進行波励振アンテナ及び平面アンテナ
【課題】 マイクロストリップアンテナによる交差偏波の放射を抑制し、進行波励振アンテナの交差偏波識別度を向上させることを目的とする。
【解決手段】 進行波が伝搬する給電線路21と、進行波により励振される放射素子22とが誘電体基板1上に形成されたマイクロストリップアンテナにおいて、放射素子22が、主偏波を放射する放射部22Aと、上記放射部22Aから交差偏波方向に延び、λg/4に略一致するスタブ長Lcを有するオープンスタブ22Bとを有する。このため、放射素子22の素子幅Lbを変更することなく、放射素子22による交差偏波の放射を抑制し、交差偏波識別度を向上させることができる。
【解決手段】 進行波が伝搬する給電線路21と、進行波により励振される放射素子22とが誘電体基板1上に形成されたマイクロストリップアンテナにおいて、放射素子22が、主偏波を放射する放射部22Aと、上記放射部22Aから交差偏波方向に延び、λg/4に略一致するスタブ長Lcを有するオープンスタブ22Bとを有する。このため、放射素子22の素子幅Lbを変更することなく、放射素子22による交差偏波の放射を抑制し、交差偏波識別度を向上させることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、進行波励振アンテナ及び平面アンテナに係り、更に詳しくは、給電線路を伝搬する進行波により励振される放射素子を備えた進行波励振アンテナ、例えば、マイクロ波やミリ波を送受信するマイクロストリップアンテナなどの平面アンテナの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の周辺環境を監視するための車載レーダとして、ミリ波レーダが実用化されつつある。ミリ波レーダは、レーダ信号として波長1〜10mmのミリ波を用いており、比較的分解能の高いレーダ装置を実現することができる。また、ミリ波レーダは、送受信アンテナとして、装置の小型軽量化が容易であり、コスト低減効果も大きいマイクロストリップアンテナを採用することができる。このような事情から、車載用ミリ波レーダに用いられるマイクロストリップアンテナについて、種々の提案がなされている(例えば、特許文献1)。
【0003】
図21は、従来の平面アンテナ103の一構成例を示した図である。この平面アンテナ103は、進行波を伝搬させる直線状の給電線路21と、当該進行波によって励振される略矩形の放射素子22Pとが、誘電体基板上に形成されたミリ波用のマイクロストリップアンテナである。放射素子22Pは、素子長Laをλg/2(λgは進行波の波長)に略一致させるとともに、素子長Laの方向が、給電線路21に対し、傾くように配置している。例えば、偏波面が給電線路21に対し45°傾いた直線偏波を放射することができる。
【0004】
しかしながら、この平面アンテナ103では、放射素子22Pの一頂点が給電線路21に接続され、当該頂点を介して給電されるため、素子幅Lbがλg/2に近づくと、縮退モードが発生するという問題があった。すなわち、素子幅Lbがλg/2に近づくと、素子長Laの方向を偏波面とする主偏波だけでなく、素子幅Lbの方向を偏波面とする交差偏波も放射されるようになる。このため、平面アンテナ103からの放射波は、主偏波及び交差偏波の合成波となり、その偏波面は素子長Laの方向と一致しなくなるという問題があった。
【0005】
そこで、素子幅Lbをλg/2から遠ざけることにより、この様な縮退モードの発生を抑制することが考えられる。例えば、素子幅Lbをλg/2よりも十分に小さい値にすれば、交差偏波成分は無視することができる。しかしながら、放射素子22Pによる放射電力は、給電線路21及び放射素子22Pのインピーダンス比で決まり、放射素子22Pのインピーダンスは、素子幅Lbで決まる。このため、交差偏波を抑制するために素子幅Lbを変更すれば、それに応じて、放射素子22Pの放射電力も変化し、所望の放射分布を得ることができなくなるため、マイクロストリップアンテナの最適設計を行うことが難しいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−44752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、進行波励振アンテナによる交差偏波の放射を抑制し、進行波励振アンテナの交差偏波識別度を向上させることを目的とする。特に、放射素子の素子幅を変更することなく、交差偏波の放射を抑制することができる進行波励振アンテナを提供することを目的とする。また、高効率の進行波励振アンテナを提供することを目的とする。
【0008】
また、給電線路に対し主偏波方向を傾斜させた平面アンテナにおいて、交差偏波の放射を抑制し、進行波励振アンテナの交差偏波識別度を向上させることを目的とする。特に、放射素子の素子幅を変更することなく、交差偏波の放射を抑制することができる平面アンテナを提供することを目的とする。また、高効率の平面アンテナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の本発明による進行波励振アンテナは、進行波が伝搬する給電線路と、上記進行波により励振される放射素子とが誘電体基板上に形成され、上記放射素子は、主偏波を放射するための放射部と、上記放射部から交差偏波方向に延びるオープンスタブとを有する。
【0010】
この様な構成により、放射部の素子幅、つまり、交差偏波方向の長さを変更することなく、放射素子による交差偏波の放射を抑制し、交差偏波識別度を向上させることができる。従って、交差偏波識別度を顕著に劣化させることなく、所望の素子幅を有する放射素子を実現することができる。このような放射素子を用いることにより、進行波励振アンテナの最適設計を行うことが可能になり、高効率の進行波励振アンテナを実現することができる。
【0011】
第2の本発明による進行波励振アンテナは、上記構成に加えて、上記オープンスタブが、上記進行波の(2n+1)/4波長(nは整数)に略一致するスタブ長を有する。一般に、放射部の素子幅が進行波の(2n+1)/2波長に近づけば、放射素子から交差偏波が放射され易くなる。この様な場合であっても、オープンスタブのスタブ長を(2n+1)/4波長にすれば、素子幅及びスタブ長からなる交差偏波方向の共振長を(2n+1)/4波長に略一致させ、交差偏波を抑制することができる。つまり、交差偏波が放射され易い条件下において、交差偏波の放射を効果的に抑制することができる。このため、放射部の素子幅にかかわらず、所定の交差偏波識別度を確保することができる。
【0012】
第3の本発明による進行波励振アンテナは、上記構成に加えて、上記オープンスタブが、上記放射部の主偏波方向の略中央に配置されている。放射素子は、主偏波方向の略中央に電界定在波の節が現れ、電界強度が最も小さくなる。このため、オープンスタブを主偏波方向の略中央に配置することにより、交差偏波の放射を効果的に抑制し、交差偏波識別度を向上させることができる。
【0013】
第4の本発明による平面アンテナは、給電点が形成された誘電体基板と、上記誘電体基板上に形成され、一端が上記給電点に接続された略直線状のマイクロストリップ線路からなる給電線路と、上記給電線路を伝搬する進行波により励振される放射素子とを備えた平面アンテナにおいて、上記放射素子は、主偏波方向が上記給電線路に対して角度を有し、その一頂点から給電される略矩形のストリップ片からなる放射部と、上記放射部から交差偏波方向へ延びるストリップ片からなるオープンスタブとを有する。
【0014】
この様な構成により、放射部の素子幅を変更することなく、放射素子による交差偏波の放射を抑制し、交差偏波識別度を向上させることができる。従って、このような放射素子を用いることにより、給電線路に対し主偏波の偏波面を傾斜させた平面アンテナの最適設計を行うことが可能になり、高効率の平面アンテナを実現することができる。
【0015】
第5の本発明による平面アンテナは、上記構成に加えて、上記放射素子が、上記進行波の(2n+1)/2波長(nは整数)に略一致する素子長を有し、上記オープンスタブは、上記進行波の略(2m+1)/4波長(mは整数)に略一致するスタブ長を有する。
【発明の効果】
【0016】
本発明による進行波励振アンテナは、進行波により励振される放射素子が、主偏波を放射する放射部と、交差偏波方向に延びるオープンスタブを有する。このため、オープンスタブにより、交差偏波の放射を抑制することができる。このため、放射部の素子幅を変更することなく、放射素子による交差偏波の放射を抑制することができる。このような放射素子を用いることにより、進行波励振アンテナの最適設計を行うことが可能になり、高効率の進行波励振アンテナを実現することができる。
【0017】
特に、オープンスタブのスタブ長を進行波の(2n+1)/4波長に略一致させることにより、放射部の素子幅にかかわらず、所定の交差偏波識別度を確保することができる。
【0018】
また、本発明による平面アンテナは、放射素子が、主偏波方向が上記給電線路に対して角度を有し、その一頂点から給電される略矩形のストリップ片からなる放射部と、上記放射部から交差偏波方向へ延びるストリップ片からなるオープンスタブとを有する。このため、放射部の素子幅を変更することなく、放射素子による交差偏波の放射を抑制し、交差偏波識別度を向上させることができる。従って、このような放射素子を用いることにより、給電線路に対し主偏波の偏波面を傾斜させた平面アンテナの最適設計を行うことが可能になり、高効率の平面アンテナを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態1による平面アンテナ100の一構成例を示した斜視図である。
【図2】図1の平面アンテナ100の要部を拡大して示した平面図である。
【図3】図2のオープンスタブ22Bを用いて交偏波差を抑制する方法についての説明図である。
【図4】図2の放射素子22の指向特性の一例を示した図である。
【図5】比較例となる放射素子の指向特性を示した図である。
【図6】図2の放射素子22におけるスタブ幅と交差偏波識別度との関係を示した図である。
【図7】図2のオープンスタブ22Bの配置の一例を示した図である。
【図8】図2のオープンスタブ22Bの位置と交差偏波識別度との関係を示した図である。
【図9】本実施の形態による平面アンテナ101の一構成例を示した図である。
【図10】本実施の形態による平面アンテナ102の一構成例を示した図である。
【図11】図9の平面アンテナ101の指向特性の一例を示した図である。
【図12】比較例となる平面アンテナの指向特性を示した図である。
【図13】図10の平面アンテナ102の指向特性の一例を示した図である。
【図14】比較例となる平面アンテナの指向特性を示した図である。
【図15】本発明による放射素子22の他の構成例を示した図である。
【図16】本発明による放射素子22の他の構成例を示した図である。
【図17】本発明による放射素子22の更に他の構成例を示した図である。
【図18】本発明の実施の形態2による平面アンテナを構成する放射素子22の一構成例を示した図である。
【図19】図18のC−C切断線による放射素子22の断面図である。
【図20】本発明の実施の形態2による放射素子22の他の構成例を示した図である。
【図21】従来のマイクロストリップアンテナの要部の構成を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
実施の形態1.
