説明

配線形成方法、及び配線

【課題】カーボンナノチューブを用いて、高精細な配線を、簡単に、かつ生産性良く形成できる半導体装置の製造方法を提供する。
【解決手段】エアロゾルジェット手段により、カーボンナノチューブ含有分散液を、基板3上にエアロゾル状態にて吹き付け、電極1に接続するカーボンナノチューブからなる配線2を形成する。配線はカーボンナノチューブがネットワーク状に絡み合った構造になっているので導電性が高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は配線に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体基板に形成された金属配線や高純度不純物領域を使用する従来の配線技術は、半導体ベースの電子装置に依存している。現在のフォトリソグラフィ技術による配線は極めて精細である。この為、半導体ベースの電子装置は非常にコンパクトになる。このような配線の製造工程は、被膜の形成、レジストの塗布、露光、現像、エッチング、剥離など多くのプロセスを経る。例えば、Al,Cuなどの金属は、スパッタリングや蒸着などの物理的気相成長技術により、半導体基板上に形成される。B,Pなどの不純物イオンが、イオン注入技術により、半導体基板に注入され、導電性部分が形成される。化学気相成長技術により基板上に形成されたアモルファスシリコンは、アニール処理によって、ポリシリコンに変性し、配線層が形成される。上記のように形成された層及び被膜の多くは反応性イオンエッチングなどのエッチング工程によって、フォトリソグラフィ工程により決められたパターンのレジストをマスクとしてパターン化される。真空レベルは、例えば10−6Torr程度必要なものもある。真空レベルによらず、機器などの設置やメンテナンスは高価である。このようなプロセスで形成される材料は無機的性質により柔軟性が欠ける。かつ、高温プロセスであることから、プラスチックフィルムなどには利用できない。
【0003】
より大規模な配線回路は、製造機器の高価な設備またはメンテナンスを要求しない方法によって製造される。プリント配線板は、印刷技術と同時に銅クラッド薄板をエッチングすることで製造される。プリント板には、硬質なエポキシ/ガラス積層板と、軟質なポリイミド積層板がある。他の製造法としては、基板上に銀などの導電性ペーストを直接印刷する方法がある。これらのペーストは、スクリーン印刷技術が利用される。解像度によっては、インクジェット技術が用いられる。
【0004】
これらの製造法は高価ではない。しかしながら、その方法を利用して半導体装置などのコンパクトな装置を製造することは出来ない。更に、これらの方法によって作製された配線は透明ではない。従って、これらの方法によって作られた配線は電界発光ディスプレイや液晶ディスプレイなどの透明導電性が要求されるものには適用できない。
【0005】
透明導電膜としてはITO(Indium Tin Oxide)が一般的である。印刷技術を用いてITO膜を形成する場合、バインダ(高分子)を用いたITO粒子の懸濁液が用いられる。しかしながら、印刷技術によるITO膜は、物理的気相成長技術によるITO膜に比べて、抵抗が大きい。最近では、透明導電性高分子材料が開発されており、一般的には、ドーパントを用いて導電特性を付与し、スクリーン印刷またはインクジェット技術により基板上に塗布される。しかしながら、この技術は、ITO膜と同程度の導電性を得るには至って無い。かつ、ドーパントの存在が導電特性の制御に悪影響を有すると考えられている。
【0006】
カーボンナノチューブは直径1μm以下の太さのチューブ状材料である。理想的なカーボンナノチューブは、炭素6角網目の面がチューブの軸に平行になって管を形成している。この管が多重になっていることもある。このカーボンナノチューブは炭素で出来た6角網目の繋がり方や、チューブの太さにより、金属的(導体的)あるいは半導体的な性質を示すことが理論的に予想されている。そして、将来の機能材料として期待されている。このようなことから、透明導電膜としての応用も盛んである。しかしながら、カーボンナノチューブの構造や製造法によって太さも方向もランダムである。利用に際しては、合成後に精製し、利用形態に合わせて処理される必要が有る。
【0007】
