説明

遠心脱泡機

【課題】ロータ内での気泡の滞留を無くすことで、多様な原液をさらに高い精度で気泡と液とに分離できる遠心脱泡機を提供する。
【解決手段】回転軸を中心として回転可能に構成されたロータ2を有し、ロータ内の脱泡処理室2bの原液に遠心力を与えることにより、脱泡液と泡液とに分離する遠心脱泡機であって、ロータの回転軸A近傍に、脱泡処理室2b内から外部へ延在して配置され、脱泡処理室2b内に位置する部分に下泡液取込口3aが形成され、内側に泡液が通過する泡液通路11が形成された上中空シャフト3と、脱泡処理室内2bにおいて、下泡液取込口3aを挟んでロータ2の第1の端部壁5と対向するように設けられ、水平方向に放射状に延在する面により気泡の移動を規制する規制板7とを有し、ロータ2の規制板7に対向する第2の端部壁2dの回転軸A近傍に脱泡液をロータ2外へ排出する脱泡液排出口4aが形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液中に散在する気泡を、遠心力を利用して除去する遠心脱泡機に関し、特に、化学、医薬、製紙、繊維、印刷、電子材料、油製品などの工業分野や、化粧品、食品、樹脂、塗料、接着剤、シール材などの製品の製造過程において、液中に混入した気泡を連続的に除去する遠心脱泡機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液中に混入した気泡を除去する方法としては、当該液中に消泡剤などを利用する化学的方法と以下に示す物理的方法が上げられる。物理的脱泡方法としては、例えば、自然圧力下又は減圧下において自然に気泡と液体とが分離するまで液体を放置する方法や加圧ロール方式、回転スクリーン方式、減圧薄膜方式を用いた方法が開示されている。
【0003】
しかし、化学的方法は、液中に消泡剤などを添加することにより液中成分が変化するため、用途によっては好ましくない場合がある。また物理的方法では、上記いずれの方法においても粘度が高い液体の脱泡が難しく、また脱泡に長時間を有する等の問題がある。また、例えば、減圧下において処理を行うものは、液体の中に香料や溶剤などの揮発しやすい成分が蒸発しやすくなり、液の物性が不安定になると共に、高真空度対応の精密ポンプが必要であり設備費が高くなる等の問題点がある。
【0004】
このような問題点を解決する遠心式の脱泡機が、例えば特開2005−131600号公報に開示されている。図7は、この従来の遠心脱泡機の構成を示す断面図である。従来の遠心脱泡機101は、有底円筒形状の容器で構成され、上下方向に延びる回転軸A1を中心に回転可能に構成されるロータ102と、ロータ102の底壁102dの内面中心部に固着され、上下方向に立設された中空シャフト103とを備えている。
【0005】
中空シャフト103は、内筒104と、内筒104よりも長さが短く、内径が大きい外筒105とを備えた2重管構造で構成されている。中空シャフト103の外筒105は、外筒105の最下端に設けられた外筒固定部材106によって内筒104に固定され、内筒104の両端を除く中間部分にのみ設けられている。中空シャフト103の内筒104の上部外周面は、原液が供給される原液ケーシング122により回転可能に支持されている。この原液ケーシング122の内部に中空シャフト103の外筒105の上端が連通している。中空シャフト103の外筒105の下端部には、原液ケーシング122から内筒104と外筒105との間に形成された原液通路112を通じて供給される原液を、ロータ102内に供給するために原液供給口105aが設けられている。
【0006】
ロータ102の底壁102dの外面中心部には、回転シャフト107が設けられている。ロータ102は、回転シャフト107が図示しないモーター等により回転することにより回転して、ロータ102内に供給された原液中の気泡をロータ102の回転軸A1側へ移動させ、気泡を含まない脱泡液をロータ102内の外側領域へ移動させて、泡液と脱泡液とに分離する。
【0007】
中空シャフト103の内筒104の下端は、ロータ102の底壁102dの内面中心部に固定されている。中空シャフト103の内筒104の下端近傍には、内筒104の内側に位置する泡液通路111に連通する泡液取込口104aが設けられている。中空シャフト3の内筒104の上端は、泡液取込口104aから泡液通路111を通じて供給される前記分離された泡液を排出するための泡液ケーシング121と連通している。
【0008】
また、ロータ102には、中空シャフト103が貫通する開口108aを有する蓋部108と、開口108aの周囲に立設して設けられ、外筒105との間で、前記分離された脱泡液を排出するための脱泡液通路133を形成するシリンダ部108bとが備えられている。中空シャフト103の外筒105の原液供給口105aの上位には、前記分離された脱泡液に残存する気泡が脱泡液通路113側に移動するのを規制するために、規制板109が外筒105と交差する方向に放射状に突出して設けられている。脱泡液通路113の上端は、外筒105の外周面を支持し且つ脱泡液を排出するための脱泡液ケーシング123の内部と連通している。
【0009】
なお、上記の泡液ケーシング121、原液ケーシング122、及び脱泡液ケーシング123は回転しない構成であり、ロータ102及び中空シャフト103の回転をスムーズにするために、中空シャフト103の内筒104及び外筒105、シリンダ部108bの上端近傍にはベアリング131〜133が設けられるとともに、各ケーシング間の液の漏出を防止するため、O−リング等のシール部材134〜138が備えられている。
【0010】
従来の遠心脱泡機101は、上記のように構成されることにより、気泡と液とを分離するために規制板109を設けるなどの工夫により比較的高粘度の原液でも脱泡処理することが可能である。また、ロータ102に鉛直方向に原液が供給されると共に、鉛直方向に泡液及び脱泡液が排出されるため、中空シャフト103内での原液の分離などの問題が生じることなく、供給された原液がロータ102内に移動してから分離が行われるため、分離の効率も高い。
