説明

連続溶融金属めっきの付着量制御装置

【課題】溶融金属めっき鋼板を製造する際に溶融金属のスプラッシュを防止する。更に従来のガスワイピングに比べて溶融金属の薄目付を実現する。
【解決手段】めっき浴から引き上げられて鉛直上方に移動する鋼板表面に付着した溶融金属の付着量を制御する装置であって、前記めっき浴上方の鋼板(1)の両側に、鋼板面に対向配置した電磁コイル(6)と、前記電磁コイル(6)の上方に鋼板面にガスを噴き付けるガスノズル(8)とを備え、前記電磁コイル(6)は、鋼板面側に、鋼板移動方向長さが0.5cm以上10cm以下で、かつ、鋼板面に平行な面又は鋼板移動方向に鋼板との距離が広がり、鋼板面に対する角度が30°以下である面を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯状の鋼板に連続して溶融金属めっきする際の付着量制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼板の溶融金属めっき、例えば鋼板に連続的に亜鉛めっきを施し、付着量を制御するためには、ガスワイピング法が行われている。即ち、図1に示すように、めっき槽3に保持された溶融金属4中に鋼板1を連続的に供給し、シンクロール5を介して鋼板を連続的に上方に引上げ、ガスワイピングノズル8により、めっき厚みを制御する。
【0003】
ガスワイピングノズル8を利用する方法では、ガスワイピングノズル8から加熱又は常温の気体を吐出させ、鋼板1の両面に噴付けることにより、該鋼板面に付着して引き上げられてくる溶融金属4をワイピングし、所要の付着量に制御する。このガスワイピング法は現在幅広く用いられている方法である。
【0004】
しかしながら、本方式で、生産速度を増加しようとした場合、または、少ない付着量を得ようとした場合、ガスワイピングノズル8から吐出する気体の鋼板1への衝突圧を上げなければならない。この高いワイピング圧力はしばしば多量のスプラッシュを発生させ、めっき鋼板の外観を劣化させる。
【0005】
また高いワイピング圧力は溶融金属の温度を低下させて溶融金属の粘度を上昇させ、ワイピング効率を阻害する。従って、例えば溶融亜鉛では薄目付けは30g/m程度が現状の限界である。
【0006】
ガスワイピング法の前記課題を解決する手段として、特許文献1、特許文献2には、ガスの衝突力と併せて電磁力を利用し、ワイピングする方法が開示されている。
【0007】
特許文献1では、移動磁界発生装置を用いてストリップ端縁部のみに電磁力を作用させる。移動磁界方式では、推力を効率よく発生させるために低周波が採用されるが、低周波は加熱効果が低いため、溶融金属の粘度低下を実現できず、付着量低下には寄与しない。そのため付着量は従来レベルであった。
【0008】
特許文献2の方法は、電磁力が作用する範囲内の溶融メッキ金属に気体を吹き付けることで、薄目付溶融メッキするものであるが、どのような条件にすれば薄目付を達成できるかについて具体的な記載が何もない。
【0009】
特許文献3にはソレノイド形状の電磁コイルを用い、電磁力単独でのワイピング法が示されているが、鋼板形状不安定、ライン速度の加速減速などの外乱により、時として鋼板面鉛直方向の力のみでは抑えきれないワイピング部の下部に溜まった酸化皮膜のすり抜けが発生することがある。そのためストリップ全長にわたって良好な表面品質の安定確保に難点がある。
【0010】
特許文献4には、めっき浴出側に電磁コイルを配置し、鉛直方向下向きに電磁力を作用させる方法が開示されている。特許文献4のように鋼板面内に渦電流を流すように交流磁界を発生させると、鋼板端部から少し内側で誘導電流の向きが不均一となるため、めっき部に作用する電磁力の方向も不均一となり、結果として幅方向のめっき付着量分布が不均一となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平5−331610号公報
【特許文献2】特開昭61−227158号公報
【特許文献3】特開2007−284775号公報
【特許文献4】特許第2792807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の第一の課題は、溶融金属めっき鋼板を製造する際に溶融金属のスプラッシュを防止することであり、第二の課題は、更に従来のガスワイピングに比べて溶融金属の薄目付を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決する本発明の手段は、下記の通りである。
