説明

遠隔操縦装置

【課題】 ロボットアーム等の操縦対象を直感的かつ少ない負担で操作でき、さらに操縦対象に多彩な運動を指示し得る遠隔操縦装置を提供する。
【解決手段】 ユーザの腕の動きをロボットアームに伝達するマスターアーム本体(リンク2a〜7a、関節2b〜7b、グリップ8)と、上記マスターアーム本体においてユーザの肘が載せられる部分に設けられ、2自由度の運動制御が可能な肘スイッチ10とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットアームを遠隔操作するための遠隔操縦装置に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、マスターアームと呼ばれる遠隔操縦装置で操作可能なロボットアームの運動自由度は、高々6自由度である。したがって、ロボットアームの自由度が6自由度またはそれ以下の場合には問題がなかったが、人間型ロボットなどのように冗長自由度を有するロボットアームを遠隔操作する場合には、付加的な入力装置が必要である。
【0003】
従来は、遠隔操縦装置のハンドル部分に、ロボットアームの肘関節の位置を制御するためのスイッチを設けたり(特許文献1参照)、光電センサやマイクロリニアスケールを用いて操縦者の肘の動きを非接触で検知したり(特許文献2参照)していた。また、操縦者の肘に加速度センサを取り付けることで、ロボットアームを制御する技術も提案されている(非特許文献1および非特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平5−228854号公報(1993年9月7日公開)
【特許文献2】特開2001−300871号公報(2001年10月30日公開)
【非特許文献1】朝原 佳昭、外4名、“テレイグジスタンスの研究(第37報)-TELESAR II マスターアームの開発(1)-”、2003年12月19日、第4回システムインテグレーション部門学術講演会(SI2003)
【非特許文献2】朝原 佳昭、外4名、“テレイグジスタンスの研究(第38報)-TELESAR II マスターアームの開発(2)-”、2003年12月19日、第4回システムインテグレーション部門学術講演会(SI2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されているように、ハンドルに設けられたスイッチによりロボットアームを制御すると、スイッチを押す動作と、実際にロボットアームが行う動作とが大きく異なり、操縦者が直感的にロボットアームを操縦することができない。
【0005】
また、特許文献2に記載されているように肘の動きを非接触で検知する方法では、操縦者が常に肘を浮かしておく必要があるため、腕が疲労しやすくなるなどの問題点があった。非特許文献1および2に記載されているように、加速度センサを肘に取り付ける場合も、腕が疲れやすくなる。
【0006】
特に、双腕型ロボットアームを操縦するための双腕型マスターアームは、操縦者の両手が拘束されるので、付加的なスイッチの操作はさらに困難になる。
【0007】
また、ロボットアームの遠隔操縦装置として、エグゾスケルトン型と呼ばれる操縦者の腕の骨格に外から沿うようにアームを配置した形のものがある。エグゾスケルトン型の遠隔操縦装置は、操縦者の腕の動作範囲の全体に近い範囲でロボットアームを操作できる反面、操縦者の肘を置くアームレストが設置できないため、長時間操作すると操縦者の腕が疲労するなどの問題がある。
【0008】
一方、手術ロボットの操縦装置でよく用いられる固定アームレスト型の遠隔操縦装置は、内視鏡手術のようにロボットの動作範囲が限られる場合には支障がないが、広い範囲でロボットアームを動作させることが必要な一般的な操縦装置としては不向きである。
【0009】
本発明は、上記従来の問題に鑑みなされたものであって、ロボットアーム等の操縦対象を直感的かつ少ない負担で操作でき、さらに操縦対象に多彩な運動を指示し得る遠隔操縦装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の遠隔操縦装置は、上記課題を解決するために、ユーザの腕の動きをロボットアームに伝達するマスターアーム本体と、上記マスターアーム本体においてユーザの肘が載せられる部分に設けられ、少なくとも2自由度の運動制御が可能な肘スイッチとを備えていることを特徴としている。
