説明

過給機用のコンプレッサハウジング

【課題】生産性に優れ、性能向上を図ることができる過給機用のコンプレッサハウジングを提供すること。
【解決手段】コンプレッサハウジング1は、吸気口11を形成する吸気口形成部21と、吐出スクロール室12の吸気側壁面を形成するスクロール壁面形成部22と、吐出スクロール室の外周側を覆うスクロール外周部23とを有するスクロールピース2と、吸気口形成部内に圧入されるシュラウド圧入部31と、吐出スクロール室の内周側壁面を形成すると共にシュラウド面321及びディフューザ面322を形成するシュラウド壁面形成部32とを有するシュラウドピース3と、スクロール外周部23内に圧入される外周環状圧入部41と、吐出スクロール室の外周側壁面を形成する外周環状壁面形成部42とを有する外周環状ピース4とを備えている。外周環状ピースは、軸方向における外周環状壁面形成部の寸法が、周方向位置によって変化した形状を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のブレードを有するインペラを収容可能に構成された過給機用のコンプレッサハウジングに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のターボチャージャー等の過給機に用いられるコンプレッサ(圧縮機)は、複数のブレードを有するインペラを収容可能に構成されたコンプレッサハウジングを有する。
コンプレッサハウジングは、インペラに向けて空気を吸い込む吸気口、インペラの外周側において周方向に形成され、インペラから吐き出された空気を外部へ導く吐出スクロール室、その他、インペラを収容する部分、ディフューザ部等を有する。
【0003】
コンプレッサハウジングを製造する方法としては、例えば、重力鋳造により成形する方法がある。この場合には、いわゆる中子を用いて鋳造を行うことができるため、形状自由度が高く、複雑な形状にも対応することができる。しかしながら、鋳造サイクルが長いため生産性が悪く、コストも高い。
【0004】
これに対し、コンプレッサハウジングをダイキャストにより成形する方法がある。この場合には、重力鋳造に比べて鋳造サイクルが短いため生産性が良く、コストも安い。しかしながら、型抜き可能な形状でなければ成形することができないため、形状自由度が低く、複雑な形状に対応することができない。そのため、重力鋳造により成形可能な形状であっても、ダイキャストによりその形状(特にコンプレッサの性能に影響を与える吐出スクロール室の壁面の形状)を再現することができない場合がある。
【0005】
そこで、図7に示すごとく、コンプレッサハウジング91をスクロールピース92及びシュラウドピース93の二部品に分割して構成し、これらをダイキャストにより成形して組み付けたものが提案されている(特許文献1参照)。このコンプレッサハウジング91では、シュラウドピース93のディフューザ面931に対向するバックプレート961に吐出スクロール室912の外周側の壁面の一部(外周壁面913)を形成する壁面形成部962を設け、スクロールピース92とシュラウドピース93とこの壁面形成部962とによって吐出スクロール室912の壁面を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−180841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、図7に示すコンプレッサハウジング91では、旋盤等を用いてバックプレート961に加工を行い、吐出スクロール室912の外周壁面913を有する壁面形成部962を設けている。そのため、吐出スクロール室912の外周壁面913の形状を単純な軸対称の形状にしか加工することができない。よって、重力鋳造では成形可能な軸対称でない複雑な形状に対応することができず、所望の性能を確保することができない。また、他の加工方法を用いても、全体として生産性が悪くなり、コストも高くなる。そのため、生産性が良く、コストが安いといったダイキャストの利点を活かすことができない。
【0008】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、生産性に優れ、性能向上を図ることができる過給機用のコンプレッサハウジングを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、複数のブレードを有するインペラを収容可能に構成されていると共に、上記インペラに向けて空気を吸い込む吸気口と、上記インペラの外周側において周方向に形成され、上記インペラから吐き出された空気を外部へ導く吐出スクロール室とを有する過給機用のコンプレッサハウジングにおいて、
上記吸気口を形成する筒状の吸気口形成部と、上記吐出スクロール室における吸気側の壁面を形成するスクロール壁面形成部と、上記吐出スクロール室の外周側を覆うスクロール外周部とを有するスクロールピースと、