【特許文献1】特開2005−131600号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、従来の遠心脱泡機101においては、原液供給口105aを通じてロータ102内に供給された原液中の気泡の移動方向が、原液の流動方向に対して逆向きである。したがって、図7に示すように規制板109の下方の領域X100において互いに逆向きで釣り合って気泡が滞留し、遠心脱泡機101の脱泡効果が低下するという問題点がある。
【0012】
また、各通路を形成する中空シャフト103が、内筒104及び外筒105の2重管構造で構成されているので、単管構造に比べて分解及び組立が煩雑であるとともに部品点数が多く、重量が重い。さらに、中空シャフト103の管径も大きくなる。回転軸となる中空シャフト103の管径が大きいと、当該シャフトの表面における周速が速くなるため、シール部材134〜138に負担がかかる。また、それを避けるために中空シャフト103の管径を小さくすると、原液、泡液、又は脱泡液の流路面積が小さくなるので、内圧が高くなるとともに脱泡処理量が少なくなる。すなわち、図7に示す従来の遠心脱泡機101では、脱泡処理量を大きくしようとすると中空シャフト103の管径を大きくせねばならず、シール部材134〜138の負担が大きくなるというトレードオフの関係にあった。
【0013】
したがって、本発明が解決しようとする技術的課題は、上記の遠心式の脱泡機が有していた問題点を解消することにあって、ロータ内での気泡の滞留を減らして脱泡効果の低下を抑えるとともに、部品点数を削減して軽量化及び脱泡処理量の増加を実現することができる遠心脱泡機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記技術的課題を解決するために、基本構成として、回転軸を中心として回転可能に構成された円筒形箱体のロータを有し、前記ロータ内の脱泡処理室に存在しかつ気泡が含まれる原液に、遠心力を与えることによって脱泡処理を行い、処理後の脱泡液と前記気泡が集められた泡液とに分離する遠心脱泡機であって、
前記ロータの回転軸近傍に、前記脱泡処理室内から前記ロータの第1の端部壁の前記回転軸近傍に形成された開口を通過して前記脱泡処理室の外部へ延在して配置され、内側に前記泡液が通過する泡液通路が形成され、前記脱泡処理室内に位置する部分に前記ロータの前記脱泡処理室に連通する泡液取込口が形成された中空シャフトと、
前記脱泡処理室内において、前記泡液取込口を挟んで前記ロータの前記第1の端部壁と対向するように設けられ、前記中空シャフトに交差する方向に放射状に延在する面を有して、当該面により気泡の移動を規制する規制板と、を有し、
前記ロータの前記規制板に対向する第2の端部壁の前記回転軸近傍に前記脱泡液を前記ロータの外部へ排出する脱泡液排出口が形成されたことを特徴とする。
より具体的には、以下の構成の遠心脱泡機を提供する。
【0015】
本発明の第1態様によれば、回転軸を中心として回転可能に構成された円筒形箱体のロータを有し、前記ロータ内の脱泡処理室に存在しかつ気泡が含まれる原液に、回転により遠心力を与えることによって前記気泡を前記回転軸近傍に集める脱泡処理を行い、処理後の脱泡液と前記気泡が集められた泡液とに分離する遠心脱泡機であって、
前記ロータの回転軸近傍に、前記脱泡処理室内から、前記ロータの第1の端部壁の前記回転軸近傍に形成された開口を通過して前記脱泡処理室の外部へ延在して配置され、外壁と前記開口とによって原液供給口を画定するとともに、前記脱泡処理室内に位置する部分に前記ロータの前記脱泡処理室に連通する第1の泡液取込口が形成され、内側に前記第1の泡液取込口から流入した前記泡液が前記脱泡処理室の外部に位置する部分へ流れるための泡液通路が形成された第1の中空シャフトと、
前記脱泡処理室内において、前記泡液取込口を挟んで前記ロータの前記第1の端部壁と対向するように設けられ、前記第1の中空シャフトに交差する方向で且つ前記第1の中空シャフトの周りに放射状に延在する面を有する規制板と、を有し、
前記ロータの前記規制板に対向する第2の端部壁の前記回転軸近傍に、前記規制板の外側端部と前記ロータの周壁との間を通過した前記脱泡液を前記脱泡処理室の外部へ排出する脱泡液排出口が形成されたことを特徴とする遠心脱泡機を提供する。
【0016】
本発明の第2態様によれば、さらに、前記規制板の前記脱泡液排出口側に、前記第1の中空シャフトと同一回転軸で前記ロータの前記脱泡処理室内から前記脱泡処理室の外部へ前記第2の端部壁を貫通するように延在して配置され、前記規制板に近い側の端部近傍に前記脱泡処理室と連通する脱泡液取込口が形成され、内側に前記脱泡液が通過し、前記脱泡液排出口と連通する脱泡液通路が形成された第2の中空シャフトを有することを特徴とする第1態様に記載の遠心脱泡機を提供する。
【0017】
本発明の第3態様によれば、前記ロータの前記開口の周囲にはシリンダ部が立設され、前記第1の中空シャフトの外壁と前記シリンダ部の内壁とによって、脱泡処理前の前記原液を前記原液供給口に案内する原液通路が画定されており、
前記シリンダ部と対向する前記第1の中空シャフトの外壁に、前記原液通路と前記泡液通路とを連通する第2の泡液取込口が設けられていることを特徴とする第1態様又は第2態様に記載の遠心脱泡機を提供する。
【0018】
本発明の第4態様によれば、さらに、前記脱泡処理室内において、前記第1の中空シャフトの前記原液供給口に隣接する部分と前記第1の泡液取込口との間に設けられ、前記第1の中空シャフトに交差する方向に放射状に延在ずる面を有する案内板を備え、
前記脱泡処理室内において、前記案内板と前記原液供給口との間の位置に、前記脱泡処理室と前記泡液通路とを連通する第3の泡液取込口が設けられていることを特徴とする第1態様又は第2態様に記載の遠心脱泡機を提供する。
【0019】
