説明

過熱蒸気による不要物除去方法及び不要物除去装置の部品

【課題】道路等の舗装面に施工された路面表示塗料(いわゆる白線)や建築床面に施工されたPタイル等で不要物となったものを、従来の切削機(カッター)等を用いる方法よりも効率的に、かつ騒音や粉塵等の発生を防止しつつ、簡易な装置で剥離除去すること。
【解決手段】不要物の付着面にボイラで生成した飽和蒸気を加圧することなく再加熱してなる過熱蒸気を噴射し、その熱量及び噴射圧並びに膨圧により剥離して除去する。過熱蒸気の噴射に当たっては、路面表示塗料の剥離には噴射口が扁平なノズルを用い、Pタイル等の剥離にはスクレイパー(剥離刃)付ノズルを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路面や土木建築物の舗装面又は床面に付着した不要物の除去方法及び不要物の除去装置の部品に関し、更に詳しくは道路面や土木建築物の舗装面に施工された後不要となった路面標示塗料(いわゆる白線)又は建築物の床面に貼付施工された後不要となったPタイル等の床材を施工面から剥離除去する方法及びその除去装置の部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、舗装道路や舗装駐車場等の舗装面上に引かれた白線等の路面標示塗料は、磨耗や経年劣化に対する補修の際、あるいは事情による引き直しの際に剥離除去する必要があった。
【0003】
その際、一般的には切削機(カッター)等を用いて路面標示塗料を削り取る方法が取られているが、下地である舗装面も路面標示塗料とともにある程度削り取らざるを得ないため、剥離除去後に傷んだ舗装面を埋め戻す作業が必要とされる場合が多いだけでなく、切削機を用いた剥離除去作業は騒音や粉塵の発生を伴い、作業効率の悪さと現場近隣への迷惑という問題があった。
【0004】
そこで、従来より、路面標示塗料のみを剥離除去するための方法や装置が提案されている(特許文献1、2、3参照)。特許文献1記載の路面標示塗料除去装置は、バキューム箱内で噴射ノズルから衝突子を舗装面に向けて噴射し、衝突子の運動エネルギーにより路面標示塗料を切削又は剥離するものである。
【0005】
特許文献2又は3記載の路面標示塗料除去装置は、バーナー等で生成した熱風又は蒸気ボイラーで生成した高温蒸気を路面標示塗料に吹きつけてそれを溶融した後、圧縮空気を吹きつける又は回転ブラシを用いる等の方法で溶融した路面標示塗料を路面から浮上させ、さらにバキューム吸引装置によって吸引し回収しようとするものである。
【0006】
しかし、特許文献1の路面標示塗料除去装置は、衝突子を路面標示塗料に衝突させて切削又は剥離するものであるから、完全に路面標示塗料を切削又は剥離し、かつ下地である舗装面を傷つけないようにするためには衝突子の命中範囲や衝突子の量を厳密に制御する必要があるが、これは容易ではなく、また大量の衝突子の供給のための装置が大掛かりで複雑なものにならざるを得ないこと、施工後の衝突子の回収の問題など、コストが高くなるという欠点がある。
【0007】
また、特許文献2又は3の路面標示塗料除去装置は、熱風または蒸気により路面標示塗料を溶融させた後、圧縮空気の吹きつけ等により路面から浮上させ、バキューム吸引装置で吸引して剥離除去しようとするものであるが、この方法では高熱で溶融した路面標示塗料が次の工程で舗装面から浮上させられるまでの間に舗装面の材料に浸み込んでしまい、却って剥離しにくくなる可能性が指摘できる。
【0008】
また、高熱に晒された舗装面では舗装材料に浸透している各種の汚染物質や塵埃が溶融した路面標示塗料と混融する可能性が高く、そのような路面標示塗料を回収したとしても汚染物質や塵埃の分離除去の必要性を考慮すれば再利用はコスト高なものとなり、回収の費用対効果は高いものとはいえない。
【0009】
何より、熱風(あるいは蒸気)の吹きつけユニット、圧縮空気吹きつけユニット、回転ブラシユニット、吸引回収ユニットを多重的に連結してなる特許文献2又は3の路面標示塗料除去装置は、巨大かつ複雑で高価な装置とならざるを得ない。そのため、施工コストは当然に高いものとなり施工現場での取り回しも良くないため、路面標示塗料の剥離除去装置として現実的とはいえない。
【0010】
一方、建築物の床面に接着施工されたタイル等の剥離除去に関しては、やはり従来は、切削機(カッター)等を用いて機械的に剥離あるいは削り取る方法、又はスクレイパー等の工具を用いて手作業で剥離あるいは削り取る方法が取られていた。
【0011】
しかし、これらの方法も前述の路面標示塗料の従来の剥離除去方法と同様に、床面下地を傷める可能性が高いこと、騒音や粉塵の発生、作業効率の悪さといった問題があった。
【0012】
また、Pタイルは塩化ビニル製のものが多いが、過去に施工されたPタイルには強度保持や耐摩耗性を高めるために有害なアスベストを含有するものも多く、切削機(カッター)や手作業による剥離の際にアスベストの粉塵が発生して、作業者に健康被害をもたらす危険性が指摘されている。
【0013】
こうした問題に対して、高圧の水を噴射する方法もあるが、床面に付着した不要物の剥離という用途においては噴射する水の制御が容易ではなく、屋内という条件では大量の排水の処理の問題も伴うため適当な方法とはいえない。
【0014】