<平面アンテナ100の構成>
図1は、本発明の実施の形態1による平面アンテナ100の一構成例を示した斜視図である。この平面アンテナ100は、誘電体基板1の両面に導電層が形成されたマイクロストリップアンテナであり、放射素子22にオープンスタブ22Bを設けることにより、放射素子22による交差偏波の放射を抑制し、交差偏波識別度を向上させている。
【0021】
誘電体基板1は、無機繊維を含むフッ素樹脂からなる基板であり、平板状の略矩形に形成されている。誘電体基板1の前面には、導電性金属箔をエッチング加工することによって形成されたアンテナパターン2及び変換器パターン3が設けられている。また、誘電体基板1の背面には、概ね全面を覆う導電性金属からなる接地板4が設けられ、アンテナパターン2及び接地板4が誘電体基板1を挟んで互いに対向するように配置されている。
【0022】
アンテナパターン2は、略直線状の給電線路21と、当該給電線路21に沿って配置された複数の放射素子22と、給電線路21を屈曲させた開放端に設けられた整合素子23とからなる。
【0023】
給電線路21は、一定幅で延伸させた直線状の細長い形状からなり、その一端に給電点20が形成され、他端には整合素子23が接続されている。また、給電線路21の両側辺に沿って、複数の放射素子22が配設されている。整合素子23は、給電線路21の開放端において残留電力を反射させないように、給電線路21の終端部に接続された周知の素子である。このような構成により、給電点20から給電線路21に供給された高周波は、整合素子23に向かって給電線路21を一方向に伝搬する進行波となる。
【0024】
放射素子22は、給電線路21上を伝搬する進行波により励振され、当該進行波の電力を自由空間へ放射する素子である。つまり、平面アンテナ100は、放射素子22が進行波によって励振される進行波励振アンテナである。当該放射素子22は、略矩形の放射部22Aと、放射部22Aから突出させた細長い形状からなるオープンスタブ22Bとによって構成される。放射部22Aは、主偏波を放射するための周知の放射手段であり、このような放射部22Aに対し、オープンスタブ22Bを設けることによって、偏波面が主偏波と直交する交差偏波の放射を抑制している。
【0025】
また、各放射素子22は、平面アンテナ100が直線偏波のアレイアンテナを構成するように配置されている。すなわち、給電線路21の同じ側辺に沿って形成された各放射素子22は、互いに同じ方向を向き、かつ、波長λgの整数倍の間隔となるように配置されている。また、給電線路21の反対側の側辺に沿って形成された各放射素子22は、互いに逆方向を向き、かつ、波長λg×(2n+1)/2の間隔(nは任意の整数。以下も同様)となるように配置されている。このため、全ての放射素子22からの放射波は、いずれも自由空間において同位相で偏波面の揃った電磁波となり、平面アンテナ100は直線偏波を放射することができる。なお、波長λgは給電線路21を伝搬する進行波の波長であり、平面アンテナ100の設計周波数に相当する波長として予め定められた値である。
【0026】
変換器パターン3は、導波管・マイクロストリップ線路変換器を構成する短絡板であり、誘電体基板1の背面と対向させた導波管(不図示)を終端させている。給電線路21の一端は、この変換器パターン3の切り込み部内に形成されることにより、導波管と電磁気的に結合され、給電点20となる。なお、図1では、導波管・マイクロストリップ線路変換器を備えた平面アンテナ100の例を示したが、他の給電方法を採用することもできる。
【0027】
<放射素子22の詳細>
図2は、図1の平面アンテナ100の要部を拡大して示した平面図である。図2を参照して、放射素子22を構成する放射部22A及びオープンスタブ22Bについて、以下に詳しく説明する。
【0028】
放射部22Aは、素子長La、素子幅Lbを有する略矩形のストリップ片からなり、給電線路21に対し傾けて配置され、その一頂点が給電線路21に接続され、当該頂点を介して給電線路21から給電される。本実施の形態では、放射部22Aの一頂点が、パターンとして給電線路21と連結されているが、放射部22Aは、給電線路21と電磁気的に接続されていればよく、パターンとして連結されていなくてもよい。
【0029】
当該放射部22Aは、素子長Laをλg/2×(2n+1)に略一致させることにより、波長λgの進行波によって励振される。このとき、素子長Laの方向が主偏波方向となるため、放射部22Aを給電線路21に対し傾斜させて配置すれば、主偏波方向を給電線路21に対し傾斜させることができる。本実施の形態では、素子長Laを1.23mmとし、λg/2に略一致させるとともに、素子長Laの方向が給電線路21に対し45°の角度をなすように放射部22Aを傾けて配置することにより、放射素子22の主偏波方向が、給電線路21に対し45°の角度を有している。
【0030】
素子幅Lbは、放射素子22に求められる放射効率に応じて決定される。放射素子22のインピーダンスは、素子幅Lbに応じた値となり、このインピーダンスに応じた励振振幅が得られる。このため、素子幅Lbを制御することにより、放射素子22の放射電力を制御することができる。要するに、素子幅Lbを太くすれば、放射効率を増大させることができ、素子幅Lbを細くすれば、放射効率を低減させることができる。本実施の形態では、素子幅Lbが1.05mmであるものとする。
【0031】
オープンスタブ22Bは、一端が放射部22Aに接続され、他端が開放されたスタブであり、交差偏波方向に延びる細長い略矩形からなる。また、主偏波方向の略中央において、放射部22Aの周縁部と接続される。本実施の形態では、オープンスタブ22Bの一端が、パターンとして放射部22Aと連結されているが、オープンスタブ22Bは、放射部22Aと電磁気的に接続されていればよく、パターンとして連結されていなくてもよい。
【0032】
当該オープンスタブ22Bは、スタブ長Lcをλg/4×(2n+1)に略一致させることにより、放射部22Aによる交差偏波の放射を抑制し、交差偏波識別度を改善している。本実施の形態では、スタブ長Lcを0.62mmとし、λg/4に略一致させている。また、スタブ幅Ldは0.20mmであるものとする。
【0033】
放射部22Aの素子幅Lbがλg/2に比べて十分に小さい値であれば、放射部22Aが放射する交差偏波成分は、主偏波成分に比べて十分に小さく、高い交差偏波識別度が得られる。しかしながら、素子幅Lbがλg/2に近づくと、交差偏波成分の影響を無視することができなくなる。このような場合であっても、スタブ長Lcがλg/4に略一致するオープンスタブ22Bを設けることにより、放射部22A及びオープンスタブ22Bからなる交差偏波方向の共振長をλg×3/4に略一致させることができる。このため、交差偏波成分を抑制することができる。
【0034】
図3は、図2のオープンスタブ22Bを用いて交差偏波を抑制する方法についての説明図である。図中の(b)及び(c)は、(a)に示したLa=Lb=λg/2、Lc=λg/4の放射素子22における電界強度分布を模式的に示した図であり、(b)には、A−A方向の電界強度分布、(c)には、B−B方向の電界強度分布が示されている。いずれも横軸に放射素子22の給電端からの距離、縦軸に電界強度をとって、一次元の電界強度分布が模式的に示されている。
【0035】
素子長Laがλg/2に一致していれば、A−A方向が主偏波方向となる。つまり、放射部22AのA−A方向では、中央が電界定在波の節となり、給電端及び開放端がいずれも電界定在波の腹となる電界強度分布が形成され、主偏波方向を偏波面とする電波が放射される。
【0036】
同様にして、素子幅Lbがλg/2に一致していれば、B−B方向についても、放射部22Aの中央が電界定在波の節となり、両端が電界定在波の腹となる電界分布が形成される。しかしながら、放射部22Aの開放端にスタブ長λg/4のオープンスタブ22Bを追加することにより、給電側から開放端までの距離がλg×3/4となり、開放端に電界定在波の節が現れる。このため、交差偏波方向を偏波面とする電波の放射を抑制することができる。
【0037】
<放射素子22の指向特性>
