説明

遠心圧縮機

【課題】遠心圧縮機に関し、遠心圧縮機の停止時に、外気やインペラ側の冷媒がハウジング内に流れ込むことを効果的に防止する。
【解決手段】回転軸21を収容するハウジング22と、回転軸22を軸封する回転軸シール部30と、ハウジング22内に潤滑油を供給する潤滑油供給手段62,64と、ハウジング22内から潤滑油を排出する潤滑油排出手段61とを有する遠心圧縮機1であって、遠心圧縮機1の停止時に、潤滑油排出手段61は潤滑油の排出を中止するとともに、潤滑油供給手段62,64はハウジング22内が潤滑油で満たされるまで潤滑油を供給するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心圧縮機に関し、特にヒートポンプの圧縮機として用いられる遠心圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
遠心圧縮機は、インペラを高速回転させることにより、インペラの外周部に気体を吐き出し、当該気体に圧力を付与するものである。遠心圧縮機をヒートポンプや化学プラント等に用いる場合、遠心圧縮機では気相のプロセス流体等(以下、冷媒という)を圧縮することになる。
【0003】
遠心圧縮機では、インペラを高速回転(例えば30000rpm)させる必要があるので、その軸封構造としては、接触式のものを用いることはできず、非接触式のものが一般に用いられている。遠心圧縮機の軸封構造に用いられる非接触式のシールとしては、ドライガスシールが一般に知られている。
【0004】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献としては、次のものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3061226号公報
【特許文献2】特開2009−180229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、遠心圧縮機をヒートポンプの圧縮機として用いた場合、遠心圧縮機の運転中は、冷媒が圧縮されることでヒートポンプのループ側(以下、インペラ側という)は遠心圧縮機のギヤボックス内よりも高温・高圧になる。また、遠心圧縮機のギヤボックス内の温度はインペラ回転軸やギヤの回転駆動により常温よりも高い状態となる。したがって、遠心圧縮機の運転中は、ギヤボックス内に用いられているパッキン等のシール材に不具合があっても、ギヤボックス外の空気がギヤボックス内に流れ込み、さらにインペラ側へと流れ出る可能性は低い。
【0007】
しかし、遠心圧縮機の停止直後は、ギヤボックス内の温度が急激に低下するのでギヤボックス内は低圧になる。特に蒸気を生成する様な高温ヒートポンプに低圧冷媒を使用する場合には、ギヤボックス内は大気圧以下の負圧になる。そのため、ギヤボックス内に用いられているパッキン等のシール材に不具合があると、係る不具合箇所から負圧側のギヤボックス内に空気が流れ込む場合がある。そして、ギヤボックス内に空気が混入すると、空気中に含有される水分によりギヤボックス内のギヤや回転軸に錆びが生じる可能性がある。
【0008】
また、遠心圧縮機の停止直後は、インペラ側がギヤボックス内よりも高温・高圧になる。そのため、軸封構造に非接触式のシールを用いているので、インペラ側の冷媒が軸シールの隙間等から低圧側のギヤボックス内へと流れ込む場合がある。ヒートポンプに用いる冷媒には、潤滑油に非常によく相溶するものがあり、このような冷媒がギヤボックス内に流れ込むと、冷媒が潤滑油に過度に溶解して潤滑油の劣化を招く可能性がある。
【0009】
さらに、ヒートポンプに用いる冷媒には、シールに用いられるエラストマ材への侵食性が高いものもあり、このような冷媒がギヤボックス内に流れ込むと、ギヤボックス内に用いられているパッキンなどのシール材が劣化し、不具合が発生する可能性もある。
【0010】
