説明

過渡色中心形成の抑制及びフォノンポピュレーションの制御による光学材料におけるレーザー誘起損傷の軽減

光学材料におけるレーザー誘起損傷は、光吸収が最小化される状態を作り出すことによって緩和されうる。具体的には、光学材料においてバンドギャップの欠陥エネルギーをポピュレートする電子は、一般にブリーチングと呼ばれるプロセスにおいて、伝導帯へと推進されうる。こうしたブリーチングは、材料内への最小限のエネルギー蓄積を保証する既定の波長を用いて達成されうるものであり、理想的には、電子を伝導帯のちょうど内側へと推進する。ある場合には、フォノン(すなわち、熱)励起も、高いデポピュレーションレートを達成するために用いられることが可能である。一実施形態において、レーザービームの波長よりも長い波長を有するブリーチング光ビームが、バンドギャップにおける欠陥エネルギー準位をデポピュレートするために、レーザービームと合成されうる。ブリーチング光ビームは、レーザービームと同じ方向、又は交差する方向で伝播されうる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願]
この出願は、「Alleviation Of Laser−Induced Damage In Optical Materials By Suppression Of Transient Color Centers Formation And Control Of Phonon Population」と題され2010年1月5日に提出された、米国特許仮出願第61/292,375号の優先権を主張する。
【0002】
本発明は、レーザーシステムに関し、具体的には、レーザーシステムにおいて用いられる、結晶などの光学材料に対する損傷の最小化に関する。
【背景技術】
【0003】
光学材料は、今日のレーザーシステムにおける主要な要素である。光学材料の一般的な用途は、基本的光学部品(例えば、窓、鏡、偏光板など)、並びに、周波数混合(例えば、高調波発生、パラメトリック発振/増幅)、ラマン増幅、カー・レンズ・モード同期、電気光学変調、及び音響光学変調のための非線形光学デバイスの製造を含む。
【0004】
レーザー照射にさらされた場合、それらの光学材料の物理的特性は、光と物質の相互作用の結果として経時的に変化しうる。そうした変化は、透過率、反射率、屈折率を含むがこれに限定されない光学特性に対して悪影響を及ぼしうる。それらの不都合な変化は、一般に材料損傷と呼ばれる。材料の寿命、すなわち材料がその使用目的について、精度のある範囲内で使用可能である時間の総計は、通常、1つ又は複数のそれらのパラメータにおける最大許容変化に基づいて規定される。
【0005】
光学材料のレーザー誘起損傷は、材料の寿命に影響を及ぼし、それによりレーザーシステムの性能を制限する主な要因の一つである。レーザー誘起損傷については数多くの研究がなされてきており、それらは、(i)既存の光学材料の品質の向上、及びレーザー損傷に対する高い許容度を有する新規な化合物の開発、並びに/又は(ii)レーザー誘起損傷を緩和するための動作条件の最適化、に焦点を合わせてきた。この動作条件の最適化は、高出力DUV(波長λ<300nmを有する深紫外線光)レーザーに対する増大する要求が、そうした非常に高度な材料要件を課すことによって、従来的な損傷許容度向上アプローチが急速に不十分、高コスト、及び/又は非実用的なものになるにつれて、ますます重要になってきている。
【0006】
レーザー誘起損傷を軽減するために用いられる最も一般的な技法は、熱アニーリングである。この技法は、様々な材料における多くの異なる種類の損傷に対して有効であり、実施が比較的容易であるため、レーザー誘起損傷を減少させる方法として広く用いられている。残念ながら、効率的な熱アニーリングは高い温度を必要とする可能性があり、これは、リアルタイムレーザーシステム稼働に用いられる場合、重大な不利益をもたらす可能性がある。
【0007】
第一に、温度勾配は出力ビームの不安定性をもたらす空気の振動を引き起こす可能性があり、ガス放出の増大は光汚染の増大をもたらすため、レーザーシステム内部における高温の存在は非常に望ましくない。第二に、短い波長(例えば、DUV)において、一般的な光学材料のバンドギャップにフォトンエネルギーが接近したとき、フォノンに補助された吸収が著しく大きくなり、温度と共に指数関数的に増大する。この吸収は、システム全体の性能の低下をもたらす可能性があり、例えば、非線形周波数変換に適用されるとき、変換効率の減少が観察されうる。更に、このフォノンに補助された吸収は、光学材料に対する他のレーザー誘起損傷を増幅させうるものであり、それにより、アニーリングの有益な効果を潜在的に打ち消してしまう。
【0008】