図4は、図2の放射素子22の指向特性の一例を示した図であり、単体の放射素子22から放射される主偏波及び交差偏波の各利得について、給電線路21の延伸方向に関する指向特性をシミュレーションにより求めた結果が示されている。縦軸の利得は、正面方向における主偏波の利得によって正規化して示されており、横軸の垂直角度は、給電線路21が鉛直方向となるように平面アンテナを配置した場合における上下方向の角度である。また、シミュレーションに用いた放射素子22は、素子長La=1.23mm、素子幅Lb=1.05mm、スタブ長Lc=0.62mmであり、主偏波方向は給電線路21に対し45°の角度を有しているものとする。
【0038】
図5は、比較例となる放射素子の指向特性を示した図であり、図2の放射素子22と比べ、オープンスタブ22Bを有しない点のみが異なる従来の放射素子について、主偏波及び交差偏波の指向特性が、図4と同様に示されている。
【0039】
交差偏波識別度は、主偏波成分及び交差偏波成分の比として与えられる。正面方向における交差偏波識別度は、図4の本実施の形態による放射素子22では24.4dBになっているのに対し、図5の従来の放射素子では11.7dBである。このため、オープンスタブ22Bを設けることにより、交差偏波の放射が抑制され、交差偏波識別度が大幅に改善されていることがわかる。
【0040】
<オープンスタブ22Bの幅>
図6は、図2の放射素子22におけるスタブ幅Ldと交差偏波識別度との関係を示した図であり、単体の放射素子22について、略矩形からなるオープンスタブ22Bのスタブ幅Ldを0.1mm〜1.23mmにした場合における交差偏波識別度をシミュレーションにより求めた結果が示されている。なお、太さ1.23mmの場合、スタブ幅Ldが素子長Laと一致しているため、もはやオープンスタブ22Bを設けた構成とはいえず、従来の放射素子に相当する。
【0041】
0.9mm以下の範囲では、スタブ幅Ldが太くなるのに従って交差偏波識別度も増大するのに対し、0.9mm以上の範囲では、スタブ幅Ldが太くなるのに従って、交差偏波識別度が減少している。つまり、スタブ幅Ldが約0.9mmのときに、交差偏波識別度が極大化する。特に、スタブ幅Ldがλg/4以上かつλg/2未満の範囲において、特に良好な交差偏波識別度が得られることがわかる。
【0042】
ここで、オープンスタブ22Bを設けることなく、交差偏波識別度を改善しようとすれば、放射部22Aの素子幅Lbを広げて3/4λgに略一致させることが考えられる。つまり、図中のスタブ幅Ldが1.23mmの場合に相当する。この場合、スタブ幅0.1mm〜1.2mmのオープンスタブ22Bを設けた場合に比べ、低い交差偏波識別度しか得ることができない。また、放射幅を増大させることにより、放射素子22のインピーダンスが増大し、放射効率を変化させてしまうという問題も生じる。これに対し、オープンスタブ22Bを設ければ、放射素子22のインピーダンスを顕著に変化させることなく、交差偏波成分を抑制することができる。なお、スタブ幅Ldは、オープンスタブ22Bが与える放射素子22のインピーダンスへの影響と、交差偏波識別度への影響とを比較衡量し、放射部22Aの素子長Laよりも短くなるように適宜決定される。
【0043】
<オープンスタブ22Bの配置>
図7は、図2のオープンスタブ22Bの配置の一例を示した図であり、主偏波方向に関するオープンスタブ22Bの位置を異ならせた例が示されている。図中の(a)には、図2と同様、オープンスタブ22Bが、放射部22Aの主偏波方向の中央(基準位置)に配置されている場合が示されている。また、(b)には、基準位置から給電端側に0.2mmシフトさせた位置(+0.2mm)に配置されている場合、(c)には、基準位置から開放端側に0.2mmシフトさせた位置(−0.2mm)に配置されている場合が示されている。ここでは、便宜上、オープンスタブ22Bの位置を基準位置からのシフト量に符号を付して表すものとし、当該符号は、給電端側をプラス、開放端側をマイナスとしている。
【0044】
図8は、図2のオープンスタブ22Bの位置と交差偏波識別度との関係を示した図であり、単体の放射素子22について、図7のように主偏波方向におけるオープンスタブ22Bの位置を異ならせた場合における交差偏波識別度をシミュレーションにより求めた結果が示されている。この結果から、放射部22Aの主偏波方向の略中央に、オープンスタブ22Bを配置すれば、良好な交差偏波識別度が得られることがわかる。
【0045】
放射部22Aにおける主偏波方向の電界強度分布は、図3(b)に示した通り、両端が電界定在波の腹になり、中央が電界定在波の節になる。このため、オープンスタブ22Bを主偏波方向の略中央に配置することによって、交差偏波の放射を効果的に抑制することができると考えられる。
【0046】
<平面アンテナ101,102の特性>
図9及び図10は、本実施の形態による平面アンテナ101,102の一構成例を示した図である。図9の平面アンテナ101は、一対の給電線路21A,21Bを備えたアレイアンテナである。各給電線路21A,21Bは、給電点となる共通の変換器パターン3から互いに反対方向へ延び、その両側辺に沿って多数の放射素子22がそれぞれ形成されている。また、開放端には整合素子23がそれぞれ設けられている。
【0047】
図10の平面アンテナ102は、一対の給電線路群21X,21Yを備えたアレイアンテナである。各給電線路群21X,21Yは、給電点となる共通の変換器パターン3を挟んで配置されている。給電線路群21Xは、互いに平行な複数の給電線路21Aからなり、給電線路群21Yは、互いに平行な複数の給電線路21Bからなる。また、給電線路21Aと給電線路21Bは、互いに反対方向に延びている。つまり、図9の平面アンテナ101における給電線路21A,21Bを複数の給電線路21A,21Bに置き換えた構成を有している。ただし、放射素子22は、各給電線路21A,21Bの一方の側辺にしか形成されていない。
【0048】
図11は、図9の平面アンテナ101の指向特性の一例を示した図であり、平面アンテナ101から放射される主偏波及び交差偏波の各利得について、給電線路21A,21Bの延伸方向に関する指向特性をシミュレーションにより求めた結果が示されている。横軸の垂直角度は、給電線路21A,21Bが鉛直方向となるように平面アンテナ101を配置した場合における上下方向の角度である。この図から、正面方向における平面アンテナ101の交差偏波識別度は27.3dBであることがわかる。
【0049】
図12は、比較例となる平面アンテナの指向特性を示した図であり、図9の平面アンテナ101と比べて、放射素子22がオープンスタブ22Bを有しない点のみが異なる従来の平面アンテナについて、主偏波及び交差偏波の指向特性が、図11と同様に示されている。この図では、正面方向における交差偏波識別度が12.6dBになっている。従って、図11及び図12の交差偏波識別度を比較すれば、図9の平面アンテナ101は、オープンスタブ22Bを設けることによって、交差偏波が抑制され、交差偏波識別度が大幅に改善されていることがわかる。
【0050】
図13は、図10の平面アンテナ102の指向特性の一例を示した図であり、平面アンテナ102から放射される主偏波及び交差偏波の各利得について、給電線路21A,21Bの延伸方向に関する指向特性をシミュレーションにより求めた結果が示されている。横軸の垂直角度は、給電線路21A,21Bが鉛直方向となるように平面アンテナ102を配置した場合における上下方向の角度である。この図から、正面方向における平面アンテナ102の交差偏波識別度が21.0dBであることがわかる。
【0051】
図14は、比較例となる平面アンテナの指向特性を示した図であり、図10の平面アンテナ102と比べて、放射素子22がオープンスタブ22Bを有しない点のみが異なる従来の平面アンテナについて、主偏波及び交差偏波の指向特性が、図13と同様に示されている。この図では、正面方向における交差偏波識別度が16.3dBになっている。従って、図13及び図14の交差偏波識別度を比較すれば、図10の平面アンテナ102でも、オープンスタブ22Bを設けることによって、交差偏波が抑制され、交差偏波識別度が大幅に改善されていることがわかる。
【0052】
本実施の形態による平面アンテナ100〜102は、進行波が伝搬する給電線路21と、進行波により励振される放射素子22とが誘電体基板1上に形成され、放射素子22が、主偏波を放射するための放射部22Aと、放射部22Aから交差偏波方向に延びるオープンスタブ22Bとを有している。この様な構成を採用することにより、放射部22Aの素子幅Lbを変更することなく、放射素子22による交差偏波の放射を抑制し、交差偏波識別度を向上させることができる。従って、交差偏波識別度を顕著に劣化させることなく、所望の素子幅Lbを有する放射素子22を実現することができる。また、このような放射素子22を用いることにより、所望の放射分布を得ることができるので、平面アンテナの最適設計を行うことが可能になり、高効率の平面アンテナを実現することができる。
