説明

部材の製造方法

【課題】冷延鋼板から衝撃吸収能に優れる部材の製造する製造方法を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.005〜0.03%、Mn:0.05〜1.5%以下、
Si:1.5%以下、P:0.10%以下、S:0.0100%以下、Al:0.02〜0.8%以下、N:0.0100%以下を含有する鋼スラブを1050℃以上に加熱し、仕上圧延を、仕上圧延出側温度がAr変態点〜950℃で行って、600℃以下で巻き取ったのち、酸洗して冷間圧延を行い、次いで、700℃〜Ac変態点で焼鈍を行い、引き続き、700から250℃までの平均冷却速度を15℃/s以上として冷却したのち、調圧率15〜30%の調質圧延を行うことにより得た、組織が95%以上のフェライト相からなる鋼板をプレス成形したのち、140〜300℃で熱処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、主に自動車用に使用される部材、特に衝撃吸収性能に優れる部材の製造方法に関わり、冷延鋼板をプレス成形し、次いで熱処理が施されるものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境保全の観点から、COの排出量を規制するため、自動車の燃費改善が要求されている。加えて、衝突時に乗員の安全を確保するため、自動車車体の衝突特性を中心にした安全性向上も要求されている。
自動車車体の軽量化と強化を同時に満たすには、剛性に問題とならない範囲で部品素材を高強度化し、板厚を低減することによる軽量化が効果的であると言われており、最近では高張力鋼板が自動車部品に積極的に使用されている。
【0003】
一方、鋼板を素材とする自動車部品の多くは、プレス加工によって成形されるため、自動車用鋼板には優れたプレス成形性を有していることが必要とされる。しかしながら、従来は、プレス成形し部品となった後の延性や加工硬化能については着目されていなかった。 ドアインパクトビームなど変形しないような部位は別として、車体に組み込まれたのちの延性を確保しておかないと、衝突時に割れが発生し、十分な衝突エネルギーが確保できないという問題がある。さらに、延性といっても、局部延性だけでは、衝突時の変形によりすぐに局部くびれ現象が生じ、衝突性能にも影響を与えることが考えられる。
【0004】
生産性に優れる連続焼鈍を用いて低炭素アルミキルド鋼板において成形能を上げる手段として、非特許文献1では、焼鈍後に300から350℃付近で十分過時効処理を行い、フェライト中の固溶Cをセメンタイトとして析出させることで、耐時効性にも優れ、延性にも富む鋼板を得ることを達成している。
しかしながら、この場合、加工すると均一伸びが急激に低下してしまうという問題があった。
【0005】
また、特許文献1では、加工性を有しながら高い焼き付け硬化性を得る自動車用鋼板として、C:0.003〜0.01% N:0.003%以下で、固溶Cが0.002%以上で、結晶粒度番号が9.5番以上のフェライト単相とする鋼板が開示されており、100MPaを超えるBHが達成されている。同様に、特許文献2では、C:0.008〜0.010%、Si:0.01〜1%、 Mn:0.05〜2%、 P:0.005〜0.1%を含み、フェライト主体とした組織を呈することで、加工性および焼付処理条件の変動による影響を受けにくい焼付硬化性に優れた自動車車体内板用鋼板が開示されている。しかし、プレス時の成形性に注目し、部品となってからの延性については言及されていない。
【0006】
また、特許文献3では、C:0.01〜0.02%で固溶Cと固溶Nを合計で0.0015%とし、平均結晶粒径10μm以下のフェライト相とすることで、歪時効性、耐衝撃性、耐二次加工脆性および加工性に優れたTS440MPa以上の高張力鋼板が開示されている。また、製造方法として、製品板を1〜15%スキンパスまたはレベラー加工を行い、その後焼き付け塗装相当処理を行うことで、TSの上昇と、高速引張での吸収エネルギーが増加することが示されている。しかしながら、素材強度と部材の吸収エネルギーのバランスという観点からは、不十分なものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−199997号公報
【特許文献2】特開2005−126793号公報