そして、特許文献1乃至3の如き大規模かつ複雑な装置は、費用対効果はもとより作業性や取り回しを考慮すれば屋内作業への応用は不適当である。
【特許文献1】登録実用新案公報第3063457号
【特許文献2】特開2008−25241号
【特許文献3】特開2008−138457号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明が解決しようとする課題は、上記道路面や土木建築物の舗装面又は床面に付着した不要物の除去に関する技術の問題点を解決しようとすることである。更に詳しくは、道路面や土木建築物の舗装面に施工された後不要となった路面標示塗料(いわゆる白線)又は建築物の床面に貼付施工された後不要となったPタイル等の床材を施工面から剥離除去する際に、従来方法よりも騒音や粉塵の発生を抑制しつつ、作業効率を高めてより短時間での剥離除去作業を可能とし、しかも大規模あるいは複雑な装置を必要としない、過熱蒸気を用いた新たな除去方法を提供することである。
【0016】
また、合わせて、最小限の除去装置により、道路等の舗装表面と建築物の床面の双方に対して該新たな除去方法を適用可能とするために必要となる最適な除去装置の部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に係る発明は、不要物の付着した付着面に、過熱蒸気(蒸気ボイラから得た飽和蒸気を再加圧することなく蒸気過熱器により再加熱してなる水蒸気)を噴射し、過熱蒸気の熱量及び噴射圧並びに膨圧により不要物を剥離することを特徴とする。
【0018】
具体的には、図1に示す如く、蒸気ボイラ1と、蒸気過熱器2と、過熱蒸気噴射ユニット3と、蒸気ボイラから蒸気過熱機へ飽和蒸気を供給する耐熱蒸気ホース4からなる不要物除去装置を用いることを特徴とする不要物の除去方法である。
【0019】
上記蒸気ボイラ1は、要求性能及び費用対効果の観点から、ボイラー技士免許無しで扱える常用圧力0.98Mpa(10kg/平方センチメートル)以下の簡易蒸気ボイラが望ましく、特に0.49Mpa(5kg/平方センチメートル)以上のものが望ましい。蒸気過熱器2は、上記蒸気ボイラ1から供給された飽和蒸気を再加熱して過熱蒸気を生成する装置であり、再加熱のための熱源としては、装置の軽量化や取り回しを考慮すれば電気シーズヒータが適当である。過熱蒸気噴射ユニット3は、上記蒸気加熱器2で生成した過熱蒸気を不要物の付着面に噴射するためのノズル5を有する。
【0020】
舗装面上に施工される路面標示塗料は、品質規定で軟化点が80℃以上とされており、一般に軟化点が100℃強のものが用いられている。さらに、概ね120℃以上で溶融が促進され、概ね180℃以上で流動物状態となる。ちなみに、舗装面への白線の施工時(線引き時)には、一般的には200℃前後に過熱して流動物状態となった路面標示塗料が用いられている。
【0021】
一方、建築物の床面等に用いられるタイル材の接着に用いられる接着剤は様々であるが、コンクリート床面等へのPタイル等の直貼りに一般的に使用されるエポキシ樹脂系接着剤やクロロプレンゴム系接着剤は耐熱性に優れており、それらの軟化点は少なくとも80℃以上、多くは120℃以上である。また、Pタイル自体は一般的に140℃前後が軟化点である。
【0022】
そのため、路面標示塗料や床材に用いられた耐熱性の高い接着剤を加熱して軟化させ剥離除去しやすくするためには少なくとも120℃乃至150℃程度の熱を加える必要があるが、上記簡易蒸気ボイラは仕様にもよるが最大150℃乃至160℃の飽和蒸気を発生させることが可能なものの、該飽和蒸気を不要物に向け噴射した場合、噴射口から大気中に放出された瞬間に膨張冷却し、不要物に到達した時点で100℃程度まで温度が低下してしまうことが経験上知られている。
【0023】
また、重量物である簡易蒸気ボイラと施工場所との間に距離がある場合、耐熱蒸気ホースを用いて飽和蒸気を施工場所まで送出する必要があるが、この間の熱量ロスが生じるため、噴射口における飽和蒸気の温度はさらに低下することになる。
【0024】
この問題は、蒸気過熱器を用いて蒸気ボイラから届いた飽和蒸気を再加熱し、噴射口における飽和蒸気の温度を200℃以上に高めることで解決できる。噴射口において200℃の過熱蒸気は、噴射口から数センチメートル離れた不要物に到達した時点でなお160℃前後の温度を有しており、不要な路面表示塗料あるいは床材に用いられた耐熱性接着剤を溶融させるに十分である。
【0025】
ここで、請求項1に係る発明による不要物の剥離除去の方法につき詳述する。
【0026】
蒸気ボイラ1から供給され蒸気過熱器2で200℃以上に加熱されて生成された過熱蒸気が過熱蒸気噴射ユニット3の噴射口から路面又は床面の不要物に向け噴射することにより、不要物あるいはそれを床面に接着している接着剤が軟化点を超えて加熱され、不要物あるいは接着剤は溶融を開始する。
【0027】
この際、過熱蒸気を一般的には平面である付着面に対して適切な浅い角度で噴射することにより、過熱蒸気の噴射圧によって溶融した不要物の一部が剥離し、その結果生じる不要物と付着面との間の間隙にさらに過熱蒸気が侵入する。
【0028】
該間隙内に進入した過熱蒸気はそこで急激に体積を膨張させるため、その膨圧により上方の不要物はさらに剥離が進む。
【0029】
