説明

遺伝子マーカーを使用する癌幹細胞の同定

本発明は、癌幹細胞のためのマーカーの同定に関する。これらのマーカーは、診断及び療法を含む多くの異なった様式で使用し得る。特に、本発明は、癌幹細胞を検出する、同定する及び/又は定量化する方法に関し、該方法は、細胞中のSLUG、OVOL1及び/又はOVOL2遺伝子、プロモーター及び/又は発現産物の:発現のレベル;活性;又は配列;を評価する工程を含んでなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌幹細胞のためのマーカーの同定に関する。これらのマーカーは、診断及び療法を含む多くの方法で使用し得る。
本明細書に引用されているすべての出版物、特許及び特許出願は参照によりその全体が援用されている。
【背景技術】
【0002】
癌の従来の見解は、この疾患が細胞レベルでの多段階突然変異事象に起因する、急激に成長する高度に変異した細胞により引き起こされるということである。現在の治療は、化学療法又は放射線治療により、この細胞集団の根絶を目的に行われる。加えて、より複雑な免疫療法及び遺伝子療法が現れている。すべてのこれらの方法は、腫瘍塊の著しい容量を、その容量を作り上げている新生物性高増殖性細胞を標的化することにより根絶する。これらの方法が失敗した場合は、治療の不適切さのため又は細胞の一部が抵抗性になったために、いくらかの細胞が療法プロセスを生き残ったためであると考えられる。
【0003】
癌が幹細胞から生じるという概念が、最近、幹細胞生物学の進歩により新しい勢いを得てきた。この仮説は、腫瘍が自己再生の強固に調節されたプロセスの調節不全を介して幹細胞に由来すると考える。腫瘍はそれ故、自己再生する能力を含む、重要な幹細胞特性を保持する細胞の副成分を保持している。これが腫瘍発生及び異常分化を駆動する。この理論は、信じていない者もいるけれども(Hill et al., 2006)、この領域の多くの研究者間で勢いを得てきた(Wicha et al 2006 及びそれに引用されている文献;US 6,004,528も参照されたい)。
【0004】
この仮説の意味することは広範で及び基本的であり、癌リスク評価、早期検出、予後判定及び発生への波及効果を有する。それはまた、癌幹細胞(それらから末期分化癌細胞が誘導される)よりむしろ末期分化癌細胞を標的とする現在の抗癌療法に疑問を投げかけ、及びその失敗をおそらく明らかにする。
【0005】
癌幹細胞仮説は、癌幹細胞の希な集団が標的化されることを必要とする。もちろん、このことは問題を伴っており、体の健康な幹細胞集団は残されなければならない。特に、幹細胞モデルは、癌幹細胞が生じた場合、それらを同定することから重要な予後及び予測情報を得ることができると考えるので、このモデルは癌の早期発見のためのマーカーの開発について重要な意味を有する。もしマーカーが癌幹細胞及びそれらの健常対応物間を識別するように開発できるならば、こうしたマーカーは原因となる病気の細胞を標的化するためにも使用することができ、従って癌幹細胞数を減少させる。特に、自己再生能力の損失を伴うアポトーシス又は分化をこれらの細胞において誘導する療法的介入は、癌予防のための合理的な療法的アプローチを意味する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
それ故、癌幹細胞を特異的に及び選択的に同定する、及び健常幹細胞からこれらを区別する方法に対する大きな要求がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の要旨
理論に拘束されようとは思わないが、本発明者は、癌幹細胞が胚性幹細胞と特徴を共有するという仮説を立てた。これらの特徴には、中でも、自己再生能力及び特異的細胞表面マーカーの発現が含まれる。本発明者は、それ故ここに、癌幹細胞のためのバイオマーカーとしてSLUG、OVOL1及びOVOL2を同定した。これらの遺伝子の発現は、癌を有するヒトの末梢血中の及びヒト癌のマウスモデルの末梢血中の癌幹細胞において同定されたが、健常ヒト又はマウスの末梢血中では同定されなかった。
【0008】
従って、これらのバイオマーカーの発現は、患者中の癌幹細胞の存在を同定するために活用することができる。このことは、比較的多数の細胞を必要とする血液試験及び放射線学的研究のような癌診断の現行手法よりも有利である。従って、これらの診断試験は、現在可能なよりももっと早い段階で腫瘍又は潜在的癌の検出を可能にする。本発明のこの側面に従うと、癌幹細胞を検出する、同定する及び/又は定量するための方法が提供され、該方法は、細胞中のSLUG、OVOL1及び/又はOVOL2遺伝子、プロモーター及び/又は発現産物の(a)発現のレベル;(b)活性;又は(c)配列;を評価することを含んでなる。好ましくは、該細胞は、造血性、上皮性、乳房、卵巣、肺、膵臓、前立腺、脳、結腸、骨髄、及び/又はリンパ液癌幹細胞である。
【0009】
本発明は、癌を診断する、及び/又は癌の段階及び/又は重症度を評価する方法も提供し、患者からの生物学的サンプル中のSLUG、OVOL1及び/又はOVOL2遺伝子、プロモーター及び/又は発現産物の(a)発現のレベル;(b)活性;又は(c)配列;を評価すること、及び対照レベル、活性又は配列と該発現のレベル、活性又は配列を比較することを含んでなり、前記対照と比較された相違は癌疾患又は癌に対する素因を示す。
【0010】
SNAI2としても知られているSLUG遺伝子は、寄託番号NM 003068(mRNA)及びNP 003059(タンパク質)としてGenBankにおいて示されている[
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?db=gene&cmd=Retrieve&dopt=full report&list uids=6591を参照されたい]。OVOL1遺伝子は、寄託番号NM 004561(mRNA)及びNP 004552(タンパク質)としてGenBankにおいて示されている[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?db=gene&cmd=Retrieve&dopt=full report&list uids=5017を参照されたい]。OVOL2遺伝子は、寄託番号NM 021220(mRNA)及びNP 067043(タンパク質)としてGenBankにおいて示されている[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?db=gene&cmd=Retrieve&dopt=full report&list uids=58495を参照されたい]。
【0011】
これらのバイオマーカーの発現は、癌幹細胞区画を選択的に破壊することを目的とする療法の標的としても働くであろう。こうした療法は、例えば、癌幹細胞を破壊することを目的に、これらの細胞上に存在するマーカーを標的とすることができる。このことは、最終分化、アポトーシス又はプログラムされた細胞死を誘導することにより行うことができるであろう。このことはおそらく、対称的増殖性分裂プログラムから非対称細胞分裂へのスイッチ、又は最終分化/アポトーシスプログラムを誘導することにより達成することができるであろう。腫瘍内の細胞の不死集団を標的とすることにより、これらの療法は、癌細胞数を減少させることにおいて慣用的療法よりもっと成功しそうであり、及び患者もまた再発に苦しむことが減るであろう。
【0012】
本発明のこの側面は、それ故、癌幹細胞の根絶のための方法を提供し、該方法は、(a)SLUG、OVOL1及び/又はOVOL2発現産物又はそれらのコード遺伝子又はプロモーターを標的化することによる癌幹細胞に向けられた免疫療法;又は(b)SLUG、OVOL1及び/又はOVOL2発現産物又はそれらのコード遺伝子又はプロモーターを標的化することにより、指数関数的から非指数関数的細胞増殖への変化をもたらすように、又は分化又はアポトーシスプログラムを誘導するように、癌幹細胞中のスイッチを誘導する;工程を含んでいる。こうした方法は、これらの変化に影響を与える因子を標的としてもよいが、癌幹細胞に特異的でもなければならない。
【0013】
