運動制御装置の取付方法
【課題】押圧部材の回転方向によって制動特性が異なる運動制御装置を、左右のドアに共通に取り付ける方法を提供する。
【解決手段】本発明は、運動制御装置の軸20の中心をドアの回転中心Cと一致させた状態で、該軸20を第1アーム101を介して車体B又はドアのいずれか一方に連結し、運動制御装置のケーシング10を第2アーム102を介して車体B又はドアのいずれか他方に連結することを特徴とする。運動制御装置は、ケーシングが固定され、軸が回転するときは、軸とともにケーシング内で回転し、粘性液体を押圧する第1押圧部材と、軸が固定され、ケーシングが回転するときは、ケーシングとともにケーシング内で回転し、粘性液体を押圧する第2押圧部材と、第1及び第2押圧部材の回転方向によって制動特性を異ならせる特性可変手段とを備える。
【解決手段】本発明は、運動制御装置の軸20の中心をドアの回転中心Cと一致させた状態で、該軸20を第1アーム101を介して車体B又はドアのいずれか一方に連結し、運動制御装置のケーシング10を第2アーム102を介して車体B又はドアのいずれか他方に連結することを特徴とする。運動制御装置は、ケーシングが固定され、軸が回転するときは、軸とともにケーシング内で回転し、粘性液体を押圧する第1押圧部材と、軸が固定され、ケーシングが回転するときは、ケーシングとともにケーシング内で回転し、粘性液体を押圧する第2押圧部材と、第1及び第2押圧部材の回転方向によって制動特性を異ならせる特性可変手段とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運動制御装置を自動車のドアに取り付ける方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、粘性液体の圧力を利用して制御対象である可動体の回転運動を制御する運動制御装置が知られている。例えば、ロータリーダンパは、粘性液体の圧力を利用して可動体の回転動作を緩慢とさせるものであり、運動制御装置の典型例として挙げられる。また、運動制御装置の中には、ロータリーダンパのように、可動体の運動速度を制御するだけでなく、可動体の停止状態も保持し得るものもある。例えば、国際公開第2005/073589号パンフレットには、所定値を超える外力が制御対象である可動体に加えられない限り、任意の位置で停止する可動体の運動停止状態を保持することができ、更に可動体の運動が開始された後は、可動体に対する外力が運動開始時よりも低下しても、可動体の運動を継続させることができる運動制御装置が開示されている。
【0003】
かかる運動制御装置の中には、粘性液体を押圧する押圧部材の回転方向によって制動特性を異ならせる特性可変手段を有するものがある。特性可変手段としては、逆止弁を用いたものや、押圧部材の回転範囲の一部に粘性液体が通過可能な流路を形成する方法が知られている。例えば、上記パンフレットに記載の運動制御装置は、特性可変手段(流路)を押圧部材の回転範囲の一部に形成し、押圧部材が一方向へ回転するときには、特性可変手段が存するその回転の終点付近で粘性液体の圧力を減少させ、該押圧部材が逆方向へ回転するときには、特性可変手段が存するその回転の開始点付近で粘性液体の圧力を減少させるように構成されている。従って、かかる運動制御装置を自動車のドアに適用した場合には、ドアが完全に閉じる直前から完全に閉じるまでの動作範囲においては、特性可変手段の作用により、その他の動作範囲よりも粘性液体の圧力を減少させ、ドアに付与される制動力を小さくすることができる。
【0004】
しかしながら、自動車のドアは、車体の両側に設けられており、開閉するときの回転方向が左右のドアで異なるため、押圧部材の回転方向によって制動特性が異なる運動制御装置を左右のドアにそれぞれ取り付ける場合には、左右のドアにそれぞれ専用の運動制御装置が必要であった。
【0005】
【特許文献1】国際公開第2005/073589号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、押圧部材の回転方向によって制動特性が異なる運動制御装置であっても、左右のドアに共通に取り付けることができる方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の運動制御装置の取付方法を提供する。
運動制御装置を自動車のドアに取り付ける方法であって、
前記運動制御装置は、
ケーシングが固定され、軸が回転するときは、軸とともにケーシング内で回転し、粘性液体を押圧する第1押圧部材と、
軸が固定され、ケーシングが回転するときは、ケーシングとともにケーシング内で回転し、粘性液体を押圧する第2押圧部材と、
第1及び第2押圧部材の回転方向によって制動特性を異ならせる特性可変手段とを有するものであり、
前記運動制御装置の軸の中心をドアの回転中心と一致させた状態で、該軸を第1アームを介して車体又はドアのいずれか一方に連結し、
前記運動制御装置のケーシングを第2アームを介して車体又はドアのいずれか他方に連結することを特徴とする方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、運動制御装置が、第1及び第2押圧部材の回転方向によって制動特性を異ならせる特性可変手段を有するため、第1及び第2押圧部材の回転方向によって制動特性が異なるものであるが、運動制御装置の軸の中心をドアの回転中心と一致させた状態で、該軸を第1アームを介して車体又はドアのいずれか一方に連結し、運動制御装置のケーシングを第2アームを介して車体又はドアのいずれか他方に連結する構成であるため、自動車の左右のドアに共通に取り付けることができる。従って、左右のドアに専用の運動制御装置を取り付ける必要がない。また、専用の運動制御装置では、右のドアに取り付けるべきものを左のドアに取り付けた場合に不具合を生じるが、本発明によれば、左右のドアのいずれに取り付けた場合でも、それぞれのドアに適した制動特性を得ることができるため、取り付けの対象を間違えるというミスも生じることがなく、管理上有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に示した実施例に従って説明する。
【実施例】
【0010】
図1乃至図6は、本発明の一実施例において採用した運動制御装置の内部構造を示す図である。これらの図に示したように、運動制御装置は、ケーシング10、軸20、第1押圧部材31,32、第2押圧部材41,42及び特性可変手段を有して構成される。
【0011】
ケーシング10は、図2に示したように、筒体11、上蓋12、下蓋13及び内壁14を有して構成される。筒体11は、断面の形状が略円形であり、両端が開口している。上蓋12は、筒体11の一端側開口部を閉塞するものであり、厚さ方向に貫通する孔部12aを有している。下蓋13は、筒体11の他端側開口部を閉塞するものである。内壁14は、筒体11の内部において、下蓋13に接するように設けられている。内壁14には、軸20の端部がはまり込む凹部14aが形成されている。
【0012】
軸20は、一方の端部がケーシング10から外部に突出するように、ケーシング10内に設けられている(図2及び図3参照)。軸20の一方の端部側は、上蓋12の孔部12aに挿通されることにより支持され、軸20の他方の端部は、内壁14の凹部14aにはまり込むことにより支持されている。ケーシング10と軸20は、相対的に回転可能である。
【0013】
第1押圧部材31,32は、図1及び図3に示したように、軸20の外周面から筒体11の内周面に向かって突出するように、軸20と一体に成形されている。第1押圧部材31,32は、ケーシング10が固定され、軸20が回転するときは、軸20とともにケーシング10内で回転し、粘性液体を押圧する役割を果たすものである。
【0014】
第2押圧部材41,42は、図1に示したように、先端面が軸20の外周面に接し、後端面が筒体11の内周面に接する形状に形成され、ケーシング10に固定されている。第2押圧部材41,42は、軸20が固定され、ケーシング10が回転するときは、ケーシング10とともにケーシング10内で回転し、粘性液体を押圧する役割を果たすものである。
【0015】
図1に示したように、第1及び第2押圧部材31,32,41,42がケーシング10内に配設されることにより、ケーシング10内には、第1乃至第4室51〜54が形成される。第1乃至第4室51〜54には、粘性液体が充填される。粘性液体としては、シリコンオイルなどを用いることができる。
【0016】
