過給機付きエンジン及び過給機付きエンジンの過給機入力トルク制御装置
【課題】遠心式過給機の強度信頼性を向上させる。
【解決手段】本発明は、クランク軸121と、シリンダ120内に摺動可能に収装されたピストン122と、クランク軸121のクランクピン121bとピストン122のピストンピン124とを複数のリンク111,112で連結した複リンク式ピストンクランク機構と、クラッチ機構を介してクランク軸121によって機械的に駆動される遠心式過給機と、を備えたエンジンの過給機入力トルク制御装置であって、複リンク式ピストンクランク機構を、上死点付近におけるピストン122の加速度が下死点付近におけるピストン122の加速度よりも小さくなるピストンモーションとなるように構成して、クランク軸121のクランクピン121bとピストン122のピストンピン124とを1つのリンクで連結したピストンクランク機構と比べて遠心式過給機の回転軸に入力されるねじりトルクを小さくしたことを特徴とする。
【解決手段】本発明は、クランク軸121と、シリンダ120内に摺動可能に収装されたピストン122と、クランク軸121のクランクピン121bとピストン122のピストンピン124とを複数のリンク111,112で連結した複リンク式ピストンクランク機構と、クラッチ機構を介してクランク軸121によって機械的に駆動される遠心式過給機と、を備えたエンジンの過給機入力トルク制御装置であって、複リンク式ピストンクランク機構を、上死点付近におけるピストン122の加速度が下死点付近におけるピストン122の加速度よりも小さくなるピストンモーションとなるように構成して、クランク軸121のクランクピン121bとピストン122のピストンピン124とを1つのリンクで連結したピストンクランク機構と比べて遠心式過給機の回転軸に入力されるねじりトルクを小さくしたことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は過給機付きエンジン及び過給機付きエンジンの過給機入力トルク制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、クランク軸によって機械的に駆動される遠心式過給機を備えたエンジンが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−328950号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前述した従来のエンジンは、下死点付近でのピストン速度に比べて上死点付近でのピストン速度が大きく、クランク軸のトルク変動が大きかった。そのため、クランク軸によって機械的に駆動される遠心式過給機の回転軸にかかるねじりトルクが大きかった。したがって、そのような大きなねじりトルクに耐えうるように回転軸の強度・剛性を高めておく必要があった。しかし、容積式過給機に比べて高回転になる遠心式過給機は、慣性モーメント低減のために回転軸の軸径を細くする必要があるため、回転軸の強度・剛性を十分に高められないという問題点があった。
【0004】
本発明は、このような従来の問題点に着目してなされたものであり、遠心式過給機の回転軸にかかるねじりトルクを低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は以下のような解決手段によって、前記課題を解決する。なお、理解を容易にするため、本発明の実施形態に対応する符号を付するが、これに限定されるものではない。
【0006】
本発明は、クランク軸(121)と、シリンダ(120)内に摺動可能に収装されたピストン(122)と、前記クランク軸(121)のクランクピン(121b)と前記ピストン(122)のピストンピン(124)とを複数のリンク(111,112)で連結した複リンク式ピストンクランク機構と、クラッチ機構を介して前記クランク軸(121)によって機械的に駆動される遠心式過給機(20)と、を備えたエンジンの過給機入力トルク制御装置であって、前記複リンク式ピストンクランク機構を、上死点付近におけるピストン(122)の加速度が下死点付近におけるピストン(122)の加速度よりも小さくなるピストンモーションとなるように構成して、前記クランク軸(121)のクランクピン(121b)と前記ピストン(122)のピストンピン(124)とを1つのリンクで連結したピストンクランク機構と比べて前記遠心式過給機(20)の回転軸に入力されるねじりトルクを小さくしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
上死点付近におけるピストンの加速度が下死点付近におけるピストンの加速度よりも小さくなるように複リンク式ピストンクランク機構を構成して、上死点付近でのピストン速度を遅くしたので、クランク軸のトルク変動を小さくすることができる。これにより、クランク軸によって機械的に駆動される遠心式過給機の回転軸にかかるねじりトルクを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0009】
図1は、本発明の一実施形態によるエンジン100の吸気装置の概略構成図である。
【0010】
エンジン100のシリンダ120に連通する吸気通路10には、上流から順に、スーパーチャージャ20と、インタークーラ12と、スロットル弁13とが設けられる。
【0011】
スーパーチャージャ20は遠心式過給機であり、コンプレッサ駆動用プーリ21と、コンプレッサ22と、増速用遊星歯車機構23とを備える。
【0012】
コンプレッサ駆動用プーリ21は、図示しないクランクプーリとベルトとを介してクランク軸によって駆動される。コンプレッサ駆動用プーリ21は、運転条件に応じてスーパーチャージャ20の駆動を停止できるように電磁クラッチを内蔵している。電磁クラッチを締結(ON)すると、コンプレッサ22がクランク軸によって駆動され、過給を開始する。一方、電磁クラッチの締結を解除(OFF)すると、コンプレッサ22はクランク軸の回転から切り離され作動を停止する。
【0013】
コンプレッサ22は、コンプレッサ駆動用プーリ21の電磁クラッチがONにされると駆動され、圧縮空気をシリンダ120へ供給する。
【0014】
増速用遊星歯車機構23は、クランク軸の回転を増速してコンプレッサ回転軸24に伝達する。
【0015】
インタークーラ12は、吸気通路10を流れる空気を冷却する。
【0016】
スロットル弁13は、吸気コレクタ14に流入する空気量を調整する。吸気コレクタ14には、内部の圧力を検出する圧力センサ15が設けられる。
【0017】
また、吸気通路10には、スーパーチャージャ20によって過給された空気をスーパーチャージャ20の上流側の吸気通路10aに戻すリサーキュレーション通路30が設けられる。リサーキュレーション通路30には、スーパーチャージャ20の上流側の吸気通路10aの圧力に対する出口側の吸気通路10bの圧力(以下「圧力比」という)に応じて開閉するリサーキュレーション弁31が設けられる。リサーキュレーション弁31は、圧力比が高くなると開いて過給された空気を上流側の吸気通路10aに還流させる。これにより、過給圧の過増大を防止して、減速時のサージ音の発生等を防止している。
【0018】
図2は、本発明の第1実施形態による複リンク式ピストンクランク機構を備えたエンジン(以下「複リンク式エンジン」という)100を示す図である。
【0019】
複リンク式エンジン100は、ピストン122とクランク軸121とを2つのリンク(アッパリンク111、ロアリンク112)で連結するとともに、コントロールリンク113でロアリンク112を制御することで、圧縮比を変更することができる。
【0020】
アッパリンク111は、上端をピストンピン124を介してピストン122に連結し、下端を連結ピン125を介してロアリンク112の一端に連結する。ピストン122は、シリンダブロック123に嵌着させたシリンダライナ129に摺動自在に嵌合しており、燃焼圧力を受け、シリンダ120内を往復動する。
【0021】
ロアリンク112は、一端を連結ピン125を介してアッパリンク111に連結し、他端を連結ピン126を介してコントロールリンク113に連結する。また、ロアリンク112は、ほぼ中央の連結孔に、クランク軸121のクランクピン121bを挿入し、クランクピン121bを中心軸として揺動する。ロアリンク112は左右の2部材に分割可能である。
【0022】
クランク軸121は、複数のジャーナル121aとクランクピン121bとカウンタウェイト121cとを備える。ジャーナル121aは、シリンダブロック123及びラダーフレーム128によって回転自在に支持される。クランクピン121bは、ジャーナル121aから所定量偏心しており、ここにロアリンク112が揺動自在に連結する。カウンタウェイト121cは、ジャーナル121aとクランクピン121bとをつなぐアーム部に設けられ、回転部分の重量アンバランスを取り除く。
