説明

過酸化物系硬化剤を使用したインライン法により熱硬化可能な塗布

本発明は、耐傷付き性熱可塑性フィルムに関する。当該フィルムは耐傷付き性塗布を有し、当該塗布はアクリル化バインダー、熱開始剤、メラミン架橋剤から形成される。上記塗布は、フィルム形成中に形成されるインライン法で形成されることが好ましい。メラミン架橋剤は塗布層の架橋を生じさせるだけでなく、フィルムと塗布層との接着性をも改良する。好ましい実施態様として、フィルムはポリエステルから成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2004年12月21日出願の米国仮特許出願第60/637,693号を基礎とし、優先権主張した出願である。本発明は、インライン法により硬化可能な過酸化物系硬化剤をポリマーフィルム上に塗布・硬化する方法およびそれにより得られるフィルムに関する。詳しくは、本発明は、商業上実施可能であり、インラインコーティング法およびメラミン架橋剤を使用した過酸化物硬化工程により得られる種々の利点を有する塗布ポリマーフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマーフィルムは、特別な用途への利用価値を高めるために、種々の方法により改質することが出来る。このような改質方法としては、一般的にフィルムの片面または両面に塗布を行う方法が挙げられる。適切な塗布技術の使用により、接着性、易滑性、酸素透過性、印刷性、不透明性、耐傷付き性などの種々の特性をフィルムに付与することが出来る。これらの塗布において、過酸化物硬化性塗布が知られている。この塗布は、代表的には適当なモノマーやオリゴマーをそのまま重合させることにより硬化が行われる。
【0003】
最もよく知られている塗布法は、フィルムにオフライン法で塗布する方法であり、すなわち、フィルムの延伸、熱固定、冷却処理が完了した後に塗布する方法である。しかしながら、上記の過酸化物硬化の場合、このようなオフライン法では、硬化させるために新たに加熱を行わなければいけないという問題がある。一方インライン法を採用して過酸化物硬化を行う場合、その実施可能な範囲に制限がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、過酸化物硬化塗布層のインライン法によるコーティング(塗布)を提供することである。
【0005】
本発明の他の目的は、経済性に優れ、効果的である過酸化物硬化性塗布層を有する塗布フィルムの製造方法を提供することである。
【0006】
本発明の他の目的は、フィルムの表面にインライン法で好適に塗布できる、耐久性および耐傷付き性に優れるコーティング(塗布)を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、過酸化物硬化性塗布液とメラミン架橋剤とを組合せた塗布液により上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
本発明の第1の要旨は、フィルム層と当該フィルム層の少なくとも片面に設けられた塗布層とから成る耐傷付き性フィルムであって、上記塗布層が、アクリル化バインダー、熱開始剤およびメラミン架橋剤から成る塗布液を塗布することにより形成されることを特徴とする耐傷付き性フィルムに存する。
【0009】
上記第1の要旨の好ましい実施態様として、アクリル化バインダーがアクリル化ウレタンオリゴマーから成り、好ましくは6官能性脂肪族ウレタンアクリレートである。
【0010】
上記第1の要旨の好ましい実施態様として、熱開始剤が過酸化物開始剤であり、好ましくは、過酸化物開始剤が1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、tert−ブチルヒドロパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド、イソプロピルベンゼンヒドロパーオキシド、p−メタンヒドロパーオキシド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジヒドロパーオキシヘキサン、1,1,3,3−テトラメチルブチルヒドロパーオキシド、メチルエチルケトンパーオキシド、t−ブチルパーベンゾエート又は1,1−ジ−(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンである。
