説明

運動案内装置

【課題】転動体保持体をターン内側に引き込む力と外側へ突き出す力との差を少なくできる運動案内装置を提供する。
【解決手段】転動体保持体10は、複数の転動体3それぞれの進行方向の左右の両側に配置され、それぞれの転動体3を回転可能に保持する転動体保持部12と、複数の転動体保持部12を連結する連結部14と、を有する。負荷転動体転走路及び無負荷戻し路では、転動体保持体10が負荷転動体転走路及び前記無負荷戻し路に沿って伸び、転動体保持体10に保持される進行方向の前後の転動体3が離れる。方向転換路では、転動体保持体10の連結部14が方向転換路に沿って曲がり、進行方向の前後の転動体3が接触する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テーブル等の可動部がベッド等の固定部に対して直線運動又は曲線運動するのを案内するリニアガイド、ボールスプライン等の運動案内装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の運動案内装置は、ベッド等の固定部に取り付けられる軌道部材と、テーブル等の可動部に固定される移動部材と、を備える。移動部材は軌道部材に直線運動又は曲線運動可能に組み付けられる。軌道部材と移動部材との間には、摩擦抵抗を低減するために多数の転動体が転がり運動可能に介在される。さらに移動部材には、転動体が循環するサーキット状の転動体循環路が設けられる。
【0003】
軌道部材と移動部材との間を転動体が転がり運動するとき、進行方向の前後の転動体が互いに接触していると、これらの間に相当なすべりが発生するので、転動体の早期の摩耗を招く。この問題を解決するために、進行方向の前後に位置する転動体間にスペーサを介在させ、多数のスペーサをベルトで一連に繋いだ転動体保持体が知られている(特許文献1参照)。スペーサによって転動体同士の接触を防止することができるので、転動体の転がり運動を利用するこの種の運動案内装置に広く用いられている。
【0004】
運動案内装置のサーキット状の転動体循環路は、軌道部材の転動体転走部と移動部材の負荷転動体転走部との間の負荷転動体転走路、負荷転動体転走路と平行な無負荷戻し路、負荷転動体転走路と無負荷戻し路を接続する一対のU字状の方向転換路から構成される。負荷転動体転走路では、転動体は負荷を受けながら転がり運動する。無負荷戻し路及び一対の方向転換路では、転動体は無負荷状態になり、後続の転動体に押されたり、転動体保持体に引っ張られたりしながら移動する。
【0005】
転動体は転動体保持体と一緒に転動体循環路を循環する。転動体保持体が転動体循環路を循環するとき、負荷転動体転走路及び無負荷戻し路では転動体保持体のベルトが直線状に伸び、方向転換路ではU字状に曲がる。ベルトが可撓性のある弾性体である場合、方向転換路でU字状に曲がるベルトには、曲げに伴う応力が発生する。転動体間にスペーサを介在させた転動体保持体においては、ベルトには単純な曲げ応力だけでなく、以下の理由により複雑な応力が働く。すなわち、転動体循環路を移動するスペーサの実際の位置は進行方向の前後に位置する転動体によって決定される。このスペーサの実際の位置は、転動体がないと仮定した状態でベルトを曲げたときのスペーサの仮想の位置と異なる。これが原因で転動体保持体のベルトには単純な曲げ応力だけでなく、複雑な応力が発生する。従来の転動体保持体のベルトは、このような複雑な応力に耐えうる強度に設計されていた。
【0006】
出願人は、ベルトに複雑な応力が発生するのを防止するために、進行方向の前後の転動体間にはスペーサを介在させず、進行方向の左右の両側に配置された転動体保持部によって転動体を保持する転動体保持体を提案した(特許文献2参照)。この転動体保持体は、転動体の進行方向の左右の両側に配置される転動体保持部と、左右の両側の転動体保持部を連結するベルトと、を備える。この転動体保持体によれば、進行方向の前後の転動体間にスペーサが存在しないので、ベルトに複雑な応力が発生するのを防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−52217号公報
【特許文献2】特開2008−175324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、従来の転動体保持体にあっては、負荷転動体転走路に位置する転動体がベルトを引っ張ることから、方向転換路のベルトが方向転換路の内周側案内面に接触し、相当する速度で相対すべりを起こすという課題がある。転動体保持体の転動体保持部を転動体の進行方向の両側に配置したとしてもこの課題を解決することはできない。
