説明

遠心圧縮機

【課題】低圧力比、低流量でのサージング抑制作用を有する遠心圧縮機を提供する。
【解決手段】インペラ6と、該インペラを回転自在に収納するケーシング2とを有し、該ケーシングには前記インペラを収納するインペラ収納室4と、該インペラ収納室の周囲に形成された環洞流路8と、該環洞流路に連通する流体吐出口9と、前記ケーシングと同心に形成され、前記インペラ収納室に連通する吸入空気導入部12とが形成され、前記インペラ収納室入口の上流側に絞り部11を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮性流体を昇圧する遠心圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
圧縮性流体を昇圧する遠心圧縮機の作動領域を制限するものとして、低流量時に於ける流体の逆流によるサージングの発生がある。サージングが発生すると遠心圧縮機の運転が不能になるので、サージングの発生を抑制することが遠心圧縮機の作動領域拡大につながる。
【0003】
遠心圧縮機は、高速で回転するインペラと、インペラを収納し、インペラの周囲にスクロール流路を形成するケーシングを有しており、該ケーシングは非軸対称の形状を有している。この非軸対称性の影響により、流体がインペラより流出するインペラの出口圧力は均一ではなく、インペラの周縁の周方向で圧力分布が生じる。
【0004】
このインペラ出口の圧力分布は、インペラの入口迄伝播し、インペラの入口も周方向に圧力分布を有する。又、サージングの発生限界値が決定される要因の1つにインペラの出口の圧力があり、インペラの出口の圧力が所定値を超えるとサージングが発生する。従って、現状では、遠心圧縮機の流量を減少させた場合、インペラの出口の圧力が高い部分で最初にサージングが発生すると考えられる。
【0005】
尚、サージングの発生を抑制する手段の1つとしてケーシングトリートメントがあり、特許文献1に示される遠心圧縮機はケーシングトリートメントにより、サージング抑制による遠心圧縮機の作動領域拡大を図っている。
【0006】
ケーシングトリートメントによるサージング抑制は、圧力比の高い場合に効果があるが圧力比が低くなるとサージング抑制効果も少なくなる。一方現在では、遠心圧縮機のより広い作動領域での使用が求められており、この為、低圧力比、低流量でのサージング抑制が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−257177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は斯かる実情に鑑み、低圧力比、低流量でのサージング抑制作用を有する遠心圧縮機を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、インペラと、該インペラを回転自在に収納するケーシングとを有し、該ケーシングには前記インペラを収納するインペラ収納室と、該インペラ収納室の周囲に形成された環洞流路と、該環洞流路に連通する流体吐出口と、前記ケーシングと同心に形成され、前記インペラ収納室に連通する吸入空気導入部とが形成され、前記インペラ収納室入口の上流側に絞り部を形成した遠心圧縮機に係るものである。
【0010】
又本発明は、前記絞り部の外周側に、該絞り部をバイパスし、該絞り部の上流側と下流側とを連通させる二次流路を設け、該二次流路に該二次流路を開閉する弁体が設けられ、該弁体は開閉手段によって開閉される遠心圧縮機に係るものである。
【0011】
又本発明は、前記二次流路は円筒状の空間であり、前記二次流路の少なくとも一部は内周面、外周面が同心の球面で構成された球状流路であり、前記内周面、前記外周面の曲率中心は前記ケーシングの中心線上で合致し、前記弁体は円周方向に所定数前記球状流路に設けられると共に前記曲率中心を通過する軸心を中心に回転可能であり、前記弁体は前記中心線と平行な状態で、前記二次流路を全開し、全開から略90°回転した状態で前記二次流路を全閉する遠心圧縮機に係るものである。
【0012】
