説明

部材間の止水構造および止水方法

【課題】隣り合う部材間の止水を確実に行うことが可能な部材間の止水構造および止水方法を提供することを目的とする。
【解決手段】鋼管杭10やコンクリート系杭材等の部材を複数並設することによって部材列10Aを形成し、部材10,10間の隙間Sに、部材10の長さ方向に長尺に形成されるとともに中空部2を有する筒状弾性体1aを埋設し、筒状弾性体1aを、中空部2に充填材3を加圧充填することによって弾性的に拡径変形させるとともに、隣り合う部材10,10に密着させる。これにより、隣り合う部材間の隙間が不均一となるような諸々の事象が生じていたとしても、隣り合う部材間の隙間に埋設された筒状弾性体を隣り合う部材に密着させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土留め壁や護岸、建築物の基礎等の構造物を構成する鋼管杭列やコンクリート系杭列等の部材間の止水構造および止水方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、外周面に継手が設けられない鋼管杭やコンクリート系杭材を、それぞれ複数並設して列状に形成することによって土留壁や護岸、建築物の基礎等の構造物を構築する技術が知られている。そして、このように部材を複数並設して列状に施工する際には、隣り合う部材間に水膨張性材料を用いたシール材を挿入したり、モルタル等の固化材を充填したり、さらには、特許文献1に記載のように隣り合う部材間の隙間に閉塞用鋼材を配置するなどして止水が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−112928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、例えば水膨張性材料を用いたシール材を護岸に用いる場合には、このシール材が、水位の変動によって水に浸かったり乾燥したりを繰り返した際の耐久性が懸念される。また、隣り合う部材間に充填されるモルタル等の固化材の場合は、充填時に地下水によって希釈されたり、僅かな隙間から漏出して材料ロスを招いたり、さらには材料硬化後に部材に変位が生じたりした場合に止水効果が低減してしまうことが懸念される。また、隣り合う部材間の隙間に閉塞用鋼材を配置する場合は、部材の埋設精度のばらつきや施工誤差、部材表面の凹凸、閉塞用鋼材の設置不良等により、隣り合う部材間の隙間が不均一になることが懸念される。
そこで、隣り合う部材間の隙間が不均一となるような諸々の事象に関係なく確実に止水を行いたいという要望がある。
【0005】
本発明の課題は、隣り合う部材間の止水を確実に行うことが可能な部材間の止水構造および止水方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、部材間の止水構造であって、鋼管杭やコンクリート系杭材等の部材を複数並設することによって部材列が形成されており、
部材間の隙間には、前記部材の長さ方向に長尺に形成されるとともに中空部を有する筒状弾性体が埋設されており、
前記筒状弾性体は、前記中空部に充填材が加圧充填されることによって弾性的に拡径変形し、前記隣り合う部材に密着していることを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の部材間の止水構造において、前記筒状弾性体の長さ方向両端部のうち一端部は開放されて前記充填材の充填口とされており、他端部は閉塞されていることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の部材間の止水構造において、前記筒状弾性体の外周面のうち、少なくとも前記隣り合う部材に接触する面には、複数の突起部が互いに間隔をあけて一体形成されていることを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、部材間の止水構造であって、鋼管杭やコンクリート系杭材等の部材を複数並設することによって部材列が形成されており、
隣り合う部材間の隙間には、前記部材の長さ方向に長尺に形成された止水材が埋設されており、
前記止水材は、杭体と、
前記杭体の外周面のうち、前記隣り合う部材の一方および他方に当接する位置に保持されるとともに中空部を有する筒状弾性体と、を備えており、
前記筒状弾性体は、前記中空部に充填材が加圧充填されることによって弾性的に拡径変形し、前記隣り合う部材の一方および他方に密着していることを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の部材間の止水構造において、前記杭体の外周面には、該杭体の軸方向に沿って、前記筒状弾性体を保持するための凹溝部が形成されていることを特徴とする。