本発明の第5態様によれば、前記規制板は、前記脱泡液排出口側の面が、前記回転軸に直交する方向に対して、前記回転軸上に位置する当該面の中央部から当該面の外周部に向かうに従い、前記ロータの前記第1の端部壁に近づく方向に傾斜していること第1態様から第4態様のいずれか1つに記載の遠心脱泡機を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、原液供給口を通ってロータ内に供給される原液は、原液供給口を通って規制板側へ移動し、その過程で原液中の気泡がロータの回転による遠心力を受けてロータの回転軸側に移動する。また、規制板は、ロータの回転軸側に移動する気泡が脱泡液排出口側に移動しないように気泡の移動を規制するともに、脱泡液がロータ内の外側領域に移動したのち、脱泡液排出口側に移動するように脱泡液の移動を規制する。このとき、原液は原液供給口から規制板に向かう方向に移動(流動)し、気泡には前記方向と交差方向にロータの回転による遠心力が働くので、気泡と原液との移動方向が反対方向を向くことがなく相違する。したがって、本発明によれば、気泡と原液との移動方向が釣り合うことによる滞留を減らすことができる。
【0021】
また、本発明によれば、中空シャフトを単管構造で構成できるので、2重管構造に比べ、分解及び組立が容易であるとともに、部品点数を削減して軽量化を実現することができる。さらに、中空シャフトの管径を大きくして脱泡処理量を増加することもできる。
また、さらに、ロータのシリンダ部と対向する第1中空シャフトの外壁に、原液通路と泡液通路とを連通する第2の泡液取込口を設けることで、原液中の気泡のうち、サイズの大きな気泡を予め泡液通路に取り込むことができ、分離効率を従来の装置に比べて高くすることができる。
【0022】
また、さらに、脱泡処理室内において、第1の中空シャフトの原液供給口に隣接する部分と第1の泡液取込口との間に、第1の中空シャフトに交差する方向に放射状に延在した面を有する案内板を設けることで、原液を分離するための移動経路を従来の装置よりも長くすることができるので、気泡が原液から分離される前に泡液通路に取り込まれる量を少なくすることができ、分離効率を従来の装置に比べて高くすることができる。
また、さらに、脱泡処理室内において、案内板と原液供給口との間の位置に、脱泡処理室と泡液通路とを連通する第3の泡液取込口を設けることで、案内板と原液供給口の間でロータの回転による遠心力を受け、案内板によりロータ内の外側領域に移動されて第1の泡液取込口側へ移動できずに案内板と原液供給口の間でロータの回転軸側に移動した気泡を、泡液通路に取り込むことができる。これにより、案内板のみ設けるよりも分離効率を高くすることができる。
【0023】
また、さらに、規制板の脱泡液排出口側の面を、回転軸に直交する方向に対して、回転軸上に位置する当該面の中央部から当該面の外周部に向かうに従い、ロータの第1端部壁に近づく方向に傾斜させることで、仮に気泡が規制板を越えて脱泡液排出口側に移動したとしても、ロータの回転が遅くなる又は停止したときに、気泡は規制板の脱泡液排出口側の中央部分に滞留することなく、前記傾斜に沿ってロータ内の外側領域に移動し、泡液排出口側に移動することができる。これにより、分離効率を従来の装置に比べて高くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
《第1実施形態》
以下、本発明の第1実施形態に係る遠心脱泡機1について、図面を参照しながら説明する。
【0025】
図1は、本発明の第1実施形態にかかる遠心脱泡機1の構成を示す断面図であり、図2はその部分拡大図である。遠心脱泡機1は、多数の気泡が分散した原液を脱泡液と泡液とに分離することによって、原液中の気泡を取り除くための装置である。遠心脱泡機1は、概ね円筒形箱体の容器で構成され、上下方向に延在する回転軸Aを中心に回転可能に構成されるロータ2と、ロータ2の回転軸近傍に、ロータ2の内部の脱泡処理室2b内から脱泡処理室2b外に上下方向に延在するように配置された第1及び第2の中空シャフトの一例である円筒形状の上中空シャフト3及び下中空シャフト4とを備えている。
【0026】
ロータ2は、図示しないモーターなどから動力を受けて回転軸Aまわりに(例えば矢印50に示すように)回転することで、多数の気泡が分散した原液を脱泡処理室2b内において脱泡液と泡液とに分離する。すなわち、ロータ2は、回転することにより、単位体積あたりの比重の大きい液体部分をロータ2の外側領域へ移動させ、単位体積あたりの比重が小さい泡部分をロータ2の回転軸A側へ移動させる。
【0027】
ロータ2の周壁内側表面2aは粗面になっており、ロータ2内に存在する原液との摩擦を高くしてロータ2の回転力が原液に伝達されやすいように構成されている。ロータ2の周壁内側表面2aは、図2に示すように、抵抗板2cを取り付けてロータ2の回転を原液に伝達しやすいようにしてもよい。この場合、抵抗板2cの枚数は2〜10枚程度が好ましい。また、抵抗板2cの形状は、幅が1〜20mm、高さがロータ2の0.1〜0.5倍とすることが好ましい。
【0028】
ロータ2には、上中空シャフト3が貫通する開口5aを有する第1の端部壁の一例である蓋部5と、開口5aの周囲に図1の上方向に立設された円筒状のシリンダ部5bとが備えられている。ロータ2は、後述する各種通路の部分以外は密閉構造となっている。
【0029】
蓋部5の開口5aを形成する蓋部5の内周部とそれに対向する上中空シャフト3の外壁との間には、原液供給口12aが形成されている。すなわち、原液供給口12aは、蓋部5の開口5aと上中空シャフト3の外壁とにより画定されている。ロータ2のシリンダ部5bの内壁と上中空シャフト3の外壁との間には、原液を原液供給口12aに案内する原液通路12が形成されている。すなわち、原液通路12は、ロータ2のシリンダ部5bの内壁と上中空シャフト3の外壁とにより画定されている。
【0030】
原液通路12は、ロータ2の脱泡処理室2bと原液ケーシング22と連通している。原液ケーシング22は、上中空シャフト3の上部外周面を回転可能に支持するとともに、その底板22aでロータ2のシリンダ部5bを回転可能に支持している。原液ケーシング22は、回転軸Aに対して遠ざかる側の側壁に設けられた図示しない供給口から矢印53に示すようにロータ2内に供給される原液を受け入れ、矢印54に示すように原液通路12、原液供給口12aを通じてロータ2内に供給する。
【0031】