【0014】
[1]めっき浴から引き上げられて鉛直上方に移動する鋼板表面に付着した溶融金属の付着量を制御する装置であって、前記めっき浴上方の鋼板の両側に、鋼板面に対向配置した電磁コイルと、前記電磁コイルの上方に鋼板面にガスを噴き付けるガスノズルとを備え、前記電磁コイルは、鋼板面側に、鋼板移動方向長さが0.5cm以上10cm以下で、かつ、鋼板面に平行な面又は鋼板移動方向に鋼板との距離が広がり、鋼板面に対する角度が30°以下である面を有することを特徴とする連続溶融金属めっきの付着量制御装置である。
【0015】
[2] 前記電磁コイルに交流電流を供給する高周波電源の周波数を20kHz以上500kHz以下にし、コイルに流す電流(A)を、ライン速度LS(m/min)及び鋼板と電磁コイル間距離x(mm)に対して、(20LS+100)×(x/5)以上、(300LS+2500)×(x/5)以下となるようにすることを特徴とする[1]記載の連続溶融金属めっきの付着量制御装置である。
【0016】
[3]前記電磁コイルと前記ガスノズルの間に、前記ガスノズルでガスワイピングしたときに発生した溶融金属スプラッシュが前記電磁コイルに付着するのを防止する手段を備えることを特徴とする[1]又は[2]記載の連続溶融金属めっきの付着量制御装置である。
【0017】
[4]さらに、前記電磁コイルの下方に、鋼板面にガスを噴き付けるガスノズルを備えることを特徴とする[1]記載の連続溶融金属めっきの付着量制御装置である。
【0018】
[5]前記電磁コイル上方のガスノズル及び前記電磁コイル下方のガスノズルは、鋼板面に対して斜め下方にガスを噴き付けるとともに、鋼板面に対するガス吹き付け角度を10°以上70°以下の範囲内とすることを特徴とする[4]記載の連続溶融金属めっきの付着量制御装置である。
【0019】
[6] 前記電磁コイル上方のガスノズルと前記電磁コイル最上部の鉛直方向間隔は、前記電磁コイルと鋼板の間隔をyとしたときに、y以上、15y以下となるようにすることを特徴とする[4]又は[5]記載の連続溶融金属めっきの付着量制御装置である。
【0020】
[7]前記電磁コイルは、その内部に冷却媒体を流すための管状の中空構造を有することを特徴とする[1]〜[6]の何れかに記載の連続溶融金属めっきの付着量制御装置である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、鋼板の両側に、鋼帯面に対向配置させた電磁コイルによる電磁力を溶融金属に作用させ、鋼板が持ち上げる溶融金属の量を低減させることを利用し、スプラッシュを低減するとともに、電磁コイルによる加熱効果・粘度低下を利用し、従来ガスワイピングを超える薄目付けが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】従来のガスワイピング方式の付着量制御装置を備える連続溶融金属めっき装置の概略側面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る付着量制御装置を備える連続溶融金属めっき装置の概略側面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る付着量制御装置に設置する電磁コイルの平面形状の実施形態を示す上面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る付着量制御装置に設置する電磁コイルの別の平面形状の好ましい実施形態を示す上面図である。
【図5】本発明の実施形態に係る付着量制御装置に設置する電磁コイルの断面形状の実施形態を示す概略断面図である。
【図6】本発明の実施形態に係る付着量制御装置に設置する電磁コイルの断面形状の別の実施形態を示す概略断面図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る付着量制御装置において電磁コイルによりめっき金属表面に発生する鋼板長手方向の電磁力分布を示す図である。
【図8】本発明の別の実施形態に係る付着量制御装置を備える連続溶融金属めっき装置の概略側面図である。