本発明はこのような点に鑑みてなされたもので、その目的は、遠心圧縮機の停止時に、ギヤボックス外の空気やインペラ側の冷媒がギヤボックス内に流れ込むことを効果的に防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の遠心圧縮機は、一端にインペラが取り付けられるとともに、他端にギヤが取り付けられる回転軸と、前記回転軸のギヤ取り付け側を収容するハウジングと、前記ハウジングに設けられ前記回転軸を軸封する回転軸シール部と、前記回転軸シール部よりもギヤ側の前記ハウジング内に潤滑油を供給する潤滑油供給手段と、前記回転軸シール部よりもギヤ側の前記ハウジング内から潤滑油を排出する潤滑油排出手段と、を有する遠心圧縮機であって、前記遠心圧縮機の停止時に、前記潤滑油排出手段は潤滑油の排出を中止するとともに、前記潤滑油供給手段は前記回転軸シール部よりもギヤ側の前記ハウジング内が潤滑油で満たされるまで潤滑油を供給することを特徴とする。
【0012】
また、前記回転軸シール部は、非接触式シールと、前記回転軸の停止時に前記回転軸に接触して軸封する停止時接触シール機構とを有するものとする。
【0013】
また、前記潤滑油排出手段は、前記遠心圧縮機の停止時に前記潤滑油供給手段によりに供給された潤滑油を、前記遠心圧縮機の始動時に排出するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の遠心圧縮機によれば、遠心圧縮機の停止時に、ギヤボックス外の空気やインペラ側の冷媒がギヤボックス内に流れ込むことを効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る遠心圧縮機を示す模式的な部分断面図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る遠心圧縮機の制御内容を示すフローチャートである。
【図4】本発明の一実施形態に係る停止時接触シール機構を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図1〜4に基づいて、本発明の一実施形態に係る遠心圧縮機を説明する。同一の部品には同一の符号を付してあり、それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0017】
本発明の一実施形態に係る遠心圧縮機1は、例えば100℃〜150℃の熱源を150℃〜180℃に昇温して熱交換(放熱)する高温ヒートポンプの遠心圧縮機として用いられるもので、図1に示すように、インペラハウジング部10と、ギヤボックス部20と、インペラ回転軸シール部(回転軸シール部)30と、回転数検出センサ50と、潤滑油循環ライン60(図2参照)と、バッファ収容部70(図2参照)と、制御部80とを有する。
【0018】
なお、本実施形態において、遠心圧縮機1は高温ヒートポンプに適用されるものとして説明するが、例えば、冷凍機など遠心圧縮機で冷媒を圧縮するあらゆる型式のヒートポンプにも広く適用することができる。
【0019】
インペラハウジング部10は、図1に示すように、複数の羽根(不図示)が設けられたインペラ11と、インペラハウジング12とを有する。
【0020】
インペラハウジング12は、図1に示すように、高温ヒートポンプの蒸発器(不図示)から冷媒を取り入れる吸入口部13と、インペラ11を収容するインペラ収容部14と、インペラ収容部14に接続された環状のディフューザ流路15と、ディフューザ流路15の外周縁部に接続されたスクロール流路16とを有する。
【0021】
インペラ11は、図1に示すように、インペラ回転軸21の端部に取り付けられている。そして、インペラ11は、後述するモータ25の駆動力によりインペラ回転軸21と一体に回転されることで冷媒を径方向の外方へと吐出する。
【0022】
吸入口部13は、図1に示すように、インペラハウジング12の上流側にインペラ11と同軸上に位置して設けられている。また、吸入口部13は、上流側から下流側に向かって開口面積が次第に小さくなるように形成されている。
【0023】
インペラ収容部14は、インペラ11を収容するように、上流側から下流側に向かって開口面積が次第に大きくなるように形成されている。また、インペラ収容部14の上流側は吸入口部13と連通する。
