説明

遠心ポンプ

【課題】遠心力付与部材が回転した際に、軸部材がその中心軸に対し直交する方向に揺動するのを確実に防止することができ、軸部材と第1の軸受けおよび第2の軸受けとの各間での溶血を確実に防止または抑制することができる遠心ポンプを提供すること。
【解決手段】遠心ポンプ1は、インペラを回転支持する支持機構4を備える。支持機構4は、両端部に第1の球体51、第2の球体52を有する軸部材5と、第1の球体51を回転可能に支持する第1の軸受け6と、第2の球体52を回転可能に支持する第2の軸受け7とを備える。第1の軸受け6は、第1の球体51に対し、中心軸O回りの3点で接する軸回り接点部61a〜61cと、中心軸O上の1点で接する軸上接点部62とを有する。第2の軸受け7は、第2の球体52に対し、中心軸O回りの3点で接する軸回り接点部71a〜71cと、中心軸O上の1点で接する軸上接点部72とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、血液を搬送する血液ポンプとしては、遠心力によって血液を送り出すターボ型のポンプがあり、中空のハウジングと、ハウジング内に回転可能に収納されたインペラと、インペラの回転中心となる回転軸(軸部材)と、回転軸の上端部を回転可能に支持する上部軸受けと、回転軸の下端部を回転可能に支持する下部軸受けとを備えるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この特許文献1に記載の血液ポンプでは、上部軸受けは、筒状をなし、その内径よりも若干小さい外径を有する回転軸の上端部が挿入されている。これにより、上部軸受けの内周部と回転軸の上端部の外周部とは、面接触した状態となっている。また、下部軸受けも、筒状をなし、その内径よりも若干小さい外径を有する回転軸の下端部が挿入されている。これにより、下部軸受けの内周部と回転軸の下端部の外周部とは、面接触した状態となっている。また、特許文献1に記載の血液ポンプは、回転軸が上部軸受けと下部軸受けとの間を上下方向にズレることができるよう、上部軸受けおよび下部軸受けにそれぞれ遊び設けられている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の血液ポンプでは、インペラが回転した際には、回転軸は、前記遊びがある分だけ上下方向にズレて、その結果、水平方向にも揺動して(ブレて)しまっていた。そして、この揺動により、血液ポンプ全体が不本意に過剰に振動する等の問題が生じる。
【0005】
また、特許文献1に記載の血液ポンプでは、前述したように上部軸受けの内周部と回転軸の上端部の外周部とが面接触した状態となっており、このため、これらの間で溶血が生じてしまっていた。同様に、下部軸受けの内周部と回転軸の下端部の外周部も面接触した状態となっており、これらの間でも溶血が生じてしまっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4548450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、遠心力付与部材が回転した際に、当該遠心力付与部材とともに回転する軸部材がその中心軸に対し直交する方向に揺動するのを確実に防止することができるとともに、軸部材と第1の軸受けおよび第2の軸受けとの各間での溶血を確実に防止または抑制することができる遠心ポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的は、下記(1)〜(9)の本発明により達成される。
(1) 中空体で構成され、その中空部に連通し、血液が流入する血液流入口と、前記中空部に連通し、前記血液流入口から流入した血液が流出する血液流出口とを有するハウジングと、
前記中空部内に回転可能に収納され、その回転より血液に遠心力を付与する遠心力付与部材と、
前記遠心力付与部材を前記ハウジングに対し回転可能に支持する支持機構とを備え、
前記支持機構は、前記遠心力付与部材の回転中心に設置された棒状をなす棒状体で構成され、その両端部がそれぞれ前記棒状体の中心軸回りの回転体形状をなす軸部材と、
前記軸部材の一端部を回転可能に支持する第1の軸受けと、
前記軸部材の他端部を回転可能に支持する第2の軸受けとを有し、
