説明

遷移金属酸化物のカーボンコーティングされたナノ粒子の製造方法

本発明は、チタン、亜鉛、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタルの中から選択された遷移元素の酸化物からなり、アモルファスカーボンによってコーティングされたナノ粒子の製造方法であって、以下の連続する工程を含む。すなわち、(i)前駆体として、少なくとも1つの前記遷移金属のアルコキシドと、アルコールと、前記遷移金属に対して過剰な量の酢酸と、を含む液体混合物を準備し、前記液体混合物を、水で希釈し、水溶液を形成する工程であって、前記前駆体は、前記水溶液を凍結乾燥できるように、ゾルの形成を防ぐ、もしくは実質的に形成させないようなモル比でもって前記水溶液に含まれ、前記遷移金属元素、炭素元素、および酸素元素は、化学量論比でもって前記ナノ粒子に含まれる工程と、(ii)前記水溶液を、凍結乾燥する工程と、(ii)前記ナノ粒子を得るために、前記工程で得られた凍結乾燥物を、真空下もしくは、不活性雰囲気下において熱分解する工程を含む。本発明は、また、遷移金属炭化物を製造する方法のアプリケーションにも関連する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子炉の構成要素の一部となり得る、遷移金属のナノマテリアルの分野に関連する。特に、本発明は、少なくとも1つの遷移金属酸化物のカーボンコーティングされたナノ粒子の製造方法に関連する。
【背景技術】
【0002】
遷移金属の炭化物は、特に、次世代の原子炉(具体的には、所謂第4世代原子炉といわれる)の特定の構成の製造のために、盛んに研究がされている。それは、それらの高い耐熱特性、良好な熱伝導性、低い中性子吸収性、小さい吸収の断面、および良好な耐放射性によるものである。
【0003】
その反面、それらは、原子炉のような用途には偏見を抱かせる脆弱性を有している。
【0004】
この脆弱性を低減することが、これまで提言されてきており、ナノ微結晶を形成するために、上記炭化物の微結晶の平均サイズを、数ナノメーターから数百ナノメーターの範囲内まで小さくすることが行われている。
【0005】
このようなことは、アモルファスカーボンによって覆われた遷移金属酸化物を炭素熱還元することによって行われ、平均サイズを数ナノメーターから数百ナノメーターまでの範囲内とすることができる(このことは、以下の文献において「酸化物ナノ粒子(oxide nanoparticles)」として称される)。この還元反応は、遷移金属炭化物のナノ微結晶に出来るだけ不純物が入らないようにするために、出来限り完全に行われる必要がある。
【0006】
上記の目的のために、炭素熱還元は、酸化物ナノ粒子中の微結晶が、平均サイズが大きい場合、および/または、最初から大量の不純物を含む場合、大抵、必要以上の高温で行われる。
【0007】
しかしながら、非常に高温で処理することによって、適切な純度を有する遷移金属の炭化物微結晶を得ることができるが、この高温によって、それらの微結晶の平均サイズは非常に大きくなってしまうか、粗粉末状になってしまう。
【0008】
したがって、最後の工程で、しばしば、粉末を構成する微結晶の平均サイズを小さくするために、粉末を磨り潰す工程が必要とされる。そのような磨り潰し工程は、炭化物の酸化を防ぐために、不活性雰囲気(ほとんどの場合がグローブボックスの中で)下で行われる。しかしながら、このような工程は、研磨材による汚染の問題があり、また、製品としては、せいぜい1ミクロンサイズの遷移金属炭化物の微結晶にしかならない。
【0009】
