用されるポリヒドロキシエチルメタアクリレート、ポリビニルピロリドン等の水を吸ってゲル化する含水性合成樹脂、ブチルアクリレート−ブチルメタクリレート共重合体等のメチルメタクルレート系樹脂、又は、可塑剤により柔軟化した軟質塩化ビニル樹脂や透明ゴム等の、柔軟で光透過性のある樹脂が望ましい。中空糸状多孔質膜を海面に出さないためには、発熱シートの比重は水より重い1以上が望ましい。そこで、ガラス粒子など透明性を妨げずに比重が1より重い成分をシートに添加する場合があるが、一部に重りを付けて調整する方法も可能である。
【0027】
一方、海面に浮かべたときに全体が海中に沈まないように、中空糸状多孔質膜と合わせた平均の比重は1より軽いことが望ましい。平均の比重を1より軽くするため浮き袋を付けて浮力を調整する方法も可能である。
【0028】
中空糸状多孔質膜を用いた本発明では、中空糸状多孔質膜が空気に触れないようにすることが必須であるため、中空糸状多孔質膜を海水中に留めて設置する必要があり、例えば、上記のように海水面をシートでカバーした下部、又は海水面をガラス等でカバーした構造の水槽の水中に中空糸状多孔質膜が設置される。
【0029】
請求項7に記載の発明は、さらに太陽電池パネルを有し、前記太陽電池パネルの裏側に配置した冷却水路に処理水を通し、前記複数の中空糸が、前記冷却水路内に配置されていることを特徴とする請求項5に記載の造水システムである。太陽電池を使用した太陽光発電では、太陽電池を並べた太陽電池パネルが用いられるが、太陽電池パネルを冷却するために太陽電池パネルの太陽光照射面の裏側に冷却水路が配置されている。この造水システムは、この冷却水路に処理水を通して処理水の加熱手段とするとともに、冷却水路内に中空糸を設けて蒸発部の処理水への浸漬を行うものである。
【0030】
請求項8に記載の発明は、さらに、処理水を加熱する太陽光加熱装置を有し、前記複数の中空糸が、前記太陽光加熱装置の被加熱液体の流路内に配置されていることを特徴とする請求項5に記載の造水システムである。この造水システムでは、太陽光加熱装置の被加熱液体の流路内に処理水を通して処理水の加熱手段とするとともに、処理水が流れる流路内に中空糸を設けて蒸発部の処理水への浸漬を行うものである。
【0031】
従来、膜蒸留の加熱手段として、太陽光加熱など自然エネルギーの利用も検討され、太陽光を用いた膜蒸留は多くの造水方法の中でも運転コストが低く初期投資も少ない優れた造水方法と言われている。しかし、この場合でも、加熱する場所と水蒸気を発生させる場所は別であるために、経路中の放熱による熱損失がある等の問題が指摘されていた。この本発明の造水システムによれば、水蒸気を発生させる中空糸が太陽光加熱装置の流路内に配置されるため、経路中の放熱による熱損失の問題は発生せず、効率の良い加熱が可能になる。
【発明の効果】
【0032】
本発明の造水システムは、簡易な構造の簡易な設備からなり、煩雑な操作も必要とせずに海水等から淡水を回収でき、かつ運転コストも低い。すなわち、初期投資および運転コストが小さいという膜蒸留の長所を、さらに活かしたもので、取り扱いおよびメンテナンスが容易な造水システムであり、途上国等における造水システムに対する要望も満たすものである。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の造水システムの一例を模式的に示す斜視図である。
【図2】本発明の造水システムの一例の一部分の拡大断面図である。
【図3】本発明の造水システムの他の一例を模式的に示す模式断面図である。
【図4】本発明の造水システムの他の一例を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
次に、本発明を実施するための形態を具体的に説明する。なお、本発明はこの形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない限り、他の形態へ変更することができる。
【0035】
本発明の造水システムにより処理される処理水としては、摂取あるいは使用の限界以上のミネラル分や塩分、ヒ素等の重金属、藻類や大腸菌等のバクテリア、ウィルス等の人体に不要および有害な成分を含み飲用や生活用水に適さないような、井戸や河川、海からの取水、又は生活排水等を挙げることができる。例えば、本発明の造水装置は、海水淡水化や、バングラディッシュにおけるヒ素汚染井戸水やエジプトの沙漠における塩分を含む井戸水の浄化・飲用水化等に適用できる。
【0036】
以上のような処理水をある程度の深さで貯めた貯水池やプールの中や、海水の場合は海水中に、造水システムの蒸発部を浸漬して、深層の海水等により冷却された凝結部より淡水を回収することができる。本発明の造水システムは、処理水を送液して廃熱や太陽光で加熱して蒸気を回収するシステムの一部にも使用することができる。
【0037】