ある特定の状況において、光学材料の温度は、光学材料の寿命とは無関係な理由により、正確に制御される必要があることに留意されたい。例えば、(特定の波長の結合のみにおける)非臨界位相整合において、位相の不整合は、相互作用するビームの位相速度が等しくなるように結晶温度を調節することによって、最小化されることが可能である。したがって、こうした状況において、熱アニーリングの適用は、可能な限り制限される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−139436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、従来のアニーリングの短所を克服する、光学材料におけるレーザー誘起損傷を最小化する技法が必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
損傷は、光エネルギーが光吸収を介して光学材料に蓄積される場合に生じうる。本明細書中で、本発明に関してより詳細に説明されるように、光学材料におけるレーザー誘起損傷は、光吸収が最小化される状態を作り出すことによって緩和されうる。具体的には、光学材料においてバンドギャップの欠損エネルギー準位をポピュレートする電子は、一般にブリーチングと呼ばれるプロセスにおいて、伝導帯へと推進されうる。こうしたブリーチングは、材料内への最小限のエネルギー蓄積を保証する既定の波長を用いて達成されうるものであり、理想的には、電子を伝導帯のちょうど内側へと推進する。ある場合には、フォノン(すなわち、熱)励起も、より高いデポピュレーションレートを達成するために用いられることが可能である。
【0012】
一実施形態において、レーザービームの波長よりも長い波長を有するブリーチング光ビームが、バンドギャップにおける欠陥エネルギー準位をデポピュレートするために、レーザービームと合成されうる。ブリーチング光ビームは、レーザービームと同じ方向、又は交差する方向で伝播されうる。デポピュレーションを最適化するための一実施形態において、ブリーチング光ビームとレーザービームの両方が、2つの光源、すなわちブリーチング光ビームとレーザービームのパルス間に遅延を有するように、パルス化されうる。別の実施形態では、多波長を有するレーザービームの1つの波長が遅延されて、レーザービームと共に伝播し、それにより、同様に欠陥エネルギー準位をデポピュレートすることができる。
【0013】
パルス化レーザーを用いる一実施形態において、光学材料の温度は、レーザーパルスの間は低く、パルスとパルスの間、及び/又は光学材料を通って伝播するレーザーパルスが存在しない場合は高くなるように、調節されうる。温度調節の利点は、高温に起因する光吸収の増大のない、レーザーパルスが存在しない場合のより効率的な欠陥の熱アニーリングである。別の実施形態においては、光学材料内部に温度勾配が作り出され、光学材料の高温部分が集中的なアニーリングを受ける一方で、レーザービームが常に低温の領域内を伝播するように、時間的に変化させられうる。後の時点において、光学材料内部の温度分布は、前に「低温」であった領域の温度が上昇する一方で、前に「高温」であった領域の温度が低下し、その領域へとレーザービームがシフトしうるように変更されうる。このようにして、時間依存性の温度勾配が光学材料内部に作り出されうる。このサイクルは、複数回繰り返されうる。
【発明の効果】
【0014】
この温度調節は、上述の光学的励起と共に、又は別個に、実行されうることに留意されたい。上述の技法は、光学材料を高温に維持することを解消し、それによって、従来のアニーリングにおける固有の不利益を回避することを可能とする。それ故、これらの局所的アニーリングの技法は、(非臨界位相整合の場合などの)従来的な材料温度調節が不可能な場合、又は非実用的な場合における適用性の増大をもたらすことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】過渡色中心形成の1つのメカニズムを示す図である。
【図2】フォトンエネルギーが光学材料のバンドギャップEgapよりも小さく、それにより価電子帯から伝導帯への直接励起が禁じられている、光吸収プロセスの例を示す図である。
【図3】過渡色中心の緩和の好適なメカニズムを示す図である。
【図4】レーザー光源、ブリーチング光源、及びビーム合成器を含む例示的なレーザーシステムを示す図である。
【図5】レーザー光源、集束レンズ、及びブリーチング光源を含む例示的なレーザーシステムを示す図である。
【図6A】パルス化レーザービームに関連付けられたポンプパルスと、パルス化ブリーチング光源に関連付けられたプローブパルスとを用い、2つのパルスはポンプ−プローブ遅延によって隔てられている、例示的な技法を示す図である。
【図6B】CLBO結晶における193nmと532nmの間の遅延に依存する532nm吸収の実験データを示す図である。