前記第1の軸受けおよび前記第2の軸受けは、それぞれ、当該軸受けが支持する前記軸部材の端部に対し、その前記中心軸回りの少なくとも3点でそれぞれ接する軸回り接点部と、前記中心軸上の少なくとも1点で接する軸上接点部とを有することを特徴とする遠心ポンプ。
【0009】
(2) 前記軸部材の一端部および前記軸部材の他端部は、それぞれ、球体である上記(1)に記載の遠心ポンプ。
【0010】
(3) 前記第1の軸受けおよび前記第2の軸受けのうちの少なくとも一方は、平板と、平板の片方の面から突出形成された、前記軸回り接点部と同数の突部とで構成され、
前記平板が前記軸上接点部として機能し、前記各突部がそれぞれ前記軸回り接点部として機能する上記(1)または(2)に記載の遠心ポンプ。
【0011】
(4) 前記各突部は、それぞれ、前記軸部材と接する接触面が丸みを帯びている上記(3)に記載の遠心ポンプ。
【0012】
(5) 前記軸部材の一端部および前記軸部材の他端部は、それぞれ、球体であり、
前記各突部の高さは、それぞれ、前記球体の半径よりも大である上記(3)または(4)に記載の遠心ポンプ。
【0013】
(6) 前記第1の軸受けおよび前記第2の軸受けのうちの一方は、板状をなし、その片方の面に凹部が形成された平板で構成されており、
前記凹部の底面が前記軸上接点部として機能し、前記凹部の内周面が前記各軸回り接点部として機能する上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の遠心ポンプ。
【0014】
(7) 前記凹部は、その平面視での形状が三角形をなす上記(6)に記載の遠心ポンプ。
【0015】
(8) 前記軸部材の一端部および前記軸部材の他端部は、それぞれ、球体であり、
前記凹部の深さは、前記球体の半径よりも大である上記(6)または(7)に記載の遠心ポンプ。
【0016】
(9) 前記各軸回り接点部は、前記中心軸回りに等角度間隔に配されている上記(1)ないし(8)のいずれかに記載の遠心ポンプ。
【0017】
また、本発明の遠心ポンプでは、前記第1の軸受けの前記軸回り接点部と、前記第2の軸受けの前記軸回り接点部とは、同数であり、
前記中心軸方向から見たとき、前記第1の軸受けの前記各軸回り接点部と、前記第2の軸受けの前記各軸回り接点部とは、互いに重なっているのが好ましい。
【0018】
また、本発明の遠心ポンプでは、前記第1の軸受けおよび前記第2の軸受けは、それぞれ、前記ハウジングと別体で構成され、前記ハウジングに対し固定されているのが好ましい。
【0019】
また、本発明の遠心ポンプでは、前記軸部材の一端部がなす回転体形状と前記軸部材の他端部がなす回転体形状とは、同じであるのが好ましい。
【0020】
また、本発明の遠心ポンプでは、前記軸部材の一端部および前記軸部材の他端部のうちの少なくとも一方は、球体であるのが好ましい。
【0021】
また、本発明の遠心ポンプでは、前記軸部材と、前記第1の軸受けおよび前記第2の軸受けとは、互いに異なる材料で構成されているのが好ましい。
【0022】
また、本発明の遠心ポンプでは、前記軸部材は、金属材料で構成され、前記第1の軸受けおよび前記第2の軸受けは、それぞれ、樹脂材料で構成されているのが好ましい。
【0023】
また、本発明の遠心ポンプでは、前記遠心力付与部材は、円盤状をなすものであり、その中心から放射状に形成され、血液が通過する複数本の血液流路を有するのが好ましい。
【0024】
また、本発明の遠心ポンプでは、前記ハウジングは、偏平な円筒状をなし、その一端部に前記血液流入口が突出形成され、外周部にその接線方向に向かって前記血液流出口が突出形成されているのが好ましい。
【0025】
また、本発明の遠心ポンプでは、前記軸部材が鉛直方向と平行となるように使用されるのが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、軸部材の一端部と第1の軸受けとが点接触しており、さらに、その接点数をできる限り少なくすることができる。また、軸部材の他端部と第2の軸受けとも点接触しており、さらに、その接点数をできる限り少なくすることができる。
【0027】
