説明

配合比を制御したパラジウム・銀合金球状多孔体及びその製造方法

【課題】配合比を制御したパラジウム・銀合金球状多孔体及びその製造方法並びにその用途を提供する。
【解決手段】球状のキレート樹脂を鋳型に用い、パラジウムと銀を任意の比率で保持させた後、酸素雰囲気下での焼成し、次いで、水素雰囲気下で還元することにより有機成分を燃焼除去してなる、また、同様の焼成操作を不活性ガス雰囲気で行い、次いで、水素で還元してなる、元の球形を鋳型として保持したパラジウム・銀多孔質合金並びに合金ナノ粒子を高分散に担持した多孔質の球形炭化物の製造方法及びそのパラジウム・銀合金球状多孔体並びにその用途。
【効果】パラジウムと銀との合金化比率を高精度に制御した、従来材にない特異な水素透過能や触媒機能の発現を可能とするパラジウム・銀合金を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配合比を制御したパラジウム・銀合金球状多孔体及びその製造方法並びにその応用製品に関するものであり、更に詳しくは、球状のキレート樹脂を鋳型に使用して作製した、パラジウムと銀の配合比を任意の比率で制御し、保持させた球状パラジウム・銀多孔質合金及びその製造方法並びにその用途に関するものである。本発明は、パラジウムと銀との合金化比率、合金の形態及びサイズ等を高精度に制御した球状多孔質パラジウム・銀合金を作製し、それにより、水素化触媒や水素吸蔵金属、水素透過膜素材等として、従来材にない特異な機能を発現する新しい球状多孔質合金材料を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、高分子樹脂、イオン交換樹脂、デキストラン等の高分子支持体に、金属イオンないしは金属ナノ粒子を混合、含浸あるいは吸着担持し、これを高温で焼成することで、支持体の高分子を除去し、金属多孔体を作製する方法が知られている(非特許文献1、2)。この際に、支持体が鋳型となるため、元の支持体の形態が残り、また、有機成分が燃焼して、支持体の形の多孔質金属が得られる。また、同様な金属保持高分子樹脂を、不活性ガス雰囲気で焼成することで、有機成分が炭素化し、金属が分散担持した多孔質炭素が得られることが報告されている(非特許文献3、4)。
【0003】
しかしながら、これらの従来の方法では、金属イオンや金属ナノ粒子を高分子支持体と単に混合、含浸あるいは支持体表面での静電相互作用等の弱い結合により保持しているため、金属イオンや金属ナノ粒子の支持体への保持力が不十分であり、また、単一金属の担持が主であり、しかも、複数の金属の配合比を高精度に制御した合金を簡便に作製する方法がなく、そのような合金を作製することは困難であった。
【0004】
【非特許文献1】Walsh, L. Arcell, T. Inomata, J. Tanaka, S. Mann, Nature Mater., 2, 386(2003)
【非特許文献2】H. Zhang, A. I. Cooper, J. Mater. Chem., 15, 2157(2005)
【非特許文献3】H. Konno, R. Matsuura, M. Yamasaki, H. Habazaki, Syn. Met., 125, 167(2002)
【非特許文献4】H. Nakagawa, K. Watanabe, Y. Harada, K. Miura, Carbon, 37, 1455 (1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、上記従来技術の問題点を解決することを可能とすると共に、配合比や形態を高精度に制御することで、従来材に期待できない特異な機能を発現することを可能とする新しいパラジウム・銀合金を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、キレート樹脂を鋳型に用いてパラジウムと銀を任意の比率で保持させる方法を採用することで所期の目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は、配合比率を制御して従来材にない特異な機能の発現を可能にしたパラジウム・銀合金球状多孔体及びその製造方法並びにその応用製品を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)パラジウムと銀との比率を制御した合金ナノ粒子からなる球状多孔質合金であって、1)球形で多孔質、2)焼成後のパラジウムの重量比率が1〜95%、3)両元素は内部まで均一に分散している、4)20nm以下の合金微粒子である、5)窒素吸着法による比表面積が少なくとも50m/gである、ことを特徴とする球状多孔質合金。