【0011】
請求項6に記載の発明は、部材間の止水方法であって、鋼管杭やコンクリート系杭材等の部材を複数並設することによって部材列を形成し、
部材間の隙間に、前記部材の長さ方向に長尺に形成されるとともに中空部を有する筒状弾性体を埋設し、
前記筒状弾性体を、前記中空部に充填材を加圧充填することによって弾性的に拡径変形させるとともに、前記隣り合う部材に密着させ、さらに、前記充填材を加圧保持して固化させることを特徴とする。
【0012】
請求項7に記載の発明は、部材間の止水方法であって、鋼管杭やコンクリート系杭材等の部材を複数並設することによって、土中または水中に部材列を形成し、
部材間の隙間のうち、前記部材列の中心線を境にして一方側に、前記部材の長さ方向に長尺に形成されるとともに中空部を有する筒状弾性体を埋設し、
前記筒状弾性体を、前記中空部に水を加圧充填することによって弾性的に拡径変形させるとともに、前記隣り合う部材に密着させ、
前記部材列の中心線の他方側の土または水を取り除き、
その後、前記筒状弾性体を前記隣り合う部材に密着させた状態で、前記中空部内の水を所定の充填材に置換することを特徴とする。
【0013】
請求項8に記載の発明は、部材間の止水方法であって、鋼管杭やコンクリート系杭材等の部材を複数並設することによって部材列を形成し、
隣り合う部材間の隙間に、前記部材の長さ方向に長尺に形成されており、杭体と、この杭体の外周面のうち、前記隣り合う部材の一方および他方に当接する位置に保持されるとともに中空部を有する筒状弾性体と、を備える止水材を埋設し、
前記筒状弾性体を、前記中空部に充填材を加圧充填することによって弾性的に拡径変形させるとともに、前記隣り合う部材の一方および他方に密着させ、さらに、前記充填材を加圧保持することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、例えば鋼管杭やコンクリート系杭材等の部材の埋設精度のばらつきや施工誤差、部材表面の凹凸、閉塞用鋼材の設置不良等のように、隣り合う部材間の隙間が不均一となるような諸々の事象が生じていたとしても、隣り合う部材間の隙間に埋設された筒状弾性体を隣り合う部材に密着させることができる。これによって、例えば土留め壁や護岸、建築物の基礎等の構造物を構成する部材列の隣り合う部材間の隙間を確実に閉塞できるので、これら隣り合う部材間の隙間が不均一となるような諸々の事象に関係なく確実に止水することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る部材間の止水構造に用いられる筒状弾性体の一例であり、(a)は拡径変形前を示す断面図であり、(b)は拡径変形後を示す断面図である。矢印は加圧方向を示す。
【図2】本発明に係る部材間の止水構造に用いられる筒状弾性体の他の一例であり、(a)は拡径変形前を示す断面図であり、(b)は拡径変形後を示す断面図である。矢印は加圧方向を示す。
【図3】本発明に係る部材間の止水構造の一例であり、(a)は止水前の状態を示す断面図であり、(b)は止水が行われた状態を示す断面図である。
【図4】本発明に係る部材間の止水構造の他の一例であり、(a)は止水前の状態を示す断面図であり、(b)は止水が行われた状態を示す断面図である。
【図5】本発明に係る部材間の止水方法の一例であり、(a)〜(d)は部材間の止水を行う手順を説明する断面図である。
【図6】本発明に係る部材間の止水構造に用いられる止水材の一例であり、(a)は筒状弾性体の拡径変形前を示す断面図であり、(b)は筒状弾性体の拡径変形後を示す断面図である。矢印は加圧方向を示す。
【図7】本発明に係る部材間の止水構造の一例であり、(a)は止水前の状態を示す断面図であり、(b)は止水が行われた状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0017】
<第1の実施の形態>
図1において符号1は筒状弾性体を示し、図2において符号1aは、図1とは異なる形態の筒状弾性体を示す。これら筒状弾性体1,1aは、図3および図4に示すように、鋼管杭10やコンクリート系杭材20等の部材を複数並設することによって形成される部材列10A,20Aのうち、隣り合う部材10,10(20,20)間の隙間Sに埋設されるものである。
【0018】
筒状弾性体1,1aは、ゴム等の弾性材料からなり、前記部材10,20の長さ方向に長尺に形成されるとともに中空部2を有する。すなわち、これら筒状弾性体1,1aは弾性材料からなる長尺材であり、自身の長さ方向に沿って中空部2が形成されている。