これらのバイオマーカーの発現は、マウスにおいてヒト癌及び/又は他の幹細胞由来疾患をモデル化するための道具としても使用することができる。例えば、モデルシステムにおいて、これらのバイオマーカーの一つのプロモーター、例えば、SLUG、OVOL1及び/又はOVOL2のプロモーターを、異種疾患関連遺伝子へ機能可能なように連結させ、そしてそれ故、こうした異種疾患関連遺伝子の発現を制御するために使用し得る。疾患関連遺伝子の例には、BCR−ABLp210、BCR−ABLp190、Slug、Snail、HOX11、RHOM2/LMO−2、TAL1、Maf−B、FGFR、c−maf、MMSET、BCL6、BCL10、MALT1、サイクリンDl、サイクリンD3、SCL、LMOl、LMO2、TEL−AML1、E2A−HLF、E2A−Pbx1、TEL−ABL、AML1−ETO、FUS−CHOP、FUS−DDIT3、EWS−WT1、EWS FLI1、EWSRl−DDIT3、FUS−ATF1、FUS−BBF2H7、K−RASvl2、Notch1などの、当該技術分野で同定された遺伝子のような癌遺伝子が含まれる。癌遺伝子の網羅的リストはhttp://www.infobiogen.fr/services/chromcancer/Genes/Geneliste.htmlに提供されており;Cooper G.Oncogenes. Jones and Bartlett Publishers, 1995; Vogelstein B, Kinzler KW. The Genetic Basis of Human Cancer. McGraw- Hill: 1998; http://cancerquest.org/index.cfm?page=780も参照されたい。本発明のこの側面はそれ故、癌遺伝子に機能可能なように連結されたSLUG、OVOL1及び/又はOVOL2のプロモーターを含んでなる、単離された核酸構築物を提供する。
【0014】
本明細書に記載したバイオマーカーの一つについてのプロモーターは、レポーター遺伝子の発現を制御するためにも使用し得る。レポーター遺伝子とは、直接的又は間接的にアッセイ可能なタンパク質をコードする核酸配列である。それらは、そのタンパク質産物が構想されたアッセイには不適切である又は受け入れられない他のコード領域を置き換えるために使用される。当該技術分野では公知である及び本発明に使用してもよい、適したレポーター遺伝子の例は、限定されるわけではないが、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、β−ガラクトシダーゼ、β−グルクロニダーゼ、ルシフェラーゼ、β−ガラクトシダーゼ、蛍光タンパク質(GFP、YFP、RFPなど)、分泌型アルカリホスファターゼ(SEAP)、主要尿タンパク(MUP)又はヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)を含むタンパク質をコードする遺伝子から選択される。適したレポーター遺伝子の上記リストは完全でも排他的でもなく、そして本出願の範囲を制限しないことが理解されるであろう。当業者は、本発明に等しく適用可能であろう別のレポーターシステムを選択することができる。本発明はそれ故、レポーター遺伝子に機能可能なように連結されたSLUG、OVOL1及び/又はOVOL2のプロモーターを含んでなる単離された核酸構築物を提供する。
【0015】
この発明の一つの側面は、本発明のトランスジェニック非ヒト動物と称されるトランスジェニック非ヒト動物も提供する。「トランスジェニック」と称される該非ヒト動物は、そのゲノムに導入遺伝子を含んでなる。本発明に従うと、前記導入遺伝子は、SLUG、OVOL1及び/又はOVOL2プロモーター及び/又はコード配列を含んでなる異種核酸構築物を含んでなる。該導入遺伝子は、SLUG、OVOL1及び/又はOVOL2のプロモーターに機能可能なように連結されている癌遺伝子又はレポーター遺伝子のような異種遺伝子も含んでなることができる。
【0016】
レポーター遺伝子に機能可能なように連結されたSLUG、OVOL1及び/又はOVOL2のプロモーターを含んでなる導入遺伝子を発現するトランスジェニック非ヒト動物は、トランスジェニック非ヒト動物モデルにおいてバイオマーカーの発現をイメージするために使用し得る。例えば、バイオマーカーの発現の時間的側面及びバイオマーカーの発現の組織分布の両方をこの様式でモニターすることができる。本発明のこの側面はそれ故、トランスジェニック非ヒト動物において癌幹細胞を検出する方法を提供し、該方法は、該レポーター遺伝子を発現する上記トランスジェニック動物中の該細胞を同定する工程を含んでなる。
【0017】
本発明は、癌幹細胞が患者又は患者の集団から単離される、富化される及び精製されることを可能にする。このことは、癌幹細胞中で癌性増殖に影響している因子を同定するための、遺伝子発現又はタンパク質発現のパターンについて癌幹細胞の集団を分析するための、新規抗癌薬剤標的を同定するための、存在する及び/又は新規の療法に対する癌幹細胞の感受性を予測するための、及び一般的にモデル癌開発及び治療のための、アッセイの開発を可能にする。本発明のこの態様に従うと、癌幹細胞を同定する方法が提供され、該方法は、細胞中のSLUG、OVOL1及び/又はOVOL2遺伝子及び/又は発現産物の発現、活性又は配列のレベルを評価することを含んでなる。
【0018】
こうした方法は、モノクローナル抗体の特性を活用することができる。例えば、癌幹細胞に特異的なmAbは、酵素、化学療法薬、細胞毒素、放射性核種又はサイトカインのような療法部分へ直接的又は間接的に結合されるように修飾することができる。
【0019】
本発明は、精製された癌幹細胞にも関する。従って、本発明の一つの側面は、癌幹細胞の実質的に純粋な培養物に関し、ここで前記細胞は、有意なレベルでSLUG、OVOL1及び/又はOVOL2を発現する。該細胞は、例えば、上皮癌及び/又は間葉系癌に由来する細胞のようないずれの種類の癌幹細胞でもあることができる。本明細書で使用される用語「上皮癌」は、その腫瘍細胞が体の内部及び外部表面を裏打ちする細胞である癌を指す。本明細書で使用される用語「間葉系癌」は、腫瘍細胞が結合組織、血管及びリンパ組織内へと発生する癌を指す。前記上皮又は間葉系癌の例示の非制限的には、例えば、慢性骨髄性白血病、B細胞急性リンパ芽球性白血病、T細胞急性リンパ芽球性白血病、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、リンパ球増殖症候群、多発性骨髄腫、脂肪肉腫及びユーイング肉腫のようなリンパ腫、白血病、肉腫及び癌腫が含まれる(Best and Taylor. Bases fisiologicas de la patologia medica. Madrid: Editorial Medica Panamericana, 12th ed., 1993)。当業者は、これが制限的なリストではないことを理解するであろう。
【0020】
該癌幹細胞は、いずれの脊椎動物癌幹細胞であってもよいが、最も興味を引くのは、哺乳類細胞(ヒト及び非ヒト霊長類細胞の両方)及び齧歯類細胞(特に、マウス、ラット又はハムスター細胞)を含む動物幹細胞である。好ましくは、実質的に純粋な培養物中の細胞の少なくとも50%は、SLUG、OVOL1及びOVOL2の少なくとも一つを発現する癌幹細胞であり、この比率は60%、70%、80%、90%、95%又はそれ以上などのように、それ以上であってもよい。癌幹細胞の純粋な培養物は、好ましくは、50%未満の癌幹細胞ではない癌細胞を含んでいるであろうが、この比率はそれ未満、例えば、25%、10%、5%、1%又はそれ未満、であってもよい。
【0021】
本発明に従った癌幹細胞の培養物の実質的に純粋な性質を発現する代わりの様式において、癌幹細胞は、患者から又は細胞の培養物から直接得られた非処理生物学的サンプルと比較し、他の細胞と比べてSLU、OVOL1及びOVOL2の少なくとも一つを発現する癌幹細胞について5倍富化する、25倍富化する、50倍又はそれ以上富化してもよい。こうした他の細胞タイプには、幹細胞ではない癌細胞、非癌性幹細胞、及び他の体内又はインビトロ培養物中に存在する他の健康細胞が含まれる。
【0022】
本発明に従った癌幹細胞は、本明細書で同定されたSLUG、OVOL1及び/又はQVOL2バイオマーカーのようなマーカーにより区別される。
加えて、こうした癌幹細胞は、マウスにおけるSca1のような幹細胞系列に特異的である分子を発現してもよい。他の有用なバイオマーカーには、CD34、CD44及びCD38、ヒトのヒト上皮抗原(HEA)、CD133、ヒトの癌胎児抗原(CEA)、α2βlインテグリン及びヒト及びマウスのLrig1が含まれる。本発明の癌幹細胞は、多系列 (リンパ及び骨髄)発生能を有してもよい。本発明の癌幹細胞は、好ましくは、有意なレベルのテロメラーゼを発現する。
【0023】
加えて、本発明の癌幹細胞は、好ましくは、CD2、CD3、CD4、CD7、CD8、CDl0、CDl1b、CD14、CD15、CD16、CD19、CD20、CD31、CD45、CD56、CD64、CD140b及びヒトのグリコホリンA(GPA)から成る群より選択される、有意なレベルの一つ又はそれより多くの成熟系列マーカーを発現しない。本発明の癌幹細胞は、好ましくは、CD24を発現しないか又は低レベルのCD24を発現する。マウス細胞の場合には、本発明の癌幹細胞はLin−であり、成熟系列マーカーを発現しない。
