説明

選択的グリコシダーゼインヒビターおよびその使用

本発明は、グリコシダーゼを選択的に阻害する式(I)の化合物、該化合物のプロドラッグ、及び該化合物又は該化合物のプロドラッグを含む薬剤組成物を提供する。本発明は、O−GlcNAcアーゼの欠乏又は過剰発現、O−GlcNAcの蓄積又は欠乏に関連した疾患及び障害を処置する方法も提供する。一実施形態においては、該化合物は、O−GlcNAcアーゼを選択的に阻害することができ、該化合物はO−GlcNAcアーゼ(例えば、ほ乳動物のO−GlcNAcアーゼ)に選択的に結合することができ、該化合物は、O−GlcNAcの切断を選択的に阻害することができ、該化合物は、ほ乳動物のβヘキソサミニダーゼを実質的に阻害しないこともある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
この出願は、グリコシダーゼを選択的に阻害する化合物及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
核と細胞質の両方の多様な細胞タンパク質は、O−グリコシド結合を介して結合する単糖2−アセトアミド−2−デオキシ−β−D−グルコピラノシド(β−N−アセチルグルコサミン)の付加によって翻訳後修飾される。この修飾は、一般にO結合N−アセチルグルコサミン又はO−GlcNAcと称される。多数の核細胞質タンパク質の特定のセリン及びスレオニン残基にβ−N−アセチルグルコサミン(GlcNAc)を翻訳後連結させる酵素は、O−GlcNAcトランスフェラーゼ(OGT)である2〜5。O−GlcNAcアーゼ6,7として知られる第2の酵素は、この翻訳後修飾を除去して、タンパク質を遊離させ、O−GlcNAc修飾をタンパク質の寿命期間中に数回起こる動的サイクルにする
【0003】
O−GlcNAc修飾タンパク質は、例えば、転写9〜12、プロテアソーム分解13及び細胞シグナル伝達14を含めて、生命維持に必要な広範囲の細胞機能を調節する。O−GlcNAcは、多数の構造タンパク質上にも見られる15〜17。例えば、O−GlcNAcは、ニューロフィラメントタンパク質18,19、シナプシン6,20、シナプシン特異的クラスリン集合タンパク質AP−3、及びアンキリンG14を含めて、幾つかの細胞骨格タンパク質上に見いだされた。O−GlcNAc修飾は、脳に豊富であることが見いだされた21,22。O−GlcNAc修飾は、Alzheimer病(AD)及びがんを含めて、幾つかの疾患の原因に明白に関係しているタンパク質上にも見いだされた。
【0004】
例えば、Down症候群、Pick病、Niemann−Pick病C型、及び筋萎縮性側索硬化症(ALS)を含めて、AD及び幾つかの関連タウオパチーは、神経原線維変化(NFT)の発生によってある程度特徴づけられることが十分に証明されている。これらのNFTは、二重らせん状細線維(PHF)の凝集体であり、異常な形態の細胞骨格タンパク質「タウ」で構成される。通常、タウは、ニューロン内のタンパク質及び栄養素の分配に不可欠である微小管の重要な細胞ネットワークを安定化する。しかし、AD患者では、タウは過剰リン酸化(hyperphosphorylate)され、その正常機能を破壊し、PHFを形成し、最終的に凝集してNFTを形成する。ヒト脳にはタウの6種類のアイソフォームが見られる。AD患者では、タウの全6種類のアイソフォームがNFT中に見られ、すべてが著しく過剰リン酸化されている23,24。健全な脳組織中のタウは、2又は3個のリン酸基しか持たないのに対して、AD患者の脳中に見られるタウは、平均8個のリン酸基を有する25,26。AD患者の脳中のNFTレベルと認知症の重症度との明瞭な対応は、ADにおけるタウ機能不全の重要な役割を強く裏付けている27,28。タウのこの過剰リン酸化の正確な原因は、把握されないままである。したがって、a)タウ過剰リン酸化の分子生理学的根拠を解明し29、b)Alzheimer病の進行を停止させ、さらには逆転できることを期待して、タウ過剰リン酸化を抑制することができる戦略を突きとめること30〜33に、かなりの努力が払われてきた。これまで、幾つかのキナーゼの上方制御が、タウの過剰リン酸化に関与し得ることが幾つかの証拠によって示唆されたが21,34,35、ごく最近では、この過剰リン酸化の別の根拠が提出された21
【0005】
特に、最近、タウのリン酸レベルがタウ上のO−GlcNAcレベルによって調節されることが明らかになった。タウ上のO−GlcNAcの存在は、O−GlcNAcレベルとタウリン酸化レベルとを相関させる研究を活発にした。この分野の最近の関心は、O−GlcNAc修飾が、多数のタンパク質上のリン酸化されることも知られているアミノ酸残基において発生することが見いだされた観察結果に由来する36〜38。この観察結果に一致して、リン酸化レベルが増加するとO−GlcNAcレベルが減少し、逆に高O−GlcNAcレベルは低リン酸化レベルと相関することが見いだされた39。O−GlcNAcとリン酸化とのこの相互関係は、「陰陽仮説(Yin−Yang hypothesis)」と呼ばれ40、タンパク質からリン酸基を除去するように作用するホスファターゼとの機能複合体を酵素OGTが形成するという最近の発見によって強力な生化学的裏付けを得た41。リン酸化同様、O−GlcNAcは、タンパク質寿命中に数回除去され、再建され得る動的修飾である。示唆的なことに、O−GlcNAcアーゼをコードする遺伝子は、ADに連鎖した染色体座に位置づけられた7,42。ヒトAD脳における過剰リン酸化タウは、健全なヒト脳で見られるよりも著しく低レベルのO−GlcNAcを有する21。ごく最近、ADに罹患したヒト脳由来の可溶性タウタンパク質のO−GlcNAcレベルが健全な脳由来のものより著しく低いことが示された21。さらに、患部脳由来のPHFは、O−GlcNAc修飾を全く完全に欠くことが示唆された21。タウのこの低グリコシル化の分子的根拠は不明であるが、高キナーゼ活性、及び/又はO−GlcNAcのプロセシングに関与する複数の酵素のうちの1種類の機能不全に起因するかもしれない。この後者の考えを支持して、PC−12神経細胞とマウス由来の脳組織切片の両方において、非選択的N−アセチルグルコサミニダーゼインヒビターを使用してタウO−GlcNAcレベルを増大させると、その後すぐにリン酸化レベルの低下が認められた21。これらの結果を総合すると、O−GlcNAcアーゼの作用の阻害などによりAD患者における正常なO−GlcNAcレベルを維持することによって、タウ過剰リン酸化、並びにNFTの形成及び下流の効果を含めたタウ過剰リン酸化の関連効果のすべてを遮断することができるはずである。しかし、βヘキソサミニダーゼが適切に機能することは重要であるので、O−GlcNAcアーゼの作用を遮断するAD処置に対する有望な治療的介入はいずれも、ヘキソサミニダーゼAとBとの両方を同時に阻害することは避けなければならない。
【0006】
ニューロンは、グルコースを貯蔵せず、したがって脳は、血液によって供給されるグルコースに依存して、その不可欠な代謝機能を維持している。特に、脳内では、グルコース取り込み及び代謝は、加齢に伴い低下することが示された43。AD患者の脳内では、グルコース利用の著しい低下が起こり、それが神経変性の潜在的原因であると考えられる44。AD脳におけるこの低グルコース供給45〜47の基礎は、低グルコース輸送48,49、インスリンシグナル伝達障害50,51及び低血流52のいずれかに起因すると考えられる。
【0007】
この糖代謝障害に照らして、細胞に入るすべてのグルコースのうち、2〜5%がヘキソサミン生合成経路に流れ、それによってこの経路の最終産物、すなわちウリジン二リン酸−N−アセチルグルコサミン(UDP−GlcNAc)の細胞濃度を調節していることは注目に値する53。UDP−GlcNAcは、核細胞質酵素O−GlcNAcトランスフェラーゼ(OGT)の基質であり2〜5、OGTは、多数の核細胞質タンパク質の特定のセリン及びスレオニン残基にGlcNAcを翻訳後に付加するように作用する。OGTは、そのテトラトリコペプチド反復(TPR)ドメイン57,58を介して、その基質54,55及び結合パートナー41,56の多くを認識する。上述したように、O−GlcNAcアーゼ6,7は、この翻訳後修飾を除去して、タンパク質を遊離させ、O−GlcNAc修飾をタンパク質の寿命期間中に数回起こる動的サイクルにする。O−GlcNAcは、タウ及び神経フィラメントを含めて60、幾つかのタンパク質における既知のリン酸化部位上に見いだされた10,37,38,59。さらに、OGTは、細胞内UDP−GlcNAc基質濃度、したがってグルコース供給に対するその感受性を極めて高くする異常な動力学的挙動を示す41
【0008】
ヘキソサミン生合成経路の公知の諸性質、OGTの酵素的諸性質、及びO−GlcNAcとリン酸化との相互関係と一致して、脳における低グルコース利用能はタウ過剰リン酸化をもたらすことが示された44。したがって、グルコース輸送及び代謝の漸進的悪化は、その原因が何であれ、低O−GlcNAc及びタウ(及び別のタンパク質)の過剰リン酸化をもたらす。したがって、O−GlcNAcアーゼの阻害は、健康個体及びAD又は関連神経変性疾患患者の脳内の糖代謝の加齢性障害を相殺するはずである。
【0009】
これらの結果は、タウO−GlcNAcレベルを制御する機序の機能不全が、NFT及び関連神経変性の形成に極めて重要であり得ることを示唆している。治療上有用な介入としてタウ過剰リン酸化を遮断することの十分な裏付けは61、ヒトタウを有するトランスジェニックマウスをキナーゼインヒビターで処理したときに、マウスが典型的な運動異常を発症せず33、別の場合には32、低レベルの不溶性タウを示すことを明らかにした最近の研究に由来する。これらの研究は、この疾患のネズミモデルにおけるタウリン酸化レベルの低下とAD様行動症状の軽減との明確な関連性を示している。実際、タウ過剰リン酸化の薬理学的調節は、AD及び他の神経変性疾患を処置する妥当な治療方針として広く認識されている62
【0010】
最近の研究63は、AD及び関連したタウオパチーの処置のためのタウ過剰リン酸化を制限する小分子O−GlcNAcアーゼインヒビターの治療可能性を支持している。具体的には、O−GlcNAcアーゼインヒビターthiamet−Gは、培養PC−12細胞の病理学的関連部位におけるタウリン酸化の減少に関係している63。さらに、健康なSprague−Dawleyラットに対するthiamet−Gの経口投与は、ラット皮質と海馬の両方のThr231、Ser396及びSer422におけるタウの低リン酸化に関係している63
【0011】
高レベルのO−GlcNAcタンパク質修飾が、虚血、出血、血液量増加性ショック、及びカルシウムパラドックスに起因するストレスを含めて、心組織におけるストレスの病原性作用に対する保護作用をもたらすことを示す証拠も多数ある。例えば、グルコサミン投与によるヘキソサミン生合成経路(HBP)の活性化は、虚血/再潅流64〜70、外傷性出血71〜73、血液量増加性ショック74及びカルシウムパラドックス64,75の動物モデルにおいて保護作用を示すことが実証された。さらに、強力な証拠によれば、これらの心保護作用は高レベルのタンパク質O−GlcNAc修飾によって媒介される64,65,67,70,72,75〜78。O−GlcNAc修飾が、Parkinson病及びHuntington病を含めて、種々の神経変性疾患においてある役割を果たす証拠もある79
【0012】
ヒトは、末端β−N−アセチル−グルコサミン残基を複合糖質から切断する酵素をコードする3種類の遺伝子を有する。その第1の遺伝子は、酵素O−グリコプロテイン2−アセトアミド−2−デオキシ−β−D−グルコピラノシダーゼ(O−GlcNAcアーゼ)をコードする。O−GlcNAcアーゼは、原核病原体からヒトまでの多様な生物体由来の酵素を含むグリコシド加水分解酵素ファミリー84の一メンバーである(グリコシド加水分解酵素のファミリー分類については、URL:http://afmb.cnrs−mrs.fr/CAZY/のCoutinho,P.M.&Henrissat,B.(1999)Carbohydrate−Active Enzymesサーバー27,28を参照されたい)。O−GlcNAcアーゼは、翻訳後修飾タンパク質のセリン及びスレオニン残基からO−GlcNAcを加水分解除去するように作用する1,6,7,80,81。多数の細胞内タンパク質上のO−GlcNAcの存在と一致して、酵素O−GlcNAcアーゼは、II型糖尿病14,82、AD16,21,83及びがん22,84を含めて、幾つかの疾患の原因においてある役割を有するように見える。O−GlcNAcアーゼはおそらくより早期に単離されていたが18,19、タンパク質のセリン及びスレオニン残基からO−GlcNAcを切断するように作用するその生化学的役割が理解されるまでに約20年かかった。より最近では、O−GlcNAcアーゼは、クローン化され、ある程度特徴づけられ20、ヒストンアセチルトランスフェラーゼとして更なる活性を有することが示唆された20。しかし、この酵素の触媒作用機序についてはほとんど知られていなかった。
【0013】
それ以外の2種類の遺伝子HEXA及びHEXBは、複合糖質からの末端β−N−アセチルグルコサミン残基の加水分解性切断を触媒する酵素をコードする。HEXA及びHEXBの遺伝子産物は、2種類の二量体アイソザイム、それぞれヘキソサミニダーゼA及びヘキソサミニダーゼBを主に生成する。ヘテロ二量体アイソザイムであるヘキソサミニダーゼA(αβ)は、α及びβサブユニットで構成される。ホモ二量体アイソザイムであるヘキソサミニダーゼB(ββ)は、2個のβサブユニットで構成される。2種類のサブユニットαとβは、高レベルの配列相同性を有する。これらの酵素の両方は、グリコシド加水分解酵素ファミリー20のメンバーに分類され、通常はリソソーム内に局在する。これらのリソソームβヘキソサミニダーゼが適切に機能することはヒト発育に重要であり、このことは、それぞれヘキソサミニダーゼA及びヘキソサミニダーゼBの機能不全に起因する悲惨な遺伝病であるTay−Sach病及びSandhoff病によって強調される85。これらの酵素の欠落は、リソソームにおける糖脂質及び複合糖質の蓄積を引き起こし、神経学的障害及び変形をもたらす。生物体レベルにおけるガングリオシド蓄積の有害作用は、今もなお明らかにされつつある86
【0014】
これらのβ−N−アセチル−グルコサミニダーゼの生物学的重要性の結果として、グリコシダーゼの小分子インヒビター87〜90は、生物学的過程におけるこれらの酵素の役割を解明するためと有望な治療用途開発のための両方におけるツールとして多くの注目を集めている91。小分子を用いたグリコシダーゼ機能の制御は、用量を迅速に変更できることや処置を完全に中止できることを含めて、遺伝的ノックアウト研究にまさる幾つかの利点をもたらす。
【0015】
しかし、O−GlcNAcアーゼを含めて、ほ乳動物のグリコシダーゼの機能を遮断するインヒビターを開発する際の主要な課題は、多数の機能的に関連した酵素が高等真核生物の組織中に存在することである。したがって、特定の一酵素の細胞的及び生物体的な生理学的役割の研究における非選択的インヒビターの使用は、かかる機能的に関連した酵素の同時阻害から複雑な表現型が生じるので、複雑である。β−N−アセチルグルコサミニダーゼの場合には、O−GlcNAcアーゼ機能を遮断するように作用する既存の化合物は、非特異的であり、強力に作用して、リソソームβヘキソサミニダーゼを阻害する。
【0016】
細胞と組織の両方におけるO−GlcNAc翻訳後修飾の研究に使用されてきたβ−N−アセチル−グルコサミニダーゼのより特徴づけられたインヒビターの幾つかは、ストレプトゾトシン(STZ)、2’−メチル−α−D−グルコピラノ−[2,1−d]−Δ2’−チアゾリン(NAG−チアゾリン)及びO−(2−アセトアミド−2−デオキシ−D−グルコピラノシリデン)アミノN−フェニルカルバマート(PUGNAc)である14,92〜95
【0017】
STZは、β島細胞に対して特に有害な作用を有するので、糖尿病誘発性化合物として長年使用されてきた96。STZは、細胞DNAのアルキル化96,97と一酸化窒素を含めたラジカル種の生成98の両方によってその細胞傷害作用を発揮する。その結果起こるDNA鎖開裂は、ポリ(ADP−リボース)ポリメラーゼ(PARP)の活性化を促進し99、細胞NAD+レベルを枯渇させて最終的に細胞死をもたらす正味の効果を有する100,101。別の研究者は、そうではなく、STZ毒性が、β島細胞内で高度に発現されるO−GlcNAcアーゼの不可逆的阻害の結果であると提案した92,102。しかし、この仮説は、2つの独立した研究グループによって疑問視された103,104。タンパク質上の細胞O−GlcNAcレベルは多数の形態の細胞ストレスに応じて増加するので105、STZが、O−GlcNAcアーゼに対する任意の特異的直接作用を介するのではなく、細胞ストレスを誘発することによって、タンパク質上の高O−GlcNAc修飾レベルをもたらすことは可能と思われる。実際、Hanoverと共同研究者は、STZがO−GlcNAcアーゼの弱いやや選択的なインヒビターとして機能することを示した106。STZはO−GlcNAcアーゼを不可逆的に阻害するように作用することが別の研究者によって提案されたが107、この作用様式の明確な証明はない。最近、STZがO−GlcNAcアーゼを不可逆的に阻害しないことが示された108
【0018】
NAG−チアゾリンは、ファミリー20ヘキソサミニダーゼ90,109、より最近ではファミリー84 O−GlcNAcアーゼ108の強力なインヒビターであることが見いだされた。その作用強度にもかかわらず、複雑な生物学的状況においてNAG−チアゾリンを使用することのマイナス面は、それが選択性を欠き、したがって複数の細胞プロセスを撹乱させることである。
【0019】
PUGNAcは、選択性を欠くという同じ問題を有する別の化合物であるが、それでもヒトO−GlcNAcアーゼ6,110とファミリー20ヒトβヘキソサミニダーゼ111の両方のインヒビターとして使用されている。この分子は、Vasellaと共同研究者によって開発され、Canavalia ensiformis、Mucor rouxii由来のβ−N−アセチル−グルコサミニダーゼ、及びウシ腎臓由来のβヘキソサミニダーゼの強力な競合的インヒビターであることが見いだされた88。外傷性出血のラットモデルにおけるPUGNAcの投与は、炎症誘発性(pro−inflammatory)サイトカインTNF−α及びIL−6の循環レベルを減少させることが実証された112。リンパ球活性化の細胞モデルにおけるPUGNAcの投与がサイトカインIL−2の産生を減少させることも示された113。最近の研究は、PUGNAcを動物モデルに使用して、左冠動脈閉塞後の心筋梗塞サイズを減少させることができることを示している114。特に重要なことは、外傷性出血ラットモデルにおいてO−GlcNAcアーゼインヒビターであるPUGNAc投与によるO−GlcNAcレベルの上昇が心機能を改善することである112,115。さらに、新生仔ラット心室筋細胞を用いた虚血/再潅流傷害の細胞ベースモデルにおけるPUGNAc処理によるO−GlcNAcレベルの上昇は、処理無し細胞と比べて、細胞生存率を改善し、壊死及びアポトーシスを減少させた116
【0020】
より最近では、選択的O−GlcNAcアーゼインヒビターNButGTが、酸化的ストレスを含めて、虚血/再潅流及び細胞ストレスの細胞ベースモデルにおいて保護活性を示すことが示唆された117。この証拠は、タンパク質O−GlcNAcレベルを上昇させ、それによって心組織におけるストレスの病原性作用を阻止するためのO−GlcNAcアーゼインヒビターの使用を示唆している。
【0021】
参照により本明細書に援用する、2006年3月1日に出願され、2006年9月8日に特許文献1として公開された国際出願PCT/CA2006/000300号、及び2007年8月31日に出願され、2008年3月6日に特許文献2として公開された国際出願PCT/CA2007/001554号は、O−GlcNAcアーゼの選択的インヒビターを記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】国際公開第2006/092049号
【特許文献2】国際公開第2008/025170号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0023】
(発明の概要)
本発明は、一つには、グリコシダーゼを選択的に阻害する化合物、該化合物のプロドラッグ、該化合物及びプロドラッグの使用、該化合物又は該化合物のプロドラッグを含む薬剤組成物、ならびにO−GlcNAcアーゼの欠乏若しくは過剰発現及び/又はO−GlcNAcの蓄積若しくは欠乏に関連した疾患及び障害を処置する方法を提供する。
【0024】
一態様においては、本発明は、式(I):
【0025】
【化1】