該スクロールピースの上記吸気口形成部内に圧入される筒状のシュラウド圧入部と、上記吐出スクロール室における内周側の壁面を形成すると共に、上記インペラに対向するシュラウド面及び該シュラウド面から上記吐出スクロール室に向かって延びるディフューザ面を形成するシュラウド壁面形成部とを有するシュラウドピースと、
上記スクロールピースの上記スクロール外周部内に圧入される外周環状圧入部と、上記吐出スクロール室における外周側の壁面を形成する外周環状壁面形成部とを有する外周環状ピースとを備え、
該外周環状ピースは、軸方向における上記外周環状壁面形成部の寸法が、周方向位置によって変化した形状を有することを特徴とする過給機用のコンプレッサハウジングにある(請求項1)。
【0010】
また、本発明の過給機用のコンプレッサハウジングを製造する方法として、
上記スクロールピースと、上記シュラウドピース及び上記外周環状ピースとなる部分を一体的に有する一体ピースとをそれぞれダイキャストにより成形する成形工程と、
上記一体ピースの一部を構成する上記シュラウド圧入部を上記スクロールピースの上記吸気口形成部内に圧入すると共に、上記一体ピースの一部を構成する上記外周環状圧入部を上記スクロールピースの上記スクロール外周部内に圧入する圧入工程と、
該圧入工程の後、上記一体ピースを切断し、上記シュラウドピースと上記外周環状ピースとに分離する切断分離工程とを行うことを特徴とする過給機用のコンプレッサハウジングの製造方法がある。
【発明の効果】
【0011】
本発明のコンプレッサハウジングは、上記スクロールピースと上記シュラウドピースと上記外周環状ピースとの三部品により構成されている。すなわち、上記吐出スクロール室の壁面を上記三部品により形成している。そのため、従来のように、上記シュラウドピースにおける上記シュラウド壁面形成部の上記ディフューザ面に対向するバックプレートに加工を施して上記吐出スクロール室の壁面の一部を形成する必要がなくなる。これにより、生産性の向上を図ることができる。
【0012】
また、上記コンプレッサハウジングは、上記三部品により構成されているため、各部品を型抜き可能な簡易な形状とすることで、生産性が良く、コストの安いダイキャストにより成形することができる。これにより、コストを抑えながら生産性を向上させることができる。
また、後述するように、ダイキャストにより成形を行った場合、その成形品の表面粗さを小さくすることができ、コンプレッサの性能向上を図ることができる。
【0013】
また、上記コンプレッサハウジングの製造方法において、上記成形工程では、上記スクロールピースと上記シュラウドピース及び上記外周環状ピースとなる部分を一体的に有する上記一体ピースとの二部品をダイキャストにより成形する。そのため、上記スクロールピースと上記シュラウドピースと上記外周環状ピースとの三部品を別々に成形する場合に比べて、成形にかかるコストを抑えながら生産性を向上させることができる。
【0014】
また、上記圧入工程では、上記スクロールピースに上記一体ピースを圧入し、その後の上記切断分離工程では、上記一体ピースを切断して上記シュラウドピースと上記外周環状ピースとに分離する。すなわち、上記スクロールピースと上記一体ピースとの二部品を組み付けた後、該一体ピースを上記シュラウドピースと上記外周環状ピースとの二部品に分離し、最終的に三部品により構成された上記コンプレッサハウジングを得る。そのため、上記三部品を別々に組み付ける場合に比べて、組み付けを容易に行うことができる。これにより、生産性を向上させることができる。
【0015】
また、上記製造方法によって得られる上記コンプレッサハウジングは、上記スクロールピースと上記シュラウドピースと上記外周環状ピースとの三部品により構成されている。すなわち、上記吐出スクロール室の壁面を上記三部品により形成している。そのため、従来のように、上記バックプレートに加工を施して上記吐出スクロール室の壁面の一部を形成する必要がなくなる。これにより、生産性の向上を図ることができる。
【0016】
また、上記製造方法では、ダイキャストにより成形を行うため、重力鋳造等により成形を行った場合に比べてその成形品の表面粗さを小さくすることができる。そのため、上記インペラから吐き出された空気が上記吐出スクロール室に導入された際に接触する部分であって、コンプレッサの性能に影響を与える上記吐出スクロール室の壁面の表面粗さを小さくすることができる。これにより、コンプレッサの性能向上を図ることができる。
【0017】
このように、本発明によれば、生産性に優れ、性能向上を図ることができる過給機用のコンプレッサハウジング及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例における、コンプレッサハウジング及びその周辺の構造を示す断面図。