【0024】
本明細書で使用される「有意なレベル」とは、対照細胞中の発現のレベル及び/又は活性よりも、5%、10%、20%、30%、40%、50%、100%、200%又はそれ以上高い発現のレベル及び/又は活性を意味する。
【0025】
本発明の癌幹細胞は、患者から単離してもよい。該患者は、癌と診断された個体、癌を患うリスクがあると考えられる個体、癌を有していると疑われた個体、癌を有していると疑われなかった個体、及び良好な健康状態である外見上の印象を与える個体又は薬剤及び/又は診断開発臨床試験に加わっている個体であってもよい。
【0026】
代わりに、本発明の癌幹細胞は、培養で増殖させてもよい。該細胞は、国際特許出願PCT/IB2006/001969に記載されているタイプのモデルマウスのような動物モデルから単離してもよい。該マウスにおけるSLUG、OVOL1及び/又はOVOL2及びSca1の発現に加え、癌モデル動物から単離された癌幹細胞は、癌に関連している染色体異常を含んでいてもよい。こうした染色体異常は、上に定義した癌遺伝子を含んでいてもよい。
【0027】
本発明は、癌幹細胞を単離する方法も包含する。こうした方法には、SLUG、OVOL1及び/又はOVOL2遺伝子を発現する癌幹細胞の選択的富化が含まれる。SLUG、OVOL1及び/又はOVOL2のようなマーカーを発現している細胞の富化に適した方法は、当該技術分野で公知であり、遠心分離に基づいた方法、水簸、密度勾配分離、アフェレーシス、親和性選択、パニング、蛍光活性化細胞選別(FACS)のような免疫学に基づいたシステム;免疫親和性交換;特異的細胞タイプに結合して所望の細胞を分離する抗体被覆磁気粒子を使用する磁気的細胞選別を含む非光学細胞選別法が含まれる。
【0028】
本発明は、本発明の癌幹細胞を増殖するための方法にも関する。こうした方法は、培養物中の癌幹細胞を、少なくとも一つの選択された分化細胞型の細胞から産生された溶解物の一つの濃度に暴露することを伴ってもよく、該濃度は対称的有糸分裂(それにより、各分割している細胞は二つの同一の娘癌幹細胞を生み出す)、又は非対称有糸分裂(それにより、各分割している細胞は一つの同一の娘癌幹細胞及び該癌幹細胞よりもっと分化している一つの娘細胞を生み出す)を優先的に受けることにより増殖するように該癌幹細胞を誘導することが可能である。
【0029】
本発明は、癌を診断する、疾患の段階及び/又は重症度を評価するための方法にも関する。こうした方法は、癌又は癌に対する素因について対象をスクリーニングすることを含んでなってもよく、対象からの生物学的サンプルを、癌幹細胞の存在について試験する工程を含んでなる。このタイプの方法は、SLUG、OVOL1及び/又はOVOL2遺伝子の産物を発現している細胞を検出する工程を含んでもよい。対照レベルと異なっている、細胞上の発現のレベルは、癌幹細胞の存在の指標であり、そして癌の指標でもある。このタイプの方法は、SLUG、OVOL1及び/又はOVOL2遺伝子の発現産物の活性を検出する工程を含んでもよい。
【0030】
本発明の方法は、外見上は健康な個体における癌の早期段階を検出することにおいて特に有用である。しかしながら、本発明の方法は、任意の患者において、癌を診断する及び/又は疾患の段階及び/又は重症度を評価するために使用し得る。該患者は、癌と診断された個体、癌を患うリスクがあると考えられる個体、癌を有していると疑われた個体、癌を有していると疑われなかった個体であって良好な健康状態である外見上の印象を与える個体、又は、薬剤及び/もしくは診断開発臨床試験に加わっている個体であることができる。該個体が臨床試験に加わっている場合、本方法は、臨床試験をモニターするために使用し得る。該患者は癌又はいずれか他の疾患の治療を受けていてもよいし、又は受けていなくてもよい。本発明の方法は、以前に癌と診断されているが、スクリーニング時には外見上健康である個体における癌の再発についてスクリーニングするためにも使用し得る。
【0031】
本発明は、患者における癌の進行を評価するための方法も提供し、第一の時点での、生物学的サンプル中の上記SLUG、OVOL1及び/又はOVOL2遺伝子の発現産物を、第二の時点での同一の発現産物と比較することを含んでなり、ここで第一の時点と比較して第二の時点での発現の増加又は減少、又は発現の増加又は減少の割合は、癌の進行又は寛解を示す。
【0032】
特に、本発明は、患者における癌の進行を評価するための方法に関し、該方法は、第一の時点での、生物学的サンプル中の上記SLUG、OVOL1及び/又はOVOL2遺伝子の発現産物を、第二の時点での同一の発現産物と比較することを含んでなり、ここで該患者は第一及び第二の時点の間に療法を受けている。この側面において、本発明は、療法への患者の応答を評価するための方法を提供する。本発明は癌の予後判定の方法も提供し、該方法は、第一の時点での、前記患者からの生物学的サンプル中の上記SLUG、OVOL1及び/又はOVOL2遺伝子の発現産物を、第二の時点での同一の発現産物と比較することを含んでなり、ここで第一の時点と比較して第二の時点での発現の増加又は減少、又は発現の増加又は減少の割合は、予後の指標であり得る。
【0033】
上述のいずれの方法においても、該発現産物のレベルの増加又は減少は、2倍、3倍、5倍、10倍、20倍、50倍又は100倍又はそれ以上でさえあってもよい。
該発現産物は、好ましくはタンパク質であるが、代わりにmRNA発現産物も検出してもよい。
【0034】
もしタンパク質が使用されるとならば、該タンパク質は、好ましくは、そのタンパク質に特異的に優先的に結合する抗体により検出される。用語「特異的に結合する」とは、該抗体が、それらの標的ポリペプチドに対して、他の関連するポリペプチドに対するそれらの親和性よりも実質的により大きな親和性を有することを意味する。好ましくは、抗SLUG抗体はSLUGに対して特異的であり、そしてSNAILファミリーの他のメンバー又はSLUGの関連するスプライス変異体とは交差反応しない。同様に、抗OVOL1抗体はOVOL1に対して特異的であるべきであり、及び抗OVOL2抗体はOVOL2に対して特異的であるべきであり、そしてこれらはOVOLファミリーの他のメンバー又はOVOL1及び/又はOVOL2の関連するスプライス変異体とは交差反応すべきではない。代わりに、抗SLUG、抗OVOL1及び/又は抗OVOL2抗体は、それぞれSLUG、OVOL1又はOVOL2のすべてのスプライス変異体、欠失、付加及び/又は置換突然変異体に結合してもよい。
【0035】
該抗SLUG、抗OVOL1及び抗OVOL2抗体はそれぞれ、SLUG、OVOL1及びOVOL2細胞外ドメインに対して特異的であってもよい。該抗体は、癌関連SLUG、OVOL1及び/又はOVOL2タンパク質が癌性細胞上又は内で発現されるので、それらに対して特異的であってもよい。例えば、癌幹細胞上で発現される癌関連タンパク質中のグリコシル化パターンは、非癌性細胞上に発現されるこれら同一タンパク質中のグリコシル化のパターンとは異なり得る。好ましくは、こうしたシナリオにおいて、本発明に従った抗体は癌性細胞上にのみ発現されるような癌関連タンパク質に特異的である。このことは療法抗体として特に意義がある。
【0036】
本明細書で使用される用語「抗体」は、問題とする抗原決定基に結合することが可能である、未変化の分子ならびにFab、F(ab’)2及びFvのようなそれらの断片を指す。「実質的により高い親和性」とは、他の関連ポリペプチドに対する親和性と比較して、本発明の標的ポリペプチドに対する親和性が測定可能な増加を示すことを意味する。好ましくは、該親和性は、標的ポリペプチドに対して少なくとも、1.5倍、2倍、5倍、10倍、100倍、10倍、10倍、10倍、10倍又はそれ以上高い。
【0037】
好ましくは、該抗体はSLUG、OVOL1及び/又はOVOL2に高い親和性、好ましくは、10−4M又はそれより小さい、好ましくは10−7M又はそれより小さい、最も好ましくは、10−9M又はそれより小さい解離定数で結合し;ナノモル以下の親和性(0.9、0.8、0.7、0.6、0.5、0.4、0.3、0.2、0.1nM又はさらに下回る)が好ましい。
【0038】
SLUG、OVOL1及び/又はOVOL2ポリペプチドに対するモノクローナル抗体は当業者により容易に製造されることができる。ハイブリドーマ技術を使用したモノクローナル抗体を作製するための一般的方法論は周知である(例えば、Kohler, G. and Milstein, C, Nature 256: 495-497 (1975); Kozbor et al, Immunology Today 4: 72 (1983);Cole et al., 77-96 in Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, Inc. (1985) を参照されたい。他の関係のあるテキストには、Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, Academic Press, (1986) pp. 59-103; Waldmann, T. A. (1991) Science 252:1657-1662 が含まれる)。
