説明

運動案内装置

【課題】
案内軸の表面に付着した液体異物を確実に吸収して当該液体異物の前記移動部材内部への侵入を防止し、もって転動体や転走面等の早期磨耗を軽減することが可能な運動案内装置を提供する。
【解決手段】
複数の転動体と、長手方向に沿って前記転動体の転走面が形成された案内軸と、この案内軸に複数の転動体を介して組み付けられると共に内部に当該転動体の無限循環路を備えた移動部材と、この移動部材の移動方向の前後両端に装着されると共に前記案内軸に密着するシールリップ部を備えた一対のシール部材と、このシール部材の外側に配置されると共に前記移動部材の移動に伴って案内軸の表面に付着した液体を吸収する一次吸収体と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば直線案内装置やボールねじ装置、ボールスプライン装置等、ボール又はローラ等の転動体を介して案内軸と移動部材とが相対的に移動自在に係合した運動案内装置に関する。
【0002】
この種の運動案内装置としては、多数のボールを介してスプライン軸とナット部材とが相対的に直線運動自在に組み合わされ、産業用ロボットにおけるトルク伝達部等に使用されるボールスプライン装置や、工作機械や搬送装置等の直線案内機構に使用され、ベッド又はサドル等の固定部上でテーブル等の可動体を案内する直線案内装置等が知られている。
【0003】
前記直線案内装置は、複数の転動体と、長手方向に沿って転動体の転走面が形成された案内軸と、多数の転動体を介して前記案内軸の転走面と対向する負荷転走面を有すると共に、この負荷転走面を転走する転動体の無限循環路が設けられた移動部材とからなり、前記転動体が案内軸の転走面と移動部材の負荷転走面との間で荷重を負荷しながら転走することにより、可動体を支持した移動部材が案内軸に沿って直線運動することが可能となっている。
【0004】
このように構成された直線案内装置においては、前記転動体が案内軸の転走面と移動部材の負荷転走面との間で荷重を負荷しながら転走しているため、転動体自体の磨耗や前記転走面及び負荷転走面の磨耗が生じてしまい、その結果、前記移動部材の走行精度が低下してしまうことがある。そこで、前記直線案内装置では転動体自体の磨耗や前記転走面及び負荷転走面の磨耗を抑えるため、潤滑油供給部材を設けて、これら転動体、転走面及び負荷転走面に対して潤滑油が供給している。その一方で、前記案内軸の表面に付着したワークの削り屑や塵芥等の異物が前記移動部材の内部に侵入するのを防止するため、当該移動部材の移動方向の前後両端に前記案内軸に密着するシールリップ部を備えた一対のシール部材を設けている。
【0005】
一方、前記案内軸の表面に付着した異物の移動部材内への侵入を防止するだけでなく、当該異物を除去するという異物除去手段の提案がなされており、その具体的手段の一例としては、特開2008-175316号公報に開示されているものが知られている。この異物除去手段は前記シール部材の外側に配置され、案内軸に摺接するローラー部材と、このローラー部材に従動して回転すると共にブラシ状に形成された除去部材とから構成されている。この構成からなる異物除去手段を備えた直線案内装置では、前記移動部材の移動に伴って前記除去部材が回転し、これにより前記案内軸の表面に付着した異物が外方に向けて掃き出されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008-175316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記直線案内装置が多用される工作機械においては、加工対象であるワークの発熱を抑えるため目的で強アルカリ性のクーラント液を使用していることが多い。かかる使用環境下では、前記案内軸の表面にクーラント液が降りかかり、この案内軸の表面に付着したクーラント液がウレタンゴム等の合成ゴムで形成された前記シール部材のシールリップ部を腐食してしまうおそれがあった。仮に、そのような腐食が生じると、前記シールリップ部の腐食部分からクーラント液が前記案内軸を介して移動部材の内部に侵入して前記転動体や転走面等の表面に付着している潤滑油を洗い流してしまい、もって転動体や転走面等の早期磨耗を招いてしまう。