又本発明は、流体の圧力比、流量に応じて、前記弁体の開度を設定する遠心圧縮機に係るものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、インペラと、該インペラを回転自在に収納するケーシングとを有し、該ケーシングには前記インペラを収納するインペラ収納室と、該インペラ収納室の周囲に形成された環洞流路と、該環洞流路に連通する流体吐出口と、前記ケーシングと同心に形成され、前記インペラ収納室に連通する吸入空気導入部とが形成され、前記インペラ収納室入口の上流側に絞り部を形成したので、低圧力比、低流量で前記絞り部がインペラ入口部で生じた逆流現象が上流側に波及することを抑止し、遠心圧縮機の作動領域の拡大が図れるという優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施例に係る遠心圧縮機の半断面図である。
【図2】遠心圧縮機の作動特性を示すグラフである。
【図3】(A)(B)は、本実施例の作動を示す模式図であり、(A)は従来例、(B)は本実施例を示す。
【図4】(A)は本発明の第2の実施例に係る遠心圧縮機の半断面図、(B)は図4のA矢視図である。
【図5】(A)(B)は、第2の実施例の作動を示す模式図であり、(A)は二次流路を全閉した状態、(B)は全開した状態を示す。
【図6】(A)(B)は、本発明の実施例と従来例との作動の比較を示しており、(A)は第1の実施例と従来例との比較、(B)は第2の実施例と従来例との比較を示している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施例を説明する。
【0016】
先ず、図1に於いて、本発明の第1の実施例に係る遠心圧縮機1について説明する。
【0017】
図1中、2はケーシング、3は該ケーシング2の中心線を示している。前記ケーシング2はインペラ収納室4と前記中心線3と同心上に設けられた吸入口5とを有し、前記インペラ収納室4にはインペラ6が収納され、該インペラ6は回転軸7を介して回転自在に支持されている。又、前記インペラ6の周囲には環洞流路8が形成され、該環洞流路8と前記インペラ収納室4とはディフューザ流路9によって連通されている。
【0018】
前記インペラ収納室4の上流側(図1中左側)には、中心に向って壁面を隆起させて縮径した絞り部11が形成され、該絞り部11の直径D1は、前記インペラ収納室4の入口の直径D2より小さくなっている。又、前記絞り部11から上流側に向って漸次拡径し、吸入空気導入部12(直径D3)に至り、更に前記吸入口5へと連続している。ここで、D1<D2<D3となっている。
【0019】
前記遠心圧縮機1は前記回転軸7を介して排気タービン等に連結され、排気タービンは内燃機関の排気ガスによって駆動される。排気タービンの駆動により、前記回転軸7を介して前記インペラ6が回転され、前記吸入口5より空気が吸引され、吸引された空気は前記インペラ6内に吸引されると共に該インペラ6の回転による遠心力で圧縮され、前記ディフューザ流路9、前記環洞流路8を経て図示しない吐出口より吐出される。
【0020】
又、吸引された空気は、前記インペラ6に吸引される前に前記絞り部11を通過することで絞られる。該絞り部11は、遠心圧縮機1の吐出量が減少した場合に発生する、前記インペラ6入口部で発生する逆流現象が上流に波及するのを抑止する。
【0021】
図2は、前記遠心圧縮機1の作動領域を、圧力比と流量との関係で示したものであり、図中、各曲線A〜Dは圧力比の小さい場合から大きい場合の動作特性曲線を示しており、圧力比はA<B<C<Dとなっている。本実施例では、圧力比の小さい場合でのサージングの発生を抑制する。
【0022】
以下、第1の実施例の作用について、従来との比較により説明する。
【0023】
図3(A)(B)は、図1で示される前記吸入空気導入部12から前記ディフューザ流路9に至る流体流路を模式的に示したものであり、図3(A)は従来の絞り部11が形成されていないもの、図3(B)は第1の実施例の遠心圧縮機であり、絞り部11が形成されたものである。尚、図3(A)(B)中、破線は流体の流れを示している。
【0024】
図3(A)に示される様に、サージングが発生する直前では、前記インペラ6の入口部に局部的な高圧部が発生し、流路壁面に沿って逆流現象13が発生する。この逆流現象13は、流量が減少すると共に成長し、又上流側に伝播し、ついにはサージングを発生する。