【0011】
上記構成によれば、マスターアーム本体が有する運動自由度に加え、肘スイッチにより2自由度の運動制御が可能となる。よって、上記構成の遠隔操縦装置を用いることで、より高い自由度のロボットアーム等の操縦対象を操縦することが可能となる。
【0012】
また、マスターアーム本体により、ユーザの腕の動きがロボットアームに伝達されるので、ユーザは、あたかも自分の腕であるかのようにロボットアームを操縦することができるので、より多彩な運動をロボットアームに指示することができる。
【0013】
さらに、肘スイッチは、ユーザの肘が載せられる部分に設けられるので、ユーザは、肘を肘スイッチに置いた状態で肘スイッチを操作することが可能となる。よって、ユーザは、自身の肘を用いて直感的に肘スイッチを操作することができるとともに、長時間の使用においてもそれほど疲労することなく操縦対象を操縦することが可能となる。
【0014】
さらに、本発明の遠隔操縦装置は、マスターアーム本体を操作する状態においてユーザが前腕を動かした際、ユーザの肘を支えるアームレストを備えていることが好ましい。
【0015】
上記構成によれば、アームレストがユーザの前腕の動きを規制するので、ユーザの肘の動きに肘スイッチを正しく追従させることができる。
【0016】
また、本発明の遠隔操縦装置は、マスターアーム本体を操作する状態においてユーザが前腕を上げる動作をした際、カウンタバランスとして機能するアームレストを備えていることが好ましい。
【0017】
上記構成によれば、ユーザが前腕を振り上げる際の負担を軽減することができる。
【0018】
さらに、本発明の遠隔操縦装置は、上記マスターアーム本体におけるユーザの肘を前後させる関節をロック可能なスイッチを備えていることが好ましい。
【0019】
上記構成によれば、ユーザは、必要に応じスイッチを操作し、肘スイッチを肘の動きに正しく追従させるようにすることができる。
【0020】
また、本発明の遠隔操縦装置は、上記肘スイッチによるロボットアームの運動制御をオン/オフ可能なスイッチを備えていることが好ましい。
【0021】
上記構成によれば、ユーザの必要に応じてスイッチを操作し、肘スイッチを機能させることができる。なお、上述のスイッチは、フットスイッチ、手先スイッチ等、種々のスイッチを適用することができる。
【0022】
また、本発明の遠隔操縦装置において、上記マスターアーム本体におけるユーザの前腕を上下させる関節の回転軸が、ユーザの肘とアームレストとの接触点、またはその接触点からややユーザの前腕部内部を通るように設定されていることが好ましい。
【0023】
上記構成によれば、ユーザは、肩や上半身を動かすことなく、自然な動きで前腕を上下させることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の遠隔操縦装置によれば、肘スイッチにより少なくとも2自由度の運動制御が可能とされているので、より高い自由度のロボットアーム等の操縦対象を操縦することが可能となる。また、マスターアーム本体により、ユーザの腕の動きがロボットアームに伝達されるので、ユーザは、あたかも自分の腕であるかのようにロボットアームを操縦することができるので、より多彩な運動をロボットアームに指示することができる。さらに、ユーザは、自身の肘を用いて直感的に肘スイッチを操作することができるとともに、長時間の使用においてもそれほど疲労することなく操縦対象を操縦することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
(1.マスターアームの概要)
本発明の遠隔操縦装置の一実施形態について、以下に説明する。本実施形態のマスターアーム(遠隔操縦装置)1は、図1に示すように、リンク2a・3a・4a・5a・6a・7aと、グリップ8とを備えている。また、これらのリンク2a〜7aは、関節2b・3b・4b・5b・6b・7bのそれぞれにより接続されている。さらに、リンク5aには、アームレスト9が固定されており、リンク4aには、肘スイッチ10が固定されている。
【0026】