透明導電膜としても期待されるカーボンナノチューブを用いて配線を形成する手法が特許文献1に開示されている。例えば、基板表面全面にカーボンナノチューブ分散液を塗布してカーボンナノチューブ被膜を形成し、このカーボンナノチューブ被膜にバインダ溶液を予め定められたパターンに従って塗布する。塗布方法としては、スクリーン印刷、インクジェット印刷、グラビア印刷などが挙げられる。そして、溶媒を乾燥することにより、バインダがカーボンナノチューブ被膜中に残り、カーボンナノチューブのネットワークを強化する。この後、バインダを溶解しない溶媒で洗浄が行われる。これによって、バインダで強化されていない部分が容易に基板から除去される。そして、バインダで強化された部分が基板上に残されたままであり、配線が形成されたことになる。別の方法としては、フォトレジストをカーボンナノチューブ被膜全体に塗布し、カーボンナノチューブのネットワーク内にフォトレジストを含浸させる。この後、フォトリソグラフィ技術が用いられ、配線が形成される。このフォトレジストを用いた技術は、バインダをパターン化する前者の方法よりも精細なパターンの配線を得ることが出来る。しかも、シリコンベースデバイス製造方法に適用できる。更に別の方法として、スクリーン印刷、インクジェット印刷、又はグラビア印刷によって、基板上に、予め、パターン化されたカーボンナノチューブ被膜(配線)を、直接、形成することも考えられる。これら上記の2つ以上の方法が組み合わされて配線が形成されても良い。例えば、電界発光ディスプレイ装置のスイッチングトランジスタのゲートラインおよび関連するゲート電極を、カーボンナノチューブに含浸されたフォトレジストのフォトリソグラフィ工程によって形成されても良い。その後、ディスプレイ装置の電界発光素子の陽極電極をゲートライン及びそこに形成されたゲート電極を有するデバイス中間物上に、カーボンナノチューブ溶液を、スクリーン印刷することによって形成しても良い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2006−513557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、カーボンナノチューブをパターニングする方法、例えば基板表面全面にカーボンナノチューブ被膜を形成してから各種パターニングを行う方法は、不要な部分のカーボンナノチューブ被膜の除去が必要である。従って、無駄が生じる。かつ、工程が煩雑である。
【0010】
それ故に、スクリーン印刷、インクジェット印刷、或いはグラビア印刷などの塗布方法で、予め、パターン化されたカーボンナノチューブ被膜を、直接、形成することが好ましい。しかしながら、そうする為には、用いる塗布方法に合ったインク物性にカーボンナノチューブ分散液を調整する必要が有る。一般的に、界面活性剤等の分散剤によって、カーボンナノチューブ分散液は調整されている。そして、カーボンナノチューブ分散液は、比較的、低粘度である。ところで、塗布方法に合わせる為、粘度調整剤や表面張力調整剤が必要となる。しかしながら、これらの添加剤が用いられると、一般的には、カーボンナノチューブの分散性が悪化する。従って、スクリーン印刷、インクジェット印刷、或いはグラビア印刷などの塗布方法で、予め、パターン化されたカーボンナノチューブ被膜を、直接、形成することは、実は、容易ではなかった。すなわち、カーボンナノチューブによる配線の形成は簡単なことではなかった。
【0011】
従って、本発明が解決しようとする課題は、カーボンナノチューブによる配線を簡単に形成できる技術を提供することである。特に、カーボンナノチューブを用いて、高精細な配線を、簡単に、かつ、生産性良く形成できる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の課題は、
配線形成方法であって、
カーボンナノチューブ含有エアロゾルが吹き付けられて配線が形成される工程
を具備することを特徴とする配線形成方法によって解決される。
【0013】
特に、配線形成方法であって、
エアロゾルジェット手段により、カーボンナノチューブ含有分散液が、基板上に、配線のパターンで吹き付けられるエアロゾルジェット工程を具備し、
前記エアロゾルジェット工程により配線が形成されることを特徴とする配線形成方法によって解決される。
【0014】
或いは、上記配線形成方法であって、エアロゾルジェット手段により、カーボンナノチューブ以外の導電性物質含有エアロゾルが、カーボンナノチューブ含有エアロゾルと共に又は別異に、基板上に、配線のパターンで吹き付けられるエアロゾルジェット工程を具備することを特徴とする配線形成方法によって解決される。