【0053】
また、本実施の形態による平面アンテナ100〜102は、オープンスタブ22Bのスタブ長Lcをλg/2×(2n+1)に略一致させている。このため、放射部22Aの素子幅Lbが、λg/4×(2n+1)に略一致する場合であっても、素子幅Lb及びスタブ長Lcからなる交差偏波方向の共振長をλg/4×(2n+1)に略一致させ、交差偏波を抑制することができる。このため、放射部22Aの素子幅Lbを変更することなく、所定の交差偏波識別度を確保することができる。
【0054】
なお、本実施の形態では、オープンスタブ22Bが略矩形からなる場合の例について説明したが、本発明はこの様な場合のみに限定されない。すなわち、交差偏波方向に所定のスタブ長Lcを有していれば、その形状は略矩形でなくてもよい。図15は、本発明による放射素子22の他の構成例を示した図である。図中の放射素子22は、略三角形のオープンスタブ22Bを備えているが、このような構成であっても、略矩形のオープンスタブ22Bを備えている場合の同様の効果を得ることができる。
【0055】
また、本実施の形態では、放射部22Aの交差偏波方向の開放端にオープンスタブ22Bを設ける場合の例について説明したが、本発明はこの様な場合のみに限定されない。すなわち、交差偏波方向の給電端にオープンスタブ22Bを設けることもできる。また、交差偏波方向の開放端及び給電端の両方にオープンスタブ22Bを設けることもできる。図16は、本発明による放射素子22の他の構成例を示した図である。図中の放射素子22は、交差偏波方向において放射部22Aを挟んで一対のオープンスタブ22Bが形成され、給電端に設けられたオープンスタブ22Bは、給電線路21から離間して形成されている。図17は、本発明による放射素子22の更に他の構成例を示した図である。図中の放射素子22は、図16の場合と同様、放射部22Aを挟んで一対のオープンスタブ22Bが形成されているが、給電端側のオープンスタブ22Bのスタブ長が、図16の場合よりも長い。このため、オープンスタブ22Bが給電線路21に接続されないように、給電線路21を屈曲させ、両者を離間させている。図16及び図17のような構成であっても、2つのオープンスタブ22Bの交差偏波方向の長さの和がλg/4×(2n+1)を満たしていれば、同様の効果を得ることができる。
【0056】
また、本実施の形態では、オープンスタブ22Bのスタブ長Lcをλg/4×(2n+1)と略一致させる場合の例について説明した。このような構成を採用することにより、放射部22Aの素子幅Lbにかかわらず、交差偏波を抑制することができる。しかしながら、本発明は、この様な場合のみに限定されない。例えば、素子幅Lb及びスタブ長Lcからなる交差偏波方向の長さがλg/4×(2n+1)と略一致するように、オープンスタブ22Bの長さを定めることもできる。つまり、素子幅Lbに応じて、スタブ長Lcを定めることもできる。
【0057】
また、上記実施の形態では、平面アンテナ100〜102を構成する全ての放射素子22がオープンスタブ22Bを備えている場合の例について説明したが、本発明は、このような場合のみに限定されない。例えば、互いに素子幅Lbが異なる放射素子22が形成されている平面アンテナの場合、素子幅Lbがλ/2×(2n+1)に近いために、交差偏波を放射しやすい一部の放射素子22のみに対し、オープンスタブ22Bを設けることもできる。
【0058】
実施の形態2.
実施の形態1では、交差偏波方向に延びるオープンスタブ22Bを有する放射素子22を用いることにより、交差偏波を抑制する平面アンテナ100〜102について説明した。これに対し、本実施の形態では、交差偏波方向の一端にショートスタブ22Cを有する放射素子22を用いることにより、交差偏波を抑制する平面アンテナについて説明する。
【0059】
図18は、本発明の実施の形態2による平面アンテナを構成する放射素子22の一構成例を示した図である。また、図19は、図18のC−C切断線による放射素子22の断面図である。本実施の形態による放射素子22は、図2の放射素子と比較すれば、オープンスタブ22Bに代えて、ショートスタブ22Cが設けられている点で異なる。
【0060】
この放射素子22は、略矩形の放射部22Aと、放射部22Aの周縁部に形成されたショートスタブ22Cとにより構成される。放射部22Aは、図2に示したものと同様であるため、重複する説明を省略する。ショートスタブ22Cは、放射部22Aの交差偏波方向の一端であって、主偏波方向の略中央に形成されたスルーホールからなる。このスルーホールは、誘電体基板1に形成された貫通孔に導電性材金属を充填することにより形成され、放射部22Aと、誘電体基板1の背面に形成された接地板4とを電気的に導通させている。
【0061】
放射素子22の交差偏波方向の一端にショートスタブ22Cを形成すれば、当該一端の電界強度は接地レベルに固定される。このため、放射素子22における交差偏波方向の電界強度分布は、一端が常に電界定在波の節となるような分布となり、交差偏波の放射を抑制することができる。なお、ショートスタブ22Cが、主偏波の放射に悪影響を与えないようにするためには、ショートスタブ22Cが、放射素子22の主偏波方向の略中央に配置されている必要がある。
【0062】
図20は、本発明の実施の形態2による放射素子22の他の構成例を示した図である。この放射素子22は、実施の形態1の場合と同様にして、放射部22Aから交差偏波方向に延びるスタブが形成され、当該スタブの先端にショートスタブ22Cが形成されている。
【0063】
ショートスタブ22Cを用いて交差偏波の放射を抑制するためには、ショートスタブ22Cが、放射素子22の交差偏波方向の一端に形成され、放射素子22の交差偏波方向における電界強度分布の一端が電界定在波の節になっていればよい。このため、実施の形態1の場合と同様にして、放射部22Aから交差偏波方向に延びるスタブを形成し、その開放端にショートスタブ22Cを設けても、同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0064】
100〜102 平面アンテナ
1 誘電体基板
2 アンテナパターン
3 変換器パターン
4 接地板
20 給電点
21,21A,21B 給電線路
21X,21Y 給電線路群
22 放射素子
22A 放射部
22B オープンスタブ
22C ショートスタブ
23 整合素子
La 素子長
Lc スタブ長
Ld スタブ幅
λg 波長
【技術分野】
【0001】
本発明は、進行波励振アンテナ及び平面アンテナに係り、更に詳しくは、給電線路を伝搬する進行波により励振される放射素子を備えた進行波励振アンテナ、例えば、マイクロ波やミリ波を送受信するマイクロストリップアンテナなどの平面アンテナの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の周辺環境を監視するための車載レーダとして、ミリ波レーダが実用化されつつある。ミリ波レーダは、レーダ信号として波長1〜10mmのミリ波を用いており、比較的分解能の高いレーダ装置を実現することができる。また、ミリ波レーダは、送受信アンテナとして、装置の小型軽量化が容易であり、コスト低減効果も大きいマイクロストリップアンテナを採用することができる。このような事情から、車載用ミリ波レーダに用いられるマイクロストリップアンテナについて、種々の提案がなされている(例えば、特許文献1)。
【0003】
図21は、従来の平面アンテナ103の一構成例を示した図である。この平面アンテナ103は、進行波を伝搬させる直線状の給電線路21と、当該進行波によって励振される略矩形の放射素子22Pとが、誘電体基板上に形成されたミリ波用のマイクロストリップアンテナである。放射素子22Pは、素子長Laをλg/2(λgは進行波の波長)に略一致させるとともに、素子長Laの方向が、給電線路21に対し、傾くように配置している。例えば、偏波面が給電線路21に対し45°傾いた直線偏波を放射することができる。
【0004】