【0009】
発明者は、方向転換路で転動体がターンするときに転動体保持体に作用する力に着目した。その結果、スペーサや転動体保持部をターン内側に引き込む力が外側へ突き出す力よりも圧倒的に大きく、これが原因でベルトが方向転換路の内周側案内面に接触することを知見した。
【0010】
そこで本発明は、転動体保持体をターン内側に引き込む力と外側へ突き出す力との差を少なくし、ひいては転動体保持体のベルトが方向転換路の内周側案内面に接触するのを防止したり、接触する圧力を緩和したりすることができる運動案内装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、長手方向に伸びる転動体転走部を有する軌道部材と、前記転動体転走部に対向する負荷転動体転走部、前記負荷転動体転走部と平行に伸びる無負荷戻し路、及び前記負荷転動体転走部と前記無負荷戻し路とを接続する方向転換路を有する移動部材と、前記転動体転走部と前記負荷転動体転走部との間の負荷転動体転走路、前記無負荷戻し路、及び前記方向転換路から構成される転動体循環路に配列される複数の転動体と、前記複数の転動体を回転可能に保持する転動体保持体と、を備える運動案内装置において、前記転動体保持体は、前記複数の転動体それぞれの進行方向の左右の両側に配置され、前記転動体をそれぞれ回転可能に保持する転動体保持部と、複数の転動体保持部を連結する連結部と、を有し、前記負荷転動体転走路及び前記無負荷戻し路では、前記転動体保持体が前記負荷転動体転走路及び前記無負荷戻し路に沿って伸び、前記転動体保持体に保持される進行方向の前後の転動体が離れ、前記方向転換路では、前記転動体保持体の前記連結部が前記方向転換路に沿って曲がり、進行方向の前後の転動体が接触する運動案内装置である。
【0012】
本発明の他の態様は、負荷転動体転走路、負荷転動体転走部と平行に伸びる無負荷戻し路、及び前記負荷転動体転走部と前記無負荷戻し路とを接続する方向転換路からなる転動体循環路に組み込まれ、複数の転動体を回転可能に保持する転動体連結体であって、前記転動体保持体は、一列に配列された転動体の左右の両側に配置され、複数の転動体それぞれを回転可能に保持する転動体保持部と、複数の転動体保持部を連結する連結部と、を有し、前記転動体保持体を直線状に伸ばすと、前記転動体保持体に保持される列方向の前後の転動体が離れ、前記転動体保持体を所定の曲率で曲げると、前記列方向の前後の転動体が接触する転動体連結体である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、方向転換路において進行方向の前後の転動体を接触させることによって、転動体保持体をターン外側に突き出す力(図8,図18のfb)を発生させることができる。このため、転動体保持体をターン内側に引き込む力と外側へ突き出す力との差を少なくすることができ、ひいては転動体保持体のベルトが方向転換路の内周側案内面に接触するのを防止したり、接触する圧力を緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第一の実施形態における運動案内装置(リニアガイド)示す側面図(一部断面を含む)
【図2】上記リニアガイドの正面図(一部断面を含む)
【図3】リテーナを示す図(図中(a)は側面図を示し、(b)は平面図を示す)
【図4】リテーナの拡大斜視図
【図5】リテーナの他の例を示す図(図中(a)は側面図を示し、(b)は平面図を示す)
【図6】ボール循環路を循環するリテーナ及びボールの拡大図
【図7】方向転換路を循環するリテーナ及びボールの拡大図
【図8】リテーナのボール保持部に作用する力のベクトル図
【図9】ボールターン時の幾何図の一例
【図10】リテーナの比較例を示す図
【図11】本発明の第二の実施形態におけるリニアガイドの断面図
【図12】本発明の第三の実施形態におけるリニアガイドの側面図(一部断面図を含む)
【図13】本発明の第三の実施形態におけるリニアガイドの正面図(一部断面図を含む)
【図14】リテーナを示す図(図中(a)は平面図を示し、(b)は側面図を示す)
【図15】リテーナの拡大斜視図
【図16】ボール循環路を循環するリテーナ及びボールの拡大図
【図17】方向転換路を循環するリテーナ及びボールの拡大図
【図18】リテーナのボール保持部に作用する力のベクトル図
【図19】ボールターン時の幾何図の一例