このように、マスターアーム1は、リンク2a〜7a、関節2b〜7b、およびグリップ8が連結されることで、ユーザの腕の骨格に沿うような形状を有している。なお、特許請求の範囲においては、リンク2a〜7a、関節2b〜7b、およびグリップ8からなる機構を「マスターアーム本体」として記載している。
【0027】
なお、図1においては、リンク4a、リンク5a、関節2b、および関節4bが、リンクや肘スイッチの背面に図示されており、これらの部材がどのように接続されているかわかりづらいかもしれない。そこで、リンク2a〜7a、グリップ8、および関節2b〜7bの構成を簡略化した構成を図2に示す。
【0028】
図2に示すように、リンク2aは、関節2bを介してリンク3aに接続されている。このように、リンク2aとリンク3aとを関節2bを用いて接続することにより、リンク3aは、リンク2aに対して回動できるように構成されている。
【0029】
また、リンク3aは、関節2bと関節3bとの間をL字状に接続しており、さらに関節3bを介してリンク4aに接続されている。このように、リンク3aとリンク4aとを関節3bを用いて接続することにより、リンク4aは、リンク3aに対して回動できるように構成されている。
【0030】
特に、関節3b(ユーザの前腕を上下させる関節)の回転軸は、ユーザの肘とアームレスト9との接触点、もしくはややユーザの前腕部内部を通るようにすることが好ましい。これにより、ユーザは、肩や上半身を動かすことなく、自然な動きで関節3bを回転させることができる。
【0031】
以下、リンク4a、リンク5a、リンク6a、およびリンク7aは、リンク3aと同様にL字形状を有しており、関節4a・5b・6b・7bのそれぞれを接続している。そして、グリップ8は、リンク7aと関節7bを介して接続されている。
【0032】
このように、マスターアーム1におけるリンク2a〜7aおよびグリップ8は、関節2b〜7bを介して接続されることにより、隣接するリンク同士、またはリンクとグリップとは、互いに回動可能なように構成されている。
【0033】
ここで、図3(a)および図3(b)を用いて、ユーザがマスターアーム1を操作する状態について説明する。図3(a)に示すように、ユーザの右腕および左腕を載せることができるよう、右腕および左腕のそれぞれについてマスターアーム1が設けられる。もちろん、右腕および左腕のいずれか一方にだけマスターアーム1を設けてもよい。
【0034】
また、シートの高さは、マスターアーム1が設置される環境に応じて適宜設定すればよい。たとえば、図3(a)に示すように、ユーザがマスターアーム1を操作する際、ユーザが深い位置で腰掛けれるようなシートを設けてもよいし、図3(b)に示すように、ユーザが中腰の状態でマスターアーム1を操作できるようにシートを設けてもよい。
【0035】
(2.アームレストの構成)
また、図1においては、ユーザの腕の背面にアームレスト9および肘スイッチ10が隠れるように図示されており、アームレスト9および肘スイッチ10の構成が少しわかりづらいかもしれない。そこで、図4および図5を用いて、アームレスト9および肘スイッチ10の構成を具体的に説明する。
【0036】
図4は、図1の矢印Aにて示される方向からマスターアーム1を見た場合における、リンク5aおよびアームレスト9の構成を示す図である。図4に示すように、アームレスト9は、断面がL字形状を有しているとともに、リンク5aの端部に固定されている。
【0037】
このようにアームレスト9を設けることにより、このアームレスト9の一部に適当なおもりを付加すれば、リンク4aに対してリンク5aを回動させる際、アームレスト9はカウンタバランスとしての役割も果たす。つまり、図9(a)に示す状態から図9(b)に示す状態までユーザがグリップ8を持ち上げた際、アームレスト9がカウンタバランスとして機能し、ユーザの操作負担が軽減される。なお、アームレスト9の大きさは、ユーザに合わせて適宜変更すればよい。
【0038】
また、アームレスト9は、図1に示すように、リンク5aに固定される接続板9aと、この接続板9aから延びるストッパ9bおよびストッパ9cとを備えている。
【0039】
接続板9aは、リンク5aの長手方向およびリンク4aの長手方向に広がる板状体として構成されている。また、ストッパ9bは、リンク4aの長手方向と略直交する板状体として、接続板9aから延びるように構成されている。さらに、ストッパ9cは、リンク5aの長手方向と略直交する板状体として、接続板9aおよびストッパ9bから延びるように形成されている。