具体的には、例えば軟化した路面標示塗料の場合は、完全に溶融して液化する以前に噴射圧と膨圧の相乗効果により分解・スラグ化して吹き飛ばされ、接着剤で付着せしめられたPタイル等の床材の場合は、過熱蒸気の噴射を受けた部分から順次捲り上げられるように剥離する。
【0030】
そして、不要物の剥離の状況に応じて過熱蒸気噴射ユニット3を徐々に前進させることにより、連続的に不要物の剥離除去作業を進めることができる。
【0031】
ちなみに、20℃で体積0.001立方メートルの水をボイラで加熱して得た飽和蒸気の体積は例えば0.6Mpa、164.2℃において0.2778立方メートルであり、これを常圧大気中に噴射した場合、100℃においてその体積は1.725立方メートルとなり、瞬時に約6倍以上に体積が膨張する。噴射圧によって不要物とその付着面に強制的に進入させられた過熱蒸気は、この膨圧によって軟化した不要物やPタイル等の上方への剥離を促進するのである。
【0032】
また、上記の効果を得るための上述の「適切に浅い角度」は、不要物の付着平面に対する噴射口から噴射する過熱蒸気の軸線の角度として20°乃至35°、望ましくは28°乃至30°である。
【0033】
ここで、不要物が路面標示塗料である場合は、加熱蒸気の噴射圧により、軟化し溶融した不要物の一部が吹き飛ばされて剥離し付着面である舗装面が露出した段階で上記の間隙が形成されるが、不要物がPタイル等の床材で隙間なく敷き詰められている場合は、床材自体が障害物となって間隙を形成しにくいため、剥離除去作業の前段階でタイルの繋ぎ目等をスクレイパー等の工具で一部機械的に剥離させてから過熱蒸気を噴射することが望ましい。
【0034】
その場合、一旦一部が剥離し始めれば床材の断面及び接着剤部分が露出するため、以降は機械的な剥離を要さず過熱蒸気の噴射のみで連続的に剥離除去作業を進行できる。
【0035】
なお、路面標示塗料を剥離除去する場合、特に下地の舗装面が透水性のアスファルト舗装のように大量の骨材が混入されて間隙の多い場合、路面表示塗料が該間隙に浸透しているが、160℃前後の過熱蒸気に晒された間隙内の路面標示塗料は十分に融解しているため、過熱蒸気の噴射圧と膨圧の効果により間隙内からその大部分が掻き出され(あるいは押し出され)、その後常温大気との接触により冷却されて舗装面上にスラグ化して残り、剥離除去作業の後に容易に除去することができる。
【0036】
以上の通り、請求項1に係る除去方法は、通常の蒸気ボイラで生成して利用できる飽和蒸気の温度以上でなければ軟化溶融できない路面標示塗料や耐熱性の高い接着剤で下地に接着されたPタイル等の床材を、飽和蒸気を加圧することなく蒸気過熱器で再加熱してなる過熱蒸気の熱量により軟化溶融し、噴射圧及び膨圧により剥離除去することを特徴としている。
【0037】
これは、いわば「過熱蒸気のブレード(刃)」によって不要物を切削あるいは剥離する方法であり、特許文献1記載の発明のように衝突子の運動エネルギーにより不要物を表面から切削する技術や、特許文献2又は3記載の発明のように高熱で不要物を融解させて吸引除去する技術とは、技術的思想において根本的に異なるものといえる。
【0038】
ちなみに、ボイラで生成した飽和蒸気を蒸気過熱器で再加熱して過熱蒸気を得る技術自体は公知技術であるが、かかる過熱蒸気は従来、火力発電所の発電用蒸気タービンにおけるドレン発生による効率低下の防止等を目的として、主に大規模な蒸気圧利用機器の機械的効率向上のために利用されてきた技術である。
【0039】
一方、一般的な不要物除去や機器等の洗浄にはいわゆるスチーム洗浄が多用されてきたが、これらはボイラ等の蒸気発生器で得た飽和蒸気(いわゆる生蒸気)の噴射圧や湿潤効果により洗浄力を発揮するものであり、これに対して高温の過熱蒸気の熱量により不要物を軟化溶融しつつ噴射圧と膨圧の相乗効果により剥離除去する本発明は、過熱蒸気の特性に着目しその新たな用途を見出したものである点において異なるものである。
【0040】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明における過熱蒸気の噴射に当り、過熱蒸気噴射ユニット3に備えるノズル5として、噴射口が扁平な形状のノズルを用いることを特徴とするものである。
【0041】
前述の通り、請求項1に係る発明はいわば「過熱蒸気のブレード(刃)」によって不要物を切削あるいは剥離する方法であるが、一般的に平面である不要物の付着面に対して一般的なノズルは噴射口が円形であり噴射される過熱蒸気も噴射口を頂点とする円錐形状に拡散する。そのため、一定の幅を有する不要物に対し最短距離で熱量のロスを抑えつつ効率的に過熱蒸気を噴射するためには必ずしも適当ではない。
【0042】
そこで、請求項2に係る発明では図2に示す如く噴射口が扁平な形状のノズルを用いることで、過熱蒸気を文字通り「刃」の形状に整流して噴射させる方法を用いることを特徴としている。
【0043】
該ノズルは、例えば図1における過熱蒸気噴射ユニット3の過熱蒸気取り出しパイプに接続する円筒形のアタッチメント部分6と該アタッチメント部分を基点に噴射口に向けて扇状に幅を広げつつ扁平化するノズル先端7の構造を有し、噴射口8の断面形状は噴射される過熱蒸気が文字通り「刃」としての効果を奏するスリット状を成すものが考えられる。
【0044】