【図7】光学的遅延要素が、(多重周波数の)レーザー光が光学材料を通過する前に、レーザー光源のうちの1つの波長に対する光学的遅延を提供することが可能なレーザーシステムを示す図である。
【図8A】光学材料内部に温度勾配を作り出し、それを時間的に変化させることによって、光学材料の高温部分が集中的なアニーリングを受ける一方で、レーザービームは常に低温領域内を伝播する、効率的な熱アニーリングの実施のための技法を示す図である。
【図8B】光学材料内部に温度勾配を作り出し、それを時間的に変化させることによって、光学材料の高温部分が集中的なアニーリングを受ける一方で、レーザービームは常に低温領域内を伝播する、効率的な熱アニーリングの実施のための技法を示す図である。
【図9】193.3nm放射にさらされる非線形CLBO結晶の寿命の最大化のための温度の最適化の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
光学材料による光吸収の間、電子は、低エネルギー状態の価電子帯から、高エネルギー状態の伝導帯へと推進される。伝導帯へと推進される電子は、自然にエネルギーを失い、その後、光の形態でエネルギーを放出するプロセス、すなわち蛍光発光のプロセスの中で、価電子帯へと戻る。あまりにエネルギーの高い(すなわち、伝導帯の内部深くまで伸びる)電子は、材料に対して重大な損傷を与える可能性がある。すなわち、伝導帯におけるそうした電子は、蛍光発光が起こる前に、自由に移動し、加速し、多量の(例えば、結晶の結合を破壊するのに十分な)エネルギーを放出する、「自由」(すなわち、非拘束の)電子である。
【0017】
図1は、過渡色中心形成の1つのメカニズムを示す。ステップAにおいて、初期吸収が、電子eを価電子帯101から伝導帯102へと推進する。理想結晶において、バンドギャップは、価電子帯101と伝導帯102の間に中間エネルギー準位を有さないように間隔を空けられる。したがって、理想結晶において、バンドギャップ内部に行き着く電子は存在しないであろう。現実の結晶は、一般に、バンドギャップ内、典型的には伝導帯102の近くに存在する、1又は複数の分離したエネルギー準位を持つ。図1は、バンドギャップ内に形成されるそうした欠陥エネルギー準位104の一つを示す。
【0018】
ステップBにおいて、エネルギー伝達(すなわち、損失)が、エネルギーバンドギャップEgap内の欠陥エネルギー準位104のポピュレーションをもたらす。すなわち、1又は複数の電子が、価電子帯101へと戻る代わりに、欠陥エネルギー準位104をポピュレートする。この欠陥エネルギー準位104のポピュレーションは、欠陥エネルギー準位104をポピュレートする電子がそれまでは吸収されなかった波長を吸収し始め、それによって光学材料の吸収スペクトルの一時的な変化をもたらしうるため、過渡色中心とも呼ばれる。
【0019】
欠陥エネルギー準位104をポピュレートする電子は、いくつかの電子はエネルギーを失い、価電子帯101へと戻りうるものであり、他の電子は二次光吸収103を介してエネルギーを得て、ステップCにおいて伝導帯102へと推進される。残念なことに、伝導帯102の奥深くにあるいかなる電子(これは二次光吸収103に付随するエネルギーによって容易に生じうる)も、上述のように、光学材料に対する損傷の増大をもたらしうる。
【0020】
図2は、フォトンエネルギー(矢印の長さによって表される)が光学材料のバンドギャップEgapよりも小さく、それにより価電子帯210から伝導帯211への直接励起が禁じられている、光吸収プロセスの例を示す。図2において、λ<λ<λである(すなわち、波長は矢印の長さに反比例する)。特に、波長λを有するフォトンは、波長λまたはλを有するフォトンよりも多くのエネルギーを有している。
【0021】
図2において、プロセス201は、単一色・2フォトン吸収であり、2本の矢印によって示されている。それぞれの矢印は、波長λを有するフォトンを表している。プロセス202は、単一色・3フォトン吸収であり、3本の矢印によって示されている。それぞれの矢印は、波長λを有するフォトンを表している。プロセス203は、多色・2フォトン吸収であり、2本の矢印によって示されている。第1の矢印は波長λを有するフォトンを表しており、第2の矢印は波長λを有するフォトンを表している。
【0022】
プロセス204は、フォノンに補助された吸収であり、波長λ(バンドギャップエネルギーEgapに近いが、これよりも小さい)を有する単一のフォトンが、フォノン(物質の内部振動の量子)と同時に吸収される。フォノンはボーズ・アインシュタイン統計に従うため、そのポピュレーションは温度と共に指数関数的に増大し、フォノンに補助された吸収の確率もまた同様に増大することに留意されたい。