【0040】
このようにアームレスト9を構成することにより、ストッパ9bおよびストッパ9cは、ユーザがマスターアーム1を操作する際、ユーザの肘を支える役割を果たしている。
【0041】
つまり、ユーザが前腕を上げて関節3bを回転させた場合、肘スイッチ10に置いた前腕が滑り落ちるように重力が働く。このような場合において、ストッパ9cは、ユーザの肘が滑り落ちないよう、ユーザの前腕を支える。
【0042】
また、ユーザが前腕を旋回させて関節4bを回転させた場合、勢いあまって肘スイッチ10に置いた前腕が肘スイッチ10から外れてしまうことも考えられる。これでは、ユーザの肘の動きに、肘スイッチ10が追従しなくなってしまう。このような場合において、ストッパ9bは、ユーザの前腕の動きを規制することで、ユーザの肘の動きに肘スイッチ10が正しく追従するようにしている。
【0043】
(3.肘スイッチの構成)
また、図5は、図1の矢印Bにて示される方向からマスターアーム1を見た場合における、リンク2a・3a・4a、関節3b、および肘スイッチ10の構成を示す図である。図5に示すように、肘スイッチ10は、リンク4aにおける関節3bとの接続位置から、リンク4aと同じ方向に向かって延びるよう、リンク4aに固定されている。
【0044】
なお、図1および図5においては、説明を簡略化するために肘スイッチ10を単なる直方体として説明したが、より具体的は、肘スイッチ10は、図1に示す矢印a〜d方向に移動可能なよう、スライドガイドおよびマイクロスイッチを用いて構成されている。以下、肘スイッチ10の具体的な構成について、図6(a)〜図6(c)を用いて説明する。
【0045】
図6(a)に示すように、肘スイッチ10は、基板11と、蓋板12と、4つのマイクロスイッチ固定ベース13…と、4つのマイクロスイッチ14…と、2つのスライドガイド15…と、スライドベース16と、断面コ字状の中間部材17とから構成されている。
【0046】
先ず、マイクロスイッチ14…およびスライドガイド15…の組み立て方について、図6(b)を用いて説明する。図6(b)に示すように、各マイクロスイッチ14を、マイクロスイッチ固定ベース13の上に固定し、さらにマイクロスイッチ固定ベース13を基板11上に固定する。
【0047】
また、2つあるスライドガイド15の一方を、基板11上に固定し、さらにそのスライドガイド15の上に、スライドベース16に固定された他方のスライドガイド15を固定する。最後に、他方のスライドガイド15に中間部材17を取り付ける。なお、2つのスライドガイド15は、いずれも直線状のスライドレール上をブロックが移動可能に配置されたものを用いている。
【0048】
また、2つのスライドガイド15は、上記ブロックの移動方向が互いに十字状に交差するよう、基板11上に設けられる。これにより、中間部材17は、基板11上を十字状に移動することが可能とされている。さらに、4つのマイクロスイッチ14…は、中間部材17の4方向に関する移動量を検知できるよう、基板11上において中間部材17の四方に設けられる。
【0049】
最後に、図6(c)に示すように、中間部材17の上に蓋板12を固定することで、肘スイッチ10を組み立てることができる。なお、この蓋板12が、ユーザが肘を載せる部分となる(図1参照)。
【0050】
このようにして肘スイッチ10を構成することにより、ユーザが蓋板12に載せた肘を移動させると、その肘の移動に伴って蓋板12および中間部材17が移動する。そして、上述したように、中間部材17の4方向に関する移動量は、マイクロスイッチ14…により検知される。したがって、ユーザの肘の移動量を、4つの方向に関して、マイクロスイッチ14…により検知することができる。
【0051】
そして、この肘スイッチ10で検出されるユーザの肘の動きを、ロボットアームに出力することで、本実施形態のマスターアーム1は、多彩な動きをロボットアームに指示することができるものとなっている。その具体的な理由については、後述する。
【0052】
(4.グリップの構成)
次に、図1においては、グリップ8がユーザに握られている状態で図示されているので、グリップ8の構成を具体的に理解できないかもしれない。そこで、図7を用いて、グリップ8の構成を具体的に説明する。