既存のプロセスにおける温度よりも低温で炭素熱還元を行うために、酸化ジルコニウムナノ粒子の合成のための新しいアプローチが、「Doll`e et al., Journal of the European Ceramic Society, Vol. 27, N4, 2007, pp. 2061-2067」において提唱されている。この合成の最初の工程は、酢酸の中にスクロースが溶解している間のゾル−ゲル反応であり、粘性の高いゲルを形成するために、ジルコニウムのn−プロポキシドが加えられる。得られたゲルを乾燥・熱分解し、平均サイズが、15nmの酸化物ナノ粒子が得られるが、凝集し、2μmから3μmサイズの凝集塊となる。これらの酸化物ナノ粒子を1400℃で炭素熱還元した後に、比較的小さなサイズのジルコニウム炭化物のナノ微結晶(93nmオーダー)が得られる。それでもやはり、不純物は含まれている。
【0010】
以降の記載の意味において、これらの不純物は、特に、遊離炭素、溶存酸素およびオキシ炭化物から構成されると考えられる。
【0011】
それらの純度を上げる試みにおいて、上記のジルコニウム炭化物のナノ微結晶を同様に1600℃の高温まで加熱されたが、それらの不純物を取り除かずに、平均サイズが150nmまで増加する不利益な結果となった。
【発明の概要】
【0012】
以上より、本発明の目的の1つは、適度な温度での炭素熱還元で行った場合でも、遷移金属炭化物のナノ微結晶が高水準の純度を示すことができ、および/または、ゾル−ゲル法などの最良の既存プロセスによって得られるナノ粒子よりも小さい平均サイズとすることができる、可能な限り最小サイズの酸化物ナノ粒子を製造するプロセスを提供することである。
【0013】
したがって、本発明の1つの目的は、チタン(Ti)、亜鉛(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)の中から選択された遷移元素の酸化物からなり、アモルファスカーボンによってコーティングされたナノ粒子の製造方法であって、
(i)前駆体として、少なくとも1つの前記遷移金属のアルコキシドと、アルコールと、前記遷移金属に対して過剰な量の酢酸と、を含む液体混合物を準備し、前記液体混合物を、水で希釈し、水溶液を形成する工程であって、前記前駆体は、前記水溶液を凍結乾燥できるように、ゾルの形成を防ぐ、もしくは実質的に形成させないようなモル比でもって前記水溶液に含まれ、前記遷移金属元素、炭素元素、および酸素元素は、化学量論比でもって前記ナノ粒子に含まれる工程と、
(ii)前記水溶液を、凍結乾燥する工程と、
(iii)前記ナノ粒子を得るために、前記工程で得られた凍結乾燥物を、真空下もしくは、不活性雰囲気下において熱分解する工程と、
を含む、ナノ粒子の製造方法を提供することにある。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明において、遷移金属酸化物ナノ粒子が、アモルファスカーボンによって、「コーティング」されているとは、それらの表面が、部分的もしくは完全にアモルファスカーボンによって覆われていることを意味する。同様に、カーボンは、それらが、原子レベルの短いオーダーで部分的には結晶状態で存在しているが、本質的または、通常的には結晶状態ではないために、「アモルファス(非結晶質)」と言われる。
【0015】
好適には、凍結乾燥工程は、水溶液を液体窒素の中へ噴霧し、水溶液の均一な組成を有する、凍結粒子を得て、それらに含まれる水分を昇華により取り除くための減圧処理することを含む。更なる乾燥処理の後、これらの工程により、粉末を得る凍結乾燥工程となる。本発明においては、「均一な組成」とは、ミクロンサイズにおいて、好適にはナノメーターサイズの体積において、同一、または、本質的に同一な組成を意味する。
【0016】
噴霧は、多種多様な噴霧器を用いることができ、例えば、ノズル噴霧器や、超音波噴霧器を用いることができる。
【0017】
可能な限り高い純度を有する酸化物ナノ粒子を得るために、凍結乾燥工程は、遷移金属、炭素、水素または酸素以外のいかなるものも含まない。この目的を達成するために、アルコキシドは、イソプロポキシドまたはn−プロポキシドを構成するグループから選択される。
【0018】
異なる遷移金属を含むアルコキシドは、例えば、チタン酸化物と亜鉛酸化物の混合物など、対応する酸化物を含むナノ粒子を形成するために、混合されていてもよい。
【0019】