一方、上記従来例の原液ケーシング122においては、図7の上側の壁面に形成された凹部に原液中の気泡が滞留して装置の脱泡効果を低下させることがある。
このため、原液ケーシング22は、原液中の気泡が原液ケーシング22内で滞留して遠心脱泡機1の脱泡効果を低下させないように、壁面に凹凸がないように形成されている。
【0032】
上中空シャフト3の内側には、気泡が集められた泡液が矢印52に示すように図1の上方向に通過する泡液通路11が形成されている。上中空シャフト3の太さは、原液の性状等の運転条件により設定することができ、ロータ2の内半径Rと上中空シャフト3の内半径Sとの比が2:1から20:1となるような太さを有していることが好ましい(図2参照)。上中空シャフト3が上記範囲を越えて太くなると、気泡の分離に必要な遠心力の差があまり発生せず、有効な脱泡効果が得られず、また、ロータ2の有効容積が減少して分離効果が減少する。また、上中空シャフト3、及びロータ2のシリンダ部5bの上端近傍に設けられたベアリング31、32に過度の負担がかかる。
【0033】
ロータ2のシリンダ部5bと対向する上中空シャフト3の外壁部分、つまり原液通路12と接する上中空シャフト3の外壁部分には、上中空シャフト3の内側の泡液通路11と原液通路12とを連通する第2の泡液取込口の一例である上泡液取込口3bが設けられている。上泡液取込口3bは、原液通路12、原液供給口12aを通じてロータ2内に供給される原液中の気泡のうち、ロータ2の回転により原液通路12の回転軸A側に移動したサイズの大きな気泡(例えば50μm以上)を予め泡液通路11に取り込み、脱泡効果を向上させる。
なお、上泡液取込口3bの大きさや設置個数は、運転条件や脱泡したい原液の性状などの運転条件に応じて適宜設定すればよい。
【0034】
上中空シャフト3の下端近傍には、上中空シャフト3の内側の泡液通路11とロータ2の脱泡処理室2bとを連通する第1の泡液取込口の一例である下泡液取込口3aが形成されている。上中空シャフト3の上端は、下部が原液ケーシング22の上側に固定された略有底円筒形状の容器で形成された泡液ケーシング21と連通している。泡液ケーシング21は、矢印52に示すように下泡液取込口3a及び泡液通路11を通じて送り込まれた泡液を受け入れ、泡液ケーシング21に設けられた図示しない排出口から矢印51に示すように遠心脱泡機1の外部に排出する。
【0035】
一方、上記従来例の泡液ケーシング121においては、図7に示すように、その内径が上中空シャフト104の内径よりも大きく形成されており、その内径差の部分(図7においてシール134の上側の領域)に泡液中の気泡が滞留して装置の脱泡効果を低下させることがある。
このため、泡液ケーシング21の内径は、上中空シャフト3の内側の泡液通路11を矢印52に示す方向(図1の上方向)に移動する泡液中の気泡が滞留して遠心脱泡機1の脱泡効果を低下させないように、上中空シャフト3の内径とほぼ同一の長さになるように形成されている。
なお、泡液ケーシング21は、上中空シャフト3の上端の近傍部分の内径が上中空シャフト3の内径とほぼ同一に形成されるとともに、泡液の移動方向の下流側(図1の上方向)に向かうに従い、その内径が徐々に大きくなるように形成されてもよい。
また、泡液ケーシング21は、原液ケーシング22と一体的に形成されてもよい。
【0036】
上中空シャフト3の下端には、泡液通路11を塞ぐとともに上中空シャフト3と交差する方向(例えば直交方向)に放射状に延在する面を有して、当該面により気泡の移動を規制する例えば略円板形状の規制板7が固着されている。原液通路12、原液供給口12aを通って脱泡処理室2b内に供給された原液は、この規制板7と蓋部5とに挟まれた原液分離領域Xにおいて、主として脱泡液と泡液とに分離される。
【0037】
規制板7は、運転条件や脱泡したい原液の性状などの運転条件に応じて、図2に示すように、ロータ2の内半径Rと規制板7の半径r1との比が10:4から10:9の範囲となるように適宜変形することができる。特に、規制板7の半径r1が上記範囲よりも小さくなると、ロータ2内での気泡の分離が不完全となり、脱泡液に混入する気泡の量が増える一方、上記範囲を越えて大きくなると、分離効果は大きくなるが、脱泡液を排出するための抵抗も大きくなり、単位時間当りの脱泡処理量が少なくなるか、圧力を上げる必要がある。
【0038】
規制板7の上中空シャフト3の液泡通路11を塞ぐ面7aの反対側の面7bは、回転軸A上に位置する面7bの中央部から外周部に向かう従い、蓋部5に近づく方向(図1の上方向)に傾斜(例えば円錐形状に突出)するように形成されている。これにより、原液分離領域Xで原液から分離されずに規制板7を超えて、つまりロータ2の外側領域に移動して規制板7とロータ2の第2の端部壁の一例である底壁2dとの間に挟まれた脱泡液回収領域Yに移動した原液中の一部の気泡が、脱泡液回収領域Yに滞留せず、面7bに沿って原液分離領域Xに戻ることができるようにしている。
規制板7の面7bの中央部近傍には、下中空シャフト4が上中空シャフト3と同一回転軸Aで上下方向に延在するように固定されている。下中空シャフト4は、ロータ2の底壁2dの回転軸A近傍を貫通しており、脱泡処理室2b内の液漏れがないように、その外周面の一部がロータ2の底壁2dに固着されている。
【0039】
下中空シャフト4の内側には、脱泡処理後の脱泡液が通過する脱泡液排出口4bと脱泡液通路13とが形成されている。下中空シャフト4の上端部近傍には、脱泡液通路13とロータ2の脱泡処理室2bとを連通する脱泡液取込口4aが形成されている。下中空シャフト4の下端は、ロータ2の下方に位置する略有底円筒形状の容器で形成された脱泡液ケーシング23と連通している。下中空シャフト4は、その下端部周囲を、脱泡液ケーシング23の上部23aに回転可能に支持されている。脱泡液ケーシング23は、矢印55に示すように脱泡液取込口4a、脱泡液排出口4b及び脱泡液通路13を通じて送り込まれた脱泡液を受け入れ、脱泡液ケーシング23に設けられた図示しない排出口から矢印56に示すように遠心脱泡機1の外部に排出する。
【0040】