このような構成により、遠心力付与部材が回転した際に、当該遠心力付与部材とともに回転する軸部材は、安定して支持され、よって、軸部材の中心軸に対し直交する方向に揺動するのが確実に防止される。また、軸部材の一端部と第1の軸受けとの接触面積もできる限り少なくなり、よって、これら部材間での溶血を確実に防止または抑制することができる。これと同様に、軸部材の他端部と第2の軸受けとの接触面積もできる限り少なくなり、よって、これら部材間での溶血を確実に防止または抑制することができる。また、摩擦による発熱での血栓形成が抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の遠心ポンプの実施形態を示す断面側面図である。
【図2】本発明の遠心ポンプの実施形態を示す断面平面図である。
【図3】本発明の遠心ポンプが備える支持機構を示す斜視図(第1の軸受けと第2の軸受けとの位置関係を示す図)である。
【図4】図1中のA−A線断面図である。
【図5】図1中のB−B線断面図である。
【図6】図1中の一点鎖線で囲まれた領域[C]の拡大図である。
【図7】図1中の一点鎖線で囲まれた領域[D]の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の遠心ポンプを添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0030】
図1は、本発明の遠心ポンプの実施形態を示す断面側面図、図2は、本発明の遠心ポンプの実施形態を示す断面平面図、図3は、本発明の遠心ポンプが備える支持機構を示す斜視図(第1の軸受けと第2の軸受けとの位置関係を示す図)、図4は、図1中のA−A線断面図、図5は、図1中のB−B線断面図、図6は、図1中の一点鎖線で囲まれた領域[C]の拡大図、図7は、図1中の一点鎖線で囲まれた領域[D]の拡大図である。なお、以下では、説明の都合上、図1、図3、図6および図7中の上側を「上」または「上方」、下側を「下」または「下方」と言う。
【0031】
図1に示す遠心ポンプ1は、中空体で構成されたハウジング2と、ハウジング2内に回転可能に収納された回転体(インペラ)3と、回転体3をハウジング2に対し回転可能に支持する支持機構4とを備えている。以下、各部の構成について説明する。
【0032】
ハウジング2は、偏平な円筒状の部材で構成され、その上端を閉塞する天板21と、下端を閉塞する底板22とを有している。そして、天板21と底板22と側壁23とで囲まれた偏平な空間(中空部)がポンプ室24となる。
【0033】
また、ハウジング2は、血液Qが流入する血液流入口25と、血液Qが流出する血液流出口26とを有している。血液流入口25と血液流出口26とは、それぞれ、ポンプ室24に連通している。そして、血液流入口25から流入した血液Qは、ポンプ室24を介して、血液流出口26から流出することができる。
【0034】
図1に示すように、血液流入口25は、天板21(一端部)の中心部に管状に突出形成されている。血液流入口25は、その長手方向の途中が屈曲しており、当該屈曲部251を境界部として天板21側の根元部252と、それと反対側の接続部253とに分けることができる。接続部253には、例えば血液回路を構成するチューブを接続することができる。
【0035】
図2に示すように、血液流出口26は、側壁23の外周面(外周部)231に管状に突出形成されている。この血液流出口26は、側壁23の外周面231の接線方向に向かって突出している。
【0036】
ハウジング2のポンプ室24内には、円盤状をなす回転体3が同心的に配置されている。この回転体3は、回転することにより、血液Qに遠心力を付与する遠心力付与部材である。
【0037】
図2に示すように、回転体3は、血液Qが通過する複数本(図示の構成では6本)の血液流路31を有している。これらの血液流路31は、回転体3の中心から放射状に形成されている。また、各血液流路31の回転体3の中心側の部分同士は、互いに合流(交差)しており、回転体3の上面32に開口している。一方、血液流路31の回転体3の中心側と反対側の部分は、それぞれ、回転体3の外周面33に開口している。また、回転体3の外周面33とハウジング2の側壁23の内周面232との間には、間隙241が形成されている。
【0038】
そして、このような回転体3が図2中の時計回りに回転すると、血液流入口25から流入した血液Qは、各血液流路31にその回転体3の中心側の部分から入り込み、遠心力を受けて、血液流路31を流下する。この流下した血液Qは、間隙241内に流出する。その後、血液Qは、間隙241内で図2中の時計回りの回転力を受けて、血液流出口26に至ると、当該血液流出口26から確実に排出されることとなる。