アルコールは、特に、アルコキシドに対する賦形剤として機能する。アルコールは、イソプロパノール(または2−プロパノール)および1−プロパノールを構成するグループから選択される。何故なら、これらのアルコールは、上記の好適なアルコキシドと同様な炭素鎖を有しているためである。
【0020】
酢酸は、一方で、化学修飾剤であって、金属アルコキシド内で、アルコキシ基と、アセテート基の置換を可能にする。有利なことに、これは、初期のアルコキシドと比較して、水との反応性が低下した修飾アルコキシドを提供する。このようにして、沈殿物を形成してしまう可能性がある、アルコキシドの縮合反応(ゾル−ゲル反応)を防止または禁止する。この反応が、限定的であるとき、ゾル−ゲル反応が始まることによって、ゾル形成が始まる。本発明における意味として、ここでのゾルとは、オリゴマーを含むもの、および/または、水の中に浮遊するコロイドを意味する。
【0021】
さらには、水溶液を凍結乾燥することができなくなるまで粘性を高めたり、水溶液の組成を不均一にしたりする、ゾルの形成を防ぐ、または禁止する目的として、水溶液の粘性を下げることもできる酢酸が、アルコキシドとアルコールの量に対して過剰量加えられる。当業者は、例えば、上記の基準を満たす、本発明に係る水溶液を、透明溶液とみなしてもよい。これは、本発明の工程において、必要不可欠な特徴のひとつである。なぜなら、酸化物ナノ粒子の前駆体(つまりは、遷移金属アルコキシド、酢酸、アルコールおよび、適切な場合は炭素化合物を含む)が、例えば、透明な水溶液の状態にあるということは、これらの前駆体が、分子レベルで均一に分布していることを保障し、結果として、酸化物ナノ粒子の均一な組成を促す。
【0022】
全てが等しく、溶液の濃度の低下が、本発明に係る製造方法によって得られる酸化物ナノ粒子の平均サイズを小さくすることを考えるならば、原則として、可能な限り低濃度の水溶液を用いることが好適である。理論上は、溶液の濃度の下限はないが、一般的には、特に経費の理由によって、実施コストを下げるために、あまりにも低い濃度の溶液は、使用しないことが好まれる。
【0023】
したがって、好適には、遷移金属の水溶液中の濃度は、0.1mole/l以下とされる。より好適には、遷移金属の水溶液中の濃度は、0.001mole/l以上、0.1mole/l以下の範囲内とされ、最も好適には、0.01mole/l以上、0.1mole/l以下の範囲内とされる。このような濃度とすることで、いかなるゾル状の粒子による凝集を防止もしくは制限することができる。また、これらの濃度とすることで、従来の凍結乾燥器を用いて容易に凍結乾燥することができる。なぜなら、水溶液の三重点温度が、純粋の三重点温度と、あまりかわらないためである。
【0024】
また、可能な限り酸化物ナノ粒子の平均サイズを小さくすることを目的として、凍結乾燥によって得られる凍結粒子は、0.1μm以上、10μm以下の平均サイズの範囲内であってもよく、好適には、2μm以下、更に好適には、0.5μm以上、1μm以下の平均サイズの範囲内であってもよい。
【0025】
以下の記載においては、「平均サイズ」との文言により、対象物(酸化物ナノ粒子、遷移金属炭化物ナノ微結晶など)が、実質的に球状の場合には、その直径の値を意味する。また、それらが、実質的に球状でない場合は、その対象物の主要寸法の平均値を意味する。
【0026】
上記の目的を達成するために、好適には、水溶液は、液体窒素が入ったデュワービン(魔法瓶)の中に噴霧されてもよい。および/または、噴霧は、補正された開口部で、例えば、0.51mmの開口部を有するスプレーノズルを備えた噴霧器によって行われてもよい。水溶液は、開口部から0.03MPa以上、0.4MPa以下の圧力で吐出され、好適には、0.3MPaの圧力で吐出される。一般的には、搬送ガスとしては、圧縮空気を用いることができ、好適には、フィルターされたアルゴンや窒素などの中性の産業用ガスを用いることができる。
【0027】