(2)前記(1)に記載のパラジウムと銀との比率を制御した合金ナノ粒子からなる球状多孔質合金が炭素化物に均一に担持されていることを特徴とする球状多孔質合金複合体。
(3)上記炭素化物が、カーボン粒子である、前記(2)に記載の球状多孔質合金複合体。
(4)パラジウムと銀との比率を制御した合金ナノ粒子からなる球状多孔質合金を製造する方法であって、パラジウム塩と銀塩を任意の比率で含む水溶液に、キレート形成基を有する高分子を加えて、パラジウムイオンと銀イオンとを錯体形成により任意の比率で保持させた金属担持キレート樹脂を調製し、これを酸素の存在下で焼成して有機成分を燃焼除去した後、水素雰囲気下で焼成することにより球状多孔質合金を作製することを特徴とする球状多孔質合金の製造方法。
(5)パラジウムと銀との比率を制御した合金ナノ粒子を炭素化物に担持した球状多孔質合金複合体を製造する方法であって、パラジウム塩と銀塩を任意の比率で含む水溶液にキレート形成基を有する高分子を加えて、パラジウムイオンと銀イオンとを錯体形成により任意の比率で保持させた金属担持キレート樹脂を調製し、これを不活性ガス雰囲気下で焼成した後、水素雰囲気下で焼成することにより球状多孔質合金複合体を作製することを特徴とする球状多孔質合金複合体の製造方法。
(6)キレート形成基を有する高分子が、球形のキレート樹脂である、前記(4)又は(5)に記載の方法。
(7)キレート樹脂のキレート基として、アミン、アミノカルボン酸、アミノチオール、アミノアルコール、又はチオールを用いる、前記(6)に記載の方法。
(8)キレート樹脂の母材高分子が、架橋ポリスチレン樹脂、架橋ポリアクリル樹脂、又は架橋ポリアクリルアミドの球状樹脂である、前記(6)に記載の方法。
(9)前記(1)から(3)のいずれかに記載の球状多孔質合金又は球状多孔質合金複合体からなることを特徴とする触媒。
(10)前記(1)から(3)のいずれかに記載の球状多孔質合金又は球状多孔質合金複合体からなることを特徴とする電極。
【0007】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、パラジウムと銀との比率を制御した球状多孔質合金であって、球形で、多孔質であり、焼成後のパラジウムの重量比率が1〜95%であり、両元素は内部まで均一に分散していて、20nm以下の合金微粒子であり、窒素吸着法による比表面積が少なくとも50m/gである、ことを特徴とするものである。また、本発明は、球状多孔質合金複合体であって、上記のパラジウムと銀との比率を制御した合金ナノ粒子からなる球状多孔質合金が炭素化物に均一に担持していることを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明は、パラジウムと銀との比率を制御した合金ナノ粒子からなる球状多孔質合金を製造する方法であって、パラジウム塩と銀塩を任意の比率で含む水溶液に、キレート形成基を有する高分子を加えて、パラジウムイオンと銀イオンとを錯体形成により任意の比率で保持させた金属担持キレート樹脂を調製し、これを酸素の存在下で焼成して有機成分を燃焼除去した後、水素雰囲気下で焼成することにより球状多孔質合金を作製することを特徴とするものである。
【0009】
更に、本発明は、パラジウムと銀との比率を制御した合金ナノ粒子を炭素化物に担持した球状多孔質合金複合体を製造する方法であって、パラジウム塩と銀塩を任意の比率で含む水溶液にキレート形成基を有する高分子を加えて、パラジウムイオンと銀イオンとを錯体形成により任意の比率で保持させた金属担持キレート樹脂を調製し、これを不活性ガス雰囲気下で焼成した後、水素雰囲気下で焼成することにより球状多孔質合金複合体を作製することを特徴とするものである。