【0008】
このようなクーラント液が残留した環境下で、前記特開2008-175316号公報に開示されている異物除去手段を用いた場合、ワークの削り屑や塵芥等の固体異物を除去することは可能であるが、クーラント液のような液体異物を確実に除去することはできない。このように、クーラント液等の液体異物を除去することができない以上、当該液体異物が前記案内軸を介して移動部材の内部に侵入してしまい、やはり転動体や転走面等の早期磨耗を招いてしまうおそれがあった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明はこのような課題に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、案内軸の表面に付着した液体異物を確実に除去して当該液体異物の前記移動部材内部への侵入を防止し、もって転動体や転走面等の早期磨耗を軽減することが可能な運動案内装置を提供することにある。
【0010】
前記目的を達成するために、本発明の運動案内装置は、複数の転動体と、長手方向に沿って前記転動体の転走面が形成された案内軸と、この案内軸に複数の転動体を介して組み付けられると共に内部に当該転動体の無限循環路を備えた移動部材と、この移動部材の移動方向の前後両端に装着されると共に前記案内軸に密着するシールリップ部を備えた一対のシール部材と、このシール部材の外側に配置されると共に前記移動部材の移動に伴って案内軸の表面に付着した液体を吸収する一次吸収体と、を備えている。
【発明の効果】
【0011】
このような本発明の運動案内装置によれば、前記移動部材の前後両端に装着されたシール部材の外側に前記案内軸の表面に付着した液体を吸収する一次吸収体を設けているため、前記移動部材が案内軸に沿って移動すると、当該移動部材の移動に先行して前記一次吸収体が前記案内軸の表面に付着した液体を吸収するようになる。このため、前記案内軸の表面に付着した液体異物によって前記シール部材のシールリップ部が腐食することを防ぐことができ、ひいては前記案内軸を介して前記移動部材の内部に侵入することを防止することができる。その結果、転動体や転走面等に付着している潤滑油の流出によるこれら転動体や転走面等の早期磨耗を軽減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の吸収部材を適用可能な運動案内装置の一例を示す分解斜視図である。
【図2】本発明の吸収部材の第一実施形態を示す正面断面図である。
【図3】図2のIII−III線断面図である。
【図4】本発明の吸収部材の第二実施形態を示す概要図である。
【図5】図4に示す吸収部材の正面断面図である。
【図6】本発明の吸収部材の第三実施形態を示す概要図である。
【図7】本発明の吸収部材の第四実施形態を示す概要図である。
【図8】本発明の吸収部材の第五実施形態を示す概要図である。
【図9】本発明の吸収部材の第六実施形態を示す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照しながら本発明の運動案内装置を詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明を適用した運動案内装置の一例としての直線案内装置を示す分解斜視図である。この直線案内装置は、長手方向に沿って転動体としてのボール3が転走するボール3の転走面11が形成された案内軸としての軌道レール1と、前記ボール3を介して軌道レール1に組み付けられると共に内部に前記ボール3の無限循環路を備えた移動部材としての移動ブロック2と、この移動ブロック2の移動方向の前後両端に固定されると共に当該移動ブロック2の移動に伴って軌道レール1の表面に潤滑油を塗布する一対の潤滑油供給部材4と、前記軌道レール1に密着するシールリップ部51を備えて前記潤滑油供給部材4の外側に配置された一対のシール部材5と、このシール部材5の外側に配置されると共に前記移動ブロック2の移動に伴って軌道レール1の表面に付着した液体異物を吸収する吸収部材6とから構成されており、前記ボールの循環に伴って前記移動ブロック2が軌道レール1上を往復運動するようになっている。尚、図1では前記潤滑油供給部材4、シール部材5及び吸収部材6の配置構成を簡易に表すため、前記移動ブロック2の一端部の前記潤滑油供給部材4、シール部材5及び吸収部材6を描いている。
