説明

遺伝子導入活性を有する新規なインテグリン結合RGDリポペプチド

【課題】
【解決手段】本発明は、インテグリン結合RGD官能基を有する一連の新規なカチオン性リポペプチドの合成を提供する。本発明はまた、これら新規なRGDリポペプチドの著しく高いL27(形質転換Sl80、マウス肉腫細胞)細胞親和性の遺伝子導入特性を提供する。L27細胞表面は、過剰に発現したインテグリンを含むため、インテグリン結合RGDリガンドを有する本発明のリポペプチドのクラスは、(過剰に発現したインテグリンを有する)腫瘍血管系の内皮細胞に対する抗がん遺伝子/薬のターゲッティングにおける将来の適用が見込まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インテグリン受容体のRGDトリペプチドリガンドを含む一連の新規なカチオン性両親媒質、および、その調製方法に関する。本発明は、顕著な遺伝子導入特性を有する前記両親媒質を含む新規な組成物を提供する。本発明によりもっとも恩恵を受けるであろう医学領域は、非ウイルス性がん遺伝子治療である。
【背景技術】
【0002】
新脈管形成(新生血管形成ともいう)は、既存の脈管や内皮先祖細胞からの血管形成および分化であり、健康と疾患の両方において重要である。新脈管形成は、通常は胚形成および発達中に起こり、かつ、創傷治癒および胎盤発達中に十分に発達した組織内で起こる。これに加えて、新脈管形成は、新生血管形成による糖尿病性網膜症および黄班変性、慢性関節リウマチ、炎症性腸疾患といったさまざまな病理学的状態において、ならびに、新たに形成された血管が、成長中の腫瘍に酸素および栄養分を供給するがんにおいて起こる。成熟した血管の内側を覆う内皮細胞は、通常は増殖しない。血管再造形および新脈管形成中に、内皮細胞では、細胞浸潤および増殖を強める細胞表面分子の発現が増加する。いくつかの異なるアルファおよびベータサブユニットからなるヘテロダイマー膜結合タンパク質のスーパーファミリーであるインテグリンは、腫瘍血管系の増殖中の内皮細胞において上向き調節されているいくつかの細胞表面分子の一クラスであり、また、転移性メラノーマ細胞を含む種々の腫瘍細胞上にも見られる。
【0003】
インテグリンは、細胞外基質への細胞の付着、すなわち、細胞−細胞相互作用および信号伝達にとって重要である。クルーズトリパノソーマ(Typanosoma cruzi)、アデノウイルス、エコーウイルス、口蹄疫ウイルスおよび腸病原体Y仮性結核病原体を含む数多くの病原体は、我々の体細胞に進入するためにインテグリン受容体を利用する。インテグリンを介したインターナリゼーション(取り込み)過程の卓越した利点は、1〜2マイクロメートルほどの大きさの直径を有する病原細菌のような比較的大きな構造体のインターナリゼーションを可能とする食細胞のような過程により進行することである。言い換えると、非ウイルスベクターのインテグリン特異的ターゲッティングは、他の多くの受容体を介したエンドサイトーシスに共通して関わるクラスリン被覆小胞によるサイズの下限限定の回避において将来性を有する。興味深いことに、アミノ酸配列アルギニン−グリシン−アスパラギン酸(RGD)は、細胞外基質タンパク質およびウイルスのキャプシドといったすべてではないが多くの天然インテグリン結合リガンドのもっとも進化の保存された特徴である。その高いインテグリン受容体親和性により、RGDドメインを含む環状ペプチドは、インテグリンターゲッティングベクターとして特に適切であることが分かっている。この理由で、(腫瘍細胞自体をターゲッティングするよりむしろ)腫瘍血管系の内皮細胞表面上に過剰に発現したインテグリン受容体に対する抗がん遺伝子/薬のRGDリガンドを介したターゲッティングが、がんと闘う将来性のある抗脈管形成アプローチなのである。このために、本発明は、過剰に発現したインテグリン受容体を含む細胞への遺伝子運搬の顕著な選択的有効性を有する一連の新規で単純なRGDリポペプチドの開発に関する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
天然のタンパク質リガンド由来の配列やファージディスプレイライブラリから選択される配列を含む数多くのインテグリン受容体ターゲッティング直鎖および環状ペプチドリガンドが報告されている(Pasqualiniら、Nature Biotechnology 1997; 15; 542-546、Wickhamら、J. Virology 1997; 71; 8221-8229、Arapら、Science 1998; 279; 377-380、Erbacherら、Gene Ther 1999; 6; 138-145、DeNardoら、Cancer Biother. Radiopharm 2000; 15;71-79、Muellerら、Cancer Gene Ther 2001; 8; 107-117、Janssenら、Cancer Res 2002; 62; 6146-6151、Schraaら、Int.J. Cancer 2002; 102; 469-475)。もっとも強力なRGDペプチド(RGD4C、CDCRGDCFC)のうちの1つは、2つのジスルフィド結合により構造的に安定化した中央RGDモチーフにより構成される(Koivunenら、Biotechnology 1995; 13; 265-270)。以前、Hartらは、長さ約900nmのfd線維状ファージ粒子の主要外殻タンパク質サブユニットにおいて表される環状RGDペプチドの複数のコピーが、組織培養における細胞によりインテグリンを介して効率的に取り込まれることを示した(Hartら、J.Biol.Chem 1994; 269; 12468-12474)。Hartらはまた、上皮細胞株におけるインテグリンを介した遺伝子発現を確保するために、複数のRGDペプチドと共有結合したポリリシン化ペプチドを利用することに成功した(Hartら、Gene Ther 1995; 2; 552-554、1996、国際公開第96/15811号パンフレット)。より最近では、Hartらは、オリゴリシン/RGDペプチド/DNA複合体に脂質成分を含めると、遺伝子トランスフェクションレベルが顕著に向上することを開示した(米国特許第6458026号明細書、Hartら、2002)。ごく最近では、ファージディスプレイ技術を用いて、Holigら(Hoelig, Pら、Prot. Eng. Design & Selection, 2005; 17; 433-441)が、リポソームに取り込むと、インテグリン発現細胞に対する特異的かつ効率的な結合を示した一連の新規なRGDリポペプチドを単離することに成功している。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、単純なインテグリン結合RGDトリペプチド官能基を含む一連の新規なリポペプチドの開発に関する。ここに記載するこの新たなクラスのRGDリポペプチドの遺伝子導入特性は、形質転換されたマウス肉腫細胞(L27細胞)に対して顕著な細胞親和性を有する。ここに開示するRGDリポペプチドの遺伝子導入有効性は、細胞が市販のインテグリン結合環状ペプチド(RGDfV)でプレインキュベートされると、大幅に抑制される。これは、遺伝子導入過程が、インテグリン受容体を介したものであることを示している。したがって、本発明のRGDリポペプチドのクラスは、過剰に発現したインテグリン受容体を有する腫瘍血管系に対し抗がん遺伝子/薬をターゲッティングするための抗脈管形成がん治療において将来の適用が見込まれる。
【0006】
本発明の目的は、インテグリン結合RGD頭基を含むカチオン性リポペプチドをベースとする遺伝子導入試薬、および、その調製方法を提供することである。
【0007】
したがって、本発明は、一連の新規なカチオン性RGDリポペプチド、および、その合成プロセス、ならびに、さまざまな培養動物細胞におけるインテグリンを介したその遺伝子導入特性の評価に関する。
【0008】
前記カチオン性RGDリポペプチドは、一般式Aによって表される。
【0009】
【化3】