【特許文献3】特開2001−335889号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】西山記念技術講座「第88・89回ストリップの連続焼鈍技術の 進歩」日本鉄鋼協会(1983)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように、従来は焼鈍後の成形性、プレス加工性や焼付け硬化性等が追求されてきたが、プレス成形後の焼付塗装処理を行った状態での衝撃吸収能については、従来十分には検討されてこなかった。
本発明は、省合金成分の高張力鋼板をプレス成形し、引き続く熱処理(焼付塗装処理)を行った状態での衝撃吸収能に優れる部材の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は、上記のような課題を解決すべく鋭意検討を進めたところ、焼鈍後の鋼板のミクロ組織と、母相中の固溶Cの制御をすることと、焼鈍後の歪量と、部材成形後の熱処理条件を最適化することで、衝撃吸収能に優れる低コストの部材が製造可能であることを見出した。
【0011】
そこで、本発明は、上記の課題を解決するために以下の手段を採用する。
[1]質量%で、
C:0.005〜0.03%、
Mn:0.05〜1.5%以下、
Si:1.5%以下、
P:0.10%以下、
S:0.0100%以下、
Al:0.02〜0.80%以下、
N:0.0100%以下
を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼スラブを10
50℃以上に加熱し、粗圧延した後に仕上圧延を、仕上圧延出側温度がAr
態点〜950℃で行って、600℃以下で巻き取ったのち、酸洗して冷間圧延を
行い、次いで、700℃〜Ac変態点の温度範囲で焼鈍を行い、引き続き、70
0から250℃までの平均冷却速度を15℃/s以上として冷却したのち、調圧
率15〜30%の調質圧延を行うことにより得た、組織が面積率で95%以上の
フェライト相からなる鋼板を、プレス成形したのち、140〜300℃で熱処理
を行うことを特徴とする部材の製造方法。
[2]前記鋼スラブがさらに質量%で、
Ti:0.05%以下、
Nb:0.05%以下、
Cr:0.2%以下、
Mo:0.2%以下
の1種以上を含むことを特徴とする、[1]に記載の部材の製造方法。
[3]前記鋼スラブがさらに質量%で、
B:0.0030%以下
を含むことを特徴とする、[1]または[2]に記載の部材の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
焼鈍後の冷延鋼板のミクロ組織と、母相中の固溶Cの制御をすることと、焼鈍後の歪量と、部材成形後の熱処理条件等を最適化することで、衝撃吸収能に優れる部材を製造することができる。本発明によれば、例えば自動車のフロントサイドメンバー、リアサイドメンバーなどの衝撃吸収を受け持つ自動車用部材の衝撃吸収能を大きく向上させることができ、自動車体の衝突特性を向上できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、焼鈍後の鋼板組織をフェライト主相とし、母相フェライト中に固溶Cを十分確保した状態で、焼鈍後のスキンパス量(調圧率)を従来よりも高くして調質圧延した冷延鋼板を、プレス成形後に適切な温度で部材成形後に熱処理を施すことで、衝撃時に、材料は十分な加工硬化性を発揮することで、吸収エネルギーを確保することができることを見出した。
【0014】
これは、連続焼鈍まま材の延性を確保するために、過時効処理を十分に行うと、炭素がセメンタイトとして析出し、高スキンパス条件では、加工硬化できない材料になってしまうが、固溶炭素が十分に存在すると、強加工を行い、転位が多量に導入されたあとも、熱処理により、多量に存在する固溶Cが転位を固着し、再び転位を増殖させることで、衝撃時の吸収エネルギーを増加させるためと考えられる。
【0015】
以下に本発明を詳細に説明する。
以下において特に断らない限り、元素の含有量の「%」は「質量%」を指している。
最初に、本発明における鋼スラブの成分組成(化学成分)を限定した理由について説明する。なお、本発明における鋼板の成分組成は該鋼スラブの成分組成と同様である。
【0016】
・C:0.005〜0.03%