【0039】
図1に示すように、回転体3には、血液流路31の下側の部分に、磁石が設置されている。なお、図1に示す構成では、複数(例えば6つ)の永久磁石34を用いている。遠心ポンプ1を駆動するに際しては、後述する軸部材5が鉛直方向と平行となるようにハウジング2の底板22を下側にして、当該遠心ポンプ1を外部駆動手段(図示せず)に装着する。この装着状態で遠心ポンプ1が使用される。外部駆動手段は、例えば、モータと、モータに連結された永久磁石とを有し、この永久磁石が遠心ポンプ1に内蔵された永久磁石34と磁力により引き付け合う。そして、この状態でモータが回転すると、その回転力が前記引き付け合う磁石同士を介して伝達されて、回転体3も回転することができる。
【0040】
なお、回転体3の直径は、特に限定されないが、例えば、20〜200mmであるのが好ましく、30〜100mmであるのがより好ましい。回転体3の厚さは、特に限定されないが、例えば、3〜40mmであるのが好ましく、5〜30mmであるのがより好ましい。回転体3の最大回転数は、特に限定されないが、例えば、2000〜6000rpmであるのが好ましく、2500〜5000rpmであるのがより好ましい。
【0041】
また、回転体3およびハウジング2の構成材料としては、特に限定されず、例えば、硬質ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のアクリル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)のようなポリエステル、ポリサルフォン、ポリアリレート等の各種硬質樹脂が挙げられる。また、これらの構成材料うちでも、特に、血液Qとの適合性に優れ、また、透明性、成形加工性に優れるという点で、ポリカーボネート、アクリル樹脂が好ましい。
【0042】
図1に示すように、回転体3は、支持機構4を介してハウジング2に対し回転可能に支持されている。支持機構4は、棒状をなす棒状体で構成された軸部材5と、軸部材5の上端部(一端部)を回転可能に支持する第1の軸受け6と、軸部材5の下端部(他端部)を回転可能に支持する第2の軸受け7とを有している。軸部材5は、回転体3の回転中心に設置されている。第1の軸受け6は、ハウジング2の血液流入口25の接続部253の内周部に凹没して形成された第1の軸受け設置部254に設置、固定されている。第2の軸受け7は、ハウジング2の底板22の中心部に凹没して形成された第2の軸受け設置部221に設置、固定されている。なお、第1の軸受け6、第2の軸受け7のハウジング2に対する固定方法としては、特に限定されないが、例えば、嵌合による方法、接着(接着剤や溶媒による接着)による方法、融着(熱融着、高周波融着、超音波融着等)による方法、インサート成形による方法等が挙げられる。
【0043】
軸部材5は、各部の形状によって、上端側の第1の球体51と、下端側の第2の球体52と、これらの間にある円柱状のシャフト53とに分けることができる。
【0044】
第1の球体51と第2の球体52とは、互いに半径R、Rの大きさが同じ球体となっている。これにより、軸部材5を設計する際、第1の球体51、第2の球体52での寸法等の設計条件を同じとすることができ、その設計を容易に行なうことができる。また、「球体」は、シャフト53に対する設置角度を問わない形状であるため、軸部材5を加工する(製造する)際、その加工精度を一定にすることができる。なお、半径Rと半径Rとは、本実施形態では同じであるが、これに限定されず、異なっていてもよい。
【0045】
なお、半径R、Rは、それぞれ、例えば、0.5〜3mmであるのが好ましく、1〜2.5mmであるのがより好ましい。
【0046】
第1の球体51の外面511、第2の球体52の外面521に、それぞれ、例えば、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)やチタン等をコーティングしてもよい。これにより、軸部材5が回転する際の第1の球体51および第2の球体52の摺動性が向上する。
【0047】
シャフト53は、その長手方向の途中に外径が縮径した縮径部531を有している。主にこの縮径部531を介して、シャフト53が回転体3と連結、固定されている。なお、この固定方法としては、特に限定されず、例えば、嵌合による方法、融着(熱融着、高周波融着、超音波融着等)による方法、接着(接着剤や溶媒による接着)による方法等が挙げられる。