【0010】
式中、R1およびR2は、R1およびR2の両方が水素ではないとき、独立して水素または炭素数8以上の親油性部位であり、かつ、炭素数8〜22のアルキル、(炭素数8〜22の)モノ不飽和アルケニル、ジ不飽和アルケニルおよびトリ不飽和アルケニルから任意に選択され、
3は、独立して水素または(炭素数1〜5、直鎖または分岐)アルキルであり、
nは、1から7の整数であり、
Xは、任意にハロゲン部位であり、かつ、
Mは、水素、ナトリウムおよびカリウム原子からなる群から選択される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の別の実施形態、開示されるカチオン性脂質において、R1=R2=n−ヘキサデシル、R3はプロトンであり、n=2、Mはナトリウム原子であり、かつ、X-は塩素イオンである、両親媒質no.1。
【0012】
【化4】

【0013】
本発明のさらに別の実施形態において、RGDリポペプチド複合体は、R1およびR2が、それぞれ独立して水素または脂肪族炭化水素鎖である。
【0014】
本発明のさらに別の実施形態において、RGDリポペプチド複合体は、R1およびR2の両方が、脂肪族炭化水素鎖である。
【0015】
本発明の一実施形態において、RGDリポペプチド複合体では、R3がアルキル基であり、かつ、R1およびR2の両方が脂肪族炭化水素鎖である。
【0016】
本発明の別の実施形態において、RGDリポペプチド複合体では、R3が水素原子であり、かつ、R1およびR2の両方が脂肪族炭化水素鎖である。
【0017】
本発明のさらに別の実施形態において、RGDリポペプチド複合体では、R3がアルキル基であり、かつ、R1およびR2が、独立して水素または脂肪族炭化水素鎖である。
【0018】
本発明のさらに別の実施形態において、RGDリポペプチド複合体では、炭素数が約8〜22のR1基およびR2基の各々が、独立して炭素数8〜22のアルキル基、または、炭素数8〜22のモノ不飽和アルケニル基、ジ不飽和アルケニル基もしくはトリ不飽和アルケニル基である。
【0019】
本発明の一実施形態において、RGDリポペプチド複合体では、結合炭素数が約16から約22である各基が、独立して(炭素数16〜22の)モノ不飽和アルケニル基である。
【0020】
本発明の別の実施形態において、RGDリポペプチド複合体では、R1およびR2の両方が同一であり、かつ、炭素数12〜18の飽和アルキル基である。
【0021】
本発明のさらに別の実施形態において、RGDリポペプチド複合体では、R1およびR2の両方が同一であり、かつ、炭素数18〜22のモノ不飽和アルケニル基である。
【0022】
本発明のさらに別の実施形態において、RGDリポペプチド複合体では、Xが、ハロゲン基から選択される。
【0023】
本発明のさらに別の実施形態において、Xは、塩素、臭素およびヨウ素からなる群から選択される。
【0024】
本発明の一実施形態において、製剤は、1種以上のポリアニオン性化合物および1種以上の生理学的に許容される添加物とともに、一般構造Aにより表されるRGDリポペプチドを含む。
【0025】
本発明のさらに別の一実施形態において、前記製剤は、補脂質をさらに含む。
【0026】
本発明の別の実施形態において、前記製剤では、RGDリポペプチドが、純粋な形態で、または、補脂質と組み合わせて用いられる。
【0027】
本発明のさらに別の実施形態において、前記製剤では、ヘルパー脂質が、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルグリセロール、コレステロールからなる群から選択される。
【0028】
本発明の一実施形態において、前記製剤では、前記補脂質が、ステロール基もしくは中性ホスファチジルエタノールアミンまたは中性ホスファチジルコリンから選択される。
【0029】
本発明の別の実施形態において、前記製剤では、前記補脂質が、DOPEまたはコレステロールから優先的に選択される。
【0030】
本発明のさらに別の実施形態において、前記製剤では、RGDリポペプチド対補脂質のモル比の範囲が、3:1〜1:1である。
【0031】
本発明のさらに別の実施形態において、前記製剤では、RGDリポペプチド対補脂質の好適なモル比が、1:1である。
【0032】
本発明の一実施形態において、前記製剤では、前記ポリアニオン性化合物が、治療上重要なタンパク質、核酸、オリゴヌクレオチド、ペプチドまたはタンパク質をコードする核酸および薬剤の群から選択される。
【0033】
本発明の別の実施形態において、前記製剤では、前記核酸が、環状プラスミドもしくは直鎖プラスミドの群から選択されるか、または、リボ核酸、リボソームRNA、RNAのアンチセンスポリヌクレオチド、DNAのアンチセンスポリヌクレオチド、ゲノムDNA、cDNAまたはmRNAのポリヌクレオチドである。
【0034】
本発明のさらに別の実施形態において、前記製剤では、前記ポリアニオンが、単独でまたは組み合わせて用いられる。
【0035】
本発明のさらに別の実施形態において、前記製剤が、静脈内、筋肉内または腹腔内投与される。
【0036】
本発明の別の実施形態において、前記製剤が、50,000個の細胞に対して0.1から0.5マイクログラムのDNAの割合で細胞に投与される。
【0037】
本発明のさらに別の実施形態において、前記製剤が、9.0から0.3マイクログラムの範囲の両親媒質の量を、リポペプチド対DNA電荷比0.3:1から9:1までの範囲で含む。
【0038】
本発明のさらに別の実施形態において、トランスフェクション複合体は、前記製剤を含む。
【0039】
本発明の一実施形態は、上記構造Aにより表される新規なRGDリポペプチドの内皮細胞特異的遺伝子運搬特性の評価である。
【0040】
本発明は、一連の新規なカチオン性RGDリポペプチドに関する。極性RGD頭基を含む新規なカチオン性両親媒質は、過剰に発現したインテグリンを含む腫瘍血管系に抗がん遺伝子/薬を運搬するのに潜在的に有用である。本発明によりもっとも恩恵を受けるであろう科学分野は、抗脈管形成がん治療である。
【0041】
本発明において開示されるカチオン性両親媒質に共通した独特の新規な構造的特徴は、(1)正に帯電した窒素原子に直接結合した疎水性基の存在、および、(2)インテグリン結合極性アルギニン−グリシン−アスパラギン酸頭基の存在を含む。これらの特有の構造的特徴は、ここに開示する新規なRGDリポペプチドのインテグリンを介した遺伝子導入効率に大きく寄与すると考えられている。
【0042】
本発明の実施によると、「カチオン性」とは、正の電荷が、4級化窒素またはプロトン付加された窒素原子のいずれかにかかっていることを意味する。本発明の両親媒質のカチオン性は、核酸のような生物学的活性分子および/または形質膜糖タンパク質のような細胞の構成成分と該両親媒質との相互作用を高めるのに寄与する可能性がある。そのようなカチオン性両親媒質と治療上活性な生物学的高分子および/または細胞膜構成成分との相互作用の高まりは、細胞へ治療用分子をうまく輸送するのに重要な役割を果たす可能性がある。
【0043】
本発明のカチオン性RGDリポペプチドは、ある共通の構造基および官能基を有する。そこで、前記カチオン性RGDリポペプチドは、下記の一般式(A)によって表すことができる。
【0044】
【化5】