脱泡液ケーシング23の下部23bの内径は、泡液ケーシング21と同様に、下中空シャフト4の内側の脱泡液通路13を矢印55に示す方向(図1の下方向)に移動する脱泡液の気泡が滞留して、遠心脱泡機1の脱泡効果を低下させないように、下中空シャフト4の内径とほぼ同一の長さになるように形成されている。
なお、脱泡液ケーシング23の下部23bは、下中空シャフト4の下端の近傍部分の内径が下中空シャフト4の内径とほぼ同一に形成されるとともに、脱泡液の移動方向の下流側(図1の下方向)に向かうに従い、その内径が徐々に大きくなるように形成されてもよい。
【0041】
上記の各ケーシング21、22(22a)、23(23a、23b)は、回転しない構成であり、ロータ2、上中空シャフト3、下中空シャフト4、及び規制板7の一体的な回転をスムーズにするために、上中空シャフト3、及びロータ2のシリンダ部5bの上端近傍、下中空シャフト4の下端部近傍にそれぞれベアリング31〜33を設けると共に、各ケーシング間の液の漏出を防止するため、O−リング等のシール部材34〜37を備えている。
【0042】
次に、本第1実施形態にかかる遠心脱泡機1の動作について説明する。
まず、図1及び図3を用いて、本第1実施形態にかかる遠心脱泡機1を用いて原液を処理するシステムについて説明する。図3は、本発明の第1実施形態にかかる遠心脱泡機1のシステム構成図である。なお、遠心脱泡機1を用いて原液を処理するシステムの各動作は、図示しない記憶部に予め記憶された動作プログラムに基づいて各装置の動作を制御するように構成された図示しない制御部にて制御される。
【0043】
脱泡処理を行う原液は、原液タンク40に蓄積されている。原液タンク40からの原液は、ポンプ41により配管42を通って本第1実施形態にかかる遠心脱泡機1の原液ケーシング22に送りこまれる。原液ケーシング22に送りこまれた原液は、上述したようにロータ2の脱泡処理室2b内に送られて泡液と脱泡液とに分離される。原液から分離された泡液は、遠心脱泡機1の外部に排出され、配管43を通ってその一部は原料タンク40に戻される。残りの一部は排出される。一方、原液から分離された脱泡液は、配管44を通って遠心脱泡機1の外部に排出される。なお、各配管42、43、44には、当該配管を通過する給送量を調整するための図示しないバルブが設けられており、また、配管42には、配管内に存在する空気が遠心脱泡機1内に送りこまれないようにするために、図示しない空気抜きバルブが設けられている。
【0044】
上記システムにおいてポンプ41を駆動すると、原料タンク40から遠心脱泡機1へ原液の供給が行われる。このときのポンプ41の吐出圧は、遠心脱泡機1の仕様にもよるが、概ね0.05メガパスカル以下に調整することが好ましい。
原料タンク40から遠心脱泡機1へ原液を供給することにより遠心脱泡機1の空気抜きバルブ60、61から原液が出てきたら、各バルブを閉じ、所定の回転数でロータ2の回転を開始させる。ロータ2の回転数は、原料や遠心脱泡機1の仕様などの運転条件により適宜調整することができる。
【0045】
配管42を通って原液ケーシング22に設けられた図示しない供給口より、図1の矢印53に示すように原液ケーシング22に送りこまれた原液は、図1の矢印54に示すように原液通路12を下り、ロータ2内の脱泡処理室2bの原液分離領域Xに送られる。このとき、原液通路12を通過する原液中の気泡のうち、ロータ2の回転により原液通路12の回転軸A側に移動したサイズの大きな気泡が、上中空シャフト3に設けられた上泡液取込口3bを通じて、上中空シャフト3の内側の泡液通路11に取り込まれる。
ロータ2内の脱泡処理室2bの原液分離領域Xに送られた原液は、上述したように、上下方向に伸びる回転軸Aを中心に回転可能に構成されたロータ2が回転することにより、ロータ2の回転に伴う遠心効果の作用、つまり遠心力を受ける。
【0046】
ロータ2の回転に伴う遠心効果は、ロータ2の内径と回転数に比例する。例えば、ロータ2の内半径Rが0.1mでロータ2の容積が1.8Lである装置の場合、粘度が200〜500パスカル・秒の原液では、回転数は、1500〜2200rpm程度に設定し、処理量を0.4〜1.0L/minとすることにより、十分な脱泡効果が得られる。また、粘度が500パスカル・秒程度の原液では、回転数3500rpm、処理量0.32〜1.0L/min程度とすることにより、十分な脱泡効果が得られる。
【0047】
一般的に、原液の送り量を増やすと、ロータ2の回転数を上げることが好ましく、また、原液の粘度が上がった場合には送り量を減らしてロータ2の回転数を上げることが有効である。脱泡処理には特に送り量が大きく影響する。一般には、ロータ2の回転数を800rpm以上とすることが望ましく、高粘度液になるほど原液の送り量を減らすことが好ましい。
【0048】
なお、原料タンク40から遠心脱泡機1に送られる液温は、遠心脱泡機1のシール部材22〜26にゴムが使用されている場合、変質を及ぼさない程度の液温とすることが好ましい。
【0049】
原液分離領域Xにおいて、ロータ2の回転による遠心力を受けた原液は、単位体積あたりの比重が大きい液体部分がロータ2の周壁内側表面2a側に移動し、単位体積あたりの比重が小さい気泡部分がロータ2の回転軸A側へ移動する。このとき、原液供給口12aを通じて原液分離領域Xに供給された原液は、原液供給口12aから規制板7に向かう方向(図1の下方向)に移動するため、原液と気泡との移動方向に相違が生じる。したがって、原液と気泡との移動方向が釣り合わないので、気泡が原液分離領域X内で滞留しない。また、規制板7が放射状に延在するよう設けられているので、原液中の気泡の大部分又は全部は、規制板7を越えて原液分離領域Xの下方にある脱泡液回収領域Yまで移動することができない。また、仮に、規制板7を越えて脱泡回収領域Yに移動したとしても、規制板7の面7bが回転軸A上に位置する面7bの中央部から外周部に向かうに従い、蓋部5に近づく方向(図1の上方向)に傾斜するように形成されているので、原液中の気泡は脱泡回収領域Yに滞留せず、ロータ2の回転が遅くなる又は停止したときに原液分離領域Xに移動する。このようにして、原液は泡液と脱泡液とに完全に分離される。