【0015】
若しくは、上記配線形成方法であって、エアロゾルジェット手段により、バインダ含有エアロゾルが、カーボンナノチューブ含有エアロゾルと共に又は別異に、基板上に、吹き付けられるエアロゾルジェット工程を具備することを特徴とする配線形成方法によって解決される。
【0016】
又は、上記配線形成方法であって、カーボンナノチューブ密度が一定または変動するようエアロゾルジェット工程が制御されることを特徴とする配線形成方法によって解決される。
【0017】
前記の課題は、上記配線形成方法の実施により形成されてなることを特徴とする配線によって解決される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、配線は、カーボンナノチューブ分散液が、直接、エアロゾルジェット手段により、所定の配線パターンで吹き付けられて形成される。従って、材料の利用効率が高い。すなわち、無駄が少ない。
【0019】
エアロゾルジェット手段に用いられるインク(塗料:エアロゾル構成用インク)は、その物性に対する制約が少ない。すなわち、スクリーン印刷、インクジェット印刷、或いはグラビア印刷などの塗布方法の場合に要求されたインク(塗料)に比べたならば、インクに要求される特性の制約が少ない。このことは、カーボンナノチューブ分散液に添加される添加剤が少なくて済む。従って、添加剤の添加が少なくて済むことから、導電性などの物性の低下の恐れが少ない。
【0020】
エアロゾルジェット手段を用いる場合、カーボンナノチューブと、カーボンナノチューブ以外の材料を別々にエアロゾル化してエアロゾル状態で両者を混合することが容易である。従って、カーボンナノチューブと、カーボンナノチューブ以外の材料との併用が容易である。このことは、配線形成に非常に有利である。
【0021】
エアロゾルで吹き付けられる為、乾燥速度が速い。そして、堆積時には成膜がほぼ完了状態であるとも言える。このことは、配線の厚さの制御が容易である。例えば、電極と配線との形成に有利である。例えば、連続形成も可能である。
【0022】
得られた配線は精緻で高解像度である。そして、生産性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】カーボンナノチューブによる配線図
【図2】配線におけるカーボンナノチューブの概略構造図
【図3】配線における(カーボンナノチューブ+導電性物質)の概略構造図
【図4】配線における(カーボンナノチューブ+バインダ)の概略構造図
【発明を実施するための形態】
【0024】
第1の発明は配線形成方法である。特に、エアロゾルジェット方式を利用したカーボンナノチューブによる配線形成方法である。本発明において、配線とは、例えば電極間(又は端子間)を接続する線である。或いは、電極(又は端子)であったりする。両者を含む場合もある。何れでも良い。本方法は、カーボンナノチューブ含有エアロゾルが吹き付けられて配線が形成される工程を有する。特に、エアロゾルジェット手段により、カーボンナノチューブ含有分散液が、基板上に、エアロゾル状態にて、配線のパターンで、吹き付けられるエアロゾルジェット工程を具備する。このエアロゾルジェット工程により配線が形成される。すなわち、目的とするパターンの配線は、カーボンナノチューブ含有分散液がエアロゾルジェット手段で、基板上に、エアロゾル状態にて、吹き付けられることによって形成される。エアロゾルジェット手段としては、例えばOptomec社のマスクレスメソスケール材料堆積(Maskless Mesoscale Material Deposition M3D(商標))装置を用いることが出来る。本装置の基本的な技術思想は、例えば米国特許第7,045,015号明細書にも開示が有る。
【0025】