【0045】
式中、R1およびR2は、R1およびR2の両方が水素ではないとき、それぞれ独立して水素または炭素数8以上の親油性部位であり、かつ、炭素数8〜22のアルキル、(炭素数8〜22の)モノ不飽和アルケニル、ジ不飽和アルケニルおよびトリ不飽和アルケニルから任意に選択され、
3は、独立して水素または(炭素数1〜5、直鎖または分岐)アルキルであり、
nは、1から7の整数であり、
Mは、水素、ナトリウムおよびカリウム原子からなる群から選択され、かつ、
Xは、任意にハロゲン部位である。
【0046】
本発明のRGDリポペプチドは、水溶液中での脂質複合体または凝集体の形成を促進する親油性ドメインを有する。疎水性ドメインの親油性および極性RGD頭基ドメインの親水性は、カチオン性脂質が水溶液と出会うと、第2化合物の存在下または非存在下で脂質凝集体が形成されるようになっている。親油性R1基およびR2基の例としては、(1)炭素数8〜22の飽和アルキル基および(2)1、2または3つの二重結合を含む炭素数8〜22の不飽和アルケニル基が挙げられる。
【0047】
本願で開示するカチオン性脂質R1=R2=n−ヘキサデシルの好適な一実施形態において、R3はプロトンであり、n=2、Mはナトリウム原子であり、かつ、X-は塩素イオンである。したがって、両親媒質no.1は、本願で説明する新規なRGDリポペプチドの代表例である。
【0048】
【化6】

【0049】
本発明はまた、一連の新規なカチオン性RGDリポペプチドの合成プロセス、および、さまざまな培養動物細胞におけるインテグリンを介したその遺伝子導入特性の評価に関する。
【0050】
[カチオン性脂質の合成]
スキーム1
スキーム1は、本発明で説明する代表的なインテグリン結合RGDリポペプチド2を調製するために用いられる合成法を概説する。
【0051】
【化7】