好適な実施形態によれば、水溶液は、溝付の円錐注入物を用いて、スプレーノズル内に回転しながら入れられてもよい。この円錐注入物によれば、水溶液が出口開口部に注入される前に、遠心効果でもって、水溶液をノズルの内壁に衝突させることができる。一般的には、これにより、乱流効果を有し、軸方向において円環状の液体ジェットを形成することができる。
【0028】
凍結乾燥工程では、どのようなタイプの既存の凍結乾燥器も用いることができる。本工程において、一般的な条件は重要ではなく、粒子が、水分が抜けるまで、凍結状態に維持されることが、特に、粒子間の凝集現象を防ぐためには、必要である。
【0029】
また、本工程における条件は、結果として、特に、熱分解中において酸化物ナノ粒子中に空孔が発生することを防ぐような脱水となることが、好適とされる。このような目的のために、凍結乾燥は、−200℃以上、50℃以下の温度範囲内で好適に行われ、より好適には、0.1Pa以上、100Pa以下の圧力下で、−20℃以上、30℃以下の温度範囲内で行われ、さらに好適には、10Pa以下で行われる。そして、効率的、かつ、可能な限りに迅速に、凍結乾燥を行うためには、例えば、ほぼ−20℃の温度下であって、ほぼ0.1Paの圧力下で行われてもよい。
【0030】
凍結乾燥工程は、望ましくは、吸着水の取り除き工程を含んでいてもよく、凍結乾燥物を、凍結乾燥工程の圧力下、好適には0.1Paの圧力下に維持し、そして、好適には30℃以上、100℃以下の範囲内に、より好適には、30℃となるように、温度を上昇させることを含む。
【0031】
水溶液から得られた凍結乾燥物によって、いくつかの特徴を有した形態での前駆体を得ることができる。
【0032】
凍結乾燥物は、特に、その体積において、均一な組成を有する。なぜなら、凍結乾燥工程は、水溶液においていかなる濃度勾配を生じさせずに水分を除去することができるためである。
【0033】
凍結乾燥物は、例えば、その熱処理に対する反応性を増しながら、微粉化されており、また、さらに好適なこととして、より小さい平均サイズの酸化物ナノ粒子が得るために、凍結乾燥物を、大気中にて扱うことができる。
【0034】
このようにして、遷移金属酸化物微結晶の平均サイズ(酸化物ナノ粒子の平均サイズとも言う)は、10nm以上、100nm以下の範囲内となり、好適には、10nm以上、50nm以下の範囲内となり、さらに好適には、10nm以上、20nm以下の範囲内となる。
【0035】
好適なことに、凍結乾燥物の特徴として、熱分解後、酸化物ナノ粒子は、高温処理を行わずとも、小さい平均サイズで、かつ、高純度を有する遷移金属炭化物のナノ微結晶を得るための完全な炭素熱還元を行うことができる。
【0036】
さらには、凍結乾燥物を熱分解する工程は、i)オキシカーバイトなどの副生成物の形成を防ぐために、真空下もしくは、不活性大気下であって、ii)酸化物ナノ粒子の結晶化させる温度であって、同時に、この酸化物ナノ粒子製造工程において、炭素熱還元で、望ましくない炭化物ナノ微結晶を形成しない温度でもって、行われることが不可欠である。この工程での温度は、ほとんどの場合、400℃以上、900℃以下の範囲内となり、好適には、400℃以上、600℃以下の範囲内となり、さらに好適には、400℃以上、450℃以下の範囲内となる。
【0037】
また、本発明は、ナノ粒子の製造方法の後の段階、もしくは、ナノ粒子の製造方法に連続して、ナノ粒子を、炭素熱還元することによって、遷移金属の炭化物を、ナノ結晶の状態で得るためのアプリケーションにも関連している。
【0038】
凍結乾燥物には、熱分解(酸化物ナノ粒子を形成するため)と、その直後に行われる炭素熱還元と、を含む一度の熱処理が行われるという意味である場合、この炭素熱還元は、酸化物ナノ粒子の製造方法の後に、連続して行われてもよい。凍結乾燥物には、熱分解の工程として、不活性大気下において第1の熱処理が行われて、酸化物ナノ粒子が得られ、その後、炭素熱還元として、第2の熱処理がおこなわれるという意味である場合、炭素熱還元は、次のステップであってもよい。
【0039】