【0015】
前記軌道レール1は断面略矩形状に形成されており、前記ボール3が転走する転走面11a,11bが長手方向に沿って計4条形成されている。前記転走面11aは前記軌道レール1の上面に形成されている一方、前記転走面11bは軌道レール1の両側面に形成されている。
【0016】
一方、前記移動ブロック2は、前記軌道レール1の各転走面11a、11bと対向してボール3の負荷通路を形成する負荷転走面及び前記ボール3を循環させるためのボール戻し孔を備えたブロック本体21と、このブロック本体21の前後両端面に固定される一対のエンドプレート22とから構成されている。かかるエンドプレート22には、前記負荷通路からボール3を掬い上げて前記ブロック本体21のボール戻し孔に送り込む一方、このボール戻し孔から前記負荷通路へボール3を送り込む方向転換路を備えている。このような一対のエンドプレート22を前記移動ブロック本体21に固定することにより、前記移動ブロック2にボール3の無限循環路が完成するようになっている。尚、無限循環路内のボール3同士は、かかるボール3同士の整列状態を維持するため、合成樹脂製のベルトによって保持されている。
【0017】
また、前記エンドプレート22には前記ボール3の無限循環路に対して潤滑油を供給するための給油口23が設けられており、かかる給油口23には前記潤滑油供給部材4、シール部材5及び吸収部材6を介して供給ニップルが装着されるようになっている。更に、前記潤滑油供給部材4、シール部材5及び吸収部材6は固定ボルト24によって各エンドプレート22の上から前記移動ブロック2に装着される。
【0018】
尚、図1に示す直線案内装置では、転動体としてボールを用いているが、転動体としてローラを用いても差し支えない。
【0019】
図2乃至図9は、前記吸収部材6の実施形態を示すものである。図2は当該吸収部材6の第一実施形態を示す正面断面図であり、図3は図2のIII−III線断面図である。本実施形態の吸収部材6は、図示のように、前記シール部材5に固定されるハウジング61と、このハウジング61内に収容されると共に前記軌道レール1に摺接して当該軌道レール1の表面に付着した液体異物を吸収する一次吸収体としての吸収体62と、前記軌道レール1に接触することなく前記吸収体62と共に前記ハウジング61内に収容され、当該吸収体62が吸収した液体異物を吸収して貯蔵する二次吸収体としての吸収体タンク63とから構成されている。
【0020】
前記吸収体62には、前記軌道レール1の表面に付着した液体異物を確実に吸収することができるよう、毛細管現象による液体異物の移動が生じ易い材質、例えばフェルト等の不織布や発泡ポリウレタン等の多孔質体が適している。一方、前記吸収体タンク63には、毛細管現象による前記吸収体62が吸収した液体異物の移動が生じ易い材質、例えばフェルト等の不織布や発泡ポリウレタン等の多孔質体が適している。ここで、前記吸収体タンク63は前記吸収体62が吸収した液体異物を吸収貯蔵することから、かかる吸収体タンク63の空隙率は吸収体62のそれよりも高いことが必要である。
【0021】
この吸収部材6を運動案内装置に適用した場合、当該吸収部材6は図3の矢線A方向、すなわち、前記移動ブロック2の移動方向に対して最前面に固定されているため、かかる移動ブロック2の移動に先行して前記吸収部材6の吸収体62が前記軌道レール1の表面上を摺接することになる。
【0022】
従って、前記吸収体62が軌道レール1の表面に付着した液体異物だけでなく、微細粉等の固形異物をも吸収することになる。かかる場合、前記吸収体62が固形異物を過剰に吸収すると、当該吸収体62が目詰まりしてしまい、異物吸収手段として機能しなくなってしまうおそれがある。
【0023】
そこで、本実施形態の吸収部材6では、前記吸収体62の軌道レール1との接触端に、前記軌道レール1の表面に付着した微細粉等の固形異物を取り除くための固形物除去フィルター64が設けられている。この固形物除去フィルター64は、前記移動ブロック2の移動方向外側に設けられており、前記軌道レール1の表面に付着した微細粉等の固形異物を取り除くことができるよう、前記吸収体62に比べて、目が細かくなっている。