2つある第1押圧部材31,32のうち、一方の第1押圧部材31には、シール部材61が設けられている(図1及び図3参照)。シール部材61は、第1及び第3室51,53の粘性液体が、ケーシング10と第1押圧部材31との間に形成される隙間などを通じて相互に移動することを防止する働きをするものである。また、他方の第1押圧部材32にも同様に、シール部材62が設けられている(図1及び図3参照)。シール部材62は、第2及び第4室52,54の粘性液体が、ケーシング10と第1押圧部材32との間に形成される隙間などを通じて相互に移動することを防止する働きをするものである。
【0017】
2つある第2押圧部材41,42のうち、一方の第2押圧部材41には、シール部材63が設けられている(図1及び図2参照)。シール部材63は、第1及び第2室51,52の粘性液体が、ケーシング10と第2押圧部材41との間に形成される隙間や軸20と第2押圧部材41との間に形成される隙間などを通じて相互に移動することを防止する働きをするものである。また、他方の第2押圧部材42にも同様に、シール部材64が設けられている(図1及び図2参照)。シール部材64は、第3及び第4室53,54の粘性液体が、ケーシング10と第2押圧部材42との間に形成される隙間や軸20と第2押圧部材42との間に形成される隙間などを通じて相互に移動することを防止する働きをするものである。
【0018】
内壁14の一面のうち、第2及び第3室52,53の底面に該当する部分には、特性可変手段として機能する溝71,72が形成されている(図1及び図4参照)。第1及び第2押圧部材31,32,41,42の回転範囲の一部に、かかる溝71,72が存することによって、例えば、第1押圧部材31,32が回転するときには、溝71,72の上を回転する第1押圧部材31,32と溝71,72との間に粘性液体が通過可能な流路が形成されるため、溝71,72が存しない部分を第1押圧部材31,32が回転するときよりも粘性液体の圧力(抵抗)を減少させることができる。なお、特性可変手段としては、上記のような溝71,72に限定されるものではなく、第1及び第2押圧部材31,32,41,42の回転方向によって制動特性を異ならせるものであればよい。
【0019】
内壁14には、また、第1乃至第4通路81〜84が形成されている(図1乃至図5参照)。第1通路81は、第1室51と第2室52とを連通させるよう形成される。第2通路82は、第3室53と第4室54とを連通させるよう形成される。第3通路83は、第1室51と第4室54とを連通させるよう形成される。第4通路84は、第2室52と第3室53とを連通させるよう形成される。
【0020】
ここで、第3通路83は、図5に示したように、内壁14を厚さ方向に貫通して第1室51に開口する穴83aと、一方の端部が穴83aに接続し、他方の端部が第2通路82を構成する穴に接続するよう内壁14の端面に形成された溝83bとを有して構成される。なお、ここにいう第2通路82を構成する穴は、内壁14を厚さ方向に貫通して第4室54に開口している。
【0021】
第4通路84は、図5に示したように、内壁14を厚さ方向に貫通して第3室53に開口する穴84aと、一方の端部が穴84aに接続し、他方の端部が第1通路81を構成する穴に接続するよう内壁14の端面に形成された溝84bとを有して構成される。なお、ここにいう第1通路81を構成する穴は、内壁14を厚さ方向に貫通して第1室51に開口している。第3及び第4通路83,84をそれぞれ構成する溝83a,84aの開口部は、下蓋13によって閉塞される。
【0022】
内壁14には、さらに、第1及び第2弁機構が設けられている。
第1弁機構は、第1通路81に設けられる。本実施例において採用した第1弁機構は、以下の機能を有するものである。
(1)第2室52から第1室51への粘性液体の逆流を阻止する機能、
(2)第1室51の内圧が所定値以下のときは、第1室51の粘性液体が第1通路81を通じて第2室52へ移動することを阻止する機能、
(3)第1室51の内圧が所定値を超えたときは、第1室51の粘性液体が第1通路81を通じて第2室52へ移動することを可能とし、かつその後、第1室51の内圧が所定値以下に低下しても、第1通路81を通じた粘性液体の移動を許容する機能、
(4)第1又は第2押圧部材31,32,41,42の回転運動が停止したときは、第1室51の粘性液体が第1通路81を通じて第2室52へ移動することを阻止する機能、及び
(5)第1通路81を通過する粘性液体の流量を絞る機能。
【0023】
第1弁機構は、図6に示したように、第1通路81を閉鎖し得る弁部材と、内部に収容される弁部材の外周面との間に粘性液体の流量を絞る隙間を形成する内周面を有する作動室91aと、弁部材が粘性液体の圧力を受けることにより開方向へ移動しようとするときに、弁部材に抵抗を付与するばね91bとを有して構成される。ここで、弁部材は、球状の弁体91cと、弁体91cとばね91bとの間に介在するように設けられる弁押さえ91dとを有して構成される。
【0024】
第1室51から作動室91aへ流入しようとする粘性液体の圧力を受ける弁部材の受圧面の大きさは、上記した(3)の機能を発揮する上で重要である。つまり、弁部材と、該弁部材が開方向へ移動しようとするときに該弁部材に抵抗を付与するばねと有して構成される通常の逆止弁では、閉弁時における受圧面の大きさと開弁後の受圧面の大きさに大きな差がないため、開弁後に粘性液体の圧力が低下すると、ばねの抵抗力により弁部材が押し戻されることになる。従って、通常の逆止弁では、第1室51の内圧が所定値を超えたときは、第1室51の粘性液体が第1通路81を通じて第2室52へ移動することを可能とすることはできても、その後、第1室51の内圧が所定値以下に低下すると、弁体が第1通路81を閉鎖してしまうので、第1通路81を通じた粘性液体の移動を許容することができない。そこで、開弁後に粘性流体の圧力が低下しても弁部材がばね91bの抵抗力によって押し戻されないようにするため、閉弁時における受圧面の大きさと開弁後の受圧面の大きさに大きな差を設け、開弁後に大きな受圧面が提供されるよう設定する必要がある。
【0025】
本実施例において採用した運動制御装置では、弁体91cの受圧面を小さく設定するとともに、弁押さえ91dの受圧面を大きく設定することにより、開弁後に粘性液体の圧力が低下しても、弁部材がばね91bの抵抗力によって押し戻されないようにされている。
【0026】
図6に示したように、粘性液体の流量を絞る隙間aは、弁押さえ91dの外周面の一部に形成された溝と作動室91aの内周面との間に形成されている。ばね91bとしては、圧縮コイルばねが用いられている。
【0027】
第2弁機構は、第2通路82に設けられる。本実施例において採用した第2弁機構は、以下の機能を有するものである。
(1)第4室54から第3室53への粘性液体の逆流を阻止する機能、
(2)第3室53の内圧が所定値以下のときは、第3室53の粘性液体が第2通路82を通じて第4室54へ移動することを阻止する機能、
(3)第3室53の内圧が所定値を超えたときは、第3室53の粘性液体が第2通路82を通じて第4室54へ移動することを可能とし、かつその後、第3室53の内圧が所定値以下に低下しても、第2通路82を通じた粘性液体の移動を許容する機能、
(4)第1又は第2押圧部材31,32,41,42の回転運動が停止したときは、第3室53の粘性液体が第2通路82を通じて第4室54へ移動することを阻止する機能、及び
(5)第2通路82を通過する粘性液体の流量を絞る機能。
【0028】
第2弁機構は、図6に示したように、上記した第1弁機構と同様に構成される。すなわち、第2弁機構は、第1弁機構を構成する弁部材(弁体91c及び弁押さえ91d)、作動室91a及びばね91bとそれぞれ同様に構成される弁部材(弁体92c及び弁押さえ92d)、作動室92a及びばね92bを有して構成される。
【0029】
上記のように構成される運動制御装置は、次のように自動車のドアに取り付けられる。すなわち、右のドアRに取り付ける場合には、図9、図10及び図12に示したように、軸20の中心(軸20の回転中心)をドアRの回転中心Cと一致させた状態で、該軸20を第1アーム101を介してドアRに連結し、ケーシング10を第2アーム102を介して車体Bに連結する。一方、左のドアLに取り付ける場合には、図9、図11及び図13に示したように、軸20の中心(軸20の回転中心)をドアLの回転中心Cと一致させた状態で、該軸20を第1アーム101を介して車体Bに連結し、ケーシング10を第2アーム102を介してドアLに連結する。
【0030】