【0011】
本発明者らは、更に、メラミン架橋剤が塗布層の架橋を行うだけでなく、ポリマーフィルム層との接着性も高めることを見出した。好ましい実施態様として、塗布層はインライン法によってフィルム層上に形成される。また、好ましくは、塗布液がメラミン架橋剤以外の架橋剤および接着促進剤を含有しない。
【0012】
上記第1の要旨の好ましい実施態様として、塗布液が更にモノマー希釈剤を含有し、好ましくは当該モノマー希釈剤がジオールアクリレートである。更に、好ましくは、モノマー希釈剤(ジオールアクリレート)が、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、トリメチロールプロパンエトキシトリアクリレート又はトリメチロールプロパントリアクリレートである。また、好ましくは塗布液中のモノマー希釈剤の含有量が50重量%以下である。
【0013】
上記第1の要旨の好ましい実施態様として、塗布層の厚さが1〜5μmである。更に、好ましくは塗布層のTabor delta haze値が7未満、更に好ましくは5〜6である。フィルム層は種々の好適なポリマーから構成されてもよいが、好ましくはポリエステルである。
【0014】
本発明の第2の要旨は、塗布フィルムの製造方法であって、熱可塑性ポリマーから成るフィルム層を形成する工程と、当該フィルム層の少なくとも片面に、アクリル化バインダー、熱開始剤およびメラミン架橋剤から成る塗布液を塗布する工程と、得られた塗布フィルムに対し、塗布液が架橋反応して塗布層を形成するのに充分な程度の加熱を行う工程とから成ることを特徴とする塗布フィルムの製造方法に存する。
【0015】
上記第2の要旨の好ましい実施態様として、熱可塑性ポリマーから成るフィルム層がポリエステルフィルム層である。また、好ましくは、塗布液が架橋反応を起こすために225℃以上に塗布フィルムを加熱する。更に、好ましくは、インラインで行われる工程を含む。
【0016】
上記第2の要旨の好ましい実施態様として、塗布液が架橋反応する際にポリエステルフィルム(層)の結晶化が行われる。また、好ましくは、ポリエステルフィルム(層)は1方向または2方向に延伸され、例えば長手方向に延伸される。更に、好ましくは、長手方向にフィルム層を延伸する工程が前記塗布液を塗布する前に行われ、横方向にフィルム層を延伸する工程が前記塗布液を塗布した後に行われる。このような工程は、テンターフレームを使用して行われ、フィルムの熱固定はクリスタライザー(結晶化装置)内で行われる。形成された塗布はフリーラジカル型とすることが出来る。
【発明の効果】
【0017】
本発明の塗布フィルムは、商業上実施可能であり、インラインコーティング法およびメラミン架橋剤を使用した過酸化物硬化工程により得られる種々の利点を有し、耐久性および耐傷付き性に優れる塗布フィルムである
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明は、過酸化物により硬化され、インライン法による塗布の形成方法、好ましくはインライン法とフィルムの二軸延伸プロセスとを組合せた塗布の形成方法を含む。従来、フィルム製造工程の一部におけるインライン法により過酸化物硬化性塗布液を塗布/硬化することにより、この塗布層は不融化すると考えられている。得られたフィルムは、接着性や耐傷付き性に乏しいと考えられている。それにもかかわらず、オフライン法により過酸化物硬化性塗布を形成することは実現不可能と考えられていた。なぜならば、オフラインコーティング法で使用可能な遅い塗布速度および硬化速度では、熱硬化のための加熱によりフィルムにダメージを与えるからである。
【0019】
その結果、多くの代表的な塗布フィルムは、オフライン法で且つUV硬化塗布により製造されているため、特別なUV硬化装置や防護服などが必要であり、製造コストが高く製造方法が煩雑である。
【0020】
それにもかかわらず、本発明者らは、上記のインライン塗布および硬化の可能性について検討し、以下の驚くべき知見を得た。すなわち、メラミン架橋剤を添加することにより過酸化物硬化が進行すること、得られたフィルムの耐傷付き性および接着性が、オフライン法でUV硬化により形成される従来公知の塗布フィルムと同等あるいはそれ以上に優れていることを見出した。
【0021】