【0024】
このように構成された固形物除去フィルター64と前記吸収体62は、図2に示すように、前記軌道レール1の各転走面11a、11b内に入り込むように構成されている。すなわち、これら固形物除去フィルター64及び吸収体62は、軌道レール1の上面及び両側面に隙間なく摺接している。
【0025】
尚、本実施形態の吸収部材6では、上記理由により吸収体62に対して固形物除去フィルター64を設けているが、使用環境下によって、すなわち、軌道レール1の表面に付着する異物の種類によって、それに適した固形物除去フィルター64を選定することができることは勿論のこと、固形物除去フィルター64を設けなくとも差し支えない。
【0026】
本実施形態の吸収部材6によれば、前記移動ブロック2の移動に伴って当該吸収部材6が移動すると、前記吸収体62が軌道レール1の表面に付着したクーラント液等の液体異物を吸収することになる。このため、前記軌道レール1の表面に付着した液体異物が前記シール部材5のシールリップ部51に到達することがなく、液体異物によるシールリップ部51の腐食を防止することができる。
【0027】
尚、本実施形態において、前記吸収体タンク63の容量が前記直線案内装置の寿命に対して少ない場合には、前記ハウジング61に液体異物吸収孔を設け、この液体異物吸収孔から前記吸収体タンク63に吸収保持された液体異物を定期的に吸い取るようにしても差し支えない。その一方で、前記液体異物吸収孔を設けることが困難である場合には、上記構成からなる吸収体タンク63の長手方向の長さを長く設定し、当該吸収体タンク63の容量を増加させても差し支えない。
【0028】
図4及び図5は前記吸収部材の第二実施形態を示す概要図である。本実施形態の吸収部材7は、前記シール部材5に固定されるハウジング71と、このハウジング71に収容されると共に前記軌道レール1の表面に摺接して当該軌道レール1の表面の付着した液体異物を吸収する回転吸収体としての無端状の吸収ベルト72と、この吸収ベルト72と共に前記ハウジング71に収容され、当該吸収ベルト72が架け回される回転ローラー73と、前記ハウジング71に収容されると共に前記吸収ベルト72から液体異物を排出させる排出手段としての排出ローラー74とから構成されている。
【0029】
前記吸収ベルト72には、前記軌道レール1の表面に付着した液体異物を確実に吸収することができるよう、毛細管現象による液体異物の移動が生じ易い材質、例えば発泡ポリウレタン等の多孔質体が適している。
【0030】
前記回転ローラー73は前記ハウジング71内に回転自在に軸支された軸73aと、この軸73aの周囲に設けられたローラー部73bとから構成されている。この回転ローラー73は軌道レール1の上面及び両側面に配置されており、各回転ローラー73のローラー部73bは図5に示すように、軌道レール1の上面及び両側面の形状に倣うように形成されている。すなわち、前記ローラー部73bは前記軌道レール1の転走面11a、11bに入り込むように形成されている。
【0031】
このことから、前記回転ローラー73に架け回された吸収ベルト72は、当該回転ローラー73によって前記軌道レール1の表面に押圧され、かかる軌道レール1の表面に隙間なく摺接するようになっている。それ故、前記吸収ベルト72は前記軌道レール1の表面に付着した液体異物を確実に吸収することが可能となっている。
【0032】
一方、前記排出ローラー74は、前記吸収ベルト72が架け回される小径ローラー74aと、当該小径ローラー74aよりも大径に形成された大径ローラー74bとから構成されている。これら小径ローラー74a及び大径ローラー74bは前記ハウジング71内に回転自在に軸支されると共に、前記軌道レール1の表面と接触しないように配置されている。
【0033】
また、前記小径ローラー74a及び大径ローラー74bは、前記吸収ベルト72を挟み込むとようになっている。このため、前記小径ローラー73aに架け回された吸収ベルト72は、当該小径ローラー74aと大径ローラー74bとの間で、これら小径ローラー74a及び大径ローラー74bによって押圧されることになる。
