説明

配位子

式(I)の置換パラシクロファン(式中、X及びXは2乃至4の炭素原子を含む連結基であり、Y及びYは水素、ハライド、酸素、窒素、アルキル、シクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールからなる群から選択され、Z、Z及びZは官能基を含んでいてもよい置換基であり、a、b、c、d、e及びfは0または1でありそしてa+b+c+d+e+f=1乃至6である)について記述する。好ましくは、X及びXが−(C)−であり、a+b+c+d+e+f=1または2、である。この置換パラシクロファンは不斉反応に対する高い活性及び選択性を示す遷移金属触媒を提供する。


【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は遷移金属に触媒される不斉反応に使用される配位子に関し、そして、具体的にはパラシクロファン、より具体的には置換パラシクロファン、に関する。
パラシクロファン及び具体的には[2.2]−パラシクロファン誘導体は遷移金属に触媒される不斉反応のための配位子として確立されている(例えば、S.E.Gibson and J.D.Knight,Org.Biomol.Chem.,2003,1,1256−1269参照)。これらの中で、パラシクロファンビス(ホスフィン)がかなりの注目を集めている。というのは、それらから誘導される触媒が、多くの有用な不斉変換において高いレベルの活性及び選択性を示すからである。
【0002】
例えば、WO97/47632はパラシクロファンビス(ホスフィン)配位子、並びに、不斉水素化、異性化、ヒドロホウ素化、環化、アリール化、アルキル化及びアミノ化反応のためのそれらの配位子から誘導されるロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)またはパラジウム(Pd)触媒を開示している。そこに記載されている配位子は以下に示す構造を有している:
【0003】
【化1】

【0004】
式中、両方のX基は同一であり、これらの配位子はC対称性を有する、すなわちそれらはキラルでありC対称軸を有している。例えば、PHANEPHOSとして知られているX=−(CHCH)−のC対称[2.2]配位子は、Ru−ジアミン錯体の部分を構成した場合、ケトンの不斉水素化に使用することができる(WO01/74829参照)。
【0005】
WO02/057278はパラシクロファンビス(ホスフィン)に構造的に関連したパラシクロファン配位子を開示しており、そこでは[2.2]パラシクロファン構造において、リンに結合したフェニル基が酸素、窒素、塩素または水素原子で置き換わっている。これらの配位子を以下に示す:
【0006】
【化2】

【0007】
これらから誘導されるRh、Ir及びRu触媒が不斉水素化反応に使用された。
上記のパラシクロファン配位子は多くの不斉変換に対して効果的であるが、それらから誘導される触媒の、より広い反応及び基質に対する活性及び選択性の改良に対する必要が依然として存在する。さらに、パラシクロファン配位子を不斉変換用の触媒を調製するための高い鏡像体純度で供給するには、一般に、長くそして高価な分割技術を必要とする。
【0008】
また、さらに、上記の配位子から誘導される触媒は、均一系触媒として使用された場合、これらの反応において許容範囲の活性及び選択性を与えるには効果的であるが、それらは固相支持体への固定化には特に適しているわけではない。均一系触媒の固相支持体への固定は、不均一系触媒の利点を均一系触媒に拡張する可能性を提供する。その利点は、短時間の後処理及びプロセス効率の改良につながる触媒と反応生成物のより容易な分離、高価な金属及び複雑な配位子幾何構造に基づく固定された触媒の再活性化及び再使用の可能性、及び固定化された触媒の連続フロー固定床操作への適用の可能性、を含む。
【0009】
発明者らは、パラシクロファン構造のベンゼン環の一つまたは両方に置換基を導入することによって配位子の電子的及び/または立体的性質を変化させることができるということを見つけた。さらに、パラシクロファンのキラル分割を容易にするためにその置換基を使用でき、そして所望であれば、固相支持体材料との反応に適した官能基を与えるためにその置換基を使用することができる。
【0010】
したがって、本発明は式(I)の置換パラシクロファンを提供する。
【0011】
【化3】

【0012】
式中、X及びXは2乃至4の炭素原子を含む連結基であり;Y及びYは水素、ハライド、酸素、窒素、アルキル、シクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールからなる群から選択され;Z、Z及びZは官能基を含んでいてもよい置換基であり;a、b、c、d、e及びfは0または1でありそしてa+b+c+d+e+f=1乃至6である。
【0013】
連結基X及びXはパラシクロファン構造のベンゼン環の連結を提供し、2乃至4の炭素原子を含む。X及びXは線状(linear)、分岐または環構造であってよく、そしてその連結は2、3または4の炭素原子で形成される。その連結は、炭素原子に加えて、O、N及びS等のヘテロ原子を含むことができ(そこで、次には、そのNはCH、C、C若しくはC等のアルキル基またはアリール基に結合することができ、そしてそのSはアルキル基またはアリール基に結合することができるか、またはSOまたはSOの部分である)、及び/または連結基の炭素原子はハライド(例えば一つ以上のフッ素原子)で置換されていてもよい。それゆえ、連結基X及びXは、それぞれ、例えば、−(CH2−4−、−CHOCH−、−CHN(CH)CH−、−CHSOCH−、−C−、またはオルト、メタ若しくはパラ−C−であることができる。連結基のそのような修飾は、置換パラシクロファンを異なった反応条件(例えば溶媒)に適用するにおいて有用であろう。好ましくは、連結基は−(C)−、−(C)−または−(C)−を含む。より好ましくはX及びXは同一であって、そして最も好ましくはX及びXは共に−(C)−である。
【0014】
一つの実施態様において、パラシクロファンはビス(ホスフィン)であって、そこでY及びYは、独立に、水素、ハライド(Cl、Br、FまたはI)、または直鎖または分岐鎖の(例えばC1−C20)アルキル基(メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ドデシル及びステアリル等)、(例えばC3−C10)シクロアルキル基(シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルまたはアダマンチル等)またはアリール基(フェニル、ナフチルまたはアントラシル等)であることができる。アルキル基は、ハライド(Cl、Br、FまたはI)またはアルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基またはプロポキシ基)等の置換基で一つ以上置換されていてもよい。アリール基は、ハライド(Cl、Br、FまたはI)、メチル基、トリフルオロメチル基またはメトキシ基等の置換基で一つ以上置換されていてもよい。適した置換アリール基は4−メチルフェニル、3,5−ジメチルフェニル、4−メトキシフェニル及び4−メトキシ−3,5−ジメチルフェニルを含む。ピリジル等の置換または非置換のヘテロアリール基を使用することもできる。他の実施態様において、各リン原子上のY及びYは、そのリン原子を含んで環構造を形成するように連結されていてもよい。そのような実施態様において、好ましくはY及びYは、各リン原子で4乃至7員環を与えるように連結されている。さらなる実施態様において、パラシクロファンはホスホナイト(そこでY及びYは酸素原子である)、ホスホラスアミド(そこでY及びYは窒素原子である)またはホスホンアミダイト(phosphonamidite、そこでYは酸素原子であり、Yは窒素原子である)であってもよい。好ましくは、Y及びYは同一で、そしてフェニル基または置換フェニル基である。
【0015】
それらの数及び位置に依存して、置換基Z、Z及びZはパラシクロファン(I)の一方または双方のベンゼン環の水素原子を置換する。Z、ZまたはZは、独立して、非官能性基を含む置換基であり、例えば、分岐または線状アルキル(例えば、Y及びYについて上述したような、C1−C30、好ましくはC1−C20、より好ましくはC1−C10)、アリール(例えば、フェニル、ナフチルまたはアントラシル)、またはアラルキルまたはアルカリール(例えば、ベンジル、−CH)である。そのような置換基は、例えばパラシクロファンが遷移金属触媒錯体の部分として使用される場合、パラシクロファンの物理的、電子的及び/または立体的性質を変化させるのに有効であろう。追加的にまたは代わりとして、Z、ZまたはZは一つ以上の官能基を含んでいる置換基であってもよく、そしてそれらの官能基は、所望であれば、配位子の電子的性質を変化させるため、パラシクロファン配位子またはその中間体のキラル分割を容易にするため、及び/またはパラシクロファン配位子(またはその中間体)及びそれから誘導される触媒を適当な反応性の固相支持体に共有結合させるため、に使用することができる。そのため、置換基Z、Z及びZは、一つ以上の官能基を含むことができる。適した官能基は、ハライド(Cl、Br、FまたはI)、ヒドロキシル、アルコキシ(すなわち−OR、ここでR=C1−C30アルキル)、カルボニル、カルボキシル、無水物、メタクリル、エポキシド、ビニル、ニトリル、ニトロ、スルフェート、スルホニル、メルカプト、スルフィドアミノ、アミン、イミン、アミド及びイミドを含む。これらの官能基は、適切な場合には、パラシクロファン配位子のベンゼン環に直接結合することができ、または、ベンゼン環に結合したアルキル(例えば、Y及びYについて上述したようなC1−C30)、アリールまたはアルキル−アリール基上に存在することができる。さらに、パラシクロファン構造の一方のベンゼン環上のZ、ZまたはZは、他方のベンゼン環上のZ、ZまたはZと同一であっても異なっていてもよい。すなわち、(Z、(Z及び(Zは(Z、(Z及び(Zと同一であっても異なっていてもよい。
【0016】
特に好ましい置換基は、−CH(Me)、−C(CH(tBu)、−CH(CH(iPr)等のアルキル基;−C(Ph)等のアリール基;例えば式−C(式中、xは1乃至10、好ましくは1乃至3;yは2xより小さく0を含む;そしてz=1乃至2x+1)のフルオロアルキル基;ビニル基−CH=CH;ヨージド−I;ニトレート−NO;イミノ、例えば−N=CPh;アルコキシメチレンまたはアルコキシ基R’OCH−またはR’O−(例えば、R’はH、C1−C30アルキル、アリール、アルカリールまたはシリルであり、特にはCHPh、CH、tBu、iPr、Si(tBu)MeまたはSi(iPr));カルボニルXC(O)−(例えば、XはH、ハライド(特にはCl)、C1−C30アルキル(好ましくはC1−C10));カルボキシルR”OC−(例えば、R”はH、C1−C30アルキル、アリールまたはアルカリール(CH、Ph−CH、tBu、iPr等で好ましくはH));及びアミノR’R”N−、R’R”NCH−またはR’R”NCO−(例えば、R’及び/またはR”はH、アルキルまたはアルカリール(CH、ChPh等))である。
【0017】
パラシクロファン構造の各ベンゼン環上の置換基は、P(Y)基に対してオルト(Z)位、メタ(Z)位及び/またはパラ(Z)位であってよい。置換基がベンゼン環のパラ位にある場合、その置換基がP(Y)基への電子的影響を増すことがあり、そして適切なZ置換基の選択によって、触媒の部分となった場合に異なった反応及び基質に対する配位子の効果を増すための配位子の電子的微調整を可能にすることができる。Zまたは、特にオルト位のZ置換基の注意深い選択によって、触媒活性に変化をもたらすように配位子の立体的性質を変化させることができる。置換基はまた、パラシクロファンの物理的性質(例えば、空気中でのまたは水に対する安定性、または異なった溶媒への溶解度)を変化させるために使用することができる。好ましくは、パラシクロファンの各ベンゼン環の置換基はP(Y)基に対してパラ(Z)位である。
【0018】
少なくとも一つから、最大で六つまでの置換基が本発明の置換パラシクロファン(I)に存在することができる。パラシクロファン構造の各ベンゼン環は三つの置換基を持つことができるが、好ましくは、各ベンゼン環はa+b+c+d+e+f=1乃至4になるように、特に好ましくはa+b+c+d+e+f=1または2になるように、一つまたは二つの置換基を含むことができる。最も好ましくは、各ベンゼン環が置換基を一つだけ持つ、すなわちa+b+c=1及び/またはd+e+f=1であり、特にはa及び/またはdが1である。
【0019】
触媒の調製用の配位子としての使用に適している、本発明のパラシクロファンは以下を含む、がそれらに限定はされない:
【0020】
【化4】

【0021】
本発明のパラシクロファンを製造するための方法は、適切なパラシクロファン中間体に対する求電子置換反応(フリーデル−クラフツアルキル化及びアシル化反応を含む)、求核置換反応及びメタル化−置換反応を含む。また、置換シクロファンは、適切に置換及び官能基化されたベンゼン環ユニットの、例えば熱的または光化学的手段による、カップリングまたは二量化によって構築することもできる。好ましくは、本発明の置換パラシクロファンは、適切なパラシクロファン中間体の置換反応によって製造される。特に、置換擬(pseudo)−オルトジブロモ−パラシクロファンが、本発明の置換パラシクロファンの合成に対する非常に有用な出発点を提供するということを、発明者らは見つけた。
【0022】
したがって、本発明はさらに、式(I)の置換パラシクロフェンの製造のための方法を提供する。その方法は:
【0023】
【化5】

【0024】
(a)擬−オルトジブロモパラシクロファンの置換反応を行って式(II)の置換擬−オルトジブロモパラシクロファン中間体を形成すること、及び、
【0025】
【化6】