【0023】
コントロールリンク113は、連結ピン126を介してロアリンク112に連結する。またコントロールリンク113は、他端を連結ピン127を介してコントロールシャフト114に連結する。コントロールリンク113は、この連結ピン127を中心として揺動する。またコントロールシャフト114にはギアが形成されており、そのギアが圧縮比制御アクチュエータ131の回転軸133に設けられたピニオン132に噛合する。圧縮比制御アクチュエータ131によってコントロールシャフト114が回転させられ、連結ピン127が移動する。
【0024】
コントローラ300は中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。コントローラ300は、クランク角センサ311の検出信号に基づいてエンジン回転速度を演算し、エアーフローメータ312の検出信号に基づいてエンジン負荷を演算し、水温センサ313の検出信号に基づいて水温を検出し、筒内圧力センサ314の検出信号に基づいて筒内圧を検出する。コントローラ300は、このようにして演算又は検出したエンジン運転状態に基づいて目標圧縮比を設定し、実圧縮比が目標圧縮比となるように圧縮比制御アクチュエータ131を制御する。
【0025】
図3は複リンク式ピストンクランク機構による圧縮比変更方法を説明する図である。
【0026】
複リンク式ピストンクランク機構は、図示しないコントローラが、エンジンの運転状態に基づいて圧縮比制御アクチュエータ131を制御することでコントロールシャフト114を回転させて連結ピン127の位置を変更させて、圧縮比を変更する。例えば図3(A)、図3(C)に示すように連結ピン127を位置Pにすれば、上死点位置(TDC)が高くなり高圧縮比になる。
【0027】
そして図3(B)、図3(C)に示すように、連結ピン127を位置Qにすれば、コントロールリンク113が上方へ押し上げられ、連結ピン126の位置が上がる。これによりロアリンク112はクランクピン121bを中心として反時計方向に回転し、連結ピン125が下がり、ピストン上死点におけるピストン122の位置が下降する。したがって圧縮比が低圧縮比になる。
【0028】
図4は、複リンク式エンジン100のピストンストローク特性を示す図である。
【0029】
複リンク式エンジン100は、アッパリンク111やコントロールリンク113の長さ、また連結ピン125と連結ピン126との距離等を適当に設定することができる。これにより、複リンク式エンジン100は、ピストンとクランク軸とを1つのリンク(コンロッド)で連結し、圧縮比が一定である通常のエンジン(以下「ノーマルエンジン」という)に比べて、ピストンが上死点付近に滞在する期間を長くすることができる。
【0030】
つまり、複リンク式エンジンのピストンクランク機構は、上死点から下死点までのピストンストローク量がピストンクランク機構における上死点から下死点までのピストンストローク量と同一のノーマルエンジンのピストンクランク機構に比べて、ピストンの往復運動が単振動運動に近い特性となるよう、上死点と下死点におけるピストンストローク特性が略対称で、ノーマルエンジンのピストンクランク機構に比べてピストン下死点前後のピストンストローク速度が大きく、かつピストン上死点前後のピストンストローク速度が小さくなるように、上死点前から上死点にかけて、及び下死点前から下死点にかけてはノーマルエンジンのピストンクランク機構に比べてピストンを引き下げる方向にロアリンクがコントロールリンクの揺動によってクランクピン回りに揺動し、上死点から上死点後にかけて、及び下死点から下死点後にかけてはノーマルエンジンのピストンクランク機構に比べてピストンを引き上げる方向にロアリンクがコントロールリンクの揺動によってクランクピン回りに揺動するように、各リンクや各支点のアライメントが設定されている。
【0031】
この点について、図4を参照して説明する。図4において、実線は複リンク式エンジン100のピストンストローク特性を示し、破線はノーマルエンジンのピストンストローク特性を示す。なお、複リンク式エンジン100の圧縮比は、ノーマルエンジンの圧縮比と同じに設定してある。
【0032】
図4に示すように、複リンク式エンジン100は、ノーマルエンジンよりも上死点付近ではカーブの傾斜が緩く、下死点付近ではカーブの傾斜がきつい。つまり、ノーマルエンジンの場合、ピストンは上死点付近で早い動き(加速度大)になり、下死点付近では鈍い動き(加速度小)になる。
【0033】
これに対し、複リンク式エンジン100の場合、複リンク式ピストンクランク機構のリンク構成を適切に設定することで、単振動に近いピストンストローク特性を得ることができる。そのため、バランサシャフトが不要(4気筒)となるような振動低減効果が得られるとともに、ピストン加速度が平準化され、上死点付近でのピストン速度がノーマルエンジンに比べて遅くなる。
【0034】
以下では、図5を参照して、上死点付近でのピストン速度がノーマルエンジンに比べて遅くなることによって生じる効果について説明する。
【0035】
図5は、複リンク式エンジン100のトルク変動とノーマルエンジンのトルク変動とを示す図である。図5において、実線は複リンク式エンジン100のトルク変動を示し、破線はノーマルエンジンのトルク変動を示す。
【0036】
あるピストン位置において、燃焼によって発生するガス圧がピストン122に対してなす仕事率は以下の式で求まる。
W=P×S×V
W:仕事率〔Nm/s〕
P:ガス圧〔N/m2〕
S:ボア断面積〔m2〕
V:ピストン下降速度〔m/s〕
【0037】
この式から、仕事率はピストン下降速度に比例することがわかる。したがって、ある回転時にガス圧によって発生する瞬時トルク〔Nm〕もピストン下降速度に比例する。
【0038】
複リンク式エンジン100は、ガス圧がピークに達する上死点付近でのピストン速度がノーマルエンジンよりも遅い。そのため、上死点付近での瞬時トルクがノーマルエンジンよりも小さくなる。したがって、複リンク式エンジン100は、上死点付近でのクランク軸トルクの最大値がノーマルエンジンよりも小さくなる。その結果、図5に示すように、複リンク式エンジン100は、ノーマルエンジンよりもクランク軸121のトルク変動の振幅が小さくなる。
【0039】
このように、複リンク式エンジン100は、ノーマルエンジンと比べてクランク軸121のトルク変動の振幅を小さくできる。そのため、クランク軸121によって駆動されるスーパーチャージャ20のコンプレッサ回転軸24に発生するねじりトルクを低減できる。なお、図5において、クランク角0度付近のトルク変動は、#1,#4気筒の燃焼に起因するものであり、クランク角180度付近のトルク変動は、#2,#3気筒の燃焼に起因するものである。
【0040】
ここで、コンプレッサ20で過給する遠心式のスーパーチャージャ20は、ルーツブロワやリショルムコンプレッサ等の容積式のスーパーチャージャと比較して高回転となる。そのため、遠心式のスーパーチャージャ20のコンプレッサ回転軸24の軸径は、慣性モーメントを低減するために、容積式のスーパーチャージャの回転軸の軸径よりも細くする必要がある。
【0041】
したがって、遠心式のスーパーチャージャ20は、容積式のスーパーチャージャと比べて、コンプレッサ回転軸24の強度及び剛性が低いという問題点がある。また、コンプレッサ回転軸24の剛性を上げると、スーパーチャージャ20の慣性モーメントが増加して電磁クラッチをON・OFFしたときのトルクショックが大きくなるという問題点がある。
【0042】
しかし、複リンク式エンジン100によれば、リンク構成を適切に設定することで、単振動に近いピストンストローク特性を得ることができるので、クランク軸121のトルク変動を小さくできる。これにより、コンプレッサ回転軸24にかかるねじりトルクを小さくできるので、上記問題点を解決することができる。
【0043】
また、複リンク式エンジン100は、リンク構成の設定次第で、低圧縮比時の上死点付近でのピストン速度を高圧縮比時に比べて遅くして、低圧縮比時にピストン122が上死点付近に滞在する期間を高圧縮比時よりも長くすることができる。
【0044】
この点について、図6を参照して説明する。図6において、太実線は、高圧縮比時のピストンストローク特性を示す。細実線は、低圧縮比時のピストンストローク特性を示す。太破線は、理解を容易にするために、高圧縮比時のピストンストロークの上死点及び下死点位置を低圧縮比時の上死点及び下死点位置にそろえたものである。
【0045】
なお、ここで用いている圧縮比(実圧縮比)とはピストンの上死点位置の変化に対応して変化する、幾何学的な圧縮比の事を示している。
【0046】
図6に示すように、高圧縮比時のピストンストロークの上死点及び下死点位置を低圧縮比時の上死点及び下死点位置にそろえると、低圧縮比時の方が上死点付近でカーブの傾斜が緩く、下死点付近ではカーブの傾斜がきついことがわかる。つまり、低圧縮比時の方が上死点付近でのピストン速度が遅くなり、ピストン122が上死点付近に滞在する期間が長くなる。