疎水性多孔質膜の材質としては、ポリテトラフルオロエチレン(四フッ化エチレン樹脂、以降PTFEと記す)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、クロロトリフルオエチレン・エチレン共重合体(ECTFE)、これらの樹脂の混合物又は変性樹脂等の疎水性の樹脂を挙げることができる。本発明においては、容易に多孔質膜を得られる点で、PTFE(延伸法)、PVDF(溶媒相転移法)が、疎水性多孔質膜の主材料としては適している。中でも、PTFEは、疎水性、機械的強度、化学的耐久性(耐薬品性)に優れるとともに、PTFE微粒子の融着体を延伸する方法(延伸法)により、容易に均一孔径を有するPTFEの延伸多孔質膜を製造することができるので好適である。
【0038】
水を透過させない範囲で、かつ水蒸気の透過量を大きくするために、PTFEからなる延伸多孔質膜(疎水性多孔質膜)の孔径は、0.05〜0.2μmの範囲が好ましく、気孔率は、30〜80%の範囲が好ましい。このようなPTFEからなる延伸多孔質体は例えば次にようにして得ることができる。
【0039】
PTFEファインパウダーに、灯油を20〜30重量部助剤として加えて、容器を回転させる等をしてなるべく剪断力を加えないように混合し、ラム押出によってシート状あるいは中空糸状など所望の形状に成形する。この押出時の加圧、変形の際に加わる剪断力によってファインパウダーの粒子の表面で分子の絡みによる結合が生まれる。
【0040】
次に該押出品を60〜80℃の熱風循環炉などで助剤が除去されるまで乾燥させ、その後加熱しながら延伸する。このとき押出で生じたPTFE微粒子間の結合が延伸方向に張力を受けて、PTFE微粒子の結晶から繊維が引き出される。延伸後のPTFE成形品はこの引き出された繊維とその隙間の空間からなる多孔質構造となる。その後、PTFEの融点以上に加熱することで繊維の一部が融けて、延伸と垂直方向に接着して塊状となった結節という構造が生まれ、これが冷えて固定されることで、繊維と結節から構成され全体として力学的強度を持ったPTFE多孔質体となる。
【0041】
本発明に供する中空糸状多孔質膜については、蒸気回収の点からは、孔径や気孔率は大きい方が好ましいが、水蒸気のみを通し処理水が管壁を通過しないようにする(漏出を防ぐ)ためには孔径や気孔率は小さい方が好ましい。この2つの相反する性能を満足するために、孔径および気孔率が小さくて透過抵抗となる水と接する中空糸外表面を薄いスキン層とし、その内側に、外圧でつぶれないように孔径や気孔率の大きい支持層を設けた二重構造にする方法が有効である。このような管壁方向の不均一構造は、上記のような製法の条件変更でもある程度得られるが、孔径や気孔率の大きい中空糸の周囲に孔径や気孔率の小さい薄いシートをテープ状に切ったものを巻き付けた後に加熱一体化する方法によっても得られる。(例えば、特開2010−110686号公報に記載されている。)
【0042】
図1は、本発明の造水システムの一例を模式的に示す斜視図である。
【0043】
図1に示されるように、この造水システムの蒸発部は、多数の中空糸が一重に並べられた一枚のシート状に形成されており、多数の中空糸は、一本の太いパイプに連結され、その太いパイプは凝結部に通気可能に連結されている。中空糸内は気密系であるので中空糸の他の端(太いパイプとは反対側)は閉じられている。
【0044】
凝結部には、冷却水が通る冷却手段及び排気ポンプが設けられている。この例では、蒸発部は、海面に近い海水中に浸漬されており、蒸発部近傍の海水は太陽光の照射により温められて温海水となっている。
【0045】
図2は、図1における円内の部分の拡大断面図である。太陽光の照射により温められた温海水から発生した水蒸気が、中空糸を形成する疎水性多孔質膜を透過し、中空糸の内部に放出されていることが示されている。図1中の破線の矢印は、水蒸気の流れを示す。
【0046】
中空糸の内部に放出された水蒸気は、凝結部に移動する。凝結部に設けられた排気ポンプで気相内の空気成分を除去すると、水蒸気の凝結部への移動が促進され、又蒸発部内が減圧となり温海水から発生した水蒸気が疎水性多孔質膜を透過する量も増大し、淡水の回収速度が向上するので好ましい。
【0047】
凝結部に移動した水蒸気は、冷却水により冷却されて凝結する。そして、凝結部の下部に凝結水として蓄積する。この凝結水は適時回収され、淡水として利用される。
【0048】
図1で示す例のように、中空糸の内表面の蒸発面から凝結部へ蒸気が移動する経路において、出口(凝結部側)から入口(中空糸側)に向かって気道の内径が細くなるようにすると蒸気経路の移動の抵抗が小さくなるので好ましい。特に、出口から入口に向かって気道を徐々に細く分岐させると、蒸気経路の移動の抵抗をさらに小さくすることが可能となる。
【0049】
図3は、本発明の造水システムの一例であって、多数の中空糸からなる蒸発部を、発熱シート(熱を発生するシート)の一面に設けた態様を模式的に表す模式断面図である。図3に示されるように、多数の中空糸が、発熱シートの一面に並べられて設けられており、多数の中空糸は、太いパイプにより、排気ポンプが設けられた凝結部に連結されている。この連結の態様や、排気ポンプの作用は、図1の例の場合と同様である。又、多数の中空糸は一端が閉じられており、その内部は気密系となっている。
【0050】