【0034】
このように構成された本実施形態の吸収部材7では、前記軌道レール1に沿って移動ブロック2が矢線A方向に移動すると、前記軌道レール1の表面に摺接している吸収ベルト72が前記回転ローラー73を連れ回しながら矢線B方向に回転する。このとき、前記吸収ベルト72は前記回転ローラー73に押圧されて前記軌道レール1の表面に対して隙間なく摺接しているので、当該表面に付着した液体異物を確実に吸収することが可能となる。
【0035】
一方、前記吸収ベルト72の回転に連れ回されて、前記小径ローラー74aが矢線C方向に回転することになり、この小径ローラー74aの回転に従動して、前記大径ローラー74bが矢線D方向に回転することになる。このとき、液体異物を吸収した吸収ベルト72は前記排出ローラー74の小径ローラー74aと大径ローラー74bとの間で押圧される。この押圧により、前記吸収ベルト72に吸収された液体異物は当該吸収ベルト72から排出され、この排出された液体異物は図示外の排出ガータによって前記吸収部材7外へと排出される。
【0036】
ここで、前記小径ローラー74aと大径ローラー74bは、前記軌道レール1の表面と接触しないように配置されているため、これら小径ローラー74aと大径ローラー74bにより前記吸収ベルト72から排出された液体異物が再度軌道レール1の表面に付着することはない。
【0037】
図6は前記吸収部材の第三実施形態を示す概要図である。本実施形態の吸収部材8は、固定されるハウジング、吸収ベルト及び回転ローラーの構成に関して、前記吸収部材7と同一の構成を有している。このため、これら固定されるハウジング、吸収ベルト及び回転ローラーに関しては同一の符号を付すと共にその説明を省略する。一方で、前記吸収部材7では吸収ベルトに吸収された液体異物を排出させる排出手段を設けているのに対して、前記吸収部材8では吸収ベルトに吸収された液体異物を吸収貯蔵する吸収貯蔵手段を設けている。この構成に関して、両吸収部材は異なる。
【0038】
前記吸収手段81は、図6に示すように、前記吸収ベルト72が架け回された一対の吸収補強ローラー82と、これら一対の吸収補強ローラー82間に架け回された吸収ベルト72に摺接すると共に当該吸収ベルト72から液体異物を吸収する吸収ローラー83とから構成されている。
【0039】
前記吸収ローラー83は、前記ハウジング71に回転自在に軸支された軸83aと、この軸83aの周囲に設けられたローラー部83bとから構成されている。このような吸収ローラー83は、吸収した液体異物が前記軌道レール1の表面に再び付着しないよう、当該軌道レール1の表面に接触しないように配置されている。
【0040】
前記ローラー部83bには、前記吸収ベルト72が吸収した液体異物を確実に吸収することができるよう、毛細管現象による液体異物の移動が生じ易い材質、例えばフェルト等の不織布や発泡ポリウレタン等の多孔質体が適している。ここで、前記ローラー部83bは前記吸収ベルト72が吸収した液体異物を吸収貯蔵することから、かかるローラー部83bの空隙率は吸収ベルト72のそれよりも高いことが必要である。
【0041】
ここで、本実施形態において前記吸収補強ローラー82を二つ設けた理由としては、この構成とすることで、一対の吸収補強ローラー82間に架け回された吸収ベルト72と前記吸収ローラー83との接触面積を長くとることが可能となるからである。これによって、前記吸収ベルト72から吸収ローラー82への毛細管現象による液体異物の移動をより確実に確保することができる。
【0042】
このような構成からなる吸収部材8では、前記移動ブロック2が矢線A方向に移動すると、前記軌道レール1の表面に付着した液体異物を吸収した吸収ベルト72は前記回転ローラー73及び一対の吸収補強ローラー82を連れ回しながら、矢線B方向に回転することになる。この吸収ベルト72の回転に従動して前記吸収ローラー83も矢線C方向に回転する。このとき、これら吸収補強ローラー82の間では、前記吸収ベルト72が前記吸収ローラー83に摺接しているので、かかる吸収ベルト72に吸収された液体異物が毛細管現象により前記吸収ローラー83へと移動し、貯蔵されることになる。