好適なことに、酸化物ナノ粒子の形成に必要な炭素、酸素および遷移要素は、アルコキシド、酢酸およびアルコールのみによって導入されていてもよい。これらの寄与率は、前駆体の化学式および/または、前駆体または、酸化物ナノ粒子の炭素と酸素の寄与率の熱重量分析(TGA)でもって、事前に計算され、決定されていてもよい。
【0040】
しかしながら、好適な実施形態においては、炭素および/または酸素の要素は、水溶液に加えられた、少なくとも1つの炭素化合物で作られた前駆体を通じて導入されていてもよい。この化合物は、水溶液中において、アルコキシドに対しては化学的に不活性であって、特に、アルコキシド加水分解を生じさせる、ヒドロキシルキ基(OH基)は含まない。したがって、それらの化合物は、以上の条件を満たすセルロース誘導体のグループ(郡)から選択されてもよい。
【0041】
例えば、好適には、メチルセルロースが用いられる。
【0042】
したがって、本発明に係る製造方法は、酸化ナノ粒子が、アモルファスカーボン/遷移金属酸化物の多様なモル比でもって形成される点で、柔軟であり、また、遷移金属酸化物の酸化物ナノ粒子は、アモルファスカーボンの皮膜生成率(coating raitos)の値において、広い幅を有する。この比率は、好適には、1:4の範囲内となり、より好適には、2:3の範囲内となる。
【0043】
好適な実施形態においては、本発明の水溶液において、過剰に加えられた酢酸は、モル比が、酢酸の総量と、アルコールの総量と、アルコキシドの総量とが、20:6:1から3:1:1の範囲内となり、より好適には、16:4:1となる。また、さらに、このようなモル比でもって、本発明に係る炭素化合物が加えられた後、粘性の増加を制限することができるということが判明している。
【0044】
好適には、本発明の水溶液のphは、凍結乾燥を行うための凝固点を過剰に低下させることを防ぐため、3以上、10以下の範囲内であって、より好適には、3以上、5以下の範囲内にある。
【0045】
(実施例)
本発明を制限するわけではないが、以下の実施例を目的とした記載から、本発明の目的、特徴、および優位性が、より明確になるだろう。
【0046】
以下の実施例は、対応する炭化物を得るために、ナノ粒子を用いることを受けて、異なる皮膜生成率を有する、さまざまな遷移金属の二酸化物のナノ粒子の、本発明に係る製造方法を説明する。
【0047】
(実施例1)
コーティングされた二酸化チタン(TiO)のナノ粒子の製造方法であって、炭素/二酸化チタンのモル比は、およそ3となる製造方法。
0.59gのTiOに対応して、2.27mlの体積のチタンイソプロポキシド(IsopTi)が、2.27mlのイソプロパノール(2−propanol)と、6.81mlの氷酢酸(100%)に加えられた。ここで、酸/アルコール/イソプロポキシドのモル比は、16/4/1となり、体積比は、3/1/1となった。この液体混合物は、前もって、0.1802gの炭素あたり、1.0790gのメチルセルロース(事前の熱重量分析検査による)が溶解している200mlの水溶液に加えられた。
【0048】
得られた水溶液は透明であり、ゾルの形成はなく、組成が均一であることを証明していた。次に、水溶液は水の中に希釈され、チタン(Ti)が、0.03mole/lの濃度となった600mlの水溶液を得た。
【0049】
次に、平均サイズが1μmの凍結した粒子を得て、液体窒素の中へ発射される液滴を得るために、この水溶液は、霧状にされた(噴霧器は、「Spraying Systems Emani Co.」のノズル径が0.51mmのものを使用)。
【0050】
これらの凍結粒子は、凍結乾燥器(Alpha 2−4 Christ LSC freeze dryer)の中に、液体窒素の温度でもって入れられる。凍結乾燥器の筐体内の圧力は、0.1Paまで減圧され、この圧力が、−20℃で、48時間、維持された。その後、筐体は、0.1Paの圧力が維持されたまま、3時間、30℃まで加熱された。
【0051】
−20℃で48時間および30℃で3時間、低圧を維持することで、昇華と、脱着でもって脱水が行われ、16gの乾燥粒子を得ることができた。
