説明

遠心分離装置

【課題】分離効率、装置の小型化、構造の簡素化を促進し、しかも圧縮機のオイル分離装置として好適な遠心分離装置を提供する。
【解決手段】円筒空間に形成される分離室の側壁に設けられた入口孔から流入される多相流体に旋回流を付与し、高密度の流体と、該高密度の流体より低密度の流体とに分離し、分離された低密度の流体を入口孔よりも上方に設けられた出口孔から流出させ、分離された高密度の流体を入口孔よりも下方に設けられた出口孔から流出させる遠心分離装置において、分離室の側壁に周方向に延びる溝を設けたことを特徴とする遠心分離装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば多相流体から密度の異なる流体を分離可能な遠心分離装置に関し、とくに圧縮機内に設けられ、吐出流体と該吐出流体中に含まれるオイルとを分離するオイル分離装置に好適な遠心分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
圧縮機に内蔵され、吐出流体と該吐出流体に含まれるオイル(潤滑油)とを分離するオイル分離装置はよく知られている。このような、オイル分離装置としては、オイルが含有される吐出流体を円筒状に形成された分離室内に導入し、該導入された流体に旋回流を付与することにより吐出流体とオイルとの密度の差を利用し両者を分離し、高密度のオイルを分離室の下方に流出させるとともに、低密度の吐出流体(たとえば、二酸化炭素等の冷媒)を分離室の上方に排出させる遠心分離式のオイル分離装置が一般的である。また、このようなオイル分離装置においては、分離効率を向上するため図9に示すような提案もなされている(特許文献1)。図9においては、斜板式圧縮機100内には遠心分離式のオイル分離装置101が設けられている。オイル分離装置101は、分離室102を有しており、分離室102にはオイルが含まれる吐出流体を導入する入口孔103が設けられている。また、分離室102内には軸方向に延びる分離パイプ104が設けられている。このような構成においては、入口孔103から分離室102内に導入された吐出流体は、分離室102の内壁に沿って旋回流を形成し高密度のオイルと低密度の吐出流体とに分離される。そして、分離された低密度の吐出流体は、分離パイプ104の内側を通り分離室102の上部に設けられた低密度の吐出流体の出口孔(図示略)か流出される。一方、分離された高密度のオイルは分離室102の下部に設けられた出口孔105から流出され圧縮器機100の圧縮機構側106へ供給されるようになっている。
【0003】
また、図10に示すように、分離室内に設けられる分離パイプ104の表面に溝(または突状)104aを設けオイルを該溝等に沿わせて下方に導くことによりオイルの分離効率の向上を図る提案もなされている(特許文献2)。
【0004】
しかし、特許文献1のような提案においては、旋回流を形成する分離パイプ104の外周側の空間102aと、分離後の吐出流体を流す分離パイプ104の内側の空間102bのそれぞれに十分な流路断面積を確保することが困難であるため圧力損失が増大するおそれがある。とくに装置が圧縮機内蔵型である場合には、オイル分離装置自体の小型化が求められるため空間102a、102bの流路断面積が小さくなる。また、所定の分離効率を得るためには、分離パイプ104の長さや径をある値以上に確保する必要が生じるためオイル分離装置自体が大型化するおそれがある。一方、特許文献2の提案においては、分離パイプ104の表面に形成される溝104aにオイルが一旦付着したとしても旋回流により吹き飛ばされるおそれがあり、オイルの捕捉効率が低下するおそれがある。また、上記両提案はともに分離室102内に分離パイプ104を挿入する構成が採用されているが、このような構成においては構造が複雑化し装置のコストアップを招来するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−0277565号公報
【特許文献2】特開平9−60591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の課題は、分離効率、装置の小型化、構造の簡素化を促進し、しかも圧縮機のオイル分離装置として使用された場合には、圧縮機内の潤滑性を確保でき、該圧縮機が使用される回路内(たとえば、車両用空調装置の冷凍回路内)のオイル循環を低減可能な遠心分離装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る遠心分離装置は、円筒空間に形成される分離室の側壁に設けられた入口孔から流入される多相流体に旋回流を付与し、高密度の流体と、該高密度の流体より低密度の流体とに分離し、分離された低密度の流体を前記入口孔よりも上方に設けられた出口孔から流出させ、分離された高密度の流体を前記入口孔よりも下方に設けられた出口孔から流出させる遠心分離装置において、前記分離室の側壁に周方向に延びる溝を設けたことを特徴とするものからなる。このような構成においては、遠心力により分離された高密度の流体は、側壁に設けられた溝に捕捉されるので、吐出流体中の高密度の流体の分離効率を向上することができる。
【0008】
上記のような溝は、たとえば螺旋状、あるいは周方向に延びる複数の溝から形成することができる。このような構成によれば、溝内に捕捉され分離された高密度の流体を、高密度の流体の出口孔に効率よく流入させることができる。なお、上記のような溝は分離室の側壁に直接刻設してもよいが、たとえば分離室を形成する空間内に、内面に溝が刻設された円筒体を挿入して側壁に溝が形成される分離室を構成することも可能である