の化合物、又は薬学的に許容されるその塩を提供する。式中、各Rは独立に非妨害性置換基でもよく、Xは、O、SまたはNRであり得、Rは、NRであり、各Rは場合によっては独立に非妨害性置換基でもよい。ただし、XがOであり、各RがHまたはC(O)CHであるときには、RはN(CHではない。
【0026】
別の実施形態においては、各Rは別のRと結合して追加の環構造を形成してもよい。
【0027】
別の実施形態においては、非妨害性置換基は、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アリールアルキル、アリールアルケニル若しくはアリールアルキニルでもよく、又はP、O、S、N、F、Cl、Br、I若しくはBから選択される1個以上のヘテロ原子を含んでもよい。非妨害性置換基は場合によっては置換されていてもよい。
【0028】
別の実施形態においては、化合物はプロドラッグとすることができ、化合物は、O−グリコプロテイン2−アセトアミド−2−デオキシ−β−D−グルコピラノシダーゼ(O−GlcNAcアーゼ)を選択的に阻害することができ、化合物はO−GlcNAcアーゼ(例えば、ほ乳動物のO−GlcNAcアーゼ)に選択的に結合することができ、化合物は、2−アセトアミド−2−デオキシ−β−D−グルコピラノシド(O−GlcNAc)の切断を選択的に阻害することができ、化合物は、ほ乳動物のβヘキソサミニダーゼを実質的に阻害しないこともある。
【0029】
別の態様においては、本発明は、薬学的に許容される担体と組み合わせて本発明による化合物を含む薬剤組成物を提供する。
【0030】
別の態様においては、本発明は、有効量の式(I):
【0031】
【化2】

の化合物又は薬学的に許容されるその塩を被験体に投与することによって、O−GlcNAcアーゼを選択的に阻害する方法、又はそれを必要とする被験体におけるO−GlcNAcアーゼを阻害する方法、又はO−GlcNAcレベルを増加させる方法、又はそれを必要とする被験体における神経変性疾患、タウオパチー、がん若しくはストレスを処置する方法を提供する。式中、各Rは独立に非妨害性置換基でもよく、Xは、O、SまたはNRであり得、RはNRでもよく、各Rは場合によっては独立に非妨害性置換基でもよい。状態は、Alzheimer病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、認知障害を伴う筋萎縮性側索硬化症(ALSci)、好銀性グレイン認知症、Bluit病、大脳皮質基底核変性症(CBD)、ボクサー認知症、石灰化を伴うびまん性神経原線維変化、Down症候群、家族性英国型認知症、家族性デンマーク型認知症、17番染色体に連鎖したパーキンソニズムを伴う前頭側頭型認知症(FTDP−17)、Gerstmann−Straussler−Scheinker病、Guadeloupeanパーキンソニズム、Hallevorden−Spatz病(脳の鉄沈着を伴う神経変性1型)、多系統萎縮症、筋緊張性ジストロフィー、Niemann−Pick病(C型)、淡蒼球橋黒質変性(pallido−ponto−nigral degeneration)、グアムのパーキンソニズム認知症複合、Pick病(PiD)、脳炎後パーキンソニズム(PEP)、(Creutzfeldt−Jakob病(CJD)、変異型Creutzfeldt−Jakob病(vCJD)、致死性家族性不眠症及びクールーを含めた)プリオン病、進行性超皮質性(supercortical)神経こう症、進行性核上性麻ひ(PSP)、Richardson症候群、亜急性硬化性全脳炎、神経原線維変化型認知症(tangle−only dementia)、Huntington病、又はParkinson病であり得る。ストレスは、心障害、例えば、虚血、出血、血液量減少性ショック、心筋梗塞、心血管インターベンション手順、心臓バイパス手術、線溶療法、血管形成術又はステント留置であり得る。
【0032】
別の態様においては、本発明は、それを必要とする被験体において、有効量の式(I):
【0033】
【化3】