メラミンはある特殊な条件下で架橋可能であり、接着性を改良する架橋剤として公知である。しかしながら、公知の架橋剤を使用することにより、インライン法により過酸化物硬化剤を使用した場合の接着性および耐傷付き性を高めるということは知られていない。すなわち、メラミン架橋剤の使用によりこの優れた効果が得られるのみならず、メラミン架橋剤は実施可能な塗布を提供できるということは、意外で驚くべきことである。そして、今までオフライン法により製造されていた硬化塗布フィルムと同じ性質のフィルムを得ることが出来るが、オフライン法と比較してコスト及び労力を大幅に削減できる。
【0022】
過酸化物フリーラジカル硬化剤は種々の組成を有する。好ましい過酸化物硬化剤は公知であり、市販品として入手できる。好ましいハードコート剤は、ウレタンアクリレートオリゴマー系バインダー、モノマー希釈剤としてのジオールアクリレート、加熱によりラジカルが発生する過酸化物開始剤を含む。
【0023】
アクリル化ウレタンオリゴマーは、代表的には、ジイソシアネート、ポリオールセグメント、ウレタン結合および有機末端基の4つの基本構造を有する。好ましいウレタンアクリレートバインダーとして、アクリル化ポリオール希釈剤(PETA)を含有する6官能性脂肪族ウレタンアクリレートが挙げられる。この種のウレタンアクリレートは、UCB Surface Technology/Radcure社製「Ebecryl 8301」として入手できる。他の好ましいウレタンアクリレートとしては、同社製「Ebecryl 1290」その他が挙げられる。
【0024】
モノマー希釈剤は任意成分であるが、使用することが好ましい。モノマー希釈剤は通常100%固体であり、塗布液中に含まれる有機成分の揮発を軽減することが出来る。モノマーとしては、代表的には低粘度のアクリレート又はメタクリレートであり、これらは反応性の希釈剤、架橋剤および/または得られるポリマーの他の性質を高める働きを有する。ジオールアクリレートとしては、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(HDОDA)が挙げられ、UCB Surface Technologies社製「Radcure」が市販品として入手できる。
【0025】
本発明の塗布層で使用できる好適なその他のアクリレート希釈剤としては、トリメチロールプロパンエトキシトリアクリレート(TMPОETA、後述する)及びトリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)が挙げられる。粘度は通常5〜25000であり、好ましい官能基数は1より大きい。皮膚への刺激性を軽減するために、モノマーをアルコキシ化することが好ましい。
【0026】
本発明では、熱開始剤として、過酸化物開始剤などの感熱型の開始剤を使用することが好ましい。アゾニトリル型の化合物も、単独または過酸化物開始剤と組合せて使用することが出来る。熱開始剤である過酸化物開始剤としては、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンが例示される。好ましい実施態様として、75%の可塑剤を含有するAkzo Nobel社製「Trigonox 29B」が挙げられる。また、同社製「Trigonox C」及び「Trigonox 122−C80」も好ましく使用できる。結晶化工程における必要な硬化時間を限定し、フィルムの製造速度を最適に調節すれば、分解時間の速い過酸化物も使用できる。
【0027】
上記の過酸化物開始剤(硬化剤)としては、tert−ブチルヒドロパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド、イソプロピルベンゼンヒドロパーオキシド、p−メタンヒドロパーオキシド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジヒドロパーオキシヘキサン、1,1,3,3−テトラメチルブチルヒドロパーオキシド、メチルエチルケトンパーオキシド、t−ブチルパーベンゾエート、1,1−ジ−(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、これらと同様の化合物などが挙げられる。更に、ケトン系過酸化物、ジアシル系過酸化物、ジアルキル過酸化物、パーオキシケタール類、アルキルパーエステル類、パーオキシカーボネート類、水溶性過酸化物も使用できる。これらは1種または2種以上の過酸化物開始剤(硬化剤)を組合せて使用することが出来る。