【0048】
また、シャフト53の両端の外径は、それぞれ、本実施形態では第1の球体51および第2の球体52の直径よりも小さくなっているが、これに限定されず、同じであってもよいし、大きくてもよい。
【0049】
図1、図3、図4、図6に示すように、第1の軸受け6は、軸部材5の第1の球体51を回転可能に支持する部材である。第1の軸受け6は、第1の球体51に対し4点で接している。すなわち、第1の軸受け6は、第1の球体51に対し、軸部材5の中心軸O回りの3点でそれぞれ接する軸回り接点部61a、61b、61cと、中心軸O上の1点で接する軸上接点部62とを有している。
【0050】
軸上接点部62は、円板(平板)で構成されている。そして、図6に示すように、この円板である軸上接点部62は、その下面621が第1の球体51の外面511に点接触する接触面となっている。
【0051】
軸回り接点部61a〜61cは、それぞれ、軸上接点部62の下面621(片方の面)から下方に向かって柱状に突出形成された3つの突部で構成されている。そして、図4に示すように、突部である各軸回り接点部61a〜61cは、その中心軸O側に臨む面、すなわち、内側の面611がそれぞれ第1の球体51の外面511に点接触する接触面となっている。また、内側の面611は、中心軸O側に隆起するように丸みを帯びているのが好ましい。これにより、軸部材5が回転した際、第1の球体51の外面511と内側の面611との間に生じる摩擦によって、当該内側の面611が摩耗してしまうのを防止することができる。
【0052】
図6に示すように、軸回り接点部61a〜61cの高さHは、それぞれ、第1の球体51の半径Rよりも大である。これにより、例えば仮に軸部材5が下方向に若干位置ズレした場合でも、軸回り接点部61a〜61cがそれぞれ内側の面611で第1の球体51に点接触した状態が確実に維持され、よって、軸部材5が安定して回転することができる。
【0053】
また、図4に示すように、軸回り接点部61a〜61cは、中心軸Oに等角度間隔に配されている。これにより、軸部材5をできる限り少ない接点で安定して支持することができる。
【0054】
図1に示すように、第1の軸受け6は、軸回り接点部61a〜61cがハウジング2の血液流入口25の接続部253内に突出するように第1の軸受け設置部254に設置されている。軸回り接点部61a〜61同士は、互いに離間して配置されているため、血液Qが軸回り接点部61a〜61同士間を容易に通過することができる、すなわち、血流の阻害が防止される。これにより、第1の軸受け6の上流側付近での血液Qの滞留を確実に防止し、血栓形成を抑制することができる。また、使用開始時に遠心ポンプ1に血液を充填する際の気泡抜きを容易にすることができたり、血液Q中に気泡が混在している場合、当該気泡の滞留も確実に防止することができる。
【0055】
第1の軸受け6は、軸回り接点部61a〜61cと軸上接点部62とが一体的に形成されたものが好ましいが、これに限定されず、例えば、軸回り接点部61a〜61cと軸上接点部62とをそれぞれ別体で構成し、これら別体同士を連結したものであってもよい。また、軸回り接点部61a〜61cと軸上接点部62とをそれぞれ別体で構成した場合、各別体の構成材料は、同じであってもよいし異なっていてもよい。
【0056】
図1、図3、図5、図7に示すように、第2の軸受け7は、軸部材5の第2の球体52を回転可能に支持する部材である。第2の軸受け7は、第2の球体52に対し4点で接している。すなわち、第2の軸受け7は、第2の球体52に対し、軸部材5の中心軸O回りの3点でそれぞれ接する軸回り接点部71a、71b、71cと、中心軸O上の1点で接する軸上接点部72とを有している。
【0057】
第2の軸受け7は、上面73(片方の面)に凹部74が形成された円板(平板)で構成されている。図3、図5に示すように、凹部74は、その平面視での形状がほぼ正三角形をなす。
そして、図7に示すように、凹部74の底面が軸上接点部72として機能する。
【0058】
図5に示すように、凹部74の内周面の前記「正三角形」の各辺を構成する部分がそれぞれ軸回り接点部71a〜71cとして機能する。これらの軸回り接点部71a〜71cは、中心軸Oに等角度間隔に配される。これにより、軸部材5をできる限り少ない接点で安定して支持することができる。
【0059】