の化合物又は薬学的に許容されるその塩を該被験体に投与することによって、神経変性疾患、タウオパチー、がん又はストレスを除く、O−GlcNAcアーゼ媒介性状態を処置する方法を提供する。式中、各Rは独立に非妨害性置換基でもよく、Xは、O、SまたはNRであり得、RはNRでもよく、各Rは場合によっては独立に非妨害性置換基でもよい。一部の実施形態においては、状態は、ぜん息、アレルギー性鼻炎、過敏性肺疾患、過敏性肺炎、好酸球性肺炎、遅延型過敏、アテローム性動脈硬化症、間質性肺疾患(ILD)(例えば、特発性肺線維症、又はリウマチ様関節炎に付随するILD、全身性エリテマトーデス、強直性脊椎炎、全身性硬化症、Sjogren症候群、多発性筋炎又は皮膚筋炎)などの炎症性又はアレルギー疾患;全身アナフィラキシー又は過敏反応、薬物アレルギー、昆虫刺傷アレルギー;リウマチ様関節炎、乾せん性関節炎、多発性硬化症、全身性エリテマトーデス、重症筋無力症、糸球体腎炎、自己免疫性甲状腺炎、同種移植片拒絶又は移植片対宿主病を含めた移植片拒絶などの自己免疫疾患;Crohn病、潰よう性大腸炎などの炎症性腸疾患;脊椎関節症;強皮症;皮膚炎、湿疹、アトピー性皮膚炎、アレルギー性接触皮膚炎、じんま疹などの(T細胞媒介性乾せんを含めた)乾せん及び炎症性皮膚疾患;血管炎(例えば、壊死性、皮膚性及び過敏性血管炎);好酸球性筋炎(eosinphilic myotis)及び好酸球性筋膜炎;移植片拒絶、特に、ただしそれだけに限定されないが、心臓、肺、肝臓、腎臓、すい臓移植などの固形臓器移植(例えば、腎臓及び肺同種移植);てんかん;とう痛;脳卒中、例えば、脳卒中後の神経保護であり得る。
【0034】
別の実施形態においては、Xは、Oであり得、RはH又はC(O)CHでもよい。投与は、被験体におけるO−GlcNAcレベルを増加させることができる。被験体はヒトでもよい。
【0035】
別の態様においては、本発明は、医薬品の調製における有効量の式(I):
【0036】
【化4】

の化合物の化合物又は薬学的に許容されるその塩の使用を提供する。式中、各Rは独立に非妨害性置換基でもよく、Xは、O、SまたはNRであり得、RはNRでもよく、各Rは場合によっては独立に非妨害性置換基でもよい。医薬品は、O−GlcNAcアーゼを選択的に阻害するためでも、O−GlcNAcレベルを増加させるためでも、O−GlcNAcアーゼによって調節される状態を処置するためでも、神経変性疾患、タウオパチー、がん又はストレスを処置するためでもよい。
【0037】
別の態様においては、本発明は、a)第1の試料を試験化合物と接触させること、b)第2の試料を式(I):
【0038】
【化5】

の化合物と接触させること(式中、各Rは独立に非妨害性置換基でもよく、Xは、O、SまたはNRであり得、RはNRでもよく、各Rは場合によっては独立に非妨害性置換基でもよい)、c)第1及び第2の試料中のO−GlcNAcアーゼの阻害レベルを決定することによって、O−GlcNAcアーゼの選択的インヒビターをスクリーニングする方法を提供する。試験化合物は、試験化合物が式(I)の化合物と比較して同等以上のO−GlcNAcアーゼの阻害を示す場合に、O−GlcNAcアーゼの選択的インヒビターである。
【0039】
本発明のこの概要は、本発明のすべての特徴を必ずしも記述するものではない。
【発明を実施するための形態】
【0040】
(詳細な説明)
本発明は、一つには、O−グリコプロテイン2−アセトアミド−2−デオキシ−β−D−グルコピラノシダーゼ(O−GlcNAcアーゼ)を阻害する能力のある新規化合物を提供する。一部の実施形態においては、O−GlcNAcアーゼは、ラット、マウス、ヒトO−GlcNAcアーゼなどのほ乳動物O−GlcNAcアーゼである。一部の実施形態においては、βヘキソサミニダーゼは、ラット、マウス、ヒトβヘキソサミニダーゼなどのほ乳動物βヘキソサミニダーゼである。
【0041】
一部の実施形態においては、本発明による化合物は、O−GlcNAcアーゼを阻害する際に驚くべき予想外の選択性を示す。一部の実施形態においては、本発明による化合物は、驚くべきことに、βヘキソサミニダーゼよりもO−GlcNAcアーゼに対してより選択的である。一部の実施形態においては、化合物は、ほ乳動物βヘキソサミニダーゼよりもほ乳動物O−GlcNAcアーゼの活性を選択的に阻害する。一部の実施形態においては、O−GlcNAcアーゼの選択的インヒビターは、βヘキソサミニダーゼを実質的に阻害しない。O−GlcNAcアーゼを「選択的に」阻害する化合物は、O−GlcNAcアーゼの活性又は生物学的機能を阻害するがβヘキソサミニダーゼの活性も生物学的機能も実質的に阻害しない化合物である。例えば、一部の実施形態においては、O−GlcNAcアーゼの選択的インヒビターは、ポリペプチドからの2−アセトアミド−2−デオキシ−β−D−グルコピラノシド(O−GlcNAc)の切断を選択的に阻害する。一部の実施形態においては、O−GlcNAcアーゼの選択的インヒビターは、O−GlcNAcアーゼに選択的に結合する。一部の実施形態においては、O−GlcNAcアーゼの選択的インヒビターはタウタンパク質の過剰リン酸化を阻害し、及び/又はNFTの形成を阻害する。「阻害する」、「阻害」又は「阻害すること」とは、10%から90%の間の任意の値の、若しくは30%から60%の間の任意の整数値の、若しくは100%を超える減少、又は1倍、2倍、5倍、10倍以上の減少を意味する。阻害は完全な阻害を要求しないことを理解されたい。一部の実施形態においては、O−GlcNAcアーゼの選択的インヒビターは、細胞、組織又は器官(例えば、脳、筋肉又は心臓(心)組織)において、さらに動物において、O−GlcNAcレベル、例えば、O−GlcNAc修飾ポリペプチド又はタンパク質レベルを上昇させるか又は高める。「上昇させる」又は「高める」とは、10%から90%の間の任意の値の、若しくは30%から60%の間の任意の整数値の、若しくは100%を超える増加、又は1倍、2倍、5倍、10倍、15倍、25倍、50倍、100倍以上の増加を意味する。一部の実施形態においては、O−GlcNAcアーゼの選択的インヒビターは、本明細書に記載のとおり、100から100000の範囲、又は1000から100000の範囲、又は少なくとも100、200、500、1000、1500、2000、2500、3000、3500、4000、4500、5000、6000、7000、10,000、25,000、50,000、75,000、又は上記範囲内若しくはほぼ上記範囲の任意の値の選択比を示す。
【0042】
本発明の化合物は、O−GlcNAc修飾ポリペプチド又はタンパク質上のO−GlcNAcレベルをインビボで、特にO−GlcNAcアーゼ酵素との相互作用を介して、上昇させ、O−GlcNAcアーゼ活性の阻害を必要とする状態、又はそれに反応する状態の処置に有効である。
【0043】
一部の実施形態においては、本発明の化合物は、タウリン酸化及びNFT形成を減少させる薬剤として有用である。一部の実施形態においては、化合物は、したがって、Alzheimer病及び関連タウオパチーの処置に有用である。一部の実施形態においては、化合物は、したがって、タウO−GlcNAcレベルの増加の結果として、タウリン酸化を低下させ、NFT形成を減少させることによって、Alzheimer病及び関連タウオパチーを処置することができる。一部の実施形態においては、化合物は、O−GlcNAc修飾ポリペプチド又はタンパク質上のO−GlcNAc修飾レベルを増加させ、したがってかかるO−GlcNAc修飾の増加に反応する障害の処置に有用である。これらの障害としては、神経変性、炎症性、心血管性及び免疫調節性疾患が挙げられるが、それだけに限定されない。一部の実施形態においては、化合物は、グリコシダーゼ酵素の活性を阻害するその能力に関連した他の生物学的活性の結果としても有用である。別の実施形態においては、本発明の化合物は、細胞及び生物体レベルにおけるO−GlcNAcの生理学的役割の研究における貴重なツールである。
【0044】
別の実施形態においては、本発明は、獣医学的及びヒト被験体などの動物被験体において、タンパク質O−GlcNAc修飾レベルを高めるか又は上昇させる方法を提供する。別の実施形態においては、本発明は、獣医学的及びヒト被験体などの動物被験体において、O−GlcNAcアーゼ酵素を選択的に阻害する方法を提供する。別の実施形態においては、本発明は、獣医学的及びヒト被験体などの動物被験体において、タウポリペプチドのリン酸化を阻害する方法、又はNFTの形成を阻害する方法を提供する。
【0045】
特定の実施形態においては、本発明は、一般に式(I):
【0046】
【化6】

によって記述される化合物、並びにその塩、プロドラッグ及び立体異性体を提供する。
【0047】
式(I)において、各Rは独立に非妨害性置換基でもよく、Xは、O、SまたはNRであり得、RはNRでもよく、各Rは場合によっては独立に非妨害性置換基でもよい。一部の実施形態においては、各Rは別のRと結合して追加の環構造を形成してもよい。
【0048】
上記式(I)において、場合によっては置換された各部分は、1個以上の非妨害性置換基で置換されてもよい。例えば、場合によっては置換された各部分は、1個以上の無機置換基;ホスホリル;ハロ;=O;=NR;OR;1個以上のP、N、O、S、N、F、Cl、Br、I若しくはBを場合によっては含み、ハロで場合によっては置換された、C1〜10アルキル若しくはC2〜10アルケニル;CN;場合によっては置換されたカルボニル;NR;C=NR;場合によっては置換された炭素環若しくは複素環;又は場合によっては置換されたアリール若しくはヘテロアリールで置換されてもよい。Rはアルキル、分枝アルキル、シクロアルキル、アリール又はヘテロアリールでもよい。
【0049】
一部の実施形態においては、式(I)に記載のRは、水素、又は水素以外の1〜20個の原子を含む置換基のどちらかでもよい。一部の実施形態においては、RはH、アルキル又はC(O)Rでもよく、Rはアルキル、分枝アルキル、シクロアルキル、アリール又はヘテロアリールでもよい。一部の実施形態においては、RはH又はC(O)CHでもよい。
【0050】
一部の実施形態においては、式(I)に記載のRは、場合によっては置換されたNRでもよく、RはH、アルキル、分枝アルキル、シクロアルキル、アリール又はヘテロアリールでもよい。一部の実施形態において、Rは、N(CHであり得る。
【0051】
本発明の特定の実施形態においては、式(I)の化合物は表1に記載の化合物を含む。
【0052】
【表1】

本発明の別の実施形態においては、式(I)の化合物は表2に記載の化合物の1種類以上を含む。
【0053】
【表2−1】

【0054】
【表2−2】

【0055】
【表2−3】

本発明の別の実施形態においては、表1に記載の化合物の1種類以上は、式(I)に記載の化合物から特に除外される。本発明の別の実施形態においては、表1に記載の1種類以上の化合物の特定の立体異性体又は鏡像異性体は、式(I)に記載の化合物から特に除外される。本発明の別の実施形態においては、表1に記載の1種類以上の化合物の特定の前駆体は、式(I)に記載の化合物から特に除外される。
【0056】
別の実施形態においては、XがOであり、各RがHまたはC(O)CHであるときには、RはN(CHではない。
【0057】
当業者には理解されるように、上記式(I)は、以下:
【0058】
【化7】