【図20】本発明の第四の実施形態におけるリニアガイドの断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1及び図2は、本発明の第一の実施形態における運動案内装置としてのリニアガイドを示す。図1はリニアガイドの側面図(一部断面図を含む)を示し、図2は正面図(一部断面図を含む)。
【0016】
リニアガイドは、直線状に延びる軌道部材としての軌道レール1と、この軌道レール1に多数の転動体としてのボール3を介して移動自在に設けられた移動部材としての移動ブロック2とを備えている。
【0017】
軌道レール1は、断面略四角形状で細長く延ばされる。軌道レール1の左右側面及び上面には、長手方向に沿って伸びる転動体転走部としてのボール転走溝1aが形成される。この実施形態では、軌道レール1の左右側面に二条、上面に二条、合計四条のボール転走溝1aが形成される。ボール転走溝1aの断面形状は単一の円弧からなるサーキュラーアーク溝形状又は二つの円弧からなるゴシックアーチ溝形状に形成される。ボールはボール転走溝1aに一点又は二点で接触する。軌道レール1には、軌道レール1をベッド等の固定部に取り付けるためのボルト用の透し孔1bが形成される。
【0018】
移動ブロック2は、軌道レール1のボール転走溝1aに対向する負荷転動体転走部としての負荷ボール転走溝2aが形成される移動ブロック本体4と、移動ブロック本体4の移動方向の両端部に取り付けられる一対の蓋部材としてのエンドプレート5、から構成される。図2に示すように、移動ブロック本体4は、軌道レール1の上面に対向する中央部4aと、中央部4aの左右両側から下方に延び、軌道レール1の左右側面に対向する側壁部4bと、を備える。移動ブロック本体4の中央部4aの下面及び側壁部4bの内側面には、軌道レール1のボール転走溝1aに対向する4条の負荷ボール転走溝2aが形成される。
【0019】
図1に示すように、軌道レール1のボール転走溝1a及び移動ブロック2の負荷ボール転走溝2aとの間に、直線状に伸びる負荷転動体転走路としての負荷ボール転走路P1が形成される。無負荷戻し路P2は負荷ボール転走路P1と平行に直線状に伸びる。負荷ボール転走路P1の端部と無負荷戻し路P2の端部とはU字状の方向転換路P3で接続される。これら負荷ボール転走路P1、無負荷戻し路P2及び方向転換路P3によってサーキット状の転動体循環路としてのボール循環路が形成される。ボール循環路は合計4条形成される。
【0020】
図2に示すように、移動ブロック本体4には、移動ブロック本体4のインサート成形、又は樹脂成形された部品の組み込み等により、無負荷戻し路構成部7及びRピース8(図1参照)が形成される。無負荷戻し路構成部7には、負荷ボール転走溝2aと平行に伸びる無負荷戻し路P2が形成される。Rピース8には方向転換路P3の内周側が形成される。方向転換路の外周側はエンドプレート5に形成される。エンドプレート5を移動ブロック本体4に取り付けることで、方向転換路P3が形成される。
【0021】
移動ブロック2には、移動ブロック2内に塵芥等の異物が侵入するのを防止するシール6が取り付けられる。また、移動ブロック2にはボール循環路にグリース、潤滑油等の潤滑剤を供給するためのニップル9が取り付けられる。
【0022】
ボール循環路には、転動体として複数のボール3が配列・収容される。複数のボール3は、負荷ボール転走路P1を荷重を受けながら転がり運動する。負荷ボール転走路P1の一端まで転がったボール3は、U字状の方向転換路P3を経由した後、無負荷戻し路P2に入る。無負荷戻し路P2を通過したボールは、反対側の方向転換路P3を経由した後、再び負荷ボール転走路P1に入る。
【0023】
複数のボール3は転動体保持体としてのリテーナ10によって回転可能に保持される。移動ブロック2のボール循環路にはリテーナ10を案内するための案内溝11(図2,図6参照)がその全長に亘って形成される。
【0024】
図3及び図4は、リテーナ10を示す。図3(a)はリテーナ10の側面図を示し、図3(b)は平面図を示す。図4はリテーナ10の斜視図を示す。リテーナ10は、ボール3の進行方向の両側に配置され、ボール3を回転可能に保持する転動体保持部としてのボール保持部12と、複数のボール保持部12を連結する帯状の連結部14と、を備える。ボール保持部12及び連結部14は樹脂の射出成形等により一体に形成される。
【0025】