【0052】
【化8】

【0053】
RGDリポペプチド2は、スキーム1に概説したように、適切に保護されたアミノ酸誘導体とのN−2−アミノエチル−N,N−ジ−n−ヘキサデシルアミンの連続したDCCカップリングと、その後の酸脱保護、水素添加および塩素イオン交換クロマトグラフィーにより合成した。スキーム1に示されているすべての合成中間体および最終脂質の構造は、1H NMRにより確認した。最終脂質はさらに、そのLSIMSにおける分子イオンピークにより特徴付けた。脂質2の純度は、2つの異なる移動相を用いた逆相分析HPLCにより確認した。
【0054】
[製剤]
本発明はまた、ここに開示するカチオン性RGDリポペプチド、生物学的高分子および補脂質の最適量を含む新規な製剤を提供する。1種以上の生理学的に許容される添加物質を本発明の医薬製剤に含めて、保存のために製剤を安定化するか、または、生物学的活性分子を細胞内へうまく運搬できるようにしてもよい。本発明の実施に係る補脂質は、1種以上のRGDリポペプチドとの混合に有用である。コレステロールは、生物学的活性分子を細胞内へうまく運搬できるように本願で説明するRGDリポペプチドと組み合わせて用いるのに優れた補脂質である。RGDリポペプチド対補脂質のモル比の好適な範囲は、1:1である。ここで、前記範囲を非常に広範に変化させることは、当該技術の範囲内である。典型的には、リポソームは、ガラス製バイアル瓶中でメタノールとクロロホルムとの混合物に適切なモル比でRGDリポペプチドおよび補脂質(コレステロールまたはDOPE)を溶解させることにより調製した。わずかな流量の水分を含まない窒素ガスとともに溶媒を除去し、次いで、乾燥した脂質フィルムを高真空下で8時間保持した。該乾燥した脂質フィルムを、RGDリポペプチド濃度1mMで全体積1mLの無菌脱イオン水中で最短12時間水和した。リポソームを、1〜2分間ボルテックスして、付着している脂質フィルムがあればこれを除去し、浴超音波処理器(ULTRAsonik 28X)中で室温で2〜3分間超音波処理して、多ラメラ小胞(MLV)を作成した。その後、MLVを(デューティサイクル100%および25Wの出力のBranson450音波発生器を用いた)Tiプローブにより1〜2分間超音波処理して、透明透光性溶液となることにより示される小型の単ラメラ小胞(SUV)を作成した。
【0055】
本発明のRGDリポペプチドを用いて治療量を細胞内投与可能な生物学的活性分子は、治療上重要なタンパク質をコードするリボソームRNA、RNAまたはDNAのアンチセンスポリヌクレオチド、ゲノムDNA、cDNAまたはmRNAのポリヌクレオチド、および、抗脈管形成遺伝子/薬を含む。本発明のRGDリポペプチドは、その代表の1種以上を組み合わせて用いて、前記生物学的活性分子の細胞/組織内への進入を促進するよう配合してもよい。
【0056】
さらなる実施形態において、本発明において開示するRGDリポペプチドは、純粋な形態で、または、他の脂質やコレステロール、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルグリセロールなどのヘルパー脂質と組み合わせて用いてもよい。前記治療製剤は、生物学的活性治療分子と複合体を形成するまで、0℃〜4℃で保存してもよい。調製を安定化させる試薬、例えば、低濃度のグリセロールとともに、細菌の成長を妨げ、かつ、貯蔵寿命を延ばす薬剤を含めてもよい。凍結および解凍サイクルは、製剤の効率を損なう可能性があることを特に警告する。
【0057】
さらに別の実施形態において、ここに開示するRGDリポペプチド、補脂質(コレステロールまたはDOPE)および生物学的活性治療分子の製剤は、筋肉内および腹腔内投与などの他の経路に加えて静脈内投与されてもよい。さらに、前記製剤は、in vitro系において、50,000個の細胞に対して0.1〜0.5マイクログラムのDNAの割合で細胞に投与されてもよい。両親媒質の量は、1個のRGDリポペプチド分子に対する3個の正電荷および単一のヌクレオチド塩基の1個の負電荷を考慮して、リポペプチド対DNA電荷比0.3:1から9:1まで変化させることができる。
【0058】
本発明はさらに、本発明において開示するRGDリポペプチドの分散液を調製する工程と、前記分散液を生物学的活性分子に接触させて、前記RGDリポペプチドと前記生物学的活性分子との複合体を形成する工程と、細胞を前記複合体に接触させて、前記生物学的活性分子の細胞内への導入を促進する工程とを含む前記製剤の調製プロセスを提供する。本発明はまた、生物学的活性分子の細胞内運搬を促進するさまざまな製剤を提供する。
【0059】
[本願で説明するRGDリポペプチドのインテグリン受容体特異的遺伝子運搬特性]
リポペプチド:DNA電荷比9:1〜0.3:1にわたって、CHO細胞、HeLa細胞、HepG2細胞、BRL細胞、MCF−7細胞、A549細胞およびL−27細胞におけるレポーター遺伝子としてのpCMV−SPORT−β−galプラスミドを用いたレポーター遺伝子発現アッセイにより、補脂質としてのコレステロールまたはDOPEのいずれかと組み合わせたRGDリポペプチドAをモル比1:1で含むリポソームのin vitroトランスフェクション有効性を評価した。RGDリポペプチドAは、補脂質としてコレステロールを用いて調製した際に検討したすべての細胞株においてL−27細胞(表面上で過剰に発現したα5β1インテグリンに形質転換したマウス肉腫細胞株)のトランスフェクションにおいて7〜70倍近くの高い効率を示した(図1、部分A〜D)。補脂質としてコレステロールを選択したのは、DOPEを補脂質として用いた際、L−27細胞においてRGDリポペプチドAの遺伝子導入有効性が3〜4倍近く弱められたからである(データは示さず)。RGDリポペプチドAは、リポペプチド:DNA電荷比9:1および3:1で、L−27細胞のトランスフェクションにおいてもっとも効率的であった(図1、部分A〜D)。
【0060】
Aのトランスフェクション効率は、L−27細胞においてさらに低いリポペプチド:DNA電荷比、すなわち、1:1および0.3:1でほぼ失われる(図1、部分C〜D)。検討した電荷比すべてにわたって、本来は高度にトランスフェクト可能なCHO細胞においてAに対するレポーター遺伝子の発現は、低いレベルであった(図1、部分A〜D)。HepG2細胞およびMCF−7細胞においてもまた、Aは、低いトランスフェクション効率を示した(図1、部分A〜D)。HeLa細胞およびBRL細胞におけるAの遺伝子導入有効性は、リポペプチド:DNA電荷比の全範囲にわたって、ほぼ有意でなかった(図1、部分A〜D)。9:1という高い脂質:DNA電荷比でのA549細胞における穏やかな程度の遺伝子導入効率(図1、部分A)は、A549細胞表面において発現したα5β1インテグリン受容体の存在から生じているのだろう。L−27細胞において観察された対照的に(contrastingly)高まったβ−ガラクトシダーゼレポーター遺伝子発現レベル(図1、部分A〜B)により、脂質Aによるα5β1インテグリン過剰発現L−27細胞のトランスフェクションが、Aのインテグリン結合RGD官能基を介したものである可能性が高いことが強く示される。L−27細胞における補脂質としての等モルのコレステロールと組み合わせたAのより優れたトランスフェクション有効性は、脂質:DNA電荷比3:1でのL−27細胞およびCHO細胞の全細胞組織化学的X−gal染色によりさらに確認された(図2)。高度にトランスフェクト可能なCHO細胞を含む他の細胞トランスフェクションにおける脂質Aの有効性が劣っているのは、これら細胞表面におけるインテグリン受容体のレベルがL−27細胞におけるものよりはるかに低く、これら細胞へのRGDリポペプチド:DNA複合体の細胞取込みがより劣っている結果かもしれない。
【0061】
インテグリン受容体を含むL27細胞のトランスフェクションにおけるRGDリポペプチドAの有効性は、市販の効率的なインテグリン拮抗物質である環状RGDfVペプチドで細胞を処理する遺伝子導入実験が行われた際には、激しく弱められた(部分A、図3)。したがって、図3の部分Aの所見においてまとめられる結果により、本願のRGDリポペプチドをベースとした遺伝子運搬試薬のクラスに対してインテグリン受容体が関わっていることの強力な証拠が与えられた。RGDリポペプチドAの遺伝子導入有効性は、環状RGDfVリガンドより低いインテグリン結合親和性を有する別の市販のインテグリン結合リガンドである直鎖トリペプチドRGDでL27細胞をプレインキュベートした際に、より低減された(図3、部分A)。リポペプチドAの遺伝子導入有効性は、インテグリン受容体に対する非基質である市販の直鎖テトラペプチドRGESでL27細胞を前処理した際は、それほど有意な影響がなかった(図3、部分A)。RGDペプチドは、インテグリン受容体に対するリガンドであり、RGEペプチドはそうでないので、我々は、RGDリポペプチドAの合成のためのスキーム1において概説したのと全く同じ合成プロトコルにしたがって、代表的なRGDリポペプチドAのRGE対応物であるリポペプチド3も合成した。図3の部分Bに示されるように、RGEリポペプチド3は、(細胞表面に過剰に発現したインテグリンを含む)L27細胞において大幅に低下した遺伝子導入有効性を示した。したがって、図3の部分Aと部分Bとをともに考慮してまとめたトランスフェクション結果は、本願において説明するRGDリポペプチドの細胞取込みにおいてインテグリン受容体が関わっていることの説得力のある裏付けとなる。
【0062】
【化9】