【0052】
前工程によって得られた乾燥粒子(凍結乾燥物)は、黒鉛ボートに配置され、アルミナ製のチューブ状のオーブンで熱分解された。熱分解は、アルゴンUのフロー(Arcal、1.2l/minのフロー)の中で、5℃/minの割合で、450℃に達するまで、温度を上昇させ、0.1時間、この状態を維持し、そして5℃/minの割合で室温となるまで温度を降下させて、行われた。熱分解工程の後、黒色粉末が得られた。X線回折(XRD)と、走査電子顕微鏡(SEM)分析を、これらの黒色粉末に対して行った結果、それらは、正方構造(アナターゼとして知られる)の二酸化チタンのナノ粒子の、16nmの平均サイズを有するナノ微結晶の状態であることがわかった。これらのナノ粒子におけるカーボンコーティングの存在は、空気中において、TGA(熱重量分析)によって定量測定された。以下の式の炭素熱還元反応から、二酸化チタンの完全な還元物を得るためには、理想状態の炭素/二酸化チタンのモル比は、3であることを考えれば、使用されたチタンイソプロポキシド、アルコール、酢酸、およびメチルセルロースの割合でもって、達成された炭素/二酸化チタンのモル比は3.04であった。
【0053】
【化1】

【0054】
(実施例2)
炭化チタン(TiC)ナノ微結晶の製造方法。
凍結乾燥工程から得られた凍結乾燥物を、黒鉛ボートに配置して、上記のアルミナのチューブ状オーブン(Adamel)の中でアルゴンフローの下、熱処理された。熱処理は、5℃/minの割合で、1300℃に達するまで、温度を上昇させ、2時間、この状態を維持し、そして5℃/minの割合で室温となるまで温度を降下させて、行われた。本実施例では、炭素熱還元が、上記の熱処理に連続して行われ、酸化物ナノ粒子が形成された。つまりは、凍結乾燥物に対して熱処理は1度だけ行われる。これによって、ナノメーターサイズの炭化チタン(TiC)であって、面心立方構造で、格子定数が4.326Å(理論上の値である4.327Åに非常に近い)で、平均微結晶サイズが65nmのものを得ることができた。これらは、X線回折(XRD)と、走査電子顕微鏡(SEM)分析によって確認された。
【0055】
TGA(熱重量分析)によって、炭化チタンの化学量論組成を決定することができ、酸素の残留物含有量は、1質量%以下であって、過剰な炭素が存在していることが示された(論理値の33.40%の代わりに、13.40%の質量増加によって示された)。この不純物と考えられる、炭素の過剰量に対する見地は、遷移金属炭化物から炭素の含量を減らすもしくは、無くすために、メチルセルロースから導入される炭素の総量を反復試行によって再考することに対し、有益である可能性がある。
【0056】
(実施例3)
コーティングされた二酸化チタン(TiO)のナノ粒子の製造方法であって、炭素/二酸化チタンのモル比は、0.5となる製造方法。
炭素/二酸化チタンのモル比が0.5となる、コーティングされた二酸化チタン(TiO)のナノ粒子の、導入される初期の炭素の総量を、適合させた点を除いて、実施例1と同様の方法で製造された。このようなナノ粒子は、特に、リチウム電池の電極のための成分材料としてのアプリケーション(用途)を見つけることができる。それらの粒子の皮膜生成率は、一般的に、炭素/二酸化チタンのモル比が、0.01以上、0.06以下の範囲内であって、好適には、0.02以上、0.05以下の範囲内である。
【0057】
(実施例4)
コーティングされた二酸化ジルコニウム(ZrO)または二酸化ハフニウム(HfO)のナノ粒子と、炭化ジルコニウムと炭化ハフニウムの製造方法。
双方ともアモルファスカーボンにコーティングされた二酸化ジルコニウム(ZrO)および二酸化ハフニウム(HfO)のナノ粒子は、上記の実施例と類似した条件下で製造された。炭素熱還元反応自体に関しては、同様の工程で行われた。つまりは、上記と同様の条件下で得られた凍結乾燥物に対し、1400℃でもって3時間と、5時間の熱処理をそれぞれ行い、平均サイズが40nmの炭化ジルコニウム(ZrC)と、30nmの炭化ハフニウム(HfC)を得た。