【0039】
非ヒト可変領域がヒト定常領域に連結又は融合されているキメラ抗体(例えば、Liu et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 84, 3439 (1987) を参照されたい)もまた使用してもよいる。
【0040】
該抗体は、例えばヒト化により、個体中でより少ない免疫原性になるように修飾することができる(Jones et al., Nature, 321, 522 (1986); Verhoeyen et al., Science, 239, 1534 (1988); Kabat et al, J. Immunol., 147, 1709 (1991); Queen et al, Proc. Natl. Acad. Sd. USA, 86, 10029 (1989); Gorman et al, Proc. Natl Acad. Sci. USA, 88, 34181 (1991)及び Hodgson et al, Bio/Technology, 9, 421 (1991) を参照されたい)。本明細書で使用される用語「ヒト化抗体」は、非ヒトドナー抗体の重鎖及び/又は軽鎖の可変ドメイン中のCDRアミノ酸及び選択された他のアミノ酸が、ヒト抗体中の等価なアミノ酸で代わりに置換されている抗体分子を指す。ヒト化抗体はそれ故、ヒト抗体と酷似しているが、ドナー抗体の結合能力を有する。
【0041】
該抗体は、放射標識、蛍光標識、ビオチン、ストレプトアビジン又は西洋わさびペルオキシダーゼHRPのような酵素標識、のような検出可能標識の付加により修飾してもよい。放射標識モノクローナル抗体を、癌幹細胞の分子イメージングに使用するための放射性トレーサーを作製するために使用することができる。
【0042】
さらなる代替物において、該抗体は「二重特異性」抗体、即ち、二つの異なった抗原結合ドメイン(各ドメインは異なったエピトープに対して方向付けられている)を有する抗体であってもよい。本ケースにおいて、結合特異性の一つはSLUG、OVOL1及び/又はOVOL2ポリペプチド又はそれらの断片に対するものであってもよく、他の一つは、任意の他の抗原、そして好ましくは、癌幹細胞上にも発現される細胞表面タンパク質又はレセプター又はレセプターサブユニットに対するものである。
【0043】
SLUG、OVOL1及び/又はOVOL2 mRNA発現産物を使用する場合、好ましくは、試験サンプルとプローブを、該mRNA及び該プローブ間のハイブリッド複合体の形成を許容するストリンジェント条件下で接触させること;及び複合体の形成を検出すること;の工程により検出される。当該技術分野で公知の他の方法も、SLUG、OVOL1及び/又はOVOL2 mRNA発現産物を検出するために使用してもよく、限定されるわけではないが、ノーザンブロット法、RT−PCR、及び定量的RT−PCRが含まれる。
【0044】
癌関連遺伝子それ自身は、生物学的サンプルと核酸プローブを、SLUG、OVOL1及び/又はOVOL2遺伝子をコードする核酸発現産物及び該プローブ間のハイブリッド複合体の形成を許容するストリンジェント条件下で接触させること;及び該プローブ及び該生物学的サンプルからの該核酸間の複合体の形成を検出すること;により検出してもよい。
【0045】
好ましい方法には、形成された複合体の量を、対照組織、例えば、健康な幹細胞を使用した場合に形成された量と比較することを含み、該対照及び該サンプル間で形成された複合体の量の相違は、癌又は癌に対する素因の存在を示す。好ましくは、正常組織と比較して試験組織により形成された複合体の量間の相違は増加である。より好ましくは、形成された複合体の量の2倍の増加は疾患の指標である。さらにより好ましくは、形成された複合体の量の3倍、4倍、5倍、10倍、20倍、50倍又はさらに100倍の増加は疾患の指標である。
【0046】
本発明のいずれかの方法に使用した生物学的サンプルは、好ましくは組織サンプルである。いずれの組織サンプルも使用してもよい。本発明の方法に使用のための組織サンプルは、さまざまな源、好ましくは血液から得てもよく、いくつかの例において、乳房、卵巣、肺、 膵臓、前立腺、脳、結腸、骨髄、リンパ、脳脊髄液、滑液などのようなサンプルを使用してもよい。こうしたサンプルは、分析に先立って、遠心分離、水簸、密度勾配分離、アフェレーシス、親和性選択、パニング、FACS、Hypaqueでの遠心分離その他により分離することができ、そして通常、単核分画(PBMC)が使用されるであろう。サンプルが得られたら、それは直接使用されるか、凍結されるか、又は短期間の間、適切な培地中で維持されることができる。多様な培地を、細胞を維持するために用いることができる。該サンプルは、採血、静脈穿刺、バイオプシなどのようないずれかの慣用的手法により得てもよい。通常、サンプルは、少なくとも約10細胞、より通常的には少なくとも約10細胞、及び好ましくは10、10又はそれ以上の細胞を含んでなるであろう。典型的には、該サンプルは、ヒト患者からのものであろうが、本発明の非ヒトトランスジェニック動物モデルを含む動物モデルを用いてもよい;例えば、ウマ、ウシ、ブタ、イヌ、ネコ科の動物、霊長類又は齧歯類、例えば、マウス、ラット及びハムスターモデル。
【0047】
本発明の方法はまた、癌の場所を見つけ出すために使用してもよい。組織サンプル中での癌幹細胞の検出は、その組織中の癌の指標である。例えば、乳房組織サンプルにおけるSLUG、OVOL1及び/又はOVOL2遺伝子の発現産物の検出は、その組織中の癌の指標であるかもしれない。
【0048】
本発明は、癌を撮像するための方法も包含し、例えば、磁気共鳴法(MR)、X線コンピューター断層撮影法(CT)、単一光子放射型コンピューター断層撮影法(SPECT)及び光干渉断層撮影法(OCT)、陽電子放出断層撮影法(PET)及び定量的オートラジオグラフィー法(QAR)に基づいたイメージング法が含まれる。
【0049】
SLUG、OVOL1及び/又はOVOL2に特異的である放射標識モノクローナル抗体、及びSLUG、OVOL1及び/又はOVOL2 mRNAコード配列及び/又はプロモーター配列と特異的にハイブリダイズする放射標識核酸プローブを含む放射標識は、上記のような既知のイメージング法と組み合わせて放射性トレーサーとして使用することができて、癌幹細胞を検出し及びその場所を見つけ出す。SLUG、OVOL1及び/又はOVOL2を標的とする放射性トレーサーと組み合わされたマイクロPET及びマイクロCTのようなマイクロイメージング技術を使用し、単一細胞レベルに至るまでの腫瘍のイメージングが達成できることが予想される。
【0050】
いずれの放射標識も本発明のイメージング法において使用することができる。特に、99mTc、11C、13N、15O、及び18Fのような半減期の短い同位元素が上述のイメージング法での使用に適している。
【0051】
それ故、本発明は、患者の癌幹細胞を撮像する及び場所を見つけ出すための方法を提供する。本発明のイメージング法は、任意の患者において癌を診断するため、及び/又は該疾患の段階及び/又は重症度を評価するため、及び癌の進行又は寛解をモニターするために使用し得る。本イメージング法は、癌の段階及び/又は重症度に対する療法の効果をモニターするため、及び/又は臨床試験をモニターするためにも使用し得る。
【0052】
上述のイメージング法を使用して癌幹細胞の場所が見出されたら、それらは上述のように単離及び精製することができる。
本発明は、SLUG、OVOL1及び/又はOVOL2遺伝子の発現産物に結合する抗体;及び前記抗体及び前記ポリペプチド間の結合反応の検出に有用な試薬を含んでなる、癌を診断するために有用なキットも提供する。好ましくは、抗体はSLUG、OVOL1及び/又はOVOL2ポリペプチドと特異的に結合する。
【0053】
さらに、本発明は、ストリンジェント条件下でSLUG、OVOL1及び/又はOVOL2遺伝子にハイブリダイズする核酸プローブ;SLUG、OVOL1及び/又はOVOL2遺伝子を増幅するために有用なプライマー;及び任意選択で、疾患の診断を容易にする該プローブ及びプライマーを使用するための取扱説明書;を含んでなる癌を診断することに有用なキットを提供する。
【0054】
本発明はさらに、SLUG、OVOL1及び/又はOVOL2遺伝子の発現産物の発現を変調するための、癌幹細胞の単離に使用するための、それ故、癌を治療するための使用に適した抗体、核酸又はタンパク質を提供する。
【0055】