発熱シートとしては、前述のように太陽光を通過させる透明な気密シートからなるもののみでも使用できる。該シートの下の処理水(海水等)が太陽熱で加熱され、その処理水中の中空糸により膜蒸留が行われる。
【0051】
発熱シートとしては、さらに、透明なシートの一表面に、例えばカーボンや黒色塗料等の光熱変換物質が塗布された柔軟なシートが使用でき、その一表面が太陽光を受光して得た光エネルギーを熱に変えて発熱する。太陽光から変換された熱は周囲の大気ではなく接している水により伝達されることが望ましいため、塗布面を水と接する側として、多数の中空糸は、塗布面側に設けられている。この発熱シート及び多数の中空糸を、中空糸が海面側になるように海面上に設置すると、発熱シートに接した部分にある海水、すなわち中空糸の近傍の海水が温められて温海水となり、温海水から発生した水蒸気が、中空糸を形成する疎水性多孔質膜を透過し中空糸の内部に放出される。このとき発熱シートの塗布面と反対の透明な層は、太陽光は透過するが熱を逃がさない保温層として働く。一方、中空糸の内部に放出された水蒸気は、図1の例と同様にして、凝結部で凝結され淡水として回収される。
【0052】
図3の例では、凝結部には冷却水を通す冷却手段を設けず、冷却は、凝結部を海水の深層部に設置することにより行われる。深層部の海水は低温であるので、冷却手段を設けなくても冷却は可能であり、設備をより簡易なものとすることができる。なお、深層部に設置せず、海面近くに設置した場合でも、凝結部内が気密に保たれておれば、系内の水蒸気が、夜間に温度の下がった海水により冷却され凝結するので、淡水の回収を行うことができる。
【0053】
図3に示すシステムは、極めて容易に水を得ることが可能な造水システムである。例えば、太陽光の強い地域で、太陽光が降り注ぐ前の海面に敷設しておき、日中の太陽光で温まった海水から直接蒸気を回収して、太陽が沈む夕刻までに取り入れるような簡易なシステムを構築することも可能である。
【0054】
図4は、本発明の造水システムの一例であって、蒸発部を構成する多数の中空糸が、太陽光発電における太陽電池パネルの太陽光照射面の裏側に配置した冷却水路内に配置されている例を示す斜視図である。この場合、太陽電池パネルの冷却水として、海水等の処理水を用いると、処理水が太陽電池パネルにより温められて膜蒸留が行われる。このシステムでは、太陽光発電の太陽電池で発生する熱を太陽電池の裏面で処理水に伝達して回収する。
【0055】
水蒸気の移動や凝結部の構造等は図1の例の場合と同様である。太陽電池パネルの代わりにソーラーパネルのような太陽熱加熱装置を用い、その被加熱水の水路内に中空糸を設け、被加熱水として処理水を通した場合も同様に膜蒸留が行われる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外皮が疎水性多孔質膜からなり内部が気密系である蒸発部、及び前記蒸発部と通気可能に連結する凝結部からなり、
前記蒸発部を処理水に浸漬し、
前記凝結部を、前記処理水より低温に冷却して、
前記処理水中の水が、前記蒸発部に水蒸気として放出され、前記凝結部において凝結され水として回収されることを特徴とする造水システム。
【請求項2】
前記蒸発部内の気体を、前記凝結部に送気する送気手段が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の造水システム。
【請求項3】
前記凝結部が気密系であり、前記送気手段が、前記凝結部に設けられた排気ポンプであることを特徴とする請求項2に記載の造水システム。
【請求項4】
前記処理水が海水であり、前記凝結部が海水により冷却されることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の造水システム。
【請求項5】
前記疎水性多孔質膜が中空糸であり、前記蒸発部が複数の中空糸からなることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の造水システム。
【請求項6】
さらに空気を遮断しかつ熱を発生するシートを有し、前記複数の中空糸が、前記シートの一表面上に配置されていることを特徴とする請求項5に記載の造水システム。
【請求項7】
さらに太陽電池パネルを有し、前記太陽電池パネルの裏側に配置した冷却水路に処理水を通し、前記複数の中空糸が、前記冷却水路内に配置されていることを特徴とする請求項5に記載の造水システム。
【請求項8】
さらに、処理水を加熱する太陽光加熱装置を有し、前記複数の中空糸が、前記太陽光加熱装置の被加熱液体の流路内に配置されていることを特徴とする請求項5に記載の造水システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−130882(P2012−130882A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−286219(P2010−286219)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】