中空部2には、図1(b),図2(b)に示すように、充填材3が地山荷重以上となるように加圧充填される。そして、筒状弾性体1,1aは、このように充填材3が加圧充填されることによって弾性的に拡径変形するように構成されている。これによって、隣り合う部材10,10(20,20)間の隙間Sに埋設される筒状弾性体1,1aは、これら隣り合う部材10,10(20,20)に密接することになる。また、これら筒状弾性体1,1aは、自身の長さ方向に亘って均等に拡径するように設定されている。
【0019】
また、図示はしないが、筒状弾性体1,1aの長さ方向両端部のうち一端部は開放されて前記充填材3の充填口とされており、他端部は閉塞されている。したがって、充填材3は、筒状弾性体1,1aによって被覆されるので、充填口以外から漏出することが無くなる。これによって、充填材3の材料ロスを低減できる。また、地下水によって希釈されることを確実に防ぐことができる。
【0020】
前記筒状弾性体1,1aのうち、図1に示す筒状弾性体1は、断面円筒型に形成されている。
一方、図2に示す筒状弾性体1aは、断面円筒型に形成された前記中空部2を有する本体の外周面に、複数の突起部4…が互いに間隔をあけて一体形成されている。
これら複数の突起部4…は、筒状弾性体1aの長さ方向に長尺に形成された突条とされており、筒状弾性体1aの周方向に間隔をあけて配置されている。したがって、これら隣り合う突起部4,4間には溝が形成されている。
【0021】
前記複数の突起部4…は突条としたが、これに限られるものではなく、例えば筒状弾性体1aの外周面からスパイク状に突出するような多数の突起としても良い。
また、前記筒状弾性体1aの外周面のうち、これら複数の突起部4…が設けられる位置は、筒状弾性体1aが隣り合う部材10,10(20,20)間の隙間Sに埋設された際に、この筒状弾性体1aが少なくとも前記隣り合う部材10,10(20,20)に接触する面とされている。
なお、本実施の形態においては、このように複数の突起部4…を、筒状弾性体1aの外周面のうち、少なくとも前記隣り合う部材10,10(20,20)に接触する面に一体形成するとしたので、これら複数の突起部4…を筒状弾性体1aの全周に亘って設けても良いことは言うまでもない。
【0022】
また、本実施の形態の充填材3としてはモルタルが用いられているものとするが、これに限られるものではなく、例えばベントナイトやセメントミルク、樹脂等でも良い。すなわち、固化する性質を持つ流動性のある材料であれば適宜用いることができる。
【0023】
前記部材としては、上述のように、外周面に継手が設けられない前記鋼管杭10やコンクリート系杭材20等が挙げられる。また、図示はしないが、継手があっても止水効果が期待できない杭等も採用することができる。コンクリート系杭材20としては、いわゆるPC杭やRC杭、予め工場で製作されたプレキャスト部材等が挙げられる。
本実施の形態において、図3に示す部材は鋼管杭10であり、図4に示す部材はPC杭20である。
なお、前記部材20の内部には、図4に示すように鋼管21が埋設されている。
また、この部材20の側面には、部材20の長さ方向に沿って、かつ、この側面を半円状に切り欠くようにして溝部22が形成されている。したがって、複数の部材20,20を並設して部材列20Aを形成する際に、溝部22,22が形成された側面同士を対向させることによって、部材20の長さ方向に沿って部材列20Aを貫通する略円孔状の隙間Sを形成することができる。
【0024】
また、これら各部材10,20それぞれを複数並設することによって壁状の部材列10A,20Aを形成できる。すなわち、前記鋼管杭である部材10の場合は、例えば杭打機や杭圧入機等によって、複数の部材10…を並べるようにして地盤に打設していくことで壁状の部材列10Aを形成することができる。また、前記PC杭である部材20の場合は、例えば複数の部材20…を並べるようにして地中に埋設したり、地面に載置したりすることで壁状の部材列20Aを形成することができる。
そして、このように各部材10,20それぞれを複数並設して壁状の部材列10A,20Aを形成することによって、例えば土留め壁や護岸、建築物の基礎等を始め、様々な構造物を構成できる。
【0025】
本実施の形態の部材間の止水構造においては、図3および図4に示すように、複数の突起部4…が一体形成された筒状弾性体1aが用いられるものとする。
すなわち、前記筒状弾性体1aは、前記隣り合う部材10,10(20,20)間の隙間Sに埋設されている。この時、筒状弾性体1aは、前記中空部2に充填材3が加圧充填されることによって弾性的に拡径変形し、前記隣り合う部材10,10(20,20)に密着している。
【0026】