【0010】
本発明は、合金作製の前駆体として、キレート結合で強固に金属イオンを保持できるキレート樹脂粒子を用いることで、金属の保持比が制御可能と成ること、並びに球状の多孔体が得られること、を特徴としている。本発明では、特に、パラジウムと銀は、任意に混ざり合って合金を形成するため、キレート樹脂への2種類の金属の保持量を高精度に制御することで、焼成後に任意の比率の合金多孔体が得られる。また、本発明では、窒素などの不活性気体の雰囲気下で焼成することで、キレート樹脂の有機成分が炭素化し、合金が高分散した多孔質炭素化物を得ることができる。
【0011】
本発明の方法では、金属イオンを強固に結合するキレート基を有する球状のキレート樹脂を鋳型に用い、パラジウムと銀を任意の比率で保持させた後、酸素雰囲気下で焼成し、次いで、水素雰囲気下で還元することにより、有機成分を燃焼除去し、元の形態を鋳型として保持したパラジウム・銀多孔質合金が得られる。また、同様の焼成操作を不活性ガス雰囲気で行い、次いで、水素で還元することにより、合金粒子を担持した球状多孔質炭素化物が得られる。
【0012】
本発明において、金属イオンや金属ナノ粒子を強固に結合する支持体として、パラジウム並びに銀と安定な錯体を形成するキレート基を分子内に多数持った高分子樹脂(以下、キレート樹脂と記載する。)が用いられる。具体的には、キレート基として、アミン、アミノカルボン酸、アミノチオール、アミノアルコール、チオール等を有する高分子樹脂が例示される。
【0013】
パラジウム塩、銀塩ないしはこれらのナノ粒子を用いて、パラジウムと銀が任意の比率で配合した水溶液を調製し、これにキレート樹脂を加え、これらの金属イオンないしナノ粒子を錯体形成によりキレート樹脂に保持させ、その後、該金属保持キレート樹脂を焼成し、有機成分を焼成除去する、ないしは炭化することで、元の樹脂の形態を保った多孔質のパラジウム・銀合金ないしは合金を炭化物に分散担持した球状多孔質炭素化物を得ることができる。
【0014】
上述のように、本発明は、金属イオンを強固に結合するキレート基を有する球状のキレート樹脂を鋳型に用い、パラジウムと銀とを任意の比率で保持させた後、水素雰囲気下での焼成により有機成分を除去し、多孔質のパラジウム・銀合金を得るものである。キレート形成により、パラジウムや銀イオンあるいはそれらのナノ粒子が強固に保持され、その結合が強固であるため、金属イオンは溶出されない。
【0015】
また、キレート形成基を有する高分子のキレート基としては、アミン、アミノカルボン酸、アミノチオール、アミノアルコール、チオール等が用いられるが、これらのうち、特に、パラジウムと銀を、共に強固に結合できる、イミノジ酢酸、EDTA型のアミノカルボン酸、並びにジアミン、トリアミン等のアミン類が最も好ましい。
【0016】
上記キレート形成基を有するキレート樹脂の基材としては、通常、ビーズ状の球形樹脂で、ジビニルベンゼンなどで部分架橋することにより不溶化したポリスチレン、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミドなどの共重合体が用いられる。また、ポリスチレン、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミドなどの共重合体としては、非多孔質のゲル型、多孔質のマクロポーラス型のいずれも用いることができる。樹脂ビーズのサイズは、用途によって異なるが、触媒や電極の作製に用いる場合、50−400メッシュが好ましく、とりわけ100―200メッシュが好適である。
【0017】
キレート樹脂へのパラジウムイオンと銀イオンの担持は、両金属イオンを含有する水溶液ないしは有機溶媒溶液の中に、キレート樹脂ビーズを加え、攪拌や振り混ぜにより行われる。用いる金属塩としては、水あるいは有機溶媒に溶けるものであれば特に制限は無く、適宜の金属塩を使用することができる。具体的には、パラジウムとしては、酢酸パラジウム、塩化パラジウム、パラジウム錯体、銀としては、硝酸銀、銀錯体が好適に用いられる。また、金属塩溶液の代わりに、金属ナノ粒子分散液を用いることも適宜可能である。
【0018】