ボール保持部12は、ボール3の進行方向(ボール3は一列に配列されているのでボール3の列方向でもある)の左側に配置される左側ボール保持部12aと、右側に配置される右側ボール保持部12bと、から構成される。左側ボール保持部12a及び右側ボール保持部12bは、負荷ボール転走路P1を転がるボール3の回転軸cl1上に配置され、ボール3を所定の位置に保持する。図4に示すように、円盤状の左側ボール保持部12a及び右側ボール保持部12bの対向面には、ボール3の外形の球面に対応した曲面状の凹み15が形成される。この凹み15がボール3に接触する。
【0026】
左側ボール保持部12a及び右側ボール保持部12bは連結部14に結合される。連結部14は、可撓性を有するように細長い薄板からなる帯状に形成される。図3(a)の側面図に示すように、連結部14の厚さ方向の中心線cl2は、ボール保持部12によって保持されるボール3の中心を結んだ線cl3(ボール3の回転軸cl1が含まれる平面)よりも上側に配置される。図7に示すようにボール循環路に沿った断面でみたとき、リテーナ10の連結部14の厚さ方向の中心線cl2は、ボール3の中心を結んだ線cl3よりも外側に配置される。
【0027】
図3(b)に示すように、連結部14には、ボール3の形状に対応した複数の略円形状の孔15が空けられる。そして、ボール3の進行方向の前側及び後ろ側と連結部14との間には、ボール3の形状に対応した円弧状のすきま16が空く。ボール3は負荷ボール転走路P1において、連結部14に接触することなく、ボール保持部12のみに接触する。軌道レール1のボール転走溝1aや移動ブロック2の負荷ボール転走溝2aに接触する部分3aの軌跡上には従来のリテーナ10のような油脂分を除去してしまう作用があるものはない方がよい。
【0028】
図5はリテーナ10の他の例を示す。この例のリテーナ10においては、端に位置するボール3の進行方向の前側(又は後ろ側)に駒17が設けられている。駒17を設けることにより、有端帯状の連結部14の両端に位置する一対のボール間の距離を一定に保つことができる。
【0029】
図6及び図7はボール循環路を循環するリテーナ10及びボール3の拡大図を示す。図6に示すように、負荷ボール転走路P1及び無負荷戻し路P2では、ボール3が一列に並ぶ。リテーナ10の連結部14も負荷ボール転走路P1及び無負荷戻し路P2に沿って直線状に伸びる。リテーナ10のボール保持部12に保持されているボール3は一定のピッチを保って互いに離れる。
【0030】
図7に示すように、ボール3が方向転換路でターンすると、リテーナ10の連結部14は方向転換路に沿った所定の曲率で曲げられる。そして、あるところで隣り同士のボール3が接触してそれ以上は曲がらなくなる。この状態で、リテーナ10のボール保持部12や連結部14が方向転換路P3の案内溝11に接触しないように案内溝11が設計される。ターン時はボール3が先に方向転換路P3の内周側及び外周側に接触し、リテーナ10のボール保持部12及び連結部14は案内溝11に接触しない。
【0031】
図8は、方向転換路において連結部14が湾曲し、ボール3同士が接触したとき、リテーナ10のボール保持部12に作用する力のベクトルを示す。図8中左側にはボール保持部12に作用している力を、右側にはボール保持部12の中心での力のつり合い状態を示す。それぞれの記号は、
r1:隣のボール保持部から連結部を介して引張られる力
r2:ターン部分全体を内側へ引き込む力
r3:連結部が湾曲することによる反力
:ボール同士の接触による反力
である。リテーナ10の連結部14とボール保持部12との強度の差から、リテーナ10は連結部14のみで湾曲し、連結部14とボール保持部12との接合部付近は湾曲しないと考えられる。
【0032】
図8に示すように、方向転換路P3でボール3を接触させることにより、ボール3の接触による反力fbを発生させることができる。ボール保持部12をターン外側へ突き出す力を大きくすることができ、ボール保持部12をターン外側へ突き出す力をターン内側に引き込む力に近付けることができる。このため、ボール3が方向転換路P3でターンするとき、リテーナ10のターン内側への移動量が少なくすることができ、設計値通りの理想状態に近い状態でリテーナ10を移動させることができる。したがって、ターン内側にリテーナ10の連結部14やボール保持部12が移動し、リテーナ10が案内溝11に接触するのを防止することができる。しかも、ボール保持部12をボール3の進行方向の左右に配置するので、方向転換路P3でターンするときにボール保持部12がボール3のターンの障害になることがない。このため、ボール3のスムーズな移動が可能になる。以上によりリテーナ10の耐久性が格段に向上するものと考えられ、リテーナ入りガイドの信頼性も向上すると考えられる。
【0033】