【0026】
(b)その置換擬−オルトジブロモパラシクロファンをP(Y)を有するリン化合物と反応させること、による。式中、X及びXは2乃至4の炭素原子を含む連結基であり;Y及びYは水素、ハライド、酸素、窒素、アルキル、シクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールからなる群から選択され;Z、Z及びZは官能基を含んでいてもよい置換基であり、そして、a、b、c、d、e及びfは0または1でありそしてa+b+c+d+e+f=1乃至6である。
【0027】
置換ジブロモパラシクロファン(II)の合成のための擬−オルトジブロモパラシクロファンは既知の方法によって製造することができる。典型的には、適当な溶媒中、鉄の存在下でパラシクロファンを臭素と反応させることができる(D.J.Cram et al,J.Am.Chem.Soc.,1969,91,(13),3527参照)。特に、市販の[2.2]パラシクロファンについて、上述のWO97/47632の31頁及び32頁の実施例1及び実施例2に記載の方法に従って、擬−オルトジブロモ[2.2]パラシクロファンの合成を行うことができる。
【0028】
本発明の置換パラシクロファンの製造のためには、求電子置換反応が好ましい。特に、擬−オルトジブロモパラシクロファン、特には擬−オルトジブロモ[2.2]パラシクロファン、のルイス酸媒介の求電子置換が、驚くべきことに、高い収率及び選択性で実質的にモノ−パラ−置換反応生成物だけを与えるように進行することを見つけた。モノ−置換生成物のみを形成するので、この方法は非常に効率的であり、そして、所望の置換パラシクロファン生成物を得るために複雑で高価な分離技術を使用しなければならないという可能性を克服する。
【0029】
例えば、擬−オルトジブロモ[2.2]パラシクロファンのアセチル化は、ジクロロメタン(DCM)中、三塩化アルミニウム(AlCl)及びアセチルクロリド(CHCOCl)の存在下で容易に進行し、そして、驚くべきことに、パラ位に独占的にケトン基を有するモノ−置換アセチル化生成物を与える。過剰のルイス酸存在下でも、ジアセチル化生成物は得られなかった。この反応を以下に示す:
【0030】
【化7】

【0031】
オキサリルクロリド及びAlClの存在下で、擬−オルトジブロモ[2.2]パラシクロファンモノ−酸クロリドを高い収率で得ることができる。これは水で加水分解でき、またはメタノールでのクエンチ(quenched)によってメチルエステルを与える。これらの反応を以下に示す:
【0032】
【化8】

【0033】
標準的なニトロ化条件(濃HNO/無水酢酸)では、モノ−及びジ−置換擬−オルトジブロモ[2.2]パラシクロファン化合物が得られ、また、出発物質のある程度の分解も起こるであろう。しかしながら、好ましいルイス酸ニトロ化条件(Sc(OTf))では、擬−オルトジブロモ[2.2]パラシクロファンモノ−ニトロ化合物が高い収率で得られ、また、ジ−置換生成物は検出されなかった。これらの反応を以下に示す:
【0034】
【化9】

【0035】
オルト−置換はオルト−リチオ化法を用いて行うことができる。そこでは、4−N,N−ジエチルアミド[2.2]パラシクロファン等のオルト−指向性(ortho−directing)基で置換されたパラシクロファンが、ジエチルエーテル及びTMEDA中でt−ブチルリチウム等の適切なアルキルリチウム化合物を用いてリチオ化され、そしてそのリチオ化されたパラシクロファンが適切な求電子剤と処理される(Pelter et al,Tetrahedron Lett.,2001,8391−4参照)。
【0036】
所望であれば、置換擬−オルトジブロモパラシクロファン(II)上の官能基を、目的のホスフィン、ホスホナイト、ホスホラス−アミドまたはホスホンアミダイトを含んだ式(I)のパラシクロファンに変換される前に、化学的に変換することができる。例えば、置換基がニトロ基(−NO)の場合、触媒的水素化等の既知の方法を用いてアミノ基(−NH)に還元することができる。一方、例えば、スキーム2に示したメチルエステル化合物をLiAlHを使用した対応するベンジルアルコールへの還元によってヒドロキシル官能基を導入することができる。そして、ベンジルアルコール−置換擬−オルトジブロモパラシクロファンの対応するホスフィン、ホスホナイトまたはホスホンアミダイトへの変換の前に、ヒドロキシル基を別の置換基(トリチル基またはトリイソプロポキシシリル基等)に変換することができる。トリチル−変換反応を以下に示す。
【0037】
【化10】

【0038】
必要であれば、トリチル−官能基化置換パラシクロファンを適当な酸で処理することによって、トリチル基からヒドロキシル官能基を再生することができる。同様に、トリイソプロピルシリル基はテトラブチルアンモニウムフルオリド(TBAF)を用いて除去することができる。
【0039】
置換擬−オルトジブロモパラシクロファン(II)を合成すると、本発明の方法の次の段階は、置換擬−オルトジブロモパラシクロファン(II)をP(Y)を有するリン化合物と反応することによる擬−オルトブロミド基の目的のホスフィン、ホスホナイト、ホスホラスアミドまたはホスホンアミダイトへの変換である。この反応は、多くの既知の方法にしたがって行うことができる。例えば、ジフェニルホスフィノ基によるBr原子の直接的置換は、DMF中100℃で、NiCldppe及びトリエチレンジアミンの存在下、置換擬−オルトジブロモパラシクロファン(II)をジフェニルホスフィン(PhPH)と反応させることによって達成することができ、または、THF中室温で、リチオ化されたジフェニルホスフィン(PhPLi)及びNiCldppeを使用することによって達成することができる。一方、BuLiによる低温でのリチオ化及びMgBrを用いたトランスメタル化は活性化グリニャール試薬を生成し、そしてそれはより安定なホスホリルオキシド(PhP(O)Cl)と反応することができる。そのグリニャール試薬は、置換擬−オルトジブロミド(II)とMgとの反応によって直接形成することもできる。得られるビス(ホスフィンオキシド)パラシクロファンは適当な還元剤(HSiClまたはLiAlH等)によって目的のビスホスフィンに還元することができる。
【0040】
好ましくは、置換パラシクロファンビス(ホスフィン)は、式(II)の置換擬−オルトジブロモパラシクロファンをアルキルリチウム試薬(tert−ブチルリチウム(tBuLi)等)で処理し、得られたアニオンをアリール−またはアルキル−ホスフィニルクロリド(ジフェニルホスフィニルクロリド(PhPCl)等)でクエンチして目的の置換パラシクロファンビス(ホスフィン)を生成することによって製造することができる。他のアリール及びアルキルホスフィンについて、同様の方法を使用することができる。スキーム4のトリチル−保護擬−オルトジブロモ[2.2]パラシクロファンを使用して、この反応を以下に示す:
【0041】
【化11】

【0042】
一方、より空気及び湿気に安定な対応するホスフィンオキシドはPhPOClを用いて製造することができ、そしてそのホスフィンオキシドはHSiCl等を用いて還元することができる。
【0043】
式(II)の置換擬−オルトジブロモパラシクロファンからホスホナイト、ホスホラスアミド及びホスホンアミダイトを製造するための適当な方法はA.Zanotti−Gerosa et al,Org.lett.,2001,3687に見ることができる。
【0044】
ホスフィンの場合と同様に、強力な有機金属塩基によるジブロミドの直接メタル化及び適切なクロロ−ホスホナイトとの反応によって、置換擬−オルトジブロモパラシクロファンを対応する置換パラシクロファンビス(ホスホナイト)に変換することができる。好ましくは、置換パラシクロファンビス(ジクロロホスフィン)または置換パラシクロファンホスホラス−ジアミドとアルコール、ジオールまたは金属ジオレート(diolate)との処理によって、置換パラシクロファンビス(ホスホナイト)を合成することができる。置換パラシクロファンビス(ジクロロホスフィン)自体はパラシクロファンホスホラスジアミドを経て得ることができ、そしてパラシクロファンホスホラスジアミドは、強力な有機金属塩基によるパラシクロファンジブロミドの直接メタル化及びクロロ−ホスホラス−ジアミド(Cl−P(NCHまたはClP(iso−C等)との反応によって製造することができる。得られたパラシクロファンホスホラス−ジアミドはHCl溶液との処理によってパラシクロファンビス(ジクロロホスフィン)に変換することができる。置換[2.2]パラシクロファンについて、これらの反応を以下に示す:
【0045】
【化12】

【0046】
上述の反応手順において、望まない副反応を抑えるために、適切な場合には置換基を、例えば既知の方法を用いたアルコキシ基等によって、保護することができる。
本発明の置換パラシクロファンはキラルであり、二つのエナンチオマー形、すなわち(R)−または(S)−立体配置の一つを採ることができる。また、パラシクロファンはエナンチオマーのラセミ混合物を含むことができる。一方、そして好ましくは、置換パラシクロファンは実質的にエナンチオマー的に純粋なエナンチオマー(すなわちエナンチオマー過剰>75%、好ましくは>95%)を含む。実質的に純粋なエナンチオマーを得るために、実質的にエナンチオマー的に純粋な擬−オルトジブロモパラシクロファンの出発原料から、置換パラシクロファンを製造することができる。例えば、擬−オルトジブロモパラシクロファンのラセミ混合物の分割は、結晶性セルローストリアセテート等のキラルな固定相上で溶離液としてエタノールを使用して行うことができ、またはキラルなHPLCカラム上で行うことができる。または、合成過程のより後の段階でキラル分割を行うことができる。例えば、置換パラシクロファンビス(ホスフィン)、ホスフィンオキシド、ホスホナイト、ホスホラスアミドまたはホスホンアミダイト(I)について、既存の結晶化技術またはキラルクロマトグラフィーカラム上での分離を利用して、分割を行うことができる。例えば、置換パラシクロファンホスフィンオキシドを、包接錯体を形成する酒石酸ベンゾイル等のキラル基質と処理することによって分割を行うことができる。そして分割したホスフィンオキシドをHSiCl等を用いて還元する。しかしながら、これらの方法は、高価で時間がかかるという不利がある。
【0047】
有利なことには、本発明では、必要であれば、パラシクロファンのキラル分割を、その置換基自体を利用して行うことができる。この分割は、好ましくは、置換基上に適切な官能基を持つ置換擬−オルトジブロモパラシクロファンを用いて行うことができる。
【0048】
したがって、本発明は、さらに、式(III)の置換擬−オルトジブロモパラシクロファンを提供する:
【0049】
【化13】

【0050】
式中、X及びXは2乃至4の炭素原子を含む連結基であり、Z、Z及びZは置換基であって、その少なくとも一つはヒドロキシル、アルコキシ、カルボキシル、無水物、メタクリル、エポキシド、ビニル、ニトリル、ニトロ、スルフェート、スルホニル、メルカプト、スルフィドアミノ、アミン、イミン及びイミドから選択される官能基を含み、そして、a、b、c、d、e及びfは0または1でありそしてa+b+c+d+e+f=1乃至6である。
【0051】
好ましくは、官能基はカルボン酸(−COOH)官能基であり、それはキラルな塩基と反応することができる。また、好ましくは、官能基はアミノ官能基(−NH、例えば、ニトロ基−NOの還元によって形成される)であり、それはキラルな酸と反応することができる。または、官能基は酵素的キラル分割ができるように酵素と相互作用できる基であってもよい。好ましくは一つまたは二つ、より好ましくは官能基を含む一つの置換基が式(III)の置換擬−オルトジブロモパラシクロファンに存在している。すなわち、好ましくはa+b+c+d+e+f=1または2であり、より好ましくはa+b+c+d+e+f=1であり、最も好ましくはaまたはdが1である。
【0052】
式(III)の置換擬−オルトジブロモパラシクロファンの使用は多くの利点、特に、目的のキラル生成物への合成経路の単純化ということ、を提供する。一つの実施態様において、パラシクロファンホスフィン、ホスホナイト、ホスホラス−アミドまたはホスホンアミダイトの合成の前に、擬−オルトジブロミドのキラル分割を行うために、スキーム2のモノ−置換パラシクロファンカルボキシレートを使用することができる。キラルな塩基を利用した、モノ−パラ−置換擬−オルトジブロモ[2.2]パラシクロファンのキラル分割に至る手順を以下に示す:
【0053】
【化14】

【0054】
シンコニジン等のキラル塩基を使用した既存の技術によってキラル分割を行うことができる。一方、酒石酸、酒石酸エステル、マンデル酸またはカンファースルホン酸等のキラルな酸を使用して、アミノ置換擬−オルトジブロモパラシクロファンの分割を行うことができる。
【0055】
置換パラシクロファンの一方のエナンチオマーが記載されている場合、本発明の態様には他方のエナンチオマーも含まれるということは、当業者には理解されるであろう。
本発明の置換パラシクロファン(I)は、化学反応の触媒としての使用に適した金属錯体を製造するための配位子として使用することができる。
【0056】
したがって、本発明はまた、金属化合物と式(I)の置換パラシクロファンの反応生成物を含む金属錯体を提供する:
【0057】
【化15】