【0028】
本発明のメラミン架橋剤としては、(メトキシメチル)メラミン−ホルムアルデヒド樹脂が挙げられ、具体的には(これに限定されないが)、「Cymel 303」として入手できるヘキサメトキシメチルメラミンが好ましい。もちろん、他のエポキシ化合物もメラミン架橋剤の効果を発揮できると考えられる。「Cymel 303」の理論的な分子量は390(g/モル)であり、有効価数は2.2価であるので、1価あたりの分子量は177.3(g/価)とある。
【0029】
濡れ性および易滑性を付与するため、モノマー希釈剤としてトリメチロールプロパンエトキシトリアクリレート(TMPОETA)、及び、UCB Surface Technology/Radcure社製「Ebecryl 350」等のアクリル化シリコンを任意成分として添加してもよい。また、フィルムの取扱性や艶消性を付与するために、ポリマー粒子または無機粒子を添加してもよい。更に、他の接着促進剤をメラミン架橋剤と組合せて使用してもよい。また、重合禁止剤を使用してもよく、代表的には、重合減速剤を重合開始剤と組合せて使用してもよい。重合禁止剤は、モノマーやオリゴマー中に存在するフリーラジカル発生剤による意図しない早過ぎる重合を最小限に抑制する(在庫、保管期間を伸ばすことが出来る)。更に、過酸化物開始剤と他の開始剤とを組合せて使用してもよい。
【0030】
熱硬化系では、硬化に加熱が必要となる。代表的には、二軸延伸フィルムの結晶化装置(クリスタライザー)内における加熱で、塗布層の過酸化物による硬化は充分に行われる、例えば、225〜240℃で行われる。塗布層のTabor delta haze値(ヘーズ値)は好ましくは0〜7、更に好ましくは5〜6である。接着性および塗布層の安定性の評価は、cross−hatched tapeテスト(斜交平行テープ試験)で行う。耐傷付き性評価としては、好ましくはTabor摩耗テストで行う(CS−10Fキャリブレーション車輪を使用し、試料表面を2×50サイクル往復して擦る、70%減圧下、500gの荷重下、計100サイクル)。
【0031】
本発明の製造方法は、所望により適宜変更、最適化することが出来、例えば、フィルムの表面に存在する酸素を除去/最小化することも含まれる。これにより、硬化を完全に行うことが出来る。その方法としては、種々の方法が挙げられ、例えば、窒素の様な不活性ガスの気流下で行う等の機械的方法が好ましい。また、化学的方法も使用できる。例えば、金属乾燥剤およびモノマー(例えばアリル官能基を有するモノマー)は酸素捕捉剤として機能し、これらを導入することにより、酸素の除去/最小化を行うことが出来る。
【0032】
塗布液中のメラミン架橋剤の含有量は、好ましくは0.001〜10重量%、更に好ましくは0.01〜5重量%、特に好ましくは0.1〜3重量%である。塗布液中の(過酸化物)熱開始剤の含有量は、好ましくは0.01〜10重量%、更に好ましくは0.1〜2.0重量%、特に好ましくは0.5〜1.0重量%である。塗布液中のバインダーの含有量は、好ましくは50〜90重量%、更に好ましくは60〜85重量%、特に好ましくは70〜80重量%である。塗布液中のモノマー希釈剤の含有量は、好ましくは10〜40重量%、更に好ましくは20〜30重量%、特に好ましくは22〜27重量%である。
【0033】
本発明のフィルムの好ましい応用として、耐傷付き性積層フィルムへの使用が挙げられる。他の最適な使用方法としては、膜タッチパネル、プラズマ及びLEIディスプレィスクリーン、ホワイトボード表面、裏面印刷広告メディア、反射防止ベースフィルム等が挙げられる。
【0034】
オフラインコーティング(過酸化物硬化性塗布を含む)は、通常、厚い塗布を行うことによって所望とする耐傷付き性を達成することが出来る。一方本発明のインライン法による過酸化物硬化性塗布は、それと同等の塗布厚みで優れた耐傷付き性を付与できることを見出した。延伸工程が完了する前、好ましくはフィルムの長手方向の延伸後に過酸化物硬化性塗布液を塗布する。これにより、それまでの工程において生じたフィルム上の小さな欠陥(例えば擦り傷や引っかき傷など)に塗布液が充填される。
【0035】
塗布液は好ましくは予備加熱および延伸中に溶融すうることが好ましい。そして、硬化し、フィルム表面上に、基本的に物理的な欠陥が存在しない平滑な塗布層を形成する。最終的な硬化塗布層は、最適には、基材フィルムの屈折率と同じような屈折率を有し、基材フィルム表面の欠陥を隠すことが出来る。