しかしながら、この平面アンテナ103では、放射素子22Pの一頂点が給電線路21に接続され、当該頂点を介して給電されるため、素子幅Lbがλg/2に近づくと、縮退モードが発生するという問題があった。すなわち、素子幅Lbがλg/2に近づくと、素子長Laの方向を偏波面とする主偏波だけでなく、素子幅Lbの方向を偏波面とする交差偏波も放射されるようになる。このため、平面アンテナ103からの放射波は、主偏波及び交差偏波の合成波となり、その偏波面は素子長Laの方向と一致しなくなるという問題があった。
【0005】
そこで、素子幅Lbをλg/2から遠ざけることにより、この様な縮退モードの発生を抑制することが考えられる。例えば、素子幅Lbをλg/2よりも十分に小さい値にすれば、交差偏波成分は無視することができる。しかしながら、放射素子22Pによる放射電力は、給電線路21及び放射素子22Pのインピーダンス比で決まり、放射素子22Pのインピーダンスは、素子幅Lbで決まる。このため、交差偏波を抑制するために素子幅Lbを変更すれば、それに応じて、放射素子22Pの放射電力も変化し、所望の放射分布を得ることができなくなるため、マイクロストリップアンテナの最適設計を行うことが難しいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−44752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、進行波励振アンテナによる交差偏波の放射を抑制し、進行波励振アンテナの交差偏波識別度を向上させることを目的とする。特に、放射素子の素子幅を変更することなく、交差偏波の放射を抑制することができる進行波励振アンテナを提供することを目的とする。また、高効率の進行波励振アンテナを提供することを目的とする。
【0008】
また、給電線路に対し主偏波方向を傾斜させた平面アンテナにおいて、交差偏波の放射を抑制し、進行波励振アンテナの交差偏波識別度を向上させることを目的とする。特に、放射素子の素子幅を変更することなく、交差偏波の放射を抑制することができる平面アンテナを提供することを目的とする。また、高効率の平面アンテナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の本発明による進行波励振アンテナは、進行波が伝搬する給電線路と、上記進行波により励振される放射素子とが誘電体基板上に形成され、上記放射素子は、主偏波を放射するための放射部と、上記放射部から交差偏波方向に延びるオープンスタブとを有する。
【0010】
この様な構成により、放射部の素子幅、つまり、交差偏波方向の長さを変更することなく、放射素子による交差偏波の放射を抑制し、交差偏波識別度を向上させることができる。従って、交差偏波識別度を顕著に劣化させることなく、所望の素子幅を有する放射素子を実現することができる。このような放射素子を用いることにより、進行波励振アンテナの最適設計を行うことが可能になり、高効率の進行波励振アンテナを実現することができる。
【0011】
第2の本発明による進行波励振アンテナは、上記構成に加えて、上記オープンスタブが、上記進行波の(2n+1)/4波長(nは整数)に略一致するスタブ長を有する。一般に、放射部の素子幅が進行波の(2n+1)/2波長に近づけば、放射素子から交差偏波が放射され易くなる。この様な場合であっても、オープンスタブのスタブ長を(2n+1)/4波長にすれば、素子幅及びスタブ長からなる交差偏波方向の共振長を(2n+1)/4波長に略一致させ、交差偏波を抑制することができる。つまり、交差偏波が放射され易い条件下において、交差偏波の放射を効果的に抑制することができる。このため、放射部の素子幅にかかわらず、所定の交差偏波識別度を確保することができる。
【0012】
第3の本発明による進行波励振アンテナは、上記構成に加えて、上記オープンスタブが、上記放射部の主偏波方向の略中央に配置されている。放射素子は、主偏波方向の略中央に電界定在波の節が現れ、電界強度が最も小さくなる。このため、オープンスタブを主偏波方向の略中央に配置することにより、交差偏波の放射を効果的に抑制し、交差偏波識別度を向上させることができる。
【0013】
第4の本発明による平面アンテナは、給電点が形成された誘電体基板と、上記誘電体基板上に形成され、一端が上記給電点に接続された略直線状のマイクロストリップ線路からなる給電線路と、上記給電線路を伝搬する進行波により励振される放射素子とを備えた平面アンテナにおいて、上記放射素子は、主偏波方向が上記給電線路に対して角度を有し、その一頂点から給電される略矩形のストリップ片からなる放射部と、上記放射部から交差偏波方向へ延びるストリップ片からなるオープンスタブとを有する。
【0014】
この様な構成により、放射部の素子幅を変更することなく、放射素子による交差偏波の放射を抑制し、交差偏波識別度を向上させることができる。従って、このような放射素子を用いることにより、給電線路に対し主偏波の偏波面を傾斜させた平面アンテナの最適設計を行うことが可能になり、高効率の平面アンテナを実現することができる。
【0015】
第5の本発明による平面アンテナは、上記構成に加えて、上記放射素子が、上記進行波の(2n+1)/2波長(nは整数)に略一致する素子長を有し、上記オープンスタブは、上記進行波の略(2m+1)/4波長(mは整数)に略一致するスタブ長を有する。
【発明の効果】
【0016】
本発明による進行波励振アンテナは、進行波により励振される放射素子が、主偏波を放射する放射部と、交差偏波方向に延びるオープンスタブを有する。このため、オープンスタブにより、交差偏波の放射を抑制することができる。このため、放射部の素子幅を変更することなく、放射素子による交差偏波の放射を抑制することができる。このような放射素子を用いることにより、進行波励振アンテナの最適設計を行うことが可能になり、高効率の進行波励振アンテナを実現することができる。
【0017】
特に、オープンスタブのスタブ長を進行波の(2n+1)/4波長に略一致させることにより、放射部の素子幅にかかわらず、所定の交差偏波識別度を確保することができる。
【0018】
また、本発明による平面アンテナは、放射素子が、主偏波方向が上記給電線路に対して角度を有し、その一頂点から給電される略矩形のストリップ片からなる放射部と、上記放射部から交差偏波方向へ延びるストリップ片からなるオープンスタブとを有する。このため、放射部の素子幅を変更することなく、放射素子による交差偏波の放射を抑制し、交差偏波識別度を向上させることができる。従って、このような放射素子を用いることにより、給電線路に対し主偏波の偏波面を傾斜させた平面アンテナの最適設計を行うことが可能になり、高効率の平面アンテナを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態1による平面アンテナ100の一構成例を示した斜視図である。
【図2】図1の平面アンテナ100の要部を拡大して示した平面図である。
【図3】図2のオープンスタブ22Bを用いて交偏波差を抑制する方法についての説明図である。
【図4】図2の放射素子22の指向特性の一例を示した図である。
【図5】比較例となる放射素子の指向特性を示した図である。
【図6】図2の放射素子22におけるスタブ幅と交差偏波識別度との関係を示した図である。
【図7】図2のオープンスタブ22Bの配置の一例を示した図である。
【図8】図2のオープンスタブ22Bの位置と交差偏波識別度との関係を示した図である。
【図9】本実施の形態による平面アンテナ101の一構成例を示した図である。
【図10】本実施の形態による平面アンテナ102の一構成例を示した図である。
【図11】図9の平面アンテナ101の指向特性の一例を示した図である。
【図12】比較例となる平面アンテナの指向特性を示した図である。
【図13】図10の平面アンテナ102の指向特性の一例を示した図である。
【図14】比較例となる平面アンテナの指向特性を示した図である。
【図15】本発明による放射素子22の他の構成例を示した図である。
【図16】本発明による放射素子22の他の構成例を示した図である。
【図17】本発明による放射素子22の更に他の構成例を示した図である。
【図18】本発明の実施の形態2による平面アンテナを構成する放射素子22の一構成例を示した図である。
【図19】図18のC−C切断線による放射素子22の断面図である。
【図20】本発明の実施の形態2による放射素子22の他の構成例を示した図である。
【図21】従来のマイクロストリップアンテナの要部の構成を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
実施の形態1.