【0058】
式中、X及びXは2乃至4の炭素原子を含む連結基であり、Y及びYは水素、ハライド、酸素、窒素、アルキル、シクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールからなる群から選択され、Z、Z及びZは官能基を含んでいてもよい置換基であり、a、b、c、d、e及びfは0または1でありそしてa+b+c+d+e+f=1乃至6である。
【0059】
置換パラシクロファン(I)は、ラセミ混合物として、または実質的にエナンチオマー的に純粋な形で、金属化合物と組み合わせることができる。好ましくは、置換パラシクロファン(I)は実質的にエナンチオマー的に純粋(すなわちエナンチオマー過剰>75%、好ましくは>95%)である。金属化合物としては、置換パラシクロファン(I)と反応して金属錯体を与えることができる任意の金属化合物であってよい。金属化合物は、好ましくはパラジウム(Pd)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)またはルテニウム(Ru)の化合物であり、そしてそれらは、ハライド、カルボキシレート、スルホネートまたはホスホネート等の金属塩であってもよく、またそれらは有機金属化合物であってもよい。金属錯体は、可逆的に配位できる配位子をさらに含むことができる。可逆的に配位する配位子は金属錯体の安定性を改良することができる。そして、可逆的に配位する配位子は金属錯体の合成中に加えることができ、また、反応混合物に添加されたときに金属錯体と反応することもできる。“可逆的に配位する(reversibly co−ordinating)”、ということによって、発明者らは、反応混合物中で他の分子によって容易に置き換えられる配位子、を指す。そのような可逆的に配位する配位子は、ジエン(特にシクロオクタジエンまたはノルボルナジエン等の環状ジエン)、C1−C4アルコール、エーテル、環状エーテル、ジオール(例えば1,2−ジオール)及びC2またはC3オレフィン(例えばエチレン)を含むリストから選択することができる。また、金属錯体触媒の反応性及び選択性を修飾するために使用することのできる非可逆的に配位する配位子を、金属錯体はさらに含むことができる。特にRh錯体において使用することができる非可逆的に配位する配位子はジアミンであり、例えば1,2−ジフェニルエチレンジアミン、1,2−シクロヘキシルエチレンジアミン及びエチレンジアミンであり、そして特には、実質的にエナンチオマー的に純粋なキラルな1,2−ジアミンである((S,S)−1,2−ジフェニルエチレンジアミン等)。
【0060】
金属錯体の酸化状態を満たすために、金属の酸化状態が許容する場合は、金属錯体はさらに対イオンを含むことができる。対イオンは任意の適切なアニオンであることができ、そしてそれらは、好ましくは、トリフルオロメタンスルホネート(トリフレートまたはOTf)、パークロレート(ClO)、ヘキサフルオロアンチモネート(SbF)またはヘキサフルオロホスフェート(PF)から選択される非求核性のアニオンである。
【0061】
したがって、本発明の金属錯体は以下のものを含むが、それらに限定されるものではない:
【0062】
【化16】

【0063】
金属錯体は本発明の置換パラシクロファンから容易に製造することができる。通例、金属化合物が置換パラシクロファン、及び任意の可逆的に配位する配位子及び/または非可逆的に配位する配位子と適当な溶媒中で混合され、そして必要であれば加熱され、目的の金属錯体が形成される。例えば、スキーム5のアルコキシ−置換パラシクロファンビス(ホスフィン)は比較的温和な条件で[RuCl(benzene)及び(S,S)−Dpenと反応して不斉還元反応の実施に適した触媒を形成する。この反応を以下に示す:
【0064】
【化17】

【0065】
本発明の置換パラシクロファン配位子はキラルであり、そのためキラルな金属錯体触媒を生成することができる。本発明のキラルな金属錯体触媒はキラル化合物の生産に利用される多くの不斉反応に適用することができる。そのような反応としては、エナミド及び非エナミド構造のキラル水素化、イソキノリン合成における不斉水素化、不飽和アルコールの不斉水素化、及びケトン及びイミンの不斉水素化等の不斉水素化反応を含むが、これらに限定されるものではない。本発明の触媒はまた、ヘック(Heck)反応または鈴木(Suzuki)反応等の炭素−炭素カップリング反応、オレフィンのエナンチオ選択的異性化、不斉ヒドロホウ素化反応、オレフィンアルデヒドの不斉環化、不斉アリール化およびアルキル化反応、及びハロゲン化アリールのアミノ化(Hartwig−Buchwald反応)に対して使用することもできる。適切である場合には、反応において高いレベルのエナンチオマー純度を達成するためは、金属錯体が実質的にエナンチオマー的に純粋な置換パラシクロファン(I)を含むことが好ましい。
【0066】
金属錯体触媒を使用する条件は、通常、構造的に類似した触媒について適用されている条件と同様のものである。例えば、ケトンの不斉還元に対しては、スキーム7にしたがって製造された触媒を標準的な水素圧下、室温で使用することができる。この反応を以下のように記すことができる:
【0067】
【化18】

【0068】
発明者らは、本発明の置換パラシクロファンを含む金属錯体が非常に効果的な均一系触媒であることを見つけたが、そのような金属錯体を固相支持体上で不均一系触媒として提供することも望ましい。不均一系触媒は、しばしば反応混合物からの分離が容易であり、そして状況によっては再使用することもできる、という利点を有している。不均一系触媒を形成するために、金属錯体は、適当な固相支持体(例えば、ゼオライト)に吸収され、またはそれらにイオン交換されることができる。一方、金属錯体は、固相支持体材料に存在する官能基と反応して共有結合した触媒を形成することができる。吸収またはイオン交換による不均一系触媒より、使用における金属錯体の浸出に対してより耐性であることがあるので、共有結合した不均一系触媒が、しばしば好ましい。有利なことには、本発明の置換パラシクロファンは置換基を有しており、そしてそれは、固相支持体材料に存在する官能基と反応することができる官能基を含むことができる。
【0069】
本発明のパラシクロファンを利用して共有結合した不均一系触媒を形成するために、多くの経路が可能である。
(i)官能基を含む置換基を有する置換パラシクロファン(I)から誘導される金属錯体を不溶性の固相支持体材料の官能基と単に反応させることができる。
(ii)官能基を含む置換基を有する置換パラシクロファン(I)を不溶性の固相支持体材料の官能基と反応させ、次いで金属化合物をそれと反応させることによって固定された金属錯体を形成することができる。
(iii)官能基を含む置換基を有する置換ジブロモパラシクロファン(II)を固相支持体材料の官能基と反応させ、次いで置換パラシクロファン(I)に変換し、そして固定されたパラシクロファンを金属化合物と反応させ固定された金属錯体を形成することができる。
【0070】
さらに、置換基Z、ZまたはZの官能基が与えられた固相支持体材料との反応に適していない場合には、それを化学反応(還元または酸化等)によって内部変換することができ、または、その官能基を、固相支持体材料との反応が可能な適切な官能基を提供する連結分子(linker molecule)と反応させることができる。
【0071】
置換パラシクロファンが共有結合することができる固相支持体材料は、置換基Z、ZまたはZの官能基と反応できる部位を有するポリマー、金属酸化物またはゾル−ゲル材料であることができる。固相支持体材料の反応部位は、ハライド(Cl、Br、FまたはI)、ヒドロキシル、カルボニル、カルボキシル、無水物、メタクリレート、エポキシド、ビニル、ニトリル、メルカプト、イソシアネート、アミン、イミン、アミド及びイミドから選択することができ、そして、典型的には、既存の方法(有機官能化シランを利用したグラフト法等)を用いて固相支持体の表面の官能基化によって導入される。金属酸化物はシリカ、チタニア、ジルコニア、アルミナ、アルミノ−シリケートまたはそれらの混合物、を含む。ポリマーは、触媒反応の実施に使用される溶媒に不溶であり、その反応条件で安定である、任意の熱可塑性ポリマーであってよい。反応が極性溶媒中で行われる場合、好ましくは、ポリマーはポリオレフィンコポリマー(例えば、適当な分子量のアクリレート/ポリアクリル酸ポリオレフィンコポリマー)である。そのようなポリマーは、置換基Z、ZまたはZに存在する例えばヒドロキシル基(OH)またはアミン基(NH)等、と反応可能なカルボキシル基(COOH)を含む。ポリマーは、繊維状または小粒状に形成でき、それらは反応混合物から容易に除去することができるので、有利である。“ゾル−ゲル材料”という語で、発明者らは、有機官能化シリカ材料を指し、そしてそれは例えば有機官能化シランの加水分解(好ましくは、アルキルシリケート及び任意の他の金属アルコキシドの存在下での加水分解)、によって製造される(例えばWO02/066159に記載の方法に従って製造される)。
【0072】
固相支持体材料は、粉末、小粒、顆粒、繊維、ハニカムまたは発泡体の状態であることができる。
以下の実施例を参考として、本発明をさらに説明する。そこでは、特に言及しない限り、MTBE=メチル−t−ブチルエーテル;DMF=ジメチルホルムアミド;DMAP=2,6−ジメチルアミノピリジン;Dpen=1,2−ジフェニルエチレンジアミン;NBD=ノルボルナジエン;DBU=1,8−ジアザビシクロ−[5.4.0]−ウンデク−7−エン:及び、室温=20−25℃である。置換パラシクロファンの命名はS.Gisbon et al.Organic and Biomolecular Chemistry 2003,1256にしたがった。
【0073】
実施例1.ニトロ[2.2]パラシクロファン誘導体の合成
a)標準的ニトロ化:4,12−ジブロモ−7−ニトロ[2.2]パラシクロファン及び4,12−ジブロモ−7,15−ジニトロ[2.2]パラシクロファンの製造
【0074】
【化19】

【0075】
0℃に冷却された4,12−ジブロモ[2.2]パラシクロファン(1.098g、3mmol)の無水酢酸(2mL)懸濁液に濃HNO(0.6mL)の無水酢酸(1.4mL)溶液を加え、そして室温で1.5時間撹拌した。得られた黄色溶液を水(100mL)で希釈し、酢酸エチル(2x50mL)で抽出した。合わせた有機層をさらに水で洗浄し、無水NaSOで乾燥し、エバポレートして黄色オイルを得た。そのオイルをクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル 19/1)で精製して、4,12−ジブロモ−7−ニトロ−パラシクロファン(105mg、収率8.5%)及び4,12−ジブロモ−7,15−ジニトロ−パラシクロファン(110mg、収率8%)を得た。
【0076】
b)ルイス酸媒介ニトロ化:4,12−ジブロモ−7−ニトロ[2.2]パラシクロファンの製造
室温でジクロロエタン(2.5mL)にSc(OTf)(100mg、0.2mmol)を懸濁し、そして70%HNO(0.1mL)を加えて透明溶液を得た。4,12−ジブロモ[2.2]パラシクロファン(366mg、1mmol)を加え、70℃に加熱して20時間撹拌した。この時間の経過後、薄層クロマトグラフ(TLC)分析(溶離液:ヘキサン/MTBE 95/5)は反応が完結していないことを示したので、さらにSc(OTf)(100mg、0.2mmol)及び70%HNO(0.1mL)を加えた。70℃で1時間後、総ての出発原料を消費した。そして、反応をジクロロメタン(50mL)で希釈し、ブライン(2x50mL)で洗浄した。有機層を無水NaSOで乾燥し、エバポレートして黄色オイルを得た。粗生成物をジクロロメタン2mLに溶解し、シリカゲルのパッド(pad)を通して溶離した(溶離液:ヘキサン/MTBE 9/1)。溶媒をエバポレートし、黄色オイルとして4,12−ジブロモ−7−ニトロ[2.2]パラシクロファン(190mg、収率31%)を得た。
4,12−ジブロモ−7−ニトロ[2.2]パラシクロファン:1H NMR (CDCl3, 400 MHz): 2.75 (1H, m,-CH2-), 3.0 (4H, m,-CH2-), 3.4 (2H, m,-CH2-), 3.3 (1H, m,-CH2-), 6.4 (1H, d, CH arom), 6.6 (1H, d, CH arom), 7.1 (1H, s, CH arom), 7.25 (1H, s, CH arom), 7.3 (1H, s, CH arom) ppm. 13C NMR (CDCl3, 400MHz): 32.1 (-CH2-), 32.6 (-CH2-), 35.1 (-CH2-), 35.2 (-CH2-), 127.0 (C arom), 130.9 (CH arom), 131.2(CH arom), 132.0 (CH arom), 132.6(C arom), 133.3 (CH arom), 136.2 (CH arom), 137.7 (C arom), 138.9 (C arom), 140.9 (C arom), 141.4 (Carom), 148.6(C-NO2 arom) ppm.
4,12−ジブロモ−7,15−ジニトロ[2.2]パラシクロファン:1H NMR (CDCl3, 400 MHz): 3.1 (4H, m,-CH2-), 3.4 (2H, m,-CH2-), 3.8 (2H, m,-CH2-), 7.3 (4H, s, broad, CH arom) ppm. 13C NMR (CDCl3, 400MHz): 30.9(-CH2-), 33.4(-CH2-), 126.9 (CH arom), 131.6 (C arom), 135.5 (CH arom), 135.7 (C arom), 140.4 (Carom), 147.4 (C-NO2arom) ppm.
【0077】
実施例2.アセチル[2.2]パラシクロファン誘導体の合成
a)7−アセチル−4,12−ジブロモ[2.2]パラシクロファンの製造
【0078】
【化20】

【0079】
(R)−4,12−ジブロモパラシクロファン(366mg、1mmol)のCHCl(10ml)に−45℃で、AlCl(266mg、2mmol)及びアセチルクロリド(0.145mL、2mmol)の無水ジクロロメタンCHCl(2.5ml)の溶液を加えた。その混合物を室温に昇温した。30分後、反応混合物を2MHCl水溶液(50ml)及び氷の入ったフラスコに注いだ。メチル−t−ブチルエーテルMTBE(50ml)を加え、有機層をNaHCOの飽和溶液(50ml)で洗浄し、ブライン(50ml)で洗浄し、次いで無水MgSOで乾燥した。ろ過し、溶媒を除去して粗生成物を得た。それはNMR的にほぼ純粋であった。
【0080】
実施例3.[2.2]パラシクロファンカルボン酸誘導体の合成及び分割
a)7−クロロカルボニル−4,12−ジブロモ[2.2]パラシクロファンの製造
【0081】
【化21】