【0053】
図7は、図1における矢印Cの方向から見た場合における、グリップ8の構成を示す図である。図7に示すように、グリップ8は、リンク7aと関節7bを介して接続されるL字状部材8aと、ユーザに把持される把持部8bとからなる。このように、グリップ8をL字状部材8aおよび把持部8bからなる構成とすることで、グリップ8にはジンバル機構が採用されている。
【0054】
また、図7に示すように、グリップ8は、関節5b、関節6b、および関節7bのそれぞれの回転軸が交わる参照点Rが、把持部8b内に規定できるように設けられている。なお、これらの関節5a・6b・7bは、ユーザが手首だけ動かした場合にグリップ8を回転させるものである。
【0055】
さらに、この参照点Rは、図2に示すように、リンク5aの屈曲点R’の鉛直上になるように設定されている。この屈曲点R’は、ユーザが前腕部を載せるリンク5aにおける、ユーザの手首側に係る端点ともいえる。このように参照点Rを設定することで、グリップ8は、その操作性が高められている。
【0056】
なお、図7においては、棒状の把持部8bを示したが、把持部8bは、たとえば図8(a)に示すように、ユーザが握り易い形状を有していることが好ましいことはいうまでもない。また、把持部8bには、マスターアーム1の動きをロボットアームに伝える機能をオン/オフすることができるスイッチ8cを設けてもよい。なお、図8(a)に示す把持部8bは、図8(b)に示すように、ユーザの人差し指と親指とに挟まれることで把持可能である。
【0057】
さらに、図8(a)に示す把持部8bに、ユーザの人差し指で操作可能なレバー8dを設けてもよい。このレバーを操作することで、ロボットの先端のグリッパの開閉操作など、マスターアーム1で操作できるロボットアームの自由度を1つ増やすことができる。
【0058】
(5.フットスイッチに関して)
また、本実施形態のマスターアーム1においては、肘スイッチ10を前後方向(図1におけるa方向およびb方向)に操作する際に、関節2b(ユーザの肘を前後させる関節)が回転してしまい、肘スイッチ10がユーザの肘の動きに正しく追従しない場合がある。このような不具合を防止するため、図3(a)および図3(b)に示すように、フットスイッチ1aを設けてもよい。なお、この目的のためのスイッチは、フットスイッチに限らずどのようなスイッチでも可能なことはいうまでもないが、以下では図3(a)および図3(b)に示したフットスイッチを一例として説明する。
【0059】
つまり、ユーザがフットスイッチ1aを踏むと、関節2b(図1参照)がロックされるようにしておく。これにより、ユーザは、必要に応じフットスイッチ1aを踏み、肘スイッチ10を肘の動きに正しく追従させるようにすることができる。なお、フットスイッチ1aを踏むことでロックされる関節は、関節2bに限られず、他の関節であってもよい。
【0060】
さらに、ユーザが無意識に肘スイッチ10を動かしてしまい、ロボットアームがユーザの意図しない動きをすることも考えられる。そこで、フットスイッチ1aにより肘スイッチによるロボットアームの運動制御をオン/オフできるようにし、フットスイッチ1aを踏んだときだけ、肘スイッチ10にて検知される肘の動きをロボットアームに出力するようにしてもよい。これにより、ユーザの必要に応じて肘スイッチ10を機能させることができる。
【0061】
(6.マスターアームの機能について)
マスターアーム1の構成は上述したとおりである。そして、マスターアーム1は、上述した構成において、ユーザの肘を載せることができる肘スイッチ10が設けられており、この肘スイッチ10により、2つの冗長自由度を操作可能な点に特徴的な機能がある。以下、このマスターアーム1の特徴的な機能について説明する。
【0062】
先ず、肘スイッチ10は、図6(a)〜図6(c)を用いて説明したように、マイクロスイッチ14…およびスライドガイド15…を設けることで、ユーザの肘に関して4方向(2自由度)の移動量が検知できるように構成されている。また、マスターアーム1本体は、図2に示すように、6つの関節(関節2b・3b・4b・5b・6b・7b)がそれぞれ1自由度を有しており、合計6自由度を有している。
【0063】