【図2】実施例における、コンプレッサハウジングの構造を示す断面図。
【図3】実施例における、成形したスクロールピース及び一体ピースを示す説明図。
【図4】実施例における、スクロールピースに一体ピースを圧入した状態を示す説明図。
【図5】実施例における、一体ピースを切断してシュラウドピースと外周環状ピースとに分離した状態を示す説明図。
【図6】実施例における、当接部の位置を変更したコンプレッサハウジングの構造を示す断面図。
【図7】従来における、コンプレッサハウジング及びその周辺の構造を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明において、上記シュラウドピースは、上記スクロールピースに形成された当接部に対して軸方向に当接する位置決め部を有することが好ましい(請求項2)。
この場合には、上記シュラウドピースの軸方向の位置決めを精度良く行うことができる。これにより、上記シュラウドピースと上記スクロールピースとの間の隙間を小さくする又は隙間をなくすことができ、コンプレッサの性能向上を図ることができる。
【0020】
また、上記コンプレッサハウジングは、上記シュラウドピースにおける上記シュラウド壁面形成部の上記ディフューザ面に対向するバックプレートと上記インペラの回転軸を軸支する軸受ハウジングとが一体的に形成された過給機に用いられることが好ましい(請求項3)。
ここで、上記バックプレートと上記軸受ハウジングとを一体的に形成する場合には、これらを砂型鋳造等により一体成形する。そのため、上記バックプレートの鋳肌面が粗くなり、空力的にも好ましくないことから、該バックプレートに切削加工が必要となる。しかしながら、本発明のコンプレッサハウジングでは、従来のように、上記バックプレートに加工を施して上記吐出スクロール室の壁面の一部を形成する必要もないため、上記バックプレートの表面を平坦な面として形成することができる。よって、上記バックプレートへの切削加工を容易に行うことができる。
なお、上記バックプレートと上記軸受ハウジングとは、別体で形成されている構成とすることもできる。
【0021】
上記コンプレッサハウジングの製造方法において、上記圧入工程では、上記スクロールピースの上記スクロール外周部と上記一体ピースの一部を構成する上記外周環状圧入部との圧入締め代を、上記スクロールピースの上記吸気口形成部と上記一体ピースの一部を構成する上記シュラウド圧入部との圧入締め代よりも小さくしておくことが好ましい。
この場合には、上記スクロールピースに対する上記一体ピースの圧入作業を容易に行うことができる。また、上記シュラウド圧入部と上記外周環状圧入部との同軸ずれを吸収することができる。
【0022】
また、上記圧入工程では、上記一体ピースにおける上記シュラウドピースとなる部分に形成された位置決め部を上記スクロールピースに形成された当接部に対して軸方向に当接させることが好ましい。
この場合には、上記一体ピースの軸方向圧入位置を精度良く決めることができる。すなわち、最終的な上記シュラウドピースの軸方向の位置決めを精度良く行うことができる。これにより、上記シュラウドピースの上記ディフューザ面と上記バックプレートとの隙間(上述のディフューザ部)を正確に形成することができ、コンプレッサの性能向上を図ることができる。
【0023】
また、上記圧入工程では、上記一体ピースにおける上記外周環状ピースとなる部分を上記スクロールピースに対して軸方向に当接させることなく隙間を形成しておくことが好ましい。
この場合には、上記一体ピースの圧入時に、該一体ピースにおける上記シュラウドピースとなる部分に形成された上記位置決め部を確実に上記スクロールピースの上記当接部に当接させることができる。これにより、上記一体ピースの軸方向圧入位置をより一層精度良く決めることができる。すなわち、最終的な上記シュラウドピースの軸方向の位置決めをより一層精度良く行うことができる。
また、上記圧入工程の後、上記一体ピースを切断し、上記外周環状ピースを上記スクロールピースに対して軸方向に当接するまで再圧入することにより、上記外周環状ピースの軸方向の位置決めを精度良く行うこともできる。
【実施例】
【0024】
本発明の実施例にかかる過給機用のコンプレッサハウジング及びその製造方法について、図を用いて説明する。
本例のコンプレッサハウジング1は、図1に示すごとく、自動車のターボチャージャー(過給機)に用いられるコンプレッサ(圧縮機)8の外殻を形成するものであり、複数のブレード51を有するインペラ5を収容可能に構成されていると共に、インペラ5に向けて空気A1を吸い込む吸気口11と、インペラ5の外周側において周方向に形成され、インペラ5から吐き出された空気A2を外部へ導く吐出スクロール室12とを有する。
【0025】