本発明はさらに、癌幹細胞の増殖及び/又は発生を変調する候補剤を同定するためのアッセイを提供し、該アッセイは以下を含んでなる:
a)候補剤の存在下でSLUG、OVOL1及び/又はOVOL2遺伝子又はプロモーターの発現産物の発現のレベルを検出すること;及び
b)その発現のレベルと候補剤がない場合の発現のレベルを比較すること;を含んでなり、ここで発現の減少は、該候補剤がSLUG、OVOL1及び/又はOVOL2遺伝子又はプロモーターの発現産物の発現のレベルを変調することを示す。
【0056】
本発明は、SLUG、OVOL1及び/又はOVOL2遺伝子の発現レベルを修飾する剤を同定するための方法も提供し、該方法は以下を含んでなる:
a)本発明の上記態様のいずれかで定義したSLUG、OVOL1及び/又はOVOL2遺伝子又はプロモーターを発現している細胞と候補剤を接触させること、及び
b)細胞に対する候補剤の効果を決定することを含んでなり、発現レベルの変化は、該候補剤が発現を変調することが可能であることを示す。
【0057】
好ましくは、このアッセイに使用された細胞は、SLUG、OVOL1及び/又はOVOL2タンパク質が癌を引き起こすことに役割を果たしていると関係付けられている細胞タイプに属している。レポーター遺伝子が一つ又はそれより多くのSLUG、OVOL1及びOVOL2に機能可能なように連結されている上述の本発明のトランスジェニックモデルも、上記アッセイ法において有効である剤を同定することに特に有用である。
【0058】
好ましくは、該剤はポリヌクレオチド、ポリペプチド、抗体又は有機小分子である。
本発明は、癌を治療するための、上記方法により同定された剤の使用も提供する。
従って、本発明は、SLUG、OVOL1及び/又はOVOL2遺伝子の産物を発現する癌幹細胞の数を減少させることを含んでなる、患者の癌を治療するための方法を提供する。こうした方法は、好ましくは、上記方法で同定された抗体、核酸、ポリペプチド又は剤を、標的癌幹細胞を破壊するのに十分な療法的有効量で患者に投与することを含んでなる。
【0059】
本発明はそれ故、癌の治療又は診断のための医薬の製造における、SLUG、OVOL1及び/又はOVOL2遺伝子の発現産物に結合する又はそのレベルを変調する、上記方法で同定された抗体、核酸、ポリペプチド又は剤の使用も提供する。こうした発現のレベルは、遺伝子、mRNA又はコードされたタンパク質への作用により好ましくは変調される。該発現は、好ましくは、下方調節される。例えば、該調節での変化は、2倍、3倍、5倍、10倍、20倍、50倍又はさらに100倍又はそれ以上であることができる。
【0060】
本発明は、患者がSLUG、OVOL1及び/又はOVOL2変調抗体による治療に感受性であると同定するための方法も提供し、該方法は該患者からの生物学的サンプル中のSLUG、OVOL1及び/又はOVOL2発現産物の発現レベルを測定することを含んでなる。
【0061】
さらに、本発明は、患者がSLUG、OVOL1及び/又はOVOL2変調抗体による治療に感受性であると同定するための方法を提供し、該方法は該患者からの生物学的サンプル中のSLUG、OVOL1及び/又はOVOL2発現産物の発現レベルを測定することを含んでなる。こうした方法において、第一の時点でのSLUG、OVOL1及び/又はOVOL2発現産物の発現レベルを、第二の時点での同一発現産物の発現と比較することができ、第一の時点と比べて第二の時点での発現の増加は、癌の進行の指標となる。時点間の増加又は減少は、2倍、3倍、5倍、10倍、20倍、50倍又はさらに100倍又はそれ以上であってもよい。
【0062】
ヌクレオチド及びアミノ酸についての一般的略語が本明細書で使用されている。
本発明の実施は、特に示されない限り、当業者の範囲内である分子生物学、微生物学、組み換えDNA技術及び免疫学の慣用的技術を用いるであろう。
【0063】
こうした技術は十分に文献に説明されている。参照に特に適したテキストの例には以下のものが含まれる:Sambrook Molecular Cloning; A Laboratory Manual, 第二版(2000); DNA Cloning, I及びII巻 (D.N Glover 編 1985); Oligonucleotide Synthesis (MJ. Gait 編 1984); Nucleic Acid Hybridization (B. D. Hames & SJ. Higgins 編 1984); Transcription and Translation (B.D. Hames & S.J. Higgins 編 1984); Animal Cell Culture (R. I. Freshney 編 1986); Immobilized Cells and Enzymes (IRL Press, 1986); B. Perbal, A Practical Guide to Molecular Cloning(1984); the Methods in Enzymology series (Academic Press, Inc.), 特に154 & 155 巻; Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells (J.H. Miller 及び M.P. Calos 編 1987, Cold Spring Harbor Laboratory); Immunochemical Methods in Cell and Molecular Biology (Mayer 及び Walker, 編 1987, Academic Press, London); Scopes, (1987) Protein Purification: Principles and Practice, 第二版 (Springer Verlag, N.Y.);及び Handbook of Experimental Immunology, I-IV巻 (D.M. Weir 及び C. C. Blackwell 編 1986) 。
【0064】
本発明はここで、以下の図を参照しながら例示する目的でのみ説明される。細部の修飾が本発明の範囲から離れることなく行えることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】図1:慢性白血病(CML)のマウスモデルにおけるBCR−ABL p210転写。図1は、Sca1Lin又はSca1Linバックグラウンドのいずれかにおける、慢性骨髄性白血病(CML)の臨床検出性前及び後、ならびにグリベック(Gleevec)(STI571)による治療後における、CMLのマウスモデルにおいて測定されたBCR−ABL p210転写物のパーセンテージを示す。
【図2】図2:70人の転移性乳癌腫患者の生存研究。図2において、SLUGを発現している患者(SLUG陽性、SLUG患者)の生存率は、SLUG陰性(SLUG)患者の生存率よりも有意に低かったこと(P=0.0580)が示されている。
【実施例】
【0066】
実施例1−材料及び方法
1.1 フローサイトメトリー
有核細胞は、末梢血細胞懸濁液から調製した。フローサイトメトリーのための細胞をさらに調製するため、夾雑する赤血球細胞を8.3%塩化アンモニウムで溶解し、残った細胞を次に2%ウシ胎仔血清(FCS)を含むPBS中で洗浄した。染色後、全細胞を、2μg/mLヨウ化プロピジウム(PI)を含有する、2%FCSを含むPBS中で1回洗浄し、分析及び選別手順の両方から死細胞を排除した。モノクローナル抗体はPharmingenから得られ:B系列染色についてはCD45R/B220、CD19、Ly51、CD43、IgM及びIgDに対する抗体;T細胞系列についてはCD4、CD8及びCD3に対する抗体;骨髄系列についてはCD11b及びGr1に対する抗体;幹細胞染色についてはSca1;が含まれた。ルーチン技術により得られた、異なった組織サンプルからの単一細胞懸濁液を、精製抗マウスCD32/CD16(Pharmingen)とインキュベートしてFcレセプターを介した結合をブロックし、それぞれ室温又は4℃で異なった抗体の適切な希釈液とインキュベートした。サンプル及びデータを、CellQuestソフトウェアを使用するFACScan装置(Becton Dickinson)で分析した。フルオレセインイソチオシアネート(FITC)及びPEの特異的蛍光は、それぞれ488nm(0.4W)及び633nm(30mW)で励起した。マウス細胞の既知の前方及び/又は直交光散乱特性を、確立されたゲートで使用した。各分析について、少なくとも5.000生存(PI)細胞を評価した。
【0067】
1.2 STI571 (グリベック)による動物の治療