上記のように、軸20の中心をドアR,Lの回転中心Cと一致させた状態で運動制御装置を取り付けることにより、右のドアRを開閉させるときには、ケーシング10が固定され、軸20が回転することになる。一方、左のドアLを開閉させるときには、軸20が固定され、ケーシング10が軸20の周りで回転することになる。
【0031】
従って、左右のドアL,Rにそれぞれ取り付けられる運動制御装置は、共通のもの、すなわち、同一の構造であって、特に特性可変手段の配置も同一のものを使用できる。よって、左右のドアL,Rに専用の運動制御装置を用いる必要がない。さらに、左右のドアL,Rに取り付ける際に、軸20とケーシング10の配置を異ならせる必要がなく、運動制御装置の取り付け方向を共通にできる(例えば、左右のドアL,Rに取り付ける際に、いずれも、ケーシング10を上に配置し、軸20を下に配置して取り付けることができる。)ので、運動制御装置の取付作業を容易にし、取り付け方向の間違いをなくすことができる。
【0032】
上記のように左右のドアL,Rに取り付けられた運動制御装置は、以下のように動作する。
【0033】
例えば、右のドアRを全閉位置から少し開け、その回動を停止させたときに、そのドアRに対して突風が吹き付けたり、あるいは人や物が不用意に接触するなどすると、ドアRは、そのような意図しない外力を受けることにより回動しようとする。しかし、この際、ドアRが回動しようとしても、ドアRに対する外力が所定値以下であれば、運動制御装置により、ドアRの停止状態を保持することができる。
【0034】
すなわち、ドアRが意図しない外力を受けることにより、例えば、開方向へ回動しようとすると、軸20とともに第1押圧部材31,32が一方向(図1において時計回り方向)へ回転しようとする。このとき、ドアRに対する外力が所定値以下であれば、第1押圧部材31が第1室51の粘性液体を押圧する力も弱いため、第1室51の内圧があまり高まらず、所定値に達しない。第1通路81に設けられた第1弁機構は、第1室51の粘性液体が一方向へ回転しようとする第1押圧部材31に押圧されることにより高まる第1室51の内圧が所定値以下のときは、弁部材が第1通路81を閉鎖して、第1室51の粘性液体が第1通路81を通じて第2室52へ移動することを阻止する。また、第2通路82に設けられた第2弁機構は、第4室54から第3室53への粘性液体の逆流を阻止する。さらに、第4室54の粘性液体は、第1弁機構が開弁しない限り、第3通路83を通じて第1室51へ移動できない。従って、第1押圧部材31,32は一方向へ回転できなくなる。その結果、ドアRの停止状態が保持されることになる。
【0035】
一方、ドアRが意図しない外力を受けることにより、例えば、閉方向へ回動しようとすると、軸20とともに第1押圧部材31,32が逆方向(図1において反時計回り方向)へ回転しようとする。このとき、ドアRに対する外力が所定値以下であれば、第1押圧部材31が第3室53の粘性液体を押圧する力も弱いため、第3室53の内圧があまり高まらず、所定値に達しない。第2通路82に設けられた第2弁機構は、第3室53の粘性液体が逆方向へ回転しようとする第1押圧部材31に押圧されることにより高まる第3室53の内圧が所定値以下のときは、弁部材が第2通路82を閉鎖して、第3室53の粘性液体が第2通路82を通じて第4室54へ移動することを阻止する。また、第1通路81に設けられた第1弁機構は、第2室52から第1室51への粘性液体の逆流を阻止する。さらに、第2室52の粘性液体は、第2弁機構が開弁しない限り、第4通路84を通じて第3室53へ移動できない。従って、第1押圧部材31,32は逆方向へ回転できなくなる。その結果、ドアRの停止状態が保持されることになる。
【0036】
左のドアLが同様な状況にある場合、左のドアLに設けられた運動制御装置は、例えば、ドアLが開方向へ回動しようとすると、ケーシング10とともに第2押圧部材41,42が一方向(図1において反時計回り方向)へ回転しようとする。このとき、ドアLに対する外力が所定値以下であれば、第2押圧部材41が第1室51の粘性液体を押圧する力も弱いため、第1室51の内圧があまり高まらず、所定値に達しない。第1通路81に設けられた第1弁機構は、第1室51の粘性液体が一方向へ回転しようとする第2押圧部材41に押圧されることにより高まる第1室51の内圧が所定値以下のときは、弁部材が第1通路81を閉鎖して、第1室51の粘性液体が第1通路81を通じて第2室52へ移動することを阻止する。また、第2通路82に設けられた第2弁機構は、第4室54から第3室53への粘性液体の逆流を阻止する。さらに、第4室54の粘性液体は、第1弁機構が開弁しない限り、第3通路83を通じて第1室51へ移動できない。従って、第2押圧部材41,42は一方向へ回転できなくなる。その結果、ドアLの停止状態が保持されることになる。
【0037】
一方、ドアLが意図しない外力を受けることにより、例えば、閉方向へ回動しようとすると、ケーシング10とともに第2押圧部材41,42が逆方向(図1において時計回り方向)へ回転しようとする。このとき、ドアLに対する外力が所定値以下であれば、第2押圧部材42が第3室53の粘性液体を押圧する力も弱いため、第3室53の内圧があまり高まらず、所定値に達しない。第2通路82に設けられた第2弁機構は、第3室53の粘性液体が逆方向へ回転しようとする第2押圧部材42に押圧されることにより高まる第3室53の内圧が所定値以下のときは、弁部材が第2通路82を閉鎖して、第3室53の粘性液体が第2通路82を通じて第4室54へ移動することを阻止する。また、第1通路81に設けられた第1弁機構は、第2室52から第1室51への粘性液体の逆流を阻止する。さらに、第2室52の粘性液体は、第2弁機構が開弁しない限り、第4通路84を通じて第3室53へ移動できない。従って、第2押圧部材41,42は逆方向へ回転できなくなる。その結果、ドアLの停止状態が保持されることになる。
【0038】
本実施例において採用した運動制御装置によれば、上記のように任意の位置で停止状態が保持された左右のドアL,Rを意図的に回動させる際には、左右のドアL,Rの停止状態を解除するときに、一時的に大きな外力を要するが、左右のドアL,Rの回動が開始された後は、小さな外力で左右のドアL,Rの回動を継続させることができる。
【0039】
すなわち、例えば、停止状態の右のドアRを意図的に開方向へ回動させるときには、停止状態のドアRに対して大きな外力を加える。それにより、第1室51の粘性液体が第1押圧部材31に強く押圧されることになり、第1室51の内圧が高まる。このとき、第1室51の内圧が所定値を超えると、第1通路81に設けられた第1弁機構は、第1室51の粘性液体が第1通路81を通じて第2室52へ移動することを可能とする。すなわち、第1室51の内圧が所定値を超えたときには、弁部材(弁体91c)が受ける粘性液体の圧力がばね91bの抵抗力よりも大きくなるため、図7に示したように、弁部材(弁体91c及び弁押さえ91d)が開方向へ移動し、粘性液体が第1通路81を通過可能となる。これにより、第1押圧部材32に押圧される第4室54の粘性液体は、第1室51へ移動し、第2室52の粘性液体は、第4通路84を通じて第3室53へ移動する。従って、第1押圧部材31,32は一方向へ回転可能となる。その結果、ドアRの停止状態が解除されることになる。
【0040】
ドアRの回動が開始された後は、弁部材が受ける粘性液体の圧力が低下しても、弁部材(弁押さえ91d)の大きな受圧面が提供されるため、ばね91bの抵抗力によって弁部材が押し戻されることがない。従って、第1押圧部材31,32は一方向への回転を継続することができる。その結果、小さな外力でドアRを回動させることができる。
【0041】
また、第1弁機構は、第1通路81を通過する粘性液体の流量を絞る機能を有するため、ドアRの停止状態が解除された後に、そのドアRが勢いよく回動することを防止することができる。すなわち、粘性液体が弁部材(弁押さえ91d)の外周面と作動室91aの内周面との間に形成される隙間aを通過するときに、第1通路81を通過する粘性液体の流量が絞られることにより、粘性液体に抵抗が生じて第1押圧部材31,32の回転運動を緩慢にさせる。その結果、ドアRに制動力が付与されることになる。
【0042】