図1、図2に示すごとく、コンプレッサハウジング1は、スクロールピース2とシュラウドピース3と外周環状ピース4との三部品により構成されている。具体的には、スクロールピース2内にシュラウドピース3及び外周環状ピース4が組み付けられている。
コンプレッサハウジング1を構成する三部品は、いずれもアルミニウム製のダイキャスト品により構成されている。なお、各部品を構成する材料としては、アルミニウム以外にも例えば樹脂等を用いることもできる。
【0026】
同図に示すごとく、スクロールピース2は、吸気口11を形成する筒状の吸気口形成部21と、吐出スクロール室12における吸気側の壁面を形成するスクロール壁面形成部22と、吐出スクロール室12の外周側を覆うスクロール外周部23とを有する。
また、スクロールピース2の吸気口形成部21の底部には、シュラウドピース3を軸方向に当接させる当接部29が形成されている。
【0027】
同図に示すごとく、シュラウドピース3は、スクロールピース2の吸気口形成部21内に圧入される筒状のシュラウド圧入部31と、吐出スクロール室12における内周側の壁面を形成すると共に、インペラ5に対向するシュラウド面321及びシュラウド面321から吐出スクロール室12に向かって延びるディフューザ面322を形成するシュラウド壁面形成部32とを有する。
【0028】
同図に示すごとく、シュラウドピース3のシュラウド圧入部31内には、吸気口11と連通する吸気通路311が形成されている。
また、シュラウドピース3のシュラウド圧入部31とシュラウド壁面形成部32との連結部分には、シュラウドピース3の軸方向の位置決めをするための位置決め部39が形成されている。シュラウドピース3は、位置決め部39をスクロールピース2の当接部29に対して軸方向に当接させている。
【0029】
同図に示すごとく、外周環状ピース4は、スクロールピース2のスクロール外周部23内に圧入される外周環状圧入部41と、吐出スクロール室12における外周側の壁面を形成する外周環状壁面形成部42とを有する。また、外周環状ピース4は、軸方向における外周環状壁面形成部42の寸法が、周方向位置によって変化した形状を有する。
また、外周環状ピース4は、スクロールピース2に対して軸方向に当接しておらず、隙間Bが形成されている。なお、外周環状ピース4をスクロールピース2に対して軸方向に当接するまで圧入する構成とすることもできる。
【0030】
また、図1に示すごとく、インペラ5は、シュラウドピース3の内周側に配置されている。インペラ5は、ハブ50の外周面から周方向に並ぶ複数のブレード51を突出させて形成したものである。複数のブレード51は、シュラウドピース3におけるシュラウド壁面形成部32のシュラウド面321に対向して配置されている。
【0031】
また、同図に示すごとく、シュラウドピース3におけるシュラウド壁面形成部32のディフューザ面322に対向する位置には、コンプレッサハウジング1の吸気側とは反対の側を覆うバックプレート61が設けられている。バックプレート61は、インペラ5の回転軸52を軸支する軸受ハウジング62と一体的に形成されている。
また、シュラウドピース3におけるシュラウド壁面形成部32のディフューザ面322とバックプレート61との間には、インペラ5から吐き出された空気A2を昇圧させるディフューザ部323が形成されている。
【0032】
そして、同図に示すごとく、コンプレッサ8は、インペラ5の回転により、吸気口11から吸気通路311を介してインペラ5へと空気A1が吸い込まれ、インペラ5のブレード51によって加速された空気A2がディフューザ部323において昇圧され、吐出スクロール室12へと送り込まれるよう構成されている。
【0033】
次に、本例のコンプレッサハウジング1の製造方法について説明する。
本例のコンプレッサハウジング1の製造方法は、図3〜図5に示すごとく、スクロールピース2と、シュラウドピース3及び外周環状ピース4となる部分を一体的に有する一体ピース30とをそれぞれダイキャストにより成形する成形工程と、一体ピース30の一部を構成するシュラウド圧入部31をスクロールピース2の吸気口形成部21内に圧入すると共に、一体ピース30の一部を構成する外周環状圧入部41をスクロールピース2のスクロール外周部23内に圧入する圧入工程と、該圧入工程の後、一体ピース30を切断し、シュラウドピース3と外周環状ピース4とに分離する切断分離工程とを行う。
以下、これを詳説する。
【0034】
コンプレッサハウジング1を製造するに当たっては、まず、図3に示すごとく、スクロールピース2をダイキャストにより成形する。そして、シュラウドピース3及び外周環状ピース4となる部分を一体的に有する一体ピース30を同じくダイキャストにより成形する。
【0035】
次いで、図4に示すごとく、スクロールピース2に対して一体ピース30を軸方向に圧入する。具体的には、一体ピース30の一部を構成するシュラウド圧入部31をスクロールピース2の吸気口形成部21内に圧入すると共に、一体ピース30の一部を構成する外周環状圧入部41をスクロール外周部23内に圧入する。