【0058】
しかしながら、炭素熱還元反応を引き起こしながら、温度が上昇している間、450℃付近において形成される酸化物ナノ粒子から、遷移金属炭化物が得られるとの条件は、注目される遷移金属に応じて、わずかに変更されてもよい。これらの条件は、一般的には、5℃/min以上、10℃/min以下の範囲内の割合であって、好適には、5℃/minの割合で温度を上げて、1000℃以上、1600℃以下の温度範囲内であって、好適には、1300℃以上、1400℃以下の温度範囲内に達するまで昇温される。そして、温度は、2〜6時間にわたり維持される。好適には、炭化チタン(TiC)に対しては、2時間、炭化ジルコニウム(ZrC)に対しては、3時間、炭化ハフニウム(HfC)に対しては、5時間にわたり温度が維持される。
【0059】
当業者は、もっとも完全な炭素熱還元反応を可能とし、本発明によれば、30nm以上、100nm以下の範囲内、好適には、30nm以上、70nm以下の範囲内、より好適には、30nm以上、40nm以下の範囲内となる、より可能な限り小さいサイズのナノ微結晶を達成するために、反復実施を通じて、上記の条件の微調整を行うことができるだろう。
【0060】
好適なことに、炭素熱還元の搬送ガスは、アルゴンガスを含む。より好適には、搬送ガスは、アルゴンUもしくは、Arcalを含む。
【0061】
上記の実施例は、チタン、ジルコニウム、ハフニウムを含む酸化物および炭化物ナノ粒子の製造方法に関連する。一般的な知識に基づき、当業者は、これらの方法を、バナジウム、ニオブ、タンタルなどの他の遷移金属に容易に適用することができる。
【0062】
以上の記載から、本発明の製造方法は、適度な温度での炭素熱還元反応の後に、純度の高く、および/または、既存のゾル−ゲル法で形成されたナノ粒子よりも小さいサイズである、遷移金属炭化物のナノ微結晶を製造することができる酸化物ナノ粒子を、小さいサイズでもって製造することを可能とすると、理解されるであろう。本製造方法は、また、実施が容易であり、また、特に、遷移金属酸化物が様々なアモルファスカーボンの皮膜生成率を有する、酸化物ナノ粒子の簡便な製造方法を可能とすることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン、亜鉛、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタルの中から選択された遷移元素の酸化物からなり、アモルファスカーボンによってコーティングされたナノ粒子の製造方法であって、
(i)前駆体として、少なくとも1つの前記遷移金属のアルコキシドと、アルコールと、前記遷移金属に対して過剰な量の酢酸と、を含む液体混合物を準備し、前記液体混合物を、水で希釈し、水溶液を形成する工程であって、前記前駆体は、前記水溶液を凍結乾燥できるように、ゾルの形成を防ぐ、もしくは実質的に形成させないようなモル比でもって前記水溶液に含まれ、前記遷移金属元素、炭素元素、および酸素元素は、化学量論比でもって前記ナノ粒子に含まれる工程と、
(ii)前記水溶液を、凍結乾燥する工程と、
(iii)前記ナノ粒子を得るために、前記工程で得られた凍結乾燥物を、真空下もしくは、不活性雰囲気下において熱分解する工程と、
を含む、ナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記モル比は、前記アルコキシドに対して化学的に不活性な炭素化合物の少なくとも1つを、前記水溶液に加えることによって、調整される。
【請求項3】
請求項2において、
前記炭素化合物は、メチルセルロースなどの、セルロース誘導体から選択される。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項において、
前記アルコキシドは、イソプロポキシドまたはn−プロポキシドから選択される。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項において、