【0082】
AlCl(260mg、2mmol)のCHCl(2mL)懸濁液にオキサリルクロリド(0.35mL、4mmol)を滴下した。室温で30分間撹拌後、得られた溶液を0℃に冷却し、そして(R)−4,12−ジブロモ[2.2]パラシクロファン(366mg、1mmol)のCHCl(2ml)溶液と処理した。暗色溶液を0℃で30分間撹拌後、室温に昇温してさらに30分撹拌した。減圧下で溶媒及び揮発性成分を除去し、黄色固体として生成物を得た。
【0083】
b)4,12−ジブロモ−7−メトキシカルボニル[2.2]パラシクロファンの製造
【0084】
【化22】

【0085】
7−クロロホルミル−4,12−ジブロモ[2.2]パラシクロファン(1mmol)のCHCl(2mL)溶液をメタノールMeOH(3mL)で処理し、50℃で1時間撹拌した。室温に冷却後、MTBE(10mL)で希釈した。有機層を2.8MNHCl、HO及び飽和NaHCO水溶液で洗浄し、無水MgSOで乾燥し、そして減圧下で濃縮して淡黄色固体として生成物(360mg、収率85%)を得た(融点118.7℃)。
1H NMR(CDCl3): 2.7-2.8 (m, 1H), 2.8-3.0 (m, 4H), 3.2-3.4 (m, 2H), 3.85 (s, 3H, CO2CH3), 3.7-3.9 (m, 1H), 6.38(d, 1H, J=7.8Hz), 6.43 (d ,1H, J=7.8Hz), 7.10 (s,1H), 7.11 (s,1H), 7.17 (s, 1H) ppm. 13C NMR(CDCl3) : 32.2 (t), 32.7 (t), 35.4 (t), 35.5 (t), 52.0 (q), 126.6 (s), 130.3 (s), 131.1 (s), 131.2 (d), 132.8 (d), 133.3 (d), 135.1 (d), 136.8 (d), 139.1 (s), 139.2 (s), 141.0 (s), 144.0 (s), 166.8 (s, CO) ppm.
【0086】
c)4,12−ジブロモ−7−tertブトキシカルボニル[2.2]パラシクロファンの製造
【0087】
【化23】

【0088】
7−クロロホルミル−4,12−ジブロモ[2.2]パラシクロファン(6mmol)のCHCl(12mL)溶液をtBuOH(12mL)で処理し、50℃で一晩撹拌した。室温に冷却後、MTBE(25mL)で希釈した。有機層を2.8MNHCl、HO及び飽和NaHCO水溶液で洗浄し、無水MgSOで乾燥し、そして減圧下で濃縮して白色固体として生成物(2.2g、収率79%)を得た(融点128.5℃)。
1H NMR (CDCl3): 1.56 (s, 9H, tBu), 2.7-2.8 (m, 1 H), 2.8-3.0 (m, 4H), 3.2-3.4 (m, 2H), 3.7-3.8 (m, 1H), 6.38 (dd, 1H, J = 7.8, 1.8 Hz), 6.47 (d, 1H, J = 7.8 Hz), 7.05 (s, 1 H), 7.08 (d, 1H, J = 1.8 Hz), 7.13 (s, 1 H) ppm. 13C NMR (CDCl3) : 27.7 (q, 3x, tBu), 31.6 (t), 32.3 (t), 34.8 (t), 35.1 (t), 80.7 (s), 126.0 (s), 129.9 (s), 130.6 (d), 131.7 (s), 132.2 (d), 132.7 (d), 134.5 (d), 136.5 (d), 138.4 (s), 138.5 (s), 141.5 (s), 142.8 (s), 165.2 (s, CO) ppm.
【0089】
d)アシルクロリドからの7−カルボキシ−4,12−ジブロモ[2.2]パラシクロファンの製造
【0090】
【化24】

【0091】
7−クロロホルミル−4,12−ジブロモ[2.2]パラシクロファン(1mmol)のTHF(2mL)をHO(1mL)で処理し、室温で一晩撹拌した。反応混合物をMTBEで希釈し、ブライン及びHOで洗浄した。有機層を乾燥し(MgSO)、減圧下で濃縮した。得られた固体を温MTBE/ヘキサンから再結晶して白色固体として生成物(328mg、収率80%)を得た(融点239.7℃)。
1H NMR (CDCl3): 2.7-2.8 (m, 1H), 2.9-3.0 (m, 4H), 3.2-3.4 (m, 2H), 3.8-3.9 (m, 1H), 6.42 (d, 1H,J = 7.8 Hz), 6.52 (d, 1H, J = 7.8 Hz), 7.10 (s, 1H), 7.17 (s, 1H), 7.18 (s, 1H) ppm. 13C NMR (CDCl3) : 31.6 (t), 32.2 (t), 32.8 (t), 35.4 (t), 126.7 (s), 129.2 (s), 131.2 (d), 132.3 (s), 132.8 (d), 133.4 (d), 135.4 (d), 137.6 (d), 139.2 (s), 139.5 (s), 141.1 (s), 145.1 (s), 171.6 (s, CO) ppm.
(S)−7−カルボキシ−4,12−ジブロモ[2.2]パラシクロファン: [α] = + 217.5 (CH2Cl2, c = 16.4 mg/mL).
【0092】
e)エステルからの7−カルボキシ−4,12−ジブロモ[2.2]パラシクロファンの製造
4,12−ジブロモ−7−メトキシカルボニル[2.2]パラシクロファン(4.3g、10.14mmol)を、過剰のLiOH存在下、MeOH/HO中で16時間還流した。得られた粗生成物をEtO/ヘキサンで洗浄して精製し、7−カルボキシ−4,12−ジブロモ[2.2]パラシクロファン3.40g(収率82%)を得た。
【0093】
f)アシルクロリドからの7−カルボキシ−4,12−ジブロモ[2.2]パラシクロファン[(S)−1−フェニルエチル]アミドの製造
【0094】
【化25】

【0095】
7−クロロホルミル−4,12−ジブロモ[2.2]パラシクロファン(2mmol)のジクロロメタン(10mL)溶液を(S)−(−)−α−メチルベンジルアミン(5mmol)で処理し、室温で1時間撹拌した。反応を2.8MNHClで処理し、ジクロロメタンで抽出した。合わせた有機層をHOで洗浄し、次いで飽和NaHCO水溶液で洗浄した。無水MgSOで乾燥し、そして減圧下で濃縮して(R)−7−カルボキシ−4,12−ジブロモ[2.2]パラシクロファン[(S)−1−フェニルエチル]アミドと(S)−7−カルボキシ−4,12−ジブロモ[2.2]パラシクロファン[(S)−1−フェニルエチル]アミドの1:1の混合物715mg(収率70%)を得た。両方のジアステレオマーをカラムクロマトグラフィー(SiO、ヘキサン/酢酸エチル20:1から3:1)で分離した。
最初に溶離した異性体(315mg、収率31%)
1H NMR (CDCl3) : 1.49 (d, 3H, J = 6.9 Hz, NHCHCH3), 2.6-2.8 (m, 1H), 2.8-3.1 (m, 4H), 3.2-3.4 (m, 2H), 3.42 (dd, 1H, J = 12.4, 10.0 Hz), 5.19 (quint, 1H, J = 7.3Hz, NHCHCH3), 5.70 (d, 1H, J = 7.6 Hz, CONH), 6.32 (dd, 1 H, J = 7.8, 1.6 Hz, Ar-H), 6.59 (s, 1H, Ar-H), 6.74 (d, 1H, J = 7.8 Hz, Ar-H), 7.11 (d, 1H, J = 1.6 Hz, Ar-H), 7.13 (s, 1H, Ar-H), 7.2-7.3 (m, 1H,Ph-H), 7.3-7.4 (m, 4H, Ph-H) ppm
二番目に溶離した異性体(300mg、収率29%)
1H NMR (CDCl3): 7.4-7.3 (m, 4H, Ph-H), 7.3-7.2 (m, 1H, Ph-H), 7.10 (d, 1 H, J = 1.7 Hz, Ar-H), 7.08 (s, 1H, Ar-H), 6.75 (d, 1H, J = 7.8 Hz, Ar-H), 6.64 (s, 1H, Ar-H), 6.36 (dd, 1 H, J = 7.8, 1.7 Hz, Ar-H), 5.72 (d, 1H, J = 7.7 Hz, CONH), 5.18 (quint, 1H, J = 7.3 Hz, NHCHCH3), 3.4-3.3 (m, 1H), 3.3-3.1 (m, 2H), 3.0-2.9 (m, 2H), 2.9-2.7 (m, 2H), 2.7- 2.6 (m, 1H), 1.49 (d, 3H, J = 6.9 Hz, NHCHCH3) ppm.
【0096】
g)7−カルボキシ−4,12−ジブロモ[2.2]パラシクロファンのラセミ体の分割
7−カルボキシ−4,12−ジブロモ[2.2]パラシクロファンのラセミ体(4.29g、10.5mmol)のEtOH(30mL)懸濁液を(−)−シンコニジン(3.08mg、10.5mmol)のEtOH(30mL)溶液で処理し、90℃で1時間撹拌し、その後室温で2時間撹拌した。沈殿した白色の結晶性固体(3.15g、4.5mmol)をろ過して集め、87%eeの(S)−酸のシンコニジウム塩であると同定した。母液は39%eeの(R)−酸のシンコニジウム塩4.10gを含んでいた。得られた固体を90℃でEtOH(45mL)に溶解し、そして室温で一晩放置した。再び、白色の結晶性沈殿(1.9g、2.7mmol)が形成し、ろ過の後、97%eeの(S)−酸のシンコニジウム塩であると同定した((S)−酸エナンチオマー(97%e
e)の回収率51%)。
【0097】
ジアステレオマー混合物
1H NMR (CDCl3) : 1.65 (brs, 1H x 2), 1.8-2.0 (m, 3H x 2), 2.4-2.6 (m, 2H x 2), 2.7-3.1 (m, 6H x 2), 3.1-3.4 (m, 4H x 2), 3.92 (q, 1H x 2, J = 11.0 Hz), 4.19 (brs, 1H x 2), 4.89 (d, 1H x 2, J = 10.4 Hz), 4.94 (d, 1H x 2, J = 17.2 Hz), 5.51 (ddd, 1 H x 2, J = 17.2, 10.4, 7.1 Hz), 6.15 (s, 1H x 2), 6.19 (d, 1H, J = 7.8 Hz, Ar-H), 6.32 (d, 1H, J = 7.8 Hz, Ar-H), 6.55 (d, 1H, J=7.8Hz, Ar-H), 6.56 (d, 1H, J= 7.8 Hz, Ar-H), 6.91 (s, 1H x 2, Ar-H), 6.95 (s, 1H, Ar-H), 6.99 (s, 1H, Ar-H), 7.04 (brs, 1H x 2, Ar-H), 7.30 (t, 1H x 2, J = 7.5, Ar-H), 7.5-7.6 (m, 2H x 2, Ar-H), 7.89 (d, 1H x 2, J = 8.4 Hz, Ar-H), 8.00 (d, 1H x 2, J = 8.4 Hz, Ar-H), 8.79 (d, 1H x 2, J = 4.5 Hz, Ar-H) ppm
【0098】
カルボン酸の(S)−エナンチオマーからの塩
1H NMR (CDCl3): 1.66 (brs, 1H), 1.9-2.1 (m, 3H), 2.2-2.3 (m, 1H), 2.50 (brs, 1H), 2.6-2.8 (m, 3H), 2.9-3.4 (m, 7H), 3.81 (t, 1H, J = 11.0 Hz), 4.23 (brs, 1H), 4.87 (d, 1H, J = 10.4 Hz), 4.92 (d, 1H, J = 17.2 Hz), 5.46 (ddd, 1H, J = 17. 2, 10.4, 7.1 Hz), 6.00 (s, 1H), 6.24 (d, 1H, J=7.5Hz, Ar-H), 6.51 (d, 1H, J=7.7Hz, Ar-H), 6.79 (s, 1H, Ar-H), 6.80 (s, 1H, Ar-H), 6.98 (brs, 1H, Ar-H), 7.24 (t, 1H, J = 7.5, Ar-H),7.5-7.6 (m, 2H, Ar-H), 7.85 (d, 1H, J = 8.4 Hz, Ar-H), 7.96 (d, 1H, J = 8.4 Hz, Ar-H), 8.74 (d, 1H, J = 4.3 Hz, Ar-H) ppm. 13C NMR (CDCl3) : 18.7 (t), 25.0 (t), 27.3 (d), 32.1 (t), 33.1 (t), 35.0 (t), 35.5 (t), 37.8 (d), 43.2 (t), 54.2 (t), 59.8 (d), 66.7 (d, CHOH), 116.7 (t, CHCH2),118.7 (d), 122.5 (d), 124.8 (s), 126.4 (s), 126.9 (d), 128.3 (d), 129.3 (d), 130.1 (d), 131.2 (d), 132.4 (d), 133.4 (s), 134.1 (d), 136.1 (s), 137.0 (d), 137.8 (s), 138.3 (d), 139.2 (s), 140.9 (s), 142.6 (s), 147.2 (s), 147.7 (s), 149.8 (d), 174.0 (s, CO) ppm. [α] = + 74.4 (CH2Cl2, c = 12.6 mg/mL).
【0099】
h)エナンチオマー過剰の定量のための分析方法
7−カルボキシ−4,12−ジブロモ[2.2]パラシクロファンのCHCl溶液を(トリメチルシリル)ジアゾメタンの2Mヘキサン溶液で処理し、系内で4,12−ジブロモ−7−メトキシカルボニル[2.2]パラシクロファンを形成した。減圧下で溶媒を除去した後、反応混合物をシリカのプラグ(plug)を通してろ過し、そしてHPLCで分析した(カラム:Chiralcel OJ、溶媒:ヘキサン、流速:1.5mL/分、保持時間:(R)−7−カルボキシ−4,12−ジブロモ[2.2]パラシクロファンは8.7分、(S)−7−カルボキシ−4,12−ジブロモ[2.2]パラシクロファンは12.4分)。
【0100】
実施例4.ヒドロキシメチル[2.2]パラシクロファン誘導体及びそのエーテル体の合成
a)(R)−4,12−ジブロモ−7−ヒドロキシメチル[2.2]パラシクロファンの製造、方法1
【0101】
【化26】