【0047】
複リンク式エンジン100の圧縮比は、過給の必要がない低負荷時には高圧縮比に制御される。一方で、過給の必要がある高負荷時には低圧縮比に制御される。そのため、上死点付近でのピストン速度が、高圧縮比時より低圧縮比時のほうが遅くなるように複リンク式ピストンクランク機構を構成し、高圧縮比時よりも低圧縮比時のクランク軸121のトルク変動を小さくすることで、コンプレッサ回転軸24にかかるねじりトルクを小さくできる。
【0048】
図7は、スーパーチャージャ20の電磁クラッチの制御を示すフローチャートである。
【0049】
ステップS1において、コントローラ300は、クランク角センサ311やエアーフローメータ312などの検出信号に基づいて現在の運転状態を検出する。
【0050】
ステップS2において、コントローラ300は、検出した運転状態に基づいて目標圧縮比を設定する。
【0051】
ステップS3において、コントローラ300は、実圧縮比が目標圧縮比となるように圧縮比制御アクチュエータ131を制御する。
【0052】
ステップS4において、コントローラ300は、実圧縮比が後述する過給機強度限界圧縮比を下回ったか否かを判定する。コントローラ300は、実圧縮比が過給機強度限界圧縮比を下回っていればステップS5に処理を移行し、そうでなければ今回の処理を終了する。
【0053】
ステップS5において、コントローラ300は、実圧縮比が後述するノック限界圧縮比を下回ったか否かを判定する。コントローラ300は、実圧縮比がノック限界圧縮比を下回っていればステップS6に処理を移行し、そうでなければ今回の処理を終了する。
【0054】
ステップS6において、コントローラ300は、スーパーチャージャ20の電磁クラッチをONにして過給を開始する。
【0055】
図8は、スーパーチャージャ20の電磁クラッチの制御の動作を示すタイムチャートである。なお、図7のフローチャートとの対応を明確にするためフローチャートのステップ番号を併記して説明する。
【0056】
時刻t1で、低負荷・高圧縮比の定常状態からアクセルが踏み込まれ加速状態になると、図8(B)に示すように、目標圧縮比が低圧縮比側に変更され、目標圧縮比に追従するように実圧縮比が変更される(S1〜S3)。
【0057】
このとき、加速性能を向上させるために、スーパーチャージャ20の電磁クラッチをONにして、エンジンの出力を向上させる必要がある。
【0058】
しかしながら、実圧縮比が高圧縮比のときにスーパーチャージャ20の電磁クラッチをONにしてしまうと、高圧縮比時は低圧縮比時に比べてクランク軸121のトルク変動が大きくなる構成としているため、コンプレッサ回転軸24にかかるねじりトルクが大きくなる。そうすると、スーパーチャージャ20のコンプレッサ回転軸24の強度・剛性を増す必要がある。また、実圧縮比が高圧縮比のときにスーパーチャージャ20の電磁クラッチをONにして過給すると、ノッキングやプレイグニッションなどの異常燃焼を引き起こす可能性がある。
【0059】
そこで、本実施形態では時刻t2で、実圧縮比が、スーパーチャージャ20のコンプレッサ回転軸24にかかるねじりトルクが小さく、かつ異常燃焼を引き起こさない圧縮比になったときに(S4でYes、S5でYes)、スーパーチャージャ20の電磁クラッチを接続する(S6)。なお、図8(B)において、破線が異常燃焼を引き起こさない圧縮比の上限(以下「ノック限界圧縮比」という)であり、一点鎖線がコンプレッサ回転軸24にかかるねじりトルクが小さく、スーパーチャージャ20の強度信頼性が確保できる圧縮比の上限(以下「過給機強度限界圧縮比」という)である。ノック限界圧縮比は、エンジン回転速度及びエンジン負荷に基づいて、予め定められたマップを検索して設定される。また、過給機強度限界圧縮比は、トルク変動の大きさによって変動するため、実圧縮比に基づいて予め定められたテーブルを検索して設定される。実圧縮比は、筒内圧やコントロールシャフト114の回転角度等から算出することができる。
【0060】
本実施形態では、このような電磁クラッチの制御を実施することで、スーパーチャージャ20の強度信頼性を確保し、異常燃焼の発生を抑制することができる。
【0061】
しかし、このような電磁クラッチの制御では、アクセルを踏み込んでから電磁クラッチをONにするまでにタイムラグが生じるため、加速性能が低下してしまう。
【0062】
そこで、本実施形態では、ピストンストロークを拡大して排気量を拡大することで、エンジン出力を向上させ、加速性能の低下を防止する。以下では、図9を参照して、ピストンストロークのロングストローク化について説明する。
【0063】
図9は、ピストンスカートの短縮化によってピストンストロークを拡大した複リンク式エンジン100のピストンストロークについて、ノーマルエンジンのピストンストロークと比較して説明する図である。図9(A)が、ノーマルエンジンのピストンストロークを示す図である。図9(B)が、複リンク式エンジン100のピストンストロークを示す図である。
【0064】
図9(A)に示すように、ピストン222を1本のコンロッド211で連結するノーマルエンジンは、上死点位置におけるコンロッド211の姿勢を略直立にすることができない。そのため、燃焼時にピストン222にかかる最大スラスト荷重を低減できず、ピストンスカート241を短縮することができない。その結果、ピストンスカート241の下方をクランク軸221のカウンタウェイト221cが通過することになる。
【0065】
これに対して、図9(B)に示すように、複リンク式エンジン100のピストン122は、各リンク111,112,113を適当に調整することで、上死点位置におけるアッパリンク111の姿勢を略直立にすることができる。そのため、ノーマルエンジンと比べて燃焼時にピストン122にかかる最大スラスト荷重を低減できるため、ピストンスカート141を周方向に短縮してもピストン122の耐久性を確保できる。このようなピストンスカート141を短縮したピストン122を用いることで、カウンタウェイト121cがピストンピン124の側方を通過できる。これにより、複リンク式エンジン100は、ピストンスカート141の高さ分だけピストンストロークを拡大することができる。
【0066】
以下では、図10を参照して、ピストンストロークを拡大したことによる効果について説明する。
【0067】
図10(A)は、ノーマルエンジンとピストンストロークを拡大した複リンク式エンジン100とのトルク特性を示した図である。なお、複リンク式エンジン100のエンジンサイズは、ノーマルエンジンのエンジンサイズと同じである。図10(B)は、スーパーチャージャ20の電磁クラッチをONにしたときのブースト特性を示した図である。
【0068】
複リンク式エンジン100は、ピストンストロークを拡大することによって、エンジンサイズを維持したまま排気量を拡大することができる。そのため、図10(A)に示すように、同サイズのノーマルエンジンと比べて、低回転域でのトルクが向上する。
【0069】
また、図10(B)に示すように、スーパーチャージャ20は遠心式なので、低回転域でブースト圧はほとんどかからない。したがって、図10(A)で示した低回転域でのトルクの向上は、ピストンストロークを拡大したことによる効果であることがわかる。
【0070】
図11は、車両停止状態からアクセル全開にして発進したときのピストンストロークを拡大した複リンク式エンジン100とノーマルエンジンとの加速度の違い、及び電磁クラッチの接続タイミングについて説明する図である。
【0071】
図11(A)において、実線はロングストロークエンジンの車両加速度である。一点鎖線はノーマルエンジンの車両加速度である。破線はノーマルエンジンにおいて、発進直後に電磁クラッチをONにしたときの車両加速度である。
【0072】
図11(A)に示すように、複リンク式エンジン100は、ピストンストロークが拡大したことによって、排気量が拡大しエンジン出力が増加するので、同サイズのノーマルエンジンよりも加速性能が向上している。
【0073】
そのため、複リンク式エンジン100の場合は、時刻t2で、実圧縮比が低圧縮比になってからクラッチを接続して過給を開始しても(図11(C)の実線)、良好な加速性能を得ることができる。そのため、コンプレッサ回転軸24にかかるねじりトルクを低減することができる。
【0074】
一方で、ノーマルエンジンの場合は、時刻t1の発進直後の実圧縮比が高い状態で電磁クラッチを接続しないと(図11(B)、図11(C)の破線)、複リンク式エンジン100と同等の加速性能が得られない(図11(A)の破線)。実圧縮比が高い状態で電磁クラッチを接続しなければならないとすると、その分だけコンプレッサ回転軸24にかかるねじりトルクが大きくなる。そうすると、スーパーチャージャ20の強度信頼性を確保するためには、スーパーチャージャ20の剛性を上げる必要がある。その結果、スーパーチャージャ20の慣性モーメントが増加して電磁クラッチをON・OFFしたときのトルクショックが大きくなってしまう。