【図9】電磁コイルの上方と下方にガスノズルを備える場合の電磁コイル下方のガスノズルのガス噴き付け角度の作用を説明する図である。
【図10】電磁コイルの上方と下方に各々ガスノズルを備える場合の電磁コイル上方のガスノズルのガス噴き付け角度の作用を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0024】
図2は、本発明の第1の実施の形態に係る連続溶融金属めっきの付着量制御装置を備える溶融金属めっき装置の概略側面図である。図2において、1は鋼板、2はスナウト、3はめっき槽、4は溶融金属、5はシンクロール、6は電磁コイル、7はスプラッシュ堆積防止装置、8はガスノズルである。電磁コイル6の上方にガスノズル8が配置され、電磁コイル6とガスノズル8の間にスプラッシュ堆積防止装置7が配置されている。
【0025】
鋼板1は、スナウト2内からめっき槽3内の溶融金属4に進入し、シンクロール5により方向転換されてめっき槽3から引き上げられる。鋼板1に付着した余剰の溶融金属は、先ずめっき槽3上方に設置された電磁コイル6によりワイピングされて低減され、次いで電磁コイル6の上方に配置されたガスノズル8で最終付着量にワイピングされる。
【0026】
電磁コイル6は、鋼板1の両側に、各々鋼板面に対向して配置されている。鋼板1の両側に配置された電磁コイル6は、鋼板1の一方の端部側方を囲むように連結され、上方から見たときに図3に示すように略「コの字」の一体構造である。
【0027】
電磁コイル6に電流を流すとジュール発熱により電磁コイル自体が発熱するため、電磁コイル6は、図5及び図6に示すように、中空構造とし、内部に冷却水11を流し、電磁コイル6を冷却する。その際、圧力損失を少なくするため、電磁コイル6は、上方から見たときに図4に示すよう鋼板1の端部を囲む側は弧状の構造にすることがより好ましい。
【0028】
電磁コイルの断面形状は、円形でなく、図5、図6に示すように四角形、三角形等の面(平坦部)を有する形状とし、その面を鋼板面に平行に配置するとワイピング効率が高くなることが分かった。また、四角形、三角形等の面が鋼帯面に平行でなくても、該面が鋼板移動方向に鋼板との距離が広がり、鋼板面に対する角度(図6中の角度θ)が30°以下であれば、鋼板が持ち上げる溶融金属を効率良くワイピングできることが下記の調査から分かった。
【0029】
断面形状が10mm×10mmで肉厚が1mmの中空で四角形の電磁コイルを4本用意し、鋼板に対する面の角度を0°、15°、30°、45°となるようにしたときのワイピング特性を調査した。電磁コイルと鋼板との間隔は、最近接部が5mmとなるようした。電源出力は75kW、周波数は45kHz、ライン速度は30m/minとした。コイル電流は4000Aであった。調査結果を表1に示す。表1から角度が30°以下であればワイピング効率が高く、鋼板が持ち上げる溶融金属の付着量を効率良くワイピングできることが分かる。
【0030】
【表1】

【0031】
そのため、本発明では、鋼板面に対向配置した電磁コイルは、鋼板面側に鋼板面に平行な面又は鋼板移動方向に鋼板との距離が広がり、鋼板面に対する角度が30°以下である面を有することを規定した。
【0032】
図3、図4に示すように、電磁コイル6に、鋼板幅方向の交流電流12を流すことにより、鋼板1の長手方向に磁束を発生させるとともに、交流の磁束変化を打ち消すように鋼板面上の溶融金属および鋼板1内に誘導電流13が発生する。この誘導電流13と磁束との作用により鋼板1の厚み方向で鋼板1を押す電磁力が溶融金属の表裏面ともに働き、鋼板面上の溶融金属を加熱・ワイピングし、余剰溶融金属を削減する。
【0033】
溶融金属に作用する電磁力は、鋼板幅方向にはほぼ均一な電磁力分布であり、鋼板長手方向には図7に示すように電磁コイルの中心付近がピークとなるような分布を持つ。ワイピング力はこの鋼板長手方向の電磁力の勾配の大きさに左右され、電磁力の勾配が大きいほど、ワイピング力が高まる。
【0034】
電磁コイルの鋼板面側の面は、鋼板移動方向長さが長すぎると電磁力の勾配が小さくなり、短すぎると十分な電流が鋼板面側に流れないので、鋼板移動方向長さは0.5cm以上10cm以下が好ましく、更に好ましくは1cm以上5cm以下である。
【0035】