のように表すこともできる。
【0059】
本明細書では、単数形「a」、「and」及び「the」は、特に明示しない限り、複数形を含む。例えば、「化合物(a compound)」とは、かかる化合物の1種類以上を指し、「酵素(the enzyme)」とは特定の酵素並びに当業者に既知である別のファミリーメンバー及びその等価物を含む。
【0060】
この出願を通して、「化合物」又は「複数の化合物」という用語は、本明細書で考察する化合物を指し、アシル保護誘導体を含めた該化合物の前駆体及び誘導体、並びに該化合物、前駆体及び誘導体の薬学的に許容される塩を含むことが企図される。本発明は、化合物のプロドラッグ、化合物と薬学的に許容される担体とを含む薬剤組成物、及び化合物のプロドラッグと薬学的に許容される担体とを含む薬剤組成物も含む。
【0061】
一部の実施形態においては、本発明の化合物のすべては、少なくとも1個のキラル中心を含む。一部の実施形態においては、本発明による化合物を含む処方物、調製物及び組成物は、立体異性体の混合物、個々の立体異性体、及び鏡像異性混合物、及び複数の立体異性体の混合物を含む。一般に、化合物は任意の所望のキラル純度で供給することができる。
【0062】
一般に、「非妨害性置換基」は、その存在が式(I)の化合物のO−GlcNAcアーゼ酵素活性調節能力を損なわない置換基である。具体的には、非妨害性置換基の存在は、O−GlcNAcアーゼ酵素活性の調節物質としての化合物の有効性を損なわない。
【0063】
適切な非妨害性置換基としては、H、アルキル(C1〜10)、アルケニル(C2〜10)、アルキニル(C2〜10)、アリール(5〜12員)、アリールアルキル、アリールアルケニル又はアリールアルキニル(その各々は、O、S、P、N、F、Cl、Br、I又はBから選択される1個以上のヘテロ原子を場合によっては含んでもよく、例えば=Oで、更に置換されてもよい)、又は場合によっては置換された形態のアシル、アリールアシル、アルキル−、アルケニル−、アルキニル−又はアリールスルホニル、及びアルキル、アルケニル、アルキニル又はアリール部分にヘテロ原子を含むその形態が挙げられる。別の非妨害性置換基としては、=O、=NR、ハロ、CN、CF、CHF、NO、OR、SR、NR、N、COOR及びCONRが挙げられ、RはH又はアルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール又はヘテロアリールである。被置換原子がCである場合、置換基としては、上記置換基に加えて、ハロ、OOCR、NROCRが挙げられ得、RはH又は上記置換基である。
【0064】
「アルキル」とは、炭素と水素原子のみからなり、不飽和結合を含まず、例えば1から10個の炭素原子を含み、分子の残部と単結合によって結合する、直鎖又は分枝鎖の炭化水素鎖基を指す。本明細書において別段の記載がない限り、アルキル基は、本明細書に記載の1個以上の置換基で場合によっては置換されていてもよい。本明細書において別段の記載がない限り、置換は、アルキル基の任意の炭素上で起こり得ると理解される。
【0065】
「アルケニル」とは、炭素と水素原子のみからなり、少なくとも1個の二重結合を含み、例えば2から10個の炭素原子を含み、分子の残部と単結合又は二重結合によって結合する、直鎖又は分枝鎖の炭化水素鎖基を指す。本明細書において別段の記載がない限り、アルケニル基は、本明細書に記載の1個以上の置換基で場合によっては置換されていてもよい。本明細書において別段の記載がない限り、置換は、アルケニル基の任意の炭素上で起こり得ると理解される。
【0066】
「アルキニル」とは、炭素と水素原子のみからなり、少なくとも1個の三重結合を含み、例えば2から10の炭素原子を含む、直鎖又は分枝鎖の炭化水素鎖基を指す。本明細書において別段の記載がない限り、アルキニル基は、本明細書に記載の1個以上の置換基で場合によっては置換されていてもよい。
【0067】
「アリール」とは、例えば5〜12員を含む、フェニル又はナフチル基を指す。本明細書において別段の記載がない限り、「アリール」という用語は、本明細書に記載の1個以上の置換基で場合によっては置換されたアリール基を含むものとする。
【0068】
「アリールアルキル」とは、式−Rの基を指す。式中、Rは本明細書に記載のアルキル基であり、Rは本明細書に記載の1個以上のアリール部分である。アリール基(単数又は複数)は、本明細書に記載のように場合によっては置換されていてもよい。
【0069】
「アリールアルケニル」とは、式−Rの基を指す。式中、Rは本明細書に記載のアルケニル部分であり、Rは本明細書に記載の1個以上のアリール基である。アリール基(単数又は複数)及びアルケニル基は、本明細書に記載のように場合によっては置換されていてもよい。
【0070】
「アシル」とは、式−C(O)Rの基を指す。式中、Rは本明細書に記載のアルキル基である。アルキル基(単数又は複数)は、本明細書に記載のように場合によっては置換されていてもよい。
【0071】
「アリールアシル」とは、式−C(O)Rの基を指す。式中、Rは本明細書に記載のアリール基である。アリール基(単数又は複数)は、本明細書に記載のように場合によっては置換されていてもよい。
【0072】
「シクロアルキル」とは、炭素と水素原子のみからなり、例えば3から15個の炭素原子を含み、飽和であり、分子の残部と単結合によって結合する、安定な一価の単環式、二環式又は三環式炭化水素基を指す。本明細書において別段の記載がない限り、「シクロアルキル」という用語は、本明細書に記載のように場合によっては置換されたシクロアルキル基を含むものとする。
【0073】
「環構造」は、場合によっては置換されていてもよいシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール又は任意の環構造を意味する。
【0074】
「任意選択の」又は「場合によっては」とは、その後に記述される状況の事象が起こっても起こらなくてもよいことを意味し、その記述が該事象又は状況が起こる場合と起こらない場合とを包含することを意味する。例えば、「場合によっては置換されたアルキル」とは、アルキル基が置換されていてもいなくてもよく、その記述が置換アルキル基と非置換アルキル基との両方を包含することを意味する。場合によっては置換されたアルキル基の例としては、それだけに限定されないが、メチル、エチル、プロピルなどが挙げられ、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチルなどのシクロアルキルも含む。場合によっては置換されたアルケニル基の例としては、アリル、クロチル、2−ペンテニル、3−ヘキセニル、2−シクロペンテニル、2−シクロヘキセニル、2−シクロペンテニルメチル、2−シクロヘキセニルメチルなどが挙げられる。一部の実施形態においては、場合によっては置換されたアルキル及びアルケニル基としては、C1〜6アルキル又はアルケニルが挙げられる。
【0075】
「ハロ」とは、ブロモ、クロロ、フルオロ、ヨードなどを指す。一部の実施形態においては、適切なハロゲンとしてはフッ素又は塩素が挙げられる。
【0076】
アミノ基も、C1〜10アルキル(例えば、メチル、エチル、プロピルなど)を含めて、場合によっては置換されたアルキル基、アリル、クロチル、2−ペンテニル、3−ヘキセニルなどの場合によっては置換されたアルケニル基、又はシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチルなどの場合によっては置換されたシクロアルキル基などの基で1又は2回置換され(第二級又は第三級アミンを形成し)てもよい。これらの場合、C1〜6アルキル、アルケニル及びシクロアルキルが好ましい。アミン基は、芳香族又は複素環式基、アラルキル(例えば、フェニルC1〜4アルキル)又はヘテロアルキル、例えば、フェニル、ピリジン、フェニルメチル(ベンジル)、フェネチル、ピリジニルメチル、ピリジニルエチルなどでも場合によっては置換されてもよい。複素環式基は、1〜4個のヘテロ原子を含む5又は6員環でもよい。
【0077】
アミノ基は、場合によっては置換されたC2〜4アルカノイル、例えば、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリルなど、又はC1〜4アルキルスルホニル(例えば、メタンスルホニル、エタンスルホニルなど)、又はカルボニル若しくはスルホニル置換芳香族若しくは複素環、例えば、ベンゼンスルホニル、ベンゾイル、ピリジンスルホニル、ピリジンカルボニルなどで置換されてもよい。複素環は本明細書に記載されているとおりである。
【0078】
場合によっては置換されたカルボニル基、又はスルホニル基の例としては、本明細書に記載のように、アルキル、アルケニル、5から6員単環式芳香族基(例えば、フェニル、ピリジルなど)などの種々のヒドロカルビルで形成された、かかる基の場合によっては置換された形態が挙げられる。
【0079】
(治療指標)
本発明は、O−GlcNAcアーゼ酵素によって、又はO−GlcNAc修飾タンパク質レベルによって、直接又は間接的に調節される状態、例えば、O−GlcNAcアーゼ酵素の阻害、又はO−GlcNAc修飾タンパク質レベルの上昇が有利である状態を処置する方法を提供する。かかる状態としては、緑内障、統合失調症、タウオパチー、例えばAlzheimer病、神経変性疾患、循環器疾患、炎症に付随する疾患、免疫抑制に付随する疾患、及びがんが挙げられるが、それだけに限定されない。本発明の化合物は、O−GlcNAcアーゼの欠乏若しくは過剰発現又はO−GlcNAcの蓄積若しくは枯渇に関連した疾患又は障害、又はグリコシダーゼ阻害療法に反応する任意の疾患若しくは障害の処置にも有用である。かかる疾患及び障害としては、緑内障、統合失調症、Alzheimer病(AD)などの神経変性疾患、又はがんが挙げられるが、それだけに限定されない。かかる疾患及び障害は、酵素OGTの蓄積又は欠乏に関連した疾患又は障害も含み得る。O−GlcNAc残基によって修飾されるタンパク質を発現する標的細胞を保護又は処理する方法も含まれる。O−GlcNAc残基による修飾の調節不全は、疾患又は病状をもたらす。本明細書では「処置」という用語は、処置、防止及び回復を含む。
【0080】
別の実施形態においては、本発明は、獣医学的及びヒト被験体などの動物被験体において、タンパク質O−GlcNAc修飾レベルを高めるか又は上昇させる方法を提供する。このO−GlcNAcレベルの上昇は、Alzheimer病の防止又は処置、他の神経変性疾患(例えば、Parkinson病、Huntington病)の防止又は処置、神経保護作用の付与、心組織損傷防止、及び炎症又は免疫抑制に付随する疾患の処置に有用であり得る。
【0081】
別の実施形態においては、本発明は、獣医学的及びヒト被験体などの動物被験体において、O−GlcNAcアーゼ酵素を選択的に阻害する方法を提供する。
【0082】
別の実施形態においては、本発明は、獣医学的及びヒト被験体などの動物被験体において、タウポリペプチドのリン酸化を阻害する方法、又はNFTの形成を阻害する方法を提供する。したがって、本発明の化合物を使用して、AD及び他のタウオパチーを研究及び処置することができる。
【0083】
一般に、本発明の方法は、本発明による化合物をそれを必要とする被験体に投与することによって、又は細胞若しくは試料を本発明による化合物、例えば、治療有効量の式(I)の化合物を含む薬剤組成物と接触させることによって、実施される。より具体的には、本発明の方法は、O−GlcNAcタンパク質修飾の調節が関係する障害、又は本明細書に記載の任意の状態の処置に有用である。対象となる病態としては、Alzheimer病(AD)及び関連する神経変性タウオパチーが挙げられ、微小管結合タンパク質タウの異常な過剰リン酸化が病因に関係する。一部の実施形態においては、化合物は、タウ上で高O−GlcNAcレベルを維持することによってタウの過剰リン酸化を阻止し、それによって治療効果を得るのに使用することができる。