【0075】
以上説明した本実施形態によれば、複リンク式ピストンクランク機構を備え、ノーマルエンジンよりも上死点位置でのピストン速度を遅くした。これにより、複リンク式エンジン100は、ノーマルエンジンよりもクランク軸121のトルク変動を小さくすることができる。その結果、クランク軸121によって駆動されるコンプレッサ22のコンプレッサ回転軸24にかかるねじりトルクも小さくすることができるので、スーパーチャージャ20の強度・剛性を増す必要がない。また、スーパーチャージャ20の慣性モーメントも小さくすることができるので、電磁クラッチのON・OFF時におけるトルクショックを小さくすることができる。
【0076】
また、複リンク式ピストンクランク機構を適当に設定し、低圧縮比時における上死点位置でのピストン速度を、高圧縮比時における上死点位置でのピストン速度よりも遅くした。過給が必要な高負荷時には、圧縮比は低圧縮比に制御される。一方、過給が不要な低負荷時には、圧縮比は高圧縮比に制御される。そのため、電磁クラッチがONにされる低圧縮比時における上死点位置でのピストン速度を、高圧縮比時よりも遅くすることで、コンプレッサ回転軸24にかかるねじりトルクを小さくできる。
【0077】
また、アクセルが踏み込まれて加速状態になった場合には、実圧縮比が、スーパーチャージャ20のコンプレッサ回転軸24にかかるねじりトルクが小さく、かつ異常燃焼を引き起こさない圧縮比になったときに電磁クラッチをONにしてスーパーチャージャ20を駆動することとした。これにより、スーパーチャージャ20の強度信頼性を確保でき、かつ異常燃焼の発生を防止できる。
【0078】
さらに、複リンク式ピストンクランク機構を適当に設定し、ピストンスカート141を短縮することでピストンストロークを拡大した。これにより、排気量が拡大して低回転域でのエンジントルクが向上する。そのため、アクセルが踏み込まれた直後の高圧縮比時に電磁クラッチを接続しなくても、良好な加速感を得ることができる。換言すれば、クランク軸121の変動トルクの小さい低圧縮比になってから電磁クラッチを接続しても、良好な加速感を得ることができる。その結果、コンプレッサ回転軸24にかかるねじりトルクを低減することができる。
【0079】
このように、複リンク式エンジン100は、クランク軸121のトルク変動を小さくすることでできる。また、ロングストローク化により低回転域におけるエンジントルクを向上させることができる。そのため、遠心式のスーパーチャージャ20の駆動を、クランク軸121のトルク変動が小さい低圧縮比時に限定することができる。したがって、遠心式のスーパーチャージャ20の耐久性、信頼性を向上させることができる。
【0080】
また、遠心式のスーパーチャージャ20を用いたので、容積式のスーパーチャージャを用いたときよりも、エンジン高回転域での充填効率を上げることができる。そのため、ピストンストローク特性を単振動に近づけたときの高回転時におけるエンジントルクの低下を抑制することができる。
【0081】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【0082】
例えば、本実施形態では、圧縮比制御アクチュエータ131を制御してコントロールシャフト114を回転させて複リンク式エンジン100の圧縮比を変更できるようにしていた。しかし、ノーマルエンジンよりも上死点付近でのピストン速度が遅くした副リンク式エンジンであれば、圧縮比変更手段を有しないものでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】第1実施形態によるエンジンの吸気装置の概略構成図である。
【図2】複リンク式エンジンを示す図である。
【図3】複リンク式ピストンクランク機構による圧縮比変更方法を説明する図である。
【図4】複リンク式エンジンのピストンストローク特性を示す図である。
【図5】複リンク式エンジンのトルク変動とノーマルエンジンのトルク変動とを示す図である。
【図6】複リンク式エンジンのピストンストローク特性を示す図である。
【図7】スーパーチャージャの電磁クラッチの制御を示すフローチャートである。
【図8】スーパーチャージャの電磁クラッチの制御の動作を示すタイムチャートである。
【図9】ピストンスカートの短縮化によってピストンストロークを拡大した複リンク式エンジンのピストンストロークについて、ノーマルエンジンのピストンストロークと比較して説明する図である。
【図10】ノーマルエンジンとピストンストロークを拡大した複リンク式エンジンとのトルク特性を示した図である。
【図11】車両停止状態からアクセル全開にして発進したときのピストンストロークを拡大した複リンク式エンジンとノーマルエンジンとの加速度の違い、及び電磁クラッチの接続タイミングについて説明する図である。
【符号の説明】
【0084】
20 スーパーチャージャ(遠心式過給機)
100 エンジン
111 アッパリンク(第1リンク)
112 ロアリンク(第2リンク)
113 コントロールリンク(第3リンク)
114 コントロールシャフト
120 シリンダ
121 クランク軸
121c カウンタウェイト
122 ピストン
124 ピストンピン
300 コントローラ
【技術分野】
【0001】
本発明は過給機付きエンジン及び過給機付きエンジンの過給機入力トルク制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、クランク軸によって機械的に駆動される遠心式過給機を備えたエンジンが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−328950号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前述した従来のエンジンは、下死点付近でのピストン速度に比べて上死点付近でのピストン速度が大きく、クランク軸のトルク変動が大きかった。そのため、クランク軸によって機械的に駆動される遠心式過給機の回転軸にかかるねじりトルクが大きかった。したがって、そのような大きなねじりトルクに耐えうるように回転軸の強度・剛性を高めておく必要があった。しかし、容積式過給機に比べて高回転になる遠心式過給機は、慣性モーメント低減のために回転軸の軸径を細くする必要があるため、回転軸の強度・剛性を十分に高められないという問題点があった。
【0004】
本発明は、このような従来の問題点に着目してなされたものであり、遠心式過給機の回転軸にかかるねじりトルクを低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は以下のような解決手段によって、前記課題を解決する。なお、理解を容易にするため、本発明の実施形態に対応する符号を付するが、これに限定されるものではない。
【0006】
本発明は、クランク軸(121)と、シリンダ(120)内に摺動可能に収装されたピストン(122)と、前記クランク軸(121)のクランクピン(121b)と前記ピストン(122)のピストンピン(124)とを複数のリンク(111,112)で連結した複リンク式ピストンクランク機構と、クラッチ機構を介して前記クランク軸(121)によって機械的に駆動される遠心式過給機(20)と、を備えたエンジンの過給機入力トルク制御装置であって、前記複リンク式ピストンクランク機構を、上死点付近におけるピストン(122)の加速度が下死点付近におけるピストン(122)の加速度よりも小さくなるピストンモーションとなるように構成して、前記クランク軸(121)のクランクピン(121b)と前記ピストン(122)のピストンピン(124)とを1つのリンクで連結したピストンクランク機構と比べて前記遠心式過給機(20)の回転軸に入力されるねじりトルクを小さくしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
上死点付近におけるピストンの加速度が下死点付近におけるピストンの加速度よりも小さくなるように複リンク式ピストンクランク機構を構成して、上死点付近でのピストン速度を遅くしたので、クランク軸のトルク変動を小さくすることができる。これにより、クランク軸によって機械的に駆動される遠心式過給機の回転軸にかかるねじりトルクを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0009】
図1は、本発明の一実施形態によるエンジン100の吸気装置の概略構成図である。
【0010】
エンジン100のシリンダ120に連通する吸気通路10には、上流から順に、スーパーチャージャ20と、インタークーラ12と、スロットル弁13とが設けられる。