【0063】
[本発明において開示する両親媒質の細胞毒性]
補脂質としてのコレステロールおよびDOPEの両方と組み合わせた本願で説明するRGDリポペプチドの細胞毒性を、前に説明したMTTベースの細胞増殖力アッセイ(Majeti B.K.ら、J. Med. Chem. 2005; 46; 3784-3795)により判定した。両製剤とも、9:1〜0.3:1のリポペプチド:DNA電荷比の全範囲にわたって実質的に非毒性であることが分かった(図4)。とりわけ、両製剤とも、より高い脂質:DNA電荷比においてさえ80%を超える細胞増殖力を示した(図4)。したがって、L−27細胞以外の細胞においてRGDリポペプチドAのトランスフェクション効率が劣っているのは、細胞毒性に関する要因によるものではないだろう。
【0064】
[適用:]
本発明のプロセスは、インテグリン結合RGD頭基を含むカチオン性リポペプチドをベースとした遺伝子導入試薬の調製に利用可能である。RGDリポペプチドの本発明は、インテグリン受容体を介した細胞内へのポリアニオン、ポリペプチドまたはヌクレオポリマーの運搬に有用である。ここで開示するカチオン性RGDリポペプチドを用いて、製造または治療用に細胞へ発現ベクターを運搬することができる。発現ベクターは、治療上有用なタンパク質を細胞へ運搬するか、または、治療上有用なタンパク質分子をコードする核酸を運搬するために遺伝子治療プロトコルにおいて用いることができる。RGDリポペプチドの発明は、ドキソルビシンといった抗がん薬剤を含むアニオン性、双性イオン性および親油性治療薬、親油性化合物とともに配合して、本発明のRGDリポペプチドと治療薬とを含む複合体を得ることができる。特に、本願で開示するRGDリポペプチドは、腫瘍血管系への抗がん遺伝子/薬の運搬における将来の利用見込みがある、がんと闘うための抗脈管形成治療様式である。
【0065】
以下の実施例は、本発明の例示として示すものであるので、本発明の範囲を限定するよう解釈すべきではない。
【実施例1】
【0066】
RGDリポペプチド2の合成(スキーム1)
工程(a):固体HOSu(0.81g、7.03mmol)およびDCC(1.45g、7.03mmol)を、乾燥DCM(10mL)中のNαBOC−Nε−Z−L−リシン(2.7g、7.03mmol)の氷冷攪拌溶液に順に加えた。半時間後、乾燥DCM(10mL)中に溶解した、前述のように(Majeti, B.Kら、Bioconjug Chem. 2005; 16; 676-684)調製したN−2アミノエチル−N,N−ジ−n−ヘキサデシルアミン(I、3.6g、7.03mmol)およびDMAP(触媒量)を、反応混合物に添加した。得られた溶液を室温で16時間攪拌し続け、固体DCUを濾過し、濾液から溶媒を蒸発させた。残渣をエチルアセテート(100mL)に取り込み、氷で冷却した1N HCl(1×100mL)、飽和重炭酸ナトリウム(1×100mL)および水(2×100mL)により順に洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過し、濾液から溶媒をロータリーエバポレーションにより除去した。残渣を12%のアセトン−ヘキサン(v/v)を溶離剤として用いた60〜120メッシュのシリカゲルでのカラムクロマトグラフィーで精製して、3.7g(60%)の純粋中間体(II)が得られた。(TLC展開溶媒として30%のアセトン−ヘキサンv/vを用いたRf=0.5)。
【0067】
【数1】

【0068】
工程(b):工程(a)において得られた中間体II(3.4g、3.90mmol)を乾燥DCM(10mL)に溶解し、0℃でTFA(4mL)を添加した。得られた溶液を室温で5時間攪拌し続け、完全に脱保護した。余分なTFAを窒素フラッシングにより除去した。得られた化合物をDCM(100mL)に溶解し、トリエチルアミン(10mL)を添加し、室温で15分間攪拌した。溶媒をロータリーエバポレーションにより完全に除去した。残渣をDCM(100mL)に取り込み、水(50mL)で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過し、濾液から溶媒をロータリーエバポレーションにより除去して、2.76g(収率91%)が得られた。(TLC展開溶媒として10%のメタノール−クロロホルムv/vを用いたRf=0.2)。
【0069】
【数2】

【0070】
工程(c):固体HOSu(0.41g、3.57mmol)およびDCC(0.74g、3.57mmol)を、乾燥DCM(15mL)中のL−アスパラギン酸−β−ベンジルエステルから従来どおり調製された(Bodanszky, Mら、the presence of peptide synthesis springer-Verlag, Berlin Heidelberg,1984 page no:20)N−t−ブチルオキシカルボニル−L−アスパラギン酸−β−ベンジルエステル(1.15g、3.57mmol)の氷冷攪拌溶液に順に加えた。半時間後、乾燥DCM(15mL)中に溶解した、工程bにおいて得られた中間体(2.75g、3.57mmol)およびDMAP(触媒)を、反応混合物に添加した。得られた溶液を室温で16時間攪拌し続け、固体DCUを濾過し、濾液からの溶媒を蒸発させた。残渣をDCM(100mL)に取り込み、水(50mL)で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過し、濾液から溶媒をロータリーエバポレーションにより除去した。残渣を15%のアセトン−ヘキサン(v/v)を溶離剤として用いた60〜120メッシュのシリカゲルでのカラムクロマトグラフィーで精製して、2.85g(74.2%)の純粋中間体(III)が得られた。(TLC展開溶媒として30%のアセトン−ヘキサンv/vを用いたRf=0.4)。
【0071】
【数3】

【0072】
工程(d):工程(c)において得られた中間体III(2.85g、2.65mmol)を乾燥DCM(6mL)に溶解し、0℃でTFA(3mL)を添加した。得られた溶液を室温で5時間攪拌し続け、完全に脱保護した。余分なTFAを窒素フラッシングにより除去した。得られた化合物をDCM(50mL)に溶解し、トリエチルアミン(5mL)を添加し、室温で15分間攪拌した。溶媒をロータリーエバポレーションにより完全に除去した。残渣をDCM(100mL)に取り込み、水(50mL)で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過し、濾液からロータリーエバポレーションにより溶媒を除去して、2.58g(収率92%)が得られた。(TLC展開溶媒として10%のメタノール−クロロホルムv/vを用いたRf=0.3)。
【0073】
【数4】

【0074】
工程(e):固体HOSu(0.51g、2.46mmol)、DCC(0.28g、2.46mmol)およびDMAP(触媒量)の存在下で、工程(c)において上述したのと実質的に同じプロトコルにしたがって、N−t−ブチルオキシカルボニル−L−グリシン(0.43g、2.46mmol)を工程(d)において得られた中間体(2.4g、2.46mmol)とカップリングさせた。生じた粗生成物を石油エーテル中の30〜35%のアセトン(v/v)を溶離剤として用いた60〜120メッシュのシリカゲルでのカラムクロマトグラフィーで精製して、ゴム質の固体である1.5g(収率54%)の中間体(IV)が得られた。(TLC展開溶媒として35%のアセトン−ヘキサンv/vを用いたRf=0.45)。
【0075】
【数5】

【0076】
工程(f):工程(e)において得られた中間体(IV)(0.7g、0.62mmol)を、工程(b)において上述したのと実質的に同じプロトコルにしたがって脱保護した。生じた生成物をロータリーエバポレートして、0.6g(収率93%)の中間体が得られた(TLC展開溶媒として5%のメタノール−クロロホルムv/vを用いたRf=0.2)。
【0077】
【数6】

【0078】
工程(g):固体HOSu(0.066g、0.57mmol)、DCC(0.12g、0.57mmol)およびDMAP(触媒量)の存在下で、工程(c)において上述したのと実質的に同じプロトコルにしたがって、Nα−t−ブチルオキシカルボニル−Nω−ニトロ−L−アルギニン(0.18g、0.57mmol)を工程(f)において得られた中間体(0.59g、0.57mmol)とカップリングさせた。生じた粗生成物をDCM中の5%のメタノール(v/v)を溶離剤として用いた60〜120メッシュのシリカゲルでのカラムクロマトグラフィーで精製して、0.35g(収率46%)の中間体Vが得られた。(TLC展開溶媒として5%のメタノール−クロロホルムv/vを用いたRf=0.2)。
【0079】
【数7】