隙間Sに埋設されて充填材3が加圧充填された筒状弾性体1aは、図3に示すように、前記部材10,10の表面形状に追従して変形した状態となっている。図4に示す部材20,20間の隙間Sに埋設される筒状弾性体1aの場合は、隣り合う部材20,20の対向する側面間に形成された隙間Sが上述のように略円孔状であるため、比較的変形量が少なくて済むようになっている。
また、筒状弾性体1aを、このように前記部材10,10の表面形状に追従して変形させた状態のまま充填材3を固化させることで、この筒状弾性体1aの形状を、固化した充填材3の形状に合わせて変形させることができ、さらに、その状態を永続的に維持させることができる。したがって、充填材3が硬化した後の筒状弾性体1aは、止水効果だけでなく、部材10,10と一体となって土留として機能することは言うまでもない。
【0027】
また、前記筒状弾性体1aの外周面に一体形成された複数の突起部4…は、図3および図4に示すように、筒状弾性体1aの拡径変形に伴って、前記隣り合う部材10,10(20,20)に押し付けられた状態となっている。このように複数の突起部4…が前記隣り合う部材10,10(20,20)に押し付けられると、接触部の接地面積を拡大できるので、水圧等に抵抗するシール効果を発揮し、止水性を向上させることが可能となる。
【0028】
次に、本実施の形態の部材間の止水方法について説明する。
まず、図3に示すような鋼管杭を部材10とする場合は、前記筒状弾性体1aの施工の前に、鋼管杭である複数の部材10…を、図示しない杭打機によって並べるようにして地盤に打設する。すなわち、鋼管杭である部材10を複数並設することによって部材列10Aを形成する。
【0029】
続いて、図示はしないが、隣り合う部材10,10間の隙間Sにケーシングパイプを挿入しながら、ボーリングマシンによって所要深さまで地盤を削孔する。
地盤を削孔したら、ケーシングパイプの内部に、充填材3を注入するための注入ホースを前記中空部2に挿入した状態の筒状弾性体1aを投入する。すなわち、前記隙間Sに筒状弾性体1aを埋設することになる。
【0030】
続いて、注入ホースによって充填材3を筒状弾性体1aの中空部2内に、地山荷重以上となるように加圧注入しながら、この注入ホースおよびケーシングパイプを引き抜いていく。これによって、ケーシングパイプによる制約が無くなるので、筒状弾性体1aは、より拡径変形しやすい状態となる。さらに、中空部2内の注入ホースが引き抜かれていくので、筒状弾性体1aの下端部から徐々に充填材3による充填状態を高めていくことができる。すなわち、前記中空部2に充填材3を加圧充填することができる。
そして、筒状弾性体1aは、図2(b)に示すように弾性的に拡径変形し、その後、図3(b)に示すように隣り合う部材10,10に密着することになる。この時、ケーシングパイプ内に、別途ホースをケーシングパイプ先端まで挿通し、モルタル等を充填して筒状弾性体1a先端の定着を図るようにしておくと良い。
【0031】
注入ホースおよびケーシングパイプを引き抜いた後は、充填口からの充填材3の漏出を防ぎながら充填材3の加圧状態を保持する。加圧状態の保持は、例えば充填口を閉塞したり、機械的に充填材に圧力を掛けたりする。
そして、加圧状態を保持したまま充填材3を固化させる。これによって、筒状弾性体1aを隣り合う部材10,10の表面形状に追従して変形させたまま、これら隣り合う部材10,10に密着させた状態を保持することができる。
【0032】
以上のようにして隣り合う部材10,10間の隙間Sを閉塞することができるので、これら隣り合う部材10,10間の止水を確実に行うことができる。しかも、隣り合う部材10,10間の隙間Sに埋設された筒状弾性体1aを、中空部2に充填材3を加圧充填するだけで隣り合う部材10,10に密着させることができるので、隣り合う部材10,10間の止水を容易に行うことができる。
【0033】
次に、図4に示すようなPC杭を部材20とする場合には、複数の部材20…を並設することによって略円孔状の隙間Sを形成できるので、隣り合う部材20,20間における地盤の削孔作業が不要となる。したがって、図3に示す場合とは異なり、ケーシングパイプやボーリングマシン等の削孔用の機械が不要となる。
【0034】
続いて、充填材3を注入するための注入ホースを前記中空部2に挿入した状態の筒状弾性体1aを、隣り合う部材20,20間の隙間Sに直接投入する。すなわち、前記隙間Sに筒状弾性体1aを埋設することになる。
【0035】
続いて、注入ホースによって充填材3を筒状弾性体1aの中空部2内に加圧注入しながら、この注入ホースを引き抜いていく。これによって、中空部2内の注入ホースが引き抜かれていくので、筒状弾性体1aの下端部から徐々に充填材3による充填状態を高めていくことができる。すなわち、前記中空部2に充填材3を加圧充填することができる。
そして、筒状弾性体1aは、図2(b)に示すように弾性的に拡径変形し、その後、図4(b)に示すように隣り合う部材20,20に密着することになる。