【0011】
スーパーチャージャ20は遠心式過給機であり、コンプレッサ駆動用プーリ21と、コンプレッサ22と、増速用遊星歯車機構23とを備える。
【0012】
コンプレッサ駆動用プーリ21は、図示しないクランクプーリとベルトとを介してクランク軸によって駆動される。コンプレッサ駆動用プーリ21は、運転条件に応じてスーパーチャージャ20の駆動を停止できるように電磁クラッチを内蔵している。電磁クラッチを締結(ON)すると、コンプレッサ22がクランク軸によって駆動され、過給を開始する。一方、電磁クラッチの締結を解除(OFF)すると、コンプレッサ22はクランク軸の回転から切り離され作動を停止する。
【0013】
コンプレッサ22は、コンプレッサ駆動用プーリ21の電磁クラッチがONにされると駆動され、圧縮空気をシリンダ120へ供給する。
【0014】
増速用遊星歯車機構23は、クランク軸の回転を増速してコンプレッサ回転軸24に伝達する。
【0015】
インタークーラ12は、吸気通路10を流れる空気を冷却する。
【0016】
スロットル弁13は、吸気コレクタ14に流入する空気量を調整する。吸気コレクタ14には、内部の圧力を検出する圧力センサ15が設けられる。
【0017】
また、吸気通路10には、スーパーチャージャ20によって過給された空気をスーパーチャージャ20の上流側の吸気通路10aに戻すリサーキュレーション通路30が設けられる。リサーキュレーション通路30には、スーパーチャージャ20の上流側の吸気通路10aの圧力に対する出口側の吸気通路10bの圧力(以下「圧力比」という)に応じて開閉するリサーキュレーション弁31が設けられる。リサーキュレーション弁31は、圧力比が高くなると開いて過給された空気を上流側の吸気通路10aに還流させる。これにより、過給圧の過増大を防止して、減速時のサージ音の発生等を防止している。
【0018】
図2は、本発明の第1実施形態による複リンク式ピストンクランク機構を備えたエンジン(以下「複リンク式エンジン」という)100を示す図である。
【0019】
複リンク式エンジン100は、ピストン122とクランク軸121とを2つのリンク(アッパリンク111、ロアリンク112)で連結するとともに、コントロールリンク113でロアリンク112を制御することで、圧縮比を変更することができる。
【0020】
アッパリンク111は、上端をピストンピン124を介してピストン122に連結し、下端を連結ピン125を介してロアリンク112の一端に連結する。ピストン122は、シリンダブロック123に嵌着させたシリンダライナ129に摺動自在に嵌合しており、燃焼圧力を受け、シリンダ120内を往復動する。
【0021】
ロアリンク112は、一端を連結ピン125を介してアッパリンク111に連結し、他端を連結ピン126を介してコントロールリンク113に連結する。また、ロアリンク112は、ほぼ中央の連結孔に、クランク軸121のクランクピン121bを挿入し、クランクピン121bを中心軸として揺動する。ロアリンク112は左右の2部材に分割可能である。
【0022】
クランク軸121は、複数のジャーナル121aとクランクピン121bとカウンタウェイト121cとを備える。ジャーナル121aは、シリンダブロック123及びラダーフレーム128によって回転自在に支持される。クランクピン121bは、ジャーナル121aから所定量偏心しており、ここにロアリンク112が揺動自在に連結する。カウンタウェイト121cは、ジャーナル121aとクランクピン121bとをつなぐアーム部に設けられ、回転部分の重量アンバランスを取り除く。
【0023】
コントロールリンク113は、連結ピン126を介してロアリンク112に連結する。またコントロールリンク113は、他端を連結ピン127を介してコントロールシャフト114に連結する。コントロールリンク113は、この連結ピン127を中心として揺動する。またコントロールシャフト114にはギアが形成されており、そのギアが圧縮比制御アクチュエータ131の回転軸133に設けられたピニオン132に噛合する。圧縮比制御アクチュエータ131によってコントロールシャフト114が回転させられ、連結ピン127が移動する。
【0024】
コントローラ300は中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。コントローラ300は、クランク角センサ311の検出信号に基づいてエンジン回転速度を演算し、エアーフローメータ312の検出信号に基づいてエンジン負荷を演算し、水温センサ313の検出信号に基づいて水温を検出し、筒内圧力センサ314の検出信号に基づいて筒内圧を検出する。コントローラ300は、このようにして演算又は検出したエンジン運転状態に基づいて目標圧縮比を設定し、実圧縮比が目標圧縮比となるように圧縮比制御アクチュエータ131を制御する。
【0025】
図3は複リンク式ピストンクランク機構による圧縮比変更方法を説明する図である。
【0026】
複リンク式ピストンクランク機構は、図示しないコントローラが、エンジンの運転状態に基づいて圧縮比制御アクチュエータ131を制御することでコントロールシャフト114を回転させて連結ピン127の位置を変更させて、圧縮比を変更する。例えば図3(A)、図3(C)に示すように連結ピン127を位置Pにすれば、上死点位置(TDC)が高くなり高圧縮比になる。
【0027】
そして図3(B)、図3(C)に示すように、連結ピン127を位置Qにすれば、コントロールリンク113が上方へ押し上げられ、連結ピン126の位置が上がる。これによりロアリンク112はクランクピン121bを中心として反時計方向に回転し、連結ピン125が下がり、ピストン上死点におけるピストン122の位置が下降する。したがって圧縮比が低圧縮比になる。
【0028】
図4は、複リンク式エンジン100のピストンストローク特性を示す図である。
【0029】
複リンク式エンジン100は、アッパリンク111やコントロールリンク113の長さ、また連結ピン125と連結ピン126との距離等を適当に設定することができる。これにより、複リンク式エンジン100は、ピストンとクランク軸とを1つのリンク(コンロッド)で連結し、圧縮比が一定である通常のエンジン(以下「ノーマルエンジン」という)に比べて、ピストンが上死点付近に滞在する期間を長くすることができる。
【0030】
つまり、複リンク式エンジンのピストンクランク機構は、上死点から下死点までのピストンストローク量がピストンクランク機構における上死点から下死点までのピストンストローク量と同一のノーマルエンジンのピストンクランク機構に比べて、ピストンの往復運動が単振動運動に近い特性となるよう、上死点と下死点におけるピストンストローク特性が略対称で、ノーマルエンジンのピストンクランク機構に比べてピストン下死点前後のピストンストローク速度が大きく、かつピストン上死点前後のピストンストローク速度が小さくなるように、上死点前から上死点にかけて、及び下死点前から下死点にかけてはノーマルエンジンのピストンクランク機構に比べてピストンを引き下げる方向にロアリンクがコントロールリンクの揺動によってクランクピン回りに揺動し、上死点から上死点後にかけて、及び下死点から下死点後にかけてはノーマルエンジンのピストンクランク機構に比べてピストンを引き上げる方向にロアリンクがコントロールリンクの揺動によってクランクピン回りに揺動するように、各リンクや各支点のアライメントが設定されている。
【0031】
この点について、図4を参照して説明する。図4において、実線は複リンク式エンジン100のピストンストローク特性を示し、破線はノーマルエンジンのピストンストローク特性を示す。なお、複リンク式エンジン100の圧縮比は、ノーマルエンジンの圧縮比と同じに設定してある。
【0032】
図4に示すように、複リンク式エンジン100は、ノーマルエンジンよりも上死点付近ではカーブの傾斜が緩く、下死点付近ではカーブの傾斜がきつい。つまり、ノーマルエンジンの場合、ピストンは上死点付近で早い動き(加速度大)になり、下死点付近では鈍い動き(加速度小)になる。
【0033】
これに対し、複リンク式エンジン100の場合、複リンク式ピストンクランク機構のリンク構成を適切に設定することで、単振動に近いピストンストローク特性を得ることができる。そのため、バランサシャフトが不要(4気筒)となるような振動低減効果が得られるとともに、ピストン加速度が平準化され、上死点付近でのピストン速度がノーマルエンジンに比べて遅くなる。
【0034】
以下では、図5を参照して、上死点付近でのピストン速度がノーマルエンジンに比べて遅くなることによって生じる効果について説明する。
【0035】
図5は、複リンク式エンジン100のトルク変動とノーマルエンジンのトルク変動とを示す図である。図5において、実線は複リンク式エンジン100のトルク変動を示し、破線はノーマルエンジンのトルク変動を示す。
【0036】