【0080】
工程(h、i、j):工程(g)において得られた中間体(0.1g、0.075mmol)を乾燥DCM(2mL)に溶解し、0℃でTFA(0.5mL)を添加した。得られた溶液を室温で5時間攪拌し続け、完全に脱保護した。余分なTFAを窒素フラッシングにより除去した。得られた化合物をメタノール(3mL)に溶解し、これに10%Pd/Cを添加した。反応混合物を、水素ガスの存在下で室温で20時間攪拌した。次いで、反応混合物をメタノール(50mL)で希釈し、セライトを通じて触媒を濾過した。溶媒をロータリーエバポレートし、その後、(アンバーリストA−26塩素イオン交換樹脂を用いた)塩素イオン交換クロマトグラフィーを行い、アセトン中での結晶化により、0.037g(収率50%)の純粋な標的脂質2が得られた(TLC展開溶媒として35%のメタノール−クロロホルムv/vを用いたRf=0.10)。
【0081】
【数8】

【実施例2】
【0082】
RGEリポペプチド3(代表的コントロール、インテグリン結合RGDリポペプチド2の非インテグリン結合リポペプチド対応物)の合成
工程(a):固体HOBt(0.488g、3.62mmol)およびEDCI(0.693g、3.62mmol)を、乾燥DCM(10mL)中のNαBOC−Nε−Z−L−リシン(1.15g、3.62mmol)の氷冷攪拌溶液に順に加えた。半時間後、乾燥DCM(10mL)中に溶解した、前述のように(Majeti, B.Kら、Bioconjug Chem. 2005; 16; 676-684)調製したN−2アミノエチル−N,N−ジ−n−ヘキサデシルアミン(I、1.67g、3.28mmol)を、反応混合物に添加した。得られた溶液を室温で16時間攪拌し続けた。溶液をクロロホルム(50mL)に取り込み、氷で冷却した1N HCl(2×100mL)、飽和重炭酸ナトリウム(2×100mL)およびブライン(1×100mL)により順に洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過し、濾液から溶媒をロータリーエバポレーションにより除去した。残渣を12%のアセトン−ヘキサン(v/v)を溶離剤として用いた60〜120メッシュのシリカゲルでのカラムクロマトグラフィーで精製して、1.72g(60%)の純粋中間体(II)が得られた。(TLC展開溶媒として30%のアセトン−ヘキサンv/vを用いたRf=0.5)。
【0083】
【数9】

【0084】
工程(b):工程(a)において得られた中間体II(0.85g、0.98mmol)を乾燥DCM(10mL)に溶解し、0℃でTFA(4mL)を添加した。得られた溶液を室温で5時間攪拌し続け、完全に脱保護した。余分なTFAを窒素フラッシングにより除去した。得られた化合物をDCM(100mL)に溶解し、トリエチルアミン(10mL)を添加し、室温で15分間攪拌した。溶媒をロータリーエバポレーションにより完全に除去した。残渣をDCM(100mL)に取り込み、水(50mL)で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過し、濾液から溶媒をロータリーエバポレーションにより除去して、0.708g(収率94%)が得られた。(TLC展開溶媒として10%のメタノール−クロロホルムv/vを用いたRf=0.2)。
【0085】
工程(c):固体HOBt(0.188g、1.38mmol)およびEDCI(0.264g、1.38mmol)を、乾燥DCM(15mL)中のL−グルタミン酸−β−ベンジルエステルから従来どおり調製されたN−t−ブチルオキシカルボニル−L−グルタミン酸−β−ベンジルエステル(0.464g、1.38mmol)の氷冷攪拌溶液に順に加えた。半時間後、乾燥DCM(15mL)中に溶解した、工程bにおいて得られた中間体(0.708g、0.92mmol)を、反応混合物に添加した。得られた溶液を室温で16時間攪拌し続けた。溶液をクロロホルム(50mL)に取り込み、氷で冷却した1N HCl(2×100mL)、飽和重炭酸ナトリウム(2×100mL)およびブライン(1×100mL)により順に洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過し、濾液から溶媒をロータリーエバポレーションにより除去した。残渣を15%のアセトン−ヘキサン(v/v)を溶離剤として用いた60〜120メッシュのシリカゲルでのカラムクロマトグラフィーで精製して、0.7g(70%)の純粋中間体(III)が得られた。(TLC展開溶媒として30%のアセトン−ヘキサンv/vを用いたRf=0.4)。
【0086】
【数10】

【0087】
工程(d):工程(c)において得られた中間体III(0.7g、0.64mmol)を乾燥DCM(6mL)に溶解し、0℃でTFA(3mL)を添加した。得られた溶液を室温で5時間攪拌し続け、完全に脱保護した。余分なTFAを窒素フラッシングにより除去した。得られた化合物をDCM(50mL)に溶解し、トリエチルアミン(5mL)を添加し、室温で15分間攪拌した。溶媒をロータリーエバポレーションにより完全に除去した。残渣をDCM(100mL)に取り込み、水(50mL)で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過し、濾液から溶媒をロータリーエバポレーションにより除去して、0.6g(収率94%)が得られた。(TLC展開溶媒として10%のメタノール−クロロホルムv/vを用いたRf=0.3)。
【0088】
工程(e):固体HOBt(0.246g、1.82mmol)、EDCI(0.348g、1.82mmol)の存在下で、工程(c)において上述したのと実質的に同じプロトコルにしたがって、N−t−ブチルオキシカルボニル−L−グリシン(0.318g、1.82mmol)を工程(d)において得られた中間体(0.6g、0.61mmol)とカップリングさせた。生じた粗生成物を石油エーテル中の30〜35%のアセトン(v/v)を溶離剤として用いた60〜120メッシュのシリカゲルでのカラムクロマトグラフィーで精製して、ゴム質の固体である0.382g(収率55%)の中間体(IV)が得られた。(TLC展開溶媒として35%のアセトン−ヘキサンv/vを用いたRf=0.45)。
【0089】
【数11】