【0024】
環状のディフューザ流路15は、インペラハウジング12の下流側にインペラ収容部14を取り囲むように形成されている。また、ディフューザ流路15の外周縁部には、冷媒を高温ヒートポンプの凝縮器(不図示)へと吐出するスクロール流路16が接続されている。
【0025】
すなわち、インペラハウジング部10は、インペラ11の回転により、高温ヒートポンプの蒸発器から吸入口部13を介して取り入れた冷媒を、ディフューザ流路15からスクロール流路16へと吐出することで圧縮(昇温・昇圧)するように構成されている。
【0026】
ギヤボックス部20は、図1に示すように、インペラ回転軸(回転軸)21と、インペラ回転軸21を収容するハウジング22と、ハウジング22の内側に設けられた一対の軸受23,24と、ハウジング22の側部に取り付けられたモータ25と、インペラ回転軸21に嵌装された従動軸ギヤ27と、モータ駆動軸26に嵌装された駆動ギヤ28と、モータ駆動軸26を軸封するモータ軸シール29とを有する。
【0027】
インペラ回転軸21は、図1に示すように、一対の軸受23,24によってハウジング22内に回転自在に軸支されている。また、一対の軸受23,24の間に位置するインペラ回転軸21には、駆動ギヤ28と噛合する従動軸ギヤ27が嵌装されている。また、軸受23とインペラ11との間に位置するインペラ回転軸21の周面には、後述する非接触式シール31の一部を構成する回転環32を取り付ける突起部21bが形成されている。さらに、突起部21bと軸受23との間に位置するインペラ回転軸21の周面には、後述する停止時接触シール機構40の一部を構成する環状フランジ21a(図4参照)が形成されている。
【0028】
モータ25のモータ駆動軸26は、図1に示すように、ハウジング22の側部から挿通され、図示しない軸受によって回転自在に軸支されている。また、モータ駆動軸26には、従動軸ギヤ27よりも大径に形成された駆動ギヤ28が嵌装されている。また、モータ駆動軸26が挿通されるハウジング22の側部には、モータ駆動軸26を軸封するモータ軸シール29が設けられている。
【0029】
インペラ回転軸シール部30は、図1に示すように、非接触式シール31と、停止時接触シール機構40とを含んで構成されている。
【0030】
非接触式シール31は、図1に示すように、インペラ11の背面に隣接するハウジング22内に設けられている。また、非接触式シール31は、インペラ回転軸21側に設けられた回転環32とハウジング22側に設けられた固定環33とを有する。
【0031】
回転環32は、突起部21bを介してインペラ回転軸21に固定されている。一方、固定環33は、ハウジング22の内側に形成された取付部20bに図示しないコイルバネを介して軸方向に移動可能に取り付けられている。また、固定環33と対向する回転環32の側面には、図示しない複数のスパイラル溝が設けられている。
【0032】
すなわち、非接触式シール31は、回転環32がインペラ回転軸21と一体に回転すると、複数のスパイラル溝により回転環32と固定環33との間に動圧が作用してインペラ回転軸21を軸封するように構成されている。この動圧は、コイルバネの付勢力に抗して固定環33を回転環32から離間させる。一方、インペラ回転軸21の停止時は、回転環32と固定環33とはコイルバネの付勢力により接触する。この接触した状態で、回転環32と固定環33との間にはスパイラル溝による僅かな隙間が存在する。
【0033】
停止時接触シール機構40は、図4(a),(b)に示すように、円筒の中空部を有するシール本体41と、環状の弁体42と、スプリング43と、押さえ板44とを有する。
【0034】
シール本体41は、図4(a),(b)に示すように、中空部にインペラ回転軸21を挿通した状態で、非接触式シール31と軸受23との間のハウジング22内に嵌装されている。また、非接触式シール31側(図中X方向側)に位置するシール本体41の内周面の一端部には、環状フランジ21aの頂部に向けて径方向の内方に突出する環状突起41aが設けられている。この環状突起41aの頂部と環状フランジ21aの頂部との間には、環状空間45が形成されている。