【0102】
(R)−4,12−ジブロモ−7−メトキシカルボニル[2.2]パラシクロファン(424mg、1mmol)のTHF(5mL)溶液に、0℃でゆっくりとLiAlH(2mL、THF1M溶液、2mmol)を加えた。反応混合物を0℃で30分間撹拌し、そして室温に昇温して、さらに30分間撹拌した。そして、再び0℃に冷却し、MeOH/HOの10:1混合物(5mL)をゆっくりと加えて反応をクエンチ(quenched)した。室温に昇温後、MgSOを加えて過剰のHOを吸収し、そして、混合物をろ過してアルミニウム塩及びマグネシウム塩を除き、そして減圧下で濃縮して白色固体として生成物(356mg、収率90%)を得た(融点118.4℃)。
1H NMR (CDCl3): 2.6-2.8 (m, 2H), 2.8-3.0 (m, 3H), 3.1-3.2 (m, 1H),3.34 (q, 2H, J= 13.1 Hz), 4.31 (d, 1H, J = 13.0 Hz, CH2OH), 4.58 (d, 1H, J = 13.0 Hz, CH2OH),6.35 (d, 1H, J = 7.8 Hz), 6.43 (s, 1H), 6.56 (d, 1H, J = 7.8 Hz), 7.10 (s, 1H), 7.14 (s, 1H) ppm.
13C NMR (CDCl3) : 29.9 (t), 32.1 (t), 34.4 (t), 35.3 (t), 63.4 (t), 125.5 (s), 126.8 (s), 131.2 (d), 131.4 (d), 133.1 (d), 133.8 (d, 2C), 138.4 (s), 138.8 (s), 139.1 (s), 139.8 (s), 141.1 (s) ppm.
(R)−4,12−ジブロモ−7−ヒドロキシメチル[2.2]パラシクロファン:
[α]D =-139.7 (CH2Cl2,c = 9.95 mg/mL).
【0103】
b)4,12−ジブロモ−7−ヒドロキシメチル[2.2]パラシクロファンの製造、方法2
7−カルボキシ−4,12−ジブロモ[2.2]パラシクロファン(1.78g、4.34mmol)のTHF(15mL)溶液に、ボラン−ジメチルスルフィド錯体(THFの2M溶液、7.5mL、15mmol)を室温で滴下した(注意:危険な反応)。30分間45℃に加熱し、そして室温で14時間撹拌した。反応を減圧下で約5mLまで濃縮し、そしてCHCl(50mL)を加えた。有機層を2NのHCl(2x50mL)で洗浄し、次いでNaHCOの飽和溶液(50mL)で洗浄し、NaSOで乾燥し、そしてエバポレートした。生成物をMTBE(50mL)に再溶解し、ブライン(2x50mL)で洗浄し、NaSOで乾燥し、そしてエバポレートして無色オイルとして生成物を得た。そのオイルは室温で一晩放置すると固化した(1.66g、収率96%)。反応をラセミ体材料及び純粋なエナンチオマー的に純粋な材料について繰り返し、94乃至100%の収率を達成した。
【0104】
c)4,12−ジブロモ−7−(トリイソプロピルシリルオキシ)メチル[2.2]パラシクロファンの製造
【0105】
【化27】

【0106】
4,12−ジブロモ−7−ヒドロキシメチル[2.2]パラシクロファン(1.66g、4.19mmol)のジクロロメタン(25mL)溶液にルチジン(0.97mL、8.4mmol)を加え、次いで室温でトリイソプロピルシリルトリフレート(1.21mL、4.5mmol)を5分間で滴下した。室温で1時間撹拌し、減圧下で約5mLまで溶媒を濃縮し、2NHCl(50mL)を加えた。反応をMTBE(2x50mL)で抽出した。合わせた有機層をブライン(40mL)で洗浄し、NaSOで乾燥し、そしてエバポレートして淡黄色オイルとして生成物を得た。そのオイルは室温で放置すると固化した(1.95g、収率84%、融点96.8℃)。
1H NMR (CDCl3): 1.05-0.95 (6 lines, 18H, CH-CH3), 1.1 (m, 3H, Si-CH), 2.6-2.8 (m, 2H, CH2), 2.8-2.9 (m, 2H, CH2), 2.9-3.1 (m, 2H, CH2), 3.3-3.4 (m, 2H, CH2), 3.34 (q, 2H, J = 15Hz, CH2OH),4.45 (d, 1H, J = 15Hz, CH2OH), 4.65 (d, 1 H, J = 13.0 Hz, CH2OH), 6.32 (d, 1H, J = 8 Hz), 6.56 (s, 1H), 6.64 (d, 1H, J = 8 Hz), 7.03 (s, 1H), 7.16 (s, 1H) ppm.
13C NMR (CDCl3) : 12.0 (CH-CH3), 18.0 (CH-CH3), 29.8 (CH2), 32.1 (CH2), 34.2 (CH2),35.5 (CH2), 63.2 (CH2-O), 124.6 (C), 126.7 (C), 131.31 (CH), 131.33 (CH), 132.7 (CH), 133.05 (CH), 133.2 (CH), 137.6 (C), 138.3 (C), 138.7 (C), 140.3 (C), 141.2 (C) ppm.
(S)−4,12−ジブロモ−7−(トリイソプロピルシリルオキシ)メチル[2.2]パラシクロファン: [α] = 94.17 (CH2Cl2,c = 9.85 mg/mL).
この反応をラセミ体及び純粋なエナンチオマー出発原料について繰り返した(収率82乃至94%)。
【0107】
d)4,12−ジブロモ−7−(トリフェニルメトキシ)メチル[2.2]パラシクロファンの製造
【0108】
【化28】

【0109】
方法1
ピリジン(5mL)中、4,12−ジブロモ−7−ヒドロキシメチル[2.2]パラシクロファン(396mg、1mmol)、DMAP(12mg、0.1mmol)及びトリチルブロミド(388mg、1.2mmol)の混合物を室温で48時間撹拌した。反応混合物をMTBEで希釈し、2.8MのNHCl、HO及び飽和NaHCO水溶液で洗浄した。乾燥(MgSO)後、減圧下で濃縮して残渣を得、そしてそれをフラッシュクロマトグラフィー(SiO、ヘキサン中の10%AcOEt)で精製して、白色固体として生成物(415mg、収率65%)を得た(融点201.3℃)。
【0110】
方法2
4,12−ジブロモ−7−ヒドロキシメチル[2.2]パラシクロファン(780mg、1.97mmol)及びDBU(0.4mL、2.76mmol)のCHCl(7mL)溶液に、室温でトリチルクロリド(659mg、2.36mmol)を一度で加えた。16時間撹拌後、10%HCl(10mL)を加えて反応をクエンチし、CHClで抽出し、飽和NaHCO水溶液及び飽和NaCl水溶液で洗浄した。乾燥(MgSO)後、減圧下で濃縮して残渣を得、そしてそれをフラッシュクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル 20:1)で精製して、白色固体として生成物(1140mg、収率91%)を得た。
1H NMR (CDCl3) : 2.11 (dt, 1H, J = 13.6, 8.4 Hz), 2.6-2.8 (m, 2H), 2.8-3.1 (m, 4H), 3.38 (dd, 1H, J = 11.7, 11.2 Hz), 3.77 (d, 1H, J = 12.2 Hz, CH2OTr), 3.99 (d, 1H, J = 12.2 Hz, CH2OTr), 6.02 (d, 1H, J = 7.8 Hz), 6.22 (d, 1H, J = 7.8 Hz), 6.65 (s, 1H), 7.04 (s, 1H), 7.08 (s, 1H), 7.22 (d, 3H, J = 8.0 Hz, OTr), 7.29 (t, 6H, J = 8.0 Hz, OTr), 7.46 (d, 6H, J = 8.0 Hz, OTr) ppm.
13C NMR (CDCl3): 29.9 (t), 32.1 (t), 33.9 (t), 35.4 (t), 63.7 (t), 86.9 (s), 124.9 (s), 126.7 (s), 127.2 (d, 3C, OTr), 128.0 (d, 6C, OTr), 128.7 (d, 6C, OTr),131.0 (d), 131.1 (d), 133.0 (d), 133.4 (d), 133.5 (d), 138.1 (s), 138.2 (s), 138.7 (s), 138.8 (s), 141.0 (s), 143.8 (d, 3C, OTr) ppm.
(S)−4,12−ジブロモ−7−(トリフェニルメトキシ)メチル[2.2]パラシクロファン:[α]D = 68.33 (CH2Cl2, c = 6.09 mg/mL).
【0111】
e)(R)−4,12−ジブロモ−7−(1−ヒドロキシ−1−メチルエチル)[2.2]パラシクロファンの製造
【0112】
【化29】

【0113】
4,12−ジブロモ−7−メトキシカルボニル[2.2]パラシクロファン(424mg、1mmol)のTHF(5mL)溶液に、−78℃でメチルマグネシウムブロミド(3mL、ブチルエーテルの1M溶液、3mmol)をゆっくりと加えた。反応混合物を−78℃で1時間撹拌後、室温に昇温してさらに1時間撹拌した。0℃に冷却し、2NのHCl(5mL)をゆっくり加えて反応をクエンチし、そしてMTBE(2x10mL)で抽出した。合わせた有機層をブライン(20mL)で洗浄し、NaSOで乾燥し、そしてエバポレートして白色固体として生成物(424mg、定量的収率)を得た。
1H NMR (CDCl3): 1.37 (s, 3H, CH3),1.57 (s, 3H, CH3), 2.6-2.7 (m, 1H),2.8-3.1 (m, 4H), 3.2-3.4 (m, 2H), 3.5-3.6 (m, 1H), 6.29 (d, 1H, J = 7.9 Hz), 6.47 (s, 1H), 6.58 (d, 1H, J = 7.9 Hz), 6.98 (s, 1 H), 7.26 (s, 1 H) ppm.
【0114】
実施例5.ヒドロキシ[2.2]パラシクロファン誘導体及びそのエーテル体の合成
a)(R)−4,12−ジブロモ−7−ホルミル[2.2]パラシクロファンの製造
【0115】
【化30】

【0116】
(R)−4,12−ジブロモ[2.2]パラシクロファン(848mg、2.3mmol)のCHCl(16mL)溶液を0℃で、TiCl(4mL、CHClの1M溶液、4.0mmol)、続いてClCHOMe(1.9mL、2.1mmol)で処理した。0℃で1時間撹拌後、室温でさらに16時間撹拌した。混合物を氷に注ぎ、そして1時間撹拌した。反応混合物をCHClで抽出し、合わせた有機層を飽和NaHCO水溶液及びブラインで洗浄し、NaSOで乾燥し、そしてエバポレートした。得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル 10:1)で精製して白色固体として(R)−4,12−ジブロモ−7−ホルミル[2.2]パラシクロファン763mg(収率85%)を得た。
【0117】
一方、CHCl(5mL)中の(S)−4,12−ジブロモ−7−ヒドロキシメチル[2.2]パラシクロファン(396mg、1.0mmol)をMnO(869mg、10.0mmol)で一晩処理し、反応混合物をセライトを通してろ過し、減圧下で溶媒をエバポレートすることによって(S)−4,12−ジブロモ−7−ホルミル[2.2]パラシクロファン(377mg、収率96%)を得た(融点128℃)。
1H NMR (CDCl3) : 2.7-2.9 (m, 2H), 2.9-3.1 (m, 3H), 3.3-3.5 (m, 2H), 3.79 (dd, 1H, J = 13.0, 9.9 Hz), 6.33 (d, 1H, J = 7.8 Hz), 6.36 (dd, 1H, J = 7.8, 1.5 Hz), 6.95 (s, 1H), 7.08 (d, 1H, J = 1.5 Hz), 7.23 (s, 1H), 9.82 (s, 1H, CHO) ppm.
13C NMR (CDCl3): 30.4 (t), 32.2 (t), 35.3 (t), 35.7 (t), 126.8 (s), 131.0 (d), 132.8 (d), 133.0 (s), 133.9 (d), 135.3 (d), 136.1 (s), 137.8 (d), 138.7 (s), 140.0 (s), 141.1 (s), 144.1 (s), 190.9 (s, COH) ppm. [α]D =-126.7 (CH2Cl2, c = 5.67 mg/mL).
【0118】
b)(R)−4,12−ジブロモ−7−ヒドロキシ[2.2]パラシクロファンの製造
【0119】
【化31】