【0043】
このように、本実施形態の吸収部材8では、前記吸収ベルト72が吸収した液体異物が前記吸収ローラー82に吸収貯蔵されるようになっているため、液体異物を吸収していない吸収ベルト72が常に前記軌道レール1の表面に摺接することになる。それ故、当該吸収部材8によれば、前記軌道レール1の表面に付着した液体異物を確実に吸収することが可能となる。
【0044】
尚、本実施形態において、前記吸収ローラー82の容量が前記直線案内装置の寿命に対して少ない場合には、当該吸収ローラー82の径を大径化し、当該吸収ローラー82の容量を増加させても差し支えない。
【0045】
図7は前記吸収部材の第四実施形態を示す概要図である。本実施形態の吸収部材9は、固定されるハウジング、吸収ベルト及び回転ローラーの構成に関して、前記吸収部材7と同一の構成を有している。このため、これら固定されるハウジング、吸収ベルト及び回転ローラーに関しては同一の符号を付すと共にその説明を省略する。その一方で、前記吸収部材7と本実施形態の吸収部材9とでは以下の構成について異なる構成を有する。
【0046】
前記吸収部材9は、図7に示すように、前記液体異物を吸収していない吸収ベルト72が巻かれている送出し軸91と、前記液体異物を吸収した吸収ベルト72を巻き取る巻取り軸92とを有している。これら送出し軸91及び巻取り軸92は前記ハウジング71に対して回転自在に軸支されている。また、前記回転ローラー73の軸73aと巻取り軸92には、互いの回転を同期させるための同期ベルト93が架け回されると共に、前記吸収ベルト72の巻取り方向を一方向とするため、逆転防止機構が具備されている。
【0047】
これら送出し軸91及び巻取り軸92を有する本実施形態の吸収部材9によれば、前記移動ブロック2が軌道レール1に沿って矢線A方向に移動すると、当該軌道レール1の表面に摺接する吸収ベルト72が前記回転ローラー73を連れ回しながら矢線B方向に移動し、軌道レール1の表面に付着した液体異物を吸収する。この吸収ベルト72の回転に伴って、前記送出し軸91から前記液体異物を吸収していない吸収ベルト72が引き出されていく。その一方で、前記吸収ベルト72の回転に伴って、前記同期ベルト93が架け回されている巻取り軸92も回転し、当該巻取り軸92が前記液体異物を吸収した吸収ベルト72を巻き取ることになる。
【0048】
このように、液体異物を吸収した吸収ベルト72は前記巻取り軸92によって巻き取られる一方、液体異物を吸収していない吸収ベルト72が常に前記軌道レール1の表面に摺接することになる。このため、本実施形態の吸収部材9によれば、前記吸収ベルト72が前記軌道レール1の表面に付着した液体異物を確実に吸収することが可能となる。
【0049】
図8は前記吸収体の第五実施形態を示す概要図である。本実施形態の吸収部材100は、前記シール部材5に固定されるハウジング101と、このハウジング101内に収容されると共に前記軌道レール1の表面に摺接しながら当該軌道レール1の表面に付着した液体異物を吸収し貯蔵する回転吸収体としての吸収貯蔵ローラー102と、この吸収貯蔵ローラー102に押し当てられ、かかる吸収貯蔵ローラー102から液体異物を排出させる排出手段としての排出ローラー103とから構成されている。
【0050】
前記吸収貯蔵ローラー102は連続気泡を有する多孔質体、例えば発泡ポリウレタン等で構成されており、前記ハウジング101に回転自在に軸支された軸102aと、この軸102aの周囲に設けられた吸収貯蔵部102bとから構成されている。
【0051】
前記吸収貯蔵ローラー102は図5に示す回転ローラー73と同様に、軌道レール1の上面及び両側面に配置されている。そして、各吸収貯蔵ローラー102の吸収貯蔵部102bは図5に示すように、前記転走面11a、11bに入り込むように形成されている、すなわち、当該吸収貯蔵部102bは前記軌道レール1の表面に隙間なく摺接するようになっている。このため、前記軌道レール1の表面に付着した液体異物を確実に吸収することが可能となっている。
【0052】