【0009】
また、分離室の上端が蓋により閉塞される構成においては、上記螺旋状の溝は蓋が螺合される溝として利用することも可能である。
【0010】
本発明に係る遠心分離装置は、たとえば圧縮機内に設けられ、冷媒と該冷媒に含まれるオイル(潤滑油)とを分離するオイル分離装置に好適なものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る遠心分離装置によれば、分離室の側壁には周方向に延びる溝が設けられており、遠心力により分離された高密度の流体は、側壁に設けられた溝に捕捉されるので、吐出流体中の高密度の流体の分離効率を向上することができる。また、従来装置に比べ、圧力損失を低減しつつ、装置の小型化、構造の簡素化の要請に対応することができる。
【0012】
上記溝は、たとえば螺旋状、あるいは周方向に延びる複数の溝から形成することができ、このような構成によれば、溝内に捕捉され分離された高密度の流体を、高密度の流体の出口孔に効率よく流入させることができる。また、分離室の上端が蓋により閉塞される構成においては、上記螺旋状の溝は蓋が螺合される溝として利用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1参考態様に係るオイル分離装置が内蔵された圧縮機ハウジングの縦断面図である。
【図2】本発明の第1実施態様に係るオイル分離装置が内蔵された圧縮機ハウジングの正面図である。
【図3】図2の圧縮機ハウジングのIII矢視図である。
【図4】図2の圧縮機ハウジングのIV矢視図である。
【図5】図2の圧縮機ハウジングの拡大断面図である。
【図6】本発明の第2実施態様に係るオイル分離装置が内蔵された圧縮機ハウジングの縦断面図である。
【図7】図6の圧縮機ハウジングのVII−VII線に沿う断面図である。
【図8】本発明の第2参考態様に係るオイル分離装置が内蔵された圧縮機ハウジングの縦断面図である。
【図9】従来のオイル分離装置が内蔵された圧縮機の縦断面図である。
【図10】図9とは別のオイル分離装置の分離パイプの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の遠心分離装置の望ましい実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の実施態様および参考態様においては、本発明に係る遠心分離装置を、とくに車両用空調装置の冷凍回路の圧縮機のオイル分離装置に適用した場合を示している。
図1は、本発明の第1参考態様に係る遠心分離装置としてのオイル分離装置を示している。図1において、1はオイル分離装置を示している。オイル分離装置1は、圧縮機ハウジング2内に一体に形成されている。オイル分離装置1は、流入される吐出流体(冷媒と潤滑用のオイルとの2相流体)を遠心分離により高密度の流体としてのオイルと、低密度の流体としての冷媒とに分離する分離室3を有しており分離室3には圧縮機の吐出室4に吐出された吐出流体が導入される入口孔5が設けられている。なお、入口孔5は、分離室3内に流入される吐出流体が旋回流を形成し易いように、分離室3の中心からオフセットされた位置に開口されている。
【0015】
分離室3の入口孔5よりも上方には分離された冷媒の出口孔6が設けられている。出口孔6から流出された冷媒は、冷凍回路中の熱交換器(図示略)に導入されるようになっている。一方、分離室3の入口孔5よりも下方には分離されたオイルの出口孔7が設けられている。出口孔7から流出されたオイルはオイル戻し通路8を介して圧縮機の圧縮機構側(図示略)に戻されるようになっている。なお、分離室3の底部にはオイル貯留部10が設けられている。
【0016】
分離室3の一部は、図1に示すように、下方側に向かって徐々に拡径される拡径部9に形成されている。
【0017】
本参考態様においては、吐出室4内に吐出されたオイルと冷媒とからなる2相の吐出流体が分離室3内に導入され、該吐出流体に旋回流が付与されることにより、冷媒とオイルとに分離されるようになっている。そして分離された冷媒が出口孔6から流出されるとともに、分離された高密度の流体としてのオイルが出口孔7から流出されるようになっている。
【0018】
また、本参考態様においては、分離室3の一部が、下方側に向かって徐々に拡径される拡径部9に形成されているので、図1に示すように分離室3内に形成される旋回流は下方側に向かって大きくなり吐出流体に作用する遠心力も下方側に向かって徐々に増大する。したがって、吐出流体中のオイルを効率よく分離できる。また、分離室内に分離パイプが挿入される従来装置に比べ、圧力損失を低減することができるとともに、装置の小型化、構造の簡素化の要請に柔軟に対応することができる。また、分離されたオイルは通路8を介して圧縮機構側に戻されるので、圧縮機内の潤滑性を確保できる。また、分離効率が向上されることにより、冷媒中に残存するオイル量が大幅に低減されるので、冷凍回路内のオイル循環を低減することができる。
【0019】
図2〜図5は、本発明の第1実施態様に係る遠心分離装置としてのオイル分離装置を示している。なお、上記第1参考態様と同一の部材には同一の番号を付しその説明を省略する。本実施態様においては、分離室3の側壁には周方向に延びる螺旋状の溝11が設けられている。また、分離室3の上端には該分離室3を閉塞する蓋12が設けられている。蓋12には、螺旋状の溝11に螺合可能なねじ山13が設けられている。
【0020】