<平面アンテナ100の構成>
図1は、本発明の実施の形態1による平面アンテナ100の一構成例を示した斜視図である。この平面アンテナ100は、誘電体基板1の両面に導電層が形成されたマイクロストリップアンテナであり、放射素子22にオープンスタブ22Bを設けることにより、放射素子22による交差偏波の放射を抑制し、交差偏波識別度を向上させている。
【0021】
誘電体基板1は、無機繊維を含むフッ素樹脂からなる基板であり、平板状の略矩形に形成されている。誘電体基板1の前面には、導電性金属箔をエッチング加工することによって形成されたアンテナパターン2及び変換器パターン3が設けられている。また、誘電体基板1の背面には、概ね全面を覆う導電性金属からなる接地板4が設けられ、アンテナパターン2及び接地板4が誘電体基板1を挟んで互いに対向するように配置されている。
【0022】
アンテナパターン2は、略直線状の給電線路21と、当該給電線路21に沿って配置された複数の放射素子22と、給電線路21を屈曲させた開放端に設けられた整合素子23とからなる。
【0023】
給電線路21は、一定幅で延伸させた直線状の細長い形状からなり、その一端に給電点20が形成され、他端には整合素子23が接続されている。また、給電線路21の両側辺に沿って、複数の放射素子22が配設されている。整合素子23は、給電線路21の開放端において残留電力を反射させないように、給電線路21の終端部に接続された周知の素子である。このような構成により、給電点20から給電線路21に供給された高周波は、整合素子23に向かって給電線路21を一方向に伝搬する進行波となる。
【0024】
放射素子22は、給電線路21上を伝搬する進行波により励振され、当該進行波の電力を自由空間へ放射する素子である。つまり、平面アンテナ100は、放射素子22が進行波によって励振される進行波励振アンテナである。当該放射素子22は、略矩形の放射部22Aと、放射部22Aから突出させた細長い形状からなるオープンスタブ22Bとによって構成される。放射部22Aは、主偏波を放射するための周知の放射手段であり、このような放射部22Aに対し、オープンスタブ22Bを設けることによって、偏波面が主偏波と直交する交差偏波の放射を抑制している。
【0025】
また、各放射素子22は、平面アンテナ100が直線偏波のアレイアンテナを構成するように配置されている。すなわち、給電線路21の同じ側辺に沿って形成された各放射素子22は、互いに同じ方向を向き、かつ、波長λgの整数倍の間隔となるように配置されている。また、給電線路21の反対側の側辺に沿って形成された各放射素子22は、互いに逆方向を向き、かつ、波長λg×(2n+1)/2の間隔(nは任意の整数。以下も同様)となるように配置されている。このため、全ての放射素子22からの放射波は、いずれも自由空間において同位相で偏波面の揃った電磁波となり、平面アンテナ100は直線偏波を放射することができる。なお、波長λgは給電線路21を伝搬する進行波の波長であり、平面アンテナ100の設計周波数に相当する波長として予め定められた値である。
【0026】
変換器パターン3は、導波管・マイクロストリップ線路変換器を構成する短絡板であり、誘電体基板1の背面と対向させた導波管(不図示)を終端させている。給電線路21の一端は、この変換器パターン3の切り込み部内に形成されることにより、導波管と電磁気的に結合され、給電点20となる。なお、図1では、導波管・マイクロストリップ線路変換器を備えた平面アンテナ100の例を示したが、他の給電方法を採用することもできる。
【0027】
<放射素子22の詳細>
図2は、図1の平面アンテナ100の要部を拡大して示した平面図である。図2を参照して、放射素子22を構成する放射部22A及びオープンスタブ22Bについて、以下に詳しく説明する。
【0028】
放射部22Aは、素子長La、素子幅Lbを有する略矩形のストリップ片からなり、給電線路21に対し傾けて配置され、その一頂点が給電線路21に接続され、当該頂点を介して給電線路21から給電される。本実施の形態では、放射部22Aの一頂点が、パターンとして給電線路21と連結されているが、放射部22Aは、給電線路21と電磁気的に接続されていればよく、パターンとして連結されていなくてもよい。
【0029】
当該放射部22Aは、素子長Laをλg/2×(2n+1)に略一致させることにより、波長λgの進行波によって励振される。このとき、素子長Laの方向が主偏波方向となるため、放射部22Aを給電線路21に対し傾斜させて配置すれば、主偏波方向を給電線路21に対し傾斜させることができる。本実施の形態では、素子長Laを1.23mmとし、λg/2に略一致させるとともに、素子長Laの方向が給電線路21に対し45°の角度をなすように放射部22Aを傾けて配置することにより、放射素子22の主偏波方向が、給電線路21に対し45°の角度を有している。
【0030】
素子幅Lbは、放射素子22に求められる放射効率に応じて決定される。放射素子22のインピーダンスは、素子幅Lbに応じた値となり、このインピーダンスに応じた励振振幅が得られる。このため、素子幅Lbを制御することにより、放射素子22の放射電力を制御することができる。要するに、素子幅Lbを太くすれば、放射効率を増大させることができ、素子幅Lbを細くすれば、放射効率を低減させることができる。本実施の形態では、素子幅Lbが1.05mmであるものとする。
【0031】
オープンスタブ22Bは、一端が放射部22Aに接続され、他端が開放されたスタブであり、交差偏波方向に延びる細長い略矩形からなる。また、主偏波方向の略中央において、放射部22Aの周縁部と接続される。本実施の形態では、オープンスタブ22Bの一端が、パターンとして放射部22Aと連結されているが、オープンスタブ22Bは、放射部22Aと電磁気的に接続されていればよく、パターンとして連結されていなくてもよい。
【0032】
当該オープンスタブ22Bは、スタブ長Lcをλg/4×(2n+1)に略一致させることにより、放射部22Aによる交差偏波の放射を抑制し、交差偏波識別度を改善している。本実施の形態では、スタブ長Lcを0.62mmとし、λg/4に略一致させている。また、スタブ幅Ldは0.20mmであるものとする。
【0033】
放射部22Aの素子幅Lbがλg/2に比べて十分に小さい値であれば、放射部22Aが放射する交差偏波成分は、主偏波成分に比べて十分に小さく、高い交差偏波識別度が得られる。しかしながら、素子幅Lbがλg/2に近づくと、交差偏波成分の影響を無視することができなくなる。このような場合であっても、スタブ長Lcがλg/4に略一致するオープンスタブ22Bを設けることにより、放射部22A及びオープンスタブ22Bからなる交差偏波方向の共振長をλg×3/4に略一致させることができる。このため、交差偏波成分を抑制することができる。
【0034】
図3は、図2のオープンスタブ22Bを用いて交差偏波を抑制する方法についての説明図である。図中の(b)及び(c)は、(a)に示したLa=Lb=λg/2、Lc=λg/4の放射素子22における電界強度分布を模式的に示した図であり、(b)には、A−A方向の電界強度分布、(c)には、B−B方向の電界強度分布が示されている。いずれも横軸に放射素子22の給電端からの距離、縦軸に電界強度をとって、一次元の電界強度分布が模式的に示されている。
【0035】
素子長Laがλg/2に一致していれば、A−A方向が主偏波方向となる。つまり、放射部22AのA−A方向では、中央が電界定在波の節となり、給電端及び開放端がいずれも電界定在波の腹となる電界強度分布が形成され、主偏波方向を偏波面とする電波が放射される。
【0036】
同様にして、素子幅Lbがλg/2に一致していれば、B−B方向についても、放射部22Aの中央が電界定在波の節となり、両端が電界定在波の腹となる電界分布が形成される。しかしながら、放射部22Aの開放端にスタブ長λg/4のオープンスタブ22Bを追加することにより、給電側から開放端までの距離がλg×3/4となり、開放端に電界定在波の節が現れる。このため、交差偏波方向を偏波面とする電波の放射を抑制することができる。
【0037】
<放射素子22の指向特性>
図4は、図2の放射素子22の指向特性の一例を示した図であり、単体の放射素子22から放射される主偏波及び交差偏波の各利得について、給電線路21の延伸方向に関する指向特性をシミュレーションにより求めた結果が示されている。縦軸の利得は、正面方向における主偏波の利得によって正規化して示されており、横軸の垂直角度は、給電線路21が鉛直方向となるように平面アンテナを配置した場合における上下方向の角度である。また、シミュレーションに用いた放射素子22は、素子長La=1.23mm、素子幅Lb=1.05mm、スタブ長Lc=0.62mmであり、主偏波方向は給電線路21に対し45°の角度を有しているものとする。
【0038】
図5は、比較例となる放射素子の指向特性を示した図であり、図2の放射素子22と比べ、オープンスタブ22Bを有しない点のみが異なる従来の放射素子について、主偏波及び交差偏波の指向特性が、図4と同様に示されている。
【0039】