あるピストン位置において、燃焼によって発生するガス圧がピストン122に対してなす仕事率は以下の式で求まる。
W=P×S×V
W:仕事率〔Nm/s〕
P:ガス圧〔N/m2〕
S:ボア断面積〔m2〕
V:ピストン下降速度〔m/s〕
【0037】
この式から、仕事率はピストン下降速度に比例することがわかる。したがって、ある回転時にガス圧によって発生する瞬時トルク〔Nm〕もピストン下降速度に比例する。
【0038】
複リンク式エンジン100は、ガス圧がピークに達する上死点付近でのピストン速度がノーマルエンジンよりも遅い。そのため、上死点付近での瞬時トルクがノーマルエンジンよりも小さくなる。したがって、複リンク式エンジン100は、上死点付近でのクランク軸トルクの最大値がノーマルエンジンよりも小さくなる。その結果、図5に示すように、複リンク式エンジン100は、ノーマルエンジンよりもクランク軸121のトルク変動の振幅が小さくなる。
【0039】
このように、複リンク式エンジン100は、ノーマルエンジンと比べてクランク軸121のトルク変動の振幅を小さくできる。そのため、クランク軸121によって駆動されるスーパーチャージャ20のコンプレッサ回転軸24に発生するねじりトルクを低減できる。なお、図5において、クランク角0度付近のトルク変動は、#1,#4気筒の燃焼に起因するものであり、クランク角180度付近のトルク変動は、#2,#3気筒の燃焼に起因するものである。
【0040】
ここで、コンプレッサ20で過給する遠心式のスーパーチャージャ20は、ルーツブロワやリショルムコンプレッサ等の容積式のスーパーチャージャと比較して高回転となる。そのため、遠心式のスーパーチャージャ20のコンプレッサ回転軸24の軸径は、慣性モーメントを低減するために、容積式のスーパーチャージャの回転軸の軸径よりも細くする必要がある。
【0041】
したがって、遠心式のスーパーチャージャ20は、容積式のスーパーチャージャと比べて、コンプレッサ回転軸24の強度及び剛性が低いという問題点がある。また、コンプレッサ回転軸24の剛性を上げると、スーパーチャージャ20の慣性モーメントが増加して電磁クラッチをON・OFFしたときのトルクショックが大きくなるという問題点がある。
【0042】
しかし、複リンク式エンジン100によれば、リンク構成を適切に設定することで、単振動に近いピストンストローク特性を得ることができるので、クランク軸121のトルク変動を小さくできる。これにより、コンプレッサ回転軸24にかかるねじりトルクを小さくできるので、上記問題点を解決することができる。
【0043】
また、複リンク式エンジン100は、リンク構成の設定次第で、低圧縮比時の上死点付近でのピストン速度を高圧縮比時に比べて遅くして、低圧縮比時にピストン122が上死点付近に滞在する期間を高圧縮比時よりも長くすることができる。
【0044】
この点について、図6を参照して説明する。図6において、太実線は、高圧縮比時のピストンストローク特性を示す。細実線は、低圧縮比時のピストンストローク特性を示す。太破線は、理解を容易にするために、高圧縮比時のピストンストロークの上死点及び下死点位置を低圧縮比時の上死点及び下死点位置にそろえたものである。
【0045】
なお、ここで用いている圧縮比(実圧縮比)とはピストンの上死点位置の変化に対応して変化する、幾何学的な圧縮比の事を示している。
【0046】
図6に示すように、高圧縮比時のピストンストロークの上死点及び下死点位置を低圧縮比時の上死点及び下死点位置にそろえると、低圧縮比時の方が上死点付近でカーブの傾斜が緩く、下死点付近ではカーブの傾斜がきついことがわかる。つまり、低圧縮比時の方が上死点付近でのピストン速度が遅くなり、ピストン122が上死点付近に滞在する期間が長くなる。
【0047】
複リンク式エンジン100の圧縮比は、過給の必要がない低負荷時には高圧縮比に制御される。一方で、過給の必要がある高負荷時には低圧縮比に制御される。そのため、上死点付近でのピストン速度が、高圧縮比時より低圧縮比時のほうが遅くなるように複リンク式ピストンクランク機構を構成し、高圧縮比時よりも低圧縮比時のクランク軸121のトルク変動を小さくすることで、コンプレッサ回転軸24にかかるねじりトルクを小さくできる。
【0048】
図7は、スーパーチャージャ20の電磁クラッチの制御を示すフローチャートである。
【0049】
ステップS1において、コントローラ300は、クランク角センサ311やエアーフローメータ312などの検出信号に基づいて現在の運転状態を検出する。
【0050】
ステップS2において、コントローラ300は、検出した運転状態に基づいて目標圧縮比を設定する。
【0051】
ステップS3において、コントローラ300は、実圧縮比が目標圧縮比となるように圧縮比制御アクチュエータ131を制御する。
【0052】
ステップS4において、コントローラ300は、実圧縮比が後述する過給機強度限界圧縮比を下回ったか否かを判定する。コントローラ300は、実圧縮比が過給機強度限界圧縮比を下回っていればステップS5に処理を移行し、そうでなければ今回の処理を終了する。
【0053】
ステップS5において、コントローラ300は、実圧縮比が後述するノック限界圧縮比を下回ったか否かを判定する。コントローラ300は、実圧縮比がノック限界圧縮比を下回っていればステップS6に処理を移行し、そうでなければ今回の処理を終了する。
【0054】
ステップS6において、コントローラ300は、スーパーチャージャ20の電磁クラッチをONにして過給を開始する。
【0055】
図8は、スーパーチャージャ20の電磁クラッチの制御の動作を示すタイムチャートである。なお、図7のフローチャートとの対応を明確にするためフローチャートのステップ番号を併記して説明する。
【0056】
時刻t1で、低負荷・高圧縮比の定常状態からアクセルが踏み込まれ加速状態になると、図8(B)に示すように、目標圧縮比が低圧縮比側に変更され、目標圧縮比に追従するように実圧縮比が変更される(S1〜S3)。
【0057】
このとき、加速性能を向上させるために、スーパーチャージャ20の電磁クラッチをONにして、エンジンの出力を向上させる必要がある。
【0058】
しかしながら、実圧縮比が高圧縮比のときにスーパーチャージャ20の電磁クラッチをONにしてしまうと、高圧縮比時は低圧縮比時に比べてクランク軸121のトルク変動が大きくなる構成としているため、コンプレッサ回転軸24にかかるねじりトルクが大きくなる。そうすると、スーパーチャージャ20のコンプレッサ回転軸24の強度・剛性を増す必要がある。また、実圧縮比が高圧縮比のときにスーパーチャージャ20の電磁クラッチをONにして過給すると、ノッキングやプレイグニッションなどの異常燃焼を引き起こす可能性がある。
【0059】
そこで、本実施形態では時刻t2で、実圧縮比が、スーパーチャージャ20のコンプレッサ回転軸24にかかるねじりトルクが小さく、かつ異常燃焼を引き起こさない圧縮比になったときに(S4でYes、S5でYes)、スーパーチャージャ20の電磁クラッチを接続する(S6)。なお、図8(B)において、破線が異常燃焼を引き起こさない圧縮比の上限(以下「ノック限界圧縮比」という)であり、一点鎖線がコンプレッサ回転軸24にかかるねじりトルクが小さく、スーパーチャージャ20の強度信頼性が確保できる圧縮比の上限(以下「過給機強度限界圧縮比」という)である。ノック限界圧縮比は、エンジン回転速度及びエンジン負荷に基づいて、予め定められたマップを検索して設定される。また、過給機強度限界圧縮比は、トルク変動の大きさによって変動するため、実圧縮比に基づいて予め定められたテーブルを検索して設定される。実圧縮比は、筒内圧やコントロールシャフト114の回転角度等から算出することができる。
【0060】
本実施形態では、このような電磁クラッチの制御を実施することで、スーパーチャージャ20の強度信頼性を確保し、異常燃焼の発生を抑制することができる。
【0061】
しかし、このような電磁クラッチの制御では、アクセルを踏み込んでから電磁クラッチをONにするまでにタイムラグが生じるため、加速性能が低下してしまう。
【0062】
そこで、本実施形態では、ピストンストロークを拡大して排気量を拡大することで、エンジン出力を向上させ、加速性能の低下を防止する。以下では、図9を参照して、ピストンストロークのロングストローク化について説明する。
【0063】
図9は、ピストンスカートの短縮化によってピストンストロークを拡大した複リンク式エンジン100のピストンストロークについて、ノーマルエンジンのピストンストロークと比較して説明する図である。図9(A)が、ノーマルエンジンのピストンストロークを示す図である。図9(B)が、複リンク式エンジン100のピストンストロークを示す図である。
【0064】