このように、肘スイッチ10が2自由度を有しており、さらにマスターアーム1本体が6自由度を有しているので、マスターアーム1によれば、合計8自由度(グリッパ部の開閉自由度も加えると合計9自由度)を有する動作を制御することができる。よって、本実施形態のマスターアーム1によれば、7自由度以上の冗長自由度を有するロボットアームを遠隔操縦することが可能となる。
【0064】
特に、本実施形態のマスターアーム1では、肘スイッチ10をユーザが肘で動かすことで、ロボットアームを操作することができる。したがって、ユーザは、肘を浮かすことなく、マスターアーム1を用いてロボットアームを操作することができるので、ロボットアームを長時間操作した際の疲労が軽減される。さらに、肘を動かすことでロボットアームを操作できるので、ユーザは、直感的にロボットアームを操作することができる。
【0065】
このように、本実施形態のマスターアーム1は、ユーザの腕の動きをロボットアームに伝達するマスターアーム本体(リンク2a〜7a、関節2b〜7b、グリップ8)と、上記マスターアーム本体においてユーザの肘が載せられる部分に設けられ、2自由度の運動制御が可能な肘スイッチ10とを備えているものである。
【0066】
上記構成によれば、マスターアーム本体が有する運動自由度に加え、肘スイッチ10により2自由度の運動制御が可能となる。よって、上記構成のマスターアーム1を用いることで、より高い自由度のロボットアーム等の操縦対象を操縦することが可能となる。
【0067】
また、マスターアーム本体により、ユーザの腕の動きがロボットアームに伝達されるので、ユーザは、あたかも自分の腕であるかのようにロボットアームを操縦することができるので、より多彩な運動をロボットアームに指示することができる。
【0068】
さらに、肘スイッチ10は、ユーザの肘が載せられる部分に設けられるので、ユーザは、肘を肘スイッチ10に置いた状態で肘スイッチ10を操作することが可能となる。よって、ユーザは、自身の肘を用いて直感的に肘スイッチ10を操作することができるとともに、長時間の使用においてもそれほど疲労することなく操縦対象を操縦することが可能となる。
【0069】
なお、ユーザの肘に接触する部位を有するマスターアームであれば、肘スイッチ10を設けることで、より多彩な運動をロボットアームに指示することが可能となる。
【0070】
さらに、本実施形態のマスターアーム1は、マスターアーム本体を操作する状態においてユーザが前腕を動かした際、ユーザの肘を支えるアームレスト9を備えていることが好ましい。
【0071】
上記構成によれば、アームレスト9がユーザの前腕の動きを規制するので、ユーザの肘の動きに肘スイッチ10を正しく追従させることができる。
【0072】
また、本実施形態のマスターアーム1は、マスターアーム本体を操作する状態においてユーザが前腕を上げる動作をした際、カウンタバランスとして機能するアームレスト9を備えていることが好ましい。
【0073】
上記構成によれば、ユーザが前腕を振り上げる際の負担を軽減することができる。
【0074】
さらに、本実施形態のマスターアーム1は、マスターアーム本体におけるユーザの肘を前後させる関節2bをロック可能なスイッチ(たとえばフットスイッチ1a)を備えていることが好ましい。
【0075】
上記構成によれば、ユーザは、必要に応じてスイッチを操作し(たとえばフットスイッチ1aを踏む等)、肘スイッチ10を肘の動きに正しく追従させるようにすることができる。
【0076】
また、本実施形態のマスターアーム1は、肘スイッチ10によるロボットアームの運動制御をオン/オフ可能なスイッチ(たとえばフットスイッチ1a)を備えていることが好ましい。
【0077】
上記構成によれば、ユーザの必要に応じてスイッチを操作し(たとえばフットスイッチ1aを踏む等)、肘スイッチ10を機能させることができる。
【0078】
また、本実施形態のマスターアーム1は、上記マスターアーム本体におけるユーザの前腕を上下させる関節3bの回転軸が、ユーザの肘とアームレスト9との接触点、またはその接触点からややユーザの前腕部内部を通るように設定されていることが好ましい。
【0079】
上記構成によれば、ユーザは、肩や上半身を動かすことなく、自然な動きで前腕を上下させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の遠隔操縦装置は、種々のロボットの操縦装置として適用可能である。なかでも、災害救助を支援するレスキューロボットの操縦装置として、本発明の遠隔操縦装置を適用することが最も好適である。