【0035】
一方、軸受23側(図中Y方向側)に位置するシール本体41の内周面の他端部には、インペラ回転軸21に向けて径方向の内方に突出する支持突起41bが設けられている。この支持突起41bの側部には、スプリング43の一端が係止されている。
【0036】
また、シール本体41の内部には、図4(a),(b)に示すように、インペラ回転軸21の軸方向(図中X−Y方向)に延びる環状スロット41cが形成されている。この環状スロット41cには、後述する押さえ板44の外周側部44bが摺動可能に挿入される。さらに、環状スロット41cに隣接するシール本体41の内部には、後述する制御部80によって励磁・消磁をコントロールされる電磁石46が設けられている。
【0037】
環状の弁体42は、図4(a),(b)に示すように、インペラ回転軸21を遊挿した状態で、シール本体41の中空部に摺動自在に収容されている。また、支持突起41bの側部と対向する弁体42の環状側部には、スプリング43の他端が係止されている。すなわち、弁体42は、弁体42と支持突起41bとの間に設けられたスプリング43により、環状フランジ21aと環状突起41aとに向けて付勢されている。
【0038】
また、図4(a),(b)に示すように、環状フランジ21aの側部と対向する弁体42の環状側部には、弁体42と環状フランジ21aとの間の接触面をシールするリング状の内側シール部材48が設けられている。さらに、環状突起41aの側部と対向する弁体42の環状側部には、弁体42と環状突起41aとの間の接触面をシールするリング状の外側シール部材47が設けられている。すなわち、環状空間45は、弁体42がスプリング43の付勢力により環状フランジ21aと環状突起41aとに接触し、かつ外側シール部材47と内側シール部材48とが接触面をシールすることで閉鎖されるように構成されている(図4(b)参照)。
【0039】
押さえ板44は、図4(a),(b)に示すように、環状側部44aと、環状側部44aの外周縁から軸方向に延設された外周側部44bと、環状側部44aの内周縁から軸方向に延設された内周側部44cとを有する。また、外周側部44bは環状スロット41cに摺動可能に挿入され、内周側部44cは環状空間45に挿通されている。そして、押さえ板44は、電磁石46が励磁されると、支持突起41b側(図中Y方向)へと移動する。
【0040】
すなわち、停止時接触シール機構40は、電磁石46が励磁されると、押さえ板44がスプリング43の付勢力に抗して弁体42を支持突起41b側(図中Y方向)へと押動することで、環状空間45を開放するように構成されている(図4(a)参照)。この時、弁体42と内側シール部材48とは、環状フランジ21aから離間されるので、停止時接触シール機構40とインペラ回転軸21とは非接触状態となる。
【0041】
一方、停止時接触シール機構40は、電磁石46が消磁されると、押さえ板44による弁体42の押動を解除するとともに、弁体42をスプリング43の付勢力により環状突起41a側(図中X方向側)へと移動させる。そして、弁体42が環状フランジ21aと環状突起41aとに接触し、かつ外側シール部材47と内側シール部材48とが接触面をシールして環状空間45を閉鎖することで、インペラ回転軸21を軸封するように構成されている(図4(b)参照)。
【0042】
回転数検出センサ50は、図1に示すように、非接触式シール31と停止時接触シール機構40との間のハウジング22に設けられている。この回転数検出センサ50は、インペラ回転軸21の回転数を検出して後述する制御部80に出力するもので、制御部80と電気配線を介して接続されている。なお、運転状態検出手段として、回転数検出センサ50に替えて、固定環33の回転環32に対する位置を検出する固定環位置検出センサ(不図示)を適用してもよい。
【0043】
潤滑油循環ライン60は、図2に示すように、上流側から順に二方弁61と、潤滑油容器62と、油冷却器63と、潤滑油ポンプ64とを有する。本実施形態において、潤滑油容器62と潤滑油ポンプ64とは本発明の潤滑油供給手段を構成する。また、二方弁61は本発明の潤滑油排出手段を構成する。