このとき、スクロール外周部23と外周環状圧入部41との圧入締め代C1を、吸気口形成部21とシュラウド圧入部31との圧入締め代C2よりも小さくしておく。例えば、圧入締め代C1を40〜100μm、圧入締め代C2を100〜150μmとする。
【0036】
そして、同図に示すごとく、一体ピース30におけるシュラウドピース3となる部分に形成された位置決め部39をスクロールピース2に形成された当接部29に対して軸方向に当接させる。これにより、一体ピース30の軸方向の位置決めを行い、一体ピース30の圧入を完了する。
【0037】
次いで、図5に示すごとく、一体ピース30を切削により切断する。具体的には、シュラウド壁面形成部32と外周環状壁面形成部42との間の環状の連結部Dを切削により切断する。これにより、一体ピース30をシュラウドピース3と外周環状ピース4とに分離すると共に、両者の間に所定の間隔を設ける。
以上により、図1、図2に示すコンプレッサハウジング1を得る。
【0038】
次に、本例のコンプレッサハウジング1及びその製造方法における作用効果について説明する。
本例のコンプレッサハウジング1の製造方法において、成形工程では、スクロールピース2とシュラウドピース3及び外周環状ピース4となる部分を一体的に有する一体ピース30との二部品をダイキャストにより成形する。そのため、スクロールピース2とシュラウドピース3と外周環状ピース4との三部品を別々に成形する場合に比べて、成形にかかるコストを抑えながら生産性を向上させることができる。
【0039】
また、圧入工程では、スクロールピース2に一体ピース30を圧入し、その後の切断分離工程では、一体ピース30を切断してシュラウドピース3と外周環状ピース4とに分離する。すなわち、スクロールピース2と一体ピース30との二部品を組み付けた後、一体ピース30をシュラウドピース3と外周環状ピース4との二部品に分離し、最終的に三部品により構成されたコンプレッサハウジング1を得る。そのため、上記三部品を別々に組み付ける場合に比べて、組み付けを容易に行うことができる。これにより、生産性を向上させることができる。
【0040】
また、本例の製造方法によって得られるコンプレッサハウジング1は、スクロールピース2とシュラウドピース3と外周環状ピース4との三部品により構成されている。すなわち、吐出スクロール室12の壁面を上記三部品により形成している。そのため、従来のように、バックプレート61に加工を施して吐出スクロール室12の壁面の一部を形成する必要がなくなる。これにより、生産性の向上を図ることができる。
【0041】
また、本例の製造方法では、ダイキャストにより成形を行うため、重力鋳造等により成形を行った場合に比べてその成形品の表面粗さを小さくすることができる。そのため、インペラ5から吐き出された空気A2が吐出スクロール室12に導入された際に接触する部分であって、コンプレッサ8の性能に影響を与える吐出スクロール室12の壁面の表面粗さを小さくすることができる。これにより、コンプレッサ8の性能向上を図ることができる。
【0042】
また、本例では、コンプレッサハウジング1は、バックプレート61と軸受ハウジング62とが一体的に形成されたターボチャージャー(過給機)に用いられる。ここで、バックプレート61と軸受ハウジング62とを一体的に形成する場合には、これらを砂型鋳造等により一体成形する。そのため、バックプレート61の鋳肌面が粗くなり、空力的にも好ましくないことから、バックプレート61に切削加工が必要となる。しかしながら、本例のコンプレッサハウジング1では、従来のように、バックプレート61に加工を施して吐出スクロール室12の壁面の一部を形成する必要もないため、バックプレート61の表面を平坦な面として形成することができる。よって、バックプレート61への切削加工を容易に行うことができる。
【0043】
また、圧入工程では、スクロール外周部23と外周環状圧入部41との圧入締め代C1を、吸気口形成部21とシュラウド圧入部31との圧入締め代C2よりも小さくしておく。そのため、スクロールピース2に対する一体ピース30の圧入作業を容易に行うことができる。また、シュラウド圧入部31と外周環状圧入部41との同軸ずれを吸収することができる。
【0044】
また、圧入工程では、一体ピース30におけるシュラウドピース3となる部分に形成された位置決め部39をスクロールピース2に形成された当接部29に対して軸方向に当接させる。そのため、一体ピース30の軸方向圧入位置を精度良く決めることができる。すなわち、最終的なシュラウドピース3の軸方向の位置決めを精度良く行うことができる。これにより、ディフューザ部323を正確に形成することができ、コンプレッサ8の性能向上を図ることができる。
【0045】