一方、停止状態のドアRを意図的に閉方向へ回動させるときには、ドアRを開方向へ回動させるときと同様に、停止状態のドアRに対して大きな外力を加える。それにより、第3室53の粘性液体が第1押圧部材31に強く押圧されることになり、第3室53の内圧が高まる。このとき、第3室53の内圧が所定値を超えると、第2通路82に設けられた第2弁機構は、第3室53の粘性液体が第2通路82を通じて第4室54へ移動することを可能とする。すなわち、第3室53の内圧が所定値を超えたときには、弁部材(弁体92c)が受ける粘性液体の圧力がばね92bの抵抗力よりも大きくなるため、図8に示したように、弁部材(弁体92c及び弁押さえ92d)が開方向へ移動し、粘性液体が第2通路82を通過可能となる。これにより、第1押圧部材32に押圧される第2室52の粘性液体は、第3室53へ移動し、第4室54の粘性液体は、第3通路83を通じて第1室51へ移動する。従って、第1押圧部材31,32は逆方向へ回転可能となり、その結果、ドアRの停止状態が解除されることになる。
【0043】
ドアRの回動が開始された後は、弁部材が受ける粘性液体の圧力が低下しても、弁部材(弁押さえ92d)の大きな受圧面が提供されるため、ばね92bの抵抗力によって弁部材が押し戻されることがない。従って、第1押圧部材31,32は逆方向への回転を継続することができる。その結果、小さな外力でドアRを回動させることができる。
【0044】
また、第2弁機構は、第2通路82を通過する粘性液体の流量を絞る機能を有するため、ドアRの停止状態が解除された後に、そのドアRが勢いよく回動することを防止することができる。すなわち、粘性液体が弁部材(弁押さえ92d)の外周面と作動室92aの内周面との間に形成される隙間bを通過するときに、第2通路82を通過する粘性液体の流量が絞られることにより、粘性液体に抵抗が生じて第1押圧部材31,32の回転運動を緩慢にさせる。その結果、ドアRに制動力が付与されることになる。
【0045】
もっとも、運動制御装置は、特性可変手段を有するため、第1押圧部材31,32の回転範囲のうち、特性可変手段として機能する溝71,72が存する範囲d(図1参照)、すなわち、ドアRが完全に閉じる直前から完全に閉じるまでの動作範囲Pにおいては、特性可変手段の作用により、その他の動作範囲Qよりも粘性液体の圧力(抵抗)を減少させ、ドアRに付与される制動力を小さくすることができる(図9参照)。従って、ドアRを円滑に完全に閉めることができる。
【0046】
一方、停止状態の左のドアLを意図的に開方向へ回動させるときには、停止状態のドアLに対して大きな外力を加える。それにより、第1室51の粘性液体が第2押圧部材41に強く押圧されることになり、第1室51の内圧が高まる。このとき、第1室51の内圧が所定値を超えると、第1通路81に設けられた第1弁機構は、第1室51の粘性液体が第1通路81を通じて第2室52へ移動することを可能とする。すなわち、第1室51の内圧が所定値を超えたときには、弁部材(弁体91c)が受ける粘性液体の圧力がばね91bの抵抗力よりも大きくなるため、図7に示したように、弁部材(弁体91c及び弁押さえ91d)が開方向へ移動し、粘性液体が第1通路81を通過可能となる。これにより、第2押圧部材42に押圧される第4室54の粘性液体は、第1室51へ移動し、第2室52の粘性液体は、第4通路84を通じて第3室53へ移動する。従って、第2押圧部材41,42は一方向へ回転可能となる。その結果、ドアLの停止状態が解除されることになる。
【0047】
ドアLの回動が開始された後は、弁部材が受ける粘性液体の圧力が低下しても、弁部材(弁押さえ91d)の大きな受圧面が提供されるため、ばね91bの抵抗力によって弁部材が押し戻されることがない。従って、第2押圧部材41,42は一方向への回転を継続することができる。その結果、小さな外力でドアLを回動させることができる。
【0048】
また、第1弁機構は、第1通路81を通過する粘性液体の流量を絞る機能を有するため、ドアLの停止状態が解除された後に、そのドアLが勢いよく回動することを防止することができる。すなわち、粘性液体が弁部材(弁押さえ91d)の外周面と作動室91aの内周面との間に形成される隙間aを通過するときに、第1通路81を通過する粘性液体の流量が絞られることにより、粘性液体に抵抗が生じて第2押圧部材41,42の回転運動を緩慢にさせる。その結果、ドアLに制動力が付与されることになる。
【0049】
一方、停止状態の左のドアLを意図的に閉方向へ回動させるときには、ドアLを開方向へ回動させるときと同様に、停止状態のドアLに対して大きな外力を加える。それにより、第3室53の粘性液体が第2押圧部材42に強く押圧されることになり、第3室53の内圧が高まる。このとき、第3室53の内圧が所定値を超えると、第2通路82に設けられた第2弁機構は、第3室53の粘性液体が第2通路82を通じて第4室54へ移動することを可能とする。すなわち、第3室53の内圧が所定値を超えたときには、弁部材(弁体92c)が受ける粘性液体の圧力がばね92bの抵抗力よりも大きくなるため、図8に示したように、弁部材(弁体92c及び弁押さえ92d)が開方向へ移動し、粘性液体が第2通路82を通過可能となる。これにより、第2押圧部材41に押圧される第2室52の粘性液体は、第3室53へ移動し、第4室54の粘性液体は、第3通路83を通じて第1室51へ移動する。従って、第2押圧部材41,42は逆方向へ回転可能となり、その結果、ドアLの停止状態が解除されることになる。
【0050】
ドアLの回動が開始された後は、弁部材が受ける粘性液体の圧力が低下しても、弁部材(弁押さえ92d)の大きな受圧面が提供されるため、ばね92bの抵抗力によって弁部材が押し戻されることがない。従って、第2押圧部材41,42は逆方向への回転を継続することができる。その結果、小さな外力でドアLを回動させることができる。
【0051】
また、第2弁機構は、第2通路82を通過する粘性液体の流量を絞る機能を有するため、ドアLの停止状態が解除された後に、そのドアLが勢いよく回動することを防止することができる。すなわち、粘性液体が弁部材(弁押さえ92d)の外周面と作動室92aの内周面との間に形成される隙間bを通過するときに、第2通路82を通過する粘性液体の流量が絞られることにより、粘性液体に抵抗が生じて第2押圧部材41,42の回転運動を緩慢にさせる。その結果、ドアLに制動力が付与されることになる。
【0052】
ここで、左のドアLに設けられる運動制御装置も、右のドアRに設けられる運動制御装置と同様に、特性可変手段を有するため、第2押圧部材41,42の回転範囲のうち、特性可変手段として機能する溝71,72が存する範囲d(図1参照)、すなわち、ドアLが完全に閉じる直前から完全に閉じるまでの動作範囲Pにおいては、特性可変手段の作用により、その他の動作範囲Qよりも粘性液体の圧力(抵抗)を減少させ、ドアLに付与される制動力を小さくすることができる(図9参照)。従って、ドアLを円滑に完全に閉めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の一実施例に係る取付方法おいて採用した運動制御装置の内部構造を示す図である。
【図2】図1におけるA−A部断面図である。
【図3】図1におけるB−B部部分断面図である。
【図4】図1におけるC−C部部分断面図である。
【図5】図2におけるA−A部部分断面図であって、第1及び第2弁機構を構成する弁部材及びばねを取り除いた状態を示す図である。
【図6】図1におけるD−D部部分断面図である。
【図7】第1弁機構の作用を説明するための図である。
【図8】第2弁機構の作用を説明するための図である。
【図9】運動制御装置の取付方法を説明するための図である。
【図10】図9におけるA部拡大図である。
【図11】図9におけるB部拡大図である。
【図12】運動制御装置を右のドアに取り付けた状態を示す図である。
【図13】運動制御装置を左のドアに取り付けた状態を示す図である。
【符号の説明】
【0054】
10 ケーシング
11 筒体
12 上蓋
12a 孔部
13 下蓋
14 内壁
14a 凹部
20 軸
31,32 第1押圧部材
41,42 第2押圧部材
51 第1室
52 第2室
53 第3室
54 第4室
61〜64 シール部材
71,72 溝(特性可変手段)
81 第1通路
82 第2通路
83 第3通路
83a 穴
83b 溝
84 第4通路
84a 穴
84b 溝
91a,92a 作動室
91b,92b ばね
91c,92c 弁体
91d,92d 弁押さえ
101 第1アーム
102 第2アーム
R 右のドア
L 左のドア
B 車体
【技術分野】
【0001】