【0084】
本発明の化合物によって処置することができるタウオパチーとしては、Alzheimer病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、認知障害を伴う筋萎縮性側索硬化症(ALSci)、好銀性グレイン認知症、Bluit病、大脳皮質基底核変性症(CBD)、ボクサー認知症、石灰化を伴うびまん性神経原線維変化、Down症候群、家族性英国型認知症、家族性デンマーク型認知症、17番染色体に連鎖したパーキンソニズムを伴う前頭側頭型認知症(FTDP−17)、Gerstmann−Straussler−Scheinker病、Guadeloupeanパーキンソニズム、Hallevorden−Spatz病(脳の鉄沈着を伴う神経変性1型)、多系統萎縮症、筋緊張性ジストロフィー、Niemann−Pick病(C型)、淡蒼球橋黒質変性、グアムのパーキンソニズム認知症複合、Pick病(PiD)、脳炎後パーキンソニズム(PEP)、(Creutzfeldt−Jakob病(CJD)、変異型Creutzfeldt−Jakob病(vCJD)、致死性家族性不眠症及びクールーを含めた)プリオン病、進行性超皮質性神経こう症、進行性核上性麻ひ(PSP)、Richardson症候群、亜急性硬化性全脳炎、及び神経原線維変化型認知症が挙げられる。
【0085】
本発明の化合物は、組織損傷若しくはストレスに付随する状態の処置、細胞の刺激、又は細胞分化の促進にも有用である。したがって、一部の実施形態においては、本発明の化合物は、虚血、出血、血液量減少性ショック、心筋梗塞、心血管インターベンション手順、心臓バイパス手術、線溶療法、血管形成術及びステント留置を含めて、ただしそれだけに限定されない、心組織におけるストレスを伴う種々の状態又は医療処置において治療効果を得るのに使用することができる。
【0086】
O−GlcNAcアーゼ活性を選択的に阻害する化合物は、ぜん息、アレルギー性鼻炎、過敏性肺疾患、過敏性肺炎、好酸球性肺炎、遅延型過敏、アテローム性動脈硬化症、間質性肺疾患(ILD)(例えば、特発性肺線維症、又はリウマチ様関節炎に付随するILD、全身性エリテマトーデス、強直性脊椎炎、全身性硬化症、Sjogren症候群、多発性筋炎又は皮膚筋炎)などの炎症性又はアレルギー疾患;全身アナフィラキシー又は過敏反応、薬物アレルギー、昆虫刺傷アレルギー;リウマチ様関節炎、乾せん性関節炎、多発性硬化症、全身性エリテマトーデス、重症筋無力症、糸球体腎炎、自己免疫性甲状腺炎、同種移植片拒絶又は移植片対宿主病を含めた移植片拒絶などの自己免疫疾患;Crohn病、潰よう性大腸炎などの炎症性腸疾患;脊椎関節症;強皮症;皮膚炎、湿疹、アトピー性皮膚炎、アレルギー性接触皮膚炎、じんま疹などの(T細胞媒介性乾せんを含めた)乾せん及び炎症性皮膚疾患;血管炎(例えば、壊死性、皮膚性及び過敏性血管炎);好酸球性筋炎及び好酸球性筋膜炎;並びにがんを含めて、ただしそれだけに限定されない、炎症に付随する疾患の処置に使用することができる。
【0087】
さらに、タンパク質O−GlcNAc修飾レベルに影響を及ぼす化合物は、免疫抑制を引き起こす、化学療法、放射線療法、高度の創傷治癒及び火傷処置、自己免疫疾患療法若しくは別の薬物療法(例えば、コルチコステロイド療法)、自己免疫疾患及び移植片/移植拒絶の処置用の従来薬物の併用を受けている個体などにおける免疫抑制、又は受容体機能における先天性欠損若しくは別の原因による免疫抑制に付随する疾患の処置に使用することができる。
【0088】
本発明の化合物は、Parkinson病及びHuntington病を含めた神経変性疾患の処置に有用であり得る。処置することができる他の状態は、O−GlcNAc翻訳後タンパク質修飾レベルによって誘発されるか、影響を受けるか、又は任意の他の方法でそれと相関する状態である。本発明の化合物は、かかる状態、特に、ただしそれだけに限定されないが、タンパク質上のO−GlcNAcレベルとの関連が立証されている以下の状態の処置に有用であり得ることが予想される:移植片拒絶、特に、ただしそれだけに限定されないが、心臓、肺、肝臓、腎臓、すい臓移植などの固形臓器移植(例えば、腎臓及び肺同種移植);がん、特に、ただしそれだけに限定されないが、乳房、肺、前立腺、すい臓、結腸、直腸、ぼうこう、腎臓、卵巣のがん;並びに非ホジキンリンパ腫及び黒色腫;てんかん、とう痛、又は脳卒中、例えば、脳卒中後の神経保護。
【0089】
(薬剤および獣医学的組成物、投与量及び投与)
本発明による化合物を含む薬剤組成物、又は本発明による使用のための化合物を含む薬剤組成物は、本発明の範囲内であることが企図される。一部の実施形態においては、有効量の式(I)の化合物を含む薬剤組成物を提供する。
【0090】
式(I)の化合物並びにその薬学的に許容される塩、立体異性体、溶媒和物及び誘導体は、ヒトを含めた動物において薬理活性を有するので有用である。一部の実施形態においては、本発明による化合物は、被験体に投与したときに血しょう中で安定である。
【0091】
一部の実施形態においては、本発明による化合物、又は本発明による使用のための化合物は、任意の他の活性薬剤又は薬剤組成物と組み合わせて提供することができる。かかる併用療法は、O−GlcNAcアーゼ活性を調節して、例えば、神経変性、炎症性、心血管若しくは免疫調節性疾患、又は本明細書に記載のいずれかの状態を処置するのに有用である。一部の実施形態においては、本発明による化合物、又は本発明による使用のための化合物は、Alzheimer病の防止又は処置に有用である1種類以上の薬剤と組み合わせて提供することができる。かかる薬剤の例としては、以下が挙げられるが、それだけに限定されない。
【0092】
・Aricept(登録商標)(ドネペジル)、Exelon(登録商標)(リバスチグミン)、Razadyne(登録商標)(Razadyne ER(登録商標)、Reminyl(登録商標)、Nivalin(登録商標)、ガランタミン)、Cognex(登録商標)(タクリン)、Dimebon、Huperzine A、フェンセリン、Debio−9902SR(ZT−1 SR)、ザナペジル(TAK0147)、ガンスチグミン、NP7557などのアセチルコリンエステラーゼ阻害薬(AChEI)、
・Namenda(登録商標)(Axura(登録商標)、Akatinol(登録商標)、Ebixa(登録商標)、メマンチン)、Dimebon、SGS−742、ネラメキサン、Debio−9902SR(ZT−1 SR)などのNMDA受容体拮抗物質、
・FlurizanTM(Tarenflurbil、MPC−7869、R−フルルビプロフェン)、LY450139、MK0752、E2101、BMS−289948、BMS−299897、BMS−433796、LY−411575、GSI−136などのガンマ−セクレターゼインヒビター及び/又は調節物質、
・ATG−Z1、CTS−21166などのベータ−セクレターゼインヒビター、
・NGX267などのアルファ−セクレターゼ賦活薬、
・AlzhemedTM(3APS、トラミプロセート、3−アミノ−1−プロパンスルホン酸)、AL−108、AL−208、AZD−103、PBT2、Cereact、ONO−2506PO、PPI−558などのアミロイドβ凝集及び/又は線維化インヒビター、
・メチレンブルーなどのタウ凝集インヒビター、
・AL−108、AL−208、パクリタキセルなどの微小管安定剤、
・TTP488などのRAGEインヒビター、
・キサリプロデン、Lecozotanなどの5−HT1a受容体拮抗物質、
・PRX−03410などの5−HT4受容体拮抗物質、
・SRN−003−556、amfurindamide、LiCl、AZD1080、NP031112、SAR−502250などのキナーゼインヒビター、
・Bapineuzumab(AAB−001)、LY2062430、RN1219、ACU−5A5などのヒト化モノクローナル抗Aβ抗体、
・AN−1792、ACC−001などのアミロイドワクチン、
・Cerebrolysin、AL−108、AL−208、Huperzine Aなどの神経保護薬、
・MEM−1003などのL型カルシウムチャネル拮抗物質、
・AZD3480、GTS−21などのニコチン受容体拮抗物質、
・MEM3454、ネフィラセタムなどのニコチン受容体作動物質、
・Avandia(登録商標)(Rosglitazone)などのペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)ガンマ作動物質、
・MK−0952などのホスホジエステラーゼIV(PDE4)インヒビター、
・エストロゲン(Premarin)などのホルモン置換療法、
・NS2330、ラサギリン(Azilect(登録商標))、TVP−1012などのモノアミンオキシダーゼ(MAO)インヒビター、
・Ampalex(CX516)などのAMPA受容体調節物質、
・CERE−110(AAV−NGF)、T−588、T−817MAなどの神経成長因子又はNGF増強剤、
・ロイプロリド(VP−4896)などの下垂体による黄体形成ホルモン(LH)放出を防止する薬剤、
・AC−3933、NGD97−1、CP−457920などのGABA受容体調節物質、
・SB−737552(S−8510)、AC−3933などのベンゾジアゼピン受容体逆作動物質、
・T−588、T−817MAなどのノルアドレナリン放出剤。
【0093】
本発明による化合物又は本発明による使用のための化合物とAlzheimer薬との組合せは、本明細書に記載の例に限定されず、Alzheimer病の処置に有用なあらゆる薬剤との組合せを含むことを理解されたい。本発明による化合物又は本発明による使用のための化合物と他のAlzheimer薬との組合せは、別々に又は同時に投与することができる。一薬剤を別の薬剤(単数又は複数)の投与の前に、同時に、又は後に投与することができる。
【0094】
別の実施形態においては、化合物は、被験体に投与した後に化合物を放出する「プロドラッグ」又は保護形態として供給することができる。例えば、化合物は、保護基を有することができる。保護基は、体液中、例えば血中で、加水分解によって分離されて活性化合物を放出するか、又は体液中で酸化若しくは還元されて化合物を放出する。したがって、「プロドラッグ」とは、生理的条件下で又は加溶媒分解によって本発明の生物活性化合物に転化され得る化合物を指すものとする。したがって、「プロドラッグ」という用語は、薬学的に許容される本発明の化合物の代謝前駆体を指す。プロドラッグは、それを必要とする被験体に投与したときに不活性であり得るが、本発明の活性化合物にインビボで転化される。プロドラッグは、典型的には、例えば血中の加水分解によって、インビボで急速に転化されて本発明の親化合物を生成する。プロドラッグ化合物は、被験体において溶解性、組織適合性又は遅延放出の利点を与えることが多い。
【0095】
「プロドラッグ」という用語は、かかるプロドラッグを被験体に投与したときに本発明の活性化合物をインビボで放出する、任意の共有結合担体も含むものとする。本発明の化合物のプロドラッグは、修飾が通常の操作又はインビボで切断されて本発明の親化合物になるように、本発明の化合物中に存在する官能基を修飾することによって調製することができる。プロドラッグは、本発明の化合物のプロドラッグをほ乳動物被験体に投与したときに開裂してそれぞれ遊離ヒドロキシ、遊離アミノ又は遊離メルカプト基を形成する任意の基にヒドロキシ、アミノ又はメルカプト基が結合した、本発明の化合物を含む。プロドラッグの例としては、本発明の化合物中のアルコールの酢酸エステル、ギ酸エステル及び安息香酸エステル誘導体、並びにアミン官能基のアセトアミド、ホルムアミド及びベンズアミド誘導体などが挙げられるが、それだけに限定されない。
【0096】
本発明の化合物のプロドラッグの追加の例としては、式(I)中の2個のOR基が、例えば下記式(II)及び(III):
【0097】
【化8】