動物実験のため、5mg/mL及び10mg/mlのストック溶液を新たに水で調製し、滅菌濾過し、そして1日2回、経管栄養により250μlの容量をマウスに投与した。マウスへのSTI571又はプラセボ(同一容量の希釈水)は、白血病が確認された(0日目)次の日に、毎朝50mg/kg及び毎晩100mg/kgの経管栄養によるSTI571の投与計画により開始した。STI571は、直線状又は湾曲した給餌針により、250μlの容量の滅菌水で投与した。マウスは療法をよく許容し、療法の中断は必要なかった。マウスは週3回臨床的に試験し、そして示されたように尾静脈採血により定期的な末梢血球数を得た。この研究の生存分析部分のため、死亡エンドポイントを、動物の自然死により、又は確立された基準に従った疼痛又は苦痛の徴候のための動物の待機的殺害により決定した。
【0068】
1.3 リアルタイムPCR定量
BCR−ABL p210の発現を分析するため、50ngのランダムヘキサマー、3μgの総RNA及び200単位のSuperscript II RNase Hフリー(RNase H)逆転写酵素(GIBCO BRL)を含有する20μlの反応液中で、製造業者のプロトコルに従って逆転写(RT)を実施した。リアルタイム定量的PCRをBCR−ABL p210の定量のために実施した。蛍光発生的PCRを、TaqMan PCR Core Reagent キット(PE Biosystems)を使用し、50μlの反応容量でセットアップした。cDNA増幅は、PE Applied Biosystems 5700 Sequence Detector 中、96ウェル反応プレート型式で、同一のプライマーを使用して実施した。サーマルサイクリングは、95℃で10分の最初の変性工程により開始した。続いての熱プロファイルは、95℃で15秒、56℃で30秒、72℃で1分を40サイクルであった。複数の陰性水ブランクを試験し、各分析と平行して較正曲線を決定した。abl内因性対照(PE Biosystems)を含ませて、BCR−ABL p210を各サンプル中の総cDNAと関連づけた。ablのための特異的プライマー及びプローブの配列は、以下の通りであった:
センスプライマー:5’−CACTCTCAGCATCACTAAAGGTGAA−3’
アンチセンスプライマー:5’−CGTTTGGGCTTCACACCATT−3’
及びプローブ:5’−CCGGGTCTTGGGTTATAATCACAATG−3’。
【0069】
実施例2:Sca1/BCR−ABL p210マウスモデルにおける癌の予測及びモニタリングのためのバイオマーカーとしての癌幹細胞(CSC)の同定
慢性骨髄性白血病(CML)を、癌のさまざまな側面のためのバイオマーカーとして癌幹細胞(CSC)を使用できるかどうかを試験するためのモデルとして使用した。CMLをマウスにおいてモデル化した。特に、癌発生、内転移及び再発のモニタリング及び/又は予測におけるバイオマーカーとしてのCSCの使用を、これらのマウスにおいて次に試験した。
【0070】
マウスCSCは、マウスのSca1+細胞内へヒト癌関連遺伝子改変を導入することにより得た。本実施例において、BCR−ABL p210がSca1+細胞中で発現した。CSCはそれ故、BCR−ABL p210を発現しているSca1+細胞であった。BCR−ABL p210の発現は、実施例1.3に記載されているように測定した。
【0071】
Sca1/BCR−ABL p210マウスの末梢血中における、これらCSCの存在は、CMLの発症前にモニターし、マウスにCMLが検出されたらグリベック(STI571)で治療した。グリベックでの治療は、実施例1.2に記載されているように達成された。
【0072】
以下の結果が得られた(図1も参照されたい):
1) 癌(慢性骨髄性白血病、CML)が、臨床的に検出できる前、BCR−ABL p210転写物はSca1+Lin−バックグラウンド中で観察されたが、Sca1−Lin+バックグラウンド中では観察されず、そしてCSCは全てのSca1/BCR−ABL p210マウスの末梢血中に存在した。
2) いったんCMLが臨床的に検出できたら、BCR−ABL p210がSca1+Lin−バックグラウンド中で観察され、そしてSca1−Lin+バックグラウンド中では観察されず、及びCSCはSca1/BCR−ABL p210マウスの末梢血に存在した。
3) グリベックでの治療後、BCR−ABL p210は、Sca1+Lin−バックグラウンドで再び観察され、そしてSca1−Lin+バックグラウンドでは観察されなかた。Sca1/BCR−ABL p210マウスは、グリベック治療に応答しなかった。グリベック治療間、これらのマウスの末梢血におけるCSCの検出は、治療の失敗を示している。
【0073】
全体として、これらのデータは、末梢血中のCSCは、i)マウスにおける癌発生を予測するための、ii)癌の内転移をモニターするための、及びiii)治療後の再発をモニターするためのバイオマーカーとして使用することができることを示している。
【0074】
実施例3:Sca1/Bcl6マウスモデルにおける癌の予測及びモニタリングのためのバイオマーカーとしての癌幹細胞(CSC)の同定
実施例2の手順に従ったが、但し、それぞれBCR−ABL p210の代わりにBcl6を使用した。実施例2のSca1/BCR−ABL p210マウスに相当する結果がSca1/Bcl6マウスで得られた。
【0075】
実施例4:Sca1/K−RASv12マウスモデルにおける癌の予測及びモニタリングのためのバイオマーカーとしての癌幹細胞(CSC)の同定
実施例2及び3の手順に従ったが、但し、BCR−ABL p210又はBcl6の代わりにK−RASv12を使用した。実施例2及び3のそれぞれSca1/Bcl6及びSca1/BCR−ABL p210マウスに相当する結果がSca1/K−RASvl2マウスで得られた。
【0076】
実施例5:Sca1/BCR−ABL p21マウスを使用するCSCのマーカーとしてのSLUG(Snai2)の同定
SLUG(Snai2)の発現を、対照及びSca1マウスの末梢血中の異なる細胞タイプ(Sca1+Lin−及びSca1−Lin+)において分析した。この分析は逆転写PCR(RT−PCR)により行われた。
【0077】
逆転写は、50ngのランダムヘキサマー、3μgの総RNA及び200単位のSuperscript II RNase Hフリー(RNase H)逆転写酵素(GIBCO BRL)を含有する20μlの反応液中で、製造業者のプロトコルに従って実施した。PCR反応についてのサーマルサイクリングパラメータは以下のようであった:94℃で1分、56℃で1分及び72℃で2分を30サイクル。SLUGの増幅のために使用したプライマーは:
フォワード:5’−GCCTCCAAAAAGCCAAACTA−3’
リバース:5’−CACAGTGATGGGGCTGTATG−3’
であった。
【0078】
β−アクチンRNAの増幅が、各RNAサンプルの質を評価するための対照として働いた。PCR産物は、特異的内部プローブでのハイブリダイゼーションにより確認した。
結果は表1に要約されている。Sca1/BCR−ABL p210マウス(Sca+Lin−バックグラウンド)において、SLUG(Snai2)はCMLの発症前、CMLの検出後及びグリベックでの治療後に発現された。対照マウス及びSca1−Lin+バックグラウンドにおいて、SLUG(Snai2)の発現は検出されなかった。
【0079】
これらの結果は、SLUG(Snai2)がCSCマーカーであることを示している。CSCは癌のためのマーカーであるので、このことはSLUG(Snai2)が癌のマーカーであるという結論に導く。
【0080】
実施例6:Sca1/Bcl6マウスを使用するCSCのマーカーとしてのSLUG(Snai2)の同定
実施例5の手順に従ったが、但し、BCR−ABL p210の代わりにBcl6を使用した。実施例2のSca1/BCR−ABL p210マウスに相当する結果がSca1/Bcl6マウスで得られた。
【0081】
実施例7:Sca1/K−RASvl2マウスを使用するCSCのマーカーとしてのSLUG(Snai2)の同定
実施例4及び5の手順に従ったが、但し、それぞれBCR−ABL p210又はBcl6の代わりにK−RASv12を使用した。実施例4及び5のそれぞれSca1/BCR−ABL p210及びSca1/Bcl6マウスに相当する結果がSca1/K−RASvl2マウスで得られた。
【0082】
実施例8:ヒト乳癌患者におけるSLUG(Snai2)発現の検出による循環CSCの測定
初回化学療法サイクル前の55人の乳癌患者から末梢血サンプルを採取した。さらなるサンプルは、化学療法計画の完了後に採取した。もし癌が転移性であったならば、さらなるサンプルを、化学療法の新しいサイクルが開始される前に採取した。
【0083】
SLUG(Snai2)は実施例5に記載されているように、RT−PCRにより測定した。
化学療法前の結果は、表2に要約されている。本研究に含まれている患者55人の内、36人がSLUG陰性と試験され、及び19人がSLUG陽性と試験された。