図9(A)に示すように、ピストン222を1本のコンロッド211で連結するノーマルエンジンは、上死点位置におけるコンロッド211の姿勢を略直立にすることができない。そのため、燃焼時にピストン222にかかる最大スラスト荷重を低減できず、ピストンスカート241を短縮することができない。その結果、ピストンスカート241の下方をクランク軸221のカウンタウェイト221cが通過することになる。
【0065】
これに対して、図9(B)に示すように、複リンク式エンジン100のピストン122は、各リンク111,112,113を適当に調整することで、上死点位置におけるアッパリンク111の姿勢を略直立にすることができる。そのため、ノーマルエンジンと比べて燃焼時にピストン122にかかる最大スラスト荷重を低減できるため、ピストンスカート141を周方向に短縮してもピストン122の耐久性を確保できる。このようなピストンスカート141を短縮したピストン122を用いることで、カウンタウェイト121cがピストンピン124の側方を通過できる。これにより、複リンク式エンジン100は、ピストンスカート141の高さ分だけピストンストロークを拡大することができる。
【0066】
以下では、図10を参照して、ピストンストロークを拡大したことによる効果について説明する。
【0067】
図10(A)は、ノーマルエンジンとピストンストロークを拡大した複リンク式エンジン100とのトルク特性を示した図である。なお、複リンク式エンジン100のエンジンサイズは、ノーマルエンジンのエンジンサイズと同じである。図10(B)は、スーパーチャージャ20の電磁クラッチをONにしたときのブースト特性を示した図である。
【0068】
複リンク式エンジン100は、ピストンストロークを拡大することによって、エンジンサイズを維持したまま排気量を拡大することができる。そのため、図10(A)に示すように、同サイズのノーマルエンジンと比べて、低回転域でのトルクが向上する。
【0069】
また、図10(B)に示すように、スーパーチャージャ20は遠心式なので、低回転域でブースト圧はほとんどかからない。したがって、図10(A)で示した低回転域でのトルクの向上は、ピストンストロークを拡大したことによる効果であることがわかる。
【0070】
図11は、車両停止状態からアクセル全開にして発進したときのピストンストロークを拡大した複リンク式エンジン100とノーマルエンジンとの加速度の違い、及び電磁クラッチの接続タイミングについて説明する図である。
【0071】
図11(A)において、実線はロングストロークエンジンの車両加速度である。一点鎖線はノーマルエンジンの車両加速度である。破線はノーマルエンジンにおいて、発進直後に電磁クラッチをONにしたときの車両加速度である。
【0072】
図11(A)に示すように、複リンク式エンジン100は、ピストンストロークが拡大したことによって、排気量が拡大しエンジン出力が増加するので、同サイズのノーマルエンジンよりも加速性能が向上している。
【0073】
そのため、複リンク式エンジン100の場合は、時刻t2で、実圧縮比が低圧縮比になってからクラッチを接続して過給を開始しても(図11(C)の実線)、良好な加速性能を得ることができる。そのため、コンプレッサ回転軸24にかかるねじりトルクを低減することができる。
【0074】
一方で、ノーマルエンジンの場合は、時刻t1の発進直後の実圧縮比が高い状態で電磁クラッチを接続しないと(図11(B)、図11(C)の破線)、複リンク式エンジン100と同等の加速性能が得られない(図11(A)の破線)。実圧縮比が高い状態で電磁クラッチを接続しなければならないとすると、その分だけコンプレッサ回転軸24にかかるねじりトルクが大きくなる。そうすると、スーパーチャージャ20の強度信頼性を確保するためには、スーパーチャージャ20の剛性を上げる必要がある。その結果、スーパーチャージャ20の慣性モーメントが増加して電磁クラッチをON・OFFしたときのトルクショックが大きくなってしまう。
【0075】
以上説明した本実施形態によれば、複リンク式ピストンクランク機構を備え、ノーマルエンジンよりも上死点位置でのピストン速度を遅くした。これにより、複リンク式エンジン100は、ノーマルエンジンよりもクランク軸121のトルク変動を小さくすることができる。その結果、クランク軸121によって駆動されるコンプレッサ22のコンプレッサ回転軸24にかかるねじりトルクも小さくすることができるので、スーパーチャージャ20の強度・剛性を増す必要がない。また、スーパーチャージャ20の慣性モーメントも小さくすることができるので、電磁クラッチのON・OFF時におけるトルクショックを小さくすることができる。
【0076】
また、複リンク式ピストンクランク機構を適当に設定し、低圧縮比時における上死点位置でのピストン速度を、高圧縮比時における上死点位置でのピストン速度よりも遅くした。過給が必要な高負荷時には、圧縮比は低圧縮比に制御される。一方、過給が不要な低負荷時には、圧縮比は高圧縮比に制御される。そのため、電磁クラッチがONにされる低圧縮比時における上死点位置でのピストン速度を、高圧縮比時よりも遅くすることで、コンプレッサ回転軸24にかかるねじりトルクを小さくできる。
【0077】
また、アクセルが踏み込まれて加速状態になった場合には、実圧縮比が、スーパーチャージャ20のコンプレッサ回転軸24にかかるねじりトルクが小さく、かつ異常燃焼を引き起こさない圧縮比になったときに電磁クラッチをONにしてスーパーチャージャ20を駆動することとした。これにより、スーパーチャージャ20の強度信頼性を確保でき、かつ異常燃焼の発生を防止できる。
【0078】
さらに、複リンク式ピストンクランク機構を適当に設定し、ピストンスカート141を短縮することでピストンストロークを拡大した。これにより、排気量が拡大して低回転域でのエンジントルクが向上する。そのため、アクセルが踏み込まれた直後の高圧縮比時に電磁クラッチを接続しなくても、良好な加速感を得ることができる。換言すれば、クランク軸121の変動トルクの小さい低圧縮比になってから電磁クラッチを接続しても、良好な加速感を得ることができる。その結果、コンプレッサ回転軸24にかかるねじりトルクを低減することができる。
【0079】
このように、複リンク式エンジン100は、クランク軸121のトルク変動を小さくすることでできる。また、ロングストローク化により低回転域におけるエンジントルクを向上させることができる。そのため、遠心式のスーパーチャージャ20の駆動を、クランク軸121のトルク変動が小さい低圧縮比時に限定することができる。したがって、遠心式のスーパーチャージャ20の耐久性、信頼性を向上させることができる。
【0080】
また、遠心式のスーパーチャージャ20を用いたので、容積式のスーパーチャージャを用いたときよりも、エンジン高回転域での充填効率を上げることができる。そのため、ピストンストローク特性を単振動に近づけたときの高回転時におけるエンジントルクの低下を抑制することができる。
【0081】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【0082】
例えば、本実施形態では、圧縮比制御アクチュエータ131を制御してコントロールシャフト114を回転させて複リンク式エンジン100の圧縮比を変更できるようにしていた。しかし、ノーマルエンジンよりも上死点付近でのピストン速度が遅くした副リンク式エンジンであれば、圧縮比変更手段を有しないものでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】第1実施形態によるエンジンの吸気装置の概略構成図である。
【図2】複リンク式エンジンを示す図である。
【図3】複リンク式ピストンクランク機構による圧縮比変更方法を説明する図である。
【図4】複リンク式エンジンのピストンストローク特性を示す図である。
【図5】複リンク式エンジンのトルク変動とノーマルエンジンのトルク変動とを示す図である。
【図6】複リンク式エンジンのピストンストローク特性を示す図である。
【図7】スーパーチャージャの電磁クラッチの制御を示すフローチャートである。
【図8】スーパーチャージャの電磁クラッチの制御の動作を示すタイムチャートである。
【図9】ピストンスカートの短縮化によってピストンストロークを拡大した複リンク式エンジンのピストンストロークについて、ノーマルエンジンのピストンストロークと比較して説明する図である。
【図10】ノーマルエンジンとピストンストロークを拡大した複リンク式エンジンとのトルク特性を示した図である。
【図11】車両停止状態からアクセル全開にして発進したときのピストンストロークを拡大した複リンク式エンジンとノーマルエンジンとの加速度の違い、及び電磁クラッチの接続タイミングについて説明する図である。
【符号の説明】
【0084】
20 スーパーチャージャ(遠心式過給機)
100 エンジン
111 アッパリンク(第1リンク)
112 ロアリンク(第2リンク)
113 コントロールリンク(第3リンク)
114 コントロールシャフト
120 シリンダ
121 クランク軸