のように、環中で結合してもよい(イソプロピリジン(isopropylidine)誘導体としても知られる)アセトニド誘導体が挙げられる。かかるアセトニド基は、インビボで切断されて、本発明の親化合物を遊離するので、これらのアセトニド誘導体をプロドラッグとすることができる。
【0098】
プロドラッグの考察は、“Smith and Williams’Introduction to the Principles of Drug Design,”H.J.Smith,Wright,Second Edition,London (1988);Bundgard,H.,Design of Prodrugs(1985),pp.7−9,21−24(Elsevier,Amsterdam);The Practice of Medicinal Chemistry,Camille G.Wermuth et al.,Ch 31,(Academic Press,1996);A Textbook of Drug Design and Development,P.Krogsgaard−Larson and H.Bundgaard,eds.Ch 5,pgs 113 191(Harwood Academic Publishers,1991);Higuchi,T.,et al.,“Pro drugs as Novel Delivery Systems,”A.C.S.Symposium Series,Vol.14、又はBioreversible Carriers in Drug Design,ed.Edward B.Roche,American Pharmaceutical Association and Pergamon Press,1987に見いだすことができ、そのすべてを参照により本明細書に援用する。
【0099】
本発明の化合物の適切なプロドラッグ形態としては、RがC(O)Rであり、Rが場合によっては置換されたアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール又はヘテロアリールである実施形態が挙げられる。これらの場合、エステル基がインビボで(例えば体液中で)加水分解されて、RがHである活性化合物を放出することができる。本発明の好ましいプロドラッグの実施形態は、RがC(O)CHである式(I)の化合物である。
【0100】
本発明による化合物、又は本発明による使用のための化合物は、リポソーム、アジュバント、又は任意の薬学的に許容される担体、希釈剤若しくは賦形剤の存在下、ほ乳動物、例えば、ヒト、ウシ、ヒツジなどの被験体への投与に適した形態で、単独で、又は他の化合物と組み合わせて、提供することができる。必要に応じて、本発明による化合物を用いた処置は、本明細書に記載の治療指標に対するより伝統的な既存の療法と組み合わせることができる。本発明による化合物は、長期にわたって、又は断続的に、与えることができる。「長期」投与とは、初期の治療効果(活性)を長期間維持するように、急性様式とは対照的に連続様式で化合物(単数又は複数)を投与することを指す。「断続的」投与は、中断せずに継続的に実施するのではなく、本質的に周期的である処置である。本明細書では「投与」、「投与可能」又は「投与する」という用語は、処置を必要とする被験体に本発明の化合物を与えることを意味すると理解すべきである。
【0101】
「薬学的に許容される担体、希釈剤又は賦形剤」としては、例えばUnited States Food and Drug Administration又は他の政府機関によってヒト又は家畜における使用に許容されると認可された、任意のアジュバント、担体、賦形剤、流動化剤、甘味剤、希釈剤、防腐剤、染料/着色剤、香味向上剤、界面活性剤、湿潤剤、分散剤、懸濁化剤、安定剤、等張化剤、溶媒又は乳化剤が挙げられるが、それだけに限定されない。
【0102】
本発明の化合物は、薬学的に許容される塩の形で投与することができる。かかる場合、本発明による薬剤組成物は、かかる化合物の塩、好ましくは当分野で公知の生理的に許容される塩を含み得る。一部の実施形態においては、本明細書では「薬学的に許容される塩」という用語は、その塩の形で用いられる式1の化合物を含む活性成分を意味し、特にその塩の形態は、遊離型の活性成分や以前に開示された別の塩形態よりも改善された薬物動態学的諸性質を活性成分に付与する。
【0103】
「薬学的に許容される塩」は、酸付加塩と塩基付加塩の両方を含む。「薬学的に許容される酸付加塩」とは、遊離塩基の生物学的効果及び諸性質を保持し、生物学的にもその他の点でも望ましくないものではなく、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、シュウ酸、マレイン酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、ケイ皮酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、サリチル酸などの有機酸と一緒に形成される、塩を指す。
【0104】
「薬学的に許容される塩基付加塩」とは、生物学的にもその他の点でも望ましくないものではない、遊離酸の生物学的効果及び諸性質を保持した、塩を指す。これらの塩は、遊離酸への無機塩基又は有機塩基の付加から調製される。無機塩基から誘導される塩としては、ナトリウム、カリウム、リチウム、アンモニウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、銅、マンガン、アルミニウム塩などが挙げられるが、それだけに限定されない。好ましい無機塩は、アンモニウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム及びマグネシウム塩である。有機塩基から誘導される塩としては、イソプロピルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、エタノールアミン、2−ジメチルアミノエタノール、2−ジエチルアミノエタノール、ジシクロヘキシルアミン、リジン、アルギニン、ヒスチジン、カフェイン、プロカイン、ヒドラバミン、コリン、ベタイン、エチレンジアミン、グルコサミン、メチルグルカミン、テオブロミン、プリン、ピペラジン、ピペリジン、N−エチルピペリジン、ポリアミン樹脂などの第一級、第二級及び第三級アミン、天然に存在している置換アミンを含めた置換アミン、環式アミン、並びに塩基性イオン交換樹脂の塩が挙げられるが、それだけに限定されない。特に好ましい有機塩基は、イソプロピルアミン、ジエチルアミン、エタノールアミン、トリメチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、コリン及びカフェインである。
【0105】
したがって、「薬学的に許容される塩」という用語は、酢酸塩、ラクトビオン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、ラウリン酸塩、安息香酸塩、リンゴ酸塩、炭酸水素塩、マレイン酸塩、硫酸水素塩、マンデル酸塩、酒石酸水素塩、メシル酸塩、ホウ酸塩、臭化メチル、臭化物、亜硝酸メチル、エデト酸カルシウム、硫酸メチル、カンシル酸塩、ムケート(mucate)、炭酸塩、ナプシル酸塩、塩化物、硝酸塩、クラブラン酸塩、N−メチルグルカミン、クエン酸塩、アンモニウム塩、二塩酸塩、オレイン酸塩、エデト酸塩、シュウ酸塩、エジシル酸塩、パモ酸塩(エンボナート)、エストラート、パルミチン酸塩、エシラート、パントテン酸塩、フマル酸塩、リン酸塩/二リン酸塩、グルセプト酸塩、ポリガラクツロン酸塩、グルコン酸塩、サリチル酸塩、グルタミン酸塩(glutame)、ステアリン酸塩、グリコリルアルサニラート(glycollylarsanilate)、硫酸塩、ヘキシルレソルシナート、塩基性酢酸塩、ヒドラダミン(hydradamine)、コハク酸塩、臭化水素酸塩、タンニン酸塩、塩酸塩、酒石酸塩、ヒドロキシナフトエート、テオクル酸塩、ヨウ化物、トシル酸塩、イソチオン酸塩、トリエチオダイド、乳酸塩、パノアート(panoate)、吉草酸塩などを含めて、ただしそれだけに限定されないすべての許容される塩を包含する。
【0106】
本発明の化合物の薬学的に許容される塩は、溶解性又は加水分解性を改変する一投薬量として使用することができ、又は徐放性若しくはプロドラッグ処方物として使用することができる。さらに、本発明の化合物の薬学的に許容される塩としては、ナトリウム、カリウム、アルミニウム、カルシウム、リチウム、マグネシウム、亜鉛などの陽イオン、及びアンモニア、エチレンジアミン、N−メチル−グルタミン、リジン、アルギニン、オルニチン、コリン、N,N’−ジベンジルエチレン−ジアミン、クロロプロカイン、ジエタノールアミン、プロカイン、N−ベンジルフェネチル−アミン、ジエチルアミン、ピペラジン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、水酸化テトラメチルアンモニウムなどの塩基から形成される塩も挙げることができる。
【0107】
医薬処方物は、典型的には、調製物の投与方法、すなわち、注射、吸入、局所投与、洗浄、又は選択した処置に適した他の方法に許容される1種類以上の担体を含む。適切な担体は、かかる投与方法に使用される当分野で公知の担体である。
【0108】
適切な薬剤組成物は、当分野で公知の手段によって処方することができ、その投与方法及び用量は施術者が決定することができる。非経口投与の場合、化合物は、滅菌水、生理食塩水、又はビタミンKに使用されるものなどの非水溶性化合物の投与に用いられる薬学的に許容されるビヒクルに溶解させることができる。経腸投与の場合、化合物は、錠剤、カプセル剤として、又は溶解させて液体の形で投与することができる。錠剤又はカプセル剤は、腸溶性コーティングすることができるか、又は徐放性処方物とすることができる。放出される化合物を包む重合体若しくはタンパク質微粒子、軟膏剤、ゲル剤、ヒドロゲル剤、又は化合物を投与するのに局所的若しくは局在的に使用することができる溶液剤を含めて、多数の適切な処方物が知られている。徐放性貼付剤又は移植片を使用して、長時間放出させることができる。施術者に既知の多数の技術が、Remington:the Science&Practice of Pharmacy by Alfonso Gennaro,20th ed.,Williams&Wilkins,(2000)に記載されている。非経口投与処方物は、例えば、賦形剤、ポリエチレングリコールなどのポリアルキレングリコール、植物起源の油、又は水素化ナフタレンを含むことができる。生体適合性、生分解性ラクチドポリマー、ラクチド/グリコリドコポリマー、又はポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンコポリマーを使用して、化合物の放出を制御することができる。調節性化合物に有用であり得る他の非経口送達系としては、エチレン酢酸ビニルコポリマー粒子、浸透圧ポンプ、埋め込み型注入システム及びリポソームが挙げられる。吸入用処方物は、賦形剤、例えばラクトースを含有することができ、例えばポリオキシエチレン−9−ラウリルエーテル、グリココール酸塩及びデオキシコール酸塩を含む、水溶液とすることができ、又は点鼻薬の形で若しくはゲル剤として投与するための油性溶液とすることができる。
【0109】
本発明による化合物又は薬剤組成物は、経口又は非経口、例えば、筋肉内、腹腔内、静脈内、槽内注射又は注入、皮下注射、経皮又は経粘膜経路によって投与することができる。一部の実施形態においては、本発明による又は本発明に使用される化合物又は薬剤組成物は、移植片、グラフト、プロテーゼ、ステントなどの医療デバイス又は器具によって投与することができる。かかる化合物又は組成物を含み、放出することを意図した移植片を考案することができる。一例は、化合物をある期間放出するようになされた重合体材料でできた移植片である。化合物は、単独で又は薬学的に許容される担体との混合物として、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤などの固体処方物、シロップ剤、注射剤などの液体処方物、注射剤、滴剤、坐剤、膣坐剤として投与することができる。一部の実施形態においては、本発明による又は本発明に使用される化合物又は薬剤組成物は、吸入噴霧、鼻、膣、直腸、舌下又は局所経路によって投与することができ、単独で又は一緒に、各投与経路に適切な従来の無毒の薬学的に許容される担体、アジュバント及びビヒクルを含む適切な単位用量で、処方することができる。
【0110】
本発明の化合物は、マウス、ラット、ウマ、ウシ、ヒツジ、イヌ、ネコ及びサルを含めた動物の処置に使用することができる。しかしながら、本発明の化合物は、トリ種(例えば、ニワトリ)などの別の生物体に使用することもできる。本発明の化合物は、ヒトにおける使用にも有効であり得る。本明細書では「患者」とも称する「被験体」という用語は、処置、観察又は実験の対象である動物、好ましくはほ乳動物、最も好ましくはヒトを指すものとする。しかしながら、本発明の化合物、方法及び薬剤組成物は、動物の処置に使用することができる。したがって、本明細書では「被験体」は、ヒト、非ヒト霊長類、ラット、マウス、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコなどでもよい。被験体は、O−GlcNAcアーゼ活性の調節を必要とする状態を有する疑い、又は有するリスクがあり得る。
【0111】
本発明による化合物の「有効量」は、治療有効量又は予防有効量を含む。「治療有効量」とは、必要な投与量及び期間で、O−GlcNAcアーゼの阻害、O−GlcNAcレベルの上昇、タウリン酸化の阻害、本明細書に記載の任意の状態などの所望の治療結果を得るのに有効な量を指す。化合物の治療有効量は、個体の病態、年齢、性別及び体重、個体において所望の反応を誘発する化合物の能力などの要因に応じて変わり得る。投与計画は、最適な治療反応が得られるように調整することができる。治療有効量は、化合物の任意の毒性又は有害作用よりも治療上有益な効果がまさる量でもある。「予防有効量」とは、必要な投与量及び期間で、O−GlcNAcアーゼの阻害、O−GlcNAcレベルの上昇、タウリン酸化の阻害、本明細書に記載の任意の状態などの所望の予防結果を得るのに有効な量を指す。典型的には、予防投与量は疾患前又は初期に被験体に使用されるので、予防有効量は治療有効量よりも少ない可能性がある。化合物の治療又は予防有効量の適切な範囲は、0.1nM〜0.1M、0.1nM〜0.05M、0.05nM〜15μM又は0.01nM〜10μMの任意の整数とすることができる。
【0112】
別の実施形態においては、O−GlcNAcアーゼ活性の調節を必要とする状態の処置又は防止では、適切な投与量レベルは一般に約0.01から500mg/kg被験体体重/日であり、単回又は複数回投与で投与することができる。一部の実施形態においては、投与量レベルは約0.1から約250mg/kg/日である。任意の特定の患者に対する具体的用量レベル及び投与頻度は変動し得るものであり、使用する具体的化合物の活性、その化合物の代謝安定性及び作用期間、年齢、体重、全般的健康状態、性別、食餌、投与方法及び時間、排出速度、薬物組合せ、特定の状態の重篤度、並びに患者が受けている治療を含めて、多様な要因に応じて決まることを理解されたい。
【0113】
投与量は、軽減すべき状態の重症度によって変わり得ることに留意されたい。任意の特定の被験体に対して、具体的投与計画は、個々の要求及び組成物の投与者又は投与管理者の専門的判断に従って期間にわたって調整することができる。本明細書に記載の投与量範囲は単なる例示にすぎず、医療施術者が選択することのできる投与量範囲を限定するものではない。組成物中の活性化合物(単数又は複数)の量は、例えば、被験体の病態、年齢、性別及び体重などの要因に応じて変わり得る。投与計画は、最適な治療反応が得られるように調整することができる。例えば、単一ボーラスを投与することができ、幾つかの分割用量を期間にわたって投与することができ、又は投与量を治療状況の緊急性に比例して増減させることができる。投与を容易にし、投与量を均一にするために、非経口組成物を単位用量形態で処方することが有利な場合もある。一般に、本発明の化合物は、実質的な毒性を引き起こさずに使用されるべきであり、本明細書に記載のように、化合物は治療上の使用に適切な安全性プロファイルを示す。本発明の化合物の毒性は、標準技術を使用して、例えば、細胞培養物又は実験動物において試験して治療指数、すなわちLD50(集団の50%に致死的な用量)とLD100(集団の100%に致死的な用量)の比を決定することによって、測定することができる。しかし、重篤な病状などの一部の状況においては、実質的に過剰の組成物を投与する必要があり得る。
【0114】
(他の使用及びアッセイ)
式(I)の化合物は、グリコシダーゼ酵素、好ましくはO−GlcNAcアーゼ酵素の活性を調節する化合物のスクリーニングアッセイに使用することができる。モデル基質からのO−GlcNAcのO−GlcNAcアーゼ依存性切断を阻害する試験化合物の能力は、本明細書に記載の、又は当業者に既知の、任意のアッセイによって測定することができる。例えば、当分野で公知の蛍光又はUVベースアッセイを使用することができる。「試験化合物」は、任意の天然に存在しているか又は人工的に得られた化学物質である。試験化合物としては、ペプチド、ポリペプチド、合成有機分子、天然に存在している有機分子及び核酸分子が挙げられ得るが、それだけに限定されない。試験化合物は、例えば、O−GlcNAcのO−GlcNAcアーゼ依存性切断の阻害を妨害することによって、又は式(I)の化合物によって誘導される任意の生物学的反応を妨害することによって、式(I)の化合物などの公知化合物と「競合」することができる。
【0115】
一般に、試験化合物は、式(I)の化合物又は他の参照化合物と比較して、10%から200%、又は500%を超える任意の値の調節を示し得る。例えば、試験化合物は、少なくとも10%から200%の任意の正又は負の整数の調節、又は少なくとも30%から150%の任意の正又は負の整数の調節、又は少なくとも60%から100%の任意の正又は負の整数の調節、又は100%を超える任意の正又は負の整数の調節を示し得る。負の調節物質である化合物は、一般に、公知化合物と比較して調節を減少させ、正の調節物質である化合物は、一般に、公知化合物と比較して調節を増加させる。
【0116】
一般に、試験化合物は、当分野で公知の方法に従って、天然物若しくは合成(若しくは半合成)抽出物の両方の大型ライブラリー、又は化合物ライブラリーから特定される。薬物探査及び開発分野の当業者は、試験抽出物又は化合物の正確な供給源が本発明の方法(単数又は複数)に重要ではないことを理解する。したがって、実質的にあらゆる数の化学抽出物又は化合物を本明細書に記載の例示的方法を用いてスクリーニングすることができる。かかる抽出物又は化合物の例としては、植物、真菌、原核生物又は動物からの抽出物、発酵ブロス、及び合成化合物、並びに既存化合物の改変が挙げられるが、それだけに限定されない。糖類、脂質、ペプチド及び核酸に基づく化合物を含めて、ただしそれだけに限定されない任意の数の化学物質を無作為又は指向的に合成(例えば、半合成又は全合成)する多数の方法を利用することもできる。合成化合物ライブラリーは市販されている。あるいは、細菌、真菌、植物及び動物抽出物の形の天然化合物のライブラリーは、Biotics(Sussex,UK)、Xenova(Slough,UK)、Harbor Branch Oceanographic Institute(Ft.Pierce,FL,USA)、及びPharmaMar,MA,USAを含めて、幾つかの供給源から市販されている。さらに、天然及び合成的作製ライブラリーは、必要に応じて、当分野で公知の方法に従って、例えば標準の抽出及び分画方法によって、作製される。さらに、必要に応じて、任意のライブラリー又は化合物が、標準の化学的、物理的又は生化学的方法を用いて容易に改変される。
【0117】
粗製抽出物が、O−GlcNAcのO−GlcNAcアーゼ依存性切断の阻害、又は式(I)の化合物によって誘発される任意の生物学的反応を調節することが判明したときには、観察された効果の原因である化学成分を単離するために、正のリード抽出物の更なる分画が必要である。したがって、抽出、分画及び精製プロセスの目的は、O−GlcNAcアーゼ抑制活性を有する粗製抽出物内の化学的実体を慎重に特性分析し、同定することである。化合物の混合物における活性を検出するための本明細書に記載の同じアッセイを使用して、活性成分を精製し、その誘導体を試験することができる。かかる不均一抽出物の分画及び精製方法は、当分野で公知である。必要に応じて、処置に有用な薬剤であることが示された化合物を当分野で公知の方法に従って化学的に改変する。治療上、予防上、診断上又は他の価値があると確認された化合物は、続いて、当分野で公知の本明細書に記載される適切な動物モデルを用いて分析することができる。
【0118】
一部の実施形態においては、本明細書に記載の化合物(例えば、式Iの化合物)又は試験化合物は、樹立細胞118〜120及び/又は疾患のトランスジェニック動物モデル32,33を用いて分析することができ、化合物の例えば毒性タウ種形成阻止能力を測定することができる。かかる分析を使用して、例えば、毒性タウ種の蓄積に付随する病状(例えば、Alzheimer病及び他のタウオパチー)の処置又は防止における化合物の有効性を決定又は確認することができる。
【0119】
一部の実施形態においては、本明細書に記載の化合物(例えば、式Iの化合物)又は試験化合物は、樹立細胞のストレスアッセイ105,116,117及び/又は虚血−再潅流70,114若しくは外傷−出血72,112,115の動物モデルを用いて、分析することができる。かかる分析を使用して、例えば、(虚血、出血、血液量減少性ショック、心筋梗塞及び他の心血管障害を含めた)細胞ストレスに付随する病状の処置若しくは防止における、又は組織損傷の処置若しくは防止又は機能回復の促進における、化合物の有効性を決定又は確認することができる。
【0120】
一部の実施形態においては、化合物は、O−GlcNAcアーゼの欠乏、O−GlcNAcアーゼの過剰発現、O−GlcNAcの蓄積、O−GlcNAcの枯渇に関連した疾患又は障害の研究のための動物モデル、並びにO−GlcNAcアーゼの欠乏若しくは過剰発現又はO−GlcNAcの蓄積若しくは枯渇に関連した疾患及び障害の処置を研究するための動物モデルの開発に有用である。かかる疾患及び障害としては、Alzheimer病を含めた神経変性疾患、及びがんが挙げられる。
【0121】
本発明の様々な代替実施形態及び実施例を本明細書に記載する。これらの実施形態及び実施例は説明のためのものであって、本発明の範囲を限定するものと解釈してはならない。
【実施例】
【0122】
(実施例)
以下の実施例は、本発明の実施形態を説明することを意図し、限定的に解釈されることを意図しない。
【0123】
(実施例1)
化合物1および2(アロサミゾリン(allosamizoline))を、公知の合成方法121−131によって調製する。例えば、Trostら126の合成経路(スキーム1)にしたがい、2当量のTsNCOと、続いて触媒性パラジウムとジオールAの反応によって、環状カルバメートBが96%の収率で提供される。ナフタレン中のナトリウムでのトシル基の除去は、Cを91%の収率でもたらし、次にこれを、新たに蒸留されたメチルトリフレートと、続いてジメチルアミンとの反応によってアミノオキサゾリンDへ、定量的な収率で変換した。TFA中のトリフルオロ過酢酸を使用するD中の二重結合の二ヒドロキシル化、次に、水性TFAでの加温、続いて水素化分解を使用するベンジル脱保護によって、アロサミゾリン2を67%の収率で提供する。多くの代替的な合成経路が、本明細書に引用された参考文献121〜131に記載されるように、2の調製に利用可能である。
【0124】
【化9】