【0081】
なぜなら、レスキューロボットを操縦するのはレスキュー隊員であり、ロボットの専門家ではない。したがって、レスキューロボットを操縦するための遠隔操縦装置としては、直感的にレスキューロボットを操縦できるものが求められる。もちろん、長時間操縦しても疲労の少ない遠隔操縦装置が好適である。この点、本発明の遠隔操縦装置は、直感的にロボットを操縦することもできるし、長時間の操縦でもユーザが疲れないような種々の工夫が施されている。
【0082】
また、本発明の遠隔操縦装置は、土木作業用ロボット(高機能建設機械)の操縦装置としても用いることができる。この場合でも、操縦者はロボットの専門家ではなく、土木作業員であるので、レスキューロボットを操縦するための遠隔操縦装置としては、直感的にレスキューロボットを操縦できるものが求められる。この点において、本発明の遠隔操縦装置が好適であることは、上述したとおりである。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の遠隔操縦装置の一実施形態に係るマスターアームの構成を示す斜視図である。
【図2】図1のマスターアームの構成を簡略化して示す図である。
【図3】(a)および(b)は、ユーザが図1のマスターアームを操縦する状態を示す図である。
【図4】図1のマスターアームにおけるアームレストの構成を示す図である。
【図5】図1のマスターアームにおいて肘スイッチが取り付けられている状態を示す図である。
【図6】(a)〜(c)は、図1のマスターアームにおける肘スイッチの構成を詳細に示す図である。
【図7】図1のマスターアームにおけるグリップの構成を詳細に示す図である。
【図8】(a)および(b)は、図1のマスターアームに設けられるグリップの好適な構成を示す図である。
【図9】(a)および(b)は、ユーザが図1のマスターアームのグリップを移動させる状態を示す図である。
【符号の説明】
【0084】
1 マスターアーム(遠隔操縦装置)
2a〜7a、2b〜7b、8 マスターアーム本体
10 肘スイッチ
9 アームレスト
2b〜7b 関節

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザの腕の動きをロボットアームに伝達するマスターアーム本体と、
上記マスターアーム本体においてユーザの肘が載せられる部分に設けられ、少なくとも2自由度の運動制御が可能な肘スイッチとを備えていることを特徴とする遠隔操縦装置。
【請求項2】
マスターアーム本体を操作する状態においてユーザが前腕を動かした際、ユーザの肘を支えるアームレストを備えていることを特徴とする請求項1に記載の遠隔操縦装置。
【請求項3】
マスターアーム本体を操作する状態においてユーザが前腕を上げる動作をした際、カウンタバランスとして機能するアームレストを備えていることを特徴とする請求項1に記載の遠隔操縦装置。
【請求項4】
上記マスターアーム本体におけるユーザの肘を前後させる関節をロック可能なスイッチを備えていることを特徴とする請求項1に記載の遠隔操縦装置。
【請求項5】
上記肘スイッチによる上記ロボットアームの運動制御をオン/オフ可能なスイッチを備えていることを特徴とする請求項1に記載の遠隔操縦装置。
【請求項6】
上記マスターアーム本体におけるユーザの前腕を上下させる関節の回転軸が、ユーザの肘とアームレストとの接触点、またはその接触点からややユーザの前腕部内部を通るように設定されていることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の遠隔操縦装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−334695(P2006−334695A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−160186(P2005−160186)
【出願日】平成17年5月31日(2005.5.31)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】