本発明は、運動制御装置を自動車のドアに取り付ける方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、粘性液体の圧力を利用して制御対象である可動体の回転運動を制御する運動制御装置が知られている。例えば、ロータリーダンパは、粘性液体の圧力を利用して可動体の回転動作を緩慢とさせるものであり、運動制御装置の典型例として挙げられる。また、運動制御装置の中には、ロータリーダンパのように、可動体の運動速度を制御するだけでなく、可動体の停止状態も保持し得るものもある。例えば、国際公開第2005/073589号パンフレットには、所定値を超える外力が制御対象である可動体に加えられない限り、任意の位置で停止する可動体の運動停止状態を保持することができ、更に可動体の運動が開始された後は、可動体に対する外力が運動開始時よりも低下しても、可動体の運動を継続させることができる運動制御装置が開示されている。
【0003】
かかる運動制御装置の中には、粘性液体を押圧する押圧部材の回転方向によって制動特性を異ならせる特性可変手段を有するものがある。特性可変手段としては、逆止弁を用いたものや、押圧部材の回転範囲の一部に粘性液体が通過可能な流路を形成する方法が知られている。例えば、上記パンフレットに記載の運動制御装置は、特性可変手段(流路)を押圧部材の回転範囲の一部に形成し、押圧部材が一方向へ回転するときには、特性可変手段が存するその回転の終点付近で粘性液体の圧力を減少させ、該押圧部材が逆方向へ回転するときには、特性可変手段が存するその回転の開始点付近で粘性液体の圧力を減少させるように構成されている。従って、かかる運動制御装置を自動車のドアに適用した場合には、ドアが完全に閉じる直前から完全に閉じるまでの動作範囲においては、特性可変手段の作用により、その他の動作範囲よりも粘性液体の圧力を減少させ、ドアに付与される制動力を小さくすることができる。
【0004】
しかしながら、自動車のドアは、車体の両側に設けられており、開閉するときの回転方向が左右のドアで異なるため、押圧部材の回転方向によって制動特性が異なる運動制御装置を左右のドアにそれぞれ取り付ける場合には、左右のドアにそれぞれ専用の運動制御装置が必要であった。
【0005】
【特許文献1】国際公開第2005/073589号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、押圧部材の回転方向によって制動特性が異なる運動制御装置であっても、左右のドアに共通に取り付けることができる方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の運動制御装置の取付方法を提供する。
運動制御装置を自動車のドアに取り付ける方法であって、
前記運動制御装置は、
ケーシングが固定され、軸が回転するときは、軸とともにケーシング内で回転し、粘性液体を押圧する第1押圧部材と、
軸が固定され、ケーシングが回転するときは、ケーシングとともにケーシング内で回転し、粘性液体を押圧する第2押圧部材と、
第1及び第2押圧部材の回転方向によって制動特性を異ならせる特性可変手段とを有するものであり、
前記運動制御装置の軸の中心をドアの回転中心と一致させた状態で、該軸を第1アームを介して車体又はドアのいずれか一方に連結し、
前記運動制御装置のケーシングを第2アームを介して車体又はドアのいずれか他方に連結することを特徴とする方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、運動制御装置が、第1及び第2押圧部材の回転方向によって制動特性を異ならせる特性可変手段を有するため、第1及び第2押圧部材の回転方向によって制動特性が異なるものであるが、運動制御装置の軸の中心をドアの回転中心と一致させた状態で、該軸を第1アームを介して車体又はドアのいずれか一方に連結し、運動制御装置のケーシングを第2アームを介して車体又はドアのいずれか他方に連結する構成であるため、自動車の左右のドアに共通に取り付けることができる。従って、左右のドアに専用の運動制御装置を取り付ける必要がない。また、専用の運動制御装置では、右のドアに取り付けるべきものを左のドアに取り付けた場合に不具合を生じるが、本発明によれば、左右のドアのいずれに取り付けた場合でも、それぞれのドアに適した制動特性を得ることができるため、取り付けの対象を間違えるというミスも生じることがなく、管理上有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に示した実施例に従って説明する。
【実施例】
【0010】
図1乃至図6は、本発明の一実施例において採用した運動制御装置の内部構造を示す図である。これらの図に示したように、運動制御装置は、ケーシング10、軸20、第1押圧部材31,32、第2押圧部材41,42及び特性可変手段を有して構成される。
【0011】
ケーシング10は、図2に示したように、筒体11、上蓋12、下蓋13及び内壁14を有して構成される。筒体11は、断面の形状が略円形であり、両端が開口している。上蓋12は、筒体11の一端側開口部を閉塞するものであり、厚さ方向に貫通する孔部12aを有している。下蓋13は、筒体11の他端側開口部を閉塞するものである。内壁14は、筒体11の内部において、下蓋13に接するように設けられている。内壁14には、軸20の端部がはまり込む凹部14aが形成されている。
【0012】
軸20は、一方の端部がケーシング10から外部に突出するように、ケーシング10内に設けられている(図2及び図3参照)。軸20の一方の端部側は、上蓋12の孔部12aに挿通されることにより支持され、軸20の他方の端部は、内壁14の凹部14aにはまり込むことにより支持されている。ケーシング10と軸20は、相対的に回転可能である。
【0013】
第1押圧部材31,32は、図1及び図3に示したように、軸20の外周面から筒体11の内周面に向かって突出するように、軸20と一体に成形されている。第1押圧部材31,32は、ケーシング10が固定され、軸20が回転するときは、軸20とともにケーシング10内で回転し、粘性液体を押圧する役割を果たすものである。
【0014】
第2押圧部材41,42は、図1に示したように、先端面が軸20の外周面に接し、後端面が筒体11の内周面に接する形状に形成され、ケーシング10に固定されている。第2押圧部材41,42は、軸20が固定され、ケーシング10が回転するときは、ケーシング10とともにケーシング10内で回転し、粘性液体を押圧する役割を果たすものである。
【0015】
図1に示したように、第1及び第2押圧部材31,32,41,42がケーシング10内に配設されることにより、ケーシング10内には、第1乃至第4室51〜54が形成される。第1乃至第4室51〜54には、粘性液体が充填される。粘性液体としては、シリコンオイルなどを用いることができる。
【0016】
2つある第1押圧部材31,32のうち、一方の第1押圧部材31には、シール部材61が設けられている(図1及び図3参照)。シール部材61は、第1及び第3室51,53の粘性液体が、ケーシング10と第1押圧部材31との間に形成される隙間などを通じて相互に移動することを防止する働きをするものである。また、他方の第1押圧部材32にも同様に、シール部材62が設けられている(図1及び図3参照)。シール部材62は、第2及び第4室52,54の粘性液体が、ケーシング10と第1押圧部材32との間に形成される隙間などを通じて相互に移動することを防止する働きをするものである。
【0017】
2つある第2押圧部材41,42のうち、一方の第2押圧部材41には、シール部材63が設けられている(図1及び図2参照)。シール部材63は、第1及び第2室51,52の粘性液体が、ケーシング10と第2押圧部材41との間に形成される隙間や軸20と第2押圧部材41との間に形成される隙間などを通じて相互に移動することを防止する働きをするものである。また、他方の第2押圧部材42にも同様に、シール部材64が設けられている(図1及び図2参照)。シール部材64は、第3及び第4室53,54の粘性液体が、ケーシング10と第2押圧部材42との間に形成される隙間や軸20と第2押圧部材42との間に形成される隙間などを通じて相互に移動することを防止する働きをするものである。
【0018】
内壁14の一面のうち、第2及び第3室52,53の底面に該当する部分には、特性可変手段として機能する溝71,72が形成されている(図1及び図4参照)。第1及び第2押圧部材31,32,41,42の回転範囲の一部に、かかる溝71,72が存することによって、例えば、第1押圧部材31,32が回転するときには、溝71,72の上を回転する第1押圧部材31,32と溝71,72との間に粘性液体が通過可能な流路が形成されるため、溝71,72が存しない部分を第1押圧部材31,32が回転するときよりも粘性液体の圧力(抵抗)を減少させることができる。なお、特性可変手段としては、上記のような溝71,72に限定されるものではなく、第1及び第2押圧部材31,32,41,42の回転方向によって制動特性を異ならせるものであればよい。