ボール保持部12をターン内側に引き込む力はボール保持部12をターン外側へ突き出す力よりも若干大きい。最終的に残ったボール保持部12をターン内側へ引き込む力は方向転換路のための仕事(向心力となってボール3を方向転換路P3で円運動させる)をすることになる。
【0034】
ボール3は進行方向の左右に配置されるボール保持部12によりボール3の回転軸cl1近傍を保持される。ボール3の回転軸cl1の近傍は接線速度が小さいので、ボール3を保持してもその摩擦抵抗は小さい。このため、ボール3の転がり抵抗を低減させることができ、ひいてはリニアガイドの位置決め精度も向上させることができる。
【0035】
図9は、ボールターン時の幾何図の一例を示す。方向転換路P3でボール3同士を接触させるためには、この図に示すように、ボールの半径R、ボールピッチ2b、方向転換路のPCDを決定すればよい。この図9には、ボールピッチ間半分の状態の、リテーナ10の連結部14がストレート状態から湾曲してボール3同士が接触した状態が示されている。図9のようにxy座標を設定し、リテーナ10の連結部14とボール保持部12との接合部の座標を(a,0)、連結部14がストレートのときのボール3の中心の座標を(b,−c)とする。そこから未知数であるrを中心にθだけ回転し、ボール中心が(b´,c´)にきたときがボール同士が接触するときとなる。ボール半径はRとする。これらa,b,c,r,θを用いて、b´,c´を示してやれば、(1)及び(2)の関係より未知数であるr,θが求まる。また、ボール中心径PCDも求まる。
【0036】
【数1】

【0037】
図10は、ボール3間にスペーサ21を介在させた場合のリテーナの比較例を示す。ボール3間にスペーサ21を介在させた場合、ターン時に生ずる連結部22の湾曲を制約するものが全くない。そのため、ターン時に生ずる力の殆どがスペーサ21をターン内側へ引き込む力となる。スペーサ21の連結部22の案内溝への接触が発生し、相当する速度で相対すべりを起こすことになる。図10の左側にはボールターン時に一つのスペーサ21に作用している力を、右側にはスペーサ21の中心部での力のつり合い状態を示す。それぞれの記号は、
r1:隣のスペーサから連結部を介して引張られる力
r2:ターン部分全体を内側へ引き込む力
r3:連結部が湾曲することによる反力
:ボールから受ける反力
である。
【0038】
力のつり合いは、図10のとおり、スペーサ21をターン内側へ引き込む力の方が外側へ突き出す力より圧倒的に大きい(○>△)と考えられる。このターンに必要な力より余分に生じている力が、スペーサ21をターン内側へ引き込む力となる。
【0039】
図11は、本発明の第二の実施形態におけるリニアガイドの断面図を示す。この実施形態では、図3に示すリテーナ10の連結部14の端が繋がれ、連結部14が無端の輪に形成される。その他の構造は図3に示すリテーナ10と同一である。
【0040】
この実施形態において、方向転換路P3の内周側を構成する方向転換路内周側構成部としてのRピース31は、移動ブロック本体34にスライド可能に組み付けられる。Rピース31は、全体がきのこ形状に形成され、方向転換路P3の内周側が形成される本体部31aと、本体部31aに結合される軸部31bと、を備える。軸部31bは移動ブロック本体34の嵌合穴34aにスライド可能に挿入される。Rピース31の軸部31bと移動ブロック本体34の嵌合穴34aの底面との間には、付勢手段としてのスプリング36が介在される。Rピース31の軸部31b及び方向転換路P3の内周側には、低摺動抵抗になるようにDLC(Diamond-like Carbon)皮膜を形成してもよい。スプリング36の替わりにゴムのような弾性体を用いてもよい。
【0041】
無端状のリテーナ10は、移動ブロック本体34の両端のRピース31により外側に張られた状態でボール循環路に組み込まれる。エンドプレート35の方向転換路の外周側はリテーナ10の移動軌跡に対応できるように深く形成される。
【0042】
この実施形態の運動案内装置によれば、Rピース31をスプリング36等の弾性体の力によって可動させ、常にリテーナ10を外側に張らせるようにしているので、膨潤等によるリテーナ10の伸びを吸収することができる。また、エンドプレート35内でリテーナ10を引っ張っているため、ボール3が負荷域に出入りする部位である移動ブロック本体34の金属部とエンドプレート35の樹脂部のつなぎ目の段差に対して、ボール3の移動軌跡はより水平(負荷ボール転走面と平行)になり、なおかつ安定しているため、その衝突によるダメージも少なくなる。このため、精度面・寿命面での性能向上が見込まれる。
【0043】