【0050】
原液分離領域X内で回転軸A側に集められた気泡は、下泡液取込口3a、泡液通路11を通じて泡液ケーシング21に送られ、泡液ケーシング21に設けられた図示しない排出口より、図1の矢印51に示すように遠心脱泡機1の外部に排出される。一方、ロータ2内の原液分離領域Xの外側領域に移動した脱泡液は、原液供給口12aを通って原液分離領域Xに移動してくる原液の圧力により押されて、規制板7とロータ2の周壁内側表面2aとの隙間から規制板7の下側の脱泡液回収領域Yへ移動し、脱泡液取込口4a、脱泡液排出口4b及び脱泡液通路13を通じて、脱泡液ケーシング23に送り込まれる。そして、脱泡液ケーシング23に設けられた図示しない排出口より配管44を通じて遠心脱泡機1の外部に排出される。
【0051】
本第1実施形態にかかる遠心脱泡機1は、大気圧下、完全な密閉回路内での遠心分離操作により、連続的に高粘度から低粘度まで幅広い多様な原液の脱泡処理が可能であり、特に高粘度液の脱泡処理に適している。また、上下方向に液の供給及び排出がおこなわれるため、ガス抜きが容易であり取り扱いを簡単にすることができる。また、通路を形成する中空シャフト3,4が単管構造であるため、2重管構造と比べて分解及び組立が容易であるとともに、部品点数を削減して軽量化を実現することができる。さらに、中空シャフト3,4の管径を大きくして脱泡処理量を増加することもできる。
【0052】
また、減圧装置が不要であるので設備費を安価にすることができ、簡単な構造の設備で効率的に脱泡処理ができ、溶剤や香料など揮発性の成分を含む原液などの多様な液処理が可能である。また、インライン連続式であるため、運転休止に伴う各種ロスがなく、ストックタンクが不要である。
【0053】
また、泡液通路11と原液通路12とを連通するように上泡液取込口3bを設けたので、原液中の気泡のうち、サイズの大きな気泡を予め泡液通路11に取り込むことができ、分離効率が従来に比べて高い。
また、泡液ケーシング21、原液ケーシング22、及び脱泡ケーシング23を、気泡が滞留しない形状に形成したので、遠心脱泡機1の脱泡効果の低下を防ぐことができる。
【0054】
さらに、密閉回路による遠心分離装置であるので、装置内壁などへの液の飛散や衝突が抑えられるため、気泡の再発生が少なく、短時間で効率的な脱泡処理が可能である。また、処理液にせん断力が発生しないため、処理液に対して変質などの悪影響を及ぼすことがない。
【0055】
さらに連続式に処理ができるため、必要な時に必要な量の処理が可能であり、必要処理量に対して効果的に柔軟に対応できる設備設計が可能となり、相対的に設備コストを低くすることができる。
【0056】
《第2実施形態》
以下、本発明の第2実施形態に係る遠心脱泡機401について、図4を参照しながら説明する。
【0057】
図4は、本発明の第2実施形態にかかる遠心脱泡機401の構成を示す断面図である。本発明の第2実施形態にかかる遠心脱泡機401は、上泡液取込口3bに代えて第3の泡液取込口の一例である中泡液取込口403cを備え、さらに案内板406を備えた点で第1実施形態の遠心脱泡機1と異なる。その他の点においては、第1実施形態の遠心脱泡機1と同様であるので、添付図面において同様の部品については同じ参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0058】
図4において、案内板406は、ロータ2の脱泡処理室2b内において、上中空シャフト3の下泡液取込口3aより上位に固着され、上中空シャフト3と交差する方向(例えば直交方向)に放射状に延在する面を有して、当該面により原液をロータ2内の外側領域、つまりロータ2の周壁内側表面2a側に案内するよう形成されている。
また、案内板406は、原液供給口12aから下泡液取込口3aまでの経路を長くして、原液通路12を通じて送られてきた原液が泡液と脱泡液とに分離する前に、下泡液取込口3aを通じて泡液通路11へと移動しないように設けられている。
【0059】
案内板406は、規制板7と同様に、運転条件や脱泡したい原液の性状などの運転条件に応じて、図5に示すように、ロータ2の内半径Rと案内板406の半径r2との比が10:4から10:9の範囲となるように適宜変形することができる。
なお、案内板406の半径r2は、規制板7の半径r1より小さい方が好ましい。このように構成することで、原液中の気泡が、案内板406の外周部とロータ2の周壁内側表面2aとの間を通って、より下泡液取込口3a側に移動するとともに、規制板7を越えて脱泡液回収領域Yに移動しない。
【0060】
また、案内板406及び規制板7は、図5に示すように、それぞれの外周部406a、7cを傾斜させた形状とすることもできる。また、円錐形状にしてもよい。傾斜角度α、βとしては、概ね30度から150度であることが好ましい。本第2実施形態においては、原液中の気泡は案内板406の下面及び規制板7の上面に沿って流れるように誘導されるため、案内板406及び/又は規制板7を傾斜させて設けることにより、案内板406の半径r2及び/又は規制板7の半径r1を大きくすることなく接触面積を大きくすることができ、分離効果を向上させることができる。
【0061】
中泡液取込口403cは、脱泡処理室2b内で且つ上中空シャフト3の案内板406より上位に形成されている。原液ケーシング22から原液通路12を通じて送られてくる原液は、蓋部5と案内板406とに挟まれた原液案内領域X1を通過して、案内板406と規制板7とに挟まれた原液分離領域X1まで移動可能な圧力でロータ2内に供給される。しかしながら、原液案内領域X1においてもロータ2の回転による遠心力がかかるため、原液中の一部の気泡は、原液分離領域X2まで移動できず、原液案内領域X1内の回転軸A側に移動する。中泡液取込口403cは、この一部の気泡を泡液通路11内に取り込むために形成されている。
【0062】
次に、本第2実施形態にかかる遠心脱泡機401の動作について説明する。