【0019】
内壁14には、また、第1乃至第4通路81〜84が形成されている(図1乃至図5参照)。第1通路81は、第1室51と第2室52とを連通させるよう形成される。第2通路82は、第3室53と第4室54とを連通させるよう形成される。第3通路83は、第1室51と第4室54とを連通させるよう形成される。第4通路84は、第2室52と第3室53とを連通させるよう形成される。
【0020】
ここで、第3通路83は、図5に示したように、内壁14を厚さ方向に貫通して第1室51に開口する穴83aと、一方の端部が穴83aに接続し、他方の端部が第2通路82を構成する穴に接続するよう内壁14の端面に形成された溝83bとを有して構成される。なお、ここにいう第2通路82を構成する穴は、内壁14を厚さ方向に貫通して第4室54に開口している。
【0021】
第4通路84は、図5に示したように、内壁14を厚さ方向に貫通して第3室53に開口する穴84aと、一方の端部が穴84aに接続し、他方の端部が第1通路81を構成する穴に接続するよう内壁14の端面に形成された溝84bとを有して構成される。なお、ここにいう第1通路81を構成する穴は、内壁14を厚さ方向に貫通して第1室51に開口している。第3及び第4通路83,84をそれぞれ構成する溝83a,84aの開口部は、下蓋13によって閉塞される。
【0022】
内壁14には、さらに、第1及び第2弁機構が設けられている。
第1弁機構は、第1通路81に設けられる。本実施例において採用した第1弁機構は、以下の機能を有するものである。
(1)第2室52から第1室51への粘性液体の逆流を阻止する機能、
(2)第1室51の内圧が所定値以下のときは、第1室51の粘性液体が第1通路81を通じて第2室52へ移動することを阻止する機能、
(3)第1室51の内圧が所定値を超えたときは、第1室51の粘性液体が第1通路81を通じて第2室52へ移動することを可能とし、かつその後、第1室51の内圧が所定値以下に低下しても、第1通路81を通じた粘性液体の移動を許容する機能、
(4)第1又は第2押圧部材31,32,41,42の回転運動が停止したときは、第1室51の粘性液体が第1通路81を通じて第2室52へ移動することを阻止する機能、及び
(5)第1通路81を通過する粘性液体の流量を絞る機能。
【0023】
第1弁機構は、図6に示したように、第1通路81を閉鎖し得る弁部材と、内部に収容される弁部材の外周面との間に粘性液体の流量を絞る隙間を形成する内周面を有する作動室91aと、弁部材が粘性液体の圧力を受けることにより開方向へ移動しようとするときに、弁部材に抵抗を付与するばね91bとを有して構成される。ここで、弁部材は、球状の弁体91cと、弁体91cとばね91bとの間に介在するように設けられる弁押さえ91dとを有して構成される。
【0024】
第1室51から作動室91aへ流入しようとする粘性液体の圧力を受ける弁部材の受圧面の大きさは、上記した(3)の機能を発揮する上で重要である。つまり、弁部材と、該弁部材が開方向へ移動しようとするときに該弁部材に抵抗を付与するばねと有して構成される通常の逆止弁では、閉弁時における受圧面の大きさと開弁後の受圧面の大きさに大きな差がないため、開弁後に粘性液体の圧力が低下すると、ばねの抵抗力により弁部材が押し戻されることになる。従って、通常の逆止弁では、第1室51の内圧が所定値を超えたときは、第1室51の粘性液体が第1通路81を通じて第2室52へ移動することを可能とすることはできても、その後、第1室51の内圧が所定値以下に低下すると、弁体が第1通路81を閉鎖してしまうので、第1通路81を通じた粘性液体の移動を許容することができない。そこで、開弁後に粘性流体の圧力が低下しても弁部材がばね91bの抵抗力によって押し戻されないようにするため、閉弁時における受圧面の大きさと開弁後の受圧面の大きさに大きな差を設け、開弁後に大きな受圧面が提供されるよう設定する必要がある。
【0025】
本実施例において採用した運動制御装置では、弁体91cの受圧面を小さく設定するとともに、弁押さえ91dの受圧面を大きく設定することにより、開弁後に粘性液体の圧力が低下しても、弁部材がばね91bの抵抗力によって押し戻されないようにされている。
【0026】
図6に示したように、粘性液体の流量を絞る隙間aは、弁押さえ91dの外周面の一部に形成された溝と作動室91aの内周面との間に形成されている。ばね91bとしては、圧縮コイルばねが用いられている。
【0027】
第2弁機構は、第2通路82に設けられる。本実施例において採用した第2弁機構は、以下の機能を有するものである。
(1)第4室54から第3室53への粘性液体の逆流を阻止する機能、
(2)第3室53の内圧が所定値以下のときは、第3室53の粘性液体が第2通路82を通じて第4室54へ移動することを阻止する機能、
(3)第3室53の内圧が所定値を超えたときは、第3室53の粘性液体が第2通路82を通じて第4室54へ移動することを可能とし、かつその後、第3室53の内圧が所定値以下に低下しても、第2通路82を通じた粘性液体の移動を許容する機能、
(4)第1又は第2押圧部材31,32,41,42の回転運動が停止したときは、第3室53の粘性液体が第2通路82を通じて第4室54へ移動することを阻止する機能、及び
(5)第2通路82を通過する粘性液体の流量を絞る機能。
【0028】
第2弁機構は、図6に示したように、上記した第1弁機構と同様に構成される。すなわち、第2弁機構は、第1弁機構を構成する弁部材(弁体91c及び弁押さえ91d)、作動室91a及びばね91bとそれぞれ同様に構成される弁部材(弁体92c及び弁押さえ92d)、作動室92a及びばね92bを有して構成される。
【0029】
上記のように構成される運動制御装置は、次のように自動車のドアに取り付けられる。すなわち、右のドアRに取り付ける場合には、図9、図10及び図12に示したように、軸20の中心(軸20の回転中心)をドアRの回転中心Cと一致させた状態で、該軸20を第1アーム101を介してドアRに連結し、ケーシング10を第2アーム102を介して車体Bに連結する。一方、左のドアLに取り付ける場合には、図9、図11及び図13に示したように、軸20の中心(軸20の回転中心)をドアLの回転中心Cと一致させた状態で、該軸20を第1アーム101を介して車体Bに連結し、ケーシング10を第2アーム102を介してドアLに連結する。
【0030】
上記のように、軸20の中心をドアR,Lの回転中心Cと一致させた状態で運動制御装置を取り付けることにより、右のドアRを開閉させるときには、ケーシング10が固定され、軸20が回転することになる。一方、左のドアLを開閉させるときには、軸20が固定され、ケーシング10が軸20の周りで回転することになる。
【0031】
従って、左右のドアL,Rにそれぞれ取り付けられる運動制御装置は、共通のもの、すなわち、同一の構造であって、特に特性可変手段の配置も同一のものを使用できる。よって、左右のドアL,Rに専用の運動制御装置を用いる必要がない。さらに、左右のドアL,Rに取り付ける際に、軸20とケーシング10の配置を異ならせる必要がなく、運動制御装置の取り付け方向を共通にできる(例えば、左右のドアL,Rに取り付ける際に、いずれも、ケーシング10を上に配置し、軸20を下に配置して取り付けることができる。)ので、運動制御装置の取付作業を容易にし、取り付け方向の間違いをなくすことができる。
【0032】
上記のように左右のドアL,Rに取り付けられた運動制御装置は、以下のように動作する。
【0033】
例えば、右のドアRを全閉位置から少し開け、その回動を停止させたときに、そのドアRに対して突風が吹き付けたり、あるいは人や物が不用意に接触するなどすると、ドアRは、そのような意図しない外力を受けることにより回動しようとする。しかし、この際、ドアRが回動しようとしても、ドアRに対する外力が所定値以下であれば、運動制御装置により、ドアRの停止状態を保持することができる。
【0034】
すなわち、ドアRが意図しない外力を受けることにより、例えば、開方向へ回動しようとすると、軸20とともに第1押圧部材31,32が一方向(図1において時計回り方向)へ回転しようとする。このとき、ドアRに対する外力が所定値以下であれば、第1押圧部材31が第1室51の粘性液体を押圧する力も弱いため、第1室51の内圧があまり高まらず、所定値に達しない。第1通路81に設けられた第1弁機構は、第1室51の粘性液体が一方向へ回転しようとする第1押圧部材31に押圧されることにより高まる第1室51の内圧が所定値以下のときは、弁部材が第1通路81を閉鎖して、第1室51の粘性液体が第1通路81を通じて第2室52へ移動することを阻止する。また、第2通路82に設けられた第2弁機構は、第4室54から第3室53への粘性液体の逆流を阻止する。さらに、第4室54の粘性液体は、第1弁機構が開弁しない限り、第3通路83を通じて第1室51へ移動できない。従って、第1押圧部材31,32は一方向へ回転できなくなる。その結果、ドアRの停止状態が保持されることになる。