前記アルコールは、1−プロパノールまたは2−プロパノールから選択される。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項において、
前記水溶液中の前記遷移元素の濃度は、0.1mol/l以下。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項において、
前記酢酸の量と、前記アルコールの量と、前記アルコキシドの量との間にけるモル比は、20:6:1から3:1:1の範囲内である。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項において、
前記凍結乾燥をする工程は、−200℃以上、50℃以下であって、かつ、0.1Pa以上、100Pa以下の圧力下で行われる。
【請求項9】
請求項8において、
前記凍結乾燥をする工程は、前記圧力下で、前記凍結乾燥物を維持することにより、吸着水を取り除く工程と、その後、温度を30℃以上、100℃以下の範囲内へ前記温度を上昇させる工程と、を含む。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項において、
前記(iii)工程において、前記凍結乾燥物は、400℃以上、900℃以下の範囲内で熱分解される。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項において、
前記ナノ粒子の平均サイズは、10nm以上、100nm以下の範囲内である。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか1項に記載のナノ粒子の製造方法のアプリケーションであって、
前記ナノ粒子の製造方法の後の段階、もしくは、前記ナノ粒子の製造方法に連続して、前記ナノ粒子を、炭素熱還元することによって、前記遷移金属の炭化物を、ナノ結晶の状態で得るためのアプリケーション。
【請求項13】
請求項12において、
前記ナノ結晶の平均サイズは、30nm以上、100nm以下の範囲内である。
【請求項14】
請求項12または13において、
前記炭素熱還元は、5℃/min以上、10℃/min以下の範囲内の割合でもって、1000℃以上、1600℃以下の範囲内まで温度を上げることを含む。
【請求項15】
請求項12から14のいずれか1項において、
前記炭素熱還元は、アルゴンを含む搬送ガスの存在下で行われる。

【公表番号】特表2010−528967(P2010−528967A)
【公表日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−510843(P2010−510843)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【国際出願番号】PCT/FR2008/000765
【国際公開番号】WO2009/004187
【国際公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(502142323)コミサリア、ア、レネルジ、アトミク、エ、オ、エネルジ、アルテルナティブ (195)
【氏名又は名称原語表記】COMMISSARIAT A L’ENERGIE ATOMIQUE ET AUX ENERGIES ALTERNATIVES
【出願人】(509336945)
【氏名又は名称原語表記】ECOLE CENTRALE DE PARIS−ECP
【住所又は居所原語表記】Grande voie des Vignes,F−92295 Chatenay−Malabry,France
【出願人】(595040744)サントル・ナショナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シャンティフィク (88)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
【Fターム(参考)】