【0120】
(R)−4,12−ジブロモ−7−ホルミル[2.2]パラシクロファン(763mg、1.94mmol)のCHCl(12mL)溶液に、室温で3−クロロ過安息香酸(501mg、75%最大純度、2.9mmol)を少しずつ加えた。一晩撹拌後、反応混合物を0℃に冷却し、沈殿した3−クロロ安息香酸をろ過して除いた。有機層を飽和NaHCO水溶液で洗浄し、NaSOで乾燥し、そしてエバポレートした。(R)−4,12−ジブロモ−7−ホルミルオキシ[2.2]パラシクロファンと特定された粗生成物をMeOH(12mL)に溶解し、NaOHの2M溶液(5mL)で処理し、室温で30分間撹拌した。加水分解反応が完結した時点で、反応混合物をMTBEで抽出し、10%HCl及びブラインで洗浄し、NaSOで乾燥し、エバポレートした。得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィー(SiO、ヘキサン/酢酸エチル 5:1)で精製して白色固体として(R)−4,12−ジブロモ−7−ヒドロキシ[2.2]パラシクロファン570mg(収率75%)を得た。
1H NMR (CDCl3): 2.57 (ddd, 1H, J = 13.1, 10.4, 6.4 Hz), 2.78 (ddd, 1H, J = 13.1, 9.8, 7.3 Hz), 2.8-3.1 (m, 4H), 3.2-3.3 (m, 2H), 4.58 (brs, 1H, OH), 5.62 (s, 1 H), 6.38 (dd, 1H, J = 7.8, 1.4 Hz), 6.92 (d, 1H, J = 7.8 Hz), 7.06 (s, 2H) ppm.
13C NMR (CDCl3): 28.3 (t), 32.4 (t), 33.9 (t), 35.2 (t), 117.3 (s), 123.6 (d), 127.2 (s), 127.4 (s), 130.7 (d), 130.9 (d), 133.7 (d), 134.1 (d), 139.0 (s), 140.4 (s), 140.7 (s), 153.9 (s) ppm.
[α]D=-101.2 (CH2Cl2, c = 9.9 mg/mL).
【0121】
c)(R)−4,12−ジブロモ−7−メトキシ[2.2]パラシクロファンの製造
【0122】
【化32】

【0123】
(R)−4,12−ジブロモ[2.2]パラシクロファン−7−オール(563mg、1.47mmol)のTHF(5mL)溶液を、NaH(65mg、鉱油中60%、1.62mmol)のTHF(10mL)懸濁液に室温でゆっくりと加えた。5分後、ヨードメタン(135μl、2.2mmol)をゆっくりと加え、反応混合物を室温で16時間撹拌した。減圧下で溶媒をエバポレート後、粗生成物をMTBEに溶解し、1MNaOH、10%HCl及びブラインで洗浄し、NaSOで乾燥し、エバポレートした。得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィー(SiO、ヘキサン/酢酸エチル 20:1)で精製して白色固体として(R)−4,12−ジブロモ−7−メトキシ[2.2]パラシクロファン514mg(収率88%)を得た(融点118.2℃)。
1H NMR (CDCl3): 2.66 (ddd, 1H, J = 13.2, 11.5, 6.2 Hz), 2.71 (ddd, 1H, J = 13.7, 9.7, 7.3 Hz), 2.8-3.0 (m, 2H), 2.99 (ddd, 1H, J = 13.0, 10.2, 6.2 Hz), 3.12 (dd, 1H, J = 12.7, 9.7 Hz), 3.20 (dd, 1H, J = 13.0, 10.2 Hz), 3.31 (ddd,1H, J = 12.3, 10.2, 2.0 Hz), 3.62 (s, 3H, OCH3), 5.70 (s, 1H),6.37 (dd, 1H, J = 7.8, 1.7 Hz), 6.67 (d, 1H, J = 7.8 Hz), 7.03 (d, 1H, J = 1.7 Hz),7.07 (s, 1H) ppm.
13C NMR (CDCl3): 28.5 (t), 32.4 (t), 34.0 (t), 35.6 (t), 54.6 (q, OCH3),116.9 (s), 117.8 (d), 127.3 (s), 128.7 (s), 130.5 (d), 130.7 (d), 133.7 (d, 2C), 139.5 (s), 140.2 (s), 140.4 (s), 157.6 (s) ppm.
[α] =−125.6 (CH2Cl2, c= 11.53 mg/mL).
【0124】
実施例6.[2.2]パラシクロファン誘導体によるホスフィン配位子の合成
a)(R)−4,12−ビス(ジフェニルホスフィノ)−7−(トリフェニルメトキシ)メチル[2.2]パラシクロファン(“TriOCH−ParaC”)の製造
【0125】
【化33】

【0126】
(R)−4,12−ジブロモ−7−(トリフェニルメトキシ)メチル[2.2]パラシクロファン(638mg、1mmol)のTHF(5mL)溶液に、−78℃でt−BuLi(2.5mL、ペンタン中1.7M、4.2mmol)をゆっくりと加え、着色した混合物をその温度で30分間撹拌した。冷却バスを取り除き、クロロジフェニルホスフィン(0.5mL、2.2mmol)のTHF(3mL)混合物を滴下した。黄色溶液を1時間撹拌し、SiOで処理し、さらに30分間撹拌した。SiOをろ過で取り除き、CHClで洗浄した。溶媒を減圧下で除去し、残渣をCHClに溶解し、反応中に生じたLiClをろ過で除き、ヘキサンを添加して摩砕(triturated)した。混合物を1時間撹拌後、沈殿した生成物をろ過して集めた(680mg、収率80%)。
1H NMR (CDCl3): 7.5-7.0 (m, 35H, OTr + PPh2), 6.70 (d, 1H, J = 5.3 Hz), 6.55 (d, 1H, J = 9.0 Hz), 6.42 (d, 1H, J = 9.0 Hz), 6.29 (d, 1H, J = 7.7 Hz), 6.08 (dd, 1H, J = 7.7, 5.3 Hz), 4.06 (d, 1H, J = 12.2 Hz, CH2OTr), 3.90 (d, 1H,J = 12.2 Hz, CH2OTr), 3.0-2.5 (m, 7H), 2.0-1.9 (m, 1H) ppm.
31P NMR (CDCl3): −1.18, −1.24 ppm.
【0127】
b)rac−4,12−ビス(ジフェニルホスフィノ)−7−(トリイソプロピルシリルオキシ)メチル[2.2]パラシクロファン(“TIPSO−CH−ParaC”)の製造
【0128】
【化34】

【0129】
4,12−ジブロモ−7−(トリス−イソプロピルシリルオキシ)メチル[2.2]パラシクロファン(555mg、1mmol)のジエチルエーテル(17mL)溶液に、−78℃でt−BuLi(2.35mL、ペンタン中1.7M、4mmol)をゆっくりと加え、着色した溶液を−78℃で1時間撹拌した。−78℃でクロロジフェニルホスフィン(0.45mL、2.5mmol)を加えて反応をクエンチした。色がすぐにオレンジから淡黄色に変化した。冷却バスを取り除き、室温で30分間撹拌し、白色固体(LiCl)が沈殿した。反応をSiOで処理し、さらに30分間撹拌し、そして窒素下でろ過した。溶液をエバポレートし、十分な純度の淡黄色固体を得た(750mg、定量的収率)。
31P NMR (CDCl3) : −1.2, −1.7 ppm.
【0130】
c)(R)−4,12−ビス(ジフェニルホスフィノ)−7−(トリス−イソプロピルシリルオキシ)メチル[2.2]パラシクロファン(“TIPSO−CH−ParaC”)の製造
(R)−4,12−ジブロモ−7−(トリス−イソプロピルシリルオキシ)メチル[2.2]パラシクロファン(556mg、1mmol)のジエチルエーテル(20mL)溶液に、−78℃でt−BuLi(2.4mL、ペンタン中1.7M、4.05mmol)をゆっくりと加え、着色した溶液を−78℃で40分間撹拌した。−78℃でクロロジフェニルホスフィン(0.45mL、2.5mmol)を加えて反応をクエンチした。色がすぐにオレンジから淡黄色に変化した。冷却バスを取り除き、反応を室温で100分間撹拌し、白色固体(LiCl)が沈殿した。反応をSiOで処理し、さらに1時間撹拌し、そして窒素下でろ過した。溶液をエバポレートし、固体残渣をメタノール(5mL)及びジエチルエーテル(5mL)で洗浄した。さらにメタノール(5mL)で洗浄後、得られた白色固体を減圧下で乾燥した(420mg、収率55%、融点170.6℃)。
1H NMR (CDCl3): 1.0-1.15 (m, 21H, TIPS-O),2.4-2.6 (m, 2H, CH2), 2.8-3.0 (m, 6H, CH2), 4.6 (d, 1H, J = 15Hz, CH2-O), 4.7 (d, 1H,J = 15Hz, CH2-O), 6.35-6.45 (4 lines, 2H,H arom), 6.55-6.65 (m, 3H, H arom), 7.05-7.50 (m, 20H, H arom).
31P NMR (CDCl3): −1.2, −1.7 ppm.
[α]=−25.5 (CH2Cl2, c = 10.57 mg/mL).
【0131】
d)(S)−4,12−ビス[ビス(3,5ジメチルフェニル)ホスフィノ]−7−(トリス−イソプロピルシリルオキシ)メチル−[2.2]パラシクロファン(“TIPSO−CH−Xyl−ParaC”)の製造
【0132】
【化35】

【0133】
(S)−4,12−ジブロモ−7−(トリス−イソプロピルシリルオキシ)メチル[2.2]パラシクロファン(276mg、0.5mmol)のジエチルエーテル(20mL)溶液に、−78℃でt−BuLi(1.23mL、ペンタン中1.7M、2.1mmol)をゆっくりと加え、着色した溶液を−78℃で45分間撹拌した。−78℃でクロロ−ビス−(3,5−ジメチルフェニル)ホスフィン(0.33g、1.2mmol)のジエチルエーテル(6mL)溶液を加えて反応をクエンチした。冷却バスを取り除き、反応を室温で1時間撹拌し、白色固体(LiCl)が沈殿した。反応をSiOで処理し、さらに1時間撹拌し、そして窒素下でろ過した。溶媒をエバポレートし、固体残渣をトルエン/ヘキサン(2/3)10mLに再溶解し、そして2cmのシリカゲルプラグを通して溶離した。減圧下で溶媒を除去し、白色固体として生成物を得た(110mg、収率25%、融点160.1℃)。
1H NMR (CDCl3): 1.0-1.10 (m, 21H, TIPS-O), 2.1 (s, 12H, 4 CH3), 2.2 (s, 6H, 2 CH3), 2.25 (s, 3H, CH3), 2.27 (s, 3H, CH3), 2.35-2.55 (m, 2H, CH2), 2.7-2.9 (m, 6H, CH2), 4.55 (d, 1H, J = 14 Hz, CH2-O), 4.7 (d,1H, J= 14 Hz, CH2-O), 6.30 (dd, 1H, H arom), 6.47 (4 lines, 2H, H arom), 6.59 (m, 2H, H arom), 6.7-7.2 (m, 12H, H arom).
31P NMR (CDCl3) : 0.3, −0.3 ppm
【0134】
e)(S)−4,12−ビス[ビス(3,5−ジメチル−4−メトキシフェニル)ホスフィノ]−7−(トリス−イソプロピルシリルオキシ)メチル[2.2]パラシクロファン(“TIPSO−CH−MeOXyl−ParaC”)の製造
【0135】
【化36】

【0136】
(S)−4,12−ジブロモ−7−(トリス−イソプロピルシリルオキシ)メチル[2.2]パラシクロファン(185mg、0.34mmol)のジエチルエーテル(15mL)溶液に、−78℃でt−BuLi(0.82mL、ペンタン中1.7M、1.4mmol)をゆっくりと加え、着色した溶液を−78℃で45分間撹拌した。ジアニオンを含む溶液を、クロロ−ビス−(3,5−ジメチル−4−メトキシフェニル)ホスフィン(0.24g、0.72mmol)のジエチルエーテル(8mL)溶液に室温で滴下した。反応を室温で2時間撹拌し、白色固体(LiCl)が沈殿した。反応をSiOで処理し、さらに3時間撹拌し、そして窒素下でろ過した。溶媒をエバポレートし、得られた粗生成物をそれ以上精製することなく使用した(以下の例h参照)。
31P NMR (CDCl3):−2, −3 ppm.
【0137】
f)rac−4,12−ビス(ジフェニルホスフィノ)−7−ヒドロキシメチル[2.2]パラシクロファン(“HO−CH−ParaC”)の製造
【0138】
【化37】