本実施態様においては、分離されたオイルは、側壁に設けられた螺旋状溝11に捕捉され効率よく分離される。また、該溝11に捕捉されたオイルは溝11に沿って流れ分離室3の下部に落下する。したがって、従来装置に比べ、圧力損失を低減することができるとともに、装置の小型化、構造の簡素化の要請に柔軟に対応することができる。また、分離されたオイルは通路8を介して圧縮機構側に戻されるので、圧縮機内の潤滑性を確保できる。また、分離効率が向上されることにより、冷媒中に残存するオイル量が大幅に低減されるので、冷凍回路内のオイル循環を低減することができる。
【0021】
図6および図7は、本発明の第2実施態様に係る遠心分離装置としてのオイル分離装置を示している。なお、上記第1参考態様と同一の部材には同一の番号を付しその説明を省略する。本実施態様においては、分離室3が形成される空間14内には円筒体15が挿入(たとえば、圧入)されている。円筒体15の内面には、周方向に延びる溝16が設けられている。また、円筒体15には、軸方向に沿って延びるスリット17が設けられている。本実施態様においては、空間14に円筒体15を挿入することにより側壁に周方向に延びる溝16が形成された分離室3が構成されるようになっている。
【0022】
本実施態様においては、分離されたオイルは、側壁に設けられた溝16に捕捉され効率よく分離される。また、該溝16捕捉されたオイルはスリット17沿って流れ分離室3の下部に落下する。したがって、従来装置に比べ、圧力損失を低減することができるとともに、装置の小型化、構造の簡素化の要請に柔軟に対応することができる。また、分離されたオイルは通路8を介して圧縮機構側に戻されるので、圧縮機内の潤滑性を確保できる。また、分離効率が向上されることにより、冷媒中に残存するオイル量が大幅に低減されるので、冷凍回路内のオイル循環を低減することができる。
【0023】
図8は、本発明の第2参考態様に係る遠心分離装置としてのオイル分離装置を示している。なお、上記第1参考態様と同一の部材には同一の番号を付しその説明を省略する。本参考態様においては、分離室3内には、分離されたオイルに下方向に向かう旋回流を付与するコイルばね18が設けられている。出口孔6には該出口孔6を開閉可能な弁体19が設けられている。弁体19は、出口孔6を開閉する弁部20と分離室3内の内圧を受ける受圧部21とを有している。弁体19はコイルばね18により弁部20が出口孔6を閉じる方向(図8の下方)に付勢されている。一方、分離室3内の吐出流体が流入され分離室3の内圧が上昇すると該内圧が受圧部21に作用し、弁体19はコイルばね18の付勢力に抗して弁部20が出口孔6を開く方向(図8の上方)に移動する。
【0024】
本参考態様においては、分離室3内には、分離されたオイルに下方側に向かう旋回流を付与するコイルばね18が設けられているので、分離されたオイルに確実に下方側に向かう旋回流を付与することができ、オイルを出口孔7に効率よく流入させることができる。また、コイルばね18には、冷媒の出口孔6を開閉する弁体19の駆動機能が付与されているので、弁体19を駆動させるための専用の機構は不要である。したがって、装置の小型化、簡素化を一層促進することができる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明に係る遠心分離装置は、多相流体から密度の異なる流体を分離可能な遠心分離装置として広範な産業分野において利用可能であるが、とくに圧縮機内に設けられ、吐出流体と該吐出流体中に含まれるオイルとを分離するオイル分離装置として好適である。
【符号の説明】
【0026】
1 遠心分離装置としてのオイル分離装置
2 圧縮機ハウジング
3 分離室
4 吐出室
5 入口孔
6 分離された低密度の流体の出口孔
7 分離された高密度の流体の出口孔
8 オイル戻し通路
9 拡径部
10 オイル貯留部
11 螺旋状の溝
12 蓋
13 ねじ山
14 空間
15 円筒体
16 溝
17 スリット
18 コイルばね
19 弁体
20 弁部
21 受圧部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒空間に形成される分離室の側壁に設けられた入口孔から流入される多相流体に旋回流を付与し、高密度の流体と、該高密度の流体より低密度の流体とに分離し、分離された低密度の流体を前記入口孔よりも上方に設けられた出口孔から流出させ、分離された高密度の流体を前記入口孔よりも下方に設けられた出口孔から流出させる遠心分離装置において、前記分離室の側壁に周方向に延びる溝を設けたことを特徴とする遠心分離装置。
【請求項2】
前記溝が螺旋状に形成されている、請求項1に記載の遠心分離装置。
【請求項3】
前記分離室の上端に該分離室を閉塞する蓋が設けられており、該蓋を前記螺旋状に形成された溝に螺合可能に構成した、請求項2に記載の遠心分離装置。
【請求項4】
圧縮機内に設けられる、吐出流体と該吐出流体中に含まれているオイルとを分離するオイル分離装置として構成されている、請求項1〜3のいずれかに記載の遠心分離装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2011−185597(P2011−185597A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−101125(P2011−101125)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【分割の表示】特願2007−170838(P2007−170838)の分割
【原出願日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【出願人】(000001845)サンデン株式会社 (1,791)
【Fターム(参考)】