本第2実施形態にかかる遠心脱泡機401を用いて原液を処理するシステムは、図3に示す第1実施形態にかかる遠心脱泡機1を用いて原液を処理するシステムと同様であるので、重複する説明は省略する。また、本第2実施形態にかかる遠心脱泡機401の動作について、本第1実施形態にかかる遠心脱泡機1の動作と同様である点については、重複する詳細な説明は省略する。
【0063】
遠心脱泡機401を用いて原液を処理するシステムにおいて、ポンプ41を駆動すると、原料タンク40から遠心脱泡機401へ原液の供給が行われる。原料タンク40から遠心脱泡機401へ原液を供給することにより遠心脱泡機401の空気抜きバルブ60、61から原液が出てきたら、各バルブを閉じ、所定の回転数でロータ2の回転を開始させる。
【0064】
配管42を通って原液ケーシング22に設けられた図示しない供給口より、図4の矢印53に示すように原液ケーシング22に送りこまれた原液は、図4の矢印54に示すように原液通路12を下り、ロータ2内の脱泡処理室2bに送られ、ロータ2の回転による遠心力を受ける。
ロータ2内の脱泡処理室2bに送られた原液は、まず、案内板406に案内されて原液案内領域X1を通過する。このとき、ロータ2の回転による遠心力により原液分離領域X2まで移動できなかった原液中の一部の気泡は、原液案内領域X1内で回転軸A側に集められ、中泡液取込口403c、泡液通路11を通じて泡液ケーシング21に送られ、泡液ケーシング21に設けられた図示しない排出口より、図4の矢印51に示すように遠心脱泡機401の外部に排出される。
【0065】
一方、原液案内領域X1をロータ2内の外側領域まで移動し、ロータ2の周壁内側表面2aと案内板406の外周部406aとの間から原液分離領域X2に送られた原液は、ロータ2の回転による遠心力を受け、単位体積あたりの比重が大きい液体部分がロータ2の周壁内側表面2a側に移動し、単位体積あたりの比重が小さい気泡部分がロータ2の回転軸A側へ移動する。このとき、原液供給口12aを通じて原液案内領域X1から原液分離領域X2に供給された原液は、案内板406から規制板7に向かう方向(図4の下方向)に移動するため、原液と気泡との移動方向に相違が生じる。したがって、原液と気泡との移動方向が釣り合わないので、気泡が原液分離領域X2内で滞留しない。また、規制板7が放射状に延在するよう設けられているので、原液中の気泡の大部分又は全部は、規制板7を越えて原液分離領域X2の下方にある脱泡液回収領域Yまで移動することができない。また、仮に、規制板7を越えて脱泡回収領域Yに移動したとしても、規制板7の面7bが回転軸A上に位置する面7bの中央部から外周部に向かうに従い、蓋部5に近づく方向(図4の上方向)に傾斜するように形成されているので、原液中の気泡は脱泡回収領域Yに滞留せず、ロータ2の回転が遅くなる又は停止したときに原液分離領域X2に移動する。このようにして、原液は原液分離領域X2において泡液と脱泡液とに完全に分離される。
【0066】
原液分離領域X2内で回転軸A側に集められた気泡は、下泡液取込口3a、泡液通路11を通じて泡液ケーシング21に送られ、泡液ケーシング21に設けられた図示しない排出口より、図4の矢印51に示すように遠心脱泡機401の外部に排出される。一方、原液分離領域X2内でロータ2内の外側領域に移動した脱泡液は、原液分離領域X1から移動してくる原液の圧力により押されて、規制板7とロータ2の周壁内側表面2aとの隙間から規制板7の下側の脱泡液回収領域Yへ移動し、脱泡液取込口4a、脱泡液排出口4b及び脱泡液通路13を通じて、脱泡液ケーシング23に送り込まれる。そして、脱泡液ケーシング23に設けられた図示しない排出口より、配管44を通じて遠心脱泡機401の外部に排出される。
【0067】
本第2実施形態にかかる遠心脱泡機401は、以上のように構成され動作することにより、本発明の第1実施形態にかかる遠心脱泡機1と同様の効果を得ることができる。
また、案内板406により原液を分離するための移動経路を長くするとともに、原液案内領域X1をロータ2の周壁内側表面2a側まで移動できなかった気泡も中泡液取込口403cにより排出できる構成としているので、分離効率が従来に比べて高い。
【0068】
以上説明したとおり、本発明の第1及び第2にかかる遠心脱泡機1,401によれば、脱泡処理されにくい高粘度の液体についても、高い精度で脱泡処理を行うことができる。また、大気圧下で処理し、また原液にせん断力が加わることがないため、処理液に対して変質などの悪影響を及ぼすことがない。また、気泡が滞留する場所を無くして、分離効率を向上させることができる。さらに、中空シャフトが単管構造であるので、2重管構造に比べて分解及び組立が容易であるとともに、部品点数を削減して軽量化を実現することができる。さらに、中空シャフトの管径を大きくして脱泡処理量を増加することもできる。
【0069】
なお、本発明は上記様々な実施形態に限定されるものではなく、その他種々の態様で実施可能である。例えば、上記第2実施形態においては、上中空シャフト3、下中空シャフト4、案内板406、及び規制板7は別部材として構成したが、一体的に形成してもよい。
また、図6に示す遠心脱泡機401aのように、下中空シャフト4とロータ2とが一体的に構成されたり、下中空シャフト4の上端が規制板7に接続されていなくてもよい。
【0070】
また、上記第2実施形態においては、案内板406及び規制板7を上中空シャフト3に取り付けたが、ロータ2の周壁内側表面2aに取り付けてもよい。この場合、案内板406には、ロータ2内の外側領域の原液が原液案内領域X1から原液分離領域X2まで移動できるように適宜開口を設け、規制板7には、原液分離領域X2で分離された脱泡液がロータ2の周壁内側表面2aに沿って原液分離領域X2から脱泡液回収領域Yまで移動できるように適宜開口を設ければよい。
【0071】
また、上記第1及び第2実施形態においては、遠心脱泡機1,401を、泡液ケーシング21が上方に位置し、脱泡液ケーシング23が下方に位置するように配置したが、これには限定されない。例えば遠心脱泡機1,401を、図面の状態から90度倒して各通路11〜13が縦方向ではなく横方向に長くなるように配置されてもよい。また、遠心脱泡機1,401を図面の状態から180度回転させて、各ケーシング21〜23,ロータ2の上下関係が反転するように配置されてもよい。