【0023】
図3は、過渡色中心の緩和の好適なメカニズムを示す。具体的には、ステップDにおいて、欠陥エネルギー準位104から伝導帯102内への電子の推進が最少量のエネルギー吸収で達成されることが可能であり、すなわち、伝導帯102内にちょうど到達している。続いて、ステップEにおいて、材料に対する損傷の可能性を最小にしながら、電子は、フォトンの放出(蛍光発光)又は他のメカニズムを介して、価電子帯101へと素早く戻りうる。具体的には、光学材料内部に蓄積されるエネルギー総量は最小化され、それによってレーザー誘起損傷率は減少し、光学材料の寿命は増大する。
【0024】
上述した欠陥エネルギー準位から伝導帯内部への電子の推進は、低エネルギーの光学的及び/又は非光学的励起(すなわち、単独または組み合わせて用いられる)を用いて達成されることが可能である。光学的励起、すなわちブリーチングは、以下の2つの条件を満たす波長λで実行される必要がある。
【数1】


【数2】


ここで、hはプランク定数であり、cは光速であり、Edefは欠陥エネルギー準位104から伝導帯102へと電子を励起するために必要とされる最小エネルギーであり(図3を参照されたい)、λは光学材料損傷の大部分の原因となる(通常は最小の波長である)レーザー波長である。一実施形態において、条件(2)を満たすために、少なくとも3という因数が用いられうる。ステップDにおける非光学的励起として、(上述の)フォノンを用いることが可能であることに留意されたい。しかしながら、それらのポピュレーションは、元のレーザー光のフォノンに補助された吸収が生じることのないように制御されなければならず、これは多くの場合、光学材料の温度における制約となる。
【0025】
図4は、レーザー光源401と、ブリーチング光源402と、ビーム合成器403と、を含む例示的なレーザーシステム400を示す。ブリーチング光源402は、波長λを有する光ビームを発し、これは、ビーム合成器403を用いて1つ又は複数の波長λ、λ、…、λを有するレーザー光源401からのレーザービームと合成され、共に伝播する場合、光学材料404に関する欠陥エネルギー準位の効率的なデポピュレーションを最大化することが可能である(レーザービームが1つの波長を含むものであるか、又は複数の波長λ、λ、…、λを含むものであるかにかかわらず、条件(1)及び(2)は波長λに関して当てはまるものでなければならないことに留意されたい)。一実施形態において、光学材料404内部のフォノンポピュレーションを制御するために、温度制御環境405が用いられうる。この光学的ブリーチング及び温度制御は、特定のレーザーシステム及びその用途に最も適するものに応じて、単独で、又は組み合わされて用いられることが可能であることに留意されたい。
【0026】
図5は、レーザー光源501と、集束レンズ502と、ブリーチング光源503と、を含む例示的なレーザーシステム500を示す。ブリーチング光源503は、レーザー光源501が発する(及びレンズ502によって集束される)放射λ、λ、…、λと合成されることが可能な放射λを発し、光学材料504に関する欠陥エネルギー準位の効率的なデポピュレーションを最大化する。この場合、焦点面に近い光学材料504内部の小さな部分のみが高いレーザーフルエンスにさらされるため、ブリーチング放射が共に伝播することは必ずしも必要ではない。したがって、この小さな領域は、元のレーザービームに対してある角度(例えば、90°、垂直、又は他の交角)でブリーチング光が伝播することによって、局所的にブリーチされることが可能であり、それにより、レーザーシステム500にシンプルな構成をもたらす。一実施形態において、温度制御環境505は、光学材料504内部のフォノンポピュレーションの制御のために用いられうる。この場合も、この光学的ブリーチング及び温度制御は、特定のレーザーシステム及びその用途に最も適するものに応じて、単独で、又は組み合わされて用いられることが可能である。
【0027】
(図4と図5の各々における)レーザー光源401及び501がパルス化される場合、ブリーチング光源402及び503もまたパルス化され、レーザー光源のパルスに対して時間的にシフトされる。例えば、図6Aは、パルス化されたレーザービームに関連付けられたポンプパルス601と、パルス化されたブリーチング光源に関連付けられたプローブパルス602と、を用いる例示的な技法を示し、ここではパルス601とパルス602とはポンプ−プローブ遅延603によって隔てられている。有利なことに、2つの光源間の時間的な重なりを最小化することによって、交差吸収(すなわち、図2におけるプロセス203)を最小化することが可能である。欠陥エネルギー準位における電子は、好適には、(図1のステップCをもたらしうる)λの別のフォトンよりも、むしろ、(図3のステップDを促進しうる)λの別のフォトンを受け取るであろう。