鋼板面に対する電磁コイルの鋼板対向面の傾斜角度(図6中の角度θ)は電磁力の勾配と関係があり、傾斜角度が大きい方が電磁力の勾配が大きくなるが、電磁コイルの鋼板に近い側の断面積が小さくなり流れる電流の絶対量が減ることで電磁力の勾配が小さくなることから、電磁力の勾配は却って小さくなる。鋼板面に対する傾斜角度が30°以下であれば溶融金属のワイピング効率が低下する問題はない。
【0036】
電磁力は鋼板厚み方向への力しか働かないため、電磁コイル下部では流れのよどみが起こり、亜鉛等酸化しやすい溶融金属では大量の酸化皮膜が発生してしまう。そのため酸化皮膜を掻き落とす必要がある。本発明では、電磁コイル6の上方にガスノズル8を設置し余剰の溶融金属とともに酸化皮膜を掻き落とし、表面を美麗に保つ。
【0037】
電磁コイルに流す交流電流の周波数は、鋼板の表皮深さの関係から種々条件で実験を行い20kHz以上500kHz以下であると電磁コイル6による加熱効果と粘度低下作用によって効果的なワイピング効率が得られることを見出した。周波数が20kHz未満になると、表皮深さが深くなり鋼板表面の溶融金属に対して効率的に力が働かないため、ワイピング効率が低下し、薄目付にできなくなった。周波数が500kHzを超えると、表皮深さが浅くなりすぎて、溶融金属表層のみに力がかかりワイピング効率が低下し薄目付にできなくなった。より好ましい周波数は、30〜200kHzである。
【0038】
本実施形態に係る装置では、電磁コイル6に過度に高い電流を流すと、鋼板が過加熱され溶融金属との合金化が進行、固化し、ガスノズルによるワイピング効率を阻害し、薄目付できなくなる。合金化が進行し、ワイピングを阻害してしまう合金化度を調べ、種々の実験を行った結果、電磁コイルに流れる電流値(A)が、ライン速度LS(m/min)と鋼板と電磁コイル間距離x(mm)に対して、(300LS+2500)×(x/5)以下(単位はA)であると合金化によりワイピングが阻害されず電磁コイル6による加熱効果・粘度低下によって薄目付が可能になることが分かった。
【0039】
電磁コイル6が鋼板1から離れるほど、磁束、誘導電流ともに小さくなるため、電磁力も減少し、加熱効果も低減し、ワイピング効率は低くなる。そのため、この点についても種々の実験を行い、電磁コイル6に流れる電流値(A)が、(20LS+100)×(x/5)以上であれば、溶融金属のワイピング効率が上がることを見出した。
【0040】
大電流を流すと消費電力が大きくなるため、鋼板と電磁コイルとの間隔はなるべく狭いほうがよく、20mm以下が好ましく、より好ましくは10mm以下である。
【0041】
鋼板エッジ近傍において、鋼板幅方向中央部と同様の電磁力(ワイピング力)が発現されるようにするには、電磁コイル6の鋼板幅方向端部は、鋼板幅方向端部に対応する位置、またはそれよりも外側に延在して存在することが好ましい。外側に延在する場合、鋼板端部より50mm以上外側に延在することが好ましい。
【0042】
鋼板1の振動、あるいはC反り等の形状不良により鋼板1と電磁コイル6が接触すると、スパークが発生し、鋼板1および電磁コイル6が損傷するため、電磁コイル表面、特に電磁コイル6の鋼板面側は絶縁テープ等の絶縁材を被覆することが好ましい。
【0043】
電磁コイル6の上方に配置されたガスノズル8で最終ワイピングを行う。
【0044】
電磁コイル6とガスノズル8の位置関係であるが、本発明は、ガスワイピングを電磁力が作用する範囲外で行うものであるが、電磁力が作用する範囲外であってもガスノズル8と電磁コイル6が近すぎると電磁コイル6によって発生する誘導電流がガスノズル8に多く流れ、加熱・ワイピング効率を阻害する。また遠すぎると電磁コイル6で加熱した鋼板が冷えて溶融金属の粘度が上昇してしまう。そこで電磁コイル−ガスノズル距離は電磁コイル−鋼板間距離以上で300mm以下が好ましい。電磁コイル−ガスノズル距離は、電磁コイル最上部からガスノズルのガス噴出し口までの鉛直方向距離である。ガスノズルには、誘導加熱されにくい銅、アルミ等を用いてもよい。また加工精度の確保が可能であれば、セラミック等、誘導加熱されない材質でガスノズルの製作を行ってもよい。
【0045】