【0036】
注入ホースを引き抜いた後は、図3に示す場合と同様に、加圧状態を保持したままた充填材3を固化させることより、筒状弾性体1aを隣り合う部材20,20の表面形状に追従して変形させたまま、これら隣り合う部材20,20に密着させた状態を保持できる。
図4に示す場合も、図3に示す場合と同様に、隣り合う部材10,10間の止水を確実かつ容易に行うことができる。また、削孔作業が不要となる分、構造物を構築する作業全体の短縮化を図ることができる。
【0037】
本実施の形態によれば、隣り合う部材10,10(20,20)間の隙間Sが不均一となるような諸々の事象が生じていたとしても、隣り合う部材10,10(20,20)間の隙間Sに埋設された筒状弾性体1,1aを隣り合う部材10,10(20,20)に密着させることができる。これによって、構造物を構成する部材列10A,20Aの隣り合う部材10,10(20,20)間の隙間Sを、たとえ部材10(20)に変位が生じて隙間Sが変動したとしても、筒状弾性体1,1aが追従するため確実に閉塞できるので、これら隣り合う部材10,10(20,20)間の隙間Sが不均一となるような諸々の事象に関係なく確実に止水することができる。
また、従来とは異なり、充填口以外からの充填材3の漏出を防げるので、コストの低減だけでなく、止水の確実性を向上させることが可能となる。
【0038】
〔実施例〕
次に、図5を参照して、本実施の形態の部材間の止水方法の他の実施例について説明する。
本実施例の部材間の止水方法は、まず、部材10を複数並設することによって、土中または水中に部材列10Aを形成する。なお、本実施例では土中とする。
続いて、部材10,10間の隙間Sのうち、前記部材列10Aの中心線11を境にして一方側に、前記部材10の長さ方向に長尺に形成されるとともに中空部2を有する筒状弾性体1aを埋設する。
続いて、前記筒状弾性体を、前記中空部に水を加圧充填することによって弾性的に拡径変形させるとともに、前記隣り合う部材に密着させ、前記部材列の中心線の他方側の土または水を取り除き、その後、前記筒状弾性体を前記隣り合う部材に密着させた状態で、前記中空部内の水を所定の充填材に置換する、というものである。
【0039】
より詳細には、まず、上述のように部材列10Aを形成したら、隣り合う部材10,10間の隙間Sにケーシングパイプ12を挿入しながら、ボーリングマシンによって所要深さまで地盤を削孔する。なお、削孔場所は、図5(a)に示すように、部材列10Aの中心線11を境にした一方側とする。
【0040】
続いて、地盤を削孔したら、図5(a)に示すように、ケーシングパイプ12の内部に、充填材3および水3aを注入するための注入ホース(図示せず)を前記中空部2に挿入した状態の筒状弾性体1aを投入する。すなわち、前記隙間Sに筒状弾性体1aを埋設することになる。
【0041】
続いて、注入ホースによって水3aを筒状弾性体1aの中空部2内に、地下水圧以上の圧力となるように、かつ隣り合う部材10,10に密接するように加圧注入しながら、ケーシングパイプ12を引き抜いていく。
そして、筒状弾性体1aは、図5(b)に示すように弾性的に拡径変形し、隣り合う部材10,10に密着することになる。
なお、拡径変形した後の筒状弾性体1aの直径または軸方向と直交する方向の長さは、隣り合う部材10,10間の隙間Sの長さよりも長くなるように設定されている。
【0042】
ケーシングパイプ12を引き抜き、水3aが充填された筒状弾性体1aを隣り合う部材10,10に密着させた後は、充填口からの水3aの漏出を防ぎながら水3aの加圧状態を保持する。加圧状態の保持は、例えば充填口を閉塞したり、圧力設定弁を充填口に設けて機械的に充填材に圧力を掛けたりする。
なお、本実施例では圧力設定弁が用いられている。
【0043】
続いて、図5(c)に示すように、部材列10Aの中心線11を境にした他方側の地盤を掘削して取り除く。
このように筒状弾性体1aよりも、中心線11の他方側(掘削側)の土が取り除かれると、筒状弾性体1aにかかる土水圧(地山荷重)が中心線11の一方側からだけになるので、筒状弾性体1aは、中心線11の一方側から他方側へと押され、前記隣り合う部材10,10に対して、より強く密着することになる。
【0044】
続いて、図5(d)に示すように、前記筒状弾性体1aを、このように隣り合う部材10,10に強く密着させた状態で、前記中空部2内の水3aを充填材3に置換する。
水3aを充填材3に置換する際は、前記圧力設定弁を用いて筒状弾性体1aの内圧を確保した状態で行うものとする。
そして、加圧状態を保持したままた充填材3を固化させる。これによって、筒状弾性体1aを隣り合う部材10,10の表面形状に追従して変形させたまま、これら隣り合う部材10,10に密着させた状態を保持することができる。