場合によっては、エアロゾルジェット手段により、カーボンナノチューブ以外の導電性物質含有エアロゾルが、カーボンナノチューブ含有エアロゾルと共に又は別異に、基板上に、配線のパターンで吹き付けられるエアロゾルジェット工程を具備する。例えば、Ag,Cu等の導電性物質をカーボンナノチューブと共に用いて配線を形成しようとした場合、先ず、各々のエアロゾルを形成する。そして、カーボンナノチューブエアロゾルと、カーボンナノチューブエアロゾルとは別異に形成されたAg,Cu等の導電性物質エアロゾルとを、エアロゾル状態で混合する。この混合エアロゾルを吹き付けるようにしたならば、カーボンナノチューブとAg,Cu等の導電性物質との混合分散液を用意する必要が無くなる。混合分散液は成分が増えた分だけ調整が大変になるのに対して、単独成分の分散液は成分調整が容易であり、それだけ簡単になる。すなわち、各々のエアロゾルを形成する為の各々の分散液を調整する為の制約が少なく、容易である。導電性物質としては、前記Ag,Cu以外にも、例えばAl,Sb,Be,Cd,Cr,Co,Au,Ti,Zn,鉄、鋼、或いはこれ等の合金、ドープされた金属酸化物、PEDOT/PSS、カーボンブラックなどが挙げられる。勿論、これ等に限られるものでは無い。
【0026】
上記手法は、同時に、配線の耐久性を高める為に用いられるバインダの場合にも応用される。すなわち、好ましくは、エアロゾルジェット手段により、バインダ含有エアロゾルが、カーボンナノチューブ含有エアロゾルと共に又は別異に、基板上に、吹き付けられるエアロゾルジェット工程を具備する。例えば、上記各々のエアロゾルを形成する。そして、カーボンナノチューブエアロゾルとバインダエアロゾルとをエアロゾル状態で混合する。この混合エアロゾルを吹き付ける。これによれば、カーボンナノチューブとバインダとの混合分散液を用意する必要が無くなる。このことは非常に好都合である。
【0027】
上記エアロゾルジェット工程においては、場合によっては、カーボンナノチューブ密度が一定または変動するよう制御される。例えば、電極部におけるカーボンナノチューブ密度と配線部におけるカーボンナノチューブ密度とが異なるようエアロゾルジェット工程が制御される。因みに、配線部におけるカーボンナノチューブ密度が低いように制御されたならば、この箇所では半導体特性が示されるものとなる。
【0028】
第2の発明は上記配線形成方法の実施により形成されてなる配線である。
【0029】
以下、図面を参照しながら説明する。
【0030】
図1は、本発明の方法が実施されて作製されたカーボンナノチューブ配線図である。本配線構造は、電極1と、カーボンナノチューブで構成された配線2と、基板3とを有する。
【0031】
電極1は、配線2に電流を流し、又、別の配線2と相互に連結する役目を果たす。本電極は、透明電極であっても、不透明電極であっても良い。その構成材料は金属材料である。或いは、導電性高分子材料や炭素材料でも良い。尚、金属材料は、一般的に、電気伝導率が高い。従って、金属材料で構成されるのが好ましい。例えば、Li,Be,Mg,Ca,Sr,Ba,B,Al,Ga,In,Ag,Au,Cu,Ni,Pr,Pt,Cr,Mo,W,Mn,Ni,Co等が挙げられる。これ等の合金も挙げられる。勿論、これ等に限定されることは無い。尚、Au,Ag,Cuは、高導電性及び化学的不活性な観点から、特に好ましい。或いは、カーボンナノチューブを用いることも出来る。カーボンナノチューブを用いる場合には、好ましくは本発明の手法が採用される。
【0032】
配線2はカーボンナノチューブで構成されている。特に、本発明の方法の実施により構成される。このようにして形成された配線2の具体的構造が図2,3,4に示される。本方法の実施により構成されたカーボンナノチューブは、ネットワーク状に絡み合った構造になっている。このネットワーク構造は、カーボンナノチューブ含有分散液がエアロゾルジェット手段により吹き付けられたことから、絡み合いの確実性が非常に高い。このネットワーク構造の故に、導電性が確実で、高い。カーボンナノチューブ同士が絡み合ったものか否かは、走査型電子顕微鏡で観察することにより確認できる。
【0033】
配線2はカーボンナノチューブで構成される。カーボンナノチューブはカーボンナノチューブであれば如何は問われない。但し、少なくとも50%以上がシングルウォールカーボンナノチューブ(SWCNT)のカーボンナノチューブが好ましい。前記カーボンナノチューブは、導電性の観点から、カーボンナノチューブ同士が絡み合ったものであることが好ましい。すなわち、カーボンナノチューブ同士が絡み合ったものであると、導電性が向上する。本発明ではエアロゾルジェット手段が採用されたことから、エアロゾルジェット手段による吹き付けに起因して、カーボンナノチューブ同士の絡み合いが助長される。
【0034】