噴射口の幅及び高さは任意であるが、例えば一般的な路面の白線の場合15cm幅が多い路面標示塗料の剥離除去に用いる場合、噴射口の幅も15cm程度が適当であり、噴射口の高さは0.1mm程度が望ましい。なお、ノズルの材質は200℃以上の高温への耐熱性を必要とし、代表的なものとしてはステンレススチールが例示できる。
【0045】
本発明では上記の噴射口が扁平なノズルを過熱蒸気噴射ユニットに取り付け、ノズル先端の角度を、不要物の付着平面に対する噴射口から噴射する過熱蒸気の軸線の角度として15°乃至35°、望ましくは28°乃至30°となるようにし、噴射口から不要物の付着平面までの距離を10mm程度とすることが適当である。
【0046】
作業場所や不要物の状況によりノズル先端の角度を可変とする機構を設けることも考えられるが、高温の過熱蒸気を通すという点からは角度可変機構部分の耐久性の問題を生じるし、路面標示塗料の剥離除去を主目的とする場合はノズルの角度や噴射口と路面表示塗料の距離は固定的で足りるから、小型の台車に固定ノズルを備えた蒸気過熱器を積載した過熱蒸気噴射ユニットを使用することが適当である。
【0047】
請求項3に係る発明は、請求項1に係る発明における過熱蒸気の噴射に当り、図1における過熱蒸気噴射ユニット3に備えるノズル5として、スクレイパー(剥離刃)付ノズルを用いることを特徴とするものである。
【0048】
前述の通り、不要物がPタイル等の床材で隙間なく敷き詰められている場合は、過熱蒸気を噴射する前にスクレイパー等の工具で床材の一部を剥離して床材と下地面との間に間隙を作る必要があるが、過熱蒸気の噴射ノズル自体の先端にスクレイパーを装備することで作業効率を向上させることが可能となる。
【0049】
具体的には、図3に示す如くノズル9の噴射口10の上部に「庇」状となるようスクレイパー11を固定する。これにより、噴射口10から噴射された過熱蒸気はスクレイパー11の存在によって上方には拡散せずにスクレイパー11の下面に沿って整流され、不要物に到達した際に過熱蒸気自体も「刃」としての効果を奏する。
【0050】
実際の使用時には、Pタイル等の床材の繋ぎ目等にスクレイパー11の先端を挿入して床材の一部を剥離し、そのままの状態で床材と下地面との間に生じた間隙に噴射口10から過熱蒸気を噴射して床材を剥離除去する。
【0051】
床材が1枚剥離すれば隣接する床材はその断面及び接着剤層を露出することになるので、以降は過熱蒸気の熱量と噴射圧により剥離を進めることが可能となるが、必要に応じて補助的にスクレイパー11を使用して剥離を促進してやれば効率的である。
【0052】
なお、請求項3に係る発明におけるノズルやその噴射口およびスクレイパーの形状や大きさは任意であり、剥離作業の効率を優先する場合は請求項2に係る発明に記載した噴射口が扁平な形状のノズルの噴射口上面に適切な大きさのスクレイパーを取り付ければ良いし、不要物の幅が小さい場合や細かな剥離作業に使用する場合は、通常の円形ノズルにスクレイパーを取り付けたものを使用しても良い。また、用途に応じたノズルを用意しておき、交換アタッチメントとして過熱蒸気噴射ユニットに付け替えて使用しても良い。
【0053】
請求項4に係る発明は、請求項1に係る発明における過熱蒸気の条件として、温度200℃以上、圧力0.2Mpa以上であることを特徴とする方法であり、あるいは請求項2に記載した噴射口が扁平な形状のノズルまたは請求項3に記載したスクレイパー付ノズルのいずれかを用いることを特徴とするものである。
【0054】
請求項5に係る発明は、請求項1に記載した機器を用いて、舗装面に施された路面表示塗料を剥離除去する方法であり、一定の幅を有する路面標示塗料の剥離除去に適した請求項2記載のノズルを用いることを特徴とするものである。
【0055】
請求項6に係る発明は、請求項1に記載した機器を用いて、耐熱性接着剤により床面に接着施工されたタイル等の床材を剥離除去する方法であり、様々な種類や大きさの床材に応じて適切な仕様の請求項3記載のスクレイパー付ノズルを用いることを特徴とするものである。
【0056】
請求項7に係る発明は、請求項1記載の不要物の除去方法において請求項2記載の噴射口が扁平な形状のノズルを使用し、主に舗装面に施された路面表示塗料を剥離除去する場合に適した不要物除去装置の過熱蒸気噴射ユニットの構造に係るものであり、該過熱蒸気噴射ユニットはノズル及び過熱蒸気の噴射を受ける舗装面周辺を一体的に覆う余熱室を有することを特徴とする。
【0057】
上述の通り、請求項2に係る発明では図2に示す如く噴射口が扁平な形状のノズルを用いることで、過熱蒸気を文字通り「刃」の形状に整流して噴射させる方法を用いることを特徴としているが、噴射直後の過熱蒸気の温度低下をできる限り防ぐことが望ましく、特に路面標示塗料の剥離除去に使用する場合は、過熱された路面表示塗料の温度もできる限り維持できることが望ましい。
【0058】
そのためには、少なくともノズルと過熱蒸気の噴射を受けている部分の路面標示塗料を一体的にカバーする覆いを設け、過熱蒸気及び路面標示塗料を外気から遮断することが望ましい。
【0059】
具体的には図4に示す如く、ノズル12と過熱蒸気の噴射が当たる部分及び過熱蒸気噴射ユニットの進行方向の直前方も含めた舗装面を一体的にカバーする余熱室13を過熱蒸気噴射ユニット14に設けることを特徴とする。