【0036】
塗布層はフィラーを有するか、又は、取扱性、後加工性、耐傷付き性またはその他の要因を高めるための性質を有していることが好ましい。これにより、通常の製造装置を使用してフィラー未含有フィルムおよび/または超透明フィルムの製造を可能にする。また、共押出し装置を使用することなく透明フィルムを製造することができる。
【0037】
本発明の過酸化物硬化性塗布は、ベースフィルムによって種々の用途に使用できる。例えば、過酸化物硬化性塗布は、透明、サテン調および/または艶消調のハードコート
、感圧接着剤に対し親和性を有する塗布、シリコン離型フィルム用塗布、インクジェット用塗布などの形成に使用できる。
【0038】
本発明の方法によれば、0.2μm未満、更には0.1μm未満の非常に薄い塗布層厚みを達成することが出来る。他の性質を付与するために塗布層の厚みを厚くすることも可能である。例えば、好ましい塗布組成物を使用した場合に充分な耐傷付き性を達成するためには、塗布層の厚みが3μm程度であると好ましい。塗布層の厚さは、好ましくは1〜3μm、更に好ましくは2〜4μmである。しかしながら、ある種の用途においては、ハードコートが化学的に強固に接合されていることが必要な場合もあり、これはインライン法により厚い過酸化物硬化性塗布を行うことにより達成できる。このようなより厚い塗布は、ハードコートの形成において重要である強固な架橋を達成できる。得られるフィルムは最適なヘーズと耐傷付き性を有する。
【0039】
ポリマーフィルム:
本発明のフィルムおよびその製造方法としては、ポリマーフィルムを使用することが最も好ましい。ポリマーフィルムは軽量であり、実質的に透明であり、安価であり、不活性であり、廃棄およびリサイクルが可能であり、安全安定なフィルムとして多くの最終商品に対応できる。更に、塗布フィルムは、熱接着や接着剤を介すことにより、例えばガラスやガラス代用品として商品化されているポリマー板材などの他の基材に容易に積層できる。
【0040】
本発明のフィルムおよびその製造方法において、二軸延伸が可能な種々のポリマーフィルムを使用することが出来る。例えば、ナイロン等のポリアミド;ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル:ポリアセタール;ポリカーボネート等の種々のポリマーから成るポリマーフィルムを使用することが出来る。中でも本発明のフィルムは、ポリエステルから成ることが好ましく、特にポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート又はポリブチレンテレフタレートから成ることが好ましい。また、本発明のフィルムは、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート等の共重合ポリエステルから成っていてもよい。
【0041】
ベースフィルムの製造方法は、Culbertsonらによる米国特許第5,350,601号明細書に記載されており、参照により本発明に含められる。通常、グリコール又はジオールと、テレフタル酸、イソフタル酸、セバシン酸、マレイン酸、アジピン酸、アゼライン酸、グルタール酸、スベリン酸、コハク酸などのジカルボン酸またはそのエステルの1種または2種以上とを重縮合して得られるポリマーを原料として本発明のフィルムを形成することが好ましい。グリコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロパンジオールやブタンジオール等のポリオール等が好ましく使用され、これらは1種または2種以上組合せて使用できる。
【0042】
上記のベースポリマーフィルムには、酸化防止剤;艶消剤;顔料;シリカ、炭酸カルシウム、カオリン、二酸化チタン等のフィラー;帯電防止剤などの従来公知の添加剤を1種または2種以上組合せて添加することが出来る。また、フィルムの過酸化物硬化性塗布層を有する面の反対側、下側、上側などに従来公知の塗布を行うことが出来る。更に、従来公知の添加剤と従来公知の塗布とを組合せて使用することも出来、例えば、従来公知の塗布層に顔料または染料、他の着色剤、安定剤、帯電防止剤、接着促進剤などを含有させて設けることも出来る。また、これらの従来公知の添加剤は、過酸化物硬化性塗布層に含有させることも出来る。