【0035】
一方、ドアRが意図しない外力を受けることにより、例えば、閉方向へ回動しようとすると、軸20とともに第1押圧部材31,32が逆方向(図1において反時計回り方向)へ回転しようとする。このとき、ドアRに対する外力が所定値以下であれば、第1押圧部材31が第3室53の粘性液体を押圧する力も弱いため、第3室53の内圧があまり高まらず、所定値に達しない。第2通路82に設けられた第2弁機構は、第3室53の粘性液体が逆方向へ回転しようとする第1押圧部材31に押圧されることにより高まる第3室53の内圧が所定値以下のときは、弁部材が第2通路82を閉鎖して、第3室53の粘性液体が第2通路82を通じて第4室54へ移動することを阻止する。また、第1通路81に設けられた第1弁機構は、第2室52から第1室51への粘性液体の逆流を阻止する。さらに、第2室52の粘性液体は、第2弁機構が開弁しない限り、第4通路84を通じて第3室53へ移動できない。従って、第1押圧部材31,32は逆方向へ回転できなくなる。その結果、ドアRの停止状態が保持されることになる。
【0036】
左のドアLが同様な状況にある場合、左のドアLに設けられた運動制御装置は、例えば、ドアLが開方向へ回動しようとすると、ケーシング10とともに第2押圧部材41,42が一方向(図1において反時計回り方向)へ回転しようとする。このとき、ドアLに対する外力が所定値以下であれば、第2押圧部材41が第1室51の粘性液体を押圧する力も弱いため、第1室51の内圧があまり高まらず、所定値に達しない。第1通路81に設けられた第1弁機構は、第1室51の粘性液体が一方向へ回転しようとする第2押圧部材41に押圧されることにより高まる第1室51の内圧が所定値以下のときは、弁部材が第1通路81を閉鎖して、第1室51の粘性液体が第1通路81を通じて第2室52へ移動することを阻止する。また、第2通路82に設けられた第2弁機構は、第4室54から第3室53への粘性液体の逆流を阻止する。さらに、第4室54の粘性液体は、第1弁機構が開弁しない限り、第3通路83を通じて第1室51へ移動できない。従って、第2押圧部材41,42は一方向へ回転できなくなる。その結果、ドアLの停止状態が保持されることになる。
【0037】
一方、ドアLが意図しない外力を受けることにより、例えば、閉方向へ回動しようとすると、ケーシング10とともに第2押圧部材41,42が逆方向(図1において時計回り方向)へ回転しようとする。このとき、ドアLに対する外力が所定値以下であれば、第2押圧部材42が第3室53の粘性液体を押圧する力も弱いため、第3室53の内圧があまり高まらず、所定値に達しない。第2通路82に設けられた第2弁機構は、第3室53の粘性液体が逆方向へ回転しようとする第2押圧部材42に押圧されることにより高まる第3室53の内圧が所定値以下のときは、弁部材が第2通路82を閉鎖して、第3室53の粘性液体が第2通路82を通じて第4室54へ移動することを阻止する。また、第1通路81に設けられた第1弁機構は、第2室52から第1室51への粘性液体の逆流を阻止する。さらに、第2室52の粘性液体は、第2弁機構が開弁しない限り、第4通路84を通じて第3室53へ移動できない。従って、第2押圧部材41,42は逆方向へ回転できなくなる。その結果、ドアLの停止状態が保持されることになる。
【0038】
本実施例において採用した運動制御装置によれば、上記のように任意の位置で停止状態が保持された左右のドアL,Rを意図的に回動させる際には、左右のドアL,Rの停止状態を解除するときに、一時的に大きな外力を要するが、左右のドアL,Rの回動が開始された後は、小さな外力で左右のドアL,Rの回動を継続させることができる。
【0039】
すなわち、例えば、停止状態の右のドアRを意図的に開方向へ回動させるときには、停止状態のドアRに対して大きな外力を加える。それにより、第1室51の粘性液体が第1押圧部材31に強く押圧されることになり、第1室51の内圧が高まる。このとき、第1室51の内圧が所定値を超えると、第1通路81に設けられた第1弁機構は、第1室51の粘性液体が第1通路81を通じて第2室52へ移動することを可能とする。すなわち、第1室51の内圧が所定値を超えたときには、弁部材(弁体91c)が受ける粘性液体の圧力がばね91bの抵抗力よりも大きくなるため、図7に示したように、弁部材(弁体91c及び弁押さえ91d)が開方向へ移動し、粘性液体が第1通路81を通過可能となる。これにより、第1押圧部材32に押圧される第4室54の粘性液体は、第1室51へ移動し、第2室52の粘性液体は、第4通路84を通じて第3室53へ移動する。従って、第1押圧部材31,32は一方向へ回転可能となる。その結果、ドアRの停止状態が解除されることになる。
【0040】
ドアRの回動が開始された後は、弁部材が受ける粘性液体の圧力が低下しても、弁部材(弁押さえ91d)の大きな受圧面が提供されるため、ばね91bの抵抗力によって弁部材が押し戻されることがない。従って、第1押圧部材31,32は一方向への回転を継続することができる。その結果、小さな外力でドアRを回動させることができる。
【0041】
また、第1弁機構は、第1通路81を通過する粘性液体の流量を絞る機能を有するため、ドアRの停止状態が解除された後に、そのドアRが勢いよく回動することを防止することができる。すなわち、粘性液体が弁部材(弁押さえ91d)の外周面と作動室91aの内周面との間に形成される隙間aを通過するときに、第1通路81を通過する粘性液体の流量が絞られることにより、粘性液体に抵抗が生じて第1押圧部材31,32の回転運動を緩慢にさせる。その結果、ドアRに制動力が付与されることになる。
【0042】
一方、停止状態のドアRを意図的に閉方向へ回動させるときには、ドアRを開方向へ回動させるときと同様に、停止状態のドアRに対して大きな外力を加える。それにより、第3室53の粘性液体が第1押圧部材31に強く押圧されることになり、第3室53の内圧が高まる。このとき、第3室53の内圧が所定値を超えると、第2通路82に設けられた第2弁機構は、第3室53の粘性液体が第2通路82を通じて第4室54へ移動することを可能とする。すなわち、第3室53の内圧が所定値を超えたときには、弁部材(弁体92c)が受ける粘性液体の圧力がばね92bの抵抗力よりも大きくなるため、図8に示したように、弁部材(弁体92c及び弁押さえ92d)が開方向へ移動し、粘性液体が第2通路82を通過可能となる。これにより、第1押圧部材32に押圧される第2室52の粘性液体は、第3室53へ移動し、第4室54の粘性液体は、第3通路83を通じて第1室51へ移動する。従って、第1押圧部材31,32は逆方向へ回転可能となり、その結果、ドアRの停止状態が解除されることになる。
【0043】
ドアRの回動が開始された後は、弁部材が受ける粘性液体の圧力が低下しても、弁部材(弁押さえ92d)の大きな受圧面が提供されるため、ばね92bの抵抗力によって弁部材が押し戻されることがない。従って、第1押圧部材31,32は逆方向への回転を継続することができる。その結果、小さな外力でドアRを回動させることができる。
【0044】
また、第2弁機構は、第2通路82を通過する粘性液体の流量を絞る機能を有するため、ドアRの停止状態が解除された後に、そのドアRが勢いよく回動することを防止することができる。すなわち、粘性液体が弁部材(弁押さえ92d)の外周面と作動室92aの内周面との間に形成される隙間bを通過するときに、第2通路82を通過する粘性液体の流量が絞られることにより、粘性液体に抵抗が生じて第1押圧部材31,32の回転運動を緩慢にさせる。その結果、ドアRに制動力が付与されることになる。
【0045】
もっとも、運動制御装置は、特性可変手段を有するため、第1押圧部材31,32の回転範囲のうち、特性可変手段として機能する溝71,72が存する範囲d(図1参照)、すなわち、ドアRが完全に閉じる直前から完全に閉じるまでの動作範囲Pにおいては、特性可変手段の作用により、その他の動作範囲Qよりも粘性液体の圧力(抵抗)を減少させ、ドアRに付与される制動力を小さくすることができる(図9参照)。従って、ドアRを円滑に完全に閉めることができる。