一方、前記排出ローラー103は前記ハウジング101に軸支されており、略円柱状に形成されている。また、当該排出ローラー103は前記吸収貯蔵ローラー102に比べ、硬度の高い材料から構成されており、変形しにくい部材である。それ故、前記排出ローラー103は前記吸収貯蔵ローラー102を押しつぶすことができ、もってかかる吸収貯蔵ローラー102に吸収された液体異物を排出させることができる。
【0053】
このように構成された吸収部材100では、前記移動ブロック2が矢線A方向に移動すると、前記軌道レール1の表面に隙間なく摺接した吸収貯蔵ローラー102が矢線B方向に回転し、前記軌道レール1の表面に付着した液体異物を吸収することになる。その一方で、この液体異物を吸収した吸収貯蔵ローラー102に対して前記排出ローラー103が押し当てられ、当該吸収貯蔵ローラー102から液体異物が排出されることになる。この排出された液体異物は図示外の排出ガータによって吸収部材100の外部へと排出される。
【0054】
図9は前記吸収部材の第六実施形態を示す概要図である。本実施形態の吸収部材200は上記第五実施形態を変形させたものであり、前記ハウジング101、吸収貯蔵ローラー102及び排出ローラー103に関しては同一の構成を有している。このため、これらハウジング101、吸収貯蔵ローラー102及び排出ローラー103については、同一の符号付してその説明を省略する。一方、本実施形態の吸収部材200と前記吸収部材100とでは以下構成に関して差異が存在する。
【0055】
本実施形態の吸収部材200は、前記吸収貯蔵ローラー102の表層面を削り取るスクレーパ201と、このスクレーパ201によって削り取られた吸収ローラー片204を貯蔵するローラー片タンク202と、前記吸収貯蔵ローラー102を前記軌道レール1の表面に向けて付勢するスプリング部材203とを有している。
【0056】
前記スクレーパ201は前記ハウジング101内に固定されている。当該スクレーパ201の一端には尖塔状の刃部が設けられており、この刃部を前記吸収貯蔵ローラー102の外周面に押し当てることにより、当該吸収貯蔵ローラー102の表層面を削り取るようにしている。この刃部は前記吸収貯蔵ローラー102の外径形状に倣うように形成されている。
【0057】
前記ローラー片タンク202は前記スクレーパ201と同様に、前記ハウジング101内に固定されている。このローラー片タンク202は前記スクレーパ201によって削り取られたローラー片204を貯蔵することができるよう、当該スクレーパ201側に向けて開放された箱体として形成されている。一方、前記スプリング部材203は、前記軌道レール1の表面と対向する前記ハウジング101の内側面に固定され、前記吸収貯蔵ローラー102を前記軌道レール1の表面に向けて付勢している。
【0058】
この吸収部材200では、前記移動ブロック2が軌道レール1に沿って矢線A方向に移動すると、当該軌道レール1の表面に隙間なく摺接した吸収貯蔵ローラー102が矢線B方向に回転し、かかる軌道レール1の表面に付着した液体異物を吸収することになる。その後、液体異物を吸収した吸収貯蔵ローラー102の表層面は前記スクレーパ201によって削り取られ、このスクレーパ201によって削り取られたローラー片204は前記ローラー片タンク202内に貯蔵される。
【0059】
このように、本実施形態の吸収部材200では、液体異物が吸収された吸収貯蔵ローラー102の表層面が前記スクレーパ201によって削り取られるため、当該吸収部材200の経時的な使用によって前記吸収貯蔵ローラー102が徐々に小径化していくことになる。この構成では前記吸収貯蔵ローラー102が前記軌道レール1の表面に隙間なく摺接しなくなってしまう恐れがある。そこで、当該吸収部材100では前記スプリング部材203を設けて、前記軌道レール1の表面と前記吸収貯蔵ローラー102の外周面とが常に摺接するように構成している。
【0060】
このような構成からなる吸収部材200によれば、前記第五実施形態と同様に、前記液体異物が吸収・排出され、更に、液体異物が吸収された吸収貯蔵ローラー102の表層面が前記スクレーパ201により削り取られるため、常に液体異物吸収していない吸収貯蔵ローラー102面が前記軌道レール1の表面に摺接することになる。それ故、前記吸収貯蔵ローラー102に対して過剰に液体異物が吸収されることがなく、液体異物による目詰まりの発生を防止することができる。その結果、前記移動ブロック2の移動を円滑にすることができる。