121c カウンタウェイト
122 ピストン
124 ピストンピン
300 コントローラ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランク軸と、
シリンダ内に摺動可能に収装されたピストンと、
前記クランク軸のクランクピンと前記ピストンのピストンピンとを複数のリンクで連結した複リンク式ピストンクランク機構と、
クラッチ機構を介して前記クランク軸によって機械的に駆動される遠心式過給機と、
を備えた過給機付きエンジンであって、
前記複リンク式ピストンクランク機構を、上死点付近におけるピストンの加速度が下死点付近におけるピストンの加速度よりも小さくなるピストンモーションとなるように構成して、前記クランク軸のクランクピンと前記ピストンのピストンピンとを1つのリンクで連結したピストンクランク機構と比べて前記遠心式過給機の回転軸に入力されるねじりトルクを小さくした
ことを特徴とする過給機付きエンジン。
【請求項2】
請求項1に記載の過給機付きエンジンにおいて、
前記複リンク式ピストンクランク機構は、リンク位置を変更することで前記ピストンの上死点位置を変更可能であり、前記ピストンの上死点位置が低いときほど前記ピストンの最大加速度が小さくなるピストンモーションとなるように構成される
ことを特徴とする過給機付きエンジン。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の過給機付きエンジンにおいて、
前記複リンク式ピストンクランク機構は、
一端が前記ピストンにピストンピンを介して連結される第1リンクと、
一端が前記第1リンクの他端に連結されるとともに、前記クランク軸に回転自由に装着される第2リンクと、
一端が前記第2リンクの他端に連結される第3リンクと、
回転中心軸に対して偏心した偏心軸部を有し、その偏心軸部に前記第3リンクの他端を揺動自由に連結するコントロールシャフトと、
を備えることを特徴とする過給機付きエンジン。
【請求項4】
請求項3に記載の過給機付きエンジンにおいて、
前記クランク軸のカウンタウェイトは、前記ピストンと前記第1リンクとを連結するピストンピンの側方を通過する
ことを特徴とする過給機付きエンジン。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか1つに記載の過給機付きエンジンの過給機の回転軸に入力されるねじりトルクが小さくなるように制御する過給機入力トルク制御装置において、
エンジン運転状態を検出する運転状態検出手段と、
検出したエンジン運転状態に基づいて、目標圧縮比を設定する目標圧縮比設定手段と、
前記複リンク式ピストンクランク機構のリンク位置を変更することで前記ピストンの上死点位置を変更し、前記目標圧縮比へ向けて前記エンジンの圧縮比を変更する圧縮比変更手段と、
ピストンの上死点位置の変化に対応して変化する実圧縮比に基づいて過給機強度限界圧縮比を設定する過給機強度限界圧縮比設定手段と、
ピストンの上死点位置の変化に対応して変化する実圧縮比が前記過給機強度限界圧縮比を下回るまでは、前記クラッチ機構の締結を禁止して前記遠心式過給機の駆動を禁止する過給機駆動禁止手段と、
を備えることを特徴とする過給機入力トルク制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載の過給機入力トルク制御装置において、
エンジン負荷に基づいてノック限界圧縮比を設定するノック限界圧縮比設定手段を備え、
前記過給機駆動禁止手段は、ピストンの上死点位置の変化に対応して変化する実圧縮比が前記過給機強度限界圧縮比と前記ノック限界圧縮比とを下回るまでは、前記クラッチ機構の締結を禁止して前記遠心式過給機の駆動を禁止する
ことを特徴とする過給機入力トルク制御装置。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の過給機入力トルク制御装置において、
前記圧縮比変更手段は、前記コントロールシャフトを回転して前記偏心軸部を上下動することで前記ピストンの上死点位置を変化させて圧縮比を変更する
ことを特徴とする過給機入力トルク制御装置。
【請求項1】
クランク軸と、
シリンダ内に摺動可能に収装されたピストンと、
前記クランク軸のクランクピンと前記ピストンのピストンピンとを複数のリンクで連結した複リンク式ピストンクランク機構と、
クラッチ機構を介して前記クランク軸によって機械的に駆動される遠心式過給機と、
を備えた過給機付きエンジンであって、
前記複リンク式ピストンクランク機構を、上死点付近におけるピストンの加速度が下死点付近におけるピストンの加速度よりも小さくなるピストンモーションとなるように構成して、前記クランク軸のクランクピンと前記ピストンのピストンピンとを1つのリンクで連結したピストンクランク機構と比べて前記遠心式過給機の回転軸に入力されるねじりトルクを小さくした
ことを特徴とする過給機付きエンジン。
【請求項2】
請求項1に記載の過給機付きエンジンにおいて、
前記複リンク式ピストンクランク機構は、リンク位置を変更することで前記ピストンの上死点位置を変更可能であり、前記ピストンの上死点位置が低いときほど前記ピストンの最大加速度が小さくなるピストンモーションとなるように構成される
ことを特徴とする過給機付きエンジン。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の過給機付きエンジンにおいて、
前記複リンク式ピストンクランク機構は、
一端が前記ピストンにピストンピンを介して連結される第1リンクと、
一端が前記第1リンクの他端に連結されるとともに、前記クランク軸に回転自由に装着される第2リンクと、
一端が前記第2リンクの他端に連結される第3リンクと、
回転中心軸に対して偏心した偏心軸部を有し、その偏心軸部に前記第3リンクの他端を揺動自由に連結するコントロールシャフトと、
を備えることを特徴とする過給機付きエンジン。
【請求項4】
請求項3に記載の過給機付きエンジンにおいて、
前記クランク軸のカウンタウェイトは、前記ピストンと前記第1リンクとを連結するピストンピンの側方を通過する
ことを特徴とする過給機付きエンジン。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか1つに記載の過給機付きエンジンの過給機の回転軸に入力されるねじりトルクが小さくなるように制御する過給機入力トルク制御装置において、
エンジン運転状態を検出する運転状態検出手段と、
検出したエンジン運転状態に基づいて、目標圧縮比を設定する目標圧縮比設定手段と、
前記複リンク式ピストンクランク機構のリンク位置を変更することで前記ピストンの上死点位置を変更し、前記目標圧縮比へ向けて前記エンジンの圧縮比を変更する圧縮比変更手段と、
ピストンの上死点位置の変化に対応して変化する実圧縮比に基づいて過給機強度限界圧縮比を設定する過給機強度限界圧縮比設定手段と、
ピストンの上死点位置の変化に対応して変化する実圧縮比が前記過給機強度限界圧縮比を下回るまでは、前記クラッチ機構の締結を禁止して前記遠心式過給機の駆動を禁止する過給機駆動禁止手段と、
を備えることを特徴とする過給機入力トルク制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載の過給機入力トルク制御装置において、
エンジン負荷に基づいてノック限界圧縮比を設定するノック限界圧縮比設定手段を備え、
前記過給機駆動禁止手段は、ピストンの上死点位置の変化に対応して変化する実圧縮比が前記過給機強度限界圧縮比と前記ノック限界圧縮比とを下回るまでは、前記クラッチ機構の締結を禁止して前記遠心式過給機の駆動を禁止する
ことを特徴とする過給機入力トルク制御装置。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の過給機入力トルク制御装置において、
前記圧縮比変更手段は、前記コントロールシャフトを回転して前記偏心軸部を上下動することで前記ピストンの上死点位置を変化させて圧縮比を変更する
ことを特徴とする過給機入力トルク制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−47009(P2009−47009A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−211274(P2007−211274)
【出願日】平成19年8月14日(2007.8.14)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年8月14日(2007.8.14)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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