電磁コイル6で余剰の溶融金属がワイピングされているため、ガスノズル8での最終ワイピングによるスプラッシュ発生は従来のガスワイピング方式に比べて大幅に低減されるが、完全には防止されない。このスプラッシュが電磁コイル6上に堆積するとめっき外観を損なうようになる。そこで、本実施形態に係る装置では、電磁コイル6とガスノズル8の間に、ガスノズル8でワイピング時に発生したスプラッシュが電磁コイル6上に堆積するのを防止するスプラッシュ堆積防止装置7を備える。
【0046】
スプラッシュ堆積防止装置7は、電磁コイル6とガスノズル8の間に、平板状のものを入れ、それを定期的に交換するようにしても良いし、集塵機のようにスプラッシュを吸い込む装置や、スプラッシュを載せ回収するベルトコンベヤーのような搬送装置を配置しても良い。スプラッシュ堆積防止装置7が金属製であると誘導加熱されるため、電磁コイルに近すぎると誘導電流がスプラッシュ堆積防止装置7に多く流れてしまい加熱・ワイピング効率を阻害する。そこで電磁コイル−スプラッシュ堆積防止装置間距離は電磁コイル−鋼板間距離以上で300mm以下が好ましい。
【0047】
加熱による温度低下防止だけでもガスワイピングによる薄目付けの効果は得られる。その際の加熱方法は他の誘導加熱方式やバーナーや雰囲気加熱など何でもよい。好ましくは酸化防止のため無酸化の雰囲気がよい。ただし鋼板が持ち上げる溶融金属の量を低減しているわけではないので、スプラッシュ低減やガスワイピング効率の向上には寄与しない。スプラッシュを低減し、ガスワイピング効率をより高める点で本発明がより優れている。
【0048】
本発明の別の実施の形態について説明する。
【0049】
図8は、本発明の第2の実施の形態に係る連続溶融金属めっきの付着量制御装置を備える溶融金属めっき装置の概略側面図である。図8において、1は鋼板(めっき鋼板)、2はスナウト、3はめっき槽、4は溶融金属、5はシンクロール、6は電磁コイル、9、10はガスノズルである。電磁コイル6の下方及び上方に、それぞれガスノズル9、10を備える。
【0050】
鋼板1は、スナウト2内からめっき槽3内の溶融金属4に進入し、シンクロール5により方向転換されてめっき槽3から引き上げられ、めっき槽3上方に設置されたガスノズル9により余剰の溶融金属が掻き落とされるとともに表面が冷却され、更に電磁コイル6により余剰の溶融金属がワイピングされ、更に上方のガスノズル10により電磁コイル下部で発生した酸化皮膜が掻き落とされるとともに表面が冷却される。
【0051】
電磁コイル6の構成、配置、電磁コイルに流す交流電流の周波数及びこれらの作用は、本発明の第1の実施の形態に係る連続溶融金属めっきの付着量制御装置における電磁コイル6と同様である。
【0052】
本実施形態に係る装置では、電磁コイル6に、鋼板幅方向の交流電流を流すことにより、鋼板1の長手方向に磁束を発生させるとともに、交流の磁束変化を打ち消すように鋼板面上の溶融金属および鋼板1内に、誘導電流が発生する。この誘導電流と磁束との作用により鋼板1の厚み方向で鋼板1を押す電磁力が溶融金属の表裏面ともに働き、鋼板面上の溶融金属をワイピングする。
【0053】
溶融金属に作用する電磁力は、鋼板厚み方向への力しか働かないため、電磁コイル下部では流れのよどみが起こり、亜鉛等酸化しやすい溶融金属では大量の酸化皮膜が発生してしまう。そのため酸化皮膜を掻き落とす必要がある。そこで本発明では、電磁コイル6の上方にガスノズル10を設置し、電磁コイル6下部の酸化皮膜を掻き落とし、表面を美麗に保つ。
【0054】
またソレノイド方式の電磁コイルであるため鋼板と溶融金属は誘導加熱される。過度に加熱されると亜鉛など鋼板と合金化しやすい溶融金属では合金化が促進され、表面が固化し、電磁コイル6によるワイピングを阻害する。そこで加熱を抑えるため電磁コイル6下方のガスノズル9により鋼板と溶融金属を冷却する。
【0055】
ガスノズル9は、鋼板面に対して斜め下方にガスを噴き付ける。鋼板面に対するガス噴き付け角度(図8中の角度α)が10°以上、70°以下となるように設置する。ガス噴き付け角度が70°より大きくなると電磁コイル6でワイピングされた溶融金属が下に流れてくるためガス衝突部で液だまりが発生し、多量のスプラッシュが発生するため外観を損なう。ガス噴き付け角度が10°未満になると溶融金属にかかるガス圧力が不足して十分な冷却効果が得られない。十分な冷却を行うためには、ある程度余分な溶融金属を掻き落とす程度の力が必要であり、より好ましいガス噴き付け角度は20°〜45°である。