【0044】
潤滑油容器62は潤滑油を貯留するもので、図2に示すように、ハウジング22の底部に接続された第1配管65を介してハウジング22内と連通する。また、第1配管65には二方弁61が介装されている。この二方弁61は、後述する制御部80によって開弁・閉弁をコントロールされている。
【0045】
油冷却器63は潤滑油を冷却するもので、図2に示すように、潤滑油容器62と第2配管66を介して接続されている。また、油冷却器63には、図示しない冷却水供給ラインが接続されており、系外から供給される冷却水で潤滑油容器62から送出される潤滑油を熱交換して冷却するように構成されている。
【0046】
潤滑油ポンプ64は、図2に示すように、第3配管67を介して油冷却器63と接続されている。また、潤滑油ポンプ64は、第4配管68を介してハウジング22と接続されている。この第4配管68の下流端は、従動軸ギヤ27と駆動ギヤ28との噛合部の上方に位置するハウジング22に設けられた吸入孔22cに接続されている。また、潤滑油ポンプ64は、後述する制御部80によって稼働・停止をコントロールされている。
【0047】
すなわち、潤滑油供給ライン60は、遠心圧縮機1の運転中には、二方弁61が開弁されると共に潤滑油ポンプ63が稼働されることで、従動軸ギヤ27と駆動ギヤ28との噛合部に向かって、吸入孔22cの先に設置された循環油噴射ノズル(不図示)を介して潤滑油を常に供給するように構成されている。
【0048】
一方、遠心圧縮機1の停止中には、二方弁61が閉弁されると共に、後述するレベルセンサ73の検出値が上限閾値に達するまで潤滑油ポンプ64が稼働されることで、ハウジング22内が潤滑油で満たされるように構成されている。なお、レベルセンサ73の検出値が上限閾値を超えると、潤滑油ポンプ64の稼働は停止される。
【0049】
バッファ収容部70は、図2に示すように、ハウジング22の上方に設けられたバッファ容器71と、バッファ容器71とハウジング22内とを連通する接続管72と、接続管72に設けられたレベルセンサ73とを有する。
【0050】
バッファ容器71は、潤滑油供給ライン60からハウジング22内に潤滑油が供給された際に、ハウジング22内から押し出される気体を収容するものである。なお、ここでいう気体とは、遠心圧縮機1の運転時に、ハウジング22内にある潤滑油と共存する冷媒ガスをいう。
【0051】
レベルセンサ73は、ハウジング22内に供給されて貯留される潤滑油の液位を検出するもので、後述する制御部80に電気配線を介して接続されている。
【0052】
制御部80は、公知のCPUやROM、RAM、入力ポート、出力ポート等を備え構成されている。また、制御部80には、回転数検出センサ50とレベルセンサ73との出力信号がA/D変換された後に入力される。また、制御部80は、図1に示すように、運転状態判定部81と、電磁石制御部82と、二方弁制御部83と、潤滑油ポンプ制御部84とを一部の機能要素として有する。
【0053】
運転状態判定部81は、圧縮機起動スタンバイ信号と回転数検出センサ50の出力値とに基づいて、遠心圧縮機1の運転状態を判定する。具体的には、回転数検出センサ50の出力値(以下、回転数Nともいう)が0(ゼロ)よりも大きい時は、遠心圧縮機1の運転状態を運転中と判定する。一方、回転数検出センサ50の出力値(回転数N)が0(ゼロ)の時は、遠心圧縮機1の運転状態を停止中と判定する。
【0054】
なお、回転数検出センサ50に替えて固定環位置検出センサを用いる場合は、回転環32と固定環33とが接触状態の時に遠心圧縮機1の運転状態を停止中と判定し、回転環32と固定環33とが離間する非接触状態の時に遠心圧縮機1の運転状態を運転中と判定すればよい。
【0055】
電磁石制御部82は、運転状態判定部81の判定結果に応じて、電磁石46の励磁・消磁をコントロールする。具体的には、遠心圧縮機1の運転状態が運転中と判定された場合は、電磁石制御部82は電磁石46を励磁する制御信号を出力する。すなわち、電磁石46が通電されることで、弁体42は押さえ板44によって支持突起部41b側へと押動される。そして、弁体42が環状フランジ21aと環状突起41aとから離間することで、インペラ回転軸21の軸封は開放される(図4(a)参照)。