【0060】
余熱室13の構造は、下面は舗装面に対して開放されており、ダンパー機構15によってノズル12のメンテナンス等の便宜のため余熱室13全体が上方に跳ね上げられるようになっている。なお、過熱蒸気噴射中は余熱室13内が大気圧よりも高圧になり、噴射後の余分な蒸気は余熱室13と舗装面との隙間から外部へ排出される。また、余熱室の上面には耐熱ガラスの観察窓16を設けることが望ましい。
【0061】
余熱室の材質は、ノズルほどの耐熱性は要求されないが、その内部には噴射後の過熱蒸気が充満するため、少なくとも100℃程度の高熱に対する耐熱性を有することが望ましく、後述の通り剥離してスラグ化した路面標示塗料が過熱蒸気の膨圧に飛ばされてその内面にぶつかるため、例えば2mm厚程度のステンレススティールの板材が適当である。
【0062】
また、余熱室の不要な条件下での作業やノズルのメンテナンスの際の作業性を考慮すれば、余熱室は容易に過熱蒸気噴射ユニットから取り外せるか、上方に跳ね上げられるような可動機構を有することが望ましい。
【0063】
余熱室の上面に耐熱ガラスの観察窓を設けることで、作業者は該観察窓を通して路面標示塗料の剥離除去の状況を観察することができ、状況に応じて過熱蒸気噴射ユニットの移動速度を調節できる。
【0064】
かかる余熱室を設けることにより、過熱蒸気噴射中は舗装面に噴射された後の過熱蒸気が余熱室内に充満して室内の温度は常時100℃程度となるため、余熱室内でまだ直接過熱蒸気を噴射されていない部分の路面表示塗料も余熱されて事前に軟化を開始しており、過熱蒸気を噴射された際にはより容易に剥離するから剥離除去の作業効率が向上するという効果を奏する。
【0065】
また、剥離除去されてスラグ状となった路面標示塗料は、過熱蒸気の噴射圧及び膨圧によって舗装面から吹き飛ばされた後、余熱室の内面にぶつかって舗装面に落下し、過熱蒸気噴射ユニットの進行により後方に帯状に取り残される形となるため、スラグが施工現場一帯に散らばることを防ぎ、回収も容易になるという効果も奏する。
【0066】
請求項8に係る発明は、請求項3記載のスクレイパー(剥離刃)付ノズルであって、ノズル口の上面に不要物を剥離する板状のスクレイパー(剥離刃)を有し、該スクレイパーで不要物を一部剥離させて生じた不要物と付着面の隙間にノズルから噴射した過熱蒸気を導入する構造を有することを特徴とするノズルである。
【発明の効果】
【0067】
本発明においては、従来は切削機あるいは手作業で行っていた道路の舗装面の路面表示塗料や土木建築物の床面に耐熱性接着剤で貼付されたPタイル等の床材などの不要物の剥離除去を、過熱蒸気を噴射することによって付着面を傷めることなく有効かつ効率的に行うことができ、道路や建築物等の施設の補修・リニューアルにおける工期短縮・コストダウンを図ることができるという効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0068】
以下、本発明の実施の形態を、図5及び図6を参照しつつ説明する。図5は主に舗装面の路面標示塗料の剥離除去に適した本発明の第一実施形態を示すものであり、図6は主に建築物の床材の剥離除去に適した本発明の第二実施形態を示すものである。
【実施例1】
【0069】
第一実施形態では、図5に示す如く、簡易蒸気ボイラ16及び発電機17を小型トラック18の荷台に積載し、一方、蒸気過熱器20と回転式電動ブラシ21、操作盤22、スラグ吸引口23を一体的に積載した走行型の過熱蒸気噴射ユニット19を使用している。なお、24は別途独立したスラグ吸引機である。耐熱蒸気ホース25は簡易蒸気ボイラ16で発生させた飽和蒸気を蒸気過熱器20に供給し、電気コード26は発電機17から蒸気加熱器20及び回転式電動ブラシ21並びにスラグ吸引機24に電力を供給する。スラグ吸引機24はスラグ用ホース27を介してスラグ吸引口23からスラグを吸引回収する。
【0070】
簡易蒸気ボイラ16及び発電機17は嵩張る重量物であるため小型トラック18に積載して剥離除去作業の現場近傍の適当な位置に配置する。過熱蒸気噴射ユニット19及びスラグ吸引機24は作業員が手押しで移動させることができ、剥離除去作業の現場に搬入して使用する。
【0071】
簡易蒸気ボイラ16としては、最高圧力0.98Mpa(10kg/平方センチメートル)が望ましいが、温度150℃程度、圧力0.5Mpa程度の飽和蒸気を発生できるものであれば良い。また、発電機17は定格出力7kVA程度の三相200V交流発電機が適している。
【0072】
蒸気過熱器20は、飽和蒸気を最大250℃まで過熱できる性能を有するものを用いるが、熱源としては200V電気シーズヒータ(定格出力3kW)が適している。
【0073】
過熱蒸気噴射ユニット19は、蒸気過熱器20とノズル12と余熱室13と回転式電動ブラシ21と操作盤22とスラグ吸引口23を台車に積載した部品であり、ノズル12は舗装面の路面標示塗料の剥離除去に適した請求項3に記載の噴射口が扁平な形状のノズルを用いる。
【0074】
回転式電動ブラシ21は、本体として業務用の床面清掃用回転式電動ブラシが使用できるが、ブラシ本体はアスファルト路面等の間隙に残る高温の路面標示塗料を掻き出すという条件からスチールワイヤーブラシであることが望ましい。スラグ吸引機24は一般的な産業用バキューム掃除機でも良い。耐熱蒸気ホース25は簡易蒸気ボイラ16で発生させた高温の飽和蒸気を通すため、少なくとも200℃程度の耐熱性を有することが必要である。