【0090】
工程(f):工程(e)において得られた中間体(IV)(0.382g、0.33mmol)を、工程(b)において上述したのと実質的に同じプロトコルにしたがって脱保護した。得られた生成物をロータリーエバポレートして、0.32g(収率92%)の中間体が得られた(TLC展開溶媒として5%のメタノール−クロロホルムv/vを用いたRf=0.2)。
【0091】
工程(g):固体HOBt(0.039g、0.29mmol)、EDCI(0.056g、0.29mmol)の存在下で、工程(c)において上述したのと実質的に同じプロトコルにしたがって、Nα−t−ブチルオキシカルボニル−Nω−ニトロ−L−アルギニン(0.093g、0.29mmol)を工程(f)において得られた中間体(0.24g、0.25mmol)とカップリングさせた。生じた粗生成物をDCM中の5%のメタノール(v/v)を溶離剤として用いた60〜120メッシュのシリカゲルでのカラムクロマトグラフィーで精製して、0.16g(収率50%)の中間体Vが得られた。(TLC展開溶媒として5%のメタノール−クロロホルムv/vを用いたRf=0.2)。
【0092】
【数12】

【0093】
工程(h、i、j):工程(g)において得られた中間体(0.1g、0.075mmol)を乾燥DCM(2mL)に溶解し、0℃でTFA(0.5mL)を添加した。得られた溶液を室温で5時間攪拌し続け、完全に脱保護した。余分なTFAを窒素フラッシングにより除去した。得られた化合物をメタノール(3mL)に溶解し、これに10%Pd/Cを添加した。反応混合物を、水素ガスの存在下で室温で20時間攪拌した。次いで、反応混合物をメタノール(50mL)で希釈し、セライトを通じて触媒を濾過した。溶媒をロータリーエバポレートし、その後、(アンバーリストA−26塩素イオン交換樹脂を用いた)塩素イオン交換クロマトグラフィーを行い、アセトン中での結晶化により、0.037g(収率50%)の純粋な標的脂質3が得られた(TLC展開溶媒として35%のメタノール−クロロホルムv/vを用いたRf=0.10)。
【0094】
【数13】

【実施例3】
【0095】
[in vitro遺伝子導入有効性の評価。]
トランスフェクション18〜24時間前に、96ウェルプレートの各ウェルあたり20000個の密度で細胞を播種した。0.3μgのプラスミドDNAを、平らなDMEM培地(全体積100μLまでとした)中で30分間さまざまな量(0.45〜7.2nmol)のRGDリポペプチドと複合体形成した。リポペプチド:DNA電荷比(+/−)は、0.3:1から9:1まで変化させた。次いで、RGDリポペプチド:DNA複合体を細胞に加えた。4時間のインキュベーション後、20%のFBSを有するDMEM100μLを細胞に加えた。24時間後に培地を10%完全培地に変え、48時間後にレポーター遺伝子活性を判断した。細胞をPBSで2回(各回100μl)洗浄し、50μlの溶解緩衝液[0.25M Tris−HCl pH8.0、0.5%NP40]に溶解した。完全に溶解するよう注意を払った。96ウェルプレート中の溶解産物に50μlの2X基質溶液[1.33mg/mlのONPG、0.2Mリン酸ナトリウム(pH7.3)および2mM塩化マグネシウム]を添加することにより、各ウェルあたりのβ−ガラクトシダーゼ活性を判断した。純粋な商用β−ガラクトシダーゼ酵素により構築された較正曲線を用いて、405nmにおける吸光度をβ−ガラクトシダーゼ単位に変換した。同日のアッセイによる同内容の三実験におけるβ−ガラクトシダーゼ単位の値のばらつきは、20%未満であった。
【0096】
トランスフェクション実験は、同内容で3回行った。図1Aに示すトランスフェクション効率値は、同日に行われた同内容の三実験の平均値である。各トランスフェクション実験を2回繰り返したところ、平均トランスフェクション効率の日ごとのばらつきは、2倍以内であることが分かった。別々の日に得られたトランスフェクショングラフは、同一であった。
【実施例4】
【0097】
[トランスフェクトされたL27細胞およびCHO細胞の全細胞組織化学的X−gal染色によるトランスフェクションアッセイ]
β−ガラクトシダーゼを発現するトランスフェクトされたL27細胞およびCHO細胞を、前に説明したように(Majeti, B.K.ら、2005)、基質5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−ガラクトピラノシド(X−gal)で組織化学的に染色した。96ウェルプレート中のRGDリポペプチド:DNA複合体でのトランスフェクション48時間後、細胞をリン酸緩衝食塩水(PBS、137mM NaCl、2.7mM KCl、10mM Na2HPO4、2mM KH2PO4、pH7.4)により2回(2×100μL)洗浄し、PBS(225μL)中の0.5%グルタルアルデヒドで固定化した。室温で15分間インキュベートした後、細胞を再度PBSにより3回(3×250μL)洗浄し、その後、37℃で2〜4時間、5.0mM K3[Fe(CN)6]ならびに5.0mM K4[Fe(CN)6]および1mM MgSO4を含むPBS中の1.0mg/mLのX−galで染色した。光学顕微鏡(ライカ、ドイツ)により青色細胞を確認した。図2は、リポペプチド:DNA電荷比9:1でAがトランスフェクトされたL27細胞およびCHO細胞の組織化学的全細胞X−gal染色を示す。図2においてまとめられるX−gal染色結果により、過剰に発現したインテグリンを有するL27細胞は、表面のインテグリンがかなりの量欠如しているCHO細胞より、RGDリポペプチドAの遺伝子導入有効性が顕著に優れているということが説得力をもって示されている。
【実施例5】
【0098】
[細胞増殖力パーセント]
DOPEとコレステロールの両方と組み合わせた3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)還元アッセイにより、リポペプチドAの細胞毒性を評価した。本アッセイは、トランスフェクション実験において用いられたのと同じAの量に対する細胞数の比率を維持しつつ、96ウェルプレートにて行った。Aを細胞に添加した3時間後に、MTTを添加した。増殖力パーセント=[A540(処理済細胞)−バックグラウンド/A540(未処理細胞)−バックグラウンド]×100として結果を表した。
【0099】
[発明の利点:]
1.インテグリン結合RGDリポペプチドは、遺伝子導入試薬として有用である。
【0100】
2.RGDリポペプチドは、細胞へのポリアニオン、ポリペプチドまたはヌクレオポリマーの運搬に有用である。
【0101】
3.RGDリポペプチドは、抗がん薬剤を含む治療薬とともに配合可能である。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1A−B】図1(部分A〜D)は、リポペプチド:DNA電荷比9:1〜0.3:1にわたって、CHO細胞、MCF−7細胞、A549細胞、HepG2細胞、HeLa細胞、BRL細胞およびL27細胞を含む複数の培養細胞における、本発明で開示するRGDリポペプチド1のin vitro遺伝子運搬有効性グラフの概要である。
【図1C−D】図1(部分A〜D)は、リポペプチド:DNA電荷比9:1〜0.3:1にわたって、CHO細胞、MCF−7細胞、A549細胞、HepG2細胞、HeLa細胞、BRL細胞およびL27細胞を含む複数の培養細胞における、本発明で開示するRGDリポペプチド1のin vitro遺伝子運搬有効性グラフの概要である。
【図2】図2は、脂質:DNA電荷比9:1でRGDリポペプチド1がトランスフェクトされたCHO細胞およびL27細胞の全細胞組織化学的X−gal染色図である。
【図3】図3の部分Aは、環状RGDfVおよび直鎖RGDトリペプチドといった市販のインテグリン拮抗物質、ならびに、市販の非インテグリンリガンドRGEにより細胞をプレインキュベートした際に、L27細胞におけるRGDリポペプチド1の遺伝子導入が低下したことを示すグラフの概要である。図3の部分Bは、L27細胞において、インテグリン結合RGDリポペプチド1が非インテグリン結合RGEリポペプチド2より顕著に優れた遺伝子導入特性を有することを示している。
【図4】図4は、リポペプチド:DNA電荷比が9:1〜0.3:1にわたって、補脂質としてのDOPEとコレステロールの両方と組み合わせて用いられたRGDリポペプチド1のin vitro細胞毒性グラフを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般構造Aを有するRGDリポペプチド。
【化1】