【0139】
rac−4,12−ビス(ジフェニルホスフィノ)−7−(トリフェニルメトキシ)−メチル[2.2]パラシクロファン(866mg、1.14mmol)のTHF(15mL)溶液にテトラブチルアンモニウムフルオリド(1.2mL、THF+5%水中の1M溶液)を加え、反応を室温で1時間撹拌した。溶媒をエバポレートし、脱気したジエチルエーテル(50mL)を加えた。エーテル溶液を水(50mL)、2NHCl(50mL)及びNaHCO飽和溶液(50mL)で洗浄し、NaSOで乾燥し、窒素下でろ過し、エバポレートした。得られた淡黄色固体残渣をジエチルエーテル(1mL)及びヘキサン(5mL)で洗浄し、乾燥してオフホワイト(off white)固体として生成物を得た(410mg、収率60%)。
【0140】
g)(R)−4,12−ビス(ジフェニルホスフィノ)−7−ヒドロキシメチル[2.2]パラシクロファン(“HO−CH−ParaC”)の製造
(R)−4,12−ビス(ジフェニルホスフィノ)−7−(トリフェニルメトキシ)メチル[2.2]パラシクロファン(650mg、0.85mmol)のTHF(10mL)溶液にテトラブチルアンモニウムフルオリド(1.0mL、THF+5%水中の1M溶液、1mmol)を加え、反応を室温で2時間撹拌した。溶媒をエバポレートし、ジエチルエーテル(50mL)を加えた。エーテル溶液を水(20mL)、2NHCl(20mL)及びNaHCO飽和溶液(20mL)で洗浄し、NaSOで乾燥し、窒素下でろ過し、エバポレートした。得られた淡黄色固体残渣をペンタン(2x10mL)で洗浄し、乾燥してオフホワイト固体として生成物を得た(450mg、収率70%)。
1H NMR (CDCl3): 2.4-2.5 (m, 2H, CH2), 2.7-3.0 (m, 6H, CH2),4.32 (d, 1H, J= 14 Hz, CH2-O), 4.6 (d, 1H, J= 14 Hz, CH2-O), 6.30-6.35 (m, 2H, H arom), 6.4-6.5 (m, 3H H arom), 7.0-7.4 (m, 20H, H arom).
31P NMR (CDCl3): −1.1, −1.3 ppm.
【0141】
h)(S)−4,12−ビス[ビス(3,5−ジメチル−4−メトキシフェニル)ホスフィノ]ヒドロキシメチル[2.2]パラシクロファン(“HO−CH−MeOXylParaC”)の製造
【0142】
【化38】

【0143】
実施例6e)で得た粗生成物のTHF(5mL)溶液にテトラブチルアンモニウムフルオリドのTHF溶液(0.4mL、1M溶液、0.4mmol)を加え、室温で2時間撹拌し、そして溶媒をエバポレートした。固体残渣をジエチルエーテル(20mL)に溶解し、不活性雰囲気下、NaHCO飽和溶液(10mL)及び2NのHCl(10mL)で洗浄した。有機溶液をNaSOで乾燥し、ろ過し、そしてエバポレートした。不活性雰囲気下、粗生成物をシリカゲルを通したろ過(溶離液:トルエン/ジエチルエーテル 8/2)で精製した。(75mg、収率29%、及びいくらかの不純画分)。
31P NMR (CDCl3): −2.1, −2.4 ppm.
【0144】
i)rac−4,12−ビス(ジフェニルホスフィノ)−7−tertブトキシカルボニル[2.2]パラシクロファン(“t−BuOOC−ParaC”)の製造
【0145】
【化39】

【0146】
rac−4,12−ジブロモ−7−tertブトキシカルボニル[2.2]パラシクロファン(358mg、0.77mmol)のジエチルエーテル(20mL)溶液に−78℃でt−BuLi(1.85mL、ペンタン中1.7M、3.151mmol)をゆっくりと加え、着色した溶液を−78℃で40分間撹拌した。−78℃でクロロ−ジフェニルホスフィン(0.3mL、1.7mmol)を加えて反応をクエンチした。冷却バスを取り除き、反応を室温で1時間撹拌し、白色固体(LiCl)が沈殿した。反応を含水テトラヒドロフラン(2mL)でクエンチし、ジエチルエーテル(20mL)で希釈し、NaSOで乾燥し、ろ過した。溶媒をエバポレートし、固体残渣をメタノール(2x5mL)で洗浄し、減圧下で乾燥した(320mg、収率47%)。
1H NMR (CDCl3): 1.5 (s, 9H, t-Bu-O), 2.55 (m, 1H, CH2), 2.63 (m, 1H, CH2), 2.8-3.0 (m, 5H, CH2), 3.7 (m, 1H, CH2),6.4-6.55 (m, 3H, H arom), 7.05-7.55 (m, 22H H arom).
31P NMR (CDCl3) :−1.35 ppm.
【0147】
j)rac−4,12−ビス(ジフェニルホスフィノ)−7−メトキシ[2.2]パラシクロファン(“MeO−Para−C”)の製造
【0148】
【化40】

【0149】
rac−4,12−ジブロモ−7−メトキシ[2.2]パラシクロファン(133mg、0.335mmol)のジエチルエーテル(15mL)溶液に−78℃でt−BuLi(0.8mL、ペンタン中1.7M、1.36mmol)をゆっくりと加え、着色した溶液を−78℃で90分間撹拌した。−78℃でクロロ−ジフェニルホスフィン(0.155g、0.7mmol)のジエチルエーテル(5mL)溶液を加えて反応をクエンチした。冷却バスを取り除き、反応を室温で1時間撹拌し、白色固体(LiCl)が沈殿した。反応をSiOで処理し、さらに1時間撹拌し、そして窒素下でろ過した。溶媒をエバポレートし、得られた固体残渣をトルエン10mLに再溶解し、2cmのシリカゲルプラグを通して溶離した。減圧下で溶媒を除去し、融点173.3℃の白色固体として生成物を得た(80mg、収率40%)。
1H NMR (CDCl3): 2.4-2.5 (m, 1H, CH2), 2.7-2.85 (m, 4H, CH2), 2.9-3.05 (m, 3H, CH2), 3.69 (s, 3H, OCH3), 5.78 (d, 1H, J = 4.2 Hz, H arom), 6.42 (dd, 1 H, J = 7.7, 1.5 Hz, H arom), 6.4-6.5 (m, 2H, H arom), 6.65 (dd, 1H, J = 7.7, 5.5 Hz H arom), 7.05-7.5 (m, 20H,H arom).
31P NMR (CDCl3): −0.9, −3.0 ppm.
【0150】
k)(R)−4,12−ビス(ジフェニルホスフィノ)−7−メトキシ[2.2]パラシクロファン(“CHO−ParaC”)の製造
(R)−4,12−ジブロモ−7−メトキシ[2.2]パラシクロファン(100mg、0.25mmol)のジエチルエーテル(15mL)溶液に−78℃でt−BuLi(0.61mL、ペンタン中1.7M、1.0mmol)をゆっくりと加え、着色した溶液を−78℃で50分間撹拌した。−78℃でクロロ−ジフェニルホスフィン(0.125g、0.55mmol)のジエチルエーテル(5mL)溶液を加えて反応をクエンチした。冷却バスを取り除き、反応を室温で1時間撹拌し、白色固体(LiCl)が沈殿した。反応をSiOで処理し、さらに1時間撹拌し、そして窒素下でろ過した。溶媒をエバポレートし、得られた固体残渣をジクロロメタン(1mL)及びヘキサン(3mL)に溶解した。ジクロロメタンを減圧下で除去し、得られた固体沈殿物を静置し、上澄み液を除去した。この手順を二回行った。白色粉末として生成物を得た(63mg、収率41%)。
[α]D = 49.2 (CH2Cl2, c = 1.16 mg/mL).
【0151】
l)rac−4,12−ビス(ジフェニルホスフィノ)−7−t−ブチルジメチルシリルオキシ[2.2]パラシクロファン(“TBSO−ParaC”)の製造
【0152】
【化41】

【0153】
rac−4,12−ジブロモ−7−t−ブチルジメチルシリルオキシ[2.2]パラシクロファン(90mg、0.18mmol)のジエチルエーテル(10mL)溶液に−78℃でt−BuLi(0.44mL、ペンタン中1.7M、0.75mmol)をゆっくりと加え、着色した溶液を−78℃で50分間撹拌した。−78℃でクロロ−ジフェニルホスフィン(0.09g、0.4mmol)のジエチルエーテル(5mL)溶液を加えて反応をクエンチした。冷却バスを取り除き、反応を室温で1時間撹拌し、白色固体(LiCl)が沈殿した。反応をSiOで処理し、さらに1時間撹拌し、そして窒素下でろ過した。溶媒をエバポレートし、白色固体として生成物を得た(85mg、収率67%)。
1H NMR (CDCl3) : 1.0 (s, 9H, t-BuSi), 1.08 (s, 3H, CH3Si), 1.10 (s, 3H, CH3Si), 2.4 (m, 1H, CH2), 2.7-3.0 (m, 7H, CH2), 5.70 (d, 1H, H arom), 6.4 (m, 2H, h arom), 6.5 (d, 1H, H arom), 6.9 (dd, 1H, H arom), 7.05-7.5 (m, 20H, H arom).
31P NMR (CDCl3): −1.0, −2.35 ppm.
【0154】
m)4,12−ビス(ジフェニルホスフィノオキシド)−7−(トリイソプロピルシリルオキシ)メチル[2.2]パラシクロファンの製造
【0155】
【化42】

【0156】
Pd(OAc)(31mg、0.14mmol)、ビスジフェニルホスフィノブタン(60mg、0.14mmol)及びジフェニルホスフィンオキシド(200mg、1mmol)を無水の脱気したDMSO(2mL)に溶解し、115℃に加熱した。5分後、4,12−ジブロモ−7−(トリス−イソプロピルシリルオキシ)メチル[2.2]パラシクロファン(200mg、0.36mmol)を加え、反応を115℃で16時間撹拌した。溶媒をエバポレートし、2NのHCl(50mL)を加え、そしてジクロロメタン(3x50mL)で抽出した。合わせた有機層をNaSOで乾燥し、ろ過し、エバポレートした。粗混合物をクロマトグラフィー(SiO、溶離液:ヘキサン/MTBE/ジクロロメタン 4/4/2)で精製して白色粉末として生成物を得た(116mg、収率15%)。
1H NMR (CDCl3) : 1.05 (t, 9 H, CH3-CH-Si J = 8.5 Hz), 1.15 (m, 3H, CH3CHSi), 2.65 (m, 2H,-CH2-), 2.9 (m, 2H,-CH2-), 3.1 (m, 2H,-CH2-), 3.3 (m, 2H,-CH2-),4.65 (d, 1H,- CH2-O, J = 6 Hz), 4.72 (d, 1H,-CH2-O, J = 6 Hz), 6.53 (d, 1H, H arom), 6.2 (d, 1H, H arom), 6.25 (m, 1H, H arom), 6.95 (d, 1H, H arom), 7.12 (d, 1H, H arom), 7.2 (m, 3H, H arom), 7.28 (m, 2H, H arom), 7.45 (m, 11H, H arom), 7.6 (m, 4H, H arom).
31P NMR (CDCl3): 23.3, 22.9 ppm.
この物質はキシレン中120℃でHSiCl及びEtNと処理することによって対応するホスフィンに還元することができる。
NMRスケールでの実験:31P NMR (CDCl3) : −1.2, −1.7 ppm.
【0157】
実施例7.置換[2.2]パラシクロファン誘導体に基づくホスフィン配位子のルテニウム錯体の合成
a)[(R)−TriOCH−Para−C]RuCl[(S,S)−Dpen]の製造
【0158】
【化43】

【0159】
実施例6aのホスフィン((R)エナンチオマー、50mg、0.05889mmol)及び[Ru(benzene)Cl](14.7mg、0.0294mmol)をシュレンクフラスコに入れ、空気を窒素で置換した。無水の脱気したDMF(1.5ml)及びトルエン(2ml)を加えた。その混合物を105℃で4時間加熱して、赤色の均一溶液が得られた。その溶液に固体の(S,S)−Dpen(12.5mg、0.05889mmol)を加え、溶液を再び105℃で1.75時間加熱した。そして、溶媒を除去した。固体をCHClに溶解し、MTBEを加えた。溶媒を除去し、黄褐色の沈殿が生じた。固体を集めず、溶媒を完全に除去して粗錯体を得た。そして、それ以上精製することなく使用した。
31P NMR (CDCl3): 43.98 ppm.
【0160】
b)[(S)−MeO−Para−C]RuCl[(R,R)−Dpen]の製造
ホスフィン(実施例6jの(S)エナンチオマー、49mg、0.0807mmol)及び[Ru(benzene)Cl](20.2mg、0.0403mmol)をシュレンクフラスコに入れ、空気を窒素で置換した。無水の脱気したDMF(1ml)及びトルエン(1ml)を加えた。その混合物を105℃で4時間加熱した。その溶液に固体の(S,S)−Dpen(17mg、0.0807mmol)を加えた。色がすぐに茶色から黄−ベージュ色に変化した。反応を室温に冷却し、減圧下で溶媒を除去した。粗錯体をそれ以上精製することなく使用した。
31P NMR (CDCl3): 46.2 (d, J= 28 Hz), 45.9 (d, 27.5 Hz) ppm.
【0161】
c)[(R)−TIPSOCH−Para−C]RuCl[(S,S)−Dpen]の製造
実施例6cの(R)エナンチオマー配位子を使用し、実施例7bと同様の方法に従った。粗錯体をそれ以上精製することなく使用した。
31P NMR (CDCl3): 43.6, 43.75, 43.8, 44.0 (一次でない(not first order)) ppm
【0162】
d)[(R)−HOCH−Para−C]RuCl[(S,S)−Dpen]の製造
実施例6gの(R)エナンチオマー配位子を使用し、実施例7bと同様の方法に従った。粗錯体をそれ以上精製することなく使用した。
31P NMR (CDCl3): 44.0 (s) ppm
【0163】
実施例8.[2.2]パラシクロファン誘導体に基づくホスフィン配位子のロジウム錯体の合成
a)[(R)−TriOCH−ParaC Rh NBD]BFの製造
【0164】
【化44】