なお、置換する充填材3は、上述のようにモルタル等の硬化体が用いられているが、これに限られるものではなく、固化した後も弾性を発揮する弾性材料や、高圧液体を用いてもよいものとする。
【0045】
本実施例によれば、以上のようにして隣り合う部材10,10間の隙間Sを閉塞することができるので、これら隣り合う部材10,10間の止水を確実に行うことができる。しかも、隣り合う部材10,10間の隙間Sに埋設された筒状弾性体1aを、中空部2に充填材3を加圧充填するだけで隣り合う部材10,10に密着させることができるので、隣り合う部材10,10間の止水を容易に行うことができる。
また、筒状弾性体1aを、中空部2に水を加圧充填することによって弾性的に拡径変形させるとともに、隣り合う部材10,10に密着させ、前記部材列10Aの掘削側の土を取り除くことで、中心線11の一方側からの土圧を利用し、前記筒状弾性体1aを、掘削側へと押すことができる。これにより、筒状弾性体1aと隣り合う部材10,10との密着性を向上できるとともに、筒状弾性体1aと部材10との間の土砂などの噛み込みを低減できる。
また、掘削側の土の掘削を、前記中空部2内の水3aを充填材3に置換する前に行うことにより、掘削側の筒状弾性体1aの拡径変形を阻害するような礫等の要因を排除できるので、筒状弾性体1aを確実に拡径変形させることができる。
さらに、掘削側の土を掘削して筒状弾性体1aを隣り合う部材10,10に強く密着させた後に、前記中空部2内の水3aを充填材3に置換するため、筒状弾性体1aは充填材3への置換前に十分に拡径変形した状態となっている。したがって、充填材3の置換後に、筒状弾性体1aが隣り合う部材10,10間から、中心線11の一方側から他方側に向かって抜け出すことを確実に防ぐことができる。
なお、モルタル等の硬化体を充填材3とせずに、例えば弾性材料や高圧液体とした場合には弾力性を発揮することができるので、地震等による部材10の変形への追随性を得ることができる。
【0046】
<第2の実施の形態>
次に、図面を参照して本発明の第2の実施の形態について説明する。なお、説明の便宜上、上述した第1の実施の形態とは異なる構成部分のみについて説明する。
【0047】
本実施の形態の部材間の止水構造は、図6および図7に示すように、部材列10Aのうち隣り合う部材10,10間の隙間Sに、前記部材10の長さ方向に長尺に形成された止水材が埋設されてなる。
前記止水材は、杭体30と、前記杭体30の外周面のうち、前記隣り合う部材10,10の一方および他方に当接する位置に保持されるとともに中空部32を有する筒状弾性体31,31と、を備えており、前記筒状弾性体31,31は、前記中空部32に充填材33が加圧充填されることによって弾性的に拡径変形し、前記隣り合う部材10,10の一方および他方に密着している。
つまり、本実施の形態の止水材は、鋼管杭やコンクリート系杭材等の部材を複数並設することによって形成された部材列のうち、隣り合う部材間の隙間に埋設されるものであり、前記部材の長さ方向に長尺に形成されるとともに中空部を有し、この中空部に充填材が加圧充填されることによって弾性的に拡径変形し、前記部材に密着する弾性体を備える点で、第1の実施の形態の筒状弾性体1,1aと共通している。
【0048】
まず、前記杭体30は、地盤に対して直接回転圧入される鋼管であり、図6(a)に示すように、外周面には、該杭体30の軸方向に沿って、前記筒状弾性体31,31を保持するための凹溝部30a,30aが形成されている。したがって、この杭体30の断面は、凹溝部30aの形状に対応して凹んだ形状となっている。また、凹溝部30a,30aは、前記杭体30の外周面に、前記隣り合う部材10,10がある向きに対応して形成されている。
なお、前記凹溝部30aは、杭体30の全長にわたって形成されていてもよいし、前記部材10,10に当接する部分にのみ形成されていてもよい。また、この凹溝部30aは、断面視において円弧状に形成されている。
また、図示はしないが、杭体30の圧入方向先端には、杭体30の地盤への回転圧入を可能とする切削刃等が設けられているものとする。
【0049】
なお、杭体30の直径は、前記隙間Sの長さよりも長くなるように設定されている。さらに、この杭体30は鋼管であるため、前記筒状弾性体31,31に充填材33が充填されているか否かに関わらず、杭体30が、隣り合う部材10,10の隙間Sから抜け出すことを確実に防ぐことができる。
また、この杭体30は鋼管であるため、高い強度の止水材を構成できることとなる。このため、上述のように隙間Sから抜け出すことを防いだり、地盤に対して直接回転圧入したりすることができる。
【0050】