【0056】
一方、遠心圧縮機1の運転状態が停止中と判定された場合は、電磁石制御部82は電磁石46を消磁する制御信号を出力する。すなわち、電磁石46が消磁されることで、押さえ板44による弁体42の押動は解除される。そして、弁体42が環状フランジ21aと環状突起41aとに接触し、かつ外側シール部材47と内側シール部材48とが接触面をシールして環状空間45を閉鎖することで、インペラ回転軸21は軸封される(図4(b)参照)。
【0057】
二方弁制御部83は、運転状態判定部81の判定結果に応じて二方弁61の開弁・閉弁をコントロールする。具体的には、遠心圧縮機1の運転状態が運転中と判定された場合は、二方弁制御部83は二方弁61を開弁する制御信号を出力する。一方、遠心圧縮機1の運転状態が停止中と判定された場合は、二方弁61を閉弁する制御信号を出力する。
【0058】
潤滑油ポンプ制御部84は、レベルセンサ73の検出値に応じて潤滑油ポンプ64の稼働をコントロールする。具体的には、潤滑油ポンプ制御部84は、遠心圧縮機1の運転中は潤滑油ポンプ64を稼働させる制御信号を出力する。また、潤滑油ポンプ制御部84は、遠心圧縮機1の停止中において、レベルセンサ73の検出値が上限閾値に達するまでは潤滑油ポンプ64を稼働させる制御信号を出力する。一方、遠心圧縮機1の停止中において、レベルセンサ73の検出値が上限閾値を超えると潤滑油ポンプ64の稼働を停止させる制御信号を出力する。なお、本実施形態において、上限閾値はハウジング22内が潤滑油で満たされる液位に設定されている。
【0059】
本発明の一実施形態に係る遠心圧縮機1は、以上のように構成されているので、例えば図3に示すフローに従って以下のような制御が行われる。なお、本制御はヒートポンプの起動スタンバイと同時にスタートする。また、本制御のスタートと同時に潤滑油ポンプ64は稼働状態に制御される。
【0060】
ステップ(以下、ステップを単にSと記載する)90では、圧縮機起動スタンバイ信号に基づいて遠心圧縮機1の起動判定が実施される。遠心圧縮機1が起動していないと判定された場合は、S100で運転状態判定部81に、回転数検出センサ50によって検出されたインペラ回転軸21の回転数Nが読み込まれる。なお、固定環位置検出センサを用いる場合は、固定環33の回転環32に対する位置L1が検出されて読み込まれる。一方、遠心圧縮機1が起動していると判定された場合はS200へと進む。
【0061】
S110では、運転状態判定部81によって、遠心圧縮機1の運転状態が確認される。S100で読み込まれた回転数Nが0(ゼロ)の場合(N=0)は、遠心圧縮機1の運転状態を停止中と判定してS120へと進む。一方、S100で読み込まれた回転数Nが0(ゼロ)よりも大きい場合(N>0)は、遠心圧縮機1の運転状態を運転中と判定してS200へと進む。
【0062】
なお、固定環位置検出センサを用いる場合は、固定環33の回転環32に対する変位量L2を算出すべく、回転環32と固定環33との初期状態の最大距離L0からS100で読み込まれた固定環33の位置L1が減算される(L2=L0−L1)。そして、変位量L2が0(ゼロ)の場合は、遠心圧縮機1の運転状態を停止中と判定する。一方、変位量L2が0(ゼロ)よりも大きい場合は、遠心圧縮機1の運転状態を運転中と判定する。
【0063】
S120では、S110で遠心圧縮機1の運転状態が停止中と判定されたことを受けて、電磁石制御部82により電磁石46が消磁される。すなわち、押さえ板44による弁体42の押動が解除され、弁体42が環状フランジ21aと環状突起41aとに接触し、かつ外側シール部材47と内側シール部材48とが接触面をシールして、インペラ回転軸21は軸封される。
【0064】
S130では、二方弁制御部83により二方弁61が閉弁される。すなわち、潤滑油ポンプ64により、潤滑油容器62から汲み上げられ油冷却器63で冷却された潤滑油がハウジング22内に貯留される。この時、ハウジング22内に潤滑油と共存していた気体は、バッファ容器71へと押し出される。