また、圧入工程では、一体ピース30における外周環状ピース4となる部分をスクロールピース2に対して軸方向に当接させることなく隙間Bを形成しておく。そのため、一体ピース30の圧入時に、一体ピース30におけるシュラウドピース3となる部分に形成された位置決め部39を確実にスクロールピース2の当接部29に当接させることができる。これにより、一体ピース30の軸方向圧入位置をより一層精度良く決めることができる。すなわち、最終的なシュラウドピース3の軸方向の位置決めをより一層精度良く行うことができる。
なお、圧入工程の後、一体ピース30を切断し、外周環状ピース4をスクロールピース2に対して軸方向に当接するまで再圧入することにより、外周環状ピース4の軸方向の位置決めを精度良く行うこともできる。
【0046】
このように、本例によれば、生産性に優れ、性能向上を図ることができる過給機用のコンプレッサハウジング1及びその製造方法を提供することができる。
【0047】
なお、本例では、図2に示すごとく、スクロールピース2の吸気口形成部21の底部に形成された当接部29にシュラウドピース3のシュラウド圧入部31とシュラウド壁面形成部32との連結部分に形成された位置決め部39を軸方向に当接させた構成となっているが、例えば、図6に示すごとく、スクロールピース2の吸気口形成部21の軸方向中間位置に当接部29を形成し、シュラウドピース3のシュラウド圧入部31の先端部を位置決め部39として軸方向に当接させる構成とすることもできる。
【符号の説明】
【0048】
1 コンプレッサハウジング
11 吸気口
12 吐出スクロール室
2 スクロールピース
21 吸気口形成部
22 スクロール壁面形成部
23 スクロール外周部
3 シュラウドピース
31 シュラウド圧入部
32 シュラウド壁面形成部
321 シュラウド面
322 ディフューザ面
4 外周環状ピース
41 外周環状圧入部
42 外周環状壁面形成部
5 インペラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のブレードを有するインペラを収容可能に構成されていると共に、上記インペラに向けて空気を吸い込む吸気口と、上記インペラの外周側において周方向に形成され、上記インペラから吐き出された空気を外部へ導く吐出スクロール室とを有する過給機用のコンプレッサハウジングにおいて、
上記吸気口を形成する筒状の吸気口形成部と、上記吐出スクロール室における吸気側の壁面を形成するスクロール壁面形成部と、上記吐出スクロール室の外周側を覆うスクロール外周部とを有するスクロールピースと、
該スクロールピースの上記吸気口形成部内に圧入される筒状のシュラウド圧入部と、上記吐出スクロール室における内周側の壁面を形成すると共に、上記インペラに対向するシュラウド面及び該シュラウド面から上記吐出スクロール室に向かって延びるディフューザ面を形成するシュラウド壁面形成部とを有するシュラウドピースと、
上記スクロールピースの上記スクロール外周部内に圧入される外周環状圧入部と、上記吐出スクロール室における外周側の壁面を形成する外周環状壁面形成部とを有する外周環状ピースとを備え、
該外周環状ピースは、軸方向における上記外周環状壁面形成部の寸法が、周方向位置によって変化した形状を有することを特徴とする過給機用のコンプレッサハウジング。
【請求項2】
請求項1に記載の過給機用のコンプレッサハウジングにおいて、上記シュラウドピースは、上記スクロールピースに形成された当接部に対して軸方向に当接する位置決め部を有することを特徴とする過給機用コンプレッサハウジング。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の過給機用のコンプレッサハウジングにおいて、該コンプレッサハウジングは、上記シュラウドピースにおける上記シュラウド壁面形成部の上記ディフューザ面に対向するバックプレートと上記インペラの回転軸を軸支する軸受ハウジングとが一体的に形成された過給機に用いられることを特徴とする過給機用コンプレッサハウジング。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−231771(P2011−231771A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145128(P2011−145128)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【分割の表示】特願2010−99711(P2010−99711)の分割
【原出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(000185488)株式会社オティックス (305)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】