【0061】
上記吸収体の第二実施形態乃至第六実施形態では、回転吸収体が前記移動ブロック2の移動に伴って前記軌道レール1の表面に摺接しながら回転するように構成されているが、当該回転吸収体に対してギア等の減速手段を設けて、かかる回転吸収体の周速度を前記移動ブロック2の移動速度と異なるように構成しても差し支えない。
【0062】
以上のように構成された各実施形態の吸収部材は、直線案内装置において、前記シール部材の外側に配置されているため、前記移動ブロックが軌道レールに沿って移動すると、前記吸収部材が移動ブロックの移動に先行して前記軌道レールの表面に付着した液体異物を吸収することになる。
【0063】
従って、前記軌道レールの表面に付着した液体異物が前記シール部材のシールリップ部まで到達せずに前記吸収部材によって吸収されることになる。このため、当該液体異物が前記軌道レールを介して移動ブロックの内部に侵入することを防止することができ、もって前記ボールや転走面等の表面に付着している潤滑油の流出によるボールや転走面等の早期磨耗を軽減することが可能となる。
【0064】
尚、上記説明では本発明の吸収部材を直線案内装置に適用したものを説明してきたが、本発明の吸収部材はボールスプライン装置やボールねじ装置等にも適用することが可能である。
【0065】
また、図1に示す直線案内装置では、前記移動ブロック2とシール部材5の間に潤滑油供給部材4を設けているが、かかる潤滑油供給部材4を設けなくとも差し支えない。
【符号の説明】
【0066】
1…軌道レール(案内軸)、11…転走面、2…移動ブロック(移動部材)、3…ボール(転動体)、4…潤滑油供給部材、5…シール部材、6…吸収部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の転動体と、長手方向に沿って前記転動体の転走面が形成された案内軸と、この案内軸に複数の転動体を介して組み付けられると共に内部に当該転動体の無限循環路を備えた移動部材と、この移動部材の移動方向の前後両端に装着されると共に前記案内軸に密着するシールリップ部を備えた一対のシール部材と、このシール部材の外側に配置されると共に前記移動部材の移動に伴って案内軸の表面に付着した液体を吸収する一次吸収体と、を備えたことを特徴とする運動案内装置。
【請求項2】
前記一次吸収体は、前記案内軸の表面を転動しながら当該案内軸の表面から液体を吸い取る回転吸収体であることを特徴とする請求項1記載の運動案内装置。
【請求項3】
前記回転吸収体は、多孔質体から形成されたローラであることを特徴とする請求項2記載の運動案内装置。
【請求項4】
前記回転吸収体は、前記案内軸の表面を転動すると共に複数本の回転支軸に架け回されたベルト状部材であることを特徴とする請求項2記載の運動案内装置。
【請求項5】
前記回転吸収体の周速度が前記移動部材の移動速度と異なる速度で設定されていることを特徴とする請求項2乃至請求項4記載の運動案内装置。
【請求項6】
前記一次吸収体には、当該吸収体に保持された液体を排出させる排出手段が設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の運動案内装置。
【請求項7】
前記案内軸に接触することなく前記一次吸収体が保持する液体を吸い取って貯蔵する二次吸収体を備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の運動案内装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−106654(P2011−106654A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−265317(P2009−265317)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【出願人】(390029805)THK株式会社 (420)
【Fターム(参考)】