また、凹部74の深さDは、第2の球体の半径Rよりも大である(図7参照)。これにより、例えば仮に軸部材5が上方向に若干位置ズレした場合でも、軸回り接点部71a〜71cがそれぞれ第2の球体52に点接触した状態が確実に維持され、よって、軸部材5が安定して回転することができる。
【0060】
図3に示すように、支持機構4を中心軸O方向から見たとき、第1の軸受け6の軸回り接点部61aと第2の軸受け7の軸回り接点部71aとが互いに重なっており、第1の軸受け6の軸回り接点部61bと第2の軸受け7の軸回り接点部71bとが互いに重なっており、第1の軸受け6の軸回り接点部61cと第2の軸受け7の軸回り接点部71cとが互いに重なっている。このような接点部同士の位置関係により、例えば、軸部材5が安定して回転することができる。
【0061】
図1に示すように、第1の軸受け6は、ハウジング2と別体で構成され、ハウジング2に対し固定されている。第2の軸受け7も、ハウジング2と別体で構成され、ハウジング2に対し固定されている。このように第1の軸受け6、第2の軸受け7がそれぞれハウジング2と別体で構成されていることにより、例えば、各部材をそれぞれ成形する際、その成形に適した構成材料を用いることができる。
【0062】
以上のような軸部材5、第1の軸受け6、第2の軸受け7を有する支持機構4では、軸部材5の第1の球体51と第1の軸受け6とが点接触しており、さらに、その接点数をできる限り少なくすることができる。また、軸部材5の第2の球体52と第2の軸受け7とも点接触しており、さらに、その接点数をできる限り少なくすることができる。
【0063】
このような構成により、回転体3が回転した際に、当該回転体3とともに回転する軸部材5は、安定して支持され、よって、中心軸Oに対し直交する方向、すなわち、水平方向に揺動するのが確実に防止される。また、軸部材5の第1の球体51と第1の軸受け6との接触面積もできる限り少なくなり、よって、これら部材間での摩擦による溶血や血栓形成を確実に防止(または抑制)することができる。これと同様に、軸部材5の第2の球体52と第2の軸受け7との接触面積もできる限り少なくなり、よって、これら部材間での摩擦による溶血や血栓形成を確実に防止(または抑制)することができる。
【0064】
なお、第1の軸受け6と第2の軸受け7とは、同じ材料で構成されるのが好ましい。また、各軸受けと軸部材5とは、互いに同じ材料で構成されていてもよいし、異なる材料で構成されていてもよい。各軸受けと軸部材5とが互いに同じ材料で構成されている場合、各構成材料に硬質のものを用い、例えば、第1の軸受け6と第2の軸受け7と軸部材5とをそれぞれ金属材料またはセラミックスで構成することができる。各軸受けと軸部材5とが互いに異なる材料で構成されている場合、軸部材5の構成材料に硬質のものを用い、各軸受けの構成材料に軸部材5よりも軟質のものを用い、例えば、軸部材5を金属材料やセラミックスで構成し、第1の軸受け6と第2の軸受け7とをそれぞれ樹脂材料で構成することができる。
【0065】
樹脂材料としては、特に限定されず、例えば、熱可塑性樹脂が挙げられる。この熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリアミド(例:ナイロン6、ナイロン46、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6−12、ナイロン6−66)、熱可塑性ポリイミド、芳香族ポリエステル等の液晶ポリマー、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンサルファイド、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエーテル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアセタール、スチレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、トランスポリイソプレン系、フッ素ゴム系、塩素化ポリエチレン系等の各種熱可塑性エラストマー等、またはこれらを主とする共重合体、ブレンド体、ポリマーアロイ等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を混合して用いることができる。
【0066】