(実施例2)
一般構造Fを有する本発明の化合物を、スキーム2に記載される順序にしたがって調製する。したがって、中間体Cから開始して126、メチルトリフレート、続いて必要な第一級アミンまたは第二級アミンでの処理(Trostら126によって記載される手順に類似する)によって、アミノオキサゾリンEを提供する。スキーム1に記載されるものと同一の条件を使用するこれらの材料の二ヒドロキシル化、続いて脱保護によって、所望の産物Fを提供する。
【0125】
【化10】

(実施例3)
一般構造Kを有する本発明の化合物を、スキーム3に記載される順序にしたがって調製する。したがって、中間体Gから開始して132、適切なイソチオシアネートでの処理によって、尿素Hを提供する。H中のアルコール官能基のメシル化によって、中間体Iを提供する。アセトン中のヨウ化カリウムでのこれらの化合物の処理によって、このメシレートを立体科学的反転を有するヨード官能基に変換し;反応条件下で、チオ尿素が、ヨード基上で環化して、中間体Jを与える。TBAFでのこれらの材料中のTBDMS基の脱保護、続いて水素化分解を使用するベンジル脱保護によって、所望の産物Kを得る。
【0126】
【化11】

(実施例4)
一般構造Lを有する本発明の化合物を、スキーム4に記載される順序にしたがって調製する。加熱しながら水中において適切な第二級アミンでの化合物Kの処理によって、所望の産物Lを提供した(例えば、Kinoshitaら133を参照のこと)。
【0127】
【化12】

(実施例5)
(化合物2(アロサミゾリン):(3aR,4R,5R,6R,6aS)−2−(ジメチルアミノ)−6−(ヒドロキシメチル)−4,5,6,6a−テトラヒドロ−3aH−シクロペンタ[d]オキサゾール−4,5−ジオール)
【0128】
【化13】