Cは焼鈍後の固溶Cの確保に重要であり、0.005%以上の含有が必要である。しかしながら、その含有量が過剰に多くなると、焼鈍時に未溶解のセメンタイトが存在し、焼鈍後の固溶Cが低下してしまうため、上限を0.03%とする。好ましくは0.02%以下である。
【0017】
・Mn:0.05〜1.5%
MnはSによる熱間割れを防止するのに有効な元素でもある。このような観点からMnは0.05%以上含有する必要がある。但し、過剰な添加は、変態点を低下させ、組織を複合組織化して、プレス加工して塗装焼付け後の延性を上昇させる効果が薄れることに加え、フェライト中の固溶Cの低減してしまうので、Mnの含有量は1.5%以下とする。好ましくは0.8%以下である。
【0018】
・Si:1.5%以下
Siは成形性を損なうことなく固溶強化させるのに有効な元素であり、1.5%以下の範囲で含有させる。この効果を得るためには、Siは0.01%以上含有することが好ましく、より好ましくは0.05%以上である。一方、1.5%を超えて含有させると、変態点温度が高くなり、熱間圧延をオーステナイト単相域で仕上げることができなくなり、延性の低下を招くのでよくない。また、スケール起因の表面外観性も悪くし、しかも化成処理性の劣化を招くので、Si含有量は1.5%以下とする。好ましくは1.0%以下である。
【0019】
・P:0.10%以下
Pは、0.10%を越える過剰な含有では粒界に偏析し、耐二次加工脆性および溶接性を劣化させるので、上限を0.10%とした。
・S:0.0100%以下
Sは不純物であり、熱間割れの原因になる他、鋼中で介在物として存在し鋼板の諸特性を劣化させるので、できるだけ低減することが好ましいが、0.0100%までは許容できるため、0.0100%以下とする。
【0020】
・Al:0.02〜0.80%
Alは鋼の脱酸元素として有用であるため、0.02%以上含有させる。一方、その含有量が0.80%を越えると、変態点温度が高くなり、熱間圧延をオーステナイト単相域で仕上げることができなくなり、延性の低下を招くので好ましくない。また高合金コストを招き、さらに溶接性を低下させるので、0.80%以下とする。
【0021】
・N:0.0100%以下
本発明では、固溶Cの活用するため、N含有量は特に規定するものではないが、0.0100%を越えると、プレス加工後に変形させた場合に、侵入型固溶元素の総量と焼鈍後の歪導入量とのバランスが崩れ、不均一変形が生じやすくなり、均一伸びの評価が困難となるので上限を0.0100%とする。
【0022】
・Ti:0.05%以下、Nb:0.05%以下、Cr:0.2%以下、Mo:0.2以下の1種以上
Ti、Nb、Cr、Moは、炭化物形成元素であり、固溶C、Nを低減するため、多量の添加は好ましくないが、細粒化により強度延性バランスを向上させるので、Ti:0.05%以下、Nb:0.05%以下、Cr:0.2%以下、Mo:0.2%以下であれば、これらの元素を1種以上含有させても問題ない。なお、上記効果を得る上では、Ti、Nb、Cr、Moの含有量は各々Ti:0.005%以上、Nb:0.005%以上、Cr:0.1%以上、Mo:0.05%以上とすることが好ましい。
【0023】
・B:0.0030%以下
Bは鋼の微細化や焼付け硬化性を向上する作用をもつ元素であり、必要に応じて含有できる。しかし、その含有量が0.0030%を超えるとその効果が飽和するため0.003%以下とする。なお、上記効果を得る上では、Bは0.0003%以上とすることが好ましい。
【0024】
以上が本発明鋼の基本成分であるが、その他Ca、REM等を、通常の鋼組成範囲内であれば含有しても何ら問題はない。
CaおよびREMは硫化物系介在物の形態を制御する作用をもち、これにより鋼板の諸特性の劣化を防止する。このような効果はCaおよびREMのうちから選ばれた1種または2種の含有量が合計で0.01%を越えると飽和するのでこれ以下とすることが好ましい。
【0025】
またその他の不可避的不純物としては、例えばSb、Sn、Zn、Co等が挙げられ、これらの含有量の許容範囲としては、Sb:0.01%以下、Sn:0.1%以下、Zn:0.01%以下、Co:0.1%以下の範囲である。
【0026】
次に、本発明における鋼板の組織を限定した理由について、説明する。
・組織:面積率で95%以上のフェライト相