また、前記筒状弾性体31はゴム等の弾性材料からなり、前記部材10の長さ方向に長尺に形成されるとともに前記中空部32を有する。すなわち、筒状弾性体31は弾性材料からなる長尺材であり、自身の長さ方向に沿って中空部32が形成されている。また、この筒状弾性体31は、図6(a)に示すように、2つの円弧状の弾性材料の端部同士を接合させたような断面略両凸レンズ形状に形成されている。
さらに、この筒状弾性体31は、前記凹溝部30aに、杭体側面が前記凹溝部30aに当接固定され、杭体側面とは反対の外側面が、前記杭体30の外周面と連続するようにして収納保持されている。
そして、このように筒状弾性体31が、充填材33の充填前の状態で、前記凹溝部30aに収納保持されていることにより、杭体30の回転圧入が可能となっている。
【0051】
前記中空部32には、図6(b)に示すように、充填材33が地山荷重以上となるように加圧充填される。そして、筒状弾性体31は、このように充填材33が加圧充填されることによって弾性的に拡径変形するように構成されている。
これによって、隣り合う部材10,10間の隙間Sに埋設される筒状弾性体31は、これら隣り合う部材10,10に密接することになる。また、これら筒状弾性体31は、自身の長さ方向に亘って均等に拡径するように設定されている。
【0052】
また、図示はしないが、筒状弾性体31には充填材33を充填するための充填口が設けられており、充填口以外は閉塞されている。
また、中空部32に充填される前記充填材33としては、固化した後も弾性を発揮する樹脂等の弾性材料が用いられており、筒状弾性体31と共に部材10に対する追随性を発揮することができる。ただし、これに限られるものではなく、モルタル等の硬化体や、高圧液体を用いてもよいものとする。
【0053】
本実施の形態の部材としては、第1の実施の形態と同様に、鋼管杭10が用いられているが、前記コンクリート系杭材20等でも良く、これに限られるものではない。
また、前記部材10を複数並設することによって形成される壁状の部材列10Aは、例えば土留め壁や護岸、建築物の基礎等として利用される。
【0054】
次に、図6,図7を参照して、本実施の形態の部材間の止水方法について説明する。
本実施の形態の部材間の止水方法は、まず、部材10を複数並設することによって部材列10Aを形成する。
続いて、隣り合う部材10,10間の隙間Sに、前記部材10の長さ方向に長尺に形成されており、杭体30と、この杭体30の外周面のうち、前記隣り合う部材10,10の一方および他方に当接する位置に保持されるとともに中空部32を有する筒状弾性体31,31と、を備える止水材を埋設する。
続いて、前記筒状弾性体31,31を、前記中空部32,32に充填材33,33を加圧充填することによって弾性的に拡径変形させるとともに、前記隣り合う部材10,10の一方および他方に密着させ、さらに、前記充填材33,33を加圧保持する、というものである。
【0055】
より詳細には、まず、上述のように部材列10Aを形成したら、図7(a)に示すように、隣り合う部材10,10間の隙間Sの地盤に、杭圧入機によって前記止水材を回転圧入する。
なお、前記止水材を所定深さまで圧入でき、回転圧入作業を終了する際には、前記筒状弾性体31,31が、前記隣り合う部材10,10を向く位置で回転圧入を止めるようにする。
【0056】
続いて、前記筒状弾性体31,31の中空部32,32に充填材33,33を注入するための注入ホース(図示せず)を挿入する。そして、充填材33,33を、中空部32,32内に、地下水圧以上の圧力となるように、かつ隣り合う部材10,10に密接するように加圧注入する。
そして、筒状弾性体31,31は、図7(b)に示すように弾性的に拡径変形し、隣り合う部材10,10に密着することになる。
【0057】
注入ホースを引き抜いた後は、充填口からの充填材33,33の漏出を防ぎながら充填材33,33の加圧状態を保持する。加圧状態の保持は、例えば充填口を閉塞したり、機械的に充填材に圧力を掛けたりする。
そして、加圧状態を保持したままた弾性材料である充填材33,33を硬化させる。これによって、筒状弾性体31,31を隣り合う部材10,10の表面形状に追従して変形させたまま、これら隣り合う部材10,10に密着させた状態を保持することができる。
【0058】
本実施の形態によれば、前記止水材によって、以上のようにして隣り合う部材10,10間の隙間Sを閉塞することができるので、これら隣り合う部材10,10間の止水を確実に行うことができる。しかも、隣り合う部材10,10間の隙間Sに埋設された筒状弾性体31,31を、中空部32,32に充填材33,33を加圧充填するだけで隣り合う部材10,10に密着させることができるので、隣り合う部材10,10間の止水を容易に行うことができる。