交差偏波識別度は、主偏波成分及び交差偏波成分の比として与えられる。正面方向における交差偏波識別度は、図4の本実施の形態による放射素子22では24.4dBになっているのに対し、図5の従来の放射素子では11.7dBである。このため、オープンスタブ22Bを設けることにより、交差偏波の放射が抑制され、交差偏波識別度が大幅に改善されていることがわかる。
【0040】
<オープンスタブ22Bの幅>
図6は、図2の放射素子22におけるスタブ幅Ldと交差偏波識別度との関係を示した図であり、単体の放射素子22について、略矩形からなるオープンスタブ22Bのスタブ幅Ldを0.1mm〜1.23mmにした場合における交差偏波識別度をシミュレーションにより求めた結果が示されている。なお、太さ1.23mmの場合、スタブ幅Ldが素子長Laと一致しているため、もはやオープンスタブ22Bを設けた構成とはいえず、従来の放射素子に相当する。
【0041】
0.9mm以下の範囲では、スタブ幅Ldが太くなるのに従って交差偏波識別度も増大するのに対し、0.9mm以上の範囲では、スタブ幅Ldが太くなるのに従って、交差偏波識別度が減少している。つまり、スタブ幅Ldが約0.9mmのときに、交差偏波識別度が極大化する。特に、スタブ幅Ldがλg/4以上かつλg/2未満の範囲において、特に良好な交差偏波識別度が得られることがわかる。
【0042】
ここで、オープンスタブ22Bを設けることなく、交差偏波識別度を改善しようとすれば、放射部22Aの素子幅Lbを広げて3/4λgに略一致させることが考えられる。つまり、図中のスタブ幅Ldが1.23mmの場合に相当する。この場合、スタブ幅0.1mm〜1.2mmのオープンスタブ22Bを設けた場合に比べ、低い交差偏波識別度しか得ることができない。また、放射幅を増大させることにより、放射素子22のインピーダンスが増大し、放射効率を変化させてしまうという問題も生じる。これに対し、オープンスタブ22Bを設ければ、放射素子22のインピーダンスを顕著に変化させることなく、交差偏波成分を抑制することができる。なお、スタブ幅Ldは、オープンスタブ22Bが与える放射素子22のインピーダンスへの影響と、交差偏波識別度への影響とを比較衡量し、放射部22Aの素子長Laよりも短くなるように適宜決定される。
【0043】
<オープンスタブ22Bの配置>
図7は、図2のオープンスタブ22Bの配置の一例を示した図であり、主偏波方向に関するオープンスタブ22Bの位置を異ならせた例が示されている。図中の(a)には、図2と同様、オープンスタブ22Bが、放射部22Aの主偏波方向の中央(基準位置)に配置されている場合が示されている。また、(b)には、基準位置から給電端側に0.2mmシフトさせた位置(+0.2mm)に配置されている場合、(c)には、基準位置から開放端側に0.2mmシフトさせた位置(−0.2mm)に配置されている場合が示されている。ここでは、便宜上、オープンスタブ22Bの位置を基準位置からのシフト量に符号を付して表すものとし、当該符号は、給電端側をプラス、開放端側をマイナスとしている。
【0044】
図8は、図2のオープンスタブ22Bの位置と交差偏波識別度との関係を示した図であり、単体の放射素子22について、図7のように主偏波方向におけるオープンスタブ22Bの位置を異ならせた場合における交差偏波識別度をシミュレーションにより求めた結果が示されている。この結果から、放射部22Aの主偏波方向の略中央に、オープンスタブ22Bを配置すれば、良好な交差偏波識別度が得られることがわかる。
【0045】
放射部22Aにおける主偏波方向の電界強度分布は、図3(b)に示した通り、両端が電界定在波の腹になり、中央が電界定在波の節になる。このため、オープンスタブ22Bを主偏波方向の略中央に配置することによって、交差偏波の放射を効果的に抑制することができると考えられる。
【0046】
<平面アンテナ101,102の特性>
図9及び図10は、本実施の形態による平面アンテナ101,102の一構成例を示した図である。図9の平面アンテナ101は、一対の給電線路21A,21Bを備えたアレイアンテナである。各給電線路21A,21Bは、給電点となる共通の変換器パターン3から互いに反対方向へ延び、その両側辺に沿って多数の放射素子22がそれぞれ形成されている。また、開放端には整合素子23がそれぞれ設けられている。
【0047】
図10の平面アンテナ102は、一対の給電線路群21X,21Yを備えたアレイアンテナである。各給電線路群21X,21Yは、給電点となる共通の変換器パターン3を挟んで配置されている。給電線路群21Xは、互いに平行な複数の給電線路21Aからなり、給電線路群21Yは、互いに平行な複数の給電線路21Bからなる。また、給電線路21Aと給電線路21Bは、互いに反対方向に延びている。つまり、図9の平面アンテナ101における給電線路21A,21Bを複数の給電線路21A,21Bに置き換えた構成を有している。ただし、放射素子22は、各給電線路21A,21Bの一方の側辺にしか形成されていない。
【0048】
図11は、図9の平面アンテナ101の指向特性の一例を示した図であり、平面アンテナ101から放射される主偏波及び交差偏波の各利得について、給電線路21A,21Bの延伸方向に関する指向特性をシミュレーションにより求めた結果が示されている。横軸の垂直角度は、給電線路21A,21Bが鉛直方向となるように平面アンテナ101を配置した場合における上下方向の角度である。この図から、正面方向における平面アンテナ101の交差偏波識別度は27.3dBであることがわかる。
【0049】
図12は、比較例となる平面アンテナの指向特性を示した図であり、図9の平面アンテナ101と比べて、放射素子22がオープンスタブ22Bを有しない点のみが異なる従来の平面アンテナについて、主偏波及び交差偏波の指向特性が、図11と同様に示されている。この図では、正面方向における交差偏波識別度が12.6dBになっている。従って、図11及び図12の交差偏波識別度を比較すれば、図9の平面アンテナ101は、オープンスタブ22Bを設けることによって、交差偏波が抑制され、交差偏波識別度が大幅に改善されていることがわかる。
【0050】
図13は、図10の平面アンテナ102の指向特性の一例を示した図であり、平面アンテナ102から放射される主偏波及び交差偏波の各利得について、給電線路21A,21Bの延伸方向に関する指向特性をシミュレーションにより求めた結果が示されている。横軸の垂直角度は、給電線路21A,21Bが鉛直方向となるように平面アンテナ102を配置した場合における上下方向の角度である。この図から、正面方向における平面アンテナ102の交差偏波識別度が21.0dBであることがわかる。
【0051】
図14は、比較例となる平面アンテナの指向特性を示した図であり、図10の平面アンテナ102と比べて、放射素子22がオープンスタブ22Bを有しない点のみが異なる従来の平面アンテナについて、主偏波及び交差偏波の指向特性が、図13と同様に示されている。この図では、正面方向における交差偏波識別度が16.3dBになっている。従って、図13及び図14の交差偏波識別度を比較すれば、図10の平面アンテナ102でも、オープンスタブ22Bを設けることによって、交差偏波が抑制され、交差偏波識別度が大幅に改善されていることがわかる。
【0052】
本実施の形態による平面アンテナ100〜102は、進行波が伝搬する給電線路21と、進行波により励振される放射素子22とが誘電体基板1上に形成され、放射素子22が、主偏波を放射するための放射部22Aと、放射部22Aから交差偏波方向に延びるオープンスタブ22Bとを有している。この様な構成を採用することにより、放射部22Aの素子幅Lbを変更することなく、放射素子22による交差偏波の放射を抑制し、交差偏波識別度を向上させることができる。従って、交差偏波識別度を顕著に劣化させることなく、所望の素子幅Lbを有する放射素子22を実現することができる。また、このような放射素子22を用いることにより、所望の放射分布を得ることができるので、平面アンテナの最適設計を行うことが可能になり、高効率の平面アンテナを実現することができる。
【0053】
また、本実施の形態による平面アンテナ100〜102は、オープンスタブ22Bのスタブ長Lcをλg/2×(2n+1)に略一致させている。このため、放射部22Aの素子幅Lbが、λg/4×(2n+1)に略一致する場合であっても、素子幅Lb及びスタブ長Lcからなる交差偏波方向の共振長をλg/4×(2n+1)に略一致させ、交差偏波を抑制することができる。このため、放射部22Aの素子幅Lbを変更することなく、所定の交差偏波識別度を確保することができる。
【0054】
なお、本実施の形態では、オープンスタブ22Bが略矩形からなる場合の例について説明したが、本発明はこの様な場合のみに限定されない。すなわち、交差偏波方向に所定のスタブ長Lcを有していれば、その形状は略矩形でなくてもよい。図15は、本発明による放射素子22の他の構成例を示した図である。図中の放射素子22は、略三角形のオープンスタブ22Bを備えているが、このような構成であっても、略矩形のオープンスタブ22Bを備えている場合の同様の効果を得ることができる。
【0055】