【0165】
実施例6aのホスフィン((R)エナンチオマー、66mg、0.078mmol)及び[Rh(NBD)]BF(27mg、0.072mmol)(NBD=ノルボルナジエン)を不活性の窒素雰囲気下シュレンクフラスコに入れ、室温で、脱気したジクロロメタン(2ml)を加えた。溶液の色がすぐに赤からオレンジに変化した。1時間後、減圧下で溶媒を除去し、得られた粗固体残渣をEtO(1mL)及びヘキサン(2mL)で洗浄した。黄色懸濁液を1時間撹拌し、そして固体を沈殿させ、上澄み液を除去した。固体をさらにヘキサンで洗浄し、減圧下で乾燥した(50mg、収率63%)。それ以上精製することなく触媒前駆体(precatalyst)を使用した。
31P NMR (CDCl3): 35.3 (dd, JP−Rh = 158 Hz, 3JP−P = 21 Hz), 37.4 (dd, JP−Rh = 159 Hz, 3JP−P= 21 Hz).
【0166】
b)[HO−CH−ParaC Rh NBD]BFの製造
【0167】
【化45】

【0168】
実施例6gのホスフィン配位子の(R)−エナンチオマー(135mg、0.22mmol)及び[Rh(NBD)]BF(75mg、0.2mmol)(NBD=ノルボルナジエン)を不活性の窒素雰囲気下シュレンクフラスコに入れ、室温で、脱気したジクロロメタン(15ml)を加えた。溶液の色がすぐに赤からオレンジに変化した。2時間後、減圧下で溶媒を除去し、得られた粗固体残渣をジエチルエーテル(1mL)及びヘキサン(5mL)で洗浄した。固体を沈殿させ、上澄み液を除去し、固体を減圧下で乾燥した(145mg、収率81%)。
31P NMR (CDCl3) : 35.2 (dd, JP−Rh = 158 Hz, 3JP−P = 21 Hz), 36.4 (dd, JP−Rh = 160 Hz, 3JP−P = 20 Hz).
【0169】
c)ロジウム錯体の製造:一般的方法
実施例6の適当な配位子と、それと等モル量の[Rh(NBD)]を不活性の窒素雰囲気下シュレンクフラスコに入れ、室温でジクロロメタンを加えた。溶液の色がすぐに赤からオレンジに変化した。0.5乃至2時間後、減圧下で溶媒を除去し、得られた粗固体残渣を31P NMRで分析した。必要であれば、生成物をジエチルエーテル及びヘキサンで洗浄して精製し、そうでなければ、それ以上精製することなく使用した。
i)[(S)−TIPSO−CH−Xyl−Para−C Rh NBD]BF(収率求めず)
31P NMR (CDCl3) : 36.2 (dd, JP−Rh = 159 Hz, 3JP−P = 21 Hz), 37.1 (dd, JP−Rh = 159 Hz, 3JP−P = 21 Hz).
ii)[(S)−HO−CH−MeOXyl−Para−C Rh NBD]BF(収率求めず)
31P NMR (CDCl3) : 34.0 (dd, JP−Rh = 159 Hz, 3JP−P = 21 Hz), 36.0 (dd, JP−Rh = 159 Hz, 3JP−P = 21 Hz).
[rac−tBuOOC−Para−C Rh NBD]BF(収率求めず)
31P NMR (CDCl3): 35.9 (dd, JP−Rh = 159 Hz, 3JP−P = 23 Hz), 37.8 (dd, JP−Rh = 159 Hz, 3JP−P = 23 Hz).
iv)[rac−CHO−Para−C Rh NBD]BF(収率83%)及び[(R)−CHO−Para−C Rh NBD]BF(収率求めず)
31P NMR (CDCl3): 34.1 (dd, JP−Rh = 157 Hz, 3JP−P = 21 Hz), 38.1 (dd, JP−Rh = 157 Hz, 3JP−P = 20 Hz).
v)[rac−TBSO−Para−C Rh NBD]BF(収率98%)
31P NMR (CDCl3): 34.9 (dd, JP−Rh = 159 Hz, 3JP−P= 21 Hz), 37.9 (dd, JP−Rh = 160 Hz, 3JP−P= 21 Hz).
【0170】
実施例9.芳香族ケトンの水素化
a)ParrTMオートクレーブ中、S/C 3000/1でのアセトフェノンの水素化
【0171】
【化46】

【0172】
50mLのガラスライナー(glass−liner)に[(R)−TriOCH−ParaC]−RuCl−[(S,S)−Dpen](0.002mmol)を加えた。これをParrオートクレーブに入れ、空気を窒素で置換した。アセトフェノン(6mmol)及びt−BuOKの2−プロパノール溶液をそのParrオートクレーブに加えた。オートクレーブを水素で8.3バール(bar)に加圧し、室温で撹拌した。30分後、水素の吸収が停止した。オートクレーブを開け、ガスクロマトグラフィーで溶液を分析した(カラム:ChirasilDEX−CB、方法:100℃で7分、その後15℃で200℃まで)>99%の転化率、98%e.e.。
【0173】
b)Argonaut EndeavourTM中、S/C 5000/1でのアセトフェノンの水素化
Argonautマルチウエル圧力反応器のガラスライナーに[(R)−TriOCH−ParaC]−RuCl−[(S,S)−Dpen](1mg、0.001mmol)を加えた。その容器を窒素でパージし、アセトフェノン(5mmol)の2−プロパノール(2mL)溶液を加えた。t−BuOK(0.1mmol、B/C 100/1、アセトフェノンに対して2%)の2−プロパノール(2mL)溶液を加え、窒素でパージし、そして10バールの水素圧とした。10バールの圧力に維持して水素の吸収を監視した。反応は40分で完結した。圧力を開放し、反応をキラルガスクロマトグラフィーで分析した:>99%の転化率、98.5%e.e.。
【0174】
c)ParrTMオートクレーブ中、S/C 10000/1でのアセトフェノンの水素化の例
50mLのガラスライナーに[(R)−TriOCH−Para−C]−RuCl−[(S,S)−Dpen](0.001mmol)を加えた。これをParrオートクレーブに入れ、空気を窒素で置換した。アセトフェノン(10mmol)及びt−BuOK(0.4mmol、B/C 400/1、アセトフェノンに対して4%)の2−プロパノール溶液をそのParrオートクレーブに加えた。オートクレーブを水素で10バールに加圧し、室温で撹拌した。反応完結後、オートクレーブを開け、ガスクロマトグラフィーで溶液を分析した(カラム:ChirasilDEX−CB、方法:100℃で7分、その後15℃で200℃まで)>99%の転化率、99%e.e.。
【0175】
一連の触媒に対する結果を以下に示す。
【0176】
【表1】

【0177】
実施例10.デヒドロアミノ酸の水素化
a)基質/触媒=1000/1での2−アセトアミドアクリル酸メチルの水素化
【0178】
【化47】

【0179】
Endeavour Argonautマルチウエル圧力反応器のガラスライナーに[(R)−TriOCH−ParaC Rh NBD]BF(2.2mg、0.002mmol)及びアセトアミドアクリル酸メチル(286mg、2mmol)を加えた。その容器を窒素でパージし、脱気したMeOH(4mL)を加え、10バールの水素圧とした。10バールの圧力に維持して水素の吸収を監視した。30分後、圧力を開放し、キラルガスクロマトグラフィーで反応を分析した(カラム:ChirasilDEX−CB、方法:130℃で10分、その後15℃/分で200℃まで)100%の転化率、99%e.e.。
【0180】
b)S/C 5000/1での2−アセトアミドアクリル酸メチルの水素化:一般的方法
【0181】
【化48】

【0182】
50mLのParr圧力反応器のガラスライナーに触媒(0.001mmol)及びアセトアミドアクリル酸メチル(716mg、5mmol)を入れた。その容器を窒素でパージし、そして、水素での10バールへの加圧及び圧力の開放を少なくとも三回行った。脱気したMeOH(10mL)を加え、上記のように水素でパージし、そして水素で5バールに加圧した。4乃至5バールに圧力を維持した。20分後、圧力を開放し、キラルガスクロマトグラフィーで反応を分析した(カラム:ChirasilDEX−CB、方法:130℃で10分、その後15℃/分で200℃まで)。
【0183】
一連の触媒を使用した結果を以下に示す。ファンホス(Phanephos)ベースの触媒を、本発明のPara−Cベースの触媒と比較した。それは、本発明の触媒の有効性を示している。生成物の立体化学は、ファンホスベースの触媒について報告された結果(J.Am.Chem.Soc.1997,119,6207)に従って帰属した。
【0184】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)の置換パラシクロファン:
【化1】

(式中、X及びXは2乃至4の炭素原子を含む連結基であり;Y及びYは水素、ハライド、酸素、窒素、アルキル、シクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールからなる群から選択され;Z、Z及びZは官能基を含んでいてもよい置換基であり;a、b、c、d、e及びfは0または1でありそしてa+b+c+d+e+f=1乃至6である)。
【請求項2】
及びXが共に−C−である、請求項1に記載の置換パラシクロファン。
【請求項3】
、ZまたはZが、C1−C30の分岐若しくは線状アルキル基、フェニル基、ナフチル基またはアントラシル基から選択される置換基である、請求項1または2に記載の置換パラシクロファン。
【請求項4】
、ZまたはZが、ハライド、ヒドロキシル、アルコキシ、カルボニル、カルボキシル、無水物、メタクリル、エポキシド、ビニル、ニトリル、ニトロ、スルフェート、スルホニル、メルカプト、アミノ、アミン、イミン、アミド及びイミドから選択される一つ以上の官能基を含む置換基である、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の置換パラシクロファン。
【請求項5】
a+b+c+d+e+f=1または2である、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の置換パラシクロファン。
【請求項6】
a+b+c=1及び/またはd+e+f=1である、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の置換パラシクロファン。
【請求項7】
式(I)の置換パラシクロファンを製造するための方法であって:
【化2】

(a)擬−オルトジブロモパラシクロファンの置換反応を行って式(II)の置換擬−オルトジブロモパラシクロファン中間体を形成すること、及び:
【化3】

(b)置換擬−オルトジブロモパラシクロファンをP(Y)を有するリン化合物と反応させること、による前記方法(式中、X及びXは2乃至4の炭素原子を含む連結基であり;Y及びYは水素、ハライド、酸素、窒素、アルキル、シクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールからなる群から選択され;Z、Z及びZは官能基を含んでいてもよい置換基であり;そして、a、b、c、d、e及びfは0または1でありそしてa+b+c+d+e+f=1乃至6である)。
【請求項8】
置換反応がルイス酸媒介の求電子置換である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
式(III)の置換擬−オルトジブロモパラシクロファン:
【化4】

(式中、X及びXは2乃至4の炭素原子を含む連結基であり;Z、Z及びZは置換基であって、その少なくとも一つがヒドロキシル、アルコキシ、カルボキシル、無水物、メタクリル、エポキシド、ビニル、ニトリル、ニトロ、スルフェート、スルホニル、メルカプト、スルフィドアミノ、アミン、イミン及びイミドから選択される官能基を含み;そして、a、b、c、d、e及びfは0または1でありそしてa+b+c+d+e+f=1乃至6である)。
【請求項10】
官能基がカルボン酸官能基またはアミノ官能基である、請求項9に記載の置換擬−オルトジブロモパラシクロファン。
【請求項11】
金属化合物と式(I)の置換パラシクロファンの反応生成物を含む金属錯体:
【化5】

(式中、X及びXは2乃至4の炭素原子を含む連結基であり;Y及びYは水素、ハライド、酸素、窒素、アルキル、シクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールからなる群から選択され;Z、Z及びZは官能基を含んでいてもよい置換基であり;a、b、c、d、e及びfは0または1でありそしてa+b+c+d+e+f=1乃至6である)。
【請求項12】
金属化合物がパラジウム(Pd)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)またはルテニウム(Ru)の化合物である、請求項11に記載の金属錯体。
【請求項13】
置換パラシクロファン(I)が実質的にエナンチオマー的に純粋である、請求項11または請求項12に記載の金属錯体。
【請求項14】
金属錯体が固相支持体上に固定されている、請求項11乃至13のいずれか1項に記載の金属錯体。
【請求項15】
請求項12乃至14のいずれか1項に記載の金属錯体の、不斉水素化反応の触媒としての使用。
【請求項16】
炭素−炭素カップリング反応、オレフィンのエナンチオ選択的異性化、不斉ヒドロホウ素化反応、オレフィンアルデヒドの不斉環化、不斉アリール化およびアルキル化反応、及びハロゲン化アリールのアミノ化(Hartwig−Buchwald反応)からなる群から選択される反応に対する触媒としての、請求項12乃至14のいずれか1項に記載の金属錯体の使用。

【公表番号】特表2006−527246(P2006−527246A)
【公表日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−516383(P2006−516383)
【出願日】平成16年6月8日(2004.6.8)
【国際出願番号】PCT/GB2004/002426
【国際公開番号】WO2004/111065
【国際公開日】平成16年12月23日(2004.12.23)
【出願人】(590004718)ジョンソン、マッセイ、パブリック、リミテッド、カンパニー (152)
【氏名又は名称原語表記】JOHNSON MATTHEY PUBLIC LIMITED COMPANY
【Fターム(参考)】