式中、R1およびR2は、R1およびR2の両方が同時に水素ではないとき、それぞれ独立して水素または親油性部位であり、前記親油性部位は、それぞれ炭素数8以上のアルキル基、モノ不飽和アルケニル基、ジ不飽和アルケニル基およびトリ不飽和アルケニル基からなる群から選択され、
3は、水素、炭素数1から5の直鎖アルキル基および炭素数1から5の分岐アルキル鎖アルキル基からなる群から選択され、
nは、1から7の値を有する整数であり、
Xは、任意にハロゲン部位であり、かつ、
Mは、水素、ナトリウムおよびカリウムからなる群から選択される。
【請求項2】
前記親油性部位の炭素数が8〜22である請求項1に記載のRGDリポペプチド。
【請求項3】
Xが、塩素、臭素またはヨウ素である請求項1に記載のRGDリポペプチド。
【請求項4】
1およびR2は、R1およびR2の両方が同時に水素ではないとき、それぞれ独立して水素または脂肪族炭化水素鎖である請求項1に記載のRGDリポペプチド。
【請求項5】
1およびR2の両方が、脂肪族炭化水素鎖である請求項1に記載のRGDリポペプチド。
【請求項6】
3がアルキル基であり、かつ、R1およびR2の両方が脂肪族炭化水素鎖である請求項1に記載のRGDリポペプチド。
【請求項7】
3が水素原子であり、かつ、R1およびR2の両方が脂肪族炭化水素鎖である請求項1に記載のRGDリポペプチド。
【請求項8】
3がアルキル基であり、かつ、R1およびR2が、独立して水素または脂肪族炭化水素鎖である請求項1に記載のRGDリポペプチド。
【請求項9】
炭素数が約8〜22のR1基およびR2基の各々が、独立して炭素数8〜22のアルキル基、または、炭素数8〜22のモノ不飽和アルケニル基、ジ不飽和アルケニル基もしくはトリ不飽和アルケニル基である請求項1に記載のRGDリポペプチド。
【請求項10】
R1およびR2基の各々の炭素数が約16から約22である請求項10に記載のRGDリポペプチド。
【請求項11】
1およびR2が、独立してモノ不飽和アルケニル基である請求項10および11に記載のRGDリポペプチド。
【請求項12】
1およびR2の両方が同一であり、かつ、炭素数12から18の飽和アルキル基である請求項1に記載のRGDリポペプチド。
【請求項13】
1およびR2の両方が同一であり、かつ、炭素数18から22のモノ不飽和アルケニル基である請求項1に記載のRGDリポペプチド。
【請求項14】
1種以上のポリアニオン性化合物および1種以上の生理学的に許容される添加物とともに、一般構造Aを有するRGDリポペプチドを含む抗がん薬または遺伝子の標的への運搬のための製剤。
【化2】

式中、R1およびR2は、R1およびR2の両方が同時に水素ではないとき、それぞれ独立して水素または親油性部位であり、前記親油性部位は、それぞれ炭素数8以上のアルキル基、モノ不飽和アルケニル基、ジ不飽和アルケニル基およびトリ不飽和アルケニル基からなる群から選択され、
3は、水素、炭素数1から5の直鎖アルキル基および炭素数1から5の分岐アルキル鎖アルキル基からなる群から選択され、
nは、1から7の値を有する整数であり、
Xは、任意にハロゲン部位であり、かつ、
Mは、水素、ナトリウムおよびカリウム原子からなる群から選択される。
【請求項15】
補脂質(co lipid)をさらに含む請求項14に記載の製剤。
【請求項16】
用いられる前記補脂質が、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルグリセロールおよびコレステロールからなる群から選択される請求項15に記載の製剤。
【請求項17】
用いられる前記補脂質が、ステロール基、中性ホスファチジルエタノールアミンおよび中性ホスファチジルコリンからなる群から選択される請求項15に記載の製剤。
【請求項18】
前記補脂質が、DOPEおよびコレステロールからなる群から選択される請求項15に記載の製剤。
【請求項19】
RGDリポペプチド対用いられる補脂質のモル比が、1:1から3:1の範囲である請求項15に記載の製剤。
【請求項20】
RGDリポペプチド対補脂質のモル比が、1:1である請求項19に記載の製剤。
【請求項21】
前記ポリアニオン性化合物が、治療上重要なタンパク質をコードする核酸、核酸、オリゴヌクレオチド、ペプチド、タンパク質および薬剤からなる群から選択される請求項14に記載の製剤。
【請求項22】
用いられる前記核酸が、環状プラスミド、直鎖プラスミド、リボ核酸、リボソームRNA、RNAのアンチセンスポリヌクレオチド、DNAのアンチセンスポリヌクレオチド、ゲノムDNAのポリヌクレオチド、cDNAのポリヌクレオチドおよびmRNAのポリヌクレオチドからなる群から選択される請求項21に記載の製剤。
【請求項23】
前記ポリアニオンが、単独でまたは組み合わせて用いられる請求項21に記載の製剤。
【請求項24】
静脈内、筋肉内または腹腔内投与される請求項14に記載の製剤。
【請求項25】
25から100マイクロリットルの範囲で細胞内投与される請求項14に記載の製剤。
【請求項26】
50,000個の細胞に対して0.1から0.5マイクログラムのDNAの割合で細胞に投与される請求項14に記載の製剤。
【請求項27】
9.0から0.3マイクログラムの範囲の両親媒質をさらに含み、かつ、両親媒質の量を、リポペプチド対DNA電荷比0.3:1から9:1まで変化させる請求項14に記載の製剤。
【請求項28】
請求項14に記載の製剤を含むトランスフェクション複合体。

【図1A−B】
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【図1C−D】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−531409(P2009−531409A)
【公表日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−502245(P2009−502245)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【国際出願番号】PCT/IB2007/000826
【国際公開番号】WO2007/116276
【国際公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【出願人】(595059872)カウンシル オブ サイエンティフィク アンド インダストリアル リサーチ (81)
【Fターム(参考)】