【0025】
図3(B)に示される様に、第1の実施例では前記インペラ6の入口部に局部的な高圧部が発生し、逆流現象13が発生した場合でも、前記絞り部11が逆流現象13の上流側への成長を阻止する。即ち、前記絞り部11で絞られ、速度が増加した流体は、前記絞り部11の壁面に沿って流れ、前記絞り部11を乗越えようとする逆流現象13を押戻す。従って、サージングの発生が抑制される。
【0026】
図6(A)は、従来の遠心圧縮機と第1の実施例の低圧力比での動作特性曲線を示しており、例えば図2の曲線Aに相当する。又、図6(A)中、白丸のプロットが第1の実施例の遠心圧縮機(絞り部11が設けられているもの)、黒丸のプロットが従来の遠心圧縮機(絞り部11がないもの)に対応している。
【0027】
図6(A)に示される様に第1の実施例では、サージングが発生する流量限界が小流量側にシフトしており、サージング抑制効果がはっきりと現れている。尚、前記絞り部11により、流量が絞られることからチョークが発生する流量限界も小流量側にシフトしている。
【0028】
図4は、本発明の第2の実施例を示している。
【0029】
第2の実施例では、インペラ6入口に開口し、又吸入空気導入部12に開口し、絞り部11をバイパスする二次流路15を形成し、更に該二次流路15を開閉可能としたものである。
【0030】
前記二次流路15は中心線3を中心とする円筒状の空間であり、円周所要ピッチでリブ(図示せず)が設けられている。又前記二次流路15の少なくとも一部は内周面、外周面が同心の球面で構成された球状流路15aとなっており、前記内周面の半径Ri、外周面の半径Roの中心Oは前記中心線3上に存在する。
【0031】
前記球状流路15aには、弁体である開閉弁16が所定数設けられる。該開閉弁16は円弧形状で、且つ略矩形体であり、外周は前記外円周の半径Roと等しい曲率を有する曲線、内周は前記内円周の半径Riと等しい曲率を有する曲線となっており、回転軸17を介して回転自在に支持され、該回転軸17と前記開閉弁16とは一体に回転する。前記回転軸17の軸心は前記球面の中心を通過する様になっており、前記回転軸17を回転することで、前記開閉弁16の内周は前記球状流路15aの内球面に沿って摺動し、前記開閉弁16の外周は前記球状流路15aの外球面に沿って摺動する。該開閉弁16は所要の回転手段によって同期回転される。
【0032】
回転手段としては、例えば以下のものがある。
【0033】
前記回転軸17はケーシング2の外部に突出し、突出した端部にはリンクアーム18が固着され、リンクアーム18同士はリンクプレート19によって連結されている。従って、前記開閉弁16は、前記リンクアーム18、前記リンクプレート19及び前記回転軸17を介して同期して回転する様になっている。又、前記リンクプレート19のいずれか1つにシリンダ等のアクチュエータ(図示せず)が連結され、該アクチュエータの駆動で前記リンクプレート19、前記リンクアーム18を介して前記開閉弁16が同期して回転する。
【0034】
前記複数の開閉弁16は、図4(B)に示される様に、略90°回転可能であり、前記開閉弁16が開状態(図4(B)中、2点鎖線で示す)の場合は、前記中心線3と平行となり、閉状態(図4(B)中、実線で示す)では該中心線3と直角の位置になり、開閉弁16,16同士は端縁が重なり合う様になっている。
【0035】
尚、図4(B)では、2つの開閉弁16を図示しているが、実際には所定ピッチで前記二次流路15全周に亘り設けられている。従って、前記開閉弁16を前記中心線3と平行とすることで、前記二次流路15が全開になり、前記開閉弁16を90°回転させることで、前記二次流路15が全閉となる。
【0036】
尚、前記開閉弁16は回転式ではなく、スライド式としてもよい。即ち、前記回転軸17を軸心方向に摺動可能とし、前記開閉弁16を前記二次流路15に進入、後退させ、前記二次流路15を開閉する。
【0037】
第2の実施例の作動について、図5(A)、図5(B)を参照して説明する。
【0038】
前記開閉弁16は、所定流量、例えば流量がQ1(図6(B)参照)以下の時には全閉され、流量がQ1を超えると、全開にされる。
【0039】