図12及び図13は、本発明の第三の実施形態におけるリニアガイドを示す。ボール3及びリテーナ41が組み込まれる移動ブロック2や軌道レール1の構造は第一の実施形態におけるリニアガイドと同一なので同一の符号を附してその説明を省略する。
【0044】
図14及び図15はリニアガイドに組み込まれるリテーナを示す。図14(a)はリテーナ41の平面図を示し、図14(b)は側面図を示す。図15はリテーナ41の斜視図を示す。この実施形態のリテーナ41は、ボールの進行方向の左右に配置されるボール保持部42と、複数のボール保持部42を連結する連結部としてのリンク44と、を備える。各リンク44は、進行方向に隣り合う一対のボール保持部42に回転可能に連結される。複数のリンク44によって全てのボール保持部42が回転可能に連結される。
【0045】
図14(a)に示すように、ボール保持部42はボール3の進行方向の左側に配置される左側ボール保持部42aと、進行方向の右側に配置される右側ボール保持部42bと、から構成される。左側ボール保持部42a及び右側ボール保持部42bは、負荷ボール転走路P1を転がるボール3の回転軸cl1上に配置され、ボール3を所定の位置に保持する。図15に示すように、円盤状の左側ボール保持部42a及び右側ボール保持部42bの対向面には、ボール3の球面に対応した曲面状の凹み43が形成される。この凹み43がボール3に接触する。
【0046】
リンク44は、全体がH字形状に形成され、ボール3の進行方向の左側に配置される左側リンク44aと、右側に配置される右側リンク44bと、左側リンク44aの上部と右側リンク44bの上部との間に架け渡されるアーム44cとから構成される。進行方向に隣り合う一対の左側ボール保持部42aは、左側リンク44aに回転可能に連結され、進行方向に隣り合う一対の右側ボール保持部42bは、右側リンク44bに回転可能に連結される。アーム44cにはボール3の形状に対応した円弧状の切欠き45が形成される。ボール3の進行方向の前側及び後ろ側とアーム44cとの間にはすきま46(図14(b)参照)が空けられる(図参照)。図14(b)に示すように、端部に位置するリンク44−1は、H字状のリンク44をアーム44cの中心線に沿って半分にした形状をなしていて、端に位置するボール保持部42に固定される。リンク44には、潤滑特性の優れた樹脂、強度の高い樹脂、又は金属が用いられる。
【0047】
図14(b)に示すように、進行方向に隣り合う一対のボール保持部42のうちの一方に対するリンク44の回転中心と一対のボール保持部42のうちの他方に対するリンク44の回転中心とを結んだ線cl2は、ボール保持部42によって保持されるボール3の中心を結んだ線cl3よりも上側に配置される。これにより、リテーナ41をボール循環路内に挿入したとき、リンク44の回転中心を結んだ線cl2はボール3の中心を結んだ線cl3よりもボール循環路の外側に配置される(図17参照)。
【0048】
図16及び図17はボール循環路を循環するリテーナ41及びボール3の拡大図を示す図16に示すように、負荷ボール転走路P1及び無負荷戻し路P2では、ボールが一列に並ぶ。リテーナ41のリンク44も負荷ボール転走路P1及び無負荷戻し路P2に沿って直線状に伸びる。リテーナ41のボール保持部42に保持されているボール3は一定のピッチを保って互いに離れる。
【0049】
図17に示すように、ボール3が方向転換路P3でターンすると、リテーナ41の複数のリンク44は曲げられる。そして、あるところで隣り同士のボール3が接触してそれ以上は曲がらなくなる。各リンク44はボール保持部42に回転可能に連結されているため、各リンク44自体には曲げ変形が起こらない。しかし、複数のリンク44の全体でみたとき、複数のリンク44は方向転換路に沿って曲がる。複数のリンク44が方向転換路P3に沿って曲がった状態では、リテーナ41のボール保持部42やリンク44は方向転換路P3の案内溝45に接触しないように設計される。
【0050】
図18は、方向転換路P3においてボール3が接触したとき、リテーナ41のボール保持部42に作用する力のベクトルを示す。図18中左側にはボール保持部42に作用している力を、右側にはボール保持部42の中心での力のつり合い状態を示す。それぞれの記号は、
:リンクがボール保持部を引張る力
:ボール同士の接触による反力
である。
【0051】
方向転換路P3でボール3を接触させることにより、ボール3の接触による反力fを発生させることができる。ボール保持部42をターン外側へ突き出す力を大きくすることができ、ボール保持部42をターン外側へ突き出す力をボール保持部42をターン内側に引き込む力に近付けることができるので、ボール3が方向転換路でターンするとき、リテーナ41のターン内側への移動量を少なくすることができる。