【0056】
ガスノズル9の設置位置は、浴面−鋼板間であればどこでも良い。しかし電磁コイル6に近すぎると誘導加熱され溶解、電磁力の損失が起こってしまうため、ある程度の距離、少なくとも電磁コイル−鋼板間以上の距離は保つ必要がある。電磁コイル−ガスノズル距離は、電磁コイル最下部からガスノズルのガス噴出し口までの鉛直方向距離である。また浴面からの距離は、鋼板に随伴してくる溶融金属の量がある程度減った100mm以上が好ましい。
【0057】
ワイピング条件については、冷却と酸化皮膜除去が目的であるためそれほど高い圧力は必要としない。ノズルスリット幅0.5〜3mm、ノズル−鋼板間距離が5〜15mm程度であれば、0.01〜0.5kgf/cm程度の圧力で十分である。また逆に冷却が強すぎたり、冷却区間が長すぎたりすると溶融金属の流動性がなくなるため、凝固しない程度の条件とする必要がある。
【0058】
電磁コイル6上方のガスノズル10は、鋼板面に対して斜め下方にガスを噴き付ける。鋼板面に対するガス噴き付け角度(図8中の角度β)は10°以上、70°以下である必要がある。10°未満では溶融金属にかかるガス圧力が不足して十分な冷却効果が得られない。また70°より大きくなると、酸化皮膜を掻き落とす程の力を作用させた場合、ガス流衝突部で通常のガスワイピングのようになってしまいスプラッシュが発生する。
【0059】
また電磁コイル6上方のガスノズル10の設置位置は、電磁コイル6と鋼板の間隔をyとするとき、電磁コイル6最上部からガスノズル10の噴出し口までの高さ(鉛直方向距離)がy以上、15y以下となるよう設置することが好ましい。
【0060】
ワイピング条件については、冷却と酸化皮膜除去が目的であるためそれほど高い圧力は必要としない。ノズルスリット幅0.5〜3mm、ノズル−鋼板間距離が5〜15mm程度であれば、0.01〜0.5kgf/cm程度の圧力で十分である。
【0061】
ガスノズル9、10はコスト、強度、設計精度上の問題から金属で製作することが好ましい。その場合、ガスノズル9、10と電磁コイル6の間隔が近いと誘導加熱される。実験の結果、電磁コイル6と鋼板1の間隔より近くに設置すると、ガスノズル9、10に電力が奪われワイピング効率を阻害することがわかった。そのため電磁コイル最上部からガスノズルの噴出し口までの高さを電磁コイル6と鋼板の間隔y以上とした。また電磁コイル最上部からガスノズルの噴出し口までの高さが15yより大きくなると誘導加熱される電磁コイル部での冷却効果が低下し、ワイピング効率が阻害される。ガスノズルが加熱される場合は内部に水を流す水冷式にすることが好ましい。
【0062】
またガスノズルには、誘導加熱されにくい銅、アルミ等を用いてもよい。また加工精度の確保が可能であれば、セラミック等、誘導加熱されない材質でガスノズルの製作を行ってもよい。
【実施例】
【0063】
本発明を以下の実施例及び比較例により詳細に説明する。
【0064】
(実施例1)
板厚0.41mm、板幅200mmの亜鉛めっき鋼板のコイルに対して、図2に示した装置を用いて、めっき付着量制御を行い、めっきの付着量制御性、外観の評価を行った。電磁コイルは、鋼板の一方の端部側方を囲むように連結され、上方から見たときに、略「コの字」型の一体構造で、その断面が四角形(鋼板と平行な面の長さ20mm、および鋼板に垂直な面の長さが10mmの長方形)であり、銅製の中空構造で、電磁コイル内部を冷却水が循環するようになっている。電磁コイル端部は鋼板端部より外側70mmの位置にある。鋼板と電磁コイルの間隔は5mmとした。電磁コイルはめっき浴面から200mm上方に配置している。めっきされる溶融金属は、Al含有量が0.1質量%の亜鉛浴を使用し、めっき浴温度は460〜470℃の範囲内で調整した。電磁コイルに流す電流は周波数18〜510kHzとし、電流を変化させ、めっき付着量を調整した。またガスノズルはスリット幅1mmで鋼板からの距離は5mm、スリットガス圧力は0.1〜0.4kgf/cmとした。使用ガスはエアーで、温度は常温25℃である。電磁コイルとガスノズルの浴面高さはそれぞれ200mm、300mmとした。電磁コイルとガスノズル間のスプラッシュ堆積防止装置はエアーシリンダーで出し入れを行えるアルミ製パン皿を用いた。めっき付着量はランダムに抽出した10箇所の付着量を重量法により測定した。