全閉状態では、図3で説明した前記二次流路15が設けられていない状態と同様であり、前記インペラ6入口部分で発生した逆流現象13は、前記絞り部11によって上流側への波及が抑制される。
【0040】
次に、前記流量Q1を超える流量では、前記開閉弁16を全開にする。
【0041】
前記開閉弁16を全開にすることで、前記絞り部11の上流側と下流側が前記二次流路15によって連通され、該二次流路15を通って流体が前記インペラ6に流入する。この為、前記開閉弁16を全開とした場合、前記絞り部11を形成しない場合と同様、又は略同様となり、チョークが発生する流量限界も大流量側にシフトする。
【0042】
図6(B)は、従来の遠心圧縮機と第2の実施例の低圧力比での動作特性曲線を示しており、例えば図2の曲線Aに相当する。又、図6(B)中、白丸のプロットが第2の実施例を示し、流量Q1より小流量の場合は、前記開閉弁16が閉じられ、流量Q1より大流量の場合は前記開閉弁16が開放されている。又、黒丸のプロットが従来の遠心圧縮機に対応している。
【0043】
従って、図6(B)に見られる様に、前記二次流路15の開閉により、サージングが発生する限界の流量が小流量側へシフトし、大流量側ではチョークが発生する限界は従来と変らない。
【0044】
而して、前記絞り部11を設け、更に前記二次流路15、前記開閉弁16を設け、流量に応じて前記開閉弁16を開閉することで、チョークが発生する流量限界を減少させることなく、サージングが発生する流量限界を減少させることができ、一層の作動領域拡大を図ることができる。
【0045】
尚、前記二次流路15は前記絞り部11の上流側と下流側を連通すればよく、円筒状に限らず、貫通孔を円周方向に所要ピッチで複数穿設してもよい。この場合、前記開閉弁16は貫通孔の直線部に設けられ、貫通孔の内径に略等しい外径を有する円板となる。
【0046】
又、上記実施例では、前記開閉弁16を全閉、全開の2態様としたが、圧力比、流量に対応させ、開度を設定する様にしてもよい。又、開度を設定する際の開閉弁16の向きは、二次流路15内の流れがインペラ6回転方向に対して、順方向、逆方向どちらになる様に設定してもよい。
【符号の説明】
【0047】
1 遠心圧縮機
2 ケーシング
3 中心線
4 インペラ収納室
6 インペラ
7 回転軸
8 環洞流路
9 ディフューザ流路
11 絞り部
12 吸入空気導入部
13 逆流現象
15 二次流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インペラと、該インペラを回転自在に収納するケーシングとを有し、該ケーシングには前記インペラを収納するインペラ収納室と、該インペラ収納室の周囲に形成された環洞流路と、該環洞流路に連通する流体吐出口と、前記ケーシングと同心に形成され、前記インペラ収納室に連通する吸入空気導入部とが形成され、前記インペラ収納室入口の上流側に絞り部を形成したことを特徴とする遠心圧縮機。
【請求項2】
前記絞り部の外周側に、該絞り部をバイパスし、該絞り部の上流側と下流側とを連通させる二次流路を設け、該二次流路に該二次流路を開閉する弁体が設けられ、該弁体は開閉手段によって開閉される請求項1の遠心圧縮機。
【請求項3】
前記二次流路は円筒状の空間であり、前記二次流路の少なくとも一部は内周面、外周面が同心の球面で構成された球状流路であり、前記内周面、前記外周面の曲率中心は前記ケーシングの中心線上で合致し、前記弁体は円周方向に所定数前記球状流路に設けられると共に前記曲率中心を通過する軸心を中心に回転可能であり、前記弁体は前記中心線と平行な状態で、前記二次流路を全開し、全開から略90°回転した状態で前記二次流路を全閉する請求項2の遠心圧縮機。
【請求項4】
流体の圧力比、流量に応じて、前記弁体の開度を設定する請求項2又は請求項3の遠心圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−177311(P2012−177311A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−39509(P2011−39509)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】