上記SWCNTは、その製法の如何は問われない。例えば、アーク放電法、化学気相法、レーザー蒸発法などの製法を用いて製造できる。但し、結晶性の観点から、アーク放電法によって得られたSWCNTが好ましい。このものは、入手も容易である。
【0035】
上記カーボンナノチューブは、好ましくは、酸処理を施したカーボンナノチューブである。酸処理とは、酸性液体とカーボンナノチューブとを接触させることである。例えば、SWCNTを酸性液体中に浸漬する処理である。或いは、SWCNTに酸性液体を噴霧する処理である。用いられる酸性液体には格別な制限は無い。無機酸や有機酸を適宜用いることが出来る。具体的には、例えば硝酸、塩酸、硫酸、リン酸、及びこれらの混合物が挙げられる。好ましくは、硝酸あるいは硝酸と硫酸の混合液である。そして、酸処理の条件は、温度が80℃〜100℃であることが好ましく、時間が1日〜7日間であることが好ましい。そして、斯かる酸処理によって、SWCNTと炭素微粒子とがアモルファスカーボンを介して物理的に結合している場合、アモルファスカーボンの分解によって、両者が分離する。又、SWCNT作製時に使用した金属触媒の微粒子が分解する。その結果、導電性が向上する。すなわち、酸処理した場合と、酸処理しなかった場合とを比べると、前者の方が導電性が向上していた。
【0036】
上記カーボンナノチューブは、濾過されたものであることが好ましい。すなわち、濾過によって、不純物が除去され、純度が向上し、導電性の低下や光透過率の低下が防止できたからである。濾過の方法には格別な制限は無い。例えば、吸引濾過、加圧濾過、クロスフロー濾過などを用いることが出来る。但し、好ましくは、スケールアップの観点から、中空糸膜を用いたクロスフロー濾過である。
【0037】
本方法で用いられるカーボンナノチューブ分散液はフラーレン(フラーレン類縁体も含まれる。)をも含有することが好ましい。それは、フラーレンを含まない導電膜に比べ、耐久性が向上したからである。用いられるフラーレンは如何なるものでも良い。例えば、C60,C70,C76,C78,C82,C84,C90,C96等が挙げられる。勿論、これ等の複数種のフラーレンの混合物でも良い。尚、分散性能からC60が特に好ましい。更に、C60は入手し易い。又、C60のみでは無く、C60と他の種類のフラーレン(例えば、C70)との混合物でも良い。又、フラーレンの内部に、適宜、金属原子を内包したものでも良い。尚、類縁体としては、水酸基、エポキシ基、エステル基、アミド基、スルホニル基、エーテル基など公知の官能基を含むものや、フェニル−C61−プロピル酸アルキルエステル、フェニル−C61−ブチル酸アルキルエステル、水素化フラーレン等が挙げられる。中でも、OH基(水酸基)を持つものは、特に、好ましい。それは、分散性が高いからである。尚、水酸基の量が少ないと、分散性向上度が低下する。逆に、多すぎると、合成が困難である。従って、水酸基の量はフラーレン1分子当り5〜30個であることが好ましい。特に、8〜15個であることが好ましい。フラーレンの添加量は、多すぎると、導電性が低下する。逆に、少なすぎると、効果が発生し難い。従って、フラーレン量は、好ましくは、カーボンナノチューブ100質量部に対して、10〜1000質量部である。特に、好ましくは、カーボンナノチューブ100質量部に対して、20〜500質量部である。
【0038】
本方法で用いられるインクは、カーボンナノチューブの他に、溶媒を含有する。溶媒には格別な制限は無い。但し、沸点が200℃以下(好ましい下限値は25℃、更には30℃)の溶媒が好ましい。低沸点溶剤が好ましいのは、塗布後の乾燥が容易であるからによる。具体的には、水や、メタノール、エタノール、ノルマルプロパノール、イソプロパノールなどのアルコール化合物(特に、炭素数が7以下のアルコール、中でも脂肪族アルコール)、或いはこれ等の混合物が好ましい。それは、水酸基含有フラーレンの溶解性が高く、より高濃度のカーボンナノチューブ分散液が得られるからである。そして、水の場合には、塗布後における溶媒(揮発成分)処理が不要であるから、特に好ましい。尚、他にも、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系化合物、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、酢酸メトキシエチル等のエステル系化合物、ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、フェニルセロソルブ、ジオキサン等のエーテル系化合物、トルエン、キシレン等の芳香族化合物、ペンタン、ヘキサン等の脂肪族化合物、塩化メチレン、クロロベンゼン、クロロホルム等のハロゲン系炭化水素、及びこれらの混合物を用いることも出来る。カーボンナノチューブの分散性が劣る場合には、超音波照射を行うと、分散性が高まるので好ましい。