また、上記第1及び第2実施形態においては、装置の組立を容易にするために、図面では、有底円筒形状の容器部分と蓋部5との2つの部材でロータ2を構成するように示したが、これには限られない。例えば、底壁2dを別部材としてもよい。またこの場合、蓋部5と周壁とを一体的に構成してもよい。
【0072】
なお、上記様々な実施形態のうちの任意の実施形態を適宜組み合わせることにより、それぞれの有する効果を奏するようにすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明にかかる遠心脱泡機は、ロータ内での気泡の滞留を無くし、多様な原液を高い精度で気泡と液とに分離できる効果を有し、特に、化学、医薬、製紙、繊維、印刷、電子材料、油製品などの工業分野や、化粧品、食品、樹脂、塗料、接着剤、シール材などの製品の製造過程において、液中に混入した気泡を連続的に除去するための遠心脱泡機として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる遠心脱泡機の構成を示す断面図
【図2】本発明の第1実施形態にかかる遠心脱泡機の部分拡大図
【図3】本発明の第1実施形態にかかる遠心脱泡機のシステム構成図
【図4】本発明の第2実施形態にかかる遠心脱泡機の構成を示す断面図
【図5】本発明の第2実施形態にかかる遠心脱泡機の変形例の部分拡大図
【図6】本発明の遠心脱泡機の変形例の構成を示す断面図
【図7】従来の遠心脱泡機の構成を示す断面図
【符号の説明】
【0075】
1、401 遠心脱泡機
2 ロータ
2a 周壁内側表面
2b 脱泡処理室
2c 抵抗板
2d 底壁
3 上中空シャフト
3a 下泡液取込口
3b 上泡液取込口
4 下中空シャフト
4a 脱泡液取込口
4b 脱泡液排出口
5 蓋部
5a 開口
5b シリンダ部
7 規制板
11 泡液通路
12 原液通路
12a 原液供給口
13 脱泡液通路
21 泡液ケーシング
22 原液ケーシング
23 脱泡液ケーシング
31〜33 ベアリング
34〜37 シール部材
40 原液タンク
41 ポンプ
42〜44 配管
60、61 空気抜きバルブ
406 案内板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を中心として回転可能に構成された円筒形箱体のロータを有し、前記ロータ内の脱泡処理室に存在しかつ気泡が含まれる原液に、回転により遠心力を与えることによって前記気泡を前記回転軸近傍に集める脱泡処理を行い、処理後の脱泡液と前記気泡が集められた泡液とに分離する遠心脱泡機であって、
前記ロータの回転軸近傍に、前記脱泡処理室内から、前記ロータの第1の端部壁の前記回転軸近傍に形成された開口を通過して前記脱泡処理室の外部へ延在して配置され、外壁と前記開口とによって原液供給口を画定するとともに、前記脱泡処理室内に位置する部分に前記ロータの前記脱泡処理室に連通する第1の泡液取込口が形成され、内側に前記第1の泡液取込口から流入した前記泡液が前記脱泡処理室の外部に位置する部分へ流れるための泡液通路が形成された第1の中空シャフトと、
前記脱泡処理室内において、前記第1の泡液取込口を挟んで前記ロータの前記第1の端部壁と対向するように設けられ、前記第1の中空シャフトに交差する方向で且つ前記第1の中空シャフトの周りに放射状に延在する面を有する規制板と、を有し、
前記ロータの前記規制板に対向する第2の端部壁の前記回転軸近傍に、前記規制板の外側端部と前記ロータの周壁との間を通過した前記脱泡液を前記脱泡処理室の外部へ排出する脱泡液排出口が形成されたことを特徴とする遠心脱泡機。
【請求項2】
さらに、前記規制板の前記脱泡液排出口側に、前記第1の中空シャフトと同一回転軸で前記ロータの前記脱泡処理室内から前記脱泡処理室の外部へ前記第2の端部壁を貫通するように延在して配置され、前記規制板に近い側の端部近傍に前記脱泡処理室と連通する脱泡液取込口が形成され、内側に前記脱泡液が通過し、前記脱泡液排出口と連通する脱泡液通路が形成された第2の中空シャフトを有することを特徴とする請求項1に記載の遠心脱泡機。
【請求項3】
前記ロータの前記開口の周囲にはシリンダ部が立設され、前記第1の中空シャフトの外壁と前記シリンダ部の内壁とによって、脱泡処理前の前記原液を前記原液供給口に案内する原液通路が画定されており、
前記シリンダ部と対向する前記第1の中空シャフトの外壁に、前記原液通路と前記泡液通路とを連通する第2の泡液取込口が設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の遠心脱泡機。
【請求項4】
さらに、前記脱泡処理室内において、前記第1の中空シャフトの前記原液供給口に隣接する部分と前記第1の泡液取込口との間に設けられ、前記第1の中空シャフトに交差する方向で且つ前記第1の中空シャフトの周りに放射状に延在する面を有する案内板を備え、
前記脱泡処理室内において、前記案内板と前記原液供給口との間の位置に、前記脱泡処理室と前記泡液通路とを連通する第3の泡液取込口が設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の遠心脱泡機。
【請求項5】
前記規制板は、前記脱泡液排出口側の面が、前記回転軸に直交する方向に対して、前記回転軸上に位置する当該面の中央部から当該面の外周部に向かうに従い、前記ロータの前記第1の端部壁に近づく方向に傾斜していることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1つに記載の遠心脱泡機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−259959(P2008−259959A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−104445(P2007−104445)
【出願日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(000001096)倉敷紡績株式会社 (296)
【Fターム(参考)】