【0043】
用途によっては、上記のベースポリマーフィルムが共押出ポリエステル積層体であってもよい。共押出ベースフィルムの製造方法としては、種々の公知の延伸可能なポリマーの共押出フィルムの製造方法が採用できる。
【0044】
本発明のフィルムは種々の従来公知の方法で製造/延伸することが出来る。例えば、原料ポリエステルを溶融し、鏡面回転製膜ドラム上に押出してポリエステルの非晶シートを得る。得られたシートを急冷し、1方向に延伸し、更に他の方向に延伸し、フィルムとし、フィルムに強度と靭性を付与する。シートは、通常2〜4倍に1方向または両方向に延伸される。延伸温度は、通常ポリマーの二次転移点から軟化または溶融温度までの間である。必要であれば、延伸後にフィルムの熱処理を行い、フィルムの更なる結晶化によってフィルムの性質を「ロックイン」(封じ込める)する。フィルムの結晶化により、フィルムに安定性、良好な引張特性を付与できる。このようなポリエステルフィルムに対する熱処理は、通常190〜240℃で行われ、上記の過酸化物硬化工程に最適となる様に調整して行われる。
【0045】
本発明のフィルム及びその製造方法は上述の好ましい実施態様だけに限定されることはない。本発明のフィルムは積層体であってもよい。例えば、金属体、ポリマー体などと複合体を形成していてもよい。更に、本発明のフィルムは、不規則な表面も含む他の表面に積層し、特異な性質を表面に付与することも出来ると考えられる。本発明のフィルムは、熱接着、共押出などにより他の表面に接着することが出来、また、ファスナーやクリップ等を介した機械的接着も行うことが出来る。
【0046】
上記ベースポリマーフィルムの表面改質は必ずしも必要とされないが、行ってもよい。表面改質法としては、最も一般的で好ましい処理であるコロナ処理などの従来公知の表面改質法が使用でき、ベースポリマーフィルムの表面改質が行える。コロナ処理により、接着性が高められ、未充填(耐ブロッキング剤未充填)フィルムの巻取り中のブロッキングが減少する等の種々の効果がある。コロナ処理は、通常1.0ワット/(フィート)/分程度の強度で行われ、これにより、充分な効果が得られる。
【実施例】
【0047】
実験例1〜8:
以下の塗布液を調製し、ベースフィルムである二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムに塗布された。3mil(3/1000インチ)の厚さのフィラー未充填ポリエステルフィルムを常法により製造し、使用した。長手方向の延伸後、メイヤーロッド法により塗布を行い、110℃に加熱し、4倍に横方向に延伸し、235℃で15秒間熱固定を行った。塗布液の組成を以下の表1及び2に示すが、全ての塗布液は、75重量%のEbecry 8301と、25重量%のモノマー希釈剤であるHDОDAから成り、更に表1及び2に示す添加成分を含有していた。
【0048】
塗布液は以下の様に調製した。Ebecry 8301に撹拌しながらHDОDAを添加した。次いで、撹拌を続けながらPeroxide 29B75を添加した。撹拌は、撹拌翼を使用し、過酸化物が良好に分散をするように約20分間行った。次いで、Cymel 303を添加し、10分以上撹拌した。他の成分については、添加後10分間撹拌した。以上の混合はすべて約23℃の温度下で行った。最終的な乾燥塗布厚みは2.5〜3.5μmであった。接着性および耐傷付き性の評価は以下の方法で行った。
【0049】
(1)耐傷付き性:
0000鋼綿で塗布面を10分間円状に擦る。傷が無い場合を0、実質的な傷がある場合を5とし、傷の量に応じて段階的に評価した。
【0050】
(2)接着性:
塗布面に軽く格子模様のハッチングを行った後、Scotch 610粘着テープを貼り、引き剥がした際の塗布の剥れ具合により評価した。塗布層の剥れが無い場合を0とし、剥れた部分が多いほど数値を高く表示した。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
接着促進剤PC850(Silcoease PC−850)は、Rhodia社から入手できる置換オルガノシランである。接着促進剤HF86は、Wacker Silicones社(Adrian、ミシガン州)から入手できるシランエステル混合物である。実験例4のみ、他の接着促進剤を使用せずメラミン架橋剤(Cymel 303)のみ使用した。他の接着促進剤の添加は、耐傷付き性を悪化させる。メラミン架橋剤(Cymel 303)を単独で使用することにより、優れた接着性と耐傷付き性を付与できる。