【0039】
図2は配線がカーボンナノチューブで構成された場合であるのに対して、図3は配線がカーボンナノチューブと導電性物質とで構成された場合である。図3中、
導電性物質は符号4で示される。これは次のようにして形成される。先ず、カーボンナノチューブの分散液からカーボンナノチューブエアロゾルが作製される。又、導電性物質の分散液から導電性物質エアロゾルが作製される。各々のエアロゾルが作製された後、両者が混合される。この混合エアロゾルがノズルから噴射される。これにより、図3に示される如きの配線が形成される。
【0040】
図2,3は配線を固定・保護する為のバインダが用いられてないのに対して、図4はバインダ5が用いられた場合である。これは次のようにして形成される。先ず、カーボンナノチューブの分散液からカーボンナノチューブエアロゾルが作製される。必要に応じて、導電性物質の分散液から導電性物質エアロゾルが作製される。更に、バインダ溶液からバインダエアロゾルが作製される。各々のエアロゾルが作製された後、カーボンナノチューブエアロゾルとバインダエアロゾルとが混合される。場合によっては、導電性物質エアロゾルも混合される。この混合エアロゾルがノズルから噴射される。これにより、図4に示される如きの配線が形成される。バインダとしては樹脂が用いられる。例えば、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂、エラストマ等が挙げられる。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、セルロース、ゼラチン、キチン、ポリペプチド、多糖類、ポリヌクレオチド等が挙げられる。その他にもシリコン系樹脂も挙げられる。これ等の混合物でも良い。更には、セラミックハイブリッドポリマ、ホスフィンオキシドやカルコゲニドが用いられても良い。勿論、これ等に限られない。
【0041】
エアロゾルジェット装置が用いられたならば、アトマイザによりインクが先ずエアロゾル化され、螺旋状に出て行くような絞り込んだ噴射がノズルからなされ、ライン状の配線であっても、高分解能で簡単に形成できる。二つ以上のアトマイザが連結されたタイプのエアロゾルジェット装置が用いられれば、別々にエアロゾル化されたものがノズル内で混合され、混合エアロゾルがノズルから噴射される。従って、図3,4タイプの配線も簡単に形成できる。別々に作製されたインクを用いることが出来るので、即ち、混合時はインク状態時では無く、エアロゾル状態時であるので、インク時に凝集と言った不都合が起き難い。又、インク時に混合してしまうと経時的に架橋されてしまうような組成のものでも、ポットライフの心配が無くなる。尚、エアロゾルジェット装置のノズルと基板との間の距離は、一般的には、1〜5mm程度である。ノズル径は、特に、限定されるものではない。微細配線の形成の場合は、例えば100〜300μm程度である。
【0042】
基板3は、電極1や配線2が形成できるものであれば如何なる材料で構成されても良い。具体的には樹脂で構成される。樹脂は、例えばポリスチレン(PS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、スチレン−メチルメタクリレート共重合体(MS)、ポリカーボネート(PC)、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)である。勿論、これ等に限られない。ガラスやセラミックなどの絶縁材で構成されても良い。本発明による配線形成に際しては高温雰囲気にする必要が無い。従って、耐熱性が低い樹脂基板の場合、本発明の応用は好都合である。
【0043】
以下、具体的な実施例を挙げて本発明を説明する。但し、本発明は以下の実施例によって何ら制限を受けるものでは無い。尚、導電性は、テスターを用いて相対的に評価された。
【0044】
[実施例1]