【0052】
また、リテーナ41のリンク44とボール保持部42とがリンク接合になっているので、リンク44はボール保持部42に対して自由に回転することができる。ボール3のターン時には嵌合部分の回転動作によってボール列の方向が変えられるので、リンク44及びボール保持部42に曲げ応力が働かない。よって、リテーナ41の耐久性が格段に向上するものと考えられる。
【0053】
図19は、ボールターン時の幾何図の一例を示す。方向転換路P3でボール同士を接触させるためには、この図19に示すように、ボールの半径R、ボールピッチ2b、方向転換路のPCDを決定すればよい。この図には、ボールピッチ間半分の状態の、リテーナ41のリンク44がストレート状態から回転してボール同士が接触した状態が示されている。図19のようにxy座標を設定し、リテーナ41のリンク44とボール保持部42との接合部を(a,0)、リンク44がストレートのときのボール3の中心を(b,−c)とする。そこからリンク44が未知数であるθだけ回転し、ボール中心が(b´,c´)にきたときがボール同士が接触するときとなる。ボール半径はRとする。これらa,b,c,θを用いて、b´,c´を示してやれば、下記の式より未知数であるθが求まる。また、ボール中心径PCDも求まる。
【0054】
【数2】

【0055】
図20は、本発明の第四の実施形態におけるリニアガイドの断面図を示す。この実施形態では、図14に示すリテーナ41の全てのボール保持部42がリンク44によって繋がれ、リテーナ41が無端の輪に形成される。その他の構造は図14に示すリテーナと同一である。
【0056】
Rピース47は、全体がきのこ形状に形成され、移動ブロック本体48にスライド可能に組み付けられる。Rピース47の軸部47aは移動ブロック本体48の嵌合穴48aにスライド可能に挿入される。Rピース47の軸部47aと移動ブロック本体48の嵌合穴48aの底面との間には、付勢手段としてのスプリング49が介在される。無端のリテーナ41は、移動ブロック本体48の両端のRピース47により外側に張られた状態でボール循環路に組み込まれる。エンドプレート50の方向転換路P3の外周側はリテーナ41の移動軌跡に対応できるように深く形成される。
【0057】
この実施形態の運動案内装置によれば、Rピース47をスプリング49等の弾性体の力によって可動させ、常にリテーナ41を外側に張らせるようにしているので、膨潤等によるリテーナの伸びを吸収することができる。
【0058】
なお、本発明の実施形態は本発明の要旨を変更しない範囲で種々変更可能である。例えば転動体としてはボールのみならず、ローラも使用することができる。また、上記の実施形態では、移動ブロックが直線的に運動するリニアガイドについて説明したが、本発明は移動ブロックが曲線的に運動する曲線運動案内装置にも適用することもできる。さらに、軌道部材としての軌道軸と、移動部材としての軌道軸を囲む外筒から構成されるボールスプラインにも適用することができる。さらに、方向転換路の中心線は、所定の曲率で曲げられていればよく、曲率が一定の円弧であっても、曲率が連続的に変化する楕円、クロソイド曲線等であってもよい。曲率が連続的に変化する楕円、クロソイド曲線等の場合、曲率が最も大きい箇所で転動体同士が接触することになる。
【符号の説明】
【0059】
1…軌道レール(軌道部材),1a…ボール転走溝(転動体転走部),2…移動ブロック(移動部材),2a…負荷ボール転走溝(負荷転動体転走部),3…ボール(転動体),4,34,48…移動ブロック本体(移動部材本体),5,35,50…エンドプレート(蓋部材),10,41…リテーナ(転動体保持体),14…連結部,12,42…ボール保持部(転動体保持部),16…すきま,31,47…Rピース(方向転換路内周構成部),36,49…スプリング(付勢手段),42b…右側ボール保持部(右側転動体保持部),42a…左側ボール保持部(左側転動体保持部),44c…アーム,44…リンク(連結部),44b…右側リンク,44a…左側リンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に伸びる転動体転走部を有する軌道部材と、前記転動体転走部に対向する負荷転動体転走部、前記負荷転動体転走部と平行に伸びる無負荷戻し路、及び前記負荷転動体転走部と前記無負荷戻し路とを接続する方向転換路を有する移動部材と、前記転動体転走部と前記負荷転動体転走部との間の負荷転動体転走路、前記無負荷戻し路、及び前記方向転換路から構成される転動体循環路に配列される複数の転動体と、前記複数の転動体を回転可能に保持する転動体保持体と、を備える運動案内装置において、