【0054】
実験例10〜17:
実験例1〜9と同様に、Ebecry 8301とモノマー希釈剤とを含有する塗布液を調製した。実験例1〜9と異なる点は、以下の表3及び4に示すように、二軸延伸フィルムに塗布される塗布液中のメラミン樹脂の添加量を種々変更した点である。表3及び4に結果を示す。
【0055】
【表3】

【0056】
【表4】

【0057】
メラミン樹脂(Cymel 303)を含有しない塗布液を使用した実験例では、接着性が劣っていた。その他のフィルム(メラミン樹脂を含有する)においては、良好な接着性を示し、メラミン樹脂(Cymel 303)が接着性の付与に重要であることがわかる。また、過酸化物とメラミン樹脂(Cymel 303)の配合量およびそれらの配合比率を種々変化させることにより、接着性およびヘーズ(tabor abrasion)が影響を受けることがわかる。過酸化物とメラミン樹脂(Cymel 303)との配合比(過酸化物メラミン樹脂)は、1:1〜4:1が好ましく、1:1〜2:1が更に好ましい。
【0058】
以上、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、請求項に規定されている本発明の要旨または思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、その様な変更を伴う場合も本発明の技術的範囲であることは当業者にとって明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム層と当該フィルム層の少なくとも片面に設けられた塗布層とから成る耐傷付き性フィルムであって、上記塗布層が、アクリル化バインダー、熱開始剤およびメラミン架橋剤から成る塗布液を塗布することにより形成されることを特徴とする耐傷付き性フィルム。
【請求項2】
アクリル化バインダーがアクリル化ウレタンオリゴマーから成る請求項1に記載の耐傷付き性フィルム。
【請求項3】
前記塗布液が更にモノマー希釈剤を含有する請求項1に記載の耐傷付き性フィルム。
【請求項4】
前記モノマー希釈剤がジオールアクリレートから成る請求項3に記載の耐傷付き性フィルム。
【請求項5】
前記モノマー希釈剤が、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、トリメチロールプロパンエトキシトリアクリレート又はトリメチロールプロパントリアクリレートである請求項3に記載の耐傷付き性フィルム。
【請求項6】
前記モノマー希釈剤の官能基数が、1より大きい請求項3に記載の耐傷付き性フィルム。
【請求項7】
前記熱開始剤が過酸化物開始剤である請求項1に記載の耐傷付き性フィルム。
【請求項8】
前記過酸化物開始剤が1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンである請求項7に記載の耐傷付き性フィルム。
【請求項9】
前記過酸化物開始剤が、tert−ブチルヒドロパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド、イソプロピルベンゼンヒドロパーオキシド、p−メタンヒドロパーオキシド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジヒドロパーオキシヘキサン、1,1,3,3−テトラメチルブチルヒドロパーオキシド、メチルエチルケトンパーオキシド、t−ブチルパーベンゾエート又は1,1−ジ−(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンである請求項7に記載の耐傷付き性フィルム。
【請求項10】
前記アクリル化ウレタンオリゴマーが6官能性脂肪族ウレタンアクリレートである請求項2に記載の耐傷付き性フィルム。
【請求項11】
前記塗布層の厚さが1〜5μmである請求項1に記載の耐傷付き性フィルム。
【請求項12】
前記塗布層のTabor delta haze値が7未満である請求項1に記載の耐傷付き性フィルム。
【請求項13】
前記塗布層のTabor delta haze値が5〜6である請求項1に記載の耐傷付き性フィルム。
【請求項14】