【0075】
本第一実施形態では、簡易蒸気ボイラ16で発生させた温度150℃以上の飽和蒸気を耐熱蒸気ホース25で過熱蒸気噴射ユニット19の蒸気過熱器20に供給し、200℃程度まで再加熱して過熱蒸気とした上でノズル12の噴射口から0.49Mpa程度の圧力で舗装面に対して28°乃至30°の角度で噴射する。この際、噴射口から標的となる路面標示塗料表面までの距離は10mm前後が望ましい。
【0076】
噴射口付近で200℃程度の過熱蒸気は路面標示塗料表面付近でも160℃程度の温度を維持しているため、その熱量により路面標示塗料は軟化溶融し、噴射圧により一部が舗装面から剥離し始める。
【0077】
それによって生じた路面標示塗料と舗装面の間隙にさらに過熱蒸気が進入し、間隙の中で過熱蒸気が膨張することで、その膨圧により剥離しかけた路面標示塗料は一気に分解飛散してスラグとなる。
【0078】
その際、舗装面の間隙に残留した路面表示塗料も高熱で融解しているから、その相当部分は過熱蒸気の噴射圧と膨圧により間隙から排除される。なお、分解飛散したスラグは余熱室13の内壁に衝突した後に舗装面上に落下する。
【0079】
過熱蒸気噴射ユニット19を手動又は電動で徐々に前進させることによりこの過程が連続的に繰り返され、路面標示塗料は順次剥離除去されていくのである。
【0080】
過熱蒸気噴射ユニット19の前進に従い、回転式電動ブラシ21の接地面が路面標示塗料が剥離除去された舗装面の位置に進むが、この時点では舗装面は余熱室13の効果でなお路面表示塗料の軟化点を上回る温度を維持しており、舗装面の間隙に若干残留する軟化した路面表示塗料は回転式電動ブラシ21の摩擦により間隙から掻き出されて細かなスラグとして除去される。
【0081】
さらに過熱蒸気噴射ユニット19が移動することによりスラグ吸引口23が前進し、回転式電動ブラシが通過した後の舗装面に堆積したスラグを吸引する。吸引されたスラグはスラグ用ホース27を通ってスラグ吸引機24に回収され、路面標示塗料の剥離除去の工程が完了する。
【0082】
なお、スラグ吸引口23は必ずしも過熱蒸気噴射ユニット19上に設置する必要はなく、スラグ吸引機24に附属のホース先端に装着して、一般的な掃除機の如く使用して台車通過後の舗装面のスラグを吸引回収しても良い。その場合は、過熱蒸気噴射ユニット19自体をさらにコンパクトなものに設計することも可能である。
【0083】
以上の通り、本第一実施形態によれば、舗装面の不要な路面表示塗料を過熱蒸気の作用により連続的にかつ極めて効率的に剥離除去することが可能となる。
【0084】
また、嵩張る上に重量も重い蒸気ボイラや発電機は小型トラックに積載したまま、路面表示塗料を剥離除去すべき現場には台車に積載した最小限の装置とスラグ吸引機だけを持ち込めば良いので作業現場での取り回しが良いことも作業効率の向上に貢献する。これらの台車やスラグ吸引機は人力でトラックへの上げ下ろしが可能であるので、必要な機器一式をコンパクトにまとめて所定の作業現場への移動も容易である。
【0085】
従って、かかる第一実施形態の発明を例えば前述の特許文献2乃至3の先行技術と比較した場合、後者が加熱手段により軟化溶融した路面表示塗料を別途の圧縮空気吹きつけ手段や掻き出し手段により舗装面から剥離浮上させ、吸引回収手段により回収するのに対して、本発明は「過熱蒸気のブレード(刃)」の作用により路面表示塗料の軟化溶融と剥離浮上を一体的に行うという点で根本的な原理が異なり、後者よりも簡易かつコンパクトな装置で同じ課題を解決できるから、費用対効果や作業性の点でより優れた方法といえる。
【0086】
第一実施形態の発明に係る除去方法を、上記の機器を使用して試験を行ったところ(ただし、スラグ吸引機は装備していない)、表1の通りの試験結果を得た。試験に使用した簡易蒸気ボイラは日本サーモエナー社製「エクオス蒸気ボイラ」形式EQS−200/KMである。
【0087】
【表1】

【0088】
剥離除去の対象は、透水性アスファルト舗装面上に施工された路面表示塗料(白線)で、製品名「ラインアスファルト(白)」、品番GLS−55、適用規格JIS K 5665(2002)路面表示用塗料3種1号、密度2.0g/立方センチメートル(23℃)、軟化点103.0℃で、幅15cm、舗装面に対する厚さ2mmである。なお、試験は同様の条件を備える白線を対象に台車の移動速度を変えて合計5回実施した。
【0089】
上記の試験用路面表示塗料の一端に対して本実施形態の過熱蒸気ノズルから、噴射口付近の測定値で200℃、圧力0.49Mpaの過熱蒸気を噴射したところ、20秒前後で端部が過熱蒸気の熱量により軟化し噴射圧及び膨圧により捲り上げられた後スラグとなって吹き飛び、余熱室の内壁に衝突して舗装面上に落下するのが観察窓を通して観察された。また、この際、余熱室内の温度を測定したところ、約100℃であった。
【0090】
手動により徐々に台車を前進させると路面表示塗料は連続的に剥離除去されたが、図7の試験結果データに示す如く、台車の前進速度は毎秒3cm乃至4cm程度が必要十分で適当あり、それ以上の速度の場合、路面表示塗料が部分的に剥離されない場合が生じた。また、毎秒1cm以下では舗装面上の路面表示塗料が剥離除去された後、舗装面のアスファルト表面が一部溶融した。