金属材料としては、特に限定されず、例えば、ステンレス鋼等が挙げられる。また、金属材料の他に、セラミックス等も用いることができる。また、このような硬質材料(金属材料やセラミックス)の硬度(ビッカース硬度(Hv))としては、特に限定されず、例えば、50以上であるのが好ましく、100以上であるのがより好ましい。
【0067】
このような構成材料を用いることにより、第1の軸受け6と軸部材5との間、第2の軸受け7と軸部材5との間での耐摩耗性が向上する。
【0068】
以上、本発明の遠心ポンプを図示の実施形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、遠心ポンプを構成する各部は、同様の機能を発揮し得る任意の構成のものと置換することができる。また、任意の構成物が付加されていてもよい。
【0069】
また、軸部材の両端部の形状は、それぞれ、前記実施形態では球状となっているが、これに限定されず、軸部材の中心軸回りの回転体形状をなすものであればよく、例えば、円錐状、円錐台形状、半球状であってもよい。この場合、例えば、軸部材の両端部のうちの一端部が球状であり、他端部が円錐状とすることもできる。
【0070】
また、第1の軸受けは、第1の球体に対し、前記実施形態では軸部材の中心軸回りの3点の軸回り接点部で接したものであるが、これに限定されず、例えば、軸部材の中心軸回りの4点以上の軸回り接点部で接したものであってもよい。
【0071】
また、第1の軸受けは、第1の球体に対し、前記実施形態では軸部材の中心軸上の1点の軸上接点部で接したものであるが、これに限定されず、例えば、軸部材の中心軸上の複数の軸上接点部で接したものであってもよい。
【0072】
また、第1の軸受けでの各軸回り接点部の内側の面は、それぞれ、前記実施形態では丸みを帯びた形状をなしていたが、これに限定されず、例えば、球体の外面に沿った形状であってもよいし、軸部材の中心軸側に向かった角部を有する形状であってもよい。
【0073】
また、第2の軸受けは、第2の球体に対し、前記実施形態では軸部材の中心軸回りの3点の軸回り接点部で接したものであるが、これに限定されず、例えば、軸部材の中心軸回りの4点以上の軸回り接点部で接したものであってもよい。
【0074】
また、第2の軸受けは、第2の球体に対し、前記実施形態では軸部材の中心軸上の1点の軸上接点部で接したものであるが、これに限定されず、例えば、軸部材の中心軸上の複数の軸上接点部で接したものであってもよい。
【0075】
また、第2の軸受けは、前記実施形態では凹部を有する平板で構成されていたが、これに限定されず、例えば、第1の軸受けと同様の構成、すなわち、平板と、平板の片方の面から突出形成されたすくなくとも3つの突部とで構成されていてもよい。
【0076】
また、第1の軸受けと第2の軸受けとは、それぞれ、前記実施形態ではハウジングと別体で構成されているが、これに限定されず、例えば、ハウジングと一体的に形成されていてもよい。
【0077】
また、支持機構を軸部材の中心軸方向から見たとき、図3に示す構成では第1の軸受けの各軸回り接点部と第2の軸受けの各軸回り接点部とが互いに重なっていたが、これに限定されず、例えば、互いにズレていてもよい。
【実施例】
【0078】
次に、本発明の遠心ポンプの具体的実施例について説明する。
1.遠心ポンプの作製および作動
(実施例)
図1に示す遠心ポンプを作製した。この遠心ポンプを外部駆動手段に装着して、遠心ポンプを作動させた。
作動条件は、下記の通りである。
【0079】
遠心ポンプの回転数 :3000rpm
作動時間 :6時間
遠心ポンプ内を通過する血液 :豚血
遠心ポンプ内を通過する血液の温度:37℃
【0080】
(比較例)
軸部材と軸受けとが面接触するものを用いたこと以外は、実施例と同様のものを制作した。また、作動条件は、実施例と同様にした。
【0081】
2.評価
実施例および比較例に対して、それぞれ、下記の評価を行った。
【0082】
[2.1]振動(揺動)の評価
振動計測装置(キーエンス社製「IA−200」)を用いて実施例および比較例の各遠心ポンプの振動を測定した。その結果、実施例の遠心ポンプは、比較例の遠心ポンプよりも振動が50%以上軽減されたことを確認することができた。これにより、実施例の遠心ポンプでは、軸部材が水平方向に揺動するのが確実に防止されているということができる。
【0083】
[2.2]溶血の評価