【0028】
条件(1)及び(2)を満たすλによる過渡色中心の例示的ブリーチングは、セシウム・リチウム・ボレート(CLBO)非線形結晶(固体及びファイバーレーザー赤外線出力の非線形周波数変換によるDUV放射を得るために用いられる非線形光学材料)内部の193nm光によって誘起された532nm光の吸収を観察するために、ポンプ−プローブ構成におけるArF(フッ化アルゴン)エキシマー(193nm)と、周波数倍加Q−スイッチNd:YAG(ネオジムドープされたイットリウムアルミニウムガーネット)(532nm)レーザーと、を含みうる。
【0029】
図6Bは、193nmパルスと532nmパルスの間の遅延に依存する532nm吸収の実験データ606を示す。(色中心の集中に比例する)吸収量がポンプ−プローブ遅延の関数として減衰するため、データ606は、誘起された532nm吸収が過渡種、すなわち過渡色中心によってもたらされるという証拠を支持していることに留意されたい。更に、データ606は、これらの過渡色中心を効率的にブリーチするためにより長い波長光(例えば、532nm、又は同様の波長)を用い、それによって、光学材料内部に非常に大量のエネルギーを蓄積するであろう元の光(例えば、193nm、又は同様の波長)の二次吸収を防ぐことが可能である、という証拠を支持する。
【0030】
とりわけ、各光学材料は、交差吸収の最小化及び過渡色中心ブリーチングの最大化を保証するための、レーザー光パルス及びブリーチング光パルス間の最適化された遅延を有しうる。
【0031】
レーザーシステムに複数の波長が存在する場合、例えば非線形周波数変換などの場合、上述の条件(1)及び(2)を満たすならば、波長のうちの1つをブリーチング放射として用いることが可能でありうることに留意されたい。周波数変換プロセスにおいて、例えば、かかる周波数は、基本波長又は低次高調波の1つでありうる。独立したブリーチング光源の場合と同様に、ブリーチング光の時間的なシフトは望ましいものであり、特定波長の光を他の波長に対して遅延させるための光学的遅延要素を設けることによって達成することが可能である。例えば、図7は、光学的遅延要素702が、(多重周波数の)レーザー光が光学材料703を通過する前に、レーザー光源701の1つの波長に対する光学的遅延を提供することが可能なレーザーシステム700を示す。一実施形態において、温度制御環境704もまた、光学材料703内部のフォノンポピュレーションを制御するために用いられることが可能である。
【0032】
パルス化レーザーを用いる一実施形態において、光学材料の温度は、レーザーパルスの間は低温となり、パルスとパルスの間、及び/又は光学材料を通って伝播するレーザーパルスが存在しない場合は高温となるように調節されうる。温度調節の利点は、高温に起因する光吸収の増大のない、レーザーパルスが存在しない場合のより効率的な欠陥の熱アニーリングである。
【0033】
図8A及び図8Bは、光学材料内部に温度勾配を作り出し、それを時間的に変化させることによって、光学材料の高温部分が集中的なアニーリングを受ける一方で、レーザービームは常に低温領域内を伝播することによる、効率的な熱アニーリングの実施のための技法を示す。例えば、時間801において(図8A)、(下部領域に示されるように)高温領域が熱アニーリングを受ける一方で、レーザービームは、(断面で示される)光学材料810の低温領域内で左から右へとシフトすることが可能である。後の時点において、光学材料810内部の温度分布は、前に「低温」であった領域の温度が上昇する一方で、前に「高温」であった領域の温度が低下し、その領域へとレーザービーム803がシフトしうるように変更されることが可能である。例えば、時間802において(図8B)、レーザービームは、(上部領域として示されるように)光学材料810の異なる低温領域内で右から左へとシフトすることが可能である。このようにして、光学材料810内部に時間依存性の温度勾配を作り出すことが可能である。図8A及び図8Bに示されるサイクルは、複数回繰り返されることが可能である。
【0034】
本発明の特定の態様を説明するために、セシウム・リチウム・ボレート(CLBO)結晶の寿命についての実証研究を行った。この研究は、193.3nmの波長について行った。ブリーチング放射は用いず、最適なフォノンポピュレーションを発見するために、CLBO結晶の温度のみを変化させた。結晶の寿命は、CLBO結晶を通る193.3nm放射の透過が5%減少するまでにかかる時間として定義した。異なる条件下で異なる時間成長させた3つのCLBO試料を分析し、そのデータを、結晶温度の関数としての平均寿命を得るために組み合わせた。
【0035】