前記フィルム層がポリエステルフィルムである請求項1に記載の耐傷付き性フィルム。
【請求項15】
前記熱開始剤と前記メラミン架橋剤との重量比が1:1〜1:4である請求項1に記載の耐傷付き性フィルム。
【請求項16】
前記アクリル化バインダーがアクリル化ウレタンオリゴマーから成り、前記塗布液中のアクリル化バインダーの含有量が50〜90重量%であり、前記熱開始剤が過酸化物から成り、前記塗布液中の前記熱開始剤の含有量が0.01〜10重量%であり、前記塗布液中の前記メラミン架橋剤の含有量が0.001〜10重量%であり、前記塗布液中の前記モノマー希釈剤の含有量が10〜50重量%である請求項3に記載の耐傷付き性フィルム。
【請求項17】
前記アクリル化バインダーがアクリル化ウレタンオリゴマーから成り、前記塗布液中のアクリル化バインダーの含有量が60〜85重量%であり、前記熱開始剤が過酸化物から成り、前記塗布液中の前記熱開始剤の含有量が0.1〜2重量%であり、前記塗布液中の前記メラミン架橋剤の含有量が0.1〜5重量%であり、前記塗布液中の前記モノマー希釈剤の含有量が20〜30重量%である請求項3に記載の耐傷付き性フィルム。
【請求項18】
前記塗布液が、前記メラミン架橋剤以外の架橋剤および接着促進剤を含有しない請求項1に記載の耐傷付き性フィルム。
【請求項19】
塗布フィルムの製造方法であって、熱可塑性ポリマーから成るフィルム層を形成する工程と、当該フィルム層の少なくとも片面に、アクリル化バインダー、熱開始剤およびメラミン架橋剤から成る塗布液を塗布する工程と、得られた塗布フィルムに対し、塗布液が架橋反応して塗布層を形成するのに充分な程度の加熱を行う工程とから成ることを特徴とする塗布フィルムの製造方法。
【請求項20】
塗布液が架橋反応する際に前記フィルム層の結晶化が行われる請求項19に記載の製造方法。
【請求項21】
インラインで行われる工程を含む請求項19に記載の製造方法。
【請求項22】
長手方向にフィルム層を延伸する工程が前記塗布液を塗布する前に行われ、横方向にフィルム層を延伸する工程が前記塗布液を塗布した後に行われる請求項19に記載の製造方法。
【請求項23】
フィルム層を構成する前記熱可塑性ポリマーがポリエステルである請求項19に記載の製造方法。
【請求項24】
塗布液が架橋反応を起こすために225℃以上に塗布フィルムを加熱する請求項19に記載の製造方法。
【請求項25】
アクリル化バインダーがアクリル化ウレタンオリゴマーから成り、熱開始剤が過酸化物から成り、塗布液が更にモノマー希釈剤を含有し、当該モノマー希釈剤がジオールアクリレートである請求項19に記載の製造方法。
【請求項26】
前記塗布層の厚さが1〜5μmである請求項19に記載の製造方法。
【請求項27】
前記塗布層のTabor delta haze値が5〜6である請求項19に記載の製造方法。
【請求項28】
前記アクリル化バインダーがアクリル化ウレタンオリゴマーから成り、前記塗布液中のアクリル化バインダーの含有量が50〜90重量%であり、前記熱開始剤が過酸化物から成り、前記塗布液中の前記熱開始剤の含有量が0.01〜10重量%であり、前記塗布液中の前記メラミン架橋剤の含有量が0.001〜10重量%であり、前記塗布液中の前記モノマー希釈剤の含有量が10〜50重量%である請求項25に記載の製造方法。
【請求項29】
前記アクリル化バインダーがアクリル化ウレタンオリゴマーから成り、前記塗布液中のアクリル化バインダーの含有量が60〜85重量%であり、前記熱開始剤が過酸化物から成り、前記塗布液中の前記熱開始剤の含有量が0.1〜2重量%であり、前記塗布液中の前記メラミン架橋剤の含有量が0.1〜5重量%であり、前記塗布液中の前記モノマー希釈剤の含有量が20〜30重量%である請求項25に記載の製造方法。

【公表番号】特表2008−524402(P2008−524402A)
【公表日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−547018(P2007−547018)
【出願日】平成17年12月21日(2005.12.21)
【国際出願番号】PCT/US2005/046095
【国際公開番号】WO2006/069047
【国際公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(598053374)ミツビシ ポリエステル フィルム インク (5)
【Fターム(参考)】