本発明のような、調質圧延率(調圧率)を高くした後に、時効処理をすることで均一伸びを向上させるためにはフェライト単相が好ましい。マルテンサイトやベイナイトなどを含んだ複合組織の場合は、その効果が低減するので、少なくともマルテンサイトやベイナイトなどの第2相分率は面積率で5%以下とする。すなわち、フェライト相の面積率は95%以上とする。
【0027】
次に、上記組織を有する本発明に用いる鋼板の製造方法について説明する。
本発明に用いる鋼板の製造方法で使用する鋼スラブは上記の組成を有する。該鋼スラブは、成分のマクロ偏析を防止すべく連続鋳造法により製造することが望ましいが、造塊法や薄スラブ鋳造法で製造してもよい。また、鋼スラブを製造した後、いったん室温まで冷却し、その後再度加熱する従来法に加え、冷却せず温片のままで加熱炉に装入し熱間圧延する直送圧延、或いはわずかの保熱をおこなった後に直ちに熱間圧延する直送圧延・直接圧延などの省エネルギープロセスも問題なく適用できる。
【0028】
・スラブ加熱温度:1050℃以上
本発明に用いる鋼板は、上記した範囲内の組成を有するスラブを素材とし、該素材に熱間圧延を施し熱延板とする熱間圧延工程と、該熱延板に酸洗および冷間圧延を施し冷延鋼板とする冷間圧延工程と、該冷延鋼板に再結晶と複合組織化を達成する焼鈍工程とを順次施すことにより製造することができる。この場合、スラブ加熱温度は、後述する仕上げ温度を確保するため1050℃以上が好ましい。しかしながら、1300℃を超えると加熱時の析出が十分でなく、γ粒の粒成長が生じることや、加熱温度の上昇によるコストアップ、スケールロスの観点から1300℃以下で加熱することが好ましい。
【0029】
上記条件で加熱されたスラブは粗圧延によりシートバーに成形される。粗圧延の条件は特に規定する必要はなく、常法に従っておこなえばよい。また、スラブ加熱温度を低くし、かつ熱間圧延時のトラブルを防止するといった観点から、シートバーを加熱する所謂シートバーヒーターを活用することもできる。
【0030】
・仕上圧延出側温度:Ar変態点〜950℃
次いで、シートバーを、仕上圧延出側温度(FT)をAr以上変態点以上として仕上圧延して熱延板とする。FTがAr未満ではフェライト域の高温域の圧延により熱延組織が粗大化し、成形性が低下する。また、FTが高すぎると、スケール欠陥などの表面性状の問題が生じるため950℃以下とする。なお、Ar変態点は加工フォーマスタを用いて熱膨張曲線を測定することにより求めることができる。
【0031】
なお、熱間圧延時の圧延荷重を低減するため仕上圧延の一部または全部のパス間で潤滑圧延としてもよい。潤滑圧延をおこなうことは鋼板形状の均一化や材質の均質化の観点からも有効である。潤滑圧延の際の摩擦係数は0.10〜0.25の範囲とするのが好ましい。さらに、相前後するシートバー同士を接合し、連続的に仕上圧延する連続圧延プロセスとすることも好ましい。連続圧延プロセスを適用することは熱間圧延の操業安定性の観点からも望ましい。
【0032】
・巻取温度:600℃以下
仕上圧延後の熱延板はコイルに巻き取られる。コイル巻取温度(CT)は600℃以下とする。特にCTが600℃を越えると結晶粒が粗大化し強度低下を招くことになるとともに、セメンタイトが粗大化し、焼鈍時の固溶Cの確保が困難になる。好ましくは500〜580℃とする。
【0033】
・冷間圧延
次いで、該熱延板を酸洗した後、冷間圧延を行い冷延鋼板とする。酸洗は通常の条件にておこなえばよい。冷間圧延条件は所望の寸法形状の冷延鋼板とすることができればよく、特に限定されないが、冷間圧延時の圧下率は少なくとも50%以上とすることが好ましく、より好ましくは60%以上とする。一方、この発明では冷間圧下率を90%までの範囲で高くするほどr値が上昇するが、90%を越えるとその効果が飽和するばかりでなく、圧延時のロールへの負荷も高まるため、上限を90%とすることが好ましい。
【0034】
・焼鈍温度:700℃〜Ac変態点
冷間圧延後の冷延鋼板は焼鈍処理が施される。焼鈍処理により再結晶を完了させないと、延性が大きく低下し、異方性も大きくなるので好ましくない。その意味で焼鈍温度は700℃以上にする必要がある。しかしながら、Ac変態点を超える温度とすると、鋼板の組織が複合組織化し、面積率で95%以上のフェライト相からなる鋼板を得ることができなくなり、プレス成形後、塗装焼付け後の均一伸びを確保できないのでAc点以下とする。なお、Ac変態点はフォーマスタを用いて熱膨張曲線を測定することにより求めることができる。
【0035】