パラジウムと銀を保持したキレート樹脂を、水洗後、酸素雰囲気下、電気炉中で加熱、焼成し、有機成分を燃焼除去し、更に、水素雰囲気下で還元することにより、金属部分が合金多孔体として残留する。2種の金属イオンは、キレート樹脂内に均一に分散しているため、水素雰囲気での加熱により容易に合金化が進む。あらかじめキレート樹脂に保持させる金属イオンの比率を調整することで、任意の比率の合金が得られる。
【0019】
一方、パラジウムと銀を保持したキレート樹脂を、水洗後、窒素などの不活性ガス雰囲気下、電気炉中で加熱、焼成することで、有機成分は、カーボンとして残留し、更に、水素雰囲気下で還元することにより、パラジウムと銀の合金粒子が分散したカーボン粒子が得られる。
【0020】
金属を担持させたキレート樹脂の焼成温度は、500℃以上が望ましく、酸素雰囲気下での有機分の燃焼除去には、600〜800℃が良好に適用される。また、不活性ガス雰囲気で有機成分を炭化し、同時に合金化するためには、700〜1200℃が適用され、銀の融点の960以上が好ましい。これよりも低い温度では、合金化に時間がかかるという問題がある。焼成時間は、焼成温度にもよるが、5時間以上が望ましい。金属の還元のため、焼成の雰囲気は、水素気流下で行うが、好適には、20〜400kPaの水素圧が適用される。
【0021】
パラジウム並びにパラジウム・銀合金は、例えば、水素化触媒や水素吸蔵金属、水素透過膜素材として、また、水素拡散電極として、顕著な効果を示すが、本発明では、パラジウムは、銀と任意の比率で混ざり、合金を形成し、銀との合金化比率により、水素の溶解性や拡散係数が変化し、特異な水素透過能や触媒機能の発現と制御が期待できる。パラジウムは、水素脆性の欠点があるが、それは、銀との合金化により著しく緩和される。また、合金を球状で、多孔質とすることにより、表面積が大きくなり、触媒や電極素材として利用する際に、その反応活性が著しく向上する。高分子樹脂を鋳型として用いることで、形態が焼成後にも反映され、上述の応用に適した所望のサイズと形状の多孔質合金材料を作製できる。
【0022】
本発明の球状多孔質合金及び球状多孔質合金複合体は、球形、多孔質で、焼成後のパラジウムの重量比率が1〜95%で、両元素は内部まで略均一に分散しており、20nm以下の合金微粒子であり、窒素吸着法による比表面積が少なくとも50m/gである、ことで特徴付けられるパラジウム・銀合金球状多孔体を有していることで、従来材にない特徴を有する。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)本発明により、配合比を高精度に制御したパラジウム・銀合金球状多孔体を合成し、提供することができる。
(2)また、パラジウムと銀との比率を制御した合金ナノ粒子を均一に分散担持した球状多孔質炭素化物を合成することができる。
(3)本発明の上記パラジウム・銀合金球状多孔体及び多孔質炭素化物は、特異な水素透過性や触媒機能を発現するので、水素吸蔵合金、水素化触媒、水素透過膜素材等として有用である。
(4)また、これらは、反応活性が著しく向上した触媒や電極素材として好適に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0025】
図1に示したジエチレントリアミン−N,N,N’,N’−四酢酸をキレート基として有する球形ポリスチレン樹脂(100−200メッシュサイズ)5gを、硝酸銀並びにテトラアンミンパラジウムを60:40の比率で水に溶解した、pH5.5の水溶液250mlに加え、12時間振りまぜた。パラジウムと銀を合わせた総濃度を0.05Mとした。キレート樹脂をろ過し、水洗・乾燥後、電気炉に入れ、酸素雰囲気下、600℃で6時間焼成し、次いで、水素雰囲気下で600℃、3時間焼成した。
【0026】
得られた焼成体の電子顕微鏡(SEM)写真を図2に示す。焼成体は、球形で、多孔質であることが認められる。ICP発光分光分析による焼成後の金属比率は、64:36であった。図3に、焼成後のX線回折パターンを示す。2θ=39.92°に、パラジウムと銀の合金のピークが認められる。
【実施例2】
【0027】