図9は、193.3nm放射にさらされる非線形CLBO結晶の寿命の最大化のための温度の最適化の結果を示す。図9に示されるように、およそ125℃の最適温度が、結晶の最大寿命に対応する。寿命は、最適温度の両側で、急速に減少する。例えば、CLBO結晶が通常用いられる温度である150℃における寿命は、125℃における寿命のほぼ半分であった。この振る舞いは、上述のとおり、不十分なフォノン数に起因する不適切なアニーリングが低温における寿命を減少させる一方で、高温において過度のフォノンポピュレーションに起因するフォノンに補助された吸収を介して過渡色中心形成が増大することを理由とする。
【0036】
本明細書において、添付の図面を参照しながら本発明の例示的な実施形態を詳細に説明したが、本明細書で説明された実施形態が網羅的であることは意図されておらず、本発明を開示されたとおりの形態に限定することも意図されていない。したがって、多くの修正例や変更例が明らかであろう。例えば、一実施形態において、光学材料は、レーザー光源の一部として一体的に形成されることが可能である。本明細書ではCLBO結晶が説明されたが、過渡色中心形成の抑制による恩恵を受けることが可能な他の光学材料として、BBO(ベータ・バリウム・ボレート)、CBO(セシウムトリボレート)、LBO(リチウムトリボレート)、KDP(リン酸二水素カリウム)、KD*P、ADP(リン酸二水素アンモニウム)、KTP(リン酸チタニルカリウム)、又は周期的に分極された物質が含まれうることに留意されたい。したがって、本発明の範囲は、以下の特許請求の範囲及びその均等物によって画定されることが意図されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光源にさらされる光学材料の寿命を増大させるための方法であって、前記レーザー光源は少なくとも1つの波長λを有するレーザービームを生成し、前記方法は、
波長λを有するブリーチング光ビームを生成するブリーチング光源を提供することであって、λ>>λである、ブリーチング光源を提供し、
合成ビームを生成するために、前記ブリーチング光ビームを前記レーザービームと合成し、
前記光学材料を含むレーザーシステムの稼働に前記合成ビームを用いること、
を含む、方法。
【請求項2】
前記レーザーシステムの前記稼働の間にアニーリングを提供するために、前記光学材料の温度を調節することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記レーザー光源はパルス化されており、前記温度は、前記光学材料内にレーザーパルスが存在する間は低温に維持され、前記温度は、前記光学材料内にレーザーパルスが存在しない場合、高温に維持される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
レーザー光源にさらされる光学材料の寿命を増大させるための方法であって、前記レーザー光源は少なくとも1つの波長λを有する多重レーザービームを生成し、前記方法は、
波長λを有するブリーチング光ビームを生成するブリーチング光源を提供することであって、λ>>λである、ブリーチング光源を提供し、
前記多重レーザービームを、前記光学材料の一点に集束させ、
前記一点を前記ブリーチング光ビームと交差させ、
前記光学材料を含むレーザーシステムの稼働に前記交差点を用いること、
を含む、方法。
【請求項5】
アニーリングを提供するために、前記光学材料の温度を調節することを更に含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記レーザー光源はパルス化されており、前記温度は、前記光学材料内にレーザーパルスが存在する間は低温に維持され、前記温度は、前記光学材料内にレーザーパルスが存在しない場合、高温に維持される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
レーザー光源にさらされる光学材料の寿命を増大させるための方法であって、前記レーザー光源は少なくとも1つの波長を有する多重レーザービームを生成し、前記方法は、
前記多重レーザービームの波長のうちの少なくとも1つを遅延させるための光学的遅延要素を提供し、
合成ビームを生成するために、遅延された波長を任意の残りの遅延されていない波長と合成し、
前記光学材料を含むレーザーシステムの稼働に前記合成ビームを用いること、
を含む、方法。
【請求項8】
アニーリングを提供するために、前記光学材料の温度を調節することを更に含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記レーザー光源はパルス化されており、前記温度は、前記光学材料内にレーザーパルスが存在する間は低温に維持され、前記温度は、前記光学材料内にレーザーパルスが存在しない場合、高温に維持される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