・焼鈍に続く冷却工程において700℃から250℃までの平均冷却速度:15℃/s以上
焼鈍後の冷延鋼板は焼鈍後の固溶Cを確保するために冷却される。700℃から250℃までの平均冷却速度が15℃/s未満では、セメンタイトが析出して、固溶Cが十分確保できないため、700℃から250℃までの平均冷却速度は15℃/s以上とする。
【0036】
・調質圧延:調圧率15〜30%の調質圧延
焼鈍後に冷却された冷延鋼板は、調質圧延しプレス加工に付与されるが、調圧率が15%未満では、常温時効性が懸念される。また、プレス成形後の歪量が少ない場合に、プレス成形後の熱処理をした後の加工硬化が期待できなくなる。逆に30%超では、固溶Cが十分に存在しても、熱処理(焼付処理)後の均一伸びが低下してしまう。好ましくは25%以下とする。
次いで、上記のように製造して得た鋼板(冷延鋼板)を部材形状にプレス成形した後、熱処理を施す。
【0037】
・熱処理温度:140〜300℃
冷延鋼板はプレス成形されて成形部品となった後に塗装焼付けなどの熱処理をおこなわないと加工歪が導入されただけなので延性が低い。固溶Cの転位への固着を十分に行わせるために、熱処理温度は、140℃以上が必要である。300℃を超えると、調質圧延やプレス加工により導入された転位が回復して強度の低下を招くとともに、セメンタイト析出による強度低下も大きくなるので、衝撃吸収能が低下してしまう。好ましくは170〜250℃である。
【0038】
また、本発明は冷延鋼板に関わるが、適宜亜鉛めっき等のめっき処理を施してもよい。但し、冷却過程での700℃から250℃までの平均冷却速度を15℃/s以上とする観点から、例えば亜鉛めっきの場合、電気亜鉛めっき、溶融亜鉛めっき(合金化なし)が好ましい。
【実施例】
【0039】
次に、本発明の実施例について説明する。
表1に示す組成(鋼A〜K)の溶鋼を転炉で溶製し、連続鋳造法でスラブとした。これら鋼スラブを1250℃に加熱し粗圧延してシートバーとし、次いで表2に示す条件で仕上圧延により熱延板とし、コイルに巻き取った。次いで、これらの熱延板を酸洗および圧下率65%の冷間圧延工程により冷延鋼板とした。引き続きこれらの冷延鋼板を連続焼鈍ラインにて、表2に示す条件で連続焼鈍し、引き続き冷却をおこなった。このようにして得られた鋼板にさらに表2に示す調圧率(伸び率)の調質圧延を施した。なお、調質圧延後の板厚は1.2mmとした。
【0040】
(1)引張特性
上記の調質圧延後の鋼板にプレス成形に相当する圧延歪(伸び率5%)を与えて、表2の熱処理条件で塗装焼付け処理に相当する熱処理をおこなった鋼板についてJIS5号引張試験片にて、JIS Z 2241の規定に準拠してクロスヘッド速度10mm/minで引張試験をおこない、降伏応力(YS)、引張強さ(TS)、均一伸び(Uel)、全伸び(Tel)を求めた。
【0041】
(2)フェライト分率
上記(1)での試験片と同じ材料について、400倍の光学顕微鏡写真にて黒く腐食される相を第2相と判断し、のこりのフェライト相の面積率を測定した。
【0042】
(3)衝撃吸収能
調質圧延後の鋼板試験片を、断面40×40mm、5Rで長さ300mmのハット型形状の部材(ハット部材)にプレス成形し、同一材料を背板にスポット溶接した。ナゲット径は板厚をtとした時、4√t、スポットの間隔は30mmとした。これに表2に示す熱処理条件の温度で20分の熱処理を行った。
そして、作製したハット部材の両端を厚み5mmの熱延板で固定したのち、上から20km/hrの等速で衝撃試験を行い、荷重―変位曲線を測定した。吸収エネルギーは、15cm変位したときまでのエネルギーを、同板厚の鋼Hである一般低炭素鋼板の焼鈍材の値(表2のNo.13)に対する比で評価した。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
表2に基づいて、実施例No.1〜16を説明する。
比較例のNo.1は、組成は鋼Aであり本発明の範囲内であるが、プレス成形後の熱処理が行われていないため、加工歪が導入されたままの状態であり、引張強さ(TS)は高いが、伸び〔一様伸び(Uel)、全伸び(Tel)〕が著しく低く、吸収エネルギー比が1を下回り、衝撃吸収能に劣る。
【0046】