化合物2を、業者から、塩酸塩として購入した。H NMR (200 MHz, DO) δ 2.25−2.40 (m, 1H), 3.00 (s, 3H), 3.02 (s, 3H), 3.59−3.87 (m, 3H), 4.02 (dd, 1H, J = 7, 5 Hz), 4.27 (dd, 1H, J = 9, 6 Hz), 5.26 (dd, 1H, J = 9, 5 Hz);13C NMR (50 MHz, DO) δ 37.3, 37.5, 51.3, 59.3, 63.6, 74.8, 81.6, 86.7, 160.6;MS (EI、遊離塩基): m/z 217 (M+1)。
【0129】
(実施例6)
(O−GlcNAcアーゼ活性阻害のK値を測定するアッセイ)
動態分析のための実験手順:酵素反応を、pNP−GlcNAcを基質(0.5mM)として使用してPBS緩衝液(pH7.4)中で実行し、ペルチェ温度制御器を装備したCary 3E UV−VIS分光光度計を使用して37℃、400nmで連続的にモニタリングする。反応物を、500μL石英キュベット中で約5分間予熱し、続いて10μLの酵素をシリンジを介して添加する(酵素の終濃度0.002mg/mL)。反応速度を、最初の1分から3分までの間の反応進行曲線の線形領域の線形回帰によって決定する。Kの1/5〜5倍のインヒビター濃度の範囲を、各場合に使用する。
【0130】
このアッセイにおける試験では、本明細書に記載の多数の化合物が、1nM〜50μMの範囲のO−GlcNAcアーゼ阻害のK値を示す。全てのK値は、Dixonプロットの線形回帰によって決定する。
【0131】
(実施例7)
(βヘキソサミニダーゼ活性阻害のK値を測定するアッセイ)
動態分析の実験手順:酵素学的アッセイはすべて、400nmにおける吸収測定によって求められる遊離4−ニトロフェノラートの量を測定することによって、停止アッセイ手順を用いて37℃で3連で実施する。反応(50μL)を、酵素(3μL)をシリンジで添加することによって開始する。βヘキソサミニダーゼの時間依存アッセイによって、酵素が緩衝液中でアッセイ期間中安定であることが判明した:50mMクエン酸、100mM NaCl、0.1%BSA、pH4.25。βヘキソサミニダーゼを0.036mg/mLの濃度で使用し、pNP−GlcNAcを基質として0.5mMの濃度で用いる。インヒビターをKの5から1/5倍の範囲の5つの濃度で試験する。K値は、Dixonプロットからデータの線形回帰によって求める。
【0132】
このアッセイにおける試験では、本明細書に記載の多数の化合物が、1μM〜10mMの範囲のβヘキソサミニダーゼ阻害のK値を示す。例えば、表3に示されるO−GlcNAcアーゼの阻害についてのK値を、化合物2について得た。このK値を、Dixonプロットの線形回帰を使用して決定した。
【0133】
【表3】

βヘキソサミニダーゼに対するO−GlcNAcアーゼの阻害選択比は、本明細書では以下:
I(βヘキソサミニダーゼ)/KI(O−GlcNAcアーゼ)
のように定義する。
【0134】
一般に、本明細書に記載の化合物は、約10から100000の範囲の選択比を示すであろう。すなわち、本発明の多数の化合物は、βヘキソサミニダーゼよりもO−GlcNAcアーゼの阻害に対して高い選択性を示す。
【0135】
本発明を1つ以上の実施形態に関して記述した。しかしながら、特許請求の範囲に規定された本発明の範囲から逸脱することなく、幾つかの変更及び改変をなし得ることが当業者には明らかである。
【0136】
(参考文献)
【0137】
【数1】

【0138】
【数2】

【0139】
【数3】

【0140】
【数4】

全ての引用物は、参照によって本明細書に援用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化14】

の化合物、又は薬学的に許容されるその塩であって、
式中、
Xは、O、SまたはNRであり、
各Rは独立に非妨害性置換基であり、
はNRであって、各Rは場合によっては独立に非妨害性置換基であり、
ただし、XがOであり、各RがHまたはC(O)CHであるときには、RはN(CHではない、式(I)の化合物、又は薬学的に許容されるその塩。
【請求項2】
各Rが別のRと結合して追加の環構造を形成してもよい、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
がH又はC(O)CHである、請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項4】
前記非妨害性置換基が、アルキル、分枝アルキル、アルケニル、分枝アルケニル、アルキニル、分枝アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アリールアルキル、ヘテロアリールアルキル、アリールアルケニル、ヘテロアリールアルケニル、アリールアルキニル及びヘテロアリールアルキルニルからなる群の1個以上から選択され、その各々が1個以上のヘテロ原子又は追加の非妨害性置換基で場合によっては置換されていてもよい、請求項1から3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項5】
前記非妨害性置換基が、P、O、S、N、F、Cl、Br、IおよびBから選択される1個以上のヘテロ原子を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項6】
前記非妨害性置換基が場合によっては置換された、請求項1から5のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項7】
前記化合物が、表1に記載の化合物の1個以上を除外するという条件での、請求項1から6のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項8】
前記化合物がプロドラッグである、請求項1に記載の化合物。
【請求項9】
前記化合物が、O−グリコプロテイン2−アセトアミド−2−デオキシ−β−D−グルコピラノシダーゼ(O−GlcNAcアーゼ)を選択的に阻害する、請求項1から8のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項10】
前記化合物がO−GlcNAcアーゼに選択的に結合する、請求項1から9のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項11】
前記化合物が2−アセトアミド−2−デオキシ−β−D−グルコピラノシド(O−GlcNAc)の切断を選択的に阻害する、請求項1から10のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項12】
前記O−GlcNAcアーゼがほ乳動物のO−GlcNAcアーゼである、請求項9に記載の化合物。
【請求項13】
前記化合物がほ乳動物のβヘキソサミニダーゼを実質的に阻害しない、請求項1から12のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項14】
薬学的に許容される担体と組み合わせて、請求項1から13のいずれか一項に記載の化合物を含む、薬剤組成物。
【請求項15】
O−GlcNAcアーゼの選択的阻害を必要とする被験体においてO−GlcNAcアーゼを選択的に阻害する方法であって、該方法は、有効量の式(I):
【化15】

の化合物又は薬学的に許容されるその塩を該被験体に投与することを含み、
式中、
Xは、O、SまたはNRであり、
各Rは独立に非妨害性置換基であり、
はNRであって、各Rは場合によっては独立に非妨害性置換基である、方法。
【請求項16】
O−GlcNAcレベルの上昇を必要とする被験体においてO−GlcNAcレベルを上昇させる方法であって、該方法は、有効量の式(I):
【化16】

の化合物又は薬学的に許容されるその塩を該被験体に投与することを含み、
式中、
Xは、O、SまたはNRであり、
各Rは独立に非妨害性置換基であり、
はNRであって、各Rは場合によっては独立に非妨害性置換基である、方法。
【請求項17】
処置を必要とする被験体においてO−GlcNAcアーゼによって調節される状態を処置する方法であって、該方法は、有効量の式(I):
【化17】

の化合物又は薬学的に許容されるその塩を該被験体に投与することを含み、
式中、
Xは、O、SまたはNRであり、
各Rは独立に非妨害性置換基であり、
はNRであって、各Rは場合によっては独立に非妨害性置換基である、方法。
【請求項18】
前記状態が、炎症性疾患、アレルギー、ぜん息、アレルギー性鼻炎、過敏性肺疾患、過敏性肺炎、好酸球性肺炎、遅延型過敏、アテローム性動脈硬化症、間質性肺疾患(ILD)、特発性肺線維症、リウマチ様関節炎に付随するILD、全身性エリテマトーデス、強直性脊椎炎、全身性硬化症、Sjogren症候群、多発性筋炎又は皮膚筋炎、全身アナフィラキシー又は過敏反応、薬物アレルギー、昆虫刺傷アレルギー、自己免疫疾患、リウマチ様関節炎、乾せん性関節炎、多発性硬化症、全身性エリテマトーデス、重症筋無力症、糸球体腎炎、自己免疫性甲状腺炎、移植片拒絶、同種移植片拒絶、移植片対宿主病、炎症性腸疾患、Crohn病、潰よう性大腸炎、脊椎関節症、強皮症、乾せん、T細胞媒介性乾せん、炎症性皮膚疾患、皮膚炎、湿疹、アトピー性皮膚炎、アレルギー性接触皮膚炎、じんま疹、血管炎、壊死性、皮膚性及び過敏性血管炎、好酸球性筋炎、好酸球性筋膜炎、固形臓器移植拒絶、心臓移植拒絶、肺移植拒絶、肝移植拒絶、腎臓移植拒絶、すい臓移植拒絶、腎臓同種移植、肺同種移植、てんかん、とう痛、脳卒中、神経保護からなる群の一つ以上から選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
処置を必要とする被験体において神経変性疾患、タウオパチー、がん及びストレスからなる群より選択される状態を処置する方法であって、該方法は、有効量の式(I):
【化18】

の化合物又は薬学的に許容されるその塩を該被験体に投与することを含み、
式中、
Xは、O、SまたはNRであり、
各Rは独立に非妨害性置換基であり、
はNRであって、各Rは場合によっては独立に非妨害性置換基である、方法。
【請求項20】
前記状態が、Alzheimer病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、認知障害を伴う筋萎縮性側索硬化症(ALSci)、好銀性グレイン認知症、Bluit病、大脳皮質基底核変性症(CBD)、ボクサー認知症、石灰化を伴うびまん性神経原線維変化、Down症候群、家族性英国型認知症、家族性デンマーク型認知症、17番染色体に連鎖したパーキンソニズムを伴う前頭側頭型認知症(FTDP−17)、Gerstmann−Straussler−Scheinker病、Guadeloupeanパーキンソニズム、Hallevorden−Spatz病(脳の鉄沈着を伴う神経変性1型)、多系統萎縮症、筋緊張性ジストロフィー、Niemann−Pick病(C型)、淡蒼球橋黒質変性、グアムのパーキンソニズム認知症複合、Pick病(PiD)、脳炎後パーキンソニズム(PEP)、(Creutzfeldt−Jakob病(CJD)、変異型Creutzfeldt−Jakob病(vCJD)、致死性家族性不眠症及びクールーを含めた)プリオン病、進行性超皮質性神経こう症、進行性核上性麻ひ(PSP)、Richardson症候群、亜急性硬化性全脳炎、神経原線維変化型認知症、Huntington病、及びParkinson病からなる群の一つ以上から選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記ストレスが心障害である、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記心障害が、虚血、出血、血液量減少性ショック、心筋梗塞、心血管インターベンション手順、心臓バイパス手術、線溶療法、血管形成術及びステント留置からなる群の一つ以上から選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
がH又はC(O)CHである、請求項15から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
がN(CHである、請求項15から23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記化合物が、表1に記載の化合物の1種類以上からなる群より選択される、請求項15から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記投与が前記被験体におけるO−GlcNAcレベルを増加させる、請求項15から25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記被験体がヒトである、請求項15から26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
医薬品の調製における、有効量の式(I):
【化19】

の化合物の化合物又は薬学的に許容されるその塩の使用であって、
式中、
Xは、O、SまたはNRであり、
各Rは独立に非妨害性置換基であり、
はNRであって、各Rは場合によっては独立に非妨害性置換基である、使用。
【請求項29】
前記医薬品が、O−GlcNAcアーゼを選択的に阻害するため、O−GlcNAcレベルを増加させるため、O−GlcNAcアーゼによって調節される状態を処置するため、又は神経変性疾患、タウオパチー、がん若しくはストレスを処置するためのものである、請求項28に記載の使用。
【請求項30】
O−GlcNAcアーゼの選択的インヒビターをスクリーニングする方法であって、該方法は、
a)第1の試料を試験化合物と接触させる工程、
b)第2の試料を式(I):
【化20】

の化合物と接触させる工程であって、
式中、
Xは、O、SまたはNRであり、
各Rは独立に非妨害性置換基であり、
はNRであって、各Rは場合によっては独立に非妨害性置換基である、工程、
c)該第1及び第2の試料中のO−GlcNAcアーゼの阻害レベルを決定する工程
を含み、
該試験化合物が式(I)の化合物と比較して同等以上のO−GlcNAcアーゼの阻害を示す場合に、該試験化合物がO−GlcNAcアーゼの選択的インヒビターである、方法。

【公表番号】特表2011−529858(P2011−529858A)
【公表日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−520297(P2011−520297)
【出願日】平成21年7月31日(2009.7.31)
【国際出願番号】PCT/CA2009/001088
【国際公開番号】WO2010/012107
【国際公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【出願人】(507293413)サイモン フレイザー ユニバーシティ (4)
【Fターム(参考)】