【0065】
従来法の比較例として、電磁コイル単独及びガスノズル単独でもワイピング実験を行った。
【0066】
評価結果を表2に示す。
【0067】
【表2】

【0068】
表2に示すように、本発明法の実施例では、同じガス圧力、ライン速度の場合では、従来のガスワイピング法に比べ、薄目付を行うことができる。また周波数及びコイル電流が本発明範囲を外れた場合は薄目付の効果が低かった。また電磁ワイピング単独では、薄目付化できず、酸化皮膜による外観不良が発生した。またスプラッシュ堆積防止装置がない場合も少量であるがスプラッシュが発生し、長時間の運転を行うと電磁コイル上に堆積し外観不良となった。しかし本発明の実施例では、速度200m/minでも美麗な外観で従来レベルを超える薄目付が可能であった。
【0069】
(実施例2)
板厚0.41mm、板幅200mmの亜鉛めっき鋼板のコイルに対して、図8に示した装置を用いて、めっき付着量制御を行い、めっきの付着量制御性、外観の評価を行った。電磁コイルは、図3に示すように、鋼板の一方の端部側方を囲むように連結され、上方から見たときに、略「コの字」型の一体構造で、その断面が四角形(鋼板と平行な面の長さ20mm、および鋼板に垂直な面の長さが10mmの長方形)であり、銅製の中空構造で、電磁コイル内部を冷却水が循環するようになっている。電磁コイル端部は鋼板端部より外側70mmの位置にある。鋼板と電磁コイルの間隔は5mmとした。電磁コイルはめっき浴面から200mm上方に配置している。めっきされる溶融金属は、Al含有量が0.1質量%の亜鉛浴を使用し、めっき浴温度は460〜470℃の範囲内で調整した。電磁コイルに流す電流は周波数40kHzとし、電流を変化させ、めっき付着量を調整した。電磁コイル上方の上部ガスノズル、電磁コイル下方の下部ガスノズルは、スリット幅1mmで鋼板からの距離は5mm、ガス圧力は0.05kgf/cmとした。使用ガスはエアーで、温度は常温25℃である。下部ガスノズル、電磁コイルの浴面からの高さはそれぞれ150mm、200mmとした。めっき付着量はランダムに抽出した10箇所の付着量を重量法により測定した。
【0070】
下部ガスノズルの設置角度を検証した結果を図9に示す。上部ガスノズル角度は45°、電磁コイル最上部から上部ガスノズル噴出し口までの高さは20mmとした。下部ガスノズル角度は、下部ガスノズルのガス噴出し方向が鋼板の鉛直上方に対してなす角度(図8の角度α)、上部ガスノズル角度は、上部ガスノズルのガス噴出し方向が鋼板の鉛直上方に対してなす角度(図8の角度β)である。ライン速度は60m/min、電磁コイルに流す電流は22000Aとした。図9に示すように、下部ガスノズルのノズル角度が10〜70°の範囲内では、スプラッシュ発生がなく薄目付けが可能であった。
【0071】
次に上部ガスノズルの設置角度を検証した結果を図10に示す。下部ガスノズル角度は45°とした。また電磁コイル最上部から上部ガスノズル噴出し口までの高さは20mmとした。ライン速度は60m/min、電磁コイルに流す電流は22000Aとした。図10に示すように、上部ガスノズルのノズル角度が10〜70°の範囲内では、スプラッシュの発生がなく薄目付けが可能であった。
【0072】
次に電磁コイル最上部から上部ガスノズル噴出し口までの高さを検証した結果を表3に示す。
【0073】
【表3】

【0074】
従来のガスワイピング法(ガスワイピング単独)では、スプラッシュが発生し、外観不良が発生した。電磁ワイピング単独では、従来のガスワイピング法ほどの薄目付化できず、酸化皮膜による外観不良が発生した。
【0075】
電磁コイルの上方と下方にガスノズルを配置したものは、スプラッシュの発生、酸化皮膜による外観不良の発生がなく、電磁コイルから上部ガスノズル噴出し口までの高さ(上部ガスノズルと電磁コイルの間隔)が、電磁コイルと鋼板との間隔の1〜15倍の範囲内にあるものは、ライン速度が200m/minであっても従来のガスワイピング法に比べて薄目付となった(No.1〜5)。しかし、電磁コイルから上部ガスノズル噴出し口までの高さが前記範囲を外れ、電磁コイルに近すぎるものは電力の損失が大きくなり付着量が増大し(No.6)、電磁コイルから離れ過ぎると冷却効果が下がり合金化が進行し、薄目付けにならなかった(No.7)。