ジエチレントリアミン−N,N,N’,N’−四酢酸をキレート基として有する球形ポリスチレン樹脂(100−200メッシュサイズ)5gを、硝酸銀並びにテトラアンミンパラジウムを40:60の比率で水に溶解した水溶液に加え、12時間振りまぜた。実施例1と同様に、キレート樹脂をろ過し、水洗・乾燥後、電気炉に入れ、酸素雰囲気下、600℃で6時間焼成し、次いで、水素雰囲気下で600℃、3時間焼成し、多孔質合金を得た。ICP発光分光分析による焼成後の金属比率は、42:58であった。
【実施例3】
【0028】
ジエチレントリアミン−N,N,N’,N’−四酢酸をキレート基として有する球形ポリスチレン樹脂(100−200メッシュサイズ)5gを、硝酸銀並びにテトラアンミンパラジウムを20:80の比率で水に溶解した水溶液に加え、12時間振りまぜた。実施例1と同様に、キレート樹脂をろ過し、水洗・乾燥後、電気炉に入れ、酸素雰囲気下、600℃で6時間焼成し、次いで、水素雰囲気下で600℃、3時間焼成し、多孔質合金を得た。ICP発光分光分析による焼成後の金属比率は、20:80であった。
【実施例4】
【0029】
ジエチレントリアミン−N,N,N’,N’−四酢酸をキレート基として有する球形ポリスチレン樹脂(100−200メッシュサイズ)5gを、硝酸銀並びにテトラアンミンパラジウムを80:20の比率で水に溶解した水溶液に加え、12時間振りまぜた。実施例1と同様に、キレート樹脂をろ過し、水洗・乾燥後、電気炉に入れ、酸素雰囲気下、600℃で6時間焼成し、次いで、水素雰囲気下で600℃、3時間焼成し、多孔質合金を得た。ICP発光分光分析による焼成後の金属比率は78:22であった。図4に、実施例1、2、3、4における合金組成と合金のX線ピークの位置の変化を示す。
【実施例5】
【0030】
ジエチレントリアミン−N,N,N’,N’−四酢酸をキレート基として有する球形ポリスチレン樹脂(100−200メッシュサイズ)5gを、硝酸銀並びにテトラアンミンパラジウムを20:80の比率で水に溶解した水溶液に加え、18時間振りまぜた。不活性ガス雰囲気下、電気炉内で900℃に焼成し、その後、水素雰囲気下、1050℃で還元して、合金と炭素化物の複合粒子を得た。
【0031】
上記複合粒子の窒素吸着法による比表面積は、1gあたり220mであった。焼成体の電子顕微鏡(SEM)写真を図5に示す。合金と炭素の複合粒子は、球形で緻密であることが認められる。この複合粒子の断面をEDX法により分析した。パラジウムと銀を分析した結果を図6に示す。両元素は内部まで均一に分布していることが分かる。また、薄片のTEM観察の結果を図7に示す。10nm以下の合金微粒子が分布していることが分かる。
【0032】
応用例1
実施例4で作製した合金ナノ粒子が分散した炭素複合体とポリテトラフルオロエチレン(PTFE)とを9:1に混練し、銀製の金網にプレスし、これを電極とした。電極をテフロン(登録商標)製のホルダーに挿入して水素を供給し、35℃の1M硫酸水溶液を電解質として、水素拡散電極としての電気化学分極測定を行った。合金組成と交換電流密度の関係を図8に示す。銀の固溶量が40mol%の場合に著しく高い活性を示すことが分かる。これは、銀を固溶することで、水素の溶解性と拡散性、及び導電率が変化するためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
以上詳述したように、本発明は、配合比を制御したパラジウム・銀合金球状多孔体及びその製造方法並びにその用途に係るものであり、本発明により、配合比を制御したパラジウム・銀合金球状多孔体を合成することができる。また、パラジウムと銀との比率を制御した合金ナノ粒子を均一に分散担持した球状多孔質炭素化物を合成することができる。また、本発明の上記パラジウム・銀合金球状多孔体及び多孔質炭素化物は、特異な水素透過性や触媒機能を発現する水素吸蔵合金、水素透過膜素材等として有用である。更に、これらは、反応特性が著しく向上した触媒や電極素材として好適に利用することができる。本発明は、パラジウムと銀との合金化比率を高精度に制御することにより、特異な水素透過能や触媒機能の発現と制御を可能とするパラジウム・銀合金を提供するものとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】実施例1で用いたキレート樹脂の金属捕捉基を示す。