【0091】
上記の適切な速度での過熱蒸気による剥離後、電動回転式ブラシが通過した後の舗装面では、アスファルト舗装材の間隙にもほとんど路面表示塗料は残留しておらず、塗料の施工時の加熱によると見られる舗装材の若干の変性により白線の痕跡は認められるものの、ほぼ完全に路面表示塗料の剥離除去は完了した。
【0092】
剥離除去作業が完了した舗装面上には路面表示塗料の直径1cm乃至3cm程度にスラグ化した破片及び粉体が残ったが、余熱室による飛散防止効果により剥離位置から1m以上に散乱したものは皆無であった。これらの破片及び粉体は一般的な産業用掃除機にて吸引回収可能である。
【0093】
試験用路面表示塗料1mの剥離除去に要した時間は、上記の最適な台車の移動速度である毎秒3cmにおいて平均35秒である。一方、同条件の路面表示塗料1mを従来の切削機(カッター)で剥離除去するのに要する時間は、作業者の熟練度にもよるが経験上平均5分程度を要するから、本実施形態による除去方法の作業効率は従来方法に対して明らかに優れているといえる。
【0094】
以上の通り、本第一実施形態の除去方法による本発明の効果が立証できた。
【実施例2】
【0095】
第二実施形態では、図6に示す如く、小型トラック18に積載する機器及び飽和蒸気を供給する耐熱ホース25や電力を供給する電気コード26は第一実施例と共通であり、作業現場では蒸気過熱器20とノズル12を積載した二輪車28と、蒸気過熱器20へ過熱蒸気を供給する耐熱ホース25を使用する。またノズル12としては、Pタイル等の床材の剥離除去に適した請求項8に記載のスクレイパー付ノズルを使用する。
【0096】
本実施形態では、剥離除去の対象となる床材への過熱蒸気の噴射は、作業者が二輪車28を手押ししながら行う。そのため、二輪車28のハンドル部分には過熱蒸気の噴射を開始・停止するスイッチ29を設置する。
【0097】
作業者はまず、二輪車28を手動で動かしてノズル12に装備したスクレイパーを床材の繋ぎ目等に食い込ませてその一部を捲り上げたところで、スイッチ29を操作して過熱蒸気の噴射を開始する。
【0098】
噴射された過熱蒸気は床材と下地面との間に生じた間隙に進入すると同時に爆発的に膨張し、過熱蒸気の熱量で床材の接着剤を軟化溶融させつつ、噴射圧と膨圧で床材を上方に剥離する。
【0099】
この際、ノズルから噴射された過熱蒸気は噴射口直上に庇の如く取り付けられたスクレイパーにより整流され、床材上面に漏れることなくほぼ全量が床材と下地面との間隙に誘導される。
【0100】
また、上記間隙に進入した過熱蒸気は一部剥離して捲り上げられた床材にカバーされる形となるため、床材自体が第一実施例の過熱蒸気噴射ユニットに装備した余熱室と同様の効果を発揮し、接着剤を軟化溶融するに十分な温度を維持しつつ床材の剥離を促進する。
【0101】
下地面から剥離された床材は、過熱蒸気の熱量により軟化して捲り上げられながら変形するから、作業者は適宜過熱蒸気の噴射を停止してスクレイパーの先端で床材を前方に押しやりつつ噴射を再開することになる。
【0102】
床材一枚単位(例えばPタイル1枚)が完全に剥離すると、隣接する床材の断面が露出するから、作業者は一旦過熱蒸気の噴射を止め、再びスクレイパーの先端を床材と下地面の間に食い込ませて間隙を作り、過熱蒸気の噴射を再開しつつスクレイパーの先端で床材の剥離を促進させ、以降、この工程を反復して床材の剥離除去作業を進めるのである。
【0103】
剥離除去されたPタイル等の不要物は、通常スラグ化することなく軟化変形した一枚単位の廃材として除去されるため手で拾って回収できるが、破片等の細片を生じた場合は、産業用掃除機で吸引回収すれば良い。
【0104】
以上の通り、本第二実施形態によれば、建築物の床面の不要なPタイル等の床材であって耐熱性接着剤で貼付施工された不要物を過熱蒸気の作用により連続的かつ極めて効率的に剥離除去することが可能となる。
【0105】
しかも、第一実施形態同様に簡易蒸気ボイラや発電機といった比較的大型の装置は施工現場から離れた場所に設置しておくことが可能であり、必要な設備一式をすべて小型トラックに積載して移動でき、現場での機器の上げ下ろしが人力で可能であるという点も第一実施形態と同様である。
【0106】
さらに、施工現場では手押し車に蒸気過熱器を手押し車に積載して行えるため、さらに現場での取り回しや作業性が良好であり、様々な条件の屋内作業により適している。
【0107】
第二実施形態の発明に係る除去方法を、上記の機器を使用して試験を行ったところ、表2の通りの試験結果を得た。試験に使用した簡易蒸気ボイラは第一実施形態と同じく日本サーモエナー社製「エクオス蒸気ボイラ」形式EQS−200/KMである。
【0108】
【表2】

【0109】
剥離除去の対象は、事業所施設屋内のコンクリートスラブ床に耐熱性接着剤で直張り施工されたPタイルである。使用された耐熱性接着剤はコニシ製刷毛塗用クロロプレンゴム接着剤「ボンドG10Z」、Pタイルは東リ製「マチコV」型番MV36、塩化ビニル製、サイズ30×30cm、厚さ2mmでる。なお、試験は同一室内のPタイルを対象に合計5回実施した。
【0110】