レーザー光源にさらされる光学材料の寿命を増大させるための方法であって、前記レーザー光源は少なくとも1つの波長を有するレーザービームを生成し、前記方法は、
前記光学材料のバンドギャップ内部の欠陥エネルギー準位をデポピュレートするためにブリーチング光ビームを用いることであって、前記ブリーチング光ビームは前記レーザービームよりも長い波長を有する、ブリーチング光ビームを用いることを含む、方法。
【請求項11】
アニーリングを提供するために、前記光学材料の温度を調節することを更に含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記レーザー光源はパルス化されており、前記温度は、前記光学材料内にレーザーパルスが存在する間は低温に維持され、前記温度は、前記光学材料内にレーザーパルスが存在しない場合、高温に維持される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ブリーチング光ビームは前記レーザービームと平行に伝播する、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記ブリーチング光ビームは前記レーザービームとある角度をなして伝播する、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記レーザービーム及び前記ブリーチング光ビームはパルス化されており、前記パルス化されたブリーチング光ビームは、前記パルス化されたレーザービームに対して時間的にシフトされる、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
レーザー光源にさらされる光学材料の寿命を増大させるための方法であって、前記レーザー光源は少なくとも1つの波長を有するレーザービームを生成し、前記方法は、
前記光学材料のバンドギャップ内の少なくとも1つの欠陥エネルギー準位をブリーチするために、前記レーザービームの1つの波長を遅延させることを含む、方法。
【請求項17】
レーザー光源にさらされる光学材料の寿命を増大させるための方法であって、前記方法は、
前記レーザー光源によって生成されるレーザービームが前記光学材料内の低温の領域内に配置されるように、前記光学材料内部に時間依存の温度勾配を作り出すことであって、前記レーザービームは前記領域を通ってシフトする、時間依存の温度勾配を作り出すことを含む、方法。
【請求項18】
少なくとも1つの波長を有するレーザービームを生成するためのレーザー光源と、
波長λを有するブリーチング光ビームを生成するためのブリーチング光源であって、λ>>λである、ブリーチング光源と、
前記ブリーチング光ビームを前記レーザービームと合成して合成ビームを生成するためのビーム合成器と、
を備える、レーザーシステム。
【請求項19】
局所的アニーリングを提供するための温度調節要素を更に含む、請求項18に記載のレーザーシステム。
【請求項20】
少なくとも1つの波長を有する多重レーザービームを生成するためのレーザー光源と、
波長λを有するブリーチング光ビームを生成するためのブリーチング光源であって、λ>>λである、ブリーチング光源と、
前記多重レーザービームを一点に集束させるための集束レンズと、
前記一点を前記ブリーチング光ビームと交差させるための位置決め要素と、
を備える、レーザーシステム。
【請求項21】
局所的アニーリングを提供するための温度調節要素を更に含む、請求項20に記載のレーザーシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図9】
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【図8A】
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【図8B】
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【公表番号】特表2013−516657(P2013−516657A)
【公表日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−548066(P2012−548066)
【出願日】平成23年1月3日(2011.1.3)
【国際出願番号】PCT/US2011/020054
【国際公開番号】WO2011/084927
【国際公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(500049141)ケーエルエー−テンカー コーポレイション (126)
【Fターム(参考)】