【0084】
実施例9:化学療法を受けている非転移性乳癌腫患者におけるSLUG検出
化学療法を受けている、非転移性乳癌腫患者を有する172人から末梢血サンプルを採取した。SLUG(Snai2)は実施例5に記載されているように、RT−PCRにより測定した。
【0085】
試験した患者172人の患者の内、88人(51.2%)がSLUGを発現し、84人(48.8%)は発現しなかった(表3)。
これらの患者はさらにモニターし、出願日までに気がついた再発の内、75%が診断時にSLUG陽性であった患者で生じた。代表的例は表6に提供されている。
【0086】
実施例10:転移性乳癌腫患者におけるSLUG検出
転移性乳癌腫を有する70人の患者から末梢血サンプルを採取した。SLUG(Snai2)は実施例5に記載されているように、RT−PCRにより測定した。試験した70人の患者の内、36人(51.4%)がSLUGを発現し、34人(48.6%)は発現しなかった(表4)。
【0087】
実施例11:転移性乳癌腫患者の生存研究
実施例10の70人の転移性乳癌腫患者の進行のない生存を、末梢血中のSLUG陽性細胞の存在により、80週にわたりモニターした。SLUG(Snai2)は、実施例5に記載されているように、RT−PCRにより測定した。
【0088】
図2に示されたように、SLUG陽性(SLUG+)患者の生存率は、SLUG陰性(SLUG−)患者の生存率よりも有意に低かった(SLUG+及びSLUG−患者は、それぞれ26週及び53週前後で約0.6の生存率、P=0.0580)。
【0089】
70人の転移性患者についての、進行のリスクの多変量統計解析結果は、表5に提供されている。全体として、進行のリスクは、SLUG−患者よりもSLUG+患者において3.226(1/0.310)倍高かったことが観察された。進行のリスクは、以前に治療していない患者よりも以前治療した患者において2.2倍高く、及び転移のない患者よりも3又はそれ以上の転移を有する患者において10倍高かったことが観察された。
【0090】
実施例12:肺癌腫患者における循環CSCの測定及び療法的意義
乳癌腫患者の場合と同じプロトコルに従った。60人の患者を分析し、その全て(100%)が喫煙者であった。SLUG+細胞は、これらの患者の53.33%で検出された。
【0091】
実施例13:卵巣癌腫患者における循環CSCの測定及び療法的意義
乳癌腫患者及び肺癌腫患者の場合と同じプロトコルに従った。10人の患者を分析した。SLUG+細胞は、これらの患者の80%で検出された。
【0092】
実施例14:Sca1/BCR−ABLp21マウスを使用するCSCのマーカーとしてのOVOL1及びOVOL2の同定
OVOL1及びOVOL2の発現を、対照及びSca1マウスの末梢血中の異なった細胞タイプ(Sca1+Lin−及びSca1−Lin+)において分析した。この分析は、逆転写PCR(RT−PCR)により行った。
【0093】
RT−PCRは、50ngのランダムヘキサマー、3μgの総RNA及び200単位のSuperscript II RNase H逆転写酵素(GIBCO/BRL)を含有する20μlの反応液中、製造業者のプロトコルに従って実施した。特異的プライマーを使用するPCR反応についてのサーマルサイクリングパラメータは、以下のようであった:94℃で1分、56℃で1分及び72℃で2分を30サイクル。OVOL1及びOVOL2の増幅のために使用するプライマーは:
OVOL1 フォワード:5’−AGCTGTGACCTGTGTGCCAA−3’
リバース:5’−ACTCAGGCTGGTATTCTCCT−3’
OVOL1 フォワード:5’−TCGAGACTCTAGCTACAGCA−3’
リバース:5’−AGTGACAGTGTTCTGTAGTG−3’
であった。
【0094】
βアクチンRNAの増幅が、各RNAサンプルの質を評価するための対照として働いた。PCR産物は、特異的内部プローブでのハイブリダイゼーションにより確認した。
結果は表7に要約されている。Sca1/BCR−ABL p210マウス(Sca1+Lin−バックグラウンド)において、OVOL1及び0V0L2はCML、B細胞リンパ腫、多発性骨髄腫及び肺癌腫に検出された。対照マウスにおいて、及びSca1−Lin+バックグラウンドにおいて、OVOL1又はOVOL2の発現は検出されなかった。
【0095】
これらの結果は、OVOL1及びOVOL2がCSCマーカーであることを示している。CSCは癌のためのマーカーであるので、このことはOVOL1及びOVOL2が癌のマーカーであるという結論に導く。
【0096】
実施例15:ヒト乳癌患者におけるOVOL1及びOVOL2発現の検出による循環CSCの測定
末梢血サンプルは、RT−PCR(実施例5に記載されている)により測定されたようにSLUG(Snai2)発現について陽性であった、32人の乳癌腫患者から採取された。
【0097】
OVOL1及びOVOL2発現は、実施例14に記載されているように、末梢血サンプルで測定した。
表8に示されたように、32人の患者の内、4人(12.5%)はOVOL1発現について陽性であり、及び13人(40.6%)はOVOL2発現について陽性であった。
【0098】
実施例16:健康対照におけるOVOL1、OVOL2及びhSLUG発現の測定
末梢血サンプルを、健康な対照患者105人から採取した。
OVOL1及び0V0L2発現は、実施例14に記載されているように、末梢血サンプルで測定した。SLUG発現は、実施例5に記載されているように、末梢血サンプルで測定した。
【0099】
表9に示されたように、患者105人の内、0人がOVOL1発現について陽性であり、及び3人はOVOL2発現について陽性及びhSLUG発現について陰性であった。
【0100】
実施例17:肺癌を有する患者におけるhSLUG発現の測定
末梢血サンプルを、肺癌腫を有する62人の患者から採取した。SLUG(Snai2)は、実施例5に記載されているように、RT−PCRにより測定した。試験した62人の患者の内、32人(51.6%)がSLUGを発現し、30人(48.4%)は発現しなかった(表10)。
【0101】
実施例18:転移性卵巣癌腫を有する患者におけるhSLUG発現の測定
末梢血サンプルを、転移性卵巣癌腫を有する42人の患者から採取した。SLUG(Snai2)は、実施例5に記載されているように、RT−PCRにより測定した。
【0102】
試験した42人の患者の内、33人(78.6%)がSLUGを発現し、9人(21.4%)は発現しなかった(表11)。
【0103】
実施例19:結腸癌腫を有する患者におけるhSLUG発現の測定
末梢血サンプルを、結腸癌腫を有する41人の患者から採取した。SLUG(Snai2)は、実施例5に記載されているように、RT−PCRにより測定した。
【0104】
試験した41人の患者の内、26人(63.4%)がSLUGを発現し、15人(36.6%)は発現しなかった(表12)。
【0105】
【表1】

【0106】
【表2】

【0107】
【表3】

【0108】
【表4】

【0109】
【表5】

【0110】
【表6】

【0111】
【表7】

【0112】
【表8】

【0113】
【表9】

【0114】
【表10】

【0115】
【表11】

【0116】
【表12】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌幹細胞を検出する、同定する及び/又は定量するための方法であって、細胞中のSLUG、OVOL1及び/又はOVOL2遺伝子、プロモーター及び/又は発現産物の:
(a)発現のレベル;
(b)活性;又は
(c)配列;
を評価する工程を含んでなる、前記方法。
【請求項2】
癌幹細胞が、造血性、上皮性、乳房、卵巣、肺、膵臓、前立腺、脳、結腸、骨髄、及び/又はリンパ液癌幹細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
患者における癌を診断する、並びに/又は、該癌の段階及び/若しくは重症度を評価するための方法であって、該患者からの生物学的サンプル中のSLUG、OVOL1及び/又はOVOL2遺伝子、プロモーター及び/又は発現産物の:
(a)発現のレベル;
(b)活性;又は
(c)配列;
を評価すること、及び対照レベル、活性又は配列と該発現のレベル、活性又は配列を比較することの工程を含んでなり、前記対照と比較された相違は癌疾患又は癌に対する素因の指標である、前記方法。
【請求項4】
患者における癌の進行を評価するための方法であって、第一の時点での、生物学的サンプル中の該SLUG、OVOL1及び/又はOVOL2遺伝子の発現産物のレベルを、第二の時点での同一の発現産物の発現と比較することを含んでなり、ここで第一の時点と比較して第二の時点での発現の増加又は減少、又は発現の増加又は減少の割合は、癌の進行又は寛解の指標である、前記方法。