上記の試験用Pタイル任意の目地部分に過熱蒸気ノズルに装備したスクレイパーの先端を人力で食い込ませ、その一部を捲り上げた上でノズルから、噴射口付近の測定値で160℃、圧力0.49Mpaの過熱蒸気を噴射したところ、10秒前後で捲り上げた部分の接着面が過熱蒸気の熱量により軟化し噴射圧及び膨圧によりさらに捲り上げられるのが観察された。この際、過熱蒸気が当たるPタイル裏面付近の温度を測定したところ、約100℃であった。
【0111】
作業者が適宜ノズル先端のスクレイパーを動かしてPタイルの剥離した部分を上方に持ち上げて支持しながら加熱蒸気の噴射を継続すると、スクレイパーで直接接着面に衝撃を与える必要なく軽く上方に持ち上げるだけで加熱蒸気の噴射圧と膨圧によりPタイルは順次剥離した。その際、下地コンクリートスラブ床には変性、変質は見られなかった。
【0112】
当初の1枚のPタイルが完全に剥離除去された後、一旦過熱蒸気の噴射を止め、次に隣接するPタイルの露出した下地面への接着部にスクレイパーの先端を当てて軽く力を加えながら過熱蒸気の噴射を再開すると、接着剤が軟化溶融した接着面にスクレイパーの先端が容易に食い込んだ。そのまま噴射を継続して力を加え続けると1枚目のPタイルと同様に、順次剥離が進んだ。
【0113】
試験用Pタイル1枚の剥離除去に要した時間は平均約20秒である。一方、同条件のPタイル1枚を従来の切削機(カッター)で剥離除去するのに要する時間は、作業者の熟練度にもよるが経験上平均1分程度を要し、またPタイルの強度や接着剤による貼付施工の条件によっては剥離除去の際にPタイルが破損して1枚単位で剥離できず、粉塵が発生したりさらに手間と時間を要する場合もあるから、本実施形態による除去方法の作業効率は従来方法に対して明らかに優れているといえる。
【0114】
以上の通り、本第二実施形態の除去方法による本発明の効果が立証できた。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】本発明に係る方法に用いる機器構成図である。
【図2】請求項2及び請求項7の発明に係る噴射口が扁平なノズルの四面図である。
【図3】請求項3及び請求項8の発明に係るスクレイパー付ノズルの三面図である。
【図4】請求項7の発明に係る余熱室付過熱蒸気噴射ユニットの二面図である。
【図5】本発明の第一実施形態を示す図である。
【図6】本発明の第二実施形態を示す図である。
【符号の説明】
【0116】
1:蒸気ボイラ
2:蒸気過熱器
3:過熱蒸気噴射ユニット
4:耐熱蒸気ホース
5:ノズル
6:アタッチメント部分
7:ノズル先端
8:噴射口
9:ノズル
10:噴射口
11:スクレイパー
12:ノズル
13:余熱室
14:過熱蒸気噴射ユニット
15:ダンパー機構
16:観察窓
17:発電機
18:小型トラック
19:過熱蒸気噴射ユニット
20:蒸気過熱器
21:回転式電動ブラシ
22:操作盤
23:スラグ吸引口
24:スラグ吸引機
25:耐熱蒸気ホース
26:電気コード
27:スラグ用ホース
28:二輪車
29:スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不要物の付着した付着面に、過熱蒸気(蒸気ボイラから得た飽和蒸気を再加圧することなく蒸気過熱器により再加熱してなる水蒸気)を噴射し、過熱蒸気の熱量及び噴射圧並びに膨圧により不要物を剥離除去することを特徴とする不要物の除去方法。
【請求項2】
上記過熱蒸気の噴射に、噴射口が扁平な形状のノズルを用いることを特徴とする請求項1記載の除去方法。
【請求項3】
上記過熱蒸気の噴射に、スクレイパー(剥離刃)付ノズルを用いることを特徴とする請求項1記載の除去方法。
【請求項4】
上記過熱蒸気噴射の条件として、ノズル口部における過熱蒸気の条件が温度200℃以上、圧力0.49Mpa以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の除去方法。
【請求項5】
上記不要物が、舗装面に施された路面標示塗料(いわゆる白線)である請求項1及び請求項2並びに請求項4のいずれかに記載の除去方法。
【請求項6】
上記不要物が、耐熱性接着剤により床面に接着施工されたPタイル等の床材である請求項1及び請求項3並びに請求項4のいずれかに記載の除去方法。
【請求項7】
請求項2記載の噴射口が扁平な形状のノズルと、該ノズル及び該ノズルによる上記過熱蒸気の噴射を受ける上記不要物を一体的に覆う余熱室を有することを特徴とする不要物除去装置の過熱蒸気噴射ユニット。
【請求項8】
請求項3記載のスクレイパー(剥離刃)付ノズルであって、ノズル口の上面に不要物を剥離する板状のスクレイパー(剥離刃)を有し、該スクレイパーで不要物を一部剥離させて生じた不要物と付着面の隙間にノズルから噴射した過熱蒸気を導入する構造を有することを特徴とするノズル。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−43492(P2010−43492A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−209548(P2008−209548)
【出願日】平成20年8月18日(2008.8.18)
【出願人】(507258607)株式会社日研 (1)
【Fターム(参考)】