【0065】
S140では、潤滑油ポンプ制御部84によって、レベルセンサ73の検出値、すなわちハウジング22内の潤滑油の液位が上限閾値を超えたか否かが確認される。液位が上限閾値を超えた場合は、S150で潤滑油ポンプ64の稼働を停止して本制御はリターンされる。一方、液位が上限閾値を超えない場合は、S160に進んで潤滑油ポンプ64の稼働が継続される。
【0066】
S160で潤滑油ポンプ64の稼働が継続されると、S170で再びハウジング22内の潤滑油の液位が上限閾値を超えたか否かが確認される。潤滑油の液位が上限閾値を超えている場合は、S180で潤滑油ポンプ64の稼働を停止して本制御はリターンされる。一方、潤滑油の液位が依然として上限閾値を超えていない場合は、潤滑油ポンプ64の稼働を継続すべくS160へと戻される。その後、S160とS170とは潤滑油の液位が上限閾値を超えるまで繰り返えされる。
【0067】
一方、前述のS90およびS110で、遠心圧縮機1が起動中もしくは運転中と判定された場合はS200へと進む。
【0068】
S200では、遠心圧縮機1が運転中と判定されたことを受けて、電磁石制御部82により電磁石46が励磁される。すなわち、押さえ板44が弁体42を押動し、弁体42は環状フランジ21aと環状突起41aとから離間される。
【0069】
S210では、二方弁制御部83により二方弁61が開弁されるとともに、S220では、潤滑油ポンプ制御部84により潤滑油ポンプ64の稼働が継続される。すなわち、潤滑油循環ライン60により、従動軸ギヤ27と駆動ギヤ28との噛合部に潤滑油が常に供給される状態が維持されて本制御はリターンされる。
【0070】
なお、事前に遠心圧縮機1が停止していてハウジング22内が潤滑油で満たされた状態で、その後に遠心圧縮機1の運転を再開(始動)する場合は、ハウジング22内の潤滑油はS210で二方弁61が開弁されることで第1配管65を介して潤滑油容器62に回収(排出)される。このように、ハウジング22内を満たしていた潤滑油を遠心圧縮機1の始動時に回収(排出)することで、係る潤滑油が従動軸ギヤ27や駆動ギヤ28の負荷となることを回避できる。
【0071】
上述のような構成により、本発明の一実施形態に係る遠心圧縮機1によれば以下のような作用・効果を奏する。
【0072】
遠心圧縮機1の停止時、すなわちインペラ回転軸21の回転数Nが0(ゼロ)になると、停止時接触シール機構40によりインペラ回転軸21が軸封され、かつ二方弁61が閉弁される。そして、レベルセンサ73の検出値が上限閾値を超えるまで、すなわちハウジング22内が潤滑油で満たされる液位になるまで、潤滑油ポンプ64の稼働が継続されて、ハウジング22内に潤滑油が貯留される。
【0073】
したがって、遠心圧縮機1の停止時に負圧となるハウジング22内が潤滑油で満たされた状態とるので、ハウジング22内に用いられているパッキン等のシール材(モータ軸シール29等)に不具合が生じた場合においても、ハウジング22外の空気がハウジング22内に流れ込むことを確実に防止することができる。当然ながら、ハウジング22内への空気の混入が防止されるので、空気中に含まれる水分により従動軸ギヤ27や駆動ギヤ28等が錆びることも効果的に抑制される。
【0074】
また、遠心圧縮機1の停止時には、停止時接触シール機構40の弁体42が環状フランジ21aと環状突起41aとに接触し、かつ外側シール部材47と内側シール部材48とが接触面をシールして環状空間45を閉鎖することで、インペラ回転軸21が軸封される。さらに、停止時接触シール機構40よりも内側のハウジング22内は潤滑油で満たされた状態となる。
【0075】
したがって、遠心圧縮機1の停止時に、冷媒が回転環32と固定環33との間の僅かな隙間から負圧側のハウジング22内に流れ込むことを確実に防止できるとともに、冷媒の溶け込みによる潤滑油の劣化も効果的に抑制することができる。
【0076】