また、前記杭体30は鋼管であり、直接回転圧入できるので、例えば予め地盤に穴を開けて止水材を挿入する場合に比して、止水材を効率的に埋設することができる。
また、前記充填材33,33として弾性材料を用いることにより、長期間安定した止水性能を発揮することができるので、本設工事による長期止水が可能となる。つまり、止水材を、部材列10Aを、例えば建築物の基礎等のような、いわゆる定着物として利用する際の止水に用いることができる。
さらに、充填材33,33は注入、排出を繰り返すことで際使用することができる。このため、杭体30も筒状弾性体31も充填材33も使い回しができるので、コスト削減につながるとともに、仮設工事による一時止水も可能となる。つまり、止水材を、部材列10Aを一時的な土留め等として利用する際の止水に用いることができる。
【符号の説明】
【0059】
1 筒状弾性体
1a 筒状弾性体
2 中空部
3 充填材
4 突起部
10A 部材列
10 部材
20A 部材列
20 部材
21 鋼管
22 溝部
S 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管杭やコンクリート系杭材等の部材を複数並設することによって部材列が形成されており、
部材間の隙間には、前記部材の長さ方向に長尺に形成されるとともに中空部を有する筒状弾性体が埋設されており、
前記筒状弾性体は、前記中空部に充填材が加圧充填されることによって弾性的に拡径変形し、前記隣り合う部材に密着していることを特徴とする部材間の止水構造。
【請求項2】
前記筒状弾性体の長さ方向両端部のうち一端部は開放されて前記充填材の充填口とされており、他端部は閉塞されていることを特徴とする請求項1に記載の部材間の止水構造。
【請求項3】
前記筒状弾性体の外周面のうち、少なくとも前記隣り合う部材に接触する面には、複数の突起部が互いに間隔をあけて一体形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の部材間の止水構造。
【請求項4】
鋼管杭やコンクリート系杭材等の部材を複数並設することによって部材列が形成されており、
隣り合う部材間の隙間には、前記部材の長さ方向に長尺に形成された止水材が埋設されており、
前記止水材は、杭体と、
前記杭体の外周面のうち、前記隣り合う部材の一方および他方に当接する位置に保持されるとともに中空部を有する筒状弾性体と、を備えており、
前記筒状弾性体は、前記中空部に充填材が加圧充填されることによって弾性的に拡径変形し、前記隣り合う部材の一方および他方に密着していることを特徴とする部材間の止水構造。
【請求項5】
前記杭体の外周面には、該杭体の軸方向に沿って、前記筒状弾性体を保持するための凹溝部が形成されていることを特徴とする請求項4に記載の部材間の止水構造。
【請求項6】
鋼管杭やコンクリート系杭材等の部材を複数並設することによって部材列を形成し、
部材間の隙間に、前記部材の長さ方向に長尺に形成されるとともに中空部を有する筒状弾性体を埋設し、
前記筒状弾性体を、前記中空部に充填材を加圧充填することによって弾性的に拡径変形させるとともに、前記隣り合う部材に密着させ、さらに、前記充填材を加圧保持して固化させることを特徴とする部材間の止水方法。
【請求項7】
鋼管杭やコンクリート系杭材等の部材を複数並設することによって、土中または水中に部材列を形成し、
部材間の隙間のうち、前記部材列の中心線を境にして一方側に、前記部材の長さ方向に長尺に形成されるとともに中空部を有する筒状弾性体を埋設し、
前記筒状弾性体を、前記中空部に水を加圧充填することによって弾性的に拡径変形させるとともに、前記隣り合う部材に密着させ、
前記部材列の中心線の他方側の土または水を取り除き、
その後、前記筒状弾性体を前記隣り合う部材に密着させた状態で、前記中空部内の水を所定の充填材に置換することを特徴とする部材間の止水方法。
【請求項8】
鋼管杭やコンクリート系杭材等の部材を複数並設することによって部材列を形成し、
隣り合う部材間の隙間に、前記部材の長さ方向に長尺に形成されており、杭体と、この杭体の外周面のうち、前記隣り合う部材の一方および他方に当接する位置に保持されるとともに中空部を有する筒状弾性体と、を備える止水材を埋設し、
前記筒状弾性体を、前記中空部に充填材を加圧充填することによって弾性的に拡径変形させるとともに、前記隣り合う部材の一方および他方に密着させ、さらに、前記充填材を加圧保持することを特徴とする部材間の止水方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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