【請求項5】
該患者が第一及び第二の時点の間に療法を受け、及び第一の時点と比較して第二の時点での発現のレベルが、該癌の進行又は寛解及び療法に対する患者の応答の指標である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
癌幹細胞の根絶のための方法であって、
(a)SLUG、OVOL1及び/又はOVOL2発現産物又はそれらのコード遺伝子又はプロモーターを標的化することにより癌幹細胞に向けられた免疫療法;あるいは
(b)指数関数的から非指数関数的細胞増殖への変化をもたらすように、又は、分化若しくはアポトーシスプログラムを誘導するように、癌幹細胞中のスイッチを誘導すること;
の工程を含んでいる、前記方法。
【請求項7】
患者をSLUG、OVOL1及び/又はOVOL2変調抗体による治療に感受性であると同定するための方法であって、該患者からの生物学的サンプル中の、第一の時点でのSLUG、OVOL1及び/又はOVOL2発現産物の発現レベルを測定することを含んでなる、前記方法。
【請求項8】
第二の時点で発現産物を測定すること、それを第一の時点での同一発現産物の発現と比較することをさらに含んでなり、ここで第一の時点と比較して、第二の時点での発現の増加が癌の進行の指標である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
癌の予後判定のための方法であって、第一の時点での、前記患者からの生物学的サンプル中のSLUG、OVOL1及び/又はOVOL2遺伝子の発現産物を、第二の時点での同一の発現産物と比較することを含んでなり、ここで第一の時点と比較して第二の時点での発現の増加又は減少、又は発現の増加又は減少の割合が予後の指標である、前記方法。
【請求項10】
SLUG、OVOL1及び/又はOVOL2の発現産物がmRNAである、請求項1ないし9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
該mRNAがノーザンブロット、RT−PCR又はqRT−PCRを使用して検出される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
SLUG、OVOL1及び/又はOVOL2の発現産物がタンパク質である、請求項1ないし9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
該タンパク質が抗体により検出される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
インビトロで実施される、請求項1ないし13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
癌を診断するためのキットであって、SLUG、OVOL1及び/又はOVOL2遺伝子の発現産物に結合する抗体;及び前記抗体及び前記ポリペプチド間の結合反応の検出に有用な試薬を含んでなる、前記キット。
【請求項16】
癌を診断するためのキットであって、ストリンジェント条件下でSLUG、OVOL1及び/又はOVOL2遺伝子にハイブリダイズする核酸プローブ;SLUG、OVOL1及び/又はOVOL2遺伝子を増幅するために有用なプライマー;及び任意選択で、疾患の診断を容易にする該プローブ及びプライマーを使用するための取扱説明書;を含んでなる、前記キット。
【請求項17】
精製された核酸であって、異種遺伝子に機能可能なように連結されたSLUG、OVOL1及び/又はOVOL2遺伝子のプロモーターを含んでなり、前記異種遺伝子が:
(a)癌遺伝子;又は
(b)レポーター遺伝子
である、前記精製された核酸。
【請求項18】
トランスジェニック非ヒト動物であって、SLUG、OVOL1及び/又はOVOL2プロモーター及び/又はコード配列を含んでなる核酸構築物を含んでなる、前記トランスジェニック非ヒト動物。
【請求項19】
該核酸構築物が請求項17の核酸を含んでなる、請求項16に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項20】
ヒト癌及び/又は他の幹細胞由来疾患をモデル化するための、請求項18又は19のトランスジェニック非ヒト動物の使用。
【請求項21】
トランスジェニック非ヒト動物において癌幹細胞を検出する方法であって、該レポーター遺伝子を発現する請求項18のトランスジェニック非ヒト動物中の該細胞を同定する工程を含んでなる、前記方法。
【請求項22】
癌幹細胞の実質的に純粋な培養物であって、前記細胞がSLUG、OVOL1及び/又はOVOL2を発現する、前記実質的に純粋な培養物。
【請求項23】
該細胞が哺乳類細胞である、請求項22の実質的に純粋な培養物。
【請求項24】
該細胞が、ヒト細胞、非ヒト霊長類細胞又は齧歯類細胞である、請求項23の実質的に純粋な培養物。
【請求項25】
該癌幹細胞が上皮癌及び/又は間葉系癌に由来する、請求項22〜24のいずれか一項に記載の精製された癌幹細胞培養物。
【請求項26】
該上皮癌及び/又は間葉系癌が、リンパ腫、白血病、肉腫及び癌腫である、請求項25に記載の精製された癌幹細胞培養物。
【請求項27】
該上皮癌及び/又は間葉系癌が、慢性骨髄性白血病、B細胞急性リンパ芽球性白血病、T細胞急性リンパ芽球性白血病、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、リンパ球増殖性症候群、多発性骨髄腫、脂肪肉腫及びユーイング肉腫である、請求項26に記載の精製された癌幹細胞培養物。
【請求項28】
癌幹細胞を単離する方法であって、SLUG、OVOL1及び/又はOVOL2を発現する細胞の選択的富化を含んでなる、前記方法。
【請求項29】
請求項22ないし28のいずれか一項の癌幹細胞を増殖させることを伴う方法。
【請求項30】
癌幹細胞の増殖及び/又は発生を変調する候補剤を同定するための方法であって、
a)該候補剤の存在下でSLUG、OVOL1及び/又はOVOL2遺伝子又はプロモーターの発現産物の発現のレベルを検出すること;及び
b)その発現のレベルと該候補剤がない場合の発現のレベルを比較すること;を含んでなり、ここで発現の減少は、該候補剤がSLUG、OVOL1及び/又はOVOL2遺伝子又はプロモーターの発現産物の発現のレベルを変調することを示す、前記方法。
【請求項31】
SLUG、OVOL1及び/又はOVOL2遺伝子の発現レベルを修飾する剤を同定するための方法であって、
a)本発明の上記態様のいずれかで定義したSLUG、OVOL1及び/又はOVOL2遺伝子又はプロモーターを発現している細胞と候補剤を接触させること、及び
b)細胞に対する候補剤の効果を決定することを含んでなり、ここで発現レベルの変化は、該候補剤が発現を変調することが可能であることを示す、前記方法。
【請求項32】
該剤がポリヌクレオチド、ポリペプチド、抗体又は有機小分子である、請求項30又は31に記載の方法。
【請求項33】
患者の癌を治療するための方法であって、SLUG、OVOL1及び/又はOVOL2遺伝子の産物を発現する癌幹細胞の数を減少させることを含んでなり、請求項30〜32の方法により同定された抗体、核酸、ポリペプチド又は剤を、標的癌幹細胞を破壊するのに十分な療法的有効量で患者に投与する工程を含んでなる、前記方法。
【請求項34】
癌の治療のための医薬の製造における、請求項30〜32の方法により同定された抗体、核酸、ポリペプチド又は剤の使用。
【請求項35】
癌幹細胞の場所を見つけ出す及び/又はイメージングするための方法であって、SLUG、OVOL1及び/又はOVOL2タンパク質に特異的に結合する放射標識された抗体、又はSLUG、OVOL1及び/又はOVOL2 mRNA、コード配列及び/又はプロモーター配列と特異的にハイブリダイズする放射標識された核酸プローブを使用する、前記方法。
【請求項36】
PET、CT、SPECT又はNMRを使用してイメージングが実施される、請求項35の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−502210(P2010−502210A)
【公表日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−527228(P2009−527228)
【出願日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【国際出願番号】PCT/IB2007/003648
【国際公開番号】WO2008/029290
【国際公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(509067957)ウニベルシダド・デ・サラマンカ (3)
【出願人】(503260985)
【Fターム(参考)】