また、本実施の形態では、放射部22Aの交差偏波方向の開放端にオープンスタブ22Bを設ける場合の例について説明したが、本発明はこの様な場合のみに限定されない。すなわち、交差偏波方向の給電端にオープンスタブ22Bを設けることもできる。また、交差偏波方向の開放端及び給電端の両方にオープンスタブ22Bを設けることもできる。図16は、本発明による放射素子22の他の構成例を示した図である。図中の放射素子22は、交差偏波方向において放射部22Aを挟んで一対のオープンスタブ22Bが形成され、給電端に設けられたオープンスタブ22Bは、給電線路21から離間して形成されている。図17は、本発明による放射素子22の更に他の構成例を示した図である。図中の放射素子22は、図16の場合と同様、放射部22Aを挟んで一対のオープンスタブ22Bが形成されているが、給電端側のオープンスタブ22Bのスタブ長が、図16の場合よりも長い。このため、オープンスタブ22Bが給電線路21に接続されないように、給電線路21を屈曲させ、両者を離間させている。図16及び図17のような構成であっても、2つのオープンスタブ22Bの交差偏波方向の長さの和がλg/4×(2n+1)を満たしていれば、同様の効果を得ることができる。
【0056】
また、本実施の形態では、オープンスタブ22Bのスタブ長Lcをλg/4×(2n+1)と略一致させる場合の例について説明した。このような構成を採用することにより、放射部22Aの素子幅Lbにかかわらず、交差偏波を抑制することができる。しかしながら、本発明は、この様な場合のみに限定されない。例えば、素子幅Lb及びスタブ長Lcからなる交差偏波方向の長さがλg/4×(2n+1)と略一致するように、オープンスタブ22Bの長さを定めることもできる。つまり、素子幅Lbに応じて、スタブ長Lcを定めることもできる。
【0057】
また、上記実施の形態では、平面アンテナ100〜102を構成する全ての放射素子22がオープンスタブ22Bを備えている場合の例について説明したが、本発明は、このような場合のみに限定されない。例えば、互いに素子幅Lbが異なる放射素子22が形成されている平面アンテナの場合、素子幅Lbがλ/2×(2n+1)に近いために、交差偏波を放射しやすい一部の放射素子22のみに対し、オープンスタブ22Bを設けることもできる。
【0058】
実施の形態2.
実施の形態1では、交差偏波方向に延びるオープンスタブ22Bを有する放射素子22を用いることにより、交差偏波を抑制する平面アンテナ100〜102について説明した。これに対し、本実施の形態では、交差偏波方向の一端にショートスタブ22Cを有する放射素子22を用いることにより、交差偏波を抑制する平面アンテナについて説明する。
【0059】
図18は、本発明の実施の形態2による平面アンテナを構成する放射素子22の一構成例を示した図である。また、図19は、図18のC−C切断線による放射素子22の断面図である。本実施の形態による放射素子22は、図2の放射素子と比較すれば、オープンスタブ22Bに代えて、ショートスタブ22Cが設けられている点で異なる。
【0060】
この放射素子22は、略矩形の放射部22Aと、放射部22Aの周縁部に形成されたショートスタブ22Cとにより構成される。放射部22Aは、図2に示したものと同様であるため、重複する説明を省略する。ショートスタブ22Cは、放射部22Aの交差偏波方向の一端であって、主偏波方向の略中央に形成されたスルーホールからなる。このスルーホールは、誘電体基板1に形成された貫通孔に導電性材金属を充填することにより形成され、放射部22Aと、誘電体基板1の背面に形成された接地板4とを電気的に導通させている。
【0061】
放射素子22の交差偏波方向の一端にショートスタブ22Cを形成すれば、当該一端の電界強度は接地レベルに固定される。このため、放射素子22における交差偏波方向の電界強度分布は、一端が常に電界定在波の節となるような分布となり、交差偏波の放射を抑制することができる。なお、ショートスタブ22Cが、主偏波の放射に悪影響を与えないようにするためには、ショートスタブ22Cが、放射素子22の主偏波方向の略中央に配置されている必要がある。
【0062】
図20は、本発明の実施の形態2による放射素子22の他の構成例を示した図である。この放射素子22は、実施の形態1の場合と同様にして、放射部22Aから交差偏波方向に延びるスタブが形成され、当該スタブの先端にショートスタブ22Cが形成されている。
【0063】
ショートスタブ22Cを用いて交差偏波の放射を抑制するためには、ショートスタブ22Cが、放射素子22の交差偏波方向の一端に形成され、放射素子22の交差偏波方向における電界強度分布の一端が電界定在波の節になっていればよい。このため、実施の形態1の場合と同様にして、放射部22Aから交差偏波方向に延びるスタブを形成し、その開放端にショートスタブ22Cを設けても、同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0064】
100〜102 平面アンテナ
1 誘電体基板
2 アンテナパターン
3 変換器パターン
4 接地板
20 給電点
21,21A,21B 給電線路
21X,21Y 給電線路群
22 放射素子
22A 放射部
22B オープンスタブ
22C ショートスタブ
23 整合素子
La 素子長
Lc スタブ長
Ld スタブ幅
λg 波長
【特許請求の範囲】
【請求項1】
進行波が伝搬する給電線路と、上記進行波により励振される放射素子とが誘電体基板上に形成され、上記放射素子は、主偏波を放射するための放射部と、上記放射部から交差偏波方向に延びるオープンスタブとを有することを特徴とする進行波励振アンテナ。
【請求項2】
上記オープンスタブは、上記進行波の(2n+1)/4波長(nは整数)に略一致するスタブ長を有することを特徴とする請求項1に記載の進行波励振アンテナ。
【請求項3】
上記オープンスタブは、上記放射部の主偏波方向の略中央に配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の進行波励振アンテナ。
【請求項4】
給電点が形成された誘電体基板と、
上記誘電体基板上に形成され、一端が上記給電点に接続された略直線状のマイクロストリップ線路からなる給電線路と、
上記給電線路を伝搬する進行波により励振される放射素子とを備えた平面アンテナにおいて、
上記放射素子は、主偏波方向が上記給電線路に対して角度を有し、その一頂点から給電される略矩形のストリップ片からなる放射部と、
上記放射部から交差偏波方向へ延びるストリップ片からなるオープンスタブとを有することを特徴とする平面アンテナ。
【請求項5】
上記放射素子は、上記進行波の(2n+1)/2波長(nは整数)に略一致する素子長を有し、
上記オープンスタブは、上記進行波の略(2m+1)/4波長(mは整数)に略一致するスタブ長を有することを特徴とする請求項4に記載の平面アンテナ。
【請求項1】
進行波が伝搬する給電線路と、上記進行波により励振される放射素子とが誘電体基板上に形成され、上記放射素子は、主偏波を放射するための放射部と、上記放射部から交差偏波方向に延びるオープンスタブとを有することを特徴とする進行波励振アンテナ。
【請求項2】
上記オープンスタブは、上記進行波の(2n+1)/4波長(nは整数)に略一致するスタブ長を有することを特徴とする請求項1に記載の進行波励振アンテナ。
【請求項3】
上記オープンスタブは、上記放射部の主偏波方向の略中央に配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の進行波励振アンテナ。
【請求項4】
給電点が形成された誘電体基板と、
上記誘電体基板上に形成され、一端が上記給電点に接続された略直線状のマイクロストリップ線路からなる給電線路と、
上記給電線路を伝搬する進行波により励振される放射素子とを備えた平面アンテナにおいて、
上記放射素子は、主偏波方向が上記給電線路に対して角度を有し、その一頂点から給電される略矩形のストリップ片からなる放射部と、
上記放射部から交差偏波方向へ延びるストリップ片からなるオープンスタブとを有することを特徴とする平面アンテナ。
【請求項5】
上記放射素子は、上記進行波の(2n+1)/2波長(nは整数)に略一致する素子長を有し、
上記オープンスタブは、上記進行波の略(2m+1)/4波長(mは整数)に略一致するスタブ長を有することを特徴とする請求項4に記載の平面アンテナ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2013−31064(P2013−31064A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−166709(P2011−166709)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000229737)日本ピラー工業株式会社 (337)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000229737)日本ピラー工業株式会社 (337)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【Fターム(参考)】
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