【0046】
一方、停止状態の左のドアLを意図的に開方向へ回動させるときには、停止状態のドアLに対して大きな外力を加える。それにより、第1室51の粘性液体が第2押圧部材41に強く押圧されることになり、第1室51の内圧が高まる。このとき、第1室51の内圧が所定値を超えると、第1通路81に設けられた第1弁機構は、第1室51の粘性液体が第1通路81を通じて第2室52へ移動することを可能とする。すなわち、第1室51の内圧が所定値を超えたときには、弁部材(弁体91c)が受ける粘性液体の圧力がばね91bの抵抗力よりも大きくなるため、図7に示したように、弁部材(弁体91c及び弁押さえ91d)が開方向へ移動し、粘性液体が第1通路81を通過可能となる。これにより、第2押圧部材42に押圧される第4室54の粘性液体は、第1室51へ移動し、第2室52の粘性液体は、第4通路84を通じて第3室53へ移動する。従って、第2押圧部材41,42は一方向へ回転可能となる。その結果、ドアLの停止状態が解除されることになる。
【0047】
ドアLの回動が開始された後は、弁部材が受ける粘性液体の圧力が低下しても、弁部材(弁押さえ91d)の大きな受圧面が提供されるため、ばね91bの抵抗力によって弁部材が押し戻されることがない。従って、第2押圧部材41,42は一方向への回転を継続することができる。その結果、小さな外力でドアLを回動させることができる。
【0048】
また、第1弁機構は、第1通路81を通過する粘性液体の流量を絞る機能を有するため、ドアLの停止状態が解除された後に、そのドアLが勢いよく回動することを防止することができる。すなわち、粘性液体が弁部材(弁押さえ91d)の外周面と作動室91aの内周面との間に形成される隙間aを通過するときに、第1通路81を通過する粘性液体の流量が絞られることにより、粘性液体に抵抗が生じて第2押圧部材41,42の回転運動を緩慢にさせる。その結果、ドアLに制動力が付与されることになる。
【0049】
一方、停止状態の左のドアLを意図的に閉方向へ回動させるときには、ドアLを開方向へ回動させるときと同様に、停止状態のドアLに対して大きな外力を加える。それにより、第3室53の粘性液体が第2押圧部材42に強く押圧されることになり、第3室53の内圧が高まる。このとき、第3室53の内圧が所定値を超えると、第2通路82に設けられた第2弁機構は、第3室53の粘性液体が第2通路82を通じて第4室54へ移動することを可能とする。すなわち、第3室53の内圧が所定値を超えたときには、弁部材(弁体92c)が受ける粘性液体の圧力がばね92bの抵抗力よりも大きくなるため、図8に示したように、弁部材(弁体92c及び弁押さえ92d)が開方向へ移動し、粘性液体が第2通路82を通過可能となる。これにより、第2押圧部材41に押圧される第2室52の粘性液体は、第3室53へ移動し、第4室54の粘性液体は、第3通路83を通じて第1室51へ移動する。従って、第2押圧部材41,42は逆方向へ回転可能となり、その結果、ドアLの停止状態が解除されることになる。
【0050】
ドアLの回動が開始された後は、弁部材が受ける粘性液体の圧力が低下しても、弁部材(弁押さえ92d)の大きな受圧面が提供されるため、ばね92bの抵抗力によって弁部材が押し戻されることがない。従って、第2押圧部材41,42は逆方向への回転を継続することができる。その結果、小さな外力でドアLを回動させることができる。
【0051】
また、第2弁機構は、第2通路82を通過する粘性液体の流量を絞る機能を有するため、ドアLの停止状態が解除された後に、そのドアLが勢いよく回動することを防止することができる。すなわち、粘性液体が弁部材(弁押さえ92d)の外周面と作動室92aの内周面との間に形成される隙間bを通過するときに、第2通路82を通過する粘性液体の流量が絞られることにより、粘性液体に抵抗が生じて第2押圧部材41,42の回転運動を緩慢にさせる。その結果、ドアLに制動力が付与されることになる。
【0052】
ここで、左のドアLに設けられる運動制御装置も、右のドアRに設けられる運動制御装置と同様に、特性可変手段を有するため、第2押圧部材41,42の回転範囲のうち、特性可変手段として機能する溝71,72が存する範囲d(図1参照)、すなわち、ドアLが完全に閉じる直前から完全に閉じるまでの動作範囲Pにおいては、特性可変手段の作用により、その他の動作範囲Qよりも粘性液体の圧力(抵抗)を減少させ、ドアLに付与される制動力を小さくすることができる(図9参照)。従って、ドアLを円滑に完全に閉めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の一実施例に係る取付方法おいて採用した運動制御装置の内部構造を示す図である。
【図2】図1におけるA−A部断面図である。
【図3】図1におけるB−B部部分断面図である。
【図4】図1におけるC−C部部分断面図である。
【図5】図2におけるA−A部部分断面図であって、第1及び第2弁機構を構成する弁部材及びばねを取り除いた状態を示す図である。
【図6】図1におけるD−D部部分断面図である。
【図7】第1弁機構の作用を説明するための図である。
【図8】第2弁機構の作用を説明するための図である。
【図9】運動制御装置の取付方法を説明するための図である。
【図10】図9におけるA部拡大図である。
【図11】図9におけるB部拡大図である。
【図12】運動制御装置を右のドアに取り付けた状態を示す図である。
【図13】運動制御装置を左のドアに取り付けた状態を示す図である。
【符号の説明】
【0054】
10 ケーシング
11 筒体
12 上蓋
12a 孔部
13 下蓋
14 内壁
14a 凹部
20 軸
31,32 第1押圧部材
41,42 第2押圧部材
51 第1室
52 第2室
53 第3室
54 第4室
61〜64 シール部材
71,72 溝(特性可変手段)
81 第1通路
82 第2通路
83 第3通路
83a 穴
83b 溝
84 第4通路
84a 穴
84b 溝
91a,92a 作動室
91b,92b ばね
91c,92c 弁体
91d,92d 弁押さえ
101 第1アーム
102 第2アーム
R 右のドア
L 左のドア
B 車体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
運動制御装置を自動車のドアに取り付ける方法であって、
前記運動制御装置は、
ケーシングが固定され、軸が回転するときは、軸とともにケーシング内で回転し、粘性液体を押圧する第1押圧部材と、
軸が固定され、ケーシングが回転するときは、ケーシングとともにケーシング内で回転し、粘性液体を押圧する第2押圧部材と、
第1及び第2押圧部材の回転方向によって制動特性を異ならせる特性可変手段とを有するものであり、
前記運動制御装置の軸の中心をドアの回転中心と一致させた状態で、該軸を第1アームを介して車体又はドアのいずれか一方に連結し、
前記運動制御装置のケーシングを第2アームを介して車体又はドアのいずれか他方に連結することを特徴とする方法。
【請求項1】
運動制御装置を自動車のドアに取り付ける方法であって、
前記運動制御装置は、
ケーシングが固定され、軸が回転するときは、軸とともにケーシング内で回転し、粘性液体を押圧する第1押圧部材と、
軸が固定され、ケーシングが回転するときは、ケーシングとともにケーシング内で回転し、粘性液体を押圧する第2押圧部材と、
第1及び第2押圧部材の回転方向によって制動特性を異ならせる特性可変手段とを有するものであり、
前記運動制御装置の軸の中心をドアの回転中心と一致させた状態で、該軸を第1アームを介して車体又はドアのいずれか一方に連結し、
前記運動制御装置のケーシングを第2アームを介して車体又はドアのいずれか他方に連結することを特徴とする方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2007−113760(P2007−113760A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−308521(P2005−308521)
【出願日】平成17年10月24日(2005.10.24)
【出願人】(000198271)株式会社ソミック石川 (91)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年10月24日(2005.10.24)
【出願人】(000198271)株式会社ソミック石川 (91)
【Fターム(参考)】
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