実施例および比較例の各遠心ポンプを通過する血液を1時間ごとに採取して、当該採取した血液に対し遠心分離を施した。その結果、実施例の遠心ポンプを通過した血液は、比較例の遠心ポンプを通過した血液に比べ、時間を追うごとの溶血の程度が少なくなることが観察された。これにより、実施例の遠心ポンプでは、軸部材と第1の軸受けおよび第2の軸受けとの各間での溶血が抑制されているということができる。
【符号の説明】
【0084】
1 遠心ポンプ
2 ハウジング
21 天板
22 底板
221 第2の軸受け設置部
23 側壁
231 外周面(外周部)
232 内周面
24 ポンプ室
241 間隙
25 血液流入口
251 屈曲部
252 根元部
253 接続部
254 第1の軸受け設置部
26 血液流出口
3 回転体(インペラ)
31 血液流路
32 上面
33 外周面
34 永久磁石
4 支持機構
5 軸部材
51 第1の球体
511 外面
52 第2の球体
521 外面
53 シャフト
531 縮径部
6 第1の軸受け
61a、61b、61c 軸回り接点部
611 内側の面
62 軸上接点部
621 下面
7 第2の軸受け
71a、71b、71c 軸回り接点部
72 軸上接点部
73 上面
74 凹部
D 深さ
H 高さ
、R 半径
O 中心軸
Q 血液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空体で構成され、その中空部に連通し、血液が流入する血液流入口と、前記中空部に連通し、前記血液流入口から流入した血液が流出する血液流出口とを有するハウジングと、
前記中空部内に回転可能に収納され、その回転より血液に遠心力を付与する遠心力付与部材と、
前記遠心力付与部材を前記ハウジングに対し回転可能に支持する支持機構とを備え、
前記支持機構は、前記遠心力付与部材の回転中心に設置された棒状をなす棒状体で構成され、その両端部がそれぞれ前記棒状体の中心軸回りの回転体形状をなす軸部材と、
前記軸部材の一端部を回転可能に支持する第1の軸受けと、
前記軸部材の他端部を回転可能に支持する第2の軸受けとを有し、
前記第1の軸受けおよび前記第2の軸受けは、それぞれ、当該軸受けが支持する前記軸部材の端部に対し、その前記中心軸回りの少なくとも3点でそれぞれ接する軸回り接点部と、前記中心軸上の少なくとも1点で接する軸上接点部とを有することを特徴とする遠心ポンプ。
【請求項2】
前記軸部材の一端部および前記軸部材の他端部は、それぞれ、球体である請求項1に記載の遠心ポンプ。
【請求項3】
前記第1の軸受けおよび前記第2の軸受けのうちの少なくとも一方は、平板と、平板の片方の面から突出形成された、前記軸回り接点部と同数の突部とで構成され、
前記平板が前記軸上接点部として機能し、前記各突部がそれぞれ前記軸回り接点部として機能する請求項1または2に記載の遠心ポンプ。
【請求項4】
前記各突部は、それぞれ、前記軸部材と接する接触面が丸みを帯びている請求項3に記載の遠心ポンプ。
【請求項5】
前記軸部材の一端部および前記軸部材の他端部は、それぞれ、球体であり、
前記各突部の高さは、それぞれ、前記球体の半径よりも大である請求項3または4に記載の遠心ポンプ。
【請求項6】
前記第1の軸受けおよび前記第2の軸受けのうちの一方は、板状をなし、その片方の面に凹部が形成された平板で構成されており、
前記凹部の底面が前記軸上接点部として機能し、前記凹部の内周面が前記各軸回り接点部として機能する請求項1ないし5のいずれかに記載の遠心ポンプ。
【請求項7】
前記凹部は、その平面視での形状が三角形をなす請求項6に記載の遠心ポンプ。
【請求項8】
前記軸部材の一端部および前記軸部材の他端部は、それぞれ、球体であり、
前記凹部の深さは、前記球体の半径よりも大である請求項6または7に記載の遠心ポンプ。
【請求項9】
前記各軸回り接点部は、前記中心軸回りに等角度間隔に配されている請求項1ないし8のいずれかに記載の遠心ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−53591(P2013−53591A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193298(P2011−193298)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】