【図2】合金多孔体の電子顕微鏡(SEM)画像を示す。
【図3】合金多孔体のX線回折パターンを示す。
【図4】パラジウムと銀の比率の異なる合金のX線ピーク(純パラジウムの2θ=40°ピークの合金化による変化)を示す。縦軸は2θの値、横軸は銀の含有量(重量%)。
【図5】炭素化物の電子顕微鏡(SEM)画像を示す。
【図6】炭素化物断面のSEM画像とパラジウムと銀の存在状態を示すEDXパターンを示す。
【図7】炭素化物内部に分散するPd−Ag合金ナノ粒子の透過電子顕微鏡(TEM)画像を示す。
【図8】炭素化物から作成した電極の合金組成と発生した電流密度の関係を示す。縦軸は電流密度、横軸は合金中の銀の含有量(重量%)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラジウムと銀との比率を制御した合金ナノ粒子からなる球状多孔質合金であって、1)球形で多孔質、2)焼成後のパラジウムの重量比率が1〜95%、3)両元素は内部まで均一に分散している、4)20nm以下の合金微粒子である、5)窒素吸着法による比表面積が少なくとも50m/gである、ことを特徴とする球状多孔質合金。
【請求項2】
請求項1に記載のパラジウムと銀との比率を制御した合金ナノ粒子からなる球状多孔質合金が炭素化物に均一に担持されていることを特徴とする球状多孔質合金複合体。
【請求項3】
上記炭素化物が、カーボン粒子である、請求項2に記載の球状多孔質合金複合体。
【請求項4】
パラジウムと銀との比率を制御した合金ナノ粒子からなる球状多孔質合金を製造する方法であって、パラジウム塩と銀塩を任意の比率で含む水溶液に、キレート形成基を有する高分子を加えて、パラジウムイオンと銀イオンとを錯体形成により任意の比率で保持させた金属担持キレート樹脂を調製し、これを酸素の存在下で焼成して有機成分を燃焼除去した後、水素雰囲気下で焼成することにより球状多孔質合金を作製することを特徴とする球状多孔質合金の製造方法。
【請求項5】
パラジウムと銀との比率を制御した合金ナノ粒子を炭素化物に担持した球状多孔質合金複合体を製造する方法であって、パラジウム塩と銀塩を任意の比率で含む水溶液にキレート形成基を有する高分子を加えて、パラジウムイオンと銀イオンとを錯体形成により任意の比率で保持させた金属担持キレート樹脂を調製し、これを不活性ガス雰囲気下で焼成した後、水素雰囲気下で焼成することにより球状多孔質合金複合体を作製することを特徴とする球状多孔質合金複合体の製造方法。
【請求項6】
キレート形成基を有する高分子が、球形のキレート樹脂である、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
キレート樹脂のキレート基として、アミン、アミノカルボン酸、アミノチオール、アミノアルコール、又はチオールを用いる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
キレート樹脂の母材高分子が、架橋ポリスチレン樹脂、架橋ポリアクリル樹脂、又は架橋ポリアクリルアミドの球状樹脂である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
請求項1から3のいずれかに記載の球状多孔質合金又は球状多孔質合金複合体からなることを特徴とする触媒。
【請求項10】
請求項1から3のいずれかに記載の球状多孔質合金又は球状多孔質合金複合体からなることを特徴とする電極。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図8】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−115439(P2008−115439A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−300921(P2006−300921)
【出願日】平成18年11月6日(2006.11.6)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】