また、遠心圧縮機1の停止時にハウジング22内に貯留された潤滑油は、遠心圧縮機1の始動時に二方弁61が開弁されることで、第1配管65を介して潤滑油容器62に回収(排出)される。
【0077】
したがって、遠心圧縮機1の停止時にハウジング22内に貯留された潤滑油が、遠心圧縮機1の運転時に従動軸ギヤ27や駆動ギヤ28に対して負荷となることを確実に回避することができる。
【0078】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変形して実施することが可能である。
【0079】
上述の実施形態において、本発明はインペラ回転軸シール部30に非接触式シール31と停止時接触シール機構40とを有するものとして説明したが、例えば、回転軸シール部30にラビリンスシール等を有する遠心圧縮機にも適用することができる。この場合も上述の実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0080】
また、上限閾値はハウジング22内が潤滑油で満たされる液位に設定されるものとして説明したが、例えば、この上限閾値をモータ駆動軸26が潤滑油に浸かる液位に設定してもよい。この場合も、モータ軸シール29に不具合が生じた際に、係る不具合箇所から空気がハウジング22内に流れ込むことを効果的に防止することができる。
【0081】
また、遠心圧縮機1の停止時にハウジング22内に貯留された潤滑油は、遠心圧縮機1の始動時に潤滑油循環ライン60の潤滑油容器62へと回収されるものとして説明したが、係る潤滑油を必ずしも循環させる必要はなく、系外に排出する構成であってもよい。
【0082】
また、停止時接触シール機構40の外側シール部材47と内側シール部材48とは、弁体42の環状側部に設けられるものとして説明したが、内側シール部材48を環状フランジ21aの側部に設け、外側シール部材47を環状突起41aの側部に設けてもよい。
【0083】
また、停止時接触シール機構40のスプリング43は、弁体42を付勢するものであれば板バネや油圧シリンダであってもよい。
【符号の説明】
【0084】
1 遠心圧縮機
11 インペラ
22 ハウジング(ギヤボックス)
21 インペラ回転軸(回転軸)
30 インペラ回転軸シール部(回転軸シール部)
31 非接触式シール
40 停止時接触シール機構
61 二方弁(潤滑油排出手段)
62 潤滑油容器(潤滑油供給手段)
64 潤滑油ポンプ(潤滑油供給手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端にインペラが取り付けられるとともに、他端にギヤが取り付けられる回転軸と、前記回転軸のギヤ取り付け側を収容するハウジングと、前記ハウジングに設けられ前記回転軸を軸封する回転軸シール部と、前記回転軸シール部よりもギヤ側の前記ハウジング内に潤滑油を供給する潤滑油供給手段と、前記回転軸シール部よりもギヤ側の前記ハウジング内から潤滑油を排出する潤滑油排出手段と、を有する遠心圧縮機であって、
前記遠心圧縮機の停止時に、
前記潤滑油排出手段は潤滑油の排出を中止するとともに、
前記潤滑油供給手段は前記回転軸シール部よりもギヤ側の前記ハウジング内が潤滑油で満たされるまで潤滑油を供給する
ことを特徴とする遠心圧縮機。
【請求項2】
前記回転軸シール部は、
非接触式シールと、前記回転軸の停止時に前記回転軸に接触して軸封する停止時接触シール機構と、を有する
ことを特徴とする請求項1記載の遠心圧縮機。
【請求項3】
前記潤滑油排出手段は、前記遠心圧縮機の停止時に前記潤滑油供給手段によりに供給された潤滑油を、前記遠心圧縮機の始動時に排出する
ことを特徴とする請求項1又は2記載の遠心圧縮機。

【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−132374(P2012−132374A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−285730(P2010−285730)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】