前記転動体保持体は、前記複数の転動体それぞれの進行方向の左右の両側に配置され、前記転動体をそれぞれ回転可能に保持する転動体保持部と、複数の転動体保持部を連結する連結部と、を有し、
前記負荷転動体転走路及び前記無負荷戻し路では、前記転動体保持体が前記負荷転動体転走路及び前記無負荷戻し路に沿って伸び、前記転動体保持体に保持される進行方向の前後の転動体が離れ、
前記方向転換路では、前記転動体保持体の前記連結部が前記方向転換路に沿って曲がり、進行方向の前後の転動体が接触する運動案内装置。
【請求項2】
前記複数の転動体保持部を連結する連結部は、帯状であり、
前記方向転換路で前記転動体が接触し易くなるように、前記転動体循環路に沿った断面でみたとき、前記転動体保持体の前記連結部の厚さ方向の中心線は、前記転動体保持部によって保持される転動体の中心を結んだ線よりも外側に配置されることを特徴とする請求項1に記載の運動案内装置。
【請求項3】
前記負荷転動体転走路を転がる転動体の進行方向の前側及び後ろ側と前記連結部との間には、すきまが空けられることを特徴とする請求項2に記載の運動案内装置。
【請求項4】
前記複数の転動体保持部を連結する連結部は、転動体の進行方向に隣り合う一対の転動体保持部を回転可能に連結する複数のリンクからなり、
前記複数のリンクによって全ての転動体保持部が一連に連結されることを特徴とする請求項1に記載の運動案内装置。
【請求項5】
前記方向転換路で前記転動体が接触し易くなるように、前記転動体循環路に沿った断面でみたとき、転動体の進行方向に隣り合う前記一対の転動体保持部のうちの一方に対する前記リンクの回転中心と前記一対の転動体保持部のうちの他方に対する前記リンクの回転中心とを結んだ線は、前記転動体保持部によって保持される転動体の中心を結んだ線よりも外側に配置されることを特徴とする請求項4に記載の運動案内装置。
【請求項6】
前記転動体保持部は、転動体の進行方向の左側に配置される左側転動体保持部と、転動体の進行方向の右側に配置される右側転動体保持部と、を有し、
前記リンクは、前記左側転動体保持部に回転可能に連結される左側リンクと、前記右側転動体保持部に回転可能に連結される右側リンクと、前記左側リンクと前記右側リンクとの間に架け渡されるアームと、を有し、
前記負荷転動体転走路を転がる転動体の進行方向の前側及び後ろ側と前記アームとの間にはすきまが空けられることを特徴とする請求項4又は5に記載の運動案内装置。
【請求項7】
前記移動部材は、
前記負荷転動体転走部及び前記無負荷戻し路を有する移動部材本体と、
前記移動部材本体の移動方向の端面に取り付けられ、前記方向転換路の外周側が形成される蓋部材と、
前記移動部材本体にスライド可能に設けられ、前記方向転換路の内周側を構成する方向転換路内周構成部と、
無端状に形成される前記転動体保持体の前記連結部に張力を与えることができるように、前記方向転換路内周構成部を前記蓋部材に向かって付勢する付勢手段と、を有することを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の運動案内装置。
【請求項8】
負荷転動体転走路、負荷転動体転走部と平行に伸びる無負荷戻し路、及び前記負荷転動体転走部と前記無負荷戻し路とを接続する方向転換路からなる転動体循環路に組み込まれ、複数の転動体を回転可能に保持する転動体連結体であって、
前記転動体保持体は、一列に配列された転動体の左右の両側に配置され、複数の転動体それぞれを回転可能に保持する転動体保持部と、複数の転動体保持部を連結する連結部と、を有し、
前記転動体保持体を直線状に伸ばすと、前記転動体保持体に保持される列方向の前後の転動体が離れ、
前記転動体保持体を所定の曲率で曲げると、前記列方向の前後の転動体が接触する転動体連結体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2011−169405(P2011−169405A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−33886(P2010−33886)
【出願日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(390029805)THK株式会社 (420)
【Fターム(参考)】