【0076】
電磁コイルの上方にのみガスノズルを配置したものは、スプラッシュの発生、酸化皮膜による外観不良の発生がなく、従来のガスワイピング法より薄目付となったが、電磁コイルから上部ガスノズル噴出し口までの高さを電磁コイルと鋼板との間隔の1〜15倍の範囲内にしても、電磁コイルの上方と下方にガスノズルを配置したものほど薄目付けにならなかった(No.8)。
【0077】
電磁コイルの下方にのみガスノズルを配置したものは、酸化皮膜による外観不良が発生し、従来のガスワイピング法より厚目付となった(No.9)。
【0078】
以上の実施例は、溶融金属としてはAl:0.1質量%含有亜鉛浴を用いたが、本発明は、Uアロイなどの低融点金属、錫、亜鉛合金等、主成分が金属の溶融金属浴を用いて溶融金属めっきする際の付着量制御装置として広く使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明によれば、鋼板の両側に、鋼帯面に対向配置させた電磁コイルによる電磁力を溶融金属に作用させ、鋼板が持ち上げる溶融金属の量を低減させることを利用し、スプラッシュを低減できるとともに、電磁コイルによる加熱効果・粘度低下を利用し、従来ガスワイピングを超える薄目付けが可能になる。
【符号の説明】
【0080】
1 鋼板
2 スナウト
3 めっき槽
4 溶融金属
5 シンクロール
6 電磁コイル
7 スプラッシュ堆積防止装置
8、9、10 ガスノズル
11 冷却水
12 電磁コイルを流れる電流
13 誘導電流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき浴から引き上げられて鉛直上方に移動する鋼板表面に付着した溶融金属の付着量を制御する装置であって、前記めっき浴上方の鋼板の両側に、鋼板面に対向配置した電磁コイルと、前記電磁コイルの上方に鋼板面にガスを噴き付けるガスノズルとを備え、前記電磁コイルは、鋼板面側に、鋼板移動方向長さが0.5cm以上10cm以下で、かつ、鋼板面に平行な面又は鋼板移動方向に鋼板との距離が広がり、鋼板面に対する角度が30°以下である面を有することを特徴とする連続溶融金属めっきの付着量制御装置。
【請求項2】
前記電磁コイルに交流電流を供給する高周波電源の周波数を20kHz以上500kHz以下にし、コイルに流す電流(A)を、ライン速度LS(m/min)及び鋼板と電磁コイル間距離x(mm)に対して、(20LS+100)×(x/5)以上、(300LS+2500)×(x/5)以下となるようにすることを特徴とする請求項1記載の連続溶融金属めっきの付着量制御装置。
【請求項3】
前記電磁コイルと前記ガスノズルの間に、前記ガスノズルでガスワイピングしたときに発生した溶融金属スプラッシュが前記電磁コイルに付着するのを防止する手段を備えることを特徴とする請求項1又は2記載の連続溶融金属めっきの付着量制御装置。
【請求項4】
さらに、前記電磁コイルの下方に、鋼板面にガスを噴き付けるガスノズルを備えることを特徴とする請求項1記載の連続溶融金属めっきの付着量制御装置。
【請求項5】
前記電磁コイル上方のガスノズル及び前記電磁コイル下方のガスノズルは、鋼板面に対して斜め下方にガスを噴き付けるとともに、鋼板面に対するガス吹き付け角度を10°以上70°以下の範囲内とすることを特徴とする請求項4記載の連続溶融金属めっきの付着量制御装置。
【請求項6】
前記電磁コイル上方のガスノズルと前記電磁コイル最上部の鉛直方向間隔は、前記電磁コイルと鋼板の間隔をyとしたときに、y以上、15y以下となるようにすることを特徴とする請求項4又は5記載の連続溶融金属めっきの付着量制御装置。
【請求項7】
前記電磁コイルは、その内部に冷却媒体を流すための管状の中空構造を有することを特徴とする請求項1〜6の何れかの項に記載の連続溶融金属めっきの付着量制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2011−68951(P2011−68951A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−220603(P2009−220603)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】