市販のシングルウォールカーボンナノチューブ(SWCNT)が精製された。すなわち、酸処理、水洗浄、遠心分離、ろ過などの工程により、精製が行われた。この精製カーボンナノチューブの溶液に、0.02%の界面活性剤(TritonX-100(GEヘルスケア製))水溶液が加えられた。そして、チップ型超音波装置により超音波が照射された。これにより、1000ppmのカーボンナノチューブ分散液が得られた。
このカーボンナノチューブ分散液が米国Optomec製エアロゾルジェット装置に供給され、カーボンナノチューブエアロゾルがノズルより噴射された。これによって、PETフィルムA4100(東洋紡製)上に、2mm角の電極部と、これに繋がる20μm幅の配線が形成された(図1参照)。
この後、界面活性剤を取り除く為、メタノールによる洗浄が行われた。そして、100℃での乾燥が行われた。
得られた配線の導電性を調べた処、良好であった。
【0045】
[実施例2]
2.5mMの硝酸銀水溶液が実施例1のエアロゾルジェット装置に供給された以外は実施例1と同様に行われた。すなわち、カーボンナノチューブエアロゾルと硝酸銀エアロゾルとが別々に作製され、この別々に作製されたエアロゾルが混合され、ノズルから噴射されて配線が形成された。
得られた配線の導電性を調べた処、配線がAgを持つことから、実施例1以上の導電性が示された。
【0046】
[実施例3]
3.8wt%のエアロセラ(パナソニック電工製のバインダ:中空シリカ含有シリコン系樹脂)が実施例1のエアロゾルジェット装置に供給された以外は実施例1と同様に行われた。すなわち、カーボンナノチューブエアロゾルとバインダエアロゾルとが別々に作製され、この別々に作製されたエアロゾルが混合され、ノズルから噴射されて配線が形成された。
得られた配線の導電性を調べた処、実施例1のカーボンナノチューブと同等の導電性が示された。
【0047】
[実施例4]
実施例1のカーボンナノチューブ分散液が米国Optomec製エアロゾルジェット装置に供給され、カーボンナノチューブエアロゾルが300nmの熱酸化膜付シリコン基板上に噴射された。200μm角の電極部に対応する箇所では、カーボンナノチューブが高密度となるようにエアロゾルが噴射された。前記電極部に繋がる箇所(20μm幅の配線部)に対応する箇所では、カーボンナノチューブが低密度となるようにエアロゾルが噴射された。
この後、界面活性剤を取り除く為、メタノールによる洗浄が行われた。そして、100℃での乾燥が行われた。
得られた配線のトランジスタ特性を評価したところ、カーボンナノチューブが低密度な配線箇所では良好な半導体特性が示された。
【符号の説明】
【0048】
1 電極
2 配線
3 基板
4 導電性物質
5 バインダ



【特許請求の範囲】
【請求項1】
配線形成方法であって、
エアロゾルジェット手段により、カーボンナノチューブ含有分散液が、基板上に、配線のパターンで吹き付けられるエアロゾルジェット工程を具備し、
前記エアロゾルジェット工程により配線が形成されることを特徴とする配線形成方法。
【請求項2】
配線形成方法であって、
カーボンナノチューブ含有エアロゾルが吹き付けられて配線が形成される工程
を具備することを特徴とする配線形成方法。
【請求項3】
エアロゾルジェット手段により、カーボンナノチューブ以外の導電性物質含有エアロゾルが、カーボンナノチューブ含有エアロゾルと共に又は別異に、基板上に、配線のパターンで吹き付けられるエアロゾルジェット工程
を具備することを特徴とする請求項1又は請求項2の配線形成方法。
【請求項4】
エアロゾルジェット手段により、バインダ含有エアロゾルが、カーボンナノチューブ含有エアロゾルと共に又は別異に、基板上に、吹き付けられるエアロゾルジェット工程を具備
することを特徴とする請求項1〜請求項3いずれかの配線形成方法。
【請求項5】
カーボンナノチューブ密度が一定または変動するようエアロゾルジェット工程が制御される
ことを特徴とする請求項1〜請求項4いずれかの配線形成方法。
【請求項6】
請求項1〜請求項4いずれかの配線形成方法の実施により形成されてなることを特徴とする配線。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−74646(P2012−74646A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220201(P2010−220201)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】