これに対して、170℃で熱処理が行われている本発明例のNo.2およびNo.3は、組成は鋼BでありNo.1と同様に本発明の範囲内であり、170℃、200℃で熱処理が施されており、組成以外の製造条件は比較例のNo.1と概ね同じであるが、引張強さが高く、かつ伸びが高く、吸収エネルギー比も1を大きく上回り、衝撃吸収能に優れる。
【0047】
組成が鋼Bである比較例のNo.4は、仕上圧延出側温度(FT)がAr点より低く(表1の「Ar」参照)、また組成が鋼AであるNo.5は巻取温度(CT)が高く、組織や結晶粒が粗大化し、いずれもTS、伸びともにやや低く、吸収エネルギー比も1.2であり、衝撃吸収能にやや劣る。また、組成が鋼AであるNo.6は、焼鈍後の冷却速度が3℃/sと本発明の範囲外であり、固溶Cが十分確保できず、均一伸び(Uel)が著しく低く、吸収エネルギー比が1を下回り、衝撃吸収能に劣る。
【0048】
本発明例のNo.7〜No.11は、組成が本発明の範囲内のそれぞれ鋼C〜Gであり、製造条件もいずれも本発明の条件を満たしており、No.2、No.3と同様に、TSが高く、吸収エネルギー比も1を大きく上回り、衝撃吸収能に優れる。
【0049】
比較例のNo.12は、組成がGであり組成は本発明の範囲内であるが、調圧率が2%と本発明の条件を外れており、加工硬化量が少なく、吸収エネルギー比が1.1となり衝撃吸収能にやや劣る。
比較例のNo.13は、組成が鋼HでありC量が本発明外であり、製造条件でも、焼鈍後の冷却速度が5℃/sであり、熱処理が行われず、本発明の条件を外れている。すでに記載したように、No.13は従来の一般低炭素鋼板の焼鈍材であり、吸収エネルギーの評価の基準としたので、吸収エネルギー比は1となっている。
【0050】
比較例のNo.14は、組成が鋼Iであり、Cr量が本発明の範囲を超え、フェライト分率が本発明の範囲を下回る94%であり、マルテンサイトやベイナイトを含む複合組織となっているため、均一伸びが低く、吸収エネルギー比が1.1であり、衝撃吸収能がやや劣る。
【0051】
比較例のNo.15、No.16も鋼組成がそれぞれJ、Kであり、本発明を外れ、いずれも、フェライト分率が低く、本発明の範囲外であり、No.14と同様に均一伸びが低く、吸収エネルギー比が1前後であり、衝撃吸収能がやや劣るか、あるいは劣る。
以上のとおり、本発明例では、TSも十分に高く、かつ部材の吸収エネルギーが、比較例に比べて、顕著に高くなって、衝撃吸収能が優れる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によれば、プレス成形後の衝撃吸収能に優れる部材を安価にかつ安定して製造することが可能となり産業上格段の効果を奏する。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.005〜0.03%、
Mn:0.05〜1.5%以下、
Si:1.5%以下、
P:0.10%以下、
S:0.0100%以下、
Al:0.02〜0.80%以下、
N:0.0100%以下
を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼スラブを1050℃以上に加熱し、粗圧延した後に仕上圧延を、仕上圧延出側温度がAr変態点〜950℃で行って、600℃以下で巻き取ったのち、酸洗して冷間圧延を行い、次いで、700℃〜Ac変態点の温度範囲で焼鈍を行い、引き続き、700から250℃までの平均冷却速度を15℃/s以上として冷却したのち、調圧率15〜30%の調質圧延を行うことにより得た、組織が面積率で95%以上のフェライト相からなる鋼板を、プレス成形したのち、140〜300℃で熱処理を行うことを特徴とする部材の製造方法。
【請求項2】
前記鋼スラブがさらに質量%で、
Ti:0.05%以下、
Nb:0.05%以下、
Cr:0.2%以下、
Mo:0.2%以下
の1種以上を含むことを特徴とする、請求項1に記載の部材の製造方法。
【請求項3】
前記鋼スラブがさらに質量%で、
B:0.0030%以下
を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の部材の製造方法。


【公開番号】特開2012−